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特表2024-531603肝細胞癌オルガノイド培養のための培養培地、肝細胞癌オルガノイドの培養方法、及び、それらの用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】肝細胞癌オルガノイド培養のための培養培地、肝細胞癌オルガノイドの培養方法、及び、それらの用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/09 20100101AFI20240822BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240822BHJP
   C07D 475/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240822BHJP
   C07K 14/475 20060101ALN20240822BHJP
   C07K 14/485 20060101ALN20240822BHJP
   C07K 14/62 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C12N5/09
C12N1/00 G
C07D475/00
A61K31/519
C07K14/475
C07K14/485
C07K14/62
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515028
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 CN2021118657
(87)【国際公開番号】W WO2023035299
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】202111048845.4
(32)【優先日】2021-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522178669
【氏名又は名称】合肥中科普瑞昇生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 青松
(72)【発明者】
【氏名】汪 文亮
(72)【発明者】
【氏名】黄 涛
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 程
【テーマコード(参考)】
4B065
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB40
4B065BC46
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA60
4C086AA01
4C086CB09
4C086NA20
4C086ZC20
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA20
4H045DA21
4H045DA37
4H045EA60
(57)【要約】
MST1/2キナーゼ阻害剤と、N2及びB27から選択される少なくとも1つの細胞培養添加剤と、肝細胞成長因子と、ITS細胞培養添加剤と、Y27632と、デキサメタゾンと、ニューレグリン-1と、インスリンと、上皮細胞成長因子と、GlutaMAXと、非必須アミノ酸とを含む、肝細胞癌オルガノイド培養のための培養培地。本件は、肝細胞癌オルガノイドの培養方法及びそれらの使用に更に関する。肝細胞癌オルガノイド培養培地を使用することで、肝細胞癌オルガノイドの効果的かつ迅速な増幅を達成することができ、かかる増幅により得られたオルガノイドは、患者の病理学的特徴を維持し、肝細胞癌オルガノイドの培養成功率及び増幅率を改善し、患者の個別化治療の研究基盤をもたらすことができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞癌オルガノイド用の培養培地であって、
MST1/2キナーゼ阻害剤と、N2及びB27から選択される少なくとも1つの細胞培養添加剤と、肝細胞成長因子と、ITS細胞培養添加剤と、Y27632と、デキサメタゾンと、ニューレグリン-1と、インスリンと、上皮細胞成長因子と、GlutaMAXと、非必須アミノ酸とを含むことを特徴とし、
該MST1/2キナーゼ阻害剤が、式(I):
【化1】
(式中、
は、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個の独立したRで任意に置換されたアリール、1個~2個の独立したRで任意に置換されたアリールC1~C6アルキル、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたヘテロアリールから選択され、
及びRは、それぞれ独立して、C1~C6アルキルから選択され、
及びRは、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、及びC3~C6ヘテロシクリルC1~C6アルキルから選択され、
は、ハロゲン、C1~C6アルキル、C1~C6アルコキシ、及びC1~C6ハロアルキルから選択される)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む、培養培地。
【請求項2】
が、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたナフチル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルメチル、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたチエニルから選択され、
及びRが、それぞれ独立して、C1~C3アルキルから選択され、
及びRが、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、ピペリジルC1~C6アルキル、及びテトラヒドロピラニルC1~C6アルキルから選択され、
が、ハロゲン、C1~C6アルキル、C1~C6アルコキシ、及びC1~C6ハロアルキルから選択される、
請求項1に記載の培養培地。
【請求項3】
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、式(Ia):
【化2】
(式中、
は、C1~C6アルキル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたチエニル、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルメチルから選択され、
は、水素、C1~C6アルキル、及びC3~C6シクロアルキルから選択され、
は、独立して、ハロゲン、C1~C6アルキル、及びC1~C6ハロアルキルから選択される)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む、請求項1に記載の培養培地。
【請求項4】
が1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルであり、
が水素であり、
が、フルオロ、メチル又はトリフルオロメチルである、請求項3に記載の培養培地。
【請求項5】
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、以下の化合物又はその薬学的に許容され得る塩から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の培養培地:
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【請求項6】
前記培養培地中の成分の量が、以下の条件のうちいずれか1つ以上又は全てを満たすことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の培養培地:
前記MST1/2キナーゼ阻害剤の濃度が、2.5μM~10μMである;
前記培養培地中の前記B27又はN2細胞培養添加剤の体積比が、1:25~1:100である;
前記肝細胞成長因子の濃度が、1ng/mL~25ng/mLである;
前記培養培地中の前記ITS細胞培養添加剤の体積比が、1:30~1:300である;
Y27632の濃度が、3μM~30μMである;
デキサメタゾンの濃度が、0.1μM~1μMである;
ニューレグリン-1の濃度が、1ng/mL~25ng/mLである;
インスリンの濃度が、1μg/mL~10μg/mLである;
前記上皮細胞成長因子の濃度が、2ng/mL~18ng/mLである;
前記培養培地中のGlutaMAXの体積比が、1:30~1:300である;
前記非必須アミノ酸が、グリシン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン及びセリンからなる群から選択される1つ以上であり、濃度が50μM~200μMである。
【請求項7】
DMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択される初期培地と、
ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びプリモシンからなる群から選択される1つ以上の抗生物質と、
を更に含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の培養培地。
【請求項8】
Wntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、ノギンタンパク質、BMP阻害剤又は線維芽細胞成長因子10を含まないことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の培養培地。
【請求項9】
以下の工程を含むことを特徴とする、肝細胞癌オルガノイドを培養する方法:
(1)固形肝癌組織から試料を単離し、初代肝癌細胞を得る工程と、
(2)請求項1~8のいずれか一項に記載の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を調製し、工程(1)で得られた初代肝癌細胞上でオルガノイドを培養する工程。
【請求項10】
以下の工程を含むことを特徴とする、肝癌の治療薬を評価又はスクリーニングする方法:
(1)請求項9に記載の肝細胞癌オルガノイドを培養する方法を用いて肝細胞癌オルガノイドを培養する工程、
(2)被検薬物を選択するとともに、必要とされる濃度勾配に希釈する工程、
(3)工程(1)で得られた前記オルガノイドに、希釈した前記薬物を添加する工程、
(4)前記オルガノイドのサイズ又は生存性を検出する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野、特に肝細胞癌オルガノイド培養のための培養培地、該培養培地を用いた肝細胞癌オルガノイドの培養方法、並びに薬物の有効性評価及びスクリーニングにおけるその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、術後TACE治療、経口薬治療等を含む、肝癌に対する術後補助化学療法が、新たなタイプの補助治療として、徐々に臨床医の注目を集め、認知されてきている。しかしながら、標準化された化学療法レジメンがないことから、経験に基づく従来の化学療法では、個体差が無視され、盲点となることがあるため、有効性は常に満足のいくものではなく、単剤療法又は併用療法における有効率は20%未満である(非特許文献1)。新興の標的薬物によって毒性の副作用は或る程度軽減されたが、薬物の量が少なすぎ、治療費が高額であり、効果が個体によって異なるため、大部分の患者の治療ニーズに応えることは困難である。効果的な肝癌薬物感受性試験システムがないため、精密な化学療法を達成することができない。したがって、肝癌のin vitro薬物感受性結果を臨床のin vivo反応と一致させることが治療の鍵となる。
【0003】
従来の臨床薬物感受性試験では、二次元細胞培養が使用されることが多い。しかしながら、二次元培養細胞は、限られた範囲でしか組織の生理学的条件をシミュレートすることができず、in vivoでの実際の組織構造を有しないため、分化レベルが低くなり、細胞の生理学的機能が失われる傾向があり、得られた実験結果から実際の臨床結果を予測することは困難である。オルガノイドは、三次元(3D)細胞培養に属し、主に分化能を有するヒト胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、及び成体幹細胞に由来する。内因性の組織幹細胞は、各器官の機能的形態を維持する上で重要な役割を果たし、様々な組織及び器官に存在する。これらの幹細胞は、in vitroの或る特定の誘導条件下で自己組織化し、直径僅か数ミリメートルの小型構造を形成することができる。腫瘍オルガノイドは、患者の身体から採取した原発腫瘍から実験室内で培養された小型3D腫瘍細胞モデルである。腫瘍オルガノイドは、個体間の腫瘍の不均一性を維持しながら、原腫瘍組織の特徴を高度にシミュレートすることができ、高スループット薬物スクリーニング及び個別化精密療法等の機能的試験に使用することができる。
【0004】
現在、肝細胞癌オルガノイドの培養方法には、基本培養培地(DMEM又はDMEM/F12)、R-スポンジン-1、ノギン、及び幾つかの高価なタンパク質因子が使用されることが多く、オルガノイド培養のコストが高くなっている。また、この技術の複雑な操作及び困難さから、大規模な商業的応用は限られている。したがって、低コストで簡便であり、成功率の高いオルガノイドの培養方法及び培養培地の開発が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jindal A, Thadi A, Shailubhai K. Hepatocellular Carcinoma: Etiology and Current and Future Drugs [J]. J Clin Exp Hepatol, 2019, 9(2): 221-232
【発明の概要】
【0006】
上述の技術的課題を解決するために、本発明は、肝細胞癌オルガノイドをin vitroで迅速に拡大増殖させるための培養培地及び培養方法を提供する。
【0007】
本発明の一態様は、MST1/2キナーゼ阻害剤と、N2及びB27から選択される少なくとも1つの細胞培養添加剤と、肝細胞成長因子と、ITS細胞培養添加剤と、Y27632と、デキサメタゾンと、ニューレグリン-1と、インスリンと、上皮細胞成長因子と、GlutaMAXと、非必須アミノ酸とを含む、肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を提供することである。ここで、MST1/2キナーゼ阻害剤は、式(I):
【化1】
(式中、
は、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個の独立したRで任意に置換されたアリール(例えば、フェニル及びナフチル等)、1個~2個の独立したRで任意に置換されたアリールC1~C6アルキル(例えば、フェニルメチル等)、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたヘテロアリール(例えば、チエニル等)から選択され、
及びRは、それぞれ独立して、C1~C6アルキル、好ましくはC1~C3アルキル、より好ましくはメチルから選択され、
及びRは、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、及びC3~C6ヘテロシクリルC1~C6アルキル(ヘテロシクリルは、例えば、ピペリジル、テトラヒドロピラニル等から選択される)から選択され、
は、ハロゲン(好ましくはフルオロ及びクロロ、より好ましくはフルオロ)、C1~C6アルキル(好ましくはメチル)、C1~C6アルコキシ(好ましくはメトキシ)、及びC1~C6ハロアルキル(好ましくはトリフルオロメチル)から選択される)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む。
【0008】
好ましい実施の形態において、MST1/2キナーゼ阻害剤は式(Ia):
【化2】
(式中、
は、C1~C6アルキル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたチエニル、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルメチルから選択され、より好ましくは、Rは1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルであり、
は、水素、C1~C6アルキル及びC3~C6シクロアルキルから選択され、より好ましくは、Rは水素であり、
は、ハロゲン、C1~C6アルキル及びC1~C6ハロアルキルから独立して選択され、より好ましくは、Rは、フルオロ、メチル又はトリフルオロメチルである)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む。
【0009】
好ましくは、MST1/2キナーゼ阻害剤は、以下の化合物又はその薬学的に許容され得る塩、若しくは溶媒和物から選択される少なくとも1つである:
【0010】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0011】
最も好ましくは、本発明のMST1/2キナーゼ阻害剤は化合物1である。
【0012】
本発明の実施の形態において、本発明の培養培地中の成分の量は、以下の条件のうちいずれか1つ以上又は全てを満たす:
(1)MST1/2キナーゼ阻害剤の濃度が、2.5μM~10μMである;
(2)培養培地中のB27又はN2細胞培養添加剤の体積比が、1:25~1:100である;
(3)肝細胞成長因子の濃度が、1ng/mL~25ng/mLである;
(4)培養培地中のITS細胞培養添加剤の体積比が、1:30~1:300である;
(5)Y27632の濃度が、3μM~30μMである;
(6)デキサメタゾンの濃度が、0.1μM~1μMである;
(7)ニューレグリン-1の濃度が、1ng/mL~25ng/mLである;
(8)インスリンの濃度が、1μg/mL~10μg/mLである;
(9)上皮細胞成長因子の濃度が、2ng/mL~18ng/mLである;
(10)培養培地中のGlutaMAXの体積比が、1:30~1:300である;
(11)非必須アミノ酸が、グリシン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン及びセリンからなる群から選択される1つ以上であり、非必須アミノ酸の濃度が50μM~200μMである。
【0013】
本発明の実施の形態において、培養培地は、DMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択される初期培地と、ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びプリモシン(Primocin)からなる群から選択される1つ以上の抗生物質とを更に含む。
【0014】
好ましい実施の形態において、抗生物質としてストレプトマイシン/ペニシリンを使用する場合、ストレプトマイシンの濃度範囲は、25μg/mL~400μg/mLであり、ペニシリンの濃度範囲は、25U/mL~400U/mLであり、抗生物質としてアムホテリシンBを使用する場合、濃度範囲は0.25μg/mL~4μg/mLであり、抗生物質としてプリモシンを使用する場合、濃度範囲は25μg/mL~400μg/mLである。
【0015】
本発明はまた、肝細胞癌オルガノイドの培養方法を提供する。本発明の肝細胞癌オルガノイドの培養方法においては、本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を用いて肝細胞癌オルガノイドを培養する。
【0016】
本発明の肝細胞癌オルガノイドの培養方法は、以下の工程を含む。
【0017】
1.固形肝癌組織から試料を単離し、初代肝癌細胞を得る。このプロセスは、以下の工程を含む:
(1)肝癌組織試料を分離し、基本培地及び組織消化液(組織消化液の添加量は、1gの腫瘍組織に対して約10mLの組織消化液である)を1:3の比率で添加し、恒温振とう機に入れ、4℃~37℃の消化温度、200rpm~350rpmの回転速度で3時間~6時間の消化時間にわたって消化を行う。
(2)消化後、1200rpm~1600rpmの遠心分離速度で2分~6分間の遠心分離時間にわたって遠心分離してから上清を捨てる。
【0018】
ここで、基本培地の配合は、DMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択される初期培地と、ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びプリモシン(Primocin)からなる群から選択される1つ以上の抗生物質とを含む。組織消化液の配合は、1640培地、コラゲナーゼII(1mg/mL~2mg/mL)、コラゲナーゼIV(1mg/mL~2mg/mL)、DNアーゼ(50U/mL~100U/mL)、ヒアルロニダーゼ(0.5mg/mL~1mg/mL)、塩化カルシウム(1mM~5mM)、ウシ血清アルブミンBSA(5mg/mL~10mg/mL)を含む。
【0019】
2.本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を調製し、上記の工程で得られた初代肝癌細胞を培養する。
上記の工程1で得られた初代肝癌細胞を本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地で再懸濁し、計数する。細胞密度が5×10細胞/mL~10×10細胞/mLとなるまで希釈し、希釈した細胞懸濁液に等量のマトリゲルマトリックスゲルを添加し、よく混合する。次いで、混合物をマルチウェルプレートに植え付け、マトリゲルが完全に凝固するまで30分~60分間、プレートを培養インキュベーターに入れる。次いで、拡大増殖及び培養のために肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を添加する。
【0020】
本発明はまた、以下の工程を含む、肝癌の治療薬を評価又はスクリーニングする方法を提供する:
(1)本発明の肝細胞癌オルガノイドの培養方法を用いて肝細胞癌オルガノイドを培養する工程;
(2)被検薬物を選択し、必要とされる濃度勾配に希釈する工程;
(3)工程(1)で得られたオルガノイドに、希釈した薬物を添加する工程;
(4)オルガノイドのサイズ又は生存性を検出する工程。
【0021】
本発明の有益な効果としては、以下のことが挙げられる:
(1)肝細胞癌オルガノイドの培養の成功率は、90%以上の成功率で改善される;
(2)in vitroで初代培養した肝細胞癌オルガノイドは、患者の病理学的特徴を維持することを確実にする;
(3)肝細胞癌オルガノイドは、高い拡大増殖効率で迅速に培養することができ、拡大増殖した肝細胞癌オルガノイドは、継続的な継代能力を有する;
(4)培養培地は、高価なWntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、ノギンタンパク質、BMP阻害剤、線維芽細胞成長因子10(FGF10)等の因子を必要としないため、培養するコストを抑制可能である;
(5)本技術は、肝細胞癌オルガノイドを大量に培養して提供することができることから、候補化合物の高スループットスクリーニング及び患者に対するin vitroでの高スループット薬物感受性機能的試験に適している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1-1】図1A図1Hは、肝細胞癌オルガノイドの増殖に対する本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地に添加した異なる濃度の因子の影響を示す図である。
図1-2】図1I図1Kは、肝細胞癌オルガノイドの増殖に対する本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地に添加した異なる濃度の因子の影響を示す図である。
図2図2A図2Dは、本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を用いて培養した肝細胞癌オルガノイドの顕微鏡下での写真である。図2Aは、試料GL-003から10日間培養したオルガノイドの写真を示す。図2Bは、試料GL-006から10日間培養したオルガノイドの写真を示す。図2Cは、試料GL-008から12日間培養したオルガノイドの写真を示す。図2Dは、試料GL-013から15日間培養したオルガノイドの写真を示す。
図3図3Aは、本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を用いて試料GL-006から培養した肝細胞癌オルガノイドの病理学的及び免疫組織化学的特定の結果を示す図である。図3Bは、組織試料GL-006の病理学的及び免疫組織化学的特定の結果を示す図である。
図4】本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地と既存の培養培地との間の肝細胞癌オルガノイドの培養の比較結果を示す図である。図4Aは、本発明のHC-3培養培地を用いて25日間培養したオルガノイドの写真を示す。図4Bは、Laura培養培地を用いて25日間培養したオルガノイドの写真を示す。図4Cは、HC-3培養培地及びLaura培養培地によって培養したオルガノイドの相対サイズを比較した棒グラフを示す。
図5】本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を用いて培養した肝細胞癌オルガノイドに対する異なる薬物感受性試験の結果を示す図である。図5Aは、薬物処理なしのオルガノイドの成長の写真及び薬物処理の5日後のオルガノイドの成長の写真を示す。図5Bは、異なる濃度の試験薬物による肝細胞癌オルガノイドの成長に対する阻害率の棒グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明をより良く理解するために、実施形態及び図面と組み合わせて以下に更に説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではなく、例示のみを目的として提示される。
【0024】
(MST1/2キナーゼ阻害剤の調製例)
本明細書では、MST1/2キナーゼ阻害剤とは、直接的又は間接的にMST1/2シグナル伝達を負に制御する任意の阻害剤を指す。一般に、MST1/2キナーゼ阻害剤は、例えば、MST1/2キナーゼに結合することにより、MST1/2キナーゼの活性を低下させる。MST1とMST2は構造が似ているため、MST1/2キナーゼ阻害剤は、例えば、MST1又はMST2に結合してその活性を低下させる化合物であってもよい。
【0025】
1.MST1/2キナーゼ阻害剤化合物1の調製
4-((7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-6-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロプテリジン-2-イル)アミノ)ベンズスルファミド1
【化3】
【0026】
メチル2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(A2):2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)酢酸(2.0g)、次いでメタノール(30ml)を丸底フラスコに加え、続いて塩化チオニル(1.2ml)を氷浴下で滴下して加えた。反応系を85℃で一晩反応させた。反応終了後、この系を減圧下で蒸発させて溶剤を乾燥させ、得られた白色固体をそのまま次の工程に使用した。
【0027】
メチル2-((2-クロロ-5-ニトロピリミジン-4-イル)アミノ)-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(A3):丸底フラスコにメチル2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(2g)、次いでアセトン(30ml)及び炭酸カリウム(2.2g)を加え、次いで氷塩浴で系を-10℃に冷却した後、アセトン中の2,4-ジクロロ-5-ニトロピリミジン(3.1g)の溶液をゆっくりと加えた。反応系を室温で一晩撹拌した。反応終了後、反応混合物を濾過し、濾液から減圧下で溶剤を除去し、残渣を加圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物A3を得た。LC/MS:M+H 359.0。
【0028】
2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(A4):丸底フラスコにメチル2-((2-クロロ-5-ニトロピリミジン-4-イル)アミノ)-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(2.5g)、次いで酢酸(50ml)及び鉄粉(3.9g)を加えた。反応系を60℃で2時間撹拌した。反応終了後、反応系を減圧下で蒸発させて溶剤を乾燥させ、得られたものを飽和炭酸水素ナトリウム溶液でアルカリ性に中和し、酢酸エチルで抽出した。有機相を水と飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を濾過し、減圧下で蒸発乾固させて、粗生成物を得た。粗生成物をジエチルエーテルで洗浄し、化合物A4を得た。LC/MS:M+H 297.0。
【0029】
2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(A5):丸底フラスコに2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(2g)及びN,N-ジメチルアセトアミド(10ml)を加え、-35℃に冷却し、続いてヨードメタン(0.9ml)、次いで水素化ナトリウム(615mg)を加え、反応系を2時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を水で冷却(quench)し、酢酸エチルで抽出した。有機相をそれぞれ水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機相を濾過し、減圧下で蒸発乾固させて、粗生成物を得た。粗生成物をジエチルエーテルで洗浄し、化合物A5を得た。LC/MS:M+H 325.0。
【0030】
4-((7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-6-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロプテリジン-2-イル)アミノ)ベンズスルファミド(1):丸底フラスコに2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(100mg)、スルファニルアミド(53mg)、p-トルエンスルホン酸(53mg)及びsec-ブタノール(5ml)を加えた。反応系を120℃で一晩撹拌した。反応終了後、反応混合物を濾過し、メタノール及びジエチルエーテルで洗浄し、化合物1を得た。LC/MS:M+H 461.1。
【0031】
2.本発明の他のMST1/2阻害剤化合物の調製
本発明の他のMST1/2阻害剤化合物を化合物1と同様の方法で合成し、それらの構造及び質量スペクトルデータを以下の表に示す。
【0032】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0033】
実施例1.肝細胞癌オルガノイドの増殖に対する肝細胞癌オルガノイド用の培養培地に添加した様々な因子の影響
(1)肝細胞癌オルガノイド用の培養培地の調製
初めに、初期培地を含有する基本培地を調製した。初期培地は、一般に使用されているDMEM/F12、DMEM、F12、又はRPMI-1640から選択することができる。本実施形態において、基本培地の配合は、DMEM/F12培地(Corningから購入)+100μg/mL プリモシン(Primocin)(InvivoGenから購入、0.2%(容量/容量)、市販品の濃度は50mg/mlである)である。
【0034】
異なるタイプの添加剤(表1を参照されたい)を基本培地に添加し、異なる成分を含む肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を調製した。
【0035】
(2)初代肝癌細胞の単離及び処理
1.試料の選択
肝癌固形腫瘍の組織試料(術中)は、専門医療機関の専門医療従事者によって患者から採取され、全ての患者がインフォームドコンセントに署名した。サイズが0.25cmの術中試料を、市販の組織保存液(製造業者:Miltenyi Biotec)を用いて保管及び輸送した。
【0036】
2.材料の準備
表面消毒(surface sterilization)に供した後、15mL滅菌遠心分離管、ピペッター、10mLピペット、滅菌ピペットチップ等をウルトラクリーンワークベンチ(ultra-clean workbench)に置き、30分間紫外線照射した。基本培地は、4℃の冷蔵庫から30分前に取り出し、組織消化液は、-20℃の冷蔵庫から30分前に取り出した。
【0037】
組織消化液:1640培地(Corning、10-040-CVR)、コラゲナーゼII(2mg/mL)、コラゲナーゼIV(2mg/mL)、DNアーゼ(50U/mL)、ヒアルロニダーゼ(0.75mg/mL)、塩化カルシウム(3.3mM)、BSA(10mg/mL)。
【0038】
上述のコラゲナーゼII、コラゲナーゼIV、DNアーゼ及びヒアルロニダーゼは、全てSigma Corporationから購入し、塩化カルシウムはSangon Biotech(上海(Shanghai)) Co., Ltd.から購入し、BSAはBiofroxx Corporationから購入した。
【0039】
3.試料の単離
3.1.組織試料をウルトラクリーンワークベンチから培養皿に移し、血液が付いた組織を除去した。組織試料を基本培地で2回洗浄した後、別の培養皿に移し、滅菌メスで1×1×1mmのサイズの組織ブロックに機械的に切断した。
【0040】
3.2.切断した術中組織を15mL遠心分離管に吸引し、これに5mLの基本培地を添加し、完全に混合した後、1500rpmで4分間遠心分離した。
【0041】
3.3.上清を捨て、得られたものに基本培地及び組織消化液(組織消化液の添加量は、1gの腫瘍組織に対して約10mLの組織消化液とした)の1:3混合物を添加した。試料に名前及び番号を付け、シーリングフィルムで密閉した後、振とう機(Zhichu InstrumentのZQLY-180N)内にて37℃、300rpmで消化した。消化の完了は、30分毎の観察により、目に見える粒子が存在するか否かに基づいて決定した。
【0042】
3.4.消化が完了した後、未消化の組織塊を100μMフィルターメッシュに通して濾過した。フィルターメッシュ上の組織塊を、細胞の喪失を減らすために基本培地で遠心分離管に洗い入れた。得られたものを25℃、1500rpmで4分間遠心分離した。
【0043】
3.5.上清を捨て、得られたものを観察して、血球が存在するかを決定した。血球が存在する場合、得られたものに8mLの血球溶解液(Sigmaから購入)を添加し、完全に混合し、4℃で20分間溶解させた。この過程で転倒混和を1回行った。得られたものを25℃、1500rpmで4分間遠心分離した。
【0044】
3.6.上清を捨て、2mLの基本培地を添加し、細胞を再懸濁して保存した。
【0045】
4.細胞の計数及び処理
4.1 顕微鏡観察:少量の再懸濁細胞を培養皿にプレーティングし、癌細胞の密度及び形態を顕微鏡(CNOPTEC、BDS400)下で観察した。
【0046】
4.2 生存細胞の計数:12μLの再懸濁した細胞懸濁液を12μLのトリパンブルー染色液(製造元:Sangon Biotech (上海(Shanghai)) Co., Ltd.)と完全に混合した後、20μLの混合物を細胞計数プレート(製造元:Countstar、仕様:50個/箱)に添加した。セルカウンター(Countstar、IC1000)を用いて、生存大細胞(10μm超の細胞サイズ)のパーセンテージ=生存細胞数/総細胞数×100%を算出した。
【0047】
(3)肝細胞癌オルガノイドの培養
上記の工程で得られた初代肝癌細胞を、予め冷却したDMEM/F12で再懸濁し、計数した。細胞密度が5×10細胞/mL~10×10細胞/mLとなるまで希釈し、希釈した細胞懸濁液400μLに等量のマトリゲルマトリックスゲル(Corning)を添加し、静かによく混合した。次いで、混合物を96ウェルプレートに5μL/ウェルで植え付けた。植え付けたプレートを、マトリゲルが完全に凝固するまで30分間インキュベーターに入れた。次いで、予め室温に戻しておいた、表1に示す培養培地をそれぞれ添加し、拡大増殖及び培養のために培養培地を3日ごとに交換した。7日後、培養したオルガノイドを写真撮影し、オルガノイドの直径を測定して集計し、肝細胞癌オルガノイドの増殖に対する様々な因子の促進効果を比較した。実験コントロールとして、添加剤を全く含まない基本培地を使用した。実験結果を表1に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
ここで、「+」は、基本培地と比較して、添加剤(複数の場合もある)を添加した培地が、少なくとも2例において肝癌組織から単離した肝細胞癌オルガノイドの増殖を促進する効果を有することを示し、「-」は、添加剤(複数の場合もある)を添加した培地が、少なくとも1例において肝癌組織から単離した肝細胞癌オルガノイドの増殖を阻害する効果を有することを示し、「○」は、添加剤(複数の場合もある)を添加した培地が、少なくとも2例において肝癌組織から単離した肝細胞癌オルガノイドの増殖に対して顕著な影響を及ぼさないことを示す。
【0050】
上記の結果に従い、B27、肝細胞成長因子(HGF)、ITS細胞培養添加剤、Y27632、デキサメタゾン、ニューレグリン-1(NRG1)、インスリン、上皮成長因子(EGF)、GlutaMAX、化合物1、及び非必須アミノ酸を含む因子を更なる培養実験に選択した。
【0051】
実施例2.肝細胞癌オルガノイドの増殖に対する培養培地に添加した異なる濃度の因子の影響
実施例1のセクション(2)に記載の方法に従い、初代肝癌細胞を術中組織試料(番号GL-003、GL-004)から得て、以下の表2に示す培養培地の配合を用いてオルガノイドを培養した。
【0052】
【表4】
【0053】
配合1の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合1の培地に加えて、調製したB27を、B27の最終濃度がそれぞれ1:25、1:50及び1:100となるように1ウェル当たり200μL添加した。配合1の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。この一連の培養培地に添加した他の因子の最終濃度は、HC-3培養培地と同じであった。以下の配合1~配合11の実験も同様に行ったため、詳細は説明しない。
【0054】
配合2の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合2の培地に加えて、調製したHGFを、HGFの最終濃度がそれぞれ1ng/mL、5ng/mL及び25ng/mLとなるように1ウェル当たり200μL添加した。配合2の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0055】
配合3の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合3の培地に加えて、調製したITS細胞培養添加剤を、ITS細胞培養添加剤の最終濃度がそれぞれ1:300、1:100及び1:30となるように1ウェル当たり200μL添加した。配合3の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0056】
配合4の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合4の培地に加えて、調製したY27632を、Y27632の最終濃度がそれぞれ3μM、10μM及び30μMとなるように1ウェル当たり200μL添加した。配合4の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0057】
配合5の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合5の培地に加えて、調製したデキサメタゾンを、デキサメタゾンの最終濃度がそれぞれ0.01μM、0.1μM及び1μMとなるように1ウェル当たり200μL添加した。配合5の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0058】
配合6の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合6の培地に加えて、調製したNRG1を、NRG1の最終濃度がそれぞれ1ng/mL、5ng/mL及び25ng/mLとなるように1ウェル当たり200μL添加した。配合6の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0059】
配合7の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合7の培地に加えて、調製したインスリンを、インスリンの最終濃度がそれぞれ1μg/mL、3μg/mL及び10μg/mLとなるように1ウェル当たり200μL添加した。配合7の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0060】
配合8の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合8の培地に加えて、調製したEGFを、EGFの最終濃度がそれぞれ2ng/mL、6ng/mL及び18ng/mLとなるように1ウェル当たり200μL添加した。配合8の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0061】
配合9の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合9の培地に加えて、調製したGlutaMAXを、GlutaMAXの最終濃度がそれぞれ1:300、1:100及び1:30となるように1ウェル当たり200μL添加した。配合9の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0062】
配合10の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合10の培地に加えて、調製した化合物1を、化合物1の最終濃度がそれぞれ2.5μM、5μM及び10μMとなるように1ウェル当たり200μL添加した。配合10の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0063】
配合11の培養培地を使用する場合、オルガノイドを植え付けた96ウェルプレートに、配合11の培地に加えて、調製した非必須アミノ酸を、非必須アミノ酸の最終濃度がそれぞれ50μM、100μM及び200μMとなるように1ウェル当たり200μL添加した。配合11の培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0064】
10日後、培養したオルガノイドを写真撮影し、オルガノイドの直径を測定して集計し、肝細胞癌オルガノイドの増殖に対する様々な因子濃度の促進効果を比較した。2つの試料から収集したデータをまとめ、図1A図1Kに示した。図1A図1Kにおいては、比率は、各培養培地を用いて10日間培養したオルガノイドの直径と、対応する培養培地を用いてBCウェルにおいて10日間培養したオルガノイドの直径との比率を表す。1より大きい比率は、異なる濃度の因子又は低分子化合物を含有する培養培地が、ブランクコントロールのウェル中の培養培地よりも良好な増殖促進効果を有することを示す。1より小さい比率は、異なる濃度の因子又は低分子化合物を含有する培養培地が、ブランクコントロールのウェル中の培養培地よりも増殖促進効果が低いことを示す。
【0065】
図1A図1Kの結果によると、B27の体積濃度は、好ましくは1:25~1:100であり、肝細胞成長因子の量は、好ましくは1ng/mL~25ng/mLであり、ITS細胞培養添加剤の体積濃度は、好ましくは1:30~1:300であり、Y27632の量は、好ましくは3μM~30μMであり、デキサメタゾンの量は、好ましくは0.1μM~1μMであり、NRG1の量は、好ましくは1ng/mL~25ng/mLであり、インスリンの量は、1μg/mL~10μg/mLであり、上皮成長因子の量は、好ましくは2ng/mL~18ng/mLであり、GlutaMAXの体積濃度は、好ましくは1:30~1:300であり、MST1/2キナーゼ阻害剤化合物1の量は、好ましくは2.5μM~10μMであり、非必須アミノ酸の量は、好ましくは50μM~200μMである。
【0066】
実施例3.肝細胞癌オルガノイドの培養及び特定
実施例1のセクション(2)に記載の方法によって得られた初代肝癌細胞(GL-003、GL-006、GL-008、GL-013)を、本発明の肝細胞癌オルガノイド用のHC-3培養培地を用いて再懸濁し、計数した。細胞密度が5×10細胞/mL~10×10細胞/mLとなるまで希釈し、希釈した細胞懸濁液400μLに等量のマトリゲルマトリックスゲル(Corning)を添加し、静かによく混合した。次いで、混合物を24ウェルプレートに50μL/ウェルで植え付けた。植え付けたプレートを、マトリゲルが完全に凝固するまで30分間インキュベーターに入れた。次いで、予め室温に戻しておいた肝細胞癌オルガノイド用のHC-3培養培地を1ウェル当たり500μLで添加し、拡大増殖及び培養のために培養培地を3日ごとに更新した。
【0067】
10日目~15日目に、培養した肝細胞癌オルガノイドを顕微鏡(Invitrogen、EVOS M500)を用いて観察した。図2A図2Dは、4倍の対物レンズ下で撮影した試料GL-003(10日目)、GL-006(10日目)、GL-008(12日目)及びGL-013(15日目)から培養した肝細胞癌オルガノイドの写真を示す。肝細胞癌オルガノイドは、顕微鏡下で比較的滑らかな表面を有する規則的な球形に見える。
【0068】
培養した肝細胞癌オルガノイドに対して病理学的及び免疫組織化学的特定を行い、対応する組織試料も病理学的及び免疫組織化学的特定に送り、オルガノイドと組織との間の結果の一貫性を比較した。
【0069】
図3Aは、試料GL-006からin vitroで培養した肝細胞癌オルガノイドの病理学的及び免疫組織化学的特定の結果を示し、それぞれ20倍の対物レンズ下で撮影した写真である。図3Aに示すように、HEの結果は、オルガノイドの構造形態が癌組織の形態であることを示す。CK19、Heppar-1及びKi67が発現され、試料が肝癌であることが示される。図3Bは、培養前のGL-006の対応する組織の病理学的及び免疫組織化学的結果を示し、本発明のHC-3培養培地を用いて培養した肝細胞癌オルガノイドの診断結果が培養前の肝癌組織の診断結果と一致することが示される。
【0070】
実施例4.既存の培養培地との培養効果の比較
(1)コントロール培養培地の調製
文献(Laura et al., Nat Med. 2017, 23(12): 1424-1435)で使用されている培養培地を調製した。これは、Advanced DMEM/F12培地(Corningから購入)+1:100 ペニシリン/ストレプトマイシン(Corningから購入)+1:100 GlutaMAX(Corningから購入)+10mM HEPES(Thermo Fisherから購入)+1:50 B27(Gibcoから購入)+1:100 N2(Gibcoから購入)+1.25mmol/L N-アセチルシステイン(MCEから購入)+10mmol/L ニコチンアミド(MCEから購入)+10nM ガストリン(MCEから購入)+50ng/ml 上皮成長因子(R&Dから購入)+100ng/ml 線維芽細胞成長因子10(sino biologicalから購入)+25ng/ml 肝細胞成長因子(R&Dから購入)+10μmol/L フォルスコリン(MCEから購入)+5μmol/L A8301(MCEから購入)+10μmol/L Y27632(MCEから購入)+3nmol/L デキサメタゾン(MCEから購入)の配合を有する。以下、これをLaura培養培地と称する。
【0071】
(2)肝細胞癌オルガノイドの培養
実施例1のセクション(2)に記載の方法に従い、初代肝癌細胞を術中組織試料GL-018から得て、HC-3培養培地及びLaura培養培地をそれぞれ用い、実施例3に記載の方法に従って培養して、オルガノイドを得た。
【0072】
培養25日目に、培養した肝細胞癌オルガノイドを顕微鏡(Invitrogen、EVOS M500)を用いて観察した。図4A及び図4Bは、それぞれHC-3培養培地及びLaura培養培地中で培養したオルガノイドの4倍の対物レンズ下で撮影した写真である。図4Cは、2つの培養培地を用いて培養したオルガノイドの相対サイズを比較した棒グラフである。
【0073】
図4A図4Cの結果によると、Laura培養培地と比較して、HC-3培養培地が肝細胞癌オルガノイドの拡大増殖及び培養を有意に促進し得ることが分かる。
【0074】
実施例5.本発明の培養培地を用いて拡大増殖させることによって得られた肝細胞癌オルガノイドを用いた薬物スクリーニング
(1)肝細胞癌オルガノイドの培養
実施例1のセクション(2)に記載の方法に従い、初代肝癌細胞を肝癌術中試料(GL-006)から単離し、肝細胞癌オルガノイドの直径が50μmを超えるまでHC-3培養培地を用いて培養し、オルガノイドを得て、これを続いて薬物スクリーニングに使用した。
【0075】
(2)スクリーニング用の薬物の調製
2つの濃度勾配の3つの薬物(ボルテゾミブ、アクラルビシン及びドキソルビシン;全てMCEから購入)を以下の表に従って調製し、使用のために保管した。
【0076】
【表5】
【0077】
(3)薬物負荷
調製した薬物を取り出し、室温に置いた。薬物をHC-3培養培地で1000倍に希釈した後、使用した。工程(1)に従って培養して得られたオルガノイドをインキュベーターから取り出し、培養培地をウェルから除去し、薬物を含有する培養培地をウェルの壁に沿ってゆっくりとウェルに添加した。薬物を添加した後、96ウェルプレートの表面を滅菌し、続いてインキュベーターに移して更に培養した。5日後、オルガノイドの生存性を測定した。
【0078】
(4)オルガノイドの生存性の検出
CellTiter-Glo発光試薬(Promegaから購入)を4℃の冷蔵庫から取り出し、10mLの試薬を充填スロット(loaing slot)に添加し、試験用の96ウェルプレートをインキュベーターから取り出し、20μLのCellTiter-Glo発光試薬を各ウェルに添加した。10分間静置し、続いてよく混合した後、多機能マイクロプレートリーダー(Envision、Perkin Elmer)を用いて試験を行った。
【0079】
(5)データ処理
薬物阻害率(%)=100%-(5日目の薬物処理ウェルの化学発光値/0日目の薬物処理ウェルの化学発光値)/(5日目のDMSOウェルの化学発光値/0日目のDMSOウェルの化学発光値)×100%の式に従い、異なる薬物の阻害率を算出した。結果を図5A及び図5Bに示す。図5Aは、4倍対物顕微鏡(Invitrogen、EVOS M500)下で撮影した、薬物処理なしのオルガノイドの成長の写真及び薬物処理の5日後のオルガノイドの成長の写真を示す。図5Bは、異なる濃度の試験薬物による肝細胞癌オルガノイドの成長に対する阻害率の棒グラフを示す。
【0080】
図5Aから、本発明の肝細胞癌オルガノイド用の培養培地を用いて培養したオルガノイドの成長が良好であり、ボルテゾミブ及びアクラルビシンでの処理後にオルガノイドの成長が顕著に阻害されたことを確認することができる。図5Bは、異なる濃度の3つの試験薬物による肝細胞癌オルガノイドの成長に対する阻害率の棒グラフを示す。図5Bから、薬物処理群のデータ誤差が極めて小さいことが分かり、このシステムを薬物スクリーニングに使用する場合、同じ薬物の複製ウェル間のデータが実質的に一貫していることが示される。3つの抗腫瘍薬のうち、ボルテゾミブは、2つの濃度でオルガノイドの成長に対して強い阻害効果を有していたが、アクラルビシンの阻害効果は、濃度によって大きく異なり、ドキソルビシンは、この肝細胞癌オルガノイド株の成長に対して阻害効果を有しなかった。これにより、同じ患者に由来するオルガノイドの有効性及び感受性が薬物によって異なることが示された。この結果に基づき、肝癌患者に対して臨床で使用される薬物の有効性及び有効用量を決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、肝細胞癌オルガノイド培養のための培養培地及び培養方法を提供し、培養したオルガノイドは、薬物の有効性評価及びスクリーニングに使用することができる。このため、本発明は産業上の利用に適している。
【0082】
本発明を本明細書において詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、当業者であれば本発明の原理に従って変更を加えることができる。したがって、本発明の原理に従って加えられたいかなる変更も、本発明の保護範囲に含まれると理解されるものとする。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】