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特表2024-531758造粒された金属酸化物粉末を生産するための方法、および対応する造粒された金属酸化物粉末
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  • 特表-造粒された金属酸化物粉末を生産するための方法、および対応する造粒された金属酸化物粉末 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】造粒された金属酸化物粉末を生産するための方法、および対応する造粒された金属酸化物粉末
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20240822BHJP
   C01G 27/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C01G25/02
C01G27/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516734
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2022075698
(87)【国際公開番号】W WO2023041672
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】2109781
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】593128105
【氏名又は名称】フラマトム
【氏名又は名称原語表記】FRAMATOME
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ラガルド,ステファヌ
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AD04
4G048AE06
(57)【要約】
本発明は、造粒された金属酸化物粉末を生産するための方法、および対応する造粒された金属酸化物粉末に関し、以下のステップ:
-金属酸化物の粒子から成る初期金属酸化物粉末を、前記金属の塩化物を加水分解することによって得るステップ、
-懸濁媒体中に懸濁している有機バインダと初期金属酸化物粉末とを含む懸濁液を形成するステップ、
-懸濁液を乾燥して、初期金属酸化物粉末の粒子の凝集体によって形成される粒から成る造粒された金属酸化物粉末を得るステップ、
を含む生産方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造粒された金属酸化物粉末、より具体的には造粒された酸化ジルコニウム粉末または造粒された酸化ハフニウム粉末の生産のための方法であって、該生産方法が以下のステップ、
-金属酸化物の粒子で構成される初期金属酸化物粉末を、前記金属の塩化物の加水分解によって得るステップ、
-懸濁媒体中に懸濁している有機バインダと初期金属酸化物粉末とを含む懸濁液を形成するステップ、
-初期金属酸化物粉末の粒子の凝集体から成る粒から成る造粒された金属酸化物粉末を得るために、懸濁液を乾燥するステップ、
を含む方法であり、
金属塩化物の加水分解が、蒸気相中の金属塩化物および/または蒸気相中の水から行われる、生産方法。
【請求項2】
乾燥するステップが、懸濁液のアトマイゼーションによって行われる、請求項1に記載の生産方法。
【請求項3】
懸濁媒体が水である、請求項1または2に記載の生産方法。
【請求項4】
有機バインダが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、デンプンおよびステアリン酸から選択される、請求項1から3のいずれか一つに記載の生産方法。
【請求項5】
造粒された金属酸化物粉末の焼成ステップを含む、請求項1から4のいずれか一つに記載の生産方法。
【請求項6】
初期金属酸化物粉末の粒子のメディアン径が、1μm以下である、請求項1から5のいずれか一つに記載の生産方法。
【請求項7】
造粒された金属酸化物粉末の粒のメディアン径が、5μm以上、より具体的には10μm以上、さらにより具体的には15μm以上である、請求項1から6のいずれか一つに記載の生産方法。
【請求項8】
造粒された金属酸化物粉末が、25%以下の圧縮度、より具体的には20%以下の圧縮度を有する、請求項1から7のいずれか一つに記載の生産方法。
【請求項9】
金属がジルコニウムであり、得られる造粒された金属酸化物粉末が、造粒された二酸化ジルコニウム粉末である、請求項1から8のいずれか一つに記載の生産方法。
【請求項10】
金属がハフニウムであり、得られる金属酸化物粉末が、造粒された二酸化ハフニウム粉末である、請求項1から8のいずれか一つに記載の生産方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一つに記載の生産方法によって得られるまたは得ることができる造粒された金属酸化物粉末、より具体的には造粒された酸化ジルコニウム粉末または造粒された酸化ハフニウム粉末。
【請求項12】
金属酸化物粒子の凝集体から成る粒を含有する造粒された金属酸化物粉末であって、粒のメディアン径が、5μm以上、より具体的には10μm以上であり、粒のメディアン径が、70μm以下、より具体的には60μm以下であり、かつ/または粒の90%が115μm以下の直径を有する造粒された金属酸化物粉末であって、造粒された金属酸化物粉末が25%以下の圧縮度を有する、造粒された金属酸化物粉末。
【請求項13】
金属がジルコニウムまたはハフニウムである、請求項12に記載の造粒された金属酸化物粉末。
【請求項14】
造粒された金属酸化物粉末が、0.4と0.6との間に含まれる粒度分布の偏差を有する、請求項12または13に記載の造粒された金属酸化物粉末。
【請求項15】
造粒された金属酸化物粉末が、20%以下の圧縮度を有する、請求項12から14のいずれか一つに記載の造粒された金属酸化物粉末。
【請求項16】
単斜晶系の結晶相の百分率が0%と50%との間に含まれ、かつ/または、正方晶系の結晶相の百分率が50%と100%との間に含まれる、請求項12から15のいずれか一つに記載の造粒された金属酸化物粉末。
【請求項17】
単斜晶系の結晶相の結晶構造の大きさが、10nmと20nmとの間、より具体的には14nmと16nmとの間に含まれ、かつ/または、正方晶系の結晶相における結晶構造の大きさが、10nmと20nmとの間、より具体的には13nmと15nmとの間に含まれる、請求項12から16のいずれか一つに記載の造粒された金属酸化物粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粉末の生産の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物粉末は例えば、二酸化ジルコニウム粉末、二酸化ハフニウム粉末、酸化チタン粉末、酸化ニオブ粉末または酸化アルミニウム粉末である。
【0003】
このような金属酸化物粉末は例えば、等方圧加圧および焼結によって得られるセラミックスの製造のために使用することができる。
【0004】
このような金属酸化物粉末は、あらゆる種類の用途、例えば、原子力や医療の用途において、より詳細には、医療用人口装具、陰極スパッタリングによる薄膜生産用ターゲットのためや、付加製造による部品製造のために使用することができる。
【0005】
二酸化ジルコニウム粉末と二酸化ハフニウム粉末は例えば、原子力分野において、機械部品製造のために使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的のうちの一つは、金属部品製造に使用しやすくする特性を有する粉末を得るための、金属酸化物粉末生産方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このために、本発明は、造粒された金属酸化物粉末、より具体的には造粒された酸化ジルコニウム粉末または造粒された酸化ハフニウム粉末を生産するための方法を提案し、該生産方法は以下のステップを含む。
-金属酸化物の粒子で構成される初期金属酸化物粉末を、前記金属の塩化物の加水分解によって得るステップ、
-懸濁媒体中に懸濁している有機バインダと初期金属酸化物粉末とを含む懸濁液を形成するステップ、
-初期金属酸化物粉末の粒子の凝集体によって形成される粒から成る造粒された金属酸化物粉末を得るために懸濁液を乾燥するステップ。
【0008】
金属塩化物の加水分解によって得られる初期金属酸化物粉末は、所望の特性、例えば金属酸化物の特定結晶構造を持つ、小さいメディアン径の粒子を有する。
【0009】
懸濁液の形成および乾燥、好ましくは噴霧乾燥による乾燥は、初期金属酸化物粉末の粒子の直径よりも厳密に大きいメディアン径を有する粒で形成される造粒された金属酸化物粉末を、金属酸化物の結晶構造、金属酸化物の化学的純度または造粒された金属酸化物粉末の比表面積といった、造粒された金属酸化物粉末の他の粒子特徴を維持しつつ、得ることに役立つ。
【0010】
したがって、造粒された金属酸化物粉末は、最初の金属酸化物粉末と異なる流動特徴を有し、造粒された金属酸化物粉末を異なる製造方法において使用することを可能にする。
【0011】
特定の実施形態によると、生産方法は、個々に、または技術的に可能なすべての組み合わせにおいて選ばれる、以下の任意の特徴のうちの1つまたは複数を含む。
-金属塩化物の加水分解は、蒸気相中の金属塩化物および/または蒸気相中の水から行われる、
-乾燥ステップは、懸濁液のアトマイゼーションによって行われる、
-懸濁媒体は水である、
-有機バインダは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、デンプンおよびステアリン酸から選択される、
-生産方法は、造粒された金属酸化物粉末の焼成ステップを有する、
-初期金属酸化物粉末の粒子のメディアン径は、1μm以下である、
-造粒された金属酸化物粉末の粒のメディアン径は、5μm以上、より具体的には10μm以上、さらにより具体的には15μm以上である、
-造粒された金属酸化物粉末は、25%以下の圧縮度、より具体的には20%以下の圧縮度を有する、
-金属はジルコニウムであり、得られる造粒された金属酸化物粉末は、造粒された二酸化ジルコニウム粉末である、
-金属はハフニウムであり、得られる金属酸化物粉末は、造粒された二酸化ハフニウム粉末である。
【0012】
本発明はさらに、上に定義されたような方法によって得られるまたは得ることができる造粒された金属酸化物粉末、より具体的には造粒された酸化ジルコニウム粉末または造粒された酸化ハフニウム粉末に関する。
【0013】
一実施形態において、造粒された金属酸化物粉末は、金属酸化物粒子の凝集体で形成される粒を含み、粒のメディアン径は、5μm以上、より具体的には10μm以上であり、粒のメディアン径は、70μm以下、より具体的には60μm以下であり、かつ/または粒の90%は、115μm以下の直径を有する。
【0014】
一実施形態において、金属はジルコニウムまたはハフニウムである。
【0015】
本発明および本発明の利点は、添付の図面を参照して成される、非制限例としてのみ与えられる以下のような説明を読むことによってより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】造粒された金属酸化物粉末を生産するための方法のステップを示している図である。
図2】造粒された金属粉末を生産するための方法の実施用設備を示しているブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示されているように、生産方法は、以下を有する。
-金属の酸化物の粒子で構成される初期金属酸化物粉末を、前記金属の塩化物の加水分解によって得るステップE1、
-懸濁媒体中に懸濁している有機バインダと初期金属酸化物粉末とを含む懸濁液を形成するステップE2、
-造粒された金属酸化物粉末を得るために、懸濁液を乾燥するステップE3、および
-任意に、造粒された金属酸化物粉末の焼成ステップE4。
【0018】
ステップE1の間に、金属塩化物は水の存在下に置かれ、水と化学的に反応し、前記金属の酸化物と塩酸との両方が得られる。
【0019】
金属塩化物の加水分解は、蒸気相中(蒸気状態)の金属塩化物と蒸気相中(蒸気状態)の水とを用いて行われる。
【0020】
それに関して、実施形態の特定の例において、金属塩化物の加水分解は好ましくは、金属塩化物蒸気を水蒸気と接触させることによって行われる。
【0021】
加水分解後、金属酸化物の粒子から成る初期金属酸化物粉末が得られる。
【0022】
有利には、加水分解が行われて、初期「サブミクロン」金属酸化物粉末、すなわちその粒子が1μm以下のメディアン径を有する粉末が得られる。
【0023】
粉末の粒子のメディアン径は例えば、水中での重力デカンタおよび光ビームの減衰による経時的濃度測定の技術(例えばSEDIGRAPH測定装置を使用)によって、または青色もしくは赤色のレーザービームの経時的濃度測定(例えばLUMISIZER測定装置を使用)を伴う遠心力場における沈降によって測定される。
【0024】
好ましくは、加水分解は、300℃~700℃の温度で、少なくとも化学量論比に等しい水の流れと金属塩化物の流れの比で、かつ/または5秒と60秒との間、好ましくは10秒と30秒との間に含まれる加水分解反応器内での滞留時間で行われる。
【0025】
金属酸化物粉末の金属酸化物は好ましくは、単斜晶系および正方晶系の結晶形態を有しており、2つの結晶構造の比は、方法の実施のために使用されるパラメータによって変わることができる。
【0026】
金属は、より具体的にはジルコニウムであり、この場合、初期金属酸化物粉末は酸化ジルコニウム粉末、より具体的には二酸化ジルコニウム(またはジルコニア)粉末であり、または金属はより具体的にはハフニウムであり、この場合、初期金属酸化物粉末は酸化ハフニウム粉末、より具体的には二酸化ハフニウム(またはハフニア)の粉末である。
【0027】
ステップE2の間に、懸濁媒体中に懸濁している有機バインダと初期金属酸化物粉末とを含む懸濁液が形成される。
【0028】
懸濁媒体は例えば、水である。
【0029】
有機バインダは例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、デンプンおよびステアリン酸から選択される。このような有機バインダは、後で、例えば焼成によって取り除くことができる。
【0030】
有利には、懸濁液は、20~70重量%の初期金属酸化物粉末を含み、金属酸化物粉末の重量に対する有機バインダの重量の比率は、1%と5%との間に含まれる。
【0031】
懸濁液は例えば、金属酸化物粉末を有機バインダおよび懸濁媒体を含む溶液と混ぜることによって形成される。
【0032】
実施形態の特定の例において、懸濁媒体は水である。ステップE2の終わりに得られる懸濁液は、溶液中に懸濁した金属酸化物粉末を含む水中の有機バインダの溶液である。
【0033】
ステップE3の間に、ステップE2の終わりに得られた懸濁液を乾燥して、造粒された金属酸化物粉末を得る。
【0034】
乾燥は、乾燥システムまたは乾燥器において行われる。
【0035】
乾燥は、懸濁媒体を取り除くために、より具体的には懸濁媒体を蒸発させるために行われる。より具体的には、懸濁媒体が水の場合、乾燥は、水が蒸発するように行われる。
【0036】
懸濁液中の有機バインダの存在は、金属酸化物粉末の造粒の獲得、すなわち、粒子よりも大きい粒を得るための初期金属酸化物粉末の粒子の凝集の獲得を導く。
【0037】
乾燥は例えば、懸濁液をアトマイズすることによって行われる。
【0038】
懸濁液のアトマイゼーションは、小滴の形態の懸濁液を高温ガス流の中に、より具体的には高温空気流の中に噴霧することを含む。
【0039】
上記は、懸濁媒体を蒸発させて、造粒された金属酸化物粉末を収集することに役立つ。噴霧は例えば、アトマイズチャンバー内で行われる。
【0040】
懸濁液のアトマイゼーションは好ましくは、造粒された金属酸化物粉末と、高温空気および蒸発した懸濁媒体から成るガス流との分離を含む。
【0041】
上記は、造粒された金属酸化物粉末を収集することを可能にする。分離は、分離器内で、例えばサイクロン効果分離器内で行われる。
【0042】
実施形態の一例において、造粒された金属酸化物粉末の粒のメディアン径は、5μm以上、より具体的には10μm以上であり、造粒された金属酸化物粉末の粒のメディアン径は、70μm以下、より具体的には60μm以下であり、かつ/または、造粒された金属酸化物粉末の粒の少なくとも90%は、115μm以下の粒径を有する。
【0043】
粒度分布において、DXXは、粉末の粒の少なくともXX%がDXX以下の直径を有するというような直径を意味する。直径D10、メディアン径とも呼ばれる直径D50、および直径D90を測定することが一般的である。
【0044】
粉末の粒度分布の偏差Eは、以下の式によって定義することができる。
【0045】
E=(D90-D10)/D50
【0046】
金属酸化物粉末は任意に、先に実行されたさまざまなステップから生じる水素、塩素および炭素の残留物を含んでいてもよい。
【0047】
アトマイゼーションによる乾燥の場合、噴霧は、好ましくは噴霧器ノズル、2流体ノズルもしくはスプレータービンから選択される少なくとも1つの噴霧器または噴霧部材を使用する乾燥器内で行われる。好ましくは、乾燥器の出口温度は、十分に低い湿度を得るために、好ましくは80℃と150℃との間に調節される。
【0048】
好ましくは、乾燥器の入口温度は、蒸発すべき水の流量に応じて、好ましくは150℃と300℃との間に調節される。
【0049】
噴霧による乾燥の場合、噴霧条件は、懸濁液のレオロジーおよび噴霧器のタイプ(噴霧器ノズル、2流体ノズル、スプレータービン)のレオロジーによって決まる。
【0050】
焼成ステップE4の任意の実施は、そのような残留物を、少なくとも部分的に、また場合により完全に除去することに役立つ。
【0051】
焼成は、粉末を焼成炉内で高温にすることからなる。
【0052】
焼成ステップはまた、金属酸化物粉末の結晶構造を変化させることもできる。
【0053】
焼成ステップはまた、粒の形態およびより狭い粒度分布(より小さい粒径分散)を制御することにも役立つ。
【0054】
焼成ステップは好ましくは、より具体的には関わっている金属がハフニウムの場合、600℃と1300℃との間に含まれる温度でかつ/または1時間と3時間との間に含まれる継続時間の間行われる。
【0055】
任意に、生産方法は、乾燥ステップE3の後に行われるスクリーニングステップを有する。焼成ステップE4が予定されている場合、スクリーニングステップは、焼成ステップE4の前または後に行われる。このようなスクリーニングステップは、最も大きい粒を取り除くことに役立つ。
【0056】
該生産方法により、造粒された金属酸化物粉末の粒は主に、有機バインダによって互いに結びついた、初期金属酸化物粉末の粒子の凝集体で形成される。
【0057】
その結果、造粒された金属酸化物粉末の粒と初期金属酸化物粉末の粒子とは、とりわけ、金属酸化物と同じ化学的純度および結晶構造を有し、造粒された金属酸化物粉末は初期金属酸化物粉末よりも大きい粒度を有し、このことは初期金属酸化物粉末との関係における造粒された金属酸化物粉末の特性に変化を及ぼす。
【0058】
造粒された金属酸化物粉末は、とりわけ造粒された金属酸化物粉末の粒径が初期金属酸化物粉末の粒度よりも大きいことから、初期の(造粒されていない)金属酸化物粉末と異なる特徴を有する。
【0059】
造粒された金属酸化物粉末はより具体的には、ステップE1の終わりすなわち加水分解の終わりに得られる初期金属酸化物粉末と異なる見かけ密度および流動特性を有する。
【0060】
より具体的には、造粒された金属酸化物粉末は、ステップE1の結果として生じるすなわち加水分解の終わりの造粒されていない初期金属酸化物粉末の圧縮度よりも優れた圧縮度(またはカーの指数)を有する。
【0061】
粉末の圧縮度(またはカーの指数)は、粉末のタップ密度に対する、粉末のタップ密度と粉末のタップしない密度との間の変化の百分率である。
【0062】
粉末のタップしない密度およびタップ密度は、既知の仕方で、例えばDENSITAP装置を使用して測定される。
【0063】
圧縮度が低いほど、流動性は高い。
【0064】
好ましくは、造粒された金属酸化物粉末は、25%以下の圧縮度、より具体的には20%以下の圧縮度を有する。
【実施例
【0065】
第一の実施例において、二酸化ジルコニウム粉末(またはジルコニア粉末)が、以下に示されるパラメータを使用して、本生産方法にしたがって得られた。
【0066】
加水分解は、塩化ジルコニウム(ZrCl)の1時間当たりの質量流量19kg/h、水蒸気の1時間当たりの質量流量3kg/h、および500℃の温度で、加水分解反応器内で行われた。
【0067】
懸濁液は、加水分解の終わりに得られたジルコニア粉末をポリエチレングリコール(PEG)水溶液と混ぜて、懸濁液がジルコニア粉末60重量%および水溶液40重量%を含むように作られた。
【0068】
このような水溶液において、懸濁媒体は水であり、また有機バインダはPEGである。
【0069】
水溶液中のPEGの濃度は、得られる懸濁液中で、PEGの重量とジルコニア粉末の重量の比率が3%であるように選択される。
【0070】
乾燥は、直径17.78cm(7インチ)のタービンアトマイザーおよび直径2.5mの乾燥器において、入口温度300℃および出口温度130℃で、アトマイゼーションによって行われた。アトマイゼーションによる乾燥後の造粒された二酸化ジルコニウム粉末の残留水分含有量は、0.1%未満であった。
【0071】
この方法は、パイロット設備および産業設備において実施され、産業設備はより高い粒度を達成することを可能にした。
【0072】
初期二酸化ジルコニウム粉末および造粒された二酸化ジルコニウム粉末は分析され、焼成ステップを行わずにまたは焼成ステップより前に、初期二酸化ジルコニウム粉末の粒子および造粒された二酸化ジルコニウム粉末の粒が、同じ化学的純度および同じ結晶構造を実質的に有することが確認された。
【0073】
初期二酸化ジルコニウム粉末および造粒された二酸化ジルコニウム粉末のそれぞれのメディアン径、タップしない密度およびタップ密度が測定され、初期二酸化ジルコニウム粉末および造粒された二酸化ジルコニウム粉末の圧縮度が計算された。
【0074】
以下の表1はその結果を示している。
【0075】
【表1】
【0076】
ここから、造粒された二酸化ジルコニウム粉末が、初期二酸化ジルコニウム粉末の圧縮度よりも低い圧縮度を有し、またゆえに、より高い流動性を有することが明らかになる。
【0077】
さらに、アトマイゼーションによって乾燥した造粒されたジルコニア粉末について、産業設備おける生産は、パイロット設備におけるよりも高い粒度の獲得へと導く。
【0078】
第二の実施例において、二酸化ハフニウム粉末(またはハフニア粉末)が、以下のパラメータを使用して、本生産方法にしたがって得られた。
【0079】
加水分解は、塩化ハフニウム(HfCl)の1時間当たりの質量流量26kg/h、水蒸気の1時間当たりの質量流量3kg/h、および500℃の温度で、加水分解反応器内で行われた。
【0080】
懸濁液は、加水分解の終わりに得られたハフニア粉末を水とポリエチレングリコール(PEG)との水溶液と混ぜて、ハフニア粉末60重量%および水溶液40重量%を含むように作られた。
【0081】
水溶液中のPEGの濃度は、得られる懸濁液中で、PEGの重量とハフニア粉末の重量の比率が3%であるように選択される。
【0082】
乾燥は、入口温度300℃および出口温度120℃で、アトマイゼーションによって行われた。アトマイゼーションによる乾燥後の造粒された二酸化ジルコニウム粉末の残留水分含有量は、0.1%未満であった。
【0083】
この方法は、パイロット設備において実施された。
【0084】
初期二酸化ハフニウム粉末および造粒された二酸化ハフニウム粉末は分析され、二酸化ハフニウム粒が、同じ化学的純度、同じ結晶構造および同じ大きさを実質的に有することが確認された。
【0085】
初期二酸化ハフニウム粉末および造粒された二酸化ハフニウム粉末のそれぞれのメディアン径、タップしない密度およびタップ密度が測定され、初期二酸化ハフニウム粉末および造粒された二酸化ハフニウム粉末の圧縮度が計算された。
【0086】
以下の表2はその結果を示している。
【0087】
【表2】
【0088】
その結果、造粒された二酸化ハフニウム粉末が、初期二酸化ハフニウム粉末よりも低い圧縮度を有し、またゆえに、より高い流動性を有することが分かる。
【0089】
好ましくは、造粒された金属酸化物粉末は、0.4と0.6との間に含まれ、例えば0.5程度の粒度分布偏差Eを有する。
【0090】
造粒された金属酸化物粉末、より具体的には造粒された二酸化ジルコニウム粉末または造粒された酸化ハフニウム粉末は、単斜晶系の結晶相の度合い、正方晶系の結晶相の度合い、単斜晶系の相における結晶の大きさおよび正方晶系の相における結晶の大きさによってとりわけ定義される微細構造を有する。
【0091】
単斜晶系の結晶相の百分率、正方晶系の結晶相の百分率、単斜晶系の結晶相の大きさおよび正方晶系の結晶相の大きさは、X線回折パターンを分析することによって決定することができる。
【0092】
好ましくは、造粒された金属酸化物粉末、より具体的には造粒された二酸化ジルコニウム粉末または造粒された酸化ハフニウム粉末は、以下を有する。
-0%と50%との間に含まれる単斜晶系の結晶相の百分率、
-50%と100%との間に含まれる正方晶系の結晶相の百分率、
-単斜晶系の結晶相における結晶構造の大きさは、10nmと20nmとの間、より具体的には14nmと16nmとの間に含まれる、かつ/または
-正方晶系の結晶相における結晶構造の大きさは、10nmと20nmとの間、より具体的には13nmと15nmとの間に含まれる。
【0093】
図2に示されるように、本生産方法を実施するための設備2は例えば、加水分解反応器4、混合反応器6、乾燥器8、および任意に、焼成炉10を有する。
【0094】
加水分解ステップE1は、加水分解反応器4の中で行われる。加水分解反応器4は、加水分解室12を有し、加水分解室は、金属塩化物CMと、好ましくは水蒸気の形態の、水HOとを受け取る。
【0095】
加水分解反応器4は、初期金属酸化物粉末PIと塩酸HClとの両方を提供する。
【0096】
加水分解反応器4は例えば、加水分解室12の出口に、初期金属酸化物粉末を塩酸から分離するための分離器14、より具体的にはサイクロン効果分離器を備えている。
【0097】
分離器14の代わりにまたはそれに加えて、加水分解反応器は、初期金属酸化物粉末を塩酸から分離するためのバグフィルタ(表示されていない)を備えている。
【0098】
懸濁ステップE2は例えば、混合反応器6の中で行われる。混合反応器6は例えば、混合すべき要素、すなわち懸濁媒体MS、有機バインダLおよび初期金属酸化物粉末PIを受けるための混合室16を含み、混合は、混合室16の中で行われる。
【0099】
混合反応器6は、懸濁媒体MS中に懸濁している初期金属酸化物粉末PIおよび有機バインダLを含む懸濁液Sを提供する。
【0100】
混合反応器6は任意に、混合室16の内容物を攪拌するために構成される攪拌システム18を含む。
【0101】
乾燥ステップE3は例えば、乾燥器8によって実施される。
【0102】
乾燥器8は例えば、アトマイゼーションによる乾燥を行うように構成される。
【0103】
乾燥器8は、アトマイズチャンバー20を含み、アトマイズチャンバーは、高温ガス流FG、より具体的には高温空気流をアトマイズチャンバー20の中に注入するための高温ガスの入口22と、懸濁液Sを高温ガス流の中に噴霧するための噴霧器部材24とを有する。
【0104】
噴霧器部材24は例えば、噴霧器ノズル24である。あるいは、2流体ノズルまたはスプレータービンが使用される。
【0105】
乾燥器8は好ましくは、アトマイズチャンバー20の出口に配置される分離器26を含み、該分離器は、一方では乾燥の結果として生じる造粒された金属酸化物粉末PGと、他方では高温ガス流FGおよび蒸発した懸濁媒体MSを含むガス流とを分離するためのものである。分離器26は例えば、サイクロン効果分離器またはフィルタ、より具体的にはバグフィルタである。
【0106】
任意の焼成ステップE4は、焼成炉10の中で行われ、焼成炉は、ステップE3の終わりに得られる造粒された金属酸化物粉末PGを受け取って熱する。
【0107】
焼成炉10は例えば、回転炉またはトンネル炉である。
【0108】
乾燥後(必要に応じて、焼成前または焼成後)にスクリーニングステップ(任意)が行われる場合、設備はスクリーニングシステム(表示されていない)を含んでいる。
【0109】
本発明により、検討される金属の塩化物の加水分解によって得られる造粒されていない初期金属酸化物粉末の特徴のうちのいくつか、より具体的には金属酸化物の結晶構造、金属酸化物の化学的純度および粉末の比表面積を維持し、一方で、他の特徴を、より具体的には造粒された金属酸化物粉末の圧縮度を(造粒されていない)初期金属酸化物粉末と比べて減らすことによって修正する、造粒された金属酸化物粉末を得ることが可能である。
【0110】
特定の特徴を保持しながら他の特徴、より具体的には圧縮度を、改善することは、金属酸化物粉末を、同じ部品であるが、しかし異なる製造方法を用いて、より具体的には金属酸化物粉末の良好な流動性を要求する製造方法を用いて製造するために使用することを可能にする。
【0111】
例えば、金属酸化物粉末の良好な流動性は、その使用、または付加製造による機械部品の生産に有利である。
【0112】
造粒された金属酸化物粉末の粒度分布の特徴(より具体的にはメディアン径D50、粒度分布の偏差E、など)および結晶の特徴(より具体的には、単斜晶系の結晶相の度合い、正方晶系の結晶相の度合い、結晶構造の大きさ、など)は、造粒された金属酸化物粉末の使用に、より具体的には、多様な製造方法におけるその使用の可能性に影響を及ぼす。
【0113】
アトマイゼーションによる乾燥は、そのような乾燥が、非常に細かくまた、液体懸濁液の中に組み込まれているために非常に低い密度(典型的には300kg/m未満の密度)を有する金属酸化物粉末をより取り扱いやすくするので好ましい方法である。
【0114】
アトマイゼーションによる乾燥は、規則的な凝集体(球形粒に近い)と、狭い粒度分布とを生成することに役立ち、これは、アトマイゼーションによる乾燥がタービンを使用して行われる場合タービンの回転スピード、またはアトマイゼーションによる乾燥が噴霧器ノズルを使用して行われる場合、噴霧器ノズルの入口圧力といったアトマイゼーションによる乾燥のパラメータを調節することによって簡単に調節可能である。
【0115】
流動床やミキサーを使用する造粒方法といった他の造粒方法は、造粒されていない金属酸化物粉末に関連する問題をもたらす可能性があり、そのような造粒されていない金属酸化物粉末は、「流動化させる」ことが困難であり、かつ/または、その低い密度のため、非常に大容量の機材を必要とする。
【0116】
そのような造粒方法は、より不規則な凝集体と、アトマイゼーションによる乾燥方法を用いて得られるものよりも広い粒度分布とを生成する可能性がある。
【符号の説明】
【0117】
2 設備
4 加水分解反応器
6 混合反応器
8 乾燥器
10 焼成炉
12 加水分解室
14 分離器
16 混合室
18 攪拌システム
20 アトマイズチャンバー
22 高温ガスの入口
24 噴霧器部材
26 分離器
CM 金属塩化物
PI 初期金属酸化物粉末
MS 懸濁媒体
L 有機バインダ
S 懸濁液
FG 高温ガス流
PG 造粒された金属酸化物粉末
E1 加水分解ステップ
E2 懸濁ステップ
E3 乾燥ステップ
E4 焼成ステップ
図1
図2
【国際調査報告】