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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】高分子膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240822BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517096
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2022076211
(87)【国際公開番号】W WO2023046744
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】21198126.1
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ベッカース ルカス ヨハネス アンナ マリア
(72)【発明者】
【氏名】サンダース レナトゥス ヘンドリクス マリア
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA21
4B029BB11
4B029BB15
4B029CC02
4B029CC11
(57)【要約】
細胞培養装置に適した高分子膜206の製造方法100が提供される。方法は、第1の表面201を有する第1のポリマー200を提供するステップ102と、第1の表面上に溶液204を提供するステップ104とを含む。溶液は第2のポリマー、界面活性剤、および溶媒を含む。界面活性剤は、それぞれが極性部分を有する界面活性剤分子を含む。方法は、溶液が第1の表面上にある間に溶媒を蒸発させて高分子膜を提供するステップ106をさらに含む。高分子膜は、第1の表面と接触する第2の表面207を有する。第1のポリマーの少なくとも第1の表面は、極性部分に対して第2のポリマーよりも高い親和性を有する。さらに、高分子膜自体、そのような高分子膜を含む細胞培養装置などの流体装置、および1つ以上の高分子膜で細胞をカプセル化するステップを含む細胞培養方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養装置に適した高分子膜を製造する方法であって、前記方法は、
第1のポリマーの第1の表面上に、
それぞれが極性部分を有する界面活性剤分子を含む界面活性剤と、
第2のポリマーとを提供するステップと、
前記界面活性剤分子の少なくとも一部および前記第2のポリマーを含むように前記高分子膜を形成するステップとを含み、
前記高分子膜は、前記第1の表面と接触する第2の表面を有し、前記第1のポリマー、前記第2のポリマー、および前記界面活性剤分子は、前記極性部分が、前記第1の表面に対して前記第2のポリマーよりも高い親和性を有するように選択される、方法。
【請求項2】
前記第1のポリマーの前記第1の表面上に、提供するステップは、
前記界面活性剤分子、および溶媒または分散剤を含む第1の組成物を前記第1の表面に提供し、前記第1の組成物が前記第1の表面上に存在している間に前記溶媒または分散剤を蒸発させることで、前記界面活性剤分子を前記第1の表面に提供するステップと、
その後、前記第2のポリマー、および溶媒または分散剤を含む第2の組成物を前記第1の表面に提供するステップ、及び、前記高分子膜を提供するために前記第2の組成物が前記第1の表面上に存在している間に前記溶媒または分散剤を蒸発させるステップとを含み、
前記溶媒または分散剤は、前記第1の表面に既に提供されている界面活性剤分子を溶解または分散させることができない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のポリマーの第1の表面上に提供するステップは、
前記界面活性剤分子と、前記第2のポリマーおよび/または第2のポリマーを形成するための前駆体と、前記界面活性剤分子、前記第2のポリマー、および/または前記第2のポリマーを形成するための前記前駆体を溶解および/もしくは分散させるための溶媒または分散剤とを含む組成物を前記第1の表面に提供するステップと、
前記高分子膜を提供するために前記組成物が前記第1の表面上に存在している間に前記溶媒または分散剤を蒸発させるステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記高分子膜の前記第2の表面と前記第1のポリマーの前記第1の表面とを分離するステップを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分離するステップは、前記高分子膜の溶解性が低いまたは前記高分子膜が不溶である溶媒に、前記第1のポリマーを溶解するステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のポリマーがエラストマーを含み、かつ/または70以下のショアA硬度を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のポリマーが、ポリジエン、ポリシロキサン、およびポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含み、任意選択で、前記第2のポリマーは、ポリジエンおよびポリシロキサンからなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のポリマーが、ポリオール、ポリエチレングリコール、およびポリウレタンからなる群から選択されるポリマーを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリオールがポリビニルアルコールを含むか、またはポリビニルアルコールからなる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒が、炭化水素溶媒、アルコール溶媒、およびケトン溶媒からなる群から選択される1つ以上を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記極性部分が、ブレンステッド・ローリーの酸/塩基の群から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記極性部分が、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、およびアミン基からなる群から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記界面活性剤分子は、カルボン酸基、アミン基、およびアミド基からなる群から選択される極性部分をそれぞれ含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記界面活性剤分子は、脂肪酸からなる群から選択され、前記脂肪酸のカルボン酸基は前記極性部分を画定する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第2のポリマーと、前記界面活性剤分子の少なくとも一部とを架橋するステップをさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記界面活性剤分子が、前記極性部分とは異なる1つ以上の反応性基を含み、前記第2のポリマーが1つ以上のさらなる反応性基を含み、前記1つ以上の反応性基および前記1つ以上のさらなる反応性基は、互いに反応して、前記第2のポリマーと前記界面活性剤分子の少なくとも一部とを架橋するように選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2のポリマーは、不飽和炭素-炭素結合および/またはヒドリド官能基を含み、前記界面活性剤分子の前記少なくとも一部は、それぞれ不飽和炭素-炭素結合を含み、前記架橋するステップは、前記界面活性剤分子の前記不飽和炭素-炭素結合と、前記第2のポリマーの前記不飽和炭素-炭素結合および/またはヒドリド官能基との間の反応を介して起こる、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2のポリマーが、ポリジエン、ポリジエンスチレン、およびポリシロキサンからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記第2のポリマーが、前記高分子膜の形成後、100マイクロメートル未満、好ましくは50マイクロメートル未満、より好ましくは20マイクロメートル未満の厚さを有するように提供される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記高分子膜に1つ以上の開口部および/または溝を形成するステップを含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
細胞培養装置のボディの1つ以上のキャビティ内に1つ以上の高分子膜を取り付けるステップを含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
細胞培養タンパク質で前記第2の表面を官能化するステップを含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載の方法から得られる高分子膜。
【請求項24】
請求項23に記載の高分子膜を1つ以上備えた細胞培養装置。
【請求項25】
高分子膜およびさらなる高分子膜を備えた細胞培養装置であって、前記高分子膜は、さらなるポリマーのさらなる表面に対向する表面を有し、前記高分子膜のうちの少なくとも1つは、対応する前記表面において極性部分をそれぞれが有する界面活性剤分子を含む界面活性剤を含む、細胞培養装置。
【請求項26】
前記高分子膜を少なくとも1つ用いて、細胞を請求項24または25に記載の細胞培養装置内に固定化するステップを含む、細胞培養方法。
【請求項27】
細胞培養装置に適した高分子膜を製造する方法であって、前記高分子膜は、ポリブタジエンおよびポリシロキサンからなる群から選択されるポリマーを含み、前記高分子膜の厚さは100マイクロメートル未満であり、前記方法は、
フェムト秒またはピコ秒レーザによるレーザアブレーションを使用して、前記高分子膜に1つ以上の開口部および/または溝を形成するステップを含む、方法。
【請求項28】
前記開口部および/または溝が、前記高分子膜の平面内で測定して50マイクロメートル未満、好ましくは20マイクロメートル未満の範囲内の少なくとも1つの開口寸法を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記フェムト秒またはピコ秒レーザの波長が400~1200nmである、請求項27または28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高分子膜、特に細胞培養装置に適した高分子膜の製造方法に関する。
【0002】
本開示はまた、細胞培養装置用の高分子膜に関する。
【0003】
本開示はさらに、そのような高分子膜を含む、例えば流体装置などの細胞培養装置に関する。
【0004】
本開示はさらに、1つ以上のそのような高分子膜で細胞をカプセル化することを含む細胞培養方法を提供する。
【背景技術】
【0005】
哺乳類の細胞または組織のin vitro試験は、調査対象の哺乳類材料に関する臨床的に重要な情報を得る重要な技術である。例えば、生検された哺乳類細胞または組織材料をそのような試験に供することで、そのような哺乳類材料の異常または疾患を判定するか、または罹患哺乳類材料に薬剤、例えば実験薬を投与して、そのような投与に対する罹患哺乳類材料の反応がモニタリングされ得る。例えば、この手法はオンコロジー処置で頻繁に使用される。これは、薬物毒性などの数多くの理由で望ましくない可能性がある潜在的に有効な様々な薬剤を個人に投与することなく、個人の疾患を効果的に治療する方法について重要な洞察を提供する可能性がある。さらに、確立された満足のいく薬物治療法がまだ利用できない既存の疾患に対する実験薬の有効性をこの方法で試験することもできる。このようなin vitro試験を活用するよく知られた理由が他にも数多く存在する。
【0006】
このようなin vitro試験への一般的なアプローチは、生体機能チップ(organ-on-chip)とも呼ばれる流体装置内に哺乳類材料を固定することである。このようなアプローチでは、哺乳類材料は通常、流体装置の2つの流体チャネルを分離する膜上に固定される。第1のチャネルは哺乳類材料を供給するために使用され、第2のチャネルは、ある薬物治療法などの関心のある化合物または化学組成を哺乳類材料に投与することで、例えば、上記したように薬剤の有効性および/または毒性を試験するために使用される。評価のために、例えば、関心のある化合物または化学組成の投与への哺乳類材料の反応を評価するために、流体装置をダイシングまたはスライスすることで、哺乳類材料を含む膜のスライスが得られるように、流体装置、または少なくともその膜はエラストマーで作られていてもよい。
【0007】
スフェロイド/オルガノイドおよび生検材料などの細胞サンプルは、ウェルセルプレート内で研究されることが多い。目視検査の下、流体はピペットで注入および除去される。スフェロイド/オルガノイドおよび生検材料はウェル内に留まるように意図されている。生検材料を膜上に配置する流体装置の使用は、最先端の技術である。流体処理プロトコルは現在開発中である。細胞栄養物および/または実験薬などを含む流体はこのような膜を通過するため、スフェロイド/オルガノイドを運び去るおそれがある。
【0008】
このようなin vitro試験におけるもう一つの課題は、細胞または組織などの哺乳類材料が流体装置の膜上で安定化され、正常に成長し、試験手順の間、生存することを保証することである。これは、実験がかなり長くなる可能性があるオンコロジー処置では特に困難である。この目的を達成するために、フィブロネクチンなどの生体適合性材料を使用して哺乳類材料を安定化することができる。これにより、天然組織の環境を模倣した化学環境を細胞に提供することで、哺乳類細胞が増殖し続けることが保証される。
【0009】
膜用の軟質ゴムまたはポリマー材料は比較的無極性かつ疎水性であり、一般に、タンパク質に付着または結合する官能基を有していない。細胞培養のために流体装置に軟質ゴム基板または膜を実装することは、一般に困難であり、高価であることがわかっている。コーティングまたは細胞外マトリックスも、流体装置内であまりに簡単に洗い流されてしまうことがわかっている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は特許請求の範囲によって定められる。
【0011】
本明細書の開示の一態様に係る実施例によれば、細胞培養装置に適した高分子膜を製造する方法が提供される。方法は、第1のポリマーの第1の表面上に、それぞれが極性部分を有する界面活性剤分子を含む界面活性剤と、第2のポリマーとを提供するステップを含む。方法はさらに、界面活性剤分子の少なくとも一部および第2のポリマーを含むように高分子膜を形成するステップであって、高分子膜は、第1の表面と接触する第2の表面(207)を有し、第1のポリマー、第2のポリマー、および界面活性剤分子は、極性部分が、第1の表面に対して第2のポリマーよりも高い親和性を有するように選択される、形成するステップを含む。
【0012】
界面活性剤分子は極性部分を含み、極性部分は、通常、より極性が低いまたは非極性の部分に接続される。すなわち、極性部分は、より極性が低いまたは非極性の部分よりも極性が高い。極性部分は親水性部分で、非極性部分は疎水性部分であってもよく、これは、親水性部分が疎水性部分よりも親水性であることを意味する。したがって、そのような界面活性剤分子は両親媒性分子を含むか、または両親媒性分子からなり得る。
【0013】
第1のポリマーの少なくとも第1の表面、一部の例では第1のポリマー全体が極性部分に対して第2のポリマーよりも高い親和性を有することによって、高分子膜の第2の表面における界面活性剤分子の大半は、極性部分が第2の表面で利用できるように配向され得る。極性部分により、高分子膜の形成前に、界面活性剤分子が第1の表面に集合することができる。
【0014】
第2のポリマーよりも高い、第1のポリマー、または第1のポリマーの少なくとも第1の表面の極性部分に対する親和性は、少なくとも第1の表面における極性および/または親水性が、第2のポリマーの極性および/または親水性よりも高い第1のポリマーを選択することによって達成することができる。代わりに、または追加で、第1のポリマーは、第2のポリマーよりも強い分子間相互作用(例えば、水素結合)を第1の表面の極性部分と形成するように選択され得る。したがって、界面活性剤分子の極性部分以外の部分の付着力は、第1のポリマーに対する親和性よりも第2のポリマーに対する親和性が高いことが好ましい。
【0015】
このようにして界面活性剤分子の極性部分が高分子膜の第2の表面で利用可能になることによって、第2の表面の表面特性は、例えば、フィブロネクチンなどの細胞培養タンパク質が結合するのに特に適し得る。さらに、または代わりに、第2の表面は、培養タンパク質を提供することなく、細胞培養に直接適していてもよい。細胞培養用のそのような官能化または非官能化表面の有用性は、例えば、WO2019015988、WO20200148427、およびWO2021058657に記載されており、これらはすべて、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0016】
さらに、極性部分の上記配向を達成するために第1のポリマー(例えば、箔または他のかたまりの形態)が使用されるため、例えば、第1のポリマーと高分子膜とを互いに剥すことによって、および/または高分子膜の溶解性が低いもしくは高分子膜が不溶である溶媒に第1のポリマーを溶解することで高分子膜を第1のポリマーから分離することによって、高分子膜を第1のポリマーから比較的簡単に取り外す、除去する、または分離することができる。これは、表面に利用可能な極性部分を有する高分子膜を製造するより好都合な方法を提供する。
【0017】
さらに、この方法により、壊れやすく比較的薄い高分子膜(例えば、厚さが100マイクロメートル未満)を、崩壊することなく効率的に製造することが可能になる。特に、第1のポリマーを溶解を利用して除去することは、剥離中に比較的高い引っ張り力を加える必要がなくなるため、有益である。
【0018】
高分子膜の形成中、界面活性剤分子は、極性部分とは異なる部分によって、第1の表面に対してよりも高分子膜に対してより強く付着するようにされる。したがって、高分子膜からの第1のポリマーの取り外しまたは分離中に、少なくとも一部の界面活性剤分子が第2の表面において高分子膜に付着したままとなり、本明細書に記載される所望の効果が得られる。この点における接着は、非共有結合および/または共有結合を介して起こり得るが、本明細書でさらに説明するように、後者が好ましい。第1および第2のポリマーは、高分子膜が形成された後、第2のポリマーおよび/または高分子膜が第1のポリマーに共有結合しないように選択される。
【0019】
界面活性剤分子は、例えば一連の塗布ステップにおいて、第2のポリマーが提供される前に第1の表面に提供されてもよい。あるいは、それらは同時に、例えば組成物中の混合物として提供されてもよい。これには、任意の適切な方法を使用することができる。例えば、溶媒および/または分散剤を使用して、それらを第1の表面に提供することができる。この目的のために、界面活性剤は、界面活性剤分子を溶解または分散させるための溶媒または分散剤(それぞれ、純粋な溶媒またはいくつかの溶媒の混合物であり得る)を含んでもよい。界面活性剤は、スピンコートもしくはスプレーコート、または他の方法で第1の表面に提供され得る。界面活性剤が第1の表面に提供された後、溶媒または分散剤が第1の表面から蒸発または除去されることが好ましい。第2のポリマーは、第2のポリマーを溶解または分散させるための溶媒または分散剤を使用して第1の表面に提供され得る。溶媒または分散剤は、界面活性剤のそれと同じであってもよく、異なっていてもよい。界面活性剤分子および第2のポリマーが第1の表面に連続して提供される場合、第2のポリマー溶媒は、先に提供された界面活性剤分子を実質的に溶解または分散させないように有利に選択され得る。これにより、界面活性剤分子は、高分子膜にわたって広がって高分子膜の第2の表面から離れることなく、第2の表面の近くに実質的に位置/集合したままとなる。しかし、そのような効果が必要ない場合、または全体にわたって広がることが必要な場合は、そのような溶媒の区別は必要ない。界面活性剤および第2のポリマーの溶媒および/または分散液は同じであってもよい。その場合、方法は、界面活性剤、第2のポリマー、および溶媒または分散剤を含む組成物を提供することを含んでもよい。後者は、界面活性剤分子の大部分を高分子膜の第2の表面に、または界面活性剤分子を第2の表面のみに集合させるのではなく、界面活性剤分子の一部を高分子膜全体に広がらせることが望ましい場合に有利である可能性がある。さらに、工程数が削減され、製造効率が向上する。
【0020】
高分子膜の形成は、第2のポリマー用の溶媒または分散剤を蒸発させることを含んでもよく、および/または界面活性剤分子用の溶媒または分散剤を蒸発させることを含んでもよい。一例では、方法は、第1のポリマーの第1の表面上に溶液を提供するステップであって、溶液は、第2のポリマー、界面活性剤、および溶媒を含み、界面活性剤は、極性部分をそれぞれが有する界面活性剤分子を含む、提供するステップと、高分子膜を提供するために、溶液または分散液が第1の表面上にある間に溶媒を蒸発させるステップとを含む。
【0021】
界面活性剤は複数の種類の界面活性剤分子を含んでもよく、界面活性剤分子は、異なる種類の極性部分および/または異なる種類の非極性部分を有し得る。
【0022】
一部の実施形態では、第2のポリマーはエラストマーを含む。代わりに、または追加で、第2のポリマーのショアA硬度は70以下、より好ましくは60以下、最も好ましくは20以下である。このような第2のポリマーの変形、例えば弾性変形は、高分子膜が細胞培養装置内で使用される場合に特に有利であり得る。なぜなら、第2のポリマーは、細胞培養装置内に流体を密封するために、基板および/またはカバープレートに押し当てられて変形(例えば、弾性変形)可能であるからである。
【0023】
高分子膜は、その端部の一部で高分子膜を少なくとも部分的に支持するためのフレームを有し得る。このようなフレームは金属またはプラスチック製であってもよい。フレームは、膜を壊すことなく取り扱うこと、および/または細胞培養装置への膜の取り付けを容易にする可能性がある。
【0024】
好ましくは、第2のポリマーは、ポリブタジエンなどのポリジエン、ポリブタジエンスチレン、ポリイソプレン、またはブチルゴムを含む(からなる)。ポリブタジエンは、その化学的および機械的特性のために細胞培養装置での使用に特に適しているため、特筆に値する。代わりに、またはさらに、第2のポリマーはポリシロキサンを含むか、またはポリシロキサンからなる。これらの種類の第2のポリマーは、典型的にはエラストマーを提供し得る。また、これらは通常、透明であってもよく、これは細胞培養膜または装置に有用である。
【0025】
さらに、界面活性剤分子、例えばその疎水性部分が不飽和炭素-炭素結合を含む非限定的な例では、ポリブタジエンに含まれる不飽和炭素-炭素結合は、界面活性剤分子がポリブタジエンの第2のポリマーにグラフト重合、例えば共有結合し得る部位を提供し得る。
【0026】
より一般的には、方法は、第2のポリマーと界面活性剤分子の少なくとも一部とを架橋するステップをさらに含むことができる。界面活性剤分子は、そのような架橋のために、極性部分とは異なる1つ以上の反応性基を有することが好ましい。好ましくは、そのような1つ以上の反応性基は、第1のポリマーと反応しないように選択される。さらに、第2のポリマーは、1つ以上の反応性基と反応して架橋を形成するための1つ以上のさらなる反応性基を含む。好ましくは、そのような基は共有結合を形成してそのような架橋を形成する。
【0027】
第2のポリマーは、例えば、反応性基とさらなる反応性基との間の反応を触媒するための触媒など、架橋を補助するための添加剤を含むことができる。以下に例を説明する。
【0028】
第2のポリマーは、例えば、1つ以上の不飽和炭素-炭素結合を含み得る。好ましくは、そのような結合は、アルケニル結合およびアルキニル結合からなる群から選択される。より好ましくは、そのような結合はアルケニル結合からなる群から選択される。好ましくは、炭素-炭素二重結合は他の二重結合と共役しない。好ましくは、1つ以上の二重結合は、少なくとも1つの末端様の結合を含む。
【0029】
第2のポリマーは、例えば、不飽和炭素‐炭素結合、例えば、(例えば、ポリブタジエンの場合でのように)ビニル官能基および/またはヒドリド官能基を含んでもよく、界面活性剤分子の少なくとも一部はそれぞれ、(例えば、不飽和脂肪酸などの上記不飽和界面活性剤の場合でのように)疎水性部分に不飽和炭素‐炭素結合を含む。このような非限定的な例において、架橋は、界面活性剤の不飽和炭素‐炭素結合と、第2のポリマーの不飽和炭素‐炭素結合、例えばビニル官能基および/またはヒドリド官能基との間の反応を介して生じ得る。
【0030】
より一般的には、第2のポリマーは、ポリジエン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのポリシロキサン、および任意選択でポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1つを含み得る(からなり得る)。
【0031】
ポリシロキサンは、上記ポリジエンと同様に、不飽和炭素-炭素結合(および/またはヒドリド官能基)を有することができる。これにより、ポリシロキサンが、不飽和炭素-炭素結合を含む界面活性剤分子と架橋できるようになる可能性がある。
【0032】
例えばポリウレタンである第2のポリマーの場合における不飽和炭素-炭素結合の欠如は、この特定の第2のポリマーが、不飽和炭素-炭素結合を含む界面活性剤分子と架橋を形成できないことを意味する可能性があることに留意されたい。
【0033】
一部の実施形態では、第1のポリマーは、ポリビニルアルコールなどのポリオール、ポリウレタン、およびポリエチレングリコールのうちの1つ以上を含むか、またはからなる。例えば箔の形態を有するこのような第1のポリマーは、高分子膜から取り外し可能であり得る。例えば、剥離法または溶解法を使用して。ポリオールは通常、水またはアルコールなどの極性溶媒に可溶であるが、第2のポリマーおよび高分子膜は可溶ではない。
【0034】
方法は、第1の表面から高分子膜を取り外すことを含んでもよい。このような取り外すことは、特に本明細書に記載の第1のポリマーの特性に留意して、任意の適切な方法で実施することができる。例えば、そのような取り外しは、第1のポリマーの剥離および/または溶解によって実施され得る。取り外しに剥離が使用される場合、第1のポリマーと第2のポリマーは、相互に高い親和性を有さないように選択される。例えば、第2のポリマーは、第1のポリマーよりも低い極性(例えば、低い親水性)を有するように選択される。取り外しに溶解が使用される場合、取り外し用の溶媒は、第1のポリマーを溶解できるが、実質的に高分子膜は溶解できないように選択される。言い換えれば、少なくとも第2のポリマー、および第2の表面における界面活性剤分子は取り外し用の溶媒によって溶解されない。好ましくは、取り外し中の条件を考慮して、界面活性剤分子を第2のポリマーまたは高分子膜に共有結合させることが好ましい。
【0035】
なお、このような溶解は、例えば、第1のポリマーとしてポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコールの場合に使用され得、一方、ポリウレタンの比較的低い溶解性は、溶解の代わりに、高分子膜からポリウレタンである第1のポリマーの剥離またはストリッピングが使用されることを意味する可能性がある。
【0036】
さらに、このようなポリビニルアルコール、ポリウレタン、またはポリエチレングリコールの第1のポリマーは、例えば第2のポリマーがポリブタジエンなどのポリジエンである場合、第2のポリマーよりも強い極性を有し、かつ/または極性部分に対して、第2のポリマーよりも強い分子間相互作用(例えば、水素結合)を形成する可能性があり、したがって、極性部分への親和性がより高い可能性がある。
【0037】
少なくとも一部の実施形態では、溶媒は、炭化水素溶媒、ヘピタンなどのアルカン溶媒などの脂肪族炭化水素溶媒、イソプロピルアルコールなどのアルコール溶媒、およびアセトンなどのケトン溶媒のうちの1つ以上を含むか、またはからなる。例えば、第2のポリマーがポリブタジエンなどのポリジエンを含む(からなる)場合、溶媒はヘプタンを含むか、またはヘプタンからなる。
【0038】
極性部分は、ブレンステッド・ローリー酸/塩基であってもよい。これらには、当技術分野で知られているように、プロトンを適切な共役塩基と交換できる酸が含まれる。
【0039】
極性部分は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、アミン基、またはアミド基であり得る。好ましくは、極性部分は、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、アミン基、またはアミド基であり得る。より好ましくは、極性部分はカルボン酸基、アミン基、またはアミド基である。このような官能基は、細胞培養タンパク質と相互作用することができ、例えば共有結合することができる。また、これらの基は、細胞培養タンパク質を共有結合させることなく細胞培養を可能にする可能性がある。例えば、これらの基は、細胞培養中に細胞培養培地中に存在する、および/または形成されるこれらの基に、細胞培養タンパク質を付着させ得る。例えば、WO2019015988、WO20200148427、およびWO2021058657を参照されたい。
【0040】
極性部分は、カルボン酸基、リン酸基、および亜リン酸基からなる群から選択される1つ以上の酸性基であってもよい。
【0041】
非極性部分は、例えば脂肪族鎖などの直鎖状および分枝状炭化水素鎖、並びに直鎖状および分枝状ポリエーテル鎖からなる群から選択される1つ以上の基を含み得る。
【0042】
非極性部分は、好ましくは、第2のポリマーと共有結合を形成可能な1つ以上の反応性基を含む。したがって、そのような反応性基は、極性部分よりも極性が低い。1つ以上の反応性基は、好ましくは、イミド、カルボニル、アルケニル(例えば、ビニル)、アルキニルからなる群から選択され、これらは全て、末端基および/または非末端基として存在してもよい。非末端基よりも高い反応性に関して、後者が好ましい場合がある。好ましくは、これらの基は非共役である。
【0043】
一部の実施形態では、界面活性剤は脂肪酸を含み、脂肪酸のカルボン酸基が極性部分を画定する。
【0044】
界面活性剤が脂肪酸を含む実施形態では、脂肪酸は不飽和脂肪酸を含んでもよく、または不飽和脂肪酸からなってもよい。このような脂肪酸の不飽和炭素-炭素結合は、例えば、第2のポリマーに含まれる不飽和炭素-炭素結合および/またはヒドリド官能基が関与する上記反応を介して、例えば、不飽和脂肪酸を第2のポリマーに架橋するために使用され得る。
【0045】
不飽和脂肪酸は、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、およびドコサヘキサエン酸から選択される1つ以上であり得る。リノール酸、例えばα-リノレン酸は特筆に値する。ビニル基含有不飽和脂肪酸としては、ウンデシレン酸が好ましい例として使用される可能性がある。
【0046】
方法は、高分子膜と第1の表面とを分離するステップを含んでもよい。このような分離は任意の適切な方法で実施することができる。例えば、分離するステップは、第1のポリマーを高分子膜からデラミネートするステップ、例えば剥離するステップ、および/または高分子膜の溶解性がより低いもしくは無い溶媒に第1のポリマーを溶解して、第1のポリマーから高分子膜を分離するステップを含み得る。溶解を利用する方法は、薄膜などの壊れやすい高分子膜の場合に有利である。
【0047】
少なくとも一部の実施形態では、方法は、高分子膜に1つ以上の開口部および/または溝を形成するステップを含む。このような溝および/または開口部は、高分子膜が、例えば細胞培養装置において、機能を果たすのを補助する可能性があり、例えば、溝および/または開口部を介して栄養素を供給し、老廃物を細胞から除去すること、および/または細胞サンプルをモニタリングすることを可能にし得る。
【0048】
開口部210のサイズ/直径は、例えば取り扱いおよび/または顕微鏡検査のために最も実用的なものに従って選択することができる。このような開口部は、例えば、1~1000μmの範囲内、好ましくは1~100μmの範囲内、より好ましくは1~20μm、さらには1~10μmの範囲内の直径を有し得る。
【0049】
開口部および/または溝の形成は、高分子膜のレーザ穴あけを含み得る。これは、第1のポリマーの除去前に行われても除去後に行われてもよい。したがって、本明細書に開示される方法のいずれも、フェムト秒またはピコ秒レーザによるレーザアブレーションを使用して、高分子膜に1つ以上の開口部および/または溝を形成することを含むことができる。好ましくは、そのような場合、開口部および/または溝が、高分子膜の平面内で測定して50マイクロメートル未満、好ましくは20マイクロメートル未満の範囲内の少なくとも1つの開口寸法を有する。一部の例では、フェムト秒またはピコ秒レーザの波長が400~1200nmである。好ましくは、レーザ穴あけされる高分子膜は、ポリブタジエンおよびポリシロキサンからなる群から選択されるポリマーを含み、高分子膜の厚さは100マイクロメートル未満である。
【0050】
なお、本明細書に記載の開口部または溝を形成するためのレーザ穴あけの方法は、本明細書に記載の高分子膜の製造方法とは独立して使用できる。したがって、好ましくは100マイクロメートル未満の厚さを有し、好ましくはポリシロキサンおよび/またはポリブタジエンを含む、他の方法で製造された高分子膜が、本明細書に記載されるようにレーザ穴あけされてもよい。
【0051】
他の実施形態では、開口部および/または溝の形成は、第1のポリマーの第1の表面におけるレリーフを、第2の表面における高分子膜内にレリーフを形成するための型として使用することを含み得る。したがって、第1の表面は、高分子膜が第1の表面から取り外されると、例えば、高分子膜内に開口部および/または凹部を画定する凸部を含むようなレリーフを有することができる。第1の表面を含むレリーフは、第1のポリマーの第2の表面に凹部(穴ではない)を画定するための凸部を有することができる。したがって、そのような第1の表面を使用して、高分子膜の穴の代わりに、または加えて、凹部を有するレリーフ表面として第2の表面を準備することができる。このような凹部は、細胞培養中に特定の機能を提供することができる。一例は、その中でオルガノイドを成長させるための凹部である。第1の表面は、第2の表面における高分子膜内の1つ以上の開口部とともに、凹部を画定するための1つ以上の凸部を有するレリーフ表面を有するように選択され得る。
【0052】
一部の実施形態では、方法は、高分子膜の第2の表面を細胞培養タンパク質、例えばヒトタンパク質で官能化するステップを含む。第2の表面で利用可能にされる上記極性部分は、この官能化を促進する(例えば、タンパク質への極性相互作用または共有結合を介して)。
【0053】
細胞培養タンパク質は、例えば、コラーゲン、エラスチン、およびフィブロネクチンのうちの1つ以上を含むか、またはからなり得る。フィブロネクチンの場合、このタンパク質は、特に極性部分がカルボン酸基である例では、極性部分に簡単に結合することができる。
【0054】
一部の実施形態では、方法は、1つ以上のキャビティを有する細胞培養装置ボディを提供するステップと、1つ以上のキャビティの少なくともいくつかに1つ以上の高分子膜を取り付けるステップとを含む。好ましくは、そのような取り付けは、1つ以上のキャビティの少なくともいくつかのそれぞれが、高分子膜によって第1のキャビティおよび第2のキャビティに分離されるようなものである。好ましくは、細胞培養装置ボディは、第1および/または第2のキャビティに接続された第1および/または第2の流体チャネルを備える。好ましくは、高分子膜は、高分子膜の外周に位置するフレームによって支持される。ボディは、例えばポリスチレン製のウェルセルプレート(例えば、マルチウェルプレート)であってもよい。ボディは、例えばPDMS製のエラストマーボディであってもよい。方法は、例えばガラス製のカバープレートの間にエラストマーボディを固定することを含んでもよい。例えば流体装置の形態の細胞培養装置の例は、WO2019015988およびWO2021058657に開示されており、それらの全体が参照により本明細書に援用される。
【0055】
別の態様によれば、上記方法から得られる高分子膜が提供される。
【0056】
さらに別の態様によれば、流体装置を含むか、または流体装置の形態の細胞培養装置が提供され、流体装置は、本開示に係る1つ以上の高分子膜を含む。流体装置は、高分子膜に向かう、および/または高分子膜から離れる流体の流れを可能にする、または提供するための少なくとも1つのチャネルを含むと理解されたい。一部の実施形態では、流体装置は、高分子膜によって第2のキャビティから分離された第1のキャビティを含む。好ましくは、第1のキャビティに接続された第1の流路と、第2のキャビティに接続された第2の流路とが存在し、各流路は、流体装置に外部流体の流れを提供するための1つ以上の開口部を有する。このような膜で分離されたキャビティの集合体が複数存在してもよい。複数の第1のキャビティが同じ第1の流体チャネルを使用して接続されてもよく、かつ/または複数の第2のキャビティが同じ第2の流体チャネルを使用して接続されてもよい。
【0057】
このような細胞培養装置または流体装置の例は、WO2019015988およびWO2021058657に開示されている設計に基づいているが、膜は、例えば開示されている設計のキャビティ内に本開示の膜を取り付けることによって、本開示のものと置き換えられている。
【0058】
別の態様によれば、高分子膜およびさらなる高分子膜を備えた細胞培養装置であって、高分子膜は、さらなるポリマーのさらなる表面に対向する表面を有し、高分子膜のうちの少なくとも1つは、対応する表面において極性部分をそれぞれが有する界面活性剤分子を含む界面活性剤を含む、細胞培養装置が提供される。細胞培養装置は、流体装置を含むか、または流体装置からなり得る。
【0059】
このようにして高分子膜間に細胞をカプセル化すると、流体装置に流体が提供されるとき、および/または流体装置から流体が取り出されるときに、例えば生検材料またはスフェロイド/オルガノイドなどの細胞が洗い流されるリスクが軽減される可能性がある。
【0060】
高分子膜の一方または両方は、例えば、高分子膜間の流体装置の内部の光学分析を可能にするために、光学的に透明であってもよい。このような光学分析は、例えば、適切な顕微鏡を使用して実行することができる。
【0061】
細胞培養タンパク質は、極性部分を介して、例えば細胞培養タンパク質の極性部分への共有結合を介して、上記表面の一方または両方に結合され得る。
【0062】
高分子膜の一方、または好ましくは両方が、1つ以上の溝および/または開口部を含み得る。このような開口部は、例えば、1~1000μmの範囲内の直径を有し得る。好ましくは、1~100μmまたは1~50μmの範囲内である。より好ましくは1~20μmの範囲内である。
【0063】
一方または両方の膜の開口部が、例えば、細胞サンプルまたは細胞サンプルの種類に基づいて、例えば、細胞および/または細胞層および/またはスフェロイド/オルガノイドおよび/または生検材料の寸法に従って、最適化され得る。
【0064】
非限定的な例では、両方の高分子膜が同じポリマー、例えばポリブタジエンなどのポリジエンから作製される。
【0065】
さらなる態様によれば、本開示に係る高分子膜を少なくとも1つ用いて、細胞を細胞培養装置内に固定化するステップを含む細胞培養方法が提供される。固定化するステップは、高分子膜を使用して細胞を固定および/または部分的もしくは全体的にカプセル化することを含んでもよい。
【0066】
より一般的には、高分子膜、流体装置、および細胞培養方法に関連して本明細書に記載される実施形態は、高分子膜の製造方法に適用可能である可能性があり、高分子膜の製造方法に関連して本明細書に記載される実施形態は、高分子膜自体、流体装置、および細胞培養方法に適用可能である可能性がある。
【0067】
本発明の上記および他の態様は、以下に記載される実施形態を参照しながら説明され、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0068】
本発明のより良い理解のために、また、本発明が如何に実施され得るかをより明確に示すために、以下の例示に過ぎない添付図面を参照する。
【0069】
図1A-1B】図1Aおよび図1Bは、一例に係る高分子膜の製造方法を概略的に示す。
図2A図2Aは、界面活性剤分子の極性基を高分子膜の表面で利用できるようにするための界面活性剤分子の配向を概略的に示す。
図2B図2Bは、ポリマー表面上で起こるポリシロキサンの硬化、およびポリシロキサンと不飽和脂肪酸界面活性剤との架橋を概略的に示す。
図3図3は、例示的な高分子膜およびフレームの平面図を示す。
図4A-4B】図4Aおよび図4Bは、例示的な高分子膜の一部の顕微鏡写真を示す。
図5図5は、別の例示的な高分子膜の顕微鏡写真を示す。
図6A-6B】図6Aおよび図6Bは、複数の高分子膜による組織サンプルのカプセル化を概略的に示す。
図7図7は、複数の高分子膜;によるスフェロイド/オルガノイドのカプセル化を概略的に示す。
図8A-8C】図8A図8Cは、細胞サンプルをカプセル化するための例示的な高分子膜の顕微鏡写真を示す。
図9図9は、例示的なリノール酸変性ポリシロキサン高分子膜の顕微鏡写真を示す。
図10図10は、流体装置を作製するために流体モジュール内に高分子膜を取り付ける方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0070】
本発明について図面を参照しながら説明する。
【0071】
詳細な説明および具体例では装置、システム、および方法の例示的な実施形態を示されているが、例示のみを目的としたものであり、本発明の範囲を限定する意図はないことを理解されたい。本発明の装置、システム、および方法のこれらのおよび他の特徴、側面、および利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、および添付図面からよりよく理解されるであろう。図面は単に概略的なものであり、縮尺通りに描かれていないことを理解されたい。また、各図面を通して、同じまたは類似の部分を指し示すために同じ参照番号が使用されることを理解されたい。
【0072】
細胞培養装置に適した高分子膜の製造方法が提供される。
【0073】
図1Aおよび図1Bは、非限定的な例に係る高分子膜の製造方法100を概略的に示す。方法は、第1の表面201を有する第1のポリマー200を提供するステップ102を含む。この例では第1の表面は平坦であるが、これは必須ではない。穴の有無にかかわらず、高分子膜の所望のレリーフ構造に応じて、第1の表面は、そのような所望のレリーフ用の型として機能するように成形され得る。したがって、第1の表面は、所望の幅、長さ、高さ、または深さを有するレリーフの特徴として、適切な凹凸を有し得る。
【0074】
第1のポリマー200上、特に第1の表面201上にはフレーム202も設けられる。フレーム202は、以下により詳細に説明するように、後続の製造ステップ、例えば高分子膜に1つ以上の溝および/または開口部を形成することなどを容易にすることができる。また、フレームは、製造され、膜に取り付けられた後、膜の取り扱いを容易にすることができる。他の例では、そのようなフレーム202は、方法100の異なる段階で導入されるか、または完全に省略され得る。
【0075】
方法100は、溶液または分散液204を第1の表面201上に、および任意選択で、しかし好ましくはフレーム202上にも提供するステップ104を含む。溶液は第2のポリマー、界面活性剤、および溶媒を含む。第2のポリマーは、高分子膜のポリマー成分に少なくとも部分的に対応する。この例では、第1の表面に構成要素を提供するステップにおいて溶媒が使用される。しかし、これは必須ではない。また、構成要素は同時に第1の表面に提供される。しかし、これも必須ではなく、例えば、第2のポリマーが提供される前に界面活性剤が表面に提供されてもよい。
【0076】
溶液204を提供するステップ104は、例えば分注、スピンコーティングなどの任意の適切な方法で実施できる。溶液204を提供する104方法は、例えば、以下により詳細に記載されるように、高分子膜の厚さを決定する可能性がある。
【0077】
界面活性剤は界面活性剤分子を含み、各界面活性剤分子は、親水性部分であり得る極性部分を有する。界面活性剤はまた、極性部分より極性の低い疎水性部分を含んでもよい。
【0078】
極性部分および極性がより低い部分の極性、並びに/または親水性部分および疎水性部分の親水性は、第2のポリマーが第1の表面に塗布されている間であっても、界面活性剤分子が第1の表面に塗布されると、界面活性剤分子が少なくとも部分的に第1の表面に集合するようなものである。理論に拘束されることを望まないが、この集合は、界面活性剤分子の極性部分を引き付けることができる極性(例えば、親水性)を第1の表面が有することに少なくとも部分的に起因する可能性がある。集合は、第1のポリマー表面に近い界面活性剤分子を部分的に配向させることを含み得、界面活性剤分子の極性部分が極性を有する第1の表面に面し、界面活性剤分子の極性の低い疎水性部分が極性表面から離れる方向を向いてもよい。
【0079】
また、高分子膜が形成された後、極性部分は、例えばフィブロネクチンなどの細胞培養タンパク質が、例えば高分子膜へのグラフト重合、例えば共有結合によって結合できる部位を提供してもよい。細胞培養タンパク質の高分子膜へのそのような結合は、少なくとも一部の例では、方法100の後のステップで実施することができる。
【0080】
一部の実施形態では、極性部分は、カルボン酸基、リン酸基、アミン基、およびアミド基からなる群から選択される1つ以上の部分を含む。このような部分または官能基は、細胞培養タンパク質と相互作用することができ、例えば共有結合することができる。しかし、本明細書に記載されているように、他の部分も可能である。
【0081】
界面活性剤分子の疎水性部分は、好ましくは、ある位置に極性部分を有する脂肪族鎖(好ましくは直鎖であるが、分岐していてもよい)などの炭化水素鎖を含む。疎水性部分は、ポリエーテル鎖を含んでもよく、またはポリエーテル鎖からなる可能性がある。好ましくは、脂肪族鎖の第1の末端が極性部分を有する。脂肪族鎖は、好ましくは少なくとも3個の炭素原子(>C3)、より好ましくは少なくとも5個の炭素原子(>C5)、より好ましくは少なくとも7個の炭素原子(>C7)を有する。脂肪族鎖は、好ましくは30個未満の炭素原子(<C30)、または25個未満、または20個未満、または場合によっては15個未満の炭素原子(<C15)を有する。炭化水素鎖は、シクロヘキサジエン単位および/または芳香族成分などの環状成分を含んでもよい。
【0082】
アミン極性部分含有界面活性剤の例として、N-(3-ジメチルアミノプロピル)オクタデカミドとしても知られるオクタデカミド、およびポリリジン(例えば、ポリ-D-リジン)が挙げられる。
【0083】
好ましくは、界面活性剤は脂肪酸を含むか、または脂肪酸の形態であり、脂肪酸のカルボン酸基が極性部分を画定する。好ましくは、界面活性剤は不飽和脂肪酸である。
【0084】
より一般的には、一部の実施形態では、本明細書に記載される任意の種類の界面活性剤分子(すなわち、その疎水性部分)が、第2のポリマーへの共有結合のための反応性基を含み、方法100がさらに、第2のポリマーを硬化するステップ、および/または、反応性基を使用して、第2のポリマーを少なくとも一部の界面活性剤分子に架橋するステップを含む場合、極性部分は硬化および/または架橋反応に関与しない。これにより、界面活性剤分子が、高分子膜の少なくとも第2の表面において、第2のポリマーに固定される。したがって、界面活性剤分子は、例えば、細胞培養中の実験条件に、より良好に耐える可能性がある。すなわち、例えば第2の表面との共有結合により、第2の表面から切り離すのがより困難になるか、または全く切り離されない可能性があり、任意の細胞培養プロセスにおいて妨げる影響が少ないか、または全く生じない。このコンテキストにおける架橋とは、共有結合を指す可能性がある。
【0085】
第2のポリマーに共有結合され得る前述の界面活性剤分子では、脂肪族鎖は、第2のポリマーと反応可能な1つ以上の反応性基を有することが好ましい。このような基は、アセチレン結合またはビニル結合などの不飽和炭素-炭素結合を含むか、または不飽和炭素-炭素結合からなり得る。好ましくは、これらは非共役不飽和結合である。好ましくは、1つ以上の不飽和結合のうちの少なくとも1つは、脂肪族鎖の第2の末端(第1の末端とは異なる)に位置する。好ましくは、不飽和結合は極性部分から少なくとも3個の炭素原子、より好ましくは少なくとも5個の炭素原子、より好ましくは少なくとも7個の炭素原子だけ離れている。
【0086】
このような硬化は、任意の適切な方法で実施することができる。硬化は、UV照射および/または熱、すなわち加熱によって実施することができる。第2のポリマーの硬化/架橋については、以下でより詳細に説明する。硬化反応は、カチオン、アニオン、他の極性、またはラジカル機構を通じて進行する可能性がある。
【0087】
一部の実施形態では、界面活性剤分子、例えばその疎水性部分は、反応性部分として不飽和炭素-炭素結合を含む。このような不飽和炭素-炭素結合は、一部の非限定的な例では、第2のポリマーに架橋され得る。
【0088】
上記脂肪酸は、例えば、不飽和脂肪酸を含むか、または不飽和脂肪酸からなる可能性がある。このような不飽和脂肪酸の疎水性尾部内の不飽和炭素-炭素結合は、第2のポリマーと架橋可能である。したがって、このような脂肪酸は、ビニル基などのアルケンを有していてもよい。
【0089】
このような不飽和脂肪酸は、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノール酸(例えば、α-リノレン酸)、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、およびドコサヘキサエン酸から選択される1つ以上である。ビニル基を有する脂肪酸の一例として、ウンデシレン酸が挙げられる。
【0090】
本開示のコンテキストにおいて不飽和脂肪酸に言及する場合、これは、10~30個の炭素原子を含む脂肪族尾部に共有結合したカルボン酸頭部基と、脂肪族尾部内の少なくとも1つの炭素-炭素二重結合とを含む任意の有機化合物を指すものと理解されたい。脂肪族尾部は、非芳香族環構造(例えば、5員または6員のシクロペンチル基またはシクロヘキシル基)で終端していてもよく、非芳香族環構造自体が少なくとも1つの二重結合を含んでいてもよい。不飽和脂肪酸の上記定義に含まれることが意図される有機化合物の非限定的な例として、レチノイン酸が挙げられる。本開示で明示的に言及した化合物例に加えて、他の多くの化合物が、当業者には直ちに明らかとなるであろう。
【0091】
第2のポリマーおよび界面活性剤(例えば、不飽和脂肪酸などの脂肪酸)は任意の適切な比率を有し得る。界面活性剤は、溶液204および/または高分子膜中に、第2のポリマーの0.05~35重量%の範囲内で存在することが好ましい。この範囲は、高分子膜206が十分な高分子特性、例えば変形性を保持するのに役立ち得る。
【0092】
第2のポリマーは、細胞培養装置での使用に適した任意の適切なポリマーであり得る。第2のポリマー自体が生体適合性ポリマーであってもよい。あるいは、または追加で、界面活性剤自体が生体適合性であってもよい。このような場合、生体適合性培養タンパク質による第2の表面の官能化は必要ない。
【0093】
ただし、場合によっては、第2のポリマーおよび界面活性剤自体が生体適合性である必要がないことに留意されたい。結局のところ、その後、フィブロネクチンなどの細胞培養タンパク質による高分子膜の官能化が行われる場合、細胞は第2のポリマーに直接さらされない。
【0094】
界面活性剤分子が硬化および/または第2のポリマーに架橋される場合、第2のポリマーは、界面活性剤分子の反応性基と反応して、界面活性剤分子と第2のポリマーとの間に共有結合を形成可能なポリマー反応性基を有するように選択される。その場合、第2のポリマーは典型的には、複数の界面活性剤分子を結合するための複数のそのようなポリマー反応性基を含む。
【0095】
第2のポリマーは、好ましくはエラストマーを含むか、またはエラストマーからなる。代わりに、または追加で、第2のポリマーのショアA硬度は70以下、より好ましくは60以下、最も好ましくは20以下である。このような第2のポリマーの変形、例えば弾性変形は、高分子膜が細胞培養装置内で使用される場合に特に有利であり得る。なぜなら、第2のポリマーは、細胞培養装置内に流体を密封するために、基板(図1Aおよび図1Bでは不図示)および/またはカバープレートに押し当てられて変形(例えば、弾性変形)可能であるからである。
【0096】
一部の実施形態では、第2のポリマーは、ポリブタジエンスチレンなどのポリジエン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのポリシロキサン、および任意選択でポリウレタンから選択される少なくとも1つを含む(からなる)。
【0097】
好ましくは、第2のポリマーは、ポリブタジエンスチレンなどのポリブタジエンなどのポリジエン、ポリイソプレン、またはブチルゴムを含む(からなる)。ポリブタジエンは、その化学的および機械的特性のために細胞培養装置での使用に特に適しているため、特筆に値する。
【0098】
さらに、界面活性剤分子、例えばその疎水性部分が不飽和炭素-炭素結合を含む非限定的な例では、ポリブタジエンに含まれる不飽和炭素-炭素結合は、界面活性剤分子がポリブタジエンの第2のポリマーにグラフト重合、例えば共有結合し得る部位を提供し得る。
【0099】
例えばポリウレタンである第2のポリマーの場合における不飽和炭素-炭素結合の欠如は、この特定の第2のポリマーが、不飽和炭素-炭素結合を含む界面活性剤分子と架橋を形成できないことを意味する可能性があることに留意されたい。
【0100】
一部の実施形態では、第2のポリマーは、不飽和炭素‐炭素結合、例えば、(例えば、ポリブタジエンの場合でのように)ビニル官能基および/または(例えば、ポリシロキサンの場合でのように)ヒドリド官能基を含んでもよく、界面活性剤分子の少なくとも一部はそれぞれ、(例えば、不飽和脂肪酸などの上記不飽和界面活性剤の場合でのように)疎水性部分に不飽和炭素‐炭素結合を含む。このような非限定的な例において、架橋は、界面活性剤の不飽和炭素‐炭素結合と、第2のポリマーの不飽和炭素‐炭素結合、例えばビニル官能基および/またはヒドリド官能基との間の反応を介して生じ得る。
【0101】
溶媒は、第1の表面201上に溶液204を提供すること104ができるようにするために第2のポリマーおよび界面活性剤を溶解および/または分散させることができるとともに、方法100の後続のステップで蒸発させることができる任意の溶媒であり得る。溶媒はまた、溶液204が提供される第1のポリマー200の第1の表面201を溶媒和しないか、または最小限しか溶媒和しないことにより、第1の表面201上に高分子膜が形成されることを可能にし得る。
【0102】
少なくとも一部の実施形態では、溶媒は、ヘプタンなどの炭化水素溶媒、イソプロピルアルコールなどのアルコール溶媒、およびアセトンなどのケトン溶媒のうちの1つ以上を含む(からなる)。例えば、第2のポリマーがポリブタジエンなどのポリジエンを含む(からなる)場合、溶媒はヘプタンを含むか、またはヘプタンからなる。
【0103】
ポリブタジエンが第2のポリマーとして使用されるか、または第2のポリマーに含まれる場合、ポリブタジエンは任意の適切な重合プロセスを使用して製造することができる。特に好ましいのは、NdまたはLi触媒重合反応で形成されたポリブタジエンである。なぜなら、そのようなポリブタジエンは分岐度が低く(典型的には5%未満)、約2という低い多分散度(Mw/Mn)を有すること自体はよく知られているからである。リチウム触媒ポリブタジエンは、1,2-ビニル含有量が高い(約11%)ため、特に好ましい。しかし、他の種類のポリブタジエン、例えばCo、NiまたはTi触媒重合反応から得られるポリブタジエンを代わりに使用してもよい。
【0104】
ポリブタジエンなどのポリジエンが第2のポリマーとして使用される場合、第2のポリマーと界面活性剤分子、例えば不飽和脂肪酸との間の上記架橋反応は、(例えば、UV線および/または加熱に加えて提供される)過酸化物触媒を使用して触媒され得る。ポリブタジエンなどのポリジエンの硬化/架橋を促進するために、ジクミルパーオキシドなどの任意の適切な過酸化物を使用することができる。
【0105】
別の有利な実施形態では、5~15%の範囲内の分岐度を有するLi触媒ポリブタジエンが使用される。なぜなら、ポリブタジエンの分岐度がこの範囲内にある場合、ポリブタジエンと不飽和脂肪酸との反応性を改善できることがわかったからである。完全を期すために、ポリブタジエンを合成する際に分岐度を制御する方法自体はよく知られているため、もっぱら簡潔さを目的として、これ以上の説明は省略する。
【0106】
特に言及される第2のポリマーの別の種類は、シリコーン、すなわちポリシロキサンである。このようなシリコーンは、例えば(ポリメチル)水素シロキサンとのPt触媒付加反応による架橋を促進するためのビニル部分を含むポリジメチルシロキサン(PDMS)主鎖を含み得る。(ポリメチル)水素シロキサンによるそのような架橋の代わりに、またはそれに加えて、ビニル官能化PDMS主鎖を界面活性剤、例えば不飽和脂肪酸を含むまたは不飽和脂肪酸の形態の界面活性剤で架橋してもよい。このような架橋反応は、ビニル官能基全体のヒドロシリル化を含むことが好ましい。このようなヒドロシリル化反応では、ビニル結合以外の他の炭素-炭素二重結合、例えばアセチレン結合が使用されてもよい。
【0107】
ポリシロキサンの硬化は、例えば、2つの成分、すなわちシロキサンおよび白金触媒を含む成分Aと、架橋剤を含む成分Bとを混合した後に開始することができる。
【0108】
一部の非限定的な例では、界面活性剤を添加して混合した後、硬化反応を遅くしてもよい。したがって、例えば分注、スピンコーティングなどによって溶液204を第1のポリマー200上に提供する遅延/アイドル時間が存在してもよい。その後、溶液204を例えば80~120℃の範囲内の温度まで加熱することによって、例えば硬化が1時間未満で完了するように、硬化が促進されてもよい。
【0109】
より一般的には、硬化/架橋ポリシロキサンは、ポリシロキサンの早過ぎる架橋を防ぐために、情実したような多成分出発材料から形成することができる。このような多成分出発原料はそれ自体よく知られており、例えば、このような他成分出発材料キットは、ドイツ、ミュンヘンのWacker Chemie AGによってElastosilという商品名で販売されている。
【0110】
このようなシリコーンは、ビニル官能化直鎖状もしくは分枝状シリコーンモノマーもしくはオリゴマー(例えば、T分枝状もしくはQ分枝状シリコーンモノマーもしくはオリゴマー)と、直鎖状ヒドリド官能化シリコーンモノマーもしくはオリゴマーとの間の架橋反応、ヒドリド官能化直鎖状もしくは分枝状シリコーンモノマーもしくはオリゴマー(例えば、T分枝状もしくはQ分枝状シリコーンモノマーもしくはオリゴマー)と、直鎖状ビニル官能化シリコーンモノマーもしくはオリゴマーとの間の架橋反応、または、ビニル官能化およびヒドリド官能化直鎖状もしくは分枝状シリコーンモノマーもしくはオリゴマー(例えば、T分岐状もしくはQ分岐状シリコーンモノマーもしくはオリゴマー)の混合物、および/もしくは直鎖状ヒドリド官能化およびビニル官能化シリコーンモノマーもしくはオリゴマーの混合物の間の架橋反応によって形成することができる。
【0111】
例えば、直鎖状成分1と直鎖状成分2との間の架橋反応によって2成分シリコーンが形成され得、各成分は以下の一般式に対応し得る。
【化1】
【0112】
成分1において、RおよびRは、C~Cアルキルから個別に選択される。R~Rは、C~Cアルキルおよびビニルから個別に選択されるが、R~Rのうちの少なくとも1つ、およびR~Rのうちの少なくとも1つはビニルである。好ましくは、R~Rのうちの少なくとも3つはビニルである。全ての実施形態において、nは100~200,000の範囲内であり得る。成分1のある具体的実施形態では、アルキル基である各基R~Rはメチル基であり、すなわち、成分1は末端ビニル基を有するビニル官能化PDMSである。
【0113】
成分2において、Rは水素であり、R2=C~Cアルキルである。R~Rは、C~Cアルキルまたは水素から個別に選択されるが、R~Rのうち多くても1つ、およびR~Rのうち多くても1つが水素である。nは任意の適切な値をとり得、例えばn=3~1000、より具体的にはn=3~10であり得る。成分2のある具体的実施形態では、基R~Rのいずれも水素ではない。成分2の別の具体的実施形態では、R~Rはそれぞれメチルである。
【0114】
典型的には、成分2が成分1の架橋剤として機能する。このような薬品は、典型的にはPt触媒が使用されるヒドロシリル化タイプの架橋反応を介して架橋し、それ自体はよく知られている(例えば、WO2009/147602A2参照)。したがって、簡潔さのためにこれ以上詳しく説明されない。いくつかのタイプの架橋剤およびいくつかのタイプのPtベースの触媒はそれら自体は知られており、本明細書ではさらなる説明はしないが、現在の方法で実践的に使用され得る。
【0115】
任意の適切なシリコーンエラストマーを使用することができる。なお、界面活性剤、例えば不飽和脂肪酸の存在下でそのようなシリコーンを架橋する場合、シリコーンと界面活性剤との間の共有結合は、代わりに、以下の反応機構で示されているように、(架橋された)シリコーンのヒドリド官能基と不飽和脂肪酸との間の反応によって形成され得ることを理解されたい。
【化2】
【0116】
このような架橋反応中の不飽和脂肪酸界面活性剤による触媒阻害を防ぐために、不飽和脂肪酸の濃度は、例えば、溶液204に基づいて1重量%以下の濃度に制限され得る。1重量%以下では、脂肪酸、例えばリノール酸は、架橋反応を阻害しないか、あるいは無視できる程度にしか阻害しない可能性があり、また、脂肪酸の存在にもかかわらず、比較的高温、例えば80℃より高い温度での硬化および架橋が達成できることがわかった。さらに、そのような比較的低濃度の脂肪酸、例えばリノール酸に基づく製法は、高分子膜の表面において利用可能な極性部分を有するポリシロキサン含有またはポリシロキサンベースの高分子膜を提供するという点で非常に良好に機能することがわかった。
【0117】
一部の非限定的な例では、(ポリメチル)水素シロキサン主鎖などのシリコーン主鎖が、ポリブタジエンおよびポリイソプレンなどのゴム状ポリマーと架橋され得、そのような架橋生成物中に不飽和脂肪酸が組み込まれ得る。これは、例えば、最終高分子膜206の透水性を調整するために行われてもよい。なぜなら、シリコーンが典型的にかなり開いた構造を有するのに対し、そのようなゴム状ポリマーはかなり閉じた構造を有するため、シリコーンおよびゴム状ポリマーの比率によって架橋生成物の開放度、すなわち透水性を調整できるからである。
【0118】
このようにして、この実施形態に係る材料の特性は、良好なスキャフォールドを構築する細胞/タンパク質相互作用のために最適化され得る。例えば、高分子膜がシリコーンベース、例えばPDMSベースである場合、水および他の化合物(例えば、薬剤)に対して透過性が高く、高分子膜上の細胞へのこれらの化合物の最大化された灌流を促進する材料が得られる。しかし、細胞による薬剤消費をリアルタイムでモニタリングすることが望ましい場合には、水または薬剤に対して非透過性のポリブタジエンベースの材料などのポリジエンベースの材料が好ましい可能性がある。なぜなら、例えば高分子膜の開口の密度を使用して、これらの化合物の細胞への灌流速度を制御できるからである。
【0119】
図1Aおよび図1Bに戻り、方法100は、溶液204が第1の表面201上にある間に溶媒を蒸発させて高分子膜206を提供するステップ106をさらに含む。このようにして形成された高分子膜206は、図1Aに概略的に示されるように、第1のポリマー200の第1の表面201と接触する第2の表面207を有する。
【0120】
高分子膜206は、例えば、溶液204が第1のポリマー200の第1の表面201に提供される方法、および/または(例えば、細胞培養装置などの流体装置内での)高分子膜206の意図された機能に応じて、任意の適切な厚さを有することができる。
【0121】
好ましい厚さは、100μm未満、80μm未満、60μm未満、または40μm未満である。このような膜は一般に壊れやすく、製造中および/または取り扱い中に第1のポリマーの形態の支持層の恩恵を受ける。
【0122】
一部の実施形態では、高分子膜206の厚さは100マイクロメートル未満、例えば0.5~100μmの範囲内、例えば0.5~60μmの範囲内、または例えば5~40μm、例えば20~60μm、例えば約40μmである。
【0123】
高分子膜206の厚さは、例えば、溶液204が第1のポリマー200の第1の表面201に提供される方法を介して制御することができる。例えば、溶液204を第1の表面201上に分注することにより、10~60μmの厚さを有する高分子膜206の製造が可能となり、一方、溶液204を第1の表面201上にスピンコーティングすることにより、0.5~10μmの厚さを有する高分子膜206を製造することができる。
【0124】
また、例えば、その上でスフェロイド、オルガノイド、または生検材料を培養するのに適した高分子膜206は、典型的には20~60μmの範囲内、例えば約20または40μmの厚さを有することにも留意されたい。
【0125】
高分子膜206の厚さを、例えば100μmもしくは60μm以下、または上記の他の厚さに制限することにより、一部の例では光透過性を提供できる可能性があり、これにより、高分子膜206が細胞培養装置内で使用される例において、高分子膜206を介した細胞培養をモニタリングするために顕微鏡、例えば共焦点顕微鏡を使用することができる。
【0126】
より一般的には、第1のポリマー200の少なくとも第1の表面201は、極性部分に対して第2のポリマーよりも高い親和性を有する。
【0127】
第1のポリマー200の少なくとも第1の表面201、一部の例では第1のポリマー200全体が極性部分に対して第2のポリマーよりも高い親和性を有することによって、高分子膜206の第2の表面207における界面活性剤分子の大半が、極性部分が第2の表面207で利用できるように配向され得る。
【0128】
第2のポリマーよりも高い、第1のポリマー200、または第1のポリマー200の少なくとも第1の表面201の極性部分に対する親和性は、少なくとも第1の表面201における極性が、第2のポリマーの極性よりも高い第1のポリマー200を選択することによって達成することができる。代わりに、または追加で、第1のポリマー200は、第2のポリマーよりも強い分子間相互作用(例えば、水素結合)を第1の表面201の極性部分と形成するように選択され得る。
【0129】
したがって、第2のポリマーの極性よりも高い、(少なくとも)第1の表面201における第1のポリマー200の極性は、極性部分が、例えば永久双極子-永久双極子型相互作用を介して、第1のポリマー200の第1の表面201と相互作用するように、界面活性剤分子が配向することを意味し得る。
【0130】
界面活性剤分子がそれぞれ疎水性部分、例えば疎水性尾部部分を含む実施形態では、第1のポリマー200(の少なくとも第1の表面201)と比較して第2のポリマーの極性が低いことは、疎水性部分、例えば疎水性尾部部分が第2のポリマーと優先的に相互作用し、それによって、高分子膜206の第2の表面207で極性部分を利用できるようにする界面活性剤分子のこの配向を補助することをさらに意味する。
【0131】
このようにして界面活性剤分子の極性部分が高分子膜206の第2の表面207で利用可能になることによって、第2の表面207の表面特性は、例えば、フィブロネクチンなどの細胞培養タンパク質が結合するのに特に適し得る。あるいは、またはさらに、そのような第2の表面は、最初に細胞培養タンパク質に結合することなく細胞培養を可能にする可能性がある。
【0132】
このような結合は、少なくとも一部の例では、細胞培養タンパク質の極性部分への共有結合を含むことができる。非限定的な例では、極性部分はカルボン酸基である。このような例では、フィブロネクチンが、カルボン酸基との反応を介して高分子膜に共有結合され得る。
【0133】
1-エチル-3-(3-ジメチルアミノ)プロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を使用してフィブロネクチンを表面カルボン酸基に共有結合させるための、確立された結合プロトコルを以下に示す。
【化3】
【0134】
このプロトコルの説明は、L.H.H.Olde Daminnk、P,J,Dijkstra、M.J.A.Luyn、P.B.v.Wachem、P.Nieuwenhuis、およびJ.Feijenによる“Cross-linking of dermal sheep collagen using a water-soluble carbodiimide”、Biomaterials、17(8) pp.765~774(1996)において見つけられる。
【0135】
さらに、極性部分の上記配向を達成するために第1のポリマー200が使用されるため、例えば、第1のポリマー200(例えば、第1のポリマー箔)と高分子膜206とを互いに剥離することによって、および/または高分子膜206の溶解性が低いもしくは無い溶媒に第1のポリマー200を溶解することで高分子膜206を第1のポリマー200から分離することによって、高分子膜206を第1のポリマー200から比較的簡単に取り外すことができる。これは、表面に利用可能な極性部分を有する高分子膜206を製造するより好都合な方法100を提供する。
【0136】
一部の実施形態では、第1のポリマー200は、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、およびポリエチレングリコールのうちの1つ以上を含むか、またはからなる。このような第1のポリマー200は、例えば箔の形態を有し、例えば第1のポリマー200の剥離および/または溶解によって、高分子膜206から取り外し可能であり得る。
【0137】
ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコールは特筆に値する。なぜなら、このような第1のポリマー200の水溶性は、水を使用して第1のポリマー200を高分子膜206から取り外すことができることを意味するからである。
【0138】
なお、例えば、ポリウレタンである第1のポリマー200の場合、ポリウレタンの比較的低い溶解性は、溶解の代わりに、高分子膜206からのポリウレタンである第1のポリマー200の剥離またはストリッピングが使用されることを意味し得ることに留意されたい。
【0139】
さらに、このようなポリビニルアルコール、ポリウレタン、またはポリエチレングリコールの第1のポリマー200は、例えば第2のポリマーがポリブタジエンなどのポリジエンである場合、第2のポリマーよりも強い極性を有し、かつ/または極性部分に対して、第2のポリマーよりも強い分子間相互作用(例えば、水素結合)を形成する可能性があり、したがって、極性部分への親和性がより高い可能性がある。
【0140】
第1のポリマー200を使用すると、例えば製造可能性に関してさらなる利点が得られる可能性がある。図1Aおよび図1Bに戻り、方法100は、第1のポリマー200上に積層された高分子膜206を含む積層体を所望の形状および/またはサイズに切断するステップ108を含んでもよい。このような切断108は、第1のポリマー200が、高分子膜206の第2の表面207で極性部分を利用可能にするように界面活性剤分子を配向させるために使用される切断可能な(第1の)ポリマー200であることによって可能になる。この切断ステップは任意選択である。
【0141】
図1Bを参照して、方法100は、高分子膜206と第1のポリマー200とを分離するステップ110を含んでもよい。このような分離110は任意の適切な方法で実施することができる。例えば、分離するステップ110は、上記のように、第1のポリマー200を高分子膜206からデラミネートするステップ、例えば剥離するステップ、および/または高分子膜206の溶解性がより低いもしくは無い溶媒に第1のポリマー200を溶解して、第1のポリマー200から高分子膜206を分離するステップを含み得る。
【0142】
図1Bに示す非限定的な例では、フレーム202も、高分子膜206とともに第1のポリマー200から分離、例えば剥離され、フレーム202は高分子膜206を保持し続ける。
【0143】
一部の実施形態では、第2のポリマーは光透過性、例えば光学的に透明であり、それにより例えば、光学的検査に使用される装置、例えば顕微鏡に対して高分子膜206の反対側に位置する細胞の光学的検査が可能になる。
【0144】
一部の実施形態、例えば、図1Aおよび図1Bに示されるような例示的方法100では、ステップ114において、1つ以上の溝および/または開口部210が高分子膜206に形成される。このような溝および/または開口部210は、高分子膜206が、例えば細胞培養装置において、機能を果たすのを補助する可能性があり、例えば、溝および/または開口部210を介して栄養素を供給し、老廃物を細胞から除去することを可能にし得る。
【0145】
開口部210のサイズ/直径は、例えば取り扱いおよび/または顕微鏡検査のために最も実用的なものに従って選択することができる。このような開口部は、例えば、1~1000μmの範囲内の直径を有し得る。開口部の形状は長方形や正方形であってもよいが、好ましくは円形などの丸みを帯びたものである。開口部は、膜の領域の少なくとも一部にわたる規則的な開口部アレイ(例えば、正方形および/または六角形のパターン)として提供されることが好ましい。開口部の間隔は、例えば膜の所望の透過性に従って選択することができ、単位面積当たりの開口部の数の増加は、透過性の増加に関連し得る。
【0146】
細胞層が高分子膜206上で成長することが望ましい場合などの特定の用途では、高分子膜206の正しい側に細胞を保持するために、1つ以上の開口部210の直径が8μm未満であってもよい。これは、例えば、上皮細胞が高分子膜206の一方の側にあり、内皮細胞が他方の側にある場合に、細胞の横断を回避または最小限に抑えるために行われる。
【0147】
スフェロイドおよびオルガノイドの場合、開口部210は、1~250μm、例えば50~250μmの範囲内の直径を有し得る。しかし、スフェロイドおよびオルガノイドの寸法に応じて、例えば1~50μmなどの他の範囲が使用されてもよく、より好ましくは1~10μmの範囲、さらには1~8μmの範囲が使用されてもよい。一般に、寸法が小さいほど小さな分子の通過が可能になるが、細胞または細胞のクラスタが開口部を通過しづらくなる。
【0148】
細胞培養装置が流体システムを含む場合、スフェロイドおよびオルガノイドが流れによって意図せずに洗い流されることなく、各自の位置に留まることが特に重要となり得る。したがって、開口部210の直径は、場合に応じて、そのようなスフェロイドまたはオルガノイドが高分子膜206の意図した側に保持されるように選択されてもよい。このために、本明細書で上記したような適切な開口部の直径が使用されてもよい。
【0149】
生検材料の場合、開口部210は50~1000μmの範囲内の直径を有し得る。例えば、生検材料は長さ4mm、幅0.5mm、高さ300μmであってもよい。
【0150】
スフェロイド、オルガノイド、および生検材料の場合、細胞培養装置は、複数のそのような高分子膜206を含み得、例えば、そのような高分子膜206のペアが互いに対向していてもよい。
【0151】
以下でさらに説明される非限定的な例では、細胞培養は高分子膜206のうちの1つの上で行われ、別の高分子膜206は、高分子膜206間にスフェロイド、オルガノイド、または生検材料を割り当てるための設置部/保持部として機能してもよい。例えば図6および図7を参照して後述するように、複数の構成が使用され得る。
【0152】
スフェロイド、オルガノイド、および生検材料の成長、治療、および染色をモニタリングするには、それらが所定の位置に固定されていることが重要である可能性がある。特に生検材料の場合、生検材料は腫瘍側と健康な組織側とがある可能性があるため、幾何学的形状の履歴が重要になる可能性がある。化学療法などの治療が評価される場合、腫瘍組織および健康な組織がどのように反応するかを観察することが重要である可能性がある。
【0153】
図1Aおよび図1Bに示す非限定的な例では、レーザ穴あけ、すなわちレーザ穴あけアブレーションプロセスを介して、1つ以上の溝および/または開口部210が高分子膜206に形成される。この具体例では、方法は、後続のステップ114における溝および/または開口部210のレーザ穴あけを可能にするために、高分子膜206をホルダ208に取り付けるステップ112を含む。ポリマーに所望の範囲内の直径を有する開口部を光学的にまたはレーザで穴あけする例示的な方法は、例えばUS2014/0127744に開示されており、その全体が参照により援用される。
【0154】
このようなレーザ穴あけには、任意の適切な条件を使用することができる。非限定的な例を以下に示す。波長:1025nm、パルス幅:350fs、平均電力:500mW、スポットサイズ:15~20μm、パルス数:25~100。これは、ポリブタジエンベースの高分子膜に特に適している。ポリシロキサン膜の穴あけに適した別の例では、次の条件が使用され得る。波長:515nm、パルス幅:350fs、平均電力:13mW(パルスエネルギー13μJおよび繰り返し周波数1kHz)、スポットサイズ:1~20μm、パルス数:5~100。
【0155】
高分子膜206は、フレーム202を介して、言い換えれば、図示のように高分子膜206がフレーム202に取り付けられている間に、ホルダ208上に取り付けられてもよい。
【0156】
上記レーザ穴あけプロセスによって高分子膜206に溝および/または開口210が形成されると、ステップ116においてホルダ208が除去され得る。
【0157】
他の非限定的な例では、例えば、そのような溝および/または穴210を形成するために代替技術が使用され得、例えば、溶媒の蒸発後に高分子膜206にそのような溝および/または穴210が形成されるように第1のポリマー200の第1の表面201が成形され得る。第1の表面201にはレリーフ構造が設けられてもよく、レリーフ構造の凸部は将来の開口部の位置を定め得る。その場合、表面の平面内で測定される寸法は、そのような開口部の形状およびサイズを定め得る。例示的な方法は、その全体が参照により援用されるUS20200360923において見つけることができる。また、本明細書で前述したような方法を使用して、凹部を有する高分子膜が作製されてもよい。開口部は、高分子膜の凹部の領域に作製されてもよい。
【0158】
一部の実施形態では、方法100は、高分子膜206の第2の表面207を細胞培養タンパク質で官能化するステップをさらに含む。上記したように、第2の表面207で利用可能にされる極性部分は、この官能化を促進する。
【0159】
細胞培養タンパク質は、コラーゲン、エラスチン、およびフィブロネクチンのうちの1つ以上を含むか、またはからなり得る。フィブロネクチンの場合、このタンパク質は、例えばEDCおよびNHSを使用する上記方法で、カルボン酸基の形態の極性部分に結合され得る。
【0160】
第1のポリマー200を溶解することによって第1のポリマー200を高分子膜206から除去することができる非限定的な例では、このプロセスは、タンパク質およびEDCおよびNHSなどの任意のカップリング剤を、第1のポリマー200を溶解するために使用されるのと同じ溶媒に含ませることによって、タンパク質カップリングと組み合わせることができる。例えば、ポリビニルアルコールの第1のポリマー200を除去するために、または除去を補助するために水を使用する場合、溶媒として水を使用してタンパク質カップリングが実行され得る。
【0161】
タンパク質を表面に結合させる他の化学的方法を使用することもできる。
【0162】
図2Aは、界面活性剤分子の配向を拡大側面図で概略的に示しており、この図は、任意線のフレーム202、および第1のポリマー200の表面201も概略的に示している。この非限定的な例では、界面活性剤はリノール酸、例えばα-リノレン酸であり、配向は、上記したように、界面活性剤の極性部分、この場合はカルボン酸基が高分子膜206の第2の表面207で利用可能になるようなものである。
【0163】
この目的のために、界面活性剤の極性部分と第1のポリマー(この非限定的な例ではポリビニルアルコール箔)との間の両方向矢印212で表される極性引力は、極性部分が高分子膜206の第2の表面207で利用可能になるように界面活性剤分子を配向させるのを補助する。
【0164】
したがって、図2Aは、溶液204の分注後に、極性部分(この場合はカルボン酸基)がどのように第1のポリマー200(この場合はポリビニルアルコール箔)の第1の表面201に向けられ、相互作用するかを示す。
【0165】
図2Aに概略的に示す非限定的な例では、第2のポリマーは、例えば両方向矢印214で表されるように、界面活性剤の不飽和炭素-炭素結合と架橋するために、ビニル基を含む不飽和炭素-炭素結合(アルケニル基)を有する。図示されていないが、互いに異なる第2のポリマー分子の炭素-炭素二重結合の間で架橋が生じてもよい。
【0166】
この具体例では、そのような架橋は、ポリブタジエンである第2のポリマーの、ビニル基を含む不飽和炭素-炭素結合と、リノール酸界面活性剤の不飽和炭素-炭素結合との間に形成される。
【0167】
図2Bは、ケイ素-ヒドリド結合と不飽和脂肪酸界面活性剤(この場合はリノール酸)の不飽和炭素-炭素結合との間の反応を介して架橋が形成される例を示す。図2Bに示されるシロキサン成分間では、シリコン-ヒドリド結合と不飽和炭素-炭素結合との間の同様の反応が起こる。
【0168】
界面活性剤の極性部分(この場合はカルボン酸基)と、この非限定的な例ではポリビニルアルコール箔である第1のポリマーとの間の極性引力は、上記したように、極性部分が高分子膜206の第2の表面207で利用可能になるように界面活性剤分子を配向させるのを補助する。
【0169】
図3は、高分子膜206およびフレーム202の平面図を示す。この非限定的な例では、高分子膜206は、フレーム202によって画定されるキャビティ内に配置される。フレームは、端部においてフレーム202によって支持される高分子膜の一部であってもよい。
【0170】
フレーム202は、金属もしくは金属合金、例えばステンレス鋼、またはプラスチックもしくはポリマー、例えば方法100の上記ステップで使用される溶媒に不溶なポリマーなどの任意の適切な剛性材料で形成することができる。このようなフレームポリマーの例は、ポリエーテルエーテルケトン、およびテフロン(登録商標)などのフルオロポリマーである。
【0171】
フレーム202の寸法および形状は、例えば細胞培養装置などの流体装置における意図された用途に従って選択することができる。一部の実施形態では、フレーム202も、高分子膜206とともにそのような装置に含まれる。
【0172】
キャビティの直径216は、例えば、1~10mmの範囲、例えば4~5mmの範囲内であってもよい。キャビティの端部からフレーム202の外縁までのフレーム202の最小幅218は1mmであってもよい。
【0173】
キャビティは、円形などの任意の適切な形状を有することができる。同様に、任意の適切な全体的フレーム形状が企図され得る。図3では長方形/正方形のフレーム202が示されている。
【0174】
図3に示される比限定的な例では、キャビティの直径は5~6mmであり、フレームは全体として10mm×10mmの正方形の形状を有する。
【0175】
さらに、図3から、例えば上記レー穴あけプロセスによって、高分子膜206に開口部210が形成されていることがわかる。
【0176】
図4Aおよび図4Bは、レーザ穴あけによって形成された開口部210を有する例示的な高分子膜206の一部の顕微鏡写真を提供する。
【0177】
図5は、レーザ穴あけによって形成された開口部210を有する別の例示的な高分子膜206の一部の顕微鏡写真を提供し、開口部210間には最小限の高分子膜材料しか残っていない。これを使用して、膜をより多孔性にすることができる。
【0178】
さらに、1つ以上の高分子膜206を含む流体装置が提供される。図6Aおよび図6Bは、複数の高分子膜206、206’による組織サンプル250のカプセル化を概略的に示す。図7Aおよび図7Bは、複数の高分子膜206、206’によるスフェロイド/オルガノイド260のカプセル化を概略的に示す。
【0179】
より一般的には、流体装置、例えば細胞培養装置が提供され、流体装置は、高分子膜206およびさらなる高分子膜206’を含み、高分子膜は、さらなるポリマーの第2の表面207’に対向する第1の表面207を有し、高分子膜206、206’のうちの少なくとも1つは、対応する表面において極性部分をそれぞれ有する界面活性剤分子を含む界面活性剤を含む。
【0180】
表面207、207’の一方または両方が、細胞培養タンパク質で官能化されてもよい。このような官能化は、上記したように、極性部分を介して、例えば細胞培養タンパク質の極性部分への共有結合を介して行うことができる。
【0181】
図6A図6B、および図7に示すように、高分子膜206、206’の一方、または好ましくは両方が、1つ以上の溝および/または開口部210、210’を含み得る。
【0182】
高分子膜206、206’の一方または両方が、例えば、上記方法100の任意の実施形態に従って製造され得る。
【0183】
また、本発明に係る高分子膜206の少なくとも1つを使用して細胞をカプセル化する、例えば、上記第1高分子膜206と第2高分子膜206’との間に細胞をカプセル化するステップを含む細胞培養方法300が提供される。
【0184】
図6Aおよび図6Bを参照すると、そのような方法300は、高分子膜206の表面207に極性部分をそれぞれが有する界面活性剤分子を含む界面活性剤を含む高分子膜206を提供するステップ302を含んでもよく、表面207は、好ましくは細胞培養タンパク質で官能化されている。
【0185】
次いで、細胞が高分子膜206の表面207上に提供、例えば分注され得る(304)。
【0186】
図6に示す非限定的な例では、細胞は、組織サンプルまたは生検材料250を含むか、またはその形態をとる。あるいは、細胞は、図7に示すように、スフェロイド/オルガノイド260を含むか、またはその形態をとる。細胞は単細胞であってもよい。
【0187】
方法300は、さらなる高分子膜206’を提供するステップ306をさらに含む。さらなる高分子膜206’のさらなる表面207’は高分子膜206に対向し、細胞250、260はこのようにして高分子膜206、206’の表面207、207’間にカプセル化される。
【0188】
一部の実施形態では、さらなる高分子膜206’は、さらなる表面207’に極性部分をそれぞれが有する界面活性剤分子を含む界面活性剤を含み、さらなる表面207’は、細胞培養タンパク質で官能化されることが好ましく、例えば、対向する表面207、207’の両方が細胞培養タンパク質で官能化される。他の実施形態では、さらなる高分子膜206’は、それぞれがさらなる表面207’に極性部分を有する界面活性剤分子を含む界面活性剤を含まない(例えば、さらなる高分子膜が高分子膜206と同じであり、図6Bのように前後逆に積み重ねられる場合)。図7の実施形態について、同様の積み重ねの変形例および高分子膜の変形例が想定され得る。
【0189】
なお、凹部に表面207を有する高分子膜206が本明細書に記載のプロセスを使用して作製されてもよく、例えば、図1Aおよび図1Bに関して記載されたように、凹部に対応する凸部を有するレリーフである第1のポリマーを使用して作製されてもよい
【0190】
高分子膜206、206’の一方、または好ましくは両方が、1つ以上の溝および/または開口部210、210’を含み得る。溝および/または開口部210、210’は、溝および/または開口部210、210’を介して栄養素を供給すること、および老廃物を細胞から除去することを補助し得る。また、上記したように、一部の例では細胞サンプル250、260のモニタリングを可能にする。このような開口部210は、例えば、1~1000μmの範囲内の直径を有し得る。
【0191】
高分子膜206、206’の一方はキャリア膜とみなすことができ、高分子膜206’、206の他方はカプセル化膜とみなすことができる。このような例では、カプセル化膜206の隣接する開口部210は、キャリア膜206’の隣接する開口部210’よりも互いに近接していてもよい。代わりに、または追加で、カプセル化膜206の開口部210は、キャリア膜206の開口部210’よりも大きな直径を有してもよい。
【0192】
多くの場合、細胞増殖、細胞成長、スフェロイドおよびオルガノイド260への細胞成長にとって、また生検材料250の配置後、細胞が高分子膜206を通過できることは望ましくない。この場合、サンプル250、260は、例えば直径5~7μmの開口部210を有する高分子膜206上に配置され得る。
【0193】
高分子膜206の上に上皮細胞があり、高分子膜206の反対側に内皮細胞がある二重層を成長させることが望まれる例では、上皮細胞と内皮細胞とが混同しないことが重要である。したがって、開口部210は、細胞が高分子膜206を通過するのを防ぐために十分に小さい可能性があり、例えば5~7μmであってもよい。このようにすることで、細胞の二重層が成長し、内層および外層に分化して、例えば腸、肺、または皮膚を模倣することができる。
【0194】
スフェロイドおよびオルガノイド260を2つの高分子膜206、206’の間に所定の位置に(例えば、マーカーおよび染色を使用して成長や薬剤への反応を研究するために固定された幾何学的形状で)保持することだけが望まれる例では、スフェロイド/オルガノイドの直径よりも小さい開口部210、210’が高分子膜206、206’の両方に提供され得る。
【0195】
生検材料250の幾何学的形状を固定することが望まれる例では、高分子膜206は、細胞透過性または非細胞透過性のために選択され得る(アッセイに関する必要性や制限に応じて)。生検材料250は、例えば、互いにより密に配置されたより大きな開口部210’を有する上部のカバー高分子膜206’を使用して、移動する流体の中で所定の位置に保持され得る。生検材料250をカプセル化して固定するのに十分な大きさを有し、かつ互いに比較的近い開口部210’を有するカバー高分子膜206’(言い換えれば、比較的「開いた」高分子膜206’)は、顕微鏡による光学分析に有利である可能性がある。なぜなら、このような開いた高分子膜206’は焦点合わせを容易にするからである。高分子膜206’内の材料が少ないということは、イメージングのためにより多くの光学的クリアランスが提供されることを意味する可能性がある。
【0196】
一部の例では、高分子膜206を積み重ねることで、例えばより数の多い異なるオルガノイド260を1つの流体装置、例えば1つのオルガンオンチップデバイス内にまとめることができる。例えば、ともに生存し/通信し/タンパク質交換を行うことができるように、3つの膜の間に肝臓オルガノイドおよび膵臓オルガノイドを積み重ねることができる。
【0197】
さらなる例では、癌生検材料に由来する癌細胞の転移が研究されてもよい。このような例では、開口部210の直径を使用して、細胞が高分子膜206を通過して、例えばイメージングのために細胞が収集され得る隣接するチャンバ内に濾過されるか否かを選択することができる。
【0198】
したがって、より一般的には、流体装置は、開口部210、210’が互いに異なるサイズを有する2つの高分子膜206、206’を含み、高分子膜206、206’の間に画定された第1のチャンバと、高分子膜206、206’のうちの1つによって第1のチャンバから分離された第2のチャンバとを有する。
【0199】
さらに、高分子膜206、206’は、フレーム202、202’を使用してまとめられ得ることに留意されたい。したがって、このような非限定的な例では、フレーム202、202’は、高分子膜206、206’の取り付けに使用される、流体装置、例えば細胞培養装置の一部であり得る。
【0200】
図8A図8Cは、例えば本明細書または上記に記載の方法300または細胞培養装置で使用される、細胞サンプルのカプセル化のための例示的な高分子膜206の顕微鏡写真を提供する。
【0201】
図9は、図2Bに示す方法で形成された例示的なリノール酸変性ポリシロキサン高分子膜206の顕微鏡写真を示し、高分子膜は、直径5~7μmのレーザ穴あけされた開口部210を有する。この高分子膜206は、培地、タンパク質、および薬剤に対しては透過性であるが、細胞コアの直径は通常8μmであるため、細胞に対しては透過性がない。
【0202】
図10は、例示的なポリブタジエンの顕微鏡写真を示す。
【0203】
ヘプタンに溶解したポリブタジエンおよび不飽和リノール酸の混合物を、フレーム202を介して比較的極性の高いポリビニルアルコール箔200上に分注する104ことによって、可撓性の軟質膜を作製した。リノール酸のカルボン酸基は箔200の表面201に向けられている。ヘプタンを蒸発106させ、箔を除去110した後、得られた高分子膜206は、流体装置、例えば「3D」流体装置に簡単に取り付け可能/組み込み可能であった。高分子膜206の表面は極性部分(この例ではカルボン酸基)を有し、タンパク質、例えばヒトタンパク質との共有結合が可能である。なお、このような表面カルボン酸基は、例えば、Oregon green 488 Cadaverinを使用して検出できる。このような表面を官能化して細胞培養に適したものにする方法、またはそのような表面を直接(例えば、官能化せずに)、細胞培養に使用する方法は、本明細書並びに例えばWO2019015988およびWO2021058657に開示されている。
【0204】
ポリシロキサン膜は、ビニル末端基を有するポリシロキサン、ポリメチル水素シロキサン、およびヒドロシリル化触媒の混合物であるElastosil RT604(登録商標、Wackerから調達)と、リノール酸との混合物の層をポリビニルアルコール箔上に分注する104ことによって作製された。分注は、混合物の溶媒としてイソプロパノールおよび/またはヘプタンを使用して行うことができる。このような溶媒の濃度は、混合物の粘度を変えるために調整され得る。混合物のより薄い層を堆積させるために、結果としてより薄い高分子膜が得るために、より低い粘度の層が使用されてもよい。この例では溶媒は使用されなかった。塗布された層を室温で1時間硬化させ、その後、ポリビニルアルコールを水に溶解して除去した。より短い硬化時間が必要な場合は、他のタイプのキャスタブルElastosils(登録商標)が使用されてもよい。
【0205】
なお、一般に、本開示の方法、高分子膜および流体装置は、流体システムにおける細胞培養および任意のオンコロジー試験用のあらゆる種類のキャリアに適用可能である。
【0206】
本開示に係る細胞培養および/または流体装置の製造を説明する目的で、例えばWO2019015988に開示されている調整された設計および製造方法が一例として使用され得る。特に、この文献に開示された、部品の製造および部品の組み立てのための図3図8に関連する記載が、以下の説明に従ってわずかに調整され得る。
【0207】
したがって、例えばWO2019015988の図6を参照して、流体モジュール部品100の設計がわずかに調整され得る。調整された製造および設計は、本開示の図10のステップおよび断面によって表される。WO2019015988に開示される方法を使用して、流体モジュール100’が製造される。流体モジュール100’は、例えば、ポリジメチルシロキサンなどのエラストマーで作製することができ、好ましくは、WO2019015988に記載されているようなカルボン酸修飾が全く行われない。流体モジュールは、WO2019015988号に記載されているようにモールドされ得る。
【0208】
図10のこの第1の段階、すなわちステップ1050の前では、流体モジュール100’は、流体モジュールの第1の表面1002から流体モジュールの第2の表面1004まで延びるキャビティ1000(この場合は円筒形)を含む。キャビティ1000は、本開示に係る高分子膜(例えば、高分子膜1070)の取り付け後に高分子膜を収容する。取り付けの都合上、キャビティは、部分1010によって表されるように、厚さ(1002と1004との間の距離として測定される)よりも小さい選択された深さに沿って表面1004から流体モジュール内に表面1002に向かって延びる凹部を有していてもよい(この場合には凹部を有する)。しかし、そのような凹部は必ずしも必須ではない。
【0209】
第1の段階にはまた、流体モジュール100’に取り付けられる高分子膜1070が示されている。高分子膜1070は、フレーム202によって支持された高分子膜層を有する、図1Bのステップ116から得られるものであり得る。図示されたフレーム202の部分の間には、膜の多孔質部分がある。
【0210】
キャビティ1000(任意の凹部1010を含む)は、高分子膜1070を流体モジュール100’に取り付けると、キャビティ1000の少なくとも一部が高分子膜の多孔質部分によって拘束されるように設計される。高分子膜は、キャビティの拘束された部分が細胞培養キャビティとして機能できるように、キャビティの拘束された部分が高分子膜1070の第2の表面207(図1B参照)に面するように配向される。
【0211】
したがって、ステップ1050において、膜1070は、第2の表面が図10において下向きになるように流体モジュール100’に取り付けられる。これにより、キャビティはサブキャビティ1020およびサブキャビティ1030に分割される。サブキャビティ1020は、細胞培養に使用されるキャビティ1000の部分に対応する。膜1070は、凹部にぴったりと嵌るように設計されており、流体モジュールは弾性があるため、エラストマーをごくわずかに伸ばすことによって固定することができる。凹部は、膜が良好に嵌り、ぴったりと収容されるように、フレームの形状に応じた形状にすることができる。図10の方法の第2の段階から分かるように、膜はキャビティを2つのサブキャビティ1020および1030に分離しており、サブキャビティ1020は高分子膜の第2の表面207と直接接触している。
【0212】
図10の断面図には示されていないが、流体モジュール100’はさらに、WO2019015988に開示されているように設計されており、したがって、サブチャネル1020および1030に接続された流体チャネルを含む。よって、WO2019015988の図6を参照すると、そのようなチャネルの1つが部分115として示されており、流体モジュールの平面内で一方の対角方向に延在している。もう一方のチャネルは流体モジュールの底面側にあり(したがって、WO2019015988の図6の斜視図では見えない)、流体モジュールの平面内で他方の対角方向に延びている。
【0213】
図10の方法のステップ1060では、カバープレート1080および1090が流体モジュール100’の表面1002および1004に取り付けられる。カバープレート1080はWO2019015988の図6のカバープレート210に対応し、カバープレート1090はWO2019015988の図6のカバープレート220に対応する。したがって、カバープレートは、WO2019015988に記載されているように、流体チャネルに繋がっており、流体をチャネルに提供するための外界との接続を提供する開口部など、WO2019015988の図6の全ての特徴を含む。
【0214】
図面、開示、および添付の特許請求の範囲に基づき、クレームされる発明を実施する当業者によって、開示の実施形態の変形例が理解および実施され得る。特許請求の範囲において、「備える」や「含む」という用語は他の要素またはステップを排除するものではなく、単数形の要素は複数を除外しない。
【0215】
複数の手段が互いに異なる従属請求項に記載されているからといって、これらの手段の組み合わせを好適に使用することができないとは限らない。
【0216】
特許請求の範囲または明細書において「適合された」との表現が使用されている場合、「適合された」との表現は「構成された」という表現と同等であると理解されたい。
【0217】
特許請求の範囲内のいかなる参照符号も、その範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
さらなる例。
【0218】
例1. 細胞培養装置に適した高分子膜を製造する方法(100)であって、前記方法は、
第1のポリマー(200)の第1の表面(201)上に溶液(204)を提供するステップ(104)であって、前記溶液は、第2のポリマー、界面活性剤、および溶媒を含み、前記界面活性剤は、極性部分をそれぞれが有する界面活性剤分子を含む、提供するステップと、
前記高分子膜(206)を提供するために、前記溶液が前記第1の表面上にある間に前記溶媒を蒸発させるステップ(106)であって、前記高分子膜は、前記第1の表面と接触する第2の表面(207)を有し、前記第1のポリマーの少なくとも前記第1の表面は、前記極性部分に対する親和性が前記第2のポリマーよりも高い、蒸発させるステップと、を含む、方法。
【0219】
例2. 前記第2のポリマーがエラストマーを含み、かつ/または70以下のショアA硬度を有する、例1に記載の方法(100)。
【0220】
例3. 前記第2のポリマーが、ポリジエン、ポリシロキサン、およびポリウレタンから選択される少なくとも1つを含み、任意選択で、前記第2のポリマーはポリブタジエンを含む、例1または2に記載の方法(100)。
【0221】
例4. 前記第1のポリマー(200)が、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、およびポリエチレングリコールのうちの1つ以上を含む、例1から3のいずれかに記載の方法(100)。
【0222】
例5. 前記溶媒が、炭化水素溶媒、アルコール溶媒、およびケトン溶媒のうちの1つ以上を含む、例1から4のいずれかに記載の方法(100)。
【0223】
例6. 前記極性部分が、カルボン酸基、アミン基、またはアミド基である、例1から5のいずれかに記載の方法(100)。
【0224】
例7. 前記界面活性剤が脂肪酸を含み、前記脂肪酸のカルボン酸基が前記極性部分を画定する、例1から6のいずれかに記載の方法(100)。
【0225】
例8. 前記第2のポリマーと前記界面活性剤分子の少なくとも一部とを架橋するステップをさらに含み、任意選択で、前記第2のポリマーは不飽和炭素-炭素結合および/またはヒドリド官能基を含み、前記界面活性剤分子の前記少なくとも一部は、それぞれ不飽和炭素-炭素結合を含み、前記架橋するステップは、前記界面活性剤分子の前記不飽和炭素-炭素結合と、前記第2のポリマーの前記不飽和炭素-炭素結合および/またはヒドリド官能基との間の反応を介して行われる、例1から7のいずれかに記載の方法(100)。
【0226】
例9. 前記高分子膜(206)と前記第1のポリマー(200)とを分離するステップ(110)を含む、例1から8のいずれかに記載の方法(100)。
【0227】
例10. 前記分離するステップ(110)が、前記第1のポリマー(200)と前記高分子膜(206)とを互いにはがすステップ、および/または前記高分子膜の溶解性が低いか、もしくは前記高分子膜が不溶である溶媒に第1のポリマーを溶解することにより、前記高分子膜を前記第1のポリマーから分離するステップを含む、例9に記載の方法(100)。
【0228】
例11. 前記高分子膜(206)に1つ以上の開口部および/または溝(210)を形成するステップ(114)を含み、任意選択で、前記形成するステップは、前記高分子膜にレーザ穴あけするステップを含む、例1から10のいずれかに記載の方法(100)。
【0229】
例12. 細胞培養タンパク質で前記第2の表面(207)を官能化するステップを含み、任意選択で、前記細胞培養タンパク質はフィブロネクチンを含む、例1から11のいずれかに記載の方法(100)。
【0230】
例13. 例1から12のいずれかに記載の方法から得られる高分子膜(206)。
【0231】
例14. 例13に記載の高分子膜(206)を1つ以上備えた細胞培養装置。
【0232】
例15. 高分子膜(206)およびさらなる高分子膜(206’)を備えた細胞培養装置であって、前記高分子膜は、前記さらなるポリマーのさらなる表面(207’)に対向する表面(207)を有し、前記高分子膜のうちの少なくとも1つは、対応する前記表面(207、207’)において極性部分をそれぞれ有する界面活性剤分子を含む界面活性剤を含む、細胞培養装置。
【0233】
例16. 少なくとも1つの例13に記載の高分子膜(206)を用いて、細胞を細胞培養装置内に固定化するステップを含む、細胞培養方法。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
【国際調査報告】