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特表2024-531569自閉スペクトラム症患者の睡眠困難の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】自閉スペクトラム症患者の睡眠困難の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/343 20060101AFI20240822BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K31/343
A61P25/00
A61P25/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514428
(86)(22)【出願日】2022-09-14
(85)【翻訳文提出日】2024-05-02
(86)【国際出願番号】 US2022076393
(87)【国際公開番号】W WO2023044319
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】63/243,918
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/268,430
(32)【優先日】2022-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/269,137
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507021702
【氏名又は名称】ヴァンダ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロポウロス, ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロポウロス, クリストス
(72)【発明者】
【氏名】スミーシェク, サンドラ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086BA06
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA23
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA05
4C086ZC51
(57)【要約】
本発明は、概して、自閉スペクトラム症(ASD)及び睡眠困難の治療に関し、より詳細には、タシメルテオンを用いたASD患者における睡眠障害の治療及び/又は日中機能の改善に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自閉スペクトラム症(ASD)に苦しむ患者を治療する方法であって、
ASDの少なくとも1つの症状を改善するのに有効な用量のタシメルテオンを前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
ASDの前記少なくとも1つの症状が、社会的コミュニケーション又は交流に影響を与える症状を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの症状が、
アイコンタクトを避ける、又はアイコンタクトを維持できないこと;
表情の欠如;
手振りを含むジェスチャーの使用が減少していること;
他者との興味の共有が少ないこと;
他者が指差すところを、指差さない、又は見ないこと;
他者が傷ついている又は悲しんでいることに気付かないこと;
遊びの中で何かのふりをしないこと;
仲間への興味の欠如;
他者の気持ちを理解する、又は患者自身の気持ちについて話し合うことが困難であること;及び
交代を伴うゲームで遊ばないこと
からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの症状が、限定的な又は反復的な行動又は興味に影響を与える症状を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの症状が、
動揺したとき又は物の順序が変えられたときに物を整列させること;
単語又はフレーズの繰り返し(エコラリア);
おもちゃで毎回同じように遊ぶこと;
物の一部に集中すること;
小さな変化に動揺すること;
強迫的な興味;
ルーティンへの異常な執着;
手をひらひらさせること;
体を揺らすこと;
ぐるぐる回ること;及び
音、匂い、味、外見又は感触に対する異常な反応
からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの症状が、
言語技能の遅れ;
動作技能の遅れ;
認知又は学習技能の遅れ;
過活動的、衝動的及び/又は不注意な行動;
てんかん又はけいれん障害;
異常な食生活又は睡眠習慣;
睡眠困難又は日中機能障害;
胃腸の問題;
異常な気分又は感情的な反応;
不安、ストレス又は過度の心配;並びに
恐怖の欠如又は予想以上の恐怖
からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの症状の改善が、
変化に対する臨床全般印象(CGI-C)尺度、
重症度に対する臨床全般印象(CGI-S)尺度、
変化に対する患者の全般印象(PGI-C)尺度、
異常行動チェックリスト(ABC)、
行動の重症度に対する患者の全般印象(PGI-S Behavior:patient global impression of severity behavior)尺度、及び
行動の変化に対する患者の全般印象(PGI-C Behavior)尺度
からなる群から選択される少なくとも1つの測定基準における改善を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
自閉スペクトラム症(ASD)に関連する睡眠困難に苦しむ患者を治療する方法であって、
睡眠、日中機能又はその両方を改善するのに有効な用量のタシメルテオンを前記患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項9】
改善された睡眠が、
変化に対する臨床全般印象(CGI-C)尺度、
重症度に対する臨床全般印象(CGI-S)尺度、及び
変化に対する患者の全般印象(PGI-C)尺度
からなる群から選択される少なくとも1つの測定基準における改善を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
改善された日中機能が、
異常行動チェックリスト(ABC)、
行動の重症度に対する患者の全般印象(PGI-S Behavior)尺度、及び
行動の変化に対する患者の全般印象(PGI-C Behavior)尺度
からなる群から選択される少なくとも1つの測定基準における改善を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
改善された睡眠が、睡眠潜時(SOL)の減少を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記睡眠困難が、少なくとも45分の入眠潜時を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
タシメルテオンの前記用量が、20mgである、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
投与するステップが、タシメルテオンを1日1回、就寝時間前に投与することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
投与するステップが、経口で食物なしでタシメルテオンを投与することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
タシメルテオンの前記用量が、0.7mg/kgである、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
投与するステップが、タシメルテオンを1日1回、就寝時間前に投与することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
投与するステップが、経口で食物なしでタシメルテオンを投与することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
実質的に、睡眠を改善するのに有効な量のタシメルテオンを患者に投与するステップからなる前記患者の睡眠を改善する方法において、
前記患者が自閉スペクトラム症(ASD)に関連する睡眠困難に苦しんでいることを特定することによって、前記治療のために患者を選択するステップを含む、改善。
【請求項20】
改善された睡眠が、
変化に対する臨床全般印象(CGI-C)尺度、
重症度に対する臨床全般印象(CGI-S)尺度、及び
変化に対する患者の全般印象(PGI-C)尺度
からなる群から選択される少なくとも1つの測定基準における改善を含む、請求項19に記載の改善。
【請求項21】
改善された睡眠が、睡眠潜時(SOL)の減少を含む、請求項19に記載の改善。
【請求項22】
前記睡眠困難が、少なくとも45分の入眠潜時を含む、請求項21に記載の改善。
【請求項23】
タシメルテオンの前記量が、20mgである、請求項19に記載の改善。
【請求項24】
投与するステップが、タシメルテオンを1日1回、就寝時間前に投与することを含む、請求項23に記載の改善。
【請求項25】
投与するステップが、経口で食物なしでタシメルテオンを投与することを含む、請求項24に記載の改善。
【請求項26】
タシメルテオンの前記量が、0.7mg/kgである、請求項19に記載の改善。
【請求項27】
投与するステップが、タシメルテオンを1日1回、就寝時間前に投与することを含む、請求項26に記載の改善。
【請求項28】
投与するステップが、経口で食物なしでタシメルテオンを投与することを含む、請求項27に記載の改善。
【請求項29】
自閉スペクトラム症(ASD)に苦しむ患者を治療する方法であって、
前記患者が、低下したRAI1機能に関連するレチノイン酸誘発性1(RAI1)遺伝子の1つ又は複数のバリアントを保有していることを決定する、又はそうでなければ特定するステップ、及び
前記患者が1つ又は複数の前記バリアントを保有している場合、前記患者が経験している睡眠困難を軽減するのに有効な用量のタシメルテオンを前記患者に投与するステップ、
を含む、方法。
【請求項30】
RAI1遺伝子の前記1つ又は複数のバリアントが、表1に記載のバリアント及び17p11.2の欠失からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記1つ又は複数のバリアントが、フレームシフトバリアントを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記フレームシフトバリアントが、RAI1配列の444番目及び445番目におけるGAからAGCへの変異である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記フレームシフトバリアントが、RAI1配列の5221番目におけるCからCAへの変異である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記睡眠困難が、減少した睡眠時間であり、タシメルテオンの量が前記患者の睡眠時間を増加させるのに有効である、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
睡眠困難に苦しむ患者を治療する方法において、
低下したRAI1機能に関連するレチノイン酸誘導性1(RAI1)遺伝子の少なくとも1つのバリアントを保有する者を前記患者として選択するステップ
を含む、改善。
【請求項36】
前記少なくとも1つのバリアントが、表1に記載のバリアント及び17p11.2の欠失からなる群から選択される、請求項35に記載の改善。
【請求項37】
前記1つ又は複数のバリアントが、フレームシフトバリアントを含む、請求項36に記載の改善。
【請求項38】
前記フレームシフトバリアントが、RAI1配列の444番目及び445番目におけるGAからAGCへの変異である、請求項37に記載の改善。
【請求項39】
前記フレームシフトバリアントが、RAI1配列の5221番目におけるCからCAへの変異である、請求項37に記載の改善。
【請求項40】
前記患者が、自閉スペクトラム症(ASD)に苦しむ、請求項35に記載の改善。
【請求項41】
前記患者が、スミス・マゲニス症候群(SMS)に苦しむ、請求項35に記載の改善。
【請求項42】
前記睡眠困難が、減少した睡眠時間であり、治療するステップが、前記患者の睡眠時間を増加させるのに有効な量のタシメルテオンを前記患者に投与することを含む、請求項35に記載の改善。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、それぞれの全体があたかも本明細書によって完全に記載されているかのごとく本明細書に組み込まれる2021年9月14日に出願された同時係属中の米国特許仮出願第63/243,918号、2022年2月23日に出願された同時係属中の米国特許仮出願第63/268,430号及び同時係属中の2022年3月10日に出願された米国特許仮出願第63/269,137号の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
自閉スペクトラム症
自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)は、他の基準の中でもとりわけ社会的コミュニケーションの持続的な欠乏及び限定的な/反復的な行動に関連する神経発達障害である。ASDは、最低限から十分なまでの支援を必要とする幅広い所見及び重症度のレベルで構成される。
【0003】
ASDの症状には、社会的コミュニケーション及び交流並びに限定的な又は反復的な行動又は興味に影響を与えるものが含まれる。ASDの既知の症状としては、例えば、アイコンタクトを避ける、又はアイコンタクトを維持できないこと;表情の欠如;手振りを含むジェスチャーの使用が減少していること;他者との興味の共有が少ないこと;他者が指差すところを指差したり、見たりしないこと;他者が傷ついたり悲しんだりしていることに気付かないこと;遊びの中で何かのふりをしないこと;仲間への興味の欠如;他者の気持ちを理解する、又は彼ら自身の気持ちについて話し合うことが困難であること;交代を伴うゲームで遊ぶことができないこと;動揺した時又は物の順序が変えられた時に物を整列させること;単語又はフレーズの繰り返し(エコラリア);おもちゃで毎回同じように遊ぶこと;物の一部に集中すること;小さな変化に動揺すること;強迫的な興味;ルーティンへの異常な執着;手をひらひらさせること;体を揺らすこと;ぐるぐる回ること;音、匂い、味、外見又は感触に対する異常な反応;言語技能の遅れ;動作技能の遅れ;認知又は学習技能の遅れ;過活動的、衝動的及び/又は不注意な行動;てんかん又はけいれん障害;異常な食生活又は睡眠習慣;睡眠困難又は日中機能障害;胃腸の問題;異常な気分又は感情的な反応;不安、ストレス又は過度の心配;並びに恐怖の欠如又は予想以上の恐怖が含まれる。
【0004】
ASDを有する者の不眠の有病率は最大80%であると記録されており、これは健常対照被験者よりも高い。ASDにおける睡眠に関する訴えは様々である。しかし、入眠困難及び落ち着きのなさ/夜間覚醒は、ASDを有する者にとって主な睡眠関連の問題として繰り返し浮上している。1つ又は複数のそのような睡眠に関する訴えは減少した睡眠時間につながり、それに付随する結果が他のASD症状の悪化を含む、日中機能に現れる可能性がある。ASDにおける睡眠関連の研究のほとんどは子供に焦点を当てているが、発展しつつある多くの研究が、ASDを有する成人においても同様に睡眠が妨げられていることを示しているようである。
【0005】
ASDにおける睡眠障害の病因は依然として活発な研究分野であるが、概日異常がASDにおける睡眠関連症状の重大な原因である可能性を示唆する証拠が存在する。ASD参加者では、健常対照者と比較して血清メラトニンレベルが著しく減少している。
【0006】
最近の証拠は、アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(ASMT)遺伝子で同定された多型を伴うセロトニン-N-アセチルセロトニン-メラトニン経路の破壊を伴うこれらの異常に対して、遺伝的原因を示唆している。ASDを有する者で検出される異常なメラトニンのレベルに加えて、メラトニン受容体MTNR1A及びMTNR1Bの発現を制御する調節遺伝子の変異が知られている。総合すると、これらの研究は、ASDではメラトニン合成とシグナル伝達が異常であり、睡眠関連症状を作り出す原因となっている可能性があることを示唆している。現時点では、ASDにおける睡眠症状に対する承認された治療法は存在していない。
【0007】
スミス・マゲニス症候群(SMS:Smith-Magenis Syndrome)
スミス・マゲニス症候群(SMS)は、17p11.2の中間部欠失又は、より稀には、レチノイン酸誘導1(RAI1)遺伝子のバリアントによって引き起こされる。SMSの有病率は、15,000人に1人~25,000人に1人の間であると推定されている。RAI1のハプロ不全がSMSにおける神経行動及び代謝表現型の主な原因である。SMSを有する者は、明確なパターンの軽度から中等度の知的障害、発話及び言語技能の遅れ、特有の頭蓋顔面及び骨格の異常、行動障害及び、ほぼ一律に、重大な睡眠困難を呈する。RAI1コピー数の変化もまた、ASDを含むいくつかの神経発達障害に関連している。
【0008】
タシメルテオン
概日調節剤として、タシメルテオンは、スミス・マゲニス症候群(SMS)における非24時間睡眠覚醒障害(Non-24)の治療及び夜間睡眠困難の治療のために、ヘトリオーズ(HETLIOZ)(登録商標)という商品名で米国で承認されているデュアルメラトニン受容体アゴニストである。タシメルテオンは、健常ボランティアにおける、原発性不眠症の参加者における、Non-24の参加者における及びSMSを有する小児参加者における以前の臨床試験で、安全で忍容性が高いことが示された。
【0009】
タシメルテオンは、MT1受容体よりもMT2受容体に対して高い親和性を持つ。3mg~300mgの用量範囲では、タシメルテオンの薬物動態は直線的である。タシメルテオンの絶対的バイオアベイラビリティは38%であり、空腹時経口投与後、およそ30分~3時間でそのピーク血漿濃度(tmax)に到達する。タシメルテオンの液体製剤及びそれを投与するための方法は、国際特許出願公開第WO/2021/119456号に記載されており、これはあたかも本明細書によって完全に記載されるかのごとく本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0010】
一実施形態では、本発明は、自閉スペクトラム症(ASD)に苦しむ患者を治療する方法であって、ASDの少なくとも1つの症状を改善するのに有効な用量のタシメルテオンを上記患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0011】
別の実施形態では、本発明は、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する睡眠困難に苦しむ患者を治療する方法であって、睡眠、日中機能又はその両方を改善するのに有効な用量のタシメルテオンを上記患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0012】
さらに別の実施形態では、本発明は、実質的に、睡眠を改善するのに有効な量のタシメルテオンを患者に投与することからなる上記患者の睡眠を改善する方法において、上記患者が自閉スペクトラム症(ASD)に関連する睡眠困難に苦しんでいることを特定することによって、上記治療のために患者を選択するステップを含む、改善を提供する。
【0013】
一実施形態では、本発明は、自閉スペクトラム症(ASD)に苦しむ患者を治療する方法であって、上記患者が、低下したRAI1機能に関連するレチノイン酸誘発性1(RAI1)遺伝子の1つ又は複数のバリアントを保有していることを決定する、又はそうでなければ特定すること;及び上記患者が1つ又は複数の上記バリアントを保有している場合、上記患者が経験している睡眠困難を軽減するのに有効な用量のタシメルテオンを上記患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、患者の睡眠困難を治療する方法において、低下したRAI1機能に関連するレチノイン酸誘導性1(RAI1)遺伝子の少なくとも1つのバリアントを保有する者を上記患者として選択するステップを含む、改善を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ASDにおける睡眠困難の治療におけるタシメルテオンの有効性を評価する試験では、治療のために、ASDの診断及び少なくとも週に3晩で少なくとも3カ月間継続している最低45分の入眠潜時と定義される最近の睡眠困難歴に基づいて患者が選択された。睡眠困難が別の診断可能な障害又は薬物療法に起因する可能性があるそれらの患者は除外され、睡眠時無呼吸の検査で陽性となった患者又は睡眠時無呼吸を示唆する症状を有する患者もまた同様に除外される。
【0016】
ASD MSSNGデータベースの大規模な関連解析は、ASDの治療に重要な関連性を有し得る多くの発見を明らかにしている。ASD MSSNGデータベースには、4,000を超える家族を表す11,000人超のゲノムが含まれている。ASD MSSNGデータベースで表される者のおよそ半数はASDの影響を受けている。
【0017】
この分析は、SMSを引き起こすとして知られている17p11.2欠失及びRAI1エクソン3における3つのさらなる微小欠失の一例を明らかにしている。加えて、この分析は、53個のRAI1ミスセンスバリアント、2個のフレームシフトバリアント及び1個のスプライシングバリアントを明らかにしている。
【0018】
以下の表1は、開始位置と終了位置を含む、これらのミスセンス、フレームシフト及びスプライシングの各バリアントの詳細を示す;野生型又は参照アレル及び代替アレル;該当する場合、RAI1遺伝子内のバリアントの位置及びその結果として生じるタンパク質配列の変化の詳細;並びにRAI1機能の観点から予測される影響。開始位置及び終了位置並びに野生型又は参照アレルへの全ての参照は、RAI1転写物NM030665.3に関するものである(https://databases.lovd.nl/shared/refseq/RAI1_NM_030665.3_codingDNA.htmlで入手可能)。
【0019】
【表1】

【0020】
ASD患者のゲノムに表1のバリアントが1つ又は複数存在すると、RAI1遺伝子の機能がある程度低下し、最大遺伝子の機能喪失までが起こり得ると予測される。患者が表1のバリアントのうちのいずれかについてヘテロ接合、ホモ接合又は複合ヘテロ接合である場合、その患者は表1のバリアントのうちの1つ又は複数を保有すると考えられる。
【0021】
上で述べたように、RAI1のハプロ不全はSMS患者における神経行動症状及び代謝症状の主な原因であり、重大な睡眠困難が最も一般的な症状である。現在優勢な理論は、RAI1ハプロ不全に関連したSMSにおいて睡眠困難を引き起こす概日病態生理が根底にあるというものである。これらの患者は全体的なメラトニン濃度が低く、ピーク血漿メラトニン濃度の異常なタイミングを示す。この異常なメラトニンリズムはSMS患者の95%で発生すると推定されている。
【0022】
しかし、ASD患者とSMS患者の両方が睡眠困難に苦しんでいる。SMS患者に見られる睡眠困難の様々な様態は、ASD患者において、特に、表1で特定されたもの又は17p11.2の欠失等、RAI1遺伝子の重大なバリアントを有する患者において重複し得る。
【0023】
したがって、本発明の実施形態は、低下したRAI1機能に関連する1つ又は複数のバリアントを保有するASD患者における睡眠困難の治療に向けられる。睡眠困難の治療は、以下でさらに説明するように、直接的に、及び/又は日中機能の改善の観点から評価することができる。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、1つ又は複数のそのようなバリアントを保有していると判定されたASD患者は、タシメルテオンを1日1回、就寝時間のおよそ1時間前に経口投与される。全ての場合において、タシメルテオンは絶食条件下で投与され、これには、食物なしでタシメルテオンを投与すること及び患者が食事を摂取しなかった期間後にタシメルテオンを投与することが含まれる。絶食条件下でのタシメルテオンの投与は、米国特許第10,376,487号に記載されており、上記特許はあたかも本明細書によって完全に記載されるかのごとく本明細書に組み込まれる。
【0025】
投薬は年齢及び/又は体重に基づいて決定される。成人患者及び体重28kg以上の小児患者には、タシメルテオン20mgをカプセル剤又は経口懸濁剤(4mg/mL)のいずれかの形態で投与する。体重が28kg未満の小児患者には、経口懸濁剤(4mg/mL)の形態でタシメルテオン0.7mg/kgが投与される。体重28kg以上の16歳又は17歳の患者には、患者の選択に応じて20mgカプセル剤又は4mg/mL経口懸濁剤のいずれかが投与される。
【0026】
タシメルテオンによる治療の有効性は、睡眠困難の改善及び/又は改善した日中機能という観点から、1つ又は複数の既知の尺度を用いて評価される:患者の全般印象-変化(PGI-C:Patient Global Impression-Change)尺度、患者の全般印象-行動変化(PGI-C Behavior:Patient Global Impression-Change Behavior)尺度、臨床全般印象-重症度(CGI-S:Clinical Global Impression-Severity)尺度、臨床全般印象-変化(CGI-C:Clinical Global Impression-Change)尺度、日次電子日誌、異常行動チェックリスト(ABC:Aberrant Behavior Checklist)。
【0027】
PGI-Cは、参加者又はその保護者が試験開始時と比較して参加者の症状の改善を評価する7段階評価尺度である。評価は次のように行われる:1.非常に改善した、2.かなり改善した、3.わずかに改善した、4.変化なし、5.わずかに悪化した、6.かなり悪化した、又は7.非常に悪化した。
【0028】
PGI-C Behaviorは、参加者又はその保護者が研究開始時と比較して参加者の行動上の問題の改善を評価する、同様の7段階評価尺度である。
【0029】
CGI-Sは、試験担当医師が、同じ診断を受けた参加者に対する医師自身の過去の経験と比較して、評価時の参加者の状態の重症度を評価する、同様の7段階評価尺度である。評価は次のように行われる:1.全く病気ではなく正常、2.病気であるか否か、境界線上にある、3.軽度に病気である、4.中等度に病気である、5.著しく病気である、6.重度に病気である、又は7.極度に病気である。
【0030】
CGI-Cは、試験担当医師が試験開始時と比較して参加者の症状の改善を評価する、同様の7段階評価尺度である。評価は次のように行われる:1.非常に改善した、2.かなり改善した、3.わずかに改善した、4.変化なし、5.わずかに悪化した、6.かなり悪化した、又は7.非常に悪化した。
【0031】
日次電子日誌は、参加者又は介護者が毎日記入するアンケートで構成され、睡眠日誌並びに、例えば、参加者の入眠及び起床時間、夜間睡眠の評価、日中の睡眠エピソード等を報告する睡眠後及び睡眠前アンケート等の追加のアンケートを含む。これらのアンケートには、参加者又はその保護者が、評価時の参加者の行動上の問題の重症度を評価する5段階評価尺度であるPGI-S Behavior尺度が含まれる場合がある。評価は次のように行われる:0.なし、1.軽度、2.中程度、3.重度、又は4.非常に重度。
【0032】
上記の日次電子日誌などの睡眠日誌は、本発明による治療前、治療中及び/又は治療後の様々な睡眠パラメータ並びに治療に応じたそのようなパラメータの変化を評価するために使用され得る。例えば、入眠及び起床時間は、本発明による治療前、治療中及び/又は治療後の睡眠時間を測定するために使用され得る。
【0033】
ABCは、親及び介護者が子供及び成人の問題行動を評価するための検証済み症状チェックリストである。その58項目は5つの下位尺度に分解される:(1)易刺激性、不穏、(2)無気力、社会的引きこもり、(3)常同行動、(4)多動、非服従、及び(5)不適切な発言。
【0034】
当業者に認識されるように、治療の有効性を評価するその他の方法を用いることができ、それらは本発明の範囲内である。改善した睡眠には、睡眠潜時(SOL:sleep onset latency)の減少が含まれ得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに別段の指摘がなされない限り、複数形も含むことが意図される。本明細書で使用される時、「含む(comprises)」及び/又は「含む(comprising)」の語は、記載された特徴、整数、ステップ、操作、要素、及び/又は構成要素の存在を明示するが、1つ又は複数のその他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、構成要素及び/又はそれらのグループの存在又は追加を排除するものではないことをさらに理解されたい。
【0036】
この書面による説明は、本発明を最良の形態と共に開示するため、また、当業者による任意の装置又はシステムの作製及び使用並びに任意の関連する又は組み込まれた方法の実行を含む本発明の実施を可能にするため、例を使用する。本発明の特許を受けることができる範囲は請求項によって定義され、当業者が発想する他の例を含み得る。そのような他の例は、それらが請求項の文字通りの言語と異ならない構造要素を有する場合、又はそれらが請求項の文字通りの言語と非実質的な差異を持つ同等の構造要素を含む場合には、請求項の範囲内にあることが意図される。

【国際調査報告】