(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】人工下大静脈弁
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516919
(86)(22)【出願日】2022-09-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2022075762
(87)【国際公開番号】W WO2023041705
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】102021123950.8
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513301919
【氏名又は名称】エヌヴィーティー アーゲー
【住所又は居所原語表記】Rue de Lausanne 29,1110 Morges Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】キュティング,マキシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェスターマン,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】バウムガートナー,モーリッツ
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC05
4C097DD15
4C097EE02
4C097EE08
4C097EE09
4C097SB03
4C097SB10
(57)【要約】
本発明は、静脈血逆流を治療するための補綴デバイス(10;100)であって、患者の右心房(54)と下大静脈(53)の間の接合部に留置されるように構成される補綴デバイス(10;100)に関する。本発明の補綴デバイス(10;100)は、拡張可能なステントフレーム(16)と、ステントフレーム(16)に取り付けられた弁要素(30)と、ステントフレーム(16)に連結され、ステントフレーム(16)の外部領域(12)から半径方向外側に延びた環状位置決めアセンブリ(20)とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の右心房(54)と下大静脈(53)の間の接合部に留置されるように構成された静脈逆流の治療用の補綴デバイス(10;100)であって、
長さIと内部領域(11)と外部領域(12)とを有する拡張可能なステントフレーム(16)と、
前記ステントフレーム(16)に取り付けられた弁要素(30)と、
前記ステントフレーム(16)に連結され、該ステントフレーム(16)の前記外部領域(12)から半径方向外側に延びた環状位置決めアセンブリ(20)と
を含み、
前記ステントフレーム(16)が、下大静脈(53)内に留置されるように構成された近位部分(17)と、
下大静脈(53)から右心房(54)に突出するように構成された遠位部分(18)とを含み、
前記環状位置決めアセンブリ(20)が、半径方向外側に拡張する複数の位置決め部材(21)を含み、
前記環状位置決めアセンブリ(20)が、前記ステントフレーム(16)の前記遠位部分(18)と前記近位部分(17)との間に設けられており、
前記環状位置決めアセンブリ(20)が、前記ステントフレーム(16)の前記遠位部分(18)を右心房(54)内に位置決めし、かつ前記近位部分(17)を下大静脈(53)内に位置決めするように構成されている、補綴デバイス(10;100)。
【請求項2】
前記環状位置決めアセンブリが、前記位置決め部材(21)を覆うカバー部材(23)をさらに含む、請求項1に記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項3】
前記弁要素(30)が、前記ステントフレーム(16)の前記遠位部分(18)に取り付けられている、請求項1または2に記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項4】
前記弁要素(30)が、1つまたは2つの弁葉(31)と、弁スカート(32)と、複数の弁交連点(33)とを含む、請求項1~3のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項5】
前記弁要素(30)が、非対称の弁葉設計を有する、請求項1~4のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項6】
前記弁要素(30)が、1つの弁葉(31)と可撓性接合部(34)、弁スカート(32)、および2つの弁交連点(33)を含む、請求項1~5のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項7】
前記弁要素(30)が、1つの剛性弁葉(31)および1つの可撓性弁葉(31)からなる、請求項1~6のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項8】
前記弁要素(30)が、前記ステントフレーム(16)の前記内部領域(11)の前記遠位部分(18)に取り付けられている、請求項1~7のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項9】
前記位置決めアセンブリ(20)の、前記半径方向外側に拡張する位置決め部材(21)が、支柱(21a)およびV字型ワイヤ部分(21b)から選択されるステントワイヤ部材である、請求項1~8のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項10】
前記環状位置決めアセンブリ(20)が、前記半径方向外側に拡張する位置決め部材(21)を1~30個含み、好ましくは、前記半径方向外側に拡張する位置決め部材(21)を3~15個含む、請求項1~9のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項11】
前記位置決め部材(21)が、前記ステントフレーム(16)から外側に60~150度の角度αで延びており、好ましくは、前記ステントフレーム(16)から外側に90~120度の角度αで延びている、請求項1~10のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項12】
前記位置決め部材(21)が、半径方向に非対称に延びている、請求項1~11のいずれかに記載の補綴デバイス(10)。
【請求項13】
前記ステントフレーム(16)の前記外部領域が、補綴材料により少なくとも部分的に覆われている、請求項1~12のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項14】
前記ステントフレーム(16)の前記外部領域(12)の前記近位部分(17)のみが、補綴材料により少なくとも部分的に覆われている、請求項1~13のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項15】
前記ステントフレーム(16)の前記外部領域(12)が、補綴材料により少なくとも部分的に覆われており、該補綴材料で覆われた部分の高さが、前記ステントフレーム(16)の外周において様々に異なっている、請求項1~14のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項16】
前記位置決め部材(21)が2つの面(21x、21y)を有し、一方の面(21x)が、前記遠位部分(18)の方向に向いており、もう一方の面(21y)が前記近位部分(17)の方向に向いており、前記位置決め部材(21)を覆っている前記カバー部材(23)が、前記位置決め部材(21)の前記2つの面(21x、21y)の一方または両方に取り付けられている、請求項1~15のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項17】
前記位置決め部材(21)を覆うカバー部材(23)が、生物由来材料および合成材料から選択される材料を含むか、またはこれらから選択される材料からなる、請求項1~16のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【請求項18】
前記カバー部材が、心膜組織、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMPE)、およびこれらの混合物から選択される材料を含むか、またはこれらから選択される材料からなる、請求項1~17のいずれかに記載の補綴デバイス(10)。
【請求項19】
放射線不透過マーカーを含み、好ましくは、該放射線不透過マーカーが、前記ステントフレーム上または前記カバー部材上に非対称に配置されている、請求項1~18のいずれかに記載の補綴デバイス(10;100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静脈血逆流を治療するための補綴デバイスに関し、このデバイスは、患者の右心房と下大静脈の間の接合部に留置されるように構成されている。本発明はまた、哺乳動物における三尖弁逆流症を治療するための、そのような補綴デバイスの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの心臓は、4つの部屋、すなわち右心房と左心房、および左心室と右心室で構成されている。ヒトの心臓の4つの弁、すなわち、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、および肺動脈弁は、血液が心臓内を一方向にのみに流れるように維持しており、これによって、血液が常時順方向に制約なく流れ、逆方向へ漏れ出すことが無いようにしている。
【0003】
心臓弁は生命に関わる機能を担っているため、その疾患や機能不全は、人命にとって大きな脅威である。
【0004】
三尖弁逆流症は、右心の2つの心腔(右心室と右心房)の間の弁が適切に閉鎖しなくなり、これによって、弁が密閉しなくなり、血液が弁を通って逆方向へと漏出する状態である。この状態(弁閉鎖不全症とも言う)は、心臓のポンプ機能の効率を低下させる。心臓が収縮すると、血液は適切な方向に送り出されるが、同時に損傷した弁を通って逆方向へも流れてしまう。この漏出が悪化するにつれ、心臓は漏出を起こしている弁の機能を補うためにより強くポンプしなければならず、また、身体の他の部位へと送り出される血液が減少する可能性がある。
【0005】
機能不全の弁は、先天的心疾患によるものや、その他の状態により引き起こされた弁障害により起こることがある。三尖弁閉鎖不全症の原因には先天的なものもあるが、多くの場合、弁輪拡大および右心室拡大によるものであり、この拡大が、三尖弁と適切な機能を司る筋肉の正常の解剖学的構造と機械的構造に異常をもたらす。この結果、三尖弁の機能不全が引き起こされる。
【0006】
重度症候性三尖弁逆流症(TR)の治療は、循環器専門医にとっても、心臓血管系外科医にとっても、非常に困難である。利尿薬の服用量を増やしていくのが主である医学療法では、腎臓機能が悪化して、患者の利尿薬耐性が増すことから、長期的には効果がなくなる。米国では、TRのための手術が過去10年で多少の伸びを見せているが、対象患者のうち、少数しか手術を行っていない。これには、いくつかの理由がある。患者は通常、症状が進み、終末器官の障害が重篤になり初めて手術を推奨され、この時点では、この手術がより高リスクとなる。これに加えて、TR術後、時間経過後の再発率が非常に高いことが挙げられる。
【0007】
この状況下で、ここ数年は、経カテーテル三尖弁術の分野が注目を集め、発展している。たとえば、EP3154474A1は、上大静脈に導入される第一の人工心臓弁と、下大静脈に導入される第二の人工心臓弁とを含む、三尖弁の経皮的置換のための2つの人工心臓弁のシステムを開示している。
【0008】
これに類似して、WO2016/114719A1は、三尖弁逆流症を治療するための人工弁を開示しており、この人工弁も、上大静脈と下大静脈に留置するための、2つの人工ステントフレームベースの弁を含む。
【0009】
過去数年で三尖弁逆流症治療に進歩はあるが、外科医にとっても患者にとっても、治療を容易にする改良されたデバイスへのニーズが大いにある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって、本発明の目的は、三尖弁逆流症の治療を容易にし、先行技術のデバイスと治療方法の欠点を克服するデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、上記の目的およびその他の目的は、静脈血逆流を治療するための補綴デバイスによって解決される。該補綴デバイスは、患者の右心房と下大静脈の間の接合部に留置されるように構成された静脈血逆流の治療用の補綴デバイスであって、長さIと内部領域と外部領域とを有する拡張可能なステントフレームと、ステントフレームに取り付けられている弁要素と、ステントフレームに連結され、該ステントフレームの外部領域から半径方向外側に延びた環状位置決めアセンブリとを含み、該ステントフレームが、下大静脈内に留置されるように構成された近位部分と、下大静脈から右心房へと突出するように構成された遠位部分とを含み、該環状位置決めアセンブリが、半径方向外側に拡張する複数の位置決め部材を含み、該環状位置決めアセンブリが、ステントフレームの遠位部分と近位部分の間に設けられており、ステントフレームの本体の遠位部分を右心房内に位置決めし、かつ近位部分を下大静脈内に位置決めするように構成されている。
【0012】
上記の目的はさらに、三尖弁逆流症を治療するための補綴デバイスの使用、および三尖弁逆流症を治療するための方法よって解決される。該方法は、本発明の補綴デバイスを患者の心臓領域に留置/配置する工程を含み、具体的には、三尖弁逆流症の治療を必要とする患者において、補綴デバイスの近位部分が下大静脈に配置され、補綴デバイスの遠位部分が下大静脈から右心房に突出するように、前記患者の下大動脈に本発明の補綴デバイスを留置/配置する工程を含み、前記環状位置決めアセンブリによって、ステントフレームの本体の遠位部分が右心房内に位置決めされ、ステントフレームの本体の近位部分が下大静脈内に位置決めされる。
【0013】
このようにして、本発明の基礎をなす課題は完全に解決される。
【0014】
本発明の補綴デバイスと三尖弁閉鎖不全症の治療におけるその使用により、三尖弁の機能を確実かつ簡便に置換することができ、その結果として、心臓の機能を効果的に補助することができる。
【0015】
本発明の補綴デバイスは、拍動性の静脈圧上昇を主に原因として腎機能と肝機能に影響が及ぶ三尖弁逆流症の症状に対処するために、下大静脈への逆流をなくすことに焦点を当てたものである。
【0016】
好ましい一実施形態において、環状位置決めアセンブリは、位置決め部材を覆うカバー部材をさらに含む。
【0017】
さらに、半径方向外側に拡張する複数の位置決め部材は、留置後に、該複数の位置決め部材を覆うカバー部材と協働して三尖弁を密閉して弁周囲漏出を防止する。
【0018】
この文脈において、「環状」位置決めアセンブリとは、半径方向外側に拡張する複数の位置決め部材が、ステントフレームの外面から一定の角度で延び、かつ各位置決め部材が互いに一定の距離をおいてステントフレームの外周に配置されるように、位置決めアセンブリがステントフレームの外周に設けられていることを意味する。
【0019】
本発明の好ましい一実施形態において、弁要素は、ステントフレームの遠位部分に取り付けられている。
【0020】
環状位置決めアセンブリによって、補綴デバイスの直観的な留置および安全な固定が可能になることから、本発明の補綴デバイスを利用することによって、弁置換術に要する時間と手術費用を効率的に改善することができる。ステントフレームに結合された環状位置決めアセンブリは、ステントフレームの外面から半径方向外側に延びていることから、本発明の補綴デバイスを所望の位置に確実に位置決めして、その位置に固定することができ、すなわち、補綴デバイスの近位部分が下大静脈に配置され、かつ補綴デバイスの遠位部分が下大静脈から右心房に突出するように、本発明の補綴デバイスを確実に位置決めして、その位置に固定することができる。
【0021】
本明細書中、一般に理解されるように、「拡張可能なステントフレーム」は、内腔が形成された、半径方向に拡張可能な金属フレームまたは金属ボディと理解され、このような金属フレームまたは金属ボディを指し、円筒状または管状の形状を有することができるが、その形状は均一な円筒形または管状である必要はなく、その長さに沿って異なる直径および形状を有することができるが、血液を案内する内腔を形成している。
【0022】
一般的に、「ステントフレーム」は、補綴具に剛性、拡張力、または補強を付与する任意のデバイスまたは構造を意味する。ステントが補綴材料で覆われて、ステントフレームを覆う液密なカバーまたは実質的に液密なカバーが形成されている場合、このような補綴材料で覆われたステントを「ステントグラフト」と呼ぶ。ステント/ステントグラフトの本体は、処置される血管/器官、すなわち心臓へ挿入され、適切な部位において拡張されて固定されるか、または適切な部位において自己拡張して自己固定し、心臓の内腔を拡張した状態で維持する。このように、「グラフト」材料は、ステントの内面もしくは外面またはその両方に配置されてもよい円筒状のライナーである。ステントとグラフトとを接合するために様々な取付方法が利用可能であり、縫合、接着結合、熱溶着、および超音波溶着などがあるが、これらに限定されない。本明細書において、「カバー」はステント部材に取り付けられたグラフト材料を指してもよく、あるいはステント部材に取り付けられたグラフト材料を指し、したがって、本明細書中および関連する分野において、「ステントグラフト」は、「カバードステント」または「カバードステントグラフト」とも呼ばれる。
【0023】
本発明の補綴デバイスのステントフレームは、レーザー切断された金属メッシュ、織られた金属メッシュ、編み組まれた金属メッシュ、または編まれた金属メッシュであってもよく、別の方法で相互結合させた金属メッシュを含んでいてもよい。
【0024】
ステントフレームは、たとえば、個々のステント要素/リングが脚部または支柱で互いに連結されて一続きになったもの、すなわち自己拡張を可能とする材料で作製されたワイヤーフレームを含んでいてもよい。このステントフレームすなわちワイヤフレームワークの少なくとも一部は、血管壁を支持する管状体を形成している。
【0025】
ステントフレームは、金属フレームで形成された金属メッシュを形成する単一の金属リングを複数使用して形成された金属メッシュで構成された金属フレームであってもよい。各金属リングは、外周が蛇行しており、グラフト部材の長手軸沿い/長手方向に連続的して配置されている。各金属リングの側面から見た形状はZ字型であり、補綴デバイスの近位端と遠心端とに交互に向く尖頭アーチを有する。各金属リングは、ステント要素/リングを覆っているグラフト材料で互いに間接的に連結されている。
【0026】
本発明の補綴デバイスの一実施形態によると、位置決めアセンブリは、位置決めアセンブリの上流にある部分が遠位部分となり、位置決めアセンブリの下流にある部分が近位部分となるように、ステントフレームに取り付けられている。このように、位置決めアセンブリは、ステントフレームを遠位部分と近位部分とに「分割」しており、換言すると、近位部分と遠位部分の間の境界となっている。
【0027】
一実施形態において、遠位部分は、ステントフレームの全長の約50%~約5%を占め、ステントフレームにおける位置決めアセンブリの位置は、近位部分と遠位部分の間の境界となっている。
【0028】
本発明の補綴デバイスの一実施形態によると、遠位部分は、近位部分より短く、ステントフレームの外面から半径方向に延びる位置決めアセンブリは、ステントフレームの最遠位端の部分により形成されており、この最遠位端の部分は外側に屈曲される。本実施形態では、ステントフレームの遠位部分は、ステントフレームの全長の約50%~約5%を占めており、約30%~約5%または約20%~約5%を占めることが好ましく、このような長さであることから、ステントフレームの曲げられた遠位部分を介して、ステントフレームの遠位部分のみを右心房内に位置決めして、その位置で固定することができる。
【0029】
また別の一実施形態では、位置決めアセンブリは、ステントフレームの近位部分がステントフレームの全長の約70~約30%を占め、好ましくは約60%~約40%を占め、かつステントフレームの遠位部分がステントフレームの全長の約30%~約70%を占めるように、位置決めアセンブリがステントフレームに配置される。ステントフレームの近位部分と遠位部分のそれぞれが、ステントフレームの全長の50%を占め、かつ位置決めアセンブリがステントフレームの全長のほぼ中央部に配置されていることが好ましい。換言すると、位置決めアセンブリは、ステントフレーム上でのその位置によって、ステントフレームを近位部分と遠位部分に「分割」している。上記パーセンテージは、近位部分と遠位部分の分割割合を示している。
【0030】
よって、一実施形態において、本発明の補綴デバイスのステントフレームは、少なくとも部分的に実質的に管状のステントフレームを有し、好ましくは、少なくともステントフレームの近位部分が管状である。
【0031】
本明細書中、「実質的」という表現は、程度または度合いが高いことを指し、たとえば「実質的に管状」は、本発明の文脈では、形状が概して管状であるが、正確に管状すなわち円筒形である必要は無いことを意味する。これは、管状の形状が、その長さに沿って異なる直径を有していてもよいが、概して管状の形状を保持していることを意味する。
【0032】
一実施形態によれば、ステントフレームの近位部分と遠位部分は、概して管状である。
【0033】
本発明の一態様によれば、本発明の補綴デバイスにおいて、弁要素は、1つまたは2つの弁葉と、弁スカートと、複数の弁交連点とを含む。
【0034】
よって、一実施形態において、弁は、1つのみの弁葉を含むように形成することもでき、したがって、単葉弁とすることもできる。「単葉」弁は、概して、ステントフレームの金属支柱に/金属支柱によって固定された単一のディスク状シートで構成される。
【0035】
これに対して、別の一実施形態では、ステントフレームに取り付けられた2つの(半月状)ディスク状シートで弁を構成でき、二葉弁とすることができる。
【0036】
本発明の補綴デバイスの弁は、好ましくはヒトもしくは動物の心膜、または天然の弁、もしくは静脈もしくは類似物で作製または構成される。
【0037】
本明細書中、一般的な理解と同様に、「弁スカート」はステントフレームの内部および/または外部に取り付けられる弁材料または補綴材料を意味し、ステントフレームの一定の長さを覆い、通常はステントフレームの一定の高さ/長さのみを覆っている。
【0038】
「弁交連点」とは、弁葉同士が接触する領域である。弁交連点はまた、弁葉の遠位端が弁の支持構造、すなわち、弁のステントフレームに取り付けられている点である。
【0039】
本発明の一態様によれば、本発明の補綴デバイスにおいて、弁要素は非対称の弁葉設計を有する。
【0040】
この文脈において、「非対称」とは、シート/ディスク状の弁要素が、もう一方の弁要素の形状、サイズ、または配置と一致しないように構成されていたり、もう一方の弁要素の形状、サイズまたは配置とは異なる部品を有していることから、対称性を欠くことを意味する。
【0041】
弁要素を非対称弁葉設計とすることにより、弁位置での性能をさらに高めることができる。これは、弁葉の接合機能を高め、弁閉鎖時の心臓の容積を減少させることにより達成される。これは特に、三尖弁逆流症の患者において、逆流ジェットが弁葉の側方に当たる右心房の流れ場の場合に当てはまる。
【0042】
一実施形態において、本発明の補綴デバイスにおいて、弁要素は、1つの弁葉と可撓性接合部、弁スカート、および2つの弁交連点を含む。
【0043】
この文脈において、「可撓性接合部」は、弁葉の表面が接合または閉鎖する弁葉の領域であり、この閉鎖は、円滑な接合が可能という意味において可撓性である。
【0044】
この実施形態は、1つの弁葉のみが開閉の動きを行い、補綴デバイスに使用する全体的な材料を減らすことができるという利点がある。これがさらに、弁の接合を強化し、弁による心臓の閉鎖容積を減少させ、これによって、流れ場と血流力学が改善される。
【0045】
本発明の補綴デバイスの別の実施形態において、弁要素は、1つの剛性弁葉および1つの可撓性弁葉からなる。
【0046】
この実施形態は、一方の弁葉が可撓性を有し、もう一方の弁葉が剛性を有することから、可撓性弁葉と剛性弁葉が十分にぴったりと閉鎖して互いに接合することができるという利点がある。
【0047】
本発明の補綴デバイスの別の実施形態によると、弁要素は、ステントフレームの遠位部分の内部領域に取り付けられている。
【0048】
別の好ましい一実施形態によると、弁交連点は、ステントフレームの遠位端を超えて延びる1つ以上のステントワイヤ伸長部に取り付けられており、ステントワイヤ伸長部の数は、1つ、2つ、または3つであることが好ましい。
【0049】
本発明の補綴デバイスの一実施形態において、位置決めアセンブリの半径方向外側に拡張する位置決め部材は、支柱およびV字型ワイヤ部分から選択されるステントワイヤ部材である。
【0050】
ステントフレームから半径方向外側に延びる支柱またはV字型ワイヤ部分を用いることによって、補綴デバイスを心臓内の所望の位置に効率的に位置決めすることができる。「V字型」とは、V字の形状に似た形状であり、一方の端部において2つの脚部が接続されており、もう一方の端部で、これらの2つの脚部が互いに離れている形状を意味する。本発明の補綴デバイスの一実施形態において、V字型の位置決め部材は、V字型の形状の接続された端部が外側に向き、もう一方の端部がステントフレームに取り付けられているか、またはステントフレームの一部を構成するようにステントフレームにおいて配置されており、V字型の位置決め部材は、ステントフレームに接続されていることにより閉鎖された端部を形成していてもよい。
【0051】
「V字型」はV字に似たすべての形状を意味するが、V字の脚部はある程度外側に曲がっていてもよく、またはまっすぐでもよい。
【0052】
本発明の補綴デバイスの一実施形態において、環状位置決めアセンブリは、半径方向外側に拡張する位置決め部材を1~30個含み、半径方向外側に拡張する位置決め部材を3~15個含むことが好ましく、すなわち、半径方向外側に拡張する位置決め部材を、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、または15個含むことが好ましい。
【0053】
半径方向に延びるワイヤ構造である位置決め部材は、支柱またはV字型またはその他の独立形成された形状であることが好ましいが、位置決め部材の数は、ステントフレームのサイズ、心臓の寸法、特に下大静脈と右心房の寸法に依存し、これらの状況を加味して治療担当外科医により評価することができる。
【0054】
本発明の補綴デバイスの一実施形態において、位置決め部材はステントフレームの長さに対してステントフレームから60~150度、好ましくは90~120度の角度で、外側に延びる。
【0055】
たとえば支柱やV字型ワイヤ構造などの外側に延びる位置決め部材の直径および角度には、治療を受ける個々の心臓の解剖学的寸法および要件を反映させることができる。具体的な好適な直径および角度は、これらの状況を加味して外科医により決定できる。
【0056】
支柱の長さは、約5mm~約20mm、すなわち好ましくは約5~15mm、そして好ましくは約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、約10mm、約11mm、約12mm、約13mm、約14mm、約15mm、約16mm、約17mm、約18mm、約19mm、または約20mmとすることができる。
【0057】
位置決め部材を覆うカバー部材によって、ステントフレームの長手軸から一定の角度で突出する外周リム要素がステントフレーム上に形成されている/存在している。
【0058】
本発明の補綴デバイスの一実施形態において、複数の位置決め部材が、半径方向に互いに非対称に延びている。
【0059】
位置決め部材は、(ステントフレームに対し同じ長さと角度で)対称すなわち均一に延びていてもよいが、特定の実施形態では、ステントフレームから非対称に延びた位置決め部材を、ステントフレームから様々な角度および/または様々な長さで延びるように設けると、利点が得られる場合がある。また、これに関し、位置決め部材の配置における特定の状況は、特定の解剖学的要件に依存する。位置決め部材の配置を非対称にすることによって、心臓の解剖学的構造にさらに特化して適合させることができる。
【0060】
本発明の補綴デバイスの一実施形態において、ステントフレームの外部領域は、補綴材料により少なくとも部分的に覆われている。
【0061】
本実施形態では、補綴デバイス内への血流の案内が補助され、弁周囲漏出をさらに防ぐことができる。
【0062】
本発明の補綴デバイスの一実施形態によると、ステントフレームは、その外部領域の近位部分のみ補綴材料により覆われている。
【0063】
この実施形態では、ステントフレームの遠位部分が補綴材料で覆われていないことから、この遠位部分が右心房に配置された際に、右心房内で血液が自由に流れることができるという利点がある。
【0064】
本発明の補綴デバイスの一実施形態において、ステントフレームの外部領域は、補綴材料により少なくとも部分的に覆われており、該補綴材料で覆われた部分の高さが、ステントフレームの外周において様々に異なっている。
【0065】
この実施形態では、ステントフレームが補綴材料により様々な高さで覆われていることから、患者の心臓の解剖学的構造に特化した個々の状況を考慮に入れることができるという利点がある。
【0066】
本発明の補綴デバイスの一実施形態において、位置決め部材は2つの面を有し、一方の面が、遠位部分の方向に向いており、もう一方の面が近位部分の方向に向いており、位置決め部材を覆うカバー部材が位置決め部材の2つの面の一方または両方に取り付けられている。
【0067】
よって、たとえば、ステントフレームから延びるV字型ワイヤ構造などであってもよい位置決め部材は、2つの「側面」または「面」を有し、本実施例では2つの「側面」または「面」のうち一方が覆われているか、またはその両方が覆われている。本実施形態では、補綴デバイスを通過する漏れをよりよく防ぐことができる。
【0068】
本発明の補綴デバイスの別の実施形態では、位置決め部材を覆うカバー部材は、生物由来材料および合成材料から選択される材料を含むか、またはこれらから選択される材料からなり、好ましくは、これらの材料は、ヒトまたは動物の心膜組織、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMPE)、およびこれらの混合物から選択される。
【0069】
本発明の補綴デバイスの一実施形態において、補綴デバイスは、放射線不透過マーカーを含み、好ましくは、放射線不透過マーカーが、ステントフレーム上またはカバー部材上に非対称に配置されている。
【0070】
放射線不透過マーカーによって、光学的手法で制御しながら、治療される心臓の所望の位置に補綴デバイスを配置することができる。
【0071】
本発明の補綴デバイスは、外科的に移植することが可能であり、また経カテーテル法で送達することもできる。経カテーテル法で送達する場合、本発明の補綴デバイスは、第一の工程で、適当な配置用カテーテルに装填され、この配置用カテーテルの抜去可能なシースまたはチューブによって圧縮される。このような配置の補綴デバイス、すなわち圧縮されて配置用カテーテルに装填された補綴デバイスは、三尖弁の置換または補助を必要とする患者の心臓に挿入される。たとえば、配置用カテーテルに装填した補綴デバイスを、頚静脈を経由して上大静脈に導入し、右心房内を通って下大静脈に進めた後、ステントフレームの遠位部分を下大静脈内に配置し、この遠位部分を下大静脈から右心房へと突出させる。この際、位置決め部材によって補綴デバイス本体の遠位部分を右心房内に位置決め/固定し、補綴デバイス本体の近位部分を下大静脈内に位置決め/固定する。別の方法として、本発明の補綴デバイスが圧縮状態で装填された配置用カテーテルを、大腿静脈を経由して下大静脈に導入し、右心房へと進めた後、補綴デバイス本体の遠位部分を右心房内に配置し、補綴デバイス本体の近位部分を下大静脈に配置することもできる。放射線不透過マーカーまたはその他の可視化要素によって正確な位置決めを監視することができる。
【0072】
正確に留置されたら、シースまたはその他の圧縮手段を抜去することによって本発明の補綴デバイスを段階的に解放させ、この動作によって、位置決めアセンブリの位置決め部材を拡張させて、下大静脈と右心房の間の所望の位置で該補綴デバイスを固定することができる。
【0073】
圧縮手段が抜去されて補綴デバイスが解放されるとすぐに、ステントフレームに取り付けられた弁要素が作動することができる。
【0074】
本発明のさらなる利点および特徴について、以下の記述および添付図において説明する。
【0075】
前述の特徴および以下にさらに説明する特徴は、それぞれ記載の特定の組合せだけでなく、その他の組合せやそれら単独でも本発明の範囲を逸脱することなく使用できることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0076】
本発明の前述の特徴および以下にさらに説明する特徴を図に示す。
【0077】
【0078】
【
図2】
図1の心臓内の正確な位置に留置された本発明によるデバイスの例示的な実施形態の概略図であり、(A)は透視図を示し、(B)は側面図を示し、(C)は上面図を示す。
【0079】
【
図3】本発明の補綴デバイスの第1の実施形態を、心臓に留置せずに拡張した状態/形態で示した詳細な拡大概略図を示す。(A)は第一側面斜視図を示し、(B)は上からの図を示し、(C)は非対称の弁葉設計を示す。
【0080】
【
図4】本発明の補綴デバイスの第2の実施形態の概略図を示し、第2の実施形態では、短い遠位部分およびV字型設計の位置決めアセンブリの位置決め部材を有し、心臓に留置せずに拡張した状態/形態で示した拡大詳細図を示す。(A)は第一側面斜視図を示し、(B)は上からの図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0081】
図1は、右心房54と、右心室55と、左心房56と、左心室57とを含む、ヒトの心臓50を示す。また、
図1は、右心房54を経由して心臓50に入る上大静脈52の一部および下大静脈53の一部を示す。
【0082】
上大静脈52は、右心房54の上後部に開口して上半身からの血液を戻し、その開口部52aは下前方を向いている。開口部52aは弁を有さない。
【0083】
上大静脈52より一般に大きい直径を有する下大静脈53は、右心房54の最下部に開口して下半身からの血液を戻す。その開口部53aは上後方を向いており、遺残弁である下大静脈弁(ユースタキオ弁、図示せず)によってガードされている。
【0084】
右心室55は、三角形状であり、右心房54から心臓50の尖端59近くまで広がっている。
【0085】
右房室口(
図1に図示せず)は、右心房54と右心室55とを連通する長円形の大きな開口であり、三尖弁60によってガードされている。
【0086】
肺動脈62の開口部61は、円形状であり、房室口の左上部に位置する。開口部61は、肺動脈弁63によってガードされている。
【0087】
三尖弁60は、3つの略三角形の弁尖(cusp(カスプ)/segment/弁葉)64、すなわち前尖、中隔尖、後尖から成る。これらの底部は、房室口を囲む線維輪(
図1に図示せず)につながっており、互いに連結して連続した環状の薄膜を形成している。また、これらの心房側の表面は右心房54から流入する血流の方向に向いており、心室側の表面は右心室55の壁面の方向に向いている。該弁尖の尖端および縁は、腱索(
図1に図示せず)につながっている。
【0088】
前述のように、三尖弁の機能は、右心房54への血液の逆流を防ぐことである。矢印70および矢印71は、右心房54への正常な血流を示す。
【0089】
左心房56は、右心房54より小さい。左心室57は、右心室55より長く、より円錐形に近い。左房室口(僧帽弁口、
図1に図示せず)は、大動脈口65の左側に位置しており、二尖弁すなわち僧帽弁66でガードされている。
【0090】
大動脈口65は、円形状の開口であり、房室口の右前部にある。その開口部は、3つの大動脈弁67によってガードされている。参照番号68は、大動脈を示す。
【0091】
三尖弁60において、三尖弁逆流症は珍しいことではなく、三尖弁60が適切に閉じないために、右心室55が収縮すると同時に、右心室55から右心房54へ血液が逆流することを意味する。
【0092】
本発明によるデバイスにより、三尖弁逆流症は治療される。本発明によるデバイスの例示的な実施形態における配置を、概略的に
図2に示す。
【0093】
図2は、
図1に示した心臓の略図を示す。わかりやすくするために、
図2では
図1の参照番号の一部のみを示しているが、
図1に示したものと同様のヒトの心臓50の特徴を示している。
【0094】
図2から明らかであるように、本発明による例示的なデバイス10は、拡張状態でヒトの心臓50に留置される。このようなデバイスの詳細を
図3に示す。以下、
図2および
図3の両方を参照して説明する。わかりやすくするために、
図2では、
図3に示すデバイスの特徴の一部のみを示しているが、特徴は同じである。
【0095】
補綴デバイス10は、長さIと内部領域11と外部領域12とを有する拡張可能なステントフレーム16を含む。ステントフレーム16は、下大静脈53に留置されるように構成されている近位部分17(
図2A参照)と、下大静脈53から右心房54に突出するように構成されている遠位部分18(
図2A参照)とを含む。
【0096】
補綴デバイスは、ステントフレーム16の遠位部分18にて取り付けられている弁要素30をさらに含む。
【0097】
図2Aおよび
図3から分かるように、ステントフレーム16に結合され、ステントフレーム16の外部領域12から半径方向外側に延びた環状位置決めアセンブリ20が設けられている。環状位置決めアセンブリは、半径方向外側に拡張する複数の位置決め部材21および位置決め部材21を覆うカバー部材23を含む。環状位置決めアセンブリ20は、ステントフレーム16の遠位部分18と近位部分17の間に設けられ、ステントフレーム16の遠位部分18を右心房54に位置決めするように構成されており、そして近位部分17を下大静脈53に位置決めするように構成されている。
【0098】
図3に示す例では、位置決めアセンブリ20の、半径方向外側に拡張する位置決め部材21は、支柱21aの形態のステントワイヤ部材である。あるいは、位置決め部材21は、V字型ワイヤ部分であるステントワイヤ部材であり得る。支柱21aまたはV字型ワイヤ部分であるステントワイヤ部材/位置決め部材21の数は、移植される補綴デバイス10および治療を受ける患者の心臓部位の寸法と特性といった特定の状況にも依存する可能性があり、好ましくは、3~15個の位置決め部材21が使用される。
【0099】
また、たとえば
図3から明らかであるように、位置決め部材21は、ステントフレーム16から外側に、角度αをつけて延びており、
図3に示す例では、この角度αは、約90度であり、約60~150度であってもよく、この範囲には約60度および約150度も含まれ、好ましくは約80~約120度であり、この範囲には約80度および約120度も含まれ、好ましくは約90度である。
【0100】
図3に示す例では、各位置決め部材21は、ステントフレーム16からそれぞれわずかに異なる角度で外側に延びており、この設計を、本明細書中では、非対称と呼ぶ。換言すると、位置決め部材21のうちのいくつかの支柱21aは約90度の角度で外側に延びており、前記位置決め部材が属する位置決めアセンブリ20のその他の位置決め部材21の支柱21aの一部は約80度の角度で延びており、その他の支柱21aは、約100度で延びていてもよい。
【0101】
図3から明らかなように、位置決め部材21がカバー部材23で覆われていることから、外周リム状要素すなわち位置決めアセンブリが形成されており、この位置決めアセンブリは、補綴デバイス10の長手軸に対して約90度の角度で補綴デバイス10の外周から突出している。
【0102】
図3に示す実施形態では、ステントフレーム16は相互に接続されたステントワイヤで形成されたステントフレームであり、この相互接続により略ダイヤモンド形状のステントフレームセル35が形成されており、これによって、互いに隣接したダイヤモンド形状セルが周方向に並んだパターンが形成されている。遠位部分18の最端部において、末端に位置するダイヤモンド形状セルの先端は、拘束されることなく遠位方向に向いており、これは、末端に位置するダイヤモンド形状セルの先端が、隣接するセルと接続されていないことを意味している。
図3に示す実施形態の近位部分17の最端部では、端から3列目までのダイヤモンド形状セルが、ステントフレームの外周を周方向に完全には囲んでいないことから、セルが存在しない空間が設けられ、これによって、ステントフレームの外周に沿った3箇所において、ダイヤモンド形状セル35の境界により略V字型の切欠き36が形成されている。近位部分の最端の3つの位置では、T字型の連結用支柱37が設けられている。
【0103】
また、
図3から分かるように、弁要素30は2つの弁葉31、弁スカート32および複数の弁交連点33を含む。
図3に示す実施形態では、弁要素30は、1つの剛性弁葉と、1つの可撓性弁葉からなる、非対称の弁葉設計を有する。
【0104】
また、
図3から分かるように、弁要素30は、遠位部分18においてステントフレーム16の内部領域11に取り付けられている。
【0105】
なお、本発明の一実施形態によれば、ステントフレームは、その外部領域12が補綴材料で少なくとも部分的に覆われていてもよく、外部領域12の近位部分17のみが補綴材料で覆われていることが好ましい。
【0106】
図4は、本発明のデバイスの別の実施形態を示し、補綴デバイスを参照番号100として示す。本実施例および
図4では、補綴デバイス10と同じ補綴デバイス100の特徴は、補綴デバイス10と同じ参照番号で示す。
【0107】
図3の補綴デバイスと同様に、
図4に示す補綴デバイス100は、長さIと内部領域11と外部領域12とを有する拡張可能なステントフレーム16を含む。ステントフレーム16は、下大静脈53に留置されるように構成されている近位部分17(
図2A参照)および下大静脈53から右心房54に突出するように構成されている遠位部分18(
図2A参照)を含み、遠位部分18の長さは、
図3に示す実施形態の遠位部分18より短い。
【0108】
ステントフレーム16は、その遠位部分18の最端部にステントクラウン構成を含み、このステントクラウン構成が一定の角度で外側に曲げられることによって、半径方向外側に拡張する複数の位置決め部材21を含む環状位置決めアセンブリが形成され、この位置決め部材21は、ステントフレーム16の外部領域から半径方向外側に延びている。
【0109】
図4に示す実施形態では、位置決め部材21、すなわち外側に向かって延びるように結合されたステント構成は、カバー部材により覆われていないが、本発明の別の実施形態によると、位置決め部材21、すなわちV字型ワイヤ部分21bをカバー部材で覆うことができる。
【0110】
補綴デバイス100は、ステントフレーム16に取り付けられている弁要素30をさらに含み、弁要素30は、剛性弁葉と可撓性弁葉31とを含み、ステントフレームの内部領域11内に取り付けられている。弁要素30は、弁葉31の一部が遠位部分18の端を超えて延びるように、ステントフレーム16に取り付けられている。このような構成は、外側に向かって延びるように結合されたステントクラウン(すなわちV字型の位置決め部材21b)を超えて延びる1つ以上のステントワイヤ伸長部38に、弁要素30の弁葉31を取り付けることにより達成される。
図4から分かるように、弁要素30は、弁スカート32および複数の弁交連点33をさらに含み、この複数の弁交連点33を介して、弁要素30がステントワイヤ伸長部に取り付けられている。
図3に示す実施形態では、弁要素30は、非対称の弁葉設計を有する。
【0111】
図4に示す例では、位置決めアセンブリ20において半径方向外側に拡張するV字型の位置決め部材、すなわちV字型ステントワイヤ部分21bは、ステントフレーム16の端から1列目の部分、すなわち「ステント(フレーム)クラウン」である。V字型ワイヤ部分である位置決め部材21の数は、移植される補綴デバイス100および治療を受ける患者の心臓部位の寸法と特性といった特定の状況に依存する可能性があり、好ましくは、3~15個の位置決め部材21が使用される。
図4に示す実施形態では、11個の位置決め部材21が設けられている。
【0112】
また、
図4から明らかであるように、位置決め部材21は、ステントフレーム16から外側に、角度αをつけて延びており、
図4Aに示す例では、この角度αは、約90度であり、概して約60~150度であってもよく、この範囲には約60度および約150度も含まれ、好ましくは約80~約120度であり、この範囲には約80度および約120度も含まれ、好ましくは約90度である。
【0113】
また、本実施形態では、各位置決め部材21は、ステントフレーム16からそれぞれわずかに異なる角度で外側に延びており、この設計を、本明細書中では、非対称と呼ぶ。換言すると、位置決め部材21のうちのいくつかのV字型ワイヤ部分21bは、約90度の角度で外側に延びており、該位置決め部材が属する位置決めアセンブリ20のうちのその他のV字型ワイヤ部分の一部は約80度の角度で延びており、その他の支柱21aは、約100度で延びていてもよい。
【0114】
また、
図4に示す実施形態では、ステントフレーム16は相互に接続されたステントワイヤで形成されたステントフレームであり、この相互接続により略ダイヤモンド形状のステントフレームセル35が形成されており、これによって、互いに隣接したダイヤモンド形状セル35が周方向に並んだパターンが形成されている。遠位部分18の最端部にはステントクラウンが設けられ、このステントクラウンは上述の通り、外側に曲げられている。
【0115】
図4に示す実施形態では、近位部分17の端部に向かって/近位部分17の方向に向かって、端から4列目までのダイヤモンド形状セルが、ステントフレームの外周を周方向に完全には囲んでいないことから、セルが存在しない空間が設けられ、これによって、ステントフレームの外周に沿った3箇所において、ダイヤモンド形状セル35の境界により略V字型の切欠き36が形成されている。近位部分の最端の3つの位置では、T字型の連結支柱37が設けられている。
【0116】
なお、本発明の一実施形態によれば、本実施形態のステントフレーム16は、その外部領域12が補綴材料で少なくとも部分的に覆われていてもよく、外部領域12の近位部分17のみ覆われていることが好ましい。
【国際調査報告】