(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】層状コーティングのインプラント表面を有するインプラントとその方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/28 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
A61F2/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533170
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(85)【翻訳文提出日】2024-04-10
(86)【国際出願番号】 IN2022050682
(87)【国際公開番号】W WO2023017531
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】202121036630
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524057049
【氏名又は名称】ヴィッセンクラフト ラブス ピーヴイティー.リミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】カレ, シンモイ チャンドラシェカール
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA01
4C097AA02
4C097BB01
4C097CC03
4C097DD09
4C097DD10
4C097MM02
4C097MM03
4C097MM04
4C097MM07
4C097SC10
(57)【要約】
本開示は、層状コーティングのインプラント表面を有するインプラント(104)、およびインプラント表面(1)を有するインプラントの製造方法(300)に関する。インプラント表面を有するインプラント(104)は、微細加工によって作製されたインプラント表面(1)上の微細パターン層(102)と、インプラントの生体結合を促進する、微細パターン層(102)上に堆積された主成分層(7,103)とを備える。微細パターン層(102)は、所定寸法で周期的アレイに配列された微細溝(4)を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラント表面を有するインプラント(104)であって、
微細加工により前記インプラント表面(1)上に形成された微細パターン層(102)であって、所定寸法で周期的アレイに配列された微細溝(4)を備える微細パターン層(102)と、
該微細パターン層(102)上に堆積された主成分層(7,103)と、を備え、
前記インプラント表面が、前記インプラント(104)の生体結合を促進する、インプラント。
【請求項2】
前記主成分層(7,103)が、主成分として、チタンおよびチタン合金、チタン-タンタル合金、マグネシウム合金、チタン-ジルコニウム合金および/またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、前記主成分層(7,103)が、高圧コールドスプレー堆積技術(6,402)を用いて堆積され、前記コールドスプレー堆積技術(6,402)が、前記主成分の溶射種の元の相を保持しながら、多孔性を有する前記主成分層(7,103)の合成を可能にし、前記主成分が、堆積後に、70μm~800μmの厚さの層を形成する、請求項1に記載のインプラント(104)。
【請求項3】
前記微細溝(4)が、半円形、準三角形、十字形、同辺星形、楕円形、円形および正方形の少なくとも1つからなる形状であり、ハニカム状または平面六方細密配列の少なくとも1つからなる配列であり、前記微細溝が、幅10μm~50μm、深さ50μm~500μmおよびパターン間距離400μm~2000μmの1つ以上からなる寸法範囲である、請求項1に記載のインプラント(104)。
【請求項4】
物理的蒸着(PVD)技術(403)を用いて前記主成分層(7,103)上に堆積された抗菌成分層(9)をさらに備え、該抗菌成分層(9)が、菌の増殖を抑制し、前記インプラント表面におけるコロニー形成を防止するために、前記抗菌成分層(9)から抗菌成分を連続的に放出するように構成され、
前記抗菌成分が、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)および銅(Cu)、ニッケル(Ni)、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つからなる、請求項1に記載のインプラント(104)。
【請求項5】
前記抗菌成分層(9)が、1nm~500nmの範囲の堆積厚さを有し、該堆積厚さが、前記インプラント表面上の抗菌成分の前記堆積の速度に基づいて前記堆積の持続時間を調整することによって調節され、堆積の厚さが、前記抗菌成分による細胞毒性を防止するように、前記インプラントの表面積に基づいて決定される、請求項4に記載のインプラント(104)。
【請求項6】
インプラント表面を有するインプラントの製造方法(300)であって、
前記インプラント表面に微細パターン層を形成する微細加工ステップ(301)であって、前記微細パターン層が、所定寸法で周期的アレイに配列された微細溝を備える、ステップ(301)と、
前記微細パターン層上に主成分層を堆積するステップ(302)と、を含み、
前記インプラント表面が、前記インプラントの生体結合を促進する、方法。
【請求項7】
有機/無機および他の表面不純物を除去するための超音波洗浄、表面洗浄および乾燥の1つまたは複数の断続的ステップと、表面粗さを増大させるためのブラスト媒体による表面ブラストを行うさらなるステップ(502)と、窒素/圧縮空気ブロー、滅菌および包装/保管による後処理のステップとをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記主成分層(103)が、主成分として、チタンおよびチタン合金、チタン-タンタル合金、マグネシウム合金、チタン-ジルコニウム合金および/またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、
前記主成分層(103)の堆積が、高圧コールドスプレー堆積技術(6,402)を用いて行われ、該コールドスプレー堆積技術(6,402)が、前記主成分の溶射種の元の相を保持しながら、多孔性を有する前記主成分層(103)の合成を可能にし、
前記主成分の堆積が、70μm~800μmの厚さの層を形成する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記微細溝(4)が、半円形、準三角形、十字形、同辺星形、楕円形、円形、および正方形の少なくとも1つからなる形状で、ハニカム状または平面六方細密状配列であり、
前記微細加工ステップが、幅10μm~50μm、深さ50μm~500μm、およびパターン間距離400μm~2000μmの1つ以上からなる寸法範囲で前記微細溝(4)を形成することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
物理的蒸着(PVD)技術(403)を用いて前記主成分層(7,103)上に抗菌成分層(9)を堆積させることをさらに含み、該抗菌成分層が、菌の増殖を抑制し、前記インプラント表面におけるコロニー形成を防止するために、前記抗菌成分層から抗菌成分を連続的に放出するように構成され、
前記抗菌成分が、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、銅(Cu)およびニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つ、またはそれらの組合せからなる、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記抗菌成分層(9)が、1nm~500nmの範囲の堆積厚さを有し、該堆積厚さが、前記インプラント表面上の前記抗菌成分の堆積速度に基づいて堆積の持続時間を調整することによって調節され、
前記堆積厚さが、前記抗菌成分による細胞毒性を防止するように、前記インプラントの表面積に基づいて決定される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く材料科学およびコーティング技術の分野に関する。特に、本発明は、層状の生体適合性抗菌コーティングおよびそれによって製造される製品に関する。さらに詳細には、本発明は、移植可能な表面または生体結合表面を有する他の任意の医療製品上の生体適合性および抗菌コーティングと、そのコーティング処理に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の外科的介入において、インプラントは、人体に固定され、特定の機能を果たすことが期待される。一般に、補綴インプラントは、置換された身体部分の動きを可能にする人工関節要素として機能する。同様に、様々なインプラントが、臨床的な理由により機能しなくなった所望の機能を実行する。インプラントは生体適合性が必須であり、補綴インプラントはさらに、骨癒合を促進し、望ましい材料強度を示すことが期待されている。
【0003】
一般的に使用されるインプラント材料には、ステンレス鋼、チタン合金、コバルトクロム合金、セラミック、ポリマーなどがある。これらの材料の中には、摩耗および腐食の影響を受けやすく、アレルギー反応、炎症などを引き起こすリスクを誘発するものもある。さらに、インプラント関連感染および院内感染が依然として課題となっており、感染率がかなり高く、場合によっては30%近くになることもある。溶射法(例えば、プラズマ溶射、火炎溶射)のような従来の技術では、補綴インプラントの表面を生体適合性/生体活性コーティング(例えば、ハイドロキシアパタイト、チタンまたは複合材)でコーティングすることができ、インプラントの効率的な結合が可能となる。しかし、このような従来の溶射法には、高温処理のため、基材とコーティングの両方が酸化、相変態および残留応力の誘発の影響を受け易いという欠点がある。
【0004】
感染の問題に対処するために、推奨される戦略には、細菌の増殖とバイオフィルムの形成を防ぐ抗菌剤(抗生物質または金属)をコーティングに組み込むことが含まれる。インプラントの抗菌性表面を実現する従来の方法のひとつは、Ti合金(例えば、Ti-6Al-4V)インプラント表面を陽極酸化して、空洞/孔を形成する処理である。その後、電気化学的または浸漬コーティング法により、抗生物質または銀などの抗菌剤を陽極酸化処理により形成された空洞/孔に充填する。この方法の主な制約要因のひとつは、インプラントの材質がTiまたはTi合金であることが望ましいということである。抗菌性表面を達成するためのもう一つの方法は、抗生物質(例えば、ゲンタマイシンを担持したHA)を担持した骨導電性材料によってインプラントの表面をコーティングすることである。この方法の欠点は、抗菌薬耐性が長期にわたって発現するリスクがあることである。したがって、一般的に抗生物質の放出は最大で4~6日以下に制限される。しかしながら、細菌感染を抑制する持続的な活性は、再手術、免疫不全患者および腫瘍患者において臨床的意義が高い。
【0005】
同時に、細胞毒性作用および組織適合性を損なうことを避けるために、抗菌活性を量的にも時間的にも制限することは重要な課題である。
【0006】
関節置換術の場合に、再手術の原因となる無菌性のゆるみという他の問題も注目されている。ここでは、インプラントを効率的に結合することが、取り組むべき重要な課題である。開発された戦略の中でも、インプラント表面に溝や隆起を形成することは、インプラントの海綿軸上に荷重/応力を伝達し、応力遮蔽効果を防ぐ効果的な方法と考えられている。しかしながら、このような場合には、溝/隆起はインプラントに荷重を伝達することはできるが、溝や隆起の大きさが細胞サイズの割合において大きいため、効率的な細胞付着と骨の成長を理想的に促進するには不十分である。そのため、インプラント表面に堆積されたコーティングは、骨の成長を効果的に促進するような表面特性を示さない。
【0007】
したがって、効率的なインプラントの結合のために生体結合性を高め、同時に菌の増殖を抑制し、バイオフィルムの形成を防止するために持続的な抗菌活性を示す、特別に設計された微細構造の表面の特徴を組み込む可能性のある生体適合性抗菌コーティングの層状コーティングが必要とされている。
【0008】
この開示の背景部分において開示された情報は、本発明の一般的な背景の理解を深めるためのものであり、この情報が当業者に既に知られている先行技術を形成していることを認めたり、何らかの形で示唆したりするものとして捉えられるべきではない。
【発明の概要】
【0009】
非限定的な実施形態において、インプラント表面を有するインプラントが開示されている。インプラント表面は、インプラント表面上の微細パターン層と主成分層とを備える。微細パターン層は、所定寸法の微細加工によって作製され、周期的アレイに配列された微細溝を備えている。さらに、主成分層は、微細溝の微細パターン層上に堆積される。インプラント表面は、インプラントの生体結合を促進する。
【0010】
他の実施形態において、微細加工によって作製された微細溝が、半円形、準三角形、十字形、同辺星形、楕円形、円形および正方形の内の1つの形状を備え、ハニカム状または平面六方細密の少なくとも1つからなる配置である。非限定的な実施形態において、微細溝は、10μm~50μmの範囲の幅、50μm~500μmの深さ、および400μm~2000μmのパターン間距離の寸法のものである。
【0011】
一実施形態において、主成分層は、主成分として、チタン、チタン合金、チタン-タンタル合金、マグネシウム合金、チタン-ジルコニウム合金および/またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む。主成分層は、高圧コールドスプレー堆積技術を用いて堆積される。
高圧コールドスプレー堆積技術は、主成分の溶射種の元の相を保持しながら、多孔性を有する主成分層の合成を可能にする。非限定的な実施形態において、主成分は、堆積された後、70μm~800μmの厚さの層を形成する。
【0012】
さらに他の実施形態において、インプラント表面を有するインプラントは、物理的蒸着(PVD)技術を使用して主成分層上に堆積された抗菌成分層をさらに備える。抗菌成分層は、抗菌成分層から抗菌成分が連続的に放出されるように構成され、菌の成長を阻害し、インプラント表面でのコロニー形成を防止する。非限定的な実施形態では、抗菌成分は、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)および銅(Cu)、ニッケル(Ni)またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つからなる。
【0013】
他の実施形態において、抗菌成分層は、1nm~500nmの範囲の堆積厚さを有する。堆積厚さは、インプラント表面への抗菌成分の堆積速度に基づいて堆積の持続時間を調整することによって調節される。堆積厚さは、抗菌成分に起因する細胞毒性を防止するように、インプラントの表面積に基づいて決定される。
【0014】
非限定的な実施形態では、インプラント表面を有するインプラントを製造する方法が開示されている。この方法は、インプラント表面に微細パターン層を形成するために微細加工する工程を含む。微細パターン層は、所定の寸法で周期的アレイに配列された微細溝を備える。この方法はさらに、微細パターン層上に主成分層を堆積させる工程を含む。インプラント表面は、インプラントの生体結合を促進する。
【0015】
他の実施形態において、この方法はさらに、有機/無機および他の表面不純物を除去するための、超音波洗浄、表面洗浄および乾燥の1つまたは複数の断続的工程、面粗さを高めるためのブラスト媒体による表面ブラストのさらなる工程および窒素/圧縮空気ブローによる後処理、滅菌および包装/保管の工程をさらに含む。
【0016】
前述の概要は例示的なものに過ぎず、いかなる意味においても限定的であることを意図するものではない。上述した例示的な態様、実施形態および特徴に加えて、さらなる態様、実施形態および特徴は、図面および以下の詳細な説明を参照することによって明らかになるであろう。
【0017】
(発明の目的)
本発明の1つの目的は、移植時にインプラントの生体結合を促進するインプラント表面を有するインプラントを提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、インプラント表面における菌の増殖を防止し、それによってインプラントのより優れた生体適合性および生体結合を促進することである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本開示に組み込まれ、本開示の一部を構成する添付の図面は、例示的な実施形態を示し、説明と共に、開示された実施形態を説明する。図において、参照番号の左端の1つ以上の桁は、参照番号が最初に現れる図を識別する。同様の特徴および構成要素を参照するために、図全体を通して同じ番号が使用されている。本主題の実施形態に従ったインプラントおよび/または方法のいくつかの実施形態を、例示としてのみ、添付の図を参照して説明する。
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインプラント表面を有するインプラントの例示的な環境100を説明する図である。
【
図2a】本発明の一実施形態に係る微細溝を有するインプラント表面の縦断面を示す図である。
【
図2b】本発明の一実施形態に係る微細溝を有するインプラント表面の縦断面を示す図である。
【
図2c】本発明の一実施形態に係る微細パターン層上に堆積された主成分層を有するインプラント表面の縦断面を示す図である。
【
図2d】本発明の一実施形態に係る微細パターン層上に主成分層を堆積させた際のインプラント表面の上面走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図2e】本発明の一実施形態に係る抗菌微細構造コーティングを形成する主成分層および微細パターン層上に抗菌層を堆積した際のインプラント表面の縦断面を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るインプラント表面を有するインプラントの製造方法を説明するフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る抗菌成分層を有するインプラント表面を有するインプラントの製造方法を説明するフローチャートである。
【
図5】本発明の開示に係る逐次層堆積で使用される中間工程と共に、インプラント表面を有するインプラントの製造方法の実施形態を示す図である。
【
図6a】本発明の一実施形態に係るインプラント表面上の基準チタン-VPS層と比較した、抗菌微細パターン層の側面を有するインプラント上の無機化の有意な増加を示すグラフ表示である。
【
図6b】本発明の一実施形態に係るインプラント表面の基準チタン-VPS層と比較した、抗菌微細パターン層の側面を有するインプラント上の菌活性の有意な減少を示すグラフ表示である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る(a)抗菌性微細パターン層を有するインプラントを受けた群と、(b)基準チタン真空プラズマ溶射層を受けた群とにおける、骨-インプラント界面における明瞭な骨形成の証拠を示す骨サンプルの病理組織学的切片を示す図である。
【
図8】切除した骨サンプルのマイクロコンピュータ断層撮影を示す図であり、本発明の一実施形態に係る生体結合を示す抗菌性微細パターン層を有するインプラント表面上で骨成長が認められた図である。
【0021】
本明細書におけるブロック図は、本主題の原理を具体化する例示的なシステムの概念図であることが当業者には理解されよう。同様に、任意のフローチャート、フロー図、状態遷移図、擬似コードなどは、そのようなコンピュータまたはプロセッサが明示的に示されているか否かにかかわらず、実質的にコンピュータ可読媒体で表され、コンピュータまたはプロセッサによって実行され得る様々なプロセスを表すことが理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「例示的」という語は、「例、実例、または説明として役立つ」という意味で使用される。本明細書において「例示的」として説明される本主題の任意の実施形態または実装は、必ずしも、他の実施形態よりも好ましいまたは有利であると解釈されるものではない。
【0023】
本開示の実施形態の以下の詳細な説明において、本明細書の一部を構成し、本開示が実施され得る特定の実施形態が例示として示されている添付図面を参照する。これらの実施形態は、当業者が本開示を実施することを可能にするのに十分詳細に記載されており、他の実施形態が利用されてもよく、本開示の範囲から逸脱することなく変更がなされ得ることを理解されたい。したがって、以下の説明は、限定的な意味で捉えられるものではない。
【0024】
本明細書に開示されるのは、インプラント表面を有するインプラントである。インプラント表面は、インプラント表面上の微細パターン層と主成分層とを備える。微細パターン層は、所定の寸法の微細加工によって作られ、周期的アレイに配列された微細溝を備える。さらに、主成分層は、微細溝の微細パターン層上に堆積される。インプラント表面は、インプラントの生体結合を促進する。前記インプラント表面の材料は、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、コバルト-クロム-モリブデン合金、ジルコニウム合金、チタン合金、セラミック、ポリマー、および表面にコーティングを必要とする他の材料、またはそれらの他の組み合わせからなる群から選択され得る。
【0025】
一態様において、インプラント表面は、半円形、準三角形、十字形、同辺星形、楕円形、円形および正方形のいずれかの形状からなる微細加工によって作製された微細溝の微細パターン層を備え、ハニカム状または平面六方細密の少なくとも1つからなる配列で構成される。非限定的な実施形態において、微細溝は、10μm~50μmの範囲の幅、50μm~500μmの深さ、および400μm~2000μmのパターン間距離の寸法のものである。
【0026】
一態様においては、主成分層は、チタンおよびチタン合金、チタン-タンタル合金、マグネシウム合金、チタン-ジルコニウム合金および/またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを主成分として含む。主成分層は、高圧コールドスプレー堆積技術により堆積される。高圧コールドスプレー堆積技術は、主成分の溶射種の元の相を保持しながら、多孔性を有する主成分層を合成することを可能にする。非限定的な実施形態において、主成分は、堆積された後、70μm~800μmの層の厚さを形成する。
【0027】
一実施形態において、主成分層は、溶射種の元の相を保持しながら、多孔性を有するコーティングを合成することを可能にする高圧コールドスプレー技術を用いて堆積される。コーティングは、35バール~50バールまでの圧力を有する高圧モード、15mm~20mmの間のスタンドオフ距離、キャリアガスとしてアルゴン、窒素および/または圧縮空気を用い、400℃~800℃の間で予熱されて実施され、基材表面上に凝縮層を形成することによってコーティング種の付着を可能にしている。
【0028】
他の態様において、インプラント表面を有するインプラントは、物理的蒸着(PVD)技術を用いて主成分層上に堆積された抗菌成分層をさらに備える。抗菌成分層は、抗菌成分層から抗菌成分が連続的に放出されるように構成され、菌の増殖を抑制し、インプラント表面におけるコロニー形成を防止する。非限定的な実施形態において、抗菌成分は、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)および銅(Cu)、ニッケル(Ni)またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つからなる。
【0029】
他の態様において、抗菌成分層は、1nm~500nmの範囲の堆積厚さを有する。堆積厚さは、インプラント表面への抗菌成分の堆積の速度に基づいて堆積の持続時間を調整することによって調節される。堆積厚さは、抗菌成分による細胞毒性を防止するように、インプラントの表面積に基づいて決定される。
【0030】
一態様において、抗菌成分層は、アルゴン雰囲気中、1~30mバールの分圧で物理的蒸着する処理および周囲温度条件下で10W~300Wの直流電力/RF電力でスパッタリングする処理によって合成され、1~500nmの厚さの層を形成することができる。
【0031】
非限定的な実施形態において、インプラント表面を有するインプラントを製造する方法が開示されている。本方法は、インプラント表面に微細パターン層を形成するために微細加工を行うステップを含む。微細パターン層は、所定寸法で周期的アレイに配列された微細溝を備える。本方法はさらに、微細パターン層上に主成分層を堆積させるステップを含む。インプラント表面は、インプラントの生体結合を促進する。
【0032】
他の実施形態において、本方法は、有機/無機およびその他の表面不純物を除去するための超音波洗浄、表面洗浄および乾燥の1つまたは複数の断続的ステップと、表面粗さを増大させるためのブラスト媒体による表面ブラストのさらなるステップと、窒素/圧縮空気ブロー、滅菌、および包装/保管による後処理のステップとをさらに含む。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係るインプラント表面を有するインプラントの例示的な環境100を説明する。
【0034】
本開示は、移植時にインプラントの生体結合を促進する層状コーティングのインプラント表面を有するインプラント104を開示する。インプラント表面を有するインプラントのための環境100は、インプラント表面を有するインプラント104を形成するための層状コーティングを有する製造されたインプラント101からなる。層状コーティングはさらに、インプラント表面上の微細パターン層102と、微細パターン層上に堆積された主成分層103とを備える。一実施形態において、インプラントは、部分的または完全に、身体の構造または機能に対する補助を提供するか、または置換するために、身体、例えば人体において使用され得る。例えば、製造されたインプラントは、整形外科用インプラント、歯科用インプラント、脊椎用インプラント、バイオニック等であってもよい。本発明の一態様において、製造されたインプラント101は、インプラントの目的/構造に応じた形状であってもよい。例えば、整形外科用インプラントの場合には、製造されたインプラント101は大腿骨の形状であってもよい。
【0035】
一実施形態において、インプラント材料2は、生体適合性材料、生体吸収性材料、またはステンレス鋼、コバルト-クロム合金、コバルト-クロム-モリブデン合金、ジルコニウム合金、チタン合金、セラミックス、ポリマー、および表面にコーティングを必要とする他の材料、またはこれらの他の組み合わせからなる群から選択され、インプラント表面1をさらに構成する。他の実施形態において、インプラントの一部または部分のみを埋め込む必要がある部分インプラントがある。
【0036】
図2(a)は、本発明の一実施形態に係る微細溝を有するインプラント表面の断面を示している。
【0037】
本発明の他の実施形態において、微細加工ツールおよび技術によってインプラント表面に微細パターン層102が形成される。本出願に係る微細パターン層102は、所定の寸法で、周期的アレイに配列された微細溝4を備える。インプラント表面における微細パターン形成は、インプラントの表面形態を改善し、後続層のより良い接着を可能にし、より良い生体結合のための細胞の付着および増殖のための足場としても機能する。しかし、微細溝4の形状、深さ、幅、パターン間距離などの寸法は、これらの側面を向上させる上で重要な役割を果たす。幅、深さおよびパターン間距離のような幾何学的側面は、それぞれに対応して「d」、「t」および「s」によって示される(
図2(a))。本開示に係る微細溝4は、半円形、準三角形、十字形、同辺星形、楕円形、円形および正方形の少なくとも1つからなる形状であり、ハニカム状または平面六方細密配列の少なくとも1つからなる配列である。さらに、微細溝4は、幅10μm~50μm、深さ50μm~500μm、パターン間距離400μm~2000μmのうちの1つ以上からなる寸法範囲にある。一実施形態における微細溝4の形状および寸法は、インプラントの種類、生体結合を必要とするインプラントの表面積、身体上のインプラントの部位、および細胞サイズの割合などに基づく方法で予め定義することができる。例えば、平面六方細密配列の半円形形状の微細パターンは、骨結合を促進するために整形外科用インプラントに使用することができる(
図2(b)を参照。)。
【0038】
図2(c)は、本発明の実施形態に係る微細パターン層上に主成分層が堆積されたインプラント表面の断面図である。
【0039】
本発明の一実施形態において、インプラント表面1を有するインプラントは、微細パターン層102の上に主成分層103を有する。一般的に使用されるインプラント材料には、ステンレス鋼、チタン合金、コバルト-クロム合金、セラミックスおよびポリマーが含まれる。これらの材料の中には、摩耗や腐食の影響を受けやすく、アレルギー反応や炎症などを引き起こすリスクがあるものもある。さらに、インプラント関連感染および院内感染も依然として課題であり、感染率がかなり高く、場合によっては30%近くになることもある。主成分層103を成膜するための溶射法(プラズマ溶射、火炎溶射など)のような従来の技術では、インプラントの効率的な結合を可能にする生体適合性/生体活性コーティング(例えば、ハイドロキシアパタイト、チタンまたは複合材料)で補綴インプラント表面1をコーティングすることができる。しかし、このような従来の溶射法は、高温処理によって、インプラント表面1およびコーティング層の両方が酸化、相変態、および残留応力の誘発を受け易いという欠点がある。
【0040】
したがって、本開示の一実施形態によれば、インプラント表面1上の主成分層103は、溶射種の元の相を保持しながら、多孔性を有するコーティングの合成を可能にするコールドスプレー法によって堆積されることが開示される。堆積された主成分層103の多孔性は、インプラント表面1上への細胞の付着および増殖をさらに促進し、より優れた生体結合を実現する。
図2(d)は、本発明の一実施形態による、微細パターン層102上に主成分層103を堆積させた際のインプラント表面1の上面走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0041】
この場合には、コーティングされた層状インプラント表面1は、本質的に2つの機能を果たす。
・有効量の銀イオンを放出し、細菌/菌の増殖を抑制し、コロニー形成を防止する。時間が経つにつれて、膜内の銀含有量は連続的に消耗され、それによって抗菌効果が持続する。
・同時に、主成分層103の粗面形態に加え、微細パターン層は、細胞の付着と迅速な細胞増殖を可能にする。これによって、生体結合の質が著しく改善され、同時に感染および菌コロニー形成のリスクが低減される。さらに、チタンコーティングは生体適合性があり、例えば、膝関節インプラントの場合の滑液のような体液中において腐食しない。
【0042】
図2(e)は、本発明の一実施形態に係る主成分層および微細パターン層上に抗菌微細構造コーティングを形成する抗菌層を堆積した際のインプラント表面の断面図を示す。
【0043】
微細パターン層102および主成分層103の層に加えて、インプラント表面1を有するインプラントの生体結合は、一実施形態に係る抗菌層によって強化され得る。抗菌層の堆積は、体内のインプラント部位と体液との界面における感染につながる可能性のある菌膜の形成を防止する。
図2(e)は、例えば、銀のような抗菌成分が主成分層103上に堆積された実施形態を示す。この層は、体内のインプラント部位にインプラントを埋め込むと、徐々にイオンを放出し、インプラント部位における菌の活動を防止または著しく減少させる。したがって、抗菌成分層は、抗菌成分層から抗菌成分を連続的に放出するように構成され、菌の増殖を抑制し、インプラント表面lにおけるコロニー形成を防止する。抗菌成分は、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)および銅(Cu)、ニッケル(Ni)の少なくとも1つ、またはそれらの組み合わせからなり、1nm~500nmの範囲の堆積厚さを有する。抗菌成分は、対応する閾値以上の細胞毒性を引き起こす可能性があることが観察されている。このような事態を回避するために、インプラント表面1における抗菌成分の堆積速度に基づいて堆積の持続時間を調整することにより、堆積の厚さが調節されてもよく、堆積の厚さは、抗菌成分による細胞毒性を防止するように、インプラントの表面積に基づいて決定される。例えば、表面積の大きいインプラント上の抗菌成分層の厚さは、表面積の小さいインプラント上の抗菌成分層の厚さに比べて小さくてもよい。物理的蒸着(PVD)は、導電性材料上に薄く密着性の高い純金属または合金コーティングとして堆積できる金属蒸気を生成するために使用される処理である。抗菌層の堆積にPVD技術を用いると、堆積速度に基づいて計算されたナノスケールの堆積層の厚さを独自に制御することができる。
【0044】
図3は、本発明の一実施形態に係るインプラント表面を有するインプラントの製造方法を説明するフローチャートである。
【0045】
図3に示すように、インプラント表面1を有するインプラントの製造方法が説明される。
【0046】
本方法が説明される順序は限定として解釈されることを意図するものではなく、説明される方法ブロックの任意の数を任意の順序で組み合わせて本方法を実施することができる。
【0047】
ブロック301において、方法300は、インプラント表面1上に微細パターン層を形成するための微細加工を含むことができる。微細パターン層102は、所定の寸法で周期的なアレイに配置される微細溝4を備える。微細溝4の形状は、半円形、準三角形、十字形、同辺星形、楕円形、円形、四角形の少なくとも1つからなり、ハニカム状または平面六方細密状の配列である。一実施形態において、インプラント表面1sの材料は、ステンレス鋼、コバルト-クロム合金、コバルト-クロム-モリブデン合金、ジルコニウム合金、チタン合金、セラミックス、ポリマー、および生体適合性を高めるために表面にコーティングを必要とするその他の材料からなる群から選択されてもよい。微細加工は、幅10μm~50μm、深さ50μm~500μm、パターン間距離400μm~2000μmの寸法範囲で微細溝4を形成することを含む。
【0048】
ブロック302において、方法300は、微細パターン層102上に主成分層103を堆積することを含んでいてもよい。主成分層103は、チタンおよびチタン合金の少なくとも一方からなる。主成分層103の堆積は、高圧コールドスプレー堆積技術を用いて行われる。コールドスプレー堆積技術は、主成分の溶射種の元の相を保持しながら、多孔性を有する主成分層103の合成を可能にする。主成分の堆積により、70μm~800μmの層厚が形成される。インプラント表面1は、インプラントの生体結合を促進する。一実施形態において、コーティング組成物の主成分は、チタン(Ti)またはチタン合金のいずれかからなる金属剤である。一実施形態においては、コーティング組成物の主成分は、スプレー堆積により堆積された粉末の形態(粒径<65~90μm)であり、70μm~500μmの範囲の層厚を形成してもよい。
【0049】
方法300は、物理的蒸着(PVD)を用いて主成分層103上に抗菌成分層を堆積させることをさらに含むことができ、抗菌成分層は、抗菌成分層から抗菌成分が連続的に放出されるように構成され、菌の増殖を抑制し、インプラント表面1上でのコロニー形成を防止する。抗菌成分は、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、銅(Cu)およびニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つ、またはそれらの組み合わせからなる。
【0050】
抗菌成分層は、1nm~500nmの範囲の堆積厚さを有する。抗菌成分層の堆積厚さは、インプラント表面1上への抗菌成分の堆積速度に基づいて堆積の持続時間を調整することにより調節される。堆積厚さは、抗菌成分に起因する細胞毒性を防止するように、インプラントの表面積に基づいて決定される。
【0051】
方法300は、有機/無機および他の表面不純物を除去するための超音波洗浄、表面洗浄および乾燥の1つまたは複数の断続的ステップ、表面粗さを増大させるためのブラスト媒体による表面ブラストのさらなるステップ、ならびに窒素/圧縮空気ブロー、滅菌および包装/保管による後処理のステップをさらに含んでいてもよい。
【0052】
図4は、本発明の他の実施形態に係るインプラント表面を有するインプラントの製造方法を説明するフローチャートである。
【0053】
図4に示されるように、インプラント表面1を有するインプラントの製造方法が説明されている。
【0054】
ブロック401において、方法400は、インプラント表面l上に微細パターン層を形成するための微細加工を含んでいてもよい。微細パターン層102は、所定の寸法で周期的アレイに配列された微細溝4を備える。
【0055】
ブロック402において、方法400は、微細パターン層102の上に主成分層103を堆積させることを含んでいてもよく、インプラント表面1はインプラントの生体結合を促進する。
【0056】
ブロック403において、方法400は、物理的蒸着(PVD)技術を使用して、主成分層103上に抗菌成分層を堆積させることを含んでいてもよく、抗菌成分層は、抗菌成分層から抗菌成分を連続的に放出するように構成され、菌の成長を阻害し、インプラント表面1上でのコロニー形成を防止する。
【0057】
方法400は、物理的蒸着(PVD)技術を用いて主成分層103上に抗菌成分層を堆積させることをさらに含んでいてもよく、抗菌成分層は、抗菌成分層から抗菌成分が連続的に放出されるように構成され、菌の増殖を抑制し、インプラント表面1上でのコロニー形成を防止する。抗菌成分は、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、銅(Cu)およびニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つ、またはそれらの組み合わせからなる。
【0058】
抗菌成分層は、1nm~500nmの範囲の堆積厚さを有する。堆積厚さは、インプラント表面1上への抗菌成分の堆積速度に基づいて堆積の持続時間を調整することによって調節される。堆積厚さは、抗菌成分に起因する細胞毒性を防止するように、インプラントの表面積に基づいて決定される。
【0059】
方法400は、有機/無機および他の表面不純物を除去するための超音波洗浄、表面洗浄および乾燥の1つまたは複数の断続的ステップと、表面粗さを増大させるためのブラスト媒体による表面ブラストのさらなるステップと、窒素/圧縮空気ブローによる後処理、滅菌および包装/保管のステップとをさらに含んでいてもよい。
【0060】
図5は、本発明の開示に係る逐次層堆積において使用される中間ステップと共に、インプラント表面1を有するインプラントの製造方法の実施形態を示している。
【0061】
逐次層堆積に使用される中間ステップと共にインプラント表面1を有するインプラントを製造する方法は、有機/無機および他の表面不純物を除去するための超音波洗浄、表面洗浄および乾燥の1つまたは複数の断続的なステップと、表面粗さを増大させるためのブラスト媒体による表面ブラストのさらなるステップと、窒素/圧縮空気ブロー、滅菌および包装/保管による後処理のステップとを含む。本方法を説明する順序は限定として解釈されることを意図したものではなく、説明した方法ステップの任意の数を任意の順序で組み合わせて本方法を実施することができる。
【実施例】
【0062】
実施例1:インプラント表面1上の微細溝の調製:
超音波洗浄および乾燥:まず、インプラント材料をインプラント表面1の超音波洗浄および乾燥にかけ、有機/無機および他の表面不純物を除去する。インプラント表面の材料は、ステンレス鋼、コバルト-クロム合金、コバルト-クロム-モリブデン合金、ジルコニウム合金、チタン合金、セラミックス、ポリマー、および表面にコーティングを必要とする他の材料、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。
【0063】
微細加工:洗浄された表面は、周期的な微細溝4を形成するために、表面に微細加工が施される。インプラント表面1上の微細パターン層102は、微細溝4を形成するために微細加工ツール2を用いて作成される。コーティング処理には、同一の周期的な微細溝4を得るための基板表面のプレパターニングが含まれ、微細加工の加工技術には、レーザパターニング、フォトリソグラフィー、マイクロインプリンティング、選択的レーザ溶融/付加製造、マイクロスタンピング、エッチング、またはその他およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。微細溝4は、定義された形状および寸法を有するように製造される。幅、深さ、パターン間距離などの幾何学的側面は、「d」、「t」、「s」を用いて示される(
図2(a))。微細溝4は、平面六方細密配列4(
図2b)またはハニカム状配列のような周期的配置で配列される。微細溝4の形状は、半円形、準三角形、十字形、同辺星形、楕円形、円形、正方形の少なくとも1つからなる。微細加工によって作られた微細溝4は、幅が10μm~50μmの範囲、深さが50μm~500μmの範囲、パターン間距離が400μm~2000μmの範囲の寸法を有する。このステップにはさらに、表面の不純物を除去するために、微細加工の際に移植可能表面の超音波洗浄、すすぎおよび乾燥が含まれる。
【0064】
表面ブラスト:さらに、ブラスト装置5を使用して、表面粗さを高めるために、インプラント表面1にブラスト媒体を用いた表面ブラストが行われ、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)粉末、またはその他の組み合わせを用いて表面をブラストすることによって行われる。ブラスト処理に続いて、有機/無機およびその他の表面不純物を除去するために、表面ブラストの際にインプラント表面1を超音波洗浄および乾燥するステップが行われる。
【0065】
実施例2:微細溝4を有するインプラント表面1への主成分層の堆積
本方法は、インプラント表面1上に主成分を堆積するステップを含んでもよい。基材表面への主成分コーティングの堆積は、高圧コールドスプレー6のコーティング技術によって実施される。コーティングは、圧力35bar~50barの高圧モードで、15mm~20mmの間のスタンドオフ距離で、400℃~800℃までの間で予熱され、キャリアガスとしてアルゴン、窒素および/または圧縮空気を用いて実施され、基材表面上に凝縮層を形成することによってコーティング種の付着を可能にする。この高圧コールドスプレー6は、溶射種の元の相を保持したまま、多孔質のコーティングを合成することができる。主成分層7,103で表面がコーティングされたインプラントは、表面の不純物を除去するために、インプラント表面1の表面洗浄および乾燥がさらに行われる。
【0066】
微細パターン表面3上への主成分層7,103の堆積は、溶射、真空プラズマ溶射、大気圧プラズマ溶射、爆轟溶射、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されるコーティング技術によっても行うことができる。主成分層の堆積に高圧コールドスプレー堆積のような技術を使用することにより、インプラント表面と主成分との間の結合材の必要性が克服され、それにより製造の比較コストが大幅に低減される。
【0067】
実施例3:抗菌成分層の堆積
移植可能な表面上に抗菌成分層9を堆積させる方法は、抗菌Ag層を堆積させることを含む。移植可能な表面にコーティングされる抗菌剤は、Ag濃度が0.1原子%~45原子%の範囲である。貴金属である銀(Ag)(E0=+0.80V)は水中では腐食せず、直接接触するか遊離イオンの放出のいずれかにより、銀イオン(Ag+)を徐々に放出するので、Ag金属は、抗菌機能を発揮することが知られている。これらの金属イオンは、菌の様々な構造と反応し、細胞壁、細胞膜、細胞内の代謝活動に損傷を与える。これにより菌の増殖が回避または阻害され、コロニー形成が阻止される。
【0068】
抗菌成分は、その対応する閾値を超える細胞毒性を引き起こす可能性があることが確認されている。このような事態を回避するために、インプラント表面1上の抗菌成分の堆積速度に基づいて堆積の持続時間を調整することによって堆積厚さを調節してもよく、堆積厚さは、抗菌成分による細胞毒性を防止するような方法でインプラントの表面積に基づいて決定される。例えば、表面積の大きいインプラント上の抗菌成分層の厚さは、表面積の小さいインプラント上の抗菌成分層の厚さに比べて小さくてもよい。物理的蒸着(PVD)は、導電性材料上に薄く密着性の高い純金属または合金コーティングとして堆積させることができる金属蒸気を生成するために使用される処理であり、これにより、主成分層103と抗菌成分層9との間の結合材料の必要性を排除し、製造の比較コストを大幅に削減する。抗菌層の堆積にPVD技術を使用することにより、堆積速度に基づいて計算されたナノスケールで堆積された層の厚さを独自に制御することができる。抗菌Ag層は、1~500nmの層厚を得るために、アルゴン雰囲気中で、1~30mbarの分圧で物理的蒸着し、常温条件下で10W~300WのDCパワー/RFパワーでスパッタリングする処理によって合成される。
【0069】
移植可能な表面への抗菌成分層9の堆積は、さらに、コーティングされたインプラント表面1の洗浄および滅菌のステップに続く。
【0070】
実施例4:後処理
様々な層の堆積の際の後処理ステップは、例えば、インプラント表面1を洗浄するための窒素/圧縮空気ブロー、インプラント表面1を有するインプラントの滅菌および包装/保管のような、1つまたは複数の後処理ステップを含む。
【0071】
実施例5:
インプラント表面1が菌の増殖を抑制する能力は、クーポンディスクの表面で細菌接種片を培養する抗菌活性アッセイを設定することにより評価した。24時間の培養後、コロニー計数のために細菌接種塊を回収し、ペトリ皿にプレーティングした。微細パターン層102および、チタンならびに抗菌微細パターン層をもたらすAg9からなる抗菌成分からなる可能性のある主成分層7,103を備えるインプラント表面1を、生化学的インビトロアッセイを実施するために、直径10mm、厚さ3mmのTi
6Al
4Vクーポンディスク上に合成し、参照として、真空プラズマ溶射法で堆積されたチタン層を有する同様の形状および寸法のTi
6Al
4Vクーポンディスクを使用した。
図6(a)は、本発明の実施形態によるインプラント表面1上に抗菌成分層9および微細パターン層の側面を有するインプラントにおける無機化の著しい増加を示すグラフ表示である。抗菌微細構造コーティングおよび参照チタン-VPSコーティングの2つの異なる時点における無機化活性を示す(*はp<0.5で有意差を示す)。
【0072】
グラム陰性大腸菌およびグラム陽性黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を調べた。抗菌微細構造層は、大腸菌および黄色ブドウ球菌のそれぞれについて、参照のチタン真空プラズマ溶射層(VPS)と比較して、それぞれ4対数減少値および2対数減少値を示した(
図6(b)は、本発明の一実施形態に従って、インプラント表面1上に抗菌成分層9および微細パターン層の側面を有するインプラント上の菌活性の有意な減少を示すグラフ表示を示す)。
【0073】
実施例6
抗菌微細構造層を有するインプラント表面1を有するインプラントの安全性を検証し、生物学的応答を評価するために、インビボのインプラント試験が実施された。試験系として、13週間のインプラント試験に適切な種としてニュージーランド白ウサギを選択した。試験デザインは、抗菌微細構造層を有する円筒形インプラントと、参照用チタン真空プラズマ溶射層を有する円筒形インプラントを受け入れる2群から構成された。無菌条件下で、切開後、インプラントをニュージーランド白ウサギの脛骨に挿入し、傷を縫合した。インプラント埋入13週間後、ウサギは人道的に犠牲にされ、インプラントを含む骨標本が摘出された。脱灰処理後、骨標本の病理組織学的切片を作製した。インプラントは、刺激または炎症反応を含む副作用を引き起こさなかった。骨試料の肉眼的な病理組織学的観察から、両群とも微視的な組織構成は同等であることが明らかになった。病理組織学的切片は、抗菌微細構造層を有するインプラントを埋入した群と、参照用チタン真空プラズマ溶射層を埋入した群とで、骨-インプラント界面に明瞭な骨形成の証拠が認められた((a)抗菌微細パターン層を有するインプラントを受けた群と、(b)本発明の一実施形態に従った参照チタン真空プラズマ溶射層を受けた群とで、骨-インプラント界面における明瞭な骨形成の証拠を示す骨サンプルの病理組織学的切片を示す
図7を参照。)。
【0074】
実施例7:
インプラントの生体結合は、上述のインビボ試験から、抗菌微細構造層を有するインプラントを受けた摘出骨サンプルのマイクロコンピュータ断層撮影を実施することにより評価した。抗菌微細構造造層を有するインプラント表面1では、骨成長が認められ(白矢印)、その結果、インプラントの骨結合が達成された(摘出骨サンプルのマイクロコンピュータ断層撮影を示し、本発明の一実施形態に従う生体結合を示す抗菌微細パターン層を有するインプラント表面1において、骨成長が認められる
図8を参照。)。互いに連係する複数の要素を有する実施形態の説明は、そのような要素が全て必要であることを意味するものではない。反対に、本発明の多種多様な可能な実施形態を説明するために、様々なオプションの要素が記載されている。
【0075】
本明細書において、単一の装置または物品が記載されている場合には、単一の装置/物品の代わりに、複数の装置/物品(それらが協働するかどうかにかかわらず)が使用され得ることは明らかであろう。同様に、本明細書において、2つ以上の装置または物品(それらが協働するかどうかにかかわらず)が記載されている場合に、2つ以上の装置または物品の代わりに、単一の装置/物品が使用されてもよいこと、または、示された数の装置またはプログラムの代わりに、異なる数の装置/物品が使用されてもよいことは明らかであろう。装置の機能性および/または特徴は、そのような機能性/特徴を有するものとして明示的に記載されていない1つ以上の他の装置によって代替的に具現化されてもよい。したがって、本発明の他の実施形態は、装置自体を含む必要はない。最後に、本明細書で使用される文言は、主として読みやすさと説明のために選択されたものであり、発明的主題を画定または限定するために選択されたものではない。したがって、本発明の範囲は、この詳細な説明によってではなく、これに基づく出願に示される特許請求の範囲によって限定されることが意図される。したがって、本発明の実施形態は、以下の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲を例示するものであって、限定するものではないことが意図される。
【0076】
本明細書では様々な態様および実施形態を開示したが、他の態様および実施形態も当業者には明らかであろう。本明細書の実施例において開示された様々な態様および実施形態は、例示を目的とするものであり、限定を意図するものではなく、真の範囲および精神は特許請求の範囲に示される。
【国際調査報告】