(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】大員環化合物の結晶及びその調製方法と応用
(51)【国際特許分類】
C07D 498/22 20060101AFI20240822BHJP
A61K 31/439 20060101ALI20240822BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20240822BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240822BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C07D498/22 CSP
A61K31/439
A61P43/00 111
A61P25/04
A61P25/02
A61P29/00
A61P35/00
A61P25/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541120
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(85)【翻訳文提出日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 CN2022093322
(87)【国際公開番号】W WO2023045360
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】202111111449.1
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523233536
【氏名又は名称】成都先▲導▼▲薬▼物▲開▼▲発▼股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】郭 睿智
(72)【発明者】
【氏名】王 健松
(72)【発明者】
【氏名】羅 志波
(72)【発明者】
【氏名】黄 海文
(72)【発明者】
【氏名】秦 飛
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲ウェイ▼
(72)【発明者】
【氏名】葉 海鴻
(72)【発明者】
【氏名】銭 日彬
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA03
4C086CB22
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA08
4C086ZA21
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は医薬合成技術分野に属し、大員環化合物の結晶及びその調製方法と応用を公開している。この大員環化合物は、(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキサ-2,17,21,25-テトラアザ戊環[16.6.2.02,6.07,12.022,26]ヘプタコサ-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリルであり、この結晶のX線回折パターンが、9.49±0.2、10.60±0.2、11.54±0.2、14.10±0.2、17.09±0.2、19.15±0.2、20.30±0.2、22.85±0.2、23.89±0.2、及び27.74±0.2の2θ角度で特徴的なピークを有する。この結晶形は吸湿性がなく、良好な安定性と薬物代謝動態特性を有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大員環化合物(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.0
2,6.0
7,12.0
22,26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリルの結晶であって、該結晶のX線回折パターンが9.49±0.2、10.60±0.2、11.54±0.2、14.10±0.2、17.09±0.2、19.15±0.2、20.30±0.2、22.85±0.2、23.89±0.2、及び27.74±0.2の2θ値で特徴的なピークを有することを特徴とする、大員環化合物の結晶。
【請求項2】
前記結晶のX線回折パターンが、18.75±0.2、21.29±0.2、24.25±0.2、24.99±0.2、28.74±0.2、及び31.35±0.2の2θ値で特徴的なピークをさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の大員環化合物の結晶。
【請求項3】
前記結晶のX線回折パターンが、5.69±0.2、16.11±0.2、25.62±0.2、26.34±0.2、27.26±0.2、29.91±0.2、32.19±0.2、33.86±0.2、34.70±0.2、35.59±0.2、36.95±0.2、37.40±0.2、39.19±0.2、40.33±0.2、41.16±0.2、42.56±0.2、43.11±0.2、45.30±0.2、46.35±0.2、及び49.80±0.2の2θ値で特徴的なピークをさらに有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の結晶形。
【請求項4】
前記結晶の示差走査熱量曲線が233±5℃で吸熱ピークを有することを特徴とする、請求項1に記載の大員環化合物の結晶。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の大員環化合物の結晶の調製方法であって、
前記大員環化合物に溶媒を過飽和状態までに加え、その後撹拌し、晶析し、ろ過して得られたろ過残渣を乾燥させることにより結晶を得る形態(1)、
加熱しながら前記大員環化合物を溶媒中に溶解し、その後冷却しながら晶析し、ろ過して得られたろ過残渣を乾燥させることにより結晶を得る形態(2)、及び
前記大員環化合物を溶媒中に溶解し、それに反溶媒を加え、晶析し、ろ過して得られたろ過残渣を乾燥させることにより結晶を得る形態(3)、
という3つの形態から選択される一つであることを特徴とする、大員環化合物の結晶の調製方法。
【請求項6】
形態(1)~(3)における前記溶媒及び形態(3)における前記反溶媒は、C
2-C
7炭化水素、C
2-C
7アルコール、C
2-C
7ケトン、C
2-C
7ニトリル、C
2-C
7エーテル、C
2-C
7エステル、及び水からなる群より選ばれる1種又は複数種であることを特徴とする、請求項5に記載の大員環化合物の結晶の調製方法。
【請求項7】
前記C
2-C
7炭化水素が、ジクロロメタン、n-ヘプタン、又はトルエンであり、
前記C
2-C
7アルコールが、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、n-プロパノール、又はイソプロパノールであり、
前記C
2-C
7ケトンが、アセトン、又はブタノンであり、
前記C
2-C
7ニトリルが、アセトニトリルであり、
前記C
2-C
7エーテルが、イソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、又は1,4-ジオキサンであり、
前記C
2-C
7エステルが、エチルアセテート、又はイソプロピルアセテートであることを特徴とする、請求項6に記載の大員環化合物の結晶の調製方法。
【請求項8】
前記溶媒が、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記反溶媒が、イソプロピルエーテル、ヘキサン、及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6に記載の大員環化合物の結晶の調製方法。
【請求項9】
Trkキナーゼ関連疾患に用いられる医薬品の製造における、請求項1~4のいずれかに記載の大員環化合物の結晶の使用。
【請求項10】
前記Trkキナーゼ関連疾患が、疼痛、悪性腫瘍、炎症性疾患、及び神経変性疾患のうちの一種であることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬合成の技術分野に属し、具体的には大員環化合物(macrocyclic compound)の結晶及びその調製方法と応用に関する。
【背景技術】
【0002】
トロポミオシン関連キナーゼ(Trkキナーゼ)は神経成長因子の受容体であり、そのファミリーはそれぞれNTRK1、NTRK2、及びNTRK3遺伝子によってコードされる高度相同性のTrkA、TrkB、及びTrkCから構成される。正常な生理条件では、Trkタンパク質は神経成長因子の高親和性受容体である。臓器形成過程においては、Trkタンパク質は神経組織で発現され、中枢及び末梢神経系の発達に重要な役割を果たす。染色体の変異によりNTRK遺伝子が融合すると、融合Trkタンパク質が高発現され、Trkキナーゼの下流シグナル伝達経路が異常に調節され、このように、この経路の過剰活性化により癌が発生する可能性がある。
【0003】
NTRK遺伝子の融合は、乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、及び各種の肉腫を含む、多様な成人及び小児の実体腫瘍で見られた。現在、NTRK融合遺伝子を標的とする臨床試験中の幾つの新薬は、すべてTrkキナーゼを阻害する活性を持ち、ATPと競合して結合部位に結合することでキナーゼの活性を阻害する場合が多い。従来の技術には、良好なTrkの阻害活性と選択性を有しかつ良好な体内腫瘍成長の阻害効果を示す大環状キナーゼ阻害剤が開示されている。研究により、その中で、下記の構造を有する大員環化合物(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.0
2,
6.0
7,
12.0
22,
26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリルの方がより効果的であることが判明した。
【化1】
【0004】
従来の技術には、大員環化合物の一般的な調製方法が公開されているが、化合物の結晶形態やその結晶形態に対応する調製方法に関する開示はなかった。
【0005】
通常に薬物分子が多様な配列様態を有し、異なる配列様態により異なる結晶形を構成することは、薬物の結晶多形現象としてよく知られており、結晶形は一般に固体状態での薬物原料の存在形態として現れる。1つの薬物は複数の結晶形を有する場合がある。同じ薬物の異なる結晶形は、安定性が異なる以外に、体内での溶解と吸収が異なる可能性があり、それによって臨床的な効果と安全性に影響を与えることがある。しかしながら、現在、(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.02,6.07,12.022,26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリルに関連する結晶形についての研究はなく、その非晶質の化合物は吸湿性や安定性が悪く、それにより調製された薬物が効果をよく発揮できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、良好な物理的及び化学的安定性を持ち、吸湿性がなく、良好な薬物動態特性を示す大員環化合物の結晶を提供すことが急務である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記従来の技術に存在する技術的な問題の少なくとも一つを解決することを目的とする。そこで、本発明は、良好な物理的及び化学的安定性を持ち、吸湿性がなく、良好な薬物動態特性を示すことができる大員環化合物の結晶を提案する。
【0008】
本発明の第一の側面は、大員環化合物の結晶を提供する。
具体的には、前記大員環化合物は(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.02,6.07,12.022,26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリルである。該大員環化合物の結晶は、そのX線回折パターンが9.49±0.2、10.60±0.2、11.54±0.2、14.10±0.2、17.09±0.2、19.15±0.2、20.30±0.2、22.85±0.2、23.89±0.2及び27.74±0.2の2θ値で特徴的なピークを有する。
【0009】
好ましくは、前記結晶のX線回折パターンは、18.75±0.2、21.29±0.2、24.25±0.2、24.99±0.2、28.74±0.2及び31.35±0.2の2θ値で、特徴的なピークをさらに有する。
【0010】
さらに好ましくは、前記結晶のX線回折パターンは、5.69±0.2、16.11±0.2、25.62±0.2、26.34±0.2、27.26±0.2、29.91±0.2、32.19±0.2、33.86±0.2、34.70±0.2、35.59±0.2、36.95±0.2、37.40±0.2、39.19±0.2、40.33±0.2、41.16±0.2、42.56±0.2、43.11±0.2、45.30±0.2、46.35±0.2及び49.80±0.2の2θ値で、特徴的なピークをさらに有する。
好ましくは、前記結晶は、その示差走査熱量曲線が233±5℃で吸熱ピークを有する。さらに好ましくは、前記結晶は、その示差走査熱量曲線が233±3℃で吸熱ピークを有する。
【0011】
本発明の第二の側面は、前記大員環化合物の結晶の調製方法を提供する。
具体的には、前記大員環化合物の結晶の調製方法は、
前記大員環化合物に溶媒を過飽和状態までに加え、その後撹拌し、晶析し、ろ過して得られたろ過残渣を乾燥させることにより結晶を得る形態(1)、
加熱しながら前記大員環化合物を溶媒中に溶解し、その後冷却しながら晶析し、ろ過して得られたろ過残渣を乾燥させることにより結晶を得る形態(2)、及び
前記大員環化合物を溶媒中に溶解し、それに反溶媒を加え、晶析し、ろ過して得られたろ過残渣を乾燥させることにより結晶を得る形態(3)、という3つの形態から選択された一つである。
【0012】
そして、形態(1)~(3)において、前記大員環化合物は(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.02,6.07,12.022,26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリルであり、前記大員環化合物の結晶は特に限定されないが、他の結晶形態や非晶質形態であってもよい。
【0013】
好ましくは、形態(2)において、前記加熱温度は40~100℃である。さらに好ましくは、形態(2)において、加熱温度は50~80℃である。
好ましくは、形態(1)~(3)における前記溶媒と形態(3)における前記反溶媒は、C2-C7炭化水素、C2-C7アルコール、C2-C7ケトン、C2-C7ニトリル、C2-C7エーテル、C2-C7エステル、及び水からなる群より選ばれる1種又は複数種である。
【0014】
好ましくは、前記C2-C7炭化水素には、ジクロロメタン、n-ヘプタン、及びトルエンが含まれる。
好ましくは、前記C2-C7アルコールには、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノールが含まれる。
好ましくは、前記C2-C7ケトンには、アセトン、及びブタノンが含まれる。
好ましくは、前記C2-C7ニトリルには、アセトニトリルが含まれる。
好ましくは、前記C2-C7エーテルには、イソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び1,4-ジオキサンが含まれる。
好ましくは、前記C2-C7エステルには、エチルアセテート、及びイソプロピルアセテートが含まれる。
好ましくは、前記溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
好ましくは、前記反溶媒は、イソプロピルエーテル、ヘキサン及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0015】
本発明の第三の側面は、上記の大員環化合物の結晶の使用を提供する。
具体的には、Trkキナーゼ関連疾患に用いられる薬物の調製における前記大員環化合物の結晶の使用を提供する。
【0016】
好ましくは、Trkキナーゼ関連疾患としては、疼痛、悪性腫瘍、炎症性疾患、又は神経変性疾患のうちの一つである。
【0017】
好ましくは、疼痛には、慢性疼痛及び急性疼痛が含まれ、具体的にはがん、手術、骨折、転移性腫瘍などによる骨痛、内臓痛、炎症性痛、片頭痛、慢性腰痛、膀胱痛症候群、及び神経性疼痛などが含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
好ましくは、前記悪性腫瘍とは、制御できない細胞の異常増殖を特徴とする多様な疾患の中の任意の1種を指し、また影響を受けた細胞は局所的に又は血流やリンパ系を介して体の他の部位に拡散する能力(すなわち、転移)、かつ多くの特徴的な構造及び/又は分子特性のいずれか一つである。前記悪性腫瘍には、肉腫、乳がん、肺がん、脳腫瘍、骨腫瘍、肝がん、腎がん、結腸がん、線維腫瘍、扁平上皮がん、黒色腫、及び卵巣がんが含まれる。
【0019】
好ましくは、炎症性疾患には、組織病理学的炎症を特徴とする多くの疾患が含まれる。前記炎症性疾患には、にきび、喘息、セリアック病、慢性前立腺炎、糸球体腎炎、炎症性腸疾患、骨盤炎、再灌流損傷、関節リウマチ、サルコイドーシス、血管炎、イエダニによる気道炎症、及び間質性膀胱炎が含まれる。なお、炎症性疾患と自己免疫性疾患との間には明らかに重複がある。
好ましくは、神経変性疾患には多発性硬化症、パーキンソン病、及びアルツハイマー病が含まれる。
【発明の効果】
【0020】
従来の技術に比べて、本発明の有益な効果は以下の通りである。
本発明により提供される大員環化合物の結晶は、吸湿性がなく、その純度が高温、高湿度、又は光照射条件の影響をあまり受けなく、化学的安定性が良好である。また、この結晶は、40℃±2℃、相対湿度が75%±5%の加速条件下に6ヶ月間置いた場合、その結晶形が変化しなくて維持され、良好な物理的安定性を示す。さらに、この結晶形は良好な薬物動態特性も示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1で調製された結晶のPXRDスペクトルである
【
図2】
図2は、本発明の実施例1で調製された結晶のDSC曲線である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1で調製された結晶のTGA曲線である。
【
図4】
図4は、本発明による比較例1で調製された非晶質化合物のPXRDスペクトルである。
【
図5】
図5は、本発明の実施例1で調製された結晶のDVS等温吸着・脱着曲線である。
【
図6】
図6は、本発明による比較例1で調製された非晶質化合物のDVS等温吸着・脱着曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
当業者が本発明の技術内容をより明確に理解できるようにするために、以下に実施例を挙げながら本発明を説明する。なお、以下の実施例は、本発明の保護範囲を限定するものではないことに留意されたい。
【0023】
以下の実施例又は比較例で使用される原料や試薬は、特に断りのない限り、従来の市販品から入手するか、公知の方法により入手することができる。以下の実施例又は比較例で使用した主なテスト装置を表1に示す。
【表1】
【実施例】
【0024】
実施例1
以下の工程を含む調製方法により大員環化合物の結晶を調製した。
中国特許CN110386945Aの実施例1に従って調製した大員環化合物(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.02,6.07,12.022,26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリル 1mgを、1.0mLのメタノールに添加し、室温(25±5℃)で撹拌して溶解後、ゆっくりと0.8mLの水を滴下し、固体が析出した後、一定時間撹拌し、ろ過してろ過物を乾燥し、結晶性の粉末が得られた。
【0025】
得られた結晶性粉末に対して粉末X線回折、示差走査量熱分析及び熱重量分析を行った。この結晶試料は表徴化された後に、「結晶形」と命名される。そのPXRDスペクトル(粉末X線回折スペクトル)を
図1に示す。
図1には、試料が5.69、9.49、10.60、11.54、14.10、16.11、17.09、18.75、19.15、20.30、21.29、22.85、23.89、24.25、24.99、25.62、26.34、27.26、27.74、28.74、29.91、31.35、32.19、33.86、34.70、35.59、36.95、37.40、39.19、40.33、41.16、42.56、43.11、45.30、46.35及び49.80の2θ値に特徴的なピークを持ったことが示されている。なお、2θ角度の計測誤差値は±0.2である。DSC曲線(示差走査量熱曲線)を
図2に示す。
図2は横軸が温度(Temperature)、縦軸が熱流量(Heat Flow)である。
図2には、試料が233℃で吸熱ピークを持ったことが示されている。TGA曲線(熱重量分析スペクトル)を
図3に示す。
図3は横軸が温度(Temperature)、縦軸が重量(Weight)である。
図3には、試料は150℃まで重量がゆっくりと約0.3%減少し、無水物であり、分解温度が約295℃であったことが示されている。
【0026】
実施例2
以下の工程を含む調製方法により大員環化合物の結晶を調製した。
(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.02,6.07,12.022,26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリル 15mgを0.4mLのメタノールに添加し、室温で撹拌して溶解した後、ゆっくりと0.8mLの水を滴下し、固体が析出した後、一定時間撹拌した後、ろ過し、乾燥し、淡黄色の結晶性粉末が得られた。この結晶試料のPXRDスペクトル及びDSC曲線を比較分析した結果、実施例1と同じ結晶形であったことが確認された。
【0027】
実施例3
以下の工程を含む調製方法により大員環化合物の結晶を調製した。
(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.02,6.07,12.022,26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリル 15mgを0.2mLの二塩化メチレンに添加し、室温で撹拌して溶解後、ゆっくりと3.6mLのn-ヘプタンを滴下し、固体が析出した後、一定時間撹拌した後、ろ過し、乾燥し、結晶性の粉末が得られた。この結晶試料のPXRDスペクトル及びDSC曲線を比較分析した結果、実施例1と同じ結晶形であったことが確認された。
【0028】
実施例4
以下の工程を含む調製方法により大員環化合物の結晶を調製した。
(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.02,6.07,12.022,26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリル 15mgを1.8mLのメタノールと0.2mLの水の混合溶媒に加え、65℃に加熱し、溶解後に撹拌して溶解させ、ゆっくりと冷却し、4℃で攪拌しながら保温し、固体が析出した後、ろ過し、乾燥し、結晶性の粉末が得られた。この結晶試料のPXRDスペクトル及びDSC曲線を比較分析した結果、実施例1と同じ結晶形であったことが確認された。
【0029】
比較例1
以下の工程を含む調製方法により非結晶質の大環類化合物を調製した。
中国特許CN110386945Aに記載されている方法に従って合成した化合物(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.0
2,
6.0
7,
12.0
22,
26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリル 15mgを0.4mLのジメチルスルホキシドに加え、室温で撹拌して溶解させ、ゆっくりと0.6mLの水を滴下し、固体が析出した後、さらに一定時間撹拌し、ろ過して乾燥し、結晶性粉末が得られた。得られた結晶性粉末に対して粉末X線回折、示差走査熱量測定及び熱重量測定を行った。この試料を粉末X線回折によって表徴化した結果、該試料が非晶質であったことが確認された。PXRDスペクトル(粉末X線回折スペクトル)を
図4に示す。
図4は横軸が2θ(Two-theta)、縦軸が強度(Intensity)である。
【0030】
製品効果試験
(1)吸湿性試験
本発明により提供される大環類化合物の結晶と非結晶形の吸湿性を評価した。吸湿性のデータは動的水分吸着装置により測定したものであった。表2に示すように、吸湿性特性の記述及び吸湿による重量増加は「中国薬局方」2020年版の第四部通則9103に準拠して定義されている。
【0031】
【0032】
実施例1で調製された結晶形の等温吸着・脱着曲線を
図5に示す。
図5は、横軸が相対湿度(Relative Humidity)であり、縦軸が重量パーセンテージ(Weight/%)である。
図5における2つの曲線はそれぞれ吸着曲線と脱着曲線を表しているが、脱着時にヒステリシスが生じる可能性があるため、2つの曲線は重ならなかった。
図5には、試料は0%~80%の相対湿度(RH)の範囲において湿度の増加に伴い重量が約0.1%変化したことから、試料は湿気を吸収せず、吸湿性がなかったことが示されている。比較例1で調製された非晶質の大員環化合物の等温吸着・脱着曲線を
図6に示す。
図6は、横軸が相対湿度(Relative Humidity)であり、縦軸が重量パーセンテージ(Weight/%)である。
図6における2つの曲線はそれぞれ吸着曲線と脱着曲線を表しているが、脱着時にヒステリシスが生じる可能性があるため、2つの曲線は重ならなかった。
図6には、試料は0%~80%の相対湿度の範囲において湿度の増加に伴い重量が約21.6%増加したことから、試料は湿気を吸収しやすく、吸湿性が非常に高かったことが示されている。実験結果によると、吸湿性は、結晶形の方が非晶質よりも優れた特性を示した。
【0033】
(2)安定性の影響要因の試験
本発明により提供された結晶性及び非晶質の大員環化合物の安定性の影響要因を調査した。調査条件は、「中国薬局方」2020年版の第四部通則9103に準拠した。調査内容は次のとおりである。実施例で調製された大員環化合物の結晶と比較例1で調製された非晶質の大員環化合物をふたをせずに放置し、高温(60℃±2℃)、高温(90%±5%RH、25℃±2℃)、及び光照(4500±500Lx)条件下での安定性を調べた。調査期間を30日とし、サンプリング時点を5日、10日、30日とした。それぞれの時点での試料の純度は、高速液体クロマトグラフィーによって測定され、面積正規化法を使用して計算された。その結果を表3に示す。
【0034】
【0035】
実験の結果、比較例1で調製された非晶質の大環類化合物は、高温、高湿及び光照射条件下で調査期間内に純度が低下し、特に30日後、高温、光照射により化合物の純度が明らかに低下した。一方、実施例1で調製された結晶は、不純物の含有量が光照射の条件のみではわずかに増加し、その他の条件では明らかな変化が見られなかった。
【0036】
(3)加速安定性試験
本発明で提供された大環類化合物の結晶に対して加速安定性を調査した。調査条件は、「中国薬局方」2020年版の第四部通則9103に準拠した。調査内容は次のとおりである。結晶試料を密閉して放置し、温度40℃±2℃、相対湿度75%±5%の条件下での結晶形の安定性を調査した。調査期間を6ヶ月とし、サンプリング時点を1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、及び6ヶ月とした。それぞれの時点での試料の結晶形を粉末X線回折装置によって測定した。その結果を表4に示す。
【0037】
【0038】
実験の結果、本発明により提供された大環類化合物の結晶試料は、加速試験条件下、6ヶ月間放置しても結晶形が維持されていたことが示された。本発明により提供された大環類化合物の結晶は、より良好な物理的安定性を示している。
【0039】
(4)薬物動態学試験
雄ビーグル犬を1群に3頭で群分け、本発明により提供された大環類化合物の結晶試料を経口胃内に8mg/kgの投与量で単回投与し、採取時点を0.25、0.5、1.0、2.0、4.0、6.0、8.0及び24時間とした。試料濃度に基づいて適切な範囲の検量線を作成し、血漿試料中の被検試料の濃度を測定し、定量分析を行い、薬物動態パラメータを計算した。結果を表5に示す。表5には、Cmaxが薬物の最高血中濃度、AUC0-lastが薬物血中濃度時間曲線下面積、Tmaxが最高血中濃度までの時間、T1/2が薬物の消失半減期である。
【0040】
【0041】
表5から、本発明により提供された大環類化合物の結晶は、比格犬の体内で速やかに吸収され、血漿中での露出量が大きかったことが分かる。これは、その化合物が優れた薬物動態学的特性を持っていることを示している。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大員環化合物(6R,16R)-9-フルオロ-16-メチル-13-オキソ-2,17,21,25-テトラアザシクロ[16.6.2.0
2,6.0
7,12.0
22,26]ヘキサコサン-1(25),7,9,11,18(26),19,21,23-オクタン-19-ニトリルの結晶であって、該結晶のX線回折パターンが9.49±0.2、10.60±0.2、11.54±0.2、14.10±0.2、17.09±0.2、19.15±0.2、20.30±0.2、22.85±0.2、23.89±0.2、及び27.74±0.2の2θ値で特徴的なピークを有することを特徴とする、大員環化合物の結晶。
【請求項2】
前記結晶のX線回折パターンが、18.75±0.2、21.29±0.2、24.25±0.2、24.99±0.2、28.74±0.2、及び31.35±0.2の2θ値で特徴的なピークをさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の大員環化合物の結晶。
【請求項3】
前記結晶のX線回折パターンが、5.69±0.2、16.11±0.2、25.62±0.2、26.34±0.2、27.26±0.2、29.91±0.2、32.19±0.2、33.86±0.2、34.70±0.2、35.59±0.2、36.95±0.2、37.40±0.2、39.19±0.2、40.33±0.2、41.16±0.2、42.56±0.2、43.11±0.2、45.30±0.2、46.35±0.2、及び49.80±0.2の2θ値で特徴的なピークをさらに有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の結晶形。
【請求項4】
前記結晶の示差走査熱量曲線が233±5℃で吸熱ピークを有することを特徴とする、請求項1に記載の大員環化合物の結晶。
【請求項5】
請求項1~
2、4のいずれかに記載の大員環化合物の結晶の調製方法であって、
前記大員環化合物に溶媒を過飽和状態までに加え、その後撹拌し、晶析し、ろ過して得られたろ過残渣を乾燥させることにより結晶を得る形態(1)、
加熱しながら前記大員環化合物を溶媒中に溶解し、その後冷却しながら晶析し、ろ過して得られたろ過残渣を乾燥させることにより結晶を得る形態(2)、及び
前記大員環化合物を溶媒中に溶解し、それに反溶媒を加え、晶析し、ろ過して得られたろ過残渣を乾燥させることにより結晶を得る形態(3)、
という3つの形態から選択される一つであることを特徴とする、大員環化合物の結晶の調製方法。
【請求項6】
形態(1)~(3)における前記溶媒及び形態(3)における前記反溶媒は、C
2-C
7炭化水素、C
2-C
7アルコール、C
2-C
7ケトン、C
2-C
7ニトリル、C
2-C
7エーテル、C
2-C
7エステル、及び水からなる群より選ばれる1種又は複数種であることを特徴とする、請求項5に記載の大員環化合物の結晶の調製方法。
【請求項7】
前記C
2-C
7炭化水素が、ジクロロメタン、n-ヘプタン、又はトルエンであり、
前記C
2-C
7アルコールが、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、n-プロパノール、又はイソプロパノールであり、
前記C
2-C
7ケトンが、アセトン、又はブタノンであり、
前記C
2-C
7ニトリルが、アセトニトリルであり、
前記C
2-C
7エーテルが、イソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、又は1,4-ジオキサンであり、
前記C
2-C
7エステルが、エチルアセテート、又はイソプロピルアセテートであることを特徴とする、請求項6に記載の大員環化合物の結晶の調製方法。
【請求項8】
前記溶媒が、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記反溶媒が、イソプロピルエーテル、ヘキサン、及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6に記載の大員環化合物の結晶の調製方法。
【請求項9】
Trkキナーゼ関連疾患
を治療又は予防するために用いられる
、請求項
1~2、4のいずれかに記載の大員環化合物の結晶
を含む医薬組成物。
【請求項10】
前記Trkキナーゼ関連疾患が、疼痛、悪性腫瘍、炎症性疾患、及び神経変性疾患のうちの一種であることを特徴とする、請求項9に記載の
医薬組成物。
【国際調査報告】