(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】内燃機関の運転方法、内燃機関及び制御装置
(51)【国際特許分類】
F02B 23/10 20060101AFI20240822BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240822BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
F02B23/10 310A
F02B23/10 S
F02M21/02 G
F02D19/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024515507
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 EP2022075199
(87)【国際公開番号】W WO2023036967
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】102021123461.1
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520078075
【氏名又は名称】ケヨウ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】KEYOU GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エバート トーマス
(72)【発明者】
【氏名】タラ ヒレン
(72)【発明者】
【氏名】マニエツキ ギディオン
【テーマコード(参考)】
3G023
3G092
【Fターム(参考)】
3G023AA07
3G023AB03
3G023AC05
3G023AC07
3G023AD06
3G023AD09
3G023AD12
3G023AD14
3G092AA01
3G092AA06
3G092AA10
3G092AB09
3G092BB19
3G092DE03S
3G092FA24
3G092HB02X
(57)【要約】
水素燃料が空気と共に燃焼される燃焼室(2)を有する少なくとも1つのシリンダ(3)を備える内燃機関(1)の運転方法が提供されており、ここで、燃焼室(2)において、少なくとも水素の流れは、少なくとも部分的に、少なくとも1つのシリンダ(3)の縦軸(8)に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした回転運動する。低エミッション及び効率的な燃焼を可能とする、可能な限り均質な水素/空気混合気を提供するために、少なくとも1つのシリンダ(3)の縦軸(8)に対して垂直な軸を中心とした流れの回転運動が水素の供給により引き起こされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素燃料が空気と共に燃焼される燃焼室(2)を有する少なくとも1つのシリンダ(3)を備える内燃機関(1)の運転方法であって、
前記燃焼室(2)において、少なくとも前記水素の流れは、少なくとも部分的に、前記少なくとも1つのシリンダ(3)の縦軸(8)に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした回転運動をしており、
前記少なくとも1つのシリンダ(3)の前記縦軸(8)に対して垂直な前記軸を中心とした前記流れの前記回転運動は、前記水素の供給により引き起こされることを特徴とする、運転方法。
【請求項2】
前記水素は、前記少なくとも1つのシリンダ(3)の前記燃焼室(2)に直接供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記空気の流れは、前記燃焼室(2)において少なくとも部分的に、及び、少なくとも一時的に前記縦軸(8)を中心とした回転運動を行い、好ましくは、前記縦軸(8)を中心とした前記回転運動は、前記燃焼室への前記空気の前記供給により引き起こされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記供給された水素の前記流れ、好ましくは、前記水素を供給するための供給装置(9)から出る少なくとも1つの噴流は、少なくとも部分的に、少なくとも1つの表面部分(10b,3a)、さらに好ましくは燃焼室境界、さらに好ましくは前記少なくとも1つのシリンダ(3)のシリンダ内壁(3a)、及び/又は、前記燃焼室(2)の境界を形成するピストン(10)の表面(10b)に衝突し、
特に、好ましくは、少なくとも前記水素の流れは、少なくとも部分的に偏向され、さらに好ましくは複数の方向に偏向される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記供給装置(9)から出る前記噴流は、一定の距離で前記表面部分(3a,10b)に衝突し、前記距離は、前記燃焼室の境界を形成する前記ピストン(10)の行程長(l)の0.9倍以上、及び、1.2倍以下、さらにより好ましくは、前記行程長(l)の1倍以上、及び、1.1倍以下、特に好ましくは、前記行程長(l)の1.06倍以上、及び、1.08倍以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記供給された水素の少なくとも前記流れは、少なくとも部分的に、少なくとも1つの表面部分(3a,10b)に沿って案内され、好ましくは、前記流れは、複数の表面部分(3a,10b)に沿って、特にシリンダ内壁(3a)及び前記燃焼室に面した前記ピストンの表面(10b)を介して案内され、並びに/又は、複数の方向に沿って案内され、
並びに/又は、前記燃焼室の境界を形成するピストン(10)の表面(10a)は凹部(10b)を有し、及び、好ましくは、前記供給された水素の流れは少なくとも部分的に前記凹部(10b)に衝突する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水素の流れは、少なくとも、前記燃焼室(2)が閉じられて、燃焼されるべき前記空気/水素混合気のために意図された量の空気が前記燃焼室(2)内に完全に存在する時点から、好ましくは、少なくともその時点において、少なくとも1つの表面部分(10b,3a)に衝突し、
及び/又は、前記水素は、この時点から、好ましくは少なくともこの時点において、前記燃焼室(2)に供給される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記内燃機関(1)は火花点火式であり、及び、好ましくは、前記少なくとも1つのシリンダの前記縦軸(8)に対して垂直な前記少なくとも1つの軸を中心とした前記流れの前記回転運動が、少なくとも点火開始時点において、及び、好ましくは点火装置(7)において存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記供給された水素の噴流(11)は、最大で25°、好ましくは最大で20°の開き角を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水素の流れは、前記燃焼室(2)の境界を形成するピストン(11)の上死点の前において、圧縮行程において、少なくとも部分的に、及び、少なくとも一時的に、好ましくは180°~80°、さらに好ましくは180°~90°のクランク角度で、少なくとも1つの表面部分(10b,3a)に衝突し、
並びに/又は、前記水素は、少なくとも一時的にこの期間の間に供給される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記内燃機関(1)は、前記燃焼室(2)に対して可動である少なくとも1つの可動部分を備える前記水素を供給するための供給装置(9)を備え、
前記可動部分は、好ましくは、前記燃焼室の境界を形成するピストンの移動方向と平行に、前記ピストン(10)から離れる方向へ少なくとも1つの要素と共に移動可能であり、
さらに好ましくは、少なくとも前記可動部分はこの方向に沿って予荷重されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に従って運転可能である内燃機関(1)。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を内燃機関(1)において実施可能である制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の運転方法、内燃機関及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気と共に環境にやさしく燃焼するために、水素は、ほぼエミッションフリー燃焼エンジン用の好適な燃料である。
【0003】
同時に、水素燃料は問題をも有している。簡単に着火するため、燃焼プロセス、それ故、水素エンジンを搭載した車両の走行挙動に悪影響を及ぼす失火の恐れがある。
【0004】
国際公開第2020/249277 A1号パンフレットには水素駆動式内燃機関に係る方法が開示されており、ここでは、供給された空気の回転流、例えばタンブル流が燃焼室内において形成される。国際公開第2020/249277 A1号パンフレットは、良好な燃焼を確保するために、自己点火特性を改善することを目的としている。しかしながら、国際公開第2020/249277 A1号パンフレットに開示されている方法に係る燃焼挙動を改善する必要性も存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、低エミッション及び効率的な燃焼を可能とする、可能な限り均質な水素/空気混合気を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この問題は、本発明によれば、請求項1に記載の内燃機関の運転方法により解決される。
【0007】
本発明の一態様によれば、燃料としての水素が水素が空気と共に燃焼される燃焼室を有する少なくとも1つのシリンダを備える内燃機関の運転するための方法が提供されており、ここで、燃焼室において、少なくとも前記水素の流れは、少なくとも部分的に、少なくとも1つのシリンダの縦軸に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした回転運動をしている。さらに、少なくとも1つのシリンダの縦軸に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした流れの回転運動は、水素の供給により引き起こされる。
【0008】
この態様によれば、水素は、従って、タンブル流とも称される、少なくとも1つのシリンダの縦軸に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした回転運動を伴う流れが、少なくとも部分的に燃焼室に形成されるように、燃焼室に供給される。これにより、燃焼室に供給された空気との向上した混合が可能となり、その結果、縦軸に対して垂直な軸を中心とした回転運動によって水素を燃焼室の中心向けて確実に運ぶことが可能であるため、より均質な水素/空気混合気が得られる。従来技術においては、比較的重い空気は軽い水素を囲ってしまい、空気との燃焼及び混合は制御がより困難となるが、その一方で、本発明によれば、燃焼室内において、水素を空気に分散させることが可能である。
【0009】
この文脈において、特に、少なくとも供給された水素は、それ自体、少なくとも部分的に、少なくとも1つのシリンダの縦軸に対して垂直な軸を少なくとも中心とした前記回転運動をすることが可能である。
【0010】
この回転により、水素は、空気とのより良好な混合が可能となる。
【0011】
さらなる態様によれば、本方法において、水素は、少なくとも1つのシリンダの燃焼室に直接供給可能である。
【0012】
従って、空気流は、混合気の形成に好ましいタンブル流を形成する必要がない。さらに、燃焼室外での失火を防止することが可能である。
【0013】
好ましくは、空気流は燃焼室において少なくとも部分的に、及び、少なくとも一時的に縦軸を中心とした回転運動を行い;特に好ましくは、縦軸を中心とした回転運動は、好ましくは燃焼室への空気の供給により引き起こされる。
【0014】
本発明では、例えば吸気口の幾何学的形状の設計により、燃焼室への空気の供給が燃焼室において縦軸を中心とした回転運動(スワール流とも称される)を引き起こす内燃機関においても、少なくとも水素のタンブル流を生成することが可能である。さらに、スワール流のために、縦軸の近傍における燃焼室の中心には負圧が存在し、これによりタンブル流の形成が促進される。このスワール流は、燃焼室の境界を形成するピストンの圧縮行程において低減されることが好ましい。
【0015】
さらに他の態様によれば、供給された水素の流れ、好ましくは、水素を供給するための供給装置から出る少なくとも1つの噴流は、少なくとも部分的に、少なくとも1つの表面部分、さらに好ましくは燃焼室境界、さらに好ましくは少なくとも1つのシリンダのシリンダ内壁、及び/又は、燃焼室の境界を形成するピストンの表面に衝突可能とされている。特に好ましくは、少なくとも水素の流れは、少なくとも部分的に偏向可能であり、さらに好ましくは複数の方向に偏向可能である。
【0016】
それ故、表面部分は、供給装置の出口噴流が衝突可能である阻流板とされることが可能である。この場合特に、回転運動の発達を促すことが可能である流れの偏向が生じることが可能である。外側の燃焼室境界が表面部分として用いられる場合には、さらなる部品を設ける必要がない。さらに、よって、水素の流れは燃焼室の外側部分に少なくとも部分的にもたらされ、次いで、回転運動によって燃焼室の内側に到達可能であり、これにより、空気との混合が改善可能である。流れが表面部分に衝突する位置は、好ましくは、供給装置の排気口に対してピストン近傍側であって、それ故、シリンダが重力方向に沿って配置された場合、水素を供給する供給装置の排気口の重力方向下方である。その結果、ピストンは、中心軸に対して垂直な軸を中心とした回転運動の生成に確実に使用可能である。
【0017】
また、流れ、特に出口噴流は、少なくとも1つの表面部分に対して、縦軸に対して、0°以上~50°以下、さらに好ましくは10°以上~40°以下の角度で衝突することが好ましい。これにより、流れは、複数の方向に確実に偏向可能である。特に、供給装置の排気口の軸は、前記角度範囲内で縦軸と交差可能である。
【0018】
好ましくは、表面部分は、水素の供給装置の排気口から一定の距離内に位置されており、ここで、この距離は、燃焼室の境界を形成するピストンの行程長の0.9倍以上、及び、1.2倍以下、さらに好ましくは、行程長の1倍以上、及び、1.1倍以下、特に好ましくは、行程長の1.06倍以上、及び、1.08倍以下である。
【0019】
特に、供給装置から出る噴流は、この距離で表面部分に衝突する。
【0020】
この距離が過度に大きい寸法である場合、供給された水素の流れは、流れに逆らう燃焼室中の圧力のために勢いが減少して表面部分に到達し得る。この距離はピストン行程に応じる。上記に特定した関係により、供給された水素が表面部分に確実に到達し、その一方で同時に、混合のために充分な経路を確保することが可能である。
【0021】
特に、行程長がシリンダ内径の直径よりも大きい長行程タイプの内燃機関であることが可能である。
【0022】
さらに他の態様によれば、少なくとも供給された水素の流れは、少なくとも部分的に、少なくとも1つの表面部分に沿って案内可能である。ここでも、表面部分は、燃焼室の境界の一部であることが好ましい。その結果、壁ガイドによるタンブルの誘起をより確実に制御可能である。特に、水素流が少なくとも1つの表面部分に衝突した後に壁ガイドを行うことが可能である。好ましくは、流れは、複数の表面部分に沿って、特に、シリンダの内壁及び燃焼室に面したピストンの表面を介して、並びに/又は、複数の方向に沿って案内される。このように、混合は燃焼室全体を通じて促進可能である。
【0023】
さらに他の態様によれば、燃焼室の境界を形成するピストンの表面は凹部を有していることが可能であり、及び、好ましくは、供給された水素の流れは、少なくとも部分的に凹部に衝突する。
【0024】
この場合、凹部は、供給された水素の流れのタンブルを形成するために用いることが可能である。特に、水素流は、少なくとも部分的に、凹部に衝突し、次いで、凹部に沿って案内されることが可能である。
【0025】
さらに他の態様によれば、少なくとも1つの表面部分、好ましくは凹部は、曲面部分を備える。流れが曲面部分に沿って案内されると、流れの回転運動を確実に開始させることが可能である。
【0026】
さらに他の態様によれば、水素の流れは、少なくとも部分的に、燃焼室が閉じられて、燃焼されるべき空気/水素混合気のために意図された量の空気が燃焼室内に完全に存在する時点から、好ましくは少なくともこの時点において、少なくとも1つの表面部分に衝突可能である。
【0027】
或いは、又は、追加で、水素は、この時点から、好ましくは少なくともこの時点において、燃焼室に供給可能である。
【0028】
このように、流入する空気によるタンブル流の乱れを低減、好ましくは完全に防止することが可能である。加えて、水素は燃焼室中に過度に長く残留する必要がなく、これにより、失火のリスクが低減される。空気を供給するための吸気管における再点火もまた防止可能である。また、充分に長い混合時間を確保することが可能である。
【0029】
さらに他の態様によれば、内燃機関は火花点火式であることが可能である。特に、例えば点火プラグを有する火花点火式内燃機関において、良好な混合気均質化が好ましい。
【0030】
好ましくは、少なくとも1つのシリンダの縦軸に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした流れの回転運動が、少なくとも点火の開始時点に存在し、及び、さらに好ましくは、点火装置に存在する。さらに好ましくは、圧縮の最中に、少なくとも1つのシリンダの縦軸に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした回転運動が、実質的に燃焼室全体にわたって存在する。それ故、本発明に係る方法は均質な運転に特に好適である。
【0031】
回転運動は良好な混合気均質化を点火時点に達成可能であり、ここで、適切に混合された混合気は、特に、低エミッション及び効率的な燃焼を保証するために、点火装置に存在しているべきである。さらに、回転運動を燃焼室における火炎面の前進に用いることが可能である。
【0032】
さらに他の態様によれば、供給された水素の噴流は、最大で25°、好ましくは最大で20°の開き角を有することが可能である。
【0033】
これにより、収束させて勢いを少なくとも1つの表面部分に指向させることが可能であり、流れの偏向及びその後の混合が改善される。
【0034】
さらに他の態様によれば、水素の流れは、燃焼室の境界を形成するピストンの上死点の前において、圧縮行程において、少なくとも部分的に、及び、少なくとも一時的に、好ましくは180°~80°、さらに好ましくは180°~90°、さらに好ましくは170°~120°のクランク角度で少なくとも1つの表面部分に衝突することが可能である。
【0035】
或いは、又は、追加で、水素は、少なくとも一時的に、この期間の間に供給することが可能である。
【0036】
好ましくは、水素は、特定した期間全体にわたって少なくとも1つの表面部分に衝突し、及び/又は、この期間全体にわたって供給される。
【0037】
これにより、混合気中の空気が既に燃焼室中に完全に入っていることを保証することも可能であり、これにより、空気の流入により引き起こされる影響が低減される。さらに、良好な混合を達成するために、水素に、燃焼室を流通するための充分な時間を与えることが可能である。同様に、水素は、燃焼室中に過度に長く残留する必要がない。好ましくは、少なくとも1つの表面部分、例えばピストン表面部分は、前述のクランク角度範囲の時点において、上記に特定した距離の範囲内である。これにより、水素流が確実に表面部分に衝突することが保証される。
【0038】
さらに他の態様によれば、内燃機関は、燃焼室に対して可動である少なくとも1つの可動部分を有する、水素を供給するための供給装置を有していることが可能である。
【0039】
それ故、例えば、噴流を異なる表面部分に指向させることが可能であり、これにより混合が促進される。異なる出力範囲における異なる圧力条件に反応し、例えば、シリンダ内圧がより低い場合に噴流をより離れた表面部分に指向させることも可能である。
【0040】
好ましくは、可動部分は、燃焼室の境界を形成するピストンの移動方向と平行に、ピストンから離れる方向へ少なくとも1つの要素と共に移動可能であり、さらに好ましくは、少なくとも可動部分はこの方向に沿って予荷重されている。
【0041】
この構成では、少なくとも可動部分を水素流が衝突する表面部分の近くに配置することが可能であり、従って、水素流は確実に表面部分に到達する。供給プロセスが開始した後、可動部分はピストンから離れるよう移動してそのための空間を確保することが可能である。特に、可動部分は、少なくとも供給プロセスの開始時に、少なくとも部分的にピストンの上死点より下方に配置可能である。
【0042】
さらに他の態様によれば、内燃機関は従来のディーゼル内燃機関である。圧縮比は、好ましくは、9:1~13:1である。さらに、内燃機関の最大の最終圧縮圧は、好ましくは、60~120bar、より好ましくは80~100barである。
【0043】
上記のとおり、上記の方法によれば、シリンダ縦軸周りの空気流のスワール運動が通常生じると共に自己点火するようされている従来のディーゼルエンジンにおいて、良好な混合のためのタンブル流を、水素で運転する際に達成することが可能である。
【0044】
それ故、本発明はまた、空気の流れが燃焼室におけるシリンダ縦軸を中心とした回転運動をするよう構成された、上記の方法を実施するためのディーゼル内燃機関の使用に関する。この場合、ディーゼル内燃機関は、特に、点火装置を取り付けることにより改造される。
【0045】
供給装置はまた、水素が供給される時点で、シリンダ内圧の少なくとも2倍の供給圧で、燃焼室に水素を供給することが可能であるよう構成されることが好ましい。特に、水素は、燃焼室に、50barの最大圧力、好ましくは最大で30barで供給可能である。これは、供給装置に対する要求を低減可能であることを意味する。
【0046】
本発明のさらなる態様は、既述の請求項のいずれか1つに係る方法に従って運転可能に構成されている内燃機関を提供する。特に、内燃機関は、上記に定義されている構造的特徴の少なくとも1つを備えていればよい。
【0047】
このように、内燃機関は、上記の方法を実施可能に提供されていることが可能である。
【0048】
本発明によれば、水素を貯蔵するためのタンクなどの貯蔵装置と、前記内燃機関とを備える、好ましくは車両であるシステムがさらに提供されており、ここで、貯蔵装置は、水素の供給のために内燃機関に結合されている。
【0049】
さらに他の態様によれば、上記の方法を内燃機関において実施するよう構成されている制御装置が提供されている。特に、制御装置は、上記の方法を実施するために内燃機関の構成要素を制御可能である。
【0050】
内燃機関に連係されたコンピュータにより実行される場合に、上記の方法を実行するプログラムがさらに提供されている。
【0051】
既述のプログラムが記録されるコンピュータ読取可能な記録媒体もまた提供されている。
【0052】
本発明の態様を、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】
図1は、水素が燃焼室に供給される時点での内燃機関の断面を示す。
【
図2】
図2はまた内燃機関の断面を示し、複数の噴流が、表面部分に衝突する噴流の例として示されている。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は内燃機関1(モータ)を示し、
図1においては、シリンダ3の燃焼室2の軸に沿った縦断面図で示されている。燃焼室2に追加して、内燃機関1は空気を燃焼室2に供給するための吸気管4と燃焼した水素/空気混合気を排気するための排気管5とを有し、これらは各々、それぞれバルブを介して開閉される吸気口及び排気口6a及び6bを介して、流体連通可能に燃焼室に接続されている。燃焼室2においては水素のみが燃料として燃焼されることが好ましい。
【0055】
上端では、燃焼室2は、水素/空気混合気を点火するための点火プラグ7が配置されたシリンダヘッドにより閉鎖されている。点火プラグは点火装置の一例である。点火プラグは、基本的にシリンダ3の中心軸8上の位置であって、特に同軸状に配置されている。
【0056】
さらに、内燃機関1は、燃焼室2に水素を直接供給する供給装置9を有する。供給装置9はインジェクションノズルであることが可能であり、例えば、好ましくは、シリンダヘッドに取り付けられている。排気口を有する供給装置9の一部が、燃焼室2中に突出している。
【0057】
中心軸8又は点火装置7に対して吸気口6aの反対側には、排気口6bと、中心軸8から排気口6bよりもさらに外側に配置された供給装置9とがある。この場合のように、供給装置は、燃焼室2の外側に位置していることが好ましい。
【0058】
下端では、燃焼室2は、クランクシャフト(図示せず)に回転自在に連結するピストン10により閉止されている。ピストン10は、シリンダ3内を、シリンダ中の上死点TDCと下死点BDCとの間で、中心軸8に沿って上下に往復動する。TDCとBDCとの間の距離をlとする。ピストン10は、上方平坦面である燃焼室2に面した表面10aに、凹部10bを有する。
【0059】
燃焼室2は、シリンダ内壁3aにより横方向の境界が形成されている。
【0060】
シリンダ3又は燃焼室2は内径dを有する。
【0061】
図1は、吸気口6a及び排気口6bの両方がそれぞれのバルブで閉じられている状態の内燃機関を示す。加えて、ピストン10は、圧縮行程において上死点TDCに向けて上方に移動している。燃焼室は従って閉じられており、燃焼のための空気の量は既に燃焼室2中にある。
【0062】
さらに、
図1は水素供給装置9から燃焼室に出る出口噴流11を示す。この場合、噴流11は、中心軸8に対応する位置でピストン10の凹部10bに先ず衝突するよう位置合わせされている。
【0063】
図1に示されているとおり、噴流11はわずかに拡散しており、好ましくは、最大で25°の開き角で凹部10bに衝突する。噴流の1つ軸は、中心軸8に対して、好ましくは0°~50°の角度で凹部の表面に衝突する。
【0064】
図1にさらに示されているとおり、凹部10bは、最初は収束噴流11として存在する水素の流れを偏向させる阻流板として作用する。水素は従って、水素流が偏向されるように供給される。
【0065】
この場合、
図1のとおり、噴流は、好ましくは複数の方向に偏向される。
図1において、水素の流れの方向は矢印により示されている。単一の収束噴流11から開始して、水素は異なる方向に分割される。複数の方向は、
図1の縦軸8に沿った縦断面から分かるとおり、反対の方向を含むことが好ましい。
【0066】
噴流11が凹部10bに衝突する位置よりも下流では、水素流は、凹部10bによりその一表面に沿って案内さることが好ましい。
【0067】
図1に示されているとおり、水素は、好ましくは、例えば、ピストン表面10aの周辺部分10cであって、この場合、凹部10bの周辺部分までシリンダ内壁3aに向かって案内される。ピストン表面10a、特に周辺部分10cは、上方向、すなわち、シリンダヘッドの方向への移動成分(速度成分)を伴って、
図1においてシリンダ内壁3aに向かって、流れを案内して偏向し続ける偏向部分を有する。
【0068】
好ましくは、流れは従って、ピストン10から離れる方向に、少なくとも部分的に、例えばシリンダ内壁3a及び偏向部分により案内されて、点火装置7に向かって移動する。その際、この流れは、上死点を超えてシリンダヘッドに向かって、ピストン10から離れる方向に案内されることが好ましい。
【0069】
偏向部分は好ましくは丸みを帯びていることが可能である。
図1に示されているとおり、これにより流れに回転運動が与えられ、これが、角運動量の保存により持続する。
【0070】
回転運動は
図1において図面の紙面に向かう少なくとも1つの軸を中心とするものであり、それ故、中心軸8に対して垂直方向となっている。しかしながら、回転運動は単に偏向部分によって引き起こされるものではない。むしろ、噴流11が凹部10bに衝突する点で、流れを回転させる滞留域が形成される。これは、ピストン表面10aとシリンダ内壁3aとの間などの同一面上にないか又は不連続な表面部分間のいずれかの遷移部で生じる可能性がある。
【0071】
回転運動は、特に表面部分とは直接接していない水素流の部分、それ故、境界層から離れた領域、特に燃焼室の内側に近い部分において引き起こされる。
【0072】
さらに、特に点火プラグ7の近傍領域、又は、中心軸8の周辺領域、それ故、燃焼室2の中心では、負圧が存在する可能性があり、これが、
図1にも示されているとおり、中心軸8の方向へと内部へ向かう流れに回転運動が与えられる。
【0073】
図1に示されているとおり、水素流は内部の空気を取り込むことが可能であり、好ましくは、燃焼室2の周方向に沿って流れる。シリンダヘッドに近い燃焼室の少なくとも一部では、水素流は燃焼室の内部に向かって流れる。
【0074】
本発明の好ましい効果をここに記載する。
【0075】
図1に示されているとおり、供給装置9から出た供給された水素の噴流11は燃焼室の境界を形成する表面部分、すなわち、凹部10bに衝突する。さらに、流れの一部は、凹部10bにより案内された後に、シリンダ内壁3aにも衝突する。
【0076】
このように、表面部分は阻流板として作用する。この場合、特に、上記のとおり回転運動の発達を促す流れの偏向が生じることが可能である。水素の流れは複数の方向に偏向される。燃焼室において、供給物の流れは従って、少なくとも部分的に、少なくとも1つのシリンダ3の縦軸8に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした回転運動とされる。さらに、少なくとも1つのシリンダ3の縦軸8に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした流れの回転運動が、水素の供給によって引き起こされる。
【0077】
この場合のように、燃焼室境界が表面部分として用いられる場合、さらなる部品を設ける必要がない。さらに、よって、水素の流れが燃焼室2の外側部分に少なくとも部分的にもたらされ、次いで、回転運動によって燃焼室2の内部に運ばれ、これにより、空気との混合が改善可能である。
【0078】
噴流11が凹部10bに衝突する位置は、供給装置9の排気口に対してピストン近傍側であって、それ故、シリンダ3が重力方向に沿って配置された場合、供給装置9の排気口の重力方向下方である。その結果、ピストンは、中心軸8に対して垂直な軸を中心とした回転運動の生成に確実に使用可能である。
【0079】
さらに、燃焼室2が閉じられた時点から、それ故、例えば、バルブ閉止要素をシリンダヘッドに適用することにより吸気口6aが閉止され、及び、燃焼されるべき空気/水素混合気のために意図された量の空気が燃焼室2内に完全に存在する時点から、水素は燃焼室2に供給される。これは、流入する空気により引き起こされるタンブル流に対するいずれかの乱れを低減可能であり、好ましくは、完全に防止可能であることを意味する。加えて、水素は、燃焼室中に過度に長く残留する必要がなく、これにより、失火のリスクが低減される。しかしながら、この時点から、水素の流れが少なくとも1つの表面部分に衝突することも考えられる。
【0080】
水素は少なくとも1つのシリンダ3の燃焼室2に直接供給される。従って、混合気の形成の観点から好ましいタンブル流を空気流が形成する必要はない。さらに、燃焼室外における失火を防止することが可能である。
【0081】
さらに、空気の流れは、燃焼室において少なくとも部分的に、及び、少なくとも一時的に縦軸を中心とした回転運動を行い;特に、縦軸を中心とした回転運動は、燃焼室への空気の供給により引き起こされることが好ましい。
【0082】
本発明により、例えば吸気口の幾何学的形状の設計により、燃焼室への空気の供給が燃焼室において縦軸を中心とした回転運動を引き起こす内燃機関においても、少なくとも水素のタンブル流を形成することが可能である。空気流のスワール運動は、水素が燃焼室に供給される時点、又は、水素の流れが少なくとも1つの表面部分に衝突する時点では存在していることが可能である。しかしながら、スワール運動はまた、水素が供給される前においてのみ存在していることが可能である。
【0083】
供給された水素は、それ自体、少なくとも部分的に、少なくとも1つのシリンダ3の縦軸8に対して垂直な軸を中心とした前記回転運動を行う。
【0084】
この回転により、水素を空気と確実に混合することが可能となる。特に、上記のとおり、水素は、中心軸8に向かって内向きに、及び、シリンダヘッドに近い燃焼室2の部分においてはピストン10に向かって下向きにも流れることが可能である。
【0085】
角度aは0°~50°である。これは、流れを複数の方向に確実に偏向可能であることを意味する。供給装置9の排気口の軸に相当することが好ましい噴流11の軸は、中心軸8に対して前記角度範囲内で凹部10bに衝突する。さらに、供給装置がシリンダヘッドに近い燃焼室の部分に、又は、シリンダヘッド自体にこの角度範囲内で設けられている場合、ピストンを用いて、中心軸8に対して垂直な軸を中心とした回転運動を確実に生成することが可能である。
【0086】
図1に示されているとおり、少なくとも水素流の一部が、その各々が燃焼室境界の表面部分を表すピストン表面10a及びシリンダ内壁3aに沿って案内される。これにより、壁ガイドによるタンブルの誘起をより確実に制御することが可能となる。特に、壁ガイドは、少なくとも1つの表面部分に対する水素流の衝突の後に提供されることが可能である。好ましくは、流れは、
図1に示されているとおり、複数の表面部分に沿って案内される。さらに、流れは、
図1の縦断面に示されているとおり、互いに反対方向に沿って、複数の方向に案内されることが好ましい。特に、流れは、時計方向及び反時計方向の両方に案内される。流れはまた、少なくとも部分的に、シリンダ内壁3aに沿ってピストン10に向かって移動し、及び、特に、この方向に沿って案内される。このように、ピストン10を用いて、タンブル流を確実に形成することが可能である。
【0087】
さらに、凹部10bを設け、供給した水素の噴流11を、少なくとも部分的に凹部10bに衝突させる。凹部10bを用いて供給された水素の流れのタンブルを形成することが可能である。
【0088】
ピストン表面10a、特に、凹部10bの周辺部分10cでもあるその周辺部分は、曲面部分を備える。流れが曲面部分に沿って案内されると、流れの回転運動を確実に生起させることが可能である。
【0089】
内燃機関は、水素/空気混合気に点火するよう構成された点火装置7を備える。これは、内燃機関が火花点火するよう構成されていることを意味している。良好な混合気均質化が、特に、例えば点火プラグを有する火花点火式内燃機関において好ましい。
【0090】
好ましくは、タンブル流は、少なくとも1つのシリンダの縦軸8に対して垂直な少なくとも1つの軸周りに、少なくとも点火開始時点に存在し、さらに好ましくは、点火装置7に存在する。特に、タンブル流は、中心軸8の周囲で直径dの0.25倍(半径の半分)の距離内に、すなわち、燃焼室2の中心に存在する。
【0091】
回転運動により、良好な混合気均質化を点火時点に達成可能であり、ここで、特に、適切に混合された混合気は、低エミッション及び効率的な燃焼を保証するために、点火装置7に存在する。さらに、回転運動を燃焼室における火炎面の前進に用いることが可能である。
【0092】
図1に示されているとおり、噴流11は、好ましくは最大で25°、さらに好ましくは最大で20°といった比較的小さい開き角を有し、供給装置9の端部における流路も同様である。排気口を備える供給装置9の端部における流路は、好ましくは、円筒形の幾何学的形状を有する。供給装置の端部の流路の直径は、特に排気口において、好ましくは、最大で6mm、さらに好ましくは、最大で5mm、及び、さらに好ましくは、4mmである。噴流11もまた、好ましくは、特に排気口においてこの直径を有する。
【0093】
これにより、凹部10bに向かう集中した勢いが可能となり、これによって、流れの偏向、及び、その後の混合が改善される。
【0094】
さらに、水素は、燃焼室2の境界を形成するピストン10の上死点TDCの前において、圧縮行程において、好ましくは、180°~80°、より好ましくは180°~90°のクランク角度で供給される。特に、燃料の供給は、この範囲内で開始される。しかしながら、この期間の間に、燃料の流れが少なくとも1つの表面部分に衝突することも考えられる。
【0095】
これにより、混合気の空気が既に完全に燃焼室内にあることを確実とすることも可能であり、これにより、流入する空気の影響が低減される。さらに、良好な混合を達成するために、水素に、燃焼室を流通するための充分な時間を与えることが可能である。また、水素は燃焼室中に過度に長く残留する必要がない。加えて、クランク角度に係るこの角度範囲内では、シリンダ内圧は比較的低く、これが、噴流11が関連する表面部分に勢いよく衝突可能である理由である。
【0096】
噴流11は、好ましくは、水素の供給装置9の排気口から距離lS内で凹部10bに衝突し、ここで、この距離は、燃焼室の境界を形成するピストンの行程長の0.9倍以上、及び、1.2倍以下、さらに好ましくは、行程長の1倍以上、及び、1.1倍以下、特に好ましくは、行程長の1.06倍以上、及び、1.08倍以下である。
【0097】
好ましくは、少なくとも1つの表面部分、この場合ピストン表面部分10aは、供給プロセスが開始される前述のクランク角度範囲の時点では、この距離の範囲内となる。これにより、水素流は表面部分に確実に衝突することが保証される。
【0098】
この距離が過度に大きい寸法である場合、供給された水素の流れは、流れに逆らう燃焼室中の圧力のために低い勢いで表面部分に到達し得る。この距離は、供給物の動き及び圧縮を考慮して行程長に応じる。上記に特定した関係により、供給された水素が表面部分に確実に到達し、一方で、混合のために充分な距離とすることを保証することが可能である。
【0099】
図2は、シリンダ内壁3aに衝突する種々の噴流11a~11d(点線)を示す。シリンダ内壁3aは剛性である。噴流11a~11dは、これらの各々が、供給装置9において、排気口の重力方向下方でシリンダ内壁3a、それ故、排気口に対してピストンの近傍側に衝突するよう指向されている。
【0100】
衝突位置がさらに下方に位置されているほど、供給装置の排気口からの距離は大きくなる。しかしながら、すべての衝突位置が、供給装置により供給された水素噴流11a~11dの最大侵入深度の範囲内である。絶対値において、最大侵入深度は、例えば、140mm~180mm、好ましくは145mm~175mm、特に、136mmの行程長lで147mm、及び、165mmの行程長lで175mmである。
【0101】
それ故、それぞれの噴流を矢印で示すとおり、偏向は確実に達成可能であり、これにより、タンブルが形成されることとなる。各事例において、流れは、圧縮行程におけるピストンの移動方向、すなわち、ピストン10から離れる方向である、上方向への移動成分を有する部分と、ピストンに向かう下方向への移動成分とを有する。このように、流れは異なる方向にも偏向される。
【0102】
さらに、噴流11e(固体)はピストン表面10aに向かって指向されて示されているが、しかしながら、上記に特定した距離の範囲外でこのピストン表面10aに衝突することとなっている。換言すると、最大侵入深度は、水素の供給が行われる少なくとも上記のクランク角度範囲においては、表面10aへの衝突に不十分である。
【0103】
噴流11aは上記に特定した角度の角度範囲の限界範囲内に位置されており、従って、タンブル形成の最中におけるピストンによるサポートは生じ得ない。
【0104】
本発明の例示的な実施形態を上記に記載した。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0105】
図中に示されていない場合であっても、水素を供給するための供給装置は、燃焼室に対して好ましくは直線的に可動である少なくとも1つの可動部分を有していてもよい。好ましくは、この可動部分は、燃焼室の境界を形成するピストンの移動方向と平行に、ピストンから離れる方向へ少なくとも1つの要素と共に移動可能であり、及び、より好ましくは、少なくとも可動部分はこの方向に沿って予荷重されている。例えば、バネが、好ましくは排気口を含む可動部分を予荷重するために、シリンダヘッドの壁と可動部分との間に設けられていてもよい。可動部分は、電動機又は油圧アクチュエータなどのアクチュエータによる上死点を超えて、燃焼室中に突出する位置に保持されることが可能である。開始後、好ましくは供給プロセスの完了後に、作動力を低減し、好ましくは、完全に排除することが可能であり、ここで、予荷重要素としてのバネは可動部分をピストンから離れるよう移動させる。
【0106】
しかしながら、可動部分は、燃焼室内において回動可能に設けられることが可能である。これは、例えば、噴流を逐次的に異なる表面部分に指向することが可能であり、混合が促進されることを意味する。異なる出力範囲における異なる圧力条件に反応し、例えば、シリンダ内圧がより低い場合に噴流をより離れた表面部分に指向させることも可能である。
【0107】
単一の噴流のみを
図1に示した。
図2において、噴流11a~11dもまた、その各々が、供給プロセス中に供給される単一の噴流の例である。しかしながら、複数の噴流が同時に出るような噴射装置を提供することも可能である。この目的のために、噴射装置は、例えば、好ましくは円周に沿って、特に好ましくは等間隔に離間して設けられた複数の排気口を有することが可能である。各噴流は、好ましくは、上記において特定された幾何学的形状を有する。
【0108】
例えば、単一の噴流がこれらの2つの表面の境界に指向されている場合には、噴流はピストン表面及びシリンダ内壁の両方に衝突することも可能である。少なくとも1つの噴流をこれらの部分の各々に指向することも可能である。
【0109】
供給装置は、噴流の最大侵入深度を調整可能である調節部を有していることも可能である。これは、例えば、噴射装置の排気口又はその内部における可変流路部であることが可能である。
【0110】
噴流11は中心軸8で表面部分に衝突する必要はなく、これからオフセットしてピストン表面10aに衝突することも可能である。
【0111】
タンブル流はまた、噴射装置事態により、例えば噴射装置中における螺旋状の流路を通過する水素により引き起こされることが可能である。ここでも、タンブル流は水素の供給により引き起こされる。
【0112】
表面部分は必ずしも燃焼室の境界である必要はなく、例えば、燃焼室中に突出する阻流板であることも可能である。表面部分は特に固体表面である。
【0113】
本発明に係る方法は、特に、内燃機関の均質な運転において好ましい。しかしながら、水素が供給されるタイミングは、例えば、結果として層状吸気運転が達成されるように設定することも可能である。
【0114】
さらなる変形もまた、特許請求の範囲により定義される範囲内である限りにおいては、本発明に包含される。
【0115】
上記の特徴は、必要に応じて相互に組み合わせることが可能である。
【0116】
本開示により開示されていない限りにおいて、「少なくとも」という用語は、対応する全体を常に包含していてもよい。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素燃料が空気と共に燃焼される燃焼室(2)を有する少なくとも1つのシリンダ(3)を備える内燃機関(1)の運転方法であって、
前記燃焼室(2)において、少なくとも前記水素の流れは、少なくとも部分的に、前記少なくとも1つのシリンダ(3)の縦軸(8)に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした回転運動をしており、
前記少なくとも1つのシリンダ(3)の前記縦軸(8)に対して垂直な前記軸を中心とした前記流れの前記回転運動は、前記水素の供給により引き起こされ
、
前記供給された水素の少なくとも前記の流れは、少なくとも部分的にシリンダ内壁(3a)に沿って案内されることを特徴とする、運転方法。
【請求項2】
前記水素は、前記少なくとも1つのシリンダ(3)の前記燃焼室(2)に直接供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記空気の流れは、前記燃焼室(2)において少なくとも部分的に、及び、少なくとも一時的に前記縦軸(8)を中心とした回転運動を行い、好ましくは、前記縦軸(8)を中心とした前記回転運動は、前記燃焼室への前記空気の前記供給により引き起こされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記供給された水素の前記流れ、好ましくは、前記水素を供給するための供給装置(9)から出る少なくとも1つの噴流は、少なくとも部分的に、少なくとも1つの表面部分(10b,3a)、さらに好ましくは燃焼室境界、さらに好ましくは前記少なくとも1つのシリンダ(3)のシリンダ内壁(3a)、及び/又は、前記燃焼室(2)の境界を形成するピストン(10)の表面(10b)に衝突し、
特に、好ましくは、少なくとも前記水素の流れは、少なくとも部分的に偏向され、さらに好ましくは複数の方向に偏向される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記供給装置(9)から出る前記噴流は、一定の距離で前記表面部分(3a,10b)に衝突し、前記距離は、前記燃焼室の境界を形成する前記ピストン(10)の行程長(l)の0.9倍以上、及び、1.2倍以下、さらにより好ましくは、前記行程長(l)の1倍以上、及び、1.1倍以下、特に好ましくは、前記行程長(l)の1.06倍以上、及び、1.08倍以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記供給された水素の少なくとも前記流れは
、複数の表面部分(3a,10b)に沿って、特に
前記シリンダ内
壁及び前記燃焼室に面した前記ピストンの表面(10b)を介して案内され、並びに/又は、複数の方向に沿って案内され、
並びに/又は、前記燃焼室の境界を形成するピストン(10)の表面(10a)は凹部(10b)を有し、及び、好ましくは、前記供給された水素の流れは少なくとも部分的に前記凹部(10b)に衝突する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水素の流れは、少なくとも、前記燃焼室(2)が閉じられて、燃焼されるべき前記空気/水素混合気のために意図された量の空気が前記燃焼室(2)内に完全に存在する時点から、好ましくは、少なくともその時点において、少なくとも1つの表面部分(10b,3a)に衝突し、
及び/又は、前記水素は、この時点から、好ましくは少なくともこの時点において、前記燃焼室(2)に供給される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記内燃機関(1)は火花点火式であり、及び、好ましくは、前記少なくとも1つのシリンダの前記縦軸(8)に対して垂直な前記少なくとも1つの軸を中心とした前記流れの前記回転運動が、少なくとも点火開始時点において、及び、好ましくは点火装置(7)において存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記供給された水素の噴流(11)は、最大で25°、好ましくは最大で20°の開き角を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水素の流れは、前記燃焼室(2)の境界を形成するピストン(11)の上死点の前において、圧縮行程において、少なくとも部分的に、及び、少なくとも一時的に、好ましくは180°~80°、さらに好ましくは180°~90°のクランク角度で、少なくとも1つの表面部分(10b,3a)に衝突し、
並びに/又は、前記水素は、少なくとも一時的にこの期間の間に供給される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記内燃機関(1)は、前記燃焼室(2)に対して可動である少なくとも1つの可動部分を備える前記水素を供給するための供給装置(9)を備え、
前記可動部分は、好ましくは、前記燃焼室の境界を形成するピストンの移動方向と平行に、前記ピストン(10)から離れる方向へ少なくとも1つの要素と共に移動可能であり、
さらに好ましくは、少なくとも前記可動部分はこの方向に沿って予荷重されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を内燃機関(1)において実施可能である制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載の制御装置を備える内燃機関。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素燃料が空気と共に燃焼される燃焼室(2)を有する少なくとも1つのシリンダ(3)を備える内燃機関(1)の運転方法であって、
前記燃焼室(2)において、少なくとも前記水素の流れは、少なくとも部分的に、前記少なくとも1つのシリンダ(3)の縦軸(8)に対して垂直な少なくとも1つの軸を中心とした回転運動をしており、
前記少なくとも1つのシリンダ(3)の前記縦軸(8)に対して垂直な前記軸を中心とした前記流れの前記回転運動は、前記水素の供給により引き起こされ、
前記供給された水素の少なくとも前記の流れは、少なくとも部分的にシリンダ内壁(3a)に沿って案内されることを特徴とする、運転方法。
【請求項2】
前記水素は、前記少なくとも1つのシリンダ(3)の前記燃焼室(2)に直接供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記空気の流れは、前記燃焼室(2)において少なくとも部分的に、及び、少なくとも一時的に前記縦軸(8)を中心とした回転運動を行い、好ましくは、前記縦軸(8)を中心とした前記回転運動は、前記燃焼室への前記空気の前記供給により引き起こされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記供給された水素の前記流れ、好ましくは、前記水素を供給するための供給装置(9)から出る少なくとも1つの噴流は、少なくとも部分的に、少なくとも1つの表面部分(10b,3a)、さらに好ましくは燃焼室境界、さらに好ましくは前記少なくとも1つのシリンダ(3)のシリンダ内壁(3a)、及び/又は、前記燃焼室(2)の境界を形成するピストン(10)の表面(10b)に衝突し、
特に、好ましくは、少なくとも前記水素の流れは、少なくとも部分的に偏向され、さらに好ましくは複数の方向に偏向される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記供給装置(9)から出る前記噴流は、一定の距離で前記表面部分(3a,10b)に衝突し、前記距離は、前記燃焼室の境界を形成する前記ピストン(10)の行程長(l)の0.9倍以上、及び、1.2倍以下、さらにより好ましくは、前記行程長(l)の1倍以上、及び、1.1倍以下、特に好ましくは、前記行程長(l)の1.06倍以上、及び、1.08倍以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記供給された水素の少なくとも前記流れは、複数の表面部分(3a,10b)に沿って、特に前記シリンダ内壁及び前記燃焼室に面した前記ピストンの表面(10b)を介して案内され、並びに/又は、複数の方向に沿って案内され、
並びに/又は、前記燃焼室の境界を形成するピストン(10)の表面(10a)は凹部(10b)を有し、及び、好ましくは、前記供給された水素の流れは少なくとも部分的に前記凹部(10b)に衝突する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水素の流れは、少なくとも、前記燃焼室(2)が閉じられて、燃焼されるべき前記空気/水素混合気のために意図された量の空気が前記燃焼室(2)内に完全に存在する時点から、好ましくは、少なくともその時点において、少なくとも1つの表面部分(10b,3a)に衝突し、
及び/又は、前記水素は、この時点から、好ましくは少なくともこの時点において、前記燃焼室(2)に供給される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記内燃機関(1)は火花点火式であり、及び、好ましくは、前記少なくとも1つのシリンダの前記縦軸(8)に対して垂直な前記少なくとも1つの軸を中心とした前記流れの前記回転運動が、少なくとも点火開始時点において、及び、好ましくは点火装置(7)において存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記供給された水素の噴流(11)は、最大で25°、好ましくは最大で20°の開き角を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水素の流れは、前記燃焼室(2)の境界を形成するピストン(11)の上死点の前において、圧縮行程において、少なくとも部分的に、及び、少なくとも一時的に、好ましくは180°~80°、さらに好ましくは180°~90°のクランク角度で、少なくとも1つの表面部分(10b,3a)に衝突し、
並びに/又は、前記水素は、少なくとも一時的にこの期間の間に供給される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記内燃機関(1)は、前記燃焼室(2)に対して可動である少なくとも1つの可動部分を備える前記水素を供給するための供給装置(9)を備え、
前記可動部分は、好ましくは、前記燃焼室の境界を形成するピストンの移動方向と平行に、前記ピストン(10)から離れる方向へ少なくとも1つの要素と共に移動可能であり、
さらに好ましくは、少なくとも前記可動部分はこの方向に沿って予荷重されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を内燃機関(1)において実施可能である制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載の制御装置を備える内燃機関。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に従って運転可能である内燃機関(1)であって、
水素燃料を空気と共に燃焼可能である燃焼室(2)を有する少なくとも1つのシリンダ(3);
前記燃焼室(2)の境界を形成するピストン(10);及び
前記燃焼室(2)に水素を供給する供給装置(9)であって、前記供給装置(9)から出る噴流が前記燃焼室(2)に面したピストン表面(10a)に衝突すると共に、水素の流れが前記ピストン表面(10a)に沿って案内されるよう水素を供給する供給装置(9)
を備え、
前記ピストン表面(10a)は、前記ピストン表面(10a)に沿って案内される水素流を、前記内燃機関(1)のシリンダヘッドの方向への移動要素を有するシリンダ内壁(3a)に向かって案内されるよう連続して偏向する偏向部分を有する、内燃機関(1)。
【請求項15】
内燃機関に連係されたコンピュータにより実行される場合に、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実施する、プログラム。
【請求項16】
請求項15に記載のプログラムが記録された、コンピュータ読取可能な記録媒体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
西独国特許出願公開第102006029754号明細書は、燃焼ガスがピストンの凹部内で回転運動を行うことができる内燃機関を開示する。
国際公開第2020/249277 A1号パンフレットには水素駆動式内燃機関に係る方法が開示されており、ここでは、供給された空気の回転流、例えばタンブル流が燃焼室内において形成される。国際公開第2020/249277 A1号パンフレットは、良好な燃焼を確保するために、自己点火特性を改善することを目的としている。しかしながら、国際公開第2020/249277 A1号パンフレットに開示されている方法に係る燃焼挙動を改善する必要性も存在している。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
さらに他の態様によれば、少なくとも供給された水素の流れは、少なくとも部分的に、少なくともシリンダ内壁に沿って案内可能である。ここでも、表面部分は、燃焼室の境界の一部である。その結果、壁ガイドによるタンブルの誘起をより確実に制御可能である。特に、水素流が少なくとも1つの表面部分に衝突した後に壁ガイドを行うことが可能である。好ましくは、流れは、複数の表面部分に沿って、特に、シリンダの内壁及び燃焼室に面したピストンの表面を介して、並びに/又は、複数の方向に沿って案内される。このように、混合は燃焼室全体を通じて促進可能である。
【国際調査報告】