(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物
(51)【国際特許分類】
C12P 7/20 20060101AFI20240822BHJP
C12P 7/18 20060101ALI20240822BHJP
C12P 19/00 20060101ALI20240822BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240822BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20240822BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C12P7/20 ZNA
C12P7/18
C12P19/00
C12P21/02 Z
C12N15/31
C12N15/52 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515965
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 KR2022009268
(87)【国際公開番号】W WO2023038250
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】10-2021-0121930
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513132586
【氏名又は名称】ジーエス カルテックス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】ソン チャン ウ
(72)【発明者】
【氏名】クォン ミン-ア
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヒョ ハク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン キ ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム ソン ヒョン
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AC05
4B064AC06
4B064AF01
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC03
4B064CC06
4B064CC07
4B064CC15
4B064CC24
4B064CD09
4B064CD13
4B064CE02
4B064CE03
4B064CE06
4B064DA10
4B064DA11
4B064DA20
(57)【要約】
本発明は、ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物に関する。また、本発明は、本発明の組換え微生物を用いたポリオールまたは粘液性高分子の選択的生産または同時生産方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールまたは粘液性高分子の生合成経路を有する微生物において、
グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制されたことを特徴とする、
ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物。
【請求項2】
前記組換え微生物は、組換えバチルスであることを特徴とする、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項3】
前記ポリオールは、グリセロール、(2R,3R)-ブタンジオール、(2R,3S)-ブタンジオールからなる群から選択される1つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項4】
前記粘液性高分子は、ポリグルタミン酸、レバン及び菌体外多糖からなる群から選択される1つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項5】
前記菌体外多糖は、グルコース、ガラクトース、リン酸、グリセロール、及び酢酸からなる群から選択される1つ以上のモノマーを含むことを特徴とする、請求項4に記載の組換え微生物。
【請求項6】
野生型微生物に比べて、グリセロール、(2R,3R)-ブタンジオール及び(2R,3S)-ブタンジオールからなる群から選択される1つ以上のポリオールの生産能が抑制されるか、上記1つ以上のポリオールの生産能がないことを特徴とする、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項7】
グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路が抑制され、
グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制されたことを特徴とする、
請求項1に記載のポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物。
【請求項8】
前記組換え微生物は、ポリオール及び粘液性高分子の同時生産能を有することを特徴とする、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項9】
請求項1に記載の組換え微生物を準備する段階と、
前記組換え微生物を、炭素源を含む培地で培養する段階と、
を含む、ポリオールの生産方法。
【請求項10】
請求項1に記載の組換え微生物を準備する段階と、
前記組換え微生物を、炭素源を含む培地で培養する段階と、
を含む、粘液性高分子の生産方法。
【請求項11】
前記炭素源は、ショ糖、葡萄糖及びグルタミン酸からなる群から選択される1つ以上を含むことを特徴とする、請求項9または10に記載の生産方法。
【請求項12】
上記培養は、25~55℃で行われることを特徴とする、請求項9または10に記載の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物に関する。また、本発明は、前記組換え微生物を用いたポリオールまたは粘液性高分子の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス・リケニフォルミス(Bacilluls licheniformis)微生物は、GRAS(generally regarded as safe)微生物に分類され、アミラーゼ(amylase)、プロテアーゼ(protease)などの産業用酵素と、ポリグルタミン酸(polyglutamic acid)、レバン(levan)、菌体外多糖(exopolysaccharide)などの様々な粘液性高分子と、2,3-ブタンジオール(2,3-BDO)、グリセロールなどの様々なポリオールと、を生産することができる微生物である。粘液性高分子に分類されるポリグルタミン酸、レバン、菌体外多糖は、化粧品、農業製品、食品などにおける保湿剤などの用途に広く利用可能な高付加な素材である。バチルス・リケニフォルミスが生成できるポリオールは、大きく2,3-ブタンジオールとグリセロールである。4つの炭素と2つのヒドロキシ基(-OH)とを有するアルコールの1つである2,3-ブタンジオール(CH3CHOHCHOHCH3)は、(2R,3S)-ブタンジオール、(2R,3S)-ブタンジオール、(2S,3S)-ブタンジオールからなる3種の異性質体が存在し、化粧品、農業製品、食品などにおける保湿剤、植物病抑制剤、免疫力強化剤などに広く利用可能な高付加な素材である。また、グリセロールは、3つの炭素と3つのヒドロキシ基(-OH)とを有するポリオールであり、化粧品などにおける保湿剤の原料として多く利用される。
【0003】
バチルス微生物を用いてポリグルタミン酸、レバン、菌体外多糖などに代表される、各々の粘液性高分子を生産しようとする研究は、古くから行われてきた(Birrer et al.,Int.J.Biol.Macromol.,16:265-275,1994;Gojgic et al.,Int.J.Biol.Macromol.,121:142-151,2019;Asgher et al.,Int.J.Biol.Macromol.,151:984-992,2020)。2,3-ブタンジオールの生産に関する研究は、Klebsiella pneumoniae,K.oxytoca,Bacillus licheniformis,B.subtilsなど、様々な微生物による生産研究が報告されてきた(Song et al.J.Ind.Microbial.Biotechnol.,46:1583-1601,2019)。2,3-ブタンジオールの生産収率及び選択度などを改善するために、様々な組換え微生物の開発研究が行われてきた。例えば、微生物をUVに露出させるか、主な副産物の生成経路を抑制させるなど、主に副産物の低減による微生物の開発研究が活発に行われてきた(Song et al.J.Ind.Microbial.Biotechnol.,46:1583-1601,2019)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物を提供することである。
【0005】
また、本発明の目的は、前記組換え微生物を用いたポリオールの生産方法を提供することである。
【0006】
また、本発明の目的は、前記組換え微生物を用いた粘液性高分子の生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、
ポリオールまたは粘液性高分子の生合成経路を有する微生物において、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制されたことを特徴とする、ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物を提供する。
【0008】
また、本発明は、
本発明の組換え微生物を準備する段階と、
前記組換え微生物を、炭素源を含む培地で培養する段階とを含む、
ポリオールの生産方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、
本発明の組換え微生物を準備する段階と、
前記組換え微生物を、炭素源を含む培地で培養する段階とを含む、
粘液性高分子の生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組換え微生物は、ポリオール及び粘液性高分子を同時に生産することができ、選択的に特定の種類のポリオール及び/又は粘液性高分子の生産を抑制するか、生産をしないか、生産を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】主に生産される粘液性高分子とポリオールの代謝回路に相応する酵素反応を示す図である。
【
図2】発酵液から生成された粘液性高分子とポリオールの同時回収方法を示す図である。
【
図3】粘液性高分子のうちレバンとポリグルタミン酸の13C-NMRに基づく分析方法を示す図である。
【
図4a】粘液性高分子のうち菌体外多糖の13C-NMR、1H-NMR、31P-NMRに基づいて単量体の同定方法を示す図である。
【
図4b】リン酸(phosphoric acid)を示す図である。
【
図5】低温条件(30℃)のフラスコ培養において、炭素源によって比較例1の野生型微生物と実施例1の組換え微生物のポリオールの生成量及び割合を示す図である。
【
図6】低温条件(30℃)のフラスコ培養において、炭素源によって比較例1の野生型微生物と実施例1の組換え微生物の粘液性高分子の生成量及び割合を示す図である。
【
図7】高温条件(45℃)のフラスコ培養において、炭素源によって比較例1の野生型微生物と実施例1の組換え微生物のポリオールの生成量及び割合を示す図である。
【
図8】高温条件(45℃)のフラスコ培養において、炭素源によって比較例1の野生型微生物と実施例1の組換え微生物のポリグルタミン酸、菌体外多糖、ポリオールの生成量の変化を示す図である。
【
図9】ショ糖(Sucrose)を炭素源とする低温条件(30℃)のフラスコ培養において、組換え微生物のポリオールの生成量及び割合を示す図である。
【
図10】ショ糖を炭素源とする低温条件(30℃)のフラスコ培養において、組換え微生物のレバンの生成量及び割合を示す図である。
【
図11】葡萄糖とグルタミン酸を炭素源とする高温条件(45℃)のフラスコ培養において、組換え微生物のポリオールの生成量及び割合を示す図である。
【
図12】葡萄糖とグルタミン酸を炭素源とする高温条件(45℃)のフラスコ培養において、組換え微生物のポリグルタミン酸の生成量及び割合を示す図である。
【
図13】葡萄糖を炭素源とする低温条件(30℃)のフラスコ培養において、組換え微生物のポリオールの生成量及び割合を示す図である。
【
図14】葡萄糖を炭素源とする低温条件(30℃)のフラスコ培養において、組換え微生物のEPSの生成量及び割合を示す図である。
【
図15】ショ糖を炭素源として、30℃の低温培養条件で、実施例8の組換え微生物の発酵による(2R,3S)-ブタンジオールとレバンの同時生産の結果である。
【
図16】ショ糖を炭素源として、45℃の高温培養条件で、実施例8の組換え微生物の発酵による(2R,3S)-ブタンジオールとレバンの同時生産の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
ポリオールまたは粘液性高分子の生合成経路を有する微生物において、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制されたことを特徴とする、ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物に関する。
【0013】
また、本発明は、
本発明の組換え微生物を準備する段階と、
前記組換え微生物を、炭素源を含む培地で培養する段階とを含む、
ポリオールの生産方法に関する。
【0014】
また、本発明は、
本発明の組換え微生物を準備する段階と、
前記組換え微生物を、炭素源を含む培地で培養する段階とを含む、
粘液性高分子の生産方法に関する。
【0015】
以下では、本発明を詳説する。
【0016】
ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物
本発明は、ポリオールまたは粘液性高分子の生合成経路を有する微生物において、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制されたことを特徴とする、ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物に関する。
【0017】
前記組換え微生物は、組換えバチルスであってもよく、好ましくは、組換えバチルス・リケニフォルミス(Bacilluls licheniformis)であってもよい。
【0018】
本発明の組換え微生物は、ポリオール及び粘液性高分子の同時生産能を有していてもよい。
【0019】
前記ポリオールは、グリセロール、(2R,3R)-ブタンジオール、(2R,3S)-ブタンジオールからなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【0020】
前記粘液性高分子は、ポリグルタミン酸、レバン及び菌体外多糖からなる群から選択される1つ以上であってもよい。前記菌体外多糖は、グルコース、ガラクトース、リン酸、グリセロール、及び酢酸からなる群から選択される1つ以上のモノマーを含むものであってもよい。
【0021】
本発明の組換え微生物は、ポリオール及び粘液性高分子を同時に生産することができ、選択的に特定の種類のポリオール及び/又は粘液性高分子の生産を抑制するか、生産をしないか、生産を増加させることができる。よって、本発明の組換え微生物は、ポリオール及び粘液性高分子の同時生産及び選択的生産が可能である。
【0022】
本発明の組換え微生物は、野生型微生物に比べてグリセロール、(2R,3R)-ブタンジオール及び(2R,3S)-ブタンジオールからなる群から選択される1つ以上のポリオールの生産能が抑制されるか、前記1つ以上のポリオールの生産能がない組換え微生物であってもよい。
【0023】
一具現例において、本発明の組換え微生物は、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路が抑制され、
グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制されたことを特徴とする、ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物であってもよい。
【0024】
一具現例において、本発明の組換え微生物は、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路が抑制された組換え微生物であって、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路は抑制されない組換え微生物であってもよい。このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも総ポリオール、グリセロール、(2R,3R)-ブタンジオール、(2R,3S)-ブタンジオール、総粘液性高分子及び/又はレバンの生産能が高くてもよい。また、このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりもEPSの生産能が低くてもよい。
【0025】
一具現例において、本発明の組換え微生物は、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、及びグリセロリン酸をグリセロールに転換する経路が抑制された組換え微生物であって、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路は抑制されない組換え微生物であってもよい。このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも(2R,3R)-ブタンジオール及び/又は(2R,3S)-ブタンジオールの生産能が高くてもよい。また、このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも総ポリオール、グリセロール、総粘液性高分子、レバン及び/又はEPSの生産能が低くてもよい。
【0026】
一具現例において、本発明の組換え微生物は、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、及びアセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路が抑制された組換え微生物であって、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路は抑制されない組換え微生物であってもよい。このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも(2R,3R)-ブタンジオール、総粘液性高分子及び/又はレバンの生産能が高くてもよい。また、このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも総ポリオール、グリセロール、(2R,3S)-ブタンジオール及び/又はEPSの生産能が低くてもよい。
【0027】
一具現例において、本発明の組換え微生物は、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、及びアセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路が抑制された組換え微生物であって、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路は抑制されない組換え微生物であってもよい。このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも(2R,3S)-ブタンジオールの生産能が高くてもよい。また、このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも総ポリオール、グリセロール、(2R,3R)-ブタンジオール、総粘液性高分子、レバン及び/又はEPSの生産能が低くてもよい。
【0028】
一具現例において、本発明の組換え微生物は、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路が抑制された組換え微生物であって、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路、及びアセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路は抑制されない組換え微生物であってもよい。このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも(2R,3R)-ブタンジオール、総粘液性高分子及び/又はレバンの生産能が高くてもよい。また、このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも総ポリオール、グリセロール、(2R,3S)-ブタンジオール及び/又はEPSの生産能が低くてもよい。
【0029】
一具現例において、本発明の組換え微生物は、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路、及びグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路が抑制された組換え微生物であって、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、及びアセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路は抑制されない組換え微生物であってもよい。このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも(2R,3S)-ブタンジオール、総粘液性高分子及び/又はレバンの生産能が高くてもよい。また、このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも総ポリオール、グリセロール、(2R,3R)-ブタンジオール及び/又はEPSの生産能が低くてもよい。
【0030】
一具現例において、本発明の組換え微生物は、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、及びアセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路が抑制された組換え微生物であって、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路は、抑制されない組換え微生物であってもよい。このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも(2R,3R)-ブタンジオール、総粘液性高分子及び/又はレバンの生産能が高くてもよい。また、このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも総ポリオール、グリセロール、(2R,3S)-ブタンジオール及び/又はEPSの生産能が低くてもよい。
【0031】
一具現例において、本発明の組換え微生物は、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、及びアセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路が抑制された組換え微生物であって、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路は抑制されない組換え微生物であってもよい。このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも(2R,3S)-ブタンジオール、総粘液性高分子及び/又はレバンの生産能が高くてもよい。また、このとき、前記組換え微生物は、野生型微生物よりも総ポリオール、グリセロール、(2R,3R)-ブタンジオール及び/又はEPSの生産能が低くてもよい。
【0032】
ポリオールの生合成経路
本発明のポリオールの生合成経路は、微生物内の特定の代謝産物からポリオールが合成する経路を意味する。例えば、微生物内の特定の代謝産物からグリセロールが合成する経路、微生物内の特定の代謝産物から(2R,3R)-ブタンジオールが合成する経路、微生物内の特定の代謝産物から(2R,3S)-ブタンジオールが合成する経路などであってもよい。
【0033】
粘液性高分子の生合成経路
本発明の粘液性高分子の生合成経路は、微生物内の特定の代謝産物から粘液性高分子が合成する経路を意味する。例えば、微生物内の特定の代謝産物からポリグルタミン酸が合成する経路、微生物内の特定の代謝産物からレバンが合成する経路、微生物内の特定の代謝産物から菌体外多糖が合成する経路などであってもよい。
【0034】
ポリオールまたは粘液性高分子の生合成経路を有する微生物
本発明のポリオールまたは粘液性高分子の生合成経路を有する微生物は、前記生合成経路を有する微生物であり、好ましくは、ポリオール及び粘液性高分子の生合成経路を有する微生物である。前記微生物は、ポリオールまたは粘液性高分子の生合成経路を野生型として有している微生物または遺伝子の組換えによって有する組換え微生物であってもよい。例えば、本発明の微生物は、クレブシエラ(Klebsiella)属、バチルス(Bacillus)属、セラチア(Serratia)属またはエンテロバクター(Enterobacter)属の微生物であってもよく、好ましくは、バチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)、枯草菌(B.subtilis)、バチルスアミロリクエファシエンス(B.amyloliquefaciens)、パエニバシラス・ポリミキサ(P.polymyxa)等であり、最も好ましくは、バチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)である。バチルス・リケニフォルミスを用いて本発明の組換え微生物を製造することが、粘液性高分子及び/又はポリオールの産業的規模の生産に有利である。
【0035】
図1は、本発明の微生物、好ましくは、バチルス・リケニフォルミスにおいて、主に生産される粘液性高分子とポリオールの代謝回路、かつ、これに相応する酵素反応を示す。
【0036】
グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路の抑制
菌体外多糖の合成酵素(Exopolysaccharide synthesis genes)は、グルコース-6-リン酸のEPSへの転換を調節する。菌体外多糖の合成酵素をコードする遺伝子のうち、epsAB遺伝子を欠失させることによって、グルコース-6-リン酸を菌体外多糖に転換する経路を抑えることができる。前記epsABの抑制は、菌体外多糖の合成酵素の発現の抑制、菌体外多糖の合成酵素の酵素活性の抑制などによって行うことができる。例えば、菌体外多糖の合成酵素をコードする遺伝子のうち、epsABを欠失させるか、前記遺伝子に突然変異(一部の塩基を変異、置換または削除するか、一部の塩基を導入して、正常な遺伝子の発現を抑制させるなどの突然変異)を起こすか、転写過程または翻訳過程での遺伝子の発現の調節など、当業者は、適宜な方法を選択して、菌体外多糖の合成酵素を抑制することができる。
【0037】
グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路の抑制
グリセロホスファターゼ(glycerophosphatase)は、グリセロリン酸のグリセロールへの転換を調節する。前記グリセロホスファターゼを抑制することによって、グリセロリン酸をグリセロールに転換する経路を抑えることができる。前記グリセロホスファターゼの抑制は、グリセロホスファターゼの発現の抑制、グリセロホスファターゼの酵素活性の抑制などによって行うことができる。例えば、グリセロホスファターゼをコードする遺伝子であるdgpを欠失させるか、前記遺伝子に突然変異(一部の塩基を変異、置換または削除するか、一部の塩基を導入して、正常な遺伝子の発現を抑制させるなどの突然変異)を起こすか、転写過程または翻訳過程での遺伝子の発現の調節など、当業者は、適宜な方法を選択して、グリセロホスファターゼを抑制することができる。
【0038】
アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路の抑制
(2R,3S)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼ((2R,3S)-butanediol dehydrogenase)は、アセトインの(2R,3S)-ブタンジオールへの転換を調節する。前記(2R,3S)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼを抑制することによって、アセトインを(2R,3S)-ブタンジオールに転換する経路を抑えることができる。前記(2R,3S)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼの抑制は、(2R,3S)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼの発現の抑制、(2R,3S)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼの酵素活性の抑制などによって行うことができる。例えば、(2R,3S)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であるbudCを欠失させるか、前記遺伝子に突然変異(一部の塩基を変異、置換または削除するか、一部の塩基を導入して、正常な遺伝子の発現を抑制させるなどの突然変異)を起こすか、転写過程または翻訳過程での遺伝子の発現の調節など、当業者は、適宜な方法を選択して、グリセロホスファターゼを抑制することができる。
【0039】
アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路の抑制
(2R,3R)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼ((2R,3R)-butanediol dehydrogenase)は、アセトインの(2R,3R)-ブタンジオールへの転換を調節する。前記(2R,3S)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼを抑制することによって、アセトインを(2R,3R)-ブタンジオールに転換する経路を抑えることができる。前記(2R,3R)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼの抑制は、(2R,3R)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼの発現の抑制、(2R,3S)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼの酵素活性の抑制などによって行うことができる。例えば、(2R,3R)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であるgdhを欠失させるか、前記遺伝子に突然変異(一部の塩基を変異、置換または削除するか、一部の塩基を導入して、正常な遺伝子の発現を抑制させるなどの突然変異)を起こすか、転写過程または翻訳過程での遺伝子の発現の調節など、当業者は、適宜な方法を選択して、グリセロホスファターゼを抑制することができる。
【0040】
グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路の抑制
ポリグルタメート・シンターゼ(polyglutamate synthase)は、グルタミン酸のポリグルタミン酸への転換を調節する。前記ポリグルタメート・シンターゼを抑制することによって、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路を抑えることができる。前記ポリグルタメート・シンターゼの抑制は、ポリグルタメート・シンターゼの発現の抑制、ポリグルタメート・シンターゼの酵素活性の抑制などによって行うことができる。例えば、ポリグルタメート・シンターゼをコードする遺伝子であるpgsBCAEを欠失させるか、前記遺伝子に突然変異(一部の塩基を変異、置換または削除するか、一部の塩基を導入して、正常な遺伝子の発現を抑制させるなどの突然変異)を起こすか、転写過程または翻訳過程での遺伝子の発現の調節など、当業者は、適宜な方法を選択して、ポリグルタメート・シンターゼを抑制することができる。
【0041】
ポリオールの生産方法及び粘液性高分子の生産方法
本発明は、組換え微生物を準備する段階と、前記組換え微生物を、炭素源を含む培地で培養する段階とを含む、ポリオールの生産方法に関する。
【0042】
また、本発明は、組換え微生物を準備する段階と、前記組換え微生物を、炭素源を含む培地で培養する段階とを含む、粘液性高分子の生産方法に関する。
【0043】
また、本発明は、組換え微生物を準備する段階と、前記組換え微生物を、炭素源を含む培地で培養する段階とを含む、ポリオール及び粘液性高分子の同時生産方法に関する。
【0044】
上記培養は、嫌気的条件で行われて、好ましくは、微嫌気的条件(microaerobic condition)で行われる。例えば、上記培養は、培養の際、酸素、つまり空気を供給しながら行われ、具体例では、これは撹拌によって行うことができるものの、これに制限されるものではない。本発明の組換え微生物は、複合培地で培養されてもよい。複合培地の種類は、特に制限されず、通常の技術者は、一般に市販、使用される複合培地を適宜選択して使用することができることは自明である。
【0045】
前記炭素源は、ショ糖、葡萄糖及びグルタミン酸からなる群から選択される1つ以上を含んでいてもよい。一例では、前記炭素源は、ショ糖、葡萄糖及びグルタミン酸からなる群から選択される2つ以上を含んでいてもよい。
【0046】
一例では、菌体外多糖を生産するために、炭素源として葡萄糖を用いることができる。一例では、ポリグルタミン酸を生産するために、葡萄糖とグルタミン酸とを同時に炭素源として用いることができる。一例では、レバンを生産するために、ショ糖を炭素源として用いることができる。
【0047】
上記培養は、25~55℃で行うことができる。通常の技術者は、所望のポリオールまたは粘液性高分子の種類によって培養温度を適宜選択することができる。例えば、菌体外多糖を高い選択度で生産するために、25℃以上且つ37℃以下の温度で培養することができる。例えば、ポリグルタミン酸を高い選択度で生産するために、37℃以上且つ55℃以下の温度で培養することができる。レバンは、25~55℃の全体温度範囲における高い選択度で生産することができる。
【0048】
前記ポリオールの生産方法は、組換え微生物を培養して得た培養液からポリオールを回収する段階を更に含んでいてもよい。また、前記粘液性高分子の生産方法は、組換え微生物を培養して得た培養液からポリオールを回収する段階を更に含んでいてもよい。
【0049】
また、本発明は、
図2のように、培養液からポリオール及び粘液性高分子を同時に回収することができる。
【0050】
粘液性高分子を回収するために、培養液の遠心分離によって細胞を除去し、上澄液に2~3倍数のエタノールを添加して沈殿させることによって、固形物のCrude粘液性高分子を得て、さらに洗浄、膜透析(Memebrane dialysis)、凍結乾燥(Lyophilization)などの後段工程によって高純度の粘液性高分子を得ることができる。また、2,3-ブタンジオール、グリセロールのようなポリオールは、高い沸点(180℃以上)の特性を用いて、蒸留工程によって最終に高純度のポリオール製品を得ることができる。よって、細胞が除去された発酵液から沈殿によって粘液性高分子は回収し、他の上澄液から蒸留工程によってポリオールを回収する方式により、2つの異なる物質を同時に回収することができる。
【0051】
一具現例において、培養液から遠心分離(3,500rpm、10分)によって細胞を除去し、細胞が除去された上澄液に2倍~3倍体積のエタノールを添加して、粘液性高分子を沈殿させる。沈殿した粘液性高分子は、膜透析(membrane dialysis)、凍結乾燥(lyphylization)などによって粉末状に回収し、ポリオールは、高い沸点の特性を用いて、粘液性高分子が除去された残余液から蒸留によって回収することができる。
【実施例】
【0052】
本発明の利点及び特徴、そしてそれらを達成する方法は、詳細に後述する実施例を参照すれば明確になる。しかし、本発明は、以下で開示の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態に具現されるものである。但し、本実施例は、本発明の開示を完全にして、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇によって定義されるだけである。
【0053】
<材料及び方法>
大田近くの土壌サンプルから分離した野生型菌株であるバチルス・リケニフォルミスGSC4071(KCTC14485BP)を用意した。下記の実験例における粘液性高分子(Viscous polymer)は、培養後、細胞を除去して、エタノールの沈殿によって得られる固形物を総称し、具体的には、ポリグルタミン酸及びレバンを含み、このほか、他の粘液性高分子も含む種々の粘液性高分子の総称である。
【0054】
粘液性高分子またはポリオールの濃度(g/L)、収率(g/g)及び選択度(%)は、下記のように計算した。
【0055】
-粘液性高分子またはポリオールの濃度(g/L):単位体積当たりに生産される粘液性高分子またはポリオールの量
-粘液性高分子またはポリオールの収率(g/g):(粘液性高分子またはポリオールの生産量(g)/炭素源(g))×100
-粘液性高分子またはポリオールの選択度(%):(特定の粘液性高分子またはポリオールの生産量(g)/全体の粘液性高分子またはポリオールの生産量(g))×100
【0056】
<実験例1>
バチルス・リケニフォルミスGSC4071を用いて組換え菌株を作製した。
【0057】
<1-1>epsAB、dgp、budC、gdh、pgsBCAEが欠失した組換えバチルス・リケニフォルミスの作製
標的遺伝子の相同部位を含むDNA断片の作製
バチルス・リケニフォルミスの標的遺伝子を不活性化するために、バクテリアの組換え機構を用いており、除去しようとする遺伝子の相同部位(homologous region)をPCRで増幅した。その後、相同部位を含む当該DNA断片をバクテリアに伝達した後、DNA断片にある遺伝子の相同部位と、バチルス・リケニフォルミスの染色体にある遺伝子との間に組換え酵素(recombinase)による組換え機構により標的遺伝子を除去することになる。
【0058】
先ず、バチルス・リケニフォルミスのEPS合成酵素の相同部位をクローニングするために、標的遺伝子であるepsAB(配列番号1)の相同部位1(配列番号2)を、配列番号3及び4のプライマーを用いてPCRで増幅した。また、epsABの相同部位2(配列番号5)を、配列番号6及び7のプライマーを用いてPCRで増幅した。その後、相同部位1及び2を同時に鋳型としてPCRで増幅し、相同部位1と2とが含まれたDNA断片(配列番号8)が完成した。
【0059】
一方、バチルス・リケニフォルミスのポリグルタメート・シンターゼの相同部位をクローニングするために、標的遺伝子であるpgsBCAE(配列番号9)の相同部位1(配列番号10)を、配列番号11及び12のプライマーを用いてPCRで増幅した。また、相同部位2(配列番号13)を、配列番号14及び15のプライマーを用いてPCRで増幅した。その後、相同部位1及び2を同時に鋳型としてPCRで増幅し、相同部位1と2とが含まれたDNA断片(配列番号16)が完成した。
【0060】
一方、バチルス・リケニフォルミスのグリセロホスファターゼの相同部位をクローニングするために、標的遺伝子であるdgp(配列番号17)の相同部位1(配列番号18)を、配列番号19及び20のプライマーを用いてPCRで増幅した。また、相同部位2(配列番号21)を、配列番号22及び23のプライマーを用いてPCRで増幅した。その後、相同部位1及び2を同時に鋳型としてPCRで増幅し、相同部位1と2とが含まれたDNA断片(配列番号24)が完成した。
【0061】
一方、バチルス・リケニフォルミスの(2R,3S)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼの相同部位をクローニングするために、標的遺伝子であるbudC(配列番号25)の相同部位1(配列番号26)を、配列番号27及び28のプライマーを用いてPCRで増幅した。また、相同部位2(配列番号29)を、配列番号30及び31のプライマーを用いてPCRで増幅した。その後、相同部位1及び2を同時に鋳型としてPCRで増幅し、相同部位1と2とが含まれたDNA断片(配列番号32)が完成した。
【0062】
一方、バチルス・リケニフォルミスの(2R,3R)-ブタンジオールデヒドロゲナーゼの相同部位をクローニングするために、標的遺伝子であるgdh(配列番号33)の相同部位1(配列番号34)を、配列番号35及び36のプライマーを用いてPCRで増幅した。また、相同部位2(配列番号37)を、配列番号38及び39のプライマーを用いてPCRで増幅した。その後、相同部位1及び2を同時に鋳型としてPCRで増幅し、相同部位1と2とが含まれたDNA断片(配列番号40)が完成した(表1)。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
<1-2>epsAB、pgsBCAE、dgp、budC、gdhが欠失した組換えバチルス・リケニフォルミスの作製
上記<1-1>で作製したDNA断片を電気穿孔法(electroporation、25uF、200Ω、2.5kV/cm)によりバチルス・リケニフォルミスGSC4071に伝達し、微生物の組換え機構を用いて標的遺伝子を除去することができた。
【0073】
野生型バチルス・リケニフォルミスGSC4071にepsAB遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、epsAB遺伝子を除去した組換えバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたepsABが欠失した組換え微生物を実施例1の組換え菌株(B.licheniformis4071 ΔepsAB)として使用した。
【0074】
一方、バチルス・リケニフォルミスの野生型からepsAB遺伝子を除去した後、dgp遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、epsAB遺伝子にさらにdgp遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたepsAB、dgpが欠失した組換え微生物を実施例2の菌株(B. licheniformis4071 ΔepsAB Δdgp)として使用した。
【0075】
そして、バチルス・リケニフォルミスの野生型からepsAB遺伝子を除去した後、budC遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、epsAB遺伝子にさらにbudC遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたepsAB、budCが欠失した組換え微生物を実施例3の菌株(B.licheniformis4071 ΔepsAB ΔbudC)として使用した。
【0076】
そして、バチルス・リケニフォルミスの野生型からepsAB遺伝子を除去した後、gdh遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、epsAB遺伝子にさらにgdh遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたepsAB、gdhが欠失した組換え微生物を実施例4の菌株(B.licheniformis4071 ΔepsAB Δgdh)として使用した。
【0077】
そして、バチルス・リケニフォルミスの野生型からepsAB、dgp遺伝子を除去した後、pgsBCAE遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、epsAB、dgp遺伝子にさらにpgsBCAE遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたepsAB、dgp、pgsBCAEが欠失した組換え微生物を実施例5の菌株(B.licheniformis4071 ΔepsAB Δdgp ΔpgsBCAE)として使用した。
【0078】
そして、バチルス・リケニフォルミスの野生型からepsAB、gdh遺伝子を除去した後、pgsBCAE遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、epsAB、gdh遺伝子にさらにpgsBCAE遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたepsAB、gdh、pgsBCAEが欠失した組換え微生物を実施例6の菌株(B.licheniformis4071 ΔepsAB Δgdh ΔpgsBCAE)として使用した。
【0079】
そして、バチルス・リケニフォルミスの野生型からepsAB、dgp、pgsBCAE遺伝子を除去した後、budC遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、epsAB、dgp、pgsBCAE遺伝子にさらにbudC遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたepsAB、dgp、pgsBCAE、budCが欠失した組換え微生物を実施例7の菌株(B.licheniformis4071 ΔepsAB Δdgp ΔpgsBCAE ΔbudC)として使用した。
【0080】
そして、バチルス・リケニフォルミスの野生型からepsAB、dgp、pgsBCAE遺伝子を除去した後、gdh遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、epsAB、dgp、pgsBCAE遺伝子にさらにgdh遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたepsAB、dgp、pgsBCAE、gdhが欠失した組換え微生物を実施例8の菌株(B.licheniformis4071 ΔepsAB Δdgp ΔpgsBCAE Δgdh)として使用した。
【0081】
そして、バチルス・リケニフォルミスの野生型からdgp遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、dgp遺伝子を除去した後、budC遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、dgp遺伝子及びbudC遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたdgp、budCが欠失した組換え微生物を実施例9の菌株(B.licheniformis4071 Δdgp ΔbudC)として使用した。
【0082】
そして、バチルス・リケニフォルミスの野生型からdgp遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、dgp遺伝子を除去した後、gdh遺伝子の相同部位を含むDNA断片を伝達して、dgp遺伝子及びgdh遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを作製した。このように作製されたdgp、gdhが欠失した組換え微生物を実施例10の菌株(B.licheniformis4071 Δdgp Δgdh)として使用した。
【0083】
下記の実験例では、このように作製された組換え微生物を用いて、下記の培養及び分析実験を行った。このとき、野生型菌株であるバチルス・リケニフォルミスGSC4071は、比較例1として使用した。
【0084】
【0085】
<実験例2>比較例1及び実施例1の微生物の30℃の低温培養による粘液性高分子及びポリオール生産能の評価
比較例1の野生型バチルス及び実施例1の組換えバチルス菌株を用いて、粘液性高分子及びポリオールの同時生産能を評価した。
【0086】
これら微生物に対してフラスコ培養を行った。前記微生物の培養は、下記のように行った。
【0087】
先ず、炭素源による粘液性高分子生産への影響を確認するために、葡萄糖、葡萄糖+グルタミン酸、ショ糖、ショ糖+グルタミン酸をそれぞれ添加した培地での培養を行った。
【0088】
前記微生物を100g/Lの葡萄糖(glucose)または同じ濃度のショ糖(sucrose)を含む50mlの複合培地を含む250mlのフラスコに接種して、30℃で、48時間、180rpmの条件で培養した。また、ポリグルタミン酸を生産するためには、20g/Lのグルタミン酸を培地にさらに添加した。培養条件は、微嫌気的条件が維持されるようにして、初期pH7.0で行った。前記野生型及び組換え微生物に対して培養を終了した後、サンプルを採取し、採取した試料は、13,000rpmで、10分間、遠心分離した後、細胞を除去して、上層液は、液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、2,3-ブタンジオール及びグリセロールを分析しており、上層液の粘液性高分子の濃度は、先ず、上層液をエタノール1:2の割合で混合した後、24時間、エタノール沈殿(ethanol precipitation)させて、遠心分離し、高分子を回収した。透析(membrane dialysis,10kDa)によって回収した高分子から低分子を除去し、最後に、凍結乾燥(freeze drying)によって乾燥重量を測定した。乾燥した粘液性高分子のうちポリグルタミン酸、レバン、EPSを特定するために、NMR分析によって同定した。
【0089】
その結果、比較例1の野生型微生物を葡萄糖で培養するとき、総ポリオールは、38.57g/Lであり、グリセロールが8.09g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが16.48g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが14g/Lであった。総粘液性高分子は、9.71g/Lであり、いずれもEPSと確認された。よって、比較例1の野生型微生物を葡萄糖で30℃の低温培養時、三種類のポリオールがいずれも生産されており、粘液性高分子は、EPSのみ選択的に生産されることが確認された。
【0090】
比較例1の野生型微生物を葡萄糖+グルタミン酸培地で培養したとき、総ポリオールは38.12g/Lであり、グリセロールが8.24g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが13.80g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが16.08g/Lであった。総粘液性高分子は10.71g/Lであり、このうちPGAが7.22g/L(67.4%)、EPSが3.49g/L(32.6%)生成された。よって、比較例1の野生型微生物を30℃で低温培養の際、グルタミン酸を培地に添加することによって、PGAを高選択度で生産可能であることを確認することができた。
【0091】
比較例1の野生型微生物をショ糖で培養したとき、総ポリオールは35.61g/Lであり、このうちグリセロールが7.97g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが13.78g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが13.85g/Lであった。総粘液性高分子は、13.65g/Lであり、このうちレバンが11.18g/L(81.9%)、EPSが2.47g/L(18.1%)であった。よって、比較例1の野生型微生物をショ糖で培養したとき、レバンが優勢に生成されることを確認することができた。
【0092】
最後に、比較例1の野生型微生物をショ糖+グルタミン酸培地で培養したとき、総ポリオールは37.51g/Lであり、このうちグリセロールが9.76g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが11.23g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが16.52g/Lであった。総粘液性高分子は16.18g/Lであり、このうちPGAが1.65g/L(10.2%)、レバンが10.40g/L(64.3%)、EPSが4.13g/L(25.5%)であった。本培養条件では、三種類のポリオールと三種類の粘液性高分子がいずれも生成されることを確認することができた。
【0093】
次いで、実施例1の組換え微生物を用いた培養試験を行った。
【0094】
実施例1の組換え微生物を葡萄糖培地で培養したとき、総ポリオールは39.72g/Lであり、このうちグリセロールが6.77g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが17.87g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが15.09g/Lであった。総粘液性高分子は0.88g/Lの水準であり、いずれもEPSと確認された。これは、epsAB遺伝子の欠失によってEPS生成がほぼ抑制され得ることを示す。
【0095】
実施例1の組換え微生物を葡萄糖+グルタミン酸培地で培養した結果、総ポリオールは41.67g/Lであり、このうちグリセロールが8.31g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが16.22g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが17.14g/Lであった。総粘液性高分子は1.82g/Lであり、このうちPGAが1.30g/L(71.4%)、EPSが0.52g/L(28.6%)であった。epsAB遺伝子を除去することによって、PGA生成の割合は、小さい幅で上昇しているが、全体的な粘液性高分子の生成量が減っていることを確認することができる。これは、30℃の低温培養の影響と判断して、実験例2で追加試験を行った。
【0096】
最後に、実施例1の組換え微生物をショ糖培地で培養した結果、総ポリオールは、41.23g/Lであり、このうちグリセロールが8.73g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが16.66g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが15.83g/Lであった。総粘液性高分子は、19.29g/Lであり、このうちレバンが18.72g/L(97%)、EPSが0.58g/L(3%)であった。よって、epsAB遺伝子の欠失によってレバンの選択度及び生成量が大きく増加したことを確認することができた。これによって、30℃の低温培養条件で、培地成分及びepsAB遺伝子の欠失によるポリオールの生成量の変化は大きくないものの、粘液性高分子は大きく影響を受けることを確認した。
【0097】
結果として、比較例1の野生型微生物は、葡萄糖培地でポリオールとEPSを選択的に生成することができた。30℃の低温培養条件で、PGAの場合、epsAB遺伝子の欠失による選択度の改善が観察されており、その生成量は高くないことが分かった。しかし、epsAB遺伝子が欠失した実施例1の組換え微生物に対して、ショ糖を含む培地で30℃の低温培養を行った結果、高選択度のレバンの生成が可能であることを確認した(表3及び表4、
図5及び
図6)。
【0098】
[表3]
比較例1の野生型微生物の炭素源による培養物分析
【0099】
[表4]
実施例1の組換え微生物の炭素源による培養物の分析
【0100】
<実験例3>比較例1及び実施例1の微生物の45℃の高温培養による粘液性高分子及びポリオール生産能の評価
比較例1の野生型バチルス及び実施例1の組換えバチルス菌株を45℃の高温条件で培養して、ポリオールと粘液性高分子の生成量の変化を評価した。すべての基本条件は、実施例1と同様に行っており、培養温度のみ45℃に変更して行った。
【0101】
その結果、比較例1の野生型微生物は、葡萄糖培地で高温培養したとき、総ポリオールは45.15g/Lであり、このうちグリセロールが8.85g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが13.6g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが22.7g/Lであった。これにより、高温培養によるポリオールの総生成量は、低温培養に比べて増加することを確認した。総粘液性高分子は5.06g/Lであり、このうちPGAが3.69g/L、EPSが1.37g/Lであった。
【0102】
比較例1の野生型微生物を葡萄糖+グルタミン酸培地で高温培養したとき、総ポリオールは44.81g/Lであり、このうちグリセロールが9.01g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが10.6g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが25.2g/Lであった。総粘液性高分子は5.47g/Lであり、このうちPGAが3.98g/L、EPSが1.49g/Lであった。比較例1の野生型微生物に対する低温培養では、グルタミン酸の未添加培地を用いるとき、PGAは全く生成されていないものの、高温培養では、グルタミン酸を添加することなく、PGAの生成が可能であることを確認した。
【0103】
次いで、実施例1の組換え微生物を用いて培養試験を行った。
【0104】
実施例1の組換え微生物を葡萄糖培地で生産した結果、総ポリオールの生産量は50.1g/Lであり、このうちグリセロールが11.5g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが12.8g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが25.8g/Lであった。総粘液性高分子は2.65g/Lであり、このうちPGAが1.59g/L、EPSが1.05g/Lであった。高温培養によってepsABが欠失して、グルタミン酸が添加されていない培地でもPGAが生成されることを確認した。
【0105】
実施例1の組換え微生物を葡萄糖+グルタミン酸培地で培養した結果、総ポリオールは48.12g/Lであり、このうちグリセロールが10.02g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが11.5g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが26.6g/Lであった。総粘液性高分子は5.45g/Lであり、このうちPGAが5.10g/L、EPSが0.35g/Lであった。葡萄糖+グルタミン酸培地で実施例1の組換え微生物を培養したとき、PGAの選択度は93%であり、比較例1の野生型微生物の73%よりも増加したことが確認できた。また、実施例1の組換え微生物を高温培養したとき、PGAの選択度だけでなく、生産量も大きく増加することを確認することができた。
【0106】
最後に、実施例1の組換え微生物をショ糖で培養した結果、総ポリオールは46g/Lであり、このうちグリセロールが10.2g/L、(2R,3R)-ブタンジオールが11.5g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが24.3g/Lであった。総粘液性高分子は15.47g/Lであり、このうちレバンが15.31g/L、EPSが0.154g/Lであった。レバンの場合、低温及び高温条件でいずれも高選択度及び高い生成量を示すことを確認することができた(表5、
図7及び8)。
【0107】
【0108】
<実験例4>レバン及びポリオールの選択度が改善した組換え微生物の培養の評価
実験例2及び3では、粘液性高分子の生産量及び選択度の改善に対する評価を行っており、粘液性高分子のうちレバンの生産量及び選択度が最も高いことを確認した。この点、比較例1の野生型微生物にさらなる遺伝子組換えを行い、レバンと特定のポリオールの選択的同時生産が可能であるか否かを確認しようとした。培養時の炭素源は、ショ糖を用いており、その他実験条件は、実験例1と同様の条件で行った。
【0109】
その結果、実施例2の組換え微生物は、グリセロールの生成を抑制するために作製されたが、培養の結果、ポリオールのうちグリセロールを全く生産していないことが確認された。実施例3の組換え微生物は、(2R,3S)-ブタンジオールの生成を抑制するために作製されたが、培養の結果、ポリオールのうち(2R,3S)-ブタンジオールをほとんど生産しないことが確認された。実施例4の組換え微生物は、(2R,3R)-ブタンジオールの生成を抑制するために作製されたが、培養の結果、ポリオールのうち(2R,3R)-ブタンジオールをほとんど生産しないことが確認された。
【0110】
実施例3の組換え微生物は、23.85g/Lのレバンの生成が確認されたが、実施例2及び実施例4の組換え微生物は、特定のポリオールの生成遺伝子を欠失することによって、レバンの生成量が大きく抑制されることが確認された。これにより、バイオフィルム(Biofilm)を構成する要素間の調節機構によって、特定のポリオールの生成に関与する遺伝子の除去は、粘液性高分子の生成の抑制と連結されていることが確認された。
【0111】
かかる問題は、実施例2の組換え微生物におけるpgsBCAE遺伝子をさらに欠失させた実施例5の組換え微生物を作製することで解決した。pgsBCAE遺伝子はPGA合成酵素であり、PGAは、バイオフィルムを形成する構成成分の1つである。実験的に、pgsBCAE遺伝子をさらに欠失させることが粘液性高分子の生産能を回復させることができることが確認できた。
【0112】
実施例5の組換え微生物を培養した結果、総ポリオールは29.87g/Lであり、このうち(2R,3R)-ブタンジオールが16.15g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが13.71g/Lに生成されたことが確認され、グリセロールは、全く生成されていない。総粘液性高分子は22.18g/Lであり、このうちレバンが21.91g/L、EPSが0.27g/Lに生成されることが確認された。実施例5の組換え微生物を介してグリセロールが除去されたポリオールとレバンの選択的同時生産が可能であることを確認した。
【0113】
実施例6の組換え微生物は、実施例4の組換え微生物にpgsBCAEをさらに欠失させて作製した。その結果、総ポリオールは35.4g/Lであり、このうちグリセロールが7.29g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが28.1g/Lに生成された。総粘液性高分子は25.59g/Lであり、このうちレバンが24.82g/L、EPSが0.77g/Lに生成された。(2R,3R)-ブタンジオールを除くポリオールとレバンを選択的に同時生産できることを確認した。
【0114】
実施例7の組換え微生物は、グリセロールの生産能が抑制されて、粘液性高分子の生産能が回復した、実施例5の組換え微生物におけるbudC遺伝子をさらに欠失させて作製した。実施例7の組換え微生物を培養した結果、総ポリオールは25.47g/Lであり、このうちグリセロールが0、(2R,3R)-ブタンジオールが25.34g/L(99.5%)、(2R,3S)-ブタンジオールが0.14g/L(0.5%)であった。実施例7の組換え微生物を培養した結果、総粘液性高分子は23.94g/Lであり、このうちレバンが23.15g/L(96.7%)、EPSが0.79g/L(3.3%)であった。最終に、実施例7の組換え微生物を培養して、高選択度の(2R,3R)-ブタンジオールと高選択度のレバンとを同時に生産できることを確認した。
【0115】
実施例8の組換え微生物は、グリセロールの生産能が抑制されて、粘液性高分子の生産能が回復した、実施例5の組換え微生物におけるgdh遺伝子をさらに欠失して作製した。実施例8の組換え微生物を培養した結果、総ポリオールは25.4g/Lであり、このうちグリセロールが0、(2R,3R)-ブタンジオールが0、(2R,3S)-ブタンジオールが25.4g/L(100%)であった。実施例8の組換え微生物を培養した結果、総粘液性高分子は23.59g/Lであり、このうちレバンが22.41g/L(95%)、EPSが1.18g/L(5%)であった。最終に、実施例8の組換え微生物を培養して、高選択度の(2R,3S)-ブタンジオールと高選択度のレバンとを同時に生産できることが確認された(表6、
図9及び10)。
【0116】
【0117】
<実験例5>PGA及びポリオールの選択度が改善した組換え微生物の培養の評価
実験例3では、微生物の45℃の高温培養による粘液性高分子及びポリオールの生産能を評価した。葡萄糖培地で培養したとき、実施例1の場合、グルタミン酸を添加することなく、PGAの生成が可能であり、グルタミン酸を添加するとき、粘液性高分子のうちPGAを高い選択度及び生産量に得ることができることを確認した。実施例1の微生物に基づいて、PGAとポリオールとの選択的同時生産の可能性を確認するため実験を行った。本実験は、グルタミン酸を添加した葡萄糖培地で45℃の高温培養によって行った。実施例2、実施例3及び実施例4について比較評価を行った。
【0118】
実施例2の組換え微生物を培養した結果、総ポリオールは31.8g/Lであり、このうち(2R,3R)-ブタンジオールが10.6g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが21.2g/Lに生成されたことが確認され、グリセロールは、全く生成されていない。総粘液性高分子は0.35g/Lであり、いずれもEPSが生成されることが確認された。グリセロールの生成遺伝子であるdgpを欠失したとき、PGAを含む粘液性高分子の生成量が大きく抑制されることを確認することができた。
【0119】
実施例3の組換え微生物を培養した結果、総ポリオールは48.3g/Lであり、このうち(2R,3R)-ブタンジオールが35.4g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが1.1g/L、グリセロールが11.8g/Lに生成された。(2R,3R)-ブタンジオールを高い選択度で生産できることを確認した。総粘液性高分子は6.35g/Lであり、このうちPGAが6.15g/L、EPSが0.20g/Lに生成されることが確認された。全体として、(2R,3S)-ブタンジオールの生成遺伝子であるbudCを欠失したとき、(2R,3R)-ブタンジオール及びグリセロールとPGAを選択的に同時生産できる可能性を確認することができた。
【0120】
実施例4の組換え微生物を培養した結果、総ポリオールは37.2g/Lであり、このうち(2R,3S)-ブタンジオールが35.0g/L、グリセロールが2.2g/Lに生成された。(2R,3R)-ブタンジオールは、全く生成されていない。総粘液性高分子は0.45g/Lであり、いずれもEPSが生成されることが確認された。実施例4の場合、(2R,2R)-ブタンジオールの生成遺伝子であるgdhを欠失したとき、PGAを含む粘液性高分子の生成が大きく抑制されることを確認することができた(表7、
図11及び
図12)。
【0121】
【0122】
<実験例6>EPS及びポリオールの選択度が改善した組換え微生物の培養の評価
実験例2では、比較例1の微生物を葡萄糖培地で30℃に低温培養したとき、粘液性高分子のうちEPSのみ生成可能であることを確認した。EPSと(2R,3R)-ブタンジオールまたは(2R,3S)-ブタンジオールの選択的な同時生産可能性を確認するために、実施例9及び実施例10の微生物を用いて培養試験を行った。本実験は、葡萄糖培地で、30℃の低温培養によって行った。
【0123】
実施例9の組換え微生物を培養した結果、総ポリオールは28.1g/Lであり、このうち(2R,3R)-ブタンジオールが27.8g/L、(2R,3S)-ブタンジオールが0.3g/Lに生成された。グリセロールは、全く生成されておらず、(2R,3R)-ブタンジオールを高い選択度で生成できることを確認した。総粘液性高分子は7.22g/Lであり、いずれもEPSと確認された。これによって、(2R,3R)-ブタンジオールとEPSを選択的に同時生産できることを確認した。
【0124】
実施例10の組換え微生物を培養した結果、総ポリオールは26.1g/Lであり、いずれも(2R,3S)-ブタンジオールと確認された。(2R,3R)-ブタンジオール及びグリセロールは、全く生成されておらず、(2R,3S)-ブタンジオールを高い選択度で生成できることを確認した。総粘液性高分子は6.56g/Lであり、いずれもEPSと確認された。これによって、(2R,3S)-ブタンジオールとEPSを選択的に同時生産できることを確認した(表8、
図13及び
図14)。
【0125】
【0126】
<実験例7>レバン及び(2R,3S)-ブタンジオールの選択的同時生産のための流加式発酵培養
レバン及び(2R,3S)-ブタンジオールの高選択度の同時生産能を検証するために、実施例8の組換え微生物をショ糖培地の条件で流加式発酵して、発酵性能を評価した。
【0127】
微生物の発酵実験は、下記のように行った。
【0128】
先ず、実施例8の組換え微生物を300mlの複合培地を含む1Lのフラスコに接種して、30℃または45℃で、16時間、180rpmの条件で培養した。培養した微生物は、最終培養液の体積が3Lになるように、7.5L容量の発酵器に接種した。初期条件として、pH7.0、温度30℃または45℃、550rpm、酸素1vvmの条件で行った。初期ショ糖の濃度は、100g/Lとして行った。培養中でアセトイン(acetoin)の量が、10g/L以上になると、撹拌速度を350rpmに下げる2段階の発酵を行っており、培養液内の糖濃度が20g/L以下に下げるとき、150gのショ糖粉をさらにフィード(feeding)して行った。発酵中で、4時間の間隔でサンプルを採取しており、細胞の生長は、spectrophotometerによってOD600値で測定し、採取した試料を、13,000rpmで10分間、遠心分離した後、上層液の(2R,3S)-ブタンジオール濃度を液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。レバンは、エタノールの沈殿による回収及びNMR分析によって定量した。その結果、30℃の低温培養流加式発酵を行ったとき、(2R,3S)-ブタンジオールの生産量は41.8g/Lであり、レバンの生産量は27g/Lであった。一方、45℃の高温培養流加式発酵を行ったときは、(2R,3S)-ブタンジオールの生産量は88.6g/Lであり、レバンは71g/Lであった。低温かつ高温の培養条件でいずれも、粘液性高分子及びポリオールのうちレバンと(2R,3S)-ブタンジオールは、99%以上の選択度に生産された。低温培養に比べて、高温培養におけるレバン及び(2R,3S)-ブタンジオールの生産量が2倍ほど高かった。これは、実施例8の組換え微生物が高温で早く生長して、代謝速度が非常に早いからであると把握された。また、粘液性高分子とポリオールを選択的に同時生産することにあたって、産業的水準の高濃度の生産が可能であることが確認された(表9、
図15及び16)。
【0129】
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、ポリオールまたは粘液性高分子の生産能が調節された組換え微生物に関する。また、本発明は、本発明の組換え微生物を用いたポリオールまたは粘液性高分子の生産方法に関する。
【0131】
[配列表フリーテキスト]
配列番号1:epsABの塩基配列である。
配列番号2:epsABの相同部位1の塩基配列である。
配列番号3:epsABの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号4:epsABの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号5:epsABの相同部位2の塩基配列である。
配列番号6:epsABの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号7:epsABの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号8:epsABの相同部位1と2とが含まれたDNA断片の塩基配列である。
配列番号9:pgsBCAEの塩基配列である。
配列番号10:pgsBCAEの相同部位1の塩基配列である。
配列番号11:pgsBCAEの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号12:pgsBCAEの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号13:pgsBCAEの相同部位2の塩基配列である。
配列番号14:pgsBCAEの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号15:pgsBCAEの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号16:pgsBCAEの相同部位1と2とが含まれたDNA断片の塩基配列である。
配列番号17:dgpの塩基配列である。
配列番号18:dgpの相同部位1の塩基配列である。
配列番号19:dgpの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号20:dgpの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号21:dgpの相同部位2の塩基配列である。
配列番号22:dgpの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号23:dgpの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号24:dgpの相同部位1と2とが含まれたDNA断片の塩基配列である。
配列番号25:budCの塩基配列である。
配列番号26:budCの相同部位1の塩基配列である。
配列番号27:budCの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号28:budCの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号29:budCの相同部位2の塩基配列である。
配列番号30:budCの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号31:budCの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号32:budCの相同部位1と2とが含まれたDNA断片の塩基配列である。
配列番号33:gdhの塩基配列である。
配列番号34:gdhの相同部位1の塩基配列である。
配列番号35:gdhの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号36:gdhの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号37:gdhの相同部位2の塩基配列である。
配列番号38:gdhの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号39:gdhの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号40:gdhの相同部位1と2とが含まれたDNA断片の塩基配列である。
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC14485BP
受託日:2021年3月5日
【配列表】
【国際調査報告】