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▶ インスティトゥト・デ・アストゥロフィジカ・デ・カナリアスの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-30
(54)【発明の名称】暗電流パターン推定方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 25/63 20230101AFI20240823BHJP
   G01J 1/44 20060101ALI20240823BHJP
   H04N 23/60 20230101ALI20240823BHJP
【FI】
H04N25/63
G01J1/44 P
G01J1/44 E
H04N23/60 500
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524504
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 ES2021070494
(87)【国際公開番号】W WO2023281129
(87)【国際公開日】2023-01-12
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524012130
【氏名又は名称】インスティトゥト・デ・アストゥロフィジカ・デ・カナリアス
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コロドロ コンデ,カルロス
【テーマコード(参考)】
2G065
5C024
5C122
【Fターム(参考)】
2G065BA04
2G065BA05
2G065BC01
2G065BC07
2G065CA12
5C024CX32
5C122EA04
5C122EA22
5C122FC01
5C122FC02
5C122FH11
5C122HB06
5C122HB09
5C122HB10
(57)【要約】
【課題】暗電流パターン推定方法
【解決手段】本発明の暗電流パターン推定方法は、シャッターレス非冷却カメラ用2次元センサーの暗電流パターン推定方法であって、2次元センサーは、ピクセル(x,y)のマトリクスを含み、暗電流パターンは、暗電流レート及び暗電流オフセットに分割され、この方法は、新たな温度を設定するステップと、新たな温度が安定するのを待つステップと、少なくとも2つの露光時間(texp)で交互に且つ連続的に平均化された画像を取得するステップと、各平均化された画像から各ピクセルに対して暗電流オフセット及び暗電流レートを求めるステップと、各ピクセルに対して得られた暗電流オフセットを補間するステップと、各ピクセルに対して得られた暗電流レートを補間するステップと、温度、露光時間、ピクセル位置に関する暗電流パターンを求めるステップと、を有する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャッターレス非冷却カメラ用2次元センサーの暗電流パターン推定方法であって、
前記2次元センサーは、ピクセル(x、y)のマトリックスを含み、
前記暗電流パターンは、アナログ-デジタル変換単位(ADU:Analog to Digital Units)の暗電流オフセット及び暗電流レート(ADU/秒)に分割され、
前記方法は、焦点面アレイ(FPA:Focal Plane Array)温度及び露光時間(texp)の関数として、各ピクセル(x、y)を独立に特性化するステップであって、
新たなFPA温度(T)を設定するサブステップと、
前記新たなFPA温度(T)が安定するのを待つサブステップと、
前記新たなFPA温度(T)毎に少なくとも2つの露光時間(texp)で平均化された画像をカメラで取得するサブステップと、
前記平均化された画像の各々から線形調整によって各ピクセルに対して前記暗電流オフセット及び前記暗電流レートを求めるサブステップと、
所定の数の平均化画像が取得されるまで全ての前記サブステップを繰り返すサブステップと、を含むステップと、
前記2次元センサーのための暗電流パターンを定義するステップであって、
各ピクセルに対して得られた前記暗電流オフセット(offset(T,x,y))をスプライン補間するサブステップと、
各ピクセルに対して得られた前記暗電流レート(rate(T,x,y))をスプライン補間するサブステップと、を含むステップと、
各ピクセルに対して前記暗電流パターンを以下の式(1)により求めるサブステップを含むステップと、を有することを特徴とする暗電流パターン推定方法。
【数1】
(ここで、Tはケルビン単位のFPA温度、(x,y)はピクセル座標である)
【請求項2】
前記新たなFPA温度(T)を設定するサブステップ及び前記温度が安定するのを待つサブステップは、上昇するか又は下降する温度ランプの後に続くことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記露光時間(texp)の値は、線形ゾーン内にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記露光時間(texp)の値は、各温度に対応する前記平均化された画像をカメラで取得するサブステップの間の温度の変動を最小化するのに十分な短さであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記スプライン補間は、線形補間、二次補間、及び三次補間の中から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暗電流パターン推定方法に関し、より詳細には、シャッターレス非冷却カメラの2次元センサーの各ピクセルの暗電流パターンを、実験室で予め得られた画像を用いて推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
暗電流とは、光電子増倍管、フォトダイオード、電荷結合素子などの感光デバイスにおいて、光子がデバイスに入射していないときでもデバイスを流れる比較的小さな電流のことである。暗電流は、外部放射線が検出器に入射していないときに検出器内で発生する電荷からなる。物理的には、暗電流はデバイスの空乏領域内で電子及び正孔がランダムに発生することに起因する。
【0003】
InGaAs(砒化インジウムガリウム)やマイクロボロメーターをベースとしたもののような一部の2次元画像センサーは、ピクセル毎に変化する高い暗電流レートを有する。このことは、取得された画像は、全て適切な暗電流パターンを差し引くことによって補正する必要があることを意味する。
【0004】
暗電流パターンは、センサーの温度及び選択された露光時間に強く依存する。適用場面によっては、これらの変数は固定できないため、典型的な解決策は、対象となる画像の(シャッターが開いている)直前に暗黒の基準画像(シャッターが閉じている)を撮影することである。温度が一定であれば、複数の対象となる画像に同じ暗黒の基準画像を使用することができる。
【0005】
しかし、適切な暗黒の基準フレームを撮影することが不可能な適用場面もある。一例として、温度制御がないビデオ撮影(シャッターは常に開いたまま)がある。別の例としては、温度制御がなくメカニカルシャッターもない単一画像の撮影がある。
【0006】
暗電流を推定しようとする方法が記載されている文献もあるが、これらの方法は、暗電流と温度との依存関係をモデル化しようとする方程式に実験室で測定されたデータをフィットさせようとしているため、あまり堅牢でなく汎用性がないと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、シャッターレス非冷却カメラ用2次元センサーの暗電流パターン推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法は、実験室で事前に得られた情報に基づき、対象となるそれぞれの画像の暗電流パターンを推定することにより、シャッターレス非冷却撮影の課題を解決する。
【0009】
そのために、先ず2次元センサーの各ピクセルは露光時間及び温度の関数として独立して特性化され、次に組み込みデバイスにおける効率的な実装を念頭に置きながら、回帰及び補間に基づく擬似経験的モデルを定義する。
【0010】
提案する本発明の方法は、暗電流レートの高いセンサー(例えば、InGaAs(砒化インジウムガリウム))を使用する適用場面、温度を制御できない状況(例えば、厳しい電力的制約)、及び利用可能なメカニカルシャッターがない場合に有用である。
【0011】
この方法を詳しく説明すると、最初のステップは、焦点面アレイ(FPA:Focal Plane Array)の温度及び露光時間(texp)の関数として、2次元センサーの各ピクセルを独立して特性化することからなる。その目的は、現場で更に測定を行わなくても、どのような温度と露光時間との組み合わせでも暗電流パターンを推定できるようにすることである。
【0012】
暗電流パターンは、暗電流レート(rate)(ADU/秒)及び暗電流オフセット(offset)(ADU)の2つの項に分けることができ、ADU(Analog to Digital Units)は「アナログ-デジタル変換単位」を表す。オフセットはtexp=0における暗電流パターンとなり、暗電流レートは露光時間(texp)との線形依存性をモデル化する。暗電流パターンは非均一的であるため、各ピクセルに異なる暗電流レート及び暗電流オフセットを割り当てる必要がある。更に、この暗電流パターンは温度に対して強い(指数関数的な)依存性を有する。
【0013】
最近の殆どのセンサーでは、暗電流パターンは広範囲のtexp値に対して線形性が高い。その結果露光時間(texp)の関数として暗電流パターンを線形フィットすることができる。
【0014】
【数1】
【0015】
ここで、TはFPA温度(K)、(x,y)はピクセル座標である。
【0016】
一組のFPA温度に対してこのフィットを行うことで、暗電流パターンと暗電流オフセットとの温度依存性を調べることができる。
【0017】
理想的には、各ピクセルを特性化する最初のステップは、以下のサブステップを含む。
新たなFPA温度を設定するサブステップ、
新たなFPA温度が安定するのを待つサブステップ、
様々な露光時間(texp)で平均化された画像を取得するサブステップ、
対象となる全温度範囲でサンプルを得るように上記サブステップを繰り返すサブステップ。
【0018】
時間的ノイズの影響を最小化するために、単一画像ではなく平均化された画像を取得することが必須である(即ち、複数のNavg画像を取得して各ピクセル座標を平均化することによってそれらの画像を単一画像に統合する)。時間的ノイズの発生源は、読み出しノイズ及び暗電流ノイズである。暗電流ノイズは温度と共に劇的に増加する。
【0019】
残念ながら、上記のサブステップは実際には多くの時間を要する。その代わりに、この方法の最初のステップは、以下の簡略化されたサブステップ群を含む。
ゆっくりとした温度ランプ(temperature ramp)を開始するステップであって、2つの連続した平均化された画像を取得する場合、それらの画像の温度が略同じになるステップ(温度ランプがゆっくりしていればいるほど、この方法はより正確になる)、及び少なくとも2つの露光時間(texp)で交互に且つ連続的に平均化された画像を取得するステップ(連続したサンプル間で温度が略一定であれば、より多くのサンプルを平均化するとより精度が高くなることに留意)。
【0020】
好ましくは、少なくとも2つの基準texp値を選択するための基準は次の通りである。
【0021】
そのtexp値が、調査対象のセンサーの線形ゾーン内(例えば、線形からの偏差が<1%のゾーン)にあることを確認する(多くのセンサーでは、texp=0は線形ゾーンから外れていることに留意)。
【0022】
同じ温度サンプルに対応する画像取得中の温度の変動を最小化するために、比較的短いtexp値を選択する(実際の露出時間の限界は、調査対象のセンサー及び選択されて平均化された画像サンプル数に依存する)。
【0023】
2つのtexp値を互いに近づけすぎない。選択された設定に対して平均化された画像のSNR(信号/ノイズ比)が低い場合、フィットが悪くなるからである(殆どの場合、値の差は2倍で十分であるが、より精度を上げるために10倍の差で本発明の方法はテストされた)。
【0024】
本発明の方法の2番目のステップは、回帰及び補間に基づく擬似経験モデルを定義することである。本提案は、暗電流レートと暗電流オフセットとの温度に対するフィットを試みるのではなく、サブセットのサンプルを保存し(例えば、各「ステップ」の複数サンプル毎に1つのサンプルを取る)、スプライン補間(補間式がスプラインと呼ばれる特殊なタイプの区分的多項式である補間形式)によって所望の値を得るというものである。即ち、1つの高次の多項式を一度に全ての値にフィットさせる代わりに、スプライン補間は、低次の複数の多項式を小さなサブセットの値にフィットさせる。
【0025】
第2ステップは、以下のサブステップを含む。
各ピクセルに対して得られた暗電流オフセットを補間するステップと、
各ピクセルに対して得られた暗電流レートを補間するステップと、
次の式(1)に従って暗電流パターンを取得するステップ。
【0026】
【数1】
【0027】
ここで、TはFPA温度(K)、(x,y)はピクセル座標である。
【0028】
スプライン補間は、自然な境界条件を有する線形補間、二次補間、三次補間(1次、2次、3次)を使用して行うことができる。
【0029】
線形補間による誤差は、他の方法による誤差よりもかなり大きい。三次法は、実装と計算がかなり複雑になるが、誤差が著しく小さくなるわけではない。その結果、組み込みシステムには、適切な妥協点が得られる二次法が望ましい選択肢となる。通常のコンピューターでは、三次法が望ましいかもしれない。
【発明の効果】
【0030】
本発明の暗電流パターン推定方法によれば、現在の技術による他の方法と比べて、暗電流の温度依存性に関する仮定や手動によるチューニングを必要としないため、より堅牢で汎用的であると考えられる。これは、本発明の方法が他のセンサーモデルやテクノロジーにもより簡単に適用できることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
説明を補足して本発明の特徴がより良く理解されるように、本発明の実際的な実施形態の好ましい例に従って一組の図面を説明の不可欠な部分として提示し、この図面として、例示的且つ非限定的な特徴と共に以下のものを示す。
【0032】
図1A】提案する本方法で推定された暗電流パターンを減算する前及び減算した後の例示的な画像である。
図1B】提案する本方法で推定された暗電流パターンを減算する前及び減算した後の例示的な画像である。
図1C】提案する本方法で推定された暗電流パターンを減算する前及び減算した後の例示的な画像である。
図1D】提案する本方法で推定された暗電流パターンを減算する前及び減算した後の例示的な画像である。
図2】温度スイープ(temperature sweep)の上昇中及び下降中に単一ピクセルで測定された暗電流を示すグラフである。
図3】暗電流レートの中央値を示すグラフである。
図4】暗電流オフセットの中央値を示すグラフである。
図5A】暗電流レートに対して異なるタイプの指数関数フィットを行ったピクセルの例を示すグラフである。
図5B】暗電流レートに対して異なるタイプの指数関数フィットを行ったピクセルの例を示すグラフである。
図5C】暗電流レートに対して異なるタイプの指数関数フィットを行ったピクセルの例を示すグラフである。
図6A】三次補間を用いた様々なステップサイズに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図6B】三次補間を用いた様々なステップサイズに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図6C】三次補間を用いた様々なステップサイズに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図6D】三次補間を用いた様々なステップサイズに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図6E】三次補間を用いた様々なステップサイズに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図6F】三次補間を用いた様々なステップサイズに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図7】45.88℃、ステップ=20における推定誤差を示す画像である。エラー画像は、黒色が-20ADU、白色が20ADUに対応するようにスケーリングされている。
図8A】ステップ=20を使用した複数の補間タイプに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図8B】ステップ=20を使用した複数の補間タイプに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図8C】ステップ=20を使用した複数の補間タイプに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図8D】ステップ=20を使用した複数の補間タイプに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図8E】ステップ=20を使用した複数の補間タイプに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図8F】ステップ=20を使用した複数の補間タイプに対する暗電流レート及び暗電流オフセットの測定値及び推定値を示すグラフである。
図9】本方法の最初のステップにおける画像取得のための設定を示す表である。
図10】アレニウス方程式のフィットされた定数を示す表である。
図11】ステップサイズに対する推定誤差を示す表である。
図12】補間タイプに対する推定誤差を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図1図12を用いて、暗電流パターン推定方法の好ましい実施形態を説明する。この方法は2次元センサーを使用し、2次元センサーはシャッターレス非冷却カメラ用のピクセル(x、y)のマトリックスを含む。
【0034】
この方法の最初のステップは、2次元センサーの各ピクセルを、焦点面アレイ(FPA:Focal Plane Array)の温度及び露光時間(texp)の関数として独立して特性化することからなる。
【0035】
暗電流パターンは、暗電流レート(ADU/秒)及び暗電流オフセット(ADU)の2つの項に分けることができる。オフセットはtexp=0における暗電流パターンであり、暗電流レートは露光時間(texp)との線形の依存関係をモデル化したものである。各ピクセルに異なる暗電流レート及び暗電流オフセットを割り当てる必要がある。更に、この暗電流パターンは温度に対して強い(指数関数的な)依存性を有する。
【0036】
本発明の方法をよりよく実証するために、特定の2次元センサーをテストした。
【0037】
暗電流パターンは、広い範囲のtexp値で高い線形性を示す。その結果、露光時間(texp)の関数として暗電流パターンの線形フィットを行うことができる。
【0038】
【数1】
【0039】
ここで、TはFPA温度(K)、(x,y)はピクセル座標である。
【0040】
理想的には、各ピクセルを特性化する最初のステップは、以下のサブステップを含む。
新たなFPA温度を設定するサブステップと、
新たなFPA温度が安定するのを待つサブステップと、
様々な露光時間(texp)で平均化された画像を取得するサブステップと、
必要であれば上記のサブステップを繰り返すサブステップ。
【0041】
残念ながら、上記のサブステップは実際には多くの時間を要する。その代わりに、この方法の最初のステップは、以下の簡略化されたサブステップ群を含む。
ゆっくりとした温度ランプを開始するステップと、
少なくとも2つの露光時間(texp)で、交互に且つ連続的に平均化された画像を取得するステップ。
【0042】
テストでは、周囲の温度ランプは0℃から50℃まで約2.5時間で変化するように設定された。それぞれの調査されたゲインについて、200組の平均化された画像が取得され、各組は1つの温度サンプルに対応した。
【0043】
図9は、このセンサーの線形性に関する前の測定結果に基づいて、テストのために決定された設定を示す。テスト中、texp=200ms(ミリ秒)で200枚の画像を取得するには少なくとも40秒かかり、この間に温度が大きく変化する可能性があるため、ゲイン2は実際にはスキップした。
【0044】
同じテスト中に全てのゲイン設定が交互に取得されたことを考慮すると、ゲイン2を除外することによって、ゲイン0及び1のサンプルがより多くなり、これらのサンプルは調査対象の適用場面のためにより興味深いものであった。
【0045】
特定の温度及び露光時間に対する暗電流パターンを予測できるようにするためには、この2つのパラメータのいずれにおいてもヒステリシスが存在してはならない。
【0046】
この意味で具体的なテストが行われて測定された暗電流パターンは、露光時間(texp)(予想通り)及び温度を上昇及び下降させた後でも再現可能であることが明らかになった。温度スイープの結果を図2に示す。
【0047】
ヒステリシスが測定されなかったという事実は、暗電流パターンを予測する方法の開発に青信号を与えている。
【0048】
一方で、センサーの全体的な挙動をよりよく理解するために、暗電流レートの中央値(2次元アレイの全てのピクセルの中央値(median))を温度の関数として調べた。(ADU/秒)におけるレートはアレニウスの方程式に従い、オフセットは読み出し電子回路のオフセットに帰すことができると判明した。
【0049】
【数2】
【0050】
ここで、TはFPA温度(K)、Aはプレ指数因子(ADU/秒)、Eは活性化エネルギー(eV)、kはボルツマン定数(8.617333×10-5eV/K)、Cは暗電流レートの暗電流オフセット(ADU)である。
【0051】
この関数は、ゲイン0及びゲイン1における温度スイープに対してフィットされた。最適なフィットはゲイン0で見つかり、ここでR>0.99999であった。得られたパラメータを図10に記載し、暗電流レートのプロットを図3に示す。
【0052】
短波長赤外(SWIR:Short Wave Infrared)イメージング用の最も一般的なInGaAsセンサーの組成はIn0.53Ga0.47Asである。この組成の基本ギャップは0.73eVであり、これは測定値と完全に一致する。
【0053】
一方で、暗電流オフセットの中央値は略線形に温度に依存しており、温度が上昇するにつれて緩やかに減衰することがわかった(図4参照)。この減衰がある種の飽和効果の結果なのかどうかは定かではない。オフセットの温度依存性をよりよくモデル化する関数も明確ではない。
【0054】
ピクセル毎に詳細な分析を行った結果、多くのピクセルがアレニウスの方程式に従わないという結論に至った。その代わり、それらのピクセルは最大で3つの指数項の和によって形成される類似の方程式に従っているように思われる。
【0055】
【数3】
【0056】
ここで、Tはケルビン単位の温度であり、A~Gは曲線の形状を定義する定数である。全ての定数(勿論暗電流レートも)はピクセル座標(x,y)に依存する。
【0057】
式(3)において、最初の2項はそれぞれ拡散暗電流及び空乏暗電流を意味すると言える。第3項がどこから来ているのか、或いは実際に同じ指数形式を有するべきかどうかは不明である。
【0058】
全てのピクセルが良いフィットのために3つの指数項を必要とするわけではないということを検証した。殆どのピクセルは1つの指数関数しか必要とせず、2つの指数関数を必要とするピクセルも多くあるが、3つの指数関数でモデル化されるピクセルはほんのわずかである。図5を参照されたい。ここでは暗電流レートに対して異なるタイプの指数関数フィットを有するピクセルの例を示している(1つの場合は図5A、2つの場合は図5B、3つの場合は図5C)。
【0059】
オフセットについても同様の調査を行ったところ、殆どのピクセルが図4のプロットのような挙動を示すことが判明した。オフセットは、温度に応じて線形に変化することが予想されていたが、測定後において、最適なモデルが指数関数の和、多項式、又はその組み合わせのいずれで構成されるかは明らかではない。しかし、60℃までの温度であれば、線形フィットで十分なように思える。
【0060】
特性化の結果によると、暗電流パターンにフィットさせるために必要なパラメータの総数は、最小で7つとなる(暗電流レートに対しては双指数曲線フィット、暗電流オフセットについては線形フィット)。640×512ピクセル、単精度浮動小数点値(32ビット)のセンサーの場合、フィットされたパラメータは8.75MBytesのメモリを必要とするであろう。
【0061】
一方で、暗電流レートを定義する関数のような複雑な関数にフィットさせることは、多くの手動によるチューニングを必要とする。例えば、全てのピクセルが最適な解に収束するような、適切な開始点及びステップサイズを定義する必要がある。更に、特定のデータセットでは収束するアルゴリズムが、同じセンサーで取得された別のデータセットではそのようなデータにおけるわずかな違いにより収束しない可能性がある。
【0062】
一方、暗電流オフセットの温度依存性を記述する実際の方程式を知ることなしに、暗電流オフセットにフィットさせようとするのは良いやり方ではない。また、あるセンサーに有効な方程式が他のセンサーには当てはまらないこともある。
【0063】
上記の段落で述べた問題は、暗電流パターンを推定するための別のより堅牢な方法が有益であろうことを示唆する。本提案は、暗電流レートと暗電流オフセットとを温度に対してフィットさせることを試みるのではなく、サブセットのサンプル群を保存し(例えば、各「サブステップ」の複数のサンプル毎に1つのサンプルを取得する)、スプライン補間によって目的の値を得るというものである。
【0064】
従って、本発明の方法は、前に得られた画像に基づき、擬似経験的モデルを定義することからなる第2ステップを含む。第2ステップは、スプライン補間を用いて所望の値(各ピクセルの暗電流レート及び暗電流オフセット)を求めるサブステップを含む。
【0065】
図11に示すように、三次補間法は、全温度範囲に亘って少数のサンプルでは驚くほど正確であることが判明した。この表のデータは、200の温度サンプルから得られたものである。図11では、ディスク使用量は次のように計算される。
【0066】
【数4】
【0067】
これらのテストでは、n_params=2(暗電流レート及び暗電流オフセット)、n_pixels=640×512、n_bytes=4(単精度浮動小数点)、n_samples=200(各測定温度で1つずつ)である。
【0068】
「誤差」の複数の列は、測定されたダークパターンと推定されたダークパターンとの間の絶対中央値差を示す。「トレーニング」という用語は、トレーニング画像、即ち暗電流フィット時(これらのテストでは、51.18℃で6ミリ秒)に使用された画像を指す。一方、「テスト」とは、トレーニング段階では使用されなかった露光時間(texp)で撮影された新たな基準画像を指す(これらのテストでは、45.88℃で2ミリ秒)。図11の結果は全てゲイン0で得られたものである。
【0069】
誤差の大きさは、図6に示すように、主に目標温度と最も近い複数温度サンプルとの間の距離に依存する(図6Aはステップ=10における暗電流レートの中央値を示す。図6Bはステップ=10における暗電流オフセットの中央値を示す。図6Cはステップ=20における暗電流レートの中央値を示す。図6Dはステップ=20における暗電流オフセットの中央値を示す。図6Eはステップ=40における暗電流レートの中央値を示す。図6Fはステップ=40における暗電流オフセットの中央値を示す。)。
【0070】
例えば、図6E及び図6Fに示すステップ=40におけるトレーニング画像の著しく高い誤差は、51.18℃が周囲のサンプル(40.78℃及び60.48℃)から大きく離れていることで説明できる。勿論、ステップを小さくすればそのような状況に陥る確率は減るが、そのためには計算コスト及びメモリコストがかかる。
【0071】
調査対象の本測定ではステップ=20に設定するのが、組み込みシステムにとって適切な妥協点と思われる。実際、ステップ=20では45.88℃は周囲のサンプル(40.96℃及び51.16℃)から大きく離れているが、図11及び図7に示すように、推定画像に大きな誤差は生じなかった。通常のコンピューターであれば、ステップ=10の方が良い選択肢かもしれない。
【0072】
いずれにせよ、推定誤差は常に読み出しノイズ自体(このセンサーによる他のテストで測定された約16.8ADU)を下回っている。暗ノイズも考慮すると、推定誤差は更に重要でなくなる。
【0073】
暗電流レート及び暗電流オフセットの推定は、自然な境界条件を有する線形補間、二次補間、三次補間(1次、2次、3次)の3つの異なる方法でテストされた。
【0074】
目的は、良い結果をもたらす最も単純な方法を見つけることである。テスト設定(45.8℃で2ミリ秒、ステップ=20)で測定された推定誤差を図12に示す。結果のプロットを図8に示す(図8A:線形補間による暗電流レートの中央値、図8B:線形補間による暗電流オフセットの中央値、図8C:二次補間による暗電流レートの中央値、図8D:二次補間による暗電流オフセットの中央値、図8E:三次補間による暗電流レートの中央値、図8F:三次補間による暗電流オフセットの中央値)。
【0075】
線形補間による誤差は、他の方法による誤差よりもかなり大きいことがわかる。この挙動は、曲線が指数関数的な形状をしていることと、選択されたFPA温度が2つの基準温度サンプルの中間に位置することから予想されたものであった。一方、三次法は実装と計算がより複雑になるが、誤差が著しく小さくなるわけではない。
【0076】
得られた結果によると、二次法は組み込みシステムにとって適切な妥協点となるであろう。通常のコンピューターでは、三次法が望ましいかもしれない。
【0077】
一部の比較的温度の高いピクセルでは、高温で飽和に達する場合がある。暗電流パターンフィットの際にこの状況を無視した場合、暗電流レート及び暗電流オフセットはこれらの温度に対して正しく推定されない。
【0078】
例えば、非常に温度の高いピクセルの場合、レートが低下又はゼロになり、オフセットがピクセルのフルウェル又はADCの上限(どちらか先の方)に近くなる可能性がある。温度の高いピクセルで暗電流レート及び暗電流オフセットの測定が間違っていたとしても、殆どの場合、推定されたパターンは正しく、温度の高いピクセルは予想通りの高い値を示す。
【0079】
温度の高いピクセルは、通常その後の処理ステップで除去されるため、これらのピクセルにおける推定誤差は重要ではない。飽和に近いピクセルの値を外挿して、飽和の効果がない場合をエミュレートすることができる。しかし、高温におけるノイズや、ピクセルを既知の方程式にフィットさせることの難しさから、この方法は、堅牢性がないと判断され、破棄された。
【0080】
本発明は、実験室で事前に行われた測定結果に基づいて、非冷却InGaAsセンサーの暗電流パターンを推定する方法を説明した。得られた結果は、この方法が幅広い露光時間及び温度において非常に正確である(誤差が読み出しノイズよりもはるかに小さい)ことを示している。
【0081】
上記の例として、提案した本発明の方法で推定した暗電流パターンを減算する前(図1A及び図1C)及び減算した後(図1B及び図1D)の画像例を図1に示す。それらの画像は、小型衛星に搭載されたInGaAsセンサーで軌道上から撮影されたものであり、アクティブな温度制御はなされておらずメカニカルシャッターは使用されていない。

図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】