(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】凍結乾燥製剤溶液および凍結乾燥製剤、ならびにそれらの方法および使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4168 20060101AFI20240822BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240822BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240822BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K31/4168
A61K9/08
A61K9/19
A61K47/10
A61K47/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513054
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 CN2022115176
(87)【国際公開番号】W WO2023025291
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】202110996128.8
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517319271
【氏名又は名称】アセンタウィッツ ファーマシューティカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ ジビン
(72)【発明者】
【氏名】デュアン ジャンーシン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ シャオホン
(72)【発明者】
【氏名】ファン チィーロン
(72)【発明者】
【氏名】シェン グァンビン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA07
4C076AA29
4C076BB13
4C076CC27
4C076DD23D
4C076DD25Z
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD67
4C076DD67D
4C076GG06
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA44
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明では、凍結乾燥製剤溶液および凍結乾燥製剤、ならびにそれらの方法および使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iの化合物、水、およびtert-ブタノールを含む溶液であって、
【化15】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液における前記式Iの化合物の含有量が、1mg/ml以上500mg/ml以下である、
溶液。
【請求項2】
高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液であって、前記溶液は、下記式Iの化合物、水、tert-ブタノール、および賦形剤を含み、
【化16】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液における前記式Iの化合物の含有量が、5mg/ml以上500mg/ml以下である、
溶液。
【請求項3】
前記式Iの化合物が、
【化17】
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の溶液。
【請求項4】
前記溶液における前記式Iの化合物の含有量が、5mg/ml以上160mg/ml以下であり、
好ましくは、前記溶液における前記式Iの化合物の含有量が、8mg/ml以上50mg/ml以下であり、
好ましくは、前記溶液における前記式Iの化合物の含有量が、8mg/ml以上25mg/ml以下であり、
より好ましくは、前記溶液における前記式Iの化合物の含有量が、8mg/ml以上15mg/ml以下であり、
さらに好ましくは、前記溶液における前記式Iの化合物の含有量が、8mg/ml以上10mg/ml以下である、
請求項1または2に記載の溶液。
【請求項5】
前記溶液に対するtert-ブタノールの体積百分率が、1~99%の範囲、好ましくは5~95%の範囲、より好ましくは30~60%の範囲であり、または、
前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量が、7.85~777.15mg/mlの範囲、好ましくは39.25~745.75mg/mlの範囲、より好ましくは235.5~471mg/mlの範囲である、
請求項1または2に記載の溶液。
【請求項6】
前記賦形剤が、(1つまたは複数の)糖類、(1つまたは複数の)ポリオール、(1つまたは複数の)ポリビニルピロリドン、(1つまたは複数の)タンパク質、(1つまたは複数の)ポロキサマー、またはこれらの組合せから選択され、
前記(1つまたは複数の)糖類は、スクロース、デキストラン、シクロデキストリン、マルトデキストリン、トレハロース、ラクトース、マルトース、およびグルコースから選択され、
前記(1つまたは複数の)ポリオールは、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、イノシトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリソルベート、およびアドニトールから選択され、
前記(1つまたは複数の)タンパク質は、アルブミン、好ましくはウシ血清アルブミンおよびヒトアルブミンから選択され、
前記(1つまたは複数の)ポロキサマーは、ポロキサマー182、ポロキサマー184、ポロキサマー188、およびポロキサマー407から選択される、
請求項2に記載の溶液。
【請求項7】
前記賦形剤がスクロースおよびマンニトールから選択され、前記溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量が、20~300mg/mlの範囲、好ましくは40~100mg/mlの範囲、より好ましくは60~80mg/mlの範囲、さらに好ましくは60~70mg/mlの範囲である、請求項2に記載の溶液。
【請求項8】
前記式Iの化合物と前記賦形剤との質量比率が、1:(0.5~20)の範囲、好ましくは1:(1~15)の範囲、より好ましくは1:(2~12.5)の範囲、さらに好ましくは1:(5~10)の範囲である、請求項2に記載の溶液。
【請求項9】
塩酸、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、クエン酸、リン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、またはこれらの混合物から選択されるpH調整剤をさらに含む、請求項1または2に記載の溶液。
【請求項10】
高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液であって、
前記溶液は、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、およびスクロース、または、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、およびマンニトール
を含み、
【化18】
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液に対するtert-ブタノールの体積含有量が、30%、40%、もしくは60%であり、または、前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量が、235.5、314または471mg/mlであり、
前記溶液における前記式I-1の化合物の含有量が、6、7、7.5、8、8.5、10、12.5、15、20または25mg/mlであり、
スクロースまたはマンニトールは賦形剤として使用され、前記溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量が、40、50、60、70、75、80、90または100mg/mlである、
溶液。
【請求項11】
高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液であって、
前記溶液は、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、スクロース、およびpH調整剤、または、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、マンニトール、およびpH調整剤
を含み、
【化19】
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液に対するtert-ブタノールの体積含有量が、30%、40%、もしくは60%であり、または、前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量が、235.5、314または471mg/mlであり、
前記溶液における前記式I-1の化合物の含有量が、6、7、7.5、8、8.5、10、12.5、15、20または25mg/mlであり、
スクロースまたはマンニトールは賦形剤として使用され、前記溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量が、40、50、60、70、75、80、90または100mg/mlであり、
前記pH調整剤の含有量が、前記溶液のpH値が4~9の範囲、好ましくは6~8の範囲となる量である、
溶液。
【請求項12】
高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液であって、
前記溶液は、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、スクロース、および重炭酸ナトリウム、または、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、マンニトール、および重炭酸ナトリウムからなり、
【化20】
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液に対するtert-ブタノールの体積含有量が、30%、40%、もしくは60%であり、または、前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量が、235.5、314または471mg/mlであり、
前記溶液における前記式I-1の化合物の含有量が、6、7、7.5、8、8.5、10、12.5、15、20または25mg/mlであり、
スクロースまたはマンニトールは賦形剤として使用され、前記溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量が、40、50、60、70、75、80、90または100mg/mlであり、
前記重炭酸ナトリウムの含有量が、前記溶液のpH値が4~9の範囲、好ましくは6~8の範囲となる量である、
溶液。
【請求項13】
前記溶液において、スクロースまたはマンニトールに対する化合物I-1の質量比率が、1:2、1:3、1:3.5、1:4、1:5、1:5.333、1:5.6、1:6、1:1.67、1:7、1:8、1:8.235、1:8.75、または1:9.375である請求項10、11または12に記載の溶液。
【請求項14】
下記式Iの化合物、賦形剤、および残留溶媒構成成分を含む凍結乾燥製剤であって、
【化21】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の薬物負荷が、5mg/cm
3超555.55mg/cm
3以下であり、もしくは、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の薬物負荷が、4.55mg/cm
3以上500mg/cm
3未満であり、または、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の質量百分率が、4.39%以上66.66%未満であり、
前記残留溶媒構成成分は、水およびtert-ブタノールである、
凍結乾燥製剤。
【請求項15】
下記式Iの化合物、賦形剤、残留溶媒構成成分、およびpH調整剤を含む凍結乾燥製剤であって、
【化22】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の薬物負荷が、5mg/cm
3超555.55mg/cm
3以下であり、もしくは、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の薬物負荷が、4.55mg/cm
3以上500mg/cm
3未満であり、または、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の質量百分率が、4.39%以上66.66%未満であり、
前記残留溶媒構成成分は、水およびtert-ブタノールである、
凍結乾燥製剤。
【請求項16】
下記式Iの化合物および賦形剤を含む凍結乾燥製剤であって、
【化23】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の薬物負荷が、5mg/cm
3超555.55mg/cm
3以下であり、もしくは、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の薬物負荷が、4.55mg/cm
3以上500mg/cm
3未満であり、または、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の質量百分率が、4.39%以上66.66%未満である、
凍結乾燥製剤。
【請求項17】
前記式Iの化合物が、
【化24】
から選択される、請求項14から16のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
【請求項18】
請求項14から16のいずれかに記載の凍結乾燥製剤であって、前記賦形剤が、糖類、ポリオール、ポリビニルピロリドン、タンパク質、ポロキサマー、またはこれらの組合せであり、
前記糖類は、スクロース、デキストラン、シクロデキストリン、マルトデキストリン、トレハロース、ラクトース、マルトース、およびグルコースから選択され、
前記ポリオールは、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、イノシトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリソルベート、およびアドニトールからなる群から選択され、
前記タンパク質は、アルブミン、好ましくはウシ血清アルブミンおよびヒトアルブミンから選択され、
前記ポロキサマーは、ポロキサマー182、ポロキサマー184、ポロキサマー188、およびポロキサマー407から選択される、
凍結乾燥製剤。
【請求項19】
前記残留水の含有量が、6質量%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下であり、
前記残留tert-ブタノールの含有量が、1.75質量%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である、
請求項14から18のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
【請求項20】
前記式Iの化合物と前記賦形剤との質量比率が1:(0.5~20)、好ましくは1:(1~15)、より好ましくは1:(2~12.5)、さらに好ましくは1:(5~10)である、請求項14から18のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
【請求項21】
請求項14から18のいずれかに記載の凍結乾燥製剤であって、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の薬物負荷が、5.55mg/cm
3以上177.77mg/cm
3以下、好ましくは8.88mg/cm
3以上55.55mg/cm
3以下、より好ましくは8.88mg/cm
3以上27.77mg/cm
3以下、さらに好ましくは8.88mg/cm
3以上16.66mg/cm
3以下、さらにより好ましくは8.88mg/cm
3以上11.11mg/cm
3以下であり、または、
前記凍結乾燥製剤における前記式Iの化合物の薬物負荷が、4.55mg/cm
3以上145.45mg/cm
3以下、好ましくは7.27mg/cm
3以上45.45mg/cm
3以下、より好ましくは7.27mg/cm
3以上22.73mg/cm
3以下、さらに好ましくは7.27mg/cm
3以上13.64mg/cm
3以下、さらにより好ましくは7.27mg/cm
3以上9.09mg/cm
3以下である、
凍結乾燥製剤。
【請求項22】
下記化合物I-1、賦形剤、残留水および残留tert-ブタノールから本質的になる凍結乾燥製剤であって、
【化25】
前記凍結乾燥製剤における前記式I-1の化合物の薬物負荷が、6.66、7.77、8.33、8.88、9.44、11.11、13.88、16.66、22.22もしくは27.77mg/cm
3であり、または、前記凍結乾燥製剤における前記式I-1の化合物の薬物負荷が、5.45、6.36、6.82、7.27、7.73、9.09、11.36、13.64、18.18もしくは22.73mg/cm
3であり、
前記賦形剤は、スクロースまたはマンニトールであり、
前記式I-1の化合物と前記賦形剤との質量比率が、1:2、1:3、1:3.5、1:4、1:5、1:5.333、1:5.6、1:6、1:1.67、1:7、1:8、1:8.235、1:8.75、または1:9.375であり、
前記残留水の含有量が、6質量%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下であり、
前記残留tert-ブタノールの含有量が、1.75質量%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である、
凍結乾燥製剤。
【請求項23】
下記式の化合物、賦形剤、残留水、残留tert-ブタノール、およびpH調整剤から本質的になる凍結乾燥製剤であって、
【化26】
前記凍結乾燥製剤における前記式I-1の化合物の薬物負荷が、6.66、7.77、8.33、8.88、9.44、11.11、13.88、16.66、22.22もしくは27.77mg/cm
3であり、または、前記凍結乾燥製剤における前記式I-1の化合物の薬物負荷が、5.45、6.36、6.82、7.27、7.73、9.09、11.36、13.64、18.18もしくは22.73mg/cm
3であり、
前記賦形剤は、スクロースまたはマンニトールであり、
前記式I-1の化合物と前記賦形剤との質量比率が、1:2、1:3、1:3.5、1:4、1:5、1:5.333、1:5.6、1:6、1:1.67、1:7、1:8、1:8.235、1:8.75、または1:9.375であり、
前記残留水の含有量が、6質量%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下であり、
前記残留tert-ブタノールの含有量が、1.75質量%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下であり、
前記pH調整剤は重炭酸ナトリウムであり、その含有量が0.01~0.10mg/cm
3の範囲である、
凍結乾燥製剤。
【請求項24】
下記式の化合物および賦形剤から本質的になる凍結乾燥製剤であって、
【化27】
前記凍結乾燥製剤における前記式I-1の化合物の薬物負荷が、6.66、7.77、8.33、8.88、9.44、11.11、13.88、16.66、22.22もしくは27.77mg/cm
3であり、または、前記凍結乾燥製剤における前記式I-1の化合物の薬物負荷が、5.45、6.36、6.82、7.27、7.73、9.09、11.36、13.64、18.18もしくは22.73mg/cm
3であり、
前記賦形剤は、スクロースまたはマンニトールであり、
前記式I-1の化合物と前記賦形剤との質量比率が、1:2、1:3、1:3.5、1:4、1:5、1:5.333、1:5.6、1:6、1:1.67、1:7、1:8、1:8.235、1:8.75、または1:9.375である、
凍結乾燥製剤。
【請求項25】
請求項14から24のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤を含有する単位パッケージであって、以下の特徴、すなわち、
前記凍結乾燥製剤は容量1000mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が4000~16500mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量500mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が2000~8000mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量250mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が1000~4000mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量100mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が400~2000mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量50mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が50~800mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量30mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の含有量が150~600mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量25mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が範囲125~500mgであり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量20mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が100~400mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量18mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が90~360mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量15mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が75~300mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量10mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が50~200mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量8mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が40~160mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量7mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が35~140mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量5mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が25~100mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量3mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が15~60mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量2mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が10~40mgの範囲であり、または、
前記凍結乾燥製剤は容量1.5mlの密封容器に含有され、前記凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、前記式Iの化合物の量が7.5~30mgの範囲である
特徴を有する、単位パッケージ。
【請求項26】
TH-302を含有する静脈注射用の注射剤であって、溶媒が水であり、溶質が、活性医薬成分TH-302、等張調整試薬、マンニトールまたはスクロース、tert-ブタノール、および重炭酸ナトリウムを含み、前記等張調整試薬は、グルコースおよび塩化ナトリウムから選択される、注射剤。
【請求項27】
高薬物負荷の凍結乾燥製剤の溶液を調製する方法であって、前記方法は、以下の手順、すなわち、
手順1:規定量の活性医薬成分TH-302を秤量し、tert-ブタノール水溶液に添加し、透明になるまで撹拌して第1の溶液を得た、
手順2:規定量のマンニトールまたはスクロースを適量の水に溶解し、透明になるまで撹拌して第2の溶液を得た、
手順3:前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合し、最後に残りの規定量のtert-ブタノールを添加し、次いで適量の水を所定の体積まで添加し、さらに規定量の重炭酸ナトリウムを添加し、撹拌しながら均一に混合した
手順を含み、
高薬物負荷の前記凍結乾燥製剤の前記溶液における前記活性医薬成分TH-302の含有量が、5mg/ml超500mg/ml以下であり、
高薬物負荷の前記凍結乾燥製剤の前記溶液に対するtert-ブタノールの体積百分率が1~99%の範囲であり、または、前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量が7.85~777.15mg/mlの範囲であり、
高薬物負荷の前記凍結乾燥製剤の前記溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量が、20~300mg/mlの範囲であり、
高薬物負荷の前記凍結乾燥製剤の前記溶液におけるTH-302と、スクロースまたはマンニトールとの質量比率が、1:(0.5~20)の範囲であり、
前記tert-ブタノール水溶液におけるtert-ブタノールの体積比率が、30~90%の範囲であり、
高薬物負荷の前記凍結乾燥製剤の前記溶液における重炭酸ナトリウムの含有量が、0.01~0.10mg/mlの範囲である、
高薬物負荷の凍結乾燥製剤の溶液を調製する方法。
【請求項28】
高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製する方法であって、前記方法は、以下の手順、すなわち、
予備凍結乾燥:請求項1から13のいずれか一項に記載の溶液を適量、凍結乾燥システムに入れ、予備凍結乾燥するが、この予備凍結乾燥プロセスは、温度を一定時間0℃に保持し、温度を一定時間-20~-55℃に保持することを含み、
一次乾燥:前記予備凍結乾燥の後、温度を-10~10℃まで上げ、その温度を一定時間保持し、真空状態を維持することにより乾燥を行い、
二次乾燥:前記一次乾燥の後、温度を20~40℃まで上げ、その温度を一定時間保持し、真空状態を維持することにより乾燥を行う
手順を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TH-302を用いた凍結乾燥製剤の開発に関し、医薬製剤の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
TH-302、すなわち2-ニトロイミダゾールのプロドラッグは、2006年にスレッショルド・ファーマシューティカルズ社(Threshold Pharmaceuticals Inc.)の研究者らによって設計、合成され、高い細胞毒性を有する選択的な低酸素活性化DNAのアルキル化剤(国際公開第2007002931号、Phosphoramidate alkylator prodrugs)である。TH-302は、腫瘍の低酸素領域において、または酸による活性化により、アルキル化剤活性を有するジブロモイソホスファミドクロルメチンに変換され得るが、正常酸素圧または正常なpHの条件下ではほとんど不活性である。
【0003】
スレッショルド・ファーマシューティカルズ社の研究者らは、2007年に予備凍結乾燥製剤および注射製剤を設計、開発し(国際公開第2008083101号、Phosphoramidate alkylator prodrugs for the treatment of cancer)、それを第I相臨床試験で投与した。
【0004】
TH-302(100mg)およびスクロース(1g)の溶液(20mL)を凍結乾燥バイアルに添加し、凍結乾燥して、薬物負荷が5mg/cm3未満のTH-302の凍結乾燥単位投薬剤が製造された。ヒトに投与するために、この単位投薬剤は5%デキストロース注射剤に溶解され、この溶液の適量が患者に投与された。
【0005】
TH-302を無水エタノールに溶解して、5%TH-302を含有する医薬的に許容される液体製剤が製造された。本明細書で用いる場合、5%TH-302の溶液は、100mLの溶媒(例えばエタノール)に5gのTH-302を含有する。
【0006】
TH-302の第I相臨床試験におけるヒト患者のためのフォローアップ投薬計画では、凍結乾燥製剤が使用されている。注射用のTH-302凍結乾燥製剤は、100mLのガラスバイアルにおいて、薬物負荷が100mg/100mlで調製され、2~8℃の制御温度下で貯蔵される。使用時には、凍結乾燥製剤を含有するバイアルに5%デキストロース250mLが注入され、30分以内に注入ポンプを介して静脈内に注入された。
【0007】
スレッショルド・ファーマシューティカルズ社の研究者らは、2009年に注射製剤を設計、開発した(国際公開第2010048330号、Treatment of cancer using hypoxia activated prodrugs)。
【0008】
50mg/ml~約300mg/mlのTH-302、非イオン性界面活性剤(ツイーン80など)、およびキャリアとしてエタノールを含有する液体製剤はさらに、ジメチルアセトアミドを含有し得る。
【0009】
臨床試験は2007年から開始されて現在まで続けられており、多種の固形腫瘍および血液がんを網羅し、投与計画も多様である。様々な用量のTH-302が単独で、または他のがん治療薬と組み合わせて使用されている。現在、米国で登録されている種々のがんおよび腫瘍を治療する治療薬としてTH-302を使用した27の臨床試験がある(NCT02402062、NCT02020226、NCT02076230、NCT01381822、NCT02093962、NCT01440088、NCT02255110、NCT02342379、NCT01864538、NCT01149915、NCT02433639、NCT00743379、NCT01485042、NCT01721941、NCT02047500、NCT00742963、NCT01497444、NCT00495144、NCT01746979、NCT01144455、NCT01403610、NCT01522872、NCT01833546、NCT02598687、NCT03098160、NCT02496832、NCT02712567)。これらの臨床試験により、TH-302が広域スペクトルの抗がん薬候補であることが示されている。
【0010】
上述の第I/II相臨床試験を実施した結果、スレッショルド・ファーマシューティカルズ社の研究者らは、種々の適応症を治療するためのTH-302の有効量が以下の通りであることを見出した(国際公開第2012135757号、Methods for treating cancer)。
【0011】
静脈注射を介して投与される1日用量は120mg/m2~460mg/m2、および
静脈注射を介して投与される週間用量は480mg/m2~約670mg/m2、または例えば575mg/m2。
【0012】
上記の有効量によると、普通の人(身長:175cm、体重:75kg)の場合、それに相当する等価体表面積BSA(body surface area)(m2)=([身長(cm)×体重(kg)]/3600)1/2=1.90となるため、それに対応する用量は228~1273mgである。この場合、薬物負荷が5mg/cm3未満の凍結乾燥製剤を使用すると(50mlの凍結乾燥バイアルに100mgのTH-302および1gのスクロースを含有する水溶液20mLを添加し凍結乾燥して、TH-302の凍結乾燥単位投薬剤を製造すると、薬物負荷は5mg/cm3未満である)、少なくとも3バイアルが必要であり、より高い用量で使用すると、13バイアルが必要になる可能性がある。これは臨床使用には不都合であり得、患者にとって過度に高い薬物治療費を伴うことでもある。
【0013】
上記の理由から、後続の第II/III相臨床試験のほとんどにおいて、スレッショルド・ファーマシューティカルズ社の研究者らは、濃縮注射剤を使用してきた(国際公開第2015013448号、Treatment of pancreatic cancer with a combination of a hypoxia-activated prodrug and a taxane)。
【0014】
試験で使用するためのTH-302(投与のための溶液用濃縮物)は、TH-302の滅菌液体製剤である。それは、70%無水エタノール、25%ジメチルアセトアミド、および5%ポリソルベート80を用いて製剤化される。TH-302は、ゴム栓とフリップ・オフ・シールが付いた10mLガラスバイアルで、提供者によって供給される。TH-302医薬品は、透明で、無色から薄い黄色の溶液であり、可視微粒子を本質的に含まない。シングルユースの各バイアルは、TH-302の名目上の総量が650mgの場合、(100mg/mLに相当する)TH-302医薬品の名目充填体積6.5mLを含有しており、明確にラベルが付けられる。そのラベルには、ロット番号、投与経路、必要とされる貯蔵条件、提供者の名前、および適用される規制によって必要とされる適当な予防ラベルが記載されている。薬局のマニュアルに従って、投与前の希釈が必要である。
【0015】
TH-302医薬品は、所望の最終濃度を得るために、投与ごとに、市販の5%デキストロース水溶液で、総体積500mL(総用量が≧1000mgの場合は1000mL)に投与前に希釈される。TH-302の各用量は、ジ(2-エチルヘキシル)フタラート(di(2-ethylhexyl)phthalate:DEHP)を含有していない5%デキストロース水溶液(無DEHP)を用いて調製され、DEHPを含有していない静脈注入の投与器具を使用して、静脈点滴を介して投与される。
【0016】
明らかに、臨床試験において薬物負荷が100mg/mlの濃縮注射剤を使用する方が、薬物負荷が5mg/cm3未満の凍結乾燥製剤を使用するよりも都合がよい。前者の場合、ほとんどの患者の投薬要件を満たすのに10mlゲージのバイアルで十分であるが、後者の場合、ほとんどの患者の薬物治療要件を満たすには、100mlゲージの通常使用されるバイアルが13本必要である。
【0017】
しかし、スレッショルド・ファーマシューティカルズ社の研究者らは、薬物負荷が100mg/mlの上述の濃縮注射剤(すなわち、70%無水エタノール、25%ジメチルアセトアミドおよび5%ポリソルベート80を用いて製剤化したTH-302の濃縮注射剤)には、多量のジメチルアセトアミドが含有されていることを見出した。薬物の溶解度を高め、注射剤の安定性を向上させることができるこのアジュバントは、人体への注入後にアレルギーを引き起こしやすい(国際公開第2015013448号、Treatment of pancreatic cancer with a combination of a hypoxia-activated prodrug and a taxane)。
【0018】
TH-302の投与反応(主にジメチルアセトアミドによって誘発される)が観察されている。この反応は、ステロイドおよび抗ヒスタミン剤の治療に反応した唇の腫れとじんま疹を特徴としている。デキサメタゾン(または同等物)などのステロイドを、投与前の制吐薬投与計画に含めることが推奨されている。過敏症の症状および兆候としては、発熱、筋肉痛、頭痛、発疹、かゆみ、じんま疹、血管浮腫、胸部不快感、呼吸困難、咳、チアノーゼ、および低血圧が挙げられる。上記反応の性質と重症度により、治療の中止が必要とされる場合は、その反応が免疫グロブリンE媒介のプロセスであり得るか否かを決定すべきである。アナフィラキシーまたはアナフィラキシー様の反応を示唆する上気道閉塞または低血圧などの症状がある場合は、抗ヒスタミン剤(例えばジフェンヒドラミン25~50mgの経口、筋肉内もしくは低速静注、または同等物)および低用量のステロイド(例えばヒドロコルチゾン、100mgの静注、または同等物)による治療を、必要に応じて研究者らが検討すべきである。事象が明らかにアナフィラキシーである場合は、標準治療と同様に、エピネフリン(1/1000、0.3~0.5mLの皮下投与、または同等物)も検討すべきである。気管支痙攣の場合は、吸入β作動剤を検討すべきである。特異体質反応はまた、重症度に応じて、抗ヒスタミン剤および低用量のステロイドで治療してもよい。TH-302の投与に対する反応は、同様の方法で評価および治療すべきである。TH-302に対する全ての反応について、研究者らはメディカルモニターに相談して、将来の治療のための適当な行動方針を決定すべきである。
【0019】
高濃度の濃縮TH-302注射剤により、凍結乾燥製剤における低薬物負荷の問題は解決された。しかし、有害反応を引き起こす可能性のある上述のアジュバントの使用により、臨床試験において関連する有害反応が発生して、患者に対する薬物治療の危険性が高まる可能性がある。
【0020】
凍結乾燥の前に水およびスクロースの溶液にTH-302を溶解することによって現在まで開発されてきた凍結乾燥製剤は、他のアジュバントを含まない。しかし、凍結乾燥前の溶液の薬物含有量が低すぎるため、臨床試験や後続の商業生産または販売における使用要件を満たし得る高薬物負荷の凍結乾燥製剤を得ることは不可能である。
【0021】
上述の課題を実際に解決するためには、当該分野の技術者によって、高薬物負荷のTH-302の凍結乾燥製剤、およびそのような凍結乾燥製剤用の溶液が開発されることが、なお必要とされている。
【発明の概要】
【0022】
本発明の発明者らは、多くの実験と継続的な最適化の結果、TH-302および他の同様の薬物を含有する凍結乾燥製剤を製造するための新しい高薬物濃度溶液の製剤処方、および関連する凍結乾燥製剤、ならびにその方法を提案した。
【0023】
本発明の本質の理解を容易にするために、以下に、発明者らの研究プロセスを簡単に説明する。
【0024】
溶媒およびアジュバントの適切な組合せをスクリーニングして高濃度
【化1】
(TH-302)溶液を調製するために、本発明者らは、最初、スレッショルド・ファーマシューティカルズ社が開発した薬物負荷が100mg/mlの濃縮注射剤、すなわち、70%無水エタノール、25%ジメチルアセトアミドおよび5%ポリソルベート80を用いて製剤化したTH-302の濃縮注射剤を改変することを考えた。
【0025】
溶媒として無水エタノールおよび水を直接使用し、スクロースを添加した場合、得られた溶液は凍結乾燥することができず、粘性油しか得られない場合もあれば、溶液の薬物含有量の増加が限定的で、要件を満たすことができない場合もあることが見出された。したがって、研究者らは、エタノール+水という単純なスキームは放棄した。
【0026】
溶媒として無水エタノールおよび水を直接使用し、スクロースまたは他の賦形剤を添加し、添加する可溶化剤(PEG、ツイーン、スパンなど)の種類と量を調整した場合は、可溶化剤を少量添加することで溶解度を高めることができるが、その増加は非常に限定的であることが見出された。したがって、高薬物負荷の要件を満たすことができない。
【0027】
研究者らはまた、pH値が溶解度に影響し得ることを考慮して、種々の単一の従来の緩衝溶液において、TH-302の溶解度についても検討した。溶液のpH値はTH-302の溶解度にほとんど影響を及ぼさないことが見出された。pH値を調整することによって、水溶液におけるTH-302の溶解度を向上させることはできない。様々な添加物を有する様々なpH値の水溶液におけるTH-302の溶解度データを、下記表1に示す。
【0028】
【表1】
注:「1%エタノール水溶液」、「20%エタノール水溶液」、「1%N,N-ジメチルアセトアミド水溶液」、「1%ポリエチレングリコール水溶液」および「1%ツイーン80水溶液」という表現における比率は、全て体積基準の比率である。
【0029】
本発明者らは、多数の実験を行うことにより、スレッショルドに従って、単にエタノール、様々なpH値の水溶液、またはエタノール+水を溶媒として使用するだけでは、凍結乾燥を介して高薬物負荷のTH-302凍結乾燥製剤を作製するための要件を満たす高溶解度溶液を開発することは不可能であることを確認した。
【0030】
本発明者らは、多くの試みの結果、水またはtert-ブタノール単独では、TH-302の溶解度は低いことを見出した。しかし、本発明者らは、意外にも、水とtert-ブタノールとの混合溶媒ではTH-302の溶解度が非常に高められること、およびその溶媒の混合比率に溶解度がかなり依存していることを見出した。tert-ブタノール+水またはtert-ブタノール+エタノールの様々な混合溶媒におけるTH-302の溶解度データを、下記表2に示す。
【0031】
【表2】
注:表2の混合溶媒の比率は体積比率を指し、TH-302は商業的に購入されている。
【0032】
tert-ブタノールは無色の結晶であり、過冷却されやすく、少量の水の存在下で液体になる。樟脳のような臭いがあり、吸湿性がある。その中国名としては、2-メチル-2-プロパノール、tert-ブタノール、トリメチルメタノールなどが挙げられる。tert-ブタノールは融点が25.7℃なので、室温では無色で透き通った液体または無色の結晶である。
【0033】
一般的に言えば、tert-ブタノールは以下の性質を有する。
【0034】
1.高凍結点。純粋なtert-ブタノールは室温(25℃)で結晶化する場合があり、水と混合した後、氷点下数度で凍結させることもできる。純粋なtert-ブタノールもtert-ブタノールと水との混合物も、既存の凍結乾燥機内で完全に凍結させることができる。
【0035】
2.tert-ブタノールは蒸気圧が比較的高い。蒸気圧が高いと昇華に有利で、凍結乾燥時間が短くて済む。
【0036】
3.tert-ブタノールは、任意の比率で水と混合することができる。これは、一部の脂溶性薬物の水での溶解度を高めることができるため、極めて重要である。水溶液中で不安定な一部の薬物については、適量のtert-ブタノールを添加することで、薬物の分解を抑制し、安定性を向上させることができる。
【0037】
4.tert-ブタノールは凍結乾燥が容易で、製剤中の残留含有量が少ない。凍結乾燥中、tert-ブタノールのほとんどが1回の乾燥段階で昇華し得るため、製剤中のその残留含有量は非常に低い。
【0038】
5.tert-ブタノールは凍結中に針状の結晶を形成するため、溶質の結晶化モードを変化させ、昇華を促進することができる。少量のtert-ブタノールを水に添加したときに形成されるtert-ブタノール-水共溶媒は、水の結晶化状態を変化させることができ、凍結中に形成される針状の結晶は大きな表面積を有する。氷の結晶の昇華により管状のチャネルが残り、これが水蒸気に対する流動抵抗を大きく低減し、昇華速度を著しく増加させる。したがって、tert-ブタノールを使用して、フリーズドライプロセス中の物質移動を加速させることができる。
【0039】
上記性質の観点から、高濃度の式Iの化合物を含む溶液を調製するために、溶媒としてtert-ブタノール+水を使用することができ、tert-ブタノール自体も、その固有の特性から、凍結乾燥用のアジュバントとしての使用に適していることがわかる。
【0040】
表2に示すtert-ブタノール-水混合溶媒に関する結果から、TH-302は水溶液における溶解度が比較的低いと推測することができる。tert-ブタノール水溶液におけるtert-ブタノールの濃度が増加するにつれてこの活性医薬成分の溶解度は増加し、70%tert-ブタノール水溶液(V/V)で最も高い溶解度に達し、そしてさらにtert-ブタノール水溶液におけるtert-ブタノールの濃度が増加するにつれて溶解度は低下すると推定される。
【0041】
これに鑑み、本発明者らは、本発明による溶媒としてtert-ブタノール+水を使用し、適切な(1つまたは複数の)賦形剤を添加することにより、高濃度TH-302の溶液を得るスキームを提案し、さらに、TH-302の高薬物負荷を有する凍結乾燥製剤、またはこの製剤に基づいたその類似体を開発した。
【0042】
本発明者らはさらに、様々な体積比率のtert-ブタノールを有する溶媒がTH-302の溶解度に及ぼす影響を調べる実験を実施した。得られた溶解度データを下記表3に示す。
【0043】
【表3】
注:表3の混合溶媒の比率は質量比率を指し、TH-302は、出願人らが少量で合成したものである。
【0044】
上記の予備実験に基づき、本発明は、TH-302またはその類似体を含有する以下の高濃度溶液を提供する。
【0045】
溶液は、下記式Iの化合物、水、およびtert-ブタノールを含み、
【化2】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液における式Iの化合物の含有量が、1mg/ml以上500mg/ml以下である。
【0046】
さらに、本発明はまた、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液であって、下記式Iの化合物、水、tert-ブタノール、および賦形剤を含む溶液を提供し、
【化3】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液における式Iの化合物の含有量が、5mg/ml以上500mg/ml以下であり、
好ましくは、前記溶液における式Iの化合物の含有量が、5mg/ml以上160mg/ml以下であり、
好ましくは、前記溶液における式Iの化合物の含有量が、8mg/ml以上50mg/ml以下であり、
好ましくは、前記溶液における式Iの化合物の含有量が、8mg/ml以上25mg/ml以下であり、
より好ましくは、前記溶液における式Iの化合物の含有量が、8mg/ml以上15mg/ml以下であり、
さらに好ましくは、前記溶液における式Iの化合物の含有量が、8mg/ml以上10mg/ml以下である。
【0047】
水とtert-ブタノールとは任意の比率で混和し得るので、TH-302および他の同様の化合物の溶解度を向上させるために、前記溶液に対するtert-ブタノールの体積百分率は1~99%、好ましくは5~95%、より好ましくは30~60%であり、または、
前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量は、7.85~777.15mg/ml、好ましくは39.25~745.75mg/ml、より好ましくは235.5~471mg/mlである。
【0048】
ここで、前記溶液に対するtert-ブタノールの体積百分率1%~99%は、前記溶液におけるtert-ブタノール含有量7.85~777.15mg/mlに相当し、具体的には、前記溶液に対するtert-ブタノールの体積百分率が1%の場合、前記溶液におけるtert-ブタノール含有量は7.85mg/mlである。変換係数は、tert-ブタノールの密度である。ここで、出願人が使用したtert-ブタノールの密度は0.785g/mlである。実際には、様々な製造業者のtert-ブタノール製品の密度は、異なる温度下で異なっており、一般的に0.775~0.786g/mLの間である。
【0049】
本発明による高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液は、少なくとも1つの賦形剤を含む。
【0050】
「医薬的に許容される賦形剤」という用語は、製剤中の活性医薬成分の安定性に寄与し得る任意の添加剤またはキャリアを指す。凍結乾燥製剤の調製プロセス中に、凍結乾燥に使用するための溶液に賦形剤または凍結乾燥保護剤を添加することが不可欠である。
【0051】
薬物溶液には、真空中で首尾よくフリーズドライできるものもあるが、凍結乾燥後すぐに崩壊するか、または溶けて油性物質になる可能性があるものもある。特定の薬物溶液を首尾よく凍結乾燥することにより安定した凍結乾燥製剤を得るためには、薬物と反応しないいくつかの賦形剤を添加する必要がある。このような賦形剤自体は、凍結乾燥プロセスの昇華段階では昇華されず、代わりに、直接凍結乾燥されて骨格になり、そのため形態を与える役割を果たすことができる。薬物は直接、骨格の間隙に吸着するか間隙を充填することができる。または、賦形剤は、凍結乾燥製品の溶解度および安定性を向上させることができ、もしくは、凍結乾燥製品が美的形状などを有することを可能にし得る。液体製剤にはいくつかの追加的物質を追加する必要がある。追加的物質は総称して「凍結乾燥保護剤」と呼ばれ、充填剤、増量剤、賦形剤、緩衝剤、基材、骨格などと呼ばれることもある。一般に、凍結乾燥保護剤は、薬物溶液に対して化学的に不活性でなければならない。
【0052】
凍結乾燥保護剤は、その化学的性質に応じて、以下のカテゴリーに分類することができる。
【0053】
調合物:脱脂乳、ゼラチン、タンパク質およびそれらの加水分解物、ペプチド、酵母、ブロス、デキストリン、メチルセルロース、血清、ペプトンなど。塩:チオ硫酸ナトリウム、乳酸カルシウム、グルタミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウムなど。糖類:スクロース、ラクトース、マルトース、グルコース、ラフィノース、フルクトース、ヘキソースなど。アルコール:ソルビトール、エタノール、グリセリン、マンニトール、イノシトール、キシリトールなど。酸:クエン酸、リン酸、酒石酸、アミノ酸、エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid:EDTA)など。塩基:水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウムなど。ポリマー:デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリソルベート、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone:PVP)、ポロキサマーなど。その他:ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK、チオ尿素など。
【0054】
上述のポリマーの重合度(分子量)は広い範囲にわたる。例として、ポリソルベートおよびポリエチレングリコールに言及する。
【0055】
ポリソルベートは、平均分子量が約500g/mol~約1900g/molの範囲であり得、好ましくは約800g/mol~約1600g/mol、より好ましくは約1000g/mol~約1400g/molである。ポリソルベートの非限定的な例としては、ポリソルベート-20、ポリソルベート-21、ポリソルベート-40、ポリソルベート-60、ポリソルベート-61、ポリソルベート-65、ポリソルベート-81、ポリソルベート-85、およびポリソルベート-120が挙げられる。好ましいポリソルベートとしては、ポリソルベート-20、ポリソルベート-80、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0056】
ポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)は、平均分子量が約200g/mol~約600g/molの範囲であり得、好ましくは約200g/mol~約500g/mol、より好ましくは約200g/mol~約400g/molである。PEGの非限定的な例としては、PEG200、PEG300、PEG400、PEG540、およびPEG600が挙げられる。
【0057】
ポロキサマーは、HO(C2H4O)a(C3H6O)b(C2H4O)cHの一般式を有し、式中、aおよびcは2~130の範囲であり、bは15~67の範囲である。ポロキサマーは、ポリオキシエチレンを81.8±1.9%含有し、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルのブロック共重合体である。ポロキサマーには、ポロキサマー182、ポロキサマー184、ポロキサマー188、およびポロキサマー407の様々な商標があり、これらは様々な分子量のポリマーに対応しており、例えばポロキサマー188は、分子量が7680~9510である。
【0058】
凍結乾燥保護剤は多くの機能を果たすが、具体的には以下のようにまとめられる。
【0059】
細菌およびウイルスなどの微生物は、特定の培地で増殖し、繁殖する必要がある。しかし、微生物は培地から分離されにくいため、これらの培地では首尾よく凍結乾燥される可能性がある。培地の例としては、ブロス、脱脂乳、およびタンパク質などがある。
【0060】
一部の凍結乾燥製剤は濃度が非常に低く、乾燥物の含有量が少量である。凍結乾燥中、乾燥した構成成分は昇華気流によって取り出される。薬物濃度および乾燥物の含有量を増やして、凍結乾燥製品が比較的理想的な凝集体を形成できるようにするためには、充填剤を添加して固形物の濃度を特定の範囲内に保つ必要がある。この充填剤または賦形剤としては、スクロース、ラクトース、イノシトール、脱脂乳、加水分解タンパク質、デキストラン、ソルビトール、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
【0061】
一部の生物学的活性物質は特に壊れやすく、フリーズドライ中の物理的または化学的な要因により、損傷する可能性がある。したがって、いくつかの防護剤(例えば、ジメチルスルホキシド、グリセロール、デキストラン、糖類、およびPVP)を添加して、フリーズドライ中の損傷を軽減する必要がある。
【0062】
特定の物質(例えば、マンニトール、グリシン、デキストラン、キシリトール、およびPVP)を添加することにより、製品の分解温度を上げ、凍結乾燥を容易にすることができる。
【0063】
凍結乾燥を促進するために凍結乾燥製剤のpHを変化させて共晶点を上昇させるには、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどを添加してもよい。
【0064】
製品の貯蔵安定性を向上させ、貯蔵温度を上げ、貯蔵期間を長くする目的で、ビタミンC、ビタミンE、アミノ酸、チオ硫酸ナトリウム、チオ尿素、レシチンおよび加水分解タンパク質などの酸化防止剤をいくつか添加してもよい。
【0065】
特定の物質(例えば、アミノ酸、ビタミンK、ビタミンC、チオ尿素、亜硫酸化合物、アスパラギン酸ナトリウム)を添加することにより、フリーラジカルを除去し、凍結乾燥製品の安定性を高めることができる。
【0066】
単一化合物で、凍結乾燥保護剤(賦形剤)として複数の役割を果たし得ることがわかる。
【0067】
本発明の薬物の特性により、凍結乾燥保護剤(賦形剤)は、糖類、ポリオール、ポリビニルピロリドン、タンパク質、ポロキサマー、またはこれらの組合せから選択される。
【0068】
糖類は、スクロース、デキストラン、シクロデキストリン、マルトデキストリン、トレハロース、ラクトース、マルトース、およびグルコースから選択される。
【0069】
ポリオールは、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、イノシトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリソルベート、およびアドニトールからなる群から選択される。
【0070】
タンパク質は、アルブミン、好ましくはウシ血清アルブミンおよびヒトアルブミンから選択される。
【0071】
ポロキサマーは、ポロキサマー182、ポロキサマー184、ポロキサマー188、およびポロキサマー407から選択される。
【0072】
好ましくは、賦形剤は、PVP K12、スクロース、マンニトール、アルブミン、またはこれらの組合せから選択される。
【0073】
一般的に言えば、同じ種類の賦形剤を組み合わせることができ、互いに反応せず、かつ薬物と反応しない賦形剤どうしを組み合わせることができる。この組合せは、薬物適合性の要件を満たすべきである。
【0074】
特に、賦形剤はスクロースおよびマンニトールから選択され、溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量は、20~300mg/mlの範囲、好ましくは40~100mg/mlの範囲、より好ましくは60~80mg/mlの範囲、さらに好ましくは60~70mg/mlの範囲である。
【0075】
一般的にはスクロースとマンニトールのうちの一方のみを使用するが、一部の特殊な場合には、スクロースとマンニトールとを混合して使用することもできる。本発明の好ましい態様では、マンニトールまたはスクロースのみが使用される。
【0076】
同様に、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液におけるTH-302と(1つまたは複数の)賦形剤との質量比率は、1:(0.5~20)の範囲、好ましくは1:(1~15)の範囲、より好ましくは1:(2~12.5)の範囲、さらに好ましくは1:(5~10)の範囲である。
【0077】
賦形剤に対するTH-302および同様の他の化合物の質量比率は、凍結乾燥用の溶液の薬物負荷の比率である。上述の賦形剤(凍結乾燥保護剤、充填剤、または骨格)の凍結乾燥状態により、凍結乾燥後の凍結乾燥体が、(1つまたは複数の)賦形剤から得られた骨格を有しており、(1つまたは複数の)薬物が、その骨格に吸着または装填されることが理解されよう。したがって、凍結乾燥前の薬物溶液の薬物負荷比率、すなわち、(1つまたは複数の)賦形剤に対するTH-302の質量比率は、重要な指標である。
【0078】
適当な薬物負荷比率とは、凍結乾燥製剤を凍結乾燥した後、薬物が骨格に均一に吸着され、そして薬物が骨格の間隙および細孔表面に良好に分布し、そのため、後続の(5%デキストロース注射剤、生理食塩液などを用いた)再構成の間に、凍結乾燥製剤が迅速かつ良好に溶解して、注射投与にむけて準備され得ることを意味する。
【0079】
「医薬的に許容される緩衝剤」とは、溶液のpH値をほぼ一定のレベルに維持することを可能にし、溶液中の活性医薬成分の安定性を向上させるために使用される弱酸または弱塩基を指す。
【0080】
本発明による高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液はまた、少なくとも1つの緩衝剤を含むこともでき、緩衝剤は、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、乳酸リチウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、マレイン酸リチウム、マレイン酸ナトリウム、マレイン酸カリウム、マレイン酸カルシウム、酒石酸リチウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸カルシウム、コハク酸リチウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸カルシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、またはこれらの混合物からなる群から選択される。
【0081】
好ましくは、本発明による高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液に使用される緩衝剤は、少なくとも1つのクエン酸緩衝剤である。適切なクエン酸緩衝剤の非限定的な例としては、クエン酸リチウム一水和物、クエン酸ナトリウム一水和物、クエン酸カリウム一水和物、クエン酸カルシウム一水和物、クエン酸リチウム二水和物、クエン酸ナトリウム二水和物、クエン酸カリウム二水和物、クエン酸カルシウム二水和物、クエン酸リチウム三水和物、クエン酸ナトリウム三水和物、クエン酸カリウム三水和物、クエン酸カルシウム三水和物、クエン酸リチウム四水和物、クエン酸ナトリウム四水和物、クエン酸カリウム四水和物、クエン酸カルシウム四水和物、クエン酸リチウム五水和物、クエン酸ナトリウム五水和物、クエン酸カリウム五水和物、クエン酸カルシウム五水和物、クエン酸リチウム六水和物、クエン酸ナトリウム六水和物、クエン酸カリウム六水和物、クエン酸カルシウム六水和物、クエン酸リチウム七水和物、クエン酸ナトリウム七水和物、クエン酸カリウム七水和物、クエン酸カルシウム七水和物が挙げられる。
【0082】
本発明による高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液はまた、少なくとも1つのpH調整剤を含むこともできる。
【0083】
本発明のpH調整剤とは、酸またはアルカリで変化するpHを適当に調整するために使用される緩衝物質または緩衝溶液を指す。pH調整剤としては、塩酸、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、もしくはリン酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、またはこれらの混合物が挙げられるが、それらに限定されない。添加するpH調整剤の含有量は、溶液のpH値が4~9の範囲、好ましくは6~8の範囲となる量である。
【0084】
TH-302およびその類似体が普通は酸性である(化合物の調製プロセスが酸性環境およびわずかな加水分解を伴い、調製または購入される活性医薬成分は酸性である)ため、pH調整剤は、好ましくは、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、重炭酸ナトリウム、および炭酸ナトリウムまたはアルカリ塩などの塩基から選択される。
【0085】
当然、TH-302およびその類似体のpHは、他の要因によりアルカリ性であることもあり得る。この場合、pHを調整するために、酸または酸性塩(硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムなど)を添加する必要がある。
【0086】
下記式Iの化合物は、
【化4】
から選択され、より好ましくはTH-302である。
【0087】
式Iの化合物の具体的な合成方法およびそれに対応するスペクトルデータは、国際公開第2007002931号(中国特許出願公開第101501054号に相当)に開示されており、これは、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0088】
式Iの化合物および上記の具体的な3つの化合物に関連する生理化学的特性および生物活性については、スレッショルド・ファーマシューティカルズ社が所有する特許(国際公開第2016011195号、同2004087075号、同2007002931号、同2008151253号、同2009018163号、同2009033165号、同2010048330号、同2012142520号、同2008083101号、同2020007106号、同2020118251号、同2014169035号、同2013116385号、同2019173799号、同2016081547号、同2014062856号、同2015069489号、同2012006032号、同2018026606号、同2010048330号、同2015171647号、同2013096687号、同2013126539号、同2013096684号、同2012009288号、同2012145684号、同2016014390号、同2019055786号、同2012135757号、同2015013448号、同2016011328号、同2013177633号、同2016011195号、および同2015051921号など)を参考にしていただきたい。これらは、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0089】
上記3つの好ましい化合物は、TH-302と同じかまたは同様の生理化学的特性を有する。
【0090】
本発明は、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液であって、前記溶液は、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、およびスクロース、
または、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、およびマンニトール
を含み、
【化5】
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液に対するtert-ブタノールの体積含有量が、30%、40%、もしくは60%であり、または、前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量が、235.5、314または471mg/mlであり、
前記溶液における式I-1の化合物の含有量が、6、7、7.5、8、8.5、10、12.5、15、20または25mg/mlであり、
スクロースまたはマンニトールは賦形剤として使用され、前記溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量が、40、50、60、70、75、80、90または100mg/mlである、
溶液を提供する。
【0091】
本発明は、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液であって、前記溶液は、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、スクロース、およびpH調整剤、または、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、マンニトール、およびpH調整剤
を含み、
【化6】
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液に対するtert-ブタノールの体積含有量が、30%、40%、もしくは60%であり、または、前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量が、235.5、314または471mg/mlであり、
前記溶液における式I-1の化合物の含有量が、6、7、7.5、8、8.5、10、12.5、15、20または25mg/mlであり、
スクロースまたはマンニトールは賦形剤として使用され、前記溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量が、40、50、60、70、75、80、90または100mg/mlであり、
pH調整剤の含有量が、前記溶液のpH値が4~9の範囲、好ましくは6~8の範囲となる量である、
溶液を提供する。
【0092】
本発明は、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液であって、前記溶液は、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、スクロース、および重炭酸ナトリウム、または、
下記式I-1の化合物、水、tert-ブタノール、マンニトール、および重炭酸ナトリウム
からなり、
【化7】
水およびtert-ブタノールは混合溶媒として使用され、
前記溶液に対するtert-ブタノールの体積含有量が、30%、40%、もしくは60%であり、または、前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量が、235.5、314または471mg/mlであり、
前記溶液における式I-1の化合物の含有量が、6、7、7.5、8、8.5、10、12.5、15、20または25mg/mlであり、
スクロースまたはマンニトールは賦形剤として使用され、前記溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量が、40、50、60、70、75、80、90または100mg/mlであり、
重炭酸ナトリウムの含有量が、前記溶液のpH値が4~9の範囲、好ましくは6~8の範囲となる量である、
溶液を提供する。
【0093】
上述の高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液において、前記化合物とスクロースまたはマンニトールとの質量比率は、1:2、1:3、1:3.5、1:4、1:5、1:5.333、1:5.6、1:6、1:1.67、1:7、1:8、1:8.235、1:8.75、または1:9.375である。
【0094】
当然、緩衝剤、pH調整剤、または凍結乾燥製剤用の他の補助材料を、上記の説明に従い、かつ式Iの具体的な化合物の特性に応じて、添加することもできる。
【0095】
明らかに、溶液を調製する間の容器、管および器具との接触、またはそれらの汚染に起因して他の物質(環境物質)が検出された場合、それらの物質は、上記のような補助材料の範疇には属さない。同様に、tert-ブタノール、スクロース/マンニトール、および式Iの化合物の原料には、不純物、または環境に関与する他の物質(環境物質)が必然的に混入している。これらの不純物または環境物質も、補助材料の前記範疇には含まれない。
【0096】
容器、管および器具との接触、またはそれらの汚染に起因して検出されるその他全ての物質(環境物質)、ならびに不純物、または環境に含まれ(環境物質)、tert-ブタノール、スクロース/マンニトール、および式Iの化合物の原料に必然的に混入するその他の物質の含有量は、法定制限内であるか、または、それらに対応する製品の品質基準(医薬グレード、医療グレードもしくは同等の品質基準)に準拠すべきである。
【0097】
明らかに、溶液を調製する間の容器、管および器具との接触、またはそれらの汚染に起因して他の物質(環境物質)が検出された場合、それらの物質は、上記のような補助材料の範疇には属さない。同様に、tert-ブタノール、スクロース/マンニトール、重炭酸ナトリウム、および式Iの化合物の原料には、不純物、または環境に関与する他の物質(環境物質)が必然的に混入している。これらの不純物または環境物質も、補助材料の前記範疇には含まれない。
【0098】
容器、管および器具との接触、またはそれらの汚染に起因して検出されるその他全ての物質(環境物質)、ならびに不純物、または環境に含まれ(環境物質)、tert-ブタノール、スクロース/マンニトール、および式Iの化合物の原料に必然的に混入するその他の物質の含有量は、法定制限内であるか、または、それらに対応する製品の品質基準(医薬グレード、医療グレードもしくは同等の品質基準)に準拠すべきである。
【0099】
したがって、上述の「・・・からなる」という表現は、調製中に意図的または人為的に添加される物質を指す(これらの物質は含有されることが不可欠であり、分析試験機器によって検出することができる)。これらの物質に加えて、意図的または人為的に添加される他の物質はない。しかし、それでも微量の不純物、環境物質などは必然的に存在する。
【0100】
上記の内容は、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液の構成物(製剤処方)について説明しており、以下に、その溶液の使用について簡単に記載する。
【0101】
上記で提供した溶液は、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための中間半製品として使用されるだけであり、臨床製剤には使用できない。一般的に言えば、前記溶液は、製造現場で使用するために直ちに調製される。すなわち、前記溶液は液体製剤化容器内で調製され、凍結乾燥バイアルに直接充填され、次いで、凍結乾燥のために、バッチで凍結乾燥する製造設備に送られる。
【0102】
したがって、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液は、調製後および凍結乾燥設備で凍結乾燥されるための製造および待機プロセスの間、安定であることが確保されるべきであり、室温で少なくとも8時間、好ましくは24時間さらには72時間または120時間、安定であるべきである。
【0103】
これは、前記溶液を、調製後に濾過、充填してから、凍結乾燥のために凍結乾燥機に送る必要があるためである。濾過および充填は、普通は8~12時間以内で完了し、一般的に室温で行われる。これに反して、後続の凍結乾燥は低温で実施され、バイアルに充填された大量の薬液を設定低温(-20℃~-55℃)まで冷却するには、大規模な凍結乾燥機または凍結乾燥システムで20~60時間かかる。したがって、凍結乾燥製剤用の薬物溶液は、特定の時間内、室温で安定であるべきである。実験の結果、本発明者らは、本発明が提供するTH-302の凍結乾燥製剤用の薬物溶液が、適当な安定性を有することを確認した。
【0104】
本発明はまた、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための溶液の使用を提供する。前記溶液は、凍結乾燥製剤溶液としての使用に適しており、凍結乾燥プロセスによる凍結乾燥製剤の調製に使用される。
【0105】
本発明は、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための上述の溶液に基づいて、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を提供することができる。
【0106】
凍結乾燥製剤は、凍結乾燥プロセスにより、凍結乾燥製剤溶液として、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための上述の溶液を使用して調製される。
【0107】
凍結乾燥製剤は、下記式Iの化合物、賦形剤、および残留溶媒構成成分を含み、
【化8】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
前記凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷が、5mg/cm
3超555.55mg/cm
3以下であり、もしくは、
前記凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷が、4.55mg/cm
3以上500mg/cm
3未満であり、または、
前記凍結乾燥製剤における式Iの化合物の質量百分率が、4.39%以上66.66%未満であり、
残留溶媒構成成分は、水およびtert-ブタノールである。
【0108】
凍結乾燥製剤は、下記式Iの化合物、賦形剤、残留溶媒構成成分、およびpH調整剤を含み、
【化9】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
前記凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷が、5mg/cm
3超555.55mg/cm
3以下であり、もしくは、
前記凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷が、4.55mg/cm
3以上500mg/cm
3未満であり、または、
前記凍結乾燥製剤における式Iの化合物の質量百分率が、4.39%以上66.66%未満であり、
残留溶媒構成成分は、水およびtert-ブタノールである。
【0109】
凍結乾燥製剤は、下記式Iの化合物および賦形剤を含み、
【化10】
式中、Rは、それぞれ独立して、H、-CH
3、および-CH
2CH
3から選択され、Xは、それぞれ独立して、Br、Cl、OMs、およびOTsから選択され、
前記凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷が、5mg/cm
3超555.55mg/cm
3以下であり、もしくは、
前記凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷が、4.55mg/cm
3以上500mg/cm
3未満であり、または、
前記凍結乾燥製剤における式Iの化合物の質量百分率が、4.39%以上66.66%未満である。
【0110】
ここで、凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷が5mg/cm3超555.55mg/cm3以下であることと、凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷が4.55mg/cm3以上500mg/cm3未満であることは、2つの異なる状況を表している。
【0111】
広範な実験の結果、出願人らは、50mlバイアルで25mlの最大充填量を使用する場合、凍結乾燥製剤を得るために、高薬物負荷の上述の凍結乾燥製剤溶液を凍結乾燥する様々な凍結乾燥プロセスについて、予備凍結乾燥溶液の体積と凍結乾燥された製剤固体の外部体積との間に、10%未満の変化があることを見出した。体積は、凍結乾燥後の凍結乾燥ケーキの膨張により10%増加する場合があり、または粉末ケーキの崩壊により10%減少する場合がある。凍結乾燥前の高薬物負荷の凍結乾燥製剤溶液における式Iの化合物の含有量が5mg/ml以上500mg/ml以下であり、最大変化が10%であることに基づくと、体積は、膨張によって元の体積の1.1倍になり、または、崩壊によって元の体積の90%になると計算される。凍結乾燥後の崩壊した粉末ケーキの体積が元の体積の90%であることを例にとると、ここでの粉末ケーキの最大薬物負荷は、5/0.9=5.55~500/0.9=555.55と計算される。プロセスによっては、体積が変化しない状況があり得る。この場合、薬物負荷は5~500の範囲である。上記の2つの範囲を組み合わせると、5~555.55になる。すなわち、凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷は、5g/cm3超555.55mg/cm3以下である。
【0112】
同様に、凍結乾燥ケーキの膨張により体積が増加した場合、凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷は、4.55mg/cm3以上500mg/cm3未満である。
【0113】
本発明が提供する凍結乾燥製剤の薬物負荷とは、単位体積当たりに含有される活性医薬成分としての式Iの化合物の量を指す。ここでの体積とは、単位パッケージ化キットにおいて、薬物の内部空隙を含む、薬物の総外部体積を指す。例えば、100mlの凍結乾燥バイアル中の20mlの凍結乾燥溶液には、500mgの薬物が含有される。予備凍結乾燥溶液を凍結乾燥した後、20mlの溶液は、疎性および多孔性の凍結乾燥製剤に凍結される。凍結乾燥バイアルの内部空間の底面積をsとして測定し、凍結乾燥バイアル中の凍結乾燥製剤の高さをhとして測定した場合、この単位パッケージ化された凍結乾燥製剤の総外部体積はshである。500mgの活性医薬成分が装填されているため、その薬物負荷は(500/sh)mg/cm3である。一般的に、shの値は約20cm3になる。凍結乾燥後の体積は、膨張により20cm3超である場合があり、または、崩壊により20cm3未満である場合がある。
【0114】
特定の単位パッケージにパッケージ化された凍結乾燥製剤の薬物負荷を決定する場合、最初に、上述した総外部体積shを測定および計算し、次いで、単位パッケージにパッケージ化された全ての凍結乾燥製剤を直接溶解し、その中に含有される薬物の質量Mを測定する。そうすると、本発明の凍結乾燥製剤の(単位体積当たりの)薬物負荷=M/shとなる。
【0115】
ここで、凍結乾燥製剤における式Iの化合物の質量百分率は、4.39%以上66.66%未満である。これは、活性医薬成分(active pharmaceutical ingredient:API)含有量および賦形剤の含有量、ならびに凍結乾燥製剤中の残留tert-ブタノールおよび残留水に基づいて変換することができる。
【0116】
凍結乾燥製剤における式Iの化合物の質量含有量とは、凍結乾燥製剤の総質量に対する薬物の百分率を指す。これは以下の操作に従って測定および計算することができる。
【0117】
特定の単位パッケージにパッケージ化された凍結乾燥製剤の薬物の質量含有量を測定する場合、最初に、単位パッケージの中の凍結乾燥製剤の質量M1を秤量し、次いで、単位パッケージの中の全ての凍結乾燥製剤を直接溶解し、その中に含有される薬物の質量Mを測定する。溶解後に洗浄、オーブン乾燥および秤量した空のバイアル瓶およびパッケージ化キャップの総質量をM2とした場合、凍結乾燥製剤の総質量はM1-M2となるので、本発明による凍結乾燥製剤における式Iの化合物の質量含有量=M/(M1-M2)となる。
【0118】
上述の凍結乾燥製剤において、式Iの化合物は、
【化11】
から選択され、好ましくはTH-302である。
【0119】
賦形剤は、糖類、ポリオール、ポリビニルピロリドン、タンパク質、ポロキサマー、またはこれらの組合せから選択され、
糖類は、スクロース、デキストラン、シクロデキストリン、マルトデキストリン、トレハロース、ラクトース、マルトース、およびグルコースから選択され、
ポリオールは、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、イノシトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリソルベート、およびアドニトールからなる群から選択され、
タンパク質は、アルブミン、好ましくはウシ血清アルブミンおよびヒトアルブミンから選択され、
ポロキサマーは、ポロキサマー182、ポロキサマー184、ポロキサマー188、およびポロキサマー407から選択される。
【0120】
前記溶液を凍結乾燥した後、溶媒である水およびtert-ブタノールを昇華させる。したがって、凍結乾燥製剤は、残存する薬物および賦形剤を含有するだけである。
【0121】
明らかに、凍結乾燥の昇華プロセスの間に水およびtert-ブタノールを完全に除去することは不可能であるため、水およびtert-ブタノールの残留物が必然的に含まれる。実際、水およびtert-ブタノールの残留量は、凍結乾燥製剤の重要な品質指標である。残留量が少ないほど、凍結乾燥製剤の品質および安定性が良好になり、そのような製剤を投与した後に、患者が有害反応を経験することが少なくなる。残留量の最小化は、凍結乾燥プロセスを調整することによって達成することができる。しかし、残留物を完全に回避することはできない。
【0122】
それでもなお、凍結乾燥時間を長くし、乾燥温度を上げることによって、製品の品質要件に準拠すると同時に、コストに関係なく、水およびtert-ブタノールの含有量を検出限界未満に低減することは、技術的に可能である。この場合、凍結乾燥製剤は、水およびtert-ブタノールをほとんど含まないと考えることができる。
【0123】
製造コストおよび貯蔵安定性を考慮すると、水およびtert-ブタノールについては、それぞれ以下のように適当な残留含有量がある。残留水の含有量は、6質量%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。残留tert-ブタノール含有量は、1.75質量%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である。
【0124】
当然、緩衝剤、pH調整剤、または凍結乾燥製剤用の他の補助材料を、上記の説明に従い、かつ式Iの具体的な化合物の特性と組み合わせて添加することもできる。これに対応して、緩衝剤、pH調整剤、または凍結乾燥用の他のアジュバントを凍結乾燥製剤が含有することも検出される。
【0125】
明らかに、昇華によって除去することができない他の物質(環境物質)が、容器、管および器具との接触、またはそれらの汚染に起因して検出された場合、それらの物質は、上記のような補助材料の範疇には属さない。同様に、tert-ブタノール、スクロース、および式Iの化合物の原料には、不純物、または環境に関与する他の物質(環境物質)が必然的に混入しており、それらは昇華によって除去することができないものである。これらの不純物または環境物質も、補助材料の前記範疇には含まれない。
【0126】
昇華によって除去することができず、容器、管および器具との接触、またはそれらの汚染に起因して検出されるその他全ての物質(環境物質)、または、昇華によって除去することができず、tert-ブタノール、スクロース/マンニトール、および式Iの化合物の原料に必然的に混入する不純物または環境に関与する他の物質(環境物質)の含有量は、法定制限内であるか、または、それらに対応する製品の品質基準(医薬グレード、医療グレードもしくは同等の品質基準)に準拠すべきである。
【0127】
「下記式Iの化合物および賦形剤を含む」とは、凍結乾燥製剤が、不可避の残留水および残留tert-ブタノールに加えて、式Iの化合物、賦形剤、および上述の残留環境物質を含有することが検出可能であることを意味する。また、凍結乾燥製剤は、他のアジュバントを含有することもできる。
【0128】
式Iの化合物と賦形剤との質量比率は、1:(0.5~20)の範囲、好ましくは1:(1~15)の範囲、より好ましくは1:(2~12.5)の範囲、さらに好ましくは1:(5~10)の範囲である。
【0129】
凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷は、5.55mg/cm3以上177.77mg/cm3以下、好ましくは8.88mg/cm3以上55.55mg/cm3以下、より好ましくは8.88mg/cm3以上27.77mg/cm3以下、より好ましくは8.88mg/cm3以上16.66mg/cm3以下、さらにより好ましくは8.88mg/cm3以上11.11mg/cm3以下であり、または、
凍結乾燥製剤における式Iの化合物の薬物負荷は、4.55mg/cm3以上145.45mg/cm3以下、好ましくは7.27mg/cm3以上45.45mg/cm3以下、より好ましくは7.27mg/cm3以上22.73mg/cm3以下、より好ましくは7.27mg/cm3以上13.64mg/cm3以下、さらにより好ましくは7.27mg/cm3以上9.09mg/cm3以下である。
【0130】
ここで述べた上記2つの状況について、前者は、凍結乾燥後、崩壊により体積が小さくなる状況を指し、後者は、膨張により体積が大きくなる状況を指す。
【0131】
凍結乾燥製剤は、本質的に、下記式I-1の化合物、賦形剤、残留水、および残留tert-ブタノールからなり、
【化12】
前記凍結乾燥製剤における前記化合物の薬物負荷が、6.66、7.77、8.33、8.88、9.44、11.11、13.88、16.66、22.22もしくは27.77mg/cm
3であり、または、前記凍結乾燥製剤における前記化合物の薬物負荷が、5.45、6.36、6.82、7.27、7.73、9.09、11.36、13.64、18.18もしくは22.73mg/cm
3であり、
前記賦形剤は、スクロースまたはマンニトールであり、
前記化合物と前記賦形剤との質量比率が、1:2、1:3、1:3.5、1:4、1:5、1:5.333、1:5.6、1:6、1:7、1:8、1:8、1:8.235、1:8.75、または1:9.375であり、
前記残留水の含有量が、6質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、
前記残留tert-ブタノールの含有量が、1.75質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0132】
凍結乾燥製剤は、本質的に、下記式I-1の化合物、賦形剤、残留水、残留tert-ブタノール、およびpH調整剤からなり、
【化13】
前記凍結乾燥製剤における前記化合物の薬物負荷が、6.66、7.77、8.33、8.88、9.44、11.11、13.88、16.66、22.22もしくは27.77mg/cm
3であり、または、前記凍結乾燥製剤における前記化合物I-1の薬物負荷が、5.45、6.36、6.82、7.27、7.73、9.09、11.36、13.64、18.18もしくは22.73mg/cm
3であり、
前記賦形剤は、スクロースまたはマンニトールであり、
前記化合物と前記賦形剤との質量比率が、1:2、1:3、1:3.5、1:4、1:5、1:5.333、1:5.6、1:6、1:1.67、1:7、1:8、1:8、1:8.235、1:8.75、または1:9.375であり、
前記残留水の含有量が、6質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、
前記残留tert-ブタノールの含有量が、1.75質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下であり、
前記pH調整剤は重炭酸ナトリウムであり、0.01~0.10mg/cm
3の量で存在する。
【0133】
凍結乾燥製剤は、本質的に、下記式の化合物および賦形剤からなり、
【化14】
式I-1の化合物の薬物負荷が、6.66、7.77、8.33、8.88、9.44、11.11、13.88、16.66、22.22もしくは27.77mg/cm
3であり、または、式I-1の化合物の薬物負荷が、5.45、6.36、6.82、7.27、7.73、9.09、11.36、13.64、18.18もしくは22.73mg/cm
3であり、
前記賦形剤は、スクロースまたはマンニトールであり、
式I-1の化合物と前記賦形剤との質量比率が、1:2、1:3、1:3.5、1:4、1:5、1:5.333、1:5.6、1:6、1:1.67、1:7、1:8、1:8、1:8.235、1:8.75、または1:9.375である。
【0134】
明らかに、昇華によって除去することができない他の物質(環境物質)が、溶液を調製する間の容器、管および器具との接触、またはそれらの汚染に起因して検出された場合、それらの物質は、上記のような補助材料の範疇には属さない。同様に、tert-ブタノール、スクロース、および式Iの化合物の原料には、不純物、または環境に関与する他の物質(環境物質)が必然的に混入しており、それらは昇華によって除去することができないものである。これらの不純物または環境物質も、補助材料の前記範疇には含まれない。
【0135】
昇華によって除去することができず、容器、管および器具との接触、またはそれらの汚染に起因して検出されるその他全ての物質(環境物質)、ならびに、昇華によって除去することができず、tert-ブタノール、スクロース/マンニトール、および式Iの化合物の原料に必然的に混入する不純物または環境に関与する他の物質(環境物質)の含有量は、法定制限内であるか、または、それらに対応する製品の品質基準(医薬グレード、医療グレードまたは同等の品質基準)に準拠すべきである。
【0136】
「下記式Iの化合物および賦形剤を含む」とは、凍結乾燥製剤が、不可避の残留水および残留tert-ブタノールに加えて、式Iの化合物、賦形剤、および上述の残留環境物質を含有することが検出可能であることを意味する。また、凍結乾燥製剤は、他のアジュバントを含有することもできる。
【0137】
「下記式Iの化合物および賦形剤から本質的になる」とは、凍結乾燥製剤が、不可避の残留水および残留tert-ブタノールに加えて、式Iの化合物、賦形剤、および上述の残留環境物質を含有するだけであることが検出可能であることを意味する。そのような構成成分を除いて、凍結乾燥製剤は、他の物質を含んでいない。
【0138】
本発明は、高薬物負荷の凍結乾燥製剤を調製するための上述の溶液を使用することにより、凍結乾燥プロセスを経て調製される凍結乾燥製剤を提供する。
【0139】
医薬製剤およびその凍結乾燥粉末は、医薬分野で通常使用される容器に貯蔵することができ、この容器には、プラスチック容器またはガラス容器、例えば、標準的なUSPIタイプのホウケイ酸ガラス容器が含まれ得る。例えば、使用する容器は、注射器またはバイアルであってもよい。
【0140】
本出願の背景技術部分に記載の、動物モデル実験および臨床試験で使用された式Iの化合物の投与量によれば、毎回投与される化合物の投与量は、様々な種(ヒトおよび他の動物)で、または様々な適応症に対して、または様々な患者で使用される場合、異なり得ることがうかがえる。その投与量は、最小量の数ミリグラムから最大量の数万ミリグラムまで及ぶ場合がある。単位用量パッケージにより、または組み合わせた複数の単位用量パッケージにより、特定の投与についての投与量が満たされ得ることが最も好ましい。したがって、上記を考慮して、我々は、様々な種について、または様々な適応症に対して、単位パッケージ当たりの凍結乾燥製剤の適切な投与量について推奨した。
【0141】
本発明はまた、前記凍結乾燥製剤を含有する以下の製剤単位パッケージも提供する。
【0142】
凍結乾燥製剤は容量1000mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が4000~16500mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量500mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が2000~8000mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量250mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が1000~4000mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量100mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が400~2000mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量50mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が50~800mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量30mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が150~600mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量25mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が125~500mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量20mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が100~400mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量18mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が90~360mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量15mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が75~300mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量10mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が50~200mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量8mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が40~160mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量7mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が35~140mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量5mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が25~100mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量3mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が15~60mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量2mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が10~40mgであり、または、
凍結乾燥製剤は容量1.5mlの密封容器に含有され、凍結乾燥製剤の体積が、該密封容器の体積の1/5~2/3、好ましくは1/3~1/2であり、式Iの化合物の量が7.5~30mgである。
【0143】
これらの少用量は、ヒト、もしくはブタ、ラット、およびイヌなどの同等サイズの動物、または小型で軽量の他の動物のうち、幼体にとって適当である。適応症は限定されない。
【0144】
本発明が提供する凍結乾燥製剤は、静脈注入によって投与されることが推奨される。したがって、薬物溶液を再構成する必要がある。再構成には、一般的に、生理食塩液(0.9%)またはグルコース注射剤(5%)が選択される。この目的のために、本発明は、溶媒が水であり、TH-302を含有する静脈注射用の注射剤を提供する。溶質は、活性医薬成分TH-302、等張調整試薬、マンニトールまたはスクロース、tert-ブタノール、および重炭酸ナトリウムを含み、等張調整試薬は、グルコースおよび塩化ナトリウムから選択される。
【0145】
本発明はまた、高薬物負荷の凍結乾燥製剤の溶液を調製する方法であって、前記方法は、以下の手順、すなわち、
手順1:規定量の活性医薬成分TH-302を秤量し、tert-ブタノール水溶液に添加し、透明になるまで撹拌して第1の溶液を得た、
手順2:規定量のマンニトールまたはスクロースを適量の水に溶解し、透明になるまで撹拌して第2の溶液を得た、
手順3:第1の溶液と第2の溶液とを混合し、最後に規定量のtert-ブタノールの残りを添加し、次いで適量の水を所定の体積まで添加し、さらに規定量の重炭酸ナトリウムを添加し、撹拌しながら均一に混合した
手順を含み、
高薬物負荷の凍結乾燥製剤の溶液における活性医薬成分TH-302の含有量が、5mg/ml超500mg/ml以下であり、
高薬物負荷の凍結乾燥製剤の溶液に対するtert-ブタノールの体積百分率が1~99%の範囲であり、または、前記溶液におけるtert-ブタノールの含有量が7.85~777.15mg/mlの範囲であり、
高薬物負荷の凍結乾燥製剤の溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量が、20~300mg/mlの範囲であり、
高薬物負荷の凍結乾燥製剤の溶液におけるTH-302と、スクロースまたはマンニトールとの質量比率が、1:(0.5~20)の範囲であり、
tert-ブタノール水溶液におけるtert-ブタノールの体積比率が、30~90%の範囲であり、
高薬物負荷の凍結乾燥製剤の溶液における重炭酸ナトリウムの含有量が、0.01~0.10mg/mlの範囲である、
高薬物負荷の凍結乾燥製剤の溶液を調製する方法を提供する。
【0146】
本発明は、本明細書において、本凍結乾燥製剤を調製するプロセスを提供する。
【0147】
高薬物負荷の本凍結乾燥製剤を調製する方法は、以下の手順を含む。
【0148】
予備凍結乾燥:上記の薬物溶液を凍結乾燥システムに入れ、予備凍結乾燥するが、この予備凍結乾燥の手順は、温度を一定時間0℃に保持し、温度を一定時間-20℃~-55℃に保持することを含む。
【0149】
一次乾燥:予備凍結乾燥の後、温度を-10~10℃の範囲の温度まで上げ、その温度を一定時間保持し、真空状態を維持することにより乾燥を行う。
【0150】
二次乾燥:一次乾燥の後、温度を20~40℃の範囲の温度まで上げ、その温度を一定時間保持し、真空状態を維持することにより乾燥を行う。
【0151】
上記の説明からわかるように、凍結乾燥製剤は、溶液を凍結乾燥ボトル(バイアル)に直接充填し、凍結乾燥装置で直接凍結乾燥することによって得た。したがって、サブパッケージ化の工程がない。そのため、単位パッケージはまさに、それに相当する凍結乾燥ボトルパッケージである。パッケージ化ゲージは、凍結乾燥バイアルのゲージと密接に関連している。
【0152】
特に、本出願に記載されている数には、±10%の誤差があり得る。すなわち、その記載の数の10%を加算または減算して記載されている数は、本出願に記録された数の範囲内であるとみなされるべきである。換言すれば、本出願において、例えば「含有量が5mg/ml超であるが500mg/ml以下である」という文言を記載する場合、実際に測定された含有量範囲が4.5mg/ml超550mg/ml以下であることも当然、上記範囲と同等であると判断されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【
図1】様々なtert-ブタノール質量比率のtert-ブタノール水溶液におけるTH-302の溶解度曲線を示す。
【
図2】11個の賦形剤を用いて調製した凍結乾燥製剤の5日間にわたる安定性曲線を示す。これらの曲線は、右端の円で識別して上から下に、PEG2000、P188、SBECD、マンニトール、DSPE-MPEG2000、フルクトース、トレハロース、PVPK12、スクロース、マルトースおよびラクトースをそれぞれ用いて調製した凍結乾燥製剤の曲線である。
【
図3】スクロースおよびマンニトールを賦形剤として用いて調製した凍結乾燥製剤の10日間にわたる安定性曲線を示す。図において、上の4つの曲線は、マンニトールを用いて調製した凍結乾燥製剤の曲線であり、下の4つの曲線は、スクロースを用いて調製した凍結乾燥製剤の曲線である。
【
図4】100mg/mlスクロースおよび80mg/mlマンニトールを賦形剤として用いて調製した凍結乾燥試料の、高温40℃および室温25℃での安定性曲線を示す。横軸は日数を表し、縦軸は、HPLCにより測定した純度を百分率で表す。
【
図5】薬物溶液試料の写真を示す。薬物溶液試料は、薬物溶液試料を含有したボトルの底で、2-℃の環境で結晶化している。ラベルはモザイクで覆っている。
【
図6】4つのバッチの凍結乾燥製剤の写真を示す。写真では、凍結乾燥製剤のバッチ01、02、03および04を、それぞれ左から右に示している。ラベルはモザイクで覆っている。
【
図7】溶液を添加した後の再構成実験における5%デキストロース溶液40mlを有する4つのバッチの凍結乾燥製剤試料と、静置した後のそれらの試料との比較写真を示す。左の写真が溶液を添加した試料を示し、右の写真が静置した後の試料を示す。それぞれの写真で、左から右に、バッチ01、02、03および04がある。ラベルはモザイクで覆っている。
【
図8】溶液を添加した後の再構成実験における5%デキストロース溶液50mlを有する4つのバッチの凍結乾燥製剤試料と、静置した後のそれらの試料との比較写真を示す。左の写真が溶液を添加した試料を示し、右の写真が静置した後の試料を示す。それぞれの写真で、左から右に、バッチ01、02、03および04がある。ラベルはモザイクで覆っている。
【
図9】7つのバッチの凍結乾燥製剤の試料写真を示す。左から右に、バッチ01~07がある。ラベルはモザイクで覆っている。
【
図10】実験室用凍結乾燥機のプレート上のバイアルの配置の概略図を示す。
【
図12】凍結乾燥製剤において「ネックラッピング」を有する試料の写真を示す。ラベルはモザイクで覆っている。
【発明を実施するための形態】
【0154】
本発明を、具体例を挙げて以下に説明する。これらの実施例は、本発明を説明するために使用するにすぎず、その範囲を決して限定するものではないことを、当業者なら理解するであろう。
【0155】
「患者」と「個体」は互換的に使用され、がんの治療を必要とする哺乳類を指す。一般的に、患者はヒトである。一般的に、患者は、がんと診断されたヒトである。特定の実施形態では、「患者」または「個体」とは、薬物および治療法のスクリーニング、特徴付けおよび評価において使用される非ヒト哺乳類、例えば、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、マウスまたはラットを指してもよい。
【0156】
「プロドラッグ」とは、投与または適用の後に、代謝または他の手段によって、少なくとも1つの特性に関して生物学的に活性またはより活性な化合物(または薬物)に変換される化合物を指す。プロドラッグは、薬物と比較して活性が低くまたは不活性となる手段で化学的に修飾されるが、その化学修飾は、そのプロドラッグが投与された後、代謝プロセスまたは他の生物学的プロセスによって、それに対応する薬物がそのプロドラッグから生成されるような修飾である。プロドラッグは、活性薬物と比較して、代謝安定性または輸送特性が変えられており、副作用が少なく、もしくは毒性が低く、または風味が改善されてもよい。プロドラッグは、それに対応する薬物以外の反応物を使用して合成されてもよい。
【0157】
「治療」または「患者の治療」とは、本発明に関連する薬物の治療有効量を患者に投与、使用または適用することを意味する。
【0158】
患者に薬物を「投与する」、「適用する」または「使用する」とは、直接の投与または適用を指し、薬物は、医療専門家によって患者に投与もしくは適用されてもよく、もしくは、自己投与もしくは適用されてもよく、かつ/または、薬物を処方する行為であってもよい間接的な投与もしくは適用を指す。例えば、患者に薬物の自己投与もしくは適用を指示するか、または患者に薬物の処方箋を提供する医師は、患者に薬物を投与または適用しているということである。
【0159】
薬物の「治療有効量」とは、がん患者に投与または適用された場合に、例えば、患者のがんの1つまたは複数の症候の軽減、寛解、緩和または消失といった意図された治療効果があるとされる薬物の量を指す。治療効果は、必ずしも1回分の用量を投与することによって生じるわけではなく、一連の用量を投与した後にのみ生じ得る。したがって、治療有効量の薬物は、1回または複数回以上投与または適用されてもよい。
【0160】
病状または患者の「治療」とは、有益または所望の(臨床結果を含む)結果を得るための措置を講じることを指す。本発明の目的のために、有益または所望の臨床結果としては、がんの1つまたは複数の症状の軽減または改善、病気の重症度の低減、病気の進行の遅延もしくは緩徐化、病態の改善、軽減もしくは安定化、またはその他の有益な結果が挙げられるが、これらに限定されない。がんの治療は、場合によっては部分応答または安定状態をもたらすことがある。
【0161】
「腫瘍細胞」とは、任意の適当な種、例えば、ネズミ科、イヌ科、ネコ科の動物、ウマまたはヒトなどの哺乳類の腫瘍細胞を指す。
【0162】
本発明の実施形態に関する以上の説明は、本発明を限定するものではない。当業者は、本発明に従って種々の改変および変更を行うことができ、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でのいかなる改変および変更も、本発明に添付する特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0163】
一般情報の説明
特に明記しなければ、以下の実験のそれぞれについて、測定または検査の方法、機器、およびその他の情報は、以下に挙げる通りである。
【0164】
メトラーV10Sカールフィッシャー水分計を使用して、カールフィッシャーKF法により含水量を測定した。
【0165】
ガスクロマトグラフィ(gas chromatography:GC)を使用して、残留溶媒tert-ブタノールの含有量を測定した。使用する機器は、7696A自動ヘッドスペースサンプラーおよびフレームイオン化検出器(Flame Ionization Detector:FID)を備えたアジレント(Agilent)8860ガスクロマトグラフとした。クロマトグラフ用カラムは、DB-624を充填したキャピラリーカラムとした。GC試験パラメータは次の通りである。キャリアガスN2、入口温度150℃、検出器温度200℃、分割比率20:1、温度上昇プログラム:開始温度60℃、温度を5分間保持、30℃/分の速度で温度を240℃まで上昇、次いで60℃で5分間実行、85℃で20分間ヘッドスペースのバランシング。
【0166】
高速液体クロマトグラフィ(high-performance liquid chromatography:HPLC)を使用して、TH-302の含有量および濃度を測定した。使用する機器は、サーモ・ヴァンキッシュ(Thermo Vanquish)高速液体クロマトグラフィとした。クロマトグラフ用カラムは、YMCパックAQ C18 4.6mm×250mm、5μmとした。検出方法については、スレッショルド・ファーマシューティカルズ社が保有する特許、国際公開第2008083101号に記載のHPLC法を参考にしていただきたい(詳細については、実施例2のTH302のエタノール製剤を参照されたい)。
【0167】
特に明記しなければ、表に含まれる記号「/」は検出されなかったことを意味する。
【0168】
1.TH-302の溶解度実験
飽和溶液法による実験で溶解度を測定する。すなわち、固体TH-302を、不溶性物質または濁りが出るまで、溶媒に直接投入した。一定時間かけて清澄化した後、溶液を直接濾過した。TH-302の濃度を決定するために、清澄化した濾液を直接採取した。得られた濃度はまさに、この溶媒系におけるTH-302の溶解度である。具体的な溶解度データについては、表1、表2、表3を参照していただきたい。
【0169】
TH-302の濃度(mg/ml)の測定方法については、スレッショルド・ファーマシューティカルズ社が保有する特許、国際公開第2008083101号に記載のHPLC法を参考にしていただきたい((詳細については、実施例2のTH302のエタノール製剤を参照されたい)。定量には、外部標準法を用いた。
【0170】
濃度が高すぎる場合は、HPLCで正確に定量的に濃度を測定することができる程度まで、該当する透明溶液を最初に希釈しておくべきである。
【0171】
表3に示したデータにおけるtert-ブタノールの質量比率をX軸とし、tert-ブタノール-水混合溶媒におけるTH-302の溶解度をY軸とすると、
図1に示す関係曲線が得られた。この活性医薬薬物は、水溶液における溶解度が低い。tert-ブタノール水溶液におけるtert-ブタノールの濃度が増加するにつれて、この活性医薬成分の溶解度は増加し続けた。70%tert-ブタノール水溶液(V/V)で、この活性医薬薬物の溶解度は最高に達し、そして、tert-ブタノール水溶液におけるtert-ブタノールの濃度が増加するにつれて溶解度は低下した。
【0172】
2.凍結乾燥製剤で使用する適切な種類の賦形剤(凍結乾燥保護剤)を選択するための実験
TH-302薬物を凍結乾燥するための賦形剤として通常使用される糖類、ポリオール、非イオン性ポリマー界面活性剤などの使用に関する実用可能性を探るために、凍結乾燥実験のために以下の賦形剤を選択して、それらの安定性を調べた。
【0173】
糖類として、スクロース、ラクトース、マルトース、フルクトース、およびトレハロースを選択した。
【0174】
ポリオールとして、マンニトール、グリセロール、およびソルビトールを選択した。
【0175】
非イオン性ポリマー界面活性剤として、PVPK12(分子量5500のポリビニルピロリドン)、PEG2000(ポリエチレングリコール2000)、P188(ポロキサマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルのブロック共重合体、製品番号:188)を選択した。
【0176】
その他:SBECD(sulfobutyl ether-β-cyclodextrin:スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン)、およびDSPE-MPEG2000(ホスファチジルエタノールアミンペゴル)。
【0177】
下記表4に従って、凍結乾燥用の薬物溶液を製剤化した。
【0178】
【表4】
API:TH-302、TBA:tert-ブタノール、water:水
※PEG2000およびP188の防護剤を用いた実験群で使用した溶媒は、40%TBA/水である。
【0179】
TH-302活性医薬成分および凍結乾燥保護剤を、上述の製剤処方に従って秤量し、規定量のtert-ブタノール溶液を添加、完全に溶解するまで均一に混合し、次いでサブパッケージ化し(5mlバイアルに、各バイアルに1mlの薬物溶液を投入、各製剤処方について8バイアル)、小型の高速凍結乾燥機で急速に凍結乾燥した。サブパッケージ化製剤を-80℃の超低温冷蔵庫で約2.5時間予備凍結乾燥し、次いで、凍結乾燥機に約10~90時間入れて(-30℃、絶対気圧0.1mbar)、凍結乾燥製剤を得た。
【0180】
実験結果
凍結乾燥粉末状態:溶媒として水を用いたものを除く全ての溶媒群で、白色の凍結乾燥粉末ケーキが首尾よく得られた。しかし、凍結乾燥機を0℃まで加熱した場合、グリセロール群において油性物質が生じた。
【0181】
再構成状態:ソルビトール群を除く全ての群について、再構成が成功した(一部の群では、振とう後に溶解した)。
【0182】
残存するスクロース、マンニトール、ラクトース、マルトース、フルクトース、PVPK12、トレハロース、DSPE-MPEG2000、SBECD、PEG2000およびP188の群について、高温加速安定性実験を行った。
【0183】
凍結乾燥製剤を凍結乾燥機から取り出した後、バイアルの1つを0℃で抜き出し、HPLCによる純度、含水量、および活性医薬成分の残留溶媒の含有量を試験した。次いで、そのバイアルを40℃の恒温器に入れた。HPLCによる純度は、3日目および5日目にそれぞれ試験した。その結果を下記表5に示した。
【0184】
【表5】
ND:未検出
日数をX軸、HPLCによる純度をY軸として、表5のデータを使用して
図2の曲線を得た。
【0185】
実験の結論
一般的に言えば、注射用の凍結乾燥保護剤の選択には、以下の要因、すなわち良好な安定性、従来法による使用が可能であること、ならびに、薬効、薬物代謝と薬物動態(Drug Metabolism and Pharmacokinetics:DMPK)および毒性に影響しないことを考慮に入れるべきである。
図2の曲線を分析することによって、PEG2000は従来と異なる方法で使用されており、P188/SBECD/DSPE-MPEG2000は、有効性、DMPK、および毒性効果に影響する可能性のあることがわかる。一般的に言えば、マンニトールは理想的な賦形剤であり、スクロースも進展の可能性がある(その量と凍結乾燥の条件を最適化することにより、安定性を向上させ、かつtert-ブタノール残留物を低減させる可能性がある)。
【0186】
マンニトールおよびスクロースの安定性をさらに評価するために、マンニトールおよびスクロースの試料を10日間貯蔵した後、HPLCによる純度を試験し、その結果を、
図3に示すように曲線にプロットした。
【0187】
図3の曲線を分析することにより、表4に示す予備配合条件下では、マンニトールを用いた製剤の安定性が、スクロースを用いた製剤よりも良好であることがわかる。
【0188】
3.様々な凍結乾燥保護剤(100mg/mlスクロースまたは80mg/mlマンニトール)が凍結乾燥粉末および再構成溶液の安定性に及ぼす影響を調べるための実験
本発明者らは、その経験と、同様の凍結乾燥製剤薬物の使用法に基づき、100mg/mlスクロースおよび80mg/mlマンニトールを賦形剤として使用することを最初に決定して、調製したTH-302の凍結乾燥製剤の安定性および再構成した溶液の安定性を調べた。
【0189】
3.1 凍結乾燥製剤の室温での貯蔵安定性、および高温での加速貯蔵安定性に関する実験
下記表6に従って、凍結乾燥用の薬物溶液を製剤化した。各群について、1バイアル当たり1mlで40バイアルを調製し、各製剤処方について合計40mlの薬物溶液を調製した。
【0190】
【0191】
薬物溶液の調製プロセス:
1.最初に、規定量の凍結乾燥保護剤を規定量の水に溶解し、完全に溶解させた。
【0192】
2.規定量のtert-ブタノールを凍結乾燥保護剤水溶液に添加し、均一に混合した。次いで、規定量のAPIを添加し、APIが完全に溶解するまで撹拌した。
【0193】
3.スクロースを用いて製剤化した薬物溶液のpHを測定したところ4.24であり、NaHCO3注射剤10μLでpHを6.43に調整した。さらに注射剤10μLを添加して、pHを7.13に調整した。
【0194】
マンニトールを用いて製剤化した薬物溶液のpHを測定したところ4.62であり、NaHCO3注射剤12μLでpHを7.31に調整した。
【0195】
得られた溶液をポリフッ化ビニリデンフィルタ(polyvinylidene fluoride:PVDF)で濾過し、1バイアル当たり1mlでサブパッケージ化した。
【0196】
前述の「高速凍結乾燥」と同様の操作を用い、関連するパラメータを調整して凍結乾燥製剤を得た。
【0197】
凍結乾燥後、真空下でバイアルに栓をし、圧着キャップを付けた。凍結乾燥製剤を得た。凍結乾燥製剤中の残留溶媒および残留水を測定した。
【0198】
凍結乾燥製剤試料を25℃または40℃の恒温器に入れ、該当する日にHPLCにより純度を測定した。その結果を下記表7に示した。
【0199】
【表7】
NA:未分析
100mg/mlスクロースおよび80mg/mlマンニトールでの安定性曲線を、表7のHPLCによる純度をY軸に、時間をX軸として用いてプロットし、
図4に示した。
【0200】
表7および
図4に示したデータを分析および比較することにより、マンニトールを賦形剤として用いた薬物溶液を使用して調製した凍結乾燥製剤試料の25℃または40℃での安定性は、スクロースを用いて製剤化したものよりも良好であると結論付けることができる。
【0201】
3.2 凍結乾燥製剤の再構成安定性および組合せの実験
凍結乾燥粉末の1バイアルを抜き出し、デキストロース5質量%水溶液(dextrose 5% by mass in water:D5W)で溶解して、1mL当たり約5mgのAPIを含有する溶液を得た。次いで、得られた溶液を室温で放置した。溶液の色および透明度を、0、6および24時間でそれぞれ決定した。その結果、全ての場合で、無色透明の透き通った溶液が観察されたことが示された。
【0202】
その溶液を30%アセトニトリル水溶液で、0時間、6時間、24時間でそれぞれ希釈して、1mL当たり約1mgのAPIを含有する溶液にし、HPLCによって純度を測定した。その結果を下記表8に示した。
【0203】
【0204】
凍結乾燥粉末の1バイアルを抜き出し、D5Wで溶解して、1mL当たり約5mgのAPIを含有する溶液を得た。得られた溶液のpH値および浸透圧を測定した。その結果を下記表9に示した。測定中に、5%デキストロース注射剤のpH値および浸透圧も測定した。
【0205】
【0206】
比較の結果、再構成した凍結乾燥製剤の安定性および組合せに関しては、100mg/mlスクロースを用いた製剤の結果と80mg/mlマンニトールを用いた製剤の結果との間に、大きな違いはないことが見出された。それらのいずれもが、要件を満たすことができる。
【0207】
室温および高温加速下での凍結乾燥製剤の貯蔵安定性実験と、再構成した凍結乾燥製剤の安定性および組合せの実験とを総合的に検討すると、既存の急速凍結乾燥プロセス条件下では、マンニトールを賦形剤として含有する薬物溶液を使用して調製した凍結乾燥製剤試料は、スクロースを用いて製剤化したものよりも25℃および40℃での安定性が良好であったが、5%デキストロース注射剤で再構成したものの安定性および組合せは、わずかに異なるだけであったことがわかる。
【0208】
4.中間薬物溶液のpHおよびAPI濃度が試料再構成に及ぼす影響を調べるための実験
下記表10に従って、凍結乾燥用の薬物溶液を製剤化した。
【0209】
【0210】
tert-ブタノールの密度はρ=0.785g/mlである。したがって、薬物溶液200mlにおけるtert-ブタノールの40%体積比率は、tert-ブタノール体積80ml、tert-ブタノール質量62.80gに相当する。
【0211】
薬物溶液の調製プロセス:
1.最初に、規定量の凍結乾燥保護剤を、規定量の約80%の量の水に撹拌しながら溶解し、完全に溶解させた。
【0212】
2.tert-ブタノールおよび残りの水に規定量のAPIを添加し、撹拌しながら溶解した。
【0213】
3.上記2つの工程から得られた溶液を均一に混合した。
【0214】
4.その混合溶液を濾過した。01および02のバッチ用溶液のpH値は調整しなかったが、03および04のバッチ用溶液のpH値は7.0に調整した。
【0215】
5.充填:バッチ01については14mLを充填、バッチ02については10.5mLを充填、バッチ03については14mLを充填、バッチ04については10.5mLを充填。充填バイアルのゲージは50mLである。
【0216】
バッチ01、02、03および04のそれぞれからバイアル1つを医療グレードの冷蔵庫(2~8℃)に入れ、結晶化現象を観察したところ、下記
図5に示すように、それらは全て異なる結晶化度を示すことが見出された。バッチ01の結晶化上清と結晶の再構成溶液(5%デキストロース溶液で再構成)とを採取し、それらのAPI含有量を測定した。その結果を下記表11に示した。
【0217】
【0218】
上述の充填製剤を、真空凍結乾燥機で凍結乾燥した。凍結乾燥条件は、複数回で最適化したものを使用し、下記表12に示した。凍結乾燥後、バイアルに真空下で栓をし、次いで圧着キャップを付けた。
図6に示す凍結乾燥製剤を得た。
【0219】
【0220】
上記の凍結乾燥製剤を、5%デキストロース溶液40mlおよび50mlでそれぞれ再構成した。その結果を下記表13に示した。
【0221】
【0222】
5%デキストロース溶液40mLで再構成した製剤の写真を
図7に示したが、バッチ3(API濃度は15mg/ml、pHを7.13に調整)については、バイアルの壁に付着物はなく、バイアルの底にいくつかの不溶性粒子があった。一定時間放置したところ、溶液は透明になった。これにより、過度に高いAPIの濃度は、凍結乾燥製剤の後の再構成にとって有害である可能性のあることが示された。
【0223】
5%デキストロース溶液50mlで再構成した製剤の写真を
図8に示したが、バッチ3(APIの濃度は15mg/ml、pHを7.03に調整)については、バイアルの壁の付着物およびバイアルの底の不溶性粒子はなく、溶液は透明であった。これにより、再構成用溶液の体積を増やすと、再構成した凍結乾燥製剤を改善し得ることが示された。
【0224】
実験の結論
本発明者らは、実験結果を比較することにより、tert-ブタノール-水混合溶媒系におけるAPI(TH-302)の溶解度は160mg/ml以上になり得るものの、APIの濃度は、以下の理由により、適切な範囲内とすべきであることを見出した。
【0225】
第一に、APIの濃度が過度に高いと、凍結乾燥プロセスの冷却処置の間に薬物溶液の結晶化および層化が生じ、それによって凍結乾燥プロセスが影響を受ける可能性がある。
【0226】
第二に、薬物の濃度が過度に高いと、再構成に影響し、再構成の失敗につながる可能性がある。
【0227】
したがって、API濃度には適切な範囲がある。広範な実験の結果、本発明者らは、5~160mg/mlの範囲が好適であり、またはさらに、API濃度が8~50mg/mlであると、薬物溶液が安定し、かつ、続いて凍結乾燥された製剤の品質が良好になる得ることを見出した。
【0228】
5.API濃度、凍結乾燥保護剤濃度、およびtert-ブタノール濃度が、凍結乾燥粉末の残留溶媒に及ぼす影響を調べるための実験
API濃度、凍結乾燥保護剤濃度、およびtert-ブタノール濃度が、凍結乾燥粉末の残留溶媒に及ぼす影響を調べ、ブランクの凍結乾燥粉末を製剤化し、対照として使用した。
【0229】
下記表14に従って、凍結乾燥用の薬物溶液を調製した。各バッチについて10バイアル、1バイアル当たり1ml、合計10mL。
【0230】
【0231】
薬物溶液の調製プロセス:
1.最初に、規定量の凍結乾燥保護剤を規定量の水に溶解し、完全に溶解させた。
【0232】
2.バッチ01、02、03および04については、規定量のtert-ブタノールを凍結乾燥保護剤水溶液に添加し、均一に混合した。次いで、規定量のAPIを添加し、APIが完全に溶解するまで撹拌した。
【0233】
バッチ05については、tert-ブタノールを添加しなかった。規定量のAPIを添加し、APIが完全に溶解するまで撹拌した。
【0234】
バッチ06および07については、規定量のtert-ブタノールを凍結乾燥保護剤水溶液に添加し、均一に混合した。これらにはAPIを添加せず、ブランク対照として使用した。
【0235】
3.本実験では、pHを調整せず、溶液を1バイアル当たり1mlにサブパッケージ化した。
【0236】
上述のサブパッケージ化製剤を、-70℃の冷蔵庫で3時間予備凍結乾燥し、次いで凍結乾燥機で62時間乾燥した。凍結乾燥後、バイアルに真空下で栓をし、次いで圧着キャップを付けた。
図9に示す凍結乾燥製剤を得た。
【0237】
その製剤に、再構成用のD5Wを注入した。バッチ01~07の全てについて、再構成は容易で、溶液は透明であった。
【0238】
凍結乾燥製剤試料を40℃の恒温器に入れ、該当する日にHPLCにより純度を測定した。その結果を下記表15に示した。
【0239】
【0240】
0日目の試料のtert-ブタノール(2バイアル)および水分(1バイアル)の含有量も測定した。その結果を下記表16および表17に示した。
【0241】
【表16】
注:バッチ05については、TBAを添加しなかった。「01中間部」および「01下部」は、同じバッチからであり、凍結乾燥機内で異なるプレート(中間層と下層)に配置された薬物溶液を凍結乾燥することにより得られた凍結乾燥製剤試料を表す。
【0242】
【0243】
実験の結論
小型凍結乾燥機により調製した試料において、各バイアルの試料中のTBA残留物は異なるレベルであり、スクロースを用いて製剤化したものの残留TBA含有量は、マンニトールを用いて調製したものよりも高かった。
【0244】
40℃の条件下では、スクロースを用いて製剤化したものでは関連物質の量が大幅に増加したが、マンニトールを用いて製剤化したものでは関連物質の量がわずかに増加したにすぎなかった。
【0245】
API濃度は、凍結乾燥製剤における残留溶媒含有量とはあまり関係がない。同様に、凍結乾燥保護剤濃度は、凍結乾燥製剤における残留溶媒含有量とはあまり関係がない。
【0246】
API濃度、凍結乾燥保護剤濃度、およびtert-ブタノール濃度は全て、凍結乾燥製剤における残留溶媒含有量に影響する。比較すると、マンニトールを凍結乾燥賦形剤(凍結乾燥保護剤)として使用して得られた凍結乾燥製剤は残留レベルが低く、高温で加速された安定性実験では、マンニトールを用いて製剤化した製剤は、スクロースを用いて製剤化したものよりも安定性が良好である。
【0247】
6.様々なAPI濃度およびマンニトール濃度、様々な割合のtert-ブタノール、ならびに様々な充填体積が試料再構成に及ぼす影響を調べるための実験
6.1 様々なpH値、および製剤(40%tert-ブタノール+60mg/mlマンニトール+10mg/mlAPI)の充填量が試料再構成に及ぼす影響の調査
600ml薬物溶液を表18に従って調製した。
【0248】
【0249】
tert-ブタノールの密度はρ=0.785g/mlである。したがって、240mlの体積は188.4gに相当する。
【0250】
薬物溶液の調製プロセス:
1.規定量のtert-ブタノールを凍結乾燥保護剤水溶液に撹拌しながら添加し、均一に混合した。次いで、規定量のAPIを添加し、撹拌しながら溶解した。
【0251】
2.滅菌フィルタカップを使用して濾過した。バッチ01:300ml、pH調整なし。バッチ02:pH4.58を7.07に調整した。同時に、各バッチについて溶液6mlを採取し、冷蔵庫(2~8℃)で貯蔵して、結晶化現象を観察した。
【0252】
3.充填:
1バイアル当たり200mg:バッチ01については、21mLを充填して6バイアルを得、バッチ02については、21mLを充填して6バイアルを得た。
【0253】
1バイアル当たり150mg:バッチ01については、16mLを充填して6バイアルを得、バッチ02については、16mLを充填して6バイアルを得た。
【0254】
1バイアル当たり100mg:バッチ01については、10.5mLを充填して6バイアルを得、バッチ02については、10.5mLを充填して6バイアルを得た。
【0255】
6.2 様々なpH値、および製剤(30%tert-ブタノール+70mg/mlマンニトール+12.5mg/mlAPI)の充填量が試料再構成に及ぼす影響の調査
薬物溶液600mlを表19に従って調製した。
【0256】
【0257】
tert-ブタノールの密度はρ=0.785g/mlであるので、tert-ブタノール180mlに相当する質量は141.3gである。
【0258】
薬物溶液の調製プロセス:
1.最初に、規定量の凍結乾燥保護剤を、規定量程度の水に、完全に溶解するまで500rpmで撹拌しながら溶解させた。
【0259】
2.規定量のtert-ブタノールを凍結乾燥保護剤水溶液に添加し、均一に混合した。次いで、規定量のAPIを添加し、撹拌しながら溶解した。
【0260】
3.滅菌フィルタカップを使用して濾過した。バッチ03:300ml、pH調整なし。バッチ04:pH4.61を7.01に調整した。同時に、各バッチについて溶液6mlを採取し、冷蔵庫(2~8℃)で貯蔵して、結晶化現象を観察した。
【0261】
4.充填:
1バイアル当たり200mg:バッチ03については、17mLを充填して8バイアルを得、バッチ04については、17mLを充填して8バイアルを得た。
【0262】
1バイアル当たり150mg:バッチ03については、13mLを充填して7バイアルを得、バッチ04については、13mLを充填して7バイアルを得た。
【0263】
1バイアル当たり100mg:バッチ03については、8.5mLを充填して8バイアルを得、バッチ04については、8.5mLを充填して8バイアルを得た。
【0264】
6.3 予備凍結乾燥および凍結乾燥
上述のサブパッケージ化製剤を、真空凍結乾燥機内で凍結乾燥した。凍結乾燥は、表12に挙げたパラメータを使用して行った。凍結乾燥後、バイアルに真空下で栓をし、次いで圧着キャップ付けた。凍結乾燥製剤を得た。
【0265】
6.4 実験結果
(1)中間薬物溶液における結晶化現象
バッチ01および02から溶液6mlを採取し、冷蔵庫(2~8℃)に一定時間(2時間)貯蔵した。その結果、溶液は透明であり、結晶化は観察されなかった。
【0266】
バッチ03および04から溶液6mlを採取し、冷蔵庫(2~8℃)に一定時間(2時間)貯蔵した。その結果、結晶化が観察された。
【0267】
(2)試料再構成
凍結乾燥製剤は全て白色のケーキ状固形物であった。
【0268】
試料の再構成に使用した溶媒、および再構成後の現象を、下記表20に示した。
【0269】
【0270】
常圧とは、バイアルのアルミニウムキャップとゴム栓を開けた後、バイアルが外部環境と連通しているときに、再構成のために、凍結乾燥製剤を含有するバイアルに精製水を注入した状況のことを意味する。常圧と記載されていない場合は、再構成のために、凍結乾燥製剤を含有するバイアルにシリンジを介して精製水を直接注入した状況のこと(この場合、バイアル内部の気圧は外部大気圧よりも低い)を意味する。
【0271】
バッチ04からの試料(8.5mL、13mL、および17mL)を40℃で10日間貯蔵した後に採取し、次いで再構成した。その結果を下記表21に示した。
【0272】
【0273】
実験の簡単な概要:バッチ04からの試料(8.5ml、13ml、および17ml)を40℃で10日間貯蔵しても、再構成に影響しない。試料についての再構成後の現象は、0日目の試料と大きな違いはない。
【0274】
実験の結論:
一般的に言えば、体積が固定された容器の場合、特定の範囲内でより少ない体積で充填した方が、その充填した薬物溶液から得られる凍結乾燥製剤を再構成することが容易になる。
【0275】
薬物溶液のpH値を調整すべきかどうかに関しては、相対的に、pH値を約7に調整することによって得られた凍結乾燥製剤は、再構成性能がより良好である。
【0276】
具体的な比較により、より低いAPI濃度およびより低いマンニトール含有量で得られた凍結乾燥製剤の方が、再構成が容易であったことがわかる。これにより、凍結乾燥製剤の薬物負荷を増やすためにAPI濃度およびマンニトールの投与量を増やすだけでは、再構成が困難になることが示唆された。再構成が容易で薬物負荷がより高い凍結乾燥薬物溶液を得るには、適切なAPI濃度およびマンニトール含有量を選択しなければならない。
【0277】
7.pHが試料安定性に及ぼす影響を調べるための実験
pHが試料安定性に及ぼす影響を調べた。
【0278】
下記表22に示す計画に従って、薬物溶液を調製した。総体積6500mlを調製した。各バイアルに25mLを充填し、合計で260バイアルを充填した。
【0279】
【0280】
tert-ブタノールの密度はρ=0.785g/mlであるので、1950mlのtert-ブタノールの質量は1530.75gである。APIの純度は99.26%である。
【0281】
凍結乾燥製剤の調製
1.溶液の調製
(1)70%tert-ブタノール水溶液の調製:tert-ブタノール350.81gおよび水150.42gを秤量することにより溶液を得た。
【0282】
(2)予備溶解:規定量のAPIを秤量し、撹拌条件下で70%tert-ブタノール水溶液にAPIを添加し、撹拌しながら溶解した。得られた溶液を、溶液Aとして記録した。
【0283】
(3)撹拌条件下で、最初に、規定量のマンニトールを残りの水の70%に溶解させた。得られた溶液を透明になるまで撹拌し、溶液Bとして記録した。
【0284】
(4)溶液Aと溶液Bとを混合し、均一に撹拌した。次いで、その混合溶液に、残りの水および残りのtert-ブタノールを、すすぎに使用した後に添加した。得られた中間薬物溶液のpHは5.63であった。
【0285】
(5)その薬物溶液を3等分した。
【0286】
薬物溶液-01:pHは調整せず、室温で24時間貯蔵した後にpHを測定したところ、4.77であった。
【0287】
薬物溶液-02:重炭酸ナトリウム200μlを添加し、pHを測定したところ、6.60(pHは6.0~6.5の間)であった。室温で24時間貯蔵した後にpHを測定したところ、5.20であった。
【0288】
薬物溶液-03:重炭酸ナトリウム1000μlを添加し、pHを測定したところ、7.20(pHは7.0)であった。室温で24時間貯蔵した後にpHを測定したところ、6.90であった。0時間での中間薬物溶液と、室温で24時間貯蔵した後の薬物溶液とをそれぞれ採取し、それらの含有量および関連物質について測定した。
【0289】
2.濾過
上記の溶液を、250mlの滅菌フィルタカップを使用して濾過した。
【0290】
3.充填
薬物溶液-01バッチについては、24.5gを充填して78バイアルを得、バッチ01として記録した。
【0291】
薬物溶液-02バッチについては、24.5gを充填して78バイアルを得、バッチ02として記録した。
【0292】
薬物溶液-03バッチについては、24.5gを充填して78バイアルを得、バッチ03として記録した。
【0293】
4.半栓
パッケージの後、バイアルに半分栓をし、フリーズドライのために凍結乾燥機に入れた。
【0294】
5.予備凍結乾燥および凍結乾燥
上述のサブパッケージ化製剤を、真空凍結乾燥機内で凍結乾燥した。この凍結乾燥機モデルにおけるバイアルの配置配列を
図10に示した。凍結乾燥は、表12に挙げた凍結乾燥パラメータを用いて行った。凍結乾燥後、真空下でバイアルに栓をし、圧着キャップを付けた。凍結乾燥製剤を得た。取り出し前のプレート温度:5.0℃、高真空下でバイアルに手動で栓をした。
【0295】
実験結果
薬物溶液の試験結果を表23に示した。
【0296】
【0297】
凍結乾燥製剤試料の状態:白色のケーキ状固体。具体的な試料を
図11に示した。凍結乾燥機の中間部にあるバックボックスからの試料ボトルのボトルネックには、
図12に示すように、粉末がその周囲に付いていた。パッケージ中の誤った操作によって生じた可能性がある。
【0298】
(3)再構成試料の測定
様々なバッチおよび場所から凍結乾燥製剤をそれぞれ採取し、再構成した。その結果を下記表24に示した。
【0299】
【表24】
注:バッチ02(ブランク粉末)の再構成溶液は水のように透明であった。バッチ01、バッチ02およびバッチ03の再構成溶液は、水よりもわずかに濁っていた。
【0300】
通常使用される静脈注入溶媒-生理食塩液による再構成効果をさらに調べるために、精製水で約5mg/mlのAPI濃度に再構成した後、製剤を生理食塩液で0.5mg/mlにさらに希釈した(5mlを抜き出して、50mlの塩化ナトリウム注射剤に添加、0.5mg/ml)。透明な溶液を得、次いで、pH値および浸透圧データを測定した。その結果を下記表25に示した。
【0301】
【0302】
生理食塩液で再構成した後、様々な時間に試料を採取して、溶液におけるAPIの純度をHPLCにより測定した。その結果を下記表26に示した。
【0303】
【0304】
(4)試料の溶媒残留物および安定性試験
凍結乾燥製剤試料を40℃、25℃および2~8℃の恒温器に入れ、該当する日にHPLCにより純度を測定した。その結果を下記表27に示した。
【0305】
【0306】
残留溶媒の試験
バッチ01、バッチ02およびバッチ03の0日目の試料のtert-ブタノール含有量(2バイアル)および含水量(2バイアル)を、それぞれ測定した。なお、フリーズドライ機プレートの中間部から試料を採取した。その結果を下記表28に示す。
【0307】
【0308】
8.凍結乾燥後に様々なtert-ブタノール濃度、様々な賦形剤(スクロースまたはマンニトール)、様々な賦形剤量、様々な薬物含有量および様々なpH値を有する溶液を用いて凍結乾燥した製剤の調製例
凍結乾燥製剤の品質指標としては、再構成、安定性および残留溶媒の3つの主要な調査指標が挙げられ、かつ、上記の実験から、影響因子としては、溶媒(tert-ブタノール-水混合溶媒におけるtert-ブタノールの体積比率)、API濃度、賦形剤の種類(マンニトールまたはスクロース)および量、ならびに薬物溶液のpH値が挙げられることがわかり、これらを考慮して、本発明者らはいくつかの多因子実験を実施した。その結果を下記表28に示した。
【0309】
【表29】
【表29】
【表29】
注:
TBAはtert-ブタノールである。
【0310】
Mannitolはマンニトールである。
【0311】
Sucroseはスクロースである。
【0312】
APIは、活性医薬成分TH-302である。
【0313】
PBSは、リン酸緩衝生理食塩液(Phosphate Buffered Physiological Saline)の略であり、pH値が約7.4で安定している。
【0314】
製剤処方における「30%TBA/70Mannitol/10API-pH7.0」とは、tert-ブタノールの体積比率が30%、マンニトールが70mg/ml、APIが10mg/ml、NaHCO3を添加することにより調整したpHが7.0であることを意味する。調製方法は、上記の実施例で述べたものと同じにした。「40%TBA/60Mannitol/10API」とは、tert-ブタノールの体積比率が40%、マンニトールが60mg/ml、APIが10mg/mlで、pHを調整していない(弱酸性)ことを意味し、他についても同様である。
【0315】
供給可能体積が1mLのバッチの場合に5mLバイアルを使用したことを除いて、50mLバイアルを使用した。
【0316】
実験の結論
1.上述の実験と組み合わせたtert-ブタノール-水混合溶媒系におけるTH-302の溶解度データ、および上記の表28に示す85群の探索的実験結果から、化合物は、その含有量が5~500mg/mlの範囲である場合、溶液中に安定して存在し得ることを推定または確認することができ、例えば、-80℃で予備凍結乾燥する、絶対気圧をかなり低く、乾燥時間をより長く、また乾燥温度をより低くして凍結乾燥するなど、凍結乾燥パラメータを調整する必要がある得るものの、含有量が8mg/ml超200mg/ml以下である場合に凍結乾燥が可能であることが、実験により実証された。好ましくは、溶液における式Iの化合物の含有量が8mg/ml以上25mg/ml以下の場合、凍結乾燥製剤は、安定性がより良好であり、より再構成しやすい。溶液における式Iの化合物の含有量は、8mg/ml以上15mg/ml以下である。このような含有量範囲は、凍結乾燥条件が比較的穏やかであり、かつ凍結乾燥サイクルがより短いことを意味する。溶液における式Iの化合物の含有量が8mg/ml以上10mg/ml以下であることはさらに、本凍結乾燥製剤が、商業的に適切な凍結乾燥サイクルおよび低温条件下で、商業大規模生産の価値を有することを意味する。API含有量が不適切であると、商業大量生産時に使用される大規模な凍結乾燥機内において、加熱温度が不均一であるためバイアルが破損するか、または粉末が噴霧状態になり、そのため、収率が、商業生産の許容レベルの90%未満になる可能性がある。
【0317】
2.上記の実験と組み合わせたtert-ブタノール-水混合溶媒系におけるTH-302の溶解度データ、および上記の表28に示す85群の探索的実験の結果から、溶液に対するtert-ブタノールの体積百分率が1~99%の場合、または、溶液におけるtert-ブタノールの含有量が、(tert-ブタノールの密度が0.785g/mlであるという条件下で)7.85~777.15mg/mlの場合、調製したTH-302溶液が安定で透明であることを推定または確認することができ、例えば、予備凍結乾燥を-80℃で行う、凍結乾燥中の絶対気圧を低くし、乾燥時間を長くし、また乾燥温度を低くするなど、凍結乾燥パラメータを調整する必要があり得るものの、実験により、体積比率が5~95%であるか、または、溶液におけるtert-ブタノールの含有量が、(tert-ブタノールの密度が0.785g/mlであるという条件下で)39.25~745.75mg/mlである場合、凍結乾燥が可能であることが実証された。好ましくは、tert-ブタノールの体積比率が30~60%であるか、または、溶液におけるtert-ブタノール含有量が、(tert-ブタノールの密度が0.785g/mlであるという条件下で)235.5~471mg/mlである場合、凍結乾燥製剤は、安定性がより良好であり、より再構成しやすい。
【0318】
実際、tert-ブタノール-水混合溶媒系では、tert-ブタノール含有量が過度に高いと、後続のマンニトール/スクロースの溶解に影響し、マンニトール/スクロースが賦形剤として機能した上で、それらの量が、後続の凍結乾燥製剤の品質に直接影響する。マンニトール/スクロースの量が少なすぎると、薬物溶液が、凍結乾燥後に賦形剤骨格に均一に装填されることができなくなるか、またはさらに、凍結乾燥プロセスの乾燥段階の間に、凍結乾燥粉末ケーキが崩壊するか、もしくは凍結乾燥に失敗することになる。したがって、TH-302の溶解度を高めるという目的のためだけに、tert-ブタノールの含有量を不適当に増やすことはできない。
【0319】
3.上記実験と組み合わせたtert-ブタノール-水混合溶媒系におけるTH-302の溶解度データ、および上記表28に示した85群の探索的実験の結果によれば、賦形剤としてマンニトール、PEG2000、P188、SBECD、DSPE-MPEG2000、スクロースまたは他の同様の物質を使用した場合に、本凍結乾燥製剤が得られることがわかる。しかし、比較の結果、本凍結乾燥製剤自体の要因に加えて、例えば、慣行的に使用し市販することができるかどうか、かつ有効性、DMPKおよび毒性に影響しないかどうかを総合的に考慮した結果、スクロースおよびマンニトールを使用することがより適当である。このような賦形剤を使用して調製された凍結乾燥製剤は、溶液中で適当な安定性(室温で持続時間が少なくとも24時間)を有し、凍結乾燥製剤は安定であり、直ちに再構成することができ、注射製剤用賦形剤の要件を満たす製品を得ることが容易である。
【0320】
4.実際、上記の項目2で述べたところであるが、賦形剤としてのマンニトール/スクロースの含有量を多くすることは、必ずしも効果が良好になることを意味するものではない。つまり、賦形剤の量が多くなると、凍結乾燥した骨格がより多くの薬物を装填することができ、凍結乾燥生産、および凍結乾燥製剤の安定性の向上にも有益であるが、その安定性は、tert-ブタノール-水混合溶媒系における溶解度に影響される。マンニトール/スクロースの量が過度に多くなると、混合溶媒に完全に溶解することができなくなるか、または溶液が不安定になるため、予備凍結乾燥段階または冷却段階の間に沈殿が生じる可能性がある。したがって、凍結乾燥溶液で賦形剤として使用されるマンニトール/スクロースの量もまた、上述の要件を満たすのに適切な範囲内にあるべきである。
【0321】
本溶液におけるスクロースまたはマンニトールの含有量は、20~300mg/mlである。このような範囲であれば、上記の要件、すなわち薬物溶液は安定であり、凍結乾燥プロセスの予備凍結乾燥段階または冷却段階の間に沈殿が生じにくいという要件を満たすことができる。含有量が40~100mg/mlであることがさらに好ましく、安定性が良好な再構成溶液および凍結乾燥製剤を得ることが可能である。含有量が60~70mg/mlであることがより好ましい。このような含有量範囲は、凍結乾燥条件が比較的穏やかであり、凍結乾燥サイクルが商業生産慣行(10日未満、すなわち、1生産サイクルにつき240時間)に則してしていることを意味する。
【0322】
5.上記の項目2で述べたように、マンニトール/スクロースの量が過度に少ないと、凍結乾燥後に薬物溶液が賦形剤骨格に均一に装填されることができなくなるか、またはさらに、凍結乾燥プロセスの乾燥段階の間に凍結乾燥粉末ケーキが崩壊するか、もしくは凍結乾燥に失敗する可能性がある。そして、マンニトール/スクロースの量が過度に多いと、外観および安定性の良好な凍結乾燥製剤を製造することはできるものの、単位パッケージ当たりの凍結乾燥製剤における薬物TH-302の含有量が、商業販売および商業利用のための要件を満たすには少なすぎる可能性があることを意味する。したがって、マンニトール/スクロースと活性薬物との適切な比率が不可欠である。本溶液において、式Iの化合物と賦形剤との質量比率は、1:(0.5~20)の範囲である。このような比率であれば、他の成分について上記の項目1~4で述べた要件を満たすことができ、調製される凍結乾燥製剤が良好な外観および安定性を有することを可能にし得る。好ましくは、質量比率が1:(2~12.5)の範囲であると、再構成が容易な、より良好な凍結乾燥製剤を得ることができる。より好ましくは、質量比率が1:(5~10)の範囲であると、調製される凍結乾燥製剤が優れた特性を有する。すなわち、凍結乾燥製剤は良好な安定性を有し、再構成が容易であり、穏やかな凍結乾燥条件および短い凍結乾燥サイクルを有する。
【0323】
6.実験現象により、凍結乾燥用の薬物溶液のpH値が、その安定性および再構成の複雑性のレベル、ならびにそれに対応する凍結乾燥製剤の安定性に直接影響することが示された。実験により、薬物溶液にpH調整剤(塩基または塩基性塩)を添加しなかった場合、薬物溶液は酸性になり、その酸性薬物溶液は安定性が悪くなり、それに対応する凍結乾燥製剤は再構成が不十分で安定性が低くなることが証明された。pH調整剤(塩基または塩基性塩)を添加した場合、これらを著しく改善することが可能であった。
【0324】
7.バイアル中の薬物溶液の充填体積もまた、複数の要因によって、最終的に凍結乾燥された粉末ケーキ(粉末は噴霧状態か、またはバイアルのボトルネックに付着している)の外観および再構成に影響する可能性があることに言及する価値がある。したがって、バイアル中の薬物溶液の充填体積とバイアルの体積との比率が適当でなければならない。上述の実験データおよび実際の生産慣行を考慮した結果、凍結乾燥薬物溶液の充填体積は密封容器の体積の1/3~1/2であり、それに対応する凍結乾燥製剤の体積は密封容器の体積の1/3~1/2であることが適当である。
【0325】
9.D5W溶液における薬物の飽和溶解度(強振とう条件下)
TH-302試料を約60mgの量で正確に秤量し、透明なバイアルに入れ、デキストロース5%水溶液(D5W)6mlを添加した。得られた溶液を2分間激しく振とうし、溶解度-ストック溶液を得た。溶解度-ストック溶液は不溶性物質を含有していることが観察された。そこで、その溶解度-保存溶液を濾過したところ、溶解度-保存溶液は透明になった。濾過した濾液を室温で24時間放置したところ、依然として透明であることが認められた。サンプリングおよび適当な希釈を行った後に、溶液の含有量をHPLCによって測定したところ、7.25mg/mlであった。この値はまさに、D5W溶液における薬物の飽和溶解度であった。
【0326】
このように、静脈投与用のTH-302含有注射剤におけるTH-302の濃度は、0~7.25mg/mlの範囲内であるべきことがわかる。実際、静脈注射剤に含有されるグルコースの等張性および浸透圧を考慮すると、静脈点滴の際の適切な注入処方を決定するには、さらなる研究が必要である。
【0327】
10.50mlバイアルにおける薬物溶液の予備凍結乾燥および後凍結乾燥に関する高さ測定の統計結果(薬物負荷および薬物質量百分率の計算)
実験7の薬物溶液を充填した。50mlバイアルに薬物溶液25mlを充填し、薬物溶液を充填した後の液面高さを測定した。平均高さは26.5mmであった。凍結乾燥後、凍結乾燥機の様々なプレート位置にあるバイアルの凍結乾燥粉末ケーキの高さを測定し、充填前の25mlと比較した体積の違いを大まかに計算した。
【0328】
複数バッチ実験では、凍結乾燥前の体積が凍結乾燥後に増加したバッチもあれば、減少したバッチもあり、ほとんど変化しないままのバッチもあった。凍結乾燥前後の液面をマークし、体積変化を統計的に分析することによって、体積の増大または減少の最大幅は10%であることを見出した。すなわち、体積変化は±10%以内である。
【0329】
凍結乾燥後に、凍結乾燥粉末ケーキの体積が10%減少した場合において、
薬物溶液のAPI含有量が5mg/ml以上500mg/ml以下である場合、凍結乾燥後の凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は、5/0.9~500/0.9、すなわち、5.55~555.55mg/cm3であり、以下は、同じ方法で計算したものである。
【0330】
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が5~160mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は5.55~177.77mg/cm3であり、
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が8~50mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は8.88~55.55mg/cm3であり、
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が8~25mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は8.88~27.77mg/cm3であり、
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が8~15mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は8.88~16.66mg/cm3であり、
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が8~10mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は8.88~11.11mg/cm3である。
【0331】
薬物溶液の含有量が、6、7、7.5、8、8.5、10、12.5、15、20または25mg/mlであるとすると、凍結乾燥粉末ケーキのそれらに相当する薬物負荷は、6.66、7.77、8.33、8.88、9.44、11.11、13.88、16.66、22.22または27.77mg/cm3である。
【0332】
凍結乾燥後に、凍結乾燥粉末ケーキの体積が10%増加した場合において、
薬物溶液のAPI含有量が5mg/ml以上500mg/ml以下である場合、凍結乾燥後の凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は、5/1.1~500/1.1、すなわち4.55~454.55mg/cm3であり、以下は、同じ方法で計算したものである。
【0333】
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が5~160mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は4.55~145.45mg/cm3であり、
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が8~50mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は7.27~45.45mg/cm3であり、
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が8~25mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は7.27~22.73mg/cm3であり、
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が8~15mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は7.27~13.64mg/cm3であり、
薬物溶液における式Iの化合物の含有量が8~10mg/mlの範囲である場合、凍結乾燥粉末ケーキの薬物負荷は7.27~9.09mg/cm3である。
【0334】
薬物溶液の含有量が、6、7、7.5、8、8.5、10、12.5、15、20または25mg/mlであるとすると、凍結乾燥粉末ケーキのそれらに相当する薬物負荷は、5.45、6.36、6.82、7.27、7.73、9.09、11.36、13.64、18.18または22.73mg/cm3である。
【0335】
薬物溶液の凍結乾燥により得られた製剤は、API薬物、賦形剤、ならびに残留tert-ブタノール溶媒および残留水を含有しており、出願人らが調製した凍結乾燥製剤におけるAPI薬物と賦形剤との質量比率は、1:(0.5~20)の範囲であることから、最大で許容可能なtert-ブタノール含有量は1.75質量%であり、含水量は6質量%である。そのため、凍結乾燥製剤におけるAPI薬物の質量百分率による下限は(1/20+1)*(1-6%-1.75%)=4.76%*92.25%=4.39%であり、上限は(1/0.5+1)*(1-0%-0%)=66.66%である。すなわち、凍結乾燥製剤におけるAPI薬物の含有量は、4.39%以上66.66%未満である。
【国際調査報告】