(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】単純化された自動運転のための車両制御
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20240822BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240822BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W60/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513153
(86)(22)【出願日】2021-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2021074061
(87)【国際公開番号】W WO2023030615
(87)【国際公開日】2023-03-09
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】タゲソン,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】スヴェンソン,ヤン‐インゲ
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA65
3D241BB08
3D241BC04
3D241CA15
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3D241DC47Z
(57)【要約】
大型車両(100)の自動運転用の制御システム(130、140)であって、所望の車両軌道を追跡するように構成された軌道追跡機能(271)と、要求されたステアリング角に対する車両(100)による応答をモデル化するように構成された第1の車両モデル(272)とで構成された自動運転(AD)コントローラ(270)を備え、ADコントローラ(270)が、所望の車両軌道及び第1の車両モデル(272)に基づいて、ステアリング角の要求(275)を生成するように構成され、制御システム(130、140)は、さらに、ADコントローラ(270)からステアリング角の要求(275)を受け取るように構成された車両運動管理(VMM)機能(260)を備え、VMM機能(260)が、第1の車両モデル(272)と整合されるように構成された第2の車両モデル(261)を備え、VMM機能(260)が、ステアリング角の要求(275)に対する第2の車両モデル(261)の応答に基づいて、所望の車両挙動を取得するように構成され、VMM機能(260)が、所望の車両挙動に応じて、運動支援装置の制御の設定点(265)を決定するように構成される、制御システム(130、140)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型車両(100)の自動運転用の制御システム(130、140)であって、
所望の車両軌道(T)を追跡するように構成された軌道追跡機能(271)と、要求されたステアリング角に対する前記大型車両(100)による応答をモデル化するように構成された第1の車両モデル(272)とで構成された自動運転(AD)コントローラ(270)を備え、前記ADコントローラ(270)が、前記所望の車両軌道及び前記第1の車両モデル(272)に基づいて、ステアリング角の要求(275)を生成するように構成され、
前記制御システム(130、140)は、さらに、前記ADコントローラ(270)から前記ステアリング角の要求(275)を受け取るように構成された車両運動管理(VMM)機能(260)を備え、前記VMM機能(260)が、前記第1の車両モデル(272)と整合されるように構成された第2の車両モデル(261)を備え、前記VMM機能(260)が、前記ステアリング角の要求(275)に対する前記第2の車両モデル(261)の応答に基づいて、所望の車両挙動を取得するように構成され、前記VMM機能(260)が、前記所望の車両挙動に応じて、運動支援装置の制御の設定点(265)を決定するように構成される、制御システム(130、140)。
【請求項2】
前記軌道追跡機能(271)は、前記第1の車両モデル(272)の出力の少なくとも一部に基づくコスト関数の最適化によって、前記所望の車両軌道を追跡するように構成される、請求項1に記載の制御システム(130、140)。
【請求項3】
前記軌道追跡機能(271)は、前記第1の車両モデル(272)に基づいて前記ステアリング角の要求(275)を決定するように構成される、請求項1または請求項2に記載の制御システム(130、140)。
【請求項4】
前記ステアリング角の要求は、1つ以上の仮想的な路面車輪角に対応する、請求項1~3の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項5】
前記第1の車両モデル(272)は、前記大型車両(100)のヨーゲインモデルなどの静的車両モデル、または、前記大型車両(100)の線形単線モデルなどの動的車両モデルである、請求項1~4の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項6】
前記第1の車両モデル(272)は、適用されたハンドル角に応じて、前記大型車両(100)の牽引車両ユニット(110)の期待される状態を出力するように構成され、
前記期待される状態は、前記牽引ユニットの横方向位置、前記牽引ユニットのある点の所望の軌道からの横方向の逸脱、前記牽引車両ユニット(110)のヨーレート、横方向加速度、横方向速度、縦方向位置、縦方向加速度、及び縦方向速度のいずれかを含む、請求項1~5の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項7】
前記第1の車両モデル(272)は、適用されたハンドル角に応じて、前記大型車両(100)の被牽引車両ユニット(120)の期待される状態を出力するように構成され、
前記期待される状態は、前記被牽引ユニットの連結角度、前記被牽引ユニットの横方向位置、前記被牽引ユニットのある点の所望の軌道からの横方向の逸脱、前記被牽引車両ユニット(110)のヨーレート、横方向加速度、横方向速度、縦方向位置、縦方向加速度、及び縦方向速度のいずれかを含む、請求項1~6の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項8】
前記ステアリング角の要求は、1つ以上の操舵可能な仮想軸に対するステアリング角のベクトルについての要求である、請求項1~7の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項9】
前記所望の車両挙動は、前記大型車両(100)の車両ユニット(110、120)上のある点の横方向位置、前記車両ユニット(110、120)のヨーレート、前記車両ユニット(110、120)の横方向加速度、前記車両ユニット(110、120)の横方向速度、及び前記車両ユニット(110、120)の車体横滑りのいずれかによって表される、請求項1~8の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項10】
前記第2の車両モデル(261)は、所定の数のモデルパラメータ値の交換によって、前記第1の車両モデル(272)と整合されるように構成される、請求項1~9の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項11】
前記モデルパラメータ値は、車両ユニット質量、車両ユニットのヨー慣性、タイヤ剛性、路面摩擦レベル、車両縦方向速度、車軸荷重、車両ユニットのホイールベース、車両ユニットの結合位置、及び車両タイプのいずれかに対応する、請求項10に記載の制御システム(130、140)。
【請求項12】
前記第2の車両モデル(261)は、1つ以上の対応する状態または同一の状態を有することによって、前記第1の車両モデル(272)と整合されるように構成される、請求項1~11の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項13】
前記第2の車両モデル(261)は、ヨーゲインモデルなどの静的車両モデル、または線形単線モデルなどの動的車両モデルである、請求項1~12の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項14】
前記VMM機能(260)は、ステアリングオフセット値を決定し、前記ステアリングオフセット値に応じて前記運動支援装置の制御の設定点(265)を決定するように構成される、請求項1~13の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項15】
前記所望の車両挙動に基づいて前記運動支援装置の制御配分の設定点を決定するように構成された第3の車両モデル(262)を備える、請求項1~14の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項16】
前記第3の車両モデル(262)は、横風によって引き起こされる車両運動の推定、路面バンクによって引き起こされる車両運動の推定、車軸調整不良によって引き起こされる車両運動の推定、タイヤ半径の差によって引き起こされる車両運動の推定、前記大型車両(100)のステアリングシステムにおけるコンプライアンスのモデル、及び前記大型車両(100)のステアリングシステムへのサスペンション移動影響のモデルのいずれかを含む、請求項15に記載の制御システム(130、140)。
【請求項17】
前記大型車両(100)の現在の車両状態を、前記所望の車両挙動に基づいて設定された閾値限界と比較し、前記閾値を超えた場合に、ある動作をトリガするように構成される、請求項1~16の何れか1項に記載の制御システム(130、140)。
【請求項18】
前記閾値限界を超えた場合に、前記運動支援装置の制御配分の設定点を変更することによって、前記大型車両(100)を制動するように構成される、請求項17に記載の制御システム(130、140)。
【請求項19】
前記動作は、前記ADコントローラ(270)に送られる故障状態信号(263)の生成を含む、請求項17または請求項18に記載の制御システム(130、140)。
【請求項20】
大型車両(100)の車両運動管理(VMM)(260)用の制御ユニット(130、140)であって、
前記制御ユニット(130、140)は、車両運動管理(VMM)機能(260)を実施するように構成され、前記制御ユニットは、ADコントローラ(270)からステアリング角の要求(272)を受け取るように構成された処理回路を備えており、
前記VMM機能(260)は、前記ADコントローラ(270)の第1の車両モデル(272)と整合されるように構成された第2の車両モデル(261)を備えており、
前記VMM機能(260)は、前記ステアリング角の要求(275)に対する前記第2の車両モデル(261)の応答に基づいて、所望の車両挙動を取得するように構成されており、
前記VMM機能(260)は、前記所望の車両挙動に応じて、運動支援装置の制御の設定点(265)を決定するように構成されている、制御ユニット(130、140)。
【請求項21】
大型車両(100)の運動を自律的に制御するための車両制御ユニット(130、140)で実行されるコンピュータ実施方法であって、
自動運転(AD)コントローラ(270)に軌道追跡機能を構成すること(s1)であって、前記軌道追跡機能(271)が、所望の車両軌道を追跡するように構成されること(s1)と、
要求されたステアリング角に対する前記大型車両(100)による応答をモデル化するように構成された第1の車両モデル(272)を構成すること(s2)と、
前記所望の車両軌道及び前記第1の車両モデル(272)に基づいて、前記ADコントローラ(270)によって、ステアリング角の要求(275)を生成すること(s3)と、
前記ADコントローラ(270)から前記ステアリング角の要求(275)を受け取る車両運動管理(VMM)機能(260)を構成すること(s4)であって、前記VMM機能(260)が、前記第1の車両モデル(272)と整合されるように構成された第2の車両モデル(261)を備え、前記VMM機能(260)が、前記ステアリング角の要求(275)に対する前記第2の車両モデル(261)の応答に基づいて、所望の車両挙動を取得するように構成され、前記VMM機能(260)が、前記所望の車両挙動に応じて、運動支援装置の制御の設定点(265)を決定するように構成されること(s4)と、
を含む、コンピュータ実施方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自律または半自律の大型車両の車両運動管理、すなわち、サービスブレーキ、推進装置、及びパワーステアリングなどの運動支援装置の協調制御に関する。本発明は、特定のタイプの車両に限定されるものではないが、トラック、バスなどの自律的に動作する大型車両に、また、自律的に動作する建設機械に、有利に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
大型連結車両は、正確にモデル化することが難しく、また、例えば、非線形性が一般的である路面摩擦条件の変化に応じて、挙動が急速に変化する場合がある、複雑で動的な機械システムである。例えば、大型車両のステアリングシステムは、車軸荷重の差など、車両自体から生じる内部の誤差源によってのみならず、風及び路面バンク等の外部の誤差源によってもまた影響を受ける。“Driver-centered Motion Control of Heavy Trucks”,Chalmers University of Technology,博士論文,2017において、Tagesson氏は、大型車両の現代のステアリング装置の機構、及び大型車両の操縦に関連する誤差源の一部を論じている。
【0003】
同時に、車両は、機械学、空気力学、油圧工学、エレクトロニクス、及びソフトウェアの点で、ますます複雑になりつつある。現代の大型車両は、燃焼エンジン、電気機械、摩擦ブレーキ、回生ブレーキ、ショックアブソーバ、エアベローズ、及びパワーステアリング装置などの広範囲の異なる制御可能な物理的な装置を含むことができる。これらの物理的な装置は、運動支援装置(MSD:Motion Support Devices)として一般に知られている。MSDは、例えば、ある1つの車輪に摩擦ブレーキをかけることができ、すなわち、負のトルクを加えることができ、一方、電気機械によって、車両の別の車輪、おそらくは、もっと言えば、同じ車軸上にある別の車輪が同時に使用されて、正のトルクを発生させるように、個別に制御可能であり得る。
【0004】
したがって、自動運転(AD:Autonomous Drive)コントローラによって生成される制御コマンドが、車両のタイプ及び全体的な走行条件に応じて大きく異なる車両挙動をもたらし得るので、AD用にシステム及びアルゴリズムを設計するのが困難になる。さらに、連結式大型車両を制御することが本質的に複雑であるために、AD制御システムの機能を検証することが課題になる。
【0005】
US2020189591は、上位層の制御ユニットからステアリング角の要求を受信するように構成された車両のステアリング角の制御ユニットを開示する。運動計画・制御システムが、ステアリング角を計算し、下位レベル制御システムにコマンドを発行する。ハンドル角の限界を決定するために車両モデルが用いられ、ハンドル角の限界によって、ステアリング角の要求を受け入れることができるかどうかが決まる。
【0006】
US2017233001及びUS2019126711は両方とも、ステアリングアクチュエータ制御を最適化するための自転車モデルの使用を記載している。
【0007】
今日まで遂げられた進歩にもかかわらず、自動運転のためのアルゴリズムの設計を単純化する、車両制御用の改良されたシステムが必要である。
【発明の概要】
【0008】
本開示の目的は、安全で、効率的かつ堅牢な方法で自律的な車両制御を容易にする制御ユニット及び方法を提供することである。
【0009】
この目的は、大型車両の自動運転(AD)用の制御システムによって少なくとも部分的に達成される。本制御システムは、所望の車両軌道を追跡するように構成された軌道追跡機能と、要求されたステアリング角に対する車両による応答をモデル化するように構成された第1の車両モデルとで構成されたADコントローラ(AD制御)を備え、ADコントローラは、車両モデル及び車両による所望の軌道に基づいてステアリング角の要求を生成するように構成される。制御システムは、また、ADコントローラからステアリング角の要求を受け取るように構成された車両運動管理(VMM:Vehicle Motion Management)機能を備えている。VMM機能は、第1の車両モデルと整合された第2の車両モデルとを含む。VMM機能は、ステアリング角の要求に対する第2の車両モデルの応答に基づいて、所望の車両挙動を生成するように構成される。VMM機能は、さらに、所望の車両挙動に応じて、運動支援装置の制御配分(control allocation)、すなわち、MSDの設定点(set points)の集まりを決定するように構成される。
【0010】
このように、ステアリング角の要求を発行するときにADコントローラが車両から期待する応答は、多くの場合に複雑な車両の要因、ならびに誘発されたステアリング角の誤差及び路面バンクからの影響などの環境依存の要因にも関わらず、実際には車両からも得られる。ADコントローラには、ステアリング入力に対する実際の車両応答を正確にモデル化するために、第1の車両モデルに少なくともある程度まで依存することができる利点がある。このことは、VMM機能がMSDの制御配分を実行して、車両タイプに関係なく、少なくとも一部の外部要因を補償しながら、ADコントローラによって期待される挙動と一致する車両による挙動を生成するということから可能になる。言い換えれば、ADコントローラは、車両のモデルに従って制御コマンドを生成することができ、期待される方法で車両がその制御コマンドに応答することを確信することができる。VMM機能は、車両がADコントローラの予想する通りに挙動するように、MSDの制御配分の調整を行って外乱を補償するようになる。このように、ADコントローラは、より広範囲の異なる運転シナリオにわたって、より均質な車両挙動を経験するようになる。
【0011】
軌道追跡機能は、第1の車両モデルの出力の少なくとも一部に基づくコスト関数の最適化によって、所望の車両軌道を追跡するように構成することができる。これは、ADコントローラが軌道追跡を行う際に第1の車両モデルを使用することを意味する。例えば、ADコントローラは、第1の車両モデルに従って、車両を所望の軌道に追従させながら、ハンドル角の時系列及び加速度プロファイルを計画することができる。第1の車両モデルは、例えば、ヨー及び車輪スリップを表すこともでき、したがって、これらをそれぞれの許容可能な閾値より小さく保つという制約の下で、軌道に追従させるように、使用することができる。このようにして、軌道追跡機能は、第1の車両モデルに基づいてステアリング角の要求を決定するように構成され得る。ステアリング角の要求は、任意選択で、1つ以上の仮想的な路面車輪角に対応する。仮想的な路面車輪角は、車両による何らかの湾曲を生じさせる路面車輪角である。しかしながら、仮想的な路面車輪角は、必ずしもいずれかの物理的な路面車輪角に対応する必要はない。むしろ、以下のより詳細な説明から理解されるように、仮想的な路面車輪角は、差動制動または他の形態のMSD協調ソリューションによって生成することもできる。
【0012】
態様によれば、第1の車両モデルは、大型車両のヨーゲインモデルなどの静的車両モデル、または、大型車両の線形単線モデル(linear one-track model)などの動的車両モデルである。異なる車両モデルは、アプリケーション特有の最適化のための設計の自由度及び余地を可能にするので、提案された概念において異なる車両モデルを使用することができるという利点がある。第1の車両モデルは、例えば、適用されたハンドル角に応じて、大型車両の牽引車両ユニットの期待される状態を出力するように構成することができ、この期待される状態は、牽引ユニットの横方向位置、牽引ユニットのある点の所望の軌道からの横方向の逸脱、牽引車両ユニットのヨーレート、横方向加速度、横方向速度、縦方向位置、縦方向加速度、及び縦方向速度のいずれかを含む。第1の車両モデルは、また、任意選択的に、適用されたハンドル角に応じて、大型車両の被牽引車両ユニットの期待される状態を出力するように構成することができ、この期待される状態は、被牽引ユニットの連結角度、被牽引ユニットの横方向位置、被牽引ユニットのある点の所望の軌道からの横方向の逸脱、被牽引車両ユニットのヨーレート、横方向加速度、横方向速度、縦方向位置、縦方向加速度、及び縦方向速度のいずれかを含む。
【0013】
一例によれば、ステアリング角の要求は、1つ以上の操舵可能な仮想軸に対するステアリング角のベクトルについての要求である。仮想軸は、必ずしも正確に物理軸に対応する必要はない。むしろ、仮想軸をモデルに使用して、複数の集中軸、または車両の異なる位置の軸を表すことができる。仮想軸を導入することによって、計算効率を高めることが達成され得る。また、様々な車両モデルの次元数を減らすことができ、これは利点である。
【0014】
態様によれば、所望の車両挙動は、大型車両の車両ユニット上のある点の横方向位置、車両ユニットのヨーレート、車両ユニットの横方向加速度、車両ユニットの横方向速度、及び車両ユニットの車体横滑りのいずれかによって表される。軌道の追従は、横方向位置のみが考慮されるのではなく、例えばヨーレートの所望の値を生じさせるようにも最適化させることができるため、利点である。こうすると、安全性が改善され、また、乗客(及び運転者)の快適さも改善されるので、これは利点である。車体横滑りを考慮することにより、回避の予測及び操縦が困難な非線形車両状態になるリスクを低減させることができる。
【0015】
態様によれば、第2の車両モデルは、所定の数のモデルパラメータ値の交換によって、第1の車両モデルと整合されるように構成される。これらのモデルパラメータは、以下で、さらに詳細に論じられる。第1の車両モデル及び第2の車両モデルは、初期較正手順の一部として、及び/または運転シナリオが展開されるにつれて、より連続的に、整合されてもよい。モデルパラメータ値は、例えば、車両ユニット質量、車両ユニットのヨー慣性、タイヤ剛性、路面摩擦レベル、車両縦方向速度、車軸荷重、車両ユニットのホイールベース、車両ユニットの結合位置、及び車両タイプのいずれかに対応し得る。したがって、例えば、車両が輸送ミッションに沿ったある地点で、荷物を下ろされ、または積み込まれる場合、2つのモデルは、もう一度互いに同調するように再整合されることになる。第2の車両モデルは、例えば、1つ以上の対応するモデル状態、または同一のモデル状態を有することによって、第1の車両モデルと整合されるように構成され得る。モデル設計は、一般に、文献において十分に研究されたテーマであり、したがって、本明細書では詳細に論じられない。
【0016】
態様によれば、第2の車両モデルは、ヨーゲインモデルなどの静的車両モデル、または線形単線モデルなどの動的車両モデルである。
【0017】
態様によれば、VMM機能は、ステアリングオフセット値を決定し、ステアリングオフセット値に応じて運動支援装置の制御の設定点を決定するように構成される。ステアリングオフセット値は、例えば、パワーステアリングの設定点と実際のステアリング角との間の時間変動バイアスを示すために使用され得る。このオフセットは、車両自体に関連する両方の態様に依存し、また周囲の車両環境に関連する態様にも依存し得る。
【0018】
第3の車両モデルは、また、所望の車両挙動に基づいて運動支援装置の制御配分の設定点を決定するように構成され得る。したがって、所望の車両挙動が与えられると、第3の車両モデルを使用して、所望の挙動を、所望の挙動をもたらすために第3の車両モデルによって予測されるMSDの設定点のセットに分類することができる。特に、所望の車両挙動を提供する複数の設定点の構成が、しばしば存在する。この場合、使用するMSDの設定点を選択する際に、他の最適化パラメータが考慮され得る。例えば、タイヤ摩耗を、異なる可能な車両のMSDの制御配分の間で選択する際に考慮することができる。
【0019】
第3の車両モデルは、例えば、横風によって引き起こされる車両運動の推定、路面バンクによって引き起こされる車両運動の推定、車軸調整不良によって引き起こされる車両運動の推定、タイヤ半径の差によって引き起こされる車両運動の推定、大型車両のステアリングシステムにおけるコンプライアンスのモデル、及び大型車両のステアリングシステムへのサスペンション移動影響のモデルのいずれかを含み得る。
【0020】
態様によれば、制御システムは、大型車両の現在の車両状態を、所望の車両挙動に基づいて設定された閾値限界と比較し、閾値を超えた場合に、ある動作をトリガするように構成される。これは、安全機能として、または、他の予期しない事象を考慮するために使用され得る。制御システムは、例えば、閾値限界を超えた場合に、運動支援装置の制御配分の設定点を変更することによって、大型車両を制動するように構成され得る。この動作は、ADコントローラに送られる故障状態信号の生成をさらに含み得る。
【0021】
また、本明細書では、前述した利点に関連付けられる方法、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、及び車両も開示されている。
【0022】
全般的に、特許請求の範囲において使用される全ての用語は、本明細書において特に明確に規定されない限り、技術分野におけるその通常の意味に従って解釈すべきである。「要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなど」への全ての言及は、特に明確に述べられない限り、要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなどの少なくとも1つの例を指すものとしてオープンに解釈すべきである。本明細書で開示した任意の方法のステップは、特に明確に述べられない限り、開示した正確な順番で行う必要はない。本発明のさらなる特徴及び本発明に伴う利点は、添付の特許請求の範囲及び以下の説明を検討すれば明らかになる。当業者であれば理解するように、本発明の異なる特徴を組み合わせて、本発明の範囲から逸脱することなく、以下で説明するもの以外の実施形態を作成し得る。
【0023】
添付図面を参照して、例として引用した本発明の実施形態のより詳細な説明が以下に続く。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】大型車両制御システムを概略的に示す図である。
【
図3】運動支援装置の制御構成の例を示す図である。
【
図4】タイヤ力の例を縦方向の車輪スリップの関数として示すグラフである。
【
図5】車両制御機能アーキテクチャの例を示す図である。
【
図10】コンピュータプログラム製品の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を、本発明の特定の態様を示す添付図面を参照して、以下でより十分に説明する。ただし、本発明は、多くの異なる形態で具体化してもよく、本明細書で述べる実施形態及び態様に限定されると解釈してはならない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が完全かつ完璧であり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように、一例として提供される。同様の番号は、説明の全体を通して同様の構成要素を指す。
【0026】
本明細書に説明され、図面に示される実施形態に、本発明は限定されないことが理解されるべきであり、むしろ、添付の特許請求の範囲内で多くの変更及び修正が行われてもよいことが、当業者には認識されよう。
【0027】
図1は、本明細書で開示される技術を有利に適用できる貨物輸送用の例示的な車両100を示す。車両100は、前輪150及び後輪160に支持されたトラクタまたは牽引車両110を備え、前輪150及び後輪160の少なくとも一部は被駆動車輪であり、前輪150及び後輪160の少なくとも一部は操舵輪である。必須ではないが、通常、トラクタの車輪は全て制動輪である。トラクタ110は、既知の方法で第5輪接続によって、トレーラ車輪170に支持された第1のトレーラユニット120を牽引するように構成されている。トレーラの車輪は、通常、制動輪であるが、1つ以上の車軸上に被駆動車輪を備えることもある。また、トレーラのなかには、操縦性を改善するために操舵輪を備えるものもある。
【0028】
当然ながら、本明細書で開示される方法及び制御ユニットは、ドローバー接続を備えたトラック、建設機械、バスなどの他のタイプの大型車両にも有利に適用することができる。車両100は、3つ以上の車両ユニットを含んでもよい。すなわち、ドーリー車両ユニットを使用して2つ以上のトレーラを牽引してよい。車両ユニットの車両の組み合わせは、当然ながら、2つ以上の操舵軸を含み得る。
【0029】
トラクタ110は、様々な種類の機能性、とりわけ、推進、制動、及びステアリングを制御するための車両制御ユニット(VCU:Vehicle Control Unit)130を備える。また、トレーラユニット120のなかには、トレーラの車輪の制動、ならびに場合によってはトレーラの車輪の推進及びステアリング等、トレーラの様々な機能を制御するためのVCU140を備えるものもある。VCU130、140は、しばしば電子制御ユニット(ECU:Ectronic Control Unit)と呼ばれることがある、いくつかの処理回路にわたって、集中化または分散化され得る。車両制御機能の一部は、また、例えば、無線リンク180及び無線アクセスネットワーク185を介して、車両100に接続されたリモートサーバ190上で、リモートで実行され得る。
【0030】
図2を参照すると、上記トラクタ110上のVCU130は(及び場合によっては、トレーラ120上のVCU140、及び/またはリモートサーバ190も)、車両100の自動運転(AD)または少なくとも半自律制御のための階層化機能アーキテクチャに従って編成された車両制御方法、すなわち、先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance Systems)を実行するように構成することができる。一部の機能は、上位層AD制御機能270に含まれる場合があり、他の一部の機能性は、下位層に存在する車両運動管理(VMM)ドメイン260に含まれる場合がある。VMM機能は、また、任意選択的に車両電力管理も処理し、この場合、この機能は、車両運動・電力管理(VMPM)機能と呼ばれる場合があるが、この機能性のこの部分については本明細書では、さらに詳しく説明しない。VMM機能については、
図5に関連して、以下でさらに詳細に説明する。VMM機能性は、文献では、統合シャーシ制御と呼ばれることもある。
【0031】
ADコントローラ270は、軌道計画及び軌道追跡271などの機能を実行する。先進運転支援システム(ADAS)、及び自律車両による自動運転(AD)を制御するための方法は、通常は何らかの形態の経路追従アルゴリズムに基づいて車両を制御する。制御システム200は、車両をある場所から別の場所にナビゲートするために利用可能なルートを示すマップデータを伴って、例えば現在の輸送ミッションに基づいて、車両が追従するべき所望経路を最初に特定する。経路追従は、車両が追従すべきあるターゲット経路に従うための各時点における車両速度及びステアリングを決定する方法に関するプロセスである。文献には利用可能な多くの異なるタイプの経路追従アルゴリズムがあり、各アルゴリズムにそれぞれ利点及び欠点が伴う。
【0032】
純粋追跡(Pure pursuit)は、比較的低い複雑性で実施可能な、広く知られた経路追従アルゴリズムであり、例えば、1992、Pittsburgh PA Robotics INST、Carnegie-Mellon大学、R.C.Coulterによる「Implementation of the pure pursuit path tracking algorithm」に説明されている。このアルゴリズムは、ステアリング角を含む車両制御のセットについて計算し、車両は、これに従って、その現在位置から、追従するべき経路に沿って、所定の「プレビュー」距離だけ離れた地点に向かって移動する。純粋追跡方法により、車両は、名前の通り、経路に沿って車両からプレビュー距離だけ離れた地点を「追求」する。
【0033】
ベクトル場誘導(Vector field guidance)は、別の経路追従アルゴリズムであり、これは、代わりにベクトル場に基づいて車両制御を行い、ベクトル場もプレビュー距離または先読みパラメータに基づいて特定される。ベクトル場誘導方法は、例えば、Proc.Inst.Mech.Eng.Part D、第216巻、329~347頁、2002、「An Automated Driver Based on Convergent Vector Fields」において、Gordon、Best、及びDixonらにより考察された。
【0034】
図6は、ベクトル場誘導の軌道追跡プロセス600の例を示す。破線で示す所望の車両軌道Tは、まず右へ曲がり、続いて左へ曲がる。この所望の車両軌道に関連するベクトル場は、参照番号610によって示される。車両のステアリング及び推進を調整することによって、車両の安全性を損なうことなく、車両100を所望の車両軌道Tに従わせるように、大型車両100の自動運転のための制御システム130、140を構成することができる。
【0035】
大型車両のステアリングシステムのステアリング角は、電子動力ステアリングモータの内部で、及び/または別個のステアリング角センサによって、測定され得る。しかしながら、車両の動力学を考慮する場合、通常、重要なのは道路に対する車輪の角度である。ステアリングシステムは、コンプライアンス、バックラッシュ等からの影響を受けるので、モータの角度と車輪の角度とは、やや複雑な関係を有し得る。外力もまた車輪に作用し、ステアリング角に対する外乱、すなわち、ステアリング角の要求と適用されたハンドル角との間の不一致を引き起こす可能性がある。
【0036】
したがって、これらのタイプの経路追従システムにおける問題は、車両100の物理的な挙動が、横風、路面バンクなどの多くの要因に依存して異なり、また、車両のタイヤが摩耗しているかどうか、積載量が多いかどうかなどのような車両の特性にも依存して異なることである。この結果、所与のステアリング角の要求に対する車両による応答が、車両間で、また運転シナリオごとにも、相対的に大きく異なる可能性があるので、上位層の車両制御が大幅に複雑化する。
【0037】
本明細書に開示される技術の目的は、この不確実性の一部を除去し、それによって上位層機能の設計を単純化することである。これはVMM機能260によって達成され、VMM機能260が、ADコントローラ270からステアリング角の要求を受け取り、次いで、制御コマンドに対する車両による応答に影響を与える上述の要因に関係なく、ADコントローラによって予想される挙動を車両がとるように、車両100上の異なるMSD(ブレーキ、ステアリング、推進等)を制御する。このように、VMM機能260が挙動のばらつきの多くを吸収するので、所与のステアリング要求に対する車両による応答が、より一貫したものになる。したがって、ADコントローラからの角度が5度のステアリング要求は、一貫した車両挙動を起こすために、例えば、ある1つの場合には角度が3度、別の場合には8度のパワーステアリングシステムの設定点をもたらし得る。
【0038】
一般に、車両上のMSDは、ベクトル値であってもなくてもよい、それぞれのMSDの設定点を構成することによって制御可能である。例えば、推進装置は、トルク要求及び車輪スリップ限界、またはトルク限界を有する車輪スリップ要求、または他の何らかの形式によって構成可能であり得る。MSDの制御配分は、車両によって所望の挙動を生成することを意図されたMSDの設定点構成のグループとして見ることができる。
【0039】
軌道計画中及び軌道追跡中の両方で、所望の車両軌道をより厳密に追従するために、適用されたハンドル角などの所与の制御入力に対する車両の応答を確実に予測できることが有用である。本明細書では、他に何も明記されていない場合には、ステアリング角は、操舵軸の平均的な路面対車輪角として、すなわち、アッカーマンジオメトリなどによる操舵軸の2つの操舵輪の路面車輪角の差を考慮して、定義される。さらに、車輪は、車両設計によっては、個々に操舵可能である場合があり、すなわち、操舵軸の2つの車輪を互いに独立して操舵することが可能である場合があり、また、独立して作動する、車輪端部の電気モータを備える場合があることが理解される。この目的のために、ADコントローラ270は、第1の車両モデル272を備え、これは、要求されたステアリング角などの入力コマンドの所与のセットに応答して車両挙動をモデル化する。第1の車両モデルは、静的車両モデル、または、より先進的な動的車両モデルであり得る。一般に、車両モデルは、所与の瞬間におけるその挙動が、現在の入力だけでなく、過去の入力にも依存する場合、動的として分類される。動的モデルは、記憶または慣性を有していると言われている。動的システムは、ほとんどの場合、1つまたは数個の微分方程式、1つまたは数個の差分方程式、タイムラグを有する1つまたは数個の代数方程式によって記述される。静的車両モデルでは、所与の瞬間における状態及び出力は、この瞬間における入力のみに依存する。そして、入力と出力との間の関係は、1つまたは数個の代数方程式によって与えられる。
【0040】
引き続き、
図2を参照すると、車両モデル272によって支援される軌道追跡機能(起動トラッカ)271は、ステアリング角の要求275、または、言い換えると、所与の曲率に対する要求を生成し、この要求は、VMM機能260に送られる。VMM機能は、ADコントローラ270によって使用される車両モデル272と整合している車両モデル261もまた備える。この車両モデル261は、VMM機能が所望の車両挙動を決定すること、すなわち、車両がステアリング角の要求275に応答して挙動するのを、ADコントローラが、どのように予想するかを決定すること、を可能にする。異なるモデルを整合させるために、2つのモデルは、車両に関連するモデルパラメータ、及び場合によっては同様に車両状態空間を、交換し、交渉するハンドシェイク手順を実行するように構成され得る。例えば、VMM機能260は、車両100の総貨物重量及び他の動的特性などの車両データを保持することがあり、その場合、2つのモデルを互いに整合させるために、このデータを第1の車両モデル272と共有する。この整合は、車両の電源が投入されると実行することができ、周期的に更新することもできる。例えば、VMM機能260は、推定タイヤ摩耗、車両のサスペンションの状態、及び車両上の運動支援装置の異なる能力などの車両データに関する第1の車両モデルを継続的に更新してもよい。
【0041】
第2の車両モデル261は、ヨーゲインモデルなどの静的車両モデル、または線形単線モデルなどの動的車両モデルであり得る。静的車両モデルは、当然、動的車両モデルと比較して実装が複雑ではないが、動的車両モデルは、車両挙動を予測する際の精度が改善されることが多い。静的及び動的車両モデルは既に知られており、したがって、本明細書では、さらに詳細に説明しない。
【0042】
したがって、いくつかの態様によれば、第2の車両モデル261は、所定の数のモデルパラメータ値の交換によって、第1の車両モデル272と整合されるように構成される。モデルパラメータ値は、車両ユニット質量、車両ユニットのヨー慣性、タイヤ剛性、路面摩擦レベル、車両縦方向速度、車軸荷重、車両ユニットのホイールベース、車両ユニットの結合位置、及び車両タイプのいずれかに対応し得る。第2の車両モデル261は、また、任意選択で、1つ以上の対応する状態または同一の状態を有することによって、第1の車両モデル272と整合されるように構成される。
【0043】
態様によれば、VMM機能260は、ADコントローラ270によって使用される第1の車両モデル272のローカルコピーを実装してもよい。その場合、VMM機能は、所与の入力制御コマンド(ステアリング角の要求など)のセットに対して予測された車両挙動を、ステアリング角の要求を処理した結果として得られる実際の車両挙動と比較することができる。その後、VMM機能260は、補正係数をADコントローラに送って、ADコントローラが、入力制御コマンドに対する車両による実際の応答に対して、その第1の車両モデルを較正することを可能にすることができる。これにより、ADコントローラによって期待される何らかの制御入力に対する車両応答と、車両から得られる制御入力に対する応答との間の差が、さらに低減される。
【0044】
図7は、車両100によるコーナリング操縦を含む例示的なシナリオで動作する提案されたシステムの例を示す。車両100は、例えば、強い突風、または予期しない顕著な路面バンクのため、所望の軌道Tからの横方向の逸脱y1を最初に有する。軌道トラッカ271は、第1の車両モデル272に従って、例えば過度にヨー運動を起こすことなく、制御された方法で横方向のオフセットを低減させるように車両による運動を起こすステアリング角の要求を生成することによって、この横方向のオフセットを補償する。ステアリング角の要求は、VMM機能260に転送され、これは、ステアリングアクチュエータ制御を含むMSD制御の設定点のセットを生成し、場合によってはまた、推進制御及び他の形態のMSD制御も生成し、これらは、第1の車両モデル272によって予測された車両挙動に対応する車両挙動を生成する。その結果、車両100は予想通りに挙動し、車両は制御された方法で所望の軌道Tに従う。
【0045】
VMM機能260は、MSD調整を実行し、これは少なくとも、所望の車両挙動に近い車両挙動をもたらす適用されるステアリング角を決定することを含む。実際の適用されたステアリング角は、ステアリング誤差、例えば、「Driver-centered Motion Control of Heavy Trucks」,Chalmers University of Technology,Tagesson,博士論文,2017の第II章で論じられている誘導されたステアリング角の誤差のタイプを補償するように構成されるので、ステアリング角の要求とは異なることになる可能性が高いことに留意されたい。例えば、ステアリングシステム内のリレーリンク機構は、車両のサスペンションが上下に移動する、またはロールするのに伴って、動く可能性がある。それによって、ハンドルの動きから切り離された操舵角が引き起こされる。また、操舵軸以外の車軸はサスペンションの移動に敏感であり得る。この影響は、車両100が道路上の隆起にぶつかったときに、または車高を調整したときに、最も現れる(サスペンションが調整されていない場合、荷重移動時に起こり得る)。誘導されたステアリング誤差に加えて、この文脈で言及するに値する2つの他の要因もある。バンクした道路は、車両をロールさせ、これは、前の節で説明したように、ステアリング誤差を誘発する(ハンドルが回る)。しかし、ほとんどの大型車両のアンダーステア特性により、車輪が向きを変えていないにもかかわらず、やはり車両がロールするようになる。この影響は、
図1に示されるようなセミトレーラトラックでは、かなりあり得る。この影響を取り除くには、バンクが変化する際に、通常は約1度(ハンドル角)のステアリング補償が必要である。横風は、ステアリング精度を向上させるために考慮され得る別の要因である。横風の衝撃は、長いトレーラを有するトラックでは、かなりのものになり得る。横風の影響は、通常、路面バンクの影響と同じ程度である。
【0046】
MSDの制御配分命令265は、中央MSD制御機能(場合によってはVMM機能と統合される)、または、いくつかの別個のMSDコントローラを含み得るMSDコントローラ230に送られる。その結果、MSDコントローラ230は、パワーステアリング装置を含む物理的なアクチュエータを制御し、任意選択で制動アクチュエータ及び推進アクチュエータもまた制御する。
【0047】
AD制御機能270、VMM機能260、及びMSDコントローラ230は、通常、異なる時間尺度で動作し、AD制御機能は、約10秒程度の計画対象期間に基づき、数ヘルツほどの更新速度で、動作を計画して実行するのに対し、VMM機能は、約10ミリ秒の著しく速い更新速度を有する。MSDコントローラ230は、通常、最速の更新速度を有し、これにより、車輪スリップ及び横滑り角の正確な追跡及び制御を実行することが可能になる。
【0048】
このようにして、ADコントローラ270は、何らかの想定される車両モデル272に従って動作し、このモデルによって予測される車両挙動に基づいてステアリングなどの制御コマンドを生成することができる。VMM260は、同じモデル、または少なくともADコントローラ270によって使用されるモデル272と整合されたモデルを含む。VMM機能260は、その車両モデルを用いて所望の車両挙動を決定し、次いで、実際の車両応答が所望の車両挙動を忠実に模倣するように、MSD調整を実行する。これは、ADコントローラ270が、誘導されたステアリング誤差、及び場合によってはまた他の誤差源などの、現代の大型車両に内在する複雑性の多くから分離され得ることを意味する。
【0049】
当然ながら、VMM機能260は、例えば、様々な車両故障を含む、道路摩擦の低減または他の特に困難な動作条件のため、ADコントローラ270で使用される車両モデル272によって予測されるような車両の挙動を、もはや模倣することができないシナリオで終わることになり得る。これが起こった場合、VMM機能260は、故障状態信号263を生成し得、次いで、ADコントローラ270が、故障処理動作モードに入り得る。この故障処理動作モードは、例えば、車両速度の低下、または完全停止を含み得る。本明細書に開示されている制御システム130、140は、大型車両100の現在の車両状態を、所望の車両挙動に基づいて設定された閾値限界と比較し、閾値を超えた場合に、ある動作をトリガするように構成され得る。例えば、制御システムは、閾値限界を超えた場合に、運動支援装置の制御配分の設定点を変更することによって、大型車両100を制動するように構成され得る。当然ながら、この動作は、
図2に示すように、ADコントローラ270に送られる故障状態信号263の生成を含むこともできる。この故障信号は、例えば、車両による完全な停止と、その後に続く駐車操作、及びサービスステーションへの通知呼とを開始するように、ADコントローラに促すことができる。
【0050】
「Design of Variable Vehicle Handling Characteristics Using Four-Wheel Steer-by-Wire」,IEEE transactions on control systems technology,vol.24,no.5,2015において、Russel及びGerdesらは、人間の運転者の入力に応じて、所望の車両挙動を決定するための車両モデルの使用を提案する。ここで取り入れられたアプローチは、現在のAD制御のストラテジーとある程度の類似性を示すが、本開示は、完全に異なる目的に焦点を当てている。ここで、車両モデルは、低摩擦条件などの、プログラム可能な条件での車両操作を模倣する所望の車両挙動を生成するために使用される。
【0051】
要約すると、本明細書には、大型車両100の自動運転用の制御システム130、140が開示されている。制御システムは、所望の車両軌道を追跡するように構成された軌道追跡機能271で構成されたADコントローラ270を備える。軌道追跡機能は、例えば、既知の方法で、所望の車両軌道に沿った先読み点に基づくことができる。
【0052】
ADコントローラ270は、また、要求されたステアリング角に対する車両100による応答をモデル化するように構成された第1の車両モデル272を備える。軌道追跡機能271は、第1の車両モデル272の出力の少なくとも一部に基づくコスト関数の最適化によって、所望の車両軌道を追跡し得る。例えば、VMM機能へ送出するためのステアリング角の要求は、車両による予測された応答、及び所望の車両軌道に対する車両の現在の状態に基づいて、許容可能なステアリング要求値の範囲から選択され得る。したがって、
図7に例示するように、過剰なヨー運動またはジャークを導入することなく、車両を所望の軌道Tに良好に一致させる、すなわち、制御された方法で横方向誤差y1を低減させる、と予測されるステアリング角の要求を選択することができる。
【0053】
実施例によれば、第1の車両モデル272は、適用されたハンドル角に応じて、大型車両100の牽引車両ユニット110の期待される状態を出力するように構成され、この期待される状態は、牽引ユニットの横方向位置、牽引ユニットのある点の所望の軌道からの横方向の逸脱、牽引車両ユニット110のヨーレート、横方向加速度、横方向速度、縦方向位置、縦方向加速度、及び縦方向速度のいずれかを含む。
【0054】
別の実施例によれば、第1の車両モデル272は、適用されたハンドル角に応じて、大型車両100の被牽引車両ユニット120の期待される状態を出力するように構成され、この期待される状態は、被牽引ユニットの連結角度、被牽引ユニットの横方向位置、被牽引ユニットのある点の所望の軌道からの横方向の逸脱、被牽引車両ユニット110のヨーレート、横方向加速度、横方向速度、縦方向位置、縦方向加速度、及び縦方向速度のいずれかを含む。
【0055】
ADコントローラ270は、所望の車両軌道及び第1の車両モデル272に基づいてステアリング角の要求275を生成し、このステアリング角の要求をVMM機能260に送るように構成される。ステアリング角の要求は、任意選択で1つ以上の仮想的な路面車輪角に対応し、その場合、これらが、第2の車両モデル261へのVMM機能による入力として使用されてもよい。ステアリング角の要求は、車両が2つ以上の操舵軸を含む場合の、1つ以上の操舵可能な仮想軸に対するステアリング角のベクトルについての要求であってもよい。例えば、車両が、操舵軸を有するドーリー車両ユニットを含む場合、この操舵軸に対する制御入力がステアリング角の要求に含まれてもよい。もちろん、1つ以上の操舵トレーラ車軸に対するステアリング角の要求もステアリング角の要求に含まれてもよい。
【0056】
仮想的な路面車輪角という用語は、ADコントローラからのステアリング角の要求が、必ずしも対応する物理的な路面車輪角をもたらさないことを強調するために、本明細書で使用される。実際、場合によっては、例えば、仮想的な路面車輪角が代わりに差動制動によって適応される場合、路面車輪角が全く存在しなくてもよい。仮想軸という用語もまた、本明細書で使用される。この概念は、実際の車両が実際には車軸を備えない場合でも、車両のモデルが車軸を備えることを可能にする。したがって、仮想車軸は、例えば、一対の物理的な車軸、または車両の何らかの中心位置に対して仮想車軸が位置する何らかの他の位置にある車軸に対応し得る。
【0057】
VMM機能260は、ADコントローラ270からステアリング角の要求272を受け取るように構成される。上述したように、VMM機能260は、第1の車両モデル272と整合されるように、すなわち、何らかの方法で第1の車両モデルと合致するように構成された第2の車両モデル261を備える。VMM機能260は、ステアリング角の要求275に対する第2の車両モデル261の応答に基づいて、所望の車両挙動を得るように構成される。第2の車両モデルは、例えば、何らかの車両の内部影響または外部影響に起因する車両による誘発されたステアリング誤差を補償するように構成され得る。第2の車両モデルはまた、車両タイプの差異を補償するように構成されてもよく、また、タイヤ摩耗等の経時変化車両特性をモデル化するように構成されてもよい。第1の車両モデル272は、例えば、大型車両100のヨーゲインモデルなどの静的車両モデル、または大型車両100の線形単線モデルなどの動的車両モデルであり得る。
【0058】
VMM機能260は、所望の車両挙動に応じて、運動支援装置の制御の設定点265を決定するように構成される。例えば、運動支援装置は、スリップ限界値よりも絶対量分だけ高い縦方向の車輪スリップを引き起こさないように構成され得る。つまり、VMM機能は、ADコントローラからステアリング角の要求を受信し、第1の車両モデルと整合された第2の車両モデルにアクセスして、ADコントローラが車両から何を望んでいるのかを推測する立場にある。そして、VMM機能は、その利用可能なMSDを調整し、すなわち、ステアリング角コマンド及びトルクコマンドなどの設定点を決定し、これらを異なるMSDに送る。ここで、実際の車両状態が、測定され、または推定され、次いで、運動支援装置の制御配分の設定点を決定するために、所望の車両挙動と比較される。このように、VMMは、車両力学の変動と、追加の外乱を引き起こすように車両に作用する外部要因とによって発生する外乱の少なくとも一部を吸収するので、ステアリング角の要求に対して、より一貫した車両挙動を得ることができる。
【0059】
VMM機能260によって考慮される実際の車両状態は、ユニット上の点の横方向位置、ユニットのヨーレート、ユニットの横方向加速度、ユニットの横方向速度、及びユニットの車体横滑りのいずれかを含み得る。これらの状態は、様々なセンサによって直接測定され得るか、または関連状態に基づいて間接的に推定され得る。
【0060】
VMM機能260は、ステアリングオフセット値を決定し、ステアリングオフセット値に応じて運動支援装置の制御の設定点265を決定するように構成され得る。ステアリングオフセット値は、直接的に測定されるか、または関連量に基づいて間接的に推定され得る。ステアリングオフセット値は、車両のパワーステアリングシステムに送られる前に、ADコントローラからのステアリング角の要求を少なくとも部分的に調整するために使用される。
【0061】
図3は、ここでは摩擦ブレーキ320(ディスクブレーキまたはドラムブレーキなど)、推進装置340、及びステアリング装置330を含むいくつかの例示的なMSDによって、車両100の例示的な車輪310を制御するための機能300を模式的に示す。摩擦ブレーキ320及び推進装置は、車輪トルク生成装置の例であり、1つ以上の運動支援装置の制御ユニット230によって制御することができる。制御は、例えば、車輪速度センサ350から得られる測定データと、レーダセンサ、ライダセンサ、ならびにカメラセンサ及び赤外線検出器などの視覚ベースのセンサなどの他の車両状態センサ370から得られる測定データとに基づく。MSD制御ユニット230は、1つ以上のアクチュエータを制御するように構成され得る。例えば、MSD制御ユニット230が車軸上の両方の車輪を制御するように構成されていることは珍しくない。各MSDは、MSDの挙動を制御する入力データを表す、いくつかの設定点を有する。VMM機能260は、ADコントローラ270によって期待される車両挙動と一致する車両挙動を得るために、様々なMSDを調整するように構成される。
【0062】
機能300は、例えば、パワーステアリング装置330を介してステアリング角δを制御することを含む。MSD制御ユニット230は、任意選択のステアリング角センサ360から直接的に、または、MSD制御ユニット230によって生成されたステアリング角の制御入力の関数としてのステアリング角のモデルを介して間接的に、現在のステアリング角に関連する情報を受け取る。
【0063】
ADコントローラ270は、10秒程度の計画対象期間で運転操作を計画する。この時間枠は、例えば、車両100がカーブなどを通過するのにかかる時間に対応する。ADコントローラによって計画及び実行される車両の操作は、所与の操作で維持される車両の前方方向及び旋回の所望の目標車両速度を記述する加速度プロファイル及び曲率プロファイルに関連付けることができる。ADコントローラは、車両モデル261によって生成された所望の車両挙動を使用して、安全かつ堅牢な方法でADコントローラ機能からの要求を満たす力配分を実行するVMM機能260から所望の加速度プロファイルareq及びステアリング角(または曲率プロファイルcreq)を継続的に要求する。VMM機能260は、任意選択で、例えば生成できる力、最大速度、及び加速度などの観点から車両の現在の能力を詳述する能力情報をADコントローラ270に継続的にフィードバックする。VMM機能260は、約1秒未満のタイムスケールで動作する。
【0064】
車輪310は、縦方向速度成分v
x及び横方向速度成分v
yを有する。縦方向の車輪力Fxと横方向の車輪力F
yがあり、車輪には垂直抗力F
zも作用する(
図3には示されていない)。特に明記しない限り、車輪力は車輪の座標系で定義される。つまり、縦方向の力は車輪の回転面に向けられ、横方向の車輪力は車輪の回転面に垂直に向けられる。車輪の回転速度はω
x、半径はRである。
【0065】
縦方向車輪スリップλ
xは、SAEJ670(SAE Vehicle Dynamics Standards Committee,2008年1月24日)に従って、以下のように定義してもよい。
【数1】
ここで、Rは有効車輪半径(メートル)であり、ω
xは車輪の角速度であり、v
xは車輪の縦方向速度(車輪の座標系における)である。したがって、λ
xは-1~1に制限され、車輪が路面に対してどのくらいスリップしているかを定量化する。車輪スリップは、本質的に、車輪と車両との間で測定される速度差である。したがって、本明細書で開示した技術は、任意のタイプの車輪スリップ定義と使用するために適応できる。また、車輪スリップ値は、車輪の座標系において表面に対する車輪の速度を考慮した車輪速度値と同等であることも理解される。
【0066】
VMM260及びオプションでMSD制御ユニット230もオプションで(車輪の基準フレームで)vxに関する情報を維持する一方、車輪速度センサ240などを使用してωx(車輪の回転速度)を決定することができる。
【0067】
車輪(またはタイヤ)が車輪力を生成するためには、スリップが発生する必要がある。スリップ値がより小さい場合、スリップと生成される力との間の関係はほぼ線形であり、比例定数はタイヤのスリップ剛性として示されることが多い。タイヤ310は、縦力Fx、横力Fy、及び垂直抗力Fzを受ける。垂直力Fzは、いくつかの重要な車両特性を決定するための鍵である。例えば、垂直抗力は、車輪によって達成可能なタイヤ横力Fyを大部分決定する。なぜなら、通常はFx≦μFzであり、μは道路摩擦条件に関連付けられた摩擦係数であるからである。所与の横スリップに対して利用可能な最大横力は、Hans Pacejkaによる「Tyre and vehicle dynamics」、Elsevier Ltd.2012,ISBN978-0-08-097016-5に記載されているように、いわゆるマジックフォーミュラによって表すことができる。
【0068】
図4は、達成可能なタイヤ力の例400を縦方向の車輪スリップの関数として示すグラフである。縦方向タイヤ力F
xは、車輪スリップが小さいところでは、ほぼ直線的に増加する部分410を示し、それに続いて、車輪スリップがより大きいところでは、より非線形挙動を伴う部分420を示す。取得可能な横方向タイヤ力F
yは、縦方向車輪スリップが比較的小さいところでも急速に減少する。適用されたブレーキコマンドに応答して得られる縦力が予測しやすく、必要に応じて十分なタイヤ横力を生成できる線形領域410で車両の運転を維持することが望ましい。この領域での運転を確実にするために、例えば0.1程度の車輪スリップ限界λ
limを所与の車輪に課すことができる。車輪スリップがより大きいところ、例えば0.1を超えるところでは、より非線形の領域420が見られる。この領域での車両の制御は困難な場合があるため、回避されることが多い。トラクション制御のためにより大きなスリップ限界が好まれ得るオフロード条件などでのトラクションには面白いかもしれないが、路上運転ではそうではない。
【0069】
車輪310のスリップ角αは、次式で定義される。
【数2】
本明細書に記載される技法のいくつかは、大部分の車両操縦及び大部分の車両状態に対して、それを超えると車両操縦能力が悪化するスリップ角αが存在する、すなわち、スリップ角をさらに増加させると、車両の操縦性が悪化するだけであり、「増加させれば増加させるほど悪くなり」、非線形の車両挙動を招き得る、という認識に依拠している。車両100のある車輪の現在の横滑り角が限界値に近づくと、その後、横滑り角が大きくなり過ぎるため、それ以上ステアリング角を増加させる意味がもはやなくなる。以下に説明するように、大きすぎる横滑り角は、多くの場合、長手方向の力を発生する能力の損失をもたらす。また、小さな長手方向の車輪スリップでは、横滑り角が大きすぎると、タイヤによって発生する横力が減少することを示すことさえもあり得る。このことは、ステアリング角の設定点の増加が、車両100によるステアリング量の減少を生じさせるだけであるので、VMM機能260が、ADコントローラからのステアリング角の要求の増加に応答して、実際のハンドル角を実際に減少させ得ることを意味する。現在の道路状態、及び車両100のタイヤの状態を追跡することによって、VMM機能260は、AD制御から発行されたステアリング要求に対する車両100によるより一貫した応答を得るために、MSDの制御配分及びMSDの設定点を調整することができる。
【0070】
図3に示す種類のタイヤモデル400は、VMM260によって使用されて、ある車輪で所望のタイヤ力を生成することができる。VMMは、所望のタイヤ力に対応するトルクを要求する代わりに、所望のタイヤ力を等価の車輪スリップ(すなわち、対地速度に対する車輪速度)に変換し、このスリップを代わりに要求することができる。主な利点は、MSD制御デバイス230が、例えば、車輪速度センサ350から取得された車両速度v
xと車輪回転速度ω
xとを使用して、所望の車輪スリップでの動作を維持することにより、はるかに高い帯域幅で要求されたトルクを伝達できることである。車両速度v
xは、全地球測位システム(GPS)受信機などと組み合わせた、レーダ、ライダ、視覚ベースのセンサなどの様々な車両センサから取得することができる。
【0071】
制御ユニット130、140は、所定の逆タイヤモデルf-1を、例えばルックアップテーブルとしてメモリに記憶するように構成することができる。逆タイヤモデルが、車輪310の現在の動作条件の関数としてメモリ内に記憶されるように構成されている。これは、逆タイヤモデルの挙動が車両の動作条件に基づいて調整されることを意味し、これは、動作条件を考慮しないものと比較して、より正確なモデルが得られることを意味する。メモリ内に記憶されるモデルは、実験及び試行に基づいて、または解析的導出に基づいて、または2つの組み合わせに基づいて決定することができる。例えば、制御ユニットは、現在の動作条件に応じて選択される異なるモデルの組にアクセスするように構成することができる。ある逆タイヤモデルは、垂直力が大きい高荷重運転用に調整することができ、他の逆タイヤモデルは、道路摩擦が低いなどの滑りやすい道路状態用に調整することができる。使用すべきモデルの選択は、所定の組の選択ルールに基づくことができる。また、メモリ内に記憶されるモデルは、少なくとも部分的に、動作条件の関数とすることができる。したがって、モデルは、例えば、垂直力または道路摩擦を入力パラメータとして取得し、それによって車輪310の現在の動作条件に基づいて逆タイヤモデルを取得するように構成してもよい。動作条件の多くの態様は、初期設定の動作条件パラメータによって近似できるが、動作条件の他の態様は、より小さい数のクラスに大まかに分類できることが理解される。したがって、車輪310の現在の動作条件に基づいて逆タイヤモデルを取得することは、多数の異なるモデルを記憶する必要があることも、細かい粒度で動作条件の変動を考慮できる複雑な解析関数を記憶する必要があることも、必ずしも意味しない。むしろ、動作条件に応じて選択される2つまたは3つの異なるモデルがあれば、十分であり得る。例えば、車両が大量に荷物を積んでいる場合はあるモデルを使用し、そうでない場合は他のモデルを使用する。全ての場合において、タイヤ力と車輪スリップとの間のマッピングは、動作条件に基づいて何らかの方法で変化し、マッピングの精度を向上させる。
【0072】
また、逆タイヤモデルは、車両の現在の動作条件に自動的にまたは少なくとも半自動的に適応するように構成された適応モデルとして、少なくとも部分的に実施してもよい。これは、所与の車輪スリップ要求に応答して生成される車輪力に関して所与の車輪の応答を常にモニタリングすること、及び/または車輪スリップ要求に応答する車両100の応答をモニタリングすることによって達成することができる。そして適応モデルを、車輪からの所与の車輪スリップ要求に応答して取得される車輪力をより正確にモデリングするように、調整することができる。
【0073】
特に、車輪スリップを慎重に監視することによって、1つ以上のタイヤによる非線形挙動を回避することができる。車両による非線形挙動は、多くの場合、正確にモデル化することが困難である。したがって、車両をタイヤ力曲線の線形領域内に維持することによって、より一貫した車両挙動を得ることができる。
【0074】
逆タイヤモデルは、リモートサーバ190から、例えばソフトウェアの更新として自動的に構成することができる、または車両の日常的な整備を行う技術者によって手動で構成することもできる。
【0075】
図5は、車両制御機能アーキテクチャの例を示し、ADコントローラ270は、車両運動要求275を生成し、車両運動要求275は、車両が従うべき所望のステアリング角δまたは同等の曲率を含み、任意選択で、所望の車両ユニット加速度a
reqと他のタイプの車両運動要求を含むこともでき、それらは一緒に、所望の速度プロファイルで所望の経路に沿った車両による所望の運動を記述する。運動要求は、操縦を成功裏に完了するために生成する必要がある必要量の縦力及び横力を決定または予測するためのベースとして使用できることが理解される。
【0076】
VMM機能260は、約1秒程度の計画対象期間で動作し、ADコントローラ270からの加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqを車両100の様々なMSDによって作動される車両運動機能を制御するための制御コマンドに継続的に変換し、MSDは、性能をVMMに報告し、次にそれらは、車両制御の制約として使用される。VMM機能260は、車両の状態または運動推定510を実行する。すなわち、VMM機能260は、MSDに接続していることが多いが必ずしも接続しているわけではない車両100に配置された様々なセンサ550を使用して動作を監視することによって、車両の組み合わせの様々なユニットの位置、速度、加速度、及び連結角度を含む車両状態sを継続的に判断する。
【0077】
運動推定510の結果、すなわち、推定された車両状態sは、力生成モジュール520に入力され、力生成モジュール520は、車両100を必要な加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqに従って移動させ、所望の車両挙動に従って動作させるように様々な車両ユニットに必要とされる全体的な力V=[V1,V2]を決定する。必要な総力ベクトルVは、MSD協調機能530に入力され、MSD協調機能530は、車輪力を割り当て、ステアリングやサスペンションなどの他のMSDを協調させる。MSD協調機能は、i番目の車輪に対するMSDの制御配分を出力し、これは、トルクTi、縦方向の車輪スリップλi、車輪回転速度ωi、及び/または車輪ステアリング角δiのいずれかを含み得る。次に、協調されたMSDは、一緒に、連結車両100によって所望の運動を得るために、車両ユニットへの所望の横力Fy及び縦力Fx、ならびに必要なモーメントMzを提供する。したがって、VMM機能が所望の挙動を得ることを目的としてMSDの制御配分を行うので、第1のモデル272の出力に基づいてADコントローラ270が車両100から期待する応答もまた、実際には物理的な車両から得られる。
【0078】
例えば、全地球測位システム、視覚ベースセンサ、車輪速度センサ、レーダセンサ、ステアリング角センサ、及び/またはライダセンサを使用して車両ユニットの運動を決定し、この車両ユニットの運動を所与の車輪310のローカル座標系に変換することによって(例えば、縦及び横の速度成分に関して)、車輪基準座標系での車両ユニットの運動を、車輪310に接続して配置された車輪速度センサ350から取得したデータと比較することによって、車輪スリップをリアルタイムで正確に推定することが可能になる。
図4に関連して上述したタイヤモデルを使用して、所与の車輪iの所望のタイヤ縦力Fx
iと、車輪の等価の縦方向車輪スリップλ
iとの間を変換することができる。縦方向車輪スリップは、車輪回転速度と対地速度との間の差に関係し、後でより詳細に説明する。車輪速度ωは、車輪の回転速度であり、例えば、1分あたりの回転数(rpm)、またはラジアン/秒(rad/sec)もしくは度/秒(deg/sec)で表される角速度の単位で与えられる。本明細書では、タイヤモデルは、上述したように、車輪スリップの関数として縦方向(転がり方向)及び/または横方向(縦方向に直交する方向)に発生する車輪力を表す車輪挙動のモデルである。「Tyre and vehicle dynamics」、Elsevier Ltd.2012,ISBN978-0-08-097016-5、では、Hans Pacejka氏は、タイヤモデルの基礎を取り上げている。例えば、車輪スリップと縦方向の力との間の関係が説明されている第7章を参照されたい。
【0079】
要約すると、本開示のいくつかの態様によって、VMM機能260は、力生成及びMSD協調の両方を管理する。すなわち、VMM機能260は、例えば、TSMによって要求される必要な加速プロファイルに従って車両を加速させるために、及び/または同じくTSMによって要求される車両による特定の曲率運動を生成するTSM機能270からの要求を満たすために車両ユニットで必要とされる力を決定する。力には、例えば、ヨーモーメントMz、縦方向力Fx、及び横方向力Fy、ならびに異なるホイールに加えられる異なる種類のトルクが挙げられ得る。力は、ADコントローラ270によって生成された制御入力に応答して、例えば、ADコントローラによって期待される車両挙動を生成するように決定される。
【0080】
車両の車輪にステアリングとオプションでトルクも伝えることができるVMMとMSDの間のインタフェース265は、従来、車輪スリップを考慮せずに、VMMから各MSDへのトルクベースの要求に焦点を当ててきた。しかし、このアプローチには重大な性能限界がある。安全を最重視すべきまたは過度のスリップ状況が生じた場合、別個の制御ユニット上で動作される関連する安全機能(牽引制御、アンチロックブレーキなど)は通常、スリップを制御に戻すために、介入してトルクオーバーライドを要求する。このアプローチに関する問題は、アクチュエータの一次制御とアクチュエータのスリップ制御とが、異なる電子制御ユニット(ECU)に割り当てられるため、それらの間の通信に伴う待ち時間によって、スリップ制御性能が著しく制限されることである。また、実際のスリップ制御を実現するために使用される2つのECUにおいて行われる関連するアクチュエータ及びスリップの想定は一致しない可能性があり、この結果、準最適な性能となる可能性がある。代わりに、VMMと、1つのMSDコントローラ230または複数のMSDコントローラ230との間のインタフェース265で車輪速度または車輪スリップベースの要求を使用することによって大きな利点を実現でき、困難なアクチュエータ速度制御ループをMSDコントローラに移行し、MSDコントローラは、一般に、VMM機能のサンプル時間と比較してかなり短いサンプル時間で動作する。このようなアーキテクチャによって、トルクベースの制御インタフェースと比較してはるかに優れた外乱除去を得ることができ、したがって、タイヤ道路接地面において生成される力の予測可能性が改善される。この高速MSD制御は、ADコントローラ270によって発行された制御要求に応答して、期待される車両挙動を忠実に模倣するのに特に適している。
【0081】
所望の車両挙動は、例えば、
図7に示すように、大型車両100の車両ユニット110、120コントローラ位置のいずれかによって表すことができる。所望の車両挙動は、車両ユニット110、120のヨーレート、車両ユニット110、120の横方向加速度、車両ユニット110、120の横方向速度、及び車両ユニット110、120の車体横滑りによって表すこともできる。
【0082】
制御システム130、140は、所望の車両挙動を得るための運動支援装置の制御配分の設定点を決定するように構成された第3の車両モデル262を、さらに備えることができる。この第3の車両モデルは、1つ以上のセンサからのフィードバックに基づいて周期的に更新されるように構成され得る。第3の車両モデルは、所望の車両挙動に基づいて運動支援装置のフィードフォワード制御を実行するように構成することもできる。
【0083】
態様によれば、第3の車両モデル262は、横風によって引き起こされる車両運動の推定、路面バンクによって引き起こされる車両運動の推定、車軸調整不良によって引き起こされる車両運動の推定、タイヤ半径の差によって引き起こされる車両運動の推定、大型車両100のステアリングシステムにおけるコンプライアンスのモデル、及び大型車両100のステアリングシステムへのサスペンション移動影響のモデルのいずれかを含む。
【0084】
図8は、前述の考察の少なくとも一部を要約した方法を例示するフローチャートである。大型車両100の運動を自律的に制御するための車両制御ユニット130、140において実行されるコンピュータ実施方法が示されている。本方法は、自動運転ADコントローラ270に軌道追跡機能を構成すること(s1)であって、軌道追跡機能271が、所望の車両軌道を追跡するように構成されること(s1)と、要求されたステアリング角に対する大型車両100による応答をモデル化するように構成された第1の車両モデル272を構成すること(s2)と、所望の車両軌道及び第1の車両モデル272に基づいて、ADコントローラ270によって、ステアリング角の要求275を生成すること(s3)と、ADコントローラ270からステアリング角の要求275を受け取る車両運動管理(VMM)機能260を構成すること(s4)であって、VMM機能260が、第1の車両モデル272と整合されるように構成された第2の車両モデル261を備え、VMM機能260が、ステアリング角の要求275に対する第2の車両モデル261の応答に基づいて、所望の車両挙動を取得するように構成され、VMM機能260が、所望の車両挙動に応じて、運動支援装置の制御の設定点265を決定するように構成されること(s4)と、を含む。
【0085】
図9は、VCU130、140のいずれかなどの制御ユニットのコンポーネントを、いくつかの機能ユニットに関して概略で示す。制御ユニットは、本明細書に説明される実施形態に従って、ADコントローラ270、VMM260、及び/またはMSDの制御機能230のうち、上述の機能の1つ以上を実装し得る。制御ユニットは、大型車両100の制御について上述された機能の少なくともいくつかを実行するように構成されている。処理回路910は、例えば、記憶媒体920の形態のコンピュータプログラム製品に記憶されたソフトウェア命令を実行することができる適切な中央処理ユニット(CPU)、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)などのうちの1つ以上を任意に組み合わせて使用して提供されている。処理回路910は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路(ASIC)、または、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)としてさらに提供されてもよい。
【0086】
特に、処理回路910は、
図8に関連して説明された方法などの動作またはステップのセットを制御ユニットに実行させるように構成される。例えば、記憶媒体920は動作のセットを格納し得、処理回路910は記憶媒体920から動作のセットを読み出し、制御ユニット130、140に動作のセットを実行させるように構成され得る。一連の動作は、実行可能命令のセットとして提供してもよい。したがって、処理回路910は、それによって、本明細書に開示の命令を実行するように構成される。
【0087】
例えば、処理回路は、大型車両100の車両運動管理(VMM)260用の制御ユニット130、140を実現してもよく、制御ユニット130、140は、VMM機能260を実施するように構成される。制御ユニットは、ADコントローラ270からステアリング角の要求275を受け取るように構成された処理回路を備えており、VMM機能260は、ADコントローラ270の第1の車両モデル272と整合されるように構成された第2の車両モデル261を備えており、VMM機能260は、ステアリング角の要求275に対する第2の車両モデル261の応答に基づいて、所望の車両挙動を取得するように構成されており、VMM機能260は、所望の車両挙動に応じて、運動支援装置の制御の設定点265を決定するように構成されている。
【0088】
また、記憶媒体920には永続的な記憶装置が含まれていてもよい。これは、例えば磁気メモリ、光メモリ、ソリッドステートメモリ、またはさらに遠隔に取り付けられたメモリのうちの任意の単一のものまたは組み合わせとすることができる。
【0089】
制御ユニット130、140は、さらに、少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインタフェース930を含んでいてもよい。したがって、インタフェース930は、アナログコンポーネント及びデジタルコンポーネントと、有線通信または無線通信のための適切な数のポートとを含む、1つ以上の送信機及び受信機を含み得る。
【0090】
処理回路910は、例えば、データ及び制御信号をインタフェース930及び記憶媒体920に送信することによって、データ及び報告をインタフェース930から受信することによって、かつ、データ及び命令を記憶媒体920から受信することによって、制御ユニット130、140の一般的な動作を制御する。制御ノードの他のコンポーネントならびに関連する機能は、本明細書で提示した考え方を不明瞭にしないように省略する。
【0091】
図10は、上述のプログラム製品がコンピュータ上で実行されると、
図8に示す方法を実行するためのプログラムコード手段1020を含むコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体1010を示す。コンピュータ可読媒体及びコード手段は一緒に、コンピュータプログラム製品1000を形成し得る。
【国際調査報告】