(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ヒト脳オルガノイドを使用した、シヌクレイン病に対する薬物試験のプラットフォーム
(51)【国際特許分類】
C12N 5/073 20100101AFI20240822BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C12N5/073
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517491
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2022035166
(87)【国際公開番号】W WO2023048182
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2021152986
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】ジュンヒョン ジョ
(72)【発明者】
【氏名】ホワン-ダイ トラン
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン ウィリアム アーバスノット
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ61
4B063QR72
4B063QS28
4B063QX01
4B065AA93X
4B065BB04
4B065BD25
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、ヒト線条体に類似するヒト線条体様オルガノイド(hSLO)、hSLOとhMLOとの間に機能的接続を有するhSLOおよびヒト中脳様オルガノイド(hMLO)の融合オルガノイド、ならびにオルガノイド培養プラットフォームを使用して薬物を試験する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト胚様体などの胚様体(EB)を培養する方法であって、
第1の因子を含む第1の培地中でEBを培養することを含み、前記第1の因子は、TGF-βシグナル伝達経路阻害剤および/またはGSK阻害剤などのWnt阻害剤を含む、
方法。
【請求項2】
得られたEBを、第2の因子を含む第2の培地中で培養することをさらに含み、前記第2の因子は、LGEニューロスフェアを得るために、Wnt阻害剤、ソニックヘッジホッグ経路活性化のためのパターン形成因子、およびアクチビンを含み、第1の因子を有しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記得られたEBを、第3の因子を含む第3の培地中で培養することを含み、前記第3の因子は、ヒト線条体様オルガノイドなどのオルガノイドを得るために、脳由来神経栄養因子(BDNF)および/またはアスコルビン酸を含み、前記第1および第2の因子を有しない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
得られたオルガノイドが、成熟中型有棘ニューロン(MSN)の1以上のマーカーを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記得られたオルガノイドが、D1および/またはD2 MSNを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記得られたオルガノイドが、THなどの介在ニューロンマーカー、CHATおよび5-HTなどのコリン作動性ニューロンマーカーおよびセロトニンニューロンマーカー、MBPおよびGFAPなどのグリア細胞マーカーの少なくとも1つまたは全てを発現する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記オルガノイドが、1mm以上の長軸直径または直径を、好ましくは1mm~2mmの長軸直径または直径を有する、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
成熟MSNの1以上のマーカーを発現する成熟中型有棘ニューロン(MSN)を含む、単離されたオルガノイド。
【請求項9】
前記オルガノイドに含まれる細胞の50%以上は、DARPP32陽性およびGABA陽性である、請求項8に記載の単離されたオルガノイド。
【請求項10】
D1および/またはD2 MSNを含む、請求項8または9に記載の単離されたオルガノイド。
【請求項11】
介在ニューロンマーカー、コリン作動性ニューロンマーカー、およびセロトニンニューロンマーカーの少なくとも1つまたは全てを発現する、請求項8から10のいずれか一項に記載の単離されたオルガノイド。
【請求項12】
1mm以上の長軸直径または直径を有する、請求項8から11のいずれか一項に記載の単離されたオルガノイド。
【請求項13】
オルガノイドを産生する方法であって、
請求項8から12のいずれか一項に記載のオルガノイド(第1のオルガノイド)、およびドーパミン作動性(DA)ニューロンを含む第2のオルガノイドを提供すること、ならびに
前記第1のオルガノイドおよび前記第2のオルガノイドを接触させて、前記第1のオルガノイドおよび前記第2のオルガノイドの融合オルガノイドを得ることを含み、前記第2のオルガノイドのドーパミン作動性ニューロンは、前記第1のオルガノイドに到達する投射を有し、前記第1のオルガノイドのGABA作動性MSNは、前記第2のオルガノイドに到達する投射を有する、方法。
【請求項14】
請求項8から12のいずれか一項に記載の第1のオルガノイド、およびドーパミン作動性(DA)ニューロンを含む第2のオルガノイドの融合オルガノイドであって、
前記第2のオルガノイドのドーパミン作動性ニューロンは、前記第1のオルガノイドに到達する投射を有し、前記第1のオルガノイドのGABA作動性MSNは、前記第2のオルガノイドに到達する投射を有する、融合オルガノイド。
【請求項15】
前記融合オルガノイドに含まれている細胞は、α-syn凝集を有するDAニューロンを含む、請求項14に記載の融合オルガノイド。
【請求項16】
候補薬物を試験する方法であって、
前記候補薬物および請求項14または15に記載の融合オルガノイドを接触させること、
DAニューロンにおけるα-シヌクレイン凝集を観察すること、ならびに
α-syn凝集を、陰性対照と比較して減少させる前記候補薬物を選択すること
を含む方法。
【請求項17】
SNCAは、第2のオルガノイド実体または前記オルガノイドの少なくともDAニューロンまたは全ての細胞にて過剰発現される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、線条体様オルガノイド(SLO)およびSLOを産生する方法に関する。本開示は、機能的に融合された線条体様オルガノイド(SLO)および中脳様オルガノイド(MLO)にも関する。本開示は、ヒト線条体様オルガノイド(hSLO)およびhSLOを産生する方法にも関する。本開示は、機能的に融合されたヒト線条体様オルガノイド(hSLO)およびヒト中脳様オルガノイド(hMLO)にも関する。
【背景技術】
【0002】
線条体は、ヒトの脳の中央に位置し、随意運動を含む様々な機能を有する大脳基底核の構成要素である(Hikosakaら、2000年)。線条体は、主に特定のニューロンの突起を介して様々な脳領域との間で情報を送受信する(Gerfen、2006年;Inghamら、1998年;Lovinger、2010年;Macphersonら、2014年)。したがって、線条体は、運動と関連付けられることが最も多く、パーキンソン病(PD)を罹患している患者では神経変性により大きな影響を受ける。
【0003】
線条体の線条体-黒質GABA作動性ニューロンと中脳の黒質-線条体ドーパミン作動性(DA)ニューロンと間の神経活性は、行動および運動を動機付ける(Albinら、1989年)。こうした神経回路の機能不全は、後にPDの病態形成に寄与する。しかしながら、こうした脳領域がどのように相互接続しているのか、および神経疾患において何が機能的欠陥を引き起こすのかについてはあまり理解されていない。現行の細胞培養および動物モデルは、脳における実際の神経回路を正確には模倣していないと批判されている。したがって、ヒト黒質-線条体経路を実証および視覚化するためのin vitro脳モデルを作出することは、神経疾患、例えばアルファ-シヌクレイン(α-syn)病理の今後の研究のためのプラットフォームを提供することになる。
【発明の概要】
【0004】
3Dオルガノイドモデル系を、3Dオルガノイドモデル系が由来したin vivo臓器または組織に近似するように設計する。こうした3D培養系は、分化上皮の複雑な形態学的特徴を再現して、細胞-細胞間および細胞-マトリックス間の生物学的相互作用を可能にすることができる。これは、元の組織と物理的、分子的、または生理学的類似性をほとんど共有しないことが多い古典的な2D培養モデルとは対照的である。in vitroモデリングには大きな期待が寄せられているが、現行の脳オルガノイド系は、PDなどのヒト脳疾患のあらゆる側面を反映させることはできないため、ある特定の制限を有する。
【0005】
ヒト線条体オルガノイドの生成は、幾つかの問題:
- 中脳黒質と大脳基底核の特定の領域である線条体との間に相互的な黒質-線条体投射および線条体-黒質投射を作出するための段階的なプロトコールは存在していないこと、
- それぞれ中脳黒質および線条体におけるDAニューロンと中型有棘ニューロン(MSN)との間のシナプス形成を示すためのヒトin vitroニューロン系は存在していないこと、
- α-syn病理をモデル化して様々な脳領域間の病理学的タンパク質伝播を研究するための系は存在しないこと、
- 脳オルガノイド培養プラットフォームを使用した読み出しとしてのα-syn病理に基づく薬物スクリーニング/試験系は存在しないこと、
を解決する。神経変性疾患の薬物スクリーニングプラットフォームはほとんどが、2D神経細胞培養系および動物モデルで構築されているが、それらはin vivoヒト脳環境を再現しておらず、結果の解釈を誤るリスクが高い。
【0006】
本開示では、我々は、まず、ヒト線条体様オルガノイドを生成する方法を、遺伝子発現分析、免疫組織化学的分析、およびカルシウムイメージングを含む特徴付けデータと共に説明する。我々は、次に、hSLOおよび我々の研究室により以前に確立されているhMLOを使用して融合オルガノイドを生成し、相互投射およびシナプス形成の特徴付けと共に、中脳と線条体とが物理的および機能的に接続されることを示す。
【0007】
本開示は、例えば、下記に記載の発明を提供する。
(1)ヒト胚様体などの胚様体(EB)を培養する方法であって、
第1の因子を含む第1の培地中でEBを、例えば、1~7日間、2~6日間、または3~5日間にわたって培養することを含み、第1の因子は、TGF-β、およびSMAD2/3シグナル伝達経路阻害剤および/またはGSK阻害剤(例えば、GSK3阻害剤またはGSK3β阻害剤)などのWnt阻害剤、好ましくはTGF-βおよびSMAD2/3シグナル伝達経路阻害剤ならびにWnt阻害剤を含む、方法。
(2)得られたEBを、第3の因子を含む第2の培地中で、例えば、7~14日間、8~13日間、9~12日間、10~11日間にわたって、培養することを含み、培養はオービタル振とう条件下でもよく、
第3の因子は、LGEニューロスフェアを得るために、GSK阻害剤(例えば、GSK3阻害剤またはGSK3β阻害剤またはXAV939)などのWnt阻害剤、スムーズンドアゴニスト(smoothened agonist)およびプルモルファミンなどのソニックヘッジホッグ経路活性化のパターン形成因子、ならびアクチビンAなどのアクチビンを含み、第1の因子を含まない、上記(1)に記載の方法。
(3)得られたEBを、第3の因子を含む第3の培地中で培養ことをさらに含み、第3の因子は、ヒト線条体様オルガノイドなどのオルガノイドを得るために、脳由来神経栄養因子(BDNF)および/またはアスコルビン酸を含み、第1の因子および第2の因子を有しない、上記(2)に記載の方法。
(4)得られたオルガノイドは、成熟中型有棘ニューロン(MSN)の1以上のマーカーを含む、上記(3)に記載の方法。
(5)得られたオルガノイドは、D1および/またはD2 MSNを含む、上記(4)に記載の方法。
(6)得られたオルガノイドは、THなどの介在ニューロンマーカー、CHATおよび5-HTなどのコリン作動性ニューロンマーカーおよびセロトニンニューロンマーカー、MBPおよびGFAPなどのグリア細胞マーカーの少なくとも1つまたは全てを発現する、上記(5)に記載の方法。
(7)オルガノイドは、1mm以上の長軸直径または直径を、好ましくは1mm~2mmの長軸直径または直径を有する、上記(4)~(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)成熟MSNの1以上のマーカーを発現する成熟中型有棘ニューロン(MSN)を含む、単離されたオルガノイド。
(9)オルガノイドに含まれる細胞の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上は、DARPP32陽性およびGABA陽性である、上記(8)に記載の単離されたオルガノイド。
(10)D1および/またはD2 GABA作動性MSNを含む、上記(8)または(9)に記載の単離されたオルガノイド。
(11)THなどの介在ニューロンマーカー、CHATおよび5-HTなどのコリン作動性ニューロンマーカーおよびセロトニンニューロンマーカー、MBP、S100β、およびGFAPなどのグリア細胞マーカーの少なくとも1つまたは全てを発現する、(8)~(10)のいずれか1つに記載の単離されたオルガノイド。
(12)1mm以上の長軸直径または直径を、好ましくは1mm~2mmの長軸直径または直径を有する、(8)~(11)のいずれか1つに記載の単離されたオルガノイド。
(13)オルガノイドを産生する方法であって、
上記(8)~(12)のいずれか1つに記載のオルガノイド(第1のオルガノイド)、およびドーパミン作動性(DA)ニューロン、例えば、A9様サブタイプmDAニューロンおよびA10様サブタイプmDAニューロンを含む第2のオルガノイドを準備すること、ここで、オルガノイドは、好ましくは、FOXA2、LMX1A、OTX2;TH、DAT、およびGIRK2などのDAニューロンマーカーの1以上を発現し、および
第1のオルガノイドおよび第2のオルガノイドを接触させて、第1のオルガノイドおよび第2のオルガノイドの融合オルガノイドを得ることを含み、第2のオルガノイドのドーパミン作動性ニューロンは、第1のオルガノイドに到達する投射を有し、第1のオルガノイドのGABA作動性MSNは、第2のオルガノイドに到達する投射を有する、方法。
(14)上記(8)~(12)のいずれか1つに記載の第1のオルガノイド、ならびにドーパミン作動性(DA)ニューロン、例えば、A9様サブタイプmDAニューロンおよびA10様サブタイプmDAニューロンを含む第2のオルガノイドの融合オルガノイドであって、オルガノイドは、好ましくは、FOXA2、LMX1A、OTX2;TH、DAT、およびGIRK2などのドーパミンニューロンマーカーの1以上を発現し、
第2のオルガノイドのドーパミン作動性ニューロンは、第1のオルガノイドに到達する投射を有し、第1のオルガノイドのGABA作動性MSNは、第2のオルガノイドに到達する投射を有する、融合オルガノイド。
(15)融合オルガノイドに含まれている細胞は、α-syn凝集を有するDAニューロンを含む、上記(14)に記載の融合オルガノイド。
(16)候補薬物を試験する方法であって、
候補薬物および上記(14)または(15)に記載の融合オルガノイドを接触させること、
DAニューロンにおけるα-シヌクレイン凝集を観察すること、ならびに
α-シヌクレイン凝集を、陰性対照と比較して減少させる候補薬物を選択すること、
を含む方法。
(17)SNCAは、第2のオルガノイド実体またはオルガノイドの少なくともDAニューロンまたは全ての細胞にて過剰発現される、上記(16)に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ヒト線条体様オルガノイド(hSLO)の生成に関する図である。(A)特定のヒト中脳および線条体の発生を決定する経路を説明する概略図である。(B)hSLOを生成するための戦略を示す概略図である。(C)DIC画像は、分化の10、20、30、および60日目の細胞の典型的な形態学的特徴を示し、(D)にはEBの直径の定量化が示される。スケールバー=500μm。エラーバーは平均値±SEM(n=8)を表す。
【
図2】分化の初期時間における多能性および初期外側基底核隆起(LGE)マーカーの発現を示すqRT-PCRの結果を示す図である。NANOG、OCT4、ASCL1、DLX5、GSX2、およびEBF1に関する、hSLOから解離させた細胞の定量的RT-PCR分析。エラーバーは平均値±SEM(n=3)を表す。
【
図3】60日目のGABA作動性ニューロンの分化効率を示す免疫組織化学的分析を示す図である。(A)CTIP2およびGABAを免疫染色した60日目のhSLOの凍結切片。スケールバー=20μm。(B)Aの定量化。エラーバーは平均値±SEM(n=3)を表す。
【
図4】機能的GABA作動性マーカーDARPP32およびGABAの発現および定量化を示す免疫組織化学的分析を示す図である。白色スケールバー=50μm。エラーバーは平均値±SEM(n=3)を表す。
【
図5】hSLOにサブタイプGABA作動性ニューロンが存在することを示す免疫組織化学的分析を示す図である。(A)GABAおよびサブスタンス-Pを免疫染色したhSLOの凍結切片。(B)GABAおよびDRD2を免疫染色したhSLOの凍結切片。スケールバー=5μm。
【
図6】ヒト線条体と同様に、hSLOでの異なる細胞型の発現を示す免疫組織化学的分析の結果を示す図である。(A)MAP2、TH、およびDAPI、(B)CHAT、5’HT、およびDAPI、(C)MBPおよびDAPI、(D)GFAPおよびDAPIを免疫染色した60日目および90日目のhSLOの凍結切片。スケールバー=50μm。
【
図7】hSLOにおける解離ニューロンの特徴付けの結果を示す図である。(A)AAV-mDlx::EGFPレポーターで標識された解離hSLO細胞を示す代表的な画像。ニューロンはEGFPおよびCTIP2が免疫染色されている。(B)AAV-mDlx::EGFPレポーターで標識された解離hSLO細胞を示す代表的な画像。パネルの拡大図は(B’)成長円錐および(B’’)樹状投射スパインを示し、矢印は成長円錐および樹状投射スパインの位置を示す。白色スケールバー=20μm、黄色スケールバー=5μm。
【
図8】hSLOのカルシウムイメージングの結果およびカルシウム活性を示す追跡ピークを示す図である。150日目のhSLOにおける9個の単一ニューロンのスパイクを右パネルに抽出した。スケールバー=200μm。
【
図9】hSLOとhMLOとの間のニューロンの相互投射を示すための免疫組織化学的分析の結果を示す図である。(A)大脳基底核における線条体と黒質との間のニューロンの投射形成を示す簡略的な概略図。(B)AAV-hSyn1::EGFPを発現するhSLOオルガノイドおよび未標識hMLOを有するhMLO-hSLO融合オルガノイドのクリアリングの3D免疫染色。(C)TH-EGFP DAニューロンレポーターを有するhMLOオルガノイドおよび未標識hSLOを有するhMLO-hSLO融合オルガノイドのクリアリングの3D免疫染色。スケールバー=200μm。
【
図10】hMLO-hSLO融合オルガノイドにおけるニューロンのシナプス形成を示すための免疫組織化学的分析の結果を示す図である。(A)EGFP、PSD95、およびSYN1を免疫染色した、H9 TH-EGFP hMLOおよびH9 hSLOから生成された融合オルガノイドは、hMLOからの投射ニューロンと共に、プレおよびポストシナプスマーカーの発現を示す。(B)EGFP、VMAT2、およびGABAを免疫染色した、H9 TH-EGFP hMLOおよびH9 hSLOから生成された融合オルガノイドは、hMLOからの投射ニューロンと共に、VMAT2およびGABAの発現を示す。(C)EGFP、PSD95、およびSYN1を免疫染色した、H9 hMLOおよびH9-AAV-hSyn1::EGFP hSLOから生成された融合オルガノイドは、hSLOからの投射ニューロンと共に、プレおよびポストシナプスマーカーの発現を示す。(B)EGFP、VGAT、およびGABAを免疫染色した、H9 hMLOおよびH9-AAV-hSyn1::EGFP hSLOから生成された融合オルガノイドは、hSLOからの投射ニューロンと共に、VGATおよびGABAの発現を示す。赤色スケールバー=1μm。白色スケールバー=10μm。
【
図11】hMLO-hSLO融合オルガノイドにおけるα-syn病態形成モデリングの結果を示す図である。(A)21d.p.f.でのhMLOからhSLOへのTH-EGFP
+ニューロンの投射を示す、EGFPを染色したW/TおよびSNCA O/E融合オルガノイドのホールマウント染色画像および定量化(平均±SEM;
*p<0.05、n=4)。白色スケールバー=200μm、黄色スケールバー=50μm。(B)SNCA-リンカー-mKO2過剰発現細胞株を生成するためのレンチウイルス構築物。(C)hSLOからhMLOへ、およびその逆のSNCA-リンカー-mKO2伝播を標識するためにmKO2抗体で染色した融合オルガノイドのホールマウント画像。白色スケールバー=100μm、黄色スケールバー=50μm。(D)Cの定量化(平均±SEM;
****p<0.0001、n=4)。
【
図12】融合オルガノイドを使用した抗PD薬物試験のモデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で使用される「胚様体」(EB)という用語は、多能性細胞または好ましくは多能性幹細胞(PSC)の三次元凝集塊を指す。EBは、多能性細胞上に発現するCa2+依存性接着分子E-カドヘリンの分子内結合を介して、胚性幹細胞(ESC)などの多能性細胞により形成される。抗分化因子の非存在下で単一細胞として培養すると、PSCは自発的に凝集してEBを形成する。そのような自発的形成は、多くの場合、培養基質とではなく単一細胞間での優先的接着を促進するために、寒天または親水性ポリマーなどの非接着性物質で培養皿がコーティングされているバルク懸濁培養で達成される。
【0010】
本明細書で使用される「胚性幹細胞」という用語は、動物、例えば、マウスおよびラットを含むげっ歯動物、ヒトおよびサルを含む霊長類などの哺乳動物の胚盤胞の内部細胞塊から導出することができる多能性幹細胞を指す。
【0011】
本明細書で使用される「多能性幹細胞」という用語は、多能性を有する幹細胞を指す。多能性は、内胚葉、中胚葉、および外胚葉を含む3つの胚葉のいずれにも分化するが、胎盤のような胚体外組織には分化しない細胞の潜在能力である。多能性幹細胞は、ある特定のリプログラミング因子の組合せの強制発現を誘導することにより、成体体細胞などの非多能性細胞から人工的に誘導することができる。例えば、Oct4、Sox2、Klf4、およびc-Mycの強制発現は、線維芽細胞などから人工多能性幹細胞(iPS細胞)を生成することができる。
【0012】
「オルガノイド」という用語は、in vitroで培養することができ、通常は1以上のタイプの細胞を含み三次元構造を形成する細胞凝集塊を指す。オルガノイドのいくつかは、体内の元の臓器と同様の組織構造を有する。臓器と同様の機能を有するオルガノイドは、臓器の機能低減により引き起こされる疾患に対して治療効果を示すことができる。臓器と同様の構造を有するオルガノイドが生成され、臓器の発生が研究された。
【0013】
本開示は、胚様体(EB)を培養する方法を提供する。EBは、好ましくは動物EB、より好ましくは哺乳動物EB、さらにより好ましくはヒトEBである。EBは、上記で説明したように、ES細胞またはiPS細胞などの多能性幹細胞を培養することにより得ることができる。
【0014】
一実施形態では、この方法は、第1の因子を含む第1の培地中でEBを、例えば1~7日間、2~6日間、または3~5日間にわたって培養することを含む。第1の因子は、TGF-βシグナル伝達経路阻害剤および/またはWnt阻害剤、好ましくはTGF-βシグナル伝達経路阻害剤、およびGSK阻害剤(例えば、GSK3阻害剤またはGSK3β阻害剤)などのWnt阻害剤を含んでいてもよい。
【0015】
TGF-βシグナル伝達経路阻害剤の例としては、これらに限定されないが、例えば、(i)ALK4阻害剤、ALK5阻害剤、ALK7阻害剤、SMAD2/3リン酸化阻害剤を含むSMAD2/3阻害剤などのSMAD阻害剤、ならびにALK4、ALK5、ALK7、SMAD2/3およびSMAD2/3リン酸化などのSMADからなる群から選択される2つ以上に対する多重阻害剤(例えば、二重阻害剤)、好ましくはTGF-βおよびSMAD2/3に対する二重阻害剤からなる群から選択される1以上;(ii)その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2015/002724号Aパンフレットに開示されている、LY-364947、SB-525334、SD-208、およびSB-505124;616452および616453;GW788388およびGW6604;LY580276からなる群から選択される1つもしくは複数;または(iii)SB-431542が挙げられる。一実施形態では、TGF-βシグナル伝達経路阻害剤の例としては、LDN-193189およびK02288などの汎TGF-ベータ/Smad阻害剤;ならびにSB431542およびガルニセルチブなど選択的TGF-ベータ/Smad阻害剤が挙げられる。ドルソモルフィンは、TGF-βシグナル伝達経路阻害剤としても使用することができる。
【0016】
Wnt阻害剤の例としては、これらに限定されないが、例えば、アダビビント(SM04690)、IM-12、ラナトシドC、M435-1279、Wnt-C59(C59)、アトラノリン、Box5、イソクエルシトリン、AZD2858、CCT251545、PNU-74654、IWP-2、CP21R7(CP21)、IWR-1-endo、ギンセノシドRh4、FIDAS-3、ギガントール、AZ6102、IWR-1-exo、ステノパリブ(Stenoparib)(E7449)、インジルビン-3’-オキシム、カプマチニブ(INCB28060)、WAY-316606、iCRT3、FH535、IWP-O1、LF3、プロジギオシン、KY19382(A3051)、WIKI4、ヘパラン硫酸、ホスセンビビント(ICG-001)、トリプトニド、XAV-939、IWP-4、LGK-974、Foxy-5、MSAB、ラドゥビグルシブ(CHIR-99021)HCl、KY-05009、KY1220、IQ-1、KYA1797K、ハルミン、G244-LM、KY02111、JW55、PH-064、およびラドゥビグルシブ(CHIR-99021)が挙げられる。
【0017】
好ましい実施形態では、第1の因子は、SB431542、XAV-939、およびドルソモルフィンを含む。
【0018】
一実施形態では、この方法は、得られたEBを、第2の因子を含む第2の培地中で、例えば、好適な期間、例えば、7~14日間、8~13日間、9~12日間、または10~11日間にわたって培養するステップをさらに含む。第2の因子は、スムーズンド受容体アゴニスト(smoothened receptor agonist)、例えばスムーズンドアゴニスト(SAG)およびプルモルファミンなどの、ソニックヘッジホッグ経路活性化に関するパターン形成因子を含んでいてもよい。培養は、アクチビンAの存在下で行うことができる。好ましい実施形態では、第2の因子は、XAV-939、アクチビンA、SAG、およびプルモルファミンを含む。この培養は、好ましくは、第1の因子を用いずに実施される。この培養プロセスは、EBが、外側基底核隆起(LGE)への分化をモジュレートすることを可能にすることができ、それにより発生中に線条体を生じさせる。
【0019】
一実施形態では、この方法は、得られたEBを、第3の因子を含む第4の培地中で培養して、線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)などのオルガノイドを得ることをさらに含む。第3の因子は、脳由来神経栄養因子(BDNF)および/またはアスコルビン酸を含んでいてもよい。この培養は、好ましくは、第1および第2の因子を用いずに実施される。
【0020】
一実施形態では、線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)は、直径が、好ましくは、500μm以上か、600μm以上か、700μm以上か、800μm以上か、900μm以上か、1000μm以上か、1100μm以上か、1200μm以上か、または1300μm以上である。線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)は、ドーパミン受容体D1(DRD1)およびサブスタンス-Pを発現するD1 GABA作動性MSNならびにDRD2およびエンケファリンを発現するD2 GABA作動性MSNなどの、D1サブタイプおよびD2サブタイプの両方のGABA作動性中型有棘ニューロン(MSN)を含む。一実施形態では、線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)は、ASCL1、DLX2、GSX2、およびEBF1などの、外側基底核隆起(LGE)に対する1以上のマーカー(LGEマーカー)を発現することができる。一実施形態では、線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)は、SOX1およびSOX2などの1以上の初期神経外胚葉マーカーをさらに発現することができる。一実施形態では、線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)は、好ましくは、DARPP32などの、成熟中型有棘ニューロン(MSN)の1以上のマーカーを発現する。一実施形態では、線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)は、好ましくは、THなどの介在ニューロンマーカー、CHATおよび5-HTなどのコリン作動性ニューロンマーカーおよびセロトニンニューロンマーカー、MBPおよびGFAPなどのグリア細胞マーカーからなる群から選択される1以上のマーカーを発現する。好ましい実施形態では、線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)の少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、または60%は、GABA作動性ニューロンであってもよい。一実施形態では、GABA作動性ニューロンは、GABAおよびCOUP-TF相互作用タンパク質2(CTIP2)を発現する。好ましい実施形態では、線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)は、軸索末端の1以上の軸索側枝および成長円錐、ならびに樹状投射スパインの形成を有することができる。本開示は、こうした線条体様オルガノイド(例えば、hSLO)のいずれかを提供する。
【0021】
本開示は、オルガノイドを産生する方法を提供する。この方法は、第1のオルガノイドおよび第2のオルガノイドを提供することを含んでいてもよい。第1のオルガノイドは線条体様オルガノイド(例えばhSLO)であり、第2のオルガノイドはドーパミン作動性ニューロン(DA)、例えば中脳ドーパミン作動性(mDA)ニューロンを含む。好ましい実施形態では、mDAニューロンは、A9様サブタイプmDAニューロンおよびA10様サブタイプmDAニューロンからなる群から選択される。好ましい実施形態では、第2のオルガノイドは、好ましくは、FOXA2、LMX1A、OTX2;TH、DAT、およびGIRK2などのドーパミンニューロンマーカーの1以上を発現する。好ましい実施形態では、第2のオルガノイドは中脳様オルガノイド(MLO)であり、より好ましくはヒトMLO(hMLO)である。好ましい実施形態では、オルガノイドは、線条体様オルガノイド(SLO)を中脳様オルガノイド(MLO)と接触させ、融合させることにより得ることができる。
【0022】
実施形態の全てにおいて、SLOは好ましくはhSLOであり、MLOは好ましくはhMLOである。
【0023】
一実施形態では、オルガノイドまたは融合SLOおよびMLOは、SLOからMLOへの投射を含む。一実施形態では、オルガノイドまたは融合SLOおよびMLOは、MLOからSLOへの投射を含む。好ましい実施形態では、オルガノイドまたは融合SLOおよびMLOは、SLOとMLOとの間の相互投射を含む。好ましい実施形態では、投射は、神経回路、より好ましくは電気生理学的に機能性の神経回路を形成することができる。
【0024】
一実施形態では、MLOのニューロン、好ましくはmDNAニューロンは、α-シヌクレイン(α-syn)を発現し、好ましくはα-syn凝集を示す。この実施形態では、ニューロン、好ましくはmDNAニューロンは、プロモーター(例えば、PolIIプロモーター)などの制御配列に作動可能に連結した、α-synをコードする遺伝子(SNCA)を含んでいてもよい。本開示は、オルガノイドまたは融合SLOおよびMLOを提供し、MLOのニューロンはα-シヌクレイン(α-syn)を発現し、好ましくは、オルガノイドまたは融合SLOおよびMLOは検出可能なα-syn凝集を示す。
【0025】
本開示は、パーキンソン病(PD)治療のための候補薬物を試験する、または候補薬物をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、オルガノイドまたは融合SLOおよびMLOを提供することを含む。この方法は、候補薬物をオルガノイドまたは融合SLOおよびMLOと接触させること、ならびに次いでオルガノイドまたは融合SLOおよびMLO(好ましくはmDAニューロン)におけるα-シヌクレイン(特に、α-シヌクレインの凝集の存在もしくは非存在またはα-シヌクレインの凝集の度合い)を観察することを含む。この方法は、α-シヌクレイン凝集を、ビヒクル処置群などの陰性対照と比較して減少させる候補薬物を選択することをさらに含む。
【0026】
実施形態の全てにおいて、培養は、好適な培地中で好適な条件下にて実施される。一実施形態では、培地は無血清培地であってもよい。一実施形態では、培地は、使用されている化学物質が全て既知である化学的に定義された組成培地であってもよい。本明細書で使用することができる培養培地の例としては、これらに限定されないが、イーグル最小必須培地(EMEM)、アルファ最小必須培地(aMEM)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、ダルベッコ変法イーグル培地/栄養混合物F-12(DMEM/F-12)、ロズウェルパーク記念研究所(RPMIまたはRPMI1640)、グラスゴー最小必須培地(GMEM)、Biggers、Gwatkin、およびJudah培地(BGJ)、Biggers、Gwatkin、およびJudah培地Fitton-Jackson変法(BGJb)、基本培地イーグル(BME)、ブリンスター卵子培養培地(BMOC-3)、コンノート医学研究所培地(CMRL)、神経基礎培地、CO2非依存性培地、ハムF-10栄養混合物、ハムF-12栄養混合物、改良型MEM、イスコフ変法ダルベッコ培地(IMDM)、培地199、LeibovitzのL-15、McCoyの5A、MCDB131、培地199、mTeSR培地、最小必須培地(MEM)、変法イーグル培地(MEM)、WaymouthのMB752/1、Williamsの培地E、またはそれらの組合せ、既知の代替物、もしくは改変が挙げられる。典型的には、最小培地は、グルコースなどの炭素源;塩;マグネシウム、窒素、リン、および硫黄などの必須元素;および水を含む。実施しようとする実験、問題となる細胞タイプ、ならびに必要とされる細胞の状態に基づき必要に応じて、任意の細胞培養培地をさらなる成分で補完してもよい。細胞培養サプリメントは、これらに限定されないが、血清、アミノ酸(例えば、L-グルタミン)、化学的化合物、塩、緩衝塩または緩衝剤、抗生物質、抗真菌剤、サイトカイン、成長因子、ホルモン、脂質、およびそれらの誘導体である。培養は、典型的には、5%CO2条件下で37℃にて実施することができる。
【0027】
実施形態の全てにおいて、培地の各々には、第1、第2、および第3の因子の各々が好適な量で含まれている。
【実施例】
【0028】
1.プロトコールの確立およびhSLOの特徴付け
我々が以前にhMLOを生成するために使用した手法(Joら、2016年)と同様に、我々は、背側線条体への神経外胚葉分化を促進するために幾つかの小分子を適用した(
図1A)。まず、hESCを解離して単一細胞を生成し、10,000個の細胞をV底96ウェルプレートに播種して胚体(EB)を形成した。1日目に、こうしたEBを、WNT阻害剤(XAV939、0.8μM、StemCell Technologies)と共に、二重SMAD阻害剤(SB431542、10μM、Stemolecule、およびドルソモルフィン、2μM、Sigma-Aldrich)が追加されたDMEM/F12(Nacalai):Neurabasal(Gibco)(1:1)、1:100 N2サプリメント(Invitrogen)、ビタミンAを含まない1:50 B27(Invitrogen)、1%GlutaMAX(Invitrogen)、1%最小必須培地非必須アミノ酸(Invitrogen)、0.1%β-メルカプトエタノール(Invitrogen)を含む神経誘導培地中で培養した。7日目に、SAG(0.5μM、StemCell Technologies)およびプルモルファミン(0.5μM、Stemolecule)を含むパターン形成因子が培地に追加され、外側基底核隆起(LGE)への分化をモジュレートし、それにより発生中に線条体を生じさせた(
図1B)。重要なことには、我々は、以前に報告されているように(Arberら、2015年)、LGEパターン形成により線条体ニューロンの分化を促進するために、アクチビンA(50ng/ml、Gibco)を含める。EBを7日目からオービタル振とう器に移した。14日目にパターン形成因子を除去し、オルガノイドを、BDNF(Peprotech、10ng/ml)およびアスコルビン酸(Sigma-Aldrich、100μM)を追加した神経培地中で維持した(
図1B)。複数のバッチにわたる発生を追跡したところ、こうしたオルガノイドは、分化の60日目までに直径1.3mmまで成長した(
図1C)。qRT-PCR分析によるオルガノイド発生の検討は、NANOG、OCT4などの多能性マーカーの発現減少、およびASCL1、DLX5、GSX2、およびEBF1などの初期LGEマーカーのロバストな発現を示した(
図2)。
【0029】
ヒト線条体は90%よりも多くがGABA作動性MSNで構成されていることが知られている。MSNは、軸索投射形成能力および神経化学的内容物に基づき、ドーパミン受容体D1(DRD1)およびサブスタンスP発現MSNとDRD2およびエンケファリン発現MSNの2つの半部分集団に分割することができる(GravelandおよびDiFiglia、1985年)。以前の研究により、D1 MSNは内部淡蒼球(GPi)および黒質網状部(SNr)に対して出力を送り、大脳基底核に線条体-黒質経路を直接形成することが示されている。その一方で、線条体は、黒質-線条体経路の黒質緻密部(SNpc)からドーパミン作動性入力を受け取り、SNpc投射からのドーパミン作動性ニューロンは線条体へと投射を形成し、その軸索末端からドーパミンを放出して、線条体に位置するGABA作動性MSNに影響を及ぼす(Yagerら、2015年)。この神経回路は、運動にも重要な役割を果たす。黒質-線条体経路および線条体-黒質経路の機能不全は、PDなどの複数の神経疾患の原因であることが発表されている(Gotoら、1989年)。
【0030】
ここで、我々は、我々のhSLOのニューロンをCTIP2およびGABAで標識することにより、60日目にはGABA作動性ニューロンの64%がCTIP2に対しても陽性であると結論付ける(
図3)。以前の研究では、ホメオボックス遺伝子GSX2がLGE運命の決定および線条体の発生に重要であることが示されている(Hsieh-Liら、1995年;Toressonら、2000年;Yunら、2001年)。30日目のhSLO凍結切片をGSX2および腹側前脳マーカーDLX2で標識することにより、我々は、GSX2
+細胞の大部分(83%)がDLX2も発現することを観察した。60日目に成熟hSLOをさらに特徴付けたところ、線条体マーカーであるCOUP-TF相互作用タンパク質2(CTIP2)がGABA
+ニューロンにおいて発現されたことが示された。最後に、90日目にhSLO凍結切片を免疫染色したところ、成熟MSNのマーカーであるDARPP32の発現が確認され、90%細胞がDARPP32
+/GABA
+共発現性だった(
図4)。より興味深いことには、サブスタンス-PおよびDRD2抗体によるhSLOニューロンの免疫染色により、GABA
+ニューロンのある特定の集団が、こうした2つのマーカーを個々に発現することが同定された(
図5)。現時点では、D1およびD2 GABA作動性ニューロンのパーセンテージが高いヒト線条体の生成を示す2Dまたは3Dヒト線条体培養物は存在しないため、この特徴は実際に非常に重要である。
【0031】
様々な研究により、ヒト線条体は、MSNの他に、ニューロン生存を促進し、ならびにシナプス形成を維持するために支持細胞の少数の集団を含むと結論付けられていた(Huotら、2007年)。我々は、我々のhSLOの細胞がTH(ドーパミン作動性ニューロンマーカー)、CHATおよび5-HT(コリン作動性ニューロンマーカーおよびセロトニンニューロンマーカー)、MBP(乏投射膠細胞マーカー)、ならびにGFAP(星状膠細胞マーカー)を発現することを見出した(
図6)。
【0032】
投射ニューロンとしての樹状投射スパインおよび成長円錐を含むMSNの形態学的特徴をさらに特徴付けるために、我々は、DLX5およびDLX6エンハンサー(AAV-mDlx::EGFP)下でEGFPレポーターを発現するAAVウイルスでオルガノイドを標識し、それらを再播種してMSNの軸索伸長を促進させた。その結果、我々は、80日目に、CTIP2マーカーで標識されているEGFP
+細胞の集団を観察した(
図7A)。我々は、ニューロンを130~150日目までさらに培養することにより、ほとんどのEGFP
+ニューロンが、多数の軸索側枝を有するより複雑な形態学的特徴へと成長したことを見出した。さらに興味深いことには、我々は、軸索末端の成長円錐ならびに樹状投射スパインの形成を捕捉した(
図7B)。これは、ニューロンが成熟し、他のニューロンとのシナプス形成が活性であることを示す。
【0033】
カルシウムイメージングは、我々が、脳オルガノイドの個々のニューロンの電気生理学的活動をモニターすることを可能にする。この目的のため、我々は、Fluo-4アセトキシメチルエステル(AM)ベースのカルシウムイメージングを実施した。hSLOをFluo-4 AMとインキュベートしたところ、顕著な自発的Ca
2+トランジエントを示す標識細胞がもたらされた。記録された活動をImageJソフトウェアを使用して分析したところ、150日目のhSLOの単一ニューロンのスパイクが示された(
図8)。hSLOのカルシウム活性は共焦点顕微鏡を使用して測定することができるため、融合オルガノイドのカルシウムイメージングの測定は、PDモデルにおける融合オルガノイドの機能の直接的評価を可能にする有望なアッセイであり得る。
【0034】
全てのこうした結果は、我々により生成されたhSLOが、ヒト線条体に似た複数の特徴を有するMSN GABA作動性ニューロンを産生することできることを示唆している。さらに重要なことには、我々は、hSLOのトランスクリプトーム特徴付けおよび細胞タイプの組成をさらに理解するため、ならびにhSLOのニューロンを以前に公開されたプロトコールから導出されたニューロンと比較するために、hSLOからのバルク細胞および単一細胞RNAシークエンスを分析中である。
【0035】
2.hSLOおよびhMLOの融合は相互投射を再現する
我々は、hMLO-hSLO融合オルガノイドの投射形成ニューロン(projected neuron)が、より良好な機能的シナプス接続を形成することができると予想した。したがって、我々は、融合オルガノイドにおいてより活性なCa
2+活性を記録することを目指す。中脳黒質と大脳基底核の特定領域である線条体との間の相互投射は、神経発生中に生じる(
図9A)。神経投射形成を効率的に視覚化するために、我々は、hMLOおよびhSLOにレポーター系を構築した。我々は、CRISPR/Cas9技術を使用して、hMLOのDAニューロンで特異的に発現するEGFP蛍光タンパク質を3’-TH遺伝子座にノックインした。その一方で、我々は、hSyn1::EGFPを搭載するAAV感染系(AAV-hSyn1::EGFP)を使用して、hSLOのGABA作動性MSNを標識した。こうした投射をin vitroで確立するために、我々は、hSLOおよびhMLOを、24ウェルプレート内で互いに隣り合うように配置し、それらの直接的な物理的接触を促進し、それらを一緒に融合させた。融合の2日後、オルガノイドをオービタル振とう器に戻し、さらに2週間にわたって培養した。
【0036】
線条体-黒質投射形成を示すために、我々は、hSyn1::EGFP感染hSLOを未標識hMLOと融合させた。興味深いことには、我々は、融合3日後から投射形成を観察し始めた。融合2週間後、我々は、hSLOからhMLOの反対側に到達し、軸索束を形成するEGFP
+プロセスのロバストな伸長を見出した(
図9B)。これは、ヒト脳の同様な解剖学的特徴である(Morelloら、2015年)。同様に、hMLOからhSLOへの投射形成能力を調査するために、我々は、TH-EGFPレポーターhMLOを未標識hSLOと融合させた。予想通り、我々は、融合後2週間でhSLO側へのEGFP
+プロセスを検出した(
図9C)。培養がより長くなると、我々は、両融合オルガノイドからのEGFP標識投射シグナルの強度増加を見た。まとめると、こうした結果は、hSLOとhMLOとの間に相互投射が存在することを示し、融合オルガノイドがヒト神経回路の解剖学的レプリカであることを示唆した。
【0037】
我々は、融合オルガノイドのシナプス特性を調査するために一連のアッセイをさらに実施した。まず、投射形成ニューロンが融合オルガノイドの軸索標的化およびシナプス形成を指図することができるか否かを決定するために、我々は、TH-EGFPレポーターhMLOを未標識hSLOと融合させ、次いで我々は、投射形成軸索末端のプレシナプスマーカーと共に投射形成ニューロンを標識して、投射形成ニューロンにおけるシナプス接続の確立を確かめた。予想通り、我々は、hSLO側のTH-EGFP
+投射形成ニューロンと共に、SYN1プレシナプスマーカーおよびPSD95ポストシナプスマーカーの発現を観察する。さらに、我々は、TH-EGFP
+投射形成ニューロンおよび局所GABA作動性ニューロンと共に、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)の発現を観察した(
図10)。加えて、我々は、hMLO側のAAV-hSyn1::EGFP
+投射形成ニューロンと共に、SYN1プレシナプスマーカーおよびPSD95ポストシナプスマーカーの発現を観察する。さらに、我々は、AAV-hSyn1::EGFP
+投射形成ニューロンおよび局所GABA作動性ニューロンと共に小胞GABAトランスポーター(VGAT)の発現を観察し、投射形成DAニューロンおよびGABA作動性ニューロンと局所GABA作動性ニューロンとのシナプス形成を示した。
【0038】
次に、カルシウムイメージング、MEA、およびホールセルパッチクランプを含む電気生理学的記録を使用して、融合オルガノイドの神経回路の機能的成熟および形成を調査することができる。投射形成ニューロンは、融合させると、対応するニューロンとより良好なシナプスを形成することができると我々は予想した。これは各オルガノイド単独では起こらないことである。
【0039】
我々の融合オルガノイド系を使用してα-syn病理をモデル化することが可能であることを示すために、我々は、WTとSNCA過剰発現との間でhMLO-hSLO融合オルガノイドを比較する(
図11A)。hMLOのTH
+DAニューロンを標識することにより、我々は、α-Syn発現の上昇が、hMLOからhSLOへのDAニューロンの投射形成を制限することを示した。興味深いことには、WT DAニューロンは束として投射形成したのに対し、SNCA過剰発現オルガノイドのDAニューロンは、より少数の無作為な投射形成を示した。次に、我々は、レンチウイルス系を使用して、α-synと融合したmKO2レポーター(赤色蛍光タンパク質)を過剰発現させる(
図11Bおよび11C)。このレポーター系は、我々が、α-synの凝集を視覚化し、ならびにhMLO-hSLO融合オルガノイドでのα-syn伝播の作用をモニターすることを可能にした。mKO2抗体を使用してホールマウント染色を行うことにより、我々は、hSLOからhMLOへのα-Syn-mKO2の伝播レベルが著しくより高いが、その逆は高くなく、ほぼ4倍の差があることを観察する(
図11C~11D)。こうしたデータは、SNCA-mKO2レポーターが、我々のhMLO-hSLO融合オルガノイドモデルを使用して、線条体と中脳黒質との間のα-syn伝播およびα-syn凝集の形成を調査するための実行可能な系であることを強く示唆している。
【0040】
3.融合オルガノイドを使用したシヌクレイン病の薬物スクリーニングおよび検査への応用
hMLO-hSLO融合オルガノイドモデルを使用する主な目的は、特にシヌクレイン病理に焦点を当てるが、中脳黒質と線条体との間の相互投射におけるPDの病態形成を研究するために革命的な変化を起こす系を開発することである。我々は、融合オルガノイドin vitro系を使用して、臨床試験において抗PD薬物化合物の効果および影響を試験することを目指す。我々の研究室で確立されたTH-EGFPレポーター系を有するアイソジェニックPD hESC株(Joら、2021年)を使用して、我々は、PD表現型を示す融合オルガノイドを生成する(
図12)。まず、我々は、薬物(例えば、化合物、核酸、もしくは抗体)または第I相臨床治験(NPT200-11およびNPT088:α-synミスフォールディングの阻害剤)および第II相臨床治験(SAR402671:グルコシルセラミドシンターゼの阻害剤、およびアンブロキソール:GCase活性化剤)における候補薬物をα-syn病理のレスキュー効果について試験する。その後、我々は、様々な程度のPD表現型を呈する様々な時点でα-syn凝集の度合いを測定し、最適化された濃度で薬物を適用して、融合オルガノイドに対する長期的で直接的な薬物応答をプロファイリングする。TH
+DAニューロンにおける病理学的α-synの改善レベルの評価は、マルチオミクス分析、イメージング、生化学、電気特性調査、代謝アッセイ、ならびに物理的様式および機能的様式の両方のシナプス形成能力を含む種々の手法により検証されることになる。我々は、薬物処置後の神経変性の低減に関連付けられるα-synの蓄積減少という転帰を予想する。
【0041】
パーキンソン病(PD)は、2番目に最も一般的な神経変性障害であり、ドーパミン作動性(DA)ニューロンの変性により明らかになる。ドーパミン作動性(DA)ニューロンは、通常、黒質-線条体経路において中脳から線条体へと投射を形成する。神経疾患をモデル化するためのin vitro系を構築することはチャレンジングであるが、多数の研究グループが試みている達成可能な目標である。本明細書では、我々は、D1およびD2サブタイプGABA作動性中型有棘ニューロン(MSN)の存在など、ヒト線条体に類似する特徴を有する特定のヒト線条体様オルガノイド(hSLO)を産生するための詳細なプロトコールを開発した。hSLOを我々が以前に生成した中脳様オルガノイド(hMLO)と融合させることにより、我々は、中脳と大脳基底核の線条体との間の接続および通信のin vitro証拠を提供する。最後に、我々は、我々の融合オルガノイド系が、α-シヌクレイン(α-syn)伝播に基づく、パーキンソン病に対する好適な薬物スクリーニングプラットフォームであるという証拠を提供する。この知見は、hSLOとhMLOとの間の構造的相互作用および機能的相互作用の両方を観察することに基づき、in vitro神経変性疾患モデリング、特にシヌクレイン病を革命的に変化させることができる最初の試みである。
【0042】
本明細書で引用されている参考文献および特許および特許出願の各々は、その全体が参照により組み込まれる。
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