IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ノルクシ ゲーエムベーハーの特許一覧

特表2024-531866リチウム電池で使用するための、リチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-03
(54)【発明の名称】リチウム電池で使用するための、リチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240827BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20240827BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240827BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/1395
H01M4/134
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500643
(86)(22)【出願日】2022-08-09
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2022072296
(87)【国際公開番号】W WO2023017011
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】102021120635.9
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524003563
【氏名又は名称】ノルクシ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライヒマン、ウドー
(72)【発明者】
【氏名】ヌーベール、マルセル
(72)【発明者】
【氏名】クラウゼ - バーダー、アンドレアス
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017EE01
5H017HH03
5H017HH08
5H050AA08
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA04
5H050FA02
5H050GA24
5H050GA27
5H050HA04
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、リチウム電池で使用するための、リチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法であって、第1のシリコン層を基板上に堆積させ、続いて第1のシリコン層に急速熱処理を施す方法に関する。本発明はまた、それによって製造されたアノードに関する。電池製造のための機能層へのイオンインターカレーション容量の制御を可能にする方法を特定するという本発明が取り組む課題は、シリコン、金属及び/又は別の材料の層を拡散バリアとして適用し、続いて急速熱処理を施し、部分的に反応したシリコンを形成することで解決される(拡散バリアの構造は、拡散バリアをリチウムに対して透過性にする)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池で使用するための、リチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法であって、第1のシリコン層(16)を基板(14)上に堆積させ、続いて、加速アニーリング(11)を施す、方法において、シリコン、金属及び/又はさらなる材料の層(21)を拡散バリア(18)として適用し、続いて、後続の加速アニーリング(11)を施して、部分的に反応したシリコンを形成することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記堆積及び前記加速アニーリング(11)を、その後さらに繰り返して、部分的に反応したシリコンから構成された多層構造(22)を形成することを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項3】
フラッシュランプ・アニーリング(11)における金属(20、23)とシリコン(16、19)との拡散及び反応が、前記フラッシュランプ・アニーリング(11)における0.3~20msの範囲のパルス持続時間、0.3~100J/cmの範囲のパルス・エネルギー、及び4℃~200℃の範囲の予熱又は冷却によって制御され、それにより各層(21)において部分的に反応したシリコンが生成されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項4】
レーザ・アニーリング(11)における金属(20、23)と前記シリコン(16、19)との拡散及び反応が、前記レーザ・アニーリング(11)における局所加熱箇所の走査速度、及び0.1~100J/cmの範囲のエネルギー密度、並びに4℃~200℃の範囲の予熱又は冷却を確立することにより、0.01~100msの範囲のアニーリング時間によって制御され、それにより各層(21)に部分的に反応したシリコンが生成されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項5】
前記基板(14)からの金属(20、23)と前記シリコン(16、19)との拡散及び反応が、予め適用された拡散バリア(18)によって制御されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項6】
前記層(21)を物理的及び/又は化学気相堆積によって堆積させることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項7】
前記拡散バリア(18)がチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、炭素(C)、これらの窒化物及びケイ化物、並びに/又はこれらの材料の混合物のうちの1つの材料から形成されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項8】
前記拡散バリア(18)がリチウムの拡散を可能にすることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項9】
前記多層構造(22)の層(21)における前記シリコンの体積膨張が、シリサイドに前記部分的に反応したシリコンによって制御され、前記多層構造(22)の前記基板(14)に面する側の高いシリサイド濃度から、前記多層構造(22)の前記基板(14)とは反対向きの側の低いシリサイド濃度への段階的な推移が確立されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか一項に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項10】
シリサイドを形成するための金属(20、23)とシリコン(16、19)との反応が、拡散バリア(18)の導入によって層全体にわたって制御され、前記加速アニーリング(11)の頻度が、層数が増加するにつれて減少することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか一項に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項11】
堆積させるシリコン(16、19)、金属(20、23)及び拡散バリア(18)の各層について、調整可能な量の金属(23)、より具体的には銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)及び/又はスズ(Sn)が、前記多層構造体(22)全体において部分的に反応したシリコンを生成するために挿入されることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一項に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法。
【請求項12】
アノード(9)が、好ましくは銅から構成された集電体(2)と、前記集電体(2)上に堆積させた、前記アノードの活性層を形成する多層構造体(22)とを備え、前記多層構造体(22)が、シリコン、金属及び/又はさらなる材料から構成された、加速アニーリング(11)が施される少なくとも1つの第1の部分的に反応したシリコン層と、シリコン、金属及び/又はさらなる材料から構成された、同様に加速アニーリング(11)が施される第2の部分的に反応したシリコン層とから形成されることを特徴とする、リチウム電池における使用に適した、請求項1から11までのいずれか一項に記載の方法によって製造されるアノード。
【請求項13】
リチウム・インターカレーション時の前記多層構造体(22)の前記シリコンの体積膨張が前記部分的に反応したシリコン層によって制御可能であり、前記活性層の前記集電体(2)に面する側の高いシリサイド濃度から、前記アノード活性層の前記集電体(2)とは反対向きの側の低いシリサイド濃度への段階的な推移が生じ、前記多層構造体(22)中の前記金属の割合によって前記アノード活性層に高い導電性が生じることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか一項に記載の方法によって製造された、請求項12に記載のアノード。
【請求項14】
前記さらなる材料が拡散バリア(18)を形成し、前記拡散バリア(18)がチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、炭素(C)、これらの窒化物及びケイ化物、並びに/又はこれらの材料の混合物のうちの1つの材料から形成されることを特徴とする、請求項12に記載のアノード。
【請求項15】
前記アノード活性層が4~15μmの層厚を有することを特徴とする、請求項12に記載のアノード。
【請求項16】
前記アノードが前記活性層の前記集電体(2)に面する側の高い金属濃度から、前記アノード活性層の前記集電体(2)とは反対向きの側の低い金属濃度への、前記活性層における金属濃度の段階的な推移を含むことを特徴とする、請求項12に記載のアノード。
【請求項17】
前記アノードが前記多層構造体(22)の層(21)における金属濃度の段階的な推移を含み、シリサイド濃度が高い領域が前記活性層の接着性及び安定性を生じ、シリサイド濃度が低く、シリコンの割合が高い領域が高いリチウム・インターカレーション容量を示すことを特徴とする、請求項16に記載のアノード。
【請求項18】
アルミニウム-イオン電池の機能層のための、請求項1から11までのいずれか一項に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法の使用。
【請求項19】
熱電システムのための、請求項1から11までのいずれか一項に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法の使用。
【請求項20】
ナトリウム電池又はマグネシウム電池のための、請求項1から11までのいずれか一項に記載のリチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池で使用するための、リチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法であって、第1のシリコン層を基板上に堆積させ、続いて、加速アニーリングを施す方法に関する。
【0002】
本発明はまた、リチウム電池での使用に適した、本発明の方法を用いて製造されるアノードに関する。
【0003】
本発明は、同様に、アルミニウム-イオン電池の機能層のための本方法の使用、並びにナトリウム電池及びマグネシウム電池の製造におけるイオン・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための本方法の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
電気化学的エネルギーの貯蔵は、エネルギー転換に向けた世界的な取り組みにおいて重要な柱となっており、再生可能な手段によって発電された変動する電力を一時的に貯蔵し、この電力を定置及びモバイル用途で利用できるようにする役割を果たす。原材料ベースの不足、したがって特に二次電池のコスト上昇を緩和するには、エネルギー貯蔵コンセプトの多様化だけでなく、新しい材料も必要である。これらの材料は、このようなエネルギー貯蔵コンセプトの技術的性能(容量、エネルギー密度、寿命を含む)を向上させるとともに、製造コストを最小限に抑えるはずである。製造コストは、特に、広範な技術基盤が既に存在するシリコンに代表されるような、容易に入手可能な化学元素の使用によって確保することができる。
【0005】
電池は、電気化学的エネルギー貯蔵装置であり、一次電池と二次電池とに区別される。
【0006】
一次電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに不可逆的に変換する電気化学的電源である。したがって、一次電池は充電式ではない。一方、蓄電池とも呼ばれる二次電池は、充電可能な電気化学的エネルギー貯蔵装置であり、発生する化学反応が可逆的であり、複数回の使用が可能である。充電中、電気エネルギーは化学エネルギーに変換され、放電時には、化学エネルギーから電気エネルギーに逆変換される。
【0007】
「電池」は、相互に接続されたセルの見出し語である。セルは、2つの電極、電解質、セパレータ、及びセル・ケーシングからなるガルバニ・ユニットである。図1は、放電中のリチウムイオン・セルの例示的な構造及び機能を示す。セルの構成要素を以下に簡単に説明する。
【0008】
各Liイオン・セル1は、2つの異なる電極7、9、すなわち、充電状態で負に帯電する電極7と、充電状態で正に帯電する電極9とから構成される。エネルギーの放出、言い換えれば放電は、負に帯電した電極から正に帯電した電極へのイオンの移動を伴うため、正に帯電した電極はカソード7と呼ばれ、負に帯電した電極はアノード9と呼ばれる。電極はそれぞれ、集電体2、8と、その上に適用された活物質とで構成されている。電極間には、まず、必要な電荷の交換を可能にするイオン伝導性電解質4と、電極の電気的分離を確実にするセパレータ5とが配置される。
【0009】
カソードは、例えば、アルミニウム集電体上に適用された混合酸化物からなる。コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)又は酸化アルミニウム(Al)を含む遷移金属酸化物は、ここで最も一般的な化合物である。適用された金属酸化物層は、セルの放電中にリチウムイオンをインターカレーションする役割を果たす。
【0010】
Liイオン・セルのアノードは、集電体としての銅箔と、活物質としての炭素層とで構成することができる。炭素化合物としては、電極電位が低く、充放電時の体積膨張が少ないことから、通常、天然黒鉛又は人造黒鉛が用いられる。充電中、リチウムイオンは還元され、グラファイト層にインターカレートされる。
【0011】
リチウムイオン電池の構造では、カソードが、典型的には、アノードの充放電にリチウム原子を供給するため、電池容量は、カソードの容量によって制限される。既に述べたように、今日まで使用されている典型的なカソード材料は、例えば、Li(Ni,Co,Mn)O及びLiFePOである。カソードの構造がリチウム金属酸化物によるものであるため、容量を高める可能性はわずかしかない。
【0012】
Li電池のアノードに、カーボンではなくシリコンを使うことも知られている。アノード材料としてのシリコンは、グラファイトなどの従来の炭素系材料の貯蔵容量が例えば372mAh/gであるのと比較して、室温でのLi15Si相の貯蔵容量が理論的に約3579mAh/gと高い。しかしながら、アノード材料としてシリコンを使用する場合には、対応するエネルギー貯蔵体の充放電中に、可動イオン種がインターカレーション及びデインターカレーションする際に、ホスト・マトリックスの体積がかなり変化する(体積収縮及び膨張)場合があるという点で、課題が生じる。グラファイトの場合、体積変化は約10%であるのに対し、シリコンの場合は約400%である。シリコンを用いた場合のアノード材料の体積変化は、内部応力、亀裂、ホスト・マトリックス(シリコン)の活物質の粉砕、及び最終的にはアノードの完全な破壊につながる。
【0013】
シリコンを銅箔などの金属基板に直接適用することができるのは、進行中のプロセスに温度ステップがない場合のみであり、これは、このようなステップがシリコンと金属基板との間の反応を引き起こすからである。従来のアニーリング・ステップでは、層は、シリサイドを形成することによって完全に反応するため、リチウム又は一般的にはイオンのインターカレーションにもはや積極的には適していない。
【0014】
金属のシリコンへの拡散及びシリコンと金属との反応は、時間及び温度に大きく依存する。200℃から始まる既に低い温度で、多くの金属は、可逆的なリチウム・インターカレーション容量がわずかしか又は全く存在しない金属シリサイドを形成する。金属の拡散は、室温でも起こり、高温では非常に急速に起こり、従来のオーブン・プロセスでは制御が困難である。銅を例にとると、シリコンの完全な層は、600℃で遅くとも1秒後には反応が完了している(図2a参照)。拡散バリアを組み込むことで、拡散及び反応を遅らせることができる。しかしながら、典型的なオーブン・プロセスが拡散速度に比べて非常に緩慢であることを考えると、拡散バリアに課される要件は非常に厳しいものになる。高温でも良好なバリア効果を達成するための例は、厚い層厚、非導電性の層、又は多数の界面を有する多層である。例えば、半導体産業では、銅によるメタライゼーションのための拡散バリアとしてNiSiの特殊な層が使用されているが、その製造には複数のプロセス・ステップが含まれ、したがって複雑である。さらなる適切な導電性銅拡散バリアは、特に、タングステン(W)、タンタル(Ta)、及びチタン(Ti)、並びにそれらの導電性窒化物及びケイ化物である。
【0015】
特許文献1には、シリコン(Si)層を一体型集電体として機能する金属基板上に堆積させ、続いて、フラッシュランプ・アニーリングを施すことによって二次電池用のシリコン系アノードを製造するための方法が記載されている。フラッシュランプ・プロセスは、通常、例えば、太陽電池用のシリコンを迅速且つ局所的に溶融し、結晶化するために使用される。しかしながら、これは、特許文献1に記載されている方法の目的ではない。その代わりに、フラッシュランプ・アニーリングを以下のように用いる。一般的に言えば、約700℃前後でのみシリコンを結晶化させることができる。フラッシュランプ・アニーリングの後、これらのSi原子は自由原子となり、金属との界面でSi原子の共有結合が弱まるため、約200℃からの比較的低い温度でも、金属基板の粒界に沿って拡散することができる。これについては、既に複数の金属/半導体系(例えばAu/a-Si及びAg/a-Si)で実証されており、非特許文献1に記載されているように、エネルギー的に有利であることが証明されている。さらに、比較的低温で金属を導入することによって、シリコンの結晶化を達成することができる。これは金属誘起結晶化と呼ばれる。非常に簡単に言えば、結晶成長は温度が融点を下回った後に起こり得て、これを相変態の基準として利用することができる。特許文献1に記載されている方法を用いて、脱リチウム化及びリチウム化によってもたらされる体積変化を吸収し、且つ材料集合体全体の安定化をもたらす多相シリコン-金属構造体を製造することができる。リチウム化とは、ホスト材料(例えば、シリコン又はグラファイト)にリチウムイオンをインターカレーションすることを指す。
【0016】
特許文献1から公知の方法を用いて製造することができるSiアノードは、銅(Cu)箔のみを基板として使用し、その上にシリコン層を堆積させた場合、シリコン、純金属、及びシリサイドの混合物であり、すなわち、銅、銅シリサイド、及びシリコンから構成された微細構造が形成される。ナノ粒子又はナノワイヤから構成されたSiアノードと比較して、このようにして製造されたSiアノードの利点は、シリサイドの導電性がグラファイトよりも約2桁優れているため、純粋なシリコン及び従来のグラファイトと比較して導電性が高いことである。さらに、活物質としてのSi層と銅基板との間で達成される接着性は非常に良好であり、銅はフラッシュランプ・アニーリングの結果として、銅箔から、堆積させたSi層に拡散する。純粋なシリコンによって形成されたリチウム・インターカレーションのための活性領域、及びマトリックス中のシリサイド/金属によって形成された不活性領域により、充電中の既知の有害な体積膨張が相殺される。もう一つの利点は、層状構造のために、電解質との境界層を形成するのは小さな面積のみであり、表面積が小さいため、ナノ構造の活物質の場合と比較して電解質の分解が減少する。
【0017】
しかしながら、特許文献1に記載された方法の欠点は、フラッシュランプ・アニーリングのために、Si層が制御不能の反応を受けて銅シリサイドを形成し、変換反応が常にCu-Si層界面で始まることである。反応の結果、リチウムのインターカレーションのための活物質としてシリコンが残らないか、又は投入エネルギーが非常に低い場合、十分な反応が起こらず、電池の動作において、層が十分な安定性を欠き、したがって、電池の側の容量損失につながる。リチウム電池の製造における十分な目標容量のためには、十分に厚いSi層(最大10μm)が必要である。フラッシュランプ・アニーリングを含むアニーリング方法によって、銅シリサイドを形成するためのCu+Siの変換反応が無制御に引き起こされると、銅基板全体、例えば銅箔は、シリコンと完全に反応して銅シリサイドを形成し、リチウム電池の集電体の損失を伴うことになる。したがって、特許文献1に記載された方法では、安定した構造及び面積貯蔵密度の高いアノードを製造することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2017/140581号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Z. M. Wang, J. Y. Wang, L. P. H. Jeurgens, E. J. Mittemeijer: Thermodynamics and mechanism of metal-induced crystallization in immiscible alloy systems: Experiments and calculations on Al/a-Ge and Al/a-Si bilayers, Physical Review B 77, 045424 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本発明の目的は、電池製造のための機能層へのイオン・インターカレーションの容量を制御できる方法を提供することである。特にリチウムイオン電池の場合、シリコンとシリサイド及び金属との比率を制御された態様で確立することができるべきであり、すなわち、部分的に反応したシリコンを製造するための方法が有利であろう。その意図は、理想的には、リチウム・インターカレーション用の活物質として利用可能でなければならないアモルファス又はナノ結晶の純粋なシリコンの割合が最大であることと、同時に、安定性及び良好な導電性を達成するために十分な数の不活性領域があることとの間のトレードオフを見出し、シリコンの割合が高い十分なアノード層の厚さで高容量を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的は、独立請求項1に記載の方法によって達成される。
【0022】
リチウム電池で使用するための、リチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための方法において、基板上に第1のシリコン層を堆積させ、続いて、加速アニーリングを施し、本発明に従ってシリコン、金属及び/又はさらなる材料の層を拡散バリアとして適用し、続いて、加速アニーリングを施し、その結果、部分的に反応したシリコンの層が形成される。堆積及び加速アニーリングをさらに繰り返して、部分的に反応したシリコンから構成された多層構造を形成する。
【0023】
加速アニーリングとは、特にフラッシュランプ・アニーリング及び/又はレーザ・アニーリングを指す。フラッシュランプ・アニーリングは、パルス持続時間又はアニーリング時間が0.3~20msの範囲、及びパルス・エネルギーが0.3~100J/cmの範囲で行われる。レーザ・アニーリングの場合、0.1~100J/cmのエネルギー密度が生成するために、局所加熱箇所の走査速度によって0.01~100msのアニーリング時間が確立される。加速アニーリングにおいて達成された加熱ランプレート(ramp)は、本方法に必要な10~10K/sの範囲にある。この目的のためのフラッシュランプ・アニーリングは、可視波長域のスペクトルを利用するが、レーザ・アニーリングでは、赤外(IR)から紫外(UV)スペクトルの範囲の個別の波長が使用される。
【0024】
この一連の層により、典型的には4~15μmの、部分的に反応したシリコンの多層構造の全体的な層厚が生成され、この厚さは電池の動作にとって十分である。本発明の意味での部分的に反応したシリコンとは、純粋なシリカ、理想的にはアモルファス又はナノ結晶の領域と、金属との部分的ないし完全な反応によって形成された対応するシリサイドの領域とを含む層を指す。
【0025】
本発明の意味での層とは、シリコン、金属、及び/又は拡散バリアとして機能するさらなる材料の一連の層を指し、これらは一緒になって、加速アニーリングによって形成される、規定された部分的に反応したシリコン層を生成する。したがって、層とは、規定された部分的に反応したシリコン/シリサイド層を生成する一連の層である。拡散バリアは、外部から供給される金属の量を制限し、層内に供給される金属の量は、この層内に供給されるシリコンとの規定された反応に利用可能である。形成されたシリサイド層は、シリコンとのさらなる反応を防止するのに十分な拡散バリアとして既に機能している可能性があるため、金属以外のさらなる材料から構成された追加の拡散バリアが絶対に必要というわけでない。この場合、金属がシリサイドに拡散する速度は、シリコンに拡散する速度よりも遅い。
【0026】
加速アニーリングでは、層内の拡散とシリサイドの形成を制御することができ、したがってシリサイドの形成は表面に対して垂直に段階的に推移する。これは、シリサイドが部分的に形成され、まだ活性なシリコンが利用可能であるため、Si層と銅箔との接着に有利である。適切な拡散バリアを使用することによって加速アニーリングにおけるプロセス制御を改善することができる。バリアを通過する際の拡散の遅延は、加速アニーリング中にエネルギーが導入される時間間隔において、より優れたプロセス制御を可能にする。従来の拡散バリアとは異なり、その目的は、金属原子のシリコンへの拡散とは対照的に、金属原子の拡散を、加速アニーリング中にエネルギーが導入される時間窓において、拡散の大幅な減少が生じる程度にのみ弱めることである。これに対応して、本発明の方法では、拡散バリアのアーキテクチャ及び厚さが大幅に簡略化され、材料及びプロセス時間に関して節約することができる。同時に、リチウムの拡散は低減されないか、又はその程度がわずかなため、リチウムイオン電池での応用に適している。したがって、適切な拡散バリアとは、特に加速アニーリング中に銅の拡散を局所的に弱め、シリサイドの形成を抑制するが、同時にリチウムの拡散を可能にするバリアであると理解される。
【0027】
本発明の方法の一実施例では、フラッシュランプ・アニーリングの場合の金属とシリコンとの拡散及び反応は、フラッシュランプ・アニーリングにおいて、0.3~20msの範囲のパルス持続時間、0.3~100J/cmの範囲のパルス・エネルギー、及び4℃~200℃の範囲の予熱又は冷却によって制御され、したがって、部分的に反応したシリコンが各層に生成される。
【0028】
加速アニーリングとしてレーザ・アニールを使用する場合、金属とシリコンとの拡散及び反応は、レーザ・アニールにおいて、局所加熱箇所の走査速度、及び0.1~100J/cmの範囲のエネルギー密度、並びに4℃~200℃の範囲の予熱又は冷却を確立することにより、0.01~100msの範囲のアニール時間によって制御され、したがって、部分的に反応したシリコンが各層に生成される。外部冷却の効果は、基板の冷却がより効果的に制御されることである。そうしないと、アニーリング領域の外側に望ましくない反応が生じる可能性がある。
【0029】
金属は、リチウム電池用のアノードの活性層を製造するために多層構造を堆積させた銅基板からの銅であってもよい。シリコン層への銅の拡散は、フラッシュランプ・アニーリングにおける調整可能なパルス持続時間、パルス・エネルギー、及び予熱又は冷却によって制御することができる。層全体が反応することなく、段階的な推移が可能である。Cu箔の領域では、高濃度の銅を測定することができ、この濃度は、堆積層の表面に達するまで徐々に消失する。したがって、Cu箔の領域では、大部分が反応して銅シリサイドを形成する。境界領域の化学反応が起こり、層の接着性が大幅に向上する。シリサイドの割合が高いため、リチウムはほとんど/全くインターカレートされず、したがって、体積膨張が小さくなり、界面での応力が大幅に減少する。層の段階的な構造により、リチウム・インターカレーション時の体積膨張の応力は、層内で均一に分散される。加速アニーリングで処理された単層のSi層は、未処理の層と比較して、Li貯蔵容量の利用率が実質的に変化することなく、サイクル安定性の大幅な向上を示す。サイクルとは、電池の完全な充放電を指す。サイクル数は、電池の寿命に関連している。しかしながら、下流のアニーリング・ステップにより層がさらに反応するため、構造が1回のアニーリング・ステップ又は数層のみに限定されるという欠点がある。中間層として適切な拡散バリアを使用することで、この欠点を回避することができ、又は層全体の目標厚さに適合させることができる。適切な銅拡散バリアを以下に挙げる。
【0030】
本発明の方法の別の実施例では、基板からの金属とシリコンとの拡散及び反応は、事前に適用された拡散バリアによって制御される。
【0031】
基板に適用された多層構造体が金属、例えば銅と制御不能に反応してシリサイドを形成しないようにするために、第1の層として拡散バリアを基板に適用することができる。この層には十分なバリア効果があるため、例えばフラッシュランプ・アニーリング時に、フラッシュエネルギー、フラッシュ持続時間、又は拡散バリア層の最小限の厚さ適合によって、基板からの金属原子とシリコンとの拡散及び反応を制御することができる。
【0032】
本発明の方法の別の実施例では、例えばスパッタリング若しくは蒸着などの物理的気相堆積によって、又は化学気相堆積によって層を堆積させる。
【0033】
例えば、スパッタリング若しくは蒸着による、又は化学気相堆積による平面堆積よって、複雑さ及び費用を増大させることなく、拡散バリアを層ごとに導入することが可能になる。従来のアニーリング・プロセスの拡散バリアとは対照的に、加速アニーリングの状況において拡散バリアに課される要件は、比較的軽微であり、拡散は、上述したように、完全に防止されるのではなく、十分に阻止されるだけでよい。したがって、炭素、窒化物、酸化物、金属などの適切な元素及び化合物の極めて薄いバリアが、本発明の方法において安定したプロセス制御(安定したプロセスウィンドウ)を可能にするのに十分である。その結果、層構造をわずかに変えるだけで、複数回のアニーリング・ステップが可能になる。本発明の方法における層は、Si、金属及び/又はさらなる材料から構成された拡散バリアの層スタックと同義であると理解され、したがって、本発明の意味における層は、層スタックの部分層から構成されている。複数の層が多層構造体を形成する。
【0034】
本発明の方法のさらなる実施例では、拡散バリアは、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、炭素(C)及び/又はこれらの材料の混合物のうちの1つの材料から適用される。
【0035】
本発明の方法の別のさらなる実施例では、多層構造の各層のシリコンの体積膨張は、部分的に反応したシリコンによって制御され、多層構造の基板に面する側の高いシリサイド濃度から、多層構造の基板とは反対向きの側の低いシリサイド濃度への段階的な推移が確立される。
【0036】
段階的な推移は、多層構造によって段階的に近似される。多層構造体又は多層構造の各層におけるシリコン及び後続の加速アニーリングのために、その目的は、Siと存在する金属/銅との反応を最大化することである。その結果、金属/銅の濃度が層ごとに減少し、多層構造体の最後の層として、実質的に(<5%)金属を含まない/銅を含まないシリコンが構築される。
【0037】
本発明の方法の一実施例では、シリサイドを形成するための金属とシリコンの反応は、堆積させる層に拡散バリアを導入することによって層全体にわたって制御され、加速アニーリングの頻度を、層数が増加するにつれて減少させることができる。
【0038】
各シリコン層の後に、拡散バリアが挿入される。これは、独立請求項1におけるandの接続詞に対応する。したがって、加速アニーリング操作の回数を減らすことによって投入エネルギーを削減することが可能になる。このようにして、多層構造の最後に1回だけ加速アニーリング操作を行うだけで、可能な限り最大の層シーケンスによって、段階的な構造を同様に生成及び製造することができる。
【0039】
本発明の方法の一実施例では、堆積させるシリコン、金属及び拡散バリアの各層について、調整可能な量の金属、より具体的には、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、マグネシウム及び/又はスズが、多層構造体全体において部分的に反応したシリコンを生成するために挿入される。多層構造の各層に調整可能な量の金属を加える目的及び利点は、シリコンが埋め込まれた導電性マトリックスの生成である。
【0040】
さらに、金属は、ドーパントとしてのシリコンの導電性を高める役割も果たす。リチウム貯蔵容量の減少は、明らかに、シリコンとの部分的な反応により非リチウム反応性シリサイド/複合体が形成された副作用であるが、これにより、リチウム・インターカレーション時のシリコンの臨界体積膨張が減少する。基板上のシリコン、金属及び/又は拡散バリアの最初の堆積層が加速アニーリングによって処理された場合、シリサイドを形成する後続の堆積層に利用可能な基板からの銅がない可能性がある。調整可能な量の金属、より具体的にはCu、Ni、Al、Ti、Mg及び/又はSnが、多数層の場合に、各層で部分的に反応したシリコンを確保するために添加される。Siの量を介して金属の量を変えることで、段階的な構造を同様に生成することができる。加速アニーリングは、1つ又は複数の堆積層の後に行われ、これらの層での反応を確実にする。
【0041】
例えば、堆積させる金属には、ニッケルが含まれてもよい。ニッケルはシリコンと反応してニッケル・シリサイドを形成し、同時に銅の拡散バリアを構成する。その結果、個々のステップが少なくなることによって、製造プロセスを簡略化することができる。ニッケルでも同様に、部分的に反応したシリコン層の段階的な構造を実現することが可能である。
【0042】
複数回の加速アニーリングによって、高いリチウム・インターカレーション容量のための、シリコンを含む活性層の厚い層を構築することができる。層状構造の助けを借りて拡散を制御することによって、全く新しい層状構造のバリエーションが可能になる。任意の所望の機能層を構築することができ、加速アニーリングによって、安定した電池動作に必要な特性に狙い通りに調整することができる。例えば、スパッタされた炭素を使用して、Cuのシリコンへの拡散を抑制することが可能であり、一方で、堆積させたCuSiは、Cuのシリコンへの拡散を促進することもできる。他の種類の電池(アルミニウムイオン(Al)、ナトリウム(Na)又はマグネシウム(Mg)電池など)、また熱電システムなど、他の使用目的のための最適化も、高い柔軟性の結果として同様に可能である。
【0043】
したがって、本発明の方法は、アルミニウムイオン電池、熱電システム及び/又はナトリウム電池若しくはマグネシウム電池の機能層を製造するために有利に使用することができる。
【0044】
複数回の加速アニーリングにより、金属、例えば銅を、狙いを定めてシリコンに混合することができ、その結果、狙いを定めたシリサイドの形成によって、規定された濃度を有する層を製造することができ、シリコンに組み込まれるリチウムの容量を調整することができる。他の金属、例えばTi、Ni、Sn、Al、W、Mo、C及び/又はこれらの混合物が、必要に応じて可能である。その結果、層ごとの段階的な構造が可能なる。
【0045】
本発明の目的は、独立請求項12に記載のアノードによっても同様に達成される。
【0046】
アノードは、リチウム電池での使用に適しており、方法の特許請求の範囲に記載の方法で製造される。本発明のアノードは、好ましくは銅の集電体と、集電体上に堆積させた、アノードの活性層を形成する多層構造体とを備え、多層構造体は、シリコン、金属及び/又はさらなる材料から構成された、加速アニーリングが施される少なくとも1つの第1の部分的に反応したシリコン層と、シリコン、金属及び/又はさらなる材料から構成された、同様に加速アニーリングが施される第2の部分的に反応したシリコン層とから形成される。
【0047】
続いて加速アニーリングが施される、第1の適用されたシリコン層は、接着層として有利に機能することができ、この第1のシリコン層は、集電体の銅と完全に反応して銅シリサイドを形成し、その結果、集電体、例えばCu箔の粗さが増加し、高い接着力が生じ、銅と反応したシリコン層は、さらなる層構造のための接着層として機能する。銅シリサイド層は完全に反応するため、例えば炭素などのさらなる別の材料から構成された拡散バリアの適用は、後続の処理ステップにおいても十分に安定した拡散バリアを保証する。この拡散バリアは、さらなる加速アニーリング、特にフラッシュランプ・アニーリング及び/又はレーザ・アニーリングの際に、銅中のシリコンが反応して銅シリサイドが形成されるのを防ぐために必要である。続いて、その後順次適用されるさらなる材料である、さらなるSi、金属及び/又は拡散バリア層が、さらなる加速アニーリングによって安定化される。本発明のリチウム電池用のアノードは、最大4mAh/cm、さらには最大6mAh/cmの高い貯蔵容量を有する。
【0048】
本発明のアノードの一実施例では、リチウム・インターカレーション時の多層構造体のシリコンの体積膨張は、部分的に反応したシリコン層によって制御可能であり、活性層の集電体に面する側の高いシリサイド濃度から、アノード活性層の集電体とは反対向きの側の低いシリサイド濃度への段階的な推移が生じ、多層構造体中の金属の割合によってアノード活性層に高い導電性が生じる。良好な導電性とは、グラファイトの抵抗率が3*10-3オームcmの範囲にあることを指し、高導電性とは、グラファイトの抵抗率よりも低く、純粋な銅シリサイドの(10~50)*10-6オームcmまでであること指す。
【0049】
層の段階的な推移は、多層構造によって段階的に近似される。Siの各層と後続の加速アニーリングの目的は、Siと存在する金属、例えば銅との反応を最大化することである。その結果、銅の濃度は層ごとに減少し、構築される最後の層は実質的に(<5%の)銅を含まないシリコンである。
【0050】
シリコン、金属及び拡散バリアの各堆積層において、金属(より具体的には、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、マグネシウム及び/又はスズであってもよい)の量は、多層構造体全体において部分的に反応したシリコンを生成するように調整可能である。多層構造の各層に添加される金属の量が調整可能であることの目的及び利点は、シリコンが埋め込まれた導電性マトリックスの生成である。調整された量の金属は、ドーパントとしてのシリコンの導電性を高める役割を果たす。リチウム貯蔵容量の減少は、明らかに、シリコンとの部分的な反応により非リチウム反応性シリサイド/複合体が形成された結果であるが、これにより、リチウム・インターカレーション時のシリコンの臨界体積膨張が減少する。
【0051】
本発明のアノードのさらなる実施例では、さらなる材料が拡散バリアを形成し、拡散バリアは、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、炭素(C)、並びにそれらの窒化物及びケイ化物、並びに/又はこれらの材料の混合物のうちの1つの材料から形成される。
【0052】
本発明のアノードは、各シリコン層の後に拡散バリアがあってもよい。したがって、アノードの製造における加速アニーリング操作の回数を減らすことによって、投入エネルギーを減少させることが可能である。このようにして、1回の加速アニーリング操作のみで、最大限可能な層シーケンスにより、アノードの活性層の段階的な構造を製造することが同様に可能になる。例えば、ニッケルは、拡散バリアとして使用することができる。ニッケルはシリコンと反応してニッケル・シリサイドを形成し、同時に銅の拡散バリアを構成する。このように構成されたアノードは、より少ない個々のステップから製造することができる。
【0053】
本発明のアノードの異なる実施例では、アノードは、活性層の集電体に面する側の高濃度から、アノード活性層の集電体とは反対向きの側の低濃度への金属濃度の段階的な推移を示す。層全体の不均一構造における非活性領域は、少なくとも銅-3シリサイド(CuSi)からCuSiを経て純銅までの濃度を含む。CuSiの濃度未満では、シリコンは、高濃度から非常に高濃度の銅を有すると言われる。金属濃度の高いシリコンの下限値としては、金属が約3%含まれる冶金シリコンの典型的な値が採用される。シリコン中の金属が0.1%未満の値であることから、シリコンは金属濃度が低いと言われる。
【0054】
本発明のアノードの異なるさらなる実施例では、アノードは、多層構造体の層における金属濃度の段階的な推移を含み、シリサイド濃度が高い領域は、活性層の接着性及び安定性を生じ、シリサイド濃度が低く、シリコンの割合が高い領域は、高いリチウム・インターカレーション容量を示す。シリサイド濃度が高いとは、層中のシリサイドの割合が50%を超えることを指し、シリサイド濃度が低いとは、層中のシリサイドの割合が10%未満であることを指す。
【0055】
本発明は、例示的な実施例を用いて、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】放電中のリチウムイオン・セルの例示的な構造及び機能を示す図である。
図2a】シリコン・アノードにおけるシリサイドの形成に及ぼす投入温度の影響を示す図であり、従来のオーブン・プロセス(従来技術)でものである。
図2b】シリコン・アノードにおけるシリサイドの形成に及ぼす投入温度の影響を示す図であり、加速アニーリング、より具体的にはフラッシュランプ・アニーリングによるものである。
図3a】本発明の方法のプロセスフロー図である。
図3b】電池製造のための機能層の狙いを定めた加速アニーリング、より具体的にはフラッシュランプ・アニーリングによってリチウム・インターカレーション容量を制御するための本発明の方法の概略図である。
図3c】本発明の方法によるシリサイド形成の段階的な推移を示す図である。
図4】リチウム・インターカレーション容量を制御するための部分的に反応したシリコンを製造するための本発明の方法による多層構造の概略図であり、a)シリコン、金属及び拡散バリアの複数の層から構成される単層及び多層構造体を示し、b)加速アニーリング・プロセス・パラメータ及び拡散バリアの厚さが、層内のシリコン/シリサイド濃度の段階的な推移に及ぼす影響を示す。
図5】a)は、本発明のアノードの活性層としての多層構造体の概略図であり、b)は、拡散バリアによって分離された多層構造体の各層への金属、例えば銅の制御された添加によって確立されたシリサイド濃度の段階的な推移を示し、c)は、拡散バリアのない多層構造体の各層における金属濃度の段階的な推移を示す。
図6】銅基板上のシリコン濃度/金属濃度/シリサイド濃度の、a)個々の層内の段階的な推移の概略図であり、b)個々の層間に拡散バリアがない段階的な推移の概略図であり、c)個々の層間に拡散バリアがある段階的な推移の概略図である。
図7】拡散バリアがない多層構造体のSEM顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図2b)は、加速アニーリング、より具体的にはフラッシュランプ・アニーリングが銅とシリコンの層系におけるシリサイドの形成に及ぼす影響を示す。フラッシュパルスが0.1~10msの範囲と非常に短いため、銅シリサイドを形成するためのシリコンと銅との反応は不完全である。フラッシュランプ・アニーリングにより、リチウム・インターカレーション用の活物質として利用可能な純粋なアモルファス又はナノ結晶のシリコンが残り、同時に安定性及び良好な導電性を確保するのに十分な数の不活性領域が存在する。
【0058】
図3a)は、本発明の方法ステップをフロー図で示し、図3b)は、図3c)の左側部分の従来のオーブン・プロセスと比較して、生成されたアノード構造に関する方法ステップのフローを示す。LIB(リチウムイオン電池)の集電体として同時に機能する基板14は、プラズマ雰囲気中の真空条件下で前洗浄13を受ける。この洗浄が必要な理由は、空気中では、基板14上に酸化層15が形成され、この酸化層が、フラッシュランプ・アニーリング操作(FLAフラッシュランプ・アニーリング)において、その後に適用されるシリコン層16と銅基板14との間の反応を妨げるからであり、したがって、シリコン層16がCu基板に付着しなくなることを意味する。これに続いて、第1のシリコン層16を、例えばスパッタリングによって堆積させる。この第1のシリコン層16は、遷移領域においてCu基板14と反応して銅シリサイド17を形成し、これによって基板14、例えばCu箔の粗さが増大し、銅を含むシリコン層が、さらなる層構造のための一種の接着層として機能する。銅シリサイド層17は、電池内で完全に不活性であるため、後続のステップで、例えば炭素から構成された拡散バリア18が最初に適用される。この拡散バリア18は、さらなるフラッシュランプ・アニーリングの際に、銅中のシリコンが反応して銅シリサイドが形成されるのを防ぐために必要である。続いて、さらなるSi層19が適用されてもよく、シリコン及び拡散バリア層から形成された各層は、フラッシュランプ・アニーリング11によって安定化される。Si堆積と後続のフラッシュランプ・アニーリング11を繰り返す利点は、各シーケンスで、界面が封止された安定な(「反応が中和された」)層が形成され、これが後続の層の中間層として作用することである。これは、銅シリサイドが部分的に形成され、まだ活性シリコンが利用可能であるため、Si層の銅箔への接着に有利である。したがって、記載される本発明の方法は、表面のさらなる粗面化をもたらし、さらなる層に対して良好な接着性を形成する。柱状構造体の成長も同様に促進されるため、イオン伝導性が向上し、下流のプロセスのために銅の割合を容易に制御することができる。
【0059】
したがって、シリコン、金属、及び/又は異なる材料から構成された拡散バリアを繰り返し堆積させ、続いて、加速アニーリング、より具体的にはフラッシュランプ・アニーリングを行った後、層内のシリサイドの拡散及び形成を制御することができるため、表面に垂直なシリサイド形成の段階的な推移を確立することができる。これは、図3c)に従来のオーブン・プロセスと比較して示されている。オーブン・プロセスでは、Cu基板14は、堆積させたSi層16、19及び拡散バリア18とともに加熱される。例えば炭素又はニッケルから構成された拡散バリア18には十分なバリア効果がないため、シリコン全体が銅と反応して銅シリサイド17が形成される。
【0060】
この状況は、層がフラッシュランプ又はレーザによる加速アニーリングを受ける場合とは異なる。フラッシュランプ又はレーザ・アニール中のプロセス制御は、適切な拡散バリア18を導入することによって大幅に改善される可能性がある。銅シリサイドの形成は、フラッシュランプ・エネルギー、フラッシュランプ持続時間及び/又はアニーリング時間の調整によって、レーザによる局所加熱箇所の走査速度とエネルギー密度の調整によって、及び/又は堆積させたシリコン層若しくは拡散バリアの最小限の厚さ適合によって、段階的に調整することができ、これは、図3c)の右側に示されている。拡散バリア18を加速アニーリング、より具体的にはフラッシュランプ・アニーリング及び/又はレーザ・アニーリング11と併せて使用することは、電池の製造においてイオンのインターカレーションを制御するのに適している。
【0061】
さらなる例示的な実施例を図4に示す。図4a)は、最上部に、銅層又は一般的には金属層20、シリコン層16及び拡散バリア18から構成された個々の層21を示す。各層21は、加速アニーリング11によって処理されてもよく、それにより、シリコン16及び金属20がシリサイド17に変換され、加速アニーリング・プロセス11のパラメータを調整することによって、層内のシリサイド/シリコン濃度の段階的なプロファイルが生じる。複数の層21は、多層構造体22を形成する。
【0062】
層21におけるシリサイド/シリコン濃度の段階的な推移は、加速アニーリング・プロセス11における選択されたプロセス・パラメータによっても、堆積させた拡散バリア18の厚さによっても調整することができる。これは、図4b)に概略的に示されている。例えば、フラッシュランプ又はレーザ11による選択された投入エネルギーが高いほど、加速アニーリング・プロセス中にシリコン層19に拡散することができる金属原子の数が多くなり、したがって、層内のシリサイド/シリコン濃度の勾配が小さくなる(図4b、左側の図及び中央の図を比較されたい)。勾配が小さいとは、層/活性層の集電体に面する側から層/活性層の集電体とは反対向きの側への、層又はアノード活性層中のシリサイドの濃度が段階的に減少することと同義である。勾配が大きいとは、シリサイド濃度が急速に減少することを意味する。加速アニーリング・プロセスのパラメータを変えずに拡散バリア18の厚さを増加させた場合、加速アニーリング操作内で拡散バリア18を通って、堆積層に拡散することができる金属原子が少なくなるため、堆積層内の勾配が増加し、したがって、層/活性層の表面に垂直な短い距離にわたって濃度が減少する。高いシリサイド濃度が層の下側に形成され、急速に減少し、上側、すなわち層/活性層の集電体とは反対向きの側には、シリコンのみが存在する。純粋なシリコンはリチウムのインターカレーションに利用可能であるが、シリサイドの形成は導電性を向上させる。
【0063】
例えば、銅層を有するシリコン層中の銅濃度の段階的な推移は、パルスの持続時間、層状構造の予熱又は冷却、及び堆積層の層厚の適合によって、換言すれば、投入エネルギー(時間及び温度にわたる)及びシリコン層の銅層に対する厚さ比の適合によって確立され、平均反応深さ(拡散長)は、リチウム・インターカレーションに十分な未反応シリコンを提供するために、シリコン層の層厚よりも小さくすべきである。
【0064】
図5は、異なる例示的な実施例における本発明のアノードの活性層としての多層構造体の概略図を示す。図5a)では、層21は、シリコン16、19、金属20、23及び拡散バリア18から構成されている。この層に加速アニーリング11が施される。複数の層21及び複数の加速アニーリング操作11は、多層構造22を形成し、これらの層は、例えば、炭素から構成される拡散バリア18によって分離され、さらなる金属20が、さらなる層に導入される。続いて、各層に加速アニーリング11が施される。金属層20から始まって、各層内のシリサイド濃度が段階的に推移していることが明確に見える。
【0065】
図5b)は、図5a)に加えて、例えば炭素から構成された拡散バリア18によって分離された多層構造体22の各層におけるシリサイド濃度の段階的な推移を示す。さらに、各層には、金属23、例えばアルミニウムのさらなる層が導入されている。これにより、各層における段階的な推移及び金属とシリコンの反応をさらに改良することができる。
【0066】
図5c)は、図5b)と同じ多層構造体22の構造を示すが、この多層構造22には、個々の層21を互いに分離する拡散バリア18がないという違いがある。段階的な推移は、挿入された金属層20及び23の厚さによって制御される。例示的なSi/Cu/Si/Al/Si/Cu/Si/Al/Si構造を示すSEM顕微鏡写真を図5d)に示す。中間層はもはやはっきりとは見えず、フラッシュランプ・アニーリングの後、銅はシリコンと反応してCuSiを形成し、これは広い、色の薄い領域として認識できる。アルミニウムはシリコンに「溶解する」。その結果、シリコン含有率が高く、導電性に優れ、多部材からなる、安定した多層構造体、すなわち高い電池容量が得られる。炭素を含むCuSiの接着層24が銅基板14上に生成され、連続的な電流接触が確保される。
【0067】
図6は、銅基板上のシリコン濃度又は金属濃度又はシリサイド濃度の段階的な推移の生成の概略図を示す。図6a)は、シリサイドを形成するためのシリコンと金属との反応がフラッシュランプ・プロセス・パラメータの選択によって依然として制御可能である、Siの厚さを有するシリコンの単層を示す。ここでの層厚は、フラッシュランプ・アニーリング前にプロセス的に安定しているシリコンの最大厚さ、典型的には1μmに制限される。図6b)は、シリコンの単層を有する銅基板から開始する段階的な推移の生成を示しており、このシリコンの単層は、フラッシュランプ・アニーリング11後に完全に反応して銅シリサイドを形成し(図6b-1)、続いて、追加のシリコン層19を堆積させ(図6a-2)、このシリコン層がフラッシュランプ・アニーリング11後に続いて反応して、あまり顕著ではないシリサイド層を形成しており(図6a-3)、ここでは既に濃度勾配が見える。シリコン層のさらなる堆積及びフラッシュランプ・アニーリング操作11の後、多層構造において実質的に段階的な推移が生成される(図6a-4)。
【0068】
図6c)は、拡散バリア18、複数のシリコン層19、及び個々の各層の間のフラッシュランプ・アニーリング11を有する銅基板上のシリコン濃度又は金属濃度又はシリサイド濃度の段階的な推移の生成を示す。ここでは、図6b)と比較して、反応及びシリサイド化の程度と量の両方を各層でより狙い通りに制御して、段階的な構造を生成することができる。銅基板14の表面に垂直な活性層内の距離が長くなるにつれて、シリコンの濃度は上昇し、シリサイドの濃度は低下する。フラッシュランプ・アニーリング・プロセスのパラメータの確立及び適合により、シリコンの1つ又は複数の層から開始して、勾配を狙い通りに確立することができる。図6a)とは対照的に、図6b)-4及び図6c)-3の多層構造には、シリサイド17からシリコン19への遷移をより良く制御するという利点があり、より大きな層厚の構造が可能である。
【0069】
図7は、個々の層間に拡散バリア18のないSi/Cu/Si/Cuなどから構成された多層構造体22のSEM顕微鏡写真を示す。接着層として、薄い拡散バリアのみが基板に適用された。
【符号の説明】
【0070】
1 リチウムイオン電池
2 アノード側集電体
3 SEI-固体電解質相間
4 電解質
5 セパレータ
6 接触相間
7 カソード、正極
8 カソード側集電体
9 アノード、負極
10 Si層のスパッタリング
11 フラッシュランプ・アニーリング
12 プロセス・ステップの繰り返し
13 プラズマ前洗浄
14 基板
15 酸化層
16 第1のシリコン層
17 銅シリサイド、金属シリサイド
18 拡散バリア
19 さらなるシリコン層
20 金属層
21 単層
22 多層構造体、構造
23 さらなる金属層
24 接着層
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図4a)】
図4b)】
図5
図6
図7
【国際調査報告】