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特表2024-531651高弾性ナイロンコード及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】高弾性ナイロンコード及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/02 20060101AFI20240822BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20240822BHJP
   D02G 3/48 20060101ALI20240822BHJP
   D02G 3/28 20060101ALI20240822BHJP
   D02G 3/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
D07B1/02
D07B1/16
D02G3/48
D02G3/28
D02G3/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515506
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-03-08
(86)【国際出願番号】 KR2022012552
(87)【国際公開番号】W WO2023043074
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0124773
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】318016191
【氏名又は名称】ヒョスン アドヴァンスト マテリアルズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ジェ シン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジン キュン
(72)【発明者】
【氏名】キム,チョル
【テーマコード(参考)】
3B153
4L036
【Fターム(参考)】
3B153AA08
3B153AA47
3B153BB01
3B153CC22
3B153DD01
3B153DD30
3B153FF16
3B153GG01
4L036MA06
4L036MA24
4L036MA33
4L036MA37
4L036PA21
4L036PA46
4L036UA07
(57)【要約】
本発明は高弾性ナイロンコード及びその製造方法に関し、コードを製造する際に乾燥工程によって生コードの水分率を下げることで、高い弾性率のナイロンコードを製造することを目的とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2%伸長での荷重(LASE 2%)が0.6g/d以上で、4%伸長での荷重(LASE 4%)が1.0g/d以上であり、
177℃で2分間初荷重0.05g/dで測定された収縮率が6%以下であることを特徴とするナイロンコード。
【請求項2】
前記ナイロンコードは2%伸長での荷重(LASE 2%)が0.6乃至1.2g/dで、4%伸長での荷重(LASE 4%)が1.0乃至2.0g/dであることを特徴とする請求項1に記載のナイロンコード。
【請求項3】
前記ナイロンコードはディッピング液に浸漬(dipping)する前の生コード全体を基準に、生コードの水分率が0.5乃至3.5%であることを特徴とする請求項1に記載のナイロンコード。
【請求項4】
ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を縮合重合させて製造したポリアミドポリマーを溶融紡糸及び冷却して未延伸糸を製造するステップと、
前記未延伸糸を3以上のn個ゴデットローラを通過させて多段延伸し巻き取ってナイロン原糸を製造するステップと、
前記ナイロン原糸を100乃至550TPMで上下撚撚糸して生コードを製造するステップと、
前記生コードを乾燥するステップと、
前記乾燥された生コードをディッピング液に浸漬した後、乾燥及び熱処理してディップコードを製造するステップと、を含み、
前記生コードを乾燥するステップは、前記生コードを150℃以上の温度で100秒以上乾燥することを特徴とするナイロンコードの製造方法。
【請求項5】
前記生コードを乾燥するステップは、150乃至240℃で100乃至300秒間乾燥することを特徴とする請求項4に記載のナイロンコードの製造方法。
【請求項6】
前記乾燥された生コードの水分率は0.5乃至3.5%である請求項4に記載のナイロンコードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年09月17日の韓国特許出願第10-2021-0124773号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、高い弾性率を有するナイロンコード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タイヤにあるキャッププライ(Cap ply)はトレード(Tread)を除いた最も外郭側に補強される材料であって、タイヤの円周方向と平行に補強されている。高温では収縮力を発現することでタイヤの大きさを抑制し、回転抵抗の増加を防ぐ役割をしている。このようなキャッププライの材料として最も広く使われている物質はナイロン6,6であるが、これはナイロン6,6の収縮力が高いためであると知られている。
【0004】
ナイロンは素材の特性上、水分の吸収可否によって物性の変化が大きいが、水分率が高ければ製造される繊維の収縮を発生させて弾性力が低下するという問題があった。
【0005】
従来は前記問題点を解決しようとして、ナイロンコードの弾性率を向上させるために原糸の製造工程因子である延伸比を上げて生産するか、コードの製造ステップで高い温度及びストレッチを適用して製造する方法があった。しかし、ナイロンコードを製造する際に延伸比を上げることは糸切率と密接な関係を有し、糸切の発生を増加させることで工程性を低下するという問題が発生していた。また、コードの製造ステップにおける高温(詳しくは、250℃以上)とストレッチの適用は、かえってコードが硬くなることを引き起こして疲労抵抗性が低くなるという限界がある。
【0006】
そこで、弾性率が向上されたナイロンタイヤコードを製造する技術の開発が求められている実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点を解決するために案出されたものであって、水分の吸収に敏感なナイロンを利用し、タイヤコードを製造する際にも高弾性率を確保し得るナイロンコード及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施例によると、本発明は2%伸長での荷重(LASE 2%)が0.6g/d以上で、4%伸長での荷重(LASE 4%)が1.0g/d以上であり、177℃で2分間初荷重(primary load)0.05g/dで測定された収縮率が6%以下であることを特徴とするナイロンコードを提供する。
【0009】
詳しくは、一例として、ナイロンコードは2%伸長での荷重(LASE 2%)が0.6乃至1.2g/dで、4%伸長での荷重(LASE 4%)が1.0乃至2.0g/dであり得る。
【0010】
また、本発明のナイロンコードはディッピング液に浸漬(dipping)する前の生コード全体を基準に、生コードの水分率が0.5乃至3.5%であることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の一実施例によると、本発明は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を縮合重合させて製造したポリアミドポリマーを溶融紡糸及び冷却して未延伸糸を製造するステップと、前記未延伸糸を3以上のn個ゴデットローラを通過させて多段延伸し巻き取ってナイロン原糸を製造するステップと、前記ナイロン原糸を100乃至550TPMで上下撚撚糸して生コードを製造するステップと、前記生コードを乾燥するステップと、前記乾燥された生コードをディッピング液に浸漬した後、乾燥及び熱処理してディップコードを製造するステップと、を含むナイロンコードの製造方法を提供する。
【0012】
具体的な一例として、前記生コードを乾燥するステップは、生コードを150℃以上の温度で100秒以上熱処理して行われることを特徴とし、また、150乃至240℃で100乃至300秒間乾燥工程を行い得る。
【0013】
一方、前記乾燥された生コードの水分率は0.5乃至3.5%であり得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施例によるナイロンコード及びその製造方法は、ナイロン生コードを乾燥する工程を介して生コードの水分率を調節することで、最終製造されるタイヤコードの弾性率を向上させ得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明を実施するための最良の形態]
本発明は2%伸長での荷重(LASE 2%)が0.6g/d以上で、4%伸長での荷重(LASE 4%)が1.0g/d以上であり、177℃で2分間初荷重0.05g/dで測定された収縮率が6%以下であることを特徴とするナイロンコードを提供する。
【0016】
本発明は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を縮合重合させて製造したポリアミドポリマーを溶融紡糸及び冷却して未延伸糸を製造するステップと、前記未延伸糸を3以上のn個ゴデットローラを通過させて多段延伸し巻き取ってナイロン原糸を製造するステップと、前記ナイロン原糸を100乃至550TPMで上下撚撚糸して生コードを製造するステップと、前記生コードを乾燥するステップと、前記乾燥された生コードをディッピング液に浸漬した後、乾燥及び熱処理してディップコードを製造するステップと、を含み、前記生コードを乾燥するステップは、前記生コードを150℃以上の温度で100秒以上乾燥することを特徴とするナイロンコードの製造方法を提供する。
【0017】
[発明を実施するための形態]
本発明は、多様な変更を加えることができ、多様な形態を有することができるゆえ、特定実施例を図面に例示し、本文に詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定な開示形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むと理解すべきである。
【0018】
本出願において、「含む」または「有する」などの用語は明細書の上に記載された特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないと理解すべきである。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上」にあるとする場合、これは他の部分の「直上」にある場合だけでなく、その中間にまた他の部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下」にあるとする場合、これは他の部分の「直下」にある場合だけでなく、その中間にまた他の部分がある場合も含む。また、本出願において、「上に」配置されるとは、上部だけでなく下部に配置される場合も含む。
【0019】
本発明は高弾性ナイロンコードに関し、2%伸長での荷重(LASE 2%)が0.6g/d以上で、4%伸長での荷重(LASE 4%)が1.0g/d以上であり、177℃で2分間初荷重0.05g/dで測定された収縮率が6%以下であることを特徴する。
【0020】
また、本発明の一実施例によるナイロンコードの製造方法は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を縮合重合させて製造したポリアミドポリマーを溶融紡糸及び冷却して未延伸糸を製造するステップと、前記未延伸糸を3以上のn個ゴデットローラを通過させて多段延伸し巻き取ってナイロン原糸を製造するステップと、前記ナイロン原糸を100乃至550TPMで上下撚撚糸して生コードを製造するステップと、前記生コードを乾燥するステップと、前記乾燥された生コードをディッピング液に浸漬した後、乾燥及び熱処理してディップコードを製造するステップと、を含み得る。
【0021】
前記ポリアミドポリマーはポリアミド66(ナイロン66)であることが好ましい。
【0022】
詳しくは、本発明はナイロン生コードを乾燥するステップによって生コードの水分率を低く調節することで、最終製造されるコード(ディップコード)の弾性率を向上させることに特徴がある。
【0023】
まず、本発明に使用されるポリアミドポリマーについて説明する。
【0024】
本発明のコードに製造されるポリアミドは主鎖に強い極性を有するアミド基を含有し、立体規則性及び対称性を有して結晶性を有する。一般に、ポリアミドはアミド結合(-CONH-)で連結される重合体の総称を意味し、ジアミンと2価酸の縮合重合で得られる。ポリアミドは分子構造内のアミド結合によって特徴が異なり、アミド基の割合によって物性が異なるように変わる。例えば、分子内のアミド基の割合が高くなると比重、融点、吸収性、剛性などが上がる特性がある。
【0025】
また、ポリアミドは耐腐食性、耐摩耗性、耐化学性、及び絶縁性に優れる特性のため衣類用、タイヤコード、カーペット、ロープ、コンピュータリボン、落下傘、プラスチック、接着剤など広範囲な分野で応用されている素材である。
【0026】
一般に、ポリアミドは芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドに区分されるが、代表的な脂肪族ポリアミドとしてはナイロン(nylon)がある。ナイロンは本来米国デュポン社の商標名であったが、現在は一般名として使用されている。
【0027】
ナイロンは吸収性高分子であり、温度に敏感に反応する。代表的なナイロンとしてはナイロン6、ナイロン66、及びナイロン46などがある。
【0028】
本発明ではナイロン66(ポリアミド66)を利用することを特徴とする。
【0029】
ナイロン66はヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の脱水縮合重合反応で製造されるものであって、重合物であるナイロン66はポリヘキサメチレンアジパミドとも呼ばれる。
【0030】
【化1】
【0031】
本発明ではナイロン66を利用してタイヤコードを製造するために、まずヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を縮合重合して製造されたポリアミドポリマーを利用する。
【0032】
詳しくは、ポリヘキサメチレンアジパミド重合物は最小限85モル%のヘキサメチレンアジパミド繰り返し単位を含有するが、好ましくはヘキサメチレンアジパミド単位のみで構成される。
【0033】
選択的に、前記ポリヘキサメチレンアジパミドの代わりに任意のポリアミド単独重合体及び共重合体が使用され得る。このようなポリアミドは主に脂肪族であり、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン66);ポリ(e-カプロアミド)(ナイロン6);及びそれらの共重合体など広く使用されているナイロン重合体を使用し得るが、ナイロン66を使用することが最も好ましい。また、有利に使用され得るその他のナイロン重合体としてはナイロン12、ナイロン46、ナイロン610、及びナイロン612などがある。
【0034】
ポリヘキサメチレンアジパミドチップは、熱安定性を向上させるために最終重合体中の銅金属としての残存量が50乃至80ppmになるようにする量で添加し得るが、この量が50ppmより小さければ紡糸の際に熱安定性が落ちて熱分解が起こり、80ppmより多ければ必要以上の銅金属が異物として作用して紡糸の際に問題となる。
【0035】
次に、ポリヘキサメチレンアジパミドチップをパック及びノズルを介して、好ましくは270乃至310℃の紡糸温度で、好ましくは20乃至200の紡糸ドラフト比(最初巻取ローラの上での線速度/ノズルでの線速度)で低温溶融紡糸することで、熱分解による重合体の粘度の低下を防止し得る。紡糸ドラフト比が20より小さければフィラメントの断面均一性が悪くなって延伸作業性が著しく落ち、200を超過すれば紡糸中にフィラメントの破損が発生して正常的な原糸を生産することが難しくなる。
【0036】
また、紡糸ノズルにおいて、圧出器スクリューのL/D(長さ/直径)値を2.0乃至6.0にすることが好ましい。この際、スクリューのL/D値が2.0未満であればモノフィラメントのデニールの断面変動率が上がって線維の強力利用率が落ちるようになり、L/D値が6.0を超過すればパックの圧力上昇によって工程性が低下するという問題が発生するようになる。
【0037】
次に、溶融放出糸を冷却区域を通過させて急冷固化する。冷却区域では冷却空気を吹き入れる方法によってオープン冷却(open quenching)法、円形密閉冷却(circular closed quenching)法、及び紡糸型アウトフロー冷却(radial outflow quenching)法などを適用し得るが、オープン冷却法が好ましい。次に、冷却区域を通過しながら固化した放出糸を短時間で摩擦係数を減らすと共に、延伸性、熱効率に優れた乳剤を適用した乳剤付与装置によって放出糸に対して0.5乃至1.0%でオイリングし得る。前記のような方法によって未延伸糸が製造される。
【0038】
次に、未延伸糸を3以上のn個のゴデットローラを通過させて多段延伸し巻き取ってナイロン原糸が製造される。この際、5つのゴデットローラを通過させることが好ましい。
【0039】
詳しくは、第1ゴデットローラを通過した糸をスピンドロー(spin draw)工法で第2乃至第5ゴデットローラを通過させながら、総延伸比4.0倍以上、好ましくは4.5乃至6.2、より好ましくは4.8乃至6.0で延伸することで最終延伸糸が得られる。延伸比が4.0未満であれば原糸及びコードの強度が低下し、延伸比が6.2を超過すれば延伸作業性及び生産性が低下し、原糸の強力利用率が減少し得るため好ましくない。
【0040】
この際、第1ゴデットローラの温度は常温であり、第2ゴデットローラの温度は常温乃至90℃、第3ゴデットローラの温度は120乃至230℃、第4ゴデットローラの温度は180乃至250℃、第5ゴデットローラの温度は常温乃至150℃にすることが好ましい。
【0041】
また、第1ゴデットローラの延伸速度(紡糸速度)は550m/min以上であるが、好ましくは550~900m/minであり得る。第n-1ゴデットローラ、好ましくは第4ゴデットローラの延伸速度(巻取速度)は3,000m/min以上であるが、好ましくは3000~4000m/minであり得る。この場合、第4ゴデットローラの速度/第1ゴデットローラの速度である総延伸比は4.8~6.4であり得る。
【0042】
一方、前記多段延伸し巻き取るステップにおいて、原糸にリラックス(relax)率を12%以下で付与し得る。この際、前記リラックス率は第n-1のゴデットローラの延伸速度/第nのゴデットローラの延伸速度、好ましくは第4のゴデットローラの延伸速度/第5のゴデットローラの延伸速度であり得る。
【0043】
次に、製造されたナイロン原糸2本をそれぞれ先撚しそれを合撚することでナイロン生コードを製造する。詳しくは、生コードはナイロン原糸2本をそれぞれ100乃至550TPMの撚数の撚りを付与して下撚糸を製造し、前記各下撚糸を合糸し、100乃至550TPMの撚数の撚りを付与して上撚することでナイロン生コードを製造し得る。
【0044】
一般に撚りが高ければ強力は減少し、中伸(中間伸度)及び切伸(切断伸度)は増加する傾向を帯びるようになる。また、耐疲労度は撚りの増加によって向上される傾向を示すようになる。本発明で製造したナイロンコードの撚数は上/下撚同時に100乃至550TPM(twist per meter)で製造した。好ましい撚数の範囲は200乃至500TPMであり、より好ましくは300乃至440TPMにすることがよい。この際、撚数が100/100TPM未満であれば生コードの切伸が減少して耐疲労度が低下しやすく、550/550TPMを超過すれば強力の低下が大きくてタイヤコード用として適切ではない。
【0045】
次に、前記ナイロン生コードをディッピング液に浸漬する前に乾燥するステップを行う。
【0046】
本発明では生コードを乾燥するステップを行うことで最終製造されるナイロンコードの弾性率を向上させ得る。
【0047】
詳しくは、従来はナイロンコードを製造する際、生コードを製造した後で乾燥工程を行わずにディッピング液に浸漬してディップコードを製造していた。しかし、上述したようにナイロンは素材の特性上、水分の吸収による物性変化が大きいという点があるため、水分率が高ければ繊維の収縮が発生し、弾性率が低下するという問題があった。従来は水分率が高いナイロンを利用しながらも弾性率を上げるために原糸製造の際に延伸比を上げていたが、そのため糸切が増加するという問題のため工程性が低下し、品質が低下するという問題があった。また、コードを製造する際に250℃より高い温度で伸長(ストレッチ)する試みもあったが、この場合は弾性率を上げることはできたが、疲労抵抗性が低くなるという問題のためコードとして利用するのに適切ではないという問題があった。
【0048】
本発明の発明者らは従来のナイロンコードの弾性率を上げるための方法の問題点を認知し、踏み込んだ研究によってナイロン生コードを乾燥する工程を追加することで、生コード内の水分率を下げられる場合、弾性率を上げながらも従来と引張物性においても同等な水準を維持し得るということを知り、本発明をするに至った。
【0049】
そこで、本発明はナイロン生コードをディッピング液に浸漬する前に乾燥することに特徴があるが、乾燥は、詳しくは150℃以上の温度条件で100秒以上熱処理を行うことを特徴とする。好ましくは乾燥条件は150乃至240℃、より好ましくは170乃至240℃の温度を設定することがよく、乾燥時間は100乃至300秒、より好ましくは130乃至200秒を維持することがよい。
【0050】
前記乾燥温度が150℃未満であれば生コードの水分率を十分に減少させず弾性率の低下が引き起こされるという問題があり、240℃を超過すれば過度な熱処理のためかえって製造されるコードの物性である強力または切伸などの物性が低下するか変色して商品性が低下するという問題が発生する。
【0051】
また、前記乾燥時間が100秒未満であれば水分率の減少効果が十分ではなく、300を超過すれば強力または切伸などのコード物性が低下するという問題が発生する。
【0052】
前記のようにナイロン生コードを乾燥することで、乾燥された生コード内の水分率を0.5乃至3.5%に設定することが重要である。生コード内の水分率が0.5%以下であれば、水分率を下げることで達成し得る高弾性の効果より、過度な熱量及び熱処理時間のためコードが損傷し最終的に製造されるタイヤコードの物性がかえって低下するという問題が発生する。また、水分率が3.5%を超過すれば十分な水分率の低下が行われていないことで、弾性率向上の効果が発揮されないという問題がある。
【0053】
次に、前記ナイロン生コード(乾燥された生コード)をディッピング液に浸漬した後、乾燥及び熱処理してディップコードを製造する。通常「生コード(Raw Cord)」は製織機(weaving machine)を使用して製織され、そして収得された織物はディッピング液に浸漬及び硬化されて「生コード」の表面に樹脂層が取り付けられたタイヤコード用の「ディップコード(Dip Cord)」として製造される。つまり、生コードの表面に樹脂層が取り付けられたタイヤコード用のディップコードを製造する。ディッピング液に浸漬する工程を一般にディッピング工程というが、ディッピングは線維の表面にRFL(Resorcinol-Formaline-Latex)という樹脂層を含浸させることを意味し、ディッピング工程によってタイヤコード繊維とゴムとの接着性を付与し得る。
【0054】
通常のナイロン繊維は一浴式のディッピングを行うことが普通であるが、2浴式のディッピングを行ってもよい。
【0055】
一般にコードとゴムを接着するためのディッピング液は、レゾシノール、ホルマリン、水酸化ナトリウムなどを含む溶液を反応させ、そこにラテックスを更に添加し熟成させて利用し得る。
【0056】
コードを乾燥させた後、ディッピング液(接着液)が適用される。ディッピング液の取付量を調節するために0乃至3%の伸長(stretch)を必要とするが、好ましくは1乃至2%の伸長が行われ得る。もし伸長比率が高すぎれば、ディッピング液の取付量は調節し得るが切伸が減少し、結果的に耐疲労性が減少される。他方、伸長比率を下げすぎれば、例えば、0%未満に下げる場合は、コードの内部にディッピング液が浸透してコードの物性がかえって低下し得る。
【0057】
ディッピング液の取付量は固形分を基準に繊維の重量に対して4乃至6%が好ましい。ディッピング液を通過した後、ディップコードは120乃至150℃で乾燥される。180秒乃至220秒間乾燥され、乾燥過程でディップコードが1乃至2%程度に伸長された状態で乾燥されることが有利である。伸長比率が低ければコードの中伸及び切伸が増加し、タイヤコードとして適用されにくい物性を示すようになる。他方、伸長比率が3%を超えれば中伸の水準は適切であるが切伸が小さすぎて耐疲労性が低下し得る。
【0058】
乾燥後、130乃至240℃の温度範囲で熱処理される。熱処理の際には伸長比率が-1乃至0%の間を維持し、熱処理時間は50秒乃至90秒が適切である。
【0059】
このように、生コードを乾燥する工程によって生コード全体を基準に生コードの水分率を低く調節することで、特定伸長での荷重(LASE)が増加し、コードの収縮率を下げることで、結果的にナイロンタイヤコードの弾性率が増加し得る。詳しくは、ナイロンタイヤコードは2%伸長での荷重(LASE 2%)は0.6g/d以上で、4%伸長での荷重(LASE 4%)は1.0g/d以上であり、177℃で2分間初荷重0.05g/dで測定された収縮率は6%以下であり得る。本発明のナイロンタイヤコードはまた、2%伸長での荷重(LASE 2%)は0.6乃至1.2g/dで、4%伸長での荷重(LASE 4%)は1.0乃至2.0g/d以上で、収縮率は2乃至6%以下であることが好ましい。
【0060】
また、上述したように製造されたナイロンコードは従来のように原糸の延伸比を上げるか、コードを製造する際に高い温度とストレッチ条件を付与しなくても高弾性率のナイロンタイヤコードを製造することができ、高弾性率の物性を満足しながらも、強力、切伸などの引張物性が低下せずに従来と同等な水準を維持し得るという効果を発揮する。
【0061】
以下、本発明の実施例によって詳細に説明すると次のようである。但し、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明は下記実施例によって限定されない。
【0062】
[実施例1]
ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を縮合重合させて製造した相対粘度(RV)3.4のポリヘキサメチレンアジパミドチップを圧出器を使用して296℃の温度で溶融紡糸した。次に、放出糸を長さ600mmの冷却区域を通過させて固化した後、放射乳剤でオイリングした。次に、未延伸糸を2段延伸し巻き取って420デニールのナイロン原糸を製造した。この際、延伸比は4.8であった。
【0063】
次に、製造されたナイロン原糸2本を420TPMで上下撚して生コードを製造した。
【0064】
製造された生コードは240℃で100秒間熱処理することで乾燥工程を行ったが、この際、生コードの全体を基準に生コードの水分率は0.5%であることを確認した。
【0065】
次に、乾燥工程を経た生コードを製織し、製織された生コードをRFLを含むディッピング液に浸漬する。次に、1%伸長した状態で130℃で180秒間乾燥し、伸長比率0%の状態で150℃で50秒間熱処理を行ってナイロンコード(ディップコード)を製造した。
【0066】
[実施例2乃至3]
生コードの乾燥条件と水分率を下記表1に記載したように調節したことを除いては、実施例1と同じ過程によってナイロンコードをそれぞれ製造した。
【0067】
[比較例1]
生コードを乾燥する工程を行っていないことを除いては、実施例1と同じ過程によってナイロンコードを製造した。
【0068】
[比較例2及び3]
生コードの乾燥条件と水分率を下記表1に記載したように調節したことを除いては、実施例1と同じ過程によってナイロンコードをそれぞれ製造した。
【0069】
[実験例]
実施例1乃至3、及び比較例1乃至3でそれぞれ製造された生コードの水分率とディップコードの物性を下記のような方法を利用して評価し、その結果を下記表1に示した。
【0070】
1)生コードの水分率(生コード全体を基準にする)
生コードの水分率の測定は自動温度装置が取り付けられている熱風循環式オーブンを使用する。オーブンの温度で125±3℃、30±0.5分間乾燥した後、デシケータに入れて15分間冷却してから重量を測定する。水分率の計算は以下のような式で求める。
【0071】
水分率(%)=(乾燥前の重量-乾燥後の重量)/乾燥後の重量×100
2)ディップコードの強力、切伸
試料を標準状態の条件、つまり、温度25℃と相対湿度65%RHの恒温恒湿室で24時間放置した後、ASTM D-885の方法で試料を引張試験機によって測定した。
【0072】
3)ディップコードのLASE(Load At Specified Elongation)
JIS L1017の測定法で得られた伸長荷重曲線から特定伸度(2%、4%)での荷重を取った。測定する前の試料は20℃、65%RHの雰囲気で24時間放置してから測定した。
【0073】
詳しくは、LASE(g/d、2%)は2%伸長での加重値をデニールで割って算出され、LASE(g/d、4%)は4%伸長での加重値をデニールで割って算出される。
【0074】
4)ディップコードの収縮率
試料を177℃、初荷重0.05g/dのプレテンション下で2分間露出してから測定する。測定機構はTestrite熱収縮試験機を利用する。詳しくは、ディップコードの収縮率はTestriteで自動的に測定されるものであって、177℃にヒーティング(heating)されたチェンバ内に初荷重0.05g/dが付与されたコード試料を入れてから2分後に自動的に収縮率が表示ウィンドウを介して示されるため、測定が可能である。
【0075】
【表1】
【0076】
表1を参照すると、実施例によって製造したナイロンコードは、生コードを製造した後、最適の乾燥温度及び乾燥維持時間によって乾燥工程を行うことで生コードの水分率を最適範囲に設定している。その結果、乾燥工程を行っていない比較例1に対し、ディップコードの強力と切伸は同等な水準を維持しながらも、LASE値は更に高く、収縮率は更に低いことが分かる。
【0077】
一方、生コードに乾燥工程を行ったが、乾燥温度を本発明の範囲より更に低く設定した比較例2の場合、生コード内の水分率が上がって最終的にディップコードのLASE値が更に高くなり、乾燥工程を行う比較例1の水準の物性と同等な水準の物性を示して収縮率が下がるという問題があった。一方、乾燥温度を過度に高く設定した比較例3の場合、ナイロンコードの融点より高い温度で乾燥が行われることでかえって繊維に炭化などが発生し、最終的にコードの物性が低下するという問題が発生することが分かる。
【0078】
まとめると、実施例で製造されたナイロンコードは、生コードの水分率を調節することで従来のように延伸比やコードを製造する際に熱処理温度を上げるなどの工程を変更せずも、コードの引張物性が優秀でありながらも、同時に目的とする弾性率が優秀であることが分かる。
【0079】
これまでの説明は本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎず、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲内で多様な修正及び変形が可能なはずである。本発明の保護範囲は下記特許請求の範囲によって解析されるべきであり、それと同等な範囲内にある全ての技術思想は本発明の権利範囲に含まれると解析すべきである。
【0080】
[産業利用の可能性]
本発明はナイロン生コードを乾燥する工程を介して生コードの水分率を調節することで、最終製造されるタイヤコードの弾性率を向上させることができる最適の発明である。
【国際調査報告】