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特表2024-531581船舶の蒸発ガス処理システム及び蒸発ガス処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】船舶の蒸発ガス処理システム及び蒸発ガス処理方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 25/16 20060101AFI20240822BHJP
   B63H 21/38 20060101ALI20240822BHJP
   B63J 3/04 20060101ALI20240822BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B63B25/16 D
B63H21/38 B
B63J3/04
F17C13/00 302A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514548
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(85)【翻訳文提出日】2024-03-05
(86)【国際出願番号】 KR2021019887
(87)【国際公開番号】W WO2023042975
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0123382
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517430897
【氏名又は名称】ハンファ オーシャン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヘ ミン
(72)【発明者】
【氏名】リー,スン チョル
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジュン チェ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジン ホ
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA05
3E172AA06
3E172AB04
3E172BA06
3E172BD02
3E172DA90
3E172EB02
3E172EB03
3E172EB10
3E172HA04
3E172HA08
3E172HA14
3E172KA03
(57)【要約】
船舶の蒸発ガス処理システム及び蒸発ガス処理方法が開示される。
【解決手段】本発明の船舶の蒸発ガス処理システムは、船舶の貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮する第1圧縮機と、前記貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮する第2圧縮機と、前記第1圧縮機または前記第2圧縮機で圧縮された蒸発ガスを冷却する熱交換器と、前記熱交換器に供給される冷媒を循環させる冷媒循環ラインとを備える。前記第1圧縮機は、複数の圧縮部を備える多段圧縮機であり、推進エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、前記第2圧縮機は、前記推進エンジンより低い圧力の燃料が供給される発電エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、前記第1圧縮機の一部の圧縮部で圧縮された蒸発ガスを、前記熱交換器で冷却するか、または前記発電エンジンに供給することを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮する第1圧縮機;と、
前記貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮する第2圧縮機;と、
前記第1圧縮機または前記第2圧縮機で圧縮された蒸発ガスを冷却する熱交換器;と、
前記熱交換器に供給される冷媒を循環させる冷媒循環ライン:とを備え、
前記第1圧縮機は、複数の圧縮部を備える多段圧縮機であり、推進エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、
前記第2圧縮機は、前記推進エンジンより低い圧力の燃料が供給される発電エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、
前記第1圧縮機の一部の圧縮部で圧縮された蒸発ガスを、前記熱交換器で冷却するか、または前記発電エンジンに供給することを特徴とする、
船舶の蒸発ガス処理システム。
【請求項2】
前記冷媒循環ラインには、
前記熱交換器で熱交換させた後に前記熱交換器から排出された冷媒を圧縮する冷媒圧縮部;と、
前記冷媒圧縮部で圧縮された後に前記熱交換器で冷却された冷媒を、膨張させて冷却した後、前記熱交換器に供給する冷媒膨張部;とが設けられることを特徴とする、
請求項1に記載の船舶の蒸発ガス処理システム。
【請求項3】
前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを、前記熱交換器に供給した後に前記第1圧縮機または前記第2圧縮機に供給する蒸発ガス供給ライン;と、
前記第1圧縮機の下流と前記推進エンジンとを接続する第1燃料供給ライン;と、
前記第1圧縮機の一部の圧縮部または前記第2圧縮機で圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却し、前記貯蔵タンクに回収する再液化ライン;と、
前記第1圧縮機の一部の圧縮部または前記第2圧縮機で圧縮された蒸発ガスを、前記発電エンジンに供給する第2燃料供給ライン;とをさらに備えることを特徴とする、
請求項1に記載の船舶の蒸発ガス処理システム。
【請求項4】
前記蒸発ガス供給ラインから分岐して、前記熱交換器を迂回させて前記第1圧縮機または前記第2圧縮機に蒸発ガスを供給する分岐ライン;と、
前記分岐ラインに設けられて、前記蒸発ガスを加熱するプリヒータ:とをさらに備え、
前記蒸発ガスを再液化させる再液化システムを稼働させない場合または再液化システムの負荷が小さい場合には、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスの全部または一部を、前記熱交換器を迂回させて、前記分岐ラインを介して前記プリヒータで加熱して前記第1圧縮機または前記第2圧縮機に供給することを特徴とする、
請求項3に記載の船舶の蒸発ガス処理システム。
【請求項5】
前記熱交換器で冷却された前記圧縮された蒸発ガスを減圧する減圧装置;と、
前記減圧装置で減圧された蒸発ガスを気液分離する気液分離器;とをさらに備え、
前記気液分離器で分離されたフラッシュガスを、前記熱交換器の上流で、前記第1圧縮機または前記第2圧縮機に供給される非圧縮の蒸発ガスの流れと合流させて、前記気液分離器で分離された液化ガスを前記貯蔵タンクに回収することを特徴とする、
請求項4に記載の船舶の蒸発ガス処理システム。
【請求項6】
前記貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスを、前記推進エンジンに燃料として供給する液化ガス供給ライン;と、
前記液化ガス供給ラインに設けられて、液化ガスを前記推進エンジンの燃料供給圧力まで加圧する加圧ポンプ;と、
前記加圧ポンプで加圧された液化ガスを加熱する気化器;とをさらに備えることを特徴とする、
請求項5に記載の船舶の蒸発ガス処理システム。
【請求項7】
前記気化器の下流で前記液化ガス供給ラインから分岐して、前記発電エンジンに接続する液化ガス分岐ライン;と、
前記液化ガス分岐ラインに設けられて、前記発電エンジンの燃料供給圧力に応じて前記液化ガスの圧力を調節する圧力調節バルブ;と、
前記液化ガス分岐ラインに設けられて、前記圧力調節バルブを通過した液化ガスを前記発電エンジンの燃料供給温度に応じて追加加熱するヒータ;とをさらに備えることを特徴とする、
請求項6に記載の船舶の蒸発ガス処理システム。
【請求項8】
船速発生区間では、前記第1圧縮機を駆動させて、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを前記第1圧縮機で圧縮して、前記推進エンジン及び前記発電エンジンに供給すると共に、余剰の圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却し、
船舶の停泊時には、前記第2圧縮機を駆動させて、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを前記第2圧縮機で圧縮して、前記発電エンジンに供給すると共に、余剰の圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却することを特徴とする、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の船舶の蒸発ガス処理システム。
【請求項9】
前記冷媒循環ラインを循環する冷媒が窒素であることを特徴とする、
請求項8に記載の船舶の蒸発ガス処理システム。
【請求項10】
推進エンジンと、前記推進エンジンより低い圧力の燃料が供給される発電エンジンとが設けられる船舶の蒸発ガス処理方法において、
貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを第1圧縮機または第2圧縮機で圧縮した後、前記推進エンジン及び前記発電エンジンに燃料として供給されなかった圧縮された蒸発ガスを、冷媒循環ラインを介して循環される冷媒が供給される熱交換器で冷却して再液化させ、
前記第1圧縮機は、複数の圧縮部を備える多段圧縮機であり、前記推進エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、前記第2圧縮機は、前記発電エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、
前記第1圧縮機の一部の圧縮部で圧縮された蒸発ガスを、前記熱交換器で冷却するか、または前記発電エンジンに供給することを特徴とする、
船舶の蒸発ガス処理方法。
【請求項11】
船速発生区間では前記第1圧縮機を駆動させて、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを前記第1圧縮機で圧縮した後、前記推進エンジン及び前記発電エンジンに供給すると共に、余剰の圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却し、
船舶の停泊時には、前記第2圧縮機を駆動させて、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを前記第2圧縮機で圧縮した後、前記発電エンジンに供給すると共に、余剰の圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却することを特徴とする、
請求項10に記載の船舶の蒸発ガス処理方法。
【請求項12】
前記冷媒循環ラインを循環する冷媒を、冷媒圧縮部で圧縮し、前記熱交換器で冷却した後、冷媒膨張部で膨張させて冷却し、前記熱交換器に冷熱源として供給し、
前記冷媒圧縮部は、前記冷媒膨張部に接続され、前記冷媒膨張部から冷媒の膨張エネルギーが伝達されて冷媒を圧縮することを特徴とする、
請求項11に記載の船舶の蒸発ガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の蒸発ガス処理システム及び蒸発ガス処理方法に関する。より具体的には、推進エンジン及び推進エンジンより低圧の燃料が供給される発電エンジンが設けられる船舶で、船内の貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガス(BOG、Boil-Off Gas、ボイルオフガス)をエンジンに燃料として供給し、燃料として使用されなかった蒸発ガスを再液化させて貯蔵タンクに回収する、船舶の蒸発ガス処理システム及び蒸発ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液化天然ガス(Liquefied Natural Gas、LNG)などの液化ガスの消費量が世界的に急増している傾向にある。天然ガスを低温で液化させた液化ガスは、気体状態に比べて体積が非常に減少することから、貯蔵及び輸送効率を向上できるという利点がある。また、液化天然ガスなどの液化ガスは、液化工程中に大気汚染物質を除去または減少させることができ、燃焼時に大気汚染物質の排出が少ない環境に優れた燃料である。
【0003】
液化天然ガスは、メタン(Methane)を主成分とする天然ガスを、約-163℃まで冷却して液化させることで得られる無色透明な液体であり、天然ガスと比較して約1/600の体積になる。したがって、天然ガスを液化させることで、非常に効率的な輸送が可能となる。
【0004】
しかし、天然ガスの液化温度は大気圧で-162℃の極低温であることから、液化天然ガスは温度変化に敏感であり、容易に蒸発してしまう。そのため、液化天然ガスが貯蔵される貯蔵タンクには、断熱処理が施されるが、外部熱が貯蔵タンクに継続して伝達されることで、液化天然ガスの輸送過程において、貯蔵タンク内では液化天然ガスが継続して自然気化し、蒸発ガスが発生する。
【0005】
蒸発ガスはLNGの損失であることから、輸送効率において重要な問題である。また、貯蔵タンク内に蒸発ガスが蓄積することで、貯蔵タンク内の圧力が過度に上昇し、貯蔵タンクが破損する虞もある。したがって、貯蔵タンク内で発生した蒸発ガスを処理するために様々な方法が研究されている。最近では蒸発ガスを処理するために、蒸発ガスを再液化させて貯蔵タンクに戻す方法、蒸発ガスを船舶エンジンなどの燃料需要先でエネルギー源として使用する方法などが使用されている。
【0006】
蒸発ガスを再液化させる方法には、他の冷媒を用いる冷凍サイクルを備え、蒸発ガスを冷媒との熱交換により再液化させる方法、他の冷媒を用いずに蒸発ガス自体を冷媒として利用して再液化させる方法などがある。
【0007】
一方、一般に船舶で使用されるエンジンのうち、天然ガスを燃料として使用できるエンジンには、DFDE、X-DFエンジン、ME-GIエンジンなどのガス燃料エンジンがある。
【0008】
DFDEは4工程で構成され、比較的低圧である5.5barg程度の圧力を有する天然ガスを燃焼空気の入口に注入し、ピストンが上昇すると共に圧縮するオットーサイクル(Otto Cycle)を採用している。
【0009】
X-DFエンジンは2行程で構成され、15barg程度の天然ガスを燃料として使用し、オットーサイクルを採用している。
【0010】
ME-GIエンジンは2行程で構成され、300barg付近の高圧天然ガスをピストンの上死点付近で燃焼室に直接噴射するディーゼルサイクル(Diesel Cycle)を採用している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願の出願人は、蒸発ガス自体を冷媒として用いることで他の冷媒を用いずに蒸発ガスを再液化させる方法として、圧縮機で圧縮された蒸発ガスを、圧縮機で圧縮される前の蒸発ガスとの熱交換により冷却した後、ジュール-トムソンバルブなどにより膨張させて、蒸発ガスの一部を再液化させる方法を発明した。このようなシステムを所謂PRS(Partial Re-liquefaction System)という。
【0012】
貯蔵タンク内の液化ガス量が多いために蒸発ガスの発生量も多くなる場合、船舶が停泊している場合や、低速度運航のためにエンジンで使用される蒸発ガス量が少ない場合など、再液化させる必要がある蒸発ガス量が多くなる場合には、PRSだけでは必要な再液化量に達しないことがある。そのため、本願の出願人は、より多くの量の蒸発ガスを再液化できるよう、PRSの改良技術を発明した。
【0013】
PRSの改良技術として、蒸発ガス自体を冷媒として用いる冷媒サイクルにより、蒸発ガスを追加冷却できるシステムをMRS(Methane Refrigeration System)という。
【0014】
また、再液化させる蒸発ガスの冷却には、混合冷媒や窒素など他の冷媒を別途利用することもできる。
【0015】
一方、蒸発ガスを燃料として使用するエンジンが設けられる船舶では、エンジンに燃料を供給する圧縮機を、蒸発ガスを再液化させるために利用することができる。
【0016】
図1に、LNGから発生した蒸発ガスが燃料として供給されるエンジンE1,E2が設けられる船舶を示す。このものは、蒸発ガス処理システムが設けられ、燃料供給用の圧縮機10A,10Bで高圧に圧縮された蒸発ガスをエンジンE1,E2に燃料として供給し、燃料として使用されなかった圧縮された蒸発ガスを熱交換器20で蒸発ガスの冷熱で冷却した後、減圧装置30で減圧し、気液分離器40で気液分離して、貯蔵タンクTに回収する。
【0017】
このような燃料供給のために設けられる圧縮機10A,10Bは、エンジンが必要とする燃料供給条件に応じて設けられ、圧縮機の故障に備えて船級(韓国船級、Korean Register)などで要求する冗長用の圧縮機を含めて2台が設けられる。エンジンの燃料消費量が少なく再液化させる蒸発ガス量が多い停泊(Anchoring)時などの場合には、2台の圧縮機を運転することもある。しかし、この場合、熱交換器20の冷熱が不足して再液化効率が低くなる一方で、2台の高圧圧縮機を駆動するための電気消費が多く、エネルギー効率が低下し、また2台の高圧圧縮機を設置するための費用も高いという問題がある。
【0018】
本発明は、このような問題を解決して、再液化効率を向上させると共に、設置費用と運用費用とを低減できる、蒸発ガス処理システム及び蒸発ガス処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため本発明では、船舶の貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮する第1圧縮機と、前記貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮する第2圧縮機と、前記第1圧縮機または前記第2圧縮機で圧縮された蒸発ガスを冷却する熱交換器と、前記熱交換器に供給される冷媒を循環させる冷媒循環ラインとを備え、前記第1圧縮機は、複数の圧縮部を備える多段圧縮機であり、推進エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、前記第2圧縮機は、前記推進エンジンより低い圧力の燃料が供給される発電エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、前記第1圧縮機の一部の圧縮部で圧縮された蒸発ガスを、前記熱交換器で冷却するか、または前記発電エンジンに供給することを特徴とする、船舶の蒸発ガス処理システムが提供される。
【0020】
また、前記冷媒循環ラインには、前記熱交換器で熱交換させた後に前記熱交換器から排出された冷媒を圧縮する冷媒圧縮部と、前記冷媒圧縮部で圧縮された後に前記熱交換器で冷却された冷媒を、膨張させて冷却した後、前記熱交換器に供給する冷媒膨張部とが設けられることが好ましい。
【0021】
また、本発明においては、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを、前記熱交換器に供給した後に前記第1圧縮機または前記第2圧縮機に供給する蒸発ガス供給ラインと、前記第1圧縮機の下流と前記推進エンジンとを接続する第1燃料供給ラインと、前記第1圧縮機の一部の圧縮部または前記第2圧縮機で圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却し、前記貯蔵タンクに回収する再液化ラインと、前記第1圧縮機の一部の圧縮部または前記第2圧縮機で圧縮された蒸発ガスを、前記発電エンジンに供給する第2燃料供給ラインとをさらに備えることが好ましい。
【0022】
また、本発明においては、前記蒸発ガス供給ラインから分岐して、前記熱交換器を迂回させて前記第1圧縮機または前記第2圧縮機に蒸発ガスを供給する分岐ラインと、前記分岐ラインに設けられて、前記蒸発ガスを加熱するプリヒータとをさらに備え、前記蒸発ガスを再液化させる再液化システムを稼働させない場合または再液化システムの負荷が小さい場合には、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスの全部または一部を、前記熱交換器を迂回させて、前記分岐ラインを介して前記プレヒータで加熱して前記第1圧縮機または前記第2圧縮機に供給することが好ましい。
【0023】
また、本発明においては、前記熱交換器で冷却された前記圧縮された蒸発ガスを減圧する減圧装置と、前記減圧装置で減圧された蒸発ガスを気液分離する気液分離器とをさらに備え、前記気液分離器で分離されたフラッシュガスを、前記熱交換器の上流で、前記第1圧縮機または前記第2圧縮機に供給される非圧縮の蒸発ガスの流れと合流させて、前記気液分離器で分離された液化ガスを前記貯蔵タンクに回収することが好ましい。
【0024】
また、本発明においては、前記貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスを、前記推進エンジンに燃料として供給する液化ガス供給ラインと、前記液化ガス供給ラインに設けられて、液化ガスを前記推進エンジンの燃料供給圧力まで加圧する加圧ポンプと、前記加圧ポンプで加圧された液化ガスを加熱する気化器とをさらに備えることが好ましい。
【0025】
また、本発明においては、前記気化器の下流で前記液化ガス供給ラインから分岐して、前記発電エンジンに接続する液化ガス分岐ラインと、前記液化ガス分岐ラインに設けられて、前記発電エンジンの燃料供給圧力に応じて前記液化ガスの圧力を調節する圧力調節バルブと、前記液化ガス分岐ラインに設けられて、前記圧力調節バルブを通過した液化ガスを前記発電エンジンの燃料供給温度に応じて追加加熱するヒータとをさらに備えることが好ましい。
【0026】
また、本発明においては、船速発生区間では前記第1圧縮機を駆動させて、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを前記第1圧縮機で圧縮して、前記推進エンジン及び前記発電エンジンに供給すると共に、余剰の圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却し、船舶の停泊時には、第2圧縮機を駆動させて、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを前記第2圧縮機で圧縮して、前記発電エンジンに供給すると共に、余剰の圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却することが好ましい。
【0027】
また、本発明においては、前記冷媒循環ラインを循環する冷媒が窒素であることが好ましい。
【0028】
また、本発明では、推進エンジンと、前記推進エンジンより低い圧力の燃料が供給される発電エンジンとが設けられる船舶の蒸発ガス処理方法において、貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを第1圧縮機または第2圧縮機で圧縮した後、前記推進エンジン及び前記発電エンジンに燃料として供給されなかった圧縮された蒸発ガスを、冷媒循環ラインを介して循環される冷媒が供給される熱交換器で冷却して再液化させ、前記第1圧縮機は、複数の圧縮部を備える多段圧縮機であり、前記推進エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、前記第2圧縮機は、前記発電エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、前記第1圧縮機の一部の圧縮部で圧縮された蒸発ガスを、前記熱交換器で冷却するか、または前記発電エンジンに供給することを特徴とする、船舶の蒸発ガス処理方法が提供される。
【0029】
また、本発明においては、船速発生区間では前記第1圧縮機を駆動させて、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを前記第1圧縮機で圧縮した後、前記推進エンジン及び発電エンジンに供給すると共に、余剰の圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却し、船舶の停泊時には、前記第2圧縮機を駆動させて、前記貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを前記第2圧縮機で圧縮した後、前記発電エンジンに供給すると共に、余剰の圧縮された蒸発ガスを前記熱交換器で冷却することが好ましい。
【0030】
また、本発明においては、前記冷媒循環ラインを循環する冷媒を、冷媒圧縮部で圧縮し、前記熱交換器で冷却した後、冷媒膨張部で膨張させて冷却し、前記熱交換器に冷熱源として供給し、前記冷媒圧縮部は、前記冷媒膨張部に接続され、前記冷媒膨張部から冷媒の膨張エネルギーが伝達されて冷媒を圧縮することが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、推進エンジンと推進エンジンより低い圧力の燃料が供給される発電エンジンとが設けられる船舶において、推進エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮する第1圧縮機と、発電エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮する第2圧縮機とを備え、第1圧縮機の一部の圧縮部で圧縮された蒸発ガスを熱交換器に供給して冷却するか、または発電エンジンに供給する。
【0032】
このように蒸発ガスを高圧まで圧縮できる多段圧縮機とそれより低い圧力まで圧縮できる圧縮機とを備え、船舶の運転状況に応じて区分運用することで、冗長要件を満たすと共に電気消費量を低減し、蒸発ガスを燃料として利用することで効率的に船舶を運用することができる。
【0033】
また、蒸発ガス自体の冷熱及び冷媒サイクルの冷熱を利用して熱交換器の冷却効率を高めることで、ブースト圧縮機などの追加設備を別途設けることなく再液化率を高めることができる。また、燃料消費後の残留蒸発ガスのみを再液化させることで、残留蒸発ガス量に応じて、冷媒サイクルの負荷を調節することができるため、燃料消費量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】従来の蒸発ガス処理システムの一例を概略的に示す。
図2】本発明の第1実施形態の蒸発ガス処理システムを概略的に示す。
図3】本発明の第2実施形態の蒸発ガス処理システムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図面及び図面に記載の内容を参照して、本発明の動作上の利点及び本発明の実施形態によって達成される目的を、本発明の実施形態を例に説明する。
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について、その構成及び作用を説明する。また、各図面の構成要素の参照符号は、同一の構成要素については、他の図面上に表示されるものも可能な限り同一の符号で表記する。
【0037】
以下、本発明の船舶には、液化ガス及び液化ガスから発生した蒸発ガスを推進用または発電用エンジンの燃料として使用できるエンジンが設置された船舶や、液化ガスまたは蒸発ガスを船内機関の燃料として使用する全種類の船舶が含まれる。代表的なものとして、LNG運搬船(LNG Carrier)、液体水素運搬船、LNG RV(Regasification Vessel)などの自走能力を備える船舶をはじめ、LNG FPSO(Floating Production Storage Offloading)、LNG FSRU(Floating Storage Regasification Unit)などの推進能力を有しない海上浮遊式の海上構造物も含まれる。
【0038】
また、本発明の液化ガスには、ガスを低温で液化させて輸送することができ、貯蔵状態で発生した蒸発ガスをエンジンなどの燃料として使用できる全種類の液化ガスが含まれる。このような液化ガスとしては、例えば、LNG(Liquefied Natural Gas)、LEG(Liquefied Ethane Gas)、LPG(Liquefied Petroleum Gas)、液化エチレンガス(Liquefied Ethylene Gas)、液化プロピレンガス(Liquefied Propylene Gas)などの液化石油ガスがある。ただし、後述する実施形態では、代表的な液化ガスの1つであるLNGを例に説明する。
【0039】
一方、本実施形態の各ラインを流れる流体は、システムの運用条件に応じて、液体状態、気液混合状態、気体状態、超臨界流体状態のいずれかであり得る。
【0040】
図2は、本発明の第1実施形態の船舶の蒸発ガス処理システムを概略的に示す。
【0041】
図2に示すように、本実施形態の再液化システムは、船舶に設けられる貯蔵タンクTに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを再液化させるためのものである。このものは、貯蔵タンクTで発生した蒸発ガスを圧縮する圧縮機100a,100bと、圧縮機100a,100bで圧縮された蒸発ガスの全部または一部が供給され、圧縮機100a,100bに供給される前の非圧縮の蒸発ガス及び冷媒との熱交換により圧縮された蒸発ガスを冷却する熱交換器200とを備える。このため、熱交換器200を介して貯蔵タンクTと圧縮機100a,100bとを接続する蒸発ガス供給ラインGLと、圧縮機100a,100bの下流に設けられて、再液化させた蒸発ガスを貯蔵タンクTに供給する再液化ラインRLとがそれぞれ設けられる。
【0042】
また、熱交換器200に供給される冷媒が循環する冷媒循環ラインNLが設けられている。冷媒循環ラインNLには、熱交換器200に供給される冷媒を膨張させて冷却する冷媒膨張部310と、熱交換器200で熱交換された後に熱交換器200から排出される冷媒を圧縮する冷媒圧縮部320とが設けられている。
【0043】
冷媒圧縮部320には、コンパンダ(Compander)式の圧縮機が設けられ、当該圧縮機と冷媒膨張部310とが軸連結されて、冷媒の膨張エネルギーが伝達されてコンパンダ式の圧縮機が駆動される。なお、本実施形態では、冷媒圧縮部320をモータMで駆動させるものを例に説明するが、モータMを冷媒膨張部310に接続し、冷媒の膨張エネルギーが伝達されてモータMを駆動させて、冷媒を圧縮するように構成してもよい。
【0044】
冷媒圧縮部320で圧縮された冷媒は、熱交換器200に供給されて冷却された後、冷媒循環ラインNLを介して冷媒膨張部310に供給され、膨張により冷却された後、熱交換器200に冷媒として再び供給される。
【0045】
したがって、本実施形態の熱交換器200では、圧縮された蒸発ガスの全部または一部、圧縮機100a,100bに供給される前の非圧縮の蒸発ガス、冷媒膨張部310で膨張により冷却された冷媒及び、冷媒圧縮部320で圧縮された冷媒の4つの流れが熱交換される。
【0046】
冷媒循環ラインNLを循環して熱交換器200に供給される冷媒としては、例えば窒素(N)を用いることができる。圧縮された冷媒を熱交換器200に供給し、冷媒自体の冷熱により冷却させた後に膨張させて、熱交換器200に供給して循環させる冷媒サイクルを構成し、蒸発ガスを熱交換させて冷却する場合、メタンを主成分とする蒸発ガスと窒素とには熱容量の差があることから、蒸発ガスを液化温度まで冷却するには多量の窒素冷媒が必要となる。このため、窒素冷媒自体の冷却に冷媒サイクルの冷熱の大部分を使用しなければならず、これにより、冷媒を圧縮する圧縮装置や冷媒を膨張させる膨張装置などの容量増加、また、これらの容量増加に伴う消費電力の増加を招来するといった問題がある。このような問題を解決するため、本実施形態では、貯蔵タンクTから排出された極低温の非圧縮の蒸発ガスを熱交換器200に供給した後、圧縮機100a,100bに供給するように構成した。これにより、冷媒サイクルに必要な冷媒流量を減少させることができ、その結果、冷媒の圧縮や膨張に必要な装置の容量を減少させることでき、また消費電力を削減でき、さらには設置費用及び運用費用を削減することができる。
【0047】
本実施形態のシステムでは、貯蔵タンクT内の液化ガスから発生した蒸発ガスを処理する過程で、貯蔵タンクTで発生した蒸発ガスは熱交換器200に供給された後、圧縮機100a,100bに供給される。
【0048】
圧縮機100a,100bでは、蒸発ガスが圧縮され、例えば蒸発ガスは船舶エンジンの燃料供給圧力まで圧縮される。本実施形態のように、冷媒循環ラインNLを循環する冷媒の冷熱を熱交換器200で利用し且つ、推進エンジンとそれより低い燃料供給圧力を有する発電エンジンとが設けられる船舶の場合、圧縮機100a,100bで発電エンジンの燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮して発電エンジンE2に燃料として供給し、燃料供給後に残った残留蒸発ガスを再液化させる。圧縮機100a,100bは、例えばDFGEエンジンが設けられる場合には、5~10baraの圧力まで蒸発ガスが圧縮される。
【0049】
船舶に関する規定に関して、エンジンに燃料を供給する圧縮機は、緊急事態に備えて冗長(Redundancy)設計する必要がある。冗長設計とは、一方の装置が故障やメンテナンスなどの理由により使用ができなくなった時に、その代わりに他の装置を使用できるように設計することを意味する。このために、圧縮機は主圧縮機100aと予備圧縮機100bとを備えて構成され、正常運転(Normal operation)時には主圧縮機100a、すなわち1台の圧縮機のみを運転して推進エンジンや発電エンジンなどに燃料を供給し、圧縮された圧縮ガスの残量は再液化ラインRLで再液化される。
【0050】
推進エンジンへの燃料供給に関し、貯蔵タンクTからポンピングされて排出された液化ガスが、液化ガス供給ラインLLを介して、液化ガスを推進エンジンの燃料供給圧力まで加圧する加圧ポンプ600と、加圧された液化ガスを燃料供給温度に応じて加熱する気化器610とに供給された後、推進エンジンに供給される。液化ガス供給ラインLLの気化器610の下流で分岐して、発電エンジンE2に接続する液化ガス分岐ラインLL2が設けられている。液化ガス分岐ラインLL2には、発電エンジンE2の燃料供給圧力に応じて液化ガスの圧力を調節する圧力調節バルブ620と、圧力調節バルブ620を通過した液化ガスを発電エンジンE2の燃料供給温度に応じて追加加熱するヒータ630などの装置が設けられており、加圧された液化ガスをこれらに供給した後、発電エンジンE2に供給してもよい。
【0051】
一方、圧縮機100a,100bで圧縮された蒸発ガスは、再液化ラインRLを介して熱交換器200に供給されて冷却される。圧縮されて再液化される蒸発ガスと冷媒圧縮部320で圧縮された冷媒とは、熱交換器200のホットストリーム(Hot stream)を形成し、非圧縮の蒸発ガスと冷媒膨張部310で膨張により冷却された冷媒とは、コールドストリーム(Cold stream)を形成する。
【0052】
熱交換器200では、4つの流れが熱交換し、ホットストリームがコールドストリームとの熱交換によって冷却される。熱交換器200は、例えばBAHE(Brazed Aluminum Heat Exchanger)である。
【0053】
より効果的にホットストリームとコールドストリームとの熱交換が行われて、再液化される圧縮ガスが冷却されるように、熱交換器200内の各流れの供給位置及び排出位置を変えることができる。
【0054】
熱交換器200のコールドストリームのうち、膨張により冷却された後に熱交換器200へ供給される窒素冷媒は、例えば圧力が10bar程であれば温度は-167℃程であり、熱交換器200のもう一方のコールドストリームである非圧縮の蒸発ガス(-50℃程)より温度が低い。したがって、これらが熱交換器200に一緒に供給されると、窒素冷媒の冷熱の全てが再液化される圧縮ガスの冷却に使用されず、冷熱の一部がもう一方のコールドストリーム(すなわち、非圧縮の蒸発ガス)に吸収される虞がある。このため、特に図示して説明はしないが、コールドストリームのうち温度が低い窒素冷媒流(図2中、NLを介した流れ)は、熱交換器200の下流から供給して熱交換器200の全長を通過させるように構成し、コールドストリームのうち温度の高い非圧縮の蒸発ガスの流れ(図2中、GLを介した流れ)は、熱交換器200の中間部分から供給される。
【0055】
したがって、再液化ラインRLの圧縮ガスは、熱交換器200の高温領域から低温領域を通過して順次冷却され、高温領域では2つのコールドストリーム、すなわち冷媒循環ラインNLの冷媒と蒸発ガス供給ラインGLの非圧縮の蒸発ガスとから冷熱が供給されて冷却される。また、低温領域では1つのコールドストリーム、熱交換器200に供給された直後の冷媒循環ラインNLの冷媒と熱交換されて、順次冷却される。
【0056】
このように熱交換させることで、再液化される圧縮ガスをより効果的に冷却して再液化率を高めることができ、熱交換器200の熱疲労を防止して装置の損傷を防止することができる。
【0057】
一方、熱交換器200で熱交換により冷却された蒸発ガス(圧縮ガス)は、再液化ラインRLの減圧装置400に供給されて減圧され、減圧装置400で減圧された蒸発ガスは気液分離器500に供給される。
【0058】
減圧装置400は、圧縮後に冷却された蒸発ガスを減圧する膨張機(Expander)またはジュールトムソンバルブなどの膨張バルブで構成される。減圧により蒸発ガスは断熱膨張または等エントロピー膨張により冷却される。
【0059】
減圧装置400で減圧されて追加冷却された蒸発ガスは、気液分離器500に供給される。気液分離器500で分離された液体は、再液化ラインRLを介して貯蔵タンクTに供給されて再貯蔵される。ただし、本実施形態では気液分離器500を経由させても、気体のフラッシュガスと液体の液化ガスとが完全に相分離しないことがあり、分離された液体または液化ガスには、未分離のフラッシュガスが含まれ得る。
【0060】
気液分離器500で分離されたフラッシュガスは、気液分離器500の上部から熱交換器200及び後述のプリヒータ700の上流の非圧縮の蒸発ガスの流れに合流され、熱交換器200またはプリヒータ700に供給された後、圧縮機100a,100bに供給される。
【0061】
本実施形態のシステムは、蒸発ガス自体の冷熱及び冷媒サイクルの冷熱を利用して熱交換器200の冷却効率を高めることで、再液化率を高めるために再液化される蒸発ガスを高圧に圧縮するブースト圧縮機などの追加設備の設置や運用が不要となり、CAPEX(Capital expenditure、資本支出)とOPEX(Operating expenditure、営業費用)とを削減することができる。
【0062】
一方、貯蔵タンクTで発生した蒸発ガスは、貯蔵タンク運転状況(Tank operation)に応じて、-140℃~-100℃の範囲の極低温で貯蔵タンクTから排出される。このとき、エンジンへの燃料供給のために設けられる圧縮機の種類によっては、圧縮機に供給される蒸発ガスの温度が所定の温度範囲となるように要求される。特にエンジンへの燃料供給用の圧縮機は、常温圧縮機が設置される。この場合、再液化システムが稼働中であり、再液化される蒸発ガス量が多く再液化システムの負荷が所定の範囲以上であるときには、貯蔵タンクTで発生した低温蒸発ガスは、熱交換器200に供給されて熱交換により十分に加熱されて圧縮機100a,100bに供給される。しかし、エンジンで消費される蒸発ガス量が多く、再液化システムを稼動させない場合や再液化システムの負荷が小さい場合には、蒸発ガスを熱交換器200に供給しても、蒸発ガスは圧縮機100a,100bが要求する適正吸入温度まで十分に加熱されない。
【0063】
本実施形態のシステムでは、このような問題を解決するため、貯蔵タンクTから熱交換器200を迂回させて、圧縮機100a,100bにそのまま供給できる分岐ラインBLを設け、この分岐ラインBLに蒸発ガスを加熱できるプリヒータ700を設けた。
【0064】
再液化システムを稼動する場合、貯蔵タンクTで発生した蒸発ガスは、熱交換器200で熱交換により加熱された後に圧縮機100a,100bに供給される。しかし、再液化システムを稼動させない場合や再液化システムの負荷が小さい場合、貯蔵タンクTで発生した蒸発ガスの全部または一部は、熱交換器200を迂回して分岐ラインBLを介してプリヒータ700で加熱され、圧縮機100a,100bに供給される。
【0065】
このように本実施形態では、蒸発ガスを発電エンジンE2への燃料供給用の圧縮機100a,100bで圧縮した後、発電エンジンE2に燃料として供給し、余剰の圧縮ガスを再液化させる。一方、推進エンジンE1には、貯蔵タンクT内の液化ガスが、加圧ポンプ600で加圧された後、気化器610を経て燃料として供給される。ところで、上記実施形態では、船速が速く、推進エンジンE1の燃料消費量が多い場合でも、蒸発ガスは推進エンジンE1に燃料として供給されず、圧縮機100a,100bで圧縮された蒸発ガスのうち、発電エンジンE2に燃料として供給されずに残った蒸発ガスを再液化させた後、再液化させた液化ガスを推進エンジンE1に燃料として供給する必要がある。このため、加圧ポンプ600と気化器610とで再度加圧及び気化させることで、エネルギー効率が低下するという問題がある。そのため、以下の第2実施形態では、この問題を解決して、エネルギー効率を高めることができる。
【0066】
図3は、本発明の第2実施形態の蒸発ガス処理システムを概略的に示す。
【0067】
本実施形態について、上記第1実施形態と共通する構成の説明は省略し、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0068】
本実施形態は、蒸発ガスを圧縮する圧縮機の構成が上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、第1圧縮機100Aは複数の圧縮部110,120を備える多段圧縮機であり、第1圧縮機100Aで蒸発ガスは推進エンジンE1の燃料供給圧力まで圧縮される。第2圧縮機100Bは、推進エンジンE1より低圧の燃料が供給される発電エンジンE2の燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮する圧縮機である。本実施形態では、第1圧縮機100Aと予備の第2圧縮機100Bとで、圧縮できる圧力が異なるように構成される。
【0069】
このように本実施形態では、第1圧縮機100Aは、複数の圧縮部110,120と中間冷却器を経由し、推進エンジンE1の燃料供給圧力まで蒸発ガスを圧縮し、貯蔵タンクTで発生した蒸発ガスを推進エンジンE1に燃料として供給する。発電エンジンE2には、第1圧縮機100Aの一部の圧縮部110のみで圧縮された蒸発ガスまたは第2圧縮機100Bで圧縮された蒸発ガスが供給される。また、第1圧縮機100Aの一部の圧縮部110のみで圧縮された蒸発ガスは、熱交換器200に供給されて冷却される。
【0070】
このため、本実施形態では、熱交換器200を介して貯蔵タンクTから第1圧縮機100Aまたは第2圧縮機100Bに蒸発ガスを供給する蒸発ガス供給ラインGLが設けられ、第1圧縮機100Aの下流には、推進エンジンE1に接続する第1燃料供給ラインFL1が設けられている。
【0071】
第1圧縮機100Aの一部の圧縮部110のみまたは第2圧縮機100Bで圧縮された蒸発ガスを、熱交換器200で冷却して貯蔵タンクTに回収する再液化ラインRLが設けられている。また、第1圧縮機100Aの一部の圧縮部110のみまたは第2圧縮機100Bで圧縮された蒸発ガスを発電エンジンE2に供給する第2燃料供給ラインFL2が設けられている。第1圧縮機100Aは、蒸発ガスを熱交換器200または発電エンジンE2に供給する圧力まで圧縮する上流圧縮部110と、上流圧縮部110で圧縮された蒸発ガスを推進エンジンE1の燃料供給圧力まで追加圧縮する下流圧縮部120とで構成される。例えば、推進エンジンとしてME-GIエンジンが、発電エンジンとしてDFGEエンジンが設けられる場合、第1圧縮機100Aの上流圧縮部110では蒸発ガスを5~12baraの圧力まで圧縮し、下流圧縮部120ではこれを250~400baraの圧力まで圧縮する。
【0072】
本実施形態のシステムでは、船舶の運転に応じて第1圧縮機100Aまたは第2圧縮機100Bを個別に運用することができる。
【0073】
まず、推進エンジンE1の燃料消費量が多い船速発生区間では、第1圧縮機100Aを駆動させる。貯蔵タンクTで発生した蒸発ガスは、蒸発ガス供給ラインGLを介して熱交換器200に供給された後、第1ラインGLAを介して第1圧縮機100Aに供給されて圧縮される。第1圧縮機100Aで圧縮された蒸発ガスは、第1燃料供給ラインFL1を介して推進エンジンE1に燃料として供給される。この場合、第1圧縮機100Aの上流圧縮部110で圧縮された蒸発ガスは、第2燃料供給ラインFL2を介して発電エンジンE2に燃料として供給される。推進エンジンE1及び発電エンジンE2に燃料として供給されずに残った余剰の圧縮ガスは、再液化ラインRLを介して熱交換器200に供給され、冷媒循環ラインNLを循環する冷媒及び非圧縮の蒸発ガスとの熱交換により冷却され、減圧装置400及び気液分離器500で再液化されて貯蔵タンクTに回収される。燃料供給後に再液化させる余剰の圧縮ガスがない場合には、再液化システムを稼動させる必要がなく、貯蔵タンクTから排出された蒸発ガスを、分岐ラインBLを介して熱交換器200を迂回させて第1圧縮機100Aに直接供給してもよい。
【0074】
船舶の停泊(Anchoring)時のように推進エンジンE1の燃料消費量がないか非常に少ない場合には、第2圧縮機100Bを駆動させる。貯蔵タンクTで発生した蒸発ガスは、熱交換器200に供給された後、第2圧縮機100Bに供給されて圧縮され、第2圧縮機100Bで圧縮された圧縮ガスは発電エンジンE2に燃料として供給される。燃料供給後に残った余剰の圧縮ガスは、再液化ラインRLを介して熱交換器200に供給されて冷却され、減圧装置400及び気液分離器500で再液化されて貯蔵タンクTに回収される。
【0075】
このように本実施形態では、蒸発ガスを推進エンジンE1に燃料として供給するために蒸発ガスを高圧まで圧縮できる多段圧縮機100Aと、推進エンジンE1より燃料供給圧力が低い発電エンジンE2の圧力まで蒸発ガスを圧縮する圧縮機100Bとを備え、船舶の運転状況に応じて区分運用することで、冗長要件を満たすと共に蒸発ガスを燃料として利用し、燃料供給及び再液化のための電気エネルギーの消費を減少させ、船舶の効率的な運用が可能となる。
【0076】
また、蒸発ガス自体の冷熱及び冷媒サイクルの冷熱を利用して熱交換器200の冷却効率及び再液化率を高めることで、貯蔵タンクTで発生した蒸発ガスを優先的に燃料として消費した後、残留蒸発ガスのみを再液化させることで、冷媒サイクルの負荷を低減し、液化ガスの燃料消費量を削減することができる。
【0077】
本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の技術的要旨を超えない範囲内で様々な変更または変形ができることは、本発明が属する技術分野の当業者にとって自明である。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-03-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図3
【補正方法】変更
【補正の内容】
図3
【国際調査報告】