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特表2024-531557エピジェネティックな刷り込みによるバクテリオファージの感染性範囲における改変をスクリーニングする方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】エピジェネティックな刷り込みによるバクテリオファージの感染性範囲における改変をスクリーニングする方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/70 20060101AFI20240822BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240822BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C12Q1/70
C12Q1/02
C12N1/20 E
C12N7/00
A61K35/76
A61P31/04
A61P17/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024514079
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2022074358
(87)【国際公開番号】W WO2023031342
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21382796.7
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521364993
【氏名又は名称】ウニベルシタ ポンペウ ファブラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グエル カルゴル マルク
(72)【発明者】
【氏名】クネドルセダー ナスターシア ヨハンナ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ10
4B063QR75
4B063QX01
4B065AA24X
4B065AA53X
4B065AA98X
4B065BA22
4B065CA44
4B065CA50
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA90
4C087ZB35
(57)【要約】
本発明は、バクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる1種以上のバクテリオファージの感染性範囲の変化をスクリーニングする方法、及びバクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる特異的な感染性範囲を有する1種以上のバクテリオファージをスクリーニングする方法に関する。本発明は更に、これらの方法によって特定及び取得された又は取得可能なバクテリオファージを含む組成物、並びに療法における及び細菌の選択的殺傷のためのそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる1種以上のバクテリオファージの感染性範囲の変化をスクリーニングするin vitroでの方法であって、
(a)好ましくは制限メチル化系を含む少なくとも1種の細菌に前記1種以上のバクテリオファージを感染させた後、前記1種以上のバクテリオファージの分離物を取得する工程と、
(b)工程a)で使用した前記細菌とは異なる、好ましくは制限メチル化系を含む細菌に、a)の前記細菌に以前に感染させた前記1種以上のバクテリオファージを感染させて、前記ファージの増殖を可能にする工程と、
(c)工程b)の感染後に前記1種以上のバクテリオファージの分離物を取得し、工程b)の前記細菌の感染後にバクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる前記1種以上のバクテリオファージの感染性範囲の変化を決定する工程と、任意に、
(d)エピジェネティックな刷り込みの変化による需要のある特異的な感染性範囲が得られる場合に前記1種以上のバクテリオファージの前記分離物を選択し、任意に、前記バクテリオファージ(複数の場合もある)を製剤化して製品にする工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
工程c)及び/又は工程d)の前記分離物のエピジェネティックな刷り込みを特徴付けることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる特異的な感染性範囲を有する1種以上のバクテリオファージをスクリーニングするin vitroでの方法であって、
(a)好ましくは制限メチル化系を含む少なくとも1種の細菌に前記1種以上のバクテリオファージを感染させた後、前記1種以上のバクテリオファージの分離物を取得する工程と、
(b)a)とは異なる、好ましくは制限メチル化系を含む細菌に、a)の前記細菌に以前に感染させた前記1種以上のバクテリオファージを感染させて、前記ファージの増殖を可能にする工程と、
(c)工程b)の感染後に前記1種以上のバクテリオファージの分離物を取得し、前記1種以上のバクテリオファージが、工程b)の前記細菌の感染後にバクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる特異的な感染性範囲を有するかどうかを決定する工程と、
(d)エピジェネティックな刷り込みの変化による需要のある特異的な感染性範囲が得られる場合に前記1種以上のバクテリオファージの前記分離物を選択し、任意に、前記バクテリオファージ(複数の場合もある)を製剤化して製品にする工程と、
を含む、方法。
【請求項4】
工程b)の前記細菌は、制限メチル化系を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)の感染後の前記バクテリオファージの分離物は、エピジェネティックな刷り込みにより変化した感染性範囲を有する実質的に均質なバクテリオファージの集団を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
a)及びb)の前記細菌は、C.アクネス、E.コリ、サルモネラ属の複数の菌種、例えばサルモネラ・ティフィムリウム、シゲラ属の複数の菌種、例えばシゲラ・フレクスネリ、エンテロコッカス属の複数の菌種、例えばクレブシエラ、プロテオバクテリア門の複数の菌種、例えばシュードモナス属の複数の菌種、具体的にはシュードモナス・エルギノーザ、ヘモフィルス属の複数の菌種、コリネバクテリウム属の複数の菌種、及びファーミキューテス門の複数の菌種、例えばバシラス属の複数の菌種、ストレプトコッカス属の複数の菌種、例えばストレプトコッカス、及びスタフィロコッカス属の複数の菌種、具体的にはスタフィロコッカス・アウレウスからなる群より選択され、好ましくは、a)及びb)の前記細菌は、C.アクネスである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
a)及びb)の前記細菌のそれぞれは、C.アクネスの異なる菌株であり、かつ工程b)の前記細菌は、タイプIg、タイプIIa、タイプIIb、タイプIIg、又はタイプIIIbの制限メチル化系等の活性な制限メチル化系を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
a)及びb)の前記細菌は、異なるC.アクネス菌株であり、かつ前記菌株のそれぞれは、次のクレードIA1、IA2、IB、IC、タイプII、又はタイプIIIのいずれかに属する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
a)の前記細菌は、IA1、IA2、又はIBのクレードに属し、かつb)の前記細菌は、次のクレードIA1又はIA2、IB、IC、タイプII、又はタイプIIIのいずれかに属する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
a)の前記細菌は、IA1、IA2、又はIBのクレードに属し、かつb)の前記細菌は、次のクレードIB、IC、タイプII、又はタイプIIIのいずれかに属する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって特定及び取得された又は取得可能なファージ集団を含む組成物。
【請求項12】
療法用である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
C.アクネス、E.コリ、サルモネラ属の複数の菌種、例えばサルモネラ・ティフィムリウム、シゲラ属の複数の菌種、例えばシゲラ・フレクスネリ、エンテロコッカス属の複数の菌種、例えばクレブシエラ、プロテオバクテリア門の複数の菌種、例えばシュードモナス属の複数の菌種、ヘモフィルス属の複数の菌種、コリネバクテリウム属の複数の菌種、及びファーミキューテス門の複数の菌種、例えばバシラス属の複数の菌種、ストレプトコッカス属の複数の菌種、例えばストレプトコッカス、及びスタフィロコッカス属の複数の菌種、具体的にはスタフィロコッカス・アウレウスからなる群のいずれかの種又は菌株から選択される1種以上の細菌種又は細菌株の選択的な細菌殺傷において使用され、好ましくは、a)及びb)の細菌は、C.アクネスである、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記1種以上の細菌種又は細菌株の選択的な溶解及び/又は殺傷によりプロバイオティクス菌株の定着を強化するのに使用される、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
1種以上の細菌種又は細菌株を溶解及び/又は殺傷することができるファージを選択し、特異的な感染性範囲を有する実質的に均質なファージ集団を取得する方法における、制限メチル化系を有する適切な細菌のファージ再感染中に変化するエピジェネティックな刷り込みの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピジェネティックな刷り込みによるものであるバクテリオファージの感染性における改変をスクリーニングする方法、これらの方法によって取得された又は取得可能なバクテリオファージを含む組成物、並びに療法における及び細菌の選択的殺傷のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ファージ療法は細菌感染症の治療に使用される行為である。この治療の原理はバクテリオファージの使用に基づいている。ファージは、RNA又はDNAからなり、それらの宿主特異性に応じて細菌を選択的に殺傷することができる非生存の生物学的存在である。ファージ療法は既にほぼ1世紀にわたり存在していたが、その療法への使用には議論の余地があると見られていた。現在、ファージ療法は、抗生物質の使用による細菌感染症の治療に代わるものとして広く再考されている。抗生物質による治療は、病原性表現型内での抗生物質耐性の発生につながる場合が多いだけでなく、その非選択的な性質により有益な非病原性細菌も殺傷する。抗生物質とは対照的に、ファージは細菌の殺傷において非常に特異的であり、菌株レベルで選択的に殺傷することも可能である。
【0003】
細菌を選択的に殺傷することができるバクテリオファージを、標的とされる細菌株自体から分離することも、又は遺伝子改変によって所望の菌株を特異的に標的とするように改変することもできる。ファージを遺伝子改変する1つの方法は、ファージ交雑等の従来の相同組換えに基づく技術によるものである。より標的が絞られたアプローチは、遺伝子置換、遺伝子欠失、又は遺伝子挿入を伴う組換えファージを生成するプラスミドとファージゲノムとの間の相同組換えである。エレクトロポレーションされたDNAのバクテリオファージ相同組換え工学(Bacteriophage Recombineering of electroporated DNA)(BRED)、CRISPR-Casに基づくファージ工学(CRISPR-Cas-Based Phage Engineering)、及びアセンブリされたファージゲノムDNAを使用したファージの再起動(Rebooting Phages Using Assembled Phage Genomic DNA)は、ファージを遺伝子操作する更なる既知の方法である(非特許文献1)。ファージ工学は、独自の特性を有するファージ変異体を生成する1つの戦略を提供し、これによりファージ療法の開発が加速する可能性がある。
【0004】
バクテリオファージを改変する別の方法は、そのエピジェネティックな刷り込みを変化させることである。様々な細菌株におけるファージの成長又は培養によりファージの特性が変化し得ることは、当該技術分野において一般的に知られている。この変化はエピジェネティックなものである可能性がある。すなわち、これはファージのゲノムによってコードされる核酸配列の変化によるものではなく、DNA内の塩基を修飾する化学的変化によるものと思われる。変化としては、例えば、DNAメチラーゼによるファージ内の核酸のメチル化の変化が挙げられる。
【0005】
細菌は、特異的な部位のメチル化によって自己DNAを安全に保ちながら、制限修飾(R-M)系を使用して侵入DNAを破壊する(非特許文献2、非特許文献3)。非特許文献4は、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)において、相変異I型制限修飾(R-M)系がコアゲノムの一部であることを明らかにし、R-M系が6つの標的DNA特異性の間で切り替わる能力がバクテリオファージの蔓延の防止に重要な役割を果たすという仮説が立てられた。しかしながら、ファージは塩基修飾系を取り入れて、これらのゲノムの細菌性R-M系に対する耐性を保つことができる(非特許文献2)。例えば、T4ファージは、5-ヒドロキシメチル化及びグルコシル化という2つの修飾によってシトシンを修飾し、これにより、T4ファージはE.コリ(E. coli)の事実上全ての制限エンドヌクレアーゼに対して高度に耐性となる(非特許文献5)。MTアーゼは、R-M系の認識ドメインによって特定される細菌ゲノムに沿った特異的な配列モチーフ内のシトシンの4位及びアデニンの6位にある窒素原子(m4C、m6A)又はシトシンの5番目の炭素(m5C)にメチル基をSAMから選択的に転移する、バクテリオファージ感染に対する保護機構として従来技術において説明されている(非特許文献6)。これらのメチル化配列は制限酵素によるエンドヌクレアーゼ消化に耐性であり、自己を非自己から確立する手段としてR-M系によって認識される。宿主に入ったファージDNAはいずれもR-M系によって判定され、対応する認識ドメインによってメチル化が検出されなければR-Mエンドヌクレアーゼによって消化される。ファージDNAの宿主制限を回避するのに、バクテリオファージは、しばしば、感染中にそれら自身のMTアーゼを導入する。
【0006】
ファージ及びそれらの宿主細菌の際限ない共進化により、特にファージカクテルが使用される場合、細菌は、例えば抗生物質治療よりもファージ療法に対して耐性が低くなる。
【0007】
例えば、特許文献1は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)におけるファージの培養を使用して、ファージが感染し得るスタフィロコッカス・アウレウス菌株の宿主範囲を広げることができることを開示している。これは、ファージのパネルに含める必要がある様々なファージの数を減らして、様々な細菌株の幅広い網羅を確実にする。次いで、この不均一なファージのパネルは、多くの様々な細菌を殺傷することができるファージの混合物を提供するため、これを、例えば表面用の消毒薬組成物に使用することができる。
【0008】
プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(P.アクネス(P. acnes))としても知られるキューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)(C.アクネス(C. acnes))は、ヒト皮膚マイクロバイオームの主要な皮膚共生生物であるが、尋常性ざ瘡という皮膚病態と関連している。C.アクネスは多数の溶菌ファージ又は溶原ファージを保有している。皮膚内のファージは、狭い範囲の菌株に感染するか又は集団内で広範囲に感染するかのいずれかによって皮膚マイクロバイオームの組成を調節する。健康な皮膚は、ざ瘡/不健康な皮膚よりも多くのファージを保有することが明らかにされている。C.アクネスは、直接的に又は細菌を抗生物質活性から保護することができる安定したバイオフィルムの形成によって、多数の抗生物質に対して耐性がある。しかしながら、ファージがバイオフィルムを溶解し得ることは明らかにされているため、ファージ療法は適切な療法を提供し得る。特許文献2は、ざ瘡のバクテリオファージ治療を開示しており、ここで、溶菌バクテリオファージはP.アクネスを溶解するため、バイオフィルムの形成及びざ瘡を防ぐことができる。
【0009】
しかしながら、C.アクネスが同時に健康な皮膚の主要な構成要素であるという事実により、この疾患におけるその具体的な関与は完全には理解されていない。C.アクネスには様々な菌株が含まれており、菌株H1(クレードIB)等の皮膚マイクロバイオームに有益な菌株もあれば、菌株A1(クレードIA1)等の病原性状態に関連している菌株もある(非特許文献7)。したがって、皮膚を治療する際に、皮膚の健康なマイクロバイオームをもたらすのに、C.アクネスの有益な菌株と病原性菌株とを区別することができることが有用であると考えられる。
【0010】
現在までのところ、利用可能なファージ療法のどれも、他の有益なプロバイオティクス菌株に影響を与えずにC.アクネスの或る特定の菌株のみを標的とする可能性をもたらすものではない。したがって、他のプロバイオティクス菌株を害さずに、好ましくは1種の特異的なC.アクネス菌株のみを殺傷することに狙いを絞った選択的かつ特異的なファージ集団を取得する方法が必要とされている。
【0011】
バクテリオファージ療法が抗生物質の使用に代わる興味深い代替策である他の用途は、病気の患者、高齢の患者、又は免疫力が低下した患者に全身感染症を引き起こし得るメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)だけでなく、病院でますます問題を引き起こしているクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)又はシュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)等の他の細菌も標的とすることを含む。特に、突然変異により抗生物質耐性が与えられたり、又はペニシリナーゼ等の抗生物質耐性酵素をコードする遺伝子が世界中の病原性細菌でますます一般的になりつつあるため、細菌との戦いにおいて異なるアプローチが大いに必要とされている。
【0012】
あらゆる種類の病原性細菌に対するバクテリオファージの応用可能性は数多くあるため、所望の感染性範囲を有するバクテリオファージをスクリーニングして、従来技術において豊富に記載されたファージに対して長々とした遺伝子改変を適用する必要なく、所望の特異的な特性を獲得したバクテリオファージを特定及び分離することを可能にする簡単で素早い、経済的かつ効率的な方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2009087356号
【特許文献2】国際公開第2019113066号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Chen et. al, 2019
【非特許文献2】Samson et al., 2013
【非特許文献3】Seed, 2015
【非特許文献4】Furi et. al. (2019)
【非特許文献5】Bryson et al., 2015
【非特許文献6】Vasu and Nagaraja (2013)
【非特許文献7】Dreno B. et al. 2018
【発明の概要】
【0015】
したがって、本発明は、バクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる1種以上のバクテリオファージの感染性範囲の変化をスクリーニングするin vitroでの方法であって、
(a)好ましくは制限メチル化系を含む少なくとも1種の細菌に1種以上のバクテリオファージを感染させた後、1種以上のバクテリオファージの分離物を取得する工程と、
(b)工程a)で使用した細菌とは異なる、好ましくは制限メチル化系を含む細菌に、a)の細菌に以前に感染させた1種以上のバクテリオファージの分離物を感染させて、上記ファージの増殖を可能にする工程と、
(c)工程b)の感染後に1種以上のバクテリオファージの分離物を取得し、工程b)の細菌の感染後にバクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる1種以上のバクテリオファージの感染性範囲の変化を決定する工程と、任意に、
(d)エピジェネティックな刷り込みの変化による需要のある特異的な感染性範囲が得られる場合に1種以上のバクテリオファージの上記分離物を選択し、任意に、上記バクテリオファージ(複数の場合もある)を製剤化して製品にする工程と、
を含む、方法に関する。
【0016】
更なる実施の形態において、本方法は、工程c)及び/又は工程d)の分離物のエピジェネティックな刷り込みを特徴付けることを含む。
【0017】
本発明は更に、バクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる特異的な感染性範囲を有する1種以上のバクテリオファージをスクリーニングするin vitroでの方法であって、
(a)好ましくは制限メチル化系を含む少なくとも1種の細菌に上記1種以上のバクテリオファージを感染させた後、1種以上のバクテリオファージの分離物を取得する工程と、
(b)a)とは異なる、好ましくは制限メチル化系を含む細菌に、a)の細菌に以前に感染させた1種以上のバクテリオファージを感染させて、上記ファージの増殖を可能にする工程と、
(c)工程b)の感染後に1種以上のバクテリオファージの分離物を取得し、1種以上のバクテリオファージが、工程b)の細菌の感染後にバクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる特異的な感染性範囲を有するかどうかを決定する工程と、
(d)エピジェネティックな刷り込みの変化による需要のある特異的な感染性範囲が得られる場合に1種以上のバクテリオファージの上記分離物を選択し、任意に、上記バクテリオファージ(複数の場合もある)を製剤化して製品にする工程と、
を含む、方法に関する。
【0018】
本発明の方法の更なる実施の形態において、工程b)の細菌は、制限メチル化系を含む。
【0019】
本発明の方法の更なる実施の形態において、工程b)の感染後のバクテリオファージの分離物は、エピジェネティックな刷り込みにより変化した感染性範囲を有する実質的に均質なバクテリオファージの集団を含む。
【0020】
一実施の形態において、a)及びb)の細菌は、C.アクネス、E.コリ、サルモネラ属(Salmonella)の複数の菌種、例えばサルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シゲラ属(Shigella)の複数の菌種、例えばシゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri)、エンテロコッカス属(Enterococcus)の複数の菌種、例えばクレブシエラ(Klebsiella)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)の複数の菌種、例えばシュードモナス属(Pseudomonas)の複数の菌種、具体的にはシュードモナス・エルギノーザ、ヘモフィルス属(Haemophilus)の複数の菌種、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)の複数の菌種、及びファーミキューテス門(Firmicutes)の複数の菌種、例えばバシラス属(Bacillus)の複数の菌種、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、及びスタフィロコッカス属(Staphylococcus)、具体的にはスタフィロコッカス・アウレウスからなる群より選択される。好ましい実施の形態において、細菌はC.アクネスである。
【0021】
一実施の形態において、上記の方法のa)及びb)の細菌は、C.アクネスの異なる菌株であり、かつ工程b)の細菌は、タイプIg、タイプIIa、タイプIIb、タイプIIg、又はタイプIIIbの制限メチル化系等の活性な制限メチル化系を含むことを特徴とする。
【0022】
更なる実施の形態において、a)及びb)の細菌は、異なるC.アクネス菌株であり、かつ上記菌株のそれぞれは、次のクレードIA1、IA2、IB、IC、タイプII、又はタイプIIIのいずれかに属する。
【0023】
一実施の形態において、a)の細菌は、IA1、IA2、又はIBのクレードに属し、かつb)の細菌は、次のクレードIA1又はIA2、IB、IC、タイプII、又はタイプIIIのいずれかに属する。
【0024】
別の実施の形態において、a)の細菌は、IA1、IA2、又はIBのクレードに属し、かつb)の細菌は、次のクレードIB、IC、タイプII、又はタイプIIIのいずれかに属する。
【0025】
一実施の形態において、本発明は、上記の方法によって特定及び取得された又は取得可能なファージ集団を含む組成物に関する。
【0026】
更なる実施の形態において、本発明は、療法において使用される、上記の方法によって特定及び取得された又は取得可能なファージ集団を含む組成物に関する。
【0027】
一実施の形態において、本発明は、好ましくは、C.アクネス、E.コリ、サルモネラ属の複数の菌種、例えばサルモネラ・ティフィムリウム、シゲラ属の複数の菌種、例えばシゲラ・フレクスネリ、エンテロコッカス属の複数の菌種、例えばクレブシエラ、プロテオバクテリア門の複数の菌種、例えばシュードモナス属の複数の菌種、具体的にはシュードモナス・エルギノーザ、ヘモフィルス属の複数の菌種、コリネバクテリウム属の複数の菌種、及びファーミキューテス門の複数の菌種、例えばバシラス属の複数の菌種、ストレプトコッカス及びスタフィロコッカス、具体的にはスタフィロコッカス・アウレウスからなる群よりのあらゆる種又は菌株から選択される1種以上の細菌種又は細菌株の選択的な細菌殺傷において使用される、上記の方法によって特定及び取得された又は取得可能なファージ集団を含む組成物に関する。
【0028】
更なる実施の形態において、本発明は、1種以上の細菌種又は細菌株の選択的な細菌殺傷によりプロバイオティクス菌株の定着を強化するのに使用される、上記の方法によって取得された又は取得可能なファージを含む組成物に関する。
【0029】
更なる実施の形態において、本発明は、1種以上の細菌種又は細菌株を溶解及び/又は殺傷することができるファージを選択し、特異的な感染性範囲を有する実質的に均質なファージ集団を取得するための、制限メチル化系を有する適切な細菌のファージ再感染中に変化するエピジェネティックな刷り込みの使用、好ましくはin vitroでの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】C.アクネスH2(KPA171202とも呼ばれる)は、AGCAGY配列においてメチル化モチーフを有する。A)野生型(黒色)菌株及びメチルトランスフェラーゼノックアウト(KO)H2(灰色)菌株についてのAGCAGYモチーフの位置にわたるメチル化リードの割合。B)メチル化欠損E.コリ菌株におけるH1又はH2のC.アクネスを起源とする示されたメチルトランスフェラーゼの組換え発現後のpMW535プラスミドにおいて検出されたAGCAGYモチーフの4番目の位置でのメチル化アデニンにおけるメチル化リードの割合。陰性とは、メチル化欠損E.コリがC.アクネスのいかなるメチルトランスフェラーゼとも同時形質転換されていないことである。C)PAD20ファージゲノムにおけるAGCAGYモチーフの4番目の位置でのメチル化アデニンにおけるメチル化リードの割合。試料は1番目にはファージがシーケンシングされた感染菌株にちなんで、かつ2番目にはファージが産生された菌株にちなんで名付けられる(すなわち、H2-H1は、H1において産生されたファージを使用してH2に感染させた後に、H2から抽出してシーケンシングしたことを意味する)。有意性を、ANOVA分析を使用して検定した(***、p<0.001)。
図2】A)SLST A1、SLST H1、SLST H2、又はSLST H2 KOのいずれかで増殖されたPAD20ファージの感染特性の変動。B)増殖起源(SLST A1、SLST H1、SLST H1、又はSLST H2 KO)に応じた様々なC.アクネス菌株におけるPAD20ファージの感染特性。SLST A1、SLST H1、SLST H2、及びSLST H2 KOで増殖されたPAD20による様々なクレードに属する選りすぐりのC.アクネス菌株の感染。ファージはそれらの起源に応じて異なる感染特性を獲得する。C)3つの異なる時点の後のSLST A1で増殖されたPAD20を感染させたマイクロバイオーム試料全体の選択的殺傷。進行中のPAD20感染の24時間後、48時間後、120時間後に試料を採取した。試料をSLSTの方法論を使用して増幅し、Illuminaシーケンシングにかけた。SLSTアレルとの類似性を使用して、シーケンシングリードをクレードIA、クレードIB、及びクレードIIに分類する。クレードIAは、次のSLSTタイプ:A1、A2、A3、A4、A7、A11、A13、A16、A17、A18、A21、A24、A27、A28、A29、A30、A31、A33、A34、A35、A38、A40、A42、A46、A47、A48、A49、A51、A52、C1、C5、F4、F6、F10、F15、F16、F17、F22、F24を含み、クレードIBは、H1、H2、H3、H4、H7、H8、H10、H11、H12を含み、クレードIIは、K1、K2、K7、K9、K17、K19を含む。
図3】SLST A1から抽出されたPAD20ファージによるSLST菌株のA1及びH1の混合集団の選択的殺傷。3日後、段階希釈物をプレーティングし、10個の代表的なコロニーをそれらのSLSTタイプについてスクリーニングした。全てのコロニーはSLST H1のものであることが明らかにされた。
図4】C.アクネスKPA171202野生型(SLST H2 WT)及びC.アクネス制限メチル化ノックアウト(SLST H2 R-M KO)における制限メチル化遺伝子座及びその周囲の転写プロファイル。発現レベルを、ゲノム位置ごとのRNA-seqリードカウント(2回の反復の平均)によって表す。R-M IIGはPPA1614に対応し、R-M IIIBはPPA1611に対応する。
図5】A)及びB)RNAseq分析によって示されたK1及びK2における完全なCRISPR/CasのタイプI-E遺伝子座の発現。C)試験した両方の菌株における各候補遺伝子によって得られた閾値サイクル(Ct)を比較するCRISPRシステムに属する遺伝子の発現レベル。D)RNAシーケンシングにより、KO菌株においてIIIB遺伝子座及びIIG遺伝子座の発現は示されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明、及びそこに含まれる実施例を参照することによって、本発明をより容易に理解することができる。
【0032】
本発明は、バクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる1種以上のバクテリオファージの感染性範囲の変化をスクリーニングするin vitroでの方法、及びバクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる特異的な感染性範囲を有する1種以上のバクテリオファージをスクリーニングするin vitroでの方法に関する。本発明は更に、これらの方法によって特定及び取得された又は取得可能なバクテリオファージを含む組成物に関する。本発明は更に、療法において使用される、そのような組成物に関する。本発明はまた、細菌の選択的殺傷において使用される、そのような組成物に関する。
【0033】
本発明者らは、本明細書において、改変されたエピジェネティックな刷り込みを有するファージの分離物を取得する方法を提供する。ファージのエピジェネティックなプロファイルを適応させて、細菌の特異的なサブセットを殺傷するようにプログラムすることができる。例えば、相同組換えに基づく技術、エレクトロポレーションされたDNAのバクテリオファージ相同組換え工学(BRED)、CRISPR-Casに基づくファージ工学、及びアセンブリされたファージゲノムDNAを使用したファージの再起動等のファージの遺伝子改変について従来技術において使用及び記載された遺伝子工学技術とは対照的に、本発明において使用されるバクテリオファージをそのような技術にかけてバクテリオファージに所望の特異性を与える必要はない。代わりに、バクテリオファージをそれらのエピジェネティックな刷り込みを変化させることによって改変させる。
【0034】
キューティバクテリウム・アクネス(C.アクネス)は、本発明の方法を開発するのに本発明者らによってモデル生物として使用されている。しかしながら、これらの方法はC.アクネスに限定されず、あらゆる所望の細菌種に適用することができることを理解されたい。特に適しているのは、制限メチル化系を含む全ての細菌である。
【0035】
C.アクネスのファージは85%を超える全体の配列同一性を有するが、これらが或る特定の菌株に感染する能力は非常に多様である。この多様性についての理由はよく理解されていなかったため、本発明者らは宿主選択性に関与する他の要因を調査した。制限メチル化(R-M)は、細菌宿主を外来の侵入DNAから保護する宿主機構である。この制限メチル化をナノポアシーケンシングによって検出することができる。本発明は、ファージのDNAを宿主に注入する際にファージゲノム上で起こり得るエピジェネティックな変化を考慮し、1種の追加の特異的なC.アクネス菌株に感染するように単一のファージの範囲を変えることで、病原性菌株を特異的に消し去り、プロバイオティクス菌株を維持することが可能となる。
【0036】
特に、深部組織感染症において発見された、タイプIIのC.アクネス菌株に属するAD20から抽出されたPAD20と名付けられたC.アクネスのバクテリオファージが研究された(Lood et. al 2008)。全てのC.アクネスのファージはタンパク質のパターン、形態、及びコーディング遺伝子の点で非常に類似しているため、これらのファージはそれらの宿主範囲に応じて分類される。PAD20はPA I群に分類された。実施例2に示されるように、タイプIA1、タイプIA2、タイプIB、タイプII、及びタイプIIIのようなC.アクネスの異なるクラスに属する異なるC.アクネス菌株に、C.アクネスのタイプIA1菌株又はタイプIB菌株のいずれかから事前に抽出されたC.アクネスのバクテリオファージPAD20を感染させた。ファージが最初にどの宿主から分離されたかに応じて、溶解特性が菌株ごとに異なることが観察された(実施例2、図2A及び図2Bを参照)。A1のようなタイプIA菌株から抽出されたファージは、H1及びH2のようなタイプIB菌株に感染することができなかったのに対し、他のタイプIA1菌株又はタイプIA2菌株及びK1に感染することができた。一方、H2のようなタイプIB菌株から抽出されたPAD20は、IA1菌株及びIA2菌株、H1及びK1、更にはそれ自体も殺傷することができた。一方、H1からのPAD20は、クレードIA1及びクレードIA2に属する菌株、K1及びそれ自体に感染することができたが、H2を殺傷することはできなかった。タイプII菌株に属するK2は、抽出されたどのPAD20ファージによっても溶解することができなかった(図2A及び図2B)。
【0037】
次いで、本発明者らは、宿主における違いを調査し、活性な制限メチル化系における違いを見出した。KPA171202(「H2」とも呼ばれる)においてタイプIIIBのR-Mに属する1つの系が見つかり、その活性をナノポアシーケンシングによって確かめた(図1Aを参照)。C.アクネスのファージPAD20の宿主範囲特異性におけるR-Mの関与を理解するのに、実施例3において詳細に記載されるように、KPA171202(H2)におけるノックアウト(KO)突然変異体を作製した。この菌株は対応するR-M系をもはや有さず、自身のDNAを特異的なパターンでメチル化することができなかった(図1Aを参照)。図4及び図5Dにより、R-MのIIG及びIIIBの正確な欠失が確かめられる。野生型菌株及びノックアウト菌株の両方に対してRNAシーケンシングを行い、R-M遺伝子座の発現を互いに比較した。
【0038】
この菌株にH1、A1、及びH2のいずれかから抽出されたPAD20を感染させた後、3つの全てのファージの感染性を観察したところ、エピジェネティックな変化及び詳細にはR-M系がファージの宿主範囲特異性に関与しており、かつファージのエピジェネティックなプロファイルを適応させて、細菌の特異的なサブセットを殺傷するようにプログラムすることができるという仮説が確認された(図2A及び図2B)。これに関して、本発明者らは、活性なR-M系が有益な細菌(タイプIB)を潜在的に保護することができるのに対し、R-M系を有しない細菌はバクテリオファージによって殺傷されることになると結論付けた。
【0039】
感染中にC.アクネスH2がファージDNAをメチル化しているかどうかを理解するのに、本発明者らはH2から分離したファージを抽出し、またH2にH1のPAD20ファージを感染させた。本発明者らは、ナノポアシーケンシングによってファージDNAのメチル化を確かめ、特異的なメチル化パターンを特定した(図1C)。
【0040】
2種の異なるC.アクネス菌株を含む集団の特異的な殺傷を試験するのに、著者らは、サブグループIA1からの菌株(A1)とサブグループIBの菌株(H1)とを1:1で接種し、A1宿主から抽出したファージをそれらに感染させた。3日後、本発明者らは細菌の希釈液を寒天プレート上にプレーティングし、SLSTシーケンシングによってサブセットをそれらの分類について確認した。本発明者らは、試験した全てのコロニーがH1のC.アクネス菌株に属していることを確かめた。これはPAD20ファージの宿主範囲特異性が100%であることを意味する(図3を参照)。
【0041】
分離されたファージが或る特定の部分集団のみを標的とするかどうかを確かめるのに、本発明者らは、マイクロバイオーム試料全体を使用し、A1を起源とするPAD20をこれに感染させた。複雑なマイクロバイオーム試料には多くの様々な菌株が含まれており、経時的に(24時間、48時間、及び120時間)分析して、ファージ感染の動態を確認した。IA1菌株及びIA2菌株に属するSLSTタイプの減少を観察することができたのに対し、IB菌株の増加が見られた。タイプII菌株の場合に、小さな減少が観察されたことから、これにより一部のサブタイプにおけるCRISPR Casシステムの存在及びそれによる保護が改めて確かめられる(図2Cを参照)。この違いは、K菌株における機能的な又は非機能的なCRISPRタイプI-Eシステムを示している可能性がある。この実験により、メチル化されていないファージを使用することによりクレードIA1及びクレードIA2の細菌(SLSTタイプのA、F、C)を標的とし、H1及びH2等のプロバイオティクス菌株が保存されることが明らかにされた。IA1及びIA2の存在量は時間の経過とともに減少したのに対し、IB菌株は増加した。K菌株(タイプII)における機能的なCRISPR CasタイプI-Eシステムを特定するのに、著者らはCRISPRカスケードに関与するタンパク質の発現を研究した。著者らは、K1及びK2のSLST代表物においてqPCR及びRNAseqによって完全なカスケードの転写を確かめた(図5A図5B図5C)。さらに、著者らは、PAD20ファージゲノムを標的としたK2の6つのスペーサーの起源を特定した。これによりK2 CRISPRのCasシステムがK2菌株をファージ感染から積極的に保護することが確かめられる。
【0042】
これらの結果から、このファージが1つの種の細菌のみの殺傷を標的とし、抗生物質を使用せずに健康なマイクロバイオームに寄与し得ることを導き出すことができる。
【0043】
H1等の有益なC.アクネス菌株もある一方で、A1等のより病原性状態に関連するものもある。本発明者らは過去に、H1等のプロバイオティクス菌株を定着させることが可能であることを明らかにした(Paetzold et al. (2019))。この意味で、本発明によって作製されたファージを使用して生態学的地位を明らかにすることにより、H1等のプロバイオティクス菌株の定着を強化することが可能である。言い換えると、プロバイオティクス菌株H1と一緒に、同時にH1に対して不活性であるより病原性の高い菌株A1を溶解/殺傷するようにプログラムされたファージを適用すると、定着を大幅に強化することができる。
【0044】
したがって、本発明者らは、エピジェネティックな刷り込みに基づく選択的な細菌殺傷のためのファージの使用、及びプロバイオティクス菌株の定着を強化するためのファージの使用であって、そのような定着がエピジェネティックな刷り込みに基づく選択的な細菌殺傷によって強化される、使用を明らかにした。
【0045】
したがって、本発明は、ファージのDNAを宿主に注入する際にファージゲノム上で起こるエピジェネティックな刷り込みを使用して、特定のC.アクネス菌株に感染するように単一のファージの範囲を標的とすることで、病原性菌株を消し去り、プロバイオティクス菌株を維持する可能性をもたらす方法を提供する。
【0046】
本発明の方法又は組成物における使用に適したC.アクネス菌株は、以下のSLSTタイプ:
H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、K1、K2、K3、K4、K5、K6、K7、K8、K9、K10、K11、K12、K13、K14、K15、K16、K17、K18、K19、K20、K21、K22、K23、K24、K25、K26、K27、K28、K29、K30、K31、K32、K33、K34、K35、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8、L9、L10、L11、L12、L13、L14、L15、M1、及びM2、又はそれらの組合せ、
から選択され得る。
【0047】
本発明の方法又は組成物において使用するのに適したC.アクネス菌株は、以下のもの:
C.アクネス亜種ディフェンデンス(defendens)、C.アクネス亜種エロンガツム(elongatum)、C.アクネス亜種アクネス、C.アクネスAsn10、C.アクネス5/1/3、C.アクネスADL-409、C.アクネスP15、C.アクネスP10、C.アクネスP09、C.アクネスP07B、C.アクネスP06B、C.アクネスP06A、C.アクネスP03、C.アクネスJCM18920、C.アクネスJCM18918、C.アクネスJCM18916、C.アクネスJCM18909、C.アクネスP6、C.アクネスPA2、C.アクネスFZ1/2/0、C.アクネスhdn-1、C.アクネスHL202PA1、C.アクネスHL201PA1、C.アクネス25G、C.アクネス21G、C.アクネスPA20B、C.アクネス19B2、C.アクネス19B1、C.アクネスC1、C.アクネスHL042PA3、C.アクネスP07A、C.アクネスP05、C.アクネス18B、C.アクネス17B、C.アクネスAsn12、C.アクネスPRP-38、C.アクネスHL096PA1、C.アクネスDSM 1897、C.アクネスタイプIA2 P.acn31、C.アクネスタイプIA2 P.acn17、C.アクネスタイプIA2 P.acn33、C.アクネス亜種ディフェンデンスATCC 11828、C.アクネス6609、C.アクネス266、C.アクネスACS-068-V-Col6、C.アクネスHL037PA1、C.アクネスHL082PA2、C.アクネスHL082PA1、C.アクネスHL056PA1、C.アクネスHL007PA1、C.アクネスHL002PA3、C.アクネスHL002PA2、C.アクネスHL002PA1、C.アクネスHL063PA2、C.アクネスHL063PA1、C.アクネスHL027PA2、C.アクネスHL027PA1、C.アクネスHL067PA1、C.アクネスHL036PA3、C.アクネスHL036PA2、C.アクネスHL036PA1、C.アクネスHL001PA1、C.アクネスHL030PA2、C.アクネスHL030PA1、C.アクネスHL050PA3、C.アクネスHL050PA2、C.アクネスHL050PA1、C.アクネスHL005PA4、C.アクネスHL005PA3、C.アクネスHL005PA2、C.アクネスHL005PA1、C.アクネスHL046PA2、C.アクネスHL046PA1、C.アクネスHL086PA1、C.アクネスHL059PA2、C.アクネスHL059PA1、C.アクネスHL025PA2、C.アクネスHL025PA1、C.アクネスHL083PA2、C.アクネスHL083PA1、C.アクネスHL092PA1、C.アクネスHL038PA1、C.アクネスHL060PA1、C.アクネスHL087PA3、C.アクネスHL087PA2、C.アクネスHL087PA1、C.アクネスHL110PA4、C.アクネスHL110PA3、C.アクネスHL110PA2、C.アクネスHL110PA1、C.アクネスHL074PA1、C.アクネスHL072PA2、C.アクネスHL072PA1、C.アクネスHL043PA2、C.アクネスHL043PA1、C.アクネスHL078PA1、C.アクネスHL013PA2、C.アクネスHL013PA1、C.アクネスHL045PA1、C.アクネスHL053PA2、C.アクネスHL053PA1、C.アクネスHL020PA1、C.アクネスHL097PA1、C.アクネスHL099PA1、C.アクネスHL103PA1、C.アクネスHL096PA2、C.アクネスHL096PA3、C.アクネスSK187、C.アクネスJ165、C.アクネスJ139、C.アクネスSK182、C.アクネスSK137、及びC.アクネスKPA171202、又はそれらの組合せ、
から選択され得る。
【0048】
本発明の方法又は組成物において使用するのに適した更なる細菌は、エルシニア属(Yersinia)の複数の菌種、エシェリキア属(Escherichia)の複数の菌種、クレブシエラ属の複数の菌種、アシネトバクター属(Acinetobacter)の複数の菌種、ボルデテラ属(Bordetella)の複数の菌種、ナイセリア属(Neisseria)の複数の菌種、エロモナス属(Aeromonas)の複数の菌種、フランシセラ属(Franciesella)の複数の菌種、コリネバクテリウム属の複数の菌種、シトロバクター属(Citrobacter)の複数の菌種、クラミジア属(Chlamydia)の複数の菌種、ヘモフィルス属(Hemophilus)の複数の菌種、ブルセラ属(Brucella)の複数の菌種、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)の複数の菌種、レジオネラ属(Legionella)の複数の菌種、ロドコッカス属(Rhodococcus)の複数の菌種、シュードモナス属の複数の菌種、ヘリコバクター属(Helicobacter)の複数の菌種、ビブリオ属(Vibrio)の複数の菌種、バシラス属の複数の菌種、エリジペロスリックス属(Erysipelothrix)の複数の菌種、サルモネラ属の複数の菌種、ストレプトマイセス属(Streptomyces)の複数の菌種、ストレプトコッカス属の複数の菌種、スタフィロコッカス属の複数の菌種、バクテロイデス属(Bacteroides)の複数の菌種、プレボテラ属(Prevotella)の複数の菌種、クロストリジウム属(Clostridium)の複数の菌種、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の複数の菌種、クロストリジウム属の複数の菌種、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)の複数の菌種、ラクトコッカス属(Lactococcus)の複数の菌種、ロイコノストック属(Leuconostoc)の複数の菌種、アクチノバシラス属(Actinobacillus)の複数の菌種、セレノモナス属(Selnomonas)の複数の菌種、シゲラ属の複数の菌種、ザイモモナス属(Zymonas)の複数の菌種、マイコプラズマ属(Mycoplasma)の複数の菌種、トレポネーマ属(Treponema)の複数の菌種、ロイコノストック属の複数の菌種、コリネバクテリウム属の複数の菌種、エンテロコッカス属の複数の菌種、エンテロバクター属(Enterobacter)の複数の菌種、ピュロコッカス属(Pyrococcus)の複数の菌種、セラチア属(Serratia)の複数の菌種、モルガネラ属(Morganella)の複数の菌種、パルビモナス属(Parvimonas)の複数の菌種、フソバクテリウム属(Fusobacterium)の複数の菌種、アクチノマイセス属(Actinomyces)の複数の菌種、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)の複数の菌種、マイクロコッカス属(Micrococcus)の複数の菌種、バルトネラ属(Bartonella)の複数の菌種、ボレリア属(Borrelia)の複数の菌種、ブルセラ属の複数の菌種、カンピロバクター属(Campylobacter)の複数の菌種、クラミドフィラ属(Chlamydophilia)の複数の菌種、エールリキア属(Ehrlichia)の複数の菌種、ヘモフィルス属の複数の菌種、レプトスピラ属(Leptospira)の複数の菌種、リステリア属(Listeria)の複数の菌種、マイコプラズマ属の複数の菌種、ノカルジア属(Nocardia)の複数の菌種、リケッチア属(Rickettsia)の複数の菌種、ウレアプラズマ属(Ureaplasma)の複数の菌種、キューティバクテリウム属(Cutibacterium)(以前はプロピオニバクテリウム属(Propionibacterium))の複数の菌種、及びラクトバシラス属(Lactobacillus)の複数の菌種、又はそれらの組合せからなる群よりのあらゆる種又は菌株から選択され得る。
【0049】
具体的には、細菌は、バクテロイデス・テタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ディスタソニス(Bacteroides distasonis)、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)、クロストリジウム・レプタム(Clostridium leptum)、クロストリジウム・コッコイデス(Clostridium coccoides)、スタフィロコッカス・アウレウス、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinobycetemcomitans)、シアノバクテリア(cyanobacteria)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selnomonas ruminatium)、シゲラ・ソンネイ(Shigella sonnei)、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)、マイコプラズマ・ミコイデス(Mycoplasma mycoides)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、バシラス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphilococcus lugdunensis)、ロイコノストック・オエノス(Leuconostoc oenos)、コリネバクテリウム・キセロシス(Corynebacterium xerosis)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・ジェイケイウム(Corynebacterium jeikeium)、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)、バシラス・ポピリエ(Bacillus popillae)、シネコシスティス属菌株PCC6803(Synechocystis strain PCC6803)、バシラス・リクファシエンス(Bacillus liquefaciens)、ピュロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)、セレノモナス・ノミナンチウム(Selenomonas nominantium)、ラクトバシラス・ヒルガルディ(Lactobacillus hilgardii)、ストレプトコッカス・フェラス(Streptococcus ferus)、ラクトバシラス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、バクテロイデス・フラジリス、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、ストレプトマイセス・ファエクロモゲネス(Streptomyces phaechromogenes)、ストレプトマイセス・ガネニス(Streptomyces ghanaenis)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、モルガネラ・モルガニー(Morganella morganii)、シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)、シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aerigunosa)、パルビモナス・ミクラ(Parvimonas micra)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、プレボテラ・ニグレッセンス(Prevotella nigrescens)、アクチノマイセス・イスラエリー(Actinomyces israelii)、ポルフィロモナス・エンドドンタリス(Porphyromonas endodontalis)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、エロモナス・カビエ(Aeromonas caviae)、バシラス・アンシラシス(Bacillus anthracis)、バルトネラ・ヘンセレ(Bartonella henselae)、バルトネラ・クインタナ(Bartonella Quintana)、ボルデテラ・パーツシス(Bordetella pertussis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、ボレリア・ガリニイ(Borrelia garinii)、ボレリア・アフゼリイ(Borrelia afzelii)、ボレリア・レカレンティス(Borrelia recurrentis)、ブルセラ・アボルタス(Brucella abortus)、ブルセラ・カニス(Brucella canis)、ブルセラ・メリテンシス(Brucella melitensis)、ブルセラ・スイス(Brucella suis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、カンピロバクター・フェタス(Campylobacter fetus)、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)、クラミドフィラ・シッタシ(Chlamydophila psittaci)、クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ディフィシル、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)、キューティバクテリウム・アクネス(以前はプロピオニバクテリウム・アクネス)、キューティバクテリウム・グラヌロサム(Cutibacterium granulosum)、エールリキア・カニス(Ehrlichia canis)、エールリキア・シャフェンシス(Ehrlichia chaffeensis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenza)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、レプトスピラ・インテロガンス(Leptospira interrogans)、レプトスピラ・サンタロサイ(Leptospira santarosai)、レプトスピラ・ウェイリー(Leptospira weilii)、レプトスピラ・ノグチイ(Leptospira noguchii)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、マイコバクテリウム・レプラ(Mycobacterium leprae)、マイコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・ウルセランス(Mycobacterium ulcerans)、マイコプラズマ・ニューモニア(Mycoplasma pneumonia)、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitides)、ノカルジア・アステロイデス(Nocardia asteroids)、リケッチア・リケッチア(Rickettsia rickettsia)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)、サルモネラ・ティフィ(Salmonella typhi)、サルモネラ・パラティフィ(Salmonella paratyphi)、サルモネラ・ティフィムリウム、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexnerii)、シゲラ・ディセンテリエ(Shigella dysenteriae)、スタフィロコッカス・サプロフィティカス(Staphylococcus saprophyticus)、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ビリダンス(Streptococcus viridans)、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)、ウレアプラズマ・ウレアリティカム(Ureaplasma urealyticum)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholera)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、エルシニア・シュードツベルクロシス(Yersinia pseudotuberculosis)、アクチノバクター・バウマニ(Actinobacter baumanii)、シュードモナス・エルギノーザ、又はそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0050】
本発明の方法に記載される工程c)及び/又は工程d)の分離物のエピジェネティックな刷り込みを特徴付ける工程を、メチル化検出について当該技術分野において一般に知られるあらゆる方法を使用して行うことができる。このような方法としては、限定されるものではないが、プラークアッセイ、ナノポア(ONT)シーケンシング、SMRT(単一分子リアルタイムシーケンシング)、ドットブロット、メチル化感受性制限消化とシーケンシングとの組合せ、BS-seq(重亜硫酸塩シーケンシング)が挙げられる(Beaulaurier et al. (2019)、Kurdyukov and Bullock (2016)、Zhang et al. (2012))。
【0051】
プラークアッセイにより細菌溶解の区別が可能となり、これはメチル化パターンの正確な配列を提供しないが、R-M系が区別の原因となり得ることが示唆される。
【0052】
実施例において使用されるナノポア(ONT)シーケンシングは、異なるヌクレオチドの通過によって誘導されるイオン電流の変化を検出することによって、塩基修飾(6mA、4mC、5mC、5hmC)の検出を可能にする。共有結合的に修飾された塩基を標準的な塩基から区別することができ、それによりシーケンシングデータの取得に加えて化学的なDNA修飾を特定することができる。
【0053】
SMRT(単一分子リアルタイムシーケンシング)では、塩基修飾の検出が可能となり、配列及び3種の全てのメチル化(6mA、4mC、5mC、一方で、信頼度は高、中、低である)が報告される。DNA修飾は、ポリメラーゼの動態の変化を特定し、コントロールのパルス間持続時間の値と比較することによって検出される。
【0054】
ドットブロットでは、修飾されたDNAに結合することによりこれを検出する特異的なメチル化に対する抗体が使用される。
【0055】
メチル化感受性制限消化とシーケンシングとの組合せでは、制限酵素によるDNAの消化に続いて、次世代シーケンシングが使用される。この方法は3種の全てのメチル化タイプ(6mA、4mC、5mC)を検出することができるが、既知の標的配列での制限酵素の利用可能性によって制限される。
【0056】
BS-seq(重亜硫酸塩シーケンシング)は、重亜硫酸塩によるDNAの処理に続いて、次世代シーケンシングを使用し、ゲノムDNA内のメチル化シトシンを検出することができる。DNAの重亜硫酸塩による処理は、シトシンのウラシルへの脱アミノ化を媒介し、これはチミンと読み取られるため、修飾されたシトシンを標準的なシトシンと区別することができる。この技術を5mCに使用することができる。
【0057】
最後に、本明細書に記載されるあらゆる特徴を本発明のあらゆる方法、医学的使用、及び組成物のあらゆる実施形態と任意に組み合わせることができ、本明細書において論じられるあらゆる実施形態をこれらのいずれに関しても実施することができることが意図される。本明細書に記載される特定の実施形態は、例示として示されるものであり、本発明の限定として示されるものではないことが理解されるであろう。
【0058】
全ての出版物及び特許出願は、それぞれの個々の出版物又は特許出願が引用することにより具体的にかつ個別に本明細書の一部をなしているのと同じ程度で、引用することにより本明細書の一部をなす。
【0059】
「a」又は「an」という語の使用は「1つ」を意味する場合があるが、「1つ以上(one or more)」、「少なくとも1つ(at least one)」、及び「1つ又は2つ以上(one or more than one)」の意味とも一致する。「別の(another)」という用語の使用は、1つ以上を指す場合もある。特許請求の範囲における「又は(or)」という用語の使用は、選択肢のみを指すことが明示的に示されていない限り、又は選択肢が相互に排他的でない限り、「及び/又は(and/or)」を意味するのに使用される。
【0060】
本明細書及び請求項(複数の場合もある)において使用される場合、「含む(comprising)」(並びに「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」等の含む(comprising)のあらゆる形態)、「有する(having)」(並びに「有する(have)」及び「有する(has)」等の有する(having)のあらゆる形態)、「含む(including)」(並びに「含む(includes)」及び「含む(include)」等の含む(including)のあらゆる形態)、又は「含む(containing)」(並びに「含む(contains)」及び「含む(contain)」等の含む(containing)のあらゆる形態)という語は、包括的又はオープンエンド型であって、挙げられていない追加の要素又は方法工程を除外するものではない。「含む(comprises)」という用語はまた、「~のみからなる(consists of)」及び「本質的に~のみからなる(consists essentially of)」という用語も包含し、明示的に開示する。本明細書において使用される場合、「本質的に~のみからなる(consisting essentially of)」という語句は、特許請求の範囲を、特定された材料又は工程、並びに特許請求の範囲に記載された発明の基本的な特性及び新規の特性(複数の場合もある)に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程に限定する。本明細書において使用される場合、「~のみからなる(consisting of)」という語句は、例えば、要素又は限定に通常付随する不純物を除き、請求項において特定されていないあらゆる要素、工程、又は成分を除外する。
【0061】
本明細書において使用される場合、限定されるものではないが、「約」、「ほぼ」、「およそ」等の近似の用語は、そのように修飾された場合、必ずしも絶対的又は完璧であるとは限らないと理解され、当業者であれば、その状態が存在するものとして指定することを正当化するのに十分近いとみなすであろう状態を指す。記載が変動し得る程度は、変化が起こされてもなお、修飾された特徴が修飾されていない特徴の要求される特質及び能力を依然として有するものとして当業者に認識させることができる規模によって決まることになる。概して、前述の議論を条件として、「約」等の近似語によって修飾された本明細書における数値は、指定された値から±1%、±2%、±3%、±4%、±5%、±6%、±7%、±8%、±9%、又は±10%だけ変動してもよい。したがって、「約」という用語は、その値の表示値±5%、好ましくはその値の表示値±2%を意味してもよく、最も好ましくは、「約」という用語は、ちょうど表示値(±0%)を意味する。
【0062】
本明細書において使用される場合、「バクテリオファージ」又は「ファージ」という用語は、タンパク質性のエンベロープ又はカプシド内にパッケージングされた核酸ゲノムを含む機能的ファージ粒子を指す。この用語はまた、実質的に同じ機能的活性を提供する、例えば頭部又はファージ構成要素のアセンブリを含む、バクテリオファージの部分を指す。本発明による方法及び組成物において使用することができる更なるファージをここで以下の表に要約する:
【0063】
【0064】
本発明において使用される「溶解」という用語は、細菌細胞の完全性を損なう細菌細胞の破壊を引き起こすバクテリオファージの溶解活性を指す。細菌の「殺傷」という用語は、本明細書において等しく使用され、バクテリオファージの溶解活性により細菌が殺傷されることを意味し得る。バクテリオファージの溶解活性を、当該技術分野において自体既知の技術に従って、例えばC.アクネスに対して試験することができる(実験セクションも参照)。
【0065】
バクテリオファージに関する「特異的」又は「特異性」という用語は、上記バクテリオファージが感染し、溶解し、及び/又は殺傷することができる宿主のタイプについて言及している。C.アクネス菌株に「特異的な」バクテリオファージとは、1種の特異的なC.アクネス菌株に感染し、これを溶解し、及び/又は殺傷することができるバクテリオファージを指す。C.アクネスに「特異的な」バクテリオファージは、C.アクネスのみに感染し、これを溶解し、及び/又は殺傷することができ、生理的条件下ではC.アクネス以外の細菌には本質的に感染しないファージである。
【0066】
本明細書の文脈において、「分離されたバクテリオファージ」又は「1種以上のバクテリオファージの分離物」という用語は、その/それらの自然環境から取り出された及び/又は、例えばその宿主細菌等のその自然環境の構成要素から分離された1種以上のバクテリオファージを意味するとみなされるべきである。
【0067】
「ファージの実質的に均質な集団」又は「バクテリオファージの実質的に均質な集団」という用語は、本発明の方法によって生成されるエピジェネティックな刷り込みにより同じ感染性パターンを有する多数のファージを含み、その数が或る特定の菌株に対して望ましい特異性を与えるのに十分な高さであるバクテリオファージ集団を指す。本発明の好ましい実施形態において、実質的に均質な集団は、本発明の方法によって生成されるエピジェネティックな刷り込みによる同じ感染性パターンを有するファージを少なくとも70%、75%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%含む。
【実施例
【0068】
実施例1:a)REBASEを使用した潜在的な制限メチル化系の相同性に基づく検索、b)ゲノムDNA抽出、c)細菌溶解物の作製、及びd)プラスミドDNAを用いたC.アクネス溶解物アッセイ
a)REBASEを使用した潜在的な制限メチル化系の相同性に基づく検索
C.アクネスにおいて存在する潜在的なR-M系を特定するのに、完全なゲノムアセンブリが利用可能な菌株からのメチルトランスフェラーゼ又は制限酵素のいずれかに対応する全ての予測ORFをREBASEデータベースから検索した。利用可能な情報がない菌株については、NCBIゲノムデータベースからそれぞれのゲノムを取得し、アノテーション付きコーディング配列を用いてタンパク質間BLASTを実行して、潜在的なR-Mホモログを検索して特定した。菌株にわたる系間の違いを更に評価するのに、EMBL-EBIポータルで利用可能なClustal Omegaアルゴリズムを使用した配列アラインメントによる同じ推定される系のタイプに属するORF間のペアワイズ比較を実施した(Madeira et al. 2019)。この研究において使用した菌株及びアクセッション番号の完全なリストを、以下の表1に見出すことができる:
【0069】
【0070】
b)ゲノムDNA抽出
C.アクネスのSLSTタイプのA1、C1、H1、H2、K1、K2をブルセラ寒天プレート上で3日間成長させた。細菌を、滅菌綿棒を用いて収集し、1mLのBHI培地中に接種し、8000×gで3分間遠沈させ、1mLの溶解バッファー(9.4部のTEバッファー(pH8.0)及び0.6部の10%のSDS)中に再懸濁した。全ての内容物を、0.1mmのシリカビーズを予備充填したチューブに移し、機械的ホモジナイザー(Savant Bio 101 FastPrep FP120細胞破壊システム)において6.5の速度で25秒間溶解した。試料を1分間氷上に置き、このサイクルをもう一度繰り返した。次に、6μlのプロテイナーゼK(20mg/mL)及び5μlのRNアーゼ(1mg/mL)を加え、37℃の水浴で1時間インキュベートした。等容量のフェノール/クロロホルムを加え、混合し、最大速度で5分間遠沈させた。次に、水相を収集し、前の工程を繰り返した。等容量のクロロホルムを加え、混合し、最大速度で5分間遠沈させた。水相を収集し、2.5容量の100%の氷冷EtOHを加えてDNAを沈殿させた。試料を少なくとも1時間-20℃で保った。次いで、これらを最大速度で4℃にて15分間遠沈させた。上清を捨て、ペレットを70℃のEtOHで洗浄した。その後、試料を最大速度で2分間遠沈させた。乾燥したら、ペレットを50μlのHO中に再懸濁し、Qubit高感度DNAキット(Qubit high sensitivity DNA kit)(Thermo Fisher)を使用してDNA濃度を測定した。
【0071】
c)細菌溶解物の作製
C.アクネス菌株を、嫌気条件下で37℃にて180rpmで振盪しながら20mlのBHIブロス中で24時間前培養した。次いで、これらを、同じ条件を維持して1200rpmで撹拌しながら1Lの新しいBHI中に再接種した。72時間後、5000×gで20分間遠心分離することによって細胞を回収し、細菌ペレットを20mlの冷KPO(50mM、pH7.4)で2回洗浄した。次いで、湿った細胞塊1グラム当たり0.33mlのS30バッファー(10mMのトリス(CHCOO)(pH8.2)、14mMのMg(CHCOO)、10mMのK(CHCOO)、及び4mMのDTT)を加え、懸濁液を0.1mmのガラスビーズを予備充填した2mlのマイクロチューブに移した。機械的ホモジナイザー(Savant Bio 101 FastPrep FP120細胞破壊システム)を使用し、6000rpmで30秒間を2サイクル行った後に細胞を溶解した。次いで、0.22μmのフィルターユニットを使用して、4℃にて5分間1000×gで遠心分離することによって試料を濾過した。次いで、フォロースルー液を12000×gで4℃にて12分間遠心分離した。最後に、澄明な上清を収集し、使用するまで-80℃で貯蔵した。
【0072】
d)プラスミドDNAを用いたC.アクネス溶解物アッセイ
C.アクネス溶解物を、ATP又はSAMを補充した又は補充していない様々なバッファー(NEB)と一緒に0.5μgのプラスミドDNAとともにインキュベートした。更なる実験用に、Cutsmart(NEB)バッファーを選択した。8μlのC.アクネス濃縮溶解物を2μlのCutsmartバッファー(1×最終)と混合し、0.5μgのプラスミドDNAを加えた。最終容量を20μlに調整し、試料を37℃で4時間インキュベートした。その後、DNAを1%のアガロースゲル上で観察した。
【0073】
実施例2:C.アクネス菌株のタイプIA1、タイプIA2、タイプIB、タイプII、及びタイプIIIへのC.アクネスのバクテリオファージPAD20の感染
C.アクネスのSLSTタイプのA1、H1、H2(KPA171202)、及び制限メチル化欠損H2(H2 KO)に、A1又はH1から抽出された高力価のC.アクネスPAD20ファージを感染させた。ブルセラトップアガープレート(0.6%)を、4.5mLのブルセラ寒天と0.5mLの細菌培養物とを混合することによって作製した。固化した後、ファージを10μlの液滴で加え、プレートを嫌気的に37℃で3日間~5日間インキュベートした。最初の感染サイクル後、10mLのSMバッファー(100mMのNaCl、8mMのMgSO、50mMのTris-HCl(pH7.5)、0.01%のゼラチン)をプレートに加え、注意深く回転させながら室温で30分間インキュベートすることによってファージを抽出した。SMバッファーを収集し、0.5Mの最終濃度までNaClを加えて、細菌破片に結合したファージを放出させた。試料を室温で30分間インキュベートし、8000gで20分間遠心分離した。次いで、試料を濾過し、10%(重量/容量)のPEG6000を加えた。10分間のインキュベーション後、ファージを遠心分離(10000×g、30分間)によって収集した。最後に、ペレットを300μlのSMバッファー中に再懸濁した。段階希釈に続いてのプラーク計数によって、ファージ濃度を決定した。1mL当たり5×10のPFUの初期ファージ濃度を使用して、段階希釈においてC.アクネスのA1、A5、C1、C3、F4、H1、H2(KPA171202)、K1(09-9)、及びK2に再感染させることによって、EOPアッセイを実施した。ファージのPAD20 A1、PAD20 H1、PAD20 H2、及びPAD20 H2 KOのプラーク形成効率をPFU/mLで測定し、互いに比較した。
【0074】
図2から分かるように、ファージ株がどの宿主から抽出されたかに応じて異なる溶解特性を観察することができた。A1のようなタイプIA1菌株から抽出されたファージは、タイプIBに属するKPA(「KPA171202」の略称、「H2」とも呼ばれる)に感染することができなかったのに対し、他のタイプIA1菌株又はタイプIA2菌株及びH1には感染することができた。KPAから抽出されたPAD20は、A1、H1、更にはそれ自体も殺傷することができた。一方、H1からのPAD20はA1及びそれ自体に感染することができたが、H2を溶解することはできなかった。タイプII菌株に属する菌株K2は、抽出されたどのPAD20ファージによっても溶解され得なかった。これは、PAD20ファージに対してスペーサーを含む機能的なCRISPR CasタイプI-Eシステムの利用可能性によるものであると考えられる。
【0075】
実施例3:制限メチル化系の活性
宿主KPA171202のタイプIII制限メチル化系の活性の違いをナノポアシーケンシングによって調査した。
【0076】
最初に、Soerensen et al. 2010によって以前に記載された方法に従って、メチル化欠損KPA171202突然変異体(KO突然変異体)を作製した。すぐに、置換される遺伝子座の上流(プライマー468/469)及び下流(プライマー470/471)の500bpを増幅し、pGEM-T-easyベクターにクローニングした。第2工程において、Acc65I制限部位を使用してエリスロマイシンカセットをホモロジーアーム間でクローニングし、陽性クローンを選択してdam-GM2199細胞に形質転換した。C.アクネスのコンピテント細胞を、以前に記載されたように作製した(Soerensen et al. 2010)。
【0077】
ジャンクションPCR及びWGSによって正しいノックアウトを確かめ、続いてナノポアシーケンシング、RNAseq、及びファージ感染アッセイを使用して機能的特徴付けを行った。ナノポアシーケンシングにより、野生型ゲノムと比較したメチル化されたAGCAGYモチーフの損失が確かめられ、RNAseqによりIIIBメチラーゼの発現の損失が示された。
【0078】
ナノポアライブラリーを次の通りに作製した:C.アクネスのA1菌株、H1菌株、H2菌株、C1菌株、K1菌株、及びK2菌株、PAD20ファージDNA、及びE.コリプラスミドに対応するゲノムライブラリーを、ライゲーションシーケンシングキットSQK-LSK109(Oxford Nanopore)を使用して製造業者の使用説明書に従って作製した。ネイティブ試料及びWGA試料を、それぞれネイティブバーコーディングキット(Native Barcoding Kit)(EXP-NBD104)及びPCRバーコーディングキット(PCR Barcoding kit)(EXP-PBC001)を使用してバーコード化した。全ての試料を、MinIONプラットフォームにおいてFLO-MIN106D(R9)フローセル又はFLO-FLG001 Flongle(R9.4.1)フローセルのいずれかを使用してシーケンシングした。Guppy v4.0.11を使用してベースコーリング(basecalling)及び多重分離(demultiplexing)を行った。言及された菌株についてのナノポアシーケンシングデータを、Tombo v1.5ソフトウェア(Stoiber et al.、発行日付なし)を使用して分析して、修飾塩基を検出した。簡潔に言えば、「resquiggle」コマンドを使用して、電流信号をKPA171202参照ゲノムと比較した。次いで、「detect_modifications model_sample_compare」コマンドを使用して、各菌株についてネイティブ試料及び全ゲノム増幅(WGA)試料を比較して、メチル化ピークを検出した。メチル化されたモチーフを検出するのに、「text_output signif_sequence_context」コマンドを使用して、最高の修飾率(すなわち、ゲノム内の所与の位置にマッピングしている全てのリードに対する、メチル化されている可能性があると特定されたリードの割合)を有する1000箇所の位置の50bpのコンテクストを抽出した。この配列セットを、MEME(Bailey et al. 2015)を使用して「zoops」モードで処理して、共通配列を特定した。各ゲノム位置についての統計的に有意な修飾率の値を、tomboの「text_output browser_files」を使用してtomboからエクスポートし、カスタムRスクリプトを使用して更に分析した(コードの利用可能性を参照)。同様の手順を使用して、ファージDNA試料及びプラスミド試料を分析した。ファージDNAについては、デフォルトパラメーターを用いてFyle(Kolmogorov et al. 2019)を使用してゲノム参照をde novoアセンブリした。メチル化モチーフの精細なタイピングを、Nanodisco(Tourancheau et al. 2021)ツールキットに含まれるマルチラベル分類アルゴリズムを使用してその説明書に従って実施した。
【0079】
図1A)に示されるように、KO突然変異体(メチル化欠損KPA171202)は対応する制限メチル化系をもはや有しなかったため、自身のDNAを特異的なパターンでメチル化することができなかった。
【0080】
メチラーゼ自体の機能性を確かめるのに、本発明者らは、対応するC.アクネスのメチラーゼを発現するこのdam-dcm-E.コリ菌株を介してプラスミドDNAをシャトリングすることによって、H1及びH2のメチラーゼを組換え発現させた(図1B)。ナノポアシーケンシングは、プラスミドDNAのメチル化によりH2メチラーゼが機能的であるのに対し、H1メチラーゼはメチル化することができないことを示した。
【0081】
次いで、KO突然変異株に、H1、A1、又はKPAのいずれかから抽出されたPAD20を感染させ、制限メチル化系の活性を測定した。KO突然変異株は、以前に抽出された場所にかかわらず、全てのファージに対して感受性となった。これにより、エピジェネティックな変化がファージの宿主範囲特異性に関与している可能性があるという仮説が確認された。
【0082】
C.アクネスH2(KPA171202)が感染中にファージDNAをメチル化しているかどうかを理解するのに、細菌にH1及びH2からのファージを感染させ、その後それぞれ分離した。抽出されたファージDNAをナノポアシーケンシングにかけた。ナノポアシーケンシングによってファージDNAのメチル化を測定し、特異的なメチル化パターンを特定した(図1C)。
【0083】
実施例4:2種の異なるC.アクネス菌株を含む集団の特異的殺傷
サブグループIA1からの菌株(A1)にサブグループIBの菌株(H1)を1:1で接種し、この混合物にA1宿主から抽出したファージを感染させた。3日後、細菌のサブセットを寒天プレート上にプレーティングし、SLSTシーケンシングによってサブセットを分類について確認した。試験した全てのコロニーはH1のC.アクネス菌株に属しており、これは、PAD20ファージの宿主範囲特異性が100%であることを意味する。これらの所見により、試験されたファージのその宿主に対する強い選択性が確認される。
【0084】
実施例5:ヒトの皮膚から抽出されたマイクロバイオーム培養物全体に対する特異的殺傷
多様な細菌集団に、A1から抽出したPAD20のC.アクネスのファージを接種し、3つの異なる時点で試料を採取して、成長中の集団における或る特定の菌株の特異的殺傷を観察した。菌株レベルだけでなくクレードレベルに応じた変化も比較した。クレードIA1、特にA1菌株の減少が観察されたが、クレードIBでは増加を観察することができた。タイプII菌株は、そのSLSTタイプに僅かな減少を示したが、時間が経過しても非常に安定していた。これは、培養物中のタイプII菌株のサブセットにおける潜在的なCRISPR Casシステムに関連している可能性がある(図2C)。
【0085】
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図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
【手続補正書】
【提出日】2023-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる1種以上のバクテリオファージの感染性範囲の変化をスクリーニングするin vitroでの方法であって、
(a)好ましくは制限メチル化系を含む少なくとも1種の細菌に前記1種以上のバクテリオファージを感染させた後、前記1種以上のバクテリオファージの分離物を取得する工程と、
(b)工程a)で使用した前記細菌とは異なる、好ましくは制限メチル化系を含む細菌に、a)の前記細菌に以前に感染させた前記1種以上のバクテリオファージを感染させて、前記ファージの増殖を可能にする工程と、
(c)工程b)の感染後に前記1種以上のバクテリオファージの分離物を取得し、工程b)の前記細菌の感染後にバクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる前記1種以上のバクテリオファージの感染性範囲の変化を決定する工程と、任意に、
(d)エピジェネティックな刷り込みの変化による需要のある特異的な感染性範囲が得られる場合に前記1種以上のバクテリオファージの前記分離物を選択し、任意に、前記バクテリオファージ(複数の場合もある)を製剤化して製品にする工程と、
を含み、
工程c)及び/又は工程d)の前記分離物のエピジェネティックな刷り込みを特徴付けることを更に含む、方法。
【請求項2】
バクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる特異的な感染性範囲を有する1種以上のバクテリオファージをスクリーニングするin vitroでの方法であって、
(a)好ましくは制限メチル化系を含む少なくとも1種の細菌に前記1種以上のバクテリオファージを感染させた後、前記1種以上のバクテリオファージの分離物を取得する工程と、
(b)a)とは異なる、好ましくは制限メチル化系を含む細菌に、a)の前記細菌に以前に感染させた前記1種以上のバクテリオファージを感染させて、前記ファージの増殖を可能にする工程と、
(c)工程b)の感染後に前記1種以上のバクテリオファージの分離物を取得し、前記1種以上のバクテリオファージが、工程b)の前記細菌の感染後にバクテリオファージのエピジェネティックな刷り込みによる特異的な感染性範囲を有するかどうかを決定する工程と、
(d)エピジェネティックな刷り込みの変化による需要のある特異的な感染性範囲が得られる場合に前記1種以上のバクテリオファージの前記分離物を選択し、任意に、前記バクテリオファージ(複数の場合もある)を製剤化して製品にする工程と、
を含む、方法。
【請求項3】
工程b)の前記細菌は、制限メチル化系を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)の感染後の前記バクテリオファージの分離物は、エピジェネティックな刷り込みにより変化した感染性範囲を有する実質的に均質なバクテリオファージの集団を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
a)及びb)の前記細菌は、C.アクネス、E.コリ、サルモネラ属の複数の菌種、例えばサルモネラ・ティフィムリウム、シゲラ属の複数の菌種、例えばシゲラ・フレクスネリ、エンテロコッカス属の複数の菌種、例えばクレブシエラ、プロテオバクテリア門の複数の菌種、例えばシュードモナス属の複数の菌種、具体的にはシュードモナス・エルギノーザ、ヘモフィルス属の複数の菌種、コリネバクテリウム属の複数の菌種、及びファーミキューテス門の複数の菌種、例えばバシラス属の複数の菌種、ストレプトコッカス属の複数の菌種、例えばストレプトコッカス、及びスタフィロコッカス属の複数の菌種、具体的にはスタフィロコッカス・アウレウスからなる群から選択され、好ましくは、a)及びb)の前記細菌は、C.アクネスである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
a)及びb)の前記細菌のそれぞれは、C.アクネスの異なる菌株であり、かつ工程b)の前記細菌は、タイプIg、タイプIIa、タイプIIb、タイプIIg、又はタイプIIIbの制限メチル化系等の活性な制限メチル化系を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
a)及びb)の前記細菌は、異なるC.アクネス菌株であり、かつ前記菌株のそれぞれは、次のクレードIA1、IA2、IB、IC、タイプII、又はタイプIIIのいずれかに属する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
a)の前記細菌は、IA1、IA2、又はIBのクレードに属し、かつb)の前記細菌は、次のクレードIA1又はIA2、IB、IC、タイプII、又はタイプIIIのいずれかに属する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
a)の前記細菌は、IA1、IA2、又はIBのクレードに属し、かつb)の前記細菌は、次のクレードIB、IC、タイプII、又はタイプIIIのいずれかに属する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
a)及びb)の細菌は、C.アクネス、コリネバクテリウム属の複数の菌種、又はスタフィロコッカス属の複数の菌種から選択され、好ましくは、a)及びb)の前記細菌は、C.アクネスである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法によって特定及び取得された又は取得可能なファージ集団を含む組成物。
【請求項11】
療法用の、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
C.アクネス、コリネバクテリウム属の複数の菌種、及びスタフィロコッカス属の複数の菌種、具体的にはスタフィロコッカス・アウレウスからなる群のいずれかの種又は菌株から選択される1種以上の細菌種又は細菌株の選択的な細菌殺傷において使用され、好ましくは、a)及びb)の前記細菌は、C.アクネスである、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記1種以上の細菌種又は細菌株の選択的な溶解及び/又は殺傷によるプロバイオティクス菌株の定着強化用の、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
皮膚マイクロバイオームの治療用の、請求項10に記載の組成物。
【国際調査報告】