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特表2024-531584二次電池用高導電性硫黄系正極材料及び二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】二次電池用高導電性硫黄系正極材料及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240822BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240822BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240822BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240822BHJP
   C08F 120/44 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/36 A
C08F120/44
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514561
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2024-03-05
(86)【国際出願番号】 CN2022078703
(87)【国際公開番号】W WO2023040206
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】202111081775.2
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507190994
【氏名又は名称】上海交通大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JIAO TONG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】800 Dongchuan Rd.,Minhang District,Shanghai,200240,P.R.CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】王 久林
(72)【発明者】
【氏名】雷 靖宇
(72)【発明者】
【氏名】路 會超
(72)【発明者】
【氏名】楊 軍
【テーマコード(参考)】
4J100
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AM02P
4J100CA11
4J100FA03
4J100FA18
4J100FA27
4J100GC25
4J100GC35
4J100JA43
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK05
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA15
5H050BA16
5H050CA11
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】 二次電池用高導電性硫黄系正極材料及び二次電池を提供する。
【解決手段】 本発明は二次電池用高導電性硫黄系正極材料及び二次電池に関し、その硫黄系正極材料は高アイソタクチックポリアクリロニトリルを前駆体に採用し、元素状硫黄と均一に混合した後に加熱して化学反応を生じさせて形成する。高アイソタクチックポリアクリロニトリルはアクリロニトリルモノマーをテンプレートの作用下でラジカル重合反応させるか又は包接重合反応させて合成する。従来技術と比べ、本発明の高アイソタクチックポリアクリロニトリルはアタクチックポリアクリロニトリルよりも高い結晶度と更に低い熱分解及び環化温度を有し、製造される硫黄系正極材料S@pPANの導電率は10-3S/cmに達し、硫黄含有量は40~70wt%である。二次電池の正極材料とした場合、材料全体の導電率が著しく向上し、硫黄正極の活性物質利用率、サイクル安定性、レート特性が著しく向上し、正極材料の可逆比容量は700mAh/gに達する。効果が著しく、製造工程が簡単で、増幅しやすく、実用性が高い。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高アイソタクチックポリアクリロニトリルを前駆体に採用し、元素状硫黄と混合した後に加熱して化学反応させることにより形成することを特徴とする、二次電池用高導電性硫黄系正極材料。
【請求項2】
前記高アイソタクチックポリアクリロニトリルは、アイソタクチック分率が40~99%のポリアクリロニトリルであることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用高導電性硫黄系正極材料。
【請求項3】
前記高アイソタクチックポリアクリロニトリルは、アイソタクチック分率が50~90%のポリアクリロニトリルであることを特徴とする、請求項2に記載の二次電池用高導電性硫黄系正極材料。
【請求項4】
前記元素状硫黄と高アイソタクチックポリアクリロニトリルの質量比は2~16:1であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用高導電性硫黄系正極材料。
【請求項5】
前記加熱して化学反応させる条件は、250~450℃まで加熱し、1~16時間保温するというものであることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用高導電性硫黄系正極材料。
【請求項6】
前記二次電池用硫黄系正極材料中の硫黄の含有量は35~80wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用高導電性硫黄系正極材料。
【請求項7】
硫黄の含有量は40~70wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用高導電性硫黄系正極材料。
【請求項8】
前記加熱して化学反応させる際のシールドガスは窒素ガスとアルゴンガスのうちの1種類であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用高導電性硫黄系正極材料。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の二次電池用正極材料を含むことを特徴とする、二次電池。
【請求項10】
二次電池の負極はリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム又はアルミニウムであることを特徴とする、請求項9に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫黄系正極材料に関し、具体的には、硫黄系正極材料を用いて組み立てるリチウム硫黄電池、ナトリウム硫黄電池、カリウム硫黄電池、マグネシウム硫黄電池、カルシウム硫黄電池及びアルミニウム硫黄電池の二次電池用高導電性硫黄系正極材料及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はアルミニウムを負極とし、硫黄を正極とした二次電池は、エネルギー密度が高い、硫黄資源が豊富である、低コストである、環境が最適化されるといった顕著な優位性を有する。リチウム硫黄電池を例にとると、その理論エネルギー密度は最大で2600Wh/kgに達し、さらに低コストで環境に優しいといった特徴も有するため、広く注目を集めている。しかし、硫黄の絶縁性ゆえに、実際の用量は理論値とかなりの差がある。硫黄正極を正常動作させるためには、正極の製造時に大量の導電剤を加えざるを得ないが、それによって材料全体の比容量の低下を招く。また、硫黄正極はサイクル過程中、中間産物の多硫化リチウムが電解液中に溶解し、「シャトル効果」が発生して、活性物質がさらに損失される。
【0003】
早くも2002年には、硫黄とポリアクリロニトリル(PAN)を化学反応させて(非特許文献1)製造する硫黄変性ポリアクリロニトリル(硫黄系正極材料S@pPAN)が初めて報告されている。その正極材料は、炭酸エステル系電解質中でポリスルフィドイオンが溶解するシャトル効果がなく、充放電効率が高く、自己放電が少ない。しかし、従来のアタクチックポリアクリロニトリルを前駆体に用いた場合、得られるS@pPAN正極材料の導電率が低く、約10-7~10-4S/cmレベルとなり、その材料のサイクル安定性やレート特性は低く、二次電池の使用に影響が出てしまう。
【0004】
特許文献1は、ポリアクリロニトリル-硫黄-複合材料の製造方法を開示しており、全炭素原子に対して85%以上のsp-混成比のポリアクリロニトリル-硫黄-複合材料を電極活性材料に用いることにより、固有導電性を改善し、比較的低いオーム抵抗を形成し、充放電速度を高め、安定した電気容量を取得し、且つ硫黄利用率を高めることができる。
【0005】
特許文献2は、ポリアクリロニトリル-硫黄-複合材料の製造方法を開示しており、マトリクス材料と固有の反応物を予め加えることによって、ポリアクリロニトリル粒子のアグロメレーションを防ぐことができ、複合材粒子の特に均一な分布を実現することができる。この方法は、優れた電気化学的サイクル安定性や高い放電率を備えたポリアクリロニトリル-硫黄-複合材料を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開第104350072号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第104334613号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Wang,et al.,Advanced materials,2002,13-14,963
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の出願人は研究を通じて、特許文献1及び特許文献2の2つの特許は製造する材料の性能をある程度は向上させているものの、いずれも焼結工程の改良や導電物質の添加によって実現するものであり、ポリアクリロニトリル自体の構造から着手したものではないことに気付いた。
【0009】
従って、他の材料を添加しないという前提の下で、高導電性を有するS@pPAN正極材料を製造することによって二次電池のサイクル安定性とレート特性を向上させることには重要な意義がある。
【0010】
本発明は、PAN自体の構造から着手し、アクリロニトリルモノマーの重合工程をコントロールすることによって、高いアイソタクチック分率を有するポリアクリロニトリルを製造し、硫黄と化学反応させる際の環化度をより高め、これによって、複合材料の導電率を大きく高め、優れた電気化学性能を実現した。しかもその工程は簡単で、効果が著しいものである。
【0011】
本発明は、材料全体の導電率、硫黄正極の活性物質利用率、サイクル安定性及びレート特性の著しい向上を実現した、二次電池用高導電性硫黄系正極材料及び二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、以下の技術案によって実現される。
【0013】
本発明の第1態様は、二次電池用高導電性硫黄系正極材料を提供する。それは、高アイソタクチックポリアクリロニトリルを前駆体に採用し、元素状硫黄と混合した後に加熱して化学反応させることにより形成したものである。
【0014】
好適には、上述の高アイソタクチックポリアクリロニトリルは、アクリロニトリルモノマーを包接重合又はテンプレートの作用下でラジカル重合反応させて合成される。
【0015】
好適には、上述の高アイソタクチックポリアクリロニトリルは、アイソタクチック分率(アイソタクチックmm含有量)が40~99%のポリアクリロニトリルである。ここで、アイソタクチック分率が40~60%のポリアクリロニトリルは、テンプレートの作用下でラジカル重合によって調製され、アイソタクチック分率が60~99%のポリアクリロニトリルは、包接重合反応によって調製される。
【0016】
さらに好適には、上述の高アイソタクチックポリアクリロニトリルは、アイソタクチック分率が50~90%のポリアクリロニトリルである。
【0017】
好適には、上述のラジカル重合反応は、以下の工程:アクリロニトリルモノマー、開始剤及びテンプレートを混合し、室温で0.5~5時間攪拌した後、50~100℃まで温度を上げて2~24時間重合し、上述の高アイソタクチックポリアクリロニトリルを得るという工程を含む。さらに好適には、ここで、アクリロニトリルモノマー、開始剤及びテンプレートの質量比は1:0.01~0.1:10~50であり、テンプレートは、MgCl、FeCl、CoCl、NiCl及びMgBrから1種類以上選択され、開始剤は、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、アゾジイソブチロニトリル及びベンズアミドから1種類以上選択される。
【0018】
好適には、上述の包接重合反応工程は、以下の工程:アクリロニトリル/尿素包接化合物の-60℃における冷凍時間を3~40日間とし、液体窒素温度において高エネルギー線で照射して反応を開始させ、照射後に-60~-100℃まで温度を上げて連鎖成長反応を行い、2~48時間反応させてから水又はメタノールで反応を終了させて重合体を得るという工程を含む。さらに好適には、ここで、照射して反応させるのに用いる高エネルギー線の種類は、β、γ及びX線のうちの1種類である。
【0019】
好適には、上述の元素状硫黄と高アイソタクチックポリアクリロニトリルの質量比は2~16:1である。
【0020】
好適には、上述の加熱して化学反応させる条件は、250~450℃まで加熱し、1~16時間保温するというものである。
【0021】
本発明中、加熱による化学反応は、追加されたシールドガスが存在する状況下で行うことができ、シールドガスは窒素ガス又はアルゴンガスでよい。加熱による化学反応は、シールドガスを別途追加しない条件下で行うこともでき、その状況下では、反応工程中に発生するHSが保護の役割を果たす。
【0022】
好適には、上述の二次電池用硫黄系正極材料中の硫黄の含有量は35~70wt%であり、さらに好適には、硫黄の含有量は40~60wt%である。
【0023】
本発明の第2の態様は、上述の二次電池用高導電性硫黄系正極材料が含まれた二次電池を提供する。
【0024】
好適には、二次電池の負極はリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム又はアルミニウムである。対応する二次電池はそれぞれが硫黄系正極材料を用いて組み立てられるリチウム硫黄電池、ナトリウム硫黄電池、カリウム硫黄電池、マグネシウム硫黄電池、カルシウム硫黄電池及びアルミニウム硫黄電池である。
【0025】
本発明の第3の態様は、二次電池用硫黄正極を提供する。バインダーと上述の二次電池用高導電性硫黄系正極材料、導電剤を7~9:0.5~1.5:0.5~1.5の質量比に従って溶媒中に均一に分散させた後、集電体上に塗布し、乾燥後にプレスして二次電池用硫黄正極を得る。
【0026】
好適には、上述の溶媒はHO、DMF及びNMPのうちの1種類を含む。
【発明の効果】
【0027】
従来技術と比べて、本発明は次の有益な効果を有する。
【0028】
アタクチックポリアクリロニトリルを前駆体として製造された硫黄系正極材料S@pPANは、常温下での電子伝導率が10-7~10-4S/cmレベルしかなく、材料のサイクル特性やレート特性に影響を及ぼしていた。本発明は、ポリアクリロニトリル前駆体から着手し、高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率40%以上、好適にはアイソタクチック分率50~90%)を構築しており、このタイプのPANは熱分解及び環化反応の温度が低く、結晶度が高く、規則正しい形態を成しているため、同一温度下における熱分解及び環化反応レベルが従来のPANよりも高く、材料全体の導電率が向上し、硫黄正極の活性物質利用率、サイクル安定性及びレート特性を著しく向上させることができる。本発明により製造して得られるS@pPANの導電率は10-3S/cmに達することができ、硫黄含有量が45wt%前後の硫黄系正極材料の可逆比容量は700mAh/gに達する。効果が著しく、工程が簡単であり、増幅しやすく、実用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1と対比例1における高アイソタクチックポリアクリロニトリル(a)、アタクチックポリアクリロニトリル(b)、高アイソタクチックポリアクリロニトリルを前駆体として調製した相応の硫黄系正極材料S@pPAN(c)及びアタクチックポリアクリロニトリルを前駆体として調製した相応の硫黄系正極材料S@pPAN(d)の走査電子顕微鏡写真である。
図2】実施例1中の高アイソタクチックポリアクリロニトリル(a)及び高アイソタクチックポリアクリロニトリルを前駆体として調製した相応の硫黄系正極材料S@pPAN(b)の透過型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例1で得た高アイソタクチックポリアクリロニトリル(a)及びアタクチックポリアクリロニトリル(b)の炭素の核磁気共鳴スペクトルである。
図4】実施例2で得た高アイソタクチックポリアクリロニトリル(a)及びアタクチックポリアクリロニトリル(b)の赤外スペクトルである。
図5】実施例2で得た高アイソタクチックポリアクリロニトリル(a)及びアタクチックポリアクリロニトリル(b)のXRDスペクトルである。
図6】実施例2で得た高アイソタクチックポリアクリロニトリル及びアタクチックポリアクリロニトリルのDSCスペクトルである。
図7】各実施例で得た高アイソタクチックポリアクリロニトリルを前駆体として調製した硫黄系正極材料S@pPANの導電率の比較図である。
図8】実施例2で得た高アイソタクチックポリアクリロニトリルとアタクチックポリアクリロニトリルのそれぞれを前駆体に用いて調製した硫黄系正極材料S@pPANのサイクルの比較図である。
図9】実施例2で得た高アイソタクチックポリアクリロニトリルとアタクチックポリアクリロニトリルのそれぞれを前駆体に用いて調製した硫黄系正極材料S@pPANのレートの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
二次電池用高導電性硫黄系正極材料であって、それは、高アイソタクチックポリアクリロニトリルを前駆体に採用し、元素状硫黄と混合した後に加熱して化学反応させることにより形成したものである。
【0031】
幾つかの実施例において、高アイソタクチックポリアクリロニトリルは、アクリロニトリルモノマーを包接重合又はテンプレートの作用下でラジカル重合反応させて合成される。幾つかの実施例において、高アイソタクチックポリアクリロニトリルは、アイソタクチック分率(アイソタクチックmm含有量)が40~99%のポリアクリロニトリルである。ここで、アイソタクチック分率が40~60%のポリアクリロニトリルは、テンプレートの作用下でラジカル重合によって調製され、アイソタクチック分率が60~99%のポリアクリロニトリルは、包接重合反応によって調製される。好適には、上述の高アイソタクチックポリアクリロニトリルは、アイソタクチック分率が50~90%のポリアクリロニトリルである。
【0032】
幾つかの実施例において、ラジカル重合反応は、以下の工程:アクリロニトリルモノマー、開始剤及びテンプレートを混合し、室温で0.5~5時間攪拌した後、50~100℃まで温度を上げて2~24時間重合し、上述の高アイソタクチックポリアクリロニトリルを得るという工程を含む。好適には、ここで、アクリロニトリルモノマー、開始剤及びテンプレートの質量比は1:0.01~0.1:10~50であり、テンプレートは、MgCl、FeCl、CoCl、NiCl及びMgBrから1種類以上選択することができ、開始剤は、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、アゾジイソブチロニトリル及びベンズアミドから1種類以上選択することができる。
【0033】
幾つかの実施例において、包接重合反応工程は、以下の工程:アクリロニトリル/尿素包接化合物の-60℃における冷凍時間を3~40日間とし、液体窒素温度において高エネルギー線で照射して反応を開始させ、照射後に-60~-100℃まで温度を上げて連鎖成長反応を行い、2~48時間反応させてから水又はメタノールで反応を終了させて重合体を得るという工程を含む。好適には、ここで、照射して反応させるのに用いる高エネルギー線の種類は、β、γ及びX線のうちの1種類である。
【0034】
幾つかの実施例において、元素状硫黄と高アイソタクチックポリアクリロニトリルの質量比は2~16:1である。
【0035】
幾つかの実施例において、加熱して化学反応させる条件は、250~450℃まで加熱し、1~16時間保温するというものである。
【0036】
本発明中、加熱による化学反応は、追加されたシールドガスが存在する状況下で行うことができ、シールドガスは窒素ガス又はアルゴンガスでよい。加熱による化学反応は、シールドガスを別途追加しない条件下で行うこともでき、その状況下では、反応工程中に発生するHSが保護の役割を果たす。
【0037】
幾つかの実施例において、二次電池用硫黄系正極材料中の硫黄の含有量は35~70wt%であり、好適には、硫黄の含有量は40~60wt%である。
【0038】
二次電池であって、上述の二次電池用高導電性硫黄系正極材料を含む。
【0039】
本発明中、二次電池の負極はリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム又はアルミニウムであり得る。対応する二次電池はそれぞれが硫黄系正極材料を用いて組み立てられるリチウム硫黄電池、ナトリウム硫黄電池、カリウム硫黄電池、マグネシウム硫黄電池、カルシウム硫黄電池及びアルミニウム硫黄電池である。
【0040】
本発明中、二次電池用硫黄正極は、バインダーと上述の二次電池用高導電性硫黄系正極材料、導電剤を7~9:0.5~1.5:0.5~1.5の質量比に従って溶媒中に均一に分散させた後、集電体上に塗布し、乾燥後にプレスして二次電池用硫黄正極を得ることができる。
【0041】
幾つかの実施例において、溶媒はHO、DMF及びNMPのうちの1種類を含む。
【0042】
以下、図及び具体的な実施例に基づき、本発明について詳細に説明する。
【0043】
対比例1
【0044】
6mlのアクリロニトリルモノマーを30mlの水/DMSO混合溶媒(水とDMSOの体積比は4:1)中に加えた。次に開始剤として混合系中に0.1gのAIBNを加え、窒素ガスを導入して内部の空気を排除した。70℃まで加熱してから12時間磁力攪拌し、白色粉末沈殿物を得た。白色沈殿物をメタノールと水で交互に洗浄した後、得られた白色粉末を真空乾燥器内に入れて24時間乾燥し、アタクチックポリアクリロニトリルを得た。
【0045】
得られたアタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において300℃で5時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は45.19wt%、材料の電子伝導率は3.2×10-7S/cmであった。
【0046】
調製したアタクチックポリアクリロニトリルについて、図1及び2のSEM、TEM写真と本発明において調製した高アイソタクチックポリアクリロニトリルとの比較を通して、高アイソタクチックポリアクリロニトリルは粒径分布がより均一であり、球形度がより良好であり、表面がより滑らかであることが見いだされた。図3の通り、NMRテストによれば、アタクチックポリアクリロニトリルのアイソタクチック分率は26%である一方、実施例2において調製した高アイソタクチックポリアクリロニトリルはアイソタクチック分率が最大で55%に達していた。
【0047】
電池の組み立て及びテスト:対比例1で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。図8を参照して、0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は712mAh/gであり、200サイクル後の比容量は547mAh/gであり、容量維持率は76.8%であった。
【実施例1】
【0048】
30gの無水CoClを三口フラスコに加えて、冷水中で30分冷却した後、フラスコにアルゴンガスを満たした。次に、7gのアクリロニトリルモノマーと0.15gのAIBN開始剤を加えて、60℃の条件下で4時間磁力攪拌して重合反応を開始させ、6時間反応させてから、メタノールと水で交互に洗浄した後、得られた白色粉末を真空乾燥器内に入れて24時間乾燥し、高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率55%)を得た。
【0049】
図1及び2は、本実施例で調製した高アイソタクチックポリアクリロニトリル及び正極材料と、対比例1中のアタクチックポリアクリロニトリル及び硫黄系正極材料S@pPANのSEMとTEM写真であり、高アイソタクチックポリアクリロニトリルは粒径分布がより均一であり、球形度がより良好であり、表面がより滑らかであることが分かる。
【0050】
図3に示す通り、高アイソタクチックポリアクリロニトリルのアイソタクチック分率は55%に達しており、対比例1において調製したアタクチックポリアクリロニトリル(26%)と比べて、アイソタクチック分率(mm)の大幅な向上が得られている。
【0051】
得られたアタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において300℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は41.1wt%、材料の電子伝導率は1.2×10-3S/cmであった。
【0052】
電池の組み立て及びテスト:実施例1で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の比容量は635mAh/gであった。
【実施例2】
【0053】
30gの無水塩化コバルトを三口フラスコに加えて、冷水中で30分冷却した後、フラスコにアルゴンガスを満たした。次に、7gのアクリロニトリルモノマーと0.15gのAIBN開始剤を加えて、70℃の条件下で4時間磁力攪拌して重合反応を開始させ、6時間反応させてから、メタノールと水で交互に洗浄した後、得られた白色粉末を真空乾燥器内に入れて24時間乾燥し、高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率55%)を得た。
【0054】
高アイソタクチックポリアクリロニトリルは、アイソタクチック分率がアタクチックのポリアクリロニトリルよりも格段に高く、より規則正しい形態を成しているため、その結晶度もアタクチックのポリアクリロニトリルを遥かに上回っており、図4~5に示す通り、それが対応する基(-AN)及び材料の特徴ピークに偏差を生じさせている。
【0055】
図6は本実施例で調製した高アイソタクチックポリアクリロニトリルと対比例1中のアタクチックポリアクリロニトリルのDSCスペクトルの分析結果である。高アイソタクチックポリアクリロニトリルは温度277℃前後において既に脱水素環化反応が生じている一方で、アタクチックポリアクリロニトリルの環化反応温度は最高で292℃に達していることが観察できる。これは、高アイソタクチックポリアクリロニトリルのほうが容易に環化反応を生じやすいことを説明するものである。また同様に焼結温度及び時間においても環化度がより高くなっており、これにより調製された硫黄系正極材料の導電率もさらに高くなっている。
【0056】
調製した高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において300℃で5時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は45.13wt%、材料の電子伝導率は8.4×10-6S/cmであった。
【0057】
電池の組み立て及びテスト:実施例2で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。図8を参照して、0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は721mAh/g、200サイクル後の比容量は661mAh/g、容量維持率は91.7%であり、対比例1の容量維持率よりも大幅に上昇していた。図9を参照して、異なるレート条件において、実施例中で調製した正極材料と対比例1中で調製した正極材料に対し、レート特性テストを行った。レートが増加するにつれて、実施例中が調製した正極材料のレート特性が対比例1中の正極材料よりも良くなっていることが分かる。
【実施例3】
【0058】
30gの無水CoClを三口フラスコに加えて、冷水中で30分冷却した後、フラスコにアルゴンガスを満たした。次に、7gのアクリロニトリルモノマーと0.15gのAIBN開始剤を加えて、70℃の条件下で4時間磁力攪拌して重合反応を開始させ、6時間反応させてから、メタノールと水で交互に洗浄した後、得られた白色粉末を真空乾燥器内に入れて24時間乾燥し、高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率55%)を得た。
【0059】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において350℃で5時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は40.20wt%、材料の電子伝導率は6.7×10-5S/cmであった。
【0060】
電池の組み立て及びテスト:実施例3で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は630mAh/gであった。
【実施例4】
【0061】
30gの無水CoClを三口フラスコに加えて、冷水中で30分冷却した後、フラスコにアルゴンガスを満たした。次に、7gのアクリロニトリルモノマーと0.15gのAIBN開始剤を加えて、70℃の条件下で4時間磁力攪拌して重合反応を開始させ、6時間反応させてから、メタノールと水で交互に洗浄した後、得られた白色粉末を真空乾燥器内に入れて24時間乾燥し、高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率55%)を得た。
【0062】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において350℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は38.71wt%、伝導率は8.7×10-3S/cmであった。
【0063】
電池の組み立て及びテスト:実施例4で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は600mAh/gであった。
【実施例5】
【0064】
30gの無水CoClを三口フラスコに加えて、冷水中で30分冷却した後、フラスコにアルゴンガスを満たした。次に、7gのアクリロニトリルモノマーと0.15gのAIBN開始剤を加えて、70℃の条件下で4時間磁力攪拌して重合反応を開始させ、6時間反応させてから、メタノールと水で交互に洗浄した後、得られた白色粉末を真空乾燥器内に入れて24時間乾燥し、高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率55%)を得た。
【0065】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内のアルゴンガス雰囲気において400℃で5時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は39.78wt%、材料の電子伝導率は5.4×10-3S/cmであった。
【0066】
電池の組み立て及びテスト:実施例5で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は622mAh/gであった。
【実施例6】
【0067】
30gの無水CoClを三口フラスコに加えて、冷水中で30分冷却した後、フラスコにアルゴンガスを満たした。次に、7gのアクリロニトリルモノマーと0.15gのAIBN開始剤を加えて、70℃の条件下で4時間磁力攪拌して重合反応を開始させ、6時間反応させてから、メタノールと水で交互に洗浄した後、得られた白色粉末を真空乾燥器内に入れて24時間乾燥し、高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率55%)を得た。
【0068】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内のアルゴンガス雰囲気において400℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は35.75wt%、伝導率は9.8×10-3S/cmであった。
【0069】
電池の組み立て及びテスト:実施例6で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、ナトリウム金属を負極に用いてナトリウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~2.7V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は554mAh/gであった。
【実施例7】
【0070】
30gの無水MgClを三口フラスコに加えて、冷水中で20分冷却した後、フラスコにアルゴンガスを満たした。次に、7gのアクリロニトリルモノマーと0.15gのBPO開始剤を加えて、70℃の条件下で4時間磁力攪拌して重合反応を開始させ、6時間反応させてから、メタノールと水で交互に洗浄した後、得られた白色粉末を真空乾燥器内に入れて24時間乾燥し、高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率42%)を得た。
【0071】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において300℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は42.16wt%、得られた伝導率は6.7×10-4S/cmであった。
【0072】
電池の組み立て及びテスト:実施例7で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は653mAh/gであった。
【実施例8】
【0073】
30gの無水NiClを三口フラスコに加えて、冷水中で30分冷却した後、フラスコにアルゴンガスを満たした。次に、7gのアクリロニトリルモノマーと0.15gのAIBN開始剤を加えて、70℃の条件下で4時間磁力攪拌して重合反応を開始させ、6時間反応させてから、メタノールと水で交互に洗浄した後、得られた白色粉末を真空乾燥器内に入れて24時間乾燥し、高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率60%)を得た。
【0074】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内のアルゴンガス雰囲気において300℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は40.52wt%、得られた伝導率は2.2×10-3S/cmであった。
【0075】
電池の組み立て及びテスト:実施例8で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は628mAh/gであった。
【実施例9】
【0076】
10gのアクリロニトリルと12gの尿素を均一に混合し、-60℃で3日間冷凍してアクリロニトリル/尿素包接化合物を得た後、調製したアクリロニトリル/尿素包接化合物を液体窒素温度まで冷却し、2.0×1015Bqの60Coγ線に入れて照射(8kGy×3h)を行った。続いて、包接化合物をγ線から離し、-100℃まで温度を上げて連鎖成長反応を行い、4時間後に反応系内に冷メタノールを加えて尿素を溶解・除去し、重合反応を終了させ、濾過してから、未反応のモノマーと尿素が完全に除去されるまで蒸留水とメタノールで残留物を繰り返し洗浄した。最後に、重合体を真空乾燥して、白色粉末状の高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率63%)を得た。
【0077】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において300℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は42.51wt%、得られた伝導率は3.1×10-3S/cmであった。
【0078】
電池の組み立て及びテスト:実施例9で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は658mAh/gであった。
【0079】
実施例9で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、金属マグネシウムを負極に用いてマグネシウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は0.4M(PhMgCl)-AlCl/THF ((PhMgCl):フェニルマグネシウムクロリド)とし、充放電カットオフ電圧は0.4~2.4V(vs. MG2+/Mg)とした。0.1Cレートの条件下による初回の可逆比容量は620mAh/gであった。
【実施例10】
【0080】
10gのアクリロニトリルと12gの尿素を均一に混合し、-60℃で12日間冷凍してアクリロニトリル/尿素包接化合物を得た後、調製したアクリロニトリル/尿素包接化合物を液体窒素温度まで冷却し、2.0×1015Bqの60Coγ線に入れて照射(8kGy×3h)を行った。続いて、包接化合物をγ線から離し、-100℃まで温度を上げて連鎖成長反応を行い、4時間後に反応系内に冷メタノールを加えて尿素を溶解・除去し、重合反応を終了させ、濾過してから、未反応のモノマーと尿素が完全に除去されるまで蒸留水とメタノールで残留物を繰り返し洗浄した。最後に、重合体を真空乾燥して、白色粉末状の高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率78%)を得た。
【0081】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において300℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は40.23wt%、得られた伝導率は4.1×10-3S/cmであった。
【0082】
電池の組み立て及びテスト:実施例10で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は617mAh/gであった。
【0083】
実施例10で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、金属カルシウムを負極に用いてカルシウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのCa(ClO/DMSO(DMSO:ジメチルスルホキシド)とし、充放電カットオフ電圧は0.7~2.7V(vs. Ca2+/Ca)とした。0.1Cレートの条件下による初回の可逆比容量は605mAh/gであった。
【実施例11】
【0084】
10gのアクリロニトリルと12gの尿素を均一に混合し、-60℃で28日間冷凍してアクリロニトリル/尿素包接化合物を得た後、調製したアクリロニトリル/尿素包接化合物を液体窒素温度まで冷却し、2.0×1015Bqの60Coγ線に入れて照射(8kGy×3h)を行った。続いて、包接化合物をγ線から離し、-100℃まで温度を上げて連鎖成長反応を行い、4時間後に反応系内に冷メタノールを加えて尿素を溶解・除去し、重合反応を終了させ、濾過してから、未反応のモノマーと尿素が完全に除去されるまで蒸留水とメタノールで残留物を繰り返し洗浄した。最後に、重合体を真空乾燥して、白色粉末状の高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率>99%)を得た。
【0085】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において300℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は39.75wt%、得られた伝導率は7.3×10-3S/cmであった。
【0086】
電池の組み立て及びテスト:実施例11で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は607mAh/gであった。
【0087】
実施例11で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、金属アルミニウムを負極に用いてアルミニウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液はNMBPBr/AlCl3イオン液体(1:1.3モル比、NMBPBr:臭化-N-ブチル-N-メチル-ピペリジニウム)とし、充放電カットオフ電圧は0.01~1.3V(vs. Al3+/Al)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は607mAh/gであった。
【実施例12】
【0088】
10gのアクリロニトリルと12gの尿素を均一に混合し、-60℃で28日間冷凍してアクリロニトリル/尿素包接化合物を得た後、調製したアクリロニトリル/尿素包接化合物を液体窒素温度まで冷却し、2.0×1015Bqの60Coγ線に入れて照射(8kGy×3h)を行った。続いて、包接化合物をγ線から離し、-100℃まで温度を上げて連鎖成長反応を行い、16時間後に反応系内に冷メタノールを加えて尿素を溶解・除去し、重合反応を終了させ、濾過してから、未反応のモノマーと尿素が完全に除去されるまで蒸留水とメタノールで残留物を繰り返し洗浄した。最後に、重合体を真空乾燥して、白色粉末状の高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率>99%)を得た。
【0089】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において300℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は41.76wt%、得られた伝導率は6.5×10-3S/cmであった。
【0090】
電池の組み立て及びテスト:実施例12で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は647mAh/gであった。
【0091】
実施例12で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、ナトリウム金属を負極に用いてナトリウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのNaPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は0.7~2.7V(vs. Na/Li)とした。0.1Cレートの条件下による初回の可逆比容量は588mAh/gであった。
【実施例13】
【0092】
10gのアクリロニトリルと12gの尿素を均一に混合し、-60℃で28日間冷凍してアクリロニトリル/尿素包接化合物を得た後、調製したアクリロニトリル/尿素包接化合物を液体窒素温度まで冷却し、2.0×1015Bqの60Coγ線に入れて照射(8kGy×3h)を行った。続いて、包接化合物をγ線から離し、-100℃まで温度を上げて連鎖成長反応を行い、48時間後に反応系内に冷メタノールを加えて尿素を溶解・除去し、重合反応を終了させ、濾過してから、未反応のモノマーと尿素が完全に除去されるまで蒸留水とメタノールで残留物を繰り返し洗浄した。最後に、重合体を真空乾燥して、白色粉末状の高アイソタクチックポリアクリロニトリル(アイソタクチック分率>99%)を得た。
【0093】
得られた高アイソタクチックポリアクリロニトリル2gと元素状硫黄16gをエタノールに加えて3時間ボールミル処理を行い、乾燥した後、得られた粉体をチューブ式炉内の窒素ガス雰囲気において300℃で10時間加熱し、硫黄系正極材料S@pPANを得た。材料中の硫黄含有量は42.69wt%、得られた伝導率は5.5×10-3S/cmであった。
【0094】
電池の組み立て及びテスト:実施例13で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、リチウム金属を負極に用いてリチウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのLiPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は1~3V(vs. Li/Li)とした。0.2Cレートの条件下による初回の可逆比容量は661mAh/gであった。
【0095】
実施例13で得た硫黄系正極材料で硫黄正極を作製し、カリウム金属を負極に用いてカリウム硫黄二次電池を組み立てた。電解液は1MのKPF/EC:DMC(1:1体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)とし、充放電カットオフ電圧は0.9~2.9V(vs. K/Li)とした。0.1Cレートの条件下による初回の可逆比容量は560mAh/gであった。
【0096】
上述の実施例の説明は当業者の理解と発明の使用を容易にするためのものである。当業者にとって、それらの実施例に様々な修正を行うことは容易であり、創造的な労働をすることなくここで説明する一般原理を他の実施例に応用し得ることは明らかである。従って、本発明は上述の実施例に限定されず、当業者が本発明の開示に基づき、本発明の範囲を逸脱せずに行う変更及び修正はいずれも本発明の保護範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】