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特表2024-531773アルギナーゼ-インスリン融合タンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】アルギナーゼ-インスリン融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240822BHJP
   C07K 14/62 20060101ALI20240822BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 9/80 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 15/17 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240822BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K14/62
C07K14/47
C12N9/80
C12N15/17
C12N15/55
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 E
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516882
(86)(22)【出願日】2022-09-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2022075887
(87)【国際公開番号】W WO2023041758
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】21197781.4
(32)【優先日】2021-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521523408
【氏名又は名称】キュオン バイオテック アー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】テピック スロボダン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG16
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA05
4B064DA07
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD14
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA37
4H045DA89
4H045EA27
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、抗腫瘍薬、抗肥満薬、または2型糖尿病薬として有用な、インスリンとアルギナーゼとの融合タンパク質を開示する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のドメインと第2のドメインとを含む融合タンパク質であって、
前記第1のドメインは、アミノ酸分解酵素を含み、
および
前記第2のドメインは、インスリンを含む、
融合タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載された融合タンパク質であって、
前記第1のドメイン(酵素)は、前記第2のドメイン(インスリン)のN末端に位置する
融合タンパク質。
【請求項3】
請求項1または2に記載された融合タンパク質であって、
前記融合タンパク質は、遺伝子融合である
融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載された融合タンパク質であって、
前記アミノ酸分解酵素は、アルギニン分解酵素、例えばアルギニンデイミナーゼ(ADI)またはアルギナーゼである
融合タンパク質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載された融合タンパク質であって、
前記アミノ酸分解酵素は、ヒトアルギナーゼ、例えばヒト肝臓アルギナーゼ(ヒトアルギナーゼ-1)、またはヒト腎臓アルギナーゼ(ヒトアルギナーゼ-2)である
融合タンパク質。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載された融合タンパク質であって、
前記アミノ酸分解酵素は、単量体タンパク質、例えば単量体アルギナーゼである
融合タンパク質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載された融合タンパク質であって、
前記インスリンは、ヒトインスリン、または一本鎖インスリンを含むインスリンアナログである
融合タンパク質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載された融合タンパク質であって、
前記第1のドメインおよび前記第2のドメインは、リンカーによって互いに結合される
融合タンパク質。
【請求項9】
請求項8に記載された融合タンパク質であって、
前記リンカーは、フレキシブルリンカー(flexible linker)、例えばアミノ酸GおよびSからなるリンカー、例えばmが1~5でnが1~10である(GS)リンカー、リジッドリンカー(rigid linker)、または切断可能なリンカーである
融合タンパク質。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載された融合タンパク質をコードする、
核酸分子。
【請求項11】
請求項10に記載された核酸分子を用いてトランスフェクトされた、
宿主細胞。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載された融合タンパク質を産生する方法であって、
請求項11に記載された宿主細胞を培養するステップ、および前記融合タンパク質を前記宿主細胞からまたは培養培地から得るステップによる、
方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載された融合タンパク質であって、
医療に使用するための
融合タンパク質。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載された融合タンパク質であって、
癌の治療において、または、肥満または糖尿病、具体的には2型糖尿病などの代謝異常の予防または治療において、薬物として使用するための、
融合タンパク質。
【請求項15】
請求項13または14に記載された使用のための請求項1~9のいずれか一項に記載された融合タンパク質であって、
前記融合タンパク質の投与は、グルコースの同時投与を伴い、
および
アルギニン枯渇の副作用を補償するための手段を伴ってもよい、
融合タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギナーゼとインスリンとの融合タンパク質に、および、医療におけるそれらの使用、具体的には癌の治療、および肥満または糖尿病、例えば2型糖尿病などの代謝異常の治療のための使用に、関連する。
【背景技術】
【0002】
アルギニン枯渇は、肝細胞癌および黒色腫などいくつかの癌の治療において、またインビトロ研究に基づけばおそらく他の多くの癌の治療においても、有用であることが示されている。癌治療におけるアルギナーゼなどのアルギニン枯渇酵素の使用は、例えばShenら(Cell Death & Disease 8 (2017), e2720)、Zouら(Biomedicine & Pharmacotherapy 118 (2019), 109210)、Al-Koussaら(Cancer Cell International 20 (2020) Article number 150)、およびZhangら(Cancer Letters 502 (2012), 58-70)によって記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
アルギニン変換酵素の使用は必須であるが、しかし癌細胞を迅速かつ選択的に死滅させるために必要な全身的な深いアルギニンの枯渇を、引き起こしかつ維持するためには十分でないことを、我々自身の研究は示した。
【0004】
アルギニンの酵素分解と並行してインスリン/グルコースクランプを使用することで、深いアルギニン枯渇の課題がより扱いやすくなる。インスリンは成長因子であり、従ってタンパク質合成を促進しかつタンパク質分解を阻害する。このことは、任意のアミノ酸の、具体的には厳しい恒常性制御下にある準必須アミノ酸であるアルギニンの、循環からの除去が課題である場合には、極めて重要である。
【0005】
インスリンによる血管透過性の増加はまた、ほとんどの癌細胞が存在する場所に近い間質液腔内に、治療用酵素を取り込むのにも役立つ。
【0006】
そして最後に、インスリンはまた、エンドサイトーシスを刺激することによって、アルギニン分解酵素を癌細胞内に運ぶ役割も果たしうる。これが働くためには、インスリン分子がインスリン受容体に付着する時に、酵素分子が近接している必要があり、これは偶然と酵素の濃度とに支配される。
【0007】
本発明の目的は、アミノ酸枯渇、例えばアルギニン枯渇を含む、従前の治療スケジュールに伴う欠点を克服することであった。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様は、第1のドメインと第2のドメインとを含む融合タンパク質であって、
前記第1のドメインは、アミノ酸分解酵素を含み、および前記第2のドメインは、インスリンを含む、
融合タンパク質に関連する。
【0009】
本発明のさらなる態様は、前記融合タンパク質をコードする、核酸分子に関連する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、前記核酸分子を用いてトランスフェクトされた、宿主細胞に関連する。
【0011】
本発明のさらなる態様は、前記融合タンパク質を産生する方法であって、
前記宿主細胞を培養するステップ、および前記融合タンパク質を前記宿主細胞からまたは培養培地から得るステップによる、
方法に関連する。
【0012】
本発明のさらなる態様は、医療に使用するための前記融合タンパク質に関連する。
【0013】
ある実施形態において、第1のドメイン(酵素)は、第2のドメイン(インスリン)のN末端に位置する。さらなる実施形態において、第2のドメイン(インスリン)は、第1のドメイン(酵素)のN末端に位置する。
【0014】
ある実施形態において、融合タンパク質は遺伝子融合であり、これは、核酸分子の、具体的には融合タンパク質またはその前駆体をコードするDNA分子の発現、および随意の後続の処理によって、組換え宿主細胞内で産生されうる。
【0015】
ある実施形態において、融合タンパク質は非遺伝子融合であり、第1のドメインおよび第2のドメインは、例えば組換え宿主細胞内で別々に産生され、例えば共有結合によって、その後互いに連結される。
【0016】
融合タンパク質の第1のドメインは、アミノ酸分解酵素を含む。ある実施形態において、アミノ酸分解酵素は、アルギニン分解酵素、例えばアルギニンデイミナーゼ(ADI;EC 3.5.3.6;UniProt-P23793)またはアルギナーゼである。具体的な実施形態において、アミノ酸分解酵素は、ヒト肝臓アルギナーゼ(ヒトアルギナーゼ-1;ARG1;EC 3.5.3.1;Uni-Prot-P05089)、またはヒト腎臓アルギナーゼ(ヒトアルギナーゼ-2;ARG2;EC 3.5.3.1;Uni-Prot-P78540)である。
【0017】
マンガンをコバルトで置き換え、最適pHを血漿のpHにシフトさせるための、ヒト肝臓アルギナーゼ(ARG1)またはヒト腎臓アルギナーゼ(ARG2)の修飾もまた、本発明に従ったインスリンとの融合に特に適する。Co2+修飾組換えヒトアルギナーゼIは、
Stone EM、Glazer ES、Chantranupong Lら(Replacing Mn(2+) with Co(2+) in human arginase enhances cytotoxicity toward L-arginine auxotrophic cancer cell lines, ACS Chem Biol. 2010;5(3):333-342, doi:10.1021/cb900267j)によって、およびUS 20121/0189371 A1に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
いくつかの他のアミノ酸が癌治療の標的となっており、例えば、トリプトファンジオキシゲナーゼ(TDO2;EC 1.13.11.11;UniProt-P48775)によるトリプトファン、またはS-アデノシルメチオニン合成酵素(MAT1A;EC 2.5.1.6;UniProt-Q00266)によるメチオニンである。しかしながら、アルギニン枯渇は、癌治療の最も効果的なアプローチと考えられている。
【0019】
70年代初頭以来、アスパラギナーゼは、癌のための、具体的には小児急性リンパ芽球性白血病(ALL)のための、最も成功裏に使用された酵素治療法であった。アスパラギナーゼは、4量体の形態でのみ活性があるが、これは約130kDaと大きすぎるため、そのままでは使用できない。本発明によれば、WO2020/245041(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、それは解離した形態で、例えば単量体の形態で尿素中に溶解して送達され、ここで単量体の各々は、インスリンと融合している。そのような場合、血管外遊出が可能であり、その後間質液中で4量体に再構成され、活性形態の酵素が得られる。従って、アスパラギナーゼもまた、本発明において使用される好ましい酵素である。
【0020】
ある実施形態において、アミノ酸分解酵素は、単量体タンパク質、例えば単量体アルギナーゼである。
【0021】
融合タンパク質の第2のドメインは、プロインスリン(インスリンは、自己切断を含む酵素的切断によって、そこから得られうる)などその前駆体を含む、インスリンを含む。
【0022】
ある実施形態において、インスリンは、ヒトインスリンまたはインスリンアナログ、例えば速効型インスリン、例えばインスリングルリジン、インスリンアスパルト、インスリンリスプロ、または遅効型インスリン、例えばNPHインスリン、インスリングラルギン、インスリンデテミル、またはインスリンデグルデクである。これらのインスリンは、典型的にはS-S橋により連結されたA鎖とB鎖とを含み、対応するプロインスリンから切断によって得られうる。
【0023】
ある実施形態において、本発明の融合タンパク質は、第1のドメインがプロインスリン(例えば自己触媒作用により、その後対応するインスリンに切断される)を含む、前駆体として産生される。
【0024】
あるいは、インスリンは、単鎖インスリン、例えば、インスリンB鎖およびインスリンA鎖(これらは少なくとも1のアミノ酸修飾を含んでもよい)が、永続的リンカーにより結合される、インスリンまたはインスリンアナログでありうる。一本鎖インスリンは、例えばGliddenら(J. Biol. Chem. 293 (2018), 47-68)、またはMaoら(Appl. Microbiol. Biotechnol. 103 (2019), 8737-8751)によって記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。一本鎖インスリンはまた、米国特許8,192,957;8,501,440;8,921,313;8,993,516;9,079,975;9,200,053;9,388,228;9,499,600;9,624,287;9,758,563;9,975,940;10,392,429;10,472,406;および10,822,386に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。具体的な実施形態において、一本鎖インスリンは、Hua QX, Nakagawa SH, Jia W, et al., Design of an active ultrastable single-chain insulin analog: synthesis, structure, and therapeutic implications. J Biol Chem. 2008;283(21):14703-14716. doi:10.1074/ jbc.M800313200(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような、B鎖とA鎖の間に永続的ヘキサペプチドリンカーGGGPRR(配列番号12)を含む、SCI-57である。
【0025】
ある実施形態において、第1のドメインおよび第2のドメインは、互いに直接結合される。さらなる実施形態において、第1のドメインおよび第2のドメインは、リンカーによって、例えば、1~100の、具体的には10~60のアミノ酸を含むリンカーによって、互いに結合される。
【0026】
リンカーは、フレキシブルリンカー(flexible linker)、例えばアミノ酸GおよびSからなるリンカー、例えばmが1~5でnが1~10である(GS)リンカーでありうる。あるいは、リンカーは、例えば少なくとも1のP残基を含む、リジッドリンカー(rigid linker)でありうる。ある実施形態において、リンカーは、例えばタンパク質分解性の切断部位を含む、切断可能なリンカーでありうる。
【0027】
ある実施形態において、融合タンパク質は、Hisタグ、FLAGドメインなどの精製ドメイン、分泌ドメイン、または別の機能的ドメインを含む、追加ドメインを含みうる。
【0028】
ある実施形態において、融合タンパク質は、その血漿内半減期を延長するために、異種性の例えば非タンパク質部分、例えばポリエチレングリコール(PEG)に、または異種性のタンパク質に、共役されうる。そのような場合、それによりなお血管外遊出を可能にする、小さな共役パートナーを選択することが有利である。好ましい実施形態において、融合タンパク質は、約70kDaよりも低い、例えば60kDa以下の分子量を有する。さらに好ましい実施形態において、融合タンパク質はPEG化されない。
【0029】
本発明の融合タンパク質は、獣医学およびヒト医学を含む医学において有用であり、癌、例えば白血病、リンパ腫、肝細胞癌、黒色腫、結腸癌、骨肉腫、軟部肉腫、肥満細胞腫の治療において、または、代謝障害、例えば肥満または糖尿病、具体的には2型糖尿病の予防または治療において、例えば薬物として有用である。
【0030】
本発明の融合タンパク質は、典型的には注射または注入によって投与される。具体的な実施形態において、投与は、例えば約4.0~約10mMの十分なグルコースレベルを維持するために、グルコースを供給するオリゴ糖類または多糖類、例えばマルトース、デキストリン、デンプンなどの投与を含む、グルコースの同時投与を伴う。さらに、融合タンパク質の投与は、一酸化窒素(NO)供与体、例えばニトロプルシドナトリウム(SNP)の注入、および/またはNO誘導血管拡張と平衡を取るための昇圧ペプチド、例えばバソプレッシンの注入など、アルギニン枯渇の副作用を補償するためのある種の手段を伴いうる。アルギニンは、短寿命のNOを合成するための唯一の前駆物質である。全ての昇圧ペプチドは、アルギニンを含み、短命である。プロスタサイクリンアナログであるイロプロストの同時注入もまた、血小板の維持に有用であることが判明している。
【0031】
融合タンパク質は、単独療法として、またはさらなる活性剤、例えば抗癌剤、抗肥満剤、または抗糖尿病剤と組み合わせて、投与されうる。ある実施形態において、融合タンパク質は、インスリンと、好ましくはインスリングルコースクランプと、同時投与されうる。ある実施形態において、融合タンパク質は、融合タンパク質と同じまたは別のアミノ酸を標的とする未融合のアミノ酸酵素と、同時投与されうる。ある実施形態において、アルギナーゼ融合タンパク質は、アスパラギナーゼ、例えば上述の単量体形態のアスパラギナーゼと共に、未融合またはインスリン融合の形態でも、投与されうる。
【0032】
本発明は、近傍の酵素分子を捕捉する機会を必要とする代わりに、インスリンと酵素との間の融合タンパク質を提供することにより、アミノ酸分解酵素のインスリン媒介トランスサイトーシスおよびエンドサイトーシスを改善させる。最も関心が高いのはアルギナーゼとインスリンとの間の融合タンパク質であるが、しかし他のアルギニン分解酵素および他のアミノ酸を分解するいくつかの他の酵素も、それらの抗腫瘍効果を増加させるために、インスリンと融合されうる。
【0033】
抗腫瘍薬としてのインスリンとアルギナーゼとの融合タンパク質の使用に加えて、同じ融合タンパク質が、肥満を治療するために、具体的には肥満がすでにインスリンにより治療されている糖尿病と同時にある場合に、使用されうる。インスリンの主な標的である脂肪細胞内にアルギナーゼ酵素を持ち込むことにより、脂肪細胞の成長および増殖が阻害され、細胞内アルギニン枯渇のレベルによっては、その一部が死滅する可能性さえある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】イヌにおける血漿中アルギニン濃度に対するアルギナーゼ投与の影響。破線は、インスリン/グルコースクランプを用いない2匹のイヌにおける、血漿中アルギニン濃度を示す。実線は、インスリン/グルコースクランプを用いた6匹のイヌにおける、血漿中アルギニン濃度を示す。アルギナーゼとインスリン/グルコースクランプとの併用は、約100μMから約10μMへの約10倍の減少を示す。
図2】アルギナーゼを豊富に含む自己部分精製肝臓抽出物の、3時間ごとのボーラス注入による、合計18時間の投与、インスリン/グルコースクランプを用いない場合(曲線A)およびインスリン/グルコースクランプを用いた場合(曲線B)。インスリン/グルコースクランプ用いない場合、血漿中アルギニンレベルはゼロ近くまで低下し、3時間後の次のボーラス注入前に正常レベルに戻った。インスリン/グルコースクランプ用いた場合、血漿中アルギニンは検出未満まで低下し、そこで18時間保持された。
図3】ヒスチジンタグを含む第1のドメインとしてヒト肝臓アルギナーゼ(ARG-1)を、およびフレキシブルリンカーにより結合された第2のドメインとしてヒトプロインスリンを有する、融合タンパク質。
図4】ジスルフィド架橋およびプロインスリンC-ペプチドの切断後の、ヒスチジンタグを含む第1のドメインとしてヒト肝臓アルギナーゼ(ARG-1)を、およびフレキシブルリンカーにより結合された第2のドメインとしてヒトインスリンを有する、融合タンパク質。
図5】ヒスチジンタグを含む第1のドメインとしてヒト肝臓アルギナーゼ(ARG-1)を、およびフレキシブルリンカーにより結合された第2のドメインとしてヒトプロインスリンを有する、融合タンパク質。PC1/3およびcpE酵素によるC-ペプチド切断部位を示す。
図6】ヒスチジンタグを含む第1のドメインとしてヒト肝臓アルギナーゼ(ARG-1)を、および4つの有利なアミノ酸置換(B10、B28、B29、およびAで)を含むB鎖とA鎖との間に永続的ヘキサペプチドリンカー(C-リンカー)を有する一本鎖インスリンアナログ(SCI-57)を有する、融合タンパク質。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[実験的観察およびそこからの結論]
抗癌治療としてのアルギニンおよびアスパラギンの全身的枯渇に関する本発明者の研究は、健康な実験用イヌおよび癌を有する数匹のイヌに対して1995年から行われ、現在も進行中であるが、標的アミノ酸の酵素的分解に依存するこれらの治療の効果を増加させる際の、インスリンの役割について強力な証拠を提供してきた。
【0036】
このプロジェクトの最初の段階においては、標的アミノ酸の体外除去が、選択的透析によって行われた。改修された透析装置を使用して、標的アミノ酸を除く血漿のほとんどの既知の低分子量水溶性成分(合計52以上の電解質)を含む透析液に対して、血液が透析された。プロセスの有効性は、透析フィルターの入口と出口で全てのアミノ酸を測定することにより検証された。ほとんどの必須アミノ酸が、これらの実験において1つずつ標的とされ、中でもアルギニンが、インビトロで試験された様々な腫瘍株に対してその枯渇効果が確立されていることから、主な関心事であった。しかしながら、数日間にわたる連続透析では、標的アミノ酸がフィルターによってほぼ完全に洗い流されたにもかかわらず、いずれの必須アミノ酸の血漿中濃度も有意に低下させることはできなかった。フィルター出口での標的アミノ酸濃度は検出未満であったが、入口での濃度は正常値に近いままであった。血流量は非常に高く、体重約30kgのイヌで最大300ml/分であった。このアプローチの失敗は、正しくは必須アミノ酸の恒常性制御のためであって、その結果、1日あたり全身の10%ものタンパク質が失われると推定された。
【0037】
その後の実験的研究において本発明者は、インスリン/グルコースクランプを使用して、タンパク質分解を阻害しかつタンパク質合成を促進することにした。同じパラメータを用いた選択的透析を使用したまま、図1に示されるように、今度は血漿中アルギニンの濃度を約100μMから約10μMへ約10倍減少させることができた。破線は、インスリン/グルコースクランプを用いない2匹のイヌにおける、血漿中アルギニン濃度を示す。実線は、インスリン/グルコースクランプを用いた6匹のイヌにおける、血漿中アルギニンを示す。
【0038】
しかしながら、リンパ系を採取してもアルギニン濃度の減少を示さず、約200μMと通常の血漿中濃度よりもさらに高かった。結論は明らかであった-透析は血漿中のアルギニン濃度を低下させうる一方、血液と間質液との間の拡散と対流輸送による分子交換では、体内のタンパク質代謝からの、主に筋肉タンパク質からのアミノ酸の流入を補償できない。
【0039】
その後本発明者は、標的アミノ酸の酵素的分解を使用することにした。アルギニンの除去を標的とした最初のアプローチにおいて、本発明者は、アルギナーゼを豊富に含む部分精製肝臓抽出物を使用した。健康なイヌにおける前臨床実験において、自己肝臓抽出物は、ボーラス注入により3時間ごとに合計18時間、送達された。インスリン/グルコースクランプを用いない場合、血漿中アルギニンレベルはゼロ近くまで低下し、3時間後の次のボーラス注入前に正常レベルに戻った(図2、曲線A)。インスリン/グルコースクランプを用いた場合、血漿中アルギニンは検出未満まで低下し、抽出物は依然としてボーラス注入により送達されているにもかかわらず、そこで18時間の実験時間中保持された(図2、曲線B)。
【0040】
これらの試験的実験の後、本発明者は、組換え酵素を含む様々な源からの酵素的活性物質の連続注入をすることにした。
【0041】
インスリン/グルコースクランプを用いないボーラス注入による血漿中アルギニンの急速な低下および増加は、数年後まで忘れられていたが、この抗癌治療法におけるインスリン効果のさらなる証拠がいくつかある。
【0042】
健康な実験用イヌおよび癌を有する少数のイヌに対する100回を超えるセッションの全てにおいて、本発明者は、インスリン/グルコースクランプの展開に伴うアルブミンの損失および中等度の浮腫に気づいた。血漿中アルブミンの損失は、タンパク質代謝回転によるものであり、浮腫は、望ましくないが限定的ではない副作用によるものであった。
【0043】
しかしながら、以前から観察されていた肝臓抽出物のボーラス注入によるアルギニンの振動を詳しく調べたところ、タンパク質代謝回転調節効果に加えて、インスリンの新たな予期せぬ役割への手がかりが得られた。
【0044】
肝臓アルギナーゼは分子量約35kDaの単量体であり、糸球体濾過が血漿から除去できる分子量範囲(最大約70kDa)のちょうど真ん中である。アルブミンの分子量は72kDaであり、血管外液への拡散によるまたは糸球体濾過によるその損失はほとんどない。しかしながら、インスリンは毛細血管の透過性を増加させることが知られており、従ってインスリン濃度を生理的濃度以上に長時間維持すると、浮腫を引き起こすアルブミンの若干の血管外遊出が可能となる。前述のように、これはプロトコルに制限されず、標準的な利尿薬を使用することにより補償することができた。
【0045】
しかしながら、アルギナーゼによるアルギニン枯渇を血管系にとどまらない効果的なメカニズムにするには、インスリンの役割は極めて重要であった。35kDaであるアルギナーゼは、糸球体濾過によって速やかに除去される。インスリン/グルコースクランプの使用は、アルギナーゼの血管外遊出を引き起こすのに十分な毛細血管透過性の増加を引き起こし、従って腎臓による除去からアルギナーゼを保護する。それはまた、癌に対するアルギニン枯渇の真の効果が存在するはずの間質液に、酵素を送達する。血漿からアルギニンを除去することは、酵素的抗癌効果の代用には不十分である。抗癌剤治療としての現在の全ての臨床試験において、アルギナーゼまたはアルギニンデイミナーゼはPEG化されている。これらの酵素をPEG化することにより、血漿からアルギニンが除去されるにもかかわらず臨床的成功がないことを説明する、それらの血管外遊出を防ぐ。
【0046】
以上の観察から、アルギナーゼの血管外遊出におけるインスリン/グルコースの役割について、真実味のある説明が与えられる。
【0047】
イヌの癌細胞株を用いた我々のインビトロでの研究(Wells JW, Evans CH, Scott MC, Rutgen BC, O'Brien TD, Modiano JF, Cvetkovic G, Tepic S. Arginase treatment prevents the recovery of canine lymphoma and osteosarcoma cells resistant to the toxic effects of prolonged arginine deprivation. PLoS One. 2013;8(1):e54464. doi: 10.1371 /journal.pone.0054464. Epub 2013 Jan 24. PMID: 23365669; PMCID: PMC3554772.)は、癌細胞を迅速に死滅させるアルギナーゼの卓越した効果は、アルギナーゼの癌細胞への付着または癌細胞内への侵入が一因であることを示唆した。細胞外環境中のアルギニンを枯渇させることは必要であったが、十分ではなかった。健常細胞に対する癌細胞への選択性は、癌細胞が示すエンドサイトーシスの速度増加が一因でありうる。
【0048】
癌および急速に増殖する健常細胞は、インスリン受容体の発現が高いことが知られている。しかしながら、癌細胞とは対照的に、健常細胞は、アルギニンの枯渇に応答して細胞周期を停止し、休止期では最大3週間生存することができる。対照的に、全ての癌の特徴である周期制御の欠如は、ほとんどの場合、それらを代謝死へと導く。
【0049】
本発明は、インスリンとアルギナーゼとの、具体的にはヒトインスリンとヒト肝臓アルギナーゼ(アルギナーゼ-1)との融合タンパク質を提供することにより、これまでの知見を利用することを目的とする。融合に適切なリンカーを使用することにより、インスリンとアルギナーゼの両方の活性が維持される。
【0050】
我々がこれまでに行ってきたインビボでの研究において、インスリンおよびアルギナーゼの平均有効量は、化学量論(stochiometric)に近かった。しかしながら、融合タンパク質を用いたさらなるインビボでの研究により、融合タンパク質対単一タンパク質の効率の違いが示されれば、融合分子と通常のインスリンおよび/または通常のアルギナーゼとの組合せが、使用されうる。
【実施例
【0051】
[実施例1]
N末端ドメインとしてヒト肝臓アルギナーゼ(UniProtKB、アルギナーゼ-1、P05089)、およびC末端ドメインとしてヒトプロインスリンを含む、融合タンパク質が提供される。ヒトプロインスリンは、B鎖の開始点であるそのN末端で、アルギナーゼと融合する(UniProtKB、ヒトインスリン、P01308)。
【0052】
この目的のために、適切な宿主細胞、例えば、大腸菌(E.coli)などの原核細胞、または、酵母、昆虫、または哺乳動物細胞などの真核細胞は、それぞれの宿主細胞に適合した発現制御配列と機能的に連結した融合タンパク質をコードする核酸分子を用いて、トランスフェクトされる。宿主細胞は、融合タンパク質の発現に適した条件下で培養される。融合タンパク質は、既知の技術に従って細胞からまたは培養培地から精製される。
【0053】
組換え産生後、B鎖とA鎖の架橋はジスルフィド結合によって行われ、C-ペプチドは酵素的に除去される。
【0054】
以下のARG-1の配列は、親和性精製のためにヒスチジンタグが付加され、全長331のアミノ酸を有し、本発明者が大腸菌において高活性ヒト肝臓アルギナーゼを産生するために使用した、配列である:
【0055】
MGHHHHHHGSSAKSRTIGIIGAPFSKGQPRGGVEEGPTVLRKAGLLEKLKEQECDVKDYGDLPFADIPNDSPFQIVKNPRSVGKASEQLAGKVAEVKKNGRISLVLGGDHSLAIGSISGHARVHPDLGVIWVDAHTDINTPLTTTSGNLHGQPVSFLLKELKGKIPDVPGFSWVTPCISAKDIVYIGLRDVDPGEHYILKTLGIKYFSMTEVDRLGIGKVMEETLSYLLGRKKRPIHLSFDVDGLDPSFTPATGTPVVGGLTYREGLYITEEIYKTGLLSGLDIMEVNPSLGKTPEEVTRTVNTAVAITLACFGLAREGNHKPIDYLNPPK(配列番号1)
【0056】
ヒトインスリンのプロインスリン配列:
FVNQHLCGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKTRREAEDLQVGQVELGGGPGAGSLQPLALEGSLQKRGIVEQCCTSICSLYQLENYCN(配列番号2)
は、86アミノ酸長である。
【0057】
プロインスリン配列の開始点にあるB鎖配列:
FVNQHLCGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKT(配列番号3)
は、30アミノ酸長である。
【0058】
C-ペプチド:
RREAEDLQVGQVELGGGPGAGSLQPLALEGSLQKR(配列番号4)
(上記プロインスリン配列の下線部)は、35アミノ酸長であり、B鎖とA鎖の架橋後に酵素的に除去される。
【0059】
A鎖配列:
GIVEQCCTSICSLYQLENYCN(配列番号5)
は、21アミノ酸長である。
【0060】
ジスルフィド結合は、B鎖とA鎖の両方の7位にあるシステイン残基を、およびB鎖の19位とA鎖の20位にあるシステイン残基を、連結する。また、A鎖内の6位と11位にあるシステイン残基の間にも追加のジスルフィド結合がある。
【0061】
B鎖の最初の3つ(FVN)と最後の4つ(TPKT)のアミノ酸は、A鎖ともインスリン受容体とも相互作用しないことが知られている。対照的に、A鎖では最後のアミノ酸(N)だけが、いかなる相互作用にも参加しないことが知られている。
【0062】
リンカーXは、アルギナーゼのC末端(K)とプロインスリンのB鎖のN末端(F)との間に挿入されうる。B鎖のN末端にある3つのアミノ酸だけがいかなる相互作用にも参加しないことが知られているため、GS型のフレキシブルリンカーが第一選択となる。リンカーY、例えば短いGSリンカーは、精製タグ、例えばHisタグをアルギナーゼに連結するために、アルギナーゼのN末端(S)で、組み込まれうる。
【0063】
最も一般的に使用されるGS型リンカーの1つが、(GS)である。リンカーの長さは、その期待される機能に従う――この場合、アルギナーゼとインスリンとの空間的分離を向上させ、それらの独立した活性を維持するためである。ある実施形態において、(GS)10(配列番号6)が使用される。
【0064】
具体的な実施形態において、His精製タグ、ヒトアルギナーゼI、およびプロインスリンを含む融合タンパク質のアミノ酸配列は、以下の通りである(図3):
【0065】
MGHHHHHH*Y*SAKSRTIGIIGAPFSKGQPRGGVEEGPTVLRKAGLLEKLKEQECDVKDYGDLPFADIPNDSPFQIVKNPRSVGKASEQLAGKVAEVKKNGRISLVLGGDHSLAIGSISGHARVHPDLGVIWVDAHTDINTPLTTTSGNLHGQPVSFLLKELKGKIPDVPGFSWVTPCISAKDIVYIGLRDVDPGEHYILKTLGIKYFSMTEVDRLGIGKVMEETLSYLLGRKKRPIHLSFDVDGLDPSFTPATGTPVVGGLTYREGLYITEEIYKTGLLSGLDIMEVNPSLGKTPEEVTRTVNTAVAITLACFGLAREGNHKPIDYLNPPK*X*FVNQHLCGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKTRREAEDLQVGQVELGGGPGAGSLQPLALEGSLQKRGIVEQCCTSICSLYQLENYCN(配列番号7)、
ここで、Yはリンカー、具体的にはGSリンカーであり、およびXはリンカー、具体的には(GGGGS)リンカーであり、nは1~10である。
【0066】
C-ペプチドの除去後の融合タンパク質は、2つのポリペプチドからなり、ポリペプチド(i)は、Hisタグ、アルギナーゼドメイン、リンカー、およびインスリンBペプチドからなり、およびポリペプチド(ii)は、インスリンA鎖からなり、およびポリペプチド(i)と(ii)は、ジスルフィド結合によって架橋される、以下を参照(図4):
【0067】
ポリペプチド(i):
MGHHHHHH*Y*SAKSRTIGIIGAPFSKGQPRGGVEEGPTVLRKAGLLEKLKEQECDVKDYGDLPFADIPNDSPFQIVKNPRSVGKASEQLAGKVAEVKKNGRISLVLGGDHSLAIGSISGHARVHPDLGVIWVDAHTDINTPLTTTSGNLHGQPVSFLLKELKGKIPDVPGFSWVTPCISAKDIVYIGLRDVDPGEHYILKTLGIKYFSMTEVDRLGIGKVMEETLSYLLGRKKRPIHLSFDVDGLDPSFTPATGTPVVGGLTYREGLYITEEIYKTGLLSGLDIMEVNPSLGKTPEEVTRTVNTAVAITLACFGLAREGNHKPIDYLNPPK*X*FVNQHLCGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKT(配列番号8)、
ここで、Yはリンカー、具体的にはGSリンカーであり、およびXはリンカー、具体的には(GGGGS)リンカーであり、nは1~10である。
【0068】
ポリペプチド(ii):
GIVEQCCTSICSLYQLENYCN(配列番号5)
【0069】
インスリン鎖のジスルフィド架橋およびC-ペプチドの酵素的除去は、好ましくは、精製材料、例えば精製カラムまたはフィルターに結合した融合タンパク質を用いて、その親和性タグによって行われる。ある実施形態において、精製材料は、親和性フィルターまたはカラム、例えば、融合タンパク質がそのHisタグによって結合されるNiフィルターまたはカラムである(図5)。
【0070】
Sリンカー(配列番号9)を有する融合タンパク質の長さは、331+5+30+21=387残基であり、分子量は約42.0kDaである。
【0071】
(GS)10(配列番号6)リンカーを有するものでは、長さは432残基であり、分子量は約45.6kDaである。
【0072】
インスリンによる血管系の透過性の増加は、おそらく35.8kDaのアルギナーゼ(Hisタグを有する)の血管外遊出をも引き起こすトランスサイトーシスによる、内皮細胞を通じたその物質輸送の結果であると仮定すると、約42~46kDaの融合タンパク質のトランスサイトーシスの速度も同等であるが、アルギナーゼに対するインスリンの「タグアロング(tag-along)」効果によりさらに高くなる可能性がある、と予想するのが妥当である。
【0073】
エンドサイトーシスによる標的細胞内への、具体的にはインスリン受容体を過剰発現することが知られている癌細胞内への侵入についても、同じことが言える。アルギナーゼとインスリンを使用して我々が行った多くのインビボ実験において、健常細胞に大きな悪影響はなく-過渡的に増殖率を減少させただけであった。
【0074】
[実施例2]
本発明のさらなる実施態様は、インスリンと、腎臓および他のいくつかの組織中に主に見出されるが肝臓中に見出されないヒトアルギナーゼ-2(別名:アルギナーゼII、腎臓型アルギナーゼ、非肝臓アルギナーゼ)との、融合タンパク質である。アルギナーゼ-2(UniProt P78540)は、354残基長であり、分子量38578Daを有する。アルギナーゼ-1と同じHisタグ(GHHHHHHGS)(配列番号10)をN末端で使用すると、このタンパク質は363残基、分子量約39.7kDaを有することとなる。上述のような(GS)リンカーを用いると、ヒトアルギナーゼ-2とインスリンとの融合タンパク質は、分子量46~50kDaを有することとなる。
【0075】
[実施例3]
本発明のさらなる実施形態は、インスリンとヒトコバルト置換アルギナーゼIまたはアルギナーゼIIとの融合タンパク質である。この融合タンパク質は、前掲US 20121/0189371に記載されているように、融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を発酵させて融合タンパク質を産生し、組換えタンパク質中のマンガンをコバルトに置換してCo置換融合タンパク質を提供しさらに精製することで、産生されうる。
【0076】
[実施例4]
本発明のさらなる実施形態は、ヒトアルギナーゼ-1とSCI-57との融合タンパク質である(図6)。天然プロインスリンのC-ペプチドを置換する永続的ヘキサペプチドC-リンカーGGGPRR(配列番号12)に加えて、SCI-57のB鎖(配列番号11)とA鎖(配列番号13)は、ヒトインスリンへのさらなる修飾、すなわち4つの置換を含む:ThrA8をHisに、HisB10をAspに、ProB28をAspに、およびLysB29をProに、であり図6に灰色で示される。SCI-57(配列番号14)は、インスリン受容体への結合能が高い、超安定一本鎖インスリンである。本発明で特に興味深いのは、SCI-57に永続的ペプチドリンカーを使用することで、単量体アルギナーゼとの融合タンパク質を、単一ステップで産生できるようにしたことである。
【0077】
[実施例5]
本発明の融合タンパク質は、注入によって患者に投与される。抗腫瘍療法において必要とされる全身的で深い枯渇のために、融合タンパク質の送達は、好ましくはグルコースの同時注入と共に行われ、および低アルギニンの副作用を補償するための一酸化窒素供与体(例えばSNP)および/またはバソプレッシン(例えばアルギニン-バソプレッシン)の同時注入などの追加手段と共に行われてもよい。
【0078】
肥満および/または2型糖尿病を治療するためには、インスリン単独の標準的使用に近い投与量を用いた、より低い用量が必要であろう。
【0079】
本発明に従って配列番号1~配列番号14として列挙された配列は、以下のように定義される:
【0080】
配列番号1(ヒスチジンタグを有するARG-1)
Met Gly His His His His His His Gly Ser Ser Ala Lys Ser Arg Thr
Ile Gly Ile Ile Gly Ala Pro Phe Ser Lys Gly Gln Pro Arg Gly Gly
Val Glu Glu Gly Pro Thr Val Leu Arg Lys Ala Gly Leu Leu Glu Lys
Leu Lys Glu Gln Glu Cys Asp Val Lys Asp Tyr Gly Asp Leu Pro Phe
Ala Asp Ile Pro Asn Asp Ser Pro Phe Gln Ile Val Lys Asn Pro Arg
Ser Val Gly Lys Ala Ser Glu Gln Leu Ala Gly Lys Val Ala Glu Val
Lys Lys Asn Gly Arg Ile Ser Leu Val Leu Gly Gly Asp His Ser Leu
Ala Ile Gly Ser Ile Ser Gly His Ala Arg Val His Pro Asp Leu Gly
Val Ile Trp Val Asp Ala His Thr Asp Ile Asn Thr Pro Leu Thr Thr
Thr Ser Gly Asn Leu His Gly Gln Pro Val Ser Phe Leu Leu Lys Glu
Leu Lys Gly Lys Ile Pro Asp Val Pro Gly Phe Ser Trp Val Thr Pro
Cys Ile Ser Ala Lys Asp Ile Val Tyr Ile Gly Leu Arg Asp Val Asp
Pro Gly Glu His Tyr Ile Leu Lys Thr Leu Gly Ile Lys Tyr Phe Ser
Met Thr Glu Val Asp Arg Leu Gly Ile Gly Lys Val Met Glu Glu Thr
Leu Ser Tyr Leu Leu Gly Arg Lys Lys Arg Pro Ile His Leu Ser Phe
Asp Val Asp Gly Leu Asp Pro Ser Phe Thr Pro Ala Thr Gly Thr Pro
Val Val Gly Gly Leu Thr Tyr Arg Glu Gly Leu Tyr Ile Thr Glu Glu
Ile Tyr Lys Thr Gly Leu Leu Ser Gly Leu Asp Ile Met Glu Val Asn
Pro Ser Leu Gly Lys Thr Pro Glu Glu Val Thr Arg Thr Val Asn Thr
Ala Val Ala Ile Thr Leu Ala Cys Phe Gly Leu Ala Arg Glu Gly Asn
His Lys Pro Ile Asp Tyr Leu Asn Pro Pro Lys
【0081】
配列番号2(ヒトタンパク質)
Phe Val Asn Gln His Leu Cys Gly Ser His Leu Val Glu Ala Leu Tyr
Leu Val Cys Gly Glu Arg Gly Phe Phe Tyr Thr Pro Lys Thr Arg Arg
Glu Ala Glu Asp Leu Gln Val Gly Gln Val Glu Leu Gly Gly Gly Pro
Gly Ala Gly Ser Leu Gln Pro Leu Ala Leu Glu Gly Ser Leu Gln Lys
Arg Gly Ile Val Glu Gln Cys Cys Thr Ser Ile Cys Ser Leu Tyr Gln
Leu Glu Asn Tyr Cys Asn
【0082】
配列番号3(B鎖)
Phe Val Asn Gln His Leu Cys Gly Ser His Leu Val Glu Ala Leu Tyr
Leu Val Cys Gly Glu Arg Gly Phe Phe Tyr Thr Pro Lys Thr
【0083】
配列番号4(C-ペプチド)
Arg Arg Glu Ala Glu Asp Leu Gln Val Gly Gln Val Glu Leu Gly Gly
Gly Pro Gly Ala Gly Ser Leu Gln Pro Leu Ala Leu Glu Gly Ser Leu
Gln Lys Arg
【0084】
配列番号5(A鎖/ポリペプチド(ii))
Gly Ile Val Glu Gln Cys Cys Thr Ser Ile Cys Ser Leu Tyr Gln Leu
Glu Asn Tyr Cys Asn
【0085】
配列番号6((G4S)10リンカー)
Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly
Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly
Gly Gly Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly
Gly Ser
【0086】
配列番号7(人工配列)
9位のXaa=リンカー、具体的にはGSリンカー
331位のXaa=リンカー、具体的には(GGGGS)nリンカー、nは1~10である
Met Gly His His His His His His Xaa Ser Ala Lys Ser Arg Thr Ile
Gly Ile Ile Gly Ala Pro Phe Ser Lys Gly Gln Pro Arg Gly Gly Val
Glu Glu Gly Pro Thr Val Leu Arg Lys Ala Gly Leu Leu Glu Lys Leu
Lys Glu Gln Glu Cys Asp Val Lys Asp Tyr Gly Asp Leu Pro Phe Ala
Asp Ile Pro Asn Asp Ser Pro Phe Gln Ile Val Lys Asn Pro Arg Ser
Val Gly Lys Ala Ser Glu Gln Leu Ala Gly Lys Val Ala Glu Val Lys
Lys Asn Gly Arg Ile Ser Leu Val Leu Gly Gly Asp His Ser Leu Ala
Ile Gly Ser Ile Ser Gly His Ala Arg Val His Pro Asp Leu Gly Val
Ile Trp Val Asp Ala His Thr Asp Ile Asn Thr Pro Leu Thr Thr Thr
Ser Gly Asn Leu His Gly Gln Pro Val Ser Phe Leu Leu Lys Glu Leu
Lys Gly Lys Ile Pro Asp Val Pro Gly Phe Ser Trp Val Thr Pro Cys
Ile Ser Ala Lys Asp Ile Val Tyr Ile Gly Leu Arg Asp Val Asp Pro
Gly Glu His Tyr Ile Leu Lys Thr Leu Gly Ile Lys Tyr Phe Ser Met
Thr Glu Val Asp Arg Leu Gly Ile Gly Lys Val Met Glu Glu Thr Leu
Ser Tyr Leu Leu Gly Arg Lys Lys Arg Pro Ile His Leu Ser Phe Asp
Val Asp Gly Leu Asp Pro Ser Phe Thr Pro Ala Thr Gly Thr Pro Val
Val Gly Gly Leu Thr Tyr Arg Glu Gly Leu Tyr Ile Thr Glu Glu Ile
Tyr Lys Thr Gly Leu Leu Ser Gly Leu Asp Ile Met Glu Val Asn Pro
Ser Leu Gly Lys Thr Pro Glu Glu Val Thr Arg Thr Val Asn Thr Ala
Val Ala Ile Thr Leu Ala Cys Phe Gly Leu Ala Arg Glu Gly Asn His
Lys Pro Ile Asp Tyr Leu Asn Pro Pro Lys Xaa Phe Val Asn Gln His
Leu Cys Gly Ser His Leu Val Glu Ala Leu Tyr Leu Val Cys Gly Glu
Arg Gly Phe Phe Tyr Thr Pro Lys Thr Arg Arg Glu Ala Glu Asp Leu
Gln Val Gly Gln Val Glu Leu Gly Gly Gly Pro Gly Ala Gly Ser Leu
Gln Pro Leu Ala Leu Glu Gly Ser Leu Gln Lys Arg Gly Ile Val Glu
Gln Cys Cys Thr Ser Ile Cys Ser Leu Tyr Gln Leu Glu Asn Tyr Cys
Asn
【0087】
配列番号8(ポリペプチド(i))
9位のXaa=リンカー、具体的にはGSリンカー
331位のXaa=リンカー、具体的には(GGGGS)nリンカー、nは1~10である
Met Gly His His His His His His Xaa Ser Ala Lys Ser Arg Thr Ile
Gly Ile Ile Gly Ala Pro Phe Ser Lys Gly Gln Pro Arg Gly Gly Val
Glu Glu Gly Pro Thr Val Leu Arg Lys Ala Gly Leu Leu Glu Lys Leu
Lys Glu Gln Glu Cys Asp Val Lys Asp Tyr Gly Asp Leu Pro Phe Ala
Asp Ile Pro Asn Asp Ser Pro Phe Gln Ile Val Lys Asn Pro Arg Ser
Val Gly Lys Ala Ser Glu Gln Leu Ala Gly Lys Val Ala Glu Val Lys
Lys Asn Gly Arg Ile Ser Leu Val Leu Gly Gly Asp His Ser Leu Ala
Ile Gly Ser Ile Ser Gly His Ala Arg Val His Pro Asp Leu Gly Val
Ile Trp Val Asp Ala His Thr Asp Ile Asn Thr Pro Leu Thr Thr Thr
Ser Gly Asn Leu His Gly Gln Pro Val Ser Phe Leu Leu Lys Glu Leu
Lys Gly Lys Ile Pro Asp Val Pro Gly Phe Ser Trp Val Thr Pro Cys
Ile Ser Ala Lys Asp Ile Val Tyr Ile Gly Leu Arg Asp Val Asp Pro
Gly Glu His Tyr Ile Leu Lys Thr Leu Gly Ile Lys Tyr Phe Ser Met
Thr Glu Val Asp Arg Leu Gly Ile Gly Lys Val Met Glu Glu Thr Leu
Ser Tyr Leu Leu Gly Arg Lys Lys Arg Pro Ile His Leu Ser Phe Asp
Val Asp Gly Leu Asp Pro Ser Phe Thr Pro Ala Thr Gly Thr Pro Val
Val Gly Gly Leu Thr Tyr Arg Glu Gly Leu Tyr Ile Thr Glu Glu Ile
Tyr Lys Thr Gly Leu Leu Ser Gly Leu Asp Ile Met Glu Val Asn Pro
Ser Leu Gly Lys Thr Pro Glu Glu Val Thr Arg Thr Val Asn Thr Ala
Val Ala Ile Thr Leu Ala Cys Phe Gly Leu Ala Arg Glu Gly Asn His
Lys Pro Ile Asp Tyr Leu Asn Pro Pro Lys Xaa Phe Val Asn Gln His
Leu Cys Gly Ser His Leu Val Glu Ala Leu Tyr Leu Val Cys Gly Glu
Arg Gly Phe Phe Tyr Thr Pro Lys Thr
【0088】
配列番号9(G4Sリンカー)
Gly Gly Gly Gly Ser
【0089】
配列番号10(Hisタグ)
Gly His His His His His His Gly Ser
【0090】
配列番号11(B鎖)
Phe Val Asn Gln His Leu Cys Gly Ser Asp Leu Val Glu Ala Leu Tyr
Leu Val Cys Gly Glu Arg Gly Phe Phe Tyr Thr Asp Pro Thr
【0091】
配列番号12(C-リンカー)
Gly Gly Gly Pro Arg Arg
【0092】
配列番号13(A鎖)
Gly Ile Val Glu Gln Cys Cys His Ser Ile Cys Ser Leu Tyr Gln Leu
Glu Asn Tyr Cys Asn
【0093】
配列番号14(SCI-57)
Phe Val Asn Gln His Leu Cys Gly Ser Asp Leu Val Glu Ala Leu Tyr
Leu Val Cys Gly Glu Arg Gly Phe Phe Tyr Thr Asp Pro Thr Gly Gly
Gly Pro Arg Arg Gly Ile Val Glu Gln Cys Cys His Ser Ile Cys Ser
Leu Tyr Gln Leu Glu Asn Tyr Cys Asn
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2024531773000001.xml
【国際調査報告】