(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】アトロピン点眼液及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/46 20060101AFI20240822BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240822BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240822BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240822BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K31/46
A61P27/02
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/04
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539905
(86)(22)【出願日】2022-09-08
(85)【翻訳文提出日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 CN2022117758
(87)【国際公開番号】W WO2023036227
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】202111068375.8
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524097148
【氏名又は名称】オウプーシーファン ファーマシューティカル テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OUPUSHIFANG PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 201,4899 West Wangjiang Road,Hi-Tech Industry Development Zone Hefei,Anhui 230094,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユアン,ジャンドン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ハオ
(72)【発明者】
【氏名】フェン,シン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ヤンチン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD22Z
4C076DD23D
4C076DD23Z
4C076DD26Z
4C076DD38D
4C076DD43Z
4C076DD49
4C076FF14
4C076FF61
4C086AA01
4C086CB15
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA58
4C086NA10
4C086ZA33
(57)【要約】
本発明は、医薬分野に属し、具体的には、アトロピン点眼液及びその調製方法に関する。本発明によるアトロピン点眼液は、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、pH調整剤と、注射用水と、を含む。pH調整剤は、クエン酸とホウ砂との組み合わせ、又はリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせであり、pH値を4.5~5.5に調整する量で使用される。このような処方に従って調製されるアトロピン点眼液は、安定性がよく、総不純物が少なく、毒性が低く、目に刺激がない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、pH調整剤と、注射用水と、を含み、
前記pH調整剤は、クエン酸とホウ砂との組み合わせ、又はリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせであり、pH値を4.5~5.5に調整する量で使用される、ことを特徴とするアトロピン点眼液。
【請求項2】
質量濃度で、前記クエン酸とホウ砂との組み合わせにおいて、クエン酸は0.50~2.00g/Lであり、ホウ砂は1.00~2.00g/Lであり、
質量濃度で、前記リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせにおいて、リン酸二水素ナトリウムは1.49~6.00g/Lであり、リン酸水素二ナトリウムは0.43~0.88g/Lであり、塩酸は0.04~0.13g/Lである、ことを特徴とする請求項1に記載のアトロピン点眼液。
【請求項3】
成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、0.50g/Lのクエン酸と、1.05g/Lのホウ砂と、注射用水と、を含む、ことを特徴とする請求項2に記載のアトロピン点眼液。
【請求項4】
成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、1.95g/Lのリン酸二水素ナトリウムと、0.56g/Lのリン酸水素二ナトリウムと、0.076g/Lの塩酸と、注射用水と、を含む、ことを特徴とする請求項2に記載のアトロピン点眼液。
【請求項5】
前記薬学的に許容される塩は硫酸塩である、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のアトロピン点眼液。
【請求項6】
前記キレート剤は、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウムカルシウム、及びエデト酸のうちの1種又は2種以上の組み合わせを含み、好ましくは、エデト酸二ナトリウムである、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のアトロピン点眼液。
【請求項7】
前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、及びグリセリンのうちの1種又は2種以上の組み合わせを含み、好ましくは、塩化ナトリウムである、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のアトロピン点眼液。
【請求項8】
前記キレート剤、浸透圧調整剤、pH調整剤を処方量で前記注射用水に溶解して、溶液Aを得るステップと、
前記溶液Aに前記アトロピン又はその薬学的に許容される塩を処方量で加えて、溶液Bを得るステップと、
前記溶液Bを濾過して、缶に詰めると、アトロピン点眼液を得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のアトロピン点眼液の調製方法。
【請求項9】
前記注射用水の温度は、40℃以下、好ましくは、21.4~24.4℃に制御される、ことを特徴とする請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
前記溶液Bは、孔径0.22μmの精密濾過膜で濾過され、前記精密濾過膜はPVDF膜である、ことを特徴とする請求項8又は9に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本発明は、2021年09月13日に中国に提出された、名称が「アトロピン点眼液及びその調製方法」、出願番号が202111068375.8の発明特許出願の優先権を主張しており、当該特許出願の全ての内容は、引用により本明細書に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本発明は、医薬分野に属し、具体的には、アトロピン点眼液及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アトロピン(atropine)は、ベラドンナ又は他のナス科植物から抽出され得る天然化合物である。臨床医学では、アトロピンは、主に平滑筋痙攣の解除、微小循環の改善、腺の分泌の抑制、迷走神経の心臓に対する抑制の解除などに用いられる。硫酸アトロピン(atropine sulfate)は、アトロピンの塩の1種であり、臨床資料によると、硫酸アトロピン眼用製剤は、薬理作用がよく、M受容体に対してかなり高い選択性があり、そしてMコリン受容体を遮断し、瞳孔括約筋と毛様体筋を弛緩させ、瞳拡大機序を形成し、目の腫れや炎症による疼痛を緩和する。
【0004】
長年の研究により、アトロピン類眼用製剤は、青少年・児童のもともと緊張していた毛様体筋を伸びやかにさせることができ、睡眠中にその調節機能をさらに回復させ、近視の進行を効果的に遅らせ、治療することができることが実証された。しかし、現在市販されているアトロピン眼用製剤(例えば、Myopine、Atropine、Latropin、USP1%など)は、保存過程で分解しやすく、関連物質(トロパ酸、脱水アトロピン、いかなる単一の未知の関連物質及び関連物質総量など)の生成は薬物の有効性と安全性に影響する。
【0005】
したがって、保存安定性に優れたアトロピン類眼用薬剤の開発は、当分野において解決すべき技術的課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術に存在する欠陥に対して、本発明は、原料の選択及び処方の最適化により、安定性がよく、総不純物が少なくなる、アトロピン点眼液を提供する。
【0007】
さらに、本発明は、上記のアトロピン点眼液の調製方法を提供し、この方法で調製されたアトロピン点眼液は、安定性がよく、総不純物が少なく、長期保存に適している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、pH調整剤と、注射用水と、を含み、
前記pH調整剤は、クエン酸とホウ砂との組み合わせ、又はリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせであり、pH値を4.5~5.5に調整する量で使用される、アトロピン点眼液を提供する。
【0009】
好ましくは、質量濃度で、前記クエン酸とホウ砂との組み合わせにおいて、クエン酸は0.50~2.00g/Lであり、ホウ砂は1.00~2.00g/Lであり、
質量濃度で、前記リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせにおいて、リン酸二水素ナトリウムは1.49~6.00g/Lであり、リン酸水素二ナトリウムは0.43~0.88g/Lであり、塩酸は0.04~0.13g/Lである。
【0010】
さらに好ましくは、本発明の前記アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、0.50g/Lのクエン酸と、1.05g/Lのホウ砂と、注射用水と、を含む。
【0011】
さらに好ましくは、本発明の前記アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、1.95g/Lのリン酸二水素ナトリウムと、0.56g/Lのリン酸水素二ナトリウムと、0.076g/Lの塩酸と、注射用水と、を含む。
【0012】
好ましくは、本発明の前記アトロピン点眼液において、前記薬学的に許容される塩は硫酸塩である。
【0013】
好ましくは、本発明の前記アトロピン点眼液において、前記キレート剤は、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウムカルシウム、及びエデト酸のうちの1種又は2種以上の組み合わせを含む。
【0014】
さらに好ましくは、本発明の前記アトロピン点眼液において、前記キレート剤はエデト酸二ナトリウムである。
【0015】
好ましくは、本発明の前記アトロピン点眼液において、前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、及びグリセリンのうちの1種又は2種以上の組み合わせを含む。
【0016】
さらに好ましくは、本発明の前記アトロピン点眼液において、前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウムである。
【0017】
本発明は、
前記キレート剤、浸透圧調整剤、pH調整剤を処方量で前記注射用水に溶解して、溶液Aを得るステップと、
前記溶液Aに前記アトロピン又はその薬学的に許容される塩を処方量で加えて、溶液Bを得るステップと、
前記溶液Bを濾過して、缶に詰めると、アトロピン点眼液を得るステップと、を含む、本発明の前記アトロピン点眼液の調製方法を提供する。
【0018】
好ましくは、本発明の前記調製方法において、前記注射用水の温度は40℃以下である。
【0019】
さらに好ましくは、本発明の前記調製方法において、前記注射用水の温度は21.4~24.4℃である。
【0020】
好ましくは、本発明の前記調製方法において、前記溶液Bは、孔径0.22μmの精密濾過膜で濾過され、前記精密濾過膜はPVDF膜である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるアトロピン点眼液は、特定のキレート剤、浸透圧調整剤、及びpH調整剤を選択することにより、製品が安定で不純物が少ないという有益な効果を達成し、長期保存に適している。驚くべきことに、本発明によるアトロピン点眼液は、市販のアトロピン点眼液と比較して、30日間の影響要素及び6ヶ月間の加速試験等の安定性試験をしたところ、その総不純物の含有量が市販のMyopine、Atropine、及びLatropinより明らかに低く、本発明の処方は、安定性において予測せぬ技術的効果を有する。
【0022】
さらに、本発明によるアトロピン点眼液は、増粘剤及び防腐剤を含まず、毒性が低く、pH値が中性に近く、目に刺激がない。
【0023】
さらに、本発明によるアトロピン点眼液は、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせをpH調整剤として用いるので、安全性がより高く、小児の長期使用により適している。
【0024】
さらに、本発明によるアトロピン点眼液の調製方法で調製されたアトロピン点眼液は、安定性がよく、総不純物が少なく、長期保存に適している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の様々な例示的な実施例、特徴、及び態様を詳細に説明する。本明細書では、「例示的」という用語は、「例、実施例、又は説明として使用される」ことを意味する。「例示的」として本明細書に記載されたいかなる実施例も、他の実施例よりも優れている、又は良好であると解釈するわけではない。
【0026】
また、本発明をより良く説明するために、以下の具体的な実施形態において多くの具体的な詳細が示される。当業者であれば、特定の詳細がなくても、本発明を実施することができることを理解する。他のいくつかの例では、本発明の主旨を強調するのを容易にするために、当業者によく知られている方法、手段、器材、及びステップは詳細に説明されていない。
【0027】
特に断らない限り、本明細書で使用される単位はいずれも国際標準単位であり、かつ、本発明に現れる数値、数値範囲は、いずれも工業生産において避けられない系統的な誤差を含むものと理解すべきである。
【0028】
本明細書において、「数値A~数値B」を用いて示す数値範囲とは、端点数値A、Bを含む範囲をいう。
【0029】
本明細書において、「任意の」又は「任意に」とは、次に説明されるイベント又は状況が発生し得るか又は発生しないかを意味し、この説明は、イベントが発生する場合と発生しない場合とを含む。
【0030】
本明細書において、「してもよい」を用いて示す意味は、何らかの処理を行う場合と行わない場合の両方の意味を含む。
【0031】
本明細書において、「いくつかの具体的/好ましい実施態様」、「別の具体的/好ましい実施態様」、「実施態様」等は、本明細書に記載された、その実施態様に関連して記載された特定の要素(例えば、特徴、構造、性質、及び/又は特性)が、本明細書に記載された少なくとも1つの実施態様に含まれ、他の実施態様に存在してもよいし、存在しなくてもよいことを意味する。また、前記要素は、様々な実施態様において任意の適切な方法で組み合わされてもよいことを理解されたい。
【0032】
[アトロピン点眼液]
本発明は、成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、pH調整剤と、注射用水と、を含み、
pH調整剤は、クエン酸とホウ砂との組み合わせ、又はリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせであり、pH値を4.5~5.5に調整する量で使用される、アトロピン点眼液を提供する。
【0033】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、質量濃度で、上記のクエン酸とホウ砂との組み合わせにおいて、クエン酸は0.50~2.00g/Lであり、ホウ砂は1.00~2.00g/Lであり、質量濃度で、上記のリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせにおいて、リン酸二水素ナトリウムは1.49~6.00g/Lであり、リン酸水素二ナトリウムは0.43~0.88g/Lであり、塩酸は0.04~0.13g/Lである。
【0034】
本発明によるアトロピン点眼液は、原料の選択及び処方の最適化により、安定性がよく、総不純物が少なく、長期保存に適しており、かつ、pH値が中性により近い4.5~5.5であり、目に刺激がない。
【0035】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、該アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、pH調整剤と、注射用水と、を含み、
pH調整剤は、クエン酸とホウ砂との組み合わせ、又はリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせであり、質量濃度で、クエン酸は0.50~2.00g/Lであり、ホウ砂は1.00~2.00g/Lであり、リン酸二水素ナトリウムは1.49~6.00g/Lであり、リン酸水素二ナトリウムは0.43~0.88g/Lであり、塩酸は0.04~0.13g/Lである。
【0036】
本発明では、増粘剤(例えばヒプロメロース(60SH))を含有しないように上記の処方をさらに最適化することによって、増粘剤が製品の安定性に与える影響を回避することができる。また、防腐剤(例えば塩化ベンザルコニウムなど)を含有しないため、安全性が高く、毒性が低い。
【0037】
アトロピン又はその薬学的に許容される塩
アトロピン類薬物は、現在青少年・児童の近視を予防するのに最も有効に薬物であり、もともと緊張していた毛様体筋を伸びやかにすることができ、睡眠中にその調節機能を更に回復させることができる。
【0038】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、質量濃度で、アトロピン又はその薬学的に許容される塩は0.10~0.20g/Lであり、例示的には、その質量濃度は、0.10g/L、0.12g/L、0.14g/L、0.15g/L、0.16g/L、0.18g/L、0.20g/Lなどである。臨床研究により、一定の範囲内で、アトロピン又はその薬学的に許容される塩は、濃度が高いほど、近視の予防及び/又は治療の効果は良いが、濃度が高すぎると(例えば1%濃度、0.5%濃度、0.1%濃度、その質量濃度はそれぞれ10g/L、5g/L、1g/L)、散瞳作用が強い、眼圧が上昇するなどの副作用を伴うことがわかった。一方、低濃度点眼液は、近視の予防及び/又は治療に優れた効果を有すると同時に、不良反応を最小限に抑えることができる。研究によると、0.01%濃度(質量濃度0.1g/L)のアトロピン点眼液は、児童・青少年の進行性近視の矯正に適しており、0.02%濃度(質量濃度0.2g/L)は明らかな臨床症状を生じない最高濃度であることが分かった。
【0039】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、アトロピン又はその薬学的に許容される塩の質量濃度は0.10g/L又は0.20g/Lである。
【0040】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、薬学的に許容される塩は硫酸塩(すなわち硫酸アトロピン)である。
【0041】
キレート剤
アトロピン点眼液に使用される包装容器の材質が低密度ポリエチレンであり、その原料に人体に有害な金属元素が含まれていること、また、実際の生産時に、調製タンク及び生産管路はすべてステンレス材質であり、金属イオンを導入することも可能であり、微量の重金属は酸化又はその他のメカニズムによりアトロピン点眼液中の活性成分の分解を触媒できることを考慮して、キレート剤を添加することにより、多種の金属イオンと安定な錯体を形成し、活性成分の分解を防止することができ、アトロピン点眼液の安定性を良くし、総不純物を少なくする。
【0042】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、キレート剤は、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウムカルシウム、及びエデト酸のうちの1種又は2種以上の組み合わせを含む。
【0043】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、キレート剤は、エデト酸二ナトリウムである。
【0044】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、キレート剤の質量濃度は0~1.00g/Lであり、例示的には、その質量濃度は、0、0.10g/L、0.20g/L、0.40g/L、0.50g/L、0.60g/L、0.80g/L、1.00g/Lなどである。
【0045】
浸透圧調整剤
浸透圧調整剤は、アトロピン点眼液の浸透圧を適切な範囲に制御することに用いられる。
【0046】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、及びグリセリンのうちの1種又は2種以上の組み合わせを含む。
【0047】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、浸透圧調整剤は、塩化ナトリウムであり、塩化ナトリウムを用いたアトロピン点眼液は、安定性がマンニトール又はグリセリンを用いたものよりも優れている。
【0048】
人間の目が耐えることができる浸透圧は、塩化ナトリウム溶液の浸透圧モル濃度0.5~1.5%w/に相当する広い範囲である。点眼液は、0.09%w/vの塩化ナトリウム溶液に相当する涙液と同様に等張性であることが望ましい。アトロピン点眼液中の他の塩類成分も浸透圧に影響することを考慮し、浸透圧調整剤の使用量を総合的に考察すべきである。本発明のいくつかの具体的な実施態様では、浸透圧調整剤の質量濃度は、7.80~9.00g/Lであり、例示的には、その質量濃度は、7.80g/L、8.00g/L、8.20g/L、8.40g/L、8.60g/L、8.80g/L、9.00g/Lなどであってもよい。質量濃度が7.80g/Lよりも低い場合も9.00g/Lよりも高い場合も、浸透圧は人間の目が耐えることができる範囲を超え、それにより、目の不適さを引き起こす。
【0049】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、浸透圧調整剤の質量濃度は、8.30g/L及び8.70g/Lである。
【0050】
pH調整剤
pH調整剤は、アトロピン点眼液のpH値を4.5~5.5に調整するものであり、アトロピン点眼液が中性に近く、目に刺激がないようにする。アトロピン又は硫酸アトロピンは、エステル基を分子構造中に含めるので、pH値が高すぎると加水分解しやすく、その加水分解生成物は、トロパ酸及びアトロピンであるので、点眼液の品質上の問題を引き起こす。
【0051】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、pH調整剤は、クエン酸とホウ砂との組み合わせである。
【0052】
本発明の別のいくつかの具体的な実施態様では、pH調整剤は、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせである。
【0053】
pH調整剤がクエン酸とホウ砂との組み合わせである場合、本発明のいくつかの具体的な実施態様では、アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、0.50~2.00g/Lのクエン酸と、1.00~2.00g/Lのホウ砂と、注射用水と、を含む。
【0054】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、0.50g/Lのクエン酸と、1.05g/Lのホウ砂と、注射用水と、を含む。
【0055】
本発明のいくつかのより好ましい実施態様では、アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.10g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、1.00g/Lのキレート剤と、8.70g/Lの浸透圧調整剤と、0.50g/Lの無水クエン酸と、1.05g/Lのホウ砂と、注射用水と、を含む。
【0056】
本発明の別のいくつかのより好ましい実施態様では、アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、1.00g/Lのキレート剤と、8.70g/Lの浸透圧調整剤と、0.50g/Lの無水クエン酸と、1.05g/Lのホウ砂と、注射用水と、を含む。
【0057】
pH調整剤がリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせである場合、本発明のいくつかの具体的な実施態様では、アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、1.49~6.00g/Lのリン酸二水素ナトリウムと、0.43~0.88g/Lのリン酸水素二ナトリウムと、0.04~0.13g/Lの塩酸と、注射用水と、を含む。
【0058】
リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムがそれぞれ6.00g/L、0.88g/Lより高い場合、点眼液中の不純物含有量の上昇を引き起こすことがある。また、この2種類のリン酸塩自体に一定の浸透圧が存在し、もし使用量が大きい場合、等張を実現するために浸透圧調整剤の使用量を調整する必要があり、浸透圧調整剤(特に塩化ナトリウム)はアトロピン又は硫酸アトロピンに対して一定の安定化作用があり、トロパ酸の増加を抑制することができる。したがって、アトロピン点眼液の安定性を確保するために、2種類のリン酸塩及び浸透圧調整剤の使用量を協調して調整する必要があり、本発明の点眼液では、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、及び浸透圧調整剤の質量濃度は、それぞれ、1.49~6.00g/L、0.43~0.88g/L、及び7.80~9.00g/Lである。
【0059】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、1.95g/Lのリン酸二水素ナトリウムと、0.56g/Lのリン酸水素二ナトリウムと、0.076g/Lの塩酸と、注射用水と、を含む。
【0060】
本発明のいくつかのより好ましい実施態様では、アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.10g/Lのアトロピン又は其薬学的に許容される塩と、1.00g/Lのキレート剤と、8.30g/Lの浸透圧調整剤と、1.95g/Lのリン酸二水素ナトリウムと、0.56g/Lのリン酸水素二ナトリウムと、0.076g/Lの塩酸と、注射用水と、を含む。
【0061】
本発明の別のいくつかのより好ましい実施態様では、アトロピン点眼液は、成分として、質量濃度で、0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、1.00g/Lのキレート剤と、8.30g/Lの浸透圧調整剤と、1.95g/Lのリン酸二水素ナトリウムと、0.56g/Lのリン酸水素二ナトリウムと、0.076g/Lの塩酸と、注射用水と、を含む。
【0062】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、アトロピン点眼薬の用量仕様は0.5mL/本であり、使用者が単一用量で1回投与するのに適しており、薬物汚染の問題を生じることがなく、より安全で信頼性が高い。
【0063】
[調製方法]
本発明は、
キレート剤、浸透圧調整剤、pH調整剤を処方量で注射用水に溶解して、溶液Aを得るステップと、
溶液Aにアトロピン又はその薬学的に許容される塩を処方量で加えて、溶液Bを得るステップと、
溶液Bを濾過して、缶に詰め、アトロピン点眼液を得るステップと、を含む、上記のアトロピン点眼液の調製方法を提供する。
【0064】
この方法で調製されたアトロピン点眼液は、安定性がよく、総不純物が少なく、長期保存に適している。
【0065】
調製温度は、アトロピン点眼液の安定性に影響し、本発明のいくつかの具体的な実施態様では、注射用水の温度(すなわち、調製温度)は、40℃以下、好ましくは、21.4~24.4℃に制御され、例示的には、その温度は、21.4℃、22.5℃、24.4℃などであってもよい。
【0066】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、溶液AのpH値は、4.99~5.01であり、例示的には、そのpH値は、4.99、5.00、5.01などであってもよい。
【0067】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、溶液BのpH値は、4.98~5.01であり、例示的には、そのpH値は、4.98、5.00、5.01などであってもよい。
【0068】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、溶液Bは、孔径0.22μmの精密濾過膜で濾過される。アトロピン点眼液は無菌製剤であり、精密濾過膜による濾過の目的は、除菌を行い、製品を基準を満たすものとすることである。本発明のいくつかの具体的な実施態様では、精密濾過膜は、少なくとも2つ設けられており、このため、除菌効果がよりよくなる。
【0069】
本発明のいくつかの具体的な実施態様では、精密濾過膜は、PVDF膜を採用しており、他の材質の精密濾過膜が使用されると、不純物を導入する恐れがある。
【0070】
上記のpH調整剤は、クエン酸とホウ砂との組み合わせ、又はリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせである。
【0071】
pH調整剤がクエン酸とホウ砂との組み合わせである場合、「クエン酸とホウ砂との組み合わせ」は、アトロピン点眼液中のpH調整剤の溶質の存在形態を表し、実際に調製する際に添加する原料は、無水クエン酸又はその水和物とホウ砂又はその水和物との混合物、具体的には、無水クエン酸とホウ砂との混合物、クエン酸一水和物とホウ砂十水和物との混合物などであってもよく、その添加量は、溶質の質量濃度で添加する。
【0072】
本発明のいくつかのより具体的な実施態様では、アトロピン点眼液の調製方法は、
注射用水を適量で用意し、温度を21.4~22.5℃に制御するステップと、
安定化剤、浸透圧調整剤、無水クエン酸、及びホウ砂を処方量で加えて、撹拌速度50~300rpmで10~30min撹拌して溶解させ、次に、適量の注射用水を所定の体積となるまで加えて、系のpH値が4.99~5.01の溶液Aを得るステップと、
溶液Aにアトロピン又はその薬学的に許容される塩を処方量で加えて、撹拌速度を50~300rpmとし、撹拌時間を10~30minとし、系のpH値が4.7~5.3の溶液Bを得るステップと、
溶液Bを精密濾過膜で濾過し、検査した結果合格のものを缶に詰め、開口をシールすると、アトロピン点眼液を得るステップと、を含む。
【0073】
pH調整剤がリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせである場合、同様に、「リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせ」は、アトロピン点眼液中のpH調整剤の溶質の存在形態を表し、実際に調製する際に添加する原料は、リン酸二水素ナトリウム又はその水和物とリン酸水素二ナトリウム又はその水和物と塩酸との混合物、例えばリン酸二水素ナトリウム二水和物とリン酸水素二ナトリウム二水和物と塩酸との混合物などであってもよく、塩酸は市販の濃塩酸であってもよいし、独自に調製した他の濃度の希塩酸であってもよい。
【0074】
本発明のいくつかのより具体的な実施態様では、アトロピン点眼液の調製方法は、
0.1~1mol/Lの塩酸を調製して、使用に備えるステップと、
注射用水を適量で用意し、温度を24.4℃に制御するステップと、
安定化剤、浸透圧調整剤、リン酸二水素ナトリウム二水合物、及びリン酸水素二ナトリウム二水合物を処方量で加えて、撹拌速度50~300rpmで10~30min撹拌して溶解させ、この系のpH値を5.86~5.87にし、次に、調製した塩酸を加えて、pH値を5.00に調整し、その後、適量の注射用水を所定の体積となるまで加えて、系のpH値が5.00~5.01の溶液Aを得るステップと、
溶液Aにアトロピン又はその薬学的に許容される塩を処方量で加えて、撹拌速度を50~300rpmとし、撹拌時間を10~30minとし、系のpH値が5.01の溶液Bを得るステップと、
溶液Bを精密濾過膜で濾過し、検査した結果合格のものを缶に詰め、開口をシールすると、アトロピン点眼液を得るステップと、を含む。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を参照して本発明の実施態様を詳細に説明するが、当業者であれば、以下の実施例は、本発明を説明するためにのみ使用されるものであり、本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではないことを理解する。具体的な条件が実施例に記載されていない場合は、通常の条件又は製造者が提案する条件に従って実施する。使用する試薬又は器具は、メーカーが明記されていない場合、いずれも市販により入手できる通常製品である。
【0076】
実施例1
本実施例は、表1に示す処方のアトロピン点眼液を提供する。
【0077】
【0078】
本実施例は、以下のステップを含む上記のアトロピン点眼液の調製方法を提供する。
(1)温度22.5℃の注射用水900mLを処方量の90%で計量した。
(2)エデト酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、ホウ砂、及び無水クエン酸を処方量で加えて、撹拌速度200rpmで10min撹拌して溶解させ、注射用水を1000mLまで加えて、溶液Aを得、系のpH値を測定したところ、5.01であった。
(3)溶液Aに硫酸アトロピンを処方量で加えて、撹拌速度を200rpmとし、撹拌時間を10minとし、溶液Bを得、系のpH値を測定したところ、4.98であった。
(4)0.22μmのPVDF濾過膜で濾過し、得た薬液について硫酸アトロピンの含有量を分析して検出した。
(5)ガラス注射器を用いて薬液0.5mLを1mL点眼剤瓶に詰め、合計162本とし、熱溶融して開口をシールし、瓶の開口を室温まで冷却すると、漏れをチェックした。残りの薬液をガラス瓶内にシールして、室温で保存した。
【0079】
実施例2
本実施例は、表2に示す処方のアトロピン点眼液を提供する。
【0080】
【0081】
本実施例は、以下のステップを含む上記のアトロピン点眼液の調製方法を提供する。
(1)温度21.4℃の注射用水900mLを処方量の90%で計量した。
(2)エデト酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、ホウ砂、及び無水クエン酸を処方量で加えて、撹拌速度200rpmで10min撹拌して溶解させ、注射用水を1000mLまで加えて、溶液Aを得て、系のpH値を測定したところ、4.99であった。
(3)溶液Aに硫酸アトロピンを処方量で加えて、撹拌速度を200rpmとし、撹拌時間を10minとし、溶液Bを得て、系のpH値を測定したところ、4.98であった。
(4)0.22μmのPVDF濾過膜で濾過し、得た薬液について硫酸アトロピンの含有量を分析して検出した。
(5)ガラス注射器を用いて濾液0.5mLを1mL点眼剤瓶に詰め、合計150本とし、熱溶融して開口をシールし、瓶の開口を室温まで冷却すると、漏れをチェックした。残りの薬液をガラス瓶内にシールして、室温で保存した。
【0082】
実施例3
本実施例は、表3に示す処方のアトロピン点眼液を提供する。
【0083】
【0084】
本実施例は、以下のステップを含む上記のアトロピン点眼液の調製方法を提供する。
(1)36%塩酸0.9mLを精密に計量し、注射用水100mLに加えて、0.1mol/Lの塩酸を調製して、使用に備えた。
(2)温度24.4℃の注射用水900mLを処方量の90%で計量した。
(3)エデト酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム二水合物、及びリン酸水素二ナトリウム二水合物を処方量で加えて、撹拌速度200rpmで10min撹拌して溶解させ、系のpH値を測定したところ、5.87であった。
0.1mol/Lの塩酸でpH値を5.00に調整し、注射用水を1000mLまで加えて、溶液Aを得て、系のpH値を測定したところ、5.00であった。
(4)溶液Aに硫酸アトロピンを処方量で加えて、撹拌速度を200rpmとし、撹拌時間を10minとし、溶液Bを得て、系のpH値を測定したところ、5.01であった。
(5)0.22μmのPVDF濾過膜で濾過し、得た薬液について硫酸アトロピンの含有量を分析して検出した。
(6)ガラス注射器を用いて薬液0.5mLを1mL点眼剤瓶に詰め、合計156本とし、熱溶融して開口をシールし、瓶の開口を室温まで冷却すると、漏れをチェックした。残りの薬液をガラス瓶内にシールして、室温で保存した。
【0085】
実施例4
本実施例は、表4に示す処方のアトロピン点眼液を提供する。
【0086】
【0087】
本実施例は、以下のステップを含む上記のアトロピン点眼液の調製方法を提供する。
(1)36%塩酸0.9mLを精密に計量し、注射用水100mLに加えて、0.1mol/Lの塩酸を調製し、使用に備えた。
(2)温度24.4℃の注射用水900mLを処方量の90%で計量した。
(3)エデト酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム二水合物、及びリン酸水素二ナトリウム二水合物を処方量で加えて、撹拌速度200rpmで10min撹拌して溶解させ、系のpH値を測定したところ、5.86であった。
0.1mol/L塩酸でpH値を5.00に調整し、注射用水を1000mLまで加えて、溶液Aを得て、系のpH値を測定したところ、5.01であった。
(4)溶液Aに硫酸アトロピンを処方量で加えて、撹拌速度を200rpmとし、撹拌時間を10minとし、溶液Bを得て、系のpH値を測定したところ、5.01であった。
(5)0.22μmのPVDF濾過膜で濾過し、得た薬液について硫酸アトロピンの含有量を分析して検出した。
(6)ガラス注射器を用いて濾液0.5mLを点眼剤瓶1mLに詰め、合計104本とし、熱溶融して開口をシールし、瓶の開口を室温まで冷却すると、漏れをチェックした。残りの薬液をガラス瓶内にシールして、室温で保存した。
【0088】
試験例
1 アトロピン点眼薬への影響要素の試験
1.1 実施例1及び実施例2で調製されたアトロピン点眼液の試験
実施例1及び実施例2では、使用されるpH調整剤は、クエン酸とホウ砂との組み合わせである。このアトロピン点眼液に対して、その影響要素の試験では、高温(40℃と50℃)と強い光照射(5000lx)条件を考察した。可能な輸送条件を考慮して、低温試験(4℃)と凍結融解試験(-18℃)の考察も併せて行った。その考察結果をそれぞれ表5と表6に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
表5及び表6の試験の結果から、本発明によるアトロピン点眼液は、40℃と50℃の高温条件下において、時間の経過とともに、硫酸アトロピンの含有量が増加する傾向にあり、40℃より50℃の方が顕著であることが分かったが、これは、本発明によるアトロピン点眼液に使用される内包材が半浸透性容器であり、水分損失特性があるため、点眼液中の硫酸アトロピンの含有量が増加しているためである。本発明による点眼液は、高温50℃及び強い光照射条件下において、トロパ酸及び脱水アトロピンの増加傾向が顕著である。従って、本発明によるアトロピン点眼液は、保存中及び輸送中に高温及び強い光照射を避けるべきである。
【0092】
1.2 実施例3及び実施例4で調製されたアトロピン点眼液の試験
実施例3及び実施例4に使用されるpH調整剤は、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせである。このアトロピン点眼液に対して、その影響要素の試験では、高温(40℃と50℃)と強い光照射(5000lx)条件を考察した。可能な輸送条件を考慮して、低温試験(4℃)と凍結融解試験(-18℃)の考察も併せて行った。その考察結果をそれぞれ表7と表8に示す。
【0093】
【0094】
【0095】
表7及び表8の試験の結果から、本発明によるアトロピン点眼液は、40℃と50℃の高温条件下において、時間の経過とともに、硫酸アトロピンの含有量が増加する傾向にあり、40℃よりも50℃の方が顕著であることが分かったが、これは、本発明によるアトロピン点眼液に使用される内包材が半浸透性容器であり、水分損失特性があるため、点眼液中の硫酸アトロピン含有量が増加しているためである。本発明による点眼液は、高温50℃と強い光照射の条件下において、トロパ酸及び脱水アトロピンの増加傾向が顕著である。従って、本発明によるアトロピン点眼液は、保管中及び輸送中に高温及び強い光照射を避けるべきである。
【0096】
2 自作点眼液と市販の点眼液の安定性データの比較
【表9】
【0097】
試験の結果、自作点眼液については、本発明による処方にかかわらず、高温長期(40℃~30日)保存後の安定性に有意差はなく、総不純物量(0.593%~0.837%)は市販のMyopine(1.676%)、Atropine(2.974%)、及びLatropin(3.437%)より著しく少なく、いずれも市販製剤より低いことが分かった。
【0098】
【0099】
試験の結果から、本発明の自作点眼液は、市販の点眼液と比較して、未知の不純物の発生が少なく、また、この未知の不純物は、使用する光安定化ボックスのサンプル保持環境が複雑であるため、その総不純物量は市販の製剤よりも低く、本発明の自作点眼液は、光を避けて保存すべきであることが分かった。
【0100】
【0101】
表11の加速試験のデータによると、3ケ月加速時に自作点眼液のトロパ酸は市販の点眼液Myopineよりやや高く、その原因としては、MyopineのpH値は4.7で、自作点眼液のpH値は更に5.0に近く、トロパ酸はpH値の影響を比較的に大きく受けるため、自作点眼液のトロパ酸はやや高くなるためである。トロパ酸は、アトロピンの加水分解産物であり、体内代謝産物であり、米国薬局方における1%規格の硫酸アトロピン点眼液の品質基準では、7.0%が限度であるため、自作点眼液のトロパ酸は、安全性に影響を及ぼすことはない。しかし、6ケ月加速すると、市販の点眼液は、自作点眼液よりも、トロパ酸の含有量が顕著に増加した。調査期間に亘って、自作点眼液のトロパ酸、脱水アトロピン、及び最大未知単一不純物の含有量はまだ低いレベルに維持され、発生する不純物は少なく、しかも、総不純物は、市販の点眼液より低く、安定性は更に良い。
【0102】
3 製品の不純物に対する増粘剤の影響
処方に増粘剤を添加し、製品の安定性に対する増粘剤の影響を考察した。製品から不純物が発生するのが、pH調整剤と増粘剤との共同作用の結果である可能性を考慮して、本発明は、さらにpH調整剤の使用量を変化させることにより、製品の安定性に対する増粘剤の影響を総合的に検討した。サンプル処方の組成と実験結果を表12~表13に示す。
【0103】
【0104】
上記の処方の調製方法は、実施例1~2の調製方法によって行われてもよい。具体的には、実施例1の調製方法によって、対応する製品を調製した。
【0105】
【0106】
表12と表13を総合すると、処方1~4は、いずれも増粘剤が添加されており、対応する製品は、高温長期(40℃、30日間)で保存すると、安定性が低下していることが分かった。このうち、処方1及び処方2は、いずれもリン酸塩と増粘剤が添加されており、処方3及び処方4は、いずれもホウ酸及び増粘剤が添加されており、製品の安定性に有意差はなく、これは、製品の安定性が悪くなる原因がリン酸塩やホウ酸の添加にあるわけではないことを示している。処方1及び処方2では、リン酸塩の濃度が異なっても、製品の安定性に有意差はなく、これは、製品の安定性が悪くなる原因がリン酸塩の濃度の違いにあるわけではないことを示している。処方3及び処方4では、ホウ酸の濃度が異なり、製品の安定性に有意差はなく、これは、製品の安定性の原因がホウ酸の濃度の違いにあるわけではないことを示している。
【0107】
以上から、増粘剤のヒプロメロースを添加すると、製品の安定性が悪くなり、不純物が多くなる。本発明によるアトロピン点眼液は、原料の選択及び処方の最適化により、増粘剤を含まず、安定性がよく、総不純物が少なく、長期保存に適している。
【0108】
4 リン酸塩濃度の考察
リン酸塩濃度を半分にし、サンプルの安定性へのリン酸塩の影響を考察した。サンプル処方の組成及び実験結果を表14~表15に示す。
【0109】
【0110】
【0111】
表15の実験結果より、トロパ酸の増加はリン酸塩濃度に影響され、リン酸塩濃度が低いとトロパ酸の増加が遅くなるという予想外の結果が得られた。また、最大未知単一不純物の増加は比較的に速く、総不純物も増加することから、アトロピン点眼液中のリン酸塩濃度はやや高いレベルに制御すべきである。しかし、リン酸塩自体にも一定の浸透圧が存在することを考慮すると、リン酸塩の使用量が多い場合、等張を達成するために、塩化ナトリウムの使用量を調整する必要がある。塩化ナトリウムは硫酸アトロピンの安定性にも一定の影響がある。そのため、アトロピン点眼液の安定性と浸透圧を確保する角度から考えて、2種類のリン酸塩と塩化ナトリウムの使用量を協調して調整する必要がある。
【0112】
5 塩化ナトリウム濃度の考察
本発明では、リン酸二水素ナトリウムの質量濃度を1.95g/L、リン酸水素二ナトリウムの質量濃度を0.56g/Lとし、この条件下で塩化ナトリウムの使用量が浸透圧に与える影響を考察した。各濃度の塩化ナトリウムを含む補助材料溶液ブランクを調製し、サンプルの浸透圧を測定した。サンプルの処方及び浸透圧の結果を表16に示す。
【0113】
【0114】
点眼液と涙液との等張についての規定に基づき、本発明では、浸透圧を280~320mOsmol/kgの範囲とし、その際の塩化ナトリウムの使用量を7.80~9.00g/Lとした。既存の市販製剤の浸透圧と合わせて本発明のアトロピン点眼液の浸透圧を300mOsmol/kg程度とし、その際の塩化ナトリウムの使用量を8.30g/Lとし、それによって、塩化ナトリウムの濃度が安定性に及ぼす影響について考察した。
【0115】
塩化ナトリウムの使用量を調整した処方に従ってサンプルを調製し、サンプルの安定性を考察した。サンプル処方の組成と実験結果を表17~表18に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
影響要素の試験の結果から、塩化ナトリウムの使用量を9.00g/Lから8.30g/Lに調整したが、サンプルの安定性に影響を与えなかったことから、製品の安定性を確保しながら、塩化ナトリウムの使用量をさらに減らすことは、アトロピン点眼液の安全性と全体の品質を向上させることができることが示唆された。
【0119】
以上より、アトロピン点眼液の安定性を確保するために、2種類のリン酸塩と浸透圧調整剤の使用量を協調して調整する必要があることがわかった。以上のようにして考察すると、本発明の点眼液では、リン酸二水素ナトリウムの質量濃度は1.49~6.00g/Lであり、リン酸水素二ナトリウムの質量濃度は0.43~0.88g/Lであり、塩化ナトリウムの質量濃度は、7.80~9.00g/Lであることがわかった。さらにスクリーニングしたところ、リン酸二水素ナトリウムの質量濃度が1.95g/L、リン酸水素二ナトリウムの質量濃度が0.56g/L、塩化ナトリウムの質量濃度が8.30g/Lであれば、点眼液の安定性がより良好であった。
【0120】
以上、本開示の様々な実施例について説明したが、上記の説明は例示的なものであり、網羅的なものではなく、開示された様々な実施例に限定されるものでもない。説明された様々な実施例の範囲及び精神から逸脱することなく、多くの修正及び変更は当業者にとって自明である。本明細書で使用される用語の選択は、様々な実施例の原理、実際の適用、又は市場における技術の改良を最もよく説明すること、又は本明細書で開示された様々な実施例を当業者が理解できるようにすることを意図している。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、pH調整剤と、注射用水と、を含み、
前記pH調整剤は、クエン酸とホウ砂との組み合わせ、又はリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせであり、pH値を4.5~5.5に調整する量で使用される、ことを特徴とするアトロピン点眼液。
【請求項2】
質量濃度で、前記クエン酸とホウ砂との組み合わせにおいて、クエン酸は0.50~2.00g/Lであり、ホウ砂は1.00~2.00g/Lであり、
質量濃度で、前記リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムと塩酸との組み合わせにおいて、リン酸二水素ナトリウムは1.49~6.00g/Lであり、リン酸水素二ナトリウムは0.43~0.88g/Lであり、塩酸は0.04~0.13g/Lである、ことを特徴とする請求項1に記載のアトロピン点眼液。
【請求項3】
成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、0.50g/Lのクエン酸と、1.05g/Lのホウ砂と、注射用水と、を含む、ことを特徴とする請求項2に記載のアトロピン点眼液。
【請求項4】
成分として、質量濃度で、0.10~0.20g/Lのアトロピン又はその薬学的に許容される塩と、0~1.00g/Lのキレート剤と、7.80~9.00g/Lの浸透圧調整剤と、1.95g/Lのリン酸二水素ナトリウムと、0.56g/Lのリン酸水素二ナトリウムと、0.076g/Lの塩酸と、注射用水と、を含む、ことを特徴とする請求項2に記載のアトロピン点眼液。
【請求項5】
前記薬学的に許容される塩は硫酸塩である、ことを特徴とする請求項
1に記載のアトロピン点眼液。
【請求項6】
前記キレート剤は、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウムカルシウム、及びエデト酸のうちの1種又は2種以上の組み合わせを含み、好ましくは、エデト酸二ナトリウムである、ことを特徴とする請求項
1に記載のアトロピン点眼液。
【請求項7】
前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、及びグリセリンのうちの1種又は2種以上の組み合わせを含み、好ましくは、塩化ナトリウムである、ことを特徴とする請求項
1に記載のアトロピン点眼液。
【請求項8】
前記キレート剤、浸透圧調整剤、pH調整剤を処方量で前記注射用水に溶解して、溶液Aを得るステップと、
前記溶液Aに前記アトロピン又はその薬学的に許容される塩を処方量で加えて、溶液Bを得るステップと、
前記溶液Bを濾過して、缶に詰めると、アトロピン点眼液を得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のアトロピン点眼液の調製方法。
【請求項9】
前記注射用水の温度は、40℃以下、好ましくは、21.4~24.4℃に制御される、ことを特徴とする請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
前記溶液Bは、孔径0.22μmの精密濾過膜で濾過され、前記精密濾過膜はPVDF膜である、ことを特徴とする請求項
8に記載の調製方法。
【国際調査報告】