(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-03
(54)【発明の名称】単一の精子の選択を可能とする、卵細胞室内精子注入法(ICSI)および他の受精処置を目的として、個々の精子をリアルタイムで自動的に定量評価、査定、および/またはランク付けするためのシステム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240827BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240827BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20240827BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240827BHJP
G01N 15/00 20240101ALI20240827BHJP
G01N 15/01 20240101ALI20240827BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/34 B
C12M1/26
C12Q1/04
G01N15/00 A
G01N15/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529954
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-07-18
(86)【国際出願番号】 MX2021050076
(87)【国際公開番号】W WO2022108436
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523360843
【氏名又は名称】コンシーバブル ライフ サイエンシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャベス バディオラ,アレハンドロ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA09
4B029BB11
4B029FA04
4B029HA09
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
本発明は、単一精子の選択を必要とする、ICSI処置の間に、エンブリオロジストが注入すべき最良の精子を選択するのを支援することができる、人工視覚と人工知能に基づくシステムを提供する。このシステムは、20倍以上の倍率で顕微鏡下で観察される形態学的および運動性の特徴に基づき、顕微鏡に取り付けたデジタルカメラで撮影した一連の画像のリアルタイムでの自動解析において、サンプルから最適な精子をリアルタイムで特定することができる。このシステムは、コンピュータビジョンアルゴリズムを使用して、ビデオの各画像に存在する精子を自動的に検出して追跡し、形態学的特徴および運動性パラメータに関連する多数の特徴を計算する。各精子の特徴は、処理された後、各精子の品質を決定し、それに応じてランク付けする数学的モデルを用いて評価される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精子を選択するための方法を実行するために単一の精子の選択を必要とする、卵細胞質内精子注入法(ICSU)およびその他の受精処置を目的として、個々の精子をリアルタイムで評価、査定、および/または自動定量分類するシステムであって、(i)カメラまたは顕微鏡であってもよい画像を取得する装置であって、事前に調製されたサンプルから取得された画像が(ii)に提供される装置と、(ii)論理処理ユニットと、を含み、(iii)人工知能に基づく数学的アルゴリズム、例えば、畳み込みニューラルネットワークまたはアルゴリズムタイプの機械学習で、各精子に指標のセットを割り当てることにより、精子間のランク付けを確立する、数学的アルゴリズムで、(iv)受精の成功を達成するための最適な指標を備える結果を伴う精子を選択および分離し、(v)胚盤胞段階への発展の成功を達成するための最適な指標を備える結果を伴う精子を選択および分離し、(vi)妊娠の成功を達成するための最適な指標を備える結果を伴う精子を選択および分離する、システム。
【請求項2】
単一の精子の選択を必要とする、卵細胞質内精子注入法(ICSU)およびその他の受精処置を目的とする、個々の精子のリアルタイムでの自動定量評価、査定、および/またはランク付けにおいて選定する方法であって、単一の精子の選択は、(I)画像中の精子の位置を特定するステージであって、2つの異なる画像入力を含み得、(Ia)デジタルフィルターによる画像処理、および、(Ib)畳み込みニューラルネットワークによる画像処理を含むステージ、(II)精子パターンを特徴付けるステージ、および(III)精子の品質の評価および注入すべき最高の精子の推奨を生成するステージを含んでおり、
ステージ(I)は、画像中の精子の位置を特定し、少なくとも2つの画像100が得られたらならば、以下の2つの方法のいずれかで処理することができ、それらは、(Ia)デジタルフィルターによる画像処理を含み、
このステージにおいて、各画像100は、ある瞬間に顕微鏡によって観察されている画像を表すn×mサイズのピクセルの配列で構成され、配列101と102の各ペアにおいて、第1の配列101と第2の配列102が比較され、各ピクセルの強度値の差が確立され、この差によって、最初の配列101と他の配列102の間の変化が有意であるかどうかを決定する予め定義された値であり、したがって顕微鏡内の要素の動きの可能性の証拠となる値と比較されるパラメータを確立することができ、その際、差が1つのピクセルにしかない場合はデジタルノイズであり、動きが近傍内の変化のセットである場合は実際の動きであるといったように、実際の動きかそうでないかを識別する必要があり、実際の動きは、動きのレコードR1のセットが入力される第3の配列103内に表され、この処理は、すべてのR1が、寸法、面積、偏心、高さ、幅、凸性等の指標のセットとして登録され、そして、これらの指標が予め確立されたパターンと比較され、その性質が決定されるように、画像100の全セットで繰り返され、決定される性質は、例えば精子、操作ピペット、上皮細胞等として特徴付けられる可能性があり、これらの指標と関連付けられた精子を表すものだけが、レジスタR2に選択され、これらのレジスタR2が次のステージに提供され、また、(Ib)畳み込みニューラルネットワークによる画像処理を含み、
画像100は、畳み込みニューラルネットワークNに提供され、このニューラルネットワークNは、従来の論理処理ユニット104中に存在し、特に寸法、面積、偏心、高さ、幅、凸性等の特定の指標を、これらの指標が例えば精子、操作ピペット、上皮細胞等として特徴付けられる可能性がある性質を決定するために、予め確立されたパターンと比較されるように、関連付けることを可能にする数学的アルゴリズムを含み、これらの指標と関連付けられた精子を表すものだけが、レジスタR2に選択され、
ステージ(II)は、精子パターンの特徴付けであり、
このステージでは、各精子の軌跡を識別して特徴付けし、軌跡を、少なくとも軌跡、および、頭部、尾部、頭部の運動パターン、尾部の運動パターンなどの形態学的特徴の指標に変えることを目指し、
ステージ(II)におけるレコードR2が、各精子に関連付けられたパラメータ間の対応関係を確立することを可能にするように比較され(この比較は、通常の算術演算によるものであってもよい)、もしこの対応関係が有意であれば、各レジスタR2に関連付けられたデカルト平面の座標によって軌跡T1が確立され、したがって、幾何学的軌跡として変換される一連の座標S1が確立され、しかし、この対応関係が各精子に固有のレコードを通じて有意でない場合、それによって、顕微鏡300の視野に入った精子であるか、または以前に視野に入った精子の1つであるかを定めることが可能となり、今度は、各軌跡は存在して識別子D1によって区別される異なるレコードR1に関連付けら得るため、各レコードR1が軌跡T1に関連付けられ、R1+D1+T1のこれらの関連付けにより、論理処理ユニット104において各精子に対するデジタル表現400が生成され、それらは次の異なるサブプロセスに提供され、それらのサブプロセスは、a)軌跡パターンの記述子Wを生成するためのサブプロセスであって、各精子の各R1+D1+T1の関連付けにおいて、速度、軌跡、直線性、曲率のような指標の少なくとも1つを生成することを可能にするサブプロセス、b)動きパターンの記述子Xを生成するためのサブプロセスであって、各精子の各デジタル表現400において、頭部の動き、尾部の動きのうちの少なくとも1つの指標を生成することを可能にするサブプロセス、c)精子の形態の特徴付けYのためのサブプロセスであって、各精子の各デジタル表現400において、頭部の形状、尾部のサイズ、異常の有無のうちの少なくとも1つの指標を特徴付けることを可能にするサブプロセス、d)テクスチャZの特徴付けのためのサブプロセスであって、少なくとも1セットのローズマスクを使用して、精子をそのテクスチャによって特徴付けることを可能にするサブプロセスを含み、R1+D1+T1は、少なくともそれらの軌跡パターンの記述子W、動きパターンの記述子X、精子の形態の特徴付けY、およびテクスチャZと関連付けられるため、これらのレコードはすべて、各精子を一意に特徴付け、プロセスの次のステージの入力を表すデジタル配置Pを生成し、
ステージ(III)は、精子の品質評価および注入すべき最高の精子の推奨の生成であり、
このステージでは、ステージ(II)で生成された指標を分析された各精子の品質指標と関連付けることが目的であり、これにより、注入すべき精子の選択のための推奨順序を定めることができ、これは、分析が実行されるコンピュータの画面500に提示され、
各精子を識別するデジタルコンテキストPは、精子の品質を表す各精子のQ指標を決定する数学的アルゴリズムに提供され、分析されたすべての精子のQ指標値は、リストの最初の要素が妊娠という生きた成果を提供する最高品質の精子に対応するように、好ましくは最高から最低までのリストRを生成するために順序付けられ、最後に、(好ましくは少なくとも3つの)精子のセットが、リストに現れるQ指標値(最も高い方の指標値を持つもの)で識別され、そのレジスタR2およびS1の対応に従って精子のそれぞれについてデジタル指標が生成され、この指標は、取得された最新の画像100に重ねられ、分析が実施されるコンピュータのスクリーン500に表示され、
したがって、ユーザーがICSI処置の間に注入すべき最高の精子を選択する際の支援をシステムに求める場合、システムは、K.各精子の品質メトリックの計算、L.検出された精子の品質のランク付けの計算、M.最高ランクの精子のユーザーへの表示、の処理を実行し、
各精子の品質メトリックの計算(処理K)は、専門家によって生成され得る数学的モデルを使用して、または、ニューラルネットワーク、線形分類器、確率的分類器、木、ロジスティック回帰、クラスタリング法、および深層学習分類器が含まれるが、これらに限定されない機械学習もしくは人工知能アルゴリズムの使用によって、W、X、Y、およびZのセットを評価することによって、各精子に数値を割り当てることから構成され、
検出された精子の品質のランク付けの計算(処理L)は、処理Kで生成された品質メトリックに従って精子をソートすることから構成され、
最高ランクの精子(M)のユーザーへの表示は、測定値とランクに従って、リアルタイムビデオストリームの各フレーム上の選択された精子の位置にグラフィック要素を重ね合わせ、500を使用して本発明に係るシステムのユーザーに表示することから構成され、500の例には、コンピュータ画面、携帯電話、タブレット、または仮想現実もしくは拡張現実のヘッドセットまたはレンズがある、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、先に出願された米国特許仮出願(第63/115019号、確認番号2457)の優先権を主張するものであり、この仮出願の保護対象は全体として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
卵細胞質内精子注入法(Intracytoplasmic sperm injection:ICSI)は、体外受精(in vitro fertilization:IVF)治療中に胚培養室で行われる処置であり、卵母細胞の受精を成功させ胚を生成することを補助するために、単一の精子を卵母細胞に直接注入するものである。ICSIの間、エンブリオロジストは、卵母細胞に直接注入する精子として最適と判断したものを選択する。精子は、一滴のサンプルから精子の形態(形)および運動性(動き)を評価することによって主観的に選択される。選択された精子は、精子サンプルからICSI針と呼ばれるマイクロツールに吸引される。精子がICSI針に入ると、エンブリオロジストは、それを受精させる卵母細胞を含む培地液に移す。注入対象の卵子は、エンブリオロジストが所望の注入位置に卵子を配置できるように、卵母細胞に軽い吸引を及ぼす保持ピペットによって所定の位置に保持される。次に、エンブリオロジストは、精子を有するICSI針を卵母細胞に揃える。ICSI針は、卵子の極体の下の側面に押し込まれる。透明帯および卵細胞膜が穿刺され、膜を破って精子を卵母細胞に注入するために卵細胞質の一部分が針に吸引される。エンブリオロジストは、通常、そのサイクルに採取された成熟卵母細胞の数に応じて、1回のセッションで数回のICSIを行う。ICSIは不妊治療クリニックで広く行われており、男性不妊が要因でない場合でも、一般的に選択される方法である。
【0003】
ICSIの成功率は、卵母細胞および精子の品質に大きく依存する。精液のパラメータが悪いと体外受精後の胚盤胞形成率が低くなるという証拠が発表されており、これは、精子がヒトの着床前胚発生に影響を与える可能性があることを示唆する。サンプルから最高の精子を選択するために利用可能な様々な戦略がある。これらの戦略の大半は、精子前処理技術によって可能な限り短時間でサンプルの高品質精子を濃縮し、不動(immotile)精子または低品質精子を除去できるように設計されている。これらの技術の例としては、(a)通常精子サンプルの上に置かれる無細胞培地に向かって移動する運動精子の回収に基づくスイムアップとその変種、および(b)遠心分離中にコロイド粒子によって構成される密度勾配を通過する運動精子の能力に基づく密度勾配遠心分離とその変種がある。これらの戦略は、処理されたサンプル中の精子が良質である可能性を高めるものの、サンプル中に存在するすべての精子の中から注入すべき最高の精子を選択する際の指針または支援にはならないことに注意することが重要である。
【0004】
十分に精子形成されかつ成熟した精子は、卵丘・卵母細胞複合体を取り囲む細胞外マトリックスの主成分の1つであるヒアルロン酸(hyaluronic acid:HA)との結合部位を呈することが示されている。したがって、精子とHAとの相互作用に基づく2つのアプローチが提案されてきた。それらは、(a)HAを含む培地中を泳いでいるときに動きが遅い精子を取得する、(b)HAコーティング皿の表面に捕捉された精子を回収する、である。これらのアプローチの主な欠点は、高価かつすべてのIVFクリニックで入手できるとは限らないコーティング皿のような追加のコンポーネントが必要なことである。さらに、HA結合に基づく精子選択の有用性に疑問を呈する研究も存在する。
【0005】
細胞質内形態学的選択精子注入法(Intracytoplasmic morphologically selected sperm injection:IMSI)は、高倍率(600倍以上)での運動精子細胞小器官形態検査に基づいて精子を選択する技術であり、これによりエンブリオロジストは、空胞を欠く精子を手動で識別することができる。しかし、このような大きな倍率を達成するためには、(必要な顕微鏡およびマニピュレーターに加えて)特別な装置でカウントする必要があり、ほとんどのクリニックでは利用できない可能性がある。さらに、この技術は標準的なICSIには適応せず、高倍率で操作するための追加のステップが加わることになる。
【0006】
最近のいくつかのアプローチは、精子の走流性、走化性、および走熱性の特性のようないくつかの基礎に基づいて正当化されるマイクロ流体力学の使用に基づくものである。このようなアプローチの予備的な結果は有望であるが、これらの方法も高価かつ特殊なマイクロ流体装置を使用する必要があり、これによって普遍的な受容が制限される。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、人工視覚、およびICSI処置および単一の精子の選択を必要とする他の受精処置の間に注入されるべき最高の精子を選択するためにエンブリオロジストを支援することができる人工知能(artificial intelligence:AI)に基づくシステムを提供することによって、前述の欠陥を有利に補うものである。
【0008】
本発明は、顕微鏡下で20倍以上の倍率で観察される形態および運動性の特徴に基づいて、サンプルから最高の精子をリアルタイムで識別することができる。
【0009】
本発明のシステムは、顕微鏡に取り付けられたデジタルカメラによって生成された一連の画像の自動分析をリアルタイムで実行する。このシステムは、コンピュータビジョンアルゴリズムを使用して、ビデオのすべての画像上に存在する精子のそれぞれを自動的に検出して追跡し、形態学的特徴および運動性パラメータに関連する多数の特徴を計算する。各精子の特徴は処理され、次いで、各精子の品質を決定し、それに応じてランク付けする数学的モデルを用いて評価される。
【0010】
ランク付けの結果は、画像化されたサンプルの中でどの精子がより高品質であるかの視覚的表示とともにリアルタイムでユーザーに示される。
【0011】
本明細書において、リアルタイムとは、カメラ顕微鏡によって生成されたビデオストリームからの個々の画像を、その取得後500ミリ秒未満で処理するシステムの能力を指す。システムは、この機能により、個々の精子の運動パターンを高精度で計算し、識別することができる。さらに、この機能により、ユーザーは既存の操作手順を変更することなく、ほぼ瞬時に最高ランクの精子を識別し、選択することができる。
【0012】
AIアプローチを使用する利点は、最高ランクの精子を注入すると、低ランクの精子またはエンブリオロジストによって主観的に選択された精子と比較して、成功する可能性が高くなることである。この主張の根拠は、提案されたシステムが決定論的かつ定量的な方法で運動性と形態学的特性を計算するという事実に関連している。また、人間の目は1個の精子を非常によく評価できるが、多数の精子を同時に追跡し、それらの経路が交差したときに追跡し続けることは困難である。その結果、エンブリオロジストは、視野に数個の精子しか入らないように精子調製液を希釈する。AIは数ミリ秒で視野全体を検査し、精子の経路が交差しても精子を追跡できるため、そのような制限を要しない。精子の形態または運動性の問題がDNA損傷と関連していることを示す研究がある[1]。DNA損傷は、卵母細胞の受精に悪影響を及ぼし[2]、胚の質を低下させ、流産の可能性を高める[3]と考えられている。
【0013】
さらに、精子の運動性が、男性不妊の可能性を決定するための不可欠な基準であることは、広く認められている。これらの運動性パラメータの1つは、精子の長手軸回りの回転運動(rotational motion of sperm:RMS)であり、これは精子が受精部位まで移動することを可能にするメカニズムである走流性を促進する[4]。RMS速度は、正常な精子細胞と異常な精子細胞を区別するために使用することができ[5]、他の特徴と組み合わせて、個々の精子の品質を評価するために使用できる指標を生成するために使用することができる。ICSIの間の精子のサンプル中での可視化はあまり良好でないことが多いため、エンブリオロジストにとって、受精の可否を決定する形態や運動性の特徴を区別することは困難である。また、卵母細胞は、インキュベーターの外に置いておかなければならないため、迅速に注入しなければならない。
【0014】
提案された発明は、ほとんどの体外受精ラボで見られる既存の装置と統合することができ、特別な化合物、マイクロ流体装置、または特注設計のペトリ皿などの他の資産を必要としない。その設計は、個人の嗜好や利用可能な技術に対応するために、複合現実(例えば、拡張現実または人工現実)を組み込んで使用することを可能にする。
【0015】
リアルタイムの精子選択アシスタントとともに、システムは、評価された精子のリポートを作成し、このリポートは可読形式のファイルとして保存される。
【0016】
提案された発明は、訓練、または品質保証および管理を目的としたアプリケーションの開発に使用することができる。例えば、提案されたシステムで過去に分析された精子サンプルの多数のビデオを、ウェブページ、携帯電話、タブレット、またはPCアプリ上でユーザーに提示し、ビデオ内の精子によって決定された品質スコアを知らせずに注入に最高の精子を選択させることができる。このような熟練度スコアは、ユーザーがどの程度良好に精子選択を行っているかを判断するために使用することができる。
【0017】
以下、本発明を添付の図面に関連させてより詳細に説明する。これらの図面は、本要約、詳細な説明、および具体的に論じられるかまたは他の方法で開示される任意の好ましい実施形態および/または特定の実施形態と併せて読まれることが意図されている。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具体化され得るものであり、本明細書に記載された実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が当業者に本発明の全範囲を詳細かつ完全に伝えるために、例示としてのみ提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、卵細胞質内精子注入法(ICSI)および単一の精子の選択を必要とする他の受精処置を最適化することを目的として、個々の精子をリアルタイムで自動的に定量評価、査定、および/またはランク付けするためのシステムを表す図である。
【
図2】
図2は、卵細胞質内精子注入法(ICSI)および単一の精子の選択を必要とする他の受精処置を最適化することを目的として、個々の精子をリアルタイムで自動的に定量評価、査定、および/またはランク付けするためのシステムの画像を生成する装置(カメラおよび顕微鏡)の表す図である。
【
図3】
図3は、手順Iにおいて、ビデオシーケンスにおける精子のセマンティックセグメンテーションを表す図である。
【
図4】
図4は、手順Iにおいて、ニューラルネットワークアーキテクチャを用いた、ビデオシーケンス中の精子のセマンティックセグメンテーションを表す図である。
【
図5】
図5は、手順IIにおいて、連続するフレーム内の精子の同一性の対応を検証する処理を表す図である。
【
図6】
図6は、手順IIの各ステップの入力と出力の例を示す図である。
【
図7】
図7は、手順IIIの各ステップの入力と出力の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(本発明の説明)
添付図面によれば、卵細胞質内精子注入法(ICSI)および他の受精処置を目的として、個々の精子をリアルタイムで自動的に定量評価、査定、および/またはランク付けするためのシステムであって、単一の精子の選択を可能にするシステムは、精子の採取に続く従来のサンプル調製を必要とし、採取方法(例えば、マスターベーション、前立腺マッサージ、外科的抽出)に関わらず、通常、ICSIのための精子を選択する前に以下のステップが行われる。
【0020】
a.精液サンプルは、遠心分離およびスイムアップ法、勾配法、またはマイクロ流体力学(WHOのマニュアル参照)を含む標準的な精子受精能獲得技術を使用して調製される。精子が外科的に採取された場合のように、精子が精漿の存在なしに低濃度で存在する場合、このステップは通常省略される。
【0021】
b.操作のために、精子が特殊な培地に入れられる。一例として、1つの一般的な調製では、多目的操作培地(Multi-purpose handling medium:MHM)溶液で10μLの液滴が用いられる。
【0022】
c.一般的に採用されているステップは、前の調製で吸引されたいくつかの精子を、精子の運動性を低下させることを目的とした特殊な溶液の新しい液滴に移すことを含む。このような目的のために一般的に使用される培地の1つは、ヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin:HSA)を含む、または含まない、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone:PVP)溶液である。
【0023】
d.精子の調製および選択処理の一部として、他の方法が加えられるものであってもよい。これらの方法には、ヒアルロン酸結合、磁気活性化細胞選別(magnetic activated cell sorting:MACS)、マイクロ流体力学、表面電荷ゼータ電位の使用が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
上述した調製ステップは必須のものではなく、適用される場合、単独のステップとして、または本説明に含まれない他のステップと組み合わせて使用され得る。精子調製プロトコルは、個々のラボのプロトコルによって異なる場合がある。
【0025】
サンプルが上述したステップに従って調製されると、ICSIまたは他の受精処置を目的として、個々の精子をリアルタイムで自動的に定量評価、査定および/またはランク付けするためのシステムは、単一の精子の選択を必要とし、以下のステージを含む。
【0026】
I.画像中の精子の位置を特定する。これは、2つの異なる画像入力を含み得る。
【0027】
Ia.デジタルフィルターによる画像処理。
【0028】
Ib.畳み込みニューラルネットワークによる画像処理。
【0029】
II.精子パターンの特徴付け。
【0030】
III.精子の品質の評価および注入すべき最高の精子の推奨の生成。
【0031】
前のプロセスを開始するには、処理する画像を顕微鏡で撮影する前にサンプルを調製する必要がある。
【0032】
(例示された実施形態の説明)
本発明のシステムは、一連の画像またはフレームを入力とする。
【0033】
これらの画像100は、従来のデジタルカメラ200、または精子サンプルが観察されている顕微鏡300のカメラに取り付けられている画像デジタイザから得られるものであってもよく、またはビデオファイルとしてシステムに与えられるものであってもよい(
図2)。
【0034】
単一の精子の選択を必要とする、ICSIおよび他の受精処置を目的として個々の精子をリアルタイムで自動的に定量評価、査定、および/またはランク付けするためのシステムは、以下の3つの部分を含む。
【0035】
ステージI.画像中の精子の位置を特定する。少なくとも2つの画像100が得られたらならば、以下の2つの方法のいずれかで処理することができる。
【0036】
Ia.デジタルフィルターによる画像処理。
【0037】
このステージにおいて、各画像100は、ある瞬間に顕微鏡によって観察されている画像を表すn×mサイズのピクセルの配列で構成される。配列101と102の各ペアにおいて、第1の配列101と第2の配列102が比較され、各ピクセルの強度値の差が確立される。この差によって、最初の配列101と他の配列102の間の変化が有意であるかどうかを決定する予め定義された値であり、したがって顕微鏡内の要素の動きの可能性の証拠となる値と比較されるパラメータを確立することができる。その際、差が1つのピクセルにしかない場合はデジタルノイズであり、動きが近傍内の変化のセットである場合は実際の動きであるといったように、実際の動きかそうでないかを識別する必要がある。実際の動きは、動きのレコードR1のセットが入力される第3の配列103内に表され、この処理は、すべてのR1が、寸法、面積、偏心、高さ、幅、凸性(convexity)等の指標のセットとして登録され、そして、これらの指標が予め確立されたパターンと比較され、その性質が決定されるように、画像100の全セットで繰り返される。決定される性質は、例えば精子、操作ピペット、上皮細胞等として特徴付けられる可能性があり、これらの指標と関連付けられた精子を表すものだけが、レジスタR2に選択され、これらのレジスタR2が次のステージに提供される。
【0038】
Ib.畳み込みニューラルネットワークによる画像処理。
【0039】
画像100は、畳み込みニューラルネットワークNに提供される。このニューラルネットワークNは、従来の論理処理ユニット104中に存在し、特に寸法、面積、偏心、高さ、幅、凸性等の特定の指標を、これらの指標が例えば精子、操作ピペット、上皮細胞等として特徴付けられる可能性がある性質を決定するために、予め確立されたパターンと比較されるように、関連付けることを可能にする数学的アルゴリズムを含んでいる。これらの指標と関連付けられた精子を表すものだけが、レジスタR2に選択される。
【0040】
ステージII.精子パターンの特徴付け。
【0041】
このステージでは、各精子の軌跡を識別して特徴付けし、軌跡を、少なくとも軌跡、および、頭部、尾部、頭部の運動パターン、尾部の運動パターンなどの形態学的特徴の指標に変えることを目指す。
【0042】
ステージIIにおけるレコードR2が、各精子に関連付けられたパラメータ間の対応関係を確立することを可能にするように比較され(この比較は、通常の算術演算によるものであってもよい)、もしこの対応関係が有意であれば、各レジスタR2に関連付けられたデカルト平面の座標によって軌跡T1が確立され、したがって、幾何学的軌跡として変換される一連の座標S1が確立され、しかし、この対応関係が各精子に固有のレコードを通じて有意でない場合、それによって、顕微鏡300の視野に入った精子であるか、または以前に視野に入った精子の1つであるかを定めることが可能となり、今度は、各軌跡は存在して識別子D1によって区別される異なるレコードR1に関連付けら得るため、各レコードR1が軌跡T1に関連付けられる。R1+D1+T1のこれらの関連付けにより、論理処理ユニット104において各精子に対するデジタル表現400が生成され、それらは次の異なるサブプロセスに提供される。
【0043】
a)軌跡パターンの記述子Wを生成するためのサブプロセスは、各精子の各R1+D1+T1の関連付けにおいて、速度、軌跡、直線性、曲率のような指標の少なくとも1つを生成することを可能にする。
【0044】
b)動きパターンの記述子Xを生成するためのサブプロセスは、各精子の各デジタル表現400において、頭部の動き、尾部の動きのうちの少なくとも1つの指標を生成することを可能にする。
【0045】
c)精子の形態の特徴付けYのためのサブプロセスは、各精子の各デジタル表現400において、頭部の形状、尾部のサイズ、異常の有無のうちの少なくとも1つの指標を特徴付けることを可能にする。
【0046】
d)テクスチャZの特徴付けのためのサブプロセスは、少なくとも1セットのローズマスク(Laws mask)を使用して、精子をそのテクスチャによって特徴付けることを可能にする。
【0047】
R1+D1+T1は、少なくともそれらの軌跡パターンの記述子W、動きパターンの記述子X、精子の形態の特徴付けY、およびテクスチャZと関連付けられるため、これらのレコードはすべて、各精子を一意に特徴付け、プロセスの次のステージの入力を表すデジタル配置Pを生成する。
【0048】
ステージIII.精子の品質評価および注入すべき最高の精子の推奨の生成。
【0049】
このステージでは、ステージIIで生成された指標を分析された各精子の品質指標と関連付けることが目的であり、これにより、注入すべき精子の選択のための推奨順序を定めることができる。これは、分析が実行されるコンピュータの画面500に提示される。
【0050】
各精子を識別するデジタルコンテキストPは、精子の品質を表す各精子のQ指標を決定する数学的アルゴリズムに提供される。分析されたすべての精子のQ指標値は、リストの最初の要素が妊娠という生きた成果を提供する最高品質の精子に対応するように、好ましくは最高から最低までのリストRを生成するために順序付けられる。最後に、(好ましくは少なくとも3つの)精子のセットが、リストに現れるQ指標値(最も高い方の指標値を持つもの)で識別され、そのレジスタR2およびS1の対応に従って精子のそれぞれについてデジタル指標が生成される。この指標は、取得された最新の画像100に重ねられ、分析が実施されるコンピュータのスクリーン500に表示される。
【0051】
したがって、ユーザーがICSI処置の間に注入すべき最高の精子を選択する際の支援をシステムに求める場合、システムは、K.各精子の品質メトリックの計算、L.検出された精子の品質のランク付けの計算、M.最高ランクの精子のユーザーへの表示、の処理を実行する。
【0052】
各精子の品質メトリックの計算(処理K)は、専門家によって生成され得る数学的モデルを使用して、または、ニューラルネットワーク、線形分類器、確率的分類器、木、ロジスティック回帰、クラスタリング法、および深層学習分類器が含まれるが、これらに限定されない機械学習もしくは人工知能アルゴリズムの使用によって、W、X、Y、およびZのセットを評価することによって、各精子に数値を割り当てることから構成される。
【0053】
検出された精子の品質のランク付けの計算(処理L)は、処理Kで生成された品質メトリックに従って精子をソートすることから構成される。
【0054】
最高ランクの精子(M)のユーザーへの表示は、測定値とランクに従って、リアルタイムビデオストリームの各フレーム上の選択された精子の位置にグラフィック要素を重ね合わせ、500を使用して本発明に係るシステムのユーザーに表示することから構成される。500の例には、コンピュータ画面、携帯電話、タブレット、または仮想現実もしくは拡張現実のヘッドセットまたはレンズがある。
【国際調査報告】