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特表2024-531682コミットされた心臓始原細胞の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】コミットされた心臓始原細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20240822BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20240822BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20240822BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12N5/10
C12N1/00 G
C12N1/04
A61P9/00
A61P37/06
A61K35/545
A61K35/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515828
(86)(22)【出願日】2022-09-13
(85)【翻訳文提出日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 US2022076328
(87)【国際公開番号】W WO2023039588
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】63/243,606
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510003830
【氏名又は名称】フジフィルム セルラー ダイナミクス,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521488495
【氏名又は名称】フジフィルム ホールディングス アメリカ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】カットマン スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】クーンス チャド
(72)【発明者】
【氏名】ボイヤー メーガン
(72)【発明者】
【氏名】スタック クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ヘブロン エレン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA30
4B065BB04
4B065BB19
4B065BC41
4B065BD50
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB47
4C087BB63
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA23
4C087MA67
4C087NA14
4C087NA20
4C087ZA36
4C087ZB08
4C087ZC80
(57)【要約】
本明細書では、多能性幹細胞をコミットされた心臓始原細胞に分化させるための方法を提供する。さらに、本明細書では、心臓疾患の処置においてコミットされた心臓始原細胞を使用する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト多能性幹細胞(PSC)由来のコミットされた心臓始原細胞を製造するためのインビトロ方法であって:
(a)分化を開始するためのWntアゴニスト並びに細胞集合体を形成するための生存試薬の存在下でPSCを培養すること;
(b)中胚葉細胞群を製造するのに十分な期間、Wntアゴニストの存在下で細胞集合体をさらに培養すること;及び
(c)Wnt阻害剤の存在下で中胚葉細胞群を分化させて心臓への特異化を促進し、それによって、コミットされた心臓始原細胞群を製造すること
を含む方法。
【請求項2】
前記PSCが、人工多能性幹細胞(iPSC)又は胚性幹細胞(ESC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PSCを、工程(a)の前に、細胞外マトリックスによってコーティングされた表面上で培養する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞外マトリックスが、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、MATRIGEL(登録商標)、及び/又はフィブロネクチンを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記生存試薬が、Rho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤又はミオシンII阻害剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ROCK阻害剤が、H1152又はY-27632である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ミオシンII阻害剤が、ブレビスタチンである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、懸濁培養で細胞を培養することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記懸濁培養が、1つ以上のバイオリアクター中で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)の前記Wntアゴニストが、CHIR99021、SB216763、CHIR98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、BIO、AZD2858、AZD1080、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、又はIM-12である、請求項1~9に記載の方法。
【請求項11】
前記Wntアゴニストが、CHIR99021である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記CHIR99021が、約1μM~10μMの濃度で前記培養物中に存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(a)が、1~2日間行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(b)の前記培養物が、インスリンを含まないか又はインスリンを実質的に有さない、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(b)の前記Wntシグナル伝達アゴニストが、CHIR99021、SB216763、CHIR98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、BIO、AZD2858、AZD1080、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、又はIM-12である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(b)の前記Wntシグナル伝達アゴニストがCHIR99021である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記CHIR99021が、1μM~10μMの濃度で前記培養物中に存在する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(a)が約24時間行われる、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(b)の前記培養物が、Activin/Nodalアゴニスト及び/又はBMPをさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記Activin/NodalアゴニストがアクチビンA又はNodalである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
工程(b)が1~5日間行われる、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記中胚葉細胞が、KDR、PDGFRα、CXCR4、及び/又はCD56を発現する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記中胚葉細胞群の少なくとも5%が、工程(c)の前又は工程(c)の間に、CD56を発現する、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記中胚葉細胞群の少なくとも40%が、工程(c)の前又は工程(c)の間にKDR及びPDGFRαを発現する、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記中胚葉細胞の群が、工程(c)の前にCXCR4及びCD56について陽性である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前期工程(c)の前に、少なくとも20%陽性の前記中胚葉細胞群がCXCR4について陽性であり、前記中胚葉細胞群の60%未満がCD56について陽性である、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前期工程(c)が、少なくとも20%陽性の前記中胚葉細胞群がCXCR4について陽性であり、前記中胚葉細胞群の60%未満がCD56について陽性であるときに、Wnt阻害剤を添加することを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前期工程(c)の前に、少なくとも30%陽性の前記中胚葉細胞群がCXCR4について陽性であり、前記中胚葉細胞群の60%未満がCD56について陽性である、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前期工程(c)の前記Wnt阻害剤が、XAV939、IWR1、IWR2、IWR3、IWR4、ICG-001、IWR-1-endo、Wnt-C59、LGK-974、LF3、CP21R7、NCB-0846、PNU-74654、又はKYA179Kである、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記Wnt阻害剤がXAV939である、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記XAV939が、5μM~10μMの濃度で前記培養物中に存在する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
工程(c)の前記培養物が、TGFβ阻害剤をさらに含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記TGFβ阻害剤が、SB431542、LDN-193189、LY2157299、LY2109761、SB525334、SIS HCl、SB505124、GW788388、又はLY364947である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記TGFβ阻害剤がSB431542である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記SB431542が、1μM~5μMの濃度で前記培養物中に存在する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
工程(c)の前記培養物がインスリンを含む、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
工程(c)の前記培養物が、さらにBMP阻害剤又はAMPK阻害剤を含む、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
BMP阻害剤が、ドルソモルフィン、LDN193189、DMH1、DMH2、又はML347である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
BMP阻害剤が、ドルソモルフィンである、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記方法が血清を含まない、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記培養が、規定培地中で行われる、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記方法が、少なくとも1×107~1×1010の前記コミットされた心臓始原細胞を製造する、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記方法が、薬物耐性選択の実施を含まない、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記コミットされた心臓始原細胞が導入遺伝子を発現しない、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
工程(c)が1~6日間である、請求項1~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記コミットされた心臓始原細胞群の20%未満がEpCAMを発現する、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記コミットされた心臓始原細胞群の10%未満がEpCAMを発現する、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記コミットされた心臓始原細胞群の20%未満が、KDR、CXCR4、及び/又はSAAについて陽性である、請求項1~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記コミットされた心臓始原細胞群の20%未満が、EpCAM及びSAAについて陽性である、請求項1~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記コミットされた心臓始原細胞群の少なくとも80%が、PDGFRα及びCD56について陽性である、請求項1~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記コミットされた心臓始原細胞群を凍結保存することをさらに含む、請求項1~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
PDGFRαについて少なくとも70%陽性であり、KDRについて40%未満陽性であり、EpCAMについて20%未満陽性であり、及びSAAについて20%未満である前記コミットされた心臓始原細胞群を、凍結保存することをさらに含む、請求項1~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記方法が、医薬品の製造管理及び品質管理の基準(GMP)に準拠している、請求項1~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記コミットされた心臓始原細胞群を成熟させて心筋細胞を製造することをさらに含む、請求項1~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記コミットされた心臓始原細胞群が単層で培養される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記コミットされた心臓始原細胞群が、細胞外マトリックスによってコーティングされた表面上で培養される、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記細胞外マトリックスが、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、MATRIGEL(登録商標)、及び/又はフィブロネクチンを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記細胞外マトリックスがビトロネクチンを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記心筋細胞が、CTNT、MHC、MLC、CTNI、及び/又はサルコメアαアクチニンを発現する、請求項54に記載の方法。
【請求項60】
前記細胞の少なくとも80%が、サルコメアαアクチニンについて陽性である、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
前記成熟のための培地が、Wnt阻害剤又はTGFβ阻害剤を含まない、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
前記成熟のための培養が、2~30日間である、請求項50に記載の方法。
【請求項63】
前記コミットされた心臓始原細胞群を血管内皮細胞群に分化させることをさらに含む、請求項1~53のいずれか一項記載の方法。
【請求項64】
前期分化が、線維芽細胞増殖因子(FGF)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)の存在下で、コミットされた心臓始原細胞群を培養することを含む、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記血管内皮細胞が、CD33及びCD144について陽性である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記血管内皮細胞群の少なくとも20%が、CD33及びCD144について陽性である、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記コミットされた心臓始原細胞群を平滑筋細胞群に分化させることをさらに含む、請求項1~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前期分化が、FGF及び/又はVEGFの存在下で、前記コミットされた心臓始原細胞群を培養することを含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記平滑筋細胞群が、少なくとも50%の細胞がCD140b及びCD90について陽性である、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
請求項1~62のいずれか一項に記載の方法によって製造される、コミットされた心臓始原細胞群。
【請求項71】
請求項1~62のいずれか一項に記載の方法によって製造される、心筋細胞群、血管内皮細胞群、又は平滑筋細胞群。
【請求項72】
少なくとも90%のCD56の発現、PDGFRαについて80%の陽性、及び10%未満のCXCR4、KDR並びにEpCAMの発現を有する、コミットされた心臓始原細胞群を含む組成物。
【請求項73】
前記コミットされた心臓始原細胞が、請求項1~62のいずれか一項に記載の方法によって製造される、請求項72に記載の組成物。
【請求項74】
前記コミットされた心臓始原細胞群がGMP準拠である、請求項72に記載の組成物。
【請求項75】
前記組成物が医薬組成物である、請求項72に記載の組成物。
【請求項76】
有効量の請求項70~75のいずれか一項に記載のコミットされた心臓始原細胞群を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における心臓障害の処置のための方法。
【請求項77】
前記コミットされた心臓始原細胞群が心臓に直接投与される、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記投与が、心筋内カテーテルを使用することによってなされる、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記細胞が、ヒトアルブミンを含む懸濁液で投与される、請求項76に記載の方法。
【請求項80】
前記ヒトアルブミンが1%~10%の濃度で存在する、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記ヒトアルブミンが5%の濃度で存在する、請求項79に記載の方法。
【請求項82】
前記投与されたコミットされた心臓始原細胞が、生着、細胞生存、及び心筋細胞への成熟を示す、請求項76~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記対象がヒトである、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
前記心臓障害が、心筋梗塞、心筋症、うっ血性心不全、心室中隔欠損、心房中隔欠損、先天性心臓欠損、心室瘤、小児由来の心疾患、心室瘤、又は心室の再建を必要とする心疾患である、請求項76~83のいずれか一項に記載の方法。
【請求項85】
心臓始原細胞を生成する方法であって、
(a)多能性幹細胞(PSC)を提供すること;
(b)Wntアゴニストの存在下で、懸濁液中でPSCを培養して、心臓分化を開始させること;及び
(c)細胞群が60%未満のCD56陽性細胞及び30%超のCXCR4陽性細胞から構成されるときにWnt阻害剤を添加して、着実な心臓への特異化を促進し、それによって、心臓始原細胞群を製造すること
を含む方法。
【請求項86】
前記心臓始原細胞が、不十分な心機能を特徴とする疾患の処置に有用である、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記心臓始原細胞が、インビボで心筋細胞、内皮及び血管平滑筋系統に分化することができる、請求項85又は86に記載の方法。
【請求項88】
前記心臓への特異化が、コミットされた心臓始原細胞(CTC4)の集団を製造する、請求項85~87のいずれか一項に記載の方法。
【請求項89】
前記分化がバイオリアクター中で起こる、請求項85~88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
細胞群が、PDGFRαについて70%超陽性であり、KRDについて40%未満陽性であり、EPCAMについて20%未満陽性であり、及びサルコメアαアクチニンについて20%未満陽性である細胞から構成されるときに、前記細胞群を凍結保存することをさらに含む、請求項85~89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
前記CTC4細胞が凍結保存される、請求項88~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記コミットされた心臓始原細胞群が、対象の心臓に直接投与される、請求項85~91のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
Wnt阻害剤の存在下での前記分化が、TGFβ阻害剤をさらに含む、請求項85~92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
Wnt阻害剤の存在下での前記分化が、BMP阻害剤をさらに含む、請求項85~93のいずれか一項に記載の方法。
【請求項95】
前記方法が無血清培地を含む、請求項85~94のいずれか一項に記載の方法。
【請求項96】
前記方法が薬物耐性選択を実施することを含まない、請求項85~95のいずれか一項に記載の方法。
【請求項97】
前期コミットされた心臓始原細胞群を成熟させて心筋細胞を製造することをさらに含む、請求項85~96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
前記成熟のための培地がWnt阻害剤又はTGFβ阻害剤を含まない、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
前記細胞が、VEGFの添加により内皮細胞又は平滑筋にさらに特異化することができる、請求項85~98のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は2021年9月13日に出願された米国仮特許出願第63/243,606号の優先権の利益を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
1.分野
本発明は一般に、分子生物学の分野に関する。より詳細には、本発明は多能性幹細胞の、コミットされた心臓始原細胞への分化に関する。
【0003】
2.関連技術の説明
心臓始原細胞(CPC)は、成熟した心筋細胞に分化する能力を有する。これらのCPCは、心筋細胞へのコミットメントの最終段階を表す。したがって、これらの細胞は、再生医療、例えば心筋梗塞及びうっ血性心不全の処置などのための、医薬品開発への応用において魅力的なターゲットである。多能性幹細胞から心筋細胞を製造するための現在の方法は、心筋細胞を安定して収縮させるようにするために、長期間の培養を必要とする。したがって、より少ない時間の培養で済む、より効率的な方法で、多能性幹細胞からコミットされた心臓始原細胞を製造する方法を改善することが求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
特定の実施形態では、本開示は、ヒト多能性幹細胞(PSC)由来のコミットされた心臓始原細胞を製造するためのインビトロ方法であって、(a)分化を開始するためのWntアゴニスト並びに細胞集合体を形成するための生存試薬の存在下でPSCを培養すること;(b)中胚葉細胞群を製造するのに十分な期間、Wntアゴニストの存在下で細胞集合体をさらに培養すること;及び(c)Wnt阻害剤の存在下で中胚葉細胞群を分化させて心臓への特異化を促進し、それによってコミットされた心臓始原細胞群を製造すること、を含む方法を提供する。
【0005】
いくつかの態様では、PSCが人工多能性幹細胞(iPSC)又は胚性幹細胞(ESC)である。特定の態様では、工程(a)の前に、細胞外マトリックスによってコーティングされた表面上でPSCを培養した。いくつかの態様では、細胞外マトリックスは、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、Matrigel(商標)、及び/又はフィブロネクチンである。
【0006】
特定の態様では、生存試薬は、Rho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤又はミオシンII阻害剤である。例えば、ROCK阻害剤は、H1152又はY-27632である。特定の態様では、ミオシンII阻害剤はブレビスタチンである。
【0007】
いくつかの態様では、本方法は懸濁培養で細胞を培養することを含む。特定の態様では、懸濁培養は、1つ以上のバイオリアクター中、例えば、Vertical-wheelバイオリアクター中で行われる。
【0008】
特定の態様では、工程(a)のWntアゴニストが、CHIR99021、SB216763、CHIR98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、BIO、AZD2858、AZD1080、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、又はIM-12である。特定の態様では、Wntアゴニストは、CHIR99021である。特定の態様では、CHIR99021が約1μM~10μMの濃度で、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10μMの濃度で、特に約2μMの濃度で、培養物中に存在する。
【0009】
いくつかの態様において、工程(a)は、1~2日間、例えば、約22、23、24、25、又は26時間であり、特に約24時間である。特定の態様では、工程(b)の培養物は、インスリンを含まないか又は実質的に有さない。
【0010】
特定の態様では、工程(b)のWntシグナル伝達アゴニストは、CHIR99021、SB216763、CHIR98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、BIO、AZD2858、AZD1080、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、又はIM-12である。特定の態様では、工程(b)のWntシグナル伝達アゴニストは、CHIR99021である。いくつかの態様では、CHIR99021が1μM~10μMの濃度で、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10μMの濃度で、特に約4μM~5μMの濃度で、例えば約4.4μMの濃度で、培養物中に存在する。
【0011】
いくつかの態様では、工程(b)の培養物がActivin/Nodalアゴニスト及び/又はBMPをさらに含む。いくつかの態様では、Activin/Nodalアゴニストは、アクチビンA又はNodalである。特定の態様において、工程(b)は、1~5日間、例えば約1、2、3、4、又は5日間、特に約1又は2日間行われる。
【0012】
いくつかの態様では、中胚葉細胞がKDR、PDGFRα、CXCR4、及び/又はCD56を発現する。特定の態様では、中胚葉細胞群の少なくとも5%(例えば、少なくとも6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、又は55%)が工程(c)の前又は工程(c)の間に、CD56を発現する。いくつかの態様では、中胚葉細胞群の少なくとも40%(例えば、少なくとも45、50、55、60、65、70、又は75%)が工程(c)の前又は工程(c)の間に、KDR及びPDGFRαを発現する。特定の態様では、工程(c)が開始された後に、細胞はKDRを発現する。特定の態様では、工程(c)の前に、中胚葉細胞群はCXCR4及びCD56について陽性である。いくつかの態様では、工程(c)の前に、少なくとも30%(例えば、少なくとも31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45、50、55、60、65、70、75、又は80%)陽性の中胚葉細胞群は、CXCR4について陽性であり、中胚葉細胞群の60%未満(例えば、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、45、40、又は30%未満)がCD56について陽性である。
【0013】
いくつかの態様では、工程(c)の前に、中胚葉細胞群の細胞の少なくとも20%(例えば、少なくとも21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、又は80%)がCXCR4について陽性であり、中胚葉細胞群の60%未満(例えば、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、45、40、又は30%未満)がCD56について陽性である。特定の態様では、工程(c)は、少なくとも20%(例えば、少なくとも21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、又は80%)陽性の中胚葉細胞群がCXCR4について陽性であり、かつ、60%未満(例えば、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、45、40、又は30%未満)の中胚葉細胞群がCD56について陽性であるときに、Wnt阻害剤を添加することを含む。
【0014】
特定の態様では、工程(c)のWnt阻害剤がXAV939、IWR1、IWR2、IWR3、IWR4、ICG-001、IWR-1-endo、Wnt-C59、LGK-974、LF3、CP21R7、NCB-0846、PNU-74654、又はKYA179Kである。特定の態様では、Wnt阻害剤はXAV939である。特定の態様では、XAV939が5μM~10μMの濃度で、例えば、5、6、7、8、9、又は10μMの濃度で、培養物中に存在する。いくつかの態様では、工程(c)の培養物は、TGFβ阻害剤、例えばSB431542、LDN-193189、LY2157299、LY2109761、SB525334、SIS HCl、SB505124、GW788388、又はLY364947をさらに含む。特定の態様では、TGFβ阻害剤はSB431542である。特定の態様では、SB431542が1μM~5μMの濃度で、例えば、1、2、3、4、又は5μMの濃度で、培養物中に存在する。いくつかの態様では、工程(c)の培養物はインスリンを含む。いくつかの態様では、工程(c)の培養物はさらにBMP阻害剤又はAMPK阻害剤を含む。特定の態様では、BMP阻害剤は、ドルソモルフィン、LDN193189、DMH1、DMH2、又はML347である。いくつかの態様において、工程(c)は、1~6日間、例えば1、2、3、4、5、又は6日間、例えば1~3日間、特に約2日間である。
【0015】
特定の態様では、本方法は血清を含まない。いくつかの態様では、培養は規定培地中で行われる。いくつかの態様では、本方法は薬剤耐性選択を実施することを含まない。特定の態様では、コミットされた心臓始原細胞は導入遺伝子を発現しない。
【0016】
いくつかの態様では、本方法は少なくとも1x107~1x1010のコミットされた心臓始原細胞を製造する。
【0017】
特定の態様では、コミットされた心臓始原細胞群の20%未満(例えば、19、18、17、16、15、14、13、12、10又は5%)がEpCAMを発現する。特定の態様では、コミットされた心臓始原細胞群の細胞の10%未満(例えば、9、8、7、6、又は5%未満)がEpCAMを発現する。いくつかの態様では、コミットされた心臓始原細胞群の20%未満(例えば、19、18、17、16、15、14、13、12、10又は5%)がKDR、CXCR4及び/又はSAAについて陽性である。いくつかの態様において、コミットされた心臓始原細胞群の少なくとも80%(例えば、81、82、83、84、85、85、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%)は、PDGFRα及びCD56について陽性である。いくつかの態様では、コミットされた心臓始原細胞群の20%未満(例えば、19、18、17、16、15、14、13、12、10又は5%)がEpCAM及びSAAについて陽性である。
【0018】
特定の態様では、本方法は医薬品の製造管理及び品質管理の基準(GMP)に準拠している。いくつかの態様では、本方法は、例えば、コミットされた心臓始原細胞群がPDGFRαについて少なくとも70%(例えば、71、72、73、74、75、75、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%)陽性であり、KDRについて40%未満(例えば、39、38、37、36、35、34、33、32、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、10又は5%)陽性であり、EpCAMについて20%未満(例えば、19、18、17、16、15、14、13、12、10又は5%)陽性であり、SAAについて20%未満(例えば、19、18、17、16、15、14、13、12、10又は5%)であるときに、コミットされた心臓始原細胞群を凍結保存することをさらに含む。
【0019】
さらなる態様において、本方法は、コミットされた心臓始原細胞群を成熟させて、心筋細胞を製造することをさらに含む。いくつかの態様では、コミットされた心臓始原細胞群は単層で培養される。特定の態様では、コミットされた心臓始原細胞群は、細胞外マトリックスによってコーティングされた表面上で培養される。いくつかの態様では、細胞外マトリックスは、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、Matrigel(商標)、及び/又はフィブロネクチンである。特定の態様では、細胞外マトリックスはビトロネクチンである。
【0020】
いくつかの態様では、心筋細胞はCTNT、MHC、MLC、CTNI、及び/又はサルコメアαアクチニンを発現する。特定の態様では、細胞の少なくとも80%(例えば、81、82、83、84、85、85、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%)がサルコメアαアクチニンについて陽性である。
【0021】
特定の態様では、成熟のための培地は、Wnt阻害剤又はTGFβ阻害剤を含まない。いくつかの態様では、成熟のための培養は、2~30日間、例えば2~20日間、例えば5~10日間である。
【0022】
特定の態様では、本方法はプライミングされた心臓始原細胞を製造することを含み、懸濁液中で、Wntアゴニストの存在下でPSCを培養し、分化を開始させること、細胞群が約60%未満のCD56陽性細胞と少なくとも約20%のCXCR4陽性細胞を含むときに、Wnt阻害剤の存在下で細胞を培養し、PDGFRαについて少なくとも70%陽性であり、KDRについて40%未満陽性であり、EpCAMについて20%未満陽性であり、SAAについて20%未満陽性であるプライミングされた心臓始原細胞群を製造することを含む。プライミングされた心臓始原細胞群は、凍結保存してもよい。
【0023】
いくつかの態様では、本方法は、コミットされた心臓始原細胞群を血管内皮細胞群に分化させることをさらに含む。いくつかの態様では、分化させることには、線維芽細胞増殖因子(FGF)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)の存在下で、コミットされた心臓始原細胞群を培養することを含む。特定の態様では、血管内皮細胞は、CD33及びCD144について陽性である。いくつかの態様において、血管内皮細胞群の細胞の少なくとも20%(例えば、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70%又はそれ以上)は、CD33及びCD144について陽性である。
【0024】
いくつかの態様では、本方法はコミットされた心臓始原細胞群を平滑筋細胞群に分化させることをさらに含む。特定の態様では、分化させることには、FGF及び/又はVEGFの存在下で、コミットされた心臓始原細胞群を培養することを含む。特定の態様では、平滑筋細胞群は、少なくとも50%(例えば、55%、60%、70%、75%、80%、又はそれ以上)の細胞がCD140b及びCD90について陽性である。
【0025】
さらに、本明細書において、本実施形態及びその態様の方法によって製造される、コミットされた心臓始原細胞群を提供する。また、本明細書では、本実施形態及びその態様の方法によって製造される心筋細胞群、血管内皮細胞群、又は平滑筋細胞群も提供する。
【0026】
別の実施形態は、少なくとも90%(例えば、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%)のCD56の発現と、少なくとも80%(例えば、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%)のPDGFRαの発現と、10%未満(例えば、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1%未満)のCXCR4、KDR及びEpCAMの発現を有する、コミットされた心臓始原細胞群を提供する。特定の態様では、コミットされた心臓始原細胞は、本実施形態及びその態様の方法によって製造される。特定の態様では、コミットされた心臓始原細胞群はGMPに準拠している。いくつかの態様では、組成物は医薬組成物である。
【0027】
さらなる実施形態は、対象における心臓障害の処置のための方法を提供し、本実施形態又はその態様の有効量のコミットされた心臓始原細胞を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0028】
いくつかの態様において、コミットされた心臓始原細胞群は、心臓に直接投与される。特定の態様では、投与は心筋内カテーテルを使用して行われる。いくつかの態様では、細胞は、ヒトアルブミン(例えば、FLEXBUMIN(登録商標))を、例えば、1%~10%の濃度で、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10%の濃度で、特に約5%の濃度で含む懸濁液において投与される。
【0029】
いくつかの態様では、投与されたコミットされた心臓始原細胞は生着、細胞生存、及び心筋細胞への成熟を示す。いくつかの態様では、対象はヒトである。特定の態様では、心臓障害は、心筋梗塞、心筋症、うっ血性心不全、心室中隔欠損、心房中隔欠損、先天性心臓欠損、心室瘤、小児由来の心疾患、心室瘤、又は心室の再建を必要とする心疾患である。
【0030】
さらなる実施形態は、心臓始原細胞を生成する方法を提供し、多能性幹細胞(PSC)を提供すること、Wntアゴニストの存在下で、懸濁液中でPSCを培養し、心臓分化を開始させること、及び細胞群が約60%未満のCD56陽性細胞と約30%超のCXCR4陽性細胞から構成されるときにWnt阻害剤を添加して、着実な心臓への特異化を促進し、それによって心臓始原細胞群を製造すること、を含む。
【0031】
いくつかの態様では、心臓始原細胞は、不十分な心機能を特徴とする疾患の処置に有用である。特定の態様では、心臓始原細胞は、インビボで心筋細胞、内皮及び血管平滑筋系統に分化することができる。いくつかの態様では、心臓への特異化によりコミットされた心臓始原細胞群(CTC4)を製造する。特定の態様では、分化はバイオリアクター中で起こる。
【0032】
ある特定の態様では、本方法には、細胞群がPDGFRαについて70%超陽性であり、KRDについて40%未満陽性であり、EPCAMについて20%未満陽性であり、サルコメアαアクチニンについて20%未満陽性である細胞から構成されるときに、細胞群を凍結保存することをさらに含む。いくつかの態様において、CTC4細胞は凍結保存してもよい。特定の態様では、コミットされた心臓始原細胞は、対象の心臓に直接投与される。いくつかの態様では、Wnt阻害剤の存在下での分化において、TGFβ阻害剤をさらに含む。特定の態様では、Wnt阻害剤の存在下での分化において、BMP阻害剤をさらに含む。いくつかの態様では、当該方法は無血清培地である。特定の態様では、本方法は薬剤耐性選択を行わない。
【0033】
いくつかの態様では、当該方法は、コミットされた心臓始原細胞群を成熟させて、心筋細胞を製造することをさらに含む。いくつかの態様では、成熟のための培地には、Wnt阻害剤又はTGFβ阻害剤を含まない。特定の態様では、VEGFの添加により、細胞群は内皮細胞又は平滑筋にさらに特異化することができる。
【0034】
本開示の他の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲内にある各種の変更や修正は、この詳細な説明から当該技術分野の当業者には明らかとなるので、本発明の詳細な説明及び特定の実施例は、発明の好適な実施例を示す一方、例示としてのみ与えられたものであることを理解しなくてはならない。
【0035】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに実証するために含まれる。本発明は、本明細書に提示される具体的な実施形態の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の1つ以上を参照することにより、よりよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1A-1B】人工多能性幹細胞(iPSC)から心筋細胞にコミットされた心臓始原細胞(CTC4)の分化のための例示的なプロトコールを表す概略図(図1A)。このプロセスには、iPSCの集合体形成、中胚葉誘導、及び心臓への特異化の初期段階が含まれる。培養方法(平板培養と懸濁培養)の処理日の概略と心臓への分化の進行段階の指標(図1B)。
【0037】
図2A-2B】培養方法(平板培養と懸濁培養)の処理日の概略と心臓への分化の進行段階の指標(図2A)。多層CELLSTACK(登録商標)容器とPBS3 VERTICAL-WHEEL(商標)バイオリアクターを用いた、iPSCと分化のスケールを表す概略図(図2B)。細胞は、例えば、Aseptic Technologies社のAT CLOSED-VIALS(登録商標)などを用いて、ラージスケールでの凍結保存(例えば、3.0×10細胞/バイアル)をすることが可能である。
【0038】
図3A-3C】人工多能性幹細胞(iPSC)から、心筋細胞にコミットされた心臓始原細胞(CTC4)の分化のための、例示的なプロトコールを表す概略図(図3A)。このプロセスには、iPSCの集合体形成、中胚葉誘導、及び心臓への特異化の初期段階が含まれる。3つの異なるPBS3バイオリアクターを、分化2~5日目にサンプリングし、フローサイトメトリーによりCXCR4及びCD56について分析した(図3B)。コミットされた心臓始原細胞を、3つのPBS3バイオリアクターから回収し、プールして、フローサイトメトリーによりCXCR4及びCD56について分析した(図3C)。
【0039】
図4A-4B】3つの異なるPBS3バイオリアクターを、分化2~5日目にサンプリングし、フローサイトメトリーによりEPCAMについて分析した(図4A)。コミットされた心臓始原細胞を、3つのPBS3バイオリアクターから回収し、プールして、フローサイトメトリーによりEPCAMについて分析した(図4B)。
【0040】
図5】PBS3バイオリアクターを、4~6日目にサンプリングし、フローサイトメトリーによりKDR及びPDGFRαについて分析した。分化6日目に回収されたコミットされた心臓始原細胞は、KDRの発現が大幅に減少していた。
【0041】
図6A-6B】iPSCとコミットされた心臓始原細胞の複数バッチからの遺伝子発現を、多能性遺伝子であるNANOG、SOX2、及びPOU5F1について、Fluidigmにより分析した(図6A)。コミットされた心臓始原細胞の複数バッチからの遺伝子発現について、心臓遺伝子であるHAND2、GATA4、NKX2.5、PDGFRA、及びTBX5について、Fluidigmによって分析した(図6B)。
【0042】
図7A-7E】解凍し、RPMI+B27培地中のビトロネクチンコーティング容器にプレーティングした後に、CTC4細胞が心筋細胞になることを確認するためのプロトコールを表す概略図(図7A)。解凍後のCTC4細胞のフローサイトメトリー特性分析により、細胞群の大部分がCD56陽性、CXCR4陰性、EpCAM陰性、KDR陰性、PDGFRα陽性、及びSAA陰性であることを示し、これらの細胞は心筋細胞になるようにコミットされているが、心臓マーカーであるサルコメアαアクチニン(SAA)の発現はまだ開始していないことを示す(図7B)。ビトロネクチンコーティング96ウェルプレート上で、RPMI+B27培地を用いてCTC4細胞を7日間培養した後の、CTC4細胞の免疫細胞化学的特性分析(図7C)。心臓特異的転写因子NKX2.5は、心臓構造タンパク質であるサルコメアαアクチニン(SAA)、心筋トロポニンI(CTNI)及び心筋トロポニンT(CTNT)と共に発現した。ビトロネクチンコーティング容器でRPMI+B27培地を用いて、CTC4細胞を7日間培養した後の、SAAについてのフローサイトメトリー分析は、心筋細胞への特異化を示す(図7D)。ビトロネクチンコーティング容器でRPMI+B27培地を用いて、CTC4細胞を7日間培養した後の、CTC4細胞由来心筋細胞の収縮(図7E)。
【0043】
図8A-8C】NUDEラットの心筋梗塞モデルを表す概略図(図8A)。左前下行動脈(LAD)を外科的に結紮した3日後に、5% Flexbumin (1e7)に懸濁したCTC4細胞を、左心室の梗塞周囲領域に複数回(5回)、心筋内注射により投与した。CTC3注射の30日後に、心臓を処理し、分析した。組織は心臓1つ当たり5つのリング状に切断して処理し、パラフィンに包埋した。各心臓のそれぞれのリングから20個の連続切片を切り出し、スライドを作製した。各心臓ブロックのセクション1、5、10及び20の切片から作製したスライドで、ヒトALUについての免疫組織化学分析を行い、ヒト細胞の分布及び生着の成功を判定した(図8B)。ヒト細胞が検出されたら、さらなる処理及び特性分析のために連続切片を採取した。ヒトAluについて蛍光in situハイブリダイゼーションを、続いてKi67、心筋トロポニンT、又はCX43を検出するために免疫組織化学的検査を行って、マルチプレックス法により移植されたヒト細胞の特性分析を行った(図8C)。
【0044】
図9A-9B】血管内皮細胞(CD31+CD144+)と平滑筋細胞(CD140b+CD90+)へと分化させるための、増殖因子FGF2及び/又はVEGFを含むRPMI+B27培地での、iPSC由来心臓始原細胞の培養を表す概略図(図9A)。血管内皮細胞のためのCD31とCD144の発現、及び平滑筋細胞のためのCD90とCD140bの発現のフローサイトメトリー(図9B)。
【発明を実施するための形態】
【0045】
多能性幹細胞の分化は様々な方法で誘導することができ、例えば、付着コロニーで、又は、例えば低付着環境下などで細胞集合体(これらの集合体は、胚様体(EB)と呼ばれる)を形成させてできる。EB内の分子と細胞の形態形成シグナル伝達及び活動は、発生段階の胚の中でそのような細胞が本来の個体発生中に行う態様の多くと類似する。特定の実施形態では、本開示は多能性幹細胞(PSC)、例えば人工多能性幹細胞(iPSC)から、大量かつ短期間で、コミットされた心臓始原細胞を製造するための方法を提供することによる。これらのコミットされた心臓始原細胞は、追加の増殖因子又は小分子シグナルがなくても、心筋細胞になるようにプライミングされているが、まだ内皮への分化能は保持している。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される分化プロセスは最適化されており、解凍及びプレーティング後迅速に、安定かつ強固な収縮を確立する。
【0046】
分化プロセスは、Wntアゴニスト及びROCK阻害剤などの集合体形成を促進する薬剤の存在下で、iPSCなどのPSCから集合体を形成することを含むことができる。次いで、集合体は、CHIR99021などのWntアゴニストの存在下で誘導して、中胚葉細胞を形成することができる。特定の態様では、中胚葉誘導培地は、インスリンを含まない。中胚葉誘導培地は、アクチビンアゴニスト及び/又はBMPをさらに含み得る。中胚葉細胞は、CXCR4、KDR、PDGFRα、及び/又はCD56の発現が陽性であること、また多能性のマーカーであるCKIT、及び/又はEPCAMの発現が実質的にないことによって確認することができる。中胚葉誘導工程は、約1~3日間であり得る。次に、中胚葉細胞は、Wnt阻害剤、及び場合により任意でTGFβ及び/又はBMP阻害剤の存在下で、特にインスリンと組み合わせて、心臓に特異化される。コミットされた心臓始原細胞は、心臓への特異化の開始後、例えば、約1~3日後などに製造され得る。特定の態様では、中胚葉段階にある集合体は懸濁培養系に保持して、心臓への特異化を開始することができ、又は、心臓への特異化を開始する前に、中胚葉細胞を個別化し、単層培養としてプレーティングすることができる。コミットされた心臓始原細胞は、両方の培養系で製造することができる。コミットされた心臓始原細胞は、さらに培養して、心筋細胞を製造することができる。特に、分化プロセスは、薬剤耐性選択又は代謝選択をせずに、無血清で行うことができる。
【0047】
本研究では、着実でスケールアップが可能なcGMP iPSC由来の心臓分化プロトコールを開発し、このプロトコールによれば、バイオリアクター当たり1×108~3×109のコミットされた心臓始原細胞(CTC4細胞)をもたらし、凍結保存容器当たり1×106~300×106細胞の規模で凍結保存することができる。これらのCTC4細胞は、以前に記載された初期段階のKDR+の心臓始原細胞とは異なる。例えば、CTC4細胞はすでに急速にKDR発現を減少させており、より初期の発生段階にあるKDR+心臓始原細胞と同じ分化能を有さない。代わりに、CTC4細胞は、特有の後期発生段階において、ただし細胞が初期の心筋細胞になってしまう前に、凍結保存することができる。
【0048】
さらなる実施形態では、本発明の凍結保存された心臓始原細胞は、解凍し、RPMI+B27などの培地中で培養し、高純度の心筋細胞にさらに特異化することができる。本凍結保存された心臓始原細胞は、対象の心筋に注入後、心筋細胞になることもできる。
【0049】
さらなる態様では、本発明のコミットされた心臓始原細胞は、FGF及び/又はVEGFを含む培地中などで、血管内皮細胞又は平滑筋細胞に分化させることができる。
【0050】
さらに、本開示は、治療法を提供し、本明細書で提供されるCTC4細胞を投与することを含む。CTC4細胞は、直接注射、経心内膜、又は心筋内カテーテル送達によって、送達することができる。iPSC由来のCTC4細胞の投与量は、約1×107~1×109細胞であり得る。本開示のCTC4細胞は、処置対象との適合性のために、HLA適合性iPSCから製造され得る。現在の方法、記載された全ての材料及び培養形式を使用すること含むが、それらはcGMP製造に用いることができる。したがって、本開示は、着実で、再現可能で、適切な細胞の供給源を提供し、医薬品開発及び心臓再生医療を発展させることができる。また、CTC4細胞は、医薬品を介した心臓発生の毒性問題を確認し、回避を補助するためにも使用され得る。
【0051】
I.定義
本明細書で使用される場合、特定の構成成分に関して「実質的に含まない」は、特定の構成成分のいずれもが組成物に意図的に配合されていないこと、及び/又は夾雑物として若しくは微量で存在するに過ぎないことを意味するために本明細書で使用される。したがって、組成物の意図しない汚染に起因する特定の構成成分の総量は0.05%未満、好ましくは0.01%未満である。最も好ましいのは、標準的な分析方法では特定の構成成分の量が検出できない組成物である。
【0052】
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、1つ以上(one or more)を意味し得る。請求項において使用される場合、「含む(comprising)」という語と併せて使用される場合、「1つの(a)」又は「1つの(an)」という語は、1つ又は1つより多く(one or more than one)を意味し得る。
【0053】
請求項における「又は(or)」という用語の使用は、代替物のみを指すように明示的に示されない限り、又は代替物が相互に排他的でない限り、「及び/又は(and/or)」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物及び「及び/又は」のみを指す定義を支持する。本明細書で使用される場合、「別の(another)」は、少なくとも2番目又はそれ以降を意味する場合がある。
【0054】
本出願を通して、「約」という用語は、ある値が、その値を決定するために使用される装置、方法に固有の変動誤差、又は研究対象間に存在する変動を含むことを示すために使用される。いくつかの態様では、記載値を測定するための標準的な分析技法によって測定された記載値の標準偏差の範囲内であることを、用語は一般に意味する。この用語は、記載値のプラスマイナス5%を指して使用することもでき、例えば、ある特定のマーカーについて陽性又は陰性である細胞の、細胞群中における百分率に使用され得る。
【0055】
「外因性」という用語は、細胞又は生物中のタンパク質、遺伝子、核酸、又はポリヌクレオチドに関して使用される場合、人工的又は自然の手段によって、細胞又は生物に導入されたタンパク質、遺伝子、核酸、又はポリヌクレオチドを指す。又は、細胞に関して使用される場合は、本用語は、単離され、続いて人工的又は自然の手段によって、他の細胞又は生物に導入された細胞を指す。外因性核酸は、異なる生物又は細胞由来であってもよく、又はその生物又は細胞内で自然に存在する核酸の1つ以上の追加コピーであってもよい。外因性細胞は異なる生物由来であってもよいし、又は同じ生物由来であってもよい。外因性核酸の非限定的な例として、天然の細胞中における存在場所とは異なる染色体位置にあるもの、又は自然に見いだされるものとは異なる核酸配列が隣接配置されたものがある。
【0056】
「発現構築物(expression construct)」又は「発現カセット(expression cassette)」とは、転写を指揮することができる核酸分子を意味する。発現構築物は、少なくとも、1つ以上の所望の細胞型、組織又は器官において、遺伝子発現を指揮する1つ以上の転写調節エレメント(プロモーター、エンハンサー又はそれらと機能的に同等な構造など)を含む。追加のエレメント、例えば転写終結シグナルなども含まれ得る。
【0057】
「ベクター(vector)」又は「構築物(construct)」(遺伝子送達システム又は遺伝子導入「媒体(vehicle)」と呼ばれることもある)は、インビトロ又はインビボのいずれかで、宿主細胞に送達されるポリヌクレオチドを含む高分子又は分子の複合体を指す。
【0058】
「プラスミド(plasmid)」は、ベクターの一般的なタイプであり、染色体DNAとは独立して複製することができる、染色体DNAとは別個の染色体外DNA分子である。ある場合には、それは円形であったり、二本鎖であったりする。
【0059】
「細胞(Cell)」という用語は、本明細書において、当該技術分野において最も広い意味で使用され、多細胞生物の組織の構造単位であり、外部からそれを分離する膜構造によって囲まれており、自己複製能力を有し、遺伝情報及びその発現のためのメカニズムを有する生体を指す。本明細書で使用される細胞は、天然に存在する細胞又は人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝的に操作した細胞など)であり得る。
【0060】
「幹細胞」という用語は、本明細書において、適切な条件下では多様な範囲の特殊な細胞型に分化することが可能であるが、他の適切な条件下では自己再生が可能であり、本質的に未分化の多能性状態のままである細胞を指す。「幹細胞」という用語は、多能性細胞(pluripotent cell)、多分化能細胞(multipotent cell)、前駆細胞(precursor cell)及び始原細胞(progenitor cell)も包含する。例示的なヒト幹細胞は、骨髄組織から得られる造血幹細胞又は間葉系幹細胞、胚組織から得られた胚性幹細胞、又は胎児の生殖器組織から得られた胚性生殖細胞から得ることができる。例示的な多能性幹細胞は、多能性に関連するある特定の転写因子の発現によって、体細胞を多能性状態にリプログラミングすることによって、体細胞から製造することもでき、これらの細胞は、「人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)」又は「iPSc」若しくは「iPS細胞」と呼ばれる。
【0061】
「胚性幹(ES)細胞」は、初期段階の胚、例えば胚盤胞期の内部細胞塊などから得られるか、又は人工的な手段(例えば核移植)によって製造される未分化の多能性細胞であり、生殖細胞(例えば、精子及び卵)を含む、胚又は成体のあらゆる分化した細胞型を生じさせることができる。
【0062】
「人工多能性幹細胞(iPSc又はiPS細胞)」は、因子(本明細書ではリプログラミング因子と呼ばれる)の組合せを発現させるか又は発現を誘導することにより、体細胞をリプログラミングして生成される細胞である。iPS細胞は胎児、出生後、新生児、幼若、又は成体の体細胞を使用して生成することができる。ある特定の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするために使用され得る因子としては、例えば、Oct4(Oct 3/4と呼ばれることもある)、Sox2、c-Myc、Klf4、Nanog、及びLin28が挙げられる。いくつかの実施形態では、体細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするための、少なくとも2つのリプログラミング因子、少なくとも3つのリプログラミング因子、少なくとも4つのリプログラミング因子、少なくとも5つのリプログラミング因子、少なくとも6つのリプログラミング因子、又は少なくとも7つのリプログラミング因子を発現させることによって、体細胞はリプログラミングされる。
【0063】
「多能性幹細胞」は、1つ以上の組織若しくは器官、又は好ましくは3つの胚葉:内胚葉(内部胃内壁、消化管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、若しくは外胚葉(表皮組織及び神経系)のいずれかを形成する全ての細胞に分化する能力を有する幹細胞を指す。
【0064】
「体細胞(somatic cell)」という用語は、本明細書で使用される場合、生殖細胞(例えば卵、精子など)以外のあらゆる細胞を指し、そのDNAを次世代に直接伝達しない細胞を指す。通常、体細胞は多能性を有さないか、有していても限定的である。本明細書で使用される体細胞は、天然に存在するものであっても、又は遺伝子組換されていてもよい。
【0065】
「プログラミング」は、細胞が製造することができる子孫型を変更するプロセスである。例えば、培養又はインビボのいずれかで、プログラミングしない場合に、同じ条件下で形成することができたであろう細胞型と比べて、少なくとも1つの新しい細胞型の子孫を形成することができるように変更されていた場合、その細胞はプログラミングされた状態である。つまり、プログラミング前にはそのような子孫が本質的に生じ得ないのに、充分な増殖の後、新しい細胞型の表現型特性を有する子孫が測定可能な割合で観察されることを意味する。あるいは、新しい細胞型の特性を有する割合が、プログラミング前よりも測定可能な程に多くなることを意味する。この処理は、分化、脱分化及び分化転換を含む。
【0066】
「リプログラミング」は、培養又はインビボのいずれかで、ある細胞の、少なくとも1つの新しい細胞型の子孫を形成する能力を、測定可能な程に増強させるプロセスであり、その後は、リプログラミングをしなくても同じ状態であり続ける。より具体的には、リプログラミングは体細胞に多能性を付与するプロセスである。つまり、リプログラミング前にはそのような子孫が本質的に生じ得ないのに、充分な増殖の後、新しい細胞型の表現型特性を有する子孫が測定可能な割合であることを意味する。別の状態としては、新しい細胞型の特性を有する割合が、プログラミング前よりも測定可能な程に多くなることを意味する。
【0067】
「分化」は、あまり特殊化されていない細胞が、より特殊化された細胞型になるプロセスである。「脱分化」は、部分的又は最終的に分化した細胞が、多能性又は多分化能などを有する初期の発生段階に戻る細胞プロセスである。「分化転換」は、1つの分化細胞型を別の分化細胞型に変換するプロセスである。通常は、プログラミングによる分化転換は、細胞が中間的な多能性段階を経由することなく生じる。すなわち、細胞は1つの分化細胞型から別の分化細胞型に直接プログラミングされる。特定の条件下で、新しい細胞型の特性を有する子孫の割合は、より好ましくなる順に、少なくとも約1%、5%、25%又はそれ以上であり得る。
【0068】
「フォワードプログラミング」という用語は、多分化能性又は多能性細胞のプログラミングを指し、多能性を有さない分化した体細胞とは対照的に、1つ以上の特定系統決定遺伝子又は遺伝子産物を多分化能性細胞又は多能性細胞に与えることによって行う。例えば、フォワードプログラミングは、ESC又はiPSCを、造血前駆細胞若しくは他の前駆細胞、又は造血細胞若しくは他の分化した体細胞にプログラミングするプロセスを表し得る。
【0069】
「対象(subject)」又は「それを必要とする対象(subject in need thereof)」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞又は組織の移植を必要とする、あらゆる年齢の雄又は雌の哺乳動物、好ましくはヒトを指す。通常は、細胞又は組織移植を介した処置を受けるような、疾患、病的又は望ましくない体調、状態、若しくは症候群、又は物理的、形態的若しくは生理的異常のため、対象は細胞又は組織の移植を必要としている(本明細書では、レシピエントとも呼ぶ)。
【0070】
「生存試薬」は、細胞培養培地に添加された場合に、細胞の生存を促進及び/又は援助する薬剤を指す。例えば、Rho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤又はミオシンII特異的阻害剤を生存試薬として使用することができる。特定の態様では、これらの生存試薬が培養物中の細胞の集合を促進する。
【0071】
「Rho関連キナーゼ阻害剤」は、「ROCK阻害剤」と略記され、細胞中のRho関連キナーゼ又はそのシグナル伝達経路の機能を阻害し、又は低減させる物質のどれか一つ、例えば、小分子、siRNA、miRNA、アンチセンスRNAなど、を指す。「ROCKシグナル伝達経路」は、本明細書で使用される場合、ROCK関連シグナル伝達経路に関与するあらゆるシグナルプロセッサー、例えば、細胞におけるRho-ROCK-ミオシンIIシグナル伝達経路、その上流のシグナル伝達経路、又はその下流のシグナル伝達経路、を含み得る。ROCK阻害剤の例としては、Rho特異的阻害剤、ROCK特異的阻害剤、MRLC(ミオシン調節軽鎖)特異的阻害剤、又はミオシンII特異的阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
「コミットされた心臓始原細胞(Committed cardiac progenitor cells(CPC))、プライミングされたCPC(primed CPCs)又はCTC4細胞(CTC4 cells)」は、本明細書において互換的に使用され、まだ完全には心筋細胞に分化していないが、心臓系統に向かって分化が操作されている細胞を指す。したがって、これらのCPCは心筋細胞になるようにプライミングされている。コミットされた心臓始原細胞は凍結保存することができ、プレーティング又はインビボで注射された場合、増殖因子又は小分子シグナルをさらに追加せずとも、90%超が心筋細胞(例えば、SAA陽性の心筋細胞)に分化する。コミットされた心臓始原細胞マーカーの例としては、PDGFRα及びCD56が挙げられる。特定の態様では、コミットされた心臓始原細胞は、CXCR4、KDR、CKIT、EPCAM及び/又はサルコメアαアクチニンを発現しない。これらのコミットされたCPC又はCTC4細胞は多分化能性であり、例えば、増殖因子の存在下で培養することにより、他の細胞系統、例えば、血管内皮細胞又は平滑筋細胞などに、さらに分化させることもできる。
【0073】
「心筋細胞(Cardiomyocytes又はcardiac muscle cells)」は、心筋を構成する筋細胞を指す。心臓特異的マーカーの例としては、α-サルコメアアクチニン、トロポニン、ミオシン重鎖、又はL型カルシウム電流が挙げられる。
【0074】
「投与(administering)」は、本明細書で使用する場合、当業者に公知の様々な方法及び送達システムのいずれかを使用して、影響を受ける又は実施される態様で、送達することを意味するものとする。例えば、静脈内、経口、移植、経粘膜、経皮、筋肉内、又は皮下に投与を行うことができる。具体的には、局所投与が想定される。例えば、「投与」は、1回、複数回、及び/又は1期間若しくはそれ以上の長期間にわたって実施することもできる。
【0075】
「スーパードナー(Super donors)」は、本明細書において、特定のMHCクラスI及びMHCクラスII遺伝子についてホモ接合性である個体を指す。これらのホモ接合性個体はスーパードナーとしての役割を持ち、その細胞(それらの細胞を含む、組織及び他の物質を含む)は、そのハプロタイプについてホモ接合性又はヘテロ接合性のいずれかである個体に移植することができる。スーパードナーは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DP又はHLA-DQの遺伝子座対立遺伝子について、それぞれホモ接合性であり得る。
【0076】
II.多能性幹細胞
本開示の特定の実施形態では、多能性幹細胞から心臓始原細胞を提供するための方法及び組成物を開示する。多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞及び胚性幹細胞を含む幹細胞であってもよいが、これらに限定されない。
【0077】
特定の態様では、本明細書で使用される多能性幹細胞は、ヒト胚性幹細胞(ESC)又は人工多能性幹細胞(iPSC)であり、本開示の心臓始原細胞を含む、身体のすべての細胞型に分化する能力を保持しつつ、インビトロで長期間増殖することができる。したがって、これらの細胞は潜在的に、医薬品開発及び治療的利用の両方のために、患者特有の機能的な心臓始原細胞の無制限供給を提供し得る。
【0078】
A.胚性幹細胞
特定の態様では、多能性幹細胞は性幹細胞(ESC)である。ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来し、インビトロにおいて高い分化能を有する。ES細胞は発生中の胚の外側の栄養外胚葉層を除去し、次いで非成長細胞のフィーダー層上で内部細胞塊を培養することによって単離することができる。再びプレーティングされた細胞は増殖し続けて新たなES細胞のコロニーを製造することができ、再び除去し、解離し、プレーティングして、成長させることができる。未分化ES細胞を「継代培養」するこのプロセスは、何度も繰り返すことができ、未分化ES細胞を含有する細胞株を製造することができる(米国特許第5,843,780号;同第6,200,806号;同第7,029,913号)。ES細胞は、多能性を維持したまま増殖能を有する。例えば、ES細胞は、細胞分化を制御する細胞及び遺伝子の研究に有用である。ES細胞の多能性は、遺伝子操作及び遺伝子選択と組み合わせて、トランスジェニックマウス、キメラマウス、及びノックアウトマウスの生成を介したインビボでの遺伝子分析研究に使用することができる。
【0079】
マウスES細胞を製造する方法は周知である。1つの方法では、129系統マウスの着床前胚盤胞をマウス抗血清で処置して栄養外胚葉を除去し、化学的に不活性化したマウス胚性線維芽細胞のフィーダー細胞層上で、ウシ胎児血清を含有する培地中で、内部細胞塊を培養する。発生する未分化のES細胞コロニーは、ウシ胎児血清の存在下で、マウス胚性線維芽細胞のフィーダー層上で、継代培養されて、ES細胞群を製造する。いくつかの方法においては、マウスES細胞は、サイトカイン白血病阻害因子(LIF)を血清含有培養培地に添加することによって、フィーダー層がなくても増殖させることができる(Smith、2000)。他の方法では、マウスES細胞を、骨形成タンパク質及びLIFの存在下で、無血清培地中で増殖させることができる(Ying et al.,2003)。
【0080】
ヒトES細胞は、既に記載された方法(Thomson and Marshall、1998; Reubinoff et al、2000)により、精子及び卵細胞の融合、核移植、病因、又はクロマチンのリプログラミングと続いて胚性細胞を製造するためのリプログラミングされたクロマチンの細胞膜への組み込みによって製造された、接合体又は胚盤胞期の哺乳動物の胚から、製造されるか又はこれらに由来し得る。1つの方法では、ヒト胚盤胞を抗ヒト血清に曝露し、栄養外胚葉細胞を溶解し、内部細胞塊を取り出して、マウス胚性線維芽細胞のフィーダー層上で培養する。さらに、内部細胞塊に由来する細胞凝集塊を化学的又は機械的に分離し、再プレーティングし、未分化形態を有するコロニーをマイクロピペットによって選択し、分離し、再プレーティングする。いくつかの方法において、塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下で、線維芽細胞のフィーダー層上で、ヒトES細胞を培養することによって、血清を用いずに、ヒトES細胞を増殖させることができる(Amit et al、2000)。他の方法では、塩基性線維芽細胞増殖因子を含む「馴化」培地の存在下で、MATRIGEL(商標)又はラミニンなどのタンパク質マトリックス上で細胞を培養することによって、ヒトES細胞はフィーダー細胞層なしで増殖させることができる(Xu et al., 2001).
【0081】
また、ES細胞は、マウス及びヒトの樹立細胞株からのみならず、既に記載された方法(Thomson and Marshall、1998; Thomson et al、1995; Thomson and Odorico、2000; 米国特許第5,843,780号)によって、アカゲザル及びマーモセットを含む他の生物からも得ることができる。例えば、ヒト樹立ES細胞株には、MAOI、MA09、ACT-4、HI、H7、H9、H13、H14及びACT30が含まれる。さらなる例として、マウス樹立ES細胞株は、129系統マウスの胚の内部細胞塊から樹立されたCGR8細胞株を含み、CGR8細胞の培養物は、フィーダー層なしで、LIFの存在下で、増殖させることができる。
【0082】
ES幹細胞は、転写因子Oct4、アルカリホスファターゼ(AP)、ステージ特異的胚性抗原SSEA-1、ステージ特異的胚性抗原SSEA-3、ステージ特異的胚性抗原SSEA-4、転写因子NANOG、癌退縮抗原1-60(TRA-1-60)、癌退縮抗原1-81(TRA-1-81)、SOX2、又はREX1を含むタンパク質マーカーによって検出することができる。
【0083】
B.人工多能性幹細胞
他の態様では、本明細書で使用される多能性幹細胞は、一般にiPS細胞又はiPSCと略される、人工多能性幹(iPS)細胞である。多能性の誘導は、多能性に関連した転写因子の導入を介した体細胞のリプログラミングにより、2006年にマウス細胞を用いて達成され(Yamanaka et al.2006)、2007年にヒト細胞を用いて達成された(Yu et al.2007;Takahashi et al.2007)。iPSCの使用は、ES細胞の大規模な臨床的使用に紐づく倫理的及び実際的問題の大部分を回避し、iPSC由来の自家移植をした患者は、移植片拒絶反応を予防するための、生涯にわたる免疫抑制処置を必要としないであろう。
【0084】
生殖細胞を除いて、どんな細胞もiPSCの出発点として使用することができる。例えば、細胞型は、ケラチノサイト、線維芽細胞、造血細胞、間葉細胞、肝細胞、又は胃細胞であり得る。T細胞も、リプログラミングのための体細胞の供給源として使用され得る(米国特許第8,741,648号;米国特許公報第2015/0191697号)。細胞分化の程度又は細胞が採取される動物の年齢に制限はなく、未分化の始原細胞(体細胞を含む)及び最終的に分化した成熟細胞でさえも、本明細書に開示される方法における体細胞の供給源として使用することができる。iPS細胞は、ヒトES細胞を特定の細胞型に分化させる公知の条件下で増殖させることができ、SSEA-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、及びTRA-1-81を含むヒトES細胞マーカーを発現する。
【0085】
当業者に公知の方法を用いて、体細胞をリプログラミングして、iPSC細胞を製造することができる。当業者であれば、iPS細胞を容易に製造することができ、例えば、参照により本明細書に組み入れられる、公開された米国特許出願第2009/0246875号、同第2010/0210014号、同第2012/0276636、米国特許第8,058,065号、同第8,129,187号;、PCT公報第WO2007/069666 A1号、米国特許第8,268,620号;同第8,546,140号;同第9,175,268号;同第8,741,648号;米国特許出願第2011/0104125号、及び米国特許第8,691,574号を参照されたい。一般に、核リプログラミング因子は、体細胞から多能性幹細胞を製造するために使用される。一部の実施形態では、Klf4、c-Myc、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28のうちの少なくとも3つ、又は少なくとも4つが利用される。他の実施形態では、Oct3/4、Sox2、c-Myc、及びKlf4が利用されるか、又はOct3/4、Sox2、Nanog及びLin28が利用される。
【0086】
これら核リプログラミング物質のマウス及びヒトcDNA配列は、参照により本明細書に組み入れられるWO2007/069666及び米国特許第8,183,038号に記載されている、NCBIアクセッション番号の参照により入手可能である。1つ以上のリプログラミング物質、又はこれらのリプログラミング物質をコードする核酸を導入する方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、米国特許第8,268,620、同第8,691,574、同第8,741,648、同第8,546,140、公開された米国特許第8,900,871号及び米国特許第8,071,369号においても開示されており、いずれも参照により本明細書に組み込まれる。
【0087】
ひとたび誘導されると、iPSCは、多能性を維持するのに十分な培地中で培養され得る。iPSCは、米国特許第7,442,548号及び米国特許公報第2003/0211603号に記載されているように、多能性幹細胞、より具体的には胚性幹細胞を培養するために開発された様々な培地及び技法と共に使用することができる。マウス細胞の場合、分化抑制因子として白血病抑制因子(LIF)を通常の培地に添加して培養する。ヒト細胞の場合、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加することが望ましい。iPSCを培養し、維持するための他の方法は、当業者に公知であるように、本明細書に開示される方法と共に使用され得る。
【0088】
特定の実施形態では、未定義の条件を使用することができ、例えば、多能性細胞は、線維芽細胞のフィーダー細胞又は線維芽細胞のフィーダー細胞に曝露された培地上で培養し、幹細胞を未分化状態に維持することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、フィーダー細胞として、細胞分裂を終了させるために放射線又は抗生物質により処置されたマウス胚線維芽細胞との共存下で培養される。あるいは、多能性細胞は、規定のフィーダー非依存性培養系、例えば、TESR(商標)培地(Ludwig et al、2006a; Ludwig et al、2006b)又はE8(商標)/Essential 8(商標)培地(Chen et al、2011)などを用いて、本質的に未分化の状態で培養され、維持され得る。
【0089】
プラスミドは多くの目標を考慮して設計されており、例えば、制御された高コピー数を達成し、細菌中でのプラスミド不安定性の潜在的な要因を回避し、ヒト細胞を含む哺乳動物細胞での使用に適合するプラスミド選択のための手段を提供すること、などである。ヒト細胞で使用するためのプラスミドには、二重の要件に対して、特に注意が払われる。第一に、大量のDNAを製造及び精製することができるように、大腸菌における維持及び発酵に適していることである。第二に、それらは安全であり、ヒトの患者及び動物における使用に適していることである。第1の要件は、細菌の発酵中に比較的容易に選択され、安定して維持され得る高コピー数プラスミドを必要とする。第2の要件は、選択可能なマーカー及び他のコード配列などの要素に注意を払うことを必要とする。いくつかの実施形態ではマーカーをコードするプラスミドは、(1)高コピー数の複製起点、(2)選択マーカー、例えば、カナマイシンによる抗生物質選択のためのneo遺伝子などであるが、これらに限定されない、(3)チロシナーゼエンハンサーを含む転写終結配列、(4)様々な核酸カセットを組み込むためのマルチクローニング部位、及び(5)チロシナーゼプロモーターに機能的に連結されたマーカーをコードする核酸配列、から構成される。特定の態様では、プラスミドは、チロシナーゼエンハンサー又はプロモーターを含まない。あるタンパク質をコードする核酸を誘導するために、多数のプラスミドベクターが当技術分野で公知である。これらには、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,103,470号、米国特許第7,598,364号、米国特許第7,989,425号、米国特許第6,416,998号、及び米国特許出願第12/478,154号に開示されているベクターが含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
エピソーマル遺伝子導入システムは、プラスミド、エプスタイン-バーウイルス(EBV)ベースのエピソーマルベクター(米国特許第8,546,140号)、酵母ベースのベクター、アデノウイルスベースのベクター、サルウイルス40(SV40)ベースのエピソーマルベクター、ウシパピローマウイルス(BPV)ベースのベクター、又はレンチウイルスベクターであり得る。ウイルス遺伝子導入システムは、RNAベース又はDNAベースのウイルスベクター(PCT/JP2009/062911、PCT/JP2011/069588)であり得る。
【0091】
C.体細胞核移植由来の胚性幹細胞
造血前駆細胞を製造するための多能性幹細胞は、体細胞核移植によって調製することもでき、ドナー核が紡錘体を含まない卵母細胞に移植される。核移植によって製造された幹細胞は、ドナー核と遺伝的に同一である。1つの方法では、アカゲザルの皮膚線維芽細胞からのドナー線維芽細胞核を、紡錘体を含まない成熟中期IIのアカゲザル卵母細胞の細胞質に、電気融合によって導入する(Byrne et al., 2007)。融合した卵母細胞は、イオノマイシンに曝露して活性化し、次いで胚盤胞期までインキュベートする。次いで、選択された胚盤胞の内部細胞塊を培養して、胚性幹細胞株を製造する。胚性幹細胞株は正常なES細胞の形態を示し、様々なES細胞マーカーを発現し、インビトロ及びインビボの両方で複数の細胞型に分化する。
【0092】
D.MHCハプロタイプマッチング
主要組織適合抗原は、同種臓器移植の免疫拒絶の主な原因である。MHCクラスIには3つの主要なハプロタイプ(A、B、及びC)があり、MHCクラスIIにも3つの主要なハプロタイプ(DR、DP、及びDQ)がある。HLA遺伝子座は多型に富み、第6染色体上の4Mbにわたって分布している。この領域内のHLA遺伝子のハプロタイプの能力は、この領域が自己免疫疾患及び感染性疾患に関連し、ドナーとレシピエントとの間のHLAハプロタイプの適合性が移植の臨床転帰に影響を及ぼし得るため、臨床的に重要である。MHCクラスIに対応するHLAは細胞内からペプチドを提示し、MHCクラスIIに対応するHLAは細胞外からTリンパ球に抗原を提示する。移植片と宿主との間のMHCハプロタイプの不適合性は、移植片に対する免疫応答を誘発し、その拒絶をもたらす。したがって、患者を免疫抑制剤で処置し、拒絶反応を防ぐことができる。HLA適合性の幹細胞株は、免疫拒絶のリスクを克服し得る。
【0093】
移植におけるHLAの重要性のために、血清学及びPCRによって、通常HLA遺伝子座は分類され、ドナーとレシピエントの好ましいペアを決める。HLAクラスI及びクラスII抗原の血清学的検査は、精製Tリンパ球又はBリンパ球で、補体媒介リンパ球細胞傷害試験を用いて行うことができる。この手順は、HLA-A及びHLA-B遺伝子座をマッチングするために主に使用される。分子に基づいた組織型の分類は、血清学的検査よりも正確であることが多い。低解像度の分子的手法、例えばSSOP(配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ)法など、一連のオリゴヌクレオチドプローブに対してPCR産物を分析する方法を用いてHLA抗原を同定することができ、現在、これらの方法はクラスII-HLAの型の分類に用いられる最も一般的な方法である。高解像度技術、例えばPCR増幅に対立遺伝子特異的プライマーを利用するSSP(配列特異的プライマー)法などは、特異的MHC対立遺伝子を同定することができる。
【0094】
ドナー細胞がHLAホモ接合性、すなわちそれぞれの抗原提示タンパク質に対して同一の対立遺伝子を持つ場合、ドナーとレシピエントとの間のMHC適合性は有意に増加する。大部分の個体は、MHCクラスI及びクラスII遺伝子についてヘテロ接合性であるが、特定の個体はこれらの遺伝子についてホモ接合性である。これらのホモ接合性個体はスーパードナーとして働くことができ、それらの細胞から生成された移植片は、そのハプロタイプについてホモ接合性又はヘテロ接合性のいずれかである、全ての個体に移植することができる。さらに、ホモ接合のドナー細胞が、集団において高頻度で見られるハプロタイプを有する場合、これらの細胞は多数の個体の移植療法において利用され得る。
【0095】
したがって、いくつかの実施形態では、本方法のiPSCは、処置される対象、又は患者と同じ若しくは実質的に同じHLA型を有する、別の対象の体細胞から製造され得る。1つの場合において、ドナーの主要なHLA(例えば、HLA-A、HLA-B及びHLA-DRの3つの主要な遺伝子座)は、レシピエントの主要なHLAと同一である。いくつかの場合において、体細胞ドナーはスーパードナーであり得る。したがって、MHCホモ接合性であるスーパードナー由来のiPSCを使用して、コミットされた心臓始原細胞群を生成し得る。よって、スーパードナー由来のコミットされた心臓始原細胞は、そのハプロタイプについてホモ接合性又はヘテロ接合性のいずれかである対象に移植され得る。例えば、コミットされた心臓始原細胞は、HLA-A及びHLA-Bなどの2つのHLA対立遺伝子においてホモ接合性であり得る。そのため、スーパードナーから製造したコミットされた心臓始原細胞は、本明細書に開示される方法において使用することができ、潜在的な多数のレシピエントに「適合」し得る可能性のあるコミットされた心臓始原細胞を製造することができる。
【0096】
したがって、本開示の特定の実施形態は、HLAホモ接合性のコミットされた心臓始原細胞の宝庫(例えば、ライブラリ)を提供する。主要ライブラリーに代表されるHLAハプロタイプは、ヒト集団に見られる最も一般的なHLAハプロタイプを反映することができ、例えば、白人の一般的なHLAハプロタイプ、アフリカ系の個体に見られる一般的なHLAハプロタイプ、アジア人の一般的なHLAハプロタイプ、ラテンアメリカ系の一般的なHLAハプロタイプ、ネイティブアメリカ系の一般的なHLAハプロタイプ、などである。例えば、単一の豊富なハプロタイプは、集団中で非常に大きな割合で存在し得るので、単一のHLAホモ接合性の細胞株は、非常に大きな割合の患者にとっての組織適合性ドナーの役割を果たすことができる。ライブラリーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、10~15、15~20、20~25、25~30、又は30超の異なる型のHLAホモ接合性細胞を含む。主要ライブラリーには、第1のHLAハプロタイプについてホモ接合性の第1のHLAホモ接合性細胞を、そして少なくとも第2のHLAハプロタイプについてホモ接合性の第2のHLAホモ接合性細胞を含むことができる。主要ライブラリーは、単一の細胞型又は2つ以上の異なる細胞型を含むことができる。主要ライブラリーは、例えば検索可能なコンピュータデータベースによってカタログ化することができ、HLAハプロタイプに関する情報、及び所望により細胞表面マーカー、核型情報などの追加情報を蓄積し、検索することができる。
【0097】
本明細書に記載の、HLAホモ接合性のコミットされた心臓始原細胞は、細胞及び/又は組織の移植を含む、広範な臨床用途で使用されることが考え得る。HLAホモ接合性のコミットされた心臓始原細胞は、レシピエントとHLA適合性であり、したがって、免疫抑制療法を必要とせずに、又は少なくとも免疫抑制療法の必要性が低く、レシピエントに導入することができる。標準的な免疫抑制薬であるレジメンは、数千ドル/月の費用がかかり、生命を脅かすことが多く、処置に費用がかかる感染症や癌を含む、望ましくない副作用を有する可能性がある。したがって、本願のHLAホモ接合性のコミットされた心臓始原細胞は、現在臨床用途へのヒト細胞の使用を制限するいくつかの障害を克服する。
【0098】
III.コミットされた心臓始原細胞群(CTC4)への分化
本開示の実施形態は、PSC、特にiPSCの、心臓始原細胞(さらに心筋細胞へと分化するようにコミット又はプライミングされている)への分化に関するものである。図1Aの概略図は例示的な6日間分化プロセスを示す。バイオリアクターでの大規模な分化などを開始する前に、ビトロネクチンコーティング容器上でEssential 8培地を用いてiPSCを増殖させ、このiPSCを用いてプロセスを始める。
【0099】
いくつかの態様では、本願方法は、完全懸濁バイオリアクタープロセスにおけるWntシグナル伝達の調節に関するものである。心臓発生の間、中胚葉におけるWntのシグナル伝達を迅速に調節し、心臓への特異化をさらに進めることができる。これまで、Wntシグナル伝達を減少させなければならないタイミングについては十分に記載されていない。本研究では、2つの細胞表面マーカーであるCXCR4及びCD56の発現を追跡した。心臓への分化は、これらの2つのマーカーを毎日分析することによって追跡することができ、発現プロファイルに基づいて、着実に心臓へ分化させるための決定を行うことができる。初期の中胚葉段階はCXCR4+CD56-の細胞群で表され、続いてCXCR4+CD56+の2つとも陽性である細胞で表され、その後CXCR4の発現の消失で表され、CXCR4-CD56+のコミットされた心臓始原細胞をもたらす。
【0100】
図3Bに示されるように、細胞を心筋細胞にする着実な心臓への特異化のために、Wntシグナル伝達は阻害され得る。好ましくは、3日目の培養物が、CXCR4について少なくとも30%陽性であり、CD56について60%未満陽性であることである。Wntシグナル伝達が阻害される前に、培養物がCD56について60%超陽性になった場合、心臓細胞への着実な特異化は起こらないかもしれず、よって心筋細胞になる効率が低くなり得る。さらに、培養物がすでに20%超のCXCR4-CD56+になってしまい、CXCR4の発現の減少を示している場合もまた、着実な心臓への特異化のためのWntシグナル伝達阻害には遅すぎる。
【0101】
A.集合体形成
多能性幹細胞は、まずWntアゴニスト(例えば、CHIR99021)により分化を開始させるとともに、集合体の形成を誘導して、CTC4細胞に分化させる。集合体では、分化が開始され、細胞は限られた範囲で胚発生の再現をし始める。栄養外胚葉組織(胎盤を含む)を形成することはできないが、生物中に存在する実質的に全ての他の型の細胞が発生し得る。本開示は、集合体形成後の心臓への分化をさらに促進し得る。
【0102】
多能性細胞は、分化プロセスの一部として、胚様体又は集合体を形成させることができる。分化を誘導するための、「胚様体」(EB)すなわち増殖細胞のクラスターの形成は、一般に、EBとなるヒト多能性幹細胞のインビトロにおける集合体に関連しており、ヒト多能性幹細胞が、内胚葉、外胚葉、及び中胚葉の起源を表す複数の組織型へと、自発的かつランダムに分化することを可能にする。
【0103】
特定の実施形態において、多能性幹細胞は、ROCK阻害剤及びWnt経路の化学的アゴニスト、例えばGSK3阻害剤(例えば、CHIR99021)などの存在下で培養され、Wnt経路を活性化される。Wnt経路のアゴニストには、CAS 853220-52-7(2-アミノ-4-(3,4-(メチレンジオキシ)ベンジルアミノ)-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジン)、SB216763、CHIR98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、BIO、AZD2858、AZD1080、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、又はIM-12を含み得る。培地には、CHIR99021などのWntアゴニストを、約1~10μMの濃度で、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10μMの濃度で含み得る。特定の態様では、培地には約4.4μMの濃度でCHIR99021などのWntアゴニストを含む。特定の態様では、本方法は、例えば0日目~1日目などの集合体形成中に約2μMのWntアゴニストの存在下で細胞を培養し、次いで中胚葉誘導のために、例えば1日目~3日目などで、約4.4μMの存在下で細胞を培養することを含む。
【0104】
ROCK阻害剤は、多能性幹細胞の培養及び継代、及び/又は幹細胞の分化のために使用され得る。したがって、ROCK阻害剤は、多能性幹細胞が増殖し、解離し、集合体を形成し、又は分化しているときのあらゆる細胞培養(例えば、接着性培養又は懸濁培養)の培地中に存在し得る。Rho特異的阻害剤、例えばボツリヌス菌C3酵素など、及び/又はミオシンII特異的阻害剤も、本開示の特定の態様においてROCK阻害剤として使用することができる。特定の態様では、ブレビスタチンなどのミオシンII阻害剤を使用して、集合体形成を誘導することができる。
【0105】
例示的なROCK特異的阻害剤はY-27632であり、ROCK1を選択的に標的とし(ROCK2をも阻害する)、また、TNF-α及びIL-1βも阻害する。Y-27632は細胞透過性であり、ATPと競合することでROCK1/ROCK2を阻害する(IC50=800nM)。他のROCK阻害剤としては、例えば、H1152、Y-30141、Wf-536、HA-1077、ヒドロキシルHA-1077、GSK269962A及びSB-772077-Bなどが挙げられる。特定の態様では、本方法で使用されるROCK特異的阻害剤は、H1152である。いくつかの態様では、H1152は、50~200μMの濃度で、例えば約100μMの濃度で、培養物中に存在する。
【0106】
ROCK阻害剤の他の非限定的な例として、ROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導核酸(例えば、siRNA)、競合ペプチド、アンタゴニストペプチド、阻害抗体、ScFV抗体フラグメント、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターなどが挙げられる。さらに、他の低分子化合物もROCK阻害剤として知られているので、そのような化合物又はその誘導体も実施形態において使用することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許公報第20050209261号、同第20050192304号、同第20040014755号、同第20040002508号、同第20040002507号、同第20030125344号、並びに同第20030087919号、及び国際特許公報第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、並びに同第2004/039796号を参照されたい)。本方法では、1つ又は2つ以上のROCK阻害剤を組み合わせて使用することもできる。
【0107】
いくつかの実施形態によれば、培地中でPSCをROCK阻害剤で処置することができる。そのため、本開示の方法において使用される培地はROCK阻害剤を既に含有していてもよく、あるいは、本開示の方法がROCK阻害剤を培地に添加する工程を含んでもよい。培地中のROCK阻害剤の濃度は、幹細胞の生存率の向上などの所望の効果を達成できる限り、特に限定されない。そのようなROCK阻害剤、例えば、Y-27632、HA-1077、又はH-1152は、有効濃度、少なくとも又は約0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100、150、200、500~約1000μM、又はこの中から導き出せる任意の範囲の濃度で使用され得る。これらの数値は、個々の又は1つ以上のROCK阻害剤と組み合わせた場合のROCK阻害剤の量を示し得る。
【0108】
例えば、Y-27632がROCK阻害剤として使用される場合、約0.01~約1000μMの濃度で、より具体的には約0.1~約100μMの濃度で、さらにより具体的には約1.0~約30μMの濃度で、最も具体的には約2.0~20μMの濃度で、又はこの中から導き出せる任意の範囲の濃度で、使用することができる。ROCK阻害剤としてファスジル(HA1077)を使用する場合、前述のY-27632濃度の約2倍の濃度で使用することができる。ROCK阻害剤としてH1152を用いる場合、前述のY-27632濃度の約1/50で用いることができる。
【0109】
集合体形成工程は、集合体の製造を誘導するのに十分な時間行われる。例えば、人工多能性幹細胞などの多能性幹細胞はROCK阻害剤と、約10、15、20、25、30分~数時間(例えば、少なくとも又は約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間、12時間、16時間、24時間、36時間、48時間、又はこの中から導き出せる任意の範囲)、接触させることができる。特定の態様において、1~3日の期間、例えば約1日など、が細胞を誘導して集合体を形成させるのに十分である。
【0110】
ROCK阻害剤で処置される幹細胞の密度は、幹細胞の生存率の向上などの所望の効果が得られる密度であれば特に限定されない。細胞の密度は、例えば、約1.0×101~1.0×107細胞/ml、より具体的には約1.0×102~1.0×107細胞/ml、さらにより具体的には約1.0×103~1.0×107細胞/ml、最も具体的には約3.0×104~2.0×106細胞/mlである。
【0111】
特定の実施形態において、低密度(解離された単細胞又は小集合体)での生存、クローニング効率又は継代効率を向上させるために、PSCはROCK阻害剤の存在下で培養される。特定の実施形態では、フィーダー細胞、フィーダー細胞抽出物及び/又は血清の非存在下で、PSCが培養される。サブクローニング又は継代の前に、例えば、サブクローニング又は継代の少なくとも1時間前に、ROCK阻害剤の存在下でPSCを培養することができる。代わりに又は追加的に、サブクローニング又は継代の間又は後に、ROCK阻害剤の存在下でPSCは維持される。
【0112】
細胞培養の技術分野において公知の方法のいずれかを用いて、多能性幹細胞を集合体形成促進培地に播種することができる。例えば、多能性幹細胞を単一コロニー又はクローン群として集合体形成促進培地に播種することができ、また多能性幹細胞を本質的に個々の細胞として播種することもできる。いくつかの実施形態では、当該技術分野で公知の機械的又は酵素的方法を用いて、多能性幹細胞は本質的に個々の細胞に解離される。非限定的な例として、細胞と培養表面との間及び細胞どうしの間の結合を破壊するタンパク質分解酵素に、多能性幹細胞を曝露することができる。多能性幹細胞を個別化し、集合体形成及び分化を誘導するのに使用され得る酵素としては、トリプシン、例えばTrypLEのようなトリプシンの様々な市販の製剤、又はAccutase(登録商標)などの酵素の混合物が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0113】
様々なマトリックス成分を使用して、多能性細胞を培養することができ、マトリックス成分には、コラーゲン(例えば、コラーゲンIV)、ラミニン、ビトロネクチン、Matrigel(商標)、ゼラチン、ポリリシン、トロンボスポンジン(例えば、TSP-1、TSP-2、TSP-3、TSP-4及び/又はTSP-5)、フィブロネクチン、及び/又はProNectin-F(商標)を含む。これらのマトリックス成分の組み合わせにより、細胞増殖及び細胞生存能力が促進されるという追加的な効果が得られる。特定の実施形態では、1、2、3、4、5、6、又はそれ以上の上記マトリックス成分を使用して細胞を培養することができる。いくつかの態様では、多能性細胞がビトロネクチンコーティングされた表面上で培養される。
【0114】
特定の実施形態では、多能性細胞は本質的に個々の(又は分散した)細胞として培養培地に添加され又は播種され、培養表面上で培養物を形成することができる。細胞が播種される培養培地は、Essential 8(E8)培地、ROCK阻害剤などの生存因子、及びWnt経路アゴニストを含み得る。これらの実施形態において、培養表面は、例えば、非接着性表面など、基本的に当該技術分野における標準的な無菌細胞培養方法に適合する任意の物質から構成され得る。培養表面は、本明細書に記載のマトリックス成分(例えば、ビトロネクチン)をさらに含んでもよい。特定の実施形態において、マトリックス成分を培養表面に注入してから、培養表面と細胞及び培地と接触させてもよい。
【0115】
B.中胚葉誘導
次に、iPS細胞の集合体などの多能性幹細胞の集合体を培地中で培養して、中胚葉誘導を促進する。集合体は、Wntアゴニスト、及び場合により任意で、Activin/Nodalアゴニスト及び/又はBMPと接触させることができる。特定の態様では、培地はROCK阻害剤又はインスリンを含まない。培地は、集合体形成工程と比較して、より高濃度の1つ以上のWntアゴニストを含んでもよい。Wntアゴニストは、集合体形成工程におけるWntアゴニストと同じであってもよく、又は異なるWntアゴニストであってもよい。Wnt経路のアゴニストは、CHIR99021、IWP-1、IWP-2、IWP-3、IWP-4、CAS 853220-52-7(2-アミノ-4-(3,4-(メチレンジオキシ)ベンジルアミノ)-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジン)、SB216763、CHIR98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、BIO、AZD2858、AZD1080、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、又はIM-12を含み得る。Wntアゴニストは、CHIR99021であってもよく、約1~10μM、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10μMの濃度で存在してもよい。特定の態様では、WntアゴニストはCHIR99021であり、約4~5μMの濃度で、例えば約4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、又は5μMの濃度で、具体的には約4.4μMの濃度で存在する。
【0116】
アクチビンアゴニストは、例えばTGFβ又はアクチビン受容体に結合することによって、Activin/Nodalシグナル伝達経路を活性化する化合物である。アクチビンアゴニストの例としては、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB、TGFβl、成長分化因子(GDF)-3、BML-284及びNodalが挙げられる。例えば、アクチビンアゴニスト又はBMPは、0.1ng/mL~12ng/mLの濃度で使用され得る。
【0117】
中胚葉誘導のための基礎培地は、当該技術分野で公知の、幹細胞を培養するための任意の培地であり得る。例示的な培地としては、E8培地、TeSR培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、Ham培地、RPMI 1640培地、及びFischer's培地が挙げられる。特定の態様では、基礎培地がB27を補充したRPMI培地である。特定の態様では、培地はインスリンを含まないか、又はインスリンを実質的に含まない。
【0118】
中胚葉誘導工程は、CXCR4、KDR、PDGFRα、及び/又はCD56などの中胚葉マーカーを誘導し、CKIT及び/又はEPCAMの発現を喪失するのに十分な期間であり得る。例えば、集合体はWntアゴニスト、Activin/Nodalアゴニスト、及び/又はBMPの存在下で、約1~5日間、例えば、約1、2、3、4、又は5日間、培養され得る。特定の態様では、中胚葉誘導のために集合体は、約2~3日間培養される。
【0119】
特定の態様では、2日目などの初期中胚葉段階で、CXCR4が発現し始める。次に、CXCR4のより強力な発現が、CD56発現の開始と共に検出される。
【0120】
C.心臓への特異化
次いで、中胚葉細胞は、Wnt阻害剤及び、場合により任意でTGFβ阻害剤の存在下で、心臓への特異化を方向づけられる。培養物は、インスリン、アクチビン阻害剤、及び/又はBMP阻害剤をさらに含んでもよい。心臓への特異化は、インスリンの添加によって促進され得る。細胞がひとたびCD56について60%未満陽性であり、CXCR4について少なくとも20%陽性になると、Wnt阻害剤が添加され得る。4日目などのWnt阻害後、細胞は初期心臓中胚葉段階にあり、CXCR4の発現の喪失、細胞群の大部分のCD56を発現、KDR+PDGRFα+集団の出現により特徴づけられる。5日目に、KDR+PDGFRα+である心臓始原細胞群が、CD56の継続的な発現及びCXCR4発現の喪失とともに見られる。次いで、6日目などには、KDR発現の喪失が特徴のプライミングされた又はコミットされた心臓前駆体集団が出現する。
【0121】
特定の態様では、中胚葉段階にある集合体は、懸濁培養系に保持し、心臓への特異化を開始することができ、又は心臓への特異化を開始する前に、中胚葉細胞を個別化し、単層培養としてプレーティングすることができる。CTC4細胞は、両方の培養系の方法により製造することができる。CTC4細胞は、さらに培養して、心筋細胞を製造することができる。特に、分化プロセスは、薬剤耐性選択又は代謝選択を使用せず、無血清であってもよい。
【0122】
Wnt阻害剤は、XAV939、ICG-001、IWR-1-endo、Wnt-C59、LGK-974、LF3、CP21R7、NCB-0846、PNU-74654、IWR-1、IWR-2、IWR-3、IWR-4又はKYA179Kであり得る。XAV939などのWnt阻害剤は、約1~25mMの濃度で、例えば約5mM、10mM、又は15mMの濃度で、特に約10mMの濃度で存在し得る。
【0123】
TGFβ阻害剤は、SB431542、LDN-193189、LY2157299、LY2109761、SB525334、SIS HCl、SB505124、GW788388、又はLY364947であり得る。SB431542などのTGFβ阻害剤は、約1~25mMの濃度で、例えば約5mM、10mM、又は15mMの濃度で、特に約10mMの濃度で存在し得る。193189、LY2157299、LY2109761、SB525334、SIS HCl、SB505124、GW788388、又はLY364947。SB431542などのTGFβ阻害剤は、約1~5μMの濃度で、例えば約1、2、又は3μMの濃度で、特に約2μMの濃度で存在し得る。
【0124】
BMP阻害剤は、6-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]-3-(4-ピリジニル)-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン二塩酸塩(ドルソモルフィン)、4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン塩酸塩(LDN193189)、4-[6-[4-(1-メチルエトキシ)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン(DMH1)、4-[6-[4-[2-(4-モルホリニル)エトキシ]フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン(DMH-2)、及び5-[6-(4-メトキシフェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン(ML 347)であり得る。ドルソモルフィンなどのBMP阻害剤は、約0.1μM~5μMの濃度で、例えば約1、2、又は3μMの濃度で、特に約2μMの濃度で存在し得る。
【0125】
CTC4細胞は、心臓への特異化の開始から約1~4日後に、中胚葉から製造され得る。心臓への特異化は約1~4日間、例えば、約2又は3日間行われ得る。次いで、CTC4細胞を凍結保存させることができ、又はB27サプリメントを含むRPMI培地などの適切な培地中で心筋細胞に分化させることができる。特定の態様では、細胞群がひとたびPDGFRαについて少なくとも70%陽性であり、KDRについて40%未満陽性であり、EPCAMについて20%未満陽性であり、SAAについて20%未満陽性になれば、コミットされた心臓始原細胞群は単離され又は凍結保存され得る。
【0126】
コミットされた心臓始原細胞の集合体は、解離され、凍結保存され得る。集合体の解離は、任意の公知の手順を用いて行うことができる。これらの手順は、キレート剤(例えばEDTAなど)、酵素(例えばトリプシン、コラゲナーゼなど)等で処置すること、及び機械的解離(例えばピペッティングなど)の操作を含む。細胞は、上述のようなマトリックス上、例えばビトロネクチンコーティングされた表面上で培養され得る。
【0127】
D.CTC4の心筋細胞への分化
図7Aに記載されるように、CTC4細胞は、心筋細胞にさらに成熟又は分化され得る。特に、CTC4細胞は、当該技術分野で公知の分化条件によって、心房細胞、心室細胞、及びペースメーカー細胞などの心筋細胞の亜集団に成熟させることができる。様々なサイズの容器にプレーティングして、CTC4細胞は高純度でかつ収縮する単層の心筋細胞に分化することができる(図7C~E)。
【0128】
心筋細胞の表現型を促進するために、心筋細胞型の細胞の増殖又は生存を増強させる、又は他の細胞型の成長を阻害する、因子及び因子の組み合わせを用いて、細胞を培養することができる。この効果は、細胞自体に対する直接的な効果によるものであってもよいし、結果として心筋細胞の形成を増強するので、別の細胞型に対する効果によるものであってもよい。例えば、内胚葉又は外肺葉と同等の細胞の形成を誘導する因子、又はこれらの細胞に自身の心臓分化を促進させるエレメントを製造させる因子は全て、心筋細胞への分化のための心臓向性因子又は分化因子の範囲内に含まれる。
【0129】
例えば、心臓への分化のための誘導培地としては、心臓になる前の外植片、心臓になる前の中胚葉馴化培地、HGFなどの中胚葉分泌増殖因子が挙げられ得るが、これらに限定されない。特定の態様では、分化因子は、細胞発生に関与する増殖因子であり得る。分化因子としては、骨形成タンパク質の1つ以上のシグナル伝達経路の調節因子、Activin A/Nodal、血管内皮増殖因子(VEGF)、Dickkopfホモログ1(DKK1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インスリン成長因子(IGF)、及び/又は上皮成長因子(EGF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
CTC4細胞は、培地中で培養され、心筋細胞への成熟を促進され得る。例示的な成熟培地として、B27サプリメントを含むRPMIを含み得る。いくつかの態様では、「成熟培地」という用語は、細胞をさらに分化させて、PDGFRαについて70%超陽性であり、KRDについて40%未満陽性であり、EPCAMについて20%未満陽性であり、及びサルコメアαアクチニンについて20%未満陽性である細胞群を製造するのに使用される培地を指す。例えば、細胞は、心筋細胞又は内皮細胞に分化し得る。
【0131】
1つの方法では、CTC4細胞は、上述のWnt阻害剤及びTGFβ阻害剤を補充した培地中で心筋細胞に成熟する。例えば、培地は、細胞維持カクテルB(すなわち、ペニシリン/ストレプトマイシン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸、BSA、リノール酸、GlutaMAX、及びHEPES)、Wnt阻害剤(例えば、XAV939)及びTGFβ阻害剤(例えば、SB431542)を含むWilliams E培地であってもよい。あるいは、TGFβ阻害剤の代わりに、又はTGFβ阻害剤に加えて、CTC4細胞をアクチビン阻害剤及び/又はBMP阻害剤と接触させてもよい。細胞は細胞外マトリックスコーティング(例えば、ビトロネクチン)上などで、単層培養され得る。
【0132】
E.細胞培養条件
本発明に係る培養条件は、使用する培地及び幹細胞に応じて適宜決められる。本開示に係る培地は、動物細胞の培養に用いる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としてはE8培地、TeSR培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、Ham培地、RPMI 1640培地、若しくはFischer's培地のいずれか、及びこれらの任意の組み合わせを用いることができるが、動物細胞の培養に用いることができる培地であれば特にそれらに限定されない。
【0133】
特定の態様では、本開示による培地は無血清培地である。無血清培地は未処理又は未精製の血清を含まない培地を指し、したがって、精製した血液由来成分又は動物組織由来成分(増殖因子など)を含む培地を含み得る。本開示による培地は、血清に代わる何らかの代替物を含有してもよいし、又は含有しなくてもよい。血清の代替物は、アルブミン(例えば、脂質に富むアルブミンやアルブミン代替物、例えば組換えアルブミン、植物デンプン、デキストラン及びタンパク質加水分解物など)、トランスフェリン(又は他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオグリセロール、又はそれらの等価物を適切に含有する材料を含むことができる。血清の代替物は例えば、国際公開第98/30679号に開示されている方法によって調製することができる。あるいは、より便宜を図って、任意の市販の材料を使用することもできる。市販の材料としては、ノックアウト血清代替(KSR)、Chemically-defined Lipid concentrated (Gibco社) 及びGlutamax(Gibco社)が挙げられる。
【0134】
本開示の培地はまた、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(非必須アミノ酸など)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化物質、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、及び無機塩を含有し得る。2-メルカプトエタノールの濃度は、例えば、約0.05~1.0mM、特に約0.1~0.5mMであり得るが、幹細胞を培養するのに適切である限り、濃度は特にそれに限定されない。
【0135】
幹細胞を培養するために使用される培養容器としては、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレイ、CellSTACK(登録商標)チャンバー、培養バッグ、ローラーボトル及びバイオリアクター、例えば、PBS500及び/又はPBS3などが挙げられ得るが、中で幹細胞を培養できるものであれば特に限定されない。幹細胞は、培養の必要性に応じて、少なくとも又は約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml、500ml、550ml、600ml、800ml、1000ml、1500ml、2000ml、又はその中で導き出せる任意の範囲の容積で培養することができる。特定の実施形態では、培養容器はバイオリアクターであってもよく、バイオリアクターは、生物学的に活動的な環境を支えるあらゆる装置又はシステムを指し得る。バイオリアクターは、少なくとも又は約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500L、1、2、4、6、8、10、15m3、又はその中から導き出せる任意の範囲の容積であり得る。
【0136】
培養容器は、細胞接着性又は非接着性であることができ、目的に応じて選択され得る。細胞接着性の培養容器は、容器表面の細胞への接着性を改善するために、細胞外マトリックス(ECM)などの細胞接着のための任意の基質でコーティングすることができる。細胞接着のための基質は、幹細胞又はフィーダー細胞(使用する場合)を接着させるための任意の材料であり得る。細胞接着のための基質には、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、並びにフィブロネクチン及びそれらの混合物、例えばMatrigel(商標)、及び溶解細胞膜調製物などが挙げられる(Klimanskaya et al., 2005)。
【0137】
他の培養条件は、適切に決めることができる。例えば、培養温度は約30~40℃、例えば、少なくとも又は約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であり得るが、特にこれらに限定されない。CO2濃度は、約1~10%、例えば、約2~5%、又はこの中から導き出せる任意の範囲であり得る。酸素分圧は、少なくとも、又は約1、5、8、10、20%、又はこの中から導き出せる任意の範囲であり得る。
【0138】
本開示の方法は、幹細胞の懸濁培養にも使用することができ、キャリア上での懸濁培養(Fernandes et al., 2007年)又はゲル/バイオポリマー封入(米国特許第20070116680号)での懸濁培養を含む。幹細胞の懸濁培養という用語は、幹細胞が培地中で、培養容器又はフィーダー細胞(使用される場合)に対して非接着条件下で培養されることを意味する。幹細胞の懸濁培養は、幹細胞の解離培養及び幹細胞の集合体懸濁培養を含む。幹細胞の解離培養という用語は、懸濁した幹細胞を培養することを意味し、幹細胞の解離培養には、単一の幹細胞の培養又は複数(例えば、約2~400細胞)の幹細胞からなる小細胞集合体の培養が含まれる。上記の解離培養を継続すると、培養された解離細胞はより大きな幹細胞の集合体を形成し、その後、集合体懸濁培養を行うことができる。凝集懸濁培養には、胚様体培養法(Keller et al、1995参照)及びSFEB法(Watanabe et al、2005);国際公開第2005/123902号)を含む。本開示の方法は、懸濁培養物中の幹細胞の生存率及び/又は分化効率を有意に改善することができる。
【0139】
バイオリアクターは、一般的なカテゴリーに従って分類することができ、静的バイオリアクター、撹拌フラスコバイオリアクター、回転壁容器バイオリアクター、中空糸バイオリアクター及び直接潅流バイオリアクターが挙げられる。バイオリアクター内で、細胞は遊離していてもよく、又は固定化されていてもよく、多孔質な三次元の足場(ヒドロゲル)上に播種されてもよい。特定の態様では、バイオリアクターは、均一な粒子懸濁液が得られる効率的な混合と低い剪断応力のため、懸濁バイオリアクターを用いる。
【0140】
F.GMP製造プロセス
本明細書で開示され使用される方法は、すべてのGMP適合材料を使用しており、複数(例えば、3L)のバイオリアクター製造バッチの規模に合わせて、心臓細胞治療開発に必要な純度及び細胞数を産生し得る。図2Bに示されるように、多層培養容器におけるiPSC増殖のスケールは、複数の3Lバイオリアクターに播種するのに必要十分なiPSCを産生する。製造中のCTC4凍結保存工程では、CTC4細胞300×106個/容器までのスケールで凍結でき(図2C)、大型動物モデルにおける前臨床開発や将来の臨床研究において、容器の解凍や取扱いを減らすことができる。
【0141】
G.コミットされた心臓始原細胞(CTC4細胞)の特性分析
本方法に従って得られる細胞は、多くの表現型の基準に従って、特徴付けることができる。CTC4細胞は、図6A~Bに示されるように、多能性遺伝子がダウンレギュレートされている一方、既知の心臓遺伝子を発現している。そして、CD56+ PDGFRA+ KDR- CXCR4- EPCAM-という独特の細胞表面マーカーの組み合わせによって特徴付けられる(図7B)。多能性幹細胞株に由来する心筋細胞及び前駆細胞は、他の起源由来の心筋細胞の形態的特徴を有することが多い。それらは紡錘形、丸形、三角形、又は多角形であり得るし、それらは免疫染色によって検出可能なサルコメア構造に特徴的な横紋を示し得る。これらは、細胞の平らなシート、又は基質に付着したまま又は懸濁液中で浮遊する集合体を形成することができ、電子顕微鏡によって調べた場合、典型的なサルコメア及び心房顆粒を示し得る。
【0142】
多能性幹細胞由来の心筋細胞及びそれらの前駆体は、通常、以下を含む、少なくとも1つの心筋細胞特異的マーカーを有する:心筋トロポニンI(cTnI)、横紋筋収縮を調節するカルシウム感受性分子スイッチを提供するトロポニン複合体のサブユニット;心筋トロポニンT(cTnT);又はNkx2.5、マウスの胚発生初期の心臓中胚葉において発現し、発生中の心臓にも存続する心臓転写因子。細胞はまた、通常、以下を含むマーカーの少なくとも1つ(多くの場合、少なくとも3つ、5つ、又はそれ以上)を発現する:心房性ナトリウム利尿因子(ANF)、ミオシン重鎖(MHC)、特に心臓に特異なβ鎖、MLC、タイチン、トロポミオシン、α-サルコメアアクチニン、及びデスミン。ANFは、発生中の心臓及び胎児心筋細胞において発現するが、成人では下方制御されるホルモンである。これは心臓細胞で非常に特異的な態様で発現するが、骨格筋細胞では発現しないため、心筋細胞の良好なマーカーであると考えられる。さらなるマーカーとしてはMEF-2A、MEF-2B、MEF-2C、MEF-2D(心臓中胚葉において発現し、発生中の心臓において存続する転写因子)、N-カドヘリン(心臓細胞間の接着を媒介する)、コネキシン43(心筋細胞間のギャップ結合を形成する)、β1-アドレナリン受容体(β1-AR)、クレアチンキナーゼMB(CK-MB)及びミオグロビン(これらは心筋梗塞後の血清において高値である)、α-心臓アクチン、初期成長応答-I、サイクリンD2、及びGATA-4(心臓中胚葉において高発現し、発生中の心臓において存続する転写因子)が挙げられる。それは多くの心臓遺伝子を調節し、心臓形成に関与する。
【0143】
組織特異的マーカーは、任意の適切な免疫学的技法を用いて検出することができ、例えば、細胞表面マーカーに対するフローイムノサイトメトリー又はアフィニティ吸着、細胞内又は細胞表面マーカーに対する(例えば、固定細胞又は組織切片の)免疫細胞化学分析、細胞抽出物のウェスタンブロット分析、及び細胞抽出物又は培地中に分泌される生産物に対する酵素結合イムノアッセイなどである。cTnI及びcTnTなどの心臓マーカーを他のアイソフォームと区別する抗体は、Sigma社及びSpectral Diagnostics社などの供給業者から市販されている。標準的な免疫細胞化学分析又はフローサイトメトリー分析(場合によっては細胞の固定後であったり、場合によっては標識された二次抗体を使用したりすることもできる)において、有意に検出可能な量の抗体が抗原に結合する場合、細胞による抗原の発現は、抗体検出可能であると言う。
【0144】
また、組織特異的な遺伝子産物の発現は以下の方法により、mRNAレベルで検出することができる:公的に利用可能な配列データ(GenBank)を使用して、標準的な増幅方法において配列特異的プライマーを使用する、ノーザンブロット分析、ドットブロットハイブリダイゼーション分析、又は逆転写酵素開始ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で、検出可能である。組織特異的マーカーの発現が、コントロール細胞、例えば、未分化多能性幹細胞又は他の無関係の細胞型などのレベルを、少なくとも又は約2、3、4、5、6、7、8、又は9倍、より具体的には10、20、30、40、又は50倍超で上回るレベルで、タンパク質又はmRNAが検出されるような場合、陽性であると考えられる。
【0145】
所望の表現型の細胞の表面上でマーカーが確認されたら、それらは免疫選別に供試され、イムノパニング又は抗体媒介蛍光活性化細胞選別などの技術によって、細胞群をさらに濃縮することができる。
【0146】
適切な状況下では、多能性幹細胞由来の心筋細胞は、多くの場合、自発的かつ周期的な収縮活動を示す。このことは、適切なCa2+濃度及び電解質バランスの、適切な組織培養環境中で培養すれば、細胞が、細胞の1つの軸にわたって収縮し、次いで培養培地に追加的な成分を何ら添加する必要がなく、収縮を解除することが観察され得ることを意味する。収縮は周期的であり、これは、通常の緩衝液中で、規則的又は不規則的に、約6~200収縮/分の頻度で、しばしば約20~約90収縮/分の頻度で、収縮を繰り返すことを意味する。個々の細胞は、それ自体で自発的かつ周期的な収縮活動を示し得るし、又は組織、細胞集合体、若しくは培養細胞塊中において隣接細胞と協調して自発的かつ周期的な収縮活動を示し得る。
【0147】
細胞の収縮活動は、培養条件が収縮の性質及び頻度に与える影響に応じて特徴付けることができる。利用可能なCa2+濃度を低下させるか、又は別の方法でCa2+の膜貫通輸送を妨害する化合物は、しばしば収縮活動に影響を及ぼす。例えば、L型カルシウムチャネルブロッカーであるジルチアゼムは、用量依存的に収縮活動を阻害する。一方、イソプレナリン及びフェニレフリンのようなアドレナリン受容体アゴニストは、陽性変時作用を有する。細胞の機能的特性をさらに特徴付けることには、Na+、K+、及びCa2+チャネルを特徴付けることも含み得る。活動電位など電気生理は、心筋細胞についてのパッチクランプ法によって研究することができる。Igelmund et al., 1999; Wobus et al., 1995; and Doevendans et al., 2000.を参照されたい。
【0148】
機能的属性は、インビトロにおける細胞及びそれらの前駆体を特徴付ける方法を提供するが、本開示において言及した使用態様のいくつかに関して、必ずしも必要とはいえない場合がある。例えば、上記で列挙したマーカーのいくつかを有する細胞の濃縮細胞群の混合物は、機能的性質又は電気生理学的性質の全ては有していなくても、欠陥のある心臓組織に移植し、心機能を補うために必要な機能的特性をインビボで獲得することができる場合は、治療的恩恵が大きいものであり得る。
【0149】
樹立された多能性幹細胞株に由来する場合、本開示の細胞集団群及び単離細胞は、それらの由来株と同じゲノムを有することで特徴付けられ得る。このことは多能性幹細胞と心臓細胞との間で染色体DNAが90%超で同一であるということを意味し、これは正常な有糸分裂の過程を通して、未分化株から心臓細胞が得られる場合にも推測され得ることである。心筋細胞系統の細胞は、親細胞集団に由来するという特徴は、いくつかの点で重要である。特に、未分化細胞集団は、共有ゲノムを有する追加細胞群を製造するために用いられ得る。追加細胞群は、心臓細胞のさらなるバッチ又は治療に有用な別の細胞型のいずれか、例えば、心臓同種移植片の組織適合性型に対して患者を予備寛容化することができる集団(US 2002/0086005;WO 03/050251)などである。
【0150】
IV.使用方法
CTC4細胞又はそれら由来の細胞、例えば心筋細胞、血管内皮細胞、又は平滑筋細胞は、特定の態様の方法及び組成物によって得られ、様々な用途で使用することができる。これらの用途には、インビボでの臓器移植又は細胞の移植;インビトロでの細胞傷害性化合物、発癌物質、突然変異誘発物質、増殖/調節因子、医薬化合物などのスクリーニング;心疾患及び心障害のメカニズムの解明;医薬品及び/又は増殖因子が作用するメカニズムの研究;患者における癌の診断並びにモニタリング;遺伝子治療;及び生物学的に有効製剤の製造、が挙げられるがこれらに限定されない。
【0151】
本開示のCTC4細胞又はそれに由来する細胞、例えば心筋細胞、血管内皮細胞、又は平滑筋細胞は、商業的に使用することができ、そのような細胞及びそれらの様々な子孫の特性に影響を及ぼす因子(例えば、溶媒、小分子医薬品、ペプチド、オリゴヌクレオチドなど)又は環境条件(例えば、培養条件又は操作)をスクリーニングすることができる。
【0152】
いくつかの態様では、CTC4細胞又はそれに由来する細胞、例えば心筋細胞、血管内皮細胞、又は平滑筋細胞を用いて、後期心筋細胞前駆体、又は最終分化細胞への成熟を促進する因子をスクリーニングし、又は長期培養におけるそのような細胞の増殖及び維持を促進することができる。例えば、候補となる成熟因子又は増殖因子を、異なるウェル中の細胞に添加し、その後、結果として生じる任意の表現型の変化を、さらなる培養及び細胞の使用についての望ましい基準に従って判断して、試験する。
【0153】
本開示の他のスクリーニング用途は、心筋組織の維持又は修復に対する医薬化合物の効果についての検査に関するものである。化合物は細胞に対して薬理学的効果を有するように設計されているため、又は他の場所で効果を有するよう設計された化合物がこの組織型の細胞に対して意図しない副作用を有するかもしれないので、スクリーニングが行われ得る。スクリーニングは、本開示の任意の前駆細胞又は最終分化細胞を使用して行うことができる。
【0154】
読者は一般に、標準的な教科書In vitro Methods in Pharmaceutical Research、Academic Press社,1997及び米国特許第5,030,015号を参照されたい。候補となる医薬化合物の活性の評価は一般に、候補となる化合物単独又は他の医薬品と組み合わせて、本開示の分化細胞と組み合わせることを含む。研究者は、化合物に起因する(未処置細胞又は不活性化合物で処置した細胞と比較して)、細胞の何らかの形態、マーカー表現型、又は機能的活性における変化を測定し、次いで、化合物の効果と観察された変化とを互いに関係づける。
【0155】
細胞毒性は第一に、細胞生存率、生存、形態、及び特定のマーカー並びに受容体の発現に対する効果によって決定することができる。染色体DNAに対する医薬品の効果は、DNAの合成又は修復を測定することによって決定することができる。[3H]-チミジン又はBrdUの取り込み、とりわけ細胞周期の予定外の時期、又は細胞複製に必要なレベルを超えたものは、医薬品の作用と一致する。望ましくない効果には、分裂中期のスプレッドによって決定される異常な速度の姉妹染色分体交換も含まれ得る。読者は、さらなる詳細については、Vickers(in vitro Methods in Pharmaceutical Research、Academic Press、1997のpp 375-410)を参照されたい。
【0156】
細胞機能の効果は、心筋細胞の表現型又は活性、例えば、細胞培養又はインビボのいずれかにおけるマーカー発現、受容体結合、収縮活性、又は電気生理など、を観察するための任意の標準的な分析方法を用いて評価することができる。医薬品の候補もまた、収縮活性についての効果、例えば収縮の程度又は頻度を増加又は減少させるかどうかなどを分析することができる。効果が観察される場合、化合物の濃度を滴定して、50%有効量(ED50)を決定することができる。
【0157】
本開示はさらに、ヒト心血管始原細胞、心血管コロニー、心筋細胞、内皮細胞及び血管平滑筋細胞に対して効果を有する薬剤を、スクリーニングするための方法を提供する。本方法には、本明細書で上述の細胞群のうち1つの細胞を、候補となる薬剤と接触させること、及びその薬剤がその細胞群に対して効果を有するかどうかを判定すること、を含む。試験される薬剤は、天然物若しくは合成物であってもよく、1つの化合物若しくは混合物であってもよく、小分子若しくはポリマー(ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなどを含む)であってもよく、抗体若しくは抗体フラグメントであってもよく、天然物若しくは合成化合物のライブラリーからの化合物であってもよく、合理的な医薬品設計から得られる化合物であってもよく、細胞培養条件などの条件であってもよく、又は当該技術分野で公知の分析方法を用いて細胞群に対する効果を評価することができるあらゆる薬剤であってもよい。細胞群に対する効果は、表現型又は活性の任意の標準的な分析方法を用いて測定することができ、例えば、マーカー発現、受容体結合、収縮活性、電気生理、細胞生存率、生存、形態、又はDNA合成若しくはDNA修復の分析などが挙げられる。標準的な増殖及び分化の分析方法は、米国特許第6,110,739号に記載されている。そのような薬剤は、インビボ並びにインビトロにおける細胞の増殖、分化、生存率、及び組織の維持、再生、修復のコントロールに有用である。
【0158】
A.医薬組成物
本開示は、コミットされた心臓始原細胞群又はそれらに由来する細胞群、例えば、心筋細胞、血管内皮細胞、又は平滑筋細胞など、を含む組成物をさらに提供する。組成物は、薬学的に許容される担体及び希釈剤を含んでもよい。組成物は、生着を促進する成分をさらに含んでもよい。これらの細胞群を含む組成物は、細胞並びに組織の置換並びに修復、及びインビトロ並びにインビボにおける心筋細胞群の生成に有用である。CTC4細胞を含む組成物は、始原細胞集団の増殖に有用である。組成物は、心臓の症状を処置するための医薬品又は送達デバイスとして製剤化することができる。
【0159】
本開示のCTC4細胞又はそれらに由来する細胞(例えば、心筋細胞、血管内皮細胞、又は平滑筋細胞など)は、医薬組成物の形で提供することができ、ヒトへの投与のために十分に滅菌条件下で調製された等張な賦形剤を含み得る。特定の態様では、プロテアーゼを使用して、又は穏やかな機械的操作によって細胞を分散させ、単体の細胞又はより小さいクラスターの懸濁液にすることが望ましい場合がある。生着時の細胞死のリスクを低減するために、細胞をヒートショック処置するか、又は投与の約24時間前に約0.5U/mLのエリスロポエチンで培養することができる。
【0160】
薬用製剤における一般原則については、読者はCell Therapy: Stem Cell Transplantation、Gene Therapy、and Cellular Immunotherapy、1996;及びHematopoetic Stem Cell Therapy、2000を参照されたい。細胞賦形剤及び組成物に付随させる任意の要素の選択は、投薬経路及び投薬機器に応じて、適宜変更させることができる。組成物はまた、心筋細胞の生着又は機能動員を促進する1つ以上の他の成分を含んでもよく、又は併用してもよい。適切な成分としては、心筋細胞又は相補的な細胞型(特に、内皮細胞)の接着を補助又は促進するマトリックスタンパク質などが挙げられる。
【0161】
本開示はまた試薬システムも含み、製造、流通、又は使用におけるいずれかの時点で存在し得る、細胞のセット又は組合せが含まれる。細胞のセットは、本開示に記載される2つ以上の細胞群の任意の組み合わせを含み、限定されないが例として、ある型の分化細胞(心筋細胞、心筋細胞前駆体など)と、多くの場合同じゲノムを共有する未分化多能性幹細胞又は他の分化細胞型との組み合わせなどが挙げられる。セット化されるそれぞれの細胞型は、ひとまとめに包装されていてもよいし、同じ施設内で別々の容器に入れられていてもよいし、異なる場所にあってもよいし、同時又は異なる時間に存在してもよいし、同一事業主若しくはビジネス関係を共有する異なる事業主の管理下にあってもよい。
【0162】
本開示の医薬組成物は必要に応じて、所望の目的のため、例えば、心筋の疾患状態又は異常を改善するための、CTC4細胞又はそれら由来の細胞(例えば、心筋細胞、血管内皮細胞、又は平滑筋細胞)の再構成などのための取扱説明書とともに、適切な容器に包装されてもよい。
【0163】
B.治療的利用
本開示の特定の態様において提供される細胞は、それらを必要とする任意の対象の治療に利用することができる。そのような治療に適切であり得るヒトの症状には、心筋梗塞、心筋症、うっ血性心不全、心室中隔欠損、心房中隔欠損、先天性心臓欠損、心室瘤、小児由来の心疾患、心室瘤、又は心室の再建を必要とする心疾患などの心臓障害が含まれる。
【0164】
ヒトの治療では、一般的に投与量は約108~1012細胞であり、通常は約2×108~1×109個の細胞であり、対象の体重、病気の性質並びに重症度、及び投与された細胞の複製能に対応するように調節する。処置方法及び適切な用量の決定についての最終的な責任は、管理する臨床医にある。
【0165】
特定の態様はまた、任意の認知された必要性、例えば代謝機能の先天性エラー、病状の影響、又は重大な外傷の影響などに対して、心筋の組織維持又は修復を増強するためにCTC4細胞を使用することを提供する。
【0166】
細胞組成物の治療投与に対する適合性を決定するために、まず、細胞を適切な動物モデルで実験することができる。一つのレベルにおいて、細胞がインビボで生存し、その表現型を維持する能力について評価される。細胞組成物は免疫不全動物(例えば、NUDEラット、又は化学的に若しくは照射によって免疫不全にされた動物)に投与される。生着期間経過後に組織を採取し、多能性幹細胞由来の細胞がまだ存在しているかどうかを評価する。CTC4細胞は、注射後少なくとも30日の時点で生着し、生存することが示された(図8B)。また、hAlu+細胞を、ギャップ結合タンパク質であるコネキシン43(CX43)及び構造タンパク質である心筋トロポニンT(CTNT)で共染色することによって、図8Cに示されたように、CTC4細胞は心筋細胞に分化し続けることができる。
【0167】
インビボで細胞を追跡するための他の方法は、検出可能な標識(緑色蛍光タンパク質又はβ-ガラクトシダーゼなど)を発現する細胞を投与すること、若しくは予め標識(例えば、BrdU又は[3H]チミジンで標識)された細胞を投与することによる方法、又は恒常的な細胞マーカーを(例えば、ヒト特異的抗体を使用して)その後検出することによる方法があり得る。投与された細胞の存在及び表現型は、ヒト特異的抗体を用いた免疫組織化学的検査若しくはELISAによって、又は公開された配列データに従って、ヒトポリヌクレオチドを特異的に増幅させるプライマー並びにハイブリダイゼーション条件を用いたRT-PCR分析によって評価することができる。
【0168】
適合性はまた、多能性幹細胞由来の心筋細胞群での処置から生じた心臓回復の程度を評価することによって判定することができる。このような分析には、多くの動物モデルが利用可能である。例えば、予冷アルミニウムロッドを左心室前壁の表面と接触させて置くことによって、心臓を凍結損傷させることができる(Murry et al.,1996;Reinecke et al.,1999;米国特許第6,099,832号;Reinecke et al., 2004)。より大型の動物では、液体窒素中で冷却した30~50mmの銅製の円盤状プローブを左心室前壁上に約20分間置くことによって、凍結損傷をもたらすことができる(Chiu et al.,1995)。梗塞は左主冠動脈を結紮することによって誘発することができる(Li et al.,1997)。損傷部位は本開示の細胞調製物で処置され、組織学的検査によって、損傷領域における細胞の存在について、心臓組織を検査する。心機能は、左室拡張終期圧、発生圧力、圧力上昇速度、及び圧力減衰速度などのパラメータを測定することによってモニタリングすることができる。
【0169】
十分な検討の後、本開示の分化細胞は、ヒト患者又はそのような処置を必要とする他の対象における、組織の再構成又は再生に使用することができる。細胞は、それらが意図された組織部位に移植又は移動され、機能的に欠損した領域を再構成又は再生することを可能にするような方法で投与される。心機能を再構成することができる細胞を、所望の位置で、心室、心膜、又は心筋の内部に直接、投与するのに適した特別な装置が利用可能である。
【0170】
多能性幹細胞由来のCTC4細胞の同種移植片を受け入れている患者は、必要に応じて、移植された細胞の免疫拒絶を低減するために処置され得る。検討される方法には、シクロスポリンAのような従来からの免疫抑制薬の投与(Dunn et al、Drugs 61:1957、2001)、又は多能性幹細胞由来細胞の適合細胞群を用いて免疫寛容を誘導すること(WO 02/44343; 米国特許第 6,280,718;WO 03/050251)が含まれる。別のアプローチは、例えば、アロプリノールで処置することによって、CTC4細胞群を改変させて、対象への移植時に細胞から製造される尿酸の量を減少させることである。あるいは又は併せて、アロプリノール又は尿酸を代謝する酵素、例えば尿酸オキシダーゼ(PCT/US04/42917)など、を投与することによって患者に準備をさせる。
【0171】
本方法による再生医療を受けるのに適した患者には、冠動脈心疾患、心筋症、心内膜炎、先天性心血管欠損、及びうっ血性心不全などの様々な種類の急性及び慢性心疾患を有する患者が含まれる。処置の有効性は、臨床的に許容される基準によってモニタリングすることができ、例えば、瘢痕組織によって占められる領域の減少又は瘢痕組織の血管再生、及び狭心症の頻度並びに重症度の減少、又は発生心圧、収縮期圧、拡張終期圧、患者の可動性、及び生活の質の改善などである。
【0172】
別の実施形態では、本開示は不十分な心機能を特徴とする病気(例えば、先天性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋症、心内膜炎及びうっ血性心不全を含む)の処置に有用な細胞置換の方法及び組織置換の方法を提供する。始原細胞集団はインビボで心筋細胞、内皮及び血管平滑筋系統に分化することができるので、分化細胞及び心血管始原細胞のいずれも、置換療法に有用である。細胞はまた、インビトロで心血管組織を生成するのにも有用である。心臓組織を設計する方法は当該技術分野で公知であり、例えば、Birlaによる "Stem Cell Therapy and Tissue Engineering for Cardiovascular Repair" Springer、2006においてレビューされている。したがって、一つの実施形態では、本開示は心筋細胞置換療法の方法を提供し、本開示に従って得られたヒト心血管始原細胞の濃縮細胞群から単離された心筋細胞を含む組成物を、そのような処置を必要とする対象に投与することを含む。別の実施形態では、本開示は、不十分な心機能を特徴とする病気を処置する方法を提供し、ヒト心血管始原細胞を含む組成物を、そのような処置を必要とする対象に投与することを含む。好ましい実施形態において、被験者はヒトである。組成物は、結果として心臓組織へと送達又は移動する投与経路、例えば、注射又は移植を含む、によって、かつ、少なくとも1つの副作用若しくは症状若しくは疾患の低減をもたらす条件下で、投薬されればよい。
【0173】
本開示の治療方法に関して、哺乳動物へのCTC4細胞の投与が特定の投与様式、投与量、又は投薬頻度に限定されることを意図しておらず、本開示はすべての投与方法を意図しており、筋肉内、静脈内、関節内、病巣内、皮下、又は疾患を予防又は処置するのに適切な投与量を提供するのに十分なあらゆる他の経路を含む。CTC4細胞は、単回投与又は反復投与で哺乳動物に投薬してもよい。反復投与により投薬される場合、一回の投薬から次の投薬まで、例えば、1週間、1ヶ月、1年、又は10年など、間隔をおいて行ってもよい。細胞の投与前、投与中、又は投与後に、1つ以上の増殖因子、ホルモン、インターロイキン、サイトカイン、小分子又は他の細胞を投与して、それらを特定の細胞型にさらに偏向させることもできる。
【0174】
[実施例]
V.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含める。以下に続く実施例において開示される技法は、本発明の実践において良好に機能することが本発明者によって発見された技法を表すものであり、したがって、その実践のための好ましい様式を構成するものと考えることができることを、当業者は認識すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示されている特定の実施形態において多くの変更を加えることができ、それでもなお、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、同様又は類似の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0175】
[実施例1]
iPSC由来心臓始原細胞
iPSCを解凍し、ビトロネクチンコーティングプレート(2.5μg/mL)上、Essential 8培地(E8)中で、3日間、フィーダーフリーで、単層培養により、増殖させた。培地は、毎日交換を行った。
【0176】
懸濁液中での分化0日目に、TrypLEでiPSCを回収し、E8で洗浄し、E8、1uM H1152(Rhoキナーゼ阻害剤)、及び2uM CHIR99021(Wntアゴニスト)を含む集合体形成培地に再懸濁して、集合体形成及び中胚葉誘導を開始した。細胞密度を1×106細胞/mLに調整し、バイオリアクター(PBS500又はPBS3)に播種した。
【0177】
1日目に、集合体を沈降させ、培地の80%をRPMI + B27(インスリンを含まない)及び5μM CHIR99021に交換して、集合体を新しい培地に移行した。2日目の集合体は、最初に集合体を沈降させ、培地の80%をRPMI、B27(インスリンを含まない)及び4.4μM CHIR99021と交換して、フィードした。
【0178】
心臓への特異化のために、3日目の集合体は、最初に沈降させ、培地の80%をRPMI、B27(インスリンを含む)及び10uM XAV939(Wnt阻害剤)と交換した。いくつかの例では、特定のiPSCについて、心臓への特異化を効率的に誘導するために追加の小分子を添加した。例えば、これらの小分子には、2uM SB431542(TGFβ/Activin阻害剤)及び/又は1-2uMドルソモルフィン(BMP阻害剤)が含まれる。
【0179】
細胞が心筋細胞系統に向かって特異化し続ける間、これまでの日と同様に培養物をフィードした。4日目及び5日目に、最初に集合体を沈降させた後、培地の80%をRPMI及びB27(インスリンを含む)と交換した。全プロセスは、無血清で行い、薬剤耐性による選択は行わなかった。
【0180】
6日目に、細胞は運命のコミットメントがなされたが、心筋細胞にはまだ分化していなかった。集合体を回収し、D-PBS(-/-)で洗浄した後、TrypLEで解離させ、CryoStor CS10中で単一細胞の懸濁液として、制御冷凍庫で凍結保存した。
【0181】
心臓始原細胞を、心臓中胚葉マーカー(すなわち、KDR、CKIT、及びPDFGRα)及び心筋細胞マーカー(すなわち、SAA及びSMA)について分析した。本分化方法は、95%超のSAAを有する心筋細胞をもたらした。したがって、本方法は、コミットされた心臓始原細胞及び心筋細胞を効率的に製造した。
【0182】
[実施例2]
Wnt阻害を加える分化段階の特定
心臓への分化の最中のどの時点でWnt阻害が必要となるかについては、これまで十分に報告されていない。細胞表面マーカーであるCXCR4及びCD56は、これらを使用して、培養物の状態をモニターし、Wnt阻害をいつすべきかを決定するのに役立てることができる。
【0183】
1~6日目の集合体サンプルを、PBS500又はPBS3バイオリアクター培養物の両方から採取し、解離させ、CXCR4及びCD56について染色した。細胞群は、日ごとに様々な発現プロファイルにシフトしていった。最初は、CXCR4の発現を示し、続いてCXCR4posCD56posの両方陽性の細胞を示し、最後に4~6日目までにCXCR4の発現を喪失した。
【0184】
培養物が3日目にCD56を過剰発現したか、又はすでにCXCR4の発現を失い始めていた場合、Wntシグナル伝達を阻害し、培養物を心筋細胞の運命方向に特異化させるには遅すぎた。しかしながら、CXCR4陽性の細胞群がCD56をちょうど発現し始めたばかりである場合は、効率的な心臓への特異化が起こることがわかった。CD56の強力な発現は、過剰なCHIR99021が使用されたか、又は細胞密度が低すぎたかのいずれかを示す1つの指標であった。
【0185】
心臓分化がうまくいかない可能性がある別の指標としては、2日目にCXCR4の過剰発現があるかどうかであった。これは、2日目までに過剰なCHIR99021が使用されたことの明確な指標であった。
【0186】
[実施例3]
分化のスケール
この心臓分化は、最初にPBS500容器を用いて進行させたが、このスケールでは、1×108~1×109細胞という細胞治療の用量分を製造するには、あまりに小規模過ぎた(図2B)。容量、PBSのホイール回転速度、pH、及び溶存酸素を、PBS500におけるフォーマットを用いて検討し、応用して、複数のPBS3バイオリアクターを用いた臨床関連の分化スケールに最適化した。
【0187】
[実施例4]
凍結保存スケール
標準的な1.5~2.0mlの凍結バイアルを使用して、スモールスケールのiPSC由来産物のサンプルを凍結保存することはできる。しかし、1つのバイアル中に、臨床における投与用量として使用することができる十分な量のコミットされた心臓始原細胞を凍結保存することを目的として、Aseptic Technologies社の複数の異なるサイズの凍結バイアルを検討した。複数のATバイアルサイズを検討し、AT6バイアルが、臨床関連用量をバイアル一つで可能にすると判断した(図2C)。バイアル当たり300×106細胞までの凍結を試験し、結果として、細胞は全ての品質リリース分析に合格した。
【0188】
[実施例4]
コミットされた心臓始原細胞は特異的マーカーを発現する
分化プロセスの間、複数のマーカーを試験する経時的研究を、各日実施した。1日目から3日目までCXCR4及びPDGFRαの明確な誘導があり、心臓中胚葉の特異化を示した(図3B)。KDRの動的な発現も検出され、4日目に最も高い発現が見られ、続いて5日目及び6日目の間に急速な発現低下が見られた(図5A)。CD56も3日目の間に誘導され、分化プロセス中を通して維持された。EpCAMの発現をモニターすると、本プロセスの間、日ごとに減少していき、6日目までには10%未満陽性細胞となった(図4)。心筋細胞の構造タンパク質も、6日目までには最小限の発現となった。
【0189】
[実施例5]
コミットされた心臓始原細胞は心筋細胞になる
6日目のCTC4細胞を解凍し、プレートティングして、心筋細胞分化能を試験した。RPMI及びB27(インスリンを含む)中のビトロネクチンコーティング容器に様々な密度で播種し、約7日間培養した(図7A)。培地を1日おきに全量交換で交換した。プレート播種後2~6日で単層は収縮し始めた。収縮細胞を回収し、心筋細胞特異的マーカーについてフローサイトメトリーで分析した。分析した細胞は、90%超サルコメアαアクチニン陽性であった(図7D)。
【0190】
6日目のCTC4細胞を、RPMI及びB27(インスリンを含む)中のビトロネクチンコーティング96ウェルプレートにもプレーティングし、7日間培養した。細胞を種々の心筋細胞マーカーについて免疫細胞化学法によって染色し、心筋トロポニンT、心筋トロポニンI、及びサルコメアαアクチニンについて陽性に染色された。細胞はまた、心臓特異的転写因子NKX2.5についても染色した(図7C)。
【0191】
[実施例6]
心筋梗塞モデルにおけるコミットされた心臓始原細胞(CTC4)の生着
NUDEラット心筋梗塞モデルを使用して、CTC4細胞の生着及び分化について試験した(図8A~C)。梗塞の3日後、CTC4細胞を解凍し、計数し、5% Flexbuminに再懸濁した。複数の注射部位に直接注射によって細胞を投与した。注射の1ヶ月後、心臓を採取し、ヒトAluについて、免疫組織化学的検査又はin situハイブリダイゼーション検出法を用いて、ヒト細胞を染色した。ラット心筋内の特定の部位にヒト細胞が見出されたら、さらに連続切片を処理し、心筋トロポニンT(心筋細胞)、Ki67(増殖)、及びCX43(ギャップ結合)マーカーについて免疫組織化学的手法により染色した。ヒト細胞は注射の1ヶ月後に検出され、心筋トロポニンT及びCX43の強固な発現は、CTC4細胞がインビボで分化し続け、電気的に連結した心筋細胞になったことを示す。さらに、少量の細胞がKi67についても染色され、ヒト移植部位がわずかに拡大する可能性を示した。
【0192】
[実施例7]
コミットされた心臓始原細胞の血管内皮細胞又は平滑筋細胞への分化
コミットされた心臓始原細胞群は、他の細胞系統、例えば内皮細胞(CD31+CD144+)及び平滑筋細胞(CD140b+CD90+)などに、さらに分化する能力を有することを示すために、研究を行った(図9)。iPSC由来のコミットされた心臓始原細胞を、特異的増殖因子を含むRPMI+B27培地中で培養した。コミットされた心臓始原細胞を、FGF及び/又はVEGFを含む培地中で約7日間培養すると、血管内皮細胞又は平滑筋細胞を製造した。
* * *
【0193】
本明細書において開示され、特許請求される全ての方法は、本開示に照らして、過度の実験を行うことなく成し遂げられ、実行することができる。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施形態の観点から記載されているが、本発明の概念、趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法の工程又は工程の順序において、本方法に変更を適用し得ることは、当業者には明らかであろう。より詳細には、化学的及び生理学的に関連するある特定の薬剤を、本明細書に記載の薬剤と置き換えても、同じ又は類似の結果が得られることは明らかであろう。当業者に明らかなこのような類似の代替物及び改変はすべて、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨、範囲及び概念の範囲内であるとみなされる。
【0194】
参照文献
以下の参照文献は、それらが本明細書に記載されたものを補足する例示的な手順又は他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
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図1A-1B】
図2A-2B】
図3A-3C】
図4A-4B】
図5
図6A
図6B
図7A-7E】
図8A-8C】
図9A-9B】
【国際調査報告】