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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】抗体の不均一性を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20240822BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240822BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C12P21/08
C07K16/00
C12P21/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517181
(86)(22)【出願日】2022-09-20
(85)【翻訳文提出日】2024-05-16
(86)【国際出願番号】 US2022044066
(87)【国際公開番号】W WO2023044139
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】63/246,047
(32)【優先日】2021-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】メロース、 フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ホウリハン、 ジョン
(72)【発明者】
【氏名】クロウリー、 ジョン
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064BJ12
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC01
4B064CC09
4B064CC12
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、培養pCOを制御することによって、細胞培養、特に哺乳動物細胞培養において産生される抗体などのFc含有タンパク質の不均一性を制御するための方法、並びにこれらの方法によって産生される産物を提供する。とりわけ、本発明は、抗体産物中の酸性電荷バリアントのパーセンテージを低下させることを提供する。Fc部分を含むタンパク質としては、抗体及び抗体誘導体、並びにそれら両方の断片などのFc含有タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養中の哺乳動物細胞によって産生される抗体産物における酸性電荷バリアントのパーセンテージを低減するための方法であって、前記方法が、
抗体を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することと、
前記哺乳動物細胞が、pCO条件なしで得られるよりも少ない酸性酸バリアントを有する抗体産物を産生することを可能にする前記pCO条件下で前記細胞を培養することであって、前記pCO条件が、前記培地中の120mmHg~140mmHgのCOである、培養することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記pCO条件が、スパージングによって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pCO条件が、COスパージングによって達成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記pCO条件下で産生される前記抗体が、前記pCO条件なしで得られるものよりも0.5%~4%少ない酸性バリアントを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体が、PD-1因子に結合することができる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が、IL-4受容体に結合することができる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が、ヒトモノクローナル抗体である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体が、ヒトモノクローナル抗体であり、IgG抗体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記IgG抗体が、IgG4抗体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、10~15日間培養される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
培養中の哺乳動物細胞によって産生される抗体における不均一性を制御する方法であって、前記方法が、
抗体を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することと、
前記哺乳動物細胞が抗体を産生することを可能にするpCO条件下で前記細胞を培養することであって、前記細胞によって産生される抗体の主ピーク形態が、全抗体の38%~65%を占め、前記抗体の前記酸性バリアントが、全抗体の20%~47%を占め、前記抗体の塩基性バリアントが、全抗体の最大36%を占める、培養することと、を含む、方法。
【請求項14】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記モノクローナル抗体が、PD-1因子に結合することができる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体が、IL-4受容体に結合することができる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体が、ヒトモノクローナル抗体である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ヒトモノクローナル抗体が、IgG1抗体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記IgG抗体が、IgG4抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
培養中の哺乳動物細胞によって産生される抗体、抗体誘導体又は抗体断片における不均一性を制御する方法であって、前記方法が、
抗体、抗体誘導体又は抗体断片を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することと、
前記哺乳動物細胞が抗体、抗体誘導体又は抗体断片を産生することを可能にするpCO条件下で前記細胞を培養することであって、前記細胞によって産生される抗体、抗体誘導体又は抗体断片の主ピーク形態が、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の50%~70%を占め、前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の酸性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の20%~47%を占め、前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の塩基性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大15%を占める、培養することと、を含む、方法。
【請求項21】
前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記塩基性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大10%を占める、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記塩基性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大8%を占める、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記塩基性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大6%を占める、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞によって産生される抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記主ピーク形態が、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の50%~65%を占め、前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記酸性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の23%~46%を占める、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記酸性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の23%~39%を占める、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記酸性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の31%~46%を占める、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
非グリコシル化重鎖を有する抗体のパーセンテージが、5~7%である、請求項20~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物細胞が、ヒトモノクローナル抗体を産生する、請求項20~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒトモノクローナル抗体が、IgG1抗体である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記IgG抗体が、IgG4抗体である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記pCO条件が、前記培養中に30mmHg~210mmHgである、請求項20~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記pCO条件が、COスパージングを使用して維持される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
pCOが、CO電極を使用して測定される、請求項20~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞である、請求項20~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
先行請求項のいずれか一項に記載の方法によって産生される、抗体産物。
【請求項36】
先行請求項のいずれか一項に記載の方法によって産生される、抗体誘導体産物。
【請求項37】
先行請求項のいずれか一項に記載の方法によって産生される、抗体断片産物。
【請求項38】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって産生される、抗体産物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年9月20日に出願された米国特許出願第63/246,047号(これは、参照により本明細書に組み込まれる)の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、細胞培養、特に哺乳動物細胞培養において産生されるFc含有タンパク質の不均一性を制御するための方法、並びにこれらの方法によって産生されるタンパク質産物及びタンパク質を提供する。Fc部分を含むタンパク質としては、抗体などのFc含有タンパク質が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
細胞培養における抗体などのFc含有タンパク質の産生は、電荷バリアントをもたらすことができ、これらは、酸性バリアント及び塩基性バリアントと呼ばれる2つのタイプになる。加えて、主ピーク形態がある。Fcは、自然界において見出される抗体重鎖において見出される定常領域であり、例えば、モノクローナル抗体にも含まれる「結晶化可能な断片」を指す。
【0004】
酸性バリアントは、典型的には、抗体中の塩基性バリアントよりも一般的であり、脱アミド化、シアリル化、糖化及び断片化をもたらす可能性があり、これは、Fc部分(抗体の断片結晶化可能領域からの部分)を含むタンパク質の安定性、活性及び効力を変化させる。Sissolak et al.,J.Indust.Microbiol.Biotech.46:1167-78(2019)。塩基性バリアントは、抗体のFc受容体への結合の増加を引き起こし得る。Hintersteiner et al.,MABS 8:1458-60(2016)。
【0005】
Fcグリカンは、安全性、生体活性、薬力学及び薬物動態においても役割を果たす。Reusch and Tejada,Glycobiol.25:1325-34(2015)。生じ得る現象は、非グリコシル化重鎖(NGHC)として知られる。NGHC変動は、オプソニン化などのエフェクター機能を変化させることができる。オプソニン化は、ADCC(抗体依存性細胞傷害性)、ADCP(抗体依存性細胞食作用)及びCDC(補体依存性細胞傷害性)に関与するFc部分に関係する。NGHC変動は、いくつかの文脈(疾患状態、投与経路及びFc含有タンパク質の種類に応じて)では懸念され得、他の文脈ではそれほど重要ではない。
【0006】
そのため、Fc部分を含むタンパク質における電荷変動及び/又はNGHCを制御する必要がある。しかしながら、これは、以下でより詳細に考察されるように、一方の最適化が、常にではないが、他方にとっておそらくより不利な状態につながり得る状況を生み出す可能性がある。抗体中の酸性電荷バリアントの影響により、通常、そのようなバリアントの発生を低減することが望まれる。最終的に、電荷変動は、いくつかの文脈(疾患状態、投与経路及びFc含有タンパク質の種類に応じて)では懸念され得、他の文脈ではそれほど重要ではない。以下に記載される発明は、この必要性及び他の必要性に対処する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、培養中の哺乳動物細胞によって産生される抗体などのFc含有タンパク質における不均一性を制御する方法を提供する。本方法は、Fc含有タンパク質を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することと、哺乳動物細胞がFc含有タンパク質を産生することを可能にするpCO条件下で細胞を培養することと、を含み得る。好ましくは、COスパージングを使用して、培養物中のpCOを増加させる。別のアプローチは、pCOを蓄積させ、空気スパージングで制御されることを可能にすることである。バイオリアクター内の圧力低下を使用して、pCOを制御することもできる。COスパージング、空気/窒素スパージング及び圧力低下の組み合わせを用いることができる。電荷バリアントは、主にFc領域における変化に起因する。
【0008】
当業者の目的に応じて、本明細書に含まれる教示を考慮して、COスパージング、空気/窒素スパージング及び圧力低下の組み合わせを用いることができる。
【0009】
本発明はまた、培養中の哺乳動物細胞によって産生される抗体などのFc含有タンパク質産物における酸性電荷バリアントのパーセンテージを制御する、好ましくは低減するための方法を提供し、本方法は、Fc含有タンパク質を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することと、哺乳動物細胞が、pCO条件なしで得られるよりも少ない酸性酸バリアントを有するFc含有タンパク質産物を産生することを可能にするpCO条件下で細胞を培養することと、を含み、pCO条件は、例えば、培地中で120mmHg~140mmHgのCOであるか、又はそうでなければ本明細書に開示されるとおりである。pCO条件は、COスパージングなどのスパージングによって達成することができる。電荷バリアントは、Fc領域における変化によって引き起こされ得る。pCO条件下で産生されるFc含有タンパク質は、例えば、pCO条件なしで得られるよりも0.5%~4%少ない酸性バリアントを有することができる。Fc含有タンパク質は、PD-1因子又はIL-4受容体に結合することができる抗体などの抗体であり得る。好ましくは、抗体は、ヒトモノクローナル抗体、好ましくは、IgG1及びIgG4などのサブクラスを含むIgG抗体である。哺乳動物細胞は、例えば、CHO、BHK、HEK293、HeLa、ヒト羊水、Per.C6及びSp2/0細胞であり得る。細胞は、本明細書に開示される様々なpCO条件下で10~15日間、好ましくは約14日間培養することができる。
【0010】
本発明は更に、抗体などのFc含有タンパク質を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することと、哺乳動物細胞がFc含有タンパク質を産生することを可能にするpCO条件下で細胞を培養することと、を含む方法を提供し、細胞によって産生されるFc含有タンパク質の主ピーク形態は、全Fc含有タンパク質の約38%~約65%を含み、Fc含有タンパク質の酸性バリアントは、全Fc含有タンパク質の約20%~約47%を含み、Fc含有タンパク質の塩基性バリアントは、抗体、誘導体、及びそれら両方の断片であり得る全Fc含有タンパク質の最大約36%を含む。細胞は、約10~15日間、好ましくは約14日間培養することができる。pCO条件は、培養中に約30mmHg~約210mmHg、50mmHg~200mmHg、60mmHg~190mmHg、70mmHg~180mmHg、80mmHg~170mmHg、90mmHg~160mmHg、100mmHg~150mmHg、110mmHg~140mmHg、120mmHg~140mmHg、120mmHg~130mmHg、又はこれらの範囲内の任意の値とすることができ、好ましくはCOスパージングによって維持され、CO電極を使用して測定することができる。細胞は、CHO、BHK、HEK293、HeLa、ヒト羊水、Per.C6及びSp2/0細胞を含む、任意の好適な哺乳動物細胞であり得る。
【0011】
Fc含有タンパク質は、PD-1因子又はIL-4受容体に結合することができる抗体などの抗体であり得る。好ましくは、抗体は、ヒトモノクローナル抗体、好ましくは、IgG1及びIgG4などのサブクラスを含む全てのIgG抗体である。
【0012】
本発明はまた、培養中の哺乳動物細胞によって産生される抗体、抗体誘導体又は抗体断片の不均一性を、抗体、抗体誘導体又は抗体断片を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することによって制御する方法、並びに哺乳動物細胞が抗体、抗体誘導体又は抗体断片を産生することを可能にするpCO条件下で細胞を培養する方法を提供し、細胞によって産生される抗体、抗体誘導体又は抗体断片の主ピーク形態は、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の約50%~約70%を占め、抗体、抗体誘導体又は抗体断片の酸性バリアントは、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の約20%~約47%を占め、抗体、抗体誘導体又は抗体断片の塩基性バリアントは、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大約15%を占める。抗体、抗体誘導体又は抗体断片の塩基性バリアントは、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大約6%、約8%又は約10%、好ましくは約15%以下を占めることができる。細胞によって産生される抗体、抗体誘導体又は抗体断片の主ピーク形態は、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の約50%~約65%を占めることができ、抗体、抗体誘導体又は抗体断片の酸性バリアントは、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の約23%~約46%、約23%~約39%又は約31%~約46%を占める。例えば、非グリコシル化重鎖を有する抗体などのFc含有タンパク質のパーセンテージは、約5~約7%を含み、他の範囲が本明細書に提供される。細胞は、約10~15日間、好ましくは約14日間培養することができる。pCO条件は、培養中に約30mmHg~約210mmHg、50mmHg~200mmHg、60mmHg~190mmHg、70mmHg~180mmHg、80mmHg~170mmHg、90mmHg~160mmHg、100mmHg~150mmHg、110mmHg~140mmHg、120mmHg~140mmHg、120mmHg~130mmHg、又はこれらの範囲内の任意の値とすることができ、好ましくはCOスパージングによって維持され、CO電極を使用して測定することができる。本明細書に含まれる教示を考慮して当業者によって決定されるように、pCOは、COスパージング、空気若しくは他のスパージング、及び/又はバイオリアクター圧力を変動させることによって、培養プロセス中に変化させることができる。
【0013】
細胞は、CHO、BHK、HEK293、HeLa、ヒト羊水、Per.C6及びSp2/0細胞を含む、任意の好適な哺乳動物細胞であり得る。それによって産生される抗体、抗体誘導体及び抗体断片などのFc含有タンパク質は、本明細書に提供される発明である。
【0014】
Fc含有タンパク質は、PD-1因子又はIL-4受容体に結合することができる抗体などの抗体であり得る。好ましくは、抗体は、ヒトモノクローナル抗体、好ましくは、IgG1及びIgG4などのサブクラスを含む全てのIgG抗体である。
【0015】
典型的には、本明細書に含まれる本発明の教示に従って産生される抗体などのFc含有タンパク質は、全Fc含有タンパク質の20%~50%、より具体的には、20%~47%、23%~45%、25%~40%、28%~37%、28%~35%、29%~34%、30%~33%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値を構成する酸性電荷バリアントを有する。Fc含有タンパク質は、全Fc含有タンパク質の38%~70%、より具体的には45%~70%、50%~65%、55%~60%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値を構成する主ピーク形態を有する。Fc含有タンパク質は、全Fc含有タンパク質の1%~40%、より具体的には2%~35%、3%~30%、4%~25%、5%~20%、6%~15%、7%~12%、7.5%~10%、8%~9%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値を構成する塩基性電荷バリアントを有する。
【0016】
産物全体の酸性電荷バリアント画分は、本発明に従って、0.1%~10%の範囲、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値だけ制御する、好ましくは低減することができる。例えば、表1を参照されたい。より具体的には、酸性バリアント画分は、0.2%~9%、0.3%~8%、0.4%~7%、0.5%~6%、0.6%~5%、0.7%~4.75%、0.75%~4.5%、0.8%~4.25%。0.9%~4%、1%~3.75%。1%~3.5%、1%~3.25%、1%~3%、1%~2.75%、1.25%~2.5%、1.25%~2.25%、1.25%~2%、1.5%~2%、1.5%~1.75%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値だけ低下させることができる。更に、他の範囲には、0.1%~4%、0.25%~4%、0.25%~3.75%、0.25%~3.5%、0.25%~3%、0.25%~2.75%、0.25%~2.5%、0.25%~2.25%、0.25%~2%、0.25%~1.75%、0.25%~1.5%、0.25%~1.25%、0.25%~1%、0.25%~0.75%。0.25%~0.5%、0.5%~4%、0.5%~3.75%、0.5%~3.5%、0.5%~3%、0.5%~2.75%、0.5%~2.5%、0.5%~2.25%、0.5%~2%、0.5%~1.75%、0.5%~1.5%、0.5%~1.25%、0.5%~1%、0.5%~0.75%、0.75%~4%、0.75%~3.75%、0.75%~3.5%、0.75%~3%、0.75%~2.75%、0.75%~2.5%、0.75%~2.25%、0.75%~2%、0.75%~1.75%、0.75%~1.5%、0.75%~1.25%、0.75%~1%、1%~4%、1%~3.75%、1%~3.5%、1%~3%、1%~2.75%、1%~2.5%、1%~2.25%、1%~2%、1%~1.75%、1%~1.5%、1%~1.25%、1.25%~4%、1.25%~3.75%、1.25%~3.5%、1.25%~3%、1.25%~2.75%、1.25%~2.5%、1.25%~2.25%、1.25%~2%、1.25%~1.75%、1.25%~1.5%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値が含まれる。例えば、酸性電荷バリアント画分は、少なくとも0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%。1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%以上、例えば、最大5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%以上変化させる、好ましくは、低下させることができる。
【0017】
産物全体の塩基性電荷バリアント画分は、本発明に従って、0.1%~15%の範囲、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値だけ制御することができる。より具体的には、塩基性電荷バリアント画分は、0.1%~14%、0.1%~13%、0.1%~12%、0.1%~11%、0.2%~10%、0.2%~9%、0.3%~8%、0.4%~7%、0.5%~6%、0.6%~5%、0.7%~4.75%、0.75%~4.5%、0.8%~4.25%。0.9%~4%、1%~3.75%。1%~3.5%、1%~3.25%、1%~3%、1%~2.75%、1%~2.75%、1.25%~2.5%、1.25%~2.25%、1.25%~2%、1.5%~2%、1.5%~1.75%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値だけ変化させることができる。更に、他の範囲には、0.1%~4%、0.25%~4%、0.25%~3.75%、0.25%~3.5%、0.25%~3%、0.25%~2.75%、0.25%~2.5%、0.25%~2.25%、0.25%~2%、0.25%~1.75%、0.25%~1.5%、0.25%~1.25%、0.25%~1%、0.25%~0.75%。0.25%~0.5%、0.5%~4%、0.5%~3.75%、0.5%~3.5%、0.5%~3%、0.5%~2.75%、0.5%~2.5%、0.5%~2.25%、0.5%~2%、0.5%~1.75%、0.5%~1.5%、0.5%~1.25%、0.5%~1%、0.5%~0.75%、0.75%~4%、0.75%~3.75%、0.75%~3.5%、0.75%~3%、0.75%~2.75%、0.75%~2.5%、0.75%~2.25%、0.75%~2%、0.75%~1.75%、0.75%~1.5%、0.75%~1.25%、0.75%~1%、1%~4%、1%~3.75%、1%~3.5%、1%~3%、1%~2.75%、1%~2.5%、1%~2.25%、1%~2%、1%~1.75%、1%~1.5%、1%~1.25%、1.25%~4%、1.25%~3.75%、1.25%~3.5%、1.25%~3%、1.25%~2.75%、1.25%~2.5%、1.25%~2.25%、1.25%~2%、1.25%~1.75%、1.25%~1.5%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値が含まれる。塩基性電荷バリアント画分は、少なくとも0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%。1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%以上、例えば、最大5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%以上変化させることができる。
【0018】
本明細書に含まれる本発明の教示に従って産生される抗体などのFc含有タンパク質は、典型的には、全Fc含有タンパク質の3%~8%、より具体的には、4%~7%、5%~7%、及び5%~6.5%、5%~6%、5%~5.75%、5%~5.5%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値で存在する非グリコシル化重鎖(NGHC)のパーセンテージを有する。
【0019】
本発明の方法によって産生される抗体などのFc含有タンパク質、並びにFc含有タンパク質の誘導体及び断片もまた、本明細書に提供される本発明の一部である。抗体としては、PD-1因子に結合することができる抗体及びインターロイキン4受容体に結合することができる抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1及び3のpCOレベルを示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図2】実施例2及び4のpCOレベルを示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図3】表6に示される空気スペアリング及びpH条件での2リットルバイオリアクターの産生日中の予測pHレベルを示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図4】実際の領域1(%)(y軸)及び予測される領域1(%)(x軸)を示す。領域1は、酸性電荷バリアントについてのものである。
図5図4のデータの適合性の要約、分散分析及びパラメータ推定について設定する。
図6】実際の領域2(%)(y軸)及び予測される領域2(%)(x軸)を示す。領域2は、主ピーク形態についてのものである。
図7図6のデータの適合性の要約、分散分析及びパラメータ推定について設定する。
図8】実際の領域3(%)(y軸)及び予測される領域3(%)(x軸)を示す。領域3は、塩基性電荷バリアントについてのものである。
図9図8のデータの適合性の要約、分散分析及びパラメータ推定について設定する。
図10】実際のNGHC(y軸)及び予測されるNGHC(x軸)を示す。
図11図10のデータの適合性の要約、分散分析及びパラメータ推定について設定する。
図12】プロセス時間(日)にわたる生細胞密度値を示す。y軸は、最大350×10細胞/mlの値を有する。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図13】プロセス時間(日)にわたる細胞生存率パーセンテージを示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図14】プロセス時間(日)にわたるpH値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図15】プロセス時間(日)にわたるpCO値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図16】プロセス時間(日)にわたるグルコース値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図17】プロセス時間(日)にわたるカリウム値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図18】プロセス時間(日)にわたるナトリウム値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図19】プロセス時間(日)にわたる浸透圧値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図20】プロセス時間(日)にわたるグルタメート値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図21】プロセス時間(日)にわたるラクテート値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図22】プロセス時間(日)にわたるアンモニア値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図23】プロセス時間(日)にわたるグルタミン値を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。
図24】実施例6からのプロセス時間(日)にわたるmmHgでのpCO(y軸)を示す。中程度のpCOを中間点対照として選択した。TEMPは、本明細書に記載される細胞の生理学的温度を指す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、これらの発明が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0022】
定義
数値及び範囲の文脈における「約」という用語は、本明細書に含まれる教示から明らかであるように、本発明が、例えば、求められた速度、量、密度、程度、増加、減少、パーセンテージ、形態の値若しくは存在、バリアント、温度又は時間の量を有して実施することができるように、列挙された値若しくは範囲に近似するか、又はそれらに近い値若しくは範囲を指す。したがって、この用語は、単に系統誤差から生じる値を超えた値を包含する。例えば、「約」は、実施する能力に応じて、およそ+/-10%以上又はそれ以下の範囲の記載された値を上回るか下回るかのいずれかの値を示すことができる。
【0023】
「抗体」(「免疫グロブリン」とも称される)は、複数のポリペプチド鎖及び広範な翻訳後修飾を有するタンパク質の例である。正準免疫グロブリンタンパク質(例えば、IgG)は、4つのポリペプチド鎖-2つの軽鎖及び2つの重鎖を含む。各軽鎖は、システインジスルフィド結合を介して1つの重鎖に連結し、2つの重鎖は、2つのシステインジスルフィド結合を介して互いに結合している。哺乳動物系において産生される免疫グロブリンはまた、様々な多糖によって様々な残基(例えば、アスパラギン残基)においてグリコシル化され、種によって異なり得、これは治療用抗体の抗原性に影響を及ぼし得る。Butler and Spearman,“The choice of mammalian cell host and possibilities for glycosylation engineering”,Curr.Opin.Biotech.30:107-112(2014)。
【0024】
抗体は、しばしば、治療用生体分子として使用される。抗体は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖で構成される免疫グロブリン分子を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に更に細分することができる。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置される(重鎖CDRはHCDR1、HCDR2及びHCDR3と略され得、軽鎖CDRはLCDRl、LCDR2及びLCDR3と略され得る)。「高親和性」抗体という用語は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)又は溶液親和性ELISAによって測定されるとき、少なくとも10-9M、少なくとも10-10M、少なくとも10-11M、又は少なくとも10-12Mのそれらの標的に対する結合親和性を有する抗体を指す。
【0025】
「酸性電荷バリアント」は、Fc含有タンパク質(例えば、抗体)バリアントであって、Fc含有タンパク質の主ピーク形態よりも低いpIを有するバリアントである。酸性電荷バリアントは、より多くの負電荷を有する傾向がある。
【0026】
「塩基性電荷バリアント」は、Fc含有タンパク質(例えば、抗体)バリアントであって、Fc含有タンパク質の主ピーク形態よりも高いpIを有するバリアントである。塩基性電荷バリアントは、より多くの正の電荷又はより少ない負の電荷を有する傾向がある。
【0027】
Fc含有タンパク質(例えば、抗体)の「主ピーク形態」は、Fc含有タンパク質の優勢形態であり、酸性電荷バリアントと塩基性電荷バリアントとの間にpIを有する。
【0028】
「二重特異性抗体」という語句は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体を含む。二重特異性抗体は一般に、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、2つの異なる分子(例えば、抗原)上、又は同じ分子上(例えば、同じ抗原上)のいずれかで異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープと第2のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1のエピトープに対する第1の重鎖の親和性は一般に、第2のエピトープに対する第1の重鎖の親和性よりも少なくとも1~2桁、3桁又は4桁低くなり、また、その逆も同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ標的上に存在することも、異なる標的上に存在することもできる(例えば、同じタンパク質上又は異なるタンパク質上)。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合することができ、そのような配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞内で発現させることができる。典型的な二重特異性抗体は、各々3つの重鎖CDR、次いで(N末端からC末端まで)CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを有する2つの重鎖と、抗原結合特異性を与えないが各重鎖と会合することができる、又は各重鎖と会合することができ、重鎖抗原結合領域によって結合されるエピトープのうちの1つ以上に結合することができる、又は各重鎖と会合することができ、一方若しくは両方の重鎖を一方若しくは両方のエピトープに結合させることができる、免疫グロブリン軽鎖とを有する。
【0029】
「重鎖」又は「免疫グロブリン重鎖」という語句は、任意の生物からの免疫グロブリン重鎖定常領域配列を含み、別途指定されない限り、重鎖可変ドメインを含む。重鎖可変ドメインは、別途指定されない限り、3つの重鎖CDR及び4つのFR領域を含む。重鎖の断片には、CDR、CDR及びFR、並びにそれらの組み合わせが含まれる。典型的な重鎖は、可変ドメインに続いて(N末端からC末端まで)、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを有する。重鎖の機能的断片は、抗原を特異的に認識することができ(例えば、マイクロモル、ナノモル、又はピコモル範囲のKDで抗原を認識する)、細胞から発現及び分泌することができ、少なくとも1つのCDRを含む断片を含む。
【0030】
「軽鎖」という語句は、任意の生物からの免疫グロブリン軽鎖定常領域配列を含み、別途指定されない限り、ヒトカッパ及びラムダ軽鎖を含む。軽鎖可変(VL)ドメインは、典型的に、別途指定されない限り、3つの軽鎖CDR及び4つのフレームワーク(FR)領域を含む。一般に、全長軽鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端まで、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含むVLドメイン、及び軽鎖定常ドメインを含む。これらの発明で使用することができる軽鎖としては、例えば、抗原結合タンパク質によって選択的に結合される第1又は第2の抗原のいずれにも選択的に結合しない軽鎖が挙げられる。好適な軽鎖としては、既存の抗体ライブラリ(ウェットライブラリ又はインシリコ)において最も一般的に用いられる軽鎖についてスクリーニングすることによって特定することができるものが挙げられ、軽鎖は、抗原結合タンパク質の抗原結合ドメインの親和性及び/又は選択性に実質的に干渉しない。好適な軽鎖としては、抗原結合タンパク質の抗原結合領域によって結合される一方又は両方のエピトープに結合することができるものが挙げられる。
【0031】
「可変ドメイン」という語句は、N末端からC末端までの配列に(別途示されない限り)、以下のアミノ酸領域を含む、免疫グロブリン軽鎖又は重鎖のアミノ酸配列(所望のとおり修飾される)を含む:FRl、CDRl、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。「可変ドメイン」は、ベータシートが第1のベータシートの残基と第2のベータシートの残基との間のジスルフィド結合によって接続される、二重ベータシート構造を有する正準ドメイン(VH又はVL)に折り畳むことができるアミノ酸配列を含む。
【0032】
「相補性決定領域」という語句又は「CDR」という用語は、通常(すなわち、野生型生物において)、免疫グロブリン分子(例えば、抗体又はT細胞受容体)の軽鎖又は重鎖の可変領域における2つのフレームワーク領域の間に現れる、生物の免疫グロブリン遺伝子の核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。CDRは、例えば、生殖細胞系列配列、あるいは、例えば、ナイーブ又は成熟B細胞若しくはT細胞によって、再配列されたか又は再配列されていない配列によってコードすることができる。いくつかの状況において(例えば、CDR3の場合)、CDRは、隣接していない(例えば、再配列されていない核酸配列において)が、B細胞核酸配列において、例えば、配列のスプライシング又は接続の結果(例えば、重鎖CDR3を形成するV-D-J組換え)として隣接している、2つ以上の配列(例えば、生殖細胞系列配列)によってコードすることができる。
【0033】
「抗体誘導体及び断片」としては、抗体断片(例えば、ScFv-Fc、dAB-Fc、半抗体)、多重特異性(例えば、IgG-ScFv、IgG-dab、ScFV-Fc-ScFV、三重特異性)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
「Fc含有タンパク質」という語句は、抗体、二重特異性抗体、Fcを含有する抗体誘導体、Fcを含有する抗体断片、Fc融合タンパク質、イムノアドヘシン、並びに免疫グロブリンCH2及びCH3領域の少なくとも機能的部分を含む他の結合タンパク質を含む。「機能的部分」は、Fc受容体(例えば、FcyR、又はFcRn(新生児Fc受容体)に結合することができ、かつ/又は補体の活性化に関与することができる、CH2及びCH3領域を指す。CH2領域及びCH3領域が、それを任意のFc受容体に結合できないようにし、また補体を活性化できないようにする、欠失、置換、及び/若しくは挿入又は他の修飾を含む場合、CH2領域及びCH3領域は機能的ではない。Fc融合タンパク質としては、例えば、Fc融合(N末端)、Fc融合(C末端)、単一Fc融合及び二重特異性Fc融合タンパク質が挙げられる。
【0035】
「Fc」は、結晶化可能な断片を表し、しばしば、断片定数と称される。抗体は、2つの同一のタンパク質配列で形成されるFc領域を含む。IgGは、γ鎖として知られる重鎖を有する。IgAは、α鎖として知られる重鎖を有し、IgMは、μ鎖として知られる重鎖を有する。IgDは、σ鎖として知られる重鎖を有する。IgEは、ε鎖として知られる重鎖を有する。自然界では、Fc領域は、同じ種における所与のクラス及びサブクラスの全ての抗体で同じである。ヒトIgGは、4つのサブクラスを有し、サブクラス間で約95%の相同性を共有する。各サブクラスでは、Fc配列は同じである。例えば、ヒトIgG1抗体は、同じFc配列を有する。同様に、IgG2抗体は、同じFc配列を有し、IgG3抗体は、同じFc配列を有し、IgG4抗体は、同じFc配列を有する。Fc領域における変化は、電荷変動を生じる。
【0036】
Fc含有タンパク質、例えば抗体は、免疫グロブリンドメインに修飾を含むことができ、修飾が結合タンパク質の1つ以上のエフェクター機能に影響を与える場合(例えば、FcyR結合、FcRn結合、したがって半減期、及び/又はCDC活性に影響を与える修飾)を含む。そのような修飾としては、免疫グロブリン定常領域のEU付番を参照して、以下の修飾及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない:238、239、248、249、250、252、254、255、256、258、265、267、268、269、270、272、276、278、280、283、285、286、289、290、292、293、294、295、296、297、298、301、303、305、307、308、309、311、312、315、318、320、322、324、326、327、328、329、330、331、332、333、334、335、337、338、339、340、342、344、356、358、359、360、361、362、373、375、376、378、380、382、383、384、386、388、389、398、414、416、419、428、430、433、434、435、437、438、及び439。
【0037】
例えば、限定によるものではなく、結合タンパク質は、Fc含有タンパク質(例えば、抗体)であり、増強された血清半減期を呈し(列挙された修飾(複数可)を有しない同じFc含有タンパク質と比較して)、250位(例えば、E又はQ)、250位及び428位(例えば、L又はF)、252位(例えば、L/Y/F/W又はT)、254位(例えば、S又はT)、及び256位(例えば、S/R/Q/E/D又はT)における修飾、あるいは428位及び/又は433位(例えば、L/R/SI/P/Q若しくはK)及び/又は434位(例えば、H/F若しくはY)における修飾、あるいは250位及び/又は428位における修飾、あるいは307位又は308位(例えば、308F、V308F)及び434位における修飾を有する。別の例では、修飾は、428L(例えば、M428L)修飾及び434S(例えば、N434S)修飾、428L修飾、2591(例えば、V259I)修飾、及び308F(例えば、V308F)修飾、433K(例えば、H433K)修飾及び434(例えば、434Y)修飾、252、254、及び256(例えば、252Y、254T、及び256E)修飾、250Q修飾及び428L修飾(例えば、T250Q及びM428L)、307修飾及び/又は308修飾(例えば、308F又は308P)を含むことができる。
【0038】
「培養培地(培地)」は水性であり、培養中の細胞、例えば、バイオリアクターにおいて培養中の細胞の増殖及びタンパク質の産生をサポートするために必要なミネラル、緩衝塩、栄養素及び他の添加剤を含む。
【0039】
「ピーク生細胞密度」又は「ピークVCD」は、培養中の細胞のピーク密度を指す。図12を参照されたい。
【0040】
「スパージング」とは、培養培地にガスを圧送することを指す。ガスは、CO、空気又は他のガスであり得る。COスパージングは、pCOを増加させる。空気スパージング及び窒素スパージングは、pCOを減少させる。スパージング速度は、バイオリアクターのサイズに基づいて決定され、速度は、典型的には、小型バイオリアクターにおいて立方センチメートル/分(ccm)で測定される。商業的生産に利用される大型バイオリアクター(典型的には1,000~10,000リットル)では、スパージング速度は、標準リットル/分(slpm)で測定される。
【0041】
「タンパク質産物」は、Fc含有タンパク質(例えば、抗体)などの目的のタンパク質を指す。タンパク質産物は、培養中の細胞、通常は操作された哺乳動物細胞によって産生され得る。典型的には、培養中の細胞、例えば、バイオリアクターにおいて培養中の細胞は、目的のタンパク質を産生し、それらのタンパク質は、タンパク質産物になる。タンパク質産物は、後に精製、特性評価、滅菌、製剤化、及び濃縮又は凍結乾燥などの他の仕上げステップ、及び最終的に完成したタンパク質産物を形成するためのパッケージングに供することができる。タンパク質産物には、製剤原薬(FDS)が含まれる。
【0042】
本明細書に示される全ての数値的限界及び範囲は、当該範囲又は限界の数値の周辺又はその間の全ての数値又は値を含む。本明細書に記載される範囲及び限界は、範囲又は限界によって定義され、包含される全ての整数、小数、及び分数値を明示的に表し、記載する。
【0043】
詳細な説明
抗体電荷バリアントには、酸性バリアント及び塩基性バリアントが含まれる。電荷バリアントは、抗体上の正味の負電荷を増加させる脱アミド化及びシアリル化を含む酵素修飾によって引き起こされ得、これがpI値を減少させ、酸性バリアントを形成する。更に、C末端からのリジン切断は、正味の正電荷の喪失を引き起こし、酸性バリアントの形成につながる。
酸性バリアントはまた、グルコース又はラクトースがリジン残基の一級アミンと反応する糖化のような共有結合部分の作製によっても生じ得る。塩基性バリアントの形成は、C末端リジン若しくはグリシンアミド化、スクシンイミド形成、アミノ酸酸化、又はシアル酸の除去の存在によって引き起こされる。これらは、正電荷の追加又は負電荷の排除を提供し、それによってpI値を増加させる。Khawli et al.,mAbs 2:6,613-624(2010)を参照されたい。
【0044】
本発明は、哺乳動物細胞培養において産生されるタンパク質及びグリコシル化バリアントの電荷バリアント(酸性及び塩基性)の集団を制御するためのアプローチを提供する。実施形態は、抗体並びにその断片及び誘導体を含む、Fc含有タンパク質の産生を含む。本発明は、産生中に培地の二酸化炭素濃度(pCO)を選択することによって、この制御を可能にする。NGHCはまた、pHを介して制御することもできる。
【0045】
本明細書で教示されるpCOレベルとは別に、標準的な条件及び培地を用いてもよい。典型的には、細胞は、約36℃~38℃、好ましくは36℃~37℃の温度などの生理学的条件下で培養される。
【0046】
典型的には、本明細書に含まれる本発明の教示に従って産生されるFc含有タンパク質(例えば、抗体)は、全Fc含有タンパク質の20%~50%、より具体的には、20%~47%、23%~45%、25%~40%、28%~37%、28%~35%、29%~34%、30%~33%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値を構成する酸性電荷バリアントを有する。Fc含有タンパク質は、全Fc含有タンパク質の38%~70%、より具体的には45%~70%、50%~65%、55%~60%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値を構成する主ピーク形態を有する。Fc含有タンパク質は、全Fc含有タンパク質の1%~40%、より具体的には2%~35%、3%~30%、4%~25%、5%~20%、6%~15%、7%~12%、7.5%~10%、8%~10%、8%~9%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値を構成する塩基性電荷バリアントを有する。
【0047】
本明細書に含まれる本発明の教示に従って産生されるFc含有タンパク質(例えば、抗体)は、典型的には、全Fc含有タンパク質の3%~8%、より具体的には、4%~7%、5%~7%、及び5%~6.5%、5%~6%、5%~5.75%、5%~5.5%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値で存在する非グリコシル化重鎖(NGHC)のパーセンテージを有する。
【0048】
産物全体の酸性電荷バリアント画分は、本発明に従って、0.1%~10%の範囲、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値だけ制御する、好ましくは低減することができる。例えば、表1を参照されたい。より具体的には、酸性バリアント画分は、0.2%~9%、0.3%~8%、0.4%~7%、0.5%~6%、0.6%~5%、0.7%~4.75%、0.75%~4.5%、0.8%~4.25%。0.9%~4%、1%~3.75%。1%~3.5%、1%~3.25%、1%~3%、1%~2.75%、1%~2.75%、1.25%~2.5%、1.25%~2.25%、1.25%~2%、1.5%~2%、1.5%~1.75%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値変化させることができる。更に、他の範囲には、0.1%~4%、0.25%~4%、0.25%~3.75%、0.25%~3.5%、0.25%~3%、0.25%~2.75%、0.25%~2.5%、0.25%~2.25%、0.25%~2%、0.25%~1.75%、0.25%~1.5%、0.25%~1.25%、0.25%~1%、0.25%~0.75%。0.25%~0.5%、0.5%~4%、0.5%~3.75%、0.5%~3.5%、0.5%~3%、0.5%~2.75%、0.5%~2.5%、0.5%~2.25%、0.5%~2%、0.5%~1.75%、0.5%~1.5%、0.5%~1.25%、0.5%~1%、0.5%~0.75%、0.75%~4%、0.75%~3.75%、0.75%~3.5%、0.75%~3%、0.75%~2.75%、0.75%~2.5%、0.75%~2.25%、0.75%~2%、0.75%~1.75%、0.75%~1.5%、0.75%~1.25%、0.75%~1%、1%~4%、1%~3.75%、1%~3.5%、1%~3%、1%~2.75%、1%~2.5%、1%~2.25%、1%~2%、1%~1.75%、1%~1.5%、1%~1.25%、1.25%~4%、1.25%~3.75%、1.25%~3.5%、1.25%~3%、1.25%~2.75%、1.25%~2.5%、1.25%~2.25%、1.25%~2%、1.25%~1.75%、1.25%~1.5%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値が含まれる。例えば、酸性電荷バリアント画分は、少なくとも0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%。1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%以上、例えば、最大5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%以上変化させることができる。
【0049】
産物全体の塩基性電荷バリアント画分は、本発明に従って、0.1%~10%の範囲、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値だけ制御することができる。より具体的には、塩基性バリアント画分は、0.2%~9%、0.3%~8%、0.4%~7%、0.5%~6%、0.6%~5%、0.7%~4.75%、0.75%~4.5%、0.8%~4.25%。0.9%~4%、1%~3.75%。1%~3.5%、1%~3.25%、1%~3%、1%~2.75%、1%~2.75%、1.25%~2.5%、1.25%~2.25%、1.25%~2%、1.5%~2%、1.5%~1.75%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値だけ変化させることができる。更に、他の範囲には、0.1%~4%、0.25%~4%、0.25%~3.75%、0.25%~3.5%、0.25%~3%、0.25%~2.75%、0.25%~2.5%、0.25%~2.25%、0.25%~2%、0.25%~1.75%、0.25%~1.5%、0.25%~1.25%、0.25%~1%、0.25%~0.75%。0.25%~0.5%、0.5%~4%、0.5%~3.75%、0.5%~3.5%、0.5%~3%、0.5%~2.75%、0.5%~2.5%、0.5%~2.25%、0.5%~2%、0.5%~1.75%、0.5%~1.5%、0.5%~1.25%、0.5%~1%、0.5%~0.75%、0.75%~4%、0.75%~3.75%、0.75%~3.5%、0.75%~3%、0.75%~2.75%、0.75%~2.5%、0.75%~2.25%、0.75%~2%、0.75%~1.75%、0.75%~1.5%、0.75%~1.25%、0.75%~1%、1%~4%、1%~3.75%、1%~3.5%、1%~3%、1%~2.75%、1%~2.5%、1%~2.25%、1%~2%、1%~1.75%、1%~1.5%、1%~1.25%、1.25%~4%、1.25%~3.75%、1.25%~3.5%、1.25%~3%、1.25%~2.75%、1.25%~2.5%、1.25%~2.25%、1.25%~2%、1.25%~1.75%、1.25%~1.5%、又はこれらの範囲内の任意の整数値若しくは分数値が含まれる。塩基性電荷バリアント画分は、少なくとも0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%以上、例えば、最大5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%以上変化させることができる。
【0050】
典型的には、発酵中のCO濃度は、2つの供給源、すなわち、大気中のCO及び呼吸を介して細胞によって産生されるCOに由来する。本発明は、有利には、電荷バリアントを制御するために追加のCOを用いることができる。いかなる理論にも縛られないが、培地中のCOレベルの増加は、電荷変動に単独で又は共同で関与する細胞内COの増加につながると考えられている。この効果は、炭酸又は他の酸性化学物質の形成に起因する可能性のあるpHのいかなる減少とも別のものである。
【0051】
二酸化炭素濃度は、COスパージングを使用するか、又は空気スパージングを低下させることによって増加させることができる。COスパージングは、pCOを増加させる。二酸化炭素濃度の減少が所望される場合、スパージングは、空気を含む他のガスで行うことができる。空気スパージング及び窒素スパージングは、pCOを減少させる。産生バイオリアクター内の圧力を低減すると、酸素の溶解度が低減し、次にこれは、溶解酸素(DO)設定値を維持するための酸素のより大きなスパージング、及び培養培地からpCOを除去するガス流量の増加を必要とする。
【0052】
二酸化炭素濃度は、CO電極(セベリングハウス電極とも称される)を使用して測定することができる。BioProfile(登録商標)FLEX及びFLEX2分析装置など、より高度なシステムが市販されている。電荷バリアントは、イメージングキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)及び塩勾配による溶出を伴うイオン交換クロマトグラフィーを使用して測定することができる。NGHCは、還元キャピラリー電気泳動(CE)-SDSによって測定することができる。
【0053】
本発明は、哺乳動物細胞培養での使用に適している。例示的な細胞株は、CHO、Per.C6細胞、Sp2/0細胞、及びHEK293細胞である。CHO細胞としては、CHO-ori、CHO-K1、CHO-s、CHO-DHB11、CHO-DXB11、CHO-K1SV、並びにそれらの変異体及びバリアントが挙げられるが、これらに限定されない。HEK293細胞としては、HEK293、HEK293A、HEK293E、HEK293F、HEK293FT、HEK293FTM、HEK293H、HEK293MSR、HEK293S、HEK293SG、HEK293SGGD、HEK293T、並びにそれらの変異体及びバリアントが挙げられるが、これらに限定されない。他の好適な細胞としては、BHK(ベビーハムスター腎臓)細胞、HeLa細胞及びヒト羊水上皮細胞などのヒト羊水細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本発明は、細胞培養において産生される既存のバイオ製品及び医薬品の次世代版を含む、バイオ製品及び医薬品の製造に用いられ得る。モノクローナル抗体ベースの治療薬などの広範囲のタンパク質ベースの治療薬を、本発明に従って産生することができる。例えば、以下に特定される抗体を含むがこれらに限定されない、抗体をコードする必要なDNA配列を含む細胞を、本発明による培養において増殖させることができる。
【0055】
以下は、本発明に従って産生することができる、細胞培養において作製されたタンパク質を特定し、説明する。これらのタンパク質をコードする必要なDNAを含む細胞を、本発明による産生のために培養することができる。
【0056】
例えば、抗体産生において、本発明は、全ての主要な抗体クラス、すなわちIgG、IgA、IgM、IgD及びIgEに基づいた診断及び治療のための研究及び産生使用のために修正可能である。IgGは、好ましいクラスであり、サブクラスIgG1(IgG1λ及びIgG1κを含む)、IgG2、IgG3、及びIgG4を含む。更なる抗体実施形態としては、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、抗原結合抗体断片、単鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディ又はテトラボディ、Fab断片又はF(ab′)2断片、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体が挙げられる。一実施形態では、抗体は、IgG1抗体である。一実施形態では、抗体は、IgG2抗体である。一実施形態では、抗体は、IgG4抗体である。一実施形態では、抗体は、キメラIgG2/IgG4抗体である。一実施形態では、抗体は、キメラIgG2/IgG1抗体である。一実施形態において、抗体は、キメラIgG2/IgG1/IgG4抗体である。上記の誘導体、成分、ドメイン、鎖及び断片もまた含まれる。
【0057】
更なる抗体実施形態としては、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、抗原結合抗体断片、単鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディ若しくはテトラボディ、Fab断片若しくはF(ab′)2断片、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体が挙げられる。一実施形態では、抗体は、IgG1抗体である。一実施形態では、抗体は、IgG2抗体である。一実施形態では、抗体は、IgG4抗体である。別の実施形態では、抗体は、キメラIgG2/IgG4抗体である。別の実施形態では、抗体は、キメラIgG2/IgG1抗体である。別の実施形態では、抗体は、キメラIgG2/IgG1/IgG4抗体である。
【0058】
追加の実施形態では、抗体は、抗プログラム細胞死1抗体(例えば、米国特許出願公開第2015/0203579A1号に記載されるような抗PD1抗体)、抗プログラム細胞死リガンド1(例えば、米国特許出願公開第2015/0203580A1号に記載されるような抗PD-L1抗体)、抗Dll4抗体、抗アンジオポエチン-2抗体(例えば、米国特許第9,402,898号に記載されるような抗ANG2抗体)、抗アンジオポエチン様3抗体(例えば、米国特許第9,018,356号に記載されるような抗AngPtl3抗体)、抗血小板由来成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,265,827号に記載されるような抗PDGFR抗体)、抗Erb3抗体、抗プロラクチン受容体抗体(例えば、米国特許第9,302,015号に記載されるような抗PRLR抗体)、抗補体5抗体(例えば、米国特許出願公開第2015/0313194A1号に記載されるような25抗C5抗体)、抗TNF抗体、抗上皮成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,132,192号に記載されるような抗EGFR抗体、又は米国特許出願公開第2015/0259423A1号に記載されるような抗EGFRvIII抗体)、抗前駆体タンパク質転換酵素サブチリシンケキシン-9抗体(例えば、米国特許第8,062,640号又は米国特許出願公開第2014/0044730A1号に記載されるような抗PCSK9)、抗増殖及び分化因子-8抗体(例えば、米国特許第8,871,209号又は同第9,260,515号に記載されるような抗ミオスタチン抗体としても知られる抗GDF8抗体)、抗グルカゴン受容体(例えば、米国特許出願公開第2015/0337045A1号又は同第2016/0075778A1号に記載されるような抗GCGR抗体)、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、インターロイキン4受容体抗体(例えば、米国特許出願公開第2014/0271681A1号又は米国特許第8,735,095号又は同第8,945,559号に記載されるような抗IL4R抗体)、抗インターロイキン6受容体抗体(例えば、米国特許第7,582,298号、同第8,043,617号又は同第9,173,880号に記載されるような抗IL6R抗体)、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗インターロイキン33(例えば、米国特許出願公開第2014/0271658A1号又は同第2014/0271642A1号に記載されるような抗IL33抗体)、抗呼吸器合胞体ウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第2014/0271653A1号に記載されるような抗RSV抗体)、抗分化抗原群3(例えば、米国特許出願公開第2014/0088295A1号及び同第2015/0266966A1号、並びに米国出願第62/222,605号に記載されるような抗CD3抗体)、抗分化抗原群20(例えば、米国特許出願公開第2014/0088295A1号及び同第2015/0266966A1号、並びに米国特許第7,879,984号に記載されるような抗CD20抗体)、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗分化抗原群48(例えば、米国特許第9,228,014号に記載されるような抗CD48抗体)、抗Fel d1抗体(例えば、米国特許第9,079,948号に記載されるような)、抗中東呼吸器症候群ウイルス(例えば、米国特許出願公開第2015/0337029A1号に記載されるような抗MERS抗体)、抗エボラウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第2016/0215040号に記載されるような)、抗ジカウイルス抗体、抗リンパ球活性化遺伝子3抗体(例えば、抗LAG3抗体、又は抗CD223抗体)、抗神経成長因子抗体(例えば、米国特許出願公開第2016/0017029号、並びに米国特許第8,309,088号及び同第9,353,176号に記載されるような抗NGF抗体)、並びに抗アクチビンA抗体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、抗CD3×抗CD20二重特異性抗体(米国特許出願公開第2014/0088295A1号及び同第2015/0266966A1号に記載されるような)、抗CD3×抗ムチン16二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗Muc16二重特異性抗体)、並びに抗CD3×抗前立腺特異性膜抗原二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗PSMA二重特異性抗体)からなる群から選択される。米国特許公開第2019/0285580A1号も参照されたい。Met×Met抗体、NPR1に対するアゴニスト抗体、LEPRアゴニスト抗体、BCMA×CD3抗体、MUC16×CD28抗体、GITR抗体、IL-2Rg抗体、EGFR×CD28抗体、第XI因子抗体、SARS-CoC-2バリアントに対する抗体、Feld1多抗体療法、Bet v1多抗体療法も含まれる。上記の誘導体、成分、ドメイン、鎖及び断片もまた含まれる。
【0059】
例示的な抗体を産生する細胞は、本発明に従って培養することができる。例示的な抗体としては、アリロクマブ、アトルチビマブ、マフチビマブ、オデシビマブ、オデシビブマブ-ebgn、カシリビマブ、イムデビマブ、セミプリマブ及びセミプリマブ-rwlc(PD-1に結合するヒトIgG4モノクローナル抗体)、デュピルマブ(IL-4Rアルファ(α)サブユニットに結合し、それによってインターロイキン4(IL-4)及びインターロイキン13(IL-13)シグナル伝達を阻害するIgG4サブクラスのヒトモノクロー抗体)、エビナクマブ、エビナクマブ-dgnb、ファシヌマブ、フィアンリマブ、ガレトスマブ、イテペキマブ、ネスバクマブ、オドロネクスタマブ、ポゼリマブ、サリルマブ、トレボグルマブ、並びにレイヌクマブが挙げられる。
【0060】
追加の例示的な抗体としては、ラブリズマブ-cwvz、アブシキシマブ、アダリムマブ、アダリムマブ-atto、アド-トラスツズマブ、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベバシズマブ、ベズロトキスマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カプロマブペンデチド、セルトリズマブペゴール、セツキシマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュルバルマブ、エクリズマブ、エロツズマブ、エミシズマブ-kxwh、エンタンシンアリロクマブ、エボロクマブ、ゴリムマブ、グセルクマブ、イブリツモマブチウキセタン、イダルシズマブ、インフリキシマブ、インフリキシマブ-abda、インフリキシマブ-dyyb、イピリムマブ、イキセキズマブ、メポリズマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パニツムマブ、ペンブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レスリズマブ、リヌクマブ、リツキシマブ、セクキヌマブ、シルツキシマブ、トシリズマブ、トラスツズマブ、ウステキヌマブ、及びベドリズマブが挙げられる。
【0061】
次世代製品に加えて、本発明はまた、バイオシミラーの製造にも適用可能である。バイオシミラーは、管轄区域に応じて様々な方法で定義されるが、その管轄区域で以前に承認されたバイオ製品(通常は「参照製品」と称される)との比較の共通の特徴を共有する。世界保健機関によると、バイオシミラーは、品質、安全性及び有効性の点で、すでにライセンスされている参照バイオセラピー製品に類似したバイオセラピー製品であり、フィリピンなどの多くの国で使用されている。
【0062】
米国におけるバイオシミラーは、現在、(A)バイオ製品は、臨床的に不活性な成分のわずかな差異にもかかわらず、参照製品と非常に類似している;及び(B)製品の安全性、純度、及び効力に関して、バイオ製品と参照製品との間に臨床的に意味のある差異はないと説明されている。米国では、以前の製品を処方した医療従事者の介入なしに、以前の製品と置き換えることができる交換可能なバイオシミラー又は製品が示されている。欧州連合では、バイオシミラーは、EUですでに承認されている別のバイオ医薬品(「参照医薬品」と呼ばれる)と非常に類似したバイオ医薬品であり、とりわけ、構造、生物学的活性、有効性、及び安全性の考慮を含み、ロシアがこれらのガイドラインに従っている。中国では、バイオシミラー製品は、現在、元のバイオ医薬品と同様の活性物質を含有し、品質、安全性、及び有効性の点で元の薬物と同様であり、臨床的に有意な差異がない生物製剤を指す。日本では、バイオシミラーは、現在、日本ですでに承認されている参照製品と比較して、生物学的に同等/品質的に同等の品質、安全性、及び有効性を有する製品である。インドでは、バイオシミラーは、現在、「類似した生物製剤」と称されており、類似した生物製剤とは、比較可能性に基づいて承認された参照バイオ製品と品質、安全性、及び有効性の点で類似しているものを指す。オーストラリアでは、バイオシミラー医薬品は、現在、参照バイオ医薬品の非常に類似したバージョンである。メキシコ、コロンビア、及びブラジルでは、バイオシミラーは、現在、品質、安全性、及び有効性の点で、すでにライセンスされた参照製品と類似したバイオセラピー製品である。アルゼンチンでは、バイオシミラーは、現在、共通の特徴を有するオリジナル製品(コンパレーター)に由来している。シンガポールでは、バイオシミラーは、現在、物理化学的特性、生物学的活性、安全性、及び有効性の点でシンガポールで登録されている既存のバイオ製品と類似したバイオ治療薬である。マレーシアでは、バイオシミラーは、現在、すでに登録されている十分に確立された医薬品と、品質、安全性、及び有効性の点で類似するように開発された新しいバイオ医薬品である。カナダでは、バイオシミラーは、現在、すでに販売が承認されているバイオ医薬品と非常に類似したバイオ医薬品である。南アフリカでは、バイオシミラーは、現在、すでにヒトへの使用が承認されているバイオ医薬品に類似するように開発されたバイオ医薬品である。これら及び任意の改訂された定義の下でのバイオシミラー及びその同義語の産生は、本発明に従って行うことができる。
【0063】
典型的には、培養は、約10~15日間、好ましくは約12~14日間行うことができる。pCO条件は、培養中に30mmHg~210mmHgのCO2、50mmHg~200mmHg、60mmHg~190mmHg、70mmHg~180mmHg、80mmHg~170mmHg、90mmHg~160mmHg、100mmHg~150mmHg、110mmHg~140mmHg、120mmHg~140mmHg、120mmHg~130mmHg、又はこれらの範囲内の任意の値である。本発明は、抗体などのFc含有タンパク質産物を提供することができ、主ピーク(ほぼ中性とみなされる)形態は、全Fc含有タンパク質の38%~65%を占め、Fc含有タンパク質の酸性バリアントは、全Fc含有タンパク質の20%~47%を占め、Fc含有タンパク質の塩基性バリアントは、全Fc含有タンパク質の最大36%を占める。抗体の場合、本発明は、細胞によって産生される抗体の主ピーク形態が全抗体の50%~70%を占め、抗体の酸性バリアントが全抗体の20%~47%を占め、抗体の塩基性バリアントが全抗体の最大15%を占める製品を提供することができる。
【実施例
【0064】
本発明は、本発明の多くの態様を例示する以下の実施例によって更に説明されるが、いかなる方法でも本発明を限定するものではない。
【0065】
実施例1-プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)因子に結合するヒトIgG4モノクローナル抗体の調製において、酸性バリアントを減少させ、主ピーク形態を増加させるために、培養pCOを増加させることができる
培養培地に、18×10細胞/mlの濃度でCHO細胞を接種し、流加培養プロセスで増殖させた。細胞が7日目にピーク濃度(30×10細胞/ml)に達すると、追加のCOでスパージして120mmHgを超えるpCOレベルを増加させる、高pCOバイオリアクター。制御プロセスは、pCOレベルを105mmHg未満に維持するための標準的な製造プロセスを実装した。図1を参照されたい。観察された酸性不均一性は、以下の表1に表されており、酸性電荷バリアントでは31%~32%、主ピークフォームでは57%~60%の高pCO範囲をサポートしている。
【表1】
【0066】
実施例2-PD-1因子に結合するヒトIgG4モノクローナル抗体の調製において、培養pCOを減少させ、それによって酸性バリアントを増加させることができる
培地に、18×10細胞/mlの濃度でCHO細胞を接種し、プロセスを供給バッチモードで進めた。培養pCOを除去して低減するために、6.5日目に、複製バイオリアクター内の空気スパージを22ccmから33ccmに24時間増加させ、その後、7.5日目から収穫まで44ccmに増加させた。対照複製バイオリアクターは、プロセスの期間中、22ccmの空気スパージを維持した。図2を参照されたい。観察された酸性バリアントの不均一性を、以下の表2に表す。
【表2】
【0067】
この実施例は、低pCOが、より高いパーセンテージの酸性電荷バリアントをもたらすことを確立した。
【0068】
実施例3-培養pCOの増加は、PD-1因子に結合するヒトIgG4モノクローナル抗体の調製におけるNGHCの有病率の増加と関連する
培養培地に、18×10細胞/mlの濃度でCHO細胞を接種し、流加培養プロセスで増殖させた。細胞が7日目にピーク濃度(30×10細胞/ml)に達すると、追加のCOでスパージして120mmHgを超えるpCOレベルを増加させる、高pCOバイオリアクター。制御プロセスは、pCOレベルを105mmHg未満に維持するための標準的な製造プロセスを実装した。図1を参照されたい。観察されたNGHC不均一性を、以下の表3に表す。
【表3】
NGHCの増加は、pCO自体の影響ではなく、培養pHの減少に関連することが決定された。実施例5、並びに図10及び11を参照されたい。
【0069】
実施例4-培養pCOの減少は、PD-1因子に結合することができるヒトIgG4モノクローナル抗体の調製におけるNGHCの有病率の減少と関連する
培地に、18×10細胞/mlの濃度でCHO細胞を接種し、プロセスを供給バッチモードで進めた。培養pCOを除去して低減するために、6.5日目に、複製バイオリアクター内の空気スパージを22ccmから33ccmに24時間増加させ、その後、7.5日目から収穫まで44ccmに増加させた。対照複製バイオリアクターは、プロセスの期間中、22ccmの空気スパージを維持した。図2を参照されたい。観察されたNGHC不均一性を、以下の表4に表す。
【表4】
NGHCの減少は、pCO自体の影響ではなく、培養pHの増加に関連することが決定された。実施例5、並びに図10及び11を参照されたい。
【0070】
実施例5-PD-1因子に結合することができるヒトIgG4モノクローナル抗体の産生に関する小規模研究における培養pCO及びpHの分析
CHO細胞を使用したFc含有タンパク質(例えば、抗体)の典型的な大規模産生実行からのデータを、以下の表5に示す。
【表5】
【0071】
製剤原薬(FDS)の大規模生産を再現するために、2L発酵槽を使用した小規模研究を行った。本明細書に記載される研究の結果を使用して10,000L産生バイオリアクターで観察されたものと類似した培養pCO及びpHの変化が、電荷バリアントプロファイル及びPD-1に結合するヒトIgG4モノクローナル抗体における非グリコシル化重鎖の発生に影響を及ぼすことを実証する。
【0072】
小規模研究は、産生バイオリアクターにおけるpCOレベルの上昇が、iCIEF領域1(酸性電荷バリアント)及び領域3(塩基性電荷バリアント)において観察された減少を引き起こし、iCIEF領域2(主ピーク形態、別名主ピークバリアント)において付随する増加に寄与したことを決定した。この研究はまた、pCO自体ではなく、培養pHが、観察されたNGHCプロファイルの変化を引き起こしたと結論付けた。これらの結果を以下でより具体的に考察する。空気スパージング及びpCOスパージングを使用した研究パラメータを、以下の表6に概説する。
【表6】
【0073】
各実行の電荷バリアント(iCIEF)及びNGHC結果を表7に記載する。*注記-中程度のpCO#3(中間点対照とみなされる)は、データの解釈を混乱させる可能性のある外れ値を表すため、更なる分析から除外した。
【表7】
【0074】
電荷バリアント及びピーク形態、すなわち、iCIEF領域1(酸性電荷バリアント)、領域2(主ピーク形態)及び領域3(塩基性電荷バリアント)の原因は、以下でより詳細に考察される。NGHCについても以下で考察する。
【0075】
図3は、表6に従ったパラメータを使用して予測されたpH値を示す。
【0076】
図4は、培養pCOがiCIEF領域1(R1、酸性電荷バリアント%)のモデルにおける唯一の有意項目(p<0.0001)であり、この電荷バリアントの可変性の87%を占めるため(R:0.87)、より高いpCOがより低い領域1(%)に関連する唯一の統計的に項目(酸性電荷バリアント)であることを示すデータを示す。培養pHは、酸性電荷バリアント(領域1)の統計的に有意な項目ではなかった。図5を参照されたい。
【0077】
図6は、培養pCO及びpHの両方がiCIEF領域2(R2、主ピーク形態%)のモデルにおいて有意な項目(p<0.0001)であり、観察された可変性の97%(R:0.97)を占めることを示すデータを示す。したがって、より高い培養pCO及びより低い培養pHは、主ピーク形態を増加させる。図7を参照されたい。
【0078】
図8は、培養pCOがモデルにおいて有意な項目であったことを示すデータを示し(p=0.0352)、領域3の可変性の38%を説明した(R3、塩基性電荷バリアント%)。しかしながら、このモデルは、おそらくデータポイントの過剰なレバレッジングに起因して、有意ではなかった(p=0.0592)。図9を参照されたい。
【0079】
上記のデータは、一般に、電荷バリアントが、pCOレベルを増加させることによって、全体的又は部分的に引き起こされることを示す。より重要なことに、pCOの増加は、pHの減少ではなく、酸性電荷バリアントのパーセンテージを低下させるための唯一の統計的に有意な項目であった(領域1)。したがって、ここでヒトIgG4モノクローナル抗体によって表されるIgGクラスについて、pCOの増加は、酸性電荷バリアントのパーセンテージを低下させ、酸性電荷バリアントのパーセンテージの低下は、pH値の減少によって引き起こされない。図4及び5を参照されたい。
【0080】
最後に、図10及び11は、pCO自体の増加ではなく、減少した培養pHが、モデルにおいて有意な項目であり(p=0.0401)、NGHCの可変性の38%を占める(R:0.38)ことを示すデータを示す。したがって、より低い培養pHは、NGHCプロファイルに影響を与える可能性がある。pCOはpHに影響を及ぼす可能性があるが、他の培地成分もまたpHに影響を及ぼし、したがって、原因にかかわらず、pHがNGHCを変化させる。したがって、より少ない酸性電荷バリアント(%)は、任意のタイプの酸性分子によるpHの低下によって引き起こされるNGHCの増加とは異なる現象であるpCO自体に起因する。
【0081】
図12~23は、以下のデータを示す。
(a)生細胞密度(VCD)(図12)、
(b)生存率値(図13)、
(c)pH値-pHは、表6に示されるゾーンアプローチに従って、6.5日目から変化した(図14)、
(d)pCO値-pCOは、表6に示されるゾーンアプローチに従って、6.5日目から変化した(図15
(e)グルコース値(図16)、
(f)カリウム値(図17)、
(g)ナトリウム値-7日目以降のナトリウム値の変化は、センサーの変化に起因する可能性があり、研究結果に影響を与えることは予想されなかった(図18)、
(h)浸透圧値-10日目の非定型値は、サンプルエラーに起因する可能性がある(図19)、
(i)グルタメート値-6.5日目の非定型値は、サンプルエラーに起因する可能性がある(図20)、
(j)ラクテート値(図21)、
(k)アンモニア値-アンモニア値は、pHの影響を受けた可能性がある(図22)、及び
(l)グルタミン値(図23)。
【0082】
これらのデータは、異なる空気スパージング条件下で増殖した細胞間の類似性を示す。表6を参照されたい。
【0083】
実施例6-インターロイキン4(IL-4)受容体に結合するヒトIgG4モノクローナル抗体のCOスパージングを使用した培養における産生
以下の研究は、IL-4Rアルファ(α)サブユニットに結合し、それによってインターロイキン4(IL-4)及びインターロイキン13(IL-13)シグナル伝達を阻害するヒトIgG4モノクローナル抗体の電荷バリアントプロファイルに対する培養pCOの効果を評価するために実施された。
【0084】
産生バイオリアクター内の培養培地に、CHO細胞を約12×10細胞/mlの濃度で接種し、流加培養プロセスで増殖させた。5.5日目に200×10細胞/mLのピーク生細胞密度(VCD)に達すると、COスパージングを表8に定義されるように修正して、細胞培養内のpCOレベルを変化させた。3つの実験条件の得られたpCOプロファイルを、図24に提供する。
【表8】
【0085】
10.5日間の培養後、バイオリアクターを採取し、モノクローナル抗体を精製した。グリコシル化及び電荷バリアントプロファイルを決定した。産生バイオリアクター内のpCOレベルが増加するにつれて、イメージングキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)によって測定されるように、塩基性バリアントのレベルが同時に減少したことが注目された(表9)。更に、pCOの増加は、凹状の酸性バリアントプロファイルにつながり、中程度のpCO条件でピークに達したが、高pCO条件では最も低いパーセンテージに低下した(表10)。全体的な傾向は、酸性電荷バリアントのより低いパーセンテージであり、中程度のpCO測定は、誤差の結果である可能性が高い。
【表9】
【表10】
【0086】
上記実施例5における詳細な統計分析は、pHを減少させずにpCOを増加させたことが、ヒトIgG4モノクローナル抗体による酸性電荷バリアント(領域1)のパーセンテージを低下させるための唯一の統計的に有意な項目であることを確認した。したがって、ヒトIgG4モノクローナル抗体によって表されるIgGクラスについて、pCO自体の増加は、酸性電荷バリアントのパーセンテージを低下させ、IgG4抗体における酸性電荷バリアントのパーセンテージの低下は、pH値の減少によって引き起こされない。
【0087】
説明、具体的な例及びデータは、例示的な実施形態を示すが、例証として与えられており、本発明を限定することを意図していないことを理解されたい。本明細書に含まれる考察、開示及びデータから、全体的及び部分的に実施形態を組み合わせることを含む、本発明内の様々な変更及び修正が当業者に明らかになり、したがって、本発明の一部とみなされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【手続補正書】
【提出日】2024-05-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養中の哺乳動物細胞によって産生される抗体産物における酸性電荷バリアントのパーセンテージを低減するための方法であって、前記方法が、
抗体を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することと、
前記哺乳動物細胞が、pCO条件なしで得られるよりも少ない酸性酸バリアントを有する抗体産物を産生することを可能にする前記pCO条件下で前記細胞を培養することであって、前記pCO条件が、前記培地中の120mmHg~140mmHgのCOである、培養することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記pCO条件が、スパージングによって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pCO条件が、COスパージングによって達成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記pCO条件下で産生される前記抗体が、前記pCO条件なしで得られるものよりも0.5%~4%少ない酸性バリアントを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体が、PD-1因子に結合することができる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が、IL-4受容体に結合することができる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が、ヒトモノクローナル抗体である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体が、ヒトモノクローナル抗体であり、IgG抗体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記IgG抗体が、IgG4抗体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、10~15日間培養される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
培養中の哺乳動物細胞によって産生される抗体における不均一性を制御する方法であって、前記方法が、
抗体を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することと、
前記哺乳動物細胞が抗体を産生することを可能にするpCO条件下で前記細胞を培養することであって、前記細胞によって産生される抗体の主ピーク形態が、全抗体の38%~65%を占め、前記抗体の前記酸性バリアントが、全抗体の20%~47%を占め、前記抗体の塩基性バリアントが、全抗体の最大36%を占める、培養することと、を含む、方法。
【請求項14】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記モノクローナル抗体が、PD-1因子に結合することができる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体が、IL-4受容体に結合することができる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体が、ヒトモノクローナル抗体である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ヒトモノクローナル抗体が、IgG1抗体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記IgG抗体が、IgG4抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
培養中の哺乳動物細胞によって産生される抗体、抗体誘導体又は抗体断片における不均一性を制御する方法であって、前記方法が、
抗体、抗体誘導体又は抗体断片を産生する哺乳動物細胞を培地に播種することと、
前記哺乳動物細胞が抗体、抗体誘導体又は抗体断片を産生することを可能にするpCO条件下で前記細胞を培養することであって、前記細胞によって産生される抗体、抗体誘導体又は抗体断片の主ピーク形態が、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の50%~70%を占め、前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の酸性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の20%~47%を占め、前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の塩基性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大15%を占める、培養することと、を含む、方法。
【請求項21】
前記抗体、
抗体誘導体又は抗体断片の前記塩基性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大10%を占める、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記塩基性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大8%を占める、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記塩基性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の最大6%を占める、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞によって産生される抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記主ピーク形態が、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の50%~65%を占め、前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記酸性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の23%~46%を占める、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記酸性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の23%~39%を占める、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体、抗体誘導体又は抗体断片の前記酸性バリアントが、全抗体、抗体誘導体又は抗体断片の31%~46%を占める、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
非グリコシル化重鎖を有する抗体のパーセンテージが、5~7%である、請求項20~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物細胞が、ヒトモノクローナル抗体を産生する、請求項20~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒトモノクローナル抗体が、IgG1抗体である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記IgG抗体が、IgG4抗体である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記pCO条件が、前記培養中に30mmHg~210mmHgである、請求項20~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記pCO条件が、COスパージングを使用して維持される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
pCOが、CO電極を使用して測定される、請求項20~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞である、請求項20~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
先行請求項のいずれか一項に記載の方法によって産生される、抗体産物。
【請求項36】
先行請求項のいずれか一項に記載の方法によって産生される、抗体誘導体産物。
【請求項37】
先行請求項のいずれか一項に記載の方法によって産生される、抗体断片産物。
【請求項38】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって産生される、抗体産物。
【請求項39】
pCO が、ピーク細胞濃度に達すると増加する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
ピーク細胞濃度に達すると、前記培地中のpCO2を増加させることによって、酸性バリアントの存在が低減し、前記増加させることが、培養中に50mmHg~200mmHg、培養中に60mmHg~190mmHg、培養中に70mmHg~180mmHg、培養中に80mmHg~170mmHg、培養中に90mmHg~160mmHg、培養中に100mmHg~150mmHg、培養中に110mmHg~140mmHg、培養中に120mmHg~140mmHg、及び培養中に120mmHg~130mmHgからなる群から選択される範囲までである、請求項13~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記範囲が、培養中に100mmHg~150mmHgである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記範囲が、培養中に110mmHg~140mmHgである、請求項41に記載の方法。
【国際調査報告】