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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】肝細胞の作製
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240822BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240822BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20240822BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N5/10
C12N15/867 Z
C12Q1/02
A61K35/407
A61P1/16
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514685
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2022075292
(87)【国際公開番号】W WO2023036983
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】2112937.4
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510171586
【氏名又は名称】ケンブリッジ エンタープライズ リミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ルドビック バルリエル
(72)【発明者】
【氏名】ルーテ アレクサンドラ デ コスタ トマズ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QR90
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX01
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB52
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA75
(57)【要約】
本発明は、肝細胞を作製する方法であって、HNF1A;HNF6;F0XA3;RORc及びERaからなる一組の転写因子をIPSC集団に導入すること、及び集団を培養することを含み、そのようにして肝細胞が作製される方法に関する。肝細胞を作製する方法、その方法によって作製された肝細胞並びにその使用及び適用が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞を作製する方法であって、
(i)iPSC集団を提供すること
(ii)HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及び任意選択でERαからなる一組の転写因子を前記iPSC集団に導入すること、及び
(iii)前記集団を培養することを含み、そのようにして前記集団中の1つ以上の細胞が肝細胞になるようにプログラミングされる、方法。
【請求項2】
前記一組の転写因子が、HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及びERαからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一組の転写因子が、HNF1A;HNF6;FOXA3;及びRORcからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記肝細胞が機能的に成熟している、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞(hPSC)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞(iPSC)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記転写因子がヒト転写因子である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞集団が、好適な条件下で、1つ以上の細胞が肝細胞表現型を呈することが可能となるのに十分な時間にわたって培養される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(iii)の間、前記集団中の前記細胞が、内胚葉及び肝前駆細胞表現型を呈しない、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記一組の転写因子が、
(a)前記転写因子の組み合わせをコードする核酸を前記PSCにおいて発現させること;
(b)前記PSCを前記転写因子mRNA又はタンパク質の組み合わせと接触させること;又は
(c)前記PSCにおける前記転写因子の組み合わせをコードする遺伝子の内因性発現を活性化させること
によって前記PSCに導入される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記一組の転写因子をコードする核酸が、前記PSCにおける前記核酸の発現に関する1つ以上の調節エレメントに作動可能に連結された前記核酸を含む1つ以上のベクターを前記PSCにトランスフェクトすることにより前記PSCにおいて発現する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の調節エレメントが誘導性調節エレメントである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ベクターがレンチウイルスベクターである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記PSC集団が少なくとも7日間にわたって培養される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(iii)の後、前記集団の少なくとも5%が肝細胞になるようにフォワードプログラミングされる、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
肝細胞を単離すること及び/又は精製することを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記肝細胞集団を拡大培養することを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記肝細胞集団を貯蔵することを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法によって作製される肝細胞集団。
【請求項20】
請求項19に記載の肝細胞集団と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項21】
ヒト又は動物の身体を治療する方法における使用のための請求項19に記載の肝細胞集団。
【請求項22】
個体の肝障害を治療する方法における使用のための請求項19に記載の肝細胞集団。
【請求項23】
肝障害を治療する方法であって、
請求項19に記載の肝細胞集団をそれを必要としている個体に投与すること
を含む方法。
【請求項24】
肝障害の治療における使用のための医薬品の製造における請求項19に記載の肝細胞集団の使用。
【請求項25】
HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及び任意選択でErαからなる一組の転写因子;又は前記一組の転写因子をコードする1つ以上の核酸の;肝細胞を作製するための使用。
【請求項26】
肝障害の治療において有用な化合物をスクリーニングする方法であって、
請求項19に記載の肝細胞集団を試験化合物と接触させること、及び;
前記試験化合物が前記肝細胞に及ぼす効果又は前記肝細胞が前記試験化合物に及ぼす効果を決定すること
を含む方法。
【請求項27】
化合物の肝毒性を決定する方法であって、
請求項19に記載の単離された肝細胞の細胞を試験化合物と接触させること、及び;
前記試験化合物が前記肝細胞に及ぼす効果を決定すること
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
資金提供
本願につながるプロジェクトは、欧州連合のホライズン2020(Horizon 2020)研究・イノベーションプログラム(助成金契約第741707号)に基づく欧州研究会議(European Research Council:ERC)からの資金提供を受けている。
【0002】
分野
本発明は、肝細胞の作製方法、そうした方法によって作製された肝細胞並びにそうした肝細胞の使用及び適用に関する。
【背景技術】
【0003】
肝細胞は、肝臓の主要な細胞型であって、その体積の80%を占め、脂質代謝、多量栄養素の貯蔵、血漿タンパク質の分泌及び生体異物解毒を含めた無数の生体維持機能を果たしている(Gordillo et al.,2015;Si-Tayeb et al.,2010;Trefts et al.,2017)。
【0004】
これらの機能を冒す疾患は、生命を脅かすものであり、末期形態では肝移植が必要になる。しかしながら、ドナー不足及び免疫抑制の副作用に起因して、この療法から利益を受けることのできる患者の数はごく限られている。
【0005】
初代肝細胞を使用した細胞ベースの療法は、全臓器移植に代わる魅力的な治療選択肢であることが既に見出されている(Dhawan et al.,2020)。しかしながら、初代ヒト肝細胞(PHH)は、それを移植に適さない準最適な肝臓からしか入手できないため、不足している。更には、PHHは、インビトロでの短命、増殖の欠如及び急速な機能喪失を呈する(Mitry et al.,2002)。同様に、創薬及び薬物スクリーニング検査用の新規プラットフォームの開発も、ロバストな肝細胞供給源が不足している影響を大いに受ける。こうした理由全てから、代替的な肝細胞供給源が喫緊に必要とされている。
【0006】
定方向分化プロトコルを使用したヒト多能性幹細胞(hPSC)からの肝細胞の作製が、PHHに代わる有利な選択肢であることが示されている(Palakkan et al.,2017;Szkolnicka & Hay,2016;Silier et al 2015;Hay et al 2008)。これらのプロトコルは、通常、インビトロで主要な肝発生段階をたどり、アルブミン分泌、脂質代謝、グリコーゲン貯蔵、及び尿素サイクル活性を含めた主要な肝機能を呈する肝細胞様細胞(HLC)の作製が可能である。しかしながら、HLCは、成熟肝細胞の完全な機能レパートリーを欠く未熟な/胎児様の表現型を系統的に示す(Baxter et al.,2015;Grandy et al.,2019;Yiangou et al.,2018)。インビトロでの完全に機能性の肝細胞の開発は、インビボでの機能的成熟を駆動する分子機構に関して詳細な知識が不足しているため、難題である。実際、この過程は胎児期の間に徐々に起こるが、出生後にも起こり、肝臓が機能性になるまでにはほぼ12ヵ月かかる。この時系列並びに関連する代謝変化、酸素への曝露、栄養素及びマイクロバイオームの組み合わせを模倣することが、ダイレクト分化プロトコルの大きな課題ということになる(Chen et al.,2011)。
【0007】
代替法として、転写因子の過剰発現が、インビトロで作成される肝細胞の機能性を向上させる方法として調査されている(Boon et al.,2020;Nakamori et al.,2016;Zhao et al.,2013)。その上、体細胞から肝臓細胞への分化転換が、マウス及びヒト線維芽細胞において肝臓に豊富に存在する転写因子(LETF)の過剰発現により実現している(Rombaut et al.,2021)。重要なことに、これらのLETFは、HNF1、HNF3(FOXA)、HNF4及びHNF6(ONECUT)ファミリーを含み、そのいずれもが、肝発生の協調において主要な役割を果たす(Gordillo et al.,2015;Lau et al.,2018;Schrem et al.,2002)。しかしながら、体細胞型からの直接的な細胞変換は、完全に分化した細胞に見られる強度のエピジェネティックな制限に起因して効率/収率が低い。更には、体細胞は増殖能が限られているため、癌遺伝子の操作を用いない肝細胞の大規模生産には限界がある(Du et al.,2014;Huang et al.,2014)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ヒト多能性細胞のフォワードプログラミングによって機能的に成熟した肝細胞(本明細書ではFoP-Hepsと称される)を作製する方法を開発した。これは、例えば、肝障害のモデル化;及び肝障害の治療薬の開発における使用のための、機能性の肝細胞の効率的な作製において、例えば、有用であり得る。
【0009】
本発明の第1の態様は、肝細胞を作製する方法であって、
(i)iPSC集団を提供すること
(ii)HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及びERαからなる一組の転写因子をiPSC集団に導入すること、及び
(iii)集団を培養することを含み、そのようにして肝細胞が作製される
方法を提供する。
【0010】
本発明の第2の態様は、iPSCを肝細胞にフォワードプログラミングする方法であって、
HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及びERαからなる一組の転写因子をiPSC集団に導入すること、及び
集団を培養することを含み、そのようにして肝細胞が作製される
方法を提供する。
【0011】
本発明の第3の態様は、肝細胞を作製する方法であって、
(i)iPSC集団を提供すること
(ii)HNF1A;HNF6;FOXA3;及びRORcからなる一組の転写因子をiPSC集団に導入すること、及び
(iii)集団を培養することを含み、そのようにして肝細胞が作製される
方法を提供する。
【0012】
本発明の第4の態様は、iPSCを肝細胞にフォワードプログラミングする方法であって、
HNF1A;HNF6;FOXA3;及びRORcからなる一組の転写因子をiPSC集団に導入すること、及び
集団を培養することを含み、そのようにして肝細胞が作製される
方法を提供する。
【0013】
本発明の第5の態様は、第1、第2、第3又は第4の態様に係る方法によって作製された肝細胞集団を提供する。
【0014】
本発明の第6の態様は、第5の態様に係る肝細胞集団と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0015】
本発明の第7の態様は、ヒト又は動物の身体の治療方法における使用のための、例えば個体の肝障害の治療方法における使用のための第5の態様に係る肝細胞集団を提供する。
【0016】
本発明の第8の態様は、肝障害を治療する方法であって、
第5の態様に係る肝細胞集団を、それを必要としている個体に投与すること
を含む方法を提供する。
【0017】
本発明の第9の態様は、肝障害の治療における使用のための医薬品の製造における第5の態様に係る肝細胞集団の使用を提供する。
【0018】
本発明の第10の態様は、肝障害の治療において有用な化合物をスクリーニングする方法であって、
第5の態様に係る肝細胞集団を試験化合物と接触させること、及び;
試験化合物が前記肝細胞に及ぼす効果又は肝細胞が試験化合物に及ぼす効果を決定すること
を含む方法を提供する。
【0019】
一部の実施形態において、第10の態様の方法における使用のための肝細胞は、肝障害表現型など、疾患表現型を有し得る。
【0020】
本発明の第11の態様は、化合物の肝毒性を決定する方法であって、
第5の態様に係る単離された肝細胞の細胞を試験化合物と接触させること、及び;
試験化合物が前記肝細胞に及ぼす効果を決定すること
を含む方法を提供する。
【0021】
本発明の第12の態様は、肝細胞成熟を促進する転写因子を同定する方法であって、
初代ヒト肝細胞(PHH)及びインビトロ定方向分化によって作製された肝細胞様細胞(HLC)における一組の転写因子の発現を決定すること、
一組の中でCLCと比べてPHHにおいて発現が増加している転写因子を同定すること
を含み、
同定された転写因子が、肝細胞成熟を促進するための転写因子候補である、
方法を提供する。
【0022】
本発明の第13の態様は、肝障害に関連する遺伝子突然変異を同定する方法であって、
第5の態様の試験肝細胞集団を提供することであって、試験集団中の肝細胞が、各々遺伝子突然変異を含むこと;
表現型について試験肝細胞集団を対照肝細胞集団と比較することであって、対照集団が遺伝子突然変異を含まないこと;及び
試験集団の中で、肝障害表現型など、疾患表現型を呈する肝細胞を同定すること
を含み、
同定された肝細胞の遺伝子突然変異が、肝障害に関連する遺伝子突然変異候補である、
方法を提供する。
【0023】
本発明の第14の態様は、肝障害に関連する遺伝子突然変異を同定する方法であって、
第5の態様の試験肝細胞集団を提供することであって、試験集団中の肝細胞が、肝障害表現型など、疾患表現型を呈すること;及び
ゲノム配列について試験肝細胞集団を対照肝細胞集団と比較することであって、対照集団中の肝細胞が疾患表現型を呈しないこと;及び
対照集団と比べて試験集団のゲノム配列にある1つ以上の遺伝子突然変異を同定すること
を含み、
同定された1つ以上の遺伝子突然変異が、肝障害に関連する遺伝子突然変異候補である、
方法を提供する。
【0024】
本発明の第15の態様は、肝障害に関連する遺伝子を同定する方法であって、
第5の態様の試験肝細胞集団を提供することであって、試験集団中の肝細胞が、肝障害表現型など、疾患表現型を呈すること;及び
試験肝細胞集団における1つ以上の遺伝子の発現を、対照肝細胞集団における1つ以上の遺伝子の発現と比較すること
を含み、
対照集団と比べた試験集団におけるある遺伝子の発現の差が、その遺伝子が肝障害に関連することを指し示している、
方法を提供する。
【0025】
第13~第15の態様の方法における使用に好適な試験肝細胞集団は、肝障害を有する個体に由来する人工多能性幹細胞(iPSC)から第1~第4の態様の方法によって作製されてもよい。
【0026】
本発明の第16の態様は、肝細胞を作製するためのキットであって、
(i)iPSC供給源細胞及び少なくとも3つ又はそれ以上の転写因子を活性化させる、又はその発現若しくは量を増加させる薬剤;及び/又は
(ii)HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及び任意選択でErαからなる一組の転写因子をコードする1つ以上の核酸
を含むキットを提供する。
【0027】
第16の態様のキットは、例えば第1~第4の態様の方法において有用であり得る。
【0028】
本発明の他の態様及び実施形態について、以下に更に詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】4つ及び3つの肝臓に豊富に存在する転写因子(LETF)と併せた肝細胞へのhPSCのフォワードプログラミングを示す。(A)2つの順次標的化される遺伝子座の概略表現。ヒトROSA26は、構成的に発現するリバーステトラサイクリントランス活性化因子(rtTA)で標的化した。AAVS1遺伝子座は、Tet応答エレメント(TET)の下流にあるHNF1A、HNF6、FOXA3及びHNF4Aの4つのLETFで標的化した。(B)doxで24時間刺激した、非標的(Untarg)hESCと比べた標的hESC(Targ)における4つの因子のmRNA誘導レベル(n=3)。データは、非標的対照に対する相対で示す。(C)トランス遺伝子の誘導を確認するdoxによる24時間の誘導性過剰発現(iOX)後の標的及び非標的hESCにおける4つのLETFの免疫蛍光染色。DAPI(青色)で核を対比染色した。スケールバー、200μm。(D)フォワードプログラミングのためのiOX培養条件の概略表現。10及び15日間のフォワードプログラミング後の4つのLETFで標的化したhESCの位相差画像。(E)10及び15日間のフォワードプログラミング後の4つのLETFで標的化したhESCにおける肝細胞マーカー(ALB、SERPINA1及びAFP)のmRNAレベル。(D)にあるのと同じプロトコルで処理した非標的hESCを対照として使用した(n=4)。統計学的差異は、非標的に対する対応のないt検定で計算したものであり、各比較についてp値を表示する。(F)15日間のフォワードプログラミング後の4つのLETFによる非標的及び標的hESC(n=5)及びダイレクト分化によって作成したHLC(n=6)における細胞数(100万)で正規化したCYP3A4活性レベル。標的細胞と非標的細胞との間の統計学的差異は、対応のないt検定で計算した。(G、H、I)4つのLETF及び3つのLETFの組み合わせで標的化したhESCにおける肝細胞マーカー(ALB、SERPINA1及びAFP)のmRNAレベル(n=4)。各構築物から取り除いた因子を指示する。発現レベルは、10、15、20及び25日間のフォワードプログラミング後に決定した。統計学的差異は、4つのLETFと比較した多重比較の補正を伴う一元配置ANOVAで計算した。各時点における有意なp値を示す。mRNAレベルは全て、2つのハウスキーピング遺伝子(PBGD及びRPLP0)の平均で正規化した。(J)10、15、20及び25日間のフォワードプログラミング後の4つのLETF及び3つのLETFの組み合わせで標的化したhESCにおける細胞数(100万)で正規化したCYP3A4活性レベル(n=3~5)。統計学的差異は、4つのLETFと比較した多重比較の補正を伴う一元配置ANOVAで計算した。各時点における有意なp値を示す。全てのプロットにおいて、バーは平均値とSDを表し、全てのバイオロジカルレプリケートについて、個々のデータ点が示される。
図2】HLC及びPHHが、その成熟状態に関連したトランスクリプトームの差異を呈することを示す。(A)30日間分化させたHLCにおけるアルブミン(黄色)及びHNF4A(赤色)の免疫蛍光染色。DAPI(青色)で核を対比染色した。スケールバー、100μm。(B)30日間分化させたHLC(n=6)及びPHH(n=4)における細胞数(100万)で正規化したCYP3A4活性レベル。バーは平均値とSDを表し、個々のデータ点は、異なるバイオロジカルレプリケートを表す。統計学的差異は、対応のないt検定で計算した。(C)未分化hiPSC、hESC(hESC_HLC)及びhiPSC(hiPSC_HLC)に由来するHLC、回収直後のPHH(fPHH)又はプレーティング後のPHH(pPHH)のPCA。(D)各細胞型(クラスター1-PHH、クラスター2-HLC、クラスター4-hiPSC)並びに未分化hiPSCに対するHep(HLC及びPHH)(クラスター3)における発現差のある遺伝子の比率を示すヒートマップ。(E、F)(D)に示されるとおりのクラスター1及びクラスター3に結び付けられる遺伝子に関する遺伝子オントロジーエンリッチメント解析での上位15ヒットを示すドットプロット。各ドットのサイズが、各タームに結び付けられる遺伝子の数を表し、色が調整p値を表す。(G)PHH(直後、又はプレーティング後)及びHLC(hESC及びhiPSC由来)の間で差のある転写因子遺伝子発現を示すヒートマップ。(H)(G)で同定された転写因子に関するリアクトームパスウェイエンリッチメント解析。差のある遺伝子発現は、2より大きいlog2(変化倍数)及び調整p値0.05未満で計算した。試料に関する階層クラスタリングは、ユークリッド距離によって作成した。
図3】調節領域のエピジェネティック状態がHLC及びPHHの成熟状態間で異なることを示す。(A)未分化hiPSC、hESC及びhiPSC由来のHLC、並びにPHHの2レプリケートにわたるH3K27ac、H3K4me1及びH3K27me3のグローバルエンリッチメントプロファイルのPCA。ゲノム全体について1000bpのゲノム領域の平均スコアを計算した。(B)H3K27ac PHHにユニークな領域(青色)又はHLCにユニークな領域(緑色)を中心とする10Kbウィンドウの範囲内でのH3K27ac、H3K4me1及びH3K27me3のエンリッチメントレベルを示す平均密度プロット及びヒートマップ。スケールは、各データセットの最大ピーク強度で調整する。(C)UGT1A遺伝子座にわたるH3K27ac、H3K4me1及びH3K27me3のエンリッチメントプロファイル。プロファイルは、未分化hiPSC、hESC及びhiPSC由来のHLC、並びにPHHの1レプリケートについて示す。赤色のバーは、PHHにユニークなH3K27acピークを表す。(D)H3K27ac PHHにユニークな領域に過剰に出現する結合部位として同定された核内受容体モチーフ。
図4】肝細胞への核内受容体を伴うhESCのフォワードプログラミングを示す。3TF単独で、又は核内受容体RORc、ERa及びARと組み合わせて20日間フォワードプログラミングしたhESCにおける(A)位相差画像及び(B)アルブミン(黄色)及び(C)A1AT(緑色)に関する免疫蛍光染色。DAPI(青色)で核を対比染色した。スケールバー、200μm。(D)20及び30日間にわたって3TF単独で、又は核内受容体と組み合わせて作成したFoP-Hepsにおける肝細胞マーカー(ALB、SERPINA1及びAFP)のmRNAレベル(n=4)。発現データは、2つのハウスキーピング遺伝子(PBGD及びRPLP0)の平均で正規化した。(E)20日間にわたって3TF単独で、又は核内受容体と組み合わせて作成したhESC由来のFoP-Hepsにおけるアルブミン、A1AT及びAFPのタンパク質分泌レベル(n=4)。データは総細胞数(100万)で正規化した。(F)20及び30日間のフォワードプログラミング後の、核内受容体と共に及びそれ無しで3TFによって標的化したFoP-Hepsにおける細胞数(100万)で正規化したCYP3A4活性レベル(n=3~6)。統計学的差異は、3TF(20日目)と比較した多重比較の補正を伴う一元配置ANOVAで計算した。有意なp値を示す。(G)2日目から指示されるとおりの100nMのリガンドで処理したFoP-HepsにおけるCYP3A4誘導倍数レベル。データはフォワードプログラミング20日目の未処理対照で正規化する(n=3)。対応のあるt検定についての有意なp値を示す。全てのプロットにおいて、バーは平均値とSDを表し、全てのバイオロジカルレプリケートについて、個々のデータ点が示される。
図5】4TFによる肝細胞へのhiPSCのフォワードプログラミングを示す。3TF単独で、又は加えてRORcと共に20日間フォワードプログラミングしたhiPSCにおける(A)位相差画像及び(B)アルブミン(黄色)及び(C)A1AT(緑色)に関する免疫蛍光染色。DAPI(青色)で核を対比染色した。スケールバー、200μm。(D)20及び30日間にわたって3TF単独で、又は加えてRORcと共に20及び30日間にわたって作成したhiPSC由来のFoP-Hepsにおける肝細胞マーカー(ALB、SERPINA1及びAFP)のmRNAレベル(n=4)。統計学的差異は、対応のないt検定で計算したものであり、有意なp値を示す。発現データは全て、2つのハウスキーピング遺伝子(PBGD及びRPLP0)の平均で正規化した。(E)20日間にわたって3TF単独で、又は加えてRORcと共に作成したhiPSC由来のFoP-Hepsにおけるアルブミン、A1AT及びAFPのタンパク質分泌レベル(n=4)。データは総細胞数(100万)で正規化した。(F)20日間のフォワードプログラミング後のRORcと共に又はそれ無しで3TFによって標的化したhiPSC FoP-Hepsにおける細胞数(100万)で正規化したCYP3A4活性レベル(n=6)。統計学的差異は、対応のないt検定で計算した。全てのプロットにおいて、バーは平均値とSDを表し、全てのバイオロジカルレプリケートについて、個々のデータ点が示される。
図6】RORcが4TF FoP-Hepsの機能性を促進することを示す。(A)ダイレクト分化HLC(n=6)及びPHH(n=4)に対するFoP-Heps(n=6)のCYP3A4活性レベルの比較。hESC(eFoP)及びhiPSC(iFoP)由来のFoP-Hepsを4TF(HNF1A、FOXA3、HNF6及びRORy)で標的化し、20日間フォワードプログラミングした。HLCとFoP-Hepsとの間の統計学的差異は、対応のないt検定で計算した。(B)4TF FoP-Heps、HLC及びPHHにおけるフェーズI(CYP2A6及びCYP2C8)及びフェーズII(UGT1A6)生体内変換酵素のmRNAレベル(n=4)。(C)FoP-Heps、HLC及びPHHにおける糖新生(G6PC及びPCK1)、脂質(PPARα、PPARy)代謝、及び核内受容体RORyのmRNAレベル(n=4)。HLCと他の細胞型との間の統計学的差異は、対応のないt検定で計算した。(D)フォワードプログラミング20日目のFoP-HepsにおけるLDL免疫蛍光染色。スケールバー、200μm。DAPI(青色)で核を対比染色した。(E)最長20又は30日間のフォワードプログラミングにわたって2D及び3Dで培養したFoP-HepsにおけるSERPINA1及びUGT1A6のmRNAレベルの比較(n=4)。2Dと3Dとの間の統計学的差異は、対応のないt検定で計算した。発現データは全て、2つのハウスキーピング遺伝子(PBGD及びRPLP0)の平均で正規化した。(F)フォワードプログラミングの20日目から3Dで培養し、指示されるとおりの脂肪酸(オレイン酸[OA]、パルミチン酸[PA]又はBSA[Ctr])で7日間にわたって処理したFoP-HepsのBODIPY染色。スケールバー、200μm。DAPI(青色)で核を対比染色した。(G)対照としてのBSAで処理したFoP-Hepsで正規化した、指示されるとおりの脂肪酸で処理したFoP-Hepsにおける細胞生存率(n=4)。(H)未処理のFoP-Hepsで正規化した、3D培養下に25mMのアセトアミノフェン(APAP)で48時間処理したFoP-Hepsにおける細胞生存率(n=4)。有意差は、対応のあるt検定で決定した。p値は、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001として指示される。全てのプロットにおいて、バーは平均値とSDを表し、全てのバイオロジカルレプリケートについて個々のデータ点が示される。
図7】ERαが5TF FoP-Hepsの機能性を促進することを示す。(A)AAVS1遺伝子座にクローニングした因子の組み合わせの概略表現。(B)5TF単独で又は加えてエストロゲン(E2)と共に20日間フォワードプログラミングしたhiPSCにおける位相差画像。(C)20日間にわたって4TF、5TF、又は5TF+E2と共に作成したhiPSC由来のFoP-Hepsにおける肝細胞マーカー(ALB、SERPINA1及びAFP)のmRNAレベル(n=4)。統計学的差異は、対応のないt検定で計算したものであり、有意なp値を示す。発現データは全て、2つのハウスキーピング遺伝子(PBGD及びRPLP0)の平均で正規化した。(D)4TF、5TF及び5TF+E2 FoP-HepsにおけるフェーズI(CYP2A6及びCYP2C8)及びフェーズII(UGT1A6)生体内変換酵素及び糖新生酵素(G6PC及びPCK1)のmRNAレベル(n=4)。(E)4TF、5TF、又は5TF+E2で作成した、20日間フォワードプログラミングしたFoP-HepsにおけるCYP3A4活性レベルの比較。(F)フォワードプログラミングの20日目から3Dで培養し、指示されるとおりの脂肪酸(オレイン酸[OA]、パルミチン酸[PA]又はBSA[Ctr])で7日間にわたって処理した5TFで作成したFoP-HepsのBODIPY染色。スケールバー、200μm。DAPI(青色)で核を対比染色した。(G)対照としてのBSAで処理したFoP-Hepsで正規化した、5TFで作成し、及び指示されるとおりの脂肪酸で処理したFoP-Hepsにおける細胞生存率(n=4)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
本発明は、多能性細胞から肝細胞へのフォワードプログラミングに関する。HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及び任意選択でERαからなる一組の転写因子が多能性細胞に導入される。次にその多能性細胞が培養される。細胞に導入された一組の転写因子は、多能性細胞に成熟肝細胞表現型を付与し、即ち、多能性細胞集団は、その一組の転写因子によって機能的に成熟した肝細胞へとフォワードプログラミングされる。こうした肝細胞は、例えば、疾患のモデル化、薬物スクリーニング及び治療方法において有用であり得る。
【0031】
フォワードプログラミングは、多能性幹細胞又は他の前駆細胞に、より分化の進んだ表現型を直接付与するものであり、正常な分化経路を回避する;即ち細胞は中間的な分化段階を漸次通過するのではない。例えば、肝細胞へとフォワードプログラミングされる多能性幹細胞(PSC)は、内胚葉、前腸、肝芽細胞及び胎児肝細胞の段階を順次経て分化した後に成熟肝細胞表現型を呈するのではない。PSCにおいて転写因子を直接過剰発現させることによるフォワードプログラミングは、ニューロン、骨格筋細胞、及びオリゴデンドロサイトの作成への使用が成功している(Pawlowski et al.,2017)。
【0032】
多能性幹細胞(PSC)は、インビトロで自己複製能を有し、未分化の表現型を呈し、且ついかなる胎児又は成体細胞型の3胚葉(内胚葉、中胚葉及び内胚葉)のいずれにも分化する潜在的能力を有する。多能性幹細胞は全能性幹細胞とは区別され、胚体外細胞系列を生じさせることはできない。PSCの集団はクローナルであってよく、即ち、単一の共通する祖先細胞の子孫である遺伝学的に同一の細胞である。PSCは、以下の多能性関連マーカー:Oct4、Sox2、アルカリホスファターゼ、POU5f1、SSEA-3、Nanog、SSEA-4、Tra-1-60、KLF-4及びc-mycのうちの1つ以上、好ましくは、POU5f1、NANOG及びSOX2のうちの1つ以上を発現し得る。PSCは、Bra、Sox17、FoxA2、αFP、Sox1、NCAM、GATA6、GATA4、Hand1及びCDX2など、特定の分化運命に関連するマーカーを欠いていてもよい。詳細には、PSCは、内胚葉運命に関連するマーカーを欠いていてもよい。
【0033】
好ましくは、PSCは、ヒトPSC(hPSC)である。
【0034】
PSCには、胚性幹細胞(ESC)及び非胚性幹細胞、例えば、胎児幹細胞、成体幹細胞、羊膜幹細胞、臍帯幹細胞及び人工多能性幹細胞(iPSC)が含まれ得る。一部の実施形態において、PSCはヒト胚性幹細胞ではない。一部の実施形態において、PSCはヒト胚細胞ではない。PSCを作成する好適な技法は、当該技術分野において周知である。
【0035】
好ましくは、PSCは、iPSC、より好ましくはヒトiPSC(hiPSC)である。
【0036】
iPSCは、非多能性の完全に分化した祖先又は先祖細胞に由来する多能性細胞である。好適な祖先細胞としては、成体線維芽細胞及び末梢血細胞など、体細胞が挙げられる。祖先細胞は、典型的には、Oct4、Sox2及びSox1など、多能性遺伝子又はタンパク質を細胞に導入することによってリプログラミングされる。こうした遺伝子又はタンパク質は、プラスミド又はより好ましくは、ウイルストランスフェクション又はタンパク質への直接送達を含め、任意の好適な技術により、分化した細胞に導入し得る。誘導効率を高めるため、他の遺伝子、例えば、Klf-1、-2、-4及び-5など、Klf遺伝子;C-myc、L-myc及びN-mycなど、Myc遺伝子;nanog;及びLin28もまた細胞に導入し得る。多能性遺伝子又はタンパク質の導入後、祖先細胞を培養し得る。多能性マーカーを発現する細胞を単離し、及び/又は精製することにより、iPSC集団を作製し得る。iPSCの作製技法は当該技術分野において周知である(Yamanaka et al Nature 2007;448:313-7;Yamanaka 6 2007 Jun 7;1(1):39-49;Kim et al Nature.2008 Jul 31;454(7204):646-50;Takahashi Cell.2007 Nov 30;131(5):861-72.Park et al Nature.2008 Jan 10;451(7175):141-6;Kimet et al Cell Stem Cell.2009 Jun 5;4(6):472-6;Vallier,L.,et al.Stem Cells,2009.9999(999A):p.N/A)。
【0037】
本方法における使用のためのiPSCは、正常な(即ち非疾患関連の)遺伝子型を有する線維芽細胞又は血液細胞などの体細胞、例えば正常な遺伝的背景の個体、例えば遺伝的障害のない個体から入手された細胞に由来し得る。こうしたiPSCを使用して、例えば、治療、モデル化、スクリーニング又は他の適用における使用のための、正常な(即ち非疾患関連の)遺伝子型の肝細胞を作製し得る。
【0038】
本方法の一部の実施形態における使用のためのiPSCは、遺伝的背景が特徴的に異なる個体から入手された体細胞又は他の先祖細胞に由来し得る。例えば、iPSCは、疾患状態を有する個体、疾患状態の高いリスクを有する個体及び/又は疾患状態のリスクが低い個体からの細胞から作製されてもよい。疾患状態には、肝障害、例えばヘパトパシー又は他の肝臓に関連する障害が含まれ得る。遺伝的背景が特徴的に異なる個体から入手された細胞から作製されたiPSCを使用すると、その遺伝的背景を備える肝細胞を作製することができ、こうした肝細胞は、肝障害など、疾患状態の機構の研究に、及び治療標的の同定に有用であり得る。
【0039】
PSCの培養及び維持には、従来技法を利用し得る(Vallier,L.et al Dev.Biol.275,403-421(2004)、Cowan,C.A.et al.N.Engl.J.Med.350,1353-1356(2004)、Joannides,A.et al.Stem Cells 24,230-235(2006) Klimanskaya,I.et al.Lancet 365,1636-1641(2005)、Ludwig,T.E.et al.Nat.Biotechnol.24,185-187(2006))。本方法における使用のためのPSCは、規定条件で、又はフィーダー細胞上で成長させてもよい。例えば、PSCは従来、培養皿内の適切な密度(例えば10~10細胞/60mm培養皿)の照射マウス胚線維芽細胞(MEF)などのフィーダー細胞層上で、又はフィーダー馴化培地若しくは規定培地を含む適切な基質上で培養されてもよい。本方法における使用のための多能性細胞は、酵素的又は機械的手段によって継代されてもよい。
【0040】
好ましい実施形態において、本方法における使用のためのPSCは、化学組成が規定されている培養培地で培養されてもよい。
【0041】
化学組成規定培地は、細胞を培養するための栄養溶液であって、指定された成分のみ、好ましくは既知の化学構造の成分のみを含有する溶液である。化学組成規定培地は、フィーダー細胞、間質細胞、血清、血清アルブミン及びmatrigel(商標)など、複合的な細胞外マトリックスなど、不定の成分又は不定の成分を含む構成要素を欠いている。一部の実施形態において、化学組成規定培地はヒト化される。ヒト化された化学組成規定培地は、ウシ胎仔血清(FBS)及びウシ血清アルブミン(BSA)、及びマウス又は他のフィーダー細胞など、非ヒト動物に由来する、又はそれから単離された成分又はサプリメントを欠いている。ヒト化CDM中のタンパク質は、組換えヒトタンパク質であってもよい。馴化培地は、培養された細胞からの不定の成分を含み、化学組成が規定されていない。好適な化学組成規定培地は当該技術分野において周知であり、以下に更に詳細に記載する。培地及びその原材料は、商業的供給元(例えば、Gibco、Roche、Sigma、Europabioproducts、Cellgenix、Life Sciences)から入手し得る。
【0042】
一部の実施形態において、化学組成規定培地は、無血清培地サプリメント及び/又は1つ以上の追加の成分、例えば、トランスフェリン、1-チオグリセロール、規定脂質、L-グルタミン又はGlutaMAX-1(商標)などの代替品、ニコチンアミド、デキサメタゾン、セレン、ピルビン酸塩、HEPESなどの緩衝液、重炭酸ナトリウム、グルコース並びにペニシリン及びストレプトマイシンなどの抗生物質及び任意選択でポリビニルアルコール;ポリビニルアルコール及びインスリン;血清アルブミン;又は血清アルブミン及びインスリンが補足された化学組成規定基本培地を含み得る。改良型ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Price et al Focus(2003)25 3-6)、イスコフ変法ダルベッコ培地(IMDM)、ウィリアムE培地及びRPMI-1640(Moore,G.E.and Woods L.K.,(1976)Tissue Culture Association Manual.3,503-508;表3を参照)など、好適な化学組成規定基本培地が当該技術分野において公知であり、商業的供給元(例えば、Sigma-Aldrich MI USA;Life Technologies USA)から入手可能である。他の好適な化学組成規定基本培地も当該技術分野において公知であり、商業的供給元(例えば Sigma-Aldrich MI USA;Life Technologies USA)から入手可能である。好適な無血清培地サプリメントとしては、B27(Brewer et al Brain Res(1989)494 65-74;Brewer et al J.Neurosci Res 35 567-576(1993);Brewer et al Focus 16 1 6-9;Brewer et al(1995)J.Neurosci.Res.42:674-683;Roth et al J Trace Elem Med Biol(2010)24 130-137)及びNS21(Chen et al J.Neurosci Meths(2008)171 239-247)が挙げられる。B27及びN21など、無血清培地サプリメントについては、当該技術分野において周知であり、商業的に広く入手可能である(例えば、Invitrogen;Sigma Aldrich Inc)。
【0043】
PSCの培養における使用に好適な化学組成規定培地としては、インスリン、セレン、トランスフェリン、L-アスコルビン酸、FGF2、及びTGFβ(又はNODAL又はアクチビン)が補足された、NaHCOでpH調整済みのDMEM/F12を含むE8培地(Chen et al 2011 Nat Methods 8(5)424-U76);及び、例えば0.5μg/ml~70μg/mlのインスリン、例えば1.5μg/ml~150μg/mlの濃度のトランスフェリン、例えば30μg/ml~120μg/mlのL-アスコルビン酸、FGF2が補足された、NaHCOでpH調整済みのDMEM/F12を含むE6培地(Chen et al 2011 Nat Methods 8(5)424-U76)が挙げられる。
【0044】
他の好適な化学組成規定培地としては、ポリビニルアルコール、インスリン、トランスフェリン及び規定脂質が補足された基本培地を含むCDM-PVA(Johansson and Wiles(1995)Mol Cell Biol 15,141-151)が挙げられる。例えば、CDM-PVA培地は、1%の化学組成が規定された脂質濃縮物、450μM 1-チオールグリセロール、15μg/mlトランスフェリン、1mg/mlポリビニルアルコール、7μg/mlインスリンが補足された50%イスコフ変法ダルベッコ培地(IMDM)+50%ハムF12とGlutaMAX-1(商標)又は50%F12 NUT-MIX(Gibcoからなり得る。他の好適な化学組成規定栄養培地としては、上記に記載したCDM-PVAと同一の、但しPVAが5mg/mlBSAに置き換えられているhESC維持培地(CDMA);及びB27及びアクチビン(例えば少なくとも50ng/ml)が補足されたRPMI基本培地が挙げられる。CDM-PVA培地については、Vallier et al 2009 PLoS ONE 4:e6082.doi:10.1371;Vallier et al 2009 Stem Cells 27:2655-2666,Touboul 2010 51:1754-1765.Teo et al 2011 Genes & Dev.(2011)25:238-250及びPeterson & Loring Human Stem Cell Manual:A Laboratory Guide(2012)Academic Pressに記載されている。
【0045】
PSC集団は、本明細書に記載される方法では、播種培地において12~36時間、好ましくは約24時間培養し得る。好適な播種培地としては、E8培地が挙げられる。播種培地には、Rho結合コイルドコイル含有プロテインキナーゼ(ROCK)阻害薬、例えば、10μM Y-27632など、1~100μM ROCK阻害薬が補足されてもよい。
【0046】
PSCは、本明細書に記載される方法では、PSCへの一組の転写因子の導入を通じて肝細胞になるようにフォワードプログラミングされる。この導入により、PSCにおけるその一組の転写因子の細胞内レベルが増加し、集団中のPSCから肝細胞への変換が誘発される。
【0047】
転写因子は、細胞における遺伝子の発現を調節するDNA結合タンパク質である。好ましくは、PSCに導入される転写因子は、ヒト転写因子である。本明細書に記載される方法においてPSCから肝細胞へのフォワードプログラミングに用いられる一組の転写因子は、HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及び任意選択でERαからなる。例えば、一組の転写因子は、HNF1A;HNF6;FOXA3;及びRORcからなってもよく;又は一組の転写因子は、HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及びERαからなってもよい。
【0048】
肝細胞核因子1ホメオボックスA(HNF1A;遺伝子ID番号6927)は、肝臓に豊富に存在する転写因子(LETF)である。HNF1Aは、NP_00536.6又はNP_001293108.2の参照アミノ酸配列を有し得るとともに、NM_00545.8又はNM_001306179.2の参照ヌクレオチドアミノ酸配列によってコードされ得る。
【0049】
肝細胞核因子(HNF6;遺伝子ID 3175;別名ワンカットホメオボックス1;ONECUT1))は、肝臓に豊富に存在する転写因子(LETF)である。HNF6は、NP_004489.1の参照アミノ酸配列を有し得るとともに、NM_004498.4の参照ヌクレオチドアミノ酸配列によってコードされ得る。
【0050】
フォークヘッドボックスA3(FOXA3;遺伝子ID:3171;別名、肝細胞核因子3-γ HNF3G)は、肝臓に豊富に存在する転写因子(LETF)である。FOXA3は、NP_004488.2の参照アミノ酸配列を有し得るとともに、NM_004497.3の参照ヌクレオチドアミノ酸配列によってコードされ得る。
【0051】
RAR関連オーファン受容体C(RORc;遺伝子ID:6097)は、主に免疫細胞に発現する核内転写因子である。RORcは、NP_001001523.1又はNP_005051.2の参照アミノ酸配列を有し得るとともに、NM_001001523.2又はNM_005060.4の参照ヌクレオチドアミノ酸配列によってコードされ得る。
【0052】
エストロゲン受容体α(ESR1、Era、ERα又はNR3A1;遺伝子ID:2099)は、エストロゲンによって活性化される核内受容体である。ERαは、NP_000116.2又はNP_001116212.1の参照アミノ酸配列を有し得るとともに、NM_000125.4又はNM_001122740.2の参照ヌクレオチドアミノ酸配列によってコードされ得る
【0053】
本明細書に記載されるとおりの使用に好適な転写因子は、参照データベースアミノ配列又はその変異体を含み得る。好適な変異体は、参照配列と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の配列同一性を有し得る。アミノ酸配列同一性は、概してアルゴリズムGAP(GCG Wisconsin Package(商標)、Accelrys、San Diego CA)に従い定義される。GAPは、ニードルマン・ブンシュ(Needleman & Wunsch)のアルゴリズム(J.Mol.Biol.(48):444-453(1970))を使用して、2つの完全長配列をマッチ数が最大となり、且つギャップ数が最小となるようにアラインメントする。概して、ギャップ生成ペナルティ=12及びギャップ伸長ペナルティ=4のデフォルトパラメータが使用される。GAPの使用が好ましいものであり得るが、他のアルゴリズム、例えばBLAST又はTBLASTN(これらは、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:405-410の方法を使用する)、FASTA(これは、Pearson and Lipman(1988)PNAS USA 85:2444-2448の方法を使用する)、又はスミス-ウォーターマンアルゴリズム(Smith and Waterman(1981)J.Mol Biol.147:195-197)が、概してデフォルトパラメータを用いて使用されてもよい。詳細な配列変異体は、参照配列と比べて1アミノ酸、2、3、4、5~10、10~20又は20~30アミノ酸の挿入、付加、置換又は欠失が異なり得る。
【0054】
好適な転写因子核酸及びタンパク質は、ルーチンの組換え技術を用いて作製されてもよく、又は商業的供給業者(例えば、R&D Systems、Minneapolis、MN、USA;Cellgenix、独国;Life Technologies、USA)から入手されてもよい。
【0055】
一部の好ましい実施形態において、定義される一組の転写因子は、PSCに導入される唯一の転写因子である。HNF4Aなど、他の転写因子はPSCに導入されない。
【0056】
他の実施形態において、NR1、CUX2、AR、ZNF558、TSHZ2、TBX15、NF1X、NF1B、ATOH8、ZMAT1、ONECUT2、ZNF3858、FOS、FOSB、NR113、NPAS2、L3MBTL4、JAZF1、NF1A、ZNF680、HNF4G、CREBL2、DMRTA1、IRF6、ARID5A、SOX5、ZBTB20、ZNF704、ZEB1、ZNF367、NR1H4、KLF15、HLF及びNR4A2からなる群から選択される1つ以上の追加の転写因子もまた、一組の転写因子に加えてPSCに導入されてもよい。
【0057】
一組の転写因子は、核酸(Warren L et al.Cell Stem Cell.2010 Nov 5;7(5):618-30)又はタンパク質(Zhou H,et al Cell Stem Cell.2009 May 8;4(5):381-4)の形態でPSCに導入されてもよい。リプログラミング用の核酸又はタンパク質の導入後、処理された細胞の集団は培養されてもよい。
【0058】
一部の実施形態において、一組の転写因子は、一組の転写因子をコードする異種核酸をPSCにおいて発現させることによりPSCに導入されてもよい。この一組の中にある転写因子の量は、ひいてはPSCにおいて増加する。この一組の中にある転写因子の量は、対照(例えば、一組の転写因子が導入されていないPSC)と比べて少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又はそれ以上増加し得る。
【0059】
核酸は、細胞内での発現に好適なベクター、例えばプラスミド又はレトロウイルス若しくはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクター内にある誘導性又は非誘導性の調節エレメントに作動可能に連結されていてもよい。核酸を含有するベクターは、次にPSCにトランスフェクトされる。任意の好都合なトランスフェクション技法が用いられてもよい。一部の実施形態において、一組の転写因子は、(a)転写調節因子タンパク質をコードする核酸をPSCの第1の遺伝子セーフハーバー部位に挿入すること;及び(b)HNF1A;HNF6;FOXA3;RORc及び任意選択でERαからなる一組の転写因子からなる一組の転写因子をコードする1つ以上の核酸をPSCの第2の遺伝子セーフハーバー部位に挿入することであって、前記1つ以上の核酸が、転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに作動可能に連結されていること;及び(c)PSCを培養することを含む、それにより肝細胞を作製する方法によってPSCに導入されてもよい。セーフハーバー遺伝子座は当該技術分野において周知であり、hROSA26遺伝子座及びAAVS1遺伝子座が挙げられる。
【0060】
トランスフェクション後、PSCにおいて一組の転写因子が発現し、それによってPSCが肝細胞になるようにプログラミングされる。転写因子はPSCにおいて過剰発現し得る。例えば、一組の転写因子は、細胞におけるその一組の転写因子の内因性発現レベルよりも高いレベル、例えば少なくとも2倍高い、少なくとも3倍高い、少なくとも2倍高い又は少なくとも5倍高いレベルで発現し得る。一部の実施形態において、トランスポゾン媒介によるか、又は他のランダム組込みのトランスジェネシス技法が用いられてもよい。1つ以上の転写因子をコードする核酸の発現を通じた細胞のリプログラミングについては、当該技術分野において周知である(Takahashi et al 2007;Takahashi et al 2007;Seki et al 2010;Loh et al 2010;Staerk et al 2010)。
【0061】
iPSCにおけるコード核酸からの転写因子の発現は、誘導性であってもよい。例えば、コード核酸は、好適なベクター内で1つ以上の誘導性調節エレメントに作動可能に連結されていてもよい。誘導性調節エレメントとしては、テトラサイクリン(Tc)又はドキシサイクリン(dox)誘導性調節エレメントを挙げることができる。PSCにおける転写因子の誘導性発現に好適な方法は、当該技術分野で確立されている(例えば、Pawlowski et al(2017);国際公開第2018096343A1号パンフレットを参照のこと)。
【0062】
一部の好ましい実施形態において、PSCは、細胞に対する遺伝子修飾を最小限に抑えて、又は全くなしに、肝細胞になるようにプログラミングされ得る。好適な技法は当該技術分野において公知であり、切出し可能なレンチウイルス及びトランスポゾンベクターの使用;一過性プラスミド、エピソーム及びアデノウイルス又はアデノ随伴ベクターの繰り返しの適用、又は;小分子、合成mRNA及び/又はマイクロRNAの使用が挙げられる(Sidhu KS.Expert Opin Biol Ther.(2011)May;11(5):569-79;Woltjen K et al(2009)Nature 458(7239):766-70;Chou BK et al.Cell Res.2011 21(3):518-29)。
【0063】
他の実施形態において、一組の転写因子は、転写因子タンパク質又は転写因子をコードするmRNAなど、転写因子核酸をPSC集団と接触させることによりPSCに導入されてもよい。転写因子核酸(Warren L et al.Cell Stem Cell.2010 Nov 5;7(5):618-30)又はタンパク質(Zhou H,et al Cell Stem Cell.2009 May 8;4(5):381-4)の直接送達を通じた細胞のプログラミングは、当該技術分野において周知であり、任意の好適な技術を用い得る。例えば、転写因子タンパク質又は核酸の組み合わせを、それらのタンパク質又は核酸が細胞に侵入することを可能にする条件下に、PSCの存在下で培養してもよい。一部の実施形態において、細胞への転写因子タンパク質の侵入は、転写因子タンパク質に連結されるか、又は取り付けられてもよい膜透過性ペプチドによって容易になり得る。転写因子タンパク質又は核酸の組み合わせは、リポフェクション、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、パーティクルボンバードメント及び/又はマイクロインジェクションなど、従来方法によってPSCに導入されてもよく、又はタンパク質デリバリー剤によって細胞に送達されてもよい。例えば、転写因子タンパク質又は核酸の組み合わせは、共有結合的又は非共有結合的に取り付けられた脂質、例えばミリストイル基によって細胞に導入することができる。
【0064】
PSCに直接送達される転写因子核酸は、細胞内で内因性翻訳因子によって翻訳可能であり得る。好適な合成mRNAは、修飾されていてもよい。例えば、シチジンが5-メチルシチジンに、及びウリジンがプソイドウリジンに置換されてもよく、続くホスファターゼ処理により転写因子核酸が作製される(Zhou H,et al 2009)。
【0065】
他の実施形態において、一組の転写因子は、PSC集団におけるそれらの転写因子をコードする内因性核酸配列の発現を活性化させることによりPSCに導入されてもよい。内因性遺伝子の活性化に好適な技法としては、ジンクフィンガー又は転写様活性化因子(Transcription like Activator)(TAL)技法が挙げられ、これらは当該技術分野で十分に確立されている(例えば、Hum Gene Ther.2012 May 15;Zhang P et al.Hum Gene Ther.2012 Nov;23(11):1186-99を参照のこと)。
【0066】
PSCは、一組の転写因子が導入されると、プログラミング培地で培養し得る。
【0067】
好ましくは、プログラミング培地は、化学組成規定培地である。好適なプログラミング培地は、例えば0.5μg/ml~70μg/mlのインスリン、例えば1.5μg/ml~150μg/mlの濃度のトランスフェリン、例えば30μg/ml~120μg/mlのL-アスコルビン酸、例えば0.05μg/ml~0.2μg/mlのFGF2、及び例えば0.05μg/ml~0.2μg/mlのTGFβ(又はNODAL)が補足された、DMEM/F12など、基本培養培地を含み得る。例えば、好適な化学組成規定プログラミング培地は、例えば0.5μg/ml~70μg/mlのインスリン、例えば1.5μg/ml~150μg/mlの濃度のトランスフェリン、及びL-アスコルビン酸が補足された、DMEM/F12など、基本培養培地を含み得る。一部の好ましい実施形態において、プログラミング培地は、E6培地である。E6培地については、上記に詳細に記載している。
【0068】
一組の転写因子をコードする核酸が1つ以上の誘導性調節エレメントに作動可能に連結されている実施形態において、プログラミング培地には、一組の転写因子の発現を誘導する1つ以上の薬剤が補足されてもよい。例えば、コード核酸が1つ以上のドキシサイクリン誘導性調節エレメントに作動可能に連結されるとき、プログラミング培地にはドキシサイクリンが補足されてもよい。
【0069】
PSCへの一組の転写因子の導入後、細胞はプログラミング培地で12時間以上、1日以上、2日以上又は3日以上、好ましくは約1日にわたって培養されてもよい。
【0070】
PSCなど、哺乳類細胞の培養方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Basic Cell Culture Protocols,C.Helgason,Humana Press Inc.U.S.(15 Oct 2004)ISBN:1588295451;Human Cell Culture Protocols(Methods in Molecular Medicine S.)Humana Press Inc.,U.S.(9 Dec 2004)ISBN:1588292223;Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,R.Freshney,John Wiley & Sons Inc(2 Aug 2005)ISBN:0471453293、Ho WY et al J Immunol Methods.(2006)310:40-52、Handbook of Stem Cells(ed.R.Lanza)ISBN:0124366430を参照のこと)。培地及びその原材料は、商業的供給元(例えば、Gibco、Roche、Sigma、Europa bioproducts、R&D Systems)から入手し得る。標準的な哺乳類細胞培養条件、例えば37℃、21%酸素、5%二酸化炭素を用いることができる。培養培地は好ましくは2日毎に交換し、細胞は重力によって沈降させる。
【0071】
プログラミング培地での培養に続いて、次に細胞は、肝細胞培地で培養し得る。
【0072】
肝細胞培地とは、培養細胞における肝細胞表現型の維持を支える培養培地である。肝細胞培地は、好ましくは化学組成規定培地である。好適な培地としては、Hepatozyme(ThermoFisher Scientific;Jasmund et al(2007)Biomol En 24(1)59-69)、肝細胞培養培地(HCM;Lonza)、Power Primary HEP培地(Cellartis)、DMEM/F12(ThermoFisher Scientific)、及びウィリアムE培地(WEM)(ThermoFisher Scientific)(Toda et al(2020)PLos One 15(2)e0229654;Jasmund et al(2007)Biomol En 24(1)59-69;De Bartolo et al Biomaterials.2006;27:4794-4803;Herrera et al Stem Cells.2006;24:2840-2850.pmid:16945998;Ammerschlaeger et al Toxicol Sci.2004;78:229-24;Yu et al Stem Cell Res.2012;9:196-207;Mallanna et al Curr Protoc Stem Cell Biol.2013;26:1G.4.1-1G.4.13;Cameron et al Stem Cell Reports.2015;5:1250-1262;Gieseck et al PLoS One.2014;9:e86372;Carpentier et al Stem Cell Res.2016;16:640-650);ライボビッツL-15培地(Sigma-Aldrich;Leibovitch(1963)Amer J.Hyg 78 173-180);ウェイマウスMB 752/1培地(Sigma-Aldrich;Waymouth,Tca Manual 3,521-525(1977));及びSF3(Peng et.al,IOVS 44:808-17,2003;Jasmund et al(2007)Biomol En 24(1)59-69)及びチー培地(Chee’s medium)(Zirvi et al Cancer Biochem Biophys.1991 Aug;12(2):137-51)が挙げられる。一部の好ましい実施形態において、細胞集団はHepatozymeで培養し得る。
【0073】
一部の好ましい実施形態において、一組の転写因子がERαを含むとき、肝細胞培地にはβ-エストラジオール(E2)が補足されてもよい。
【0074】
細胞集団は、好適な条件下にある肝細胞培地で、一組の転写因子の導入後に集団中の1つ以上の細胞が肝細胞表現型を呈することが可能になるのに十分な時間にわたって培養されてもよい。例えば、細胞は、10~40日間、好ましくは20~30日間、例えば約20日間にわたって培養されてもよい。
【0075】
一部の実施形態において、肝細胞培地には、コード核酸からの一組の転写因子の発現を誘導する1つ以上の薬剤が補足されてもよい。例えば、一組の転写因子が1つ以上のドキシサイクリン誘導性調節エレメントに作動可能に連結されてもよく、及び肝細胞培地にはドキシサイクリンが補足されてもよい。細胞集団は、1つ以上の薬剤が補足された肝細胞培地で7~9日間、好ましくは8日間にわたって培養されてもよい。次に細胞集団は、1つ以上の薬剤のない肝細胞培地で更に8~12日間、好ましくは10日間にわたって培養されてもよい。
【0076】
一部の実施形態において、肝細胞培地中の細胞は、更に3Dで培養されてもよい。例えば、細胞は、マトリゲル成長因子基底膜マトリックスなどの足場に包埋され、肝細胞培地で、例えば5日以上、又は10日以上にわたって培養されてもよい。これは、例えば、細胞傷害性薬剤に対する感受性など、肝細胞機能性を促進するのに有用であり得る。
【0077】
細胞集団に導入された一組の転写因子は成熟肝細胞表現型を付与し、即ち、集団中の細胞は、その一組の転写因子によって肝細胞へとフォワードプログラミングされる。
【0078】
細胞培養時、集団中の細胞において1つ以上の肝細胞マーカー及び/又は1つ以上の多能性細胞マーカーの発現をモニタ又は検出し得る。これにより、集団が培養されるに従い集団においてどの程度フォワードプログラミングされたかを決定することが可能になる。一部の実施形態において、方法は、培養物中の肝細胞のアイデンティティを同定すること、又は確認することを含み得る。肝細胞は、例えば、少なくとも15日後に細胞培養物中に同定し得る。
【0079】
プログラミング後、肝細胞集団は、培養され、拡大され、及び任意選択で、例えば凍結保存により貯蔵されてもよい。
【0080】
上記に記載される方法によれば、他の細胞型を実質的に含まない肝細胞集団が作製されることになり得る。例えば、本明細書に記載される方法によって作製される集団は、培養後に80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上の肝細胞を含有し得る。集団中の肝細胞の存在又は比率は、上記に記載したとおり、アルブミン及び/又はα1-アンチトリプシンの発現を通じて決定し得る。好ましくは、肝細胞集団は、精製が不要となるのに十分なほど他の細胞型を含まない。必要であれば、肝細胞集団は、FACSを含め、任意の好都合な技法により精製されてもよい。
【0081】
また、本明細書に記載される方法によってPSCから作製される肝細胞集団も提供される。PSC集団の少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は100%が、本明細書に記載される方法によるフォワードプログラミング後に肝細胞になり得る。
【0082】
一部の実施形態において、肝細胞は、一組の転写因子をコードする異種核酸を含み得る。
【0083】
集団中の肝細胞は、機能的に成熟したものであってよい。機能的に成熟した肝細胞は、成熟肝細胞表現型を呈し得る。
【0084】
本明細書に記載される方法によって作製される肝細胞は、肝細胞マーカー;アルブミン(ALB)、α1-アンチトリプシン(AAT、A1AT又はSERPINA1)、CYP2A6、CYP3A4、CYP2C8、CYP2C9、UGT1A1、ApoA1、FASN、NR1H4、G6PC、UGT1A6、PCK1、PPRa/g及びRORgを発現し得る。
【0085】
他の肝細胞マーカーとしては、フマリルアセトアセターゼ(FAH)、サイトケラチン8(CK8)、サイトケラチン18(CK18)、アシアロ糖タンパク質受容体(ASGR)、アルコールデヒドロゲナーゼ1、アルギナーゼI型、及び肝臓特異的有機アニオン輸送体(LST-1)を挙げることができる。
【0086】
本肝細胞は、初代成体ヒト肝細胞と同じレベル又は実質的に同じレベルで肝細胞マーカーを発現し得る。例えば、本肝細胞における発現レベルは、初代成体ヒト肝細胞における発現レベルと比べて同じか、又はそれより20%以下、10%以下又は5%以下だけ高い若しくは低いものであり得る。
【0087】
本肝細胞は、定方向分化によって作製された肝細胞様細胞(HLC)、例えば、下記又はPalakkan et al.,2017;Szkolnicka & Hay,2016;Silier et al 2015;Hay et al 2008;Baxter et al.,2015;Grandy et al.,2019;若しくはYiangou et al.,2018に開示される方法によって作製されたHLCにおける発現レベルよりも高いレベルで肝細胞マーカーを発現し得る。例えば、本肝細胞における発現レベルは、HLCにおける発現レベルよりも10%以上、20%以上、30%以上、又は50%以上高いものであり得る。
【0088】
本肝細胞は、AFP、CK18及びSox17など、前駆細胞マーカーを発現しなくてもよく、又はそれらを低いレベルで発現し得る。例えば、本肝細胞における前駆細胞マーカーの発現レベルは、上記の肝細胞マーカーの発現レベルの20%未満、10%未満、5%未満又は1%未満であってもよい。
【0089】
好ましくは、本肝細胞は、Oct4、Sox2、アルカリホスファターゼ、SSEA-3、Nanog、SSEA-4及びTra-1-60など、PSCが発現する多能性関連マーカーを発現しないか、又はPSCと比べると発現の低下を呈する。
【0090】
細胞マーカーの発現は、細胞集団中でモニタされ、及び/又は検出されてもよい。例えば、肝細胞集団によるアルブミン(ALB)、α1-アンチトリプシン(AAT)又は他の肝細胞マーカーの発現又は産生が決定されてもよい。これにより、培養されている集団においてどの程度分化したかを決定し、及び/又はモニタすることが可能になる。細胞マーカーの発現は、免疫細胞化学、免疫蛍光法、RT-PCR、蛍光活性化細胞選別(FACS)、及び酵素的分析を含めた任意の好適な技術により決定し得る。
【0091】
本明細書に記載される方法によって作製される肝細胞は、初代成体ヒト肝細胞の機能を果たす能力を有し得る。例えば、肝細胞は、グリコーゲン及びLDLを貯蔵し、AAT及び/又はアルブミン(ALB)を合成及び分泌し、LDL及び脂肪酸を取り込み、及びCytP450経路を介して生体異物を解毒することが可能であり得る。肝細胞は、胆汁、トロンボポエチン、アンジオテンシノーゲン、尿素及びコレステロールを産生し;及びグリコーゲン分解、糖新生、グリコーゲン生成及び脂質生成を果たすことが可能であり得る。
【0092】
本明細書に記載される方法は、集団中の細胞が上記の肝細胞機能の1つ以上を果たすことが可能かをモニタし、及び/又は決定することを更に含み得る。
【0093】
肝細胞機能は、本明細書に記載される方法によって作製される肝細胞により、初代成体ヒト肝細胞と同じ活性又は実質的に同じ活性で果たされてもよい。例えば、肝細胞における活性の量は、初代成体ヒト肝細胞における活性の量と同じか、又はそれより20%以下、10%以下又は5%以下だけ高い若しくは低いものであり得る。
【0094】
本明細書に記載される方法によって作製される肝細胞は、定方向分化によって作製される肝細胞様細胞(HLC)、例えば、Palakkan et al.,2017;Szkolnicka & Hay,2016;Silier et al 2015;Hay et al 2008;Baxter et al.,2015;Grandy et al.,2019;又はYiangou et al.,2018に開示される方法によって作製されるHLCの肝細胞機能の活性よりも高い活性で肝細胞機能を果たし得る。例えば、肝細胞における活性は、HLCにおける活性より10%以上、20%以上、30%以上、又は50%以上高くてもよい。
【0095】
本明細書に記載される方法によって作製される肝細胞は、モデルシステム、例えば、ヒト化FRGマウスなど、ネズミ科動物マウスモデルにおいて生体内生着及び肝コロニー形成の能力を有し得る(Strom et al Methods Mol Biol 2010 640 491-509)。
【0096】
本明細書に記載される方法によって作製される肝細胞は、成熟初代ヒト肝細胞(PHH)の同じ又は実質的に同じ遺伝子発現プロファイルを呈し得る。
【0097】
本方法によって作製される肝細胞は、以下の肝細胞形態学的特徴:敷石状の形態、偶発的な二核性;グリコーゲン沈着;頂端側の微小突起;粗面及び滑面小胞体(ER)並びに顕著なゴルジ体のうちの1つ以上を呈し得る。
【0098】
一部の実施形態において、個体に投与される肝細胞は、治療用分子、例えば薬物又は成長因子を産生するように遺伝的に操作されてもよい(Behrstock S et al,Gene Ther 2006 Mar;13(5):379-88,Klein SM et al,Hum Gene Ther 2005 Apr;16(4):509-21)
【0099】
本明細書に記載される方法によって作製される肝細胞集団は、ヒト又は動物の身体の治療方法、例えば、肝障害、肝傷害及び/又は損害した若しくは機能不全の肝組織を有する個体の治療において使用し得る。集団はまた、個体の肝障害、肝傷害及び/又は損傷した若しくは機能不全の肝組織の治療における使用のための医薬品の製造においても使用し得る。好適な個体は、急性肝傷害、例えば、薬剤誘発性肝傷害;慢性肝疾患、例えば、肝炎(例えば、A型、B型、C型、D型、E型、G型又はK型肝炎)、肝硬変、肝細胞癌、非アルコール性脂肪肝障害、アルコール性肝障害、自己免疫性肝障害又は遺伝性代謝障害、例えば、α1アンチトリプシン欠損症、糖原病、例えば糖原病1a型、家族性高コレステロール血症、遺伝性チロシン血症、クリグラー・ナジャー症候群、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、又は第IX因子欠損症若しくは他の血友病、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、デュビン・ジョンソン症候群、家族性アミロイドーシス、又はレフサム病を有し得る。
【0100】
治療的適用には、肝細胞は好ましくは、臨床グレードの肝細胞である。
【0101】
本発明の態様はまた、本明細書に記載されるとおり作製された肝細胞を含む医薬組成物、医薬品、薬物又は他の組成物、かかる肝細胞のそれを必要としている個体への、例えば、上記に記載されるとおりの肝障害又は損傷した若しくは機能不全の肝組織の治療(これには予防的治療が含まれ得る)のための投与を含む方法、及びかかる肝細胞を薬学的に許容可能な賦形剤、媒体又は担体、及び任意選択で1つ以上の他の成分と混合することを含む、医薬組成物を作成する方法にも関する。
【0102】
医薬組成物は、本明細書に記載されるとおり作製された肝細胞と、1つ以上の追加の成分とを含有し得る。医薬組成物は、肝細胞に加えて、薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝液、保存剤、安定剤、抗酸化剤及び/又は当業者に周知の他の材料を含み得る。かかる材料は非毒性でなければならず、且つ肝細胞の活性を妨げてはならない。担体又は他の材料の正確な性質は、投与経路に依存することになる。
【0103】
液体医薬組成物は、概して、水、石油、動物油若しくは植物油、鉱油又は合成油など、液体担体を含む。生理食塩水溶液、組織又は細胞培養培地、デキストロース又は他のサッカリド溶液又はグリコール類、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールなどが含まれてもよい。本組成物は、パイロジェンフリーであって、且つ好適なpH、等張性及び安定性を示すものである、非経口的に許容可能な水溶液の形態であってもよい。当業者は、塩化ナトリウム、リンゲル液、又は乳酸加リンゲル液など、等張性媒体を例えば使用して、好適な溶液を調製することが十分に可能である。組成物は、人工脳脊髄液を使用して調製されてもよい。
【0104】
肝細胞は、当該技術分野において公知の任意の技法によって患者に移植されてもよい(例えば、Lindvall,O.(1998)Mov.Disord.13,Suppl.1:83-7;Freed,C.R.,et al.,(1997)Cell Transplant,6,201-202;Kordower,et al.,(1995)New England Journal of Medicine,332,1118-1124;Freed,C.R.,(1992)New England Journal of Medicine,327,1549-1555、Le Blanc et al,Lancet 2004 May 1;363(9419):1439-41)。詳細には、細胞懸濁液が患者の門脈に注射されてもよい。一部の実施形態において、肝細胞は、アルギン酸に封入されて、マイクロビーズとして移植されもよい(Dhawan et al J.Hepatology 2020 72 5 877-884)。
【0105】
医薬組成物の投与は、好ましくは「治療有効量」であり(但し、場合によっては、予防が治療と見なされ得る)、これは、個体への利益が明らかになるのに十分なものである。投与される実際の量、並びに投与の速度及び時間経過は、治療されるものの性質及び重症度に依存することになる。治療の処方、例えば投薬量等に関する決定は、総合診療医及び他の医師の責任の範囲内にある。組成物は、治療しようとする病態に応じて単独で、又は他の治療と組み合わせて、同時投与又は逐次投与のいずれで投与されてもよい。
【0106】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるとおり作製される集団中の肝細胞は、正常な表現型を呈し得る。例えば、肝障害又は肝損傷若しくは肝機能不全を有する個体から細胞を入手して、それを使用してiPS細胞を作製してもよい。一部の実施形態において、iPS細胞には突然変異又は遺伝的欠陥が含まれてもよく、その突然変異又は欠陥を従来の組換え技術を用いて修正することにより、正常な表現型のiPS細胞を作製してもよい。正常な表現型の肝細胞は、これらのiPS細胞から本明細書に記載されるとおり作製されて、肝損傷又は肝機能不全を修復又は改善するため患者に移植されてもよい。
【0107】
他の実施形態において、本明細書に記載されるとおり作製される集団中の肝細胞は、疾患表現型を呈し得る。例えば、肝障害又は肝損傷若しくは肝機能不全を有する個体から細胞を入手して、それを使用して疾患特異的iPS(ds-IPS)細胞を作製してもよい。疾患表現型の肝細胞は、これらのiPS細胞から本明細書に記載されるとおり作製し得る。次にこれらの細胞を処理することにより、正常な表現型を回復させてもよい。例えば、疾患表現型が原因である遺伝子突然変異又は欠陥をインビトロで修正してもよい。単離された哺乳類細胞における遺伝子突然変異又は欠陥の修正には、様々な技法が利用可能である。欠陥又は突然変異が修正され、正常な表現型が回復すれば、肝障害又は肝損傷若しくは肝機能不全の修復又は改善するためその肝細胞が患者に移植されてもよい。
【0108】
上記に記載されるとおり作製される肝細胞集団は、試験化合物と肝細胞の相互作用のモデル化、例えば、毒性スクリーニング、肝障害のモデル化及び治療効果がある可能性のある化合物のスクリーニングにおいて有用であり得る。
【0109】
例えば、肝障害の治療において有用な化合物をスクリーニングする方法は、
本明細書に記載される方法によって作製された単離された肝細胞の細胞を試験化合物と接触させること、及び;
試験化合物が前記肝細胞の細胞に及ぼす効果を決定すること
を含み得る。
【0110】
一部の実施形態において、肝細胞は、疾患関連表現型又は遺伝子型を有する細胞の試料に由来するiPSCから作製されてもよく、試験化合物が細胞に及ぼす効果が決定されてもよい。例えば、1つ以上の疾患関連病変に及ぼす効果が決定されてもよい。
【0111】
毒性スクリーニング方法は、
本明細書に記載される方法によって作製された単離された肝細胞の細胞を試験化合物と接触させること、及び;
試験化合物が前記肝細胞の細胞に及ぼす効果又は肝細胞が試験化合物に及ぼす効果を決定すること
を含み得る。
【0112】
決定されるにより、試験化合物が肝細胞の成長又は生存能力;遺伝子発現;又は機能に及ぼす効果。肝細胞の成長又は生存能力は、試験化合物の存在下で非存在下と比べて決定されてもよい。成長又は生存能力の低下は、その化合物が肝毒性効果を有することを指し示している。遺伝子発現は、試験化合物の存在下で非存在下と比べて決定されてもよい。例えば、アルブミン、α1-アンチトリプシン(AAT)、シトクロムp450酵素、例えば、CYP3A4、CYP1A2、CYP2E1、CYP2C19、CYP2C9、及びCYP2D6など、第IX因子、アポリポタンパク質A2、CEBPα及び/又はトランスサイレチンの発現が決定されてもよい。発現の低下は、その化合物が肝毒性効果を有することを指し示している。遺伝子発現は、核酸レベルで、例えばRT-PCRによるか、又はタンパク質レベルで、例えば、ELISAなどの免疫学的技法によるか、又は活性アッセイにより決定されてもよい。シトクロムp450アッセイ、例えば、発光、蛍光又は発色アッセイは、当該技術分野において周知であり、商業的供給業者から入手可能である。肝細胞の1つ以上の機能は、試験化合物の存在下で非存在下と比べて決定及び/又は測定されてもよい。例えば、肝細胞が、有機化合物の解毒、グリコーゲン貯蔵、AAT又はアルブミンの分泌、胆汁産生、トロンボポエチン産生、アンジオテンシノーゲン産生、アンモニアから尿素への変換、コレステロール合成、グリコーゲン分解、グリコーゲン生成及び脂質生成のうちの1つ以上を果たす能力が決定及び/又は測定されてもよい。肝細胞がこれらの機能のうちの1つ以上を果たす能力が、試験化合物の存在下で非存在下と比べて低下していることが、その化合物が肝毒性効果を有することを指し示している。
【0113】
一部の実施形態において、肝細胞による試験化合物の代謝、分解、又は崩壊が決定されてもよい。例えば、時間の経過に伴う試験化合物及び/又は前記試験化合物の代謝産物の量又は濃度の変化が、連続的に又は1時点以上のいずれかで決定又は測定されてもよい。試験化合物の量又は濃度の低下及び/又は前記試験化合物の代謝産物の量又は濃度の増加が決定又は測定されてもよい。一部の実施形態において、試験化合物及び/又は代謝産物の量又は濃度が変化する速度が決定されてもよい。試験化合物又は代謝産物の量の測定に好適な技法としては、質量分析法が挙げられる。これは、試験化合物の生体内半減期、毒性、有効性又は他のインビボ特性の決定において有用であり得る。
【0114】
肝障害又は肝損傷若しくは肝機能不全の治療において有用な化合物をスクリーニングする方法における使用に好適な肝細胞は、疾患表現型を呈し得る。試験化合物が肝細胞における1つ以上の疾患病変に及ぼす効果が決定されてもよい。例えば、試験化合物が、細胞成長、遺伝子発現、タンパク質凝集又は重合;ERへのタンパク質捕捉;コレステロール取り込み;脂質及び/又はグリコーゲン蓄積;及び乳酸産生のうちの1つ以上に及ぼす効果が決定されてもよい。好適な技法は当該技術分野において周知であり、免疫染色、質量分析法、ウエスタンブロット、及び酵素アッセイが挙げられる。
【0115】
試験化合物の存在下での非存在下と比べた肝細胞における1つ以上の疾患病変の低下又は改善は、肝障害又は肝損傷若しくは肝機能不全の治療において有用であり得ることを指し示すものであり得る。
【0116】
本明細書に記載されるとおりの方法は、肝細胞における1つ以上の疾患病変を低減又は改善する試験化合物を同定する工程を含み得る。疾患病変を低減する化合物は、肝障害の治療用療法薬の開発において有用であり得る。
【0117】
肝障害又は肝損傷若しくは肝機能不全の治療において有用な化合物をスクリーニングする方法における使用に好適な他の肝細胞は、正常な表現型を呈してもよく、例えば、一般集団と比べて肝障害のリスクが高い又はそれに極めて罹り易い個体に由来してもよい。試験化合物が細胞成長、又は遺伝子発現、例えば、CYP3A4、CYP1A2、CYP2E1、CYP2C19、CYP2C9、及びCYP2D6など、シトクロムp450(CYP)の発現のうちの1つ以上に及ぼす効果が決定されてもよい。試験化合物が肝細胞の1つ以上の機能に及ぼす効果が決定されてもよい。例えば、肝細胞が、有機化合物の解毒、グリコーゲン貯蔵、AAT又はアルブミンの分泌、胆汁産生、トロンボポエチン産生、アンジオテンシノーゲン産生、アンモニアから尿素への変換、コレステロール合成、グリコーゲン分解、グリコーゲン生成及び脂質生成のうちの1つ以上を果たす能力が、試験化合物の存在下で非存在下と比べて決定及び/又は測定されてもよい。
【0118】
試験化合物の存在下での非存在下と比べた遺伝子発現、成長及び/又は1つ以上の機能の増加は、その化合物が、肝障害又は肝損傷若しくは肝機能不全、例えば肝炎(例えば、A型、B型、C型、D型、E型、G型又はK型肝炎)、肝硬変、肝細胞癌、非アルコール性脂肪肝障害、薬剤誘発性肝傷害、アルコール性肝障害又は自己免疫性肝障害の治療において有用であり得ることを指し示すものであり得る。
【0119】
肝細胞における1つ以上の疾患病変を低減又は改善する化合物の同定後、その化合物は、その薬学的特性が最適となるように修飾されてもよい。これは、当該技術分野において周知であるモデル化技法を用いて行われ得る。
【0120】
1回以上の初期スクリーニングを用いて肝細胞における1つ以上の疾患病変を低減又は改善する能力を有すると同定された試験化合物は、1回以上の二次スクリーニングを用いて更に評価されてもよい。
【0121】
二次スクリーニングには、生物学的機能又は活性をインビトロ及び/又はインビボで、例えば動物モデルにおいて試験することが関わり得る。例えば、試験化合物がその疾患の動物モデルにおける肝障害に関連する1つ以上の症状又は病変を低減又は改善する能力が決定されてもよい。
【0122】
肝細胞における1つ以上の疾患病変を低減又は改善する試験化合物の同定後、その化合物は単離及び/又は精製されてもよく、又は代わりにそれは、組換え発現若しくは化学合成の従来技法を用いて合成されてもよい。更には、それは、医薬品、医薬組成物又は薬物などの組成物の調製、即ち製造又は製剤化において製造及び/又は使用されてもよい。それらは、本明細書に記載されるとおりの肝障害の治療のため、個体に投与されてもよい。
【0123】
上記に記載されるとおり作製される肝細胞は、疾患のモデル化及び肝障害の薬物標的の同定において有用であり得る。
【0124】
一部の実施形態において、上記に記載されるとおり作製される肝細胞の表現型に遺伝子突然変異が及ぼす効果が決定されてもよい。例えば、肝障害に関連する遺伝子突然変異を同定する方法は、
第5の態様の試験肝細胞集団を提供することであって、試験集団中の肝細胞が、各々遺伝子突然変異を含むこと;及び
表現型について試験肝細胞集団を対照肝細胞集団と比較することであって、対照集団が遺伝子突然変異を含まないこと;及び
試験集団の中で、肝障害表現型など、疾患表現型を呈する肝細胞を同定すること
を含んでもよく、
ここでは疾患表現型を呈することが、同定された肝細胞における遺伝子突然変異が肝障害に関連することを指し示している。
【0125】
疾患表現型は、肝障害など、疾患に関連する肝細胞表現型である。疾患表現型の肝細胞は、正常な表現型の肝細胞と比べて機能異常を呈し得る。例えば、疾患表現型の肝細胞では、上記に記載される肝細胞機能の1つ以上が低下しているか、又は存在しなくてもよい。
【0126】
他の実施形態において、疾患表現型の肝細胞を調べることにより、原因となる遺伝子突然変異が同定されてもよい。例えば、肝障害に関連する遺伝子突然変異を同定する方法は、
第5の態様の試験肝細胞集団を提供することであって、試験集団中の肝細胞が、肝障害表現型など、疾患表現型を呈すること;及び
ゲノム配列について試験肝細胞集団を対照肝細胞集団と比較することであって、対照集団中の肝細胞が疾患表現型を呈しないこと;及び
対照集団と比べて試験集団のゲノム配列にある1つ以上の遺伝子突然変異を同定すること
を含んでもよく、
ここでは対照集団と比べた試験集団における遺伝子突然変異の存在が、その突然変異が疾患表現型に関連することを指し示している。
【0127】
他の実施形態において、疾患表現型の肝細胞を調べることにより、変異体遺伝子発現が同定されてもよい。例えば、肝障害に関連する遺伝子を同定する方法は、
第5の態様の試験肝細胞集団を提供することであって、試験集団中の肝細胞が、肝障害表現型など、疾患表現型を呈すること;及び
肝細胞集団における1つ以上の遺伝子の発現を対照肝細胞集団における1つ以上の遺伝子の発現と比較すること
を含んでもよく、
ここでは対照集団と比べた集団における遺伝子の発現の差が、その遺伝子が肝障害に関連することを指し示している。
【0128】
これらの方法における使用に好適な試験肝細胞集団は、肝障害を有する個体に由来する人工多能性幹細胞(iPSC)から第1~第4の態様の方法によって作製されてもよい。
【0129】
また、PSCから肝細胞へのフォワードプログラミングに有用な転写因子の同定方法も提供される。例えば、肝細胞成熟を促進する転写因子を同定する方法は、
初代ヒト肝細胞(PHH)及びインビトロ定方向分化によって作製された肝細胞様細胞(HLC)における一組の転写因子の発現を決定すること、及び
その一組の中でCLCと比べてPHHにおいて発現が増加している転写因子を同定すること
を含んでもよく、
同定された転写因子が、肝細胞成熟を促進する転写因子候補である。
【0130】
好適な肝細胞様細胞(HLC)は、確立された方法によって作製されてもよい(以下、又は例えば、Palakkan et al.,2017;Szkolnicka & Hay,2016;Silier et al 2015;Hay et al 2008;Baxter et al.,2015;Grandy et al.,2019;又はYiangou et al.,2018を参照のこと)。
【0131】
例えば、NR1、CUX2、AR、ZNF558、TSHZ2、TBX15、NF1X、NF1B、ATOH8、ZMAT1、ONECUT2、ZNF3858、FOS、FOSB、NR113、NPAS2、L3MBTL4、JAZF1、NF1A、ZNF680、HNF4G、CREBL2、DMRTA1、IRF6、ARID5A、SOX5、ZBTB20、ZNF704、ZEB1、ZNF367、NR1H4、KLF15、HLF及びNR4A2からなる群から選択される1つ以上の追加の転写因子の発現が決定されてもよい。
【0132】
本発明の他の態様及び実施形態は、用語「~を含んでいる(comprising)」を用語「~からなる(consisting of)」に置き換えた上述の態様及び実施形態、及び用語「~を含んでいる(comprising)」を用語「~から本質的になる(consisting essentially of)」に置き換えた上述の態様及び実施形態を提供する。
【0133】
本願は、文脈上特に要求されない限り、上記に記載される上記の態様及び実施形態のいずれかの互いのあらゆる組み合わせを開示することが理解されるべきである。同様に、本願は、文脈上特に要求されない限り、好ましい及び/又は任意選択の特徴のあらゆる組み合わせを、単独、又は他の態様のいずれかと一緒のいずれかで開示する。
【0134】
上記の実施形態の変形例、更なる実施形態及びその変形例は、この開示を読めば当業者には明らかであろうとともに、従って、それらは本発明の範囲内にある。
【0135】
本明細書で言及される全ての文書及び配列データベースエントリは、あらゆる目的から全体として参照により本明細書に援用される。
【0136】
本明細書で使用される場合に「及び/又は」は、2つの指定される特徴又は成分の各々の他方を伴う又は伴わない具体的な開示と解釈されるべきである。例えば、「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B及び(iii)A及びBの各々の、まるで各々が本明細書に個々に示されたかのような具体的な開示と解釈されるべきである。
【実施例
【0137】
実験例
フォワードプログラミングによって肝細胞を作製するため、本発明者らは初めにLETFの異なる組み合わせを試験し、未熟な肝細胞(FoP-Heps)への変換を駆動するのに十分な3つの因子のカクテルを同定した。次に本発明者らは、HLCとPHHとの間のトランスクリプトーム及びエピジェネティクスの比較を実施して、肝細胞の機能的成熟を更に高めることができる可能性のある追加の転写因子を同定した。この比較により、成体肝細胞では多数の核内受容体が発現し、ひいてはインビボでの機能性及び成熟の誘導因子であるらしいことが明らかになった。これらの因子の選択をLETFと組み合わせて、本発明者らは、4TF HNF1A-HNF6-FOXA3-RORcが、CYP3A4活性、タンパク質分泌及び肝毒性反応を含めた成熟肝細胞の特徴を呈するFoP-Hepsを作成するのに最も効率的なカクテルであることを同定した。このように、フォワードプログラミングは、複雑な培養条件及び長いタイムラインの必要性を回避することで、ダイレクト分化に代わる方法を提供する。その上、FoP-Hepsは、再生医学、並びに疾患モデル化又は薬物スクリーニングに機能的に対応したレベルを呈する。
【0138】
材料及び方法
hPSC培養
この計画には、ヒトESC H9(WiCell)及びIPSC A1ATDR/R、FS13B及びNIH Lrg1(Yusa et al.,2011)株を使用した。地域の研究倫理委員会による承認を受けて(REC 08/H0311/201)、ヒトiPSC株を先述のとおり誘導した。両方のhPSCとも、ビトロネクチンXFTM(10μg/mL、StemCell Technologies)でコートしたプレート上、TGFB(10ng/ml、R&D)及びFGF2(12ng/ml、Qkine)を補足したてのDMEM/F12(Gibco)、L-アスコルビン酸2-リン酸(1%)、インスリン-トランスフェリン-セレン溶液(2%、Life Technologies)、重炭酸ナトリウム(0.7%)、及びペニシリン/ストレプトマイシン(1%)からなるEssential 8(E8)化学組成規定培地で培養した(Chen et al.,2011)。常法どおりの解離のため、小さい塊状で播種した細胞を0.5μM EDTA(ThermoFisher Scientific)と共に37℃で3分間インキュベートした。細胞は20%O2、5%CO2に37℃で維持し、培地は24時間毎に交換した。
【0139】
遺伝子ターゲティング
以前に記載されているとおりOPTi-OXシステムを使用して誘導性hESC及びhiPSC株を作成した(Bertero et al.,2016;Pawlowski et al.,2017)。簡潔に言えば、2つの遺伝子セーフハーバーを標的化した(GSH)。hROSA26遺伝子座は、構成的に発現するトランス活性化因子(rtTA)で標的化し、AAVS1遺伝子座はTET応答性エレメント(TRE)の下に目的のトランス遺伝子で標的化した。本稿全体を通じて記載されるとおりの異なる組み合わせの転写因子及び/又は核内受容体をクローニングした。鋳型cDNA配列は、Dharmaconから入手するか:HNF6(MHS6278-213244170)、HNF1A(MHS6278-202857902)、RORy(MHS6278-202800991)及びESR1(MHS6278-211691051);又はヒト初代肝臓cDNA:HNF4A、FOXA3及びARから増幅するかのいずれかであった。配列はKAPA HiFi HotStart ReadyMix(Roche)を使用して増幅した。増幅及び骨格ベクターへの配列のクローニングに使用したプライマーが上流及び下流のオーバーハングを含有したことにより、表1に挙げるとおりのGSG(Gly-Ser-Gly)リンカー及び異なる2Aペプチドが作成された。これらの異なるベクターは、Gibson Assembly(New England Biolabs)により、1:3pmolのベクター対挿入物比を用いて構築した。標的化のため、hPSCをSTEMpro accutase(Thermo Fisher)で5分間にわたって単一細胞に解離し、P3初代細胞4D-Nucleofector Xキット(Lonza)を使用して100万個の細胞に2μgのドナーベクター及び2μgの各AAVS1 ZFN発現プラスミドをトランスフェクトした。10μM ROCK阻害薬Y-27632(Selleckchem)を補足したE8培地に細胞を播種した。5~7日後、1μg/mlピューロマイシン(Sigma Aldrich)で少なくとも2日間にわたってコロニーを選択し、その後、それらを個別にピッキングし、以前に記載されているとおり遺伝子型を決定した(Bertero et al.,2016;Pawlowski et al.,2017)。
【0140】
肝細胞ダイレクト分化
hPSCをStemPro Accutase(Thermo Fisher)と共に37℃で5分間インキュベートした後に単一細胞に解離し、10μM ROCK阻害薬Y-27632(Selleckchem)を補足したE8培地に50,000細胞/cm2の密度で播種した。既報告のとおり(Hannan et al.,2013)、但し少し修正を加えて、肝細胞を播種後48時間分化させた。内胚葉分化後、5日間にわたる50ng/mlアクチビンA(R&D)を補足したRPMI-B27分化培地で前方前腸の特異化が実現した。この前腸段階の細胞は、最長27日間にわたるHepatozyme完全培地:2mM L-グルタミン(Thermo Fisher)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher)、2%非必須アミノ酸(Thermo Fisher)、2%の化学組成が規定された脂質(Thermo Fisher)、14μg/mlのインスリン(Roche)、30μg/mlのトランスフェリン(Roche)、50ng/ml肝細胞増殖因子(R&D)、及び20ng/mlオンコスタチンM(R&D)を補足したHepatoZYME-SFM(Thermo Fisher)で肝細胞へと更に分化させた。
【0141】
肝細胞へのフォワードプログラミング
hPSCをStemPro Accutase(Thermo Fisher)と共に37℃で5分間インキュベートした後に単一細胞に解離し、10μM ROCK阻害薬Y-27632(Selleckchem)を補足したE8培地に40~50.000細胞/cm2の密度で播種した。翌日、E8培地を補充した。48時間後、1mg/mlドキシサイクリン(dox)を補足したE6培地(成長因子のないE8)で24時間インキュベートすることにより、トランス遺伝子の初期誘導を実現した。次に、プロトコルの残りの期間中にわたり、細胞を1mg/ml doxを補足したHepatozyme完全培地に維持した。培地は次の4日間は毎日、それ以降は隔日で補充した。特別な実験のため、フォワードプログラミングの2日目から、細胞株を100nMのデスモステロール、テストステロン又はβ-エストラジオール(E2)で処理した。リガンドは全て、Sigma-Aldrichから購入し、エタノール中に再構成した。3D培養のため、15日目又は20日目に、フォワードプログラミングした細胞をマトリゲル低成長因子基底膜マトリックス、フェノールレッド不含(Corning)に包埋し、それぞれ5日間又は10日間培養した。細胞をハンクス液ベースの細胞解離緩衝液(Gibco)によって37℃で20分間にわたって解離し、マトリゲルに再懸濁し、40~50μLドーム内の1mg/ml doxを補足したHepatozyme完全培地に播種した。
【0142】
初代ヒト肝細胞
RNA-seqに使用する新鮮な初代肝細胞を既報告のとおり入手した(Segeritz et al.,2018)。製造者の品質管理要件を満たした4ドナー(男性3例及び女性1例)からの初代プレーティング済み肝細胞をBiopredic International(Rennes,フランス)から購入した。細胞は、短期単層培養で、1%グルタミン(Gibco)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)、700nMインスリン(Sigma-Aldrich)及び50μMヒドロコルチゾン(Sigma)を補足したウィリアムE(Gibco)に維持した。受領後8時間以内に、CYP3A4活性測定など、機能アッセイをHepatozyme完全培地において実施した。
【0143】
CYP3A4アッセイ
P450 Gloキット(Promega)を使用して、CYP3A4酵素活性の測定を実施した。細胞をHepatozyme完全中1:1000のルシフェリン-IPAと共に37℃で1時間インキュベートした。上清を検出試薬と1:1の比で混合し、Greiner白色96ウェルマイクロプレート(Sigma Aldrich)において室温で20分間インキュベートした。発光はGloMaxプレートリーダーでトリプリケートで測定した。Hepatozyme完全培地をバックグラウンド対照として使用した。相対発光単位は、バックグラウンド、容積及び分化後に入手された平均総細胞数で正規化した。
【0144】
LDL取り込みアッセイ
LDL取り込み能力をLDL取り込みアッセイキット(Abcam)で測定した。細胞を1:100のDyLight(商標)550にコンジュゲートしたヒトLDLと共にHepatozyme完全培地中、37℃で3時間インキュベートした。次に細胞を洗浄し、4%PFAによって4℃で20分間固定した。
【0145】
脂肪酸処理
フォワードプログラミングした細胞を20日目から3Dで包埋し、BSA(対照)、又はBSAとコンジュゲートしたオレイン酸(0.25mM)若しくはパルミチン酸(0.25mM)のいずれかを補足したHepatozyme完全培地において7日間培養した。細胞を1μl/ml Bodipy(Thermo scientific)と共に30分間、続いてPBS中に1:10,000希釈したDAPI(Hoechst)と共に30分間インキュベートすることにより細胞内脂質蓄積を検出し、Zeiss LSM 700共焦点顕微鏡で画像化した。
【0146】
APAP毒性
15日目から3Dで培養したフォワードプログラミングした細胞を、25mMアセトアミノフェン(R&D)を補足したHepatozyme完全培地中で48時間インキュベートし(18日目~20日目)、その後、細胞生存率を決定することにより、アセトアミノフェン(APAP)の肝毒性を試験した。
【0147】
細胞生存率
細胞を1:10のPresto Blue試薬(Invitrogen)と共にHepatozyme完全培地中37℃で4時間インキュベートすることにより、細胞生存率を決定した。蛍光は、EnVisionプレートリーダーを使用して560nm/590nmの励起/発光で測定した。
【0148】
RT-qPCR
GenElute哺乳類全RNAミニプレップキット(Sigma-Aldrich)を製造者の指示に従い使用して、細胞又は組織のいずれかからRNAを抽出した。ランダムプライマー及びSuperScript II(Invitrogen)を製造者の指示に従い使用して500ngのRNAをcDNAに逆転写した。QuantStudio 5(Applied Biosystems)においてKAPA SYBR FAST qPCRキット低ROX(Sigma-Aldrich)を200nMのフォワード及びリバースプライマー(Sigma-Aldrich;プライマーは表2に掲載する)と共に使用してqPCRを実施した。qPCRはテクニカルデュプリケートで実施し、2-ΔCt法を用いて2つのハウスキーピング遺伝子(RPLP0及びPBGD)の平均で正規化した。
【0149】
免疫蛍光染色
単層状の細胞を4%PFA中4℃で20分間固定し、10%ロバ血清(BioRad)及び0.1%Triton X-100(Sigma-Aldrich)で30分間ブロックした。固定した細胞を、表3に掲載する一次抗体と共に1%ロバ血清及び0.01%Triton X-100中4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、細胞をAlexaFluor 488、568又は647をコンジュゲートした二次抗体(Life Technologies)と共に1%ロバ血清及び0.01%Triton X-100に希釈して室温で1時間インキュベートした。核を可視化するため、PBS中に1:10,000希釈したDAPI/Hoechst 33258(ビスベンズイミドH、Sigma-Aldrich)を加えて細胞を室温で10分間インキュベートした。Zeiss Axiovert 200M、又はZeiss LSM 700共焦点顕微鏡のいずれかで細胞を画像化した。
【0150】
分泌タンパク質定量化
収集の24時間前に新鮮なHepatozyme完全培地を補充した単層培養の細胞培養上清中のアルブミン、αフェトプロテイン及びα1-アンチトリプシンを測定した。濃度はELISAにより検出し(生物医学分析中央検査室(core biomedical assay laboratory)、ケンブリッジ大学病院(Cambridge University Hospitals)によって実施された)、細胞数で正規化した。
【0151】
RNA-seq分析
未分化hiPSC(n=3)、hESC由来のHLC(n=2)、hiPSC由来のHLC(n=6)、回収直後のPHH(fPHH、n=3)及び市販品を購入したPHH(pPHH、n=2)について、RNA-seqデータセットを作成した。GenElute哺乳類全RNAミニプレップキット(Sigma-Aldrich)を製造者の指示に従い使用して、細胞又は組織のいずれかからRNAを抽出した。ポリAライブラリ調製及びシーケンシングは、ケンブリッジ・ゲノミック・サービシーズ(Cambridge Genomic Services)(hESC_HLC;pPHH)及びウェルカム・トラスト・サンガー研究所(Wellcome Trust Sanger Institute)(hiPSC、hiPSC_HLC、fPHH)により実施された。リードのクオリティはFastQCで判定した。一貫性を求めて、fastqリードをシングルエンドリードに分割し、cutadaptバージョン2.10を使用して同じ長さ(40bp)にトリミングした。salmonバージョン1.2.1を以下のパラメータ:-l A、-GCbias、-posbias、-validatemappingsで使用してシングルエンドfastqファイルをマッピングし、定量化した(Patro et al.,2017)。使用したインデックスは、Ensembl(refgenomes.databio.org)からのヒトGRCh38 cDNA参照配列から予め作成した。遺伝子発現差を、DESeq2を使用して(Love et al.,2014)、各図に図示されるとおり以下のパラメータ、padj>0.05、basemean>100及びグループ間log2変化倍数>2又は<-2で計算した。遺伝子オントロジーエンリッチメントは、clusterProfilerパッケージで計算した(Yu et al.,2012)。有意に誤調節された転写因子のパスウェイ解析をReactomePAを使用して判定した(Yu & He,2016)。マウス肝臓ポリA+RNA-seqをENCODEからダウンロードした(Consortium,2012)。各データセットからの両方のレプリケートでシングルエンドfastqリードをcutadaptバージョン2.10を使用して70bpにトリミングした。salmonバージョン1.2.1を以下のパラメータ:-l A、-Gbias、-seqbias、-validatemappingsで使用して、予め作成したmm10 cDNA参照ゲノムを使用してfastqをマッピングし、定量化した。可視化のための全てのプロットの作成には、DeSeq2を使用した。
【0152】
クロマチン免疫沈降(ChIP)
ChIPを既報告のとおり実施した(Brown et al.,2011)。簡潔に言えば、クロマチンを1%ホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich)によって室温で10分間架橋し、0.125Mグリシン(Sigma-Aldrich)でクエンチした。続いて細胞及び核を溶解させて、Bioruptor Pico超音波処理装置(Diagenode)でクロマチンを超音波処理することにより、DNAを約200~500bpに断片化した。超音波処理したクロマチンを同じ宿主IgG及びプロテインG Dynabeads(Thermo Fisher)で予め清澄化し、100μgの清澄化されたクロマチン(タンパク質)を2μgの以下の抗体:H3K27ac(Abcam、ab4729)、H3K4me1(Abcam、ab8895)、H3K27me3(活性モチーフ、39155)及びH3K4me3(Merk、05-745R)と共に4℃で一晩インキュベートし、その後、30μlのプロテインG Dynabeads(Thermo Fisher)で複合体を捕捉した。複合体を洗浄し、RNアーゼA(Thermo Fisher)及びプロテイナーゼK(Sigma-Aldrich)で処理し、DNAをフェノール-クロロホルム抽出によって精製し、GlycoBlue(Thermo Fisher)、酢酸ナトリウム(Thermo Fisher)及びエタノール(Sigma-Aldrich)で沈殿させた。超音波処理したクロマチン試料(1%)はまた、正規化のための入力として収集し、ChIPシーケンシングライブラリ調製に10ngのDNAを使用した。
【0153】
ChIP-seq分析
ライブラリ調製並びにシーケンシング及びアラインメントは、ウェルカム・トラスト・サンガー研究所(Wellcome Trust Sanger Institute)DNAシーケンシング施設(Hinxton、英国)によって実施された。シーケンシングはIllumina HiSeq v4で実施され、75bp長のペアエンドリードが入手された。bwaでChIP-seqリードをヒトゲノムアセンブリGRCh38にマッピングした。BAM形式のアラインメントデータをsamtoolsでソートし、インデックスを付けた。deeptools bamCoverageを使用してビンサイズ10bpでカバレッジファイルを作成し、IGVにおける可視化及びdeeptoolsでのヒートマップ表現のためRPKMとして正規化した。主成分分析(PCA)をプロットするため、1000bpビンの平均スコアを計算した。ピークコーリングのため、BAMファイルをSAMに変換し、homerを使用してピークをコールした(Heinz et al.,2010)。入力に対するピークコーリングには両方のレプリケートを使用し、ここでH3K27acについて以下のフラグ:-region-L 0を呼び出してローカルフィルタリングを無効にした。PHH又はHLCで特異的活性を示す調節領域を同定するため、バックグラウンドとしての全てのHLCデータセットに対する標的としてPHHデータセットを使用し、及び逆もまた同様に、バックグラウンドに対する濃縮倍数を4として、結合差のあるピークを決定した。モチーフエンリッチメントのため、ヌクレオソームのない領域に対してフラグ-L 1 -nfrを呼び出すことによりピークコーリングを実施し、それによってH3K27acリッチ領域内にある「ディップ」を決定した。これらの一組の領域を上記のとおりの結合差のあるピークと重ね合わせることにより、PHH又はHLC特異的モチーフエンリッチメントを実施した。clusterProfiler Rパッケージでピークアノテーション及び遺伝子オントロジーエンリッチメントを決定した(Yu et al.,2012)。同じゲノムアセンブリとアラインメントした未分化hiPSC ChIP-seqリードはENCODEからダウンロードし(Consortium,2012)、上記のとおり処理した。
【0154】
データの利用可能性
本研究に使用したRNA-seqデータセットは、Array Expressにてアクセッション番号E-MTAB-10634でアクセス可能である。加えて、hiPSC_HLCデータセットのうちの3つは、以前にアクセッション番号E-MTAB-6781で寄託されている(Segeritz et al.,2018)。ハツカネズミ(Mus musculus)C57BL/6肝臓胚RNA-seqデータセットは、ENCODEデータベース(Nakamori et al.,2016)(https://www.encodeproject.org/)から、以下のアクセッション番号:ENCSR216KLZ(E12.5肝)、ENCSR826HIQ(E16.5肝)、ENCSR096STK(P0肝)、ENCSR000BYS(8週齢雌雄混合成体肝)及びENCSR216KLZ(10週齢成体肝)で入手した。本研究において作成したChIP-seqデータセットは、Array Expressにアクセッション番号E-MTAB-10637で寄託されており、hiPSCの公的に利用可能なデータセットは、ENCODEデータベースから、以下のアクセッション番号:ENCSR729ENO(H3K27ac)、ENCSR249YGG(H3K4me1)、ENCSR386RIJ(H3K27me3)、ENCSR657DYL(H3K4me3)及びENCSR773IYZ(入力)で使用した。
【0155】
統計的分析
統計的分析は、GraphPad 9.0.0を使用して行っており、具体的な検定は図の凡例に指示している。各図について、標本サイズnは、独立した実験又はバイオロジカルレプリケートの回数を指示し、グラフ毎に個々の値を表す。群間の検定は、少なくともn≧3回の独立した実験で実施しており、有意な場合には、図中に正確なp値を指示する。
【0156】
結果
肝臓に豊富に存在する転写因子により、細胞に肝細胞アイデンティティをフォワードプログラミングすることが可能になる
フォワードプログラミング方法の開発の最初の工程は、標的細胞型を特徴付ける転写ネットワークを再現することのできる転写因子のカクテルを同定することにある。しかしながら、肝細胞についてはこの工程は難題であり、これは、肝発生が単一の特異的なマスターレギュレーターによって惹起されるわけではなく、肝細胞の機能的成熟を駆動する因子が完全には解明されていないことに伴うものである。こうした制限を回避するため、本発明者らは、胎児発生の間に肝臓プログラムの誘導を制御することが公知の、体細胞変換において試験されているLETFに焦点を置くことに決めた(Rombaut et al.,2021)。4つのLETF(HNF4A、HNF1A、HNF6及びFOXA3)のコード配列をOPTi-OXシステムにクローニングし(図1A)、得られた誘導性カセットをAVSS1遺伝子セーフハーバーに標的化した(Bertero et al.,2016;Pawlowski et al.,2017)。選択後、個々のサブ系統をピッキングし、拡大培養し、及び遺伝子型を決定した後、更に特徴付けた。ドキシサイクリン(dox)を24時間加えることで十分に、選択のhESCにおいて各LETFの均一でロバストな発現が誘導され(図1B図1C)、トランス遺伝子発現の誘導におけるこのOPTi-OXシステムの有効性が確認された。重要なことに、この誘導は、肝臓細胞への分化との関連性がなかったことから、肝細胞アイデンティティを付与するには、LETF単独は十分でないことが示唆される。このように、本発明者らは、肝細胞の生存及び分化の両方を持続させることのできる培養条件をスクリーニングすることに決め(データは示さず)、最初の24時間はE6培地にあった後、Hepatozyme完全培地で14日間培養したとき、細胞は肝細胞様の形態を獲得したことを見出した(図1D)。興味深いことに、得られた細胞は、アルブミン(ALB)、α1-アンチトリプシン(A1AT又はSERPINA1)及びαフェトプロテイン(AFP)などの肝細胞マーカーを発現しており(図1E)、ダイレクト分化によって作成したHLCと同等のCYP3A4活性レベルを呈する(図1F)。次に、本発明者らは、この肝細胞様表現型を実現するのに、これらの4つのLETF全てが必須であったかどうかという問いを立てた。そのため、本発明者らは各因子を取り除くことにより、3つの因子の組み合わせを発現するhESCサブ系統を作成した(図1)。この場合もやはり、24時間のdox誘導の後にタンパク質レベルでロバストで均一な発現が確認された(図1)。上記に同定した培養条件で3つのLETFの組み合わせ各々を誘導したところ、ALBなどの肝細胞マーカーを発現する細胞を作成するには、HNF1A、HNF6又はFOXA3が必須であることが示された(図1G)。HNF4Aの過剰発現は不要であるように見え、それというのも、残り3つのLETF(HNF1A、HNF6、FOXA3)の過剰発現によって作成した細胞は、敷石状様形態を獲得し、高いレベルのALB、SERPINA1及びAFPを発現したためである(図1G図1H図1I)。特筆すべきことに、これらの3つのTFを使用して作成した肝細胞(3TF FoP-Heps)は、最も高いレベルのCYP3A4活性を実現しており、HNF4Aの過剰発現によって機能的特性の獲得が阻まれた可能性があることが示唆される(図1J)。まとめると、これらの結果は、肝細胞様細胞へのhPSCのフォワードプログラミングにHNF1A、HNF6及びFOXA3の過剰発現が十分であることを示すものであった。
【0157】
ダイレクト分化によって作成されたHLCは特異的核内受容体の発現を欠いている
これらの期待の持てる結果を受けて、本発明者らは、肝成熟及び肝機能の促進において役割を果たすことのできるTFを加えることにより、3TF FoP-Hepsの機能を高めることを目指した。しかしながら、肝細胞の機能的成熟を駆動する機構に関して、特に成体肝機能が確立される新生児期の辺りの情報がほとんどないため、それらの因子を同定するのは難題であることが分かった。この制限を回避するため、本発明者らは、成体PHHのトランスクリプトームプロファイルを、hPSCからダイレクト分化によって作成したHLCのトランスクリプトームと比較することに決めた。実際、HLCは、広範に特徴付けられている胎児状態に相当し(Baxter et al.,2015)、一方、3TF FoP-Hepsは、自然の発生には関連性が低いように思われる。この比較のため、本発明者らは、肝障害をモデル化するため(Rashid et al.,2010;Segeritz et al.,2018)、及び細胞ベース療法の適用に向けた概念実証として(Yusa et al.,2011)用いられている最先端のプロトコルを使用した(Hannan et al.,2013;Touboul et al.,2010)。このプロトコルは、SOX17を発現する内胚葉細胞の作製から始まり、それにHHEXを発現する前腸の特異化が続き、その後細胞は、TBX3を特徴とする肝芽細胞様状態を通じて移行する(図2)。興味深いことに、LETFはこの分化の間にPHHと同等のレベルで発現し(図2)、これらの最初の工程が自然の発生経路に従うことが確認された。得られた前駆細胞は、最終的な分化段階を経て、ALB及びSERPINA1などの機能マーカーを発現するHLCになる(図2A図1A図1D)。主要な肝機能を呈するにもかかわらず(Baxter et al.,2015;Grandy et al.,2019;Yiangou et al.,2018)、AFPの発現によって示されるとおり(図2)、又はCYP3A4、CYP2A6又はCYP2C9の活性/発現が限られていることにより示されるとおり(図1B)、HLCは「胎児」状態に相当する。ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)又はヒト胚性幹細胞(hESC)のいずれかから作成したHLC、及び回収直後のPHH)(fPHH)又は単層としてインビトロ培養したPHH(pPHH)に対して実施したRNAシーケンシング(RNA-seq)は、これらの観察を強化している。最もばらつきの大きい500個の遺伝子の主成分分析(PCA)では、これらの3つの細胞型間の明確な違いが示され、未分化hiPSCとPHHとの間でのHLCクラスタリングにより、その中間的な分化状態が確認された(PC1:52%、図2C)。HLCとPHHとの差異を更に調べるため、本発明者らは、遺伝子発現差(DGE)解析と遺伝子オントロジー(GO)解析とを組み合わせて、各細胞型に特異的な遺伝子及び生物学的機能を同定した(図2D)。PHHにユニークに発現する遺伝子(クラスター1)は、生体異物に対する応答及び生体異物代謝、炎症反応及び補体活性化など、成体肝機能と関連付けられた(図2E)。HLC及びPHHの両方に発現する遺伝子(Heps;クラスター3)は、肝発生、脂肪酸代謝又は広範な細胞機能に関与した(図1F)。注目すべきことに、HLCで特異的に上方制御された遺伝子は、細胞外マトリックスの組織化及びそのインビトロ環境から生じている可能性のある様々な発生機能と関連付けられた(図2-補図1F)。本発明者らは次に、以前キュレートされたリストを使用して(Lambert et al.,2018)、特に転写因子(TF)に焦点を置くことに決め(図2G図2H)、HLCに対してPHHで高発現(p<0.05、log2変化倍数>2)の36個のTFを同定した。興味深いことに、リアクトームパスウェイ解析では、これらのTFは2つの主要な経路:NFIファミリー及び8個の核内受容体のコホートにグループ化され(図2H)、これらは肝代謝活性において役割を果たすことが公知である。まとめると、これらの観察は、HLCの「胎児」状態が、幾つかの核内受容体の欠如と関連付けられることを示しており、従って、肝細胞の機能的成熟を駆動するのにそれらの因子が必須である可能性があることが示唆される。
【0158】
HLCのエピジェネティクスの特徴付けから、核内受容体RORc、AR及びERαの役割が示唆される
本発明者らのトランスクリプトーム解析によって同定されたTFのリストを更に改良するため、本発明者らは、エピジェネティクス的構図をHLCとPHHとで比較することに決めた。実際、本発明者らは、PHHにおいてTFが結合する調節領域が、成熟に主要な機能を担っている可能性があると仮定した。H3K27ac(活性な調節領域)、H3K4me1(活性な又はプライミングされた調節領域)、及びH3K27me3(サイレンシングされた遺伝子)を含めたヒストンマークに関してChIPシーケンシング(ChIP-seq)を実施した(Creyghton et al.,2010;Wang et al.,2015)。これらのマークを、hiPSC及びhESCの両方に由来するHLC、並びにPHHにおいてプロファイリングした一方、未分化hiPSCを対照として使用した。予想どおり、PCA分析によれば、分析したマークとは無関係に、HLCとhiPSCとの間のエピジェネティクプロファイルに著しい違いがあることが示された(図3A)。興味深いことに、HLCとPHHとが近接したクラスターに分類されたことは、それらの細胞型がそのトランスクリプトームに差異があるにもかかわらず、そのエピジェネティクプロファイルの重要な一部を共有していることを示唆している。H3K27acを分析すると、HLCとその天然の対応物との間に最も強力な特徴的差異がもたらされ、このマークが細胞アイデンティティの確立に重要であることが確認されたとともに(図3A)、HLCとPHHとの間の相違を理解する上でH3K27acが最も情報価値のあるマークである可能性があることが示唆された。本発明者らは次に、差を見るピークコーリングを実施して、HLCと比べてPHHでユニークに濃縮された活性な調節領域を(「PHH特異的」)、及び逆もまた同様に(「HLC特異的」)同定した(図3)。本発明者らは、PHH又はHLCのいずれかの特異的領域においてH3K4me1及びH3K27me3をプロファイリングした。この分析によれば、H3K4me1がHLCの「PHH特異的」領域に存在せず、代わりにH3K27me3沈着の広がりによって広範囲に置き換えられたように見えることが明らかになった(図3B)。興味深いことに、HLCで下方制御された遺伝子では、調節領域の個別的な各部分がH3K27acを欠いていた(例えばCYP3A4及びUGT1A、図3Cを参照のこと)。各一組の領域と関連付けられる遺伝子のオントロジーによれば、トランスクリプトーム解析と一致して、ステロイド、脂質及び生体異物代謝など、「PHH特異的」な一組における幾つかの成体肝代謝過程、及び「HLCにユニークな」領域についてのある範囲の発生機能が浮かび上がった(図3)。全体的に見て、これらの結果から、成体肝機能に関与する遺伝子のサブセットに、H3K4me1プライミング並びにHLCにおける全H3K27acの沈着が欠如していることが示唆された。
【0159】
これらの遺伝子はまた、H3K27me3など、抑制的なマークも呈し得る。加えて、HLCは、肝分化と関連性のない遺伝子を含む領域において活性なヒストンマークを呈し、hPSCから作成した細胞が、そのインビトロ状態に特異的なエピジェネティックシグネチャもまた提示することが確認される(図3)。まとめると、これらの観察から、HLC及びPHHが同じエピジェネティックアイデンティティを幅広く共有していることが示唆された。しかしながら、限られた特定の一組の調節領域の活性化はHLCには見当たらず、これは、その機能的成熟の欠如を説明する。これらの領域の調節に関与している可能性のある核内受容体を同定するため、本発明者らは、H3K27acを特徴とする「PHH特異的」領域においてモチーフエンリッチメント解析を実施した。興味深いことに、この解析によれば、アンドロゲン(AR)及びエストロゲン(ERα)応答エレメント、並びにRORcモチーフの有意な濃縮が同定されたが(図3D)、これらは、本発明者らのトランスクリプトーム解析における発現に差のある核内受容体の中でも上位に含まれるものであった。本発明者らは次に、肝器官形成の種々の段階で入手されるマウスRNA-seqデータセットを使用して(E12.5、E16.5、P0、8週及び10週の成体)、発生全体を通じたこれらの核内受容体の重要性を更に調べることに決めた(図3)。興味深いことに、これらの3つの核内受容体の発現は、成体肝において特異的に上方制御されることが見出された(図3)。総じて、これらの観察によれば、成熟肝細胞を特徴付ける転写ネットワークの確立又は維持において核内受容体AR、ERα及びRORcが役割を果たしている可能性があることが示唆された。
【0160】
RORcの過剰発現により、フォワードプログラミングによって作成される肝細胞の機能性が増す
本発明者らは次に、RORc(RORy)、AR、及びERα(ESR1)が、3つのLETFを使用して作成されるFoP-Hepsの機能性を更に向上させる能力について試験した。このため、本発明者らは、HNF1A、HNF6及びFOXA3(3TF)の発現に関して誘導性のhESC系列を、上記で同定された核内受容体の各々と組み合わせて作成した。4TFの誘導の均一性を免疫染色を用いて検証した。興味深いことに、これらの分析によれば、過剰発現した核内受容体は核に局在することが示され、それらの過剰発現により、その活性を促進するためのリガンドの必要性を回避し得る可能性があることが示唆された。本発明者らは次に、上記で同定された培養条件を用いてフォワードプログラミングを誘導し、敷石状の形態を有する倍数体細胞の産生を観察した(図4A)。これらの細胞の肝細胞アイデンティティが、全ての系列でアルブミン、SERPINA1/A1AT及びAFPの発現によって確認された(図4B図4C図4D図4E)。注目すべきことに、RORcの過剰発現により、細胞は最も高いアルブミンタンパク質レベルを有することになり(図4B図4D図4E)、及びAFPの発現レベルが、特に30日間にわたる分化後に低くなった(図4D図4E)。CYP3A4活性レベルもまた、3TFのみでリプログラミングした細胞と比較したとき、RORcの存在下で作成した細胞で有意に高くなった(図4F)。本発明者らは次に、各核内受容体に特異的な外因性リガンドによる刺激が、CYP3A4活性(RORcについてデスモステロール、ERαについてβ-エストラジオール及びARについてテストステロン)によって測定したときの機能的成熟を更に誘導し得るかどうかを試験した。興味深いことに、β-エストラジオール処理のみが、CYP3A4活性の3倍の増加をもたらし、一方、テストステロン処理ではCYP3A4活性が有意に低下し、デスモステロールは何ら効果がなかった(図4G)。この増加は、3TF Fop-Hepsでは観察されなかったため、従ってこれらのリガンドの効果がそれらの受容体の過剰発現に関係していたことが示唆される。
【0161】
RORcで作成したFoP-Hepsは、最も高いレベルの機能性を有するように見えたため、従って本発明者らは、代替的な多能性幹細胞株におけるこの因子の組み合わせの潜在的能力を検証することに決めた。本発明者らは、3TF又は3TF+RORc FoPシステムでOpti-OX hiPSCを作成し、24時間のdox処理後にこれらの因子の上方制御、次に誘導された分化を、上記で確立されたプロトコルに従い検証した。RORcが過剰発現したとき、hiPSCに由来するFoP-Hepsはまた敷石状の形態も呈し(図5A)、アルブミン、AFP及びSERPINA1/A1ATをより高いレベルで発現した(図5B図5C図5D図5E)。加えて、RORcが存在することにより、基礎的なCYP3A4活性が有意に増加し、それによってこの因子がFoP-Hepsの機能的成熟度に及ぼす正の効果が確認された(図5F)。全体的に見て、これらの結果から、特定の核内受容体の過剰発現がFoP肝細胞の作成と同等であったことが示された。詳細には、RORcの過剰発現により、3つのLETFの過剰発現によって作成した肝細胞の機能性を向上させることができたことから、肝細胞成熟におけるこの核内受容体の役割が確認された。
【0162】
4TF FoP-Hepsはインビトロで機能的特徴を呈する
次に、本発明者らは、ダイレクト分化によって作成したHLC及びPHHとの比較において、hESC(eFoP-Heps)又はhiPSC(iFoP-Heps)のいずれかに由来する4TF(HNF1A、HNF6、FOXA3及びRORc)FoP-Hepsの機能性を更に特徴付けようとした。CYP3A4活性は、30日間の定方向分化後にHLCによって実現したものと比べて、20日後のフォワードプログラミングした4TF FoP-Hepsにおいて有意に高かった(図6A)。加えて、本発明者らは、フェーズI(シトクロムP450酵素)及びフェーズII(UGT)生体内変換、糖新生(G6PC及びPCK1)及び脂質(PPAR、PPARy、FASN及びAPOA1)及び胆汁酸(NR1H4)代謝など、肝代謝機能に関連するマーカーの発現を分析した。FoP-Hepsは、ある種の範囲のこれらの機能マーカーを発現したことから、肝機能性の獲得が確認された(図6B図6C)。全体的に見て、FoP-Hepsで増加した糖新生遺伝子を除いては、フォワードプログラミングによって実現した発現レベルは、ダイレクト分化によって実現したレベルと等価であった(図6C)。興味深いことに、糖新生及び脂質代謝遺伝子の発現は、FoP-HepsとPHHとの間で同等であった。しかしながら、シトクロムP450遺伝子の誘導は依然として難題であり、この特定の肝機能の獲得には、本発明者らのプロトコルの更なる改良が必要となり得るであろうことが指摘される(図6B)。注目すべきことに、FoP-Hepsでは、RORcは、本発明者らのプロトコルの終了時においても生理的レベルで発現したままであった(図6B)。成熟肝細胞マーカーの発現に加えて、eFoP-Heps及びiFoP-Hepsはまた、培養培地からのLDLの取り込みも可能であったことから、脂質を輸送するそれらの能力が確認された(図6D)。脂質を代謝するその能力を更に調べるため、FoP-Hepsを更に5日間(D20)又は10日間(D30)にわたって3Dで成長させた。これは、本発明者らが最近になって、かかる培養条件がHLCにおける脂質蓄積を促進することを観察したことに伴うものである(Carola Morell、私信)。本発明者らは初めに、3Dで成長させたFoP-Hepsが肝細胞マーカーの発現を保持していることを確認した(図6E)。興味深いことに、これらの条件でSERPINA1又はUGT1A6の発現が増加したことから、機能的成熟の増加が3Dで促進されたことが示唆される(図6E)。本発明者らは次に、eFoP及びiFoP-Hepsの両方が脂肪酸に応答する能力について、これらの細胞を、それぞれ脂肪症及び脂肪毒性を誘導することが公知のオレイン酸(OA)及びパルミチン酸(PA)の両方で処理することにより試験した(Ricchi et al.,2009)。肝細胞に対するその公知の効果と一致して、OA処理は、BODIPY染色によって示されるとおりの脂質の強力な蓄積を誘導し(図6F)、一方で、PA処理は、脂肪毒性と一致する細胞生存率の低下を誘導した(図6G)。このように、FoP-Hepsは、その一次的な対応物と同様に脂肪酸に応答するように見える。最後に、本発明者らは、パラセタモール/アセトアミノフェンの肝毒性効果をモデル化する際のFoP-Hepsの利益を調べた。このため、肝不全を誘導することが公知のアセトアミノフェン(APAP)用量の存在下でFop-Hepsを成長させた。この処理により、細胞生存率が50%低下したことから(図6H)、FoP-Hepsを細胞毒性研究に使用できる可能性があることが示唆される。要約すれば、これらの結果から、hESC又はhiPSCのいずれに由来する4TF FoP-Hepsも、薬物、脂質、グルコース及び胆汁酸代謝に関与する遺伝子の発現、培養培地からLDL及び脂肪酸を取り込む能力、並びに肝毒性因子に対する応答など、機能性の肝細胞の特徴を呈することが示され、それらがインビトロでの肝障害のモデル化及び毒性スクリーニングに利益がある可能性があることが実証された。
【0163】
5TF FoP-Hepsはインビトロで機能的特徴を呈する
次に、本発明者らは、4TF iFoP-Hepsとの比較において、hiPSCに由来する5TF(HNF1A、HNF6、FOXA3、RORc、ERα)FoP-Heps(iFoP-Heps)の機能性を更に特徴付けようとした。エストロゲン(eostrogen)の存在下又は非存在下で5TFが過剰発現すると、肝細胞に似た細胞の産生が可能になる(図7B)。これらの細胞は、主要な肝細胞マーカーを発現することが示された(図7C及び図7D)。5FTで作成したiFop-Hepsはまた、高いレベルのCYP3A4活性(図7E)、脂質輸送/蓄積(図7F)及び脂肪毒性(図7G)を呈することも見出された。
【0164】
本研究では、本発明者らは、hPSCを肝細胞にフォワードプログラミングする方法を確立した。この手法の成功は、初期肝発生を制御する因子と成体肝機能の調節因子とを組み合わせるTFの選択に依存している。それにもかかわらず、ほとんどのフォワードプログラミング方法は、hPSCを特異的細胞型に変換するのにマスターレギュレーターに頼る。例として、ニューロン及び筋細胞は、それぞれNGN2及びMYODの単純な過剰発現によって作成することができる(Pawlowski et al.,2017)。本発明者らの結果は、肝細胞の作製に、3つの転写因子が関わる一層複雑な過程が必要であるが、初代肝細胞を支持する培養培地もまた必要であることを示している。更には、本発明者らの最良のLETFの組み合わせには、成体肝における肝細胞機能の主要な調節因子であることが公知のHNF4Aは含まれなかった。むしろ逆に、HNF4Aを取り除くと、作成された肝細胞のアイデンティティが有意に向上した。同様の観察が、ヒト臍帯静脈内皮細胞から二分化能の肝細胞前駆細胞への直接のリプログラミングについても最近報告されており、ここではHNF4Aが有害であることが見出された(Inada et al.,2020)。HNF4Aは、成体肝のみならず、発生の間にもまた、特に肝芽の確立において必須である(Gordillo et al.,2015)。このように、HNF4Aは、肝芽細胞など、胎児肝臓細胞の維持においても役割を有する可能性があり、フォワードプログラミング中のその過剰発現により、成体肝細胞アイデンティティの獲得が阻まれる可能性がある。この例は、成体肝でユニークに発現する因子を同定するという難題を例示している。重要なことには、LETF過剰発現によって作成したFoP-Hepsは、成体機能が低下した肝細胞アイデンティティを獲得したことから、この転写カクテルはhiPSCを胎児様細胞にしか変換しない可能性があることが示唆される。このように、本発明者らは、肝臓の機能的成熟を導くことのできる因子を追加することに決めた。この最後のカテゴリーの因子は、PHH及びダイレクト分化によって作成したHLCのトランスクリプトーム及びエピジェネティクスの比較を実施することにより同定された。HLCに焦点を置くのは、その十分に特徴付けられた胎児状態、及びまたこれらの細胞での広範な経験にも基づいた。これらの分析から、PHH及び成体肝においてのみ発現する核内受容体のサブセットが同定され、それによって本発明者らの手法の妥当性が確認された。特に興味深いことに、RORc、ERα及びARが、肝細胞における機能的成熟を制御する主要な候補として同定された。重要なことには、核内受容体は、脂質及びグルコース恒常性、胆汁酸クリアランス、生体異物検知及び再生を含め、多様な肝機能を制御することが周知である(Rudraiah et al.,2016)。ステロイドホルモン受容体ER及びARの両方とも、肝臓のエネルギー恒常性の調節において役割を担うことが示されている(Shen & Shi,2015)。その上、ERはコレステロールクリアランスに関与し(Zhu et al.,2018)、肝再生(Kao et al.,2018)及びCYP2A6を通じたビリルビン代謝(Kao et al.,2017)ともまた関連付けられている。RORcは、肝臓、筋肉及び脂肪組織を含めた末梢組織に発現する核内受容体であり、概日時計とグルコース/脂質代謝との間の仲介役として機能することが提唱されている(Cook et al.,2015)。その上、RORy欠損マウスは、インスリン感受性並びに糖新生、脂質代謝マーカー、及び胆汁酸合成に関与するフェーズI酵素及びフェーズII酵素のサブセットの発現低下を呈する(Kang et al.,2007;Takeda,Kang,Freudenberg,et al.,2014;Takeda,Kang,Lih,et al.,2014)。これらの先行の報告に基づき、本発明者らは、RORc及び他の核内受容体が過剰発現すると、LETFの過剰発現によって誘導される肝臓のコンテクストで標的遺伝子のサブセットが活性化することにより、FoP-Hepsの特定の機能が向上する可能性があることを提唱する。重要なことに、肝細胞の機能性は肝小葉全体で空間的に異なり、酸素勾配、栄養素及びシグナル伝達の影響を受けている(Trefts et al.,2017)。このように各肝区域に分かれていることにより、異なるトランスクリプトームプログラムの制御下にあるグルコース、脂質、鉄、又は更には生体異物までもに関して異なる代謝過程が駆動される(Halpern et al.,2017)。従って、本発明者らは、LETFの過剰発現によって誘導されるバックグラウンドとなる核内因子の種々の組み合わせにより、特徴的な個別の機能レパートリーを持つ肝細胞の産生が実現する可能性があると予想する。
【0165】
4TF(HNF1A、HNF6、FOXA3及びRORc)の過剰発現で作成したFoP-Hepsは、アルブミン及びA1AT分泌、基礎CYP3A4活性、フェーズI/フェーズII酵素の発現、糖新生及び脂質代謝マーカー、LDL及び脂肪酸を取り込む能力並びに毒性化合物に対する応答を含め、成体肝細胞の機能的特徴を呈した。それにもかかわらず、CYP3A4発現は依然として限られており、この遺伝子は、インビトロでの誘導が依然として困難である。このように、PHHが呈する機能活性を全範囲にわたって呈するFoP-Hepsを作成するには、追加のTFが必須である可能性がある。同様に、培養条件により、主要な肝機能の支持が更に向上する可能性がある。実際、本発明者らのプロトコルで使用される基本培地はPHHの脱分化を妨げないため、フォワードプログラミングによる完全に機能性の細胞の作製とは適合しない可能性がある。それにもかかわらず、ここで確立したフォワードプログラミング方法は、従来の定方向分化プロトコルに優る幾つかの利点を提示する。これは、ロバストな二段階方法であり、バッチ間変動に結び付くことの多い多段階分化の必要性を回避する。更には、フォワードプログラミングはより速く、ダイレクト分化の30~35日と対照的に、20日で機能的細胞を作成する。最後に、細胞の収率は良好で、大規模生産に適しているように見える。実際、本発明者らは、フォワードプログラミングが分化時に6~8倍の細胞数増加を伴った一方、ダイレクト分化の収率はそれより低いことを観察した。まとめると、本発明者らの結果は、フォワードプログラミングを用いて肝細胞を作成する初めての方法を表している。この手法は、疾患のモデル化及び薬物スクリーニングにおける種々の適用に関連性のある様々な機能を呈する特殊化した肝細胞のハイスループットな大規模生産に向けた第一歩に相当する。
【0166】
配列
【0167】
【表1】
【0168】
【表2】
【0169】
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図1A-C】
図1D-E】
図1F-G】
図1H-I】
図1J
図2A
図2B-C】
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図3C-D】
図4A-C】
図4D
図4E
図4F-G】
図5A
図5B-C】
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E-F】
図6G-H】
図7A-C】
図7D-E】
図7F-G】
【配列表】
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【国際調査報告】