(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】PARP阻害剤に耐性のある患者のTH-302による治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/675 20060101AFI20240822BHJP
A61K 31/502 20060101ALI20240822BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K31/675
A61K31/502
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513162
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-08
(86)【国際出願番号】 CN2022115284
(87)【国際公開番号】W WO2023025312
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】202110996009.2
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517319271
【氏名又は名称】アセンタウィッツ ファーマシューティカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チ、テンヤン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、シン
(72)【発明者】
【氏名】デュアン、ジャンーシン
(72)【発明者】
【氏名】モン、ファンイン
(72)【発明者】
【氏名】リ、アンロン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086DA38
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、TH-302の単剤又は併用により、PARP阻害剤に耐性のある患者を治療する治療方法、薬物、及びその製薬用途を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物の単剤または併用により、PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者を治療する治療方法であって、
式中、RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOなどの脱離官能基から独立して選択される、治療方法。
【請求項2】
式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物とともに、PARP阻害剤を併用して、PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者を治療する、請求項1に記載の治療方法。
【請求項3】
前記患者のDNA修復酵素は損傷しているか、又は
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は
前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される、請求項1または2に記載の治療方法。
【請求項4】
BRCA1、BRCA2変異は、生殖細胞系列の変異(gBRCAm)及び体細胞系列の変異(sBRCAm)のBRCA1、BRCA2変異を含む、請求項3に記載の治療方法。
【請求項5】
前記PARP阻害剤は、オラパリブOlaparib、ルカパリブRucaparib、ニラパリブNiraparib、タラゾパリブTalazoparib、フルゾパリブFluzoparib、パミパリブPamiparibからなる群より選択され、
前記癌、腫瘍は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、肺癌、膀胱癌からなる群より選択され、前記肺癌は、非小細胞肺癌、小細胞肺癌であることが好ましい、請求項1または2に記載の治療方法。
【請求項6】
式(I)の酸素欠乏活性化化合物は、以下の構造を有する化合物から選択される、請求項1または2に記載の治療方法。
【請求項7】
下記の式の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物単剤により、オラパリブOlaparib耐性の卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌患者を治療する治療方法であって、
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は、前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される、治療方法。
【請求項8】
下記の式の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物とともに、オラパリブOlaparibを併用して、オラパリブOlaparib耐性の卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌患者を治療する治療方法であって、
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は、前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される、治療方法。
【請求項9】
治療方法であって、PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者のBRCA1、BRCA2遺伝子変異の状況を検出するステップと、
前記患者がBRCA1、BRCA2遺伝子変異を有する場合、式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物単剤を使用して、又はPARP阻害剤を併用して治療するステップと、
を含み、
式中、RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOなどの脱離官能基から独立して選択される、治療方法。
【請求項10】
前記遺伝子変異のTMB(腫瘍遺伝子変異量)は中レベルである、請求項3、4、7、8、又は9のいずれか一項に記載の治療方法。
【請求項11】
単剤で、またはPARP阻害剤と併用して、患者の癌を治療するための薬物の調製における、式(I)の酸素欠乏活性化化合物の使用であって、
前記患者はPARP阻害剤に耐性のある患者であり、
RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOなどの脱離官能基から独立して選択される、使用。
【請求項12】
前記患者のDNA修復酵素は損傷しているか、又は
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は
前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記BRCA1、BRCA2変異は、生殖細胞系列の変異(gBRCAm)及び体細胞系列の変異(sBRCAm)のBRCA1、BRCA2変異を含み、
前記遺伝子変異のTMB(腫瘍遺伝子変異量)は中レベルである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
式(I)の酸素欠乏活性化化合物は、以下の構造を有する化合物から選択され、
前記PARP阻害剤は、オラパリブOlaparib、ルカパリブRucaparib、ニラパリブNiraparib、タラゾパリブTalazoparib、フルゾパリブFluzoparib、パミパリブPamiparibからなる群より選択され、又は
前記癌、腫瘍は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌からなる群より選択される、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者を治療するための、式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物であって、
式中、RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOなどの脱離官能基から独立して選択される、薬物。
【請求項16】
前記患者のDNA修復酵素は損傷しているか、又は
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は
前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、好ましくは、BRCA1、BRCA2変異は、生殖細胞系列の変異(gBRCAm)及び体細胞系列の変異(sBRCAm)のBRCA1、BRCA2変異を含む、請求項15に記載の薬物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療方法に関し、特に、PARP阻害剤(PARPi)耐性の癌患者の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PARPi薬物であるオラパリブOlaparibの最初のヒト臨床試験では、PARPiがBRCA1/2変異を有する腫瘍細胞の増殖を阻害することができることが初めて実証されているが、これは主に、PARP阻害剤がPARPのDNA一本鎖損傷修復機能を阻害し得る結果、細胞内の大量の一本鎖DNA損傷を適時に修復することができないという合成致死性理論(Ashworth,A.,&Lord,CJ.(2018).Synthetic lethal therapies for cancer:what’s next after PARP inhibitors?.Nature reviews.Clinical oncology,15(9),564‐576.https://doi.org/10.1038/s41571-018-0055-6)に基づくものである。修復されない一本鎖DNA損傷は複製フォークの崩壊を引き起こし、それによって二本鎖DNA損傷を生じ、強い細胞毒性を有する二本鎖DNA損傷は、BRCA1及びBRCA2などのタンパク質によって共同で媒介される相同組換え修復(HR)経路を通じて正常細胞内で修復可能であるが、BRCA1/2が欠損した腫瘍細胞内では、二本鎖DNA損傷は修復できず、腫瘍細胞の最終的な死につながる。PARPiは、もともと放射線治療及び化学療法増感のために開発され、PARPiがBRCA1/2遺伝子欠損癌を治療するための単一の薬物として開発され得ることを支持する前臨床研究もある。よって、PARPi-BRCA仮説を検証するための最初の標的集団は、BRCA1/2生殖細胞系列の変異(gBRCA1/2)キャリアを選定した。卵巣癌におけるPARPiの最初の研究登録集団は、いずれも以前プラチナベースの化学療法を受けたことがあり、そして研究では、プラチナ系の感受性がPARPi応答に直接関連することが分かった(プラチナベースの化学療法剤はDNA架橋をもたらすDNA損傷剤であり、一部はHR経路によって修復可能であるため、DNA修復欠損腫瘍はプラチナベースの化学療法に対して感受性があると予想される)。別の2つのPARPiのニラパリブNiraparibおよびルカパリルRucaparibは、卵巣癌の治療において承認されており、FDAおよびEMAは、ニラパリブによる維持療法を承認し(BRCA1/2の状態に関係なく)、ルカパリブも、BRCA1/2変異関連卵巣癌患者が2種類の化学療法プロトコルを受けた後の代替治療プロトコルとしてFDAおよびEMAによって登録されており、タラゾパリブも、BRCA変異/HER-2陰性転移性乳癌を治療するために、FDAによって承認されている(Mateo,J.,Lord,C.J.,Serra,V.,Tutt,A.,Balmana,J.,Castroviejo-Bermejo,M.,Cruz,C.,Oaknin,A.,Kaye,S.B.,& de Bono,J.S.(2019).A decade of clinical development of PARP inhibitors in perspective.Annals of oncology:official journal of the European Society for Medical Oncology,30(9),1437‐1447.https://doi.org/10.1093/annonc/mdz192)。
【0003】
PARPiが臨床的に使用されるにつれて、PARPi耐性はその臨床使用における不可避の問題となり、BRCAm(BRCA変異)卵巣癌患者の40%超がPARPiの恩恵を受けられなかった。既存の研究から、相同組換え回復(Homologous recombination repair restoration、HRR)、DNA複製フォーク保護、PARPi薬物動態の変化などは、PARPi薬物耐性をもたらす主要な原因であることが示されている。PARPi薬物耐性を克服し、PARPi薬物感受性を高めるために、様々な併用療法が開発されており、その多くは臨床的な段階に入っている。主に、PARPi-DNAアルキル化剤の併用、PARPi-腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSVs)の併用、PARPi-イオン放射の併用、PARPi-免疫療法の併用、PARPi-HSP90阻害剤の併用、PARPi-WEE1/ATR阻害剤の併用、PARPi-DNMTi阻害剤の併用、PARPi-CDK阻害剤の併用等を含む(He Li,Zhao-Yi Liu,Nayiyuan Wu,Yong-Chang Chen,Quan Cheng and Jing Wang.PARP inhibitor resistance:the underlying mechanisms and clinical implications.Mol Cancer,2020 Jun20;19(1):107.2020.https://doi.org/10.1186/s12943-020-01227-0;Rose,M.,Burgess,J.T.,O’Byrne,K.,Richard,D.J.,&Bolderson,E.(2020).PARP Inhibitors:Clinical Relevance,Mechanisms of Action Tumor Resistance. Frontiers in cell and developmental biology,8,564601.https://doi.org/10.3389/fcell.2020.564601)。
【0004】
TH-302(Evofosfamide、エボホスファミド、cas番号918633-87-1)は、米国Threshold社によって開発された、2-ニトロイミダゾール誘発性の酸素欠乏活性化プロドラッグ(HAP)ブロモイソホスファミドである。不活性TH-302プロドラッグは、酸素欠乏の場合に、毒性の高いBr-IPMを放出し得る。TH-302は、in vitroおよびin vivoでの幅広い生物学的活性と特異的な酸素欠乏選択的活性化活性を有し、H2AXリン酸化、DNA架橋活性を誘導し、細胞周期停止を引き起こすため、この化合物は、多数の製薬会社および科学研究機関によって抗癌薬物の開発が行われている。
【0005】
Meng F Y(孟繁英)らの研究論文では、TH-302は、種々の腫瘍に対して幅広い活性を有し、優れた低酸素選択性による活性増強効果を有することが示されている。研究によれば、低酸素条件下の32人の癌細胞株のTH-302のインビトロ細胞毒性はいずれも正常酸素条件下よりも明らかに強いことが示されており、この化合物は低酸素条件下の癌細胞に対して選択的な細胞毒性を有することが示されている。一電子還元酵素(POR)を過剰発現させたヒト由来の細胞を用いて、酸素欠乏条件下での一電子還元酵素依存的なTH-302の活性増強原理が実証された。下記反応式1に示す通りである。
【0006】
シトクロムP450酸化還元酵素はプロドラッグTH-302を還元して中間体ラジカルアニオンを生成し、ラジカルアニオンは不安定で細胞毒性の細胞毒素Br-IPMに分解されて作用する。このステップの重要な過程は、一電子還元プロセスであり、研究によれば、酸素の存在が一電子還元プロセスを逆転させること、すなわち、酸素の存在が一電子還元プロセスを妨害することが実証されたため、TH-302は、酸素欠乏環境下でのみ、還元されてより強い細胞毒性を生じることが可能である。塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復、非相同末端連結修復または相同末端連結修復を欠損した細胞株を含む、チャイニーズハムスター卵巣細胞に基づくDNA修復突然変異細胞株(この細胞株は相同依存性修復を欠く細胞株である)をさらに使用して、TH-302のインビトロ細胞毒性を検出した。研究によれば、相同末端連結修復を個別に欠損するか、又は相同末端連結修復とヌクレオチド除去修復とを共同に欠損する細胞株は、TH-302低酸素感受性を著しく増強した。しかし、塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復、または非相同末端連結修復を個別に欠損した細胞株は、TH-302感受性に影響を与えない。この発見と一致して、TH-302感受性の増強は、BRCA1、BRCA2及びFANCAを欠くインビトロ細胞実験でも観察された。かつ臨床試験においても、TH-302がBRCA遺伝子変異を有する患者に対してより良好な治療効果を有することが観察された(Meng F,Evans J W,Bhupathi D,et al.Molecular and cellular pharmacology of the hypoxia-activated prodrug TH-302.[J].Molecular Cancer Therapeutics,2012,11(3):740;Conroy,M.,Borad,M.J.,&Bryce,A.H.(2017).Hypoxia-Activated Alkylating Agents in BRCA1-Mutant Ovarian Serous Carcinoma.Cureus,9(7),e1517.https://doi.org/10.7759/cureus.1517;WO2015013448A1,Treatment of pancreatic cancer with a combination of a hypoxia-acti vated prodrug and A taxane;WO2020007106A1、エボホスファミドの抗癌医薬用途)。
【0007】
TH-302の作用メカニズムに関するこれらの研究、特にBRCA変異に対するTH-302の特別な感受性が開示された事実は、TH-302薬物が併用することによりPARPiの薬物耐性という欠点を克服し得ることを示唆している。
【0008】
しかし、PCT/US2012/031677出願(公開番号WO2012135757A2、Methods for treating cancer、出願人、米国Threshold社)では、Thresholdの研究者は、TH-302とPARPi候補薬物ABT-888(すなわち、Veliparib、CAS:912444-00-9)を使用して、インビトロで併用の研究を行った。
【0009】
異なる癌細胞を、ABT-888で、正常酸素下で1時間前処理し、次いで、正常酸素下または低酸素下でTH-302と共にさらに2時間インキュベートした。ABT-888の存在下で3日間インキュベートした後、アルマーブルーを用いて細胞生存率を測定した。結果は、以下の表の通りである。
H460細胞株(ヒト大細胞肺癌細胞)の結果:
HCT116細胞株(ヒト結腸癌細胞)の結果:
A375細胞株(ヒト悪性黒色腫細胞)の結果:
【0010】
上記の結果は、インビトロ細胞実験において、TH-302とABT-888の併用は相加効果がないこと、すなわち、TH-302活性がABT-888の存在によって実質的に影響されないことを示している。
【0011】
しかしながら、PCT/US2019/065065号(公開WO2020118251A2、発明の名称:Hypoxia targeting compositions and combinations thereof with a parp inhibitor and methods of use thereof)には、低酸素活性化薬物又はそのプロドラッグ(例えば、apaziquone,AQ4N,etanidazole,evofosfamide(TH-302),nimorazole,pimonidazole,porfiromycin,PR-104,tarloxotinib,tirapazamine(チラパザミン))をPARPiと併用することで相加効果があることが開示されており、特に、チラパザミンとオラパリブの動物体内での併用投与試験も開示されており、結果として、チラパザミン又はPARPiを用いる単一投与プロトコルと比較して、低酸素活性化抗癌プロドラッグであるチラパザミンとPARPiオラパリブとの併用投与プロトコルは、PDX動物モデルにおける腫瘍の増殖速度を有意に遅延させること、すなわち、低酸素活性化抗癌薬物とPARPとの併用が相加効果を有することが示されている。
【0012】
つまり、様々な研究の試験において、低酸素活性化抗癌プロドラッグとPARPiとの併用が相加効果を有するかどうかについては、依然として論争があり、これは相加効果の複雑さを示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
出願人の研究者は、薬効試験において、TH-302とPARPiの併用が一部の動物体内腫瘍増殖阻害試験において相加効果を示すことを見出した。これは2012年Threshold社が行ったインビトロ細胞実験結果とは全く異なるものであった。このため出願人はさらに研究を行い、TH-302単剤がPARPi耐性の癌モデルに対して優れた治療効果を有するという予想外の結果をさらに得た。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願は、実験結果に基づいて、以下の癌の治療方法を提供する。
式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物の単剤または併用により、PARPi耐性の癌、腫瘍患者を治療する治療方法を提供する。
式中、RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOなどの脱離官能基から独立して選択される。
式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物とともに、PARP阻害剤を併用して、PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者を治療する治療方法を提供する。
式中、RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOなどの脱離官能基から独立して選択される。
【0015】
本明細書に記載される薬物は、薬品または製剤を指し、調製された薬品は特定の用量範囲の有効成分である式(I)の酸素欠乏活性化化合物、その塩、もしくは溶媒和物を含む、および/または調製された薬物は特定の剤形、特定の投与様式で投与される。
【0016】
調製された薬品、薬物、製剤は、薬学的に許容される補助剤または賦形剤をさらに含んでもよい。前記薬物は、臨床的に投与される任意の剤形、例えば、錠剤、坐剤、分散錠、腸溶錠、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、カプセル剤、糖衣剤、顆粒剤、乾燥粉末剤、経口液剤、注射用小容量注射剤、注射用凍結乾燥粉末注射剤または大容量非経口剤であり得る。具体的な剤形および投与様式に応じて、前記薬物における薬学的に許容される補助剤または賦形剤は、希釈剤、可溶化剤、崩壊剤、懸濁剤、滑沢剤、連結剤、充填剤、香味剤、甘味剤、抗酸化剤、界面活性剤、保存剤、カプセル剤、および色素などのうちの一種または数種を含んでもよい。
【0017】
は、経口製剤、凍結乾燥製剤、濃縮注射剤を含み、かつ関連する処方、調製方法及び臨床的な服薬、投与方法は、Threshold社の関連特許であるWO2010048330A1、WO2012142520A2、WO2008083101A1に詳細に説明及び開示されており、本発明は、上記出願の全体をここに組み込む。
【0018】
剤系の抗癌剤であり、広範な癌治療の可能性を有し、これらに関連する癌適応実験、臨床試験は、Threshold及び他の製薬会社の特許出願(例えば、WO2016011195A2、WO2004087075A1、WO2007002931A1、WO2008151253A2、WO2009018163A1、WO2009033165A2、WO2010048330A2、WO2012142520A1、WO2008083101A2、WO2020007106A1、WO2020118251A1、WO2014169035A1、WO2013116385A1、WO2019173799A2、WO2016081547A1、WO2014062856A1、WO2015069489A1、WO2012006032A2、WO2018026606A2、WO2010048330A2、WO2015171647A1、WO2013096687A1、WO2013126539A2、WO2013096684A2、WO2012009288A2、WO2012145684A2、WO2016014390A2、WO2019055786A2、WO2012135757A2、WO2015013448A2、WO2016011328A2、WO2013177633A2、WO2016011195A2、WO2015051921A2)及びFDA登録臨床試験(NCT02402062、NCT02020226、NCT02076230、NCT01381822、NCT02093962、NCT01440088、NCT02255110、NCT02342379、NCT01864538、NCT01149915、NCT02433639、NCT00743379、NCT01485042、NCT01721941、NCT02047500、NCT00742963、NCT01497444、NCT00495144、NCT01746979、NCT01144455、NCT01403610、NCT01522872、NCT01833546、NCT02598687、NCT03098160、NCT02496832、NCT02712567)に開示されており、ここで本発明は上記の関連する出願および臨床試験情報を全部組み込む。
【0019】
「癌」とは、攻撃によって局所的に、かつ転移によって全身的に拡張され得る、潜在的に無制限に増殖し得る白血病、リンパ腫、癌、および他の悪性腫瘍(固形腫瘍を含む)を指す。
【0020】
しては、副腎、骨、脳、乳房、気管支、結腸及び/又は直腸、胆嚢、頭頸部、腎臓、喉頭、肝臓、肺、神経組織、膵臓、前立腺、副甲状腺、皮膚、胃及び甲状腺の癌が挙げられるが、これらに限定されない。癌の他の例としては、急性及び慢性リンパ球性及び顆粒球性腫瘍、腺癌、腺腫、基底細胞癌、子宮頸部上皮の分化不全及び上皮内癌、ユーイング肉腫、類表皮癌、巨細胞腫、多形膠芽腫、毛様細胞腫瘍、腸神経節細胞腫、増殖性角膜神経腫瘍、膵島細胞癌、カポジ肉腫、平滑筋腫、白血病、リンパ腫、悪性カルチノイド腫瘍、悪性黒色腫、悪性高カルシウム血症、ウマ様腫瘍、骨髄上皮癌、転移性皮膚癌、粘膜神経腫、骨髄腫、菌状肉芽腫、神経芽腫、骨肉腫、骨原性及び他の肉腫、卵巣腫瘍、褐色細胞腫、真性赤血球増加症、原発性脳腫瘍、小細胞肺癌、潰瘍性及び乳頭型の両方の扁平上皮癌、過形成、精上皮腫、軟組織肉腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、腎細胞腫瘍、局所皮膚病変、細網肉腫、及びウィルムス腫瘍を含む。
【0021】
PARPは、ポリADP-リボースポリメラーゼ(Poly ADP-ribose Polymerase,PARP)と総称される酵素である。PARPはDNA修復酵素であり、DNA修復経路において重要な役割を果たす。DNAが損傷及び切断されるとPARPが活性化され、これは、DNA損傷の分子受容体として作用し、DNA切断部位を認識、連結し、さらにレセプタータンパク質のポリADPリボシル化を活性化、触媒する作用を有し、DNA修復プロセスに関与する。
【0022】
PARP阻害剤はPARP酵素の働きを阻害することで、これら「修理工」に相当するPARP酵素を正常に働かせないようにするものであり、DNAの損傷が修復されず、細胞は死滅する。
【0023】
細胞はPARPという「修理工」だけではないので、PARPが問題となっても、細胞のDNA損傷は次工程に持ち込まれ、別の「修理工」が待機しているので、DNAを修復することができる。BRCA遺伝子が産生を担うタンパク質は、この別の「修理工」の重要なメンバーである。正常細胞には、この二重の保険のメカニズムが有る、つまり、PARP阻害剤が一方の保険を破壊しても、もう一方の保険は依然として働き得るため、細胞は死滅しない。
【0024】
しかしながら、BRCA遺伝子変異を有する卵巣癌細胞又は乳癌細胞では、BRCAという「修理工」は、もはや正常に機能できない。もちろん、PARPグループは機能し続けるため、癌細胞が死滅することはない。
【0025】
PARP阻害剤が癌細胞に特異的に入ると、PARP酵素の活性が阻害され正常に働かなくなり、癌細胞のDNAが修復できなくなる。これにより、PARP阻害剤は、正常細胞を死滅させることなく、癌細胞のみを死滅させる作用を奏する。
【0026】
PARP阻害剤+BRCA遺伝子変異が同時に起こると、2つの異なる遺伝子(BRCA)またはタンパク質(PRAP)が同時に変化すると細胞死が引き起こされる、いわゆる「合成致死(Synthetic Lethality)」が発生するが、この2つの遺伝子/タンパク質の中で一方のみが異常であれば、細胞死は引き起こされない。
PARP阻害剤とは、PARP酵素に対して阻害作用がある化合物であり、PARP酵素活性を阻害できる物質はすべてPARP阻害剤である。
【0027】
市販されている5つの薬物、オラパリブOlaparib、ルカパリブRucaparib、ニラパリブNiraparib、タラゾパリブTalazoparib、フルゾパリブFluzoparib、および臨床第3相に入った薬物パミパリブPamiparibからなる群より選択され、ここでPARP阻害剤は、実質的にPARP阻害剤の活性成分を含有する薬物を意味することは明らかである。
【0028】
タラゾパリブTalazoparibは、有害又は有害と疑われる生殖系列BRCA突然変異(gBRCAm)HER2陰性の局所進行性又は転移性乳癌の成人に適用できる。市販の剤形は、0.25mg/1mgのタラゾパリブトシル酸カプセルであり、経口投与で1回1mg、1日1回、副作用が発生した場合には治療の中断または投薬量の減量を考慮する。
最初に副作用が発生した場合、経口用量を0.75mg(0.25mgカプセル3つ)に減らし、1日1回とする。
2回目に副作用が発生した場合、経口用量を0.5mg(0.25mgカプセル2つ)に減らし、1日1回とする。
3回目に副作用が発生した場合、経口用量を0.25mg(0.25mgカプセル1つ)に減らし、1日1回とする。
【0029】
ニラパリブNiraparibは、プラチナ感受性の再発性上皮性卵巣癌、卵管癌または原発性腹膜癌を患う成人患者がプラチナベース化学療法による完全寛解または部分寛解に達した後の維持治療に使用される。市販の剤形は、100mgのニラパリブトシル酸塩カプセルであり、疾患の進行または耐えられない副作用が発生するまで、1日1回300mgを経口投与し、副作用が発生した場合は治療の中断または用量の減量を考慮する。
用量の減量は、まず1日3カプセル(300mg)から1日2カプセル(200mg)に減少する。
さらなる用量の減量が必要な場合、2回目の用量を、1日2カプセル(200mg)から1日1カプセル(100mg)に減量してもよい。
薬物投与の中止や用量の減量が有害反応を制御できない場合、薬物の中止が推奨される。
【0030】
ルカパリブRucaparibは、腫瘍に特定の遺伝子変異(有害BRCA)を有し、2種又は数種の化学療法薬物で治療されたことがある進行性卵巣癌女性に使用される。市販の剤形は、200mg、250mgおよび300mgの3つの錠剤である。推奨される用量は、600mgであり、1日2回経口投与し、食事を伴うまたは伴わない。治療は、疾患が進行するまたは毒性が許容されなくなるまで継続される。有害な反応については、治療の中断または用量の減量を考慮する。
【0031】
オラパリブOlaparibは、生殖細胞系列または体細胞系列の変異(gBRCAmまたはsBRCAm)を有する進行上皮性卵巣癌、卵管癌、または原発性腹膜癌の初期治療を受けた成人患者がプラチナベース化学療法による完全寛解または部分寛解に達した後の維持治療、プラチナ感受性の再発性上皮性卵巣癌、卵管癌または原発性腹膜癌を患う成人患者がプラチナベース化学療法による完全寛解または部分寛解に達した後の維持治療に使用される。市販の剤形は、150mgおよび100mgの2つの錠剤である。推奨用量は、300mg(150mgの錠剤2錠)であり、1日2回、合計1日用量600mgに相当する。100mg錠剤は用量減少時に使用される。
吐き気、嘔吐、下痢、貧血などの有害事象に対処するために、治療の中止または減量を考慮してもよい。
減量が必要な場合、推奨用量を250mg(150mg錠剤1錠、100mg錠剤1錠)に減らし、1日2回(合計1日用量500mgに相当する)服用する。
さらなる減量が必要な場合、推奨用量は200mg(100mg錠剤2錠)に減らし、1日2回(合計1日用量400mgに相当する)服用する。
【0032】
フルゾパリブFluzoparibは、生殖細胞系列BRCA変異(gBRCAm)を伴う、過去に二次以上の化学療法を受けたプラチナ感受性再発性卵巣癌、卵管癌又は原発性腹膜癌患者の治療に使用される。市販の剤型は、50mgのカプセル剤である。
【0033】
他の研究中の臨床に入っているPARPi候補薬物は、Webリンク https://www.selleckchem.com/PARP.htmlおよび関連する学術レビュー文献を参照されたい。
【0034】
奨用量は、Threshold社および他の製薬会社の特許出願(例えば、WO2016011195A2、WO2004087075A1、WO2007002931A1、WO2008151253A2、WO2009018163A1、WO2009033165A2、WO2010048330A2、WO2012142520A1、WO2008083101A2、WO2020007106A1、WO2020118251A1、WO2014169035A1、WO2013116385A1、WO2019173799A2、WO2016081547A1、WO2014062856A1、WO2015069489A1、WO2012006032A2、WO2018026606A2、WO2010048330A2、WO2015171647A1、WO2013096687A1、WO2013126539A2、WO2013096684A2、WO2012009288A2、WO2012145684A2、WO2016014390A2、WO2019055786A2、WO2012135757A2、WO2015013448A2、WO2016011328A2、WO2013177633A2、WO2016011195A2、WO2015051921A2)およびFDA登録の臨床試験(NCT02402062、NCT02020226、NCT02076230、NCT01381822、NCT02093962、NCT01440088、NCT02255110、NCT02342379、NCT01864538、NCT01149915、NCT02433639、NCT00743379、NCT01485042、NCT01721941、NCT02047500、NCT00742963、NCT01497444、NCT00495144、NCT01746979、NCT01144455、NCT01403610、NCT01522872、NCT01833546、NCT02598687、NCT03098160、NCT02496832、NCT02712567)を参照してもよい。
1日当たり120mg/m
2~460mg/m
2の用量で静脈内投与する。
480mg/m
2~約670mg/m
2、又は、例えば、575mg/m
2の週用量で静脈内投与する。
【0035】
臨床試験に使用されるTH-302(溶液に使用するための濃縮物)は、TH-302の滅菌液体製剤である。70%無水エタノール、25%ジメチルアセトアミド、5%ポリソルベート80を用いて、TH-302を調製した。これは、ゴム栓およびflip-offシールを有する10mLガラスバイアルで、スポンサーによって提供される。TH-302医薬品は、清澄な無色~淡黄色の溶液であり、可視粒子を実質的に含まない。公称総量650mgのTH-302について、各単回使用バイアルは、公称充填体積6.5mL(100mg/mLに相当する)のTH-302医薬品を含有し、ロット番号、投与経路、必要な保管条件、スポンサーの名前、および適用可能な規定に必要とされる適切な警告マークを開示するラベルが明確に貼られている。投与前に薬局マニュアルに従って希釈する必要がある。
【0036】
投与前に、所望の最終濃度を得るために、市販の5%グルコース水溶液で希釈して総容量500mL(≧1000mgの総用量に対して1000mL)とした。各用量TH-302を、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)を含まない(DEHPなしの)5%グルコース水溶液で調製し、DEHPを含まない静脈内注入投与デバイスを使用して静脈内注入した。
もちろん、Threshold社によって開発された凍結乾燥製剤を使用することもできる。
【0037】
TH-302(100mg)及びスクロース(1g)の溶液(20mL)を凍結乾燥バイアルに加え、凍結乾燥して、5mg/cm3未満の薬物負荷でTH-302の凍結乾燥単位剤形を得る。ヒトへの投与を目的として、単位剤形を5%グルコース注射液に溶解し、適量の溶液を患者に投与する。
【0038】
ヒト患者を対象とした後続のTH-302の第I相臨床試験投与プロトコルは、凍結乾燥製剤を用いて、100mLのガラスバイアル中で注射用の凍結乾燥製剤を調製し、100mg/100mLの薬物負荷量で、2~8℃に制御された条件下で保存し、使用時に凍結乾燥製剤のバイアルに5%グルコース注射液250mLを注射し、注入ポンプにより30分以内で静脈内に点滴投与する。
【0039】
単剤は単剤療法である。併用は、併用療法である。単剤療法とは、1回の治療過程において1種のみの抗癌剤を使用することを意味する。併用療法とは、1つの治療過程において2種または2種以上の抗癌剤を同時にまたは順次に使用することを意味する。
【0040】
一般に、併用治療では、病態の特性、併用する薬剤の種類によって異なる投与量、投与サイクルを検討する必要があり、上記の状況に基づいてのみ、検討して得られた併用薬治療プロトコルは初めて、単剤治療よりも高い治療効果を得ることが可能である。
【0041】
単剤および併用療法プロトコルの薬物投与量、投与サイクルは、いずれも上記のTH-302およびその類似化合物およびPARPiの投与量、投与プロトコルを参照して臨床試験により検討することが必要である。
さらに、前記患者のDNA修復酵素は損傷している。
関連する研究文献によれば、DNA修復酵素の損傷は、
相同組換えDNA修復酵素(homologous recombination repair)の損傷、
ヌクレオチド除去修復酵素(nucleotide excision repair)の損傷、
非相同末端リガーゼ(nonhomologous end joining)の損傷、
塩基除去修復酵素(base excision repair)の損傷、
ミスマッチ修復酵素(mismatch repair)の損傷、
ファンコニ貧血(Fanconi’s anemia)経路修復酵素の損傷
から選択される1種または数種である。
【0042】
好ましくは、相同組換えDNA修復酵素の損傷、ヌクレオチド除去修復酵素の損傷、塩基除去修復酵素の損傷のいずれか一種または数種であり、より好ましくは、単独の相同組換えDNA修復酵素の損傷か、相同組換えDNA修復酵素の損傷とヌクレオチド除去修復酵素の両方の損傷である。
【0043】
更に、前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される。
BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異は、市販の(付随する)診断キットによって検出することができる。
【0044】
オラパリブOlaparibメイト検出キットBRACAnalysisCDxによる遺伝子検出は、卵巣癌患者の血液サンプル中のBRCA遺伝子変異を検出するために用いられる。
【0045】
BRCA1/2遺伝子変異検出キット(複合プローブアンカーシーケンシング法)は、卵巣癌及び乳癌と臨床的に診断された患者のBRCA1/2遺伝子のエクソン領域及び近接したイントロン領域の生殖細胞系列の変異を定性的に検出するために用いられる。
【0046】
ヒトBRCA1遺伝子およびBRCA2遺伝子検出キット(可逆的末端終結シーケンジング法)は、PARP阻害剤であるオラパリブの関連薬物ガイドに用いられる。
BRCA1、BRCA2変異は、生殖細胞系列の変異(gBRCAm)及び体細胞系列の変異(sBRCAm)のBRCA1、BRCA2変異を含む。
式(I)の酸素欠乏活性化化合物は、以下の構造の化合物から選択される。
【0047】
さらに、前記癌、腫瘍は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、肺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌などから選択され、前記肺癌は、非小細胞肺癌、小細胞肺癌であることが好ましい。
【0048】
治療方法であって、下記の式の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物単剤により、オラパリブOlaparib耐性の卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌患者を治療する。
【0049】
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は、前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される。
【0050】
治療方法であって、下記の式の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物とともに、オラパリブOlaparibを併用して、オラパリブOlaparib耐性の卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌患者を治療する。
【0051】
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は、前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される。
【0052】
治療方法であって、
PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者のBRCA1、BRCA2遺伝子変異の状況を検出するステップと、
前記患者がBRCA1、BRCA2遺伝子変異を有する場合、式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物単剤を使用して、又はPARP阻害剤を併用して治療するステップと、
を含む。
式中、RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOなどの脱離官能基から独立して選択され、
好ましくは、前記遺伝子変異のTMB(腫瘍遺伝子変異量)は中レベルであり、
単剤で、またはPARP阻害剤と併用して、患者の癌を治療するための薬物の調製における、式(I)の酸素欠乏活性化化合物の使用。
前記患者はPARP阻害剤に耐性のある患者であり、
RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOなどの脱離官能基から独立して選択される。
【0053】
上記の製薬用途において、前記患者のDNA修復酵素は損傷しているか、又は
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は
前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される。
BRCA1、BRCA2変異には、生殖細胞系列の変異(gBRCAm)及び系変異(sBRCAm)のBRCA1、BRCA2変異が含まれる。
【0054】
上記の製薬用途では、式(I)の酸素欠乏活性化化合物は、以下の構造を有する化合物から選択され、
前記PARP阻害剤は、オラパリブOlaparib、ルカパリブRucaparib、ニラパリブNiraparib、タラゾパリブTalazoparib、フルゾパリブFluzoparib、パミパリブPamiparibからなる群より選択され、又は
前記癌、腫瘍は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌からなる群より選択され、又は
前記遺伝子変異のTMB(腫瘍遺伝子変異量)は中レベルである。
【0055】
異なる腫瘍種間でTMB(Tumor mutation load (burden)、すなわち腫瘍遺伝子変異負荷)のレベルが異なるため、一般に、TMBが20変異/Mb(Mbは100万塩基あたりを表す)を超えると高く、10変異/ Mb未満では低く、中間であると中くらいであると考えられる。2017年の世界肺癌会議で、Check Mate-032という臨床試験結果がブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社(BMS)によって公表された。これは、第I相の治療に失敗した進行性肺癌患者401人を対象とした第II相臨床試験であり、PD-1阻害剤単独またはイピリンとの併用で治療を行った。TMBのレベルに従って、高TMB、中TMB、低TMBの3種類の患者に分け、併用療法を受けた集団において、3グループの有効率はそれぞれ62%、20%、23%であり、高TMBの集団は3倍の有効率を有し、3グループの全生存期間の中央値は、それぞれ22.0カ月、3.6カ月、3.4カ月であり、22.0カ月と3.4カ月は6倍もの差があった。この試験は、異なるTMBレベルが異なる癌治療薬に対する薬物の有効性に大きな影響を有することを証明した。
【0056】
本発明はさらに、PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者を治療するための、式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物であって、PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者を単剤または併用により治療することができる薬物を提供する。
式中、RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOなどの脱離官能基から独立して選択される。
【0057】
好ましくは、前記患者のDNA修復酵素は損傷しているか、又は
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は
前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される。
【0058】
好ましくは、BRCA1、BRCA2変異は、生殖細胞系列の変異(gBRCAm)及び体細胞系列の変異(sBRCAm)のBRCA1、BRCA2変異を含む。
【0059】
特に、上記薬物において、式(I)の酸素欠乏活性化化合物は、以下の構造の化合物から選択される。
前記PARP阻害剤は、オラパリブOlaparib、ルカパリブRucaparib、ニラパリブNiraparib、タラゾパリブTalazoparib、フルゾパリブFluzoparib、パミパリブPamiparibからなる群より選択され、又は
前記癌、腫瘍は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌からなる群より選択され、又は
前記遺伝子変異のTMB(腫瘍遺伝子変異量)は中レベルである。
【0060】
上記薬物は、式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有するほか、医薬品、薬物、製剤の特徴に応じて、薬学的に許容される補助剤または賦形剤を添加する。前記薬物は、臨床的に投与される任意の剤形、例えば、錠剤、坐剤、分散錠、腸溶錠、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、カプセル剤、糖衣剤、顆粒剤、乾燥粉末剤、経口液剤、注射用小容量注射剤、注射用凍結乾燥粉末注射剤または大容量非経口剤であり得る。具体的な剤形および投与方法に応じて、薬物における薬学的に許容される補助剤または賦形剤は、希釈剤、可溶化剤、崩壊剤、懸濁剤、滑沢剤、連結剤、充填剤、香味剤、甘味剤、抗酸化剤、界面活性剤、保存剤、カプセル剤、および色素などのうちの一種又は数種を含んでもよい。
これらの薬物を使用する場合、単独で使用するかPARPiと併用して治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】
図1は、正常酸素および低酸素条件下での、化合物TH-302およびチラパザミン(tirapazamine)のCapan-1細胞株に対する阻害率曲線である。ここで、con.Log(nM)は、nmol/L単位での濃度値の10を底とした対数値を表し、inhibitionは、阻害率を表す。
【
図2】
図2は、正常酸素および低酸素条件下での、化合物TH-302およびチラパザミン(tirapazamine)のCapan-1細胞株に対する阻害率曲線である。ここで、con.Log(nM)は、nmol/L単位での濃度値の10を底とした対数値を表し、inhibitionは、阻害率を表す。
【
図3】
図3は、ヒト由来膵臓癌Capan-1皮下モデルにおける各グループのマウス腫瘍体積の増殖グラフである。
【
図4】
図4は、ヒト由来膵臓癌Capan-1皮下モデルにおける各グループのマウスの相対腫瘍阻害率のグラフである。
【
図5】
図5は、ヒト由来膵臓癌Capan-1皮下モデルにおける各グループのマウス体重グラフである。
【
図6】
図6は、ヒト由来膵臓癌Capan-1皮下モデルにおける各グループのマウスの体重変化百分率のグラフである。
【
図7】
図7は、膵臓癌Capan-1CDXモデルにおける各グループのマウスの腫瘍体積の増殖グラフである。
【
図8】
図8は、膵臓癌Capan-1CDXモデルにおける各治療グループの体重の経時変化のグラフである。
【
図9】
図9は、肺癌LU6429PDXモデルにおける各グループのマウスの腫瘍体積の増殖グラフである。
【
図10】
図10は、肺癌LU6429PDXモデルにおける各治療グループの体重の経時変化のグラフである。
【
図11】
図11は、膀胱癌BL3325PDXモデルにおける各グループのマウスの腫瘍体積の増殖グラフである。
【
図12】
図12は、膀胱癌BL3325PDXモデルにおける各治療グループの体重の経時変化のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、具体的な実施例を参照して本発明を説明する。当業者であれば、これらの実施例は、単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するものではないことを理解するであろう。
【0063】
なお、下記の実施例における実験方法は、特に断らない限り、いずれも常法によるものである。用いられる薬材原料、試薬材料等は、特に断りのない限り、市販品として入手可能である。
【0064】
「患者」および「個体」は、癌治療を必要とする哺乳動物を指すために互換的に使用される。典型的には、患者はヒトである。典型的には、患者は、癌と診断されたヒトである。特定の実施例では、「患者」または「個体」は、薬物および治療のスクリーニング、特性評価、および評価に使用される非ヒト哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、マウス、またはラットを指すことができる。
【0065】
「プロドラッグ」は、投与後または施用後に代謝により、または別の方法により、少なくとも1つの特性に関して生物学的に活性または活性のより高い化合物(または薬物)に変換される化合物を指す。プロドラッグは、薬物と比較して、薬物に対してより低い活性または不活性であるように化学的に修飾されるが、化学的修飾は、プロドラッグ投与後に代謝または他の生物学的プロセスによって対応する薬物が生成されることを可能にする。プロドラッグは、活性薬物と比較して、変化した代謝安定性または送達特性、より少ない副作用、またはより低い毒性、または改善された風味を有することができる。プロドラッグは、対応する薬物以外の反応物質を使用して合成され得る。
「治療」または「患者を治療する」は、本発明に関連する治療有効量の薬物を患者に投与、使用、または施用することを意味する。
【0066】
患者に対する薬物の「投与」または「施用」(使用)は、直接投与または施用(医療専門家によって患者に投与または施用されても、自己投与または施用されてもよい)、および/または間接投与または施用(薬物を処方する行動であってもよい)を意味する。例えば、患者に薬物を自己投与若しくは施用することを指示する、及び/又は患者に薬物の処方を提供する医師が患者に薬物を投与若しくは施用する。
【0067】
薬物の「治療有効量」は、癌患者に投与または施用、使用される場合、所望の治療効果(例えば、患者における一種または数種の癌の臨床症状の緩和、改善、寛解または除去)を有するであろう薬物の量を指す。治療効果は、1回の用量の投与または施用によって生じるとは限らず、一連の用量の投与または施用後にのみ生じ得る。したがって、治療有効量は、1回または複数回で投与または施用され得る。
【0068】
病症状態または患者の「治療」は、有益なまたは所望の結果(臨床結果を含む)を得るための措置を講じることを指す。本発明の目的のために、有益なまたは所望の臨床結果は、一種または数種の癌の症状の緩和または改善、疾患重症度の軽減、疾患の進行の遅延または減速、疾患状態の改善、寛解または安定化、又は他の有益な結果を含むが、これらに限定されない。場合によっては、癌の治療は、疾患に部分的に反応しまたは安定化し得る。
「腫瘍細胞」は、任意の適切な種(例えば、哺乳動物、例えば、マウス、イヌ、ネコ、ウマ、またはヒト)の腫瘍細胞を指す。
【0069】
本発明の実施形態に関する上記の説明は、本発明を限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨を逸脱しない限り、本発明に基づいて様々な変更または変形を行うことができ、いずれも本発明の添付の特許請求の範囲に属する。
以下、本発明の具体的な実験を示す。
【0070】
本明細書に開示される試験過程における動物実験の試験プロトコル、任意の修正、動物福祉および施用は、いずれも所在地のCRO(合同研究組織)IACUC委員会によって審査、承認されている。試験過程で、動物福祉および実験操作はすべてAAALACの要求を満たす。
【0071】
(一)化合物TH-302のBRCAノックアウトおよび野生型腫瘍細胞におけるインビトロ細胞毒性比較
【0072】
TH-302は、酸素欠乏条件下で活性化され、細胞毒を放出し、さらに腫瘍細胞および腫瘍組織を死滅させることができる低分子プロドラッグである。TH-302とBRCA病原性変異との関連性を細胞レベルでインビトロで評価するために、本発明者らは、ヒト結腸癌細胞株DLD1及びBRCA2タンパク質をノックアウトしたDLD1-BRCA2-/-腫瘍細胞株を選択して、酸素欠乏条件下で、BRCA2タンパク質の発現の有無により、前記2種類の腫瘍細胞株に対するTH-302の殺傷能力に違いがあるかどうかを検出した。
【0073】
このクローン形成実験は、IC90(90%阻害濃度)値を、細胞に対する化合物TH-302殺傷能力を評価するために使用した。具体的な実験方法は以下の通りである。
【0074】
(1)細胞培養
a)DLD1及びDLD1-BRCA2-/-細胞をRPMI培地で培養し、10% FBS及び1%ダイアボディを加え、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
【0075】
(2)細胞プレーティング
a)細胞を細胞飽和度が80%~90%になるまで培養し、必要量に達したら、細胞を回収した。
b)対応する培地で懸濁させ、計数して、適切な密度の細胞懸濁液に調製した。
c)細胞懸濁液を10cmガラス皿に加え、DLD1-BRCA2-/-細胞密度は3.0×105/皿であり、DLD1細胞密度は300/皿であった。
d)細胞を37℃、5%CO2のインキュベーターで2日間培養した。
【0076】
(3)化合物の準備
化合物は実験要求に従って準備した。
【0077】
(4)化合物処理細胞
a)化合物を酸素含有量<0.01%(酸素欠乏)の条件下で3時間細胞を処理した。
b)細胞を1×PBSで1回洗浄し、トリプシンで細胞を消化した後、細胞を計数した。
c)細胞を3mLの培地で懸濁させ、2000/ウェルのDLD1-BRCA2-/-細胞密度、300/ウェルのDLD1細胞密度で、6ウェルプレートに接種した。
d)細胞プレートを10日間インキュベーターに置いた。
e)培地を捨て、細胞を固定化した後、クリスタルバイオレットで40min染色した。
f)Colony Counter(VWR)を使用して細胞クローン計数を行い、CalcuSynソフトウェア(http://www.biosoft.com/w/calcusyn.htm)に従ってIC90値を算出した。
上記の実験方法で得られた、二種類の細胞における被験化合物TH-302のIC90値を下記表1に示す。
【0078】
【0079】
実験結果:化合物TH-302は、酸素欠乏により活性化された後、DLD1野生型及びBRCA2欠損のDLD1-BRCA2-/-細胞のインビトロ細胞毒性に有意な差が生じる。野生型DLD1のインビトロIC90値は、DLD1-BRCA2-/-細胞と比較して70倍増加した。上記結果は、酸素欠乏条件下で、BRCA2タンパク質の欠損により、DLD1の細胞のTH-302に対する感受性が著しく増加することを示している。
【0080】
(二)化合物TH-302/tirapazamine(チラパザミン)のCapan-1/BxPc-3のインビトロ細胞増殖に対する影響実験
本出願人は、低酸素活性化抗癌プロドラッグTH-302及びチラパザミンについて、それぞれ、正常酸素及び低酸素条件下で、Capan-1及びBxPc-3細胞株のインビトロ細胞増殖阻害実験を特に研究した。Capan-1細胞株はBRCA変異型細胞株であり、BxPc-3細胞株はBRCA野生型、すなわち非BRCA変異型細胞株である。この実験により、同じく低酸素活性化抗癌プロドラッグであるTH-302とチラパザミンのBRCA変異に対する感受性の違いを検証した。
実験方法と実験データ、結果は以下の通りである。
実験方法
【0081】
1)Capan-1/BxPc-3細胞懸濁液を、2種類の24ウェルプレートに、各ウェル495μL、細胞密度6×104/ウェルで加えた。グラスインサート(glass inserts)が挿入されている24ウェルプレートは、酸素欠乏実験に使用し、普通のプラスチック24ウェルプレートは、正常酸素実験に使用した。
2)細胞を37℃、5%CO2のインキュベーターで一晩培養した。
3)化合物処理
低酸素条件:
低酸素ワークステーションを酸素欠乏環境(O2<0.01%)に調節し、酸素インジケーターを用いてワークステーションの酸素欠乏状態を確認した。
24時間細胞をプレーティングした後、グラスインサート(glass inserts)を備えた24ウェルプレートを低酸素ステーションに移した。
24ウェルプレートをスクリューシェーカーにセットし、ウェルプレートカバーを開けて振り、5分間気体交換を行った。
単剤グループは、試験濃度の100倍の化合物溶液を各ウェルに直接加えた。
正常酸素条件:
24時間細胞をプレーティングした後、試験濃度100倍の化合物溶液5μLを各ウェルに加え、各実験グループ3ウェルにした。
単剤グループは、試験濃度の100倍の化合物溶液を各ウェルに直接加えた。
【0082】
4)化合物を3時間処理した後、24ウェルプレートの全てを、1ウェル当たり一回500μLずつ、完全培地で2回洗浄した。
5)Capan-1細胞培養プレートに1ウェル当たり完全培地1000μLを加え、BxPc-3細胞培養プレートに1ウェル当たり完全培地500μLを加えた。
6)37℃、5%のCO2インキュベーターで72時間放置した。
【0083】
7)Capan-1細胞を1ウェル当たり800μLの培地を捨て、BxPc-3細胞を1ウェル当たり300μLの培地を捨て、50μLのCTGを添加し、2min均一に振盪し、室温遮光で15分間放置した。
8)培地を24ウェルプレートから、1ウェル当たり100μLを96ウェルプレートに移した。
9)化学発光シグナル値を多機能マイクロプレートリーダーで読み取り、読み取り時間1000msであった。
10)GraphPad Prism5 softwareでIC50を計算し、化合物のIC50値(半数阻害濃度)を得た。
【0084】
実験データ
TH-302およびチラパザミンのBRCA変異型Capan-1細胞株における正常酸素および低酸素条件下での細胞増殖阻害実験データを表2および3に示し、IC
50曲線を
図1に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
TH-302及びチラパミンのBRCA野生型BxPc-3細胞株における低酸素及び正常酸素条件下での細胞増殖阻害実験データを表4及び表5に示し、IC
50曲線を
図2に示す。
【0088】
【0089】
【0090】
実験結果
上記の実験データでは、TH-302は酸素欠乏条件下で、BRCA変異Capan-1細胞株におけるIC50は0.82μMであり、BRCA野生型BxPc-3細胞株におけるIC50は3.07μMであり、両者には3.7倍の差があり、BRCA変異によりTH-302が腫瘍細胞株に対してより強い増殖阻害活性を有するようになること、つまり、BRCA変異は腫瘍細胞のTH-302薬物に対する感受性が増加することを示している。
【0091】
同じく酸素欠乏活性化抗癌プロドラッグであるチラパミンは、酸素欠乏条件下で、BRCA変異Capan-1細胞株におけるIC50は29.06μMであり、野生型BRxPc-3細胞株におけるIC50は33.23μMであり、1.1倍の差であり、顕著な差異ではなく、チラパミンがBRCA変異と関連性がないこと、つまり、BRCA変異はチラパミンの腫瘍細胞株に対する増殖阻害活性に有意に影響を及ぼさないこと、つまり、BRCA変異は腫瘍細胞のチラパミン薬物に対する感受性を増加させることができないことを示している。
【0092】
(三)TH-302のオラパリブOlaparib耐性の動物CDX、PDXモデルにおける薬効及び安全性実験
3.1 TH-302のOlaparib耐性の膵臓癌Capan-1CDXモデルにおける薬効及び安全性評価
Capan-1CDXモデルは、BRCA2の病原性変異を有するOlaparib耐性モデルである。
各BALB/c雌ヌードマウスの右背下部に5×105Capan-1細胞を皮下接種し、細胞を1:1のPBSとマトリゲル(0.1ml/匹)に再懸濁し、計64匹の雌マウスに接種した。接種日は2021年06月23日であり、腫瘍の平均体積が140mm3に達してから、腫瘍の大きさに応じてランダムにグループ化した。試験は、試験薬Olaparib 100mg/kgの単剤グループ(Group2)、TH-302 75mg/kgとOlaparib 100mg/kgとの併用グループ(Group5)、TH-302 75mg/kgの単剤グループ(Group7)、および10%無水エタノール+10%ポリオキシエチレン(35)ヒマシ油+80%グルコース注射液D5W(pH7.4)溶媒対照グループの計7グループ、各グループ6匹のマウスに分けた。溶媒対照グループ、TH-302単剤及び併用グループは、いずれも尾静脈に投与し、週に1回、合計3週間投与した。試験薬Olaparibグループは、経口胃内投与し、1日1回、合計30日間投与した。相対腫瘍阻害率TGI(%)によって治療効果の評価を行い、動物の体重変化及び死亡状況によって安全性評価を行った。
【0093】
試験薬Olaparib 100mg/kg(Group2)治療グループは、腫瘍細胞接種後35日目に腫瘍阻害効果がなく、相対腫瘍阻害率TGI(%)は-7.1%であり、対照グループと比較して統計的に有意な差はなかった(p>0.05)。Olaparib 100mg/kgとTH-302 75mg/kgの併用治療グループ(Group5)は、腫瘍細胞接種後35日目に有意な腫瘍阻害効果を示し、統計的に対照グループと比較して有意な差(p<0.001)を示し、相対腫瘍阻害率TGI(%)は84.47%であった。TH-302 75mg/kg単剤治療グループ(Group7)は、腫瘍細胞接種後35日目(Day35)に有意な腫瘍阻害効果を示し、対照グループと比較して統計的に有意差(p<0.001)を示し、相対腫瘍阻害率TGI(%)は87.66%であった。TH-302の単剤グループは、OlaparibとTH-302の併用治療グループと比較して、腫瘍阻害効果に有意差を示さなかった(p>0.05)。試験薬Olaparib 100mg/kg、TH-302 75mg/kgの単剤グループ、およびOlaparib 100mg/kgとTH-302 75mg/kgの併用グループのいずれにおいても、マウスの体重は有意に低下せず、耐性は良好であった。
各グループの具体的な投与プロトコルを以下の表6に示す。
【0094】
各グループのマウスについて、異なる日に腫瘍体積を測定し、得られた平均値の結果を下記表7に示す。
【0095】
治療グループと対照グループそれぞれの腫瘍増殖状況を表7及び
図3に示す。薬効の評価を表8に示す。
【0096】
【0097】
表8:相対腫瘍増殖率、T/C%は、特定の時点における治療グループおよび対照グループの相対腫瘍体積または腫瘍重量の百分率の値である。計算式は以下の通りである。
【0098】
T/C%=TRTV/CRTV×100%(TRTV:治療グループの平均RTV;CRTV:溶媒対照グループの平均RTV;RTV=Vt/V0、V0はグループ分けしたときの動物の腫瘍体積であり、Vtは治療後のこの動物の腫瘍体積である)。
【0099】
相対腫瘍阻害率、TGI(%)について、計算式はTGI%=(1-T/C)×100%である。(T及びCはそれぞれ特定の時点における治療グループと対照グループの平均相対腫瘍体積(RTV)である。
【0100】
上記の表をグラフにすると、
図4が得られる。
異なる日に異なるグループのマウスの体重をそれぞれ測定し、得られた平均値の結果を下記表10に示す。
【0101】
上記の表をグラフにすると、
図5、即ちヒト由来膵臓癌Capan-1皮下モデルにおける各グループのマウス体重曲線が得られる。
同様に表10のデータを処理すると、下記表11が得られる。
【0102】
【0103】
実験データを分析すると、治療効果がわかる。
【0104】
1.Capan-1CDXモデルは、確かにOlaparib抵抗モデルであり、Olaparibは、このモデルの腫瘍増殖に対して阻害効果を有していない、つまり、Olaparibに対して耐性がある。
2.TH-302の単剤は、Olaparib抵抗性膵臓癌に対して良好な治療効果を有する(TGIは82.67%)。
3.TH-302とOlaparibの併用は、Olaparib抵抗性膵臓癌に対して良好な治療効果を有する(TGIは87.43%)。
4.TH-302単剤グループは、OlaparibとTH-302の併用治療グループと比較して、腫瘍阻害効果がわずかに高かったが、有意差はなかった(p>0.05)。
【0105】
実験データを分析した結果、試験薬Olaparib 100mg/kg、TH-302 75mg/kgグループ、並びにOlaparib 100mg/kgとTH-302 75mg/kgの併用グループのいずれのマウスにおいても、体重の有意な低下はなく、耐性は良好であることが分かった。
【0106】
本発明者らは、Olaparib耐性の膵臓癌Capan-1CDXモデルにおいて、TH-302についてさらに鋭意研究を行い、(1)TH-302の単剤治療グループが、腫瘍阻害効果の用量依存性を示すこと、(2)OlaparibとTH-302の併用の特定の用量の組み合わせが、腫瘍阻害効果の相乗効果を示し得ることを見出した。
【0107】
本発明者らは、Olaparib耐性の肺癌LU6429PDXモデル、膀胱癌BL3325PDXモデルにおけるTH-302の薬効および安全性を同時に研究した。
さらなる研究プロトコルおよび実験データを以下に記載する。
【0108】
3.2 Olaparib耐性の膵臓癌Capan-1CDXモデルにおけるTH-302の薬効及び安全性のさらなる研究
プロトコル:BALB/cヌードマウスにヒト由来膵臓癌Capan-1細胞を皮下接種し、ヒト由来膵臓癌皮下移植モデルを確立した。試験は、試験薬Olaparib 100mg/kg単剤グループ(Group2)、TH-302 50mg/kg単剤グループ(Group3,QD)、TH-302 100mg/kg単剤グループ(Group4)、TH-302 50mg/kg単剤グループ(Group5,QW)、TH-302 25mg/kg単剤グループ(Group6)、TH-302 25mg/kgとOlaparib 100mg/kgの併用グループ(Group7)、並びに10%無水エタノール+10%ポリオキシエチレン(35)ヒマシ油+80%グルコース注射液D5W(pH7.4)溶媒対照グループ(Group1)の計7グループに分け、各グループマウス6匹とした。溶媒対照グループ、TH-302の各試験薬はいずれも尾静脈注射で投与した。ただし、TH-302 50mg/kg単剤グループ(Group3,QD)は、1日1回、3日間連続的に投与し、4日間休止し、更に2週間休止し、さらに、3日間連続で毎日投与した。TH-302 100mg/kg(Group4,QW)、50mg/kg(Group5,QW)、25mg/kg(Group6,QW)の単剤グループ、およびTH-302 25mg/kgとOlaparib 100mg/kgの併用グループ(Group7)におけるTH-302は、いずれも週1回、計3週間投与した。各グループの試験薬Olaparibはいずれも経口胃内投与であり、1日1回、計30日間投与した。具体的なヒト膵臓癌Capan-1動物モデルにおける投与経路、用量、及びプロトコルを表12に示す。
【0109】
【0110】
表13に示すように、治療グループと対照グループそれぞれの腫瘍増殖状況を異なる試験日に記録した。対応する各グループのマウス腫瘍体積の増殖グラフを
図7に示す。相対腫瘍増殖率及び相対腫瘍阻害率に基づいて効能を評価し、各グループの薬効解析を表14に示す。治療グループと対照グループの投与後体重変化を記録し、ヒト由来膵臓癌Capan-1皮下モデルにおける各グループの安全性を検討し、43日目のマウス体重変化率の結果を表15に示し、各治療グループの体重の経時変化グラフを
図8に示す。
【0111】
相対腫瘍増殖率、T/C%は、特定の時点における治療グループおよび対照グループの相対腫瘍体積または腫瘍重量の百分率の値である。計算式は以下の通りである。
【0112】
T/C%=TRTV/CRTV×100%(TRTV:治療グループの平均RTV;CRTV:溶媒対照グループの平均RTV;RTV=Vt/V0、V0はグループ分けしたときの動物の腫瘍体積であり、Vtは治療後の動物の腫瘍体積である)。
またはT/C%=TTW/CTW×100%(TTW:治療グループの実験終了時の平均腫瘍重量、CTW:溶媒対照グループの実験終了時の平均腫瘍重量)。
【0113】
相対腫瘍阻害率、TGI(%)について、計算式はTGI%=(1-T/C)×100%である。(T及びCはそれぞれ特定の時点における治療グループと対照グループの相対腫瘍体積(RTV)または腫瘍重量(TW)である。
【0114】
【0115】
備考:1.データは「平均値±標準誤差」で表した。2.T/C%=T
RTV/C
RTV×100% 3.CR:腫瘍は完全に寛解し、腫瘍は0まで退縮した。
【0116】
【0117】
上記データは以下のことを示している。
溶媒対照グループのマウスは、腫瘍細胞接種後43日目(Day43)に平均腫瘍体積が1301.38mm3であった。試験薬Olaparib 100 mg/kg(Group 2)治療グループのマウスは、腫瘍細胞接種後43日目(Day43)の平均腫瘍体積が846.86mm3であり、相対腫瘍阻害率TGI(%)が37.43%であり、対照グループと比較して統計的に有意差はない(p>0.05)。
【0118】
試験薬TH-302 50mg/kg治療グループ(Group3,QD)は、腫瘍細胞接種後43日目(Day43)の平均腫瘍体積が146.99mm3であり、対照グループと比較して統計的に有意な差があり(p<0.001)、相対腫瘍阻害率TGI(%)は89.17%であった。試験薬TH-302 100mg/kg治療グループ(Group4)は、腫瘍細胞接種後43日目(Day43)の平均腫瘍体積が124.68mm3であり、対照グループと比較して統計的に有意な差があり(p<0.001)、相対腫瘍阻害率TGI(%)は90.89%であった。試験薬TH-302 50mg/kg治療グループ(Group5、QW)は、腫瘍細胞接種後43日目(Day43)の平均腫瘍体積が263.45mm3であり、対照グループと比較して統計的に有意な差があり(p<0.001)、相対腫瘍阻害率TGI(%)は80.18%であり、腫瘍完全阻害率は33.3%であった。試験薬TH-302 25mg/kg治療グループ(Group6)は、腫瘍細胞接種後43日目(Day43)の平均腫瘍体積が1521.33mm3であり、対照グループと比較して統計的に有意な差がなく(p>0.05)、相対腫瘍阻害率TGI(%)は-21.59%であった。Olaparib 100mg/kgとTH-302 25mg/kgの併用治療グループ(Group7)は、腫瘍細胞接種後43日目(Day43)の平均腫瘍体積が378.56mm3であり、対照グループと比較して統計的に有意な差を示し(p<0.001)、相対腫瘍阻害率TGI(%)は74.36%であった。
【0119】
TH-302 100mg/kg(Group4)、50mg/kg(Group5,QW)及び25mg/kg(Group6)の単剤治療グループは、薬物腫瘍阻害効果の用量依存性を示した。TH-302 100mg/kg(Group4,QW)、50mg/kg(Group5,QW)の単剤治療グループは、TH-302 25mg/kg単剤治療グループ(Group6,QW)と比較して統計的に有意な差があった(pはいずれも<0.001)。
【0120】
Olaparib 100mg/kgとTH-302 25mg/kgの併用治療グループ(Group7)は、Olaparib 100mg/kg(Group2)及びTH-30225mg/kg単剤グループ(Group6)よりも抗腫瘍効果が優れ、統計的に有意な差があり(p<0.05及びp <0.001)、OlaparibとTH-302の併用の特定の用量組合せは、腫瘍阻害効果の相乗効果を示す可能性がある。
【0121】
試験薬Olaparib 100mg/kg(Group2)、TH-302 25mg/kg(Group6)、TH-302 50mg/kg(Group3,QD)、TH-302 50mg/kg(Group5,QW)、TH-302 100mg/kg(Group4)、Olaparib 100mg/kgとTH-302 25mg/kgの併用グループ(Group7)、溶媒対照グループ(Group1)のいずれのマウスも、有意な体重減少はなく、良好な耐性を示した。
【0122】
3.3 Olaparib耐性の肺癌LU6429PDXモデルにおけるTH-302の薬効および安全性評価
LU6429PDXモデルは、BRCA2の病原性変異を有するOlaparib耐性モデルである。
プロトコル:Balb/c nude雌マウスにHuPrimeR肺癌LU6429腫瘍塊を皮下接種し、ヒト肺癌皮下移植腫瘍モデルを確立した。試験は、試験薬Olaparib 50mg/kg単剤グループ(Group02)、TH-302 80mg/kg単剤グループ(Group03)、TH-302 40mg/kg単剤グループ(Group04)、TH-302 20mg/kg単剤グループ(Group05)、TH-302 40mg/kgとOlaparib 50mg/kgの併用グループ(Group06)、およびグルコース注射液溶媒対照グループ(Group01)に分けた。この試験は、計6グループ、各グループ6匹のマウスであり、溶媒対照グループおよびTH-302はいずれも尾静脈に投与し、週1回計3週間投与した。Olaparibは、胃に投与し、1日1回、計28日間投与した。具体的なHuPrimeR肺癌LU6429の動物モデルにおける投与経路、用量、およびプロトコルを表16に示す。
【0123】
備考:1.投与体積10μL/g、2.QD×28:28日間連続で1日1回投与、3.QW×3:3週間連続で週1回投与。
【0124】
表17に示すように、治療グループと対照グループそれぞれの腫瘍増殖状況を異なる日に記録した。対応する各グループのマウス腫瘍体積の増殖グラフを
図9に示す。相対腫瘍増殖率及び相対腫瘍阻害率により効能を評価し、各グループの薬効分析を表18に示す。治療グループと対照グループの投与後の体重変化を記録し、HuPrimeR肺癌LU6429皮下モデルにおける各グループの安全性を検討した。マウス体重変化の25日目の結果を表19に示し、各治療グループの体重の経時変化のグラフを
図10に示す。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
上記データは以下のことを示している。
Olaparib単独投与グループは腫瘍阻害作用がなく、肺癌LU6429PDXモデルはOlaparibに耐性を示した。80mg/kg、40mg/kg、20mg/kgの用量での試験薬TH-302単独治療グループ、及び40mg/kgでのTH-302と50mg/kgでのOlaparibとの併用治療グループは、本研究においていずれもHuPrimeR肺癌LU6429皮下モデルに対して有意な抗腫瘍増殖効果を有した。ここで、TH-302 80mg/kg(Group03)用量治療グループの1匹のマウスの腫瘍は完全に除去され、除去率は16.7%であった。試験薬TH-302 80mg/kg、40mg/kg、及び20mg/kg治療グループの間で、統計的に有意な差があり(p <0.05)、用量依存性を示した。TH-302 40mg/kgとOlaparib 50mg/kgの併用治療効果は、Olaparib 50mg/kg単独治療グループよりも有意に優れていたが、TH-302 40mg/kg単独治療グループと比較してわずかに優れ、差は小さくて有意ではなかった。
各試験薬治療グループのマウスは治療期間中、マウスの体重が減少せず、耐性は良好であった。
【0129】
3.4 Olaparib耐性の膀胱癌BL3325PDXモデルにおけるTH-302の薬効および安全性評価
BL3325PDXモデルは、BRCA2の病原性変異を伴うOlaparib耐性モデルである。
プロトコル:Balb/c nude雌マウスにHuPrimeR膀胱癌BL3325腫瘍塊を皮下接種して、ヒト膀胱癌皮下移植腫瘍モデルを確立した。試験は、試験薬Olaparib 50mg/kg単剤グループ(Group02)、TH-302 80mg/kg単剤グループ(Group03)、TH-302 40mg/kg単剤グループ(Group04)、TH-302 20mg/kg単剤グループ(Group05)、TH-302 40mg/kgとOlaparib 50mg/kgの併用グループ(Group06)、およびグルコース注射溶媒対照グループ(Group01)に分けた。この研究は、計6グループ、各グループ6匹のマウスであり、溶媒対照グループおよびTH-302はいずれも尾静脈に投与し、週1回計3週間投与し、Olaparibは胃に投与し、1日1回、計30日間投与した。具体的なHuPrimeR膀胱癌BL3325動物モデルにおける投与経路、用量及びプロトコルを表20に示す。
【0130】
【0131】
備考:1.投与体積10μL/g、2.QD×30:30日間連続的に1日1回投与、3.QW×3:3週間連続的に週1回投与、4.I.v.は尾静脈投与、p.o.は胃への投与。
【0132】
治療グループと対照グループそれぞれの腫瘍増殖を異なる試験日に記録し、表21に示すように、対応する各グループのマウス腫瘍体積の増殖グラフを
図11に示す。相対腫瘍増殖率及び相対腫瘍阻害率に基づいて効能を評価し、各グループの薬効分析を表22に示す。治療グループと対照グループの投与後の体重変化を記録し、HuPrimeR膀胱癌BL3325皮下モデルにおける各グループの安全性を検討した。マウス体重変化の35日目の結果を表23に示し、各治療グループの体重の経時変化のグラフを
図12に示す。
【0133】
【0134】
備考:1.データは「平均値±標準誤差」で表した。2.T/C%=T
RTV/
RTV*100%
【0135】
【0136】
上記データは以下のことを示している。
80mg/kg、40mg/kg、20mg/kgの用量での試験薬TH-302の単独治療グループ及びTH-302 40mg/kgとOlaparib 50mg/kgの併用治療グループはいずれも、HuPrimeR膀胱癌BL3325皮下モデルに対して有意な抗腫瘍増殖効果を有し、Olaparib 50mg/kg単独治療では有意な腫瘍阻害効果を示さなかった。TH-302 80mg/kgは20mg/kg用量グループと比較して、腫瘍阻害効果に統計的な差異があり、これは、TH-302によるBL3325腫瘍増殖の阻害が用量依存的であることを示している。ここで、TH-302 80mg/kg治療グループ(Group03)の1匹のマウスの腫瘍は完全に除去され、除去率は16.7%であった。TH-302 40mg/kgとOlaparib 50mg/kgの併用治療効果は、Olaparib 50mg/kg単独治療グループよりも有意に優れており、TH-302 40mg/kg単独治療グループより優れ、かつ差異が有意であった。
各試験薬治療グループのマウスは治療期間中、マウスの体重が減少せず、耐性は良好であった。
【0137】
本願の実施例で選択したPARP阻害剤は、オラパリブOlaparibであるが、ルカルパリブRucaparib、ニラパリブNiraparib、タプラゾリブTalazoparib、フルゾパリブFluzoparib、パミパリブPamiparibなどは、同じくPARP阻害剤であり、作用メカニズムはオラパリブOlaparibと類似しており、いずれも損傷DNAの修復に関与する酵素を遮断する作用を発揮することから、ルカルパリブRucaparib、ニラパリブNiraparib、タプラゾリブTalazoparib、フルゾパリブFluzoparib、パミパリブPamiparibなどのPARPiは、上記実験におけるオラパリブOlaparibと類似した腫瘍阻害効果を有すると推定できる。
TH-302は酸素欠乏活性化DNAアルキル化剤であり、請求項1に記載の一般式の化合物である。
【0138】
TH-302と同様のメカニズムが関連特許出願において実証されているので、そのような化合物がTH-302と同様の効果を有することは十分に予測可能である。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単剤で、またはPARP阻害剤と併用して、患者の癌を治療するための薬物の調製における、式(I)の酸素欠乏活性化化合物の使用であって、
前記患者はPARP阻害剤に耐性のある患者であり、
RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOの脱離官能基から独立して選択される、使用。
【請求項2】
式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物とともに、PARP阻害剤を併用して、PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者を治療する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記患者のDNA修復酵素は損傷しているか、又は
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は
前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される、請求項
1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記BRCA1、BRCA2変異は、生殖細胞系列の変異(gBRCAm)及び体細胞系列の変異(sBRCAm)のBRCA1、BRCA2変異を含み、
前記遺伝子変異のTMB(腫瘍遺伝子変異量)は中レベルである、請求項
1に記載の使用。
【請求項5】
式(I)の酸素欠乏活性化化合物は、以下の構造を有する化合物から選択され
る、請求項1または2に記載の使用。
【請求項6】
前記PARP阻害剤は、オラパリブOlaparib、ルカパリブRucaparib、ニラパリブNiraparib、タラゾパリブTalazoparib、フルゾパリブFluzoparib、パミパリブPamiparibからなる群より選択され、又は
前記癌、腫瘍は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌からなる群より選択される、請求項
1または2に記載の使用。
【請求項7】
下記の式の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物単剤により、オラパリブOlaparib耐性の卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌患者を治療する治療方法であって、
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は、前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出される、請求項
1に記載の使用。
【請求項8】
PARP阻害剤耐性の癌、腫瘍患者を治療するための、式(I)の酸素欠乏活性化化合物を含有する薬物であって、
式中、RはそれぞれH、-CH
3、-CH
2CH
3から独立して選択され、XはそれぞれCl、Br、MsO、TsOの脱離官能基から独立して選択される、薬物。
【請求項9】
前記患者のDNA修復酵素は損傷しているか、又は
前記患者の腫瘍又は癌組織は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、又は
前記患者は、BRCA1、BRCA2に対応する遺伝子のいずれか一方又は両方の遺伝子変異を有することが検出され、
BRCA1、BRCA2変異は、生殖細胞系列の変異(gBRCAm)及び体細胞系列の変異(sBRCAm)のBRCA1、BRCA2変異を含む、請求項
8に記載の薬物。
【請求項10】
式(I)の酸素欠乏活性化化合物は、以下の構造を有する化合物から選択され、
前記PARP阻害剤は、オラパリブOlaparib、ルカパリブRucaparib、ニラパリブNiraparib、タラゾパリブTalazoparib、フルゾパリブFluzoparib、パミパリブPamiparibからなる群より選択され、又は
前記癌、腫瘍は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、卵管癌、原発性腹膜癌、胃癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌からなる群より選択される、請求項8に記載の使用。
【国際調査報告】