(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-03
(54)【発明の名称】光透過凝集測定法での基準値を決定するためのデータベースを作成するための方法、並びに光透過凝集測定法での測定を行う方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 33/49 20060101AFI20240827BHJP
G01N 33/96 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01N33/49 X
G01N33/96
G01N33/49 K
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501832
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2022070619
(87)【国際公開番号】W WO2023016778
(87)【国際公開日】2023-02-16
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524014684
【氏名又は名称】コマンディットゲゼルシャフト ベーンク エレクトロニク ゲーエムベーハー ウント ツェーオー.
【氏名又は名称原語表記】KOMMANDITGESELLSCHAFT BEHNK ELEKTRONIK GMBH & CO.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ラドン, クリスチャン
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA02
2G045CA24
2G045FA13
2G045FB01
2G045GA04
2G045GC10
2G045JA05
(57)【要約】
光透過凝集測定法での測定のための仮想基準値を決定するためのデータベースを作成するための方法であって、a.参照血液試料の多血小板血漿(PRP)(17)を準備するステップと、b.第1の光波長、及び第1の光波長とは異なる第2の光波長(14)を用いて、参照血液試料のPRP(17)に対して光透過測定を行うステップと、c.参照血液試料の乏血小板血漿(PPP)を準備するステップと、d.PPPに対する光透過測定を行って、PPP基準値を決定するステップと、e.ステップdの測定結果を、データベース内でステップbの測定結果に割り当てるステップと、f.複数の参照血液試料についてステップa~eを繰り返すステップとを含む方法が開示される。この方法を使用して得られたデータベースにより、PPP基準値の優れた推定値である仮想基準値を決定することが可能になる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過凝集測定法での測定のPPP基準値に関する仮想基準値を決定するためのデータベースを作成するための方法であって、
a.参照血液試料の多血小板血漿(PRP)を準備するステップと、
b.第1の光波長、及び前記第1の光波長とは異なる第2の光波長を用いて、前記参照血液試料の前記PRPに対して光透過測定を行うステップであり、前記第1の波長が、300nm~500nmの間の範囲内にあり、前記第2の波長が、500nm~800nmの間の範囲内にあり、前記第1の光波長が前記第2の光波長と少なくとも50nm異なる、ステップと、
c.前記参照血液試料の乏血小板血漿(PPP)を準備するステップと、
d.前記PPPに対する光透過測定を行って、PPP基準値を決定するステップと、
e.ステップdの前記測定結果を、データベース内でステップbの前記測定結果に割り当てるステップと、
f.含まれる物質の少なくとも1つの種類及び/又は濃度がペアで互いに異なる複数の参照血液試料についてステップa~eを繰り返すステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1及び/又は第2の波長は、
前記第1の波長が、前記第2の波長と少なくとも100nm、好ましくは少なくとも200nm異なるという特徴、
前記第1の波長が、345nm~465nmの間の範囲内、より好ましくは385nm~425nmの間の範囲内であるという特徴、及び
前記第2の波長が、550nm~700nmの間の範囲内、より好ましくは600nm~640nmの間の範囲内であるという特徴
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
g.ステップbによる前記測定を行った後、予め定義された量の活性化剤を前記参照血液試料の前記PRPに添加するステップと、
h.前記活性化剤を添加した後、かつ、前記活性化剤によって引き起こされる凝集を導入する前に、ステップbによる前記測定を繰り返すステップと、
i.ステップhの前記測定結果を、前記データベース内でステップdの前記測定結果に割り当てるステップと、
j.前記複数の参照血液試料についてステップg~iを繰り返すステップと、
をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップhによる前記光透過測定が、前記活性化剤の前記添加後、0~10秒の間、好ましくは0~5秒の間の期間に行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップhによる前記光透過測定中、1秒~6秒の間、好ましくは3秒~5秒の間の期間にわたる前記光透過の時間平均値が生成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップbの前記光透過測定が、少なくとも3つの互いに異なる光波長を用いて行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の参照血液試料が、第1の参照血液試料と第2の参照血液試料とを含み、前記第1の参照血液試料が少なくとも1つの第1の物質を含み、前記第1の物質が、前記第2の参照血液試料に含まれない、又は前記第2の参照血液試料中の前記第1の物質の濃度の1.5分の1未満、好ましくは3分の1未満、より好ましくは5分の1未満の濃度で前記第2の参照血液試料に含まれ、前記第1の物質が、好ましくは、ヘモグロビン、セルロプラスミン、リポタンパク質、トリグリセリド、ビリルビンからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の参照血液試料の前記第1の物質が手動で添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のデータベースを使用して、検査対象の血液試料のPRPに対する光透過凝集測定法での測定のPPP基準値に関する仮想基準値を決定するための方法であって、
a.前記検査対象の血液試料のPRPを準備するステップと、
b.第1の光波長、及び前記第1の光波長とは異なる第2の光波長を用いて、前記検査対象の血液試料の前記PRPに対して光透過測定を行うステップと、
c.ステップbによって得られた前記測定結果、及び前記データベースを使用して、前記検査対象の血液試料の前記仮想基準値を決定するステップと、
を含む方法。
【請求項10】
d.ステップbによる前記測定を行った後、予め定義された量の活性化剤を前記検査対象の血液試料の前記PRPに添加するステップと、
e.前記検査対象の血液試料の前記PRPに前記活性化剤を添加した後、かつ、前記活性化剤によって引き起こされる凝集を導入する前に、ステップbによる前記測定を繰り返すステップと、
f.ステップeによって得られた前記測定結果をステップcの前記決定に組み込むステップと、
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記データベースに基づく数学的関係が確立され、前記関係が、入力変数として、前記検査対象の血液試料に関して得られた前記測定結果を有し、出力変数として、前記検査対象の血液試料の前記仮想基準値を有する、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
検査対象の血液試料に対して光透過凝集測定法での測定を行うための方法であって、
a.請求項9~11のいずれか一項に記載の方法を行って、前記検査対象の血液試料の前記仮想基準値を決定するステップと、
b.前記仮想基準値を使用して光透過凝集測定法での測定を行うステップと、
を含む方法。
【請求項13】
検査対象の血液試料のPRPに対してLTA測定を行うための仮想基準値を決定するためのデバイスであって、第1の光波長、及び前記第1の光波長とは異なる第2の光波長の光を選択的に放出するための照明モジュール(13)と、前記照明モジュール(13)からの前記光がPRP(17)を通過するように前記PRP試料(17)を導入するための試料容器(16)と、前記PRP(17)を通過した光を捕捉するように設計された光センサ(18)と、制御モジュール(19)とを備え、前記制御モジュール(19)が、
a.第1の光波長、及び前記第1の光波長とは異なる第2の光波長を用いて、前記検査対象の血液試料の前記PRPに対して光透過測定を行うステップであり、前記第1の波長が、300nm~500nmの間の範囲内にあり、前記第2の波長が、500nm~800nmの間の範囲内にあり、前記第1の光波長が前記第2の光波長と少なくとも50nm異なる、ステップと、
b.ステップaによって得られた前記測定結果、及び請求項1~8のいずれか一項に記載のデータベースを使用して、前記検査対象の血液試料の前記仮想基準値を決定するステップと、
が行われるように前記デバイスを駆動するように設計された、デバイス。
【請求項14】
予め定義された量の活性化剤を前記PRP(17)に自動的に添加するためのアプリケータ(22)を備え、前記制御モジュール(19)が、
c.ステップaによる前記測定を行った後、予め定義された量の活性化剤を前記検査対象の血液試料の前記PRPに添加するステップと、
d.前記検査対象の血液試料の前記PRPに前記活性化剤を添加した後、かつ、前記活性化剤によって引き起こされる凝集を導入する前に、ステップaによる前記測定を繰り返すステップと、
e.ステップdによって得られた前記測定結果をステップbの前記決定に組み込むステップと、
が行われるように前記デバイスを駆動するように設計された、請求項13に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過凝集測定法での測定用の仮想基準値を決定するために使用することができるデータベースを作成するための方法に関する。さらに、本発明は、作成されたデータベースを使用して検査対象の血液試料の多血小板血漿に対して光透過凝集測定法での測定を行うための仮想基準値を決定し、仮想基準値を使用して光透過凝集測定法での測定を行うための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過凝集測定法(LTA)は、血小板の機能を評価するために最も一般的に使用される方法の1つである。LTA測定を行うために、遠心分離によって被験者から提供された血液試料から、いわゆる多血小板血漿(PRP)が得られる。血小板は1.5μm~3μmの間の直径を有する円盤状であるため、血小板で光散乱が起こり、PRPが濁った流体のような外観となる。PRP試料への活性化剤の添加後、血小板が架橋して凝集体を形成し、その結果、PRP試料の光透過が増加し(少なくともPRP試料が健康な被験者からのものであるという前提で)、透過率は時間と共に最大に近づく。LTA測定の一部として、光ビームをPRP試料に向け、試料から発する光ビームの強度を測定することによって、この透過率の増加(又は吸光度の減少)は、標準化された条件下で経時的に測定される。文献「SAKAYORI TASKUKU ET AL: “Evaluation of the Newly Developed Adenosine Diphosphate induced Platelet Aggregation Level System in Aggregometer on Automated Coagulation Analyzer”, CLINICAL LABORATORY, vol. 65, No. 12/2019, December 1, 2019 (2019-12-01), XP 055871304」には、LTA法が開示されており、LTA測定値を評価するために、いわゆる「ADP誘発血小板凝集レベル」(APAL)が使用される。「LING LI-QIN ET AL: “Evaluation of an automated light transmission aggregometry”, PLATELETS (LONDON), vol. 28, No. 7, February 2, 2017 (2017-02-02), pages 712-719, XP 055871233」には、凝固分析装置の性能に関する研究が提示されている。文献「LE BLANC JESSICA ET AL: “Advances in Platelet Function Tenting-Light Transmission Aggregometry and Beyond”, JOURNAL OF CLINICAL MEDICINE, vol. 9, No. 8, August 13, 2020 (2020-08-13), page 2636, XP 055871250」には、LTA測定法の分野における最近の開発の概要が記載されている。米国特許出願公開第2017/248576A1号には、3つの異なる光波長を放出するための3つの光源を有するLTA分析装置が開示されており、異なる波長が異なる測定タスクのために使用される。文献「Mukaide Kae: “Overview of the Automated Coagulation Analyzer CS5100”, Sysmex Journal International, 2013, XP 055871951」には、「CS-5100」自動凝固分析装置の製品概要が提供されている。
【0003】
光透過の変化を解釈できるようにするために、従来技術では、PRP試料に加えて、同じ被験者の乏血小板血漿(本明細書では以後「PPP」と呼ぶ)の試料を準備する必要がある。このPPP試料は、PRPに対して行われるLTA測定に関する基準値として使用される透過率を確認するために同様に使用される。PPPは低い血小板濃度を有するので、通常は透明な流体であり、最大透過率を有する。PRPで測定される透過率は通常、この最大透過率と相関される。この手順のみにより、従来技術においてLTA測定を有意義に解釈することが可能になり、特に凝集変化の速度と共に凝集の最大範囲を評価できるようになる。
【0004】
PPP試料を得るために必要に応じて追加の量の血液を採ることは、被験者にとって負担となることがある。これは、必然的に血液の量が少ない新生児若しくは乳児、又は既存の症状により限られた量の血液しか採取することができない患者に特に当てはまる。さらに、PPP試料を準備するには追加の作業及び追加の消耗品が必要とされる。
【発明の概要】
【0005】
以上の背景を元に、本発明の目的は、より少ない労力で信頼性の高い結果をもたらす、LTA測定のための仮想基準値を決定するためのデータベースを作成するための方法、作成されたデータベースを使用してLTA測定を行うための仮想基準値を決定するための方法、及びLTA測定を行うための方法を提供することである。この目的は、独立請求項の特徴によって実現される。有利な実施形態は、従属請求項で指定されている。
【0006】
本発明による、LTA測定のための仮想基準値を決定するためのデータベースを作成するための方法が、
a.参照血液試料の多血小板血漿(PRP)を準備するステップと、
b.第1の光波長、及び第1の光波長とは異なる第2の光波長を用いて、参照血液試料のPRPに対して光透過測定を行うステップと、
c.参照血液試料の乏血小板血漿(PPP)を準備するステップと、
d.PPPに対する光透過測定を行って、PPP基準値を決定するステップと、
e.ステップdの測定結果を、データベース内でステップbの測定結果に割り当てるステップと、
f.複数の参照血液試料についてステップa~eを繰り返すステップと
を含む。
【0007】
まず、本明細書で使用するいくつかの用語を説明する。本発明による方法は、血液試料の多血小板血漿及び乏血小板血漿の準備を必要とする。この準備は、例えば文献「Leitlinie-Thrombozytopathien [Thrombocytopathy Guidelines], Version 2.1 (AWMF Register No. 086-003, update 2/2018)」に記載されているような、一般に知られている方法で行うことができる。この場合、血液凝固を防ぐために、定義された量の適切な抗凝固剤(例えばクエン酸ナトリウム)が特に血液試料に添加される。
【0008】
血液試料のPRP又はPPPに対して光透過測定を行うとき、通常は透明な容器内にあるPRP又はPPPの体積に、予め定義された強度の光ビームが向けられ、光ビームが体積を通過した後、光ビームの強度が測定されることが好ましい。始めに予め定義された強度と、通過後の強度との比が透過率を与え、この透過率が、光透過測定の結果を表すことがある。PPPに対する光透過測定の場合、透過率は、PPP基準値を生成することがある。
【0009】
光透過測定が第1の波長及び第2の波長で行われるとき、これらの測定は、検査中の体積の異なる部分体積に対して時間的に連続して行われても、又は同時に行われてもよい。
【0010】
本明細書の範囲内では、2つの波長は、少なくとも10nm異なる場合に、異なるものと考えられる。一実施形態では、第1の波長は、第2の波長と少なくとも50nm、好ましくは少なくとも100nm、より好ましくは少なくとも200nm異なる。第1の波長は、300nm~500nmの間の範囲内でもよく、好ましくは345nm~465nmの間、より好ましくは385nm~425nmの間である。さらに、第2の波長は、500nm~800nmの間の範囲内でもよく、好ましくは550nm~700nmの間、より好ましくは600nm~640nmの間である。
【0011】
PRPに対して行われる光透過測定は、本発明の範囲内では、少なくとも上述した波長差を有する、又は上述した範囲内の単色光を用いて行うことができる。本発明の範囲内で、複数の光波長の重ね合わせによって生成された光ビームを光透過測定に使用することも可能である。この場合、光ビームの波長は、光ビームに含まれる波長の平均値(好ましくは強度に応じて重み付けされる)によって与えられる。これに関して、2つの光ビーム間の波長差は、光ビームの平均値の差によって予め定義される。「ある波長の光」に言及するとき、本明細書の範囲内では、これは、波長平均値がこの波長である対応する光ビームを意味することもある。
【0012】
本発明の範囲内で、少なくとも2つの異なる波長による光透過測定が、参照血液試料のPRPに対して行われ、そこから特に透過率を決定することが可能である。さらに、光透過の基準値は、従来技術から一般に知られている方法で参照血液試料のPPPで決定される(本明細書では以後、PPP基準値とも呼ぶ)。本発明の範囲内で、少なくとも2つの異なる波長を用いてPRPで得られた測定値と、複数の参照血液試料に関するデータベースに記憶されている値が評価されるときに明らかになるPPP基準値との間に統計的に有意な関係があることが認識されている。この統計的関係により、データベースが作成されると、上記データベースを使用して、検査対象の患者の別の血液試料に関する仮想基準値を決定することが可能になり、この仮想基準値は、PPP基準値の信頼できる推定値であり、同じ患者からPPP試料を得て測定するさらなる必要性がない。例として、検査対象の血液試料のPRPで得られた測定値と仮想基準値との数学的関係がデータベースから決定されてもよい。これについては、仮想基準値を決定するための方法及びLTA測定を行うための方法に関連して以下でより詳細に説明する。代替として、PPP基準値に関する仮想基準値は、他の手段、特に(おそらく人工知能を使用する)一般に知られている静的方法を使用してデータベースから決定されてもよい。そのような方法は当業者に一般に知られている。本発明の核心は、本発明による方法ステップにより、仮想基準値を決定するのに十分な情報を含むデータベースを作成することができるという知見である。したがって、本発明によるデータベースにより、PPP試料を得るために追加の血液サンプリングをなくして、その結果生じる労力を不要にすることが可能である。
【0013】
特定の血液試料に関して、PPP基準値と、PRPにおいて異なる波長で得られる測定値との両方が血液試料の生理学的状態に依存し、すなわち特に、PPP試料(したがってPPP基準値)とPRP試料との両方の透過率に影響を及ぼす血液試料に含まれる物質の種類及び濃度に依存することが、本発明の範囲内で認識されている。そのような物質は、例えば、ヘモグロビン、セルロプラスミン、ビリルビン、リポタンパク質、又は医薬品によって供給される他の物質でもよい。本発明者らは、光波長の関数として透過率に影響を及ぼす特定の物質が存在すると仮定している。したがって、PRP測定値とPPP基準値との両方が、血液試料に含まれる物質の種類及び/又は濃度によって、予め定められた方法で影響を及ぼされるので、少なくとも2つの異なる光波長の使用により、データベース内で、PRPで決定された測定値とPPP基準値との相関関係が得られる。したがって、データベースが作成されると、さらなる血液試料を検査するときに、異なる波長でPRPを測定し、必要に応じてデータベース(又はデータベースから得られる数学的関係)を使用するだけで、PPP基準値に関する結論を引き出すことができ、追加のPPP試料を得る必要がない。
【0014】
1つの好ましい実施形態では、データベースを作成するための方法は、
g.ステップbによる測定を行った後、予め定義された量の活性化剤を参照血液試料のPRPに添加するステップと、
h.活性化剤を添加した後、かつ、活性化剤によって引き起こされる凝集を導入する前に、ステップbによる測定を繰り返すステップと、
i.ステップhの測定結果を、データベース内でステップdの測定結果に割り当てるステップと、
j.複数の参照血液試料についてステップg~iを繰り返すステップと
をさらに含む。
【0015】
この場合の「活性化剤」という用語は、PRPへの添加後に血小板凝集を引き起こすように構成された1つの試薬又は複数の試薬を表す。活性化剤は、リストセチン、アラキドン酸、アデノシン三リン酸(ATP)、エピネフリン(アドレナリン)、コラーゲン、トロンビン受容体活性化ペプチド(TRAP)を含む群から選択される1つ又は複数の試薬を含んでいてもよい。活性化剤を添加した後、時間遅延を伴って凝集が始まる。血小板は、特定の期間にわたって活性化された状態を保ち、血小板の架橋によって引き起こされる光透過の増加はまだない。ステップhの反復測定は、この期間中に、すなわち実際の凝集が起こる前に行われることが好ましい。ステップhによる活性化剤の添加後の光透過測定は、好ましくは活性化剤の添加後、0~10秒の間、好ましくは0~5秒の間の期間に行われ、透過値を獲得するために、1秒~6秒の間、好ましくは3秒~5秒の間の期間にわたって時間的平均値が生成されることが好ましい。活性化剤の添加前の光透過測定は、活性化剤の添加の直前、例えば活性化剤の添加前の0秒~10秒の間の期間に行われることが好ましい。PRP体積と、ステップgによりPRP体積に添加される活性化剤の体積との混合比は、通常は9:1であるが、例えば20:1~2:1の間、好ましくは15:1~4:1の間、より好ましくは7:1~11:1の間でもよい。
【0016】
上述した実施形態では、予め定義された量の活性化剤の添加前と添加直後との両方で、2つの光波長を用いて光透過測定が行われる。追加で得られた測定値を使用して、PPP基準値についてさらに正確であり有意義な結論を導き出すことができることが判明した。特に、PRPへの予め定義された量の活性化剤の添加は、個々のPRP試料に依存する光透過の初期変化を誘発し、その変化は光透過の減少でも又は増加でもあり得ることが認識されている。この初期変化も同様に、血液試料の生理学的状態への依存性、特に血液試料中の物質への依存性を示す。したがって、ここで述べる実施形態では、追加情報がデータベースに追加され、この追加情報は、PPP基準値に関する統計的結論を改善することを可能にする。
【0017】
本発明の一実施形態では、方法ステップgで、第1の活性化剤が第1の参照血液試料に使用され、第1の活性化剤とは異なる第2の活性化剤が第2の参照血液試料に使用されることが企図される。これにより、データベース内で、異なる活性化剤によって得られた測定データを区別することが可能になる。検査対象の血液試料の仮想基準値が特定の活性化剤を使用して後で決定される場合、データベース内で、同じ活性化剤を使用して参照血液試料で獲得された測定結果(又はそこから決定される数学的関係)にアクセスすることが可能である。異なる活性化剤が異なる測定結果を誘発しないことが予想される場合、異なる活性化剤に基づいて得られた測定結果をデータベース内で組み合わせる、又は数学的関係を決定するためにまとめて使用することもできる。
【0018】
ステップb及び/又はステップhの光透過測定が、少なくとも3つの互いに異なる光波長を用いて行われてもよい。特に、第1の波長の光は、380nm~420nmの間、好ましくは400nm~410nmの間の範囲内の波長を有していてもよい。第2の波長の光は、500nm~550nmの間、好ましくは520nm~530nmの間の範囲内の波長を有していてもよい。第3の波長の光は、620nm~700nmの間、好ましくは620nm~630nmの間の範囲内の波長を有していてもよい。3つの波長の使用により、PPP基準値に関する結論を導き出すことができる精度がさらに向上されることが判明した。3つの波長は、活性化剤の添加前の測定と添加後の測定との両方に使用されることが好ましい。
【0019】
1つの有利な実施形態では、複数の参照血液試料が、第1の参照血液試料と第2の参照血液試料とを含み、第1の参照血液試料が少なくとも1つの第1の物質を含み、第1の物質は、第2の参照血液試料に含まれない、又はより低い濃度で第2の参照血液試料に含まれる。例として、第1の参照血液試料中の物質の濃度は、第2の参照血液試料中のその物質の濃度の1.5倍超、好ましくは3倍超、より好ましくは5倍超の大きさでもよい。例えば、20倍の濃度差も可能である。第1の物質は、好ましくは、ヘモグロビン、セルロプラスミン、リポタンパク質、トリグリセリド、ビリルビンからなる群から選択されてもよい。第1の物質は、医薬品若しくは食品に由来する色素若しくは成分、又はそれらの分解生成物でもよい。参照血液試料に含まれる物質が異なる場合、データベースは、血液試料の様々な生理学的状態をより広範に網羅する。データベースを作成するために、例えば上述した濃度の差によって、含まれる物質の少なくとも1つの種類及び/又は濃度がペアで互いにそれぞれ異なる複数の参照血液試料(例えば、5つよりも多い、好ましくは10個よりも多い、より好ましくは20個よりも多い)が使用されることが好ましい。1つよりも多い、好ましくは2つよりも多い、より好ましくは5つよりも多い物質がペアで互いにそれぞれ異なる参照血液試料を使用してデータベースを作成することも可能であり、その差は、上述した濃度の差によって与えられてもよい。これにより、データベースから統計的結論を導き出すことができる精度がさらに向上される。
【0020】
参照血液試料のPRP体積が複数の部分体積に分割されることを企図することもでき、本発明による方法は、これらの部分体積のそれぞれに対して行われ、決定された測定値のそれぞれの平均値が、多数の部分体積にわたって生成され、データベースに記録される。そのような平均化により、統計的精度をさらに高めることができる。
【0021】
一実施形態では、第1の物質は、第1の参照血液試料に手動で添加される。異なる参照血液試料に、異なる予め定義された濃度で物質を添加することも可能である。これは、本発明の範囲内で決定される測定値に対する物質の影響を体系的に捕捉してデータベースに記録することができるという利点を有する。特に、一連の測定は、複数の参照血液試料を用いて行われてもよく、異なる参照血液試料に複数の異なる濃度で物質が添加される、及び/又は異なる参照血液試料に場合によっては異なる濃度で複数の異なる物質が添加される。
【0022】
基本的には、本発明による方法を行うために使用される参照血液試料の少なくとも一部を複数の被験者から得ることも可能であり、それらの被験者において、例えば既存の状態、又は医薬品の摂取、又は他の影響により、参照血液試料が、そこに含まれる物質の種類及び/又は濃度に関して互いに異なることが予想され得る。
【0023】
さらに、本発明は、本発明によるデータベースを使用して検査対象の血液試料のPRPに対してLTA測定を行うための仮想基準値を決定するための方法に関する。この方法は、
a.検査対象の血液試料のPRPを準備するステップと、
b.第1の光波長、及び第1の光波長とは異なる第2の光波長を用いて、検査対象の血液試料のPRPに対して光透過測定を行うステップと、
c.ステップbによって得られた測定結果、及び本発明によるデータベースを使用して、検査対象の血液試料の仮想基準値を決定するステップと
を含む。
【0024】
本発明によるデータベースが作成された後、検査対象のさらなる血液試料に関して、いわゆる仮想基準値が上述した方法を使用して決定されてもよい。ここでの仮想基準値は、データベースとPRPで行われた測定とに基づいて決定されたPPP基準値の推定値である。仮想基準値を使用して、同じ患者からPPP試料を得る必要なく、後で行われるLTA測定を有意義に解釈することができる。
【0025】
仮想基準値を決定するための方法は、
d.ステップbによる測定を行った後、予め定義された量の活性化剤を検査対象の血液試料のPRPに添加するステップと、
e.検査対象の血液試料のPRPに活性化剤を添加した後、かつ、活性化剤によって引き起こされる凝集を導入する前に、ステップbによる測定を繰り返すステップと、
f.ステップeによって得られた測定結果をステップcの決定に組み込むステップと
をさらに含むことが好ましい。
【0026】
ステップaによるPRPの準備、並びにステップb及び/又はeによる光透過測定の実施は、データベースを作成するための方法に関連して上述したのと同様に行われてもよい。特に、測定のために、(少なくとも実質的に)同じ光波長若しくは光波長範囲が使用される、及び/又は(少なくとも実質的に)PRP体積と追加される活性化剤の体積との同じ比が使用されることが企図されてもよい。この点で、仮想基準値を決定するための方法は、データベースを作成するための方法に関連して既に上述した特徴によってさらに発展されてもよい。以て、データベースが作成されるときと同じ条件、又は少なくともできるだけ同様の条件下で測定結果が捕捉されることを保証することができる。以て、検査対象の血液試料で捕捉された測定結果に基づいて導かれる結論を、高い精度で実現することができる。
【0027】
最も単純なケースでは、仮想基準値は、検査対象の血液試料の測定結果(ステップb及び該当する場合にはeによって取られる)とデータベースに含まれる測定結果との比較によって決定されてもよい。データベースが、検査対象の血液試料に関する測定結果と同一又は実質的に同一である参照血液試料に関する測定結果を含む場合、この参照血液試料に対してデータベース内に存在するPPP基準値を仮想基準値として使用することができる。
【0028】
しかし、多くの場合、データベースは、検査対象の血液試料の記録と十分に合致する参照血液試料の記録を含んでいない。さらに、データベースに含まれる単一の記録は、基本的には測定誤差によって影響を及ぼされることがあり、これは、仮想基準値を確認するために単一の記録に頼ると誤差が生じることがあることを意味する。したがって、データベースに基づく数学的関係が確立されることが好ましく、この関係が、入力変数として、検査対象の血液試料に関して得られた測定結果を有し、出力変数として、検査対象の血液試料の仮想基準値とを有することが企図される。特に、仮想基準値virtPPP(本明細書では時としてvirtREFとも呼ばれる)を測定値の数学的関数として表すことができることが示されている。
virtPPP=virtPPP(xd1,xd2,xd3,xd4)、ここで、
xd1:活性化剤の添加前に、波長λ1で検査対象の血液試料のPRPに関して測定された透過率、
xd2:活性化剤の添加前に、波長λ2で検査対象の血液試料のPRPに関して測定された透過率、
xd3:活性化剤の添加後に、波長λ1で検査対象の血液試料のPRPに関して測定された透過率、
xd4:活性化剤の添加後に、波長λ2で検査対象の血液試料のPRPに関して測定された透過率、
λ1:第1の波長、及び
λ2:第2の波長
である。
【0029】
数学的関係又は関数virtPPP(xd1,xd2,xd3,xd4)は、従来技術から一般に知られている統計的調整法によってデータベースから取得されてもよい。
【0030】
1つの有利な実施形態では、数学的関係の一部として、比V1=xd1/xd2、V2=xd3/xd4、及びV3=V2/V1が決定され、仮想基準値の計算に使用される。
【0031】
データベースの作成及び検査対象の血液試料の測定に3つ以上の光波長が使用された場合、それに応じて、従来技術で一般的に知られている統計的調整法によって機能を拡張することができる。
【0032】
さらに、本発明は、検査対象の血液試料に対してLTA測定を行うための方法であって、 a.検査対象の血液試料の仮想基準値を決定するための本発明による方法を行うステップと、
b.仮想参照値を使用して、検査対象の血液試料に対するLTA測定を行うステップと
を含む方法を含む。
【0033】
光透過凝集測定法での測定は、特に、仮想基準値を即時に決定するための方法に従ってもよい。基準値を決定するときに活性化剤が既に添加されている場合、以て引き起こされる凝集は、その後のLTA測定の一部として捕捉されることがある。活性化剤は、LTA測定に適するように設計されることが好ましい。仮想基準値を決定するための方法に従うLTA測定は、基本的には、単一の波長で行われても又は複数の波長で行われてもよく、複数の波長は、PRPの体積を通って交互に、又はPRPの異なる部分体積を通って同時に通される。
【0034】
さらに、本発明は、検査対象の血液試料のPRPに対してLTA測定を行うための仮想基準値を決定するためのデバイスであって、第1の光波長、及び第1の光波長とは異なる第2の光波長の光を選択的に放出するための照明モジュールと、照明モジュールからの光がPRPを通過するようにPRP試料を導入するための試料容器と、PRPを通過した光を捕捉するように設計された光センサと、制御モジュールとを備え、制御モジュールが、
a.第1の光波長、及び第1の光波長とは異なる第2の光波長を用いて、検査対象の血液試料のPRPに対して光透過測定を行うステップと、
b.ステップaによって得られた測定結果、及び本発明によるデータベースを使用して、検査対象の血液試料の仮想基準値を決定するステップと
が行われるようにデバイスを駆動するように設計された、デバイスに関する。
1つの好ましい実施形態では、デバイスが、予め定義された量の活性化剤をPRPに自動的に添加するためのアプリケータを備え、制御モジュールが、
c.ステップaによる測定を行った後、予め定義された量の活性化剤を検査対象の血液試料のPRPに添加するステップと、
d.検査対象の血液試料のPRPに活性化剤を添加した後、かつ、活性化剤によって引き起こされる凝集を導入する前に、ステップaによる測定を繰り返すステップと、
e.ステップdによって得られた測定結果をステップbの決定に組み込むステップと
が行われるようにデバイスを駆動するように設計される。
【0035】
本デバイスは、特に、本発明によるデータベースに基づいて数学的関係にアクセスし、数学的関係と、ステップa又はステップa及びdで得られた測定値とに基づいて仮想基準値を決定するように設計された計算モジュールを有していてもよい。数学的関係は、特に計算モジュールに記憶されてもよい。
【0036】
本発明によるデバイスは、データベースを作成するための方法、仮想基準値を決定するための方法、及び/又は光透過凝集測定法での測定を行うための方法に関連して述べたさらなる特徴によってさらに発展されてもよい。
【0037】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい例示的実施形態を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】第1の波長を用いて3つの参照血液試料のPRPに対して行われた光透過測定の例を示す図である。
【
図2】測定曲線が時点t=-8秒でゼロ点にシフトされた、
図1からの光透過測定を示す図である。
【
図3】
図2に示される透過率と、それぞれの参照血液試料のそれぞれのPPP基準値との比を経時的に示す図である。
【
図4】検査対象の血液試料のPRPに対して行われたLTA測定の一例を示す図である。
【
図5】
図4に示される透過率と、仮想基準値、及びまた検査対象の血液試料の測定されたPPP基準値との比を経時的に示す図である。
【
図6】本発明による方法を使用して決定された、検査対象の多数の血液試料に関する、測定されたPPP基準値と仮想基準値との比較を示す図である。
【
図7】
図6に示される結果の統計的評価を示す図である。
【
図8】仮想基準値を決定するための本発明によるデバイスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、3つの異なる参照血液試料のPRPに対して行われた3つの例示的な光透過測定を経時的に示す。強度計の測定値の変化が、時間の関数としてプロットされている。測定値は、透過率の常用対数に比例する(以下、透過率を文字Tを用いて表す)。したがって、測定値の増加は、透過率の増加に対応する。測定は、t=-8秒~t=6分の期間にわたり、t=0秒の時点で、活性化剤であるアデノシン二リン酸(ADP)を、それぞれのPRP試料に1:9の体積比(ADP1部、PRP9部)で添加した。測定は、λ1=625nmの波長で行った。参照血液試料1~3は、それぞれの試料に手動で添加した物質の種類のみが互いに異なる。参照血液試料1中には、手動で物質を添加しなかった。参照血液試料2及び3には、イントラリピッドをそれぞれ75mg/dl及び151mg/dlの濃度で添加した。
図1で、イントラリピッドの添加が、透過率のより低い絶対値をもたらすことが分かる。
【0040】
図2は、透過率の変化をより明確にするために曲線がゼロ点にシフトされている、
図1からの測定を示す。参照試料1の透過率は、活性化剤の添加直後(t=0~t=10秒の間)にはほとんど変化しない、又は減少さえすることが分かる。この期間中、凝集がまだ起こっていない状態で血小板活性化プロセスが始まる。この期間の終了後、約t=10秒で血小板の架橋が始まり、PRP中に凝集体が生じ、その結果、透過率が経時的に増加する。約t=150秒後に最大透過率に達し、その後はほとんど変化しない。
【0041】
一方、参照試料2及び3では、時点t=0で、Δ(log10T)=0.03及びΔ(log10T)=0.05の急激な変化を見ることができる。これらの参照血液試料でも、(約t=10秒から)凝集が始まり、透過率は増加し続ける。
【0042】
透過率の変化の絶対値は、例えば試料に含まれる血小板の濃度並びに試料に含まれる他の物質の濃度及び種類に依存するため、それ自体に重要性はない。このため、従来技術では、同じ血液試料のPPPに対する光透過測定によってそれぞれのPPP基準値を決定し、PRPで得られた測定値を、この測定されたPPP基準値と相関させる必要がある。上に示した参照血液試料において、そのようなPPP基準値を従来技術から既知の方法で決定した。
図3は、それぞれのPPP基準値に対する参照血液試料1~3の透過率の対応する比率を経時的に示す。3つの試料すべてについて、経時的に比率が約85の値に近づくことが分かる。
図3に示される測定データから、血小板の機能に関する結論を導き出すことができる。
【0043】
本発明によるデータベースを作成するための方法を、
図1~3に示される測定データを参照して、例として以下に説明する。
図1~3に示される透過測定に加えて、活性化剤の添加直前(t=-3秒)及び活性化剤の添加直後に、同じ参照血液試料のPRPに対して、波長λ2=405nmでのそれぞれの光透過測定を行った(t=2秒~6秒の間の期間での平均値を作成することによって)。例として、参照血液試料1について以下の測定結果が得られた。
- 時点t=-3秒での活性化剤の添加前の、波長λ1での透過率:xd1=0.82676788、
- 時点t=-3秒での活性化剤の添加前の、波長λ2での透過率:xd2=0.532220558、
- t=2秒~t=6秒の間の期間で平均することによって得られる、活性化剤の添加後の、波長λ1での透過率:xd3=0.840990463、
- t=2秒~t=6秒の間の期間で平均することによって得られる、活性化剤の添加後の、波長λ2での透過率:xd4=0.551279411、及び
- 参照血液試料のPPPで測定されたPPP基準値:PPP-Ref=1.0228。
【0044】
値xd1、xd2、xd3、xd4及びPPP基準値をデータベースに追加した。参照血液試料2及び3についても対応する値を決定し、同様にデータベースに追加した。データベースを以下の表1に示す。
【表1】
【0045】
さらなる参照血液試料4~7についても対応する測定値を捕捉し、同様にデータベースに追加した。参照血液試料4~7は、PRPに手動で添加したそれぞれの物質のみが互いに異なる。物質及びその濃度を、捕捉された測定値と共に以下の表2に列挙する。
【表2】
【0046】
データベース内で、さらに添加した物質の影響に基づくパターンを認識することが可能である。透過値の比較から、例えば、物質の添加が、決定された透過値と測定されたPPP基準値との両方に特定の影響を及ぼし得ることが分かる。例えば、試料4~6の値xd1とxd2の比較は、ビリルビン又はヘモグロビンの添加によって引き起こされる透過率の変化が波長λ1よりも波長λ2で大幅に顕著であることを示している。
【0047】
別の認識可能なパターンは、例えば、試料1では、活性化剤の添加により透過値xd1とxd3の間で小さな変化しか生じないのに対し、試料2及び3(すなわちイントラリピッド濃度の増加)での変化はかなり大きいことである(
図2を参照)。同時に、物質の添加により、PPP基準値がいくぶん顕著に変化する。
【0048】
例として上で説明した測定が多数の参照血液試料に対して行われ、データベースに記録された後、上述したパターンのタイプは、仮想基準変数を決定するために数学的関係を確立することを可能にする統計的に有意な関係をもたらす。
【0049】
数学的関係の一例を以下に説明する。
変数:
V1=xd1/xd2、
V2=xd3/xd4、
V3=V2/V1、
Ve=(V1+V2)/eV3、及び
XxdPIP=xd4+xd3-xd2-xd1
が決定される。さらに、変数
XvPIP=(1-xd3)×(-log10(xd3))×(V1+Ve)/eVe
が決定される。上で言及した変数に基づいて、予備的な仮想基準変数1virtPPPを以下のように決定することができる。
1virtPPP=1+XxdPIP-XvPIP
【0050】
さらに、係数
F1=xd3/1virtPPP
が計算される。係数F1の値が閾値未満(この例ではF1<1.19)であるPRP試料の場合、予備的な仮想基準変数1virtPPPが、PPP基準値に関する良好な推定値であることが判明した。
【0051】
係数F1が閾値よりも大きい場合(すなわち、この例ではF1>1.19)、修正された仮想基準値2virtPPPが以下のように決定される。
2virtPPP=1.26×F1-1.134
【0052】
係数がF1>1.19であるPRP試料の場合、修正された仮想基準値2virtPPPが、PPP基準値に関する良好な推定値である。したがって、この場合、仮想基準値virtPPPを確認するための以下で再現される数学的関係をデータベースから決定した。
【数1】
【0053】
参照試料1~6に関して以て決定された仮想基準値virtPPPが、上記の表1及び2に示されている。表は、測定されたPPP基準値(PPP-Ref)との良好な合致があることを示す。
【0054】
図4は、t=-8秒~t=6分の間の期間に
図1及び2に示される測定と同じ測定条件下で行った、検査対象の血液試料のPRPに対するLTA測定を示し、ここで、測定曲線は、時点t=-8秒でゼロ点にシフトされている。時点t=0秒で、活性化剤ADPをPRPに9:1の比で添加した。以下の透過値xd1、xd2、xd3、xd4を、それぞれ活性化剤の添加前及び添加後に、既に上述した方法で波長λ1=625nm、λ2=405nmに関して確認した。
xd1=0.698934、xd2=0.257505、xd3=0.726952、xd4=0.280035
【0055】
上述した数学的関係を使用して、上記の中間値を以下のように計算した。
【表3】
【0056】
暫定の仮想基準値は以下のようになった。
1virtPPP=1.0259
【0057】
さらに、係数を決定した。
F1=1.411
【0058】
この係数は値1.19を超えているので、最終的な仮想基準値は以下のようになった。
virtPPP=2virtPPP=1.26×F1-1.134)=0.857514
【0059】
対照の目的で、PPP基準値PPP-Ref=0.8869を、従来技術から知られている方法で検査対象の同じ血液試料のPPPについて確認した。したがって、この仮想基準値は、PPP基準値に関する良好な推定値である。
図5は、測定された透過値と、仮想基準値virtREF及び測定された基準値PPP-Refとの比率を経時的に示す。virtREFとPPP-Refの値が良く合致しているため、
図5に示される2つの測定曲線はほぼ同一である。
【0060】
上述した方法で、本発明によるデータベースに基づいて決定された数学的関係を使用して、検査対象の複数の血液試料についてそれぞれの仮想基準値(図中にvirt.pppとして表される)を決定し、さらに、従来技術から知られている方法でPPP基準値(図中にePPPとして表される)を測定して、それぞれの場合の仮想基準値を測定されたPPP基準値と比較した。この目的で、測定されたPPP基準値と仮想基準値との平均値を決定し、変数間のパーセンテージの差を確認した。
図6は、この差を平均値の関数として示し、図示されているスケールでは、平均値40000がPPP基準値1にほぼ対応する。本発明による方法を使用して、検査された血液試料の大部分について仮想基準値を計算することができ、この基準値が、実際に測定されたPPP基準値に関する非常に良好な推定値を表すことが判明している。
図7に示されるように、90%のケースにおいて、その差は約±4%の小さい誤差範囲内にある。したがって、PPP基準値に関する良好な推定値を確認するための本発明による方法の適合性が確かめられた。
【0061】
図8は、LTA測定を行うための仮想基準値を決定するための本発明によるデバイスを示す。このデバイスは、第1の光波長405nm及び第2の光波長625nmの光ビーム14を、各場合に予め定義された強度で放出するように設計された照明モジュール13を備える。このデバイスは、透明なキュベット15を手動又は自動で導入することができる試料ホルダ16をさらに備える。キュベット15は、検査対象の血液試料のPRP17を含む。試料ホルダは、光ビーム14がキュベット15の部分領域に入射し、そこに置かれたPRP17を通過するように配置される。PRP17を通過した光ビーム14は、次いでセンサ18に当たり、センサ18は、光ビームの強度を捕捉し、それを制御モジュール19に転送する。このデバイスは、PRP17に予め定義された量の活性化剤を添加するように設計されたアプリケータ22をさらに有する。照明モジュール13及びアプリケータ22は、本発明による方法を行うように制御モジュール19によって制御され、それぞれの測定された透過値xd1、xd2、xd3、及びxd4がセンサによって同時に捕捉され、制御モジュールに記憶される。制御モジュール19は、本発明による数学的関係が記憶されている計算モジュール20をさらに備える。数学的関係及び測定された透過値を使用して、計算モジュール20は、LTA測定のための仮想基準値を決定する。
【0062】
代替又は追加として、センサによって捕捉された測定値xd1~xd4をデータ接続を介して外部計算モジュールに送信するネットワークインターフェース21設けることもでき、この場合、仮想基準値の決定は、外部計算モジュールによって引き継がれる。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過凝集測定法での測定のPPP基準値に関する仮想基準値を決定するためのデータベースを作成するための方法であって、
a.参照血液試料の多血小板血漿(PRP)を準備するステップと、
b.第1の光波長、及び前記第1の光波長とは異なる第2の光波長を用いて、前記参照血液試料の前記PRPに対して光透過測定を行うステップであり、前記第1の波長が、300nm~500nmの間の範囲内にあり、前記第2の波長が、500nm~800nmの間の範囲内にあり、前記第1の光波長が前記第2の光波長と少なくとも50nm異なる、ステップと、
c.前記参照血液試料の乏血小板血漿(PPP)を準備するステップと、
d.前記PPPに対する光透過測定を行って、PPP基準値を決定するステップと、
e.ステップdの前記測定結果を、データベース内でステップbの前記測定結果に割り当てるステップと、
f.含まれる物質の少なくとも1つの種類及び/又は濃度がペアで互いに異なる複数の参照血液試料についてステップa~eを繰り返すステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1及び/又は第2の波長は、
前記第1の波長が、前記第2の波長と少なくとも100nm、好ましくは少なくとも200nm異なるという特徴、
前記第1の波長が、345nm~465nmの間の範囲内、より好ましくは385nm~425nmの間の範囲内であるという特徴、及び
前記第2の波長が、550nm~700nmの間の範囲内、より好ましくは600nm~640nmの間の範囲内であるという特徴
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
g.ステップbによる前記測定を行った後、予め定義された量の活性化剤を前記参照血液試料の前記PRPに添加するステップと、
h.前記活性化剤を添加した後、かつ、前記活性化剤によって引き起こされる凝集を導入する前に、ステップbによる前記測定を繰り返すステップと、
i.ステップhの前記測定結果を、前記データベース内でステップdの前記測定結果に割り当てるステップと、
j.前記複数の参照血液試料についてステップg~iを繰り返すステップと、
をさらに含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
ステップhによる前記光透過測定が、前記活性化剤の前記添加後、0~10秒の間、好ましくは0~5秒の間の期間に行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップhによる前記光透過測定中、1秒~6秒の間、好ましくは3秒~5秒の間の期間にわたる前記光透過の時間平均値が生成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップbの前記光透過測定が、少なくとも3つの互いに異なる光波長を用いて行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の参照血液試料が、第1の参照血液試料と第2の参照血液試料とを含み、前記第1の参照血液試料が少なくとも1つの第1の物質を含み、前記第1の物質が、前記第2の参照血液試料に含まれない、又は前記第2の参照血液試料中の前記第1の物質の濃度の1.5分の1未満、好ましくは3分の1未満、より好ましくは5分の1未満の濃度で前記第2の参照血液試料に含まれ、前記第1の物質が、好ましくは、ヘモグロビン、セルロプラスミン、リポタンパク質、トリグリセリド、ビリルビンからなる群から選択される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の参照血液試料の前記第1の物質が手動で添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のデータベースを使用して、検査対象の血液試料のPRPに対する光透過凝集測定法での測定のPPP基準値に関する仮想基準値を決定するための方法であって、
a.前記検査対象の血液試料のPRPを準備するステップと、
b.第1の光波長、及び前記第1の光波長とは異なる第2の光波長を用いて、前記検査対象の血液試料の前記PRPに対して光透過測定を行うステップと、
c.ステップbによって得られた前記測定結果、及び前記データベースを使用して、前記検査対象の血液試料の前記仮想基準値を決定するステップと、
を含む方法。
【請求項10】
d.ステップbによる前記測定を行った後、予め定義された量の活性化剤を前記検査対象の血液試料の前記PRPに添加するステップと、
e.前記検査対象の血液試料の前記PRPに前記活性化剤を添加した後、かつ、前記活性化剤によって引き起こされる凝集を導入する前に、ステップbによる前記測定を繰り返すステップと、
f.ステップeによって得られた前記測定結果をステップcの前記決定に組み込むステップと、
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記データベースに基づく数学的関係が確立され、前記関係が、入力変数として、前記検査対象の血液試料に関して得られた前記測定結果を有し、出力変数として、前記検査対象の血液試料の前記仮想基準値を有する、請求項
9に記載の方法。
【請求項12】
検査対象の血液試料に対して光透過凝集測定法での測定を行うための方法であって、
a.請求項
9に記載の方法を行って、前記検査対象の血液試料の前記仮想基準値を決定するステップと、
b.前記仮想基準値を使用して光透過凝集測定法での測定を行うステップと、
を含む方法。
【請求項13】
検査対象の血液試料のPRPに対してLTA測定を行うための仮想基準値を決定するためのデバイスであって、第1の光波長、及び前記第1の光波長とは異なる第2の光波長の光を選択的に放出するための照明モジュール(13)と、前記照明モジュール(13)からの前記光がPRP(17)を通過するように前記PRP試料(17)を導入するための試料容器(16)と、前記PRP(17)を通過した光を捕捉するように設計された光センサ(18)と、制御モジュール(19)とを備え、前記制御モジュール(19)が、
a.第1の光波長、及び前記第1の光波長とは異なる第2の光波長を用いて、前記検査対象の血液試料の前記PRPに対して光透過測定を行うステップであり、前記第1の波長が、300nm~500nmの間の範囲内にあり、前記第2の波長が、500nm~800nmの間の範囲内にあり、前記第1の光波長が前記第2の光波長と少なくとも50nm異なる、ステップと、
b.ステップaによって得られた前記測定結果、及び請求項1~
5のいずれか一項に記載のデータベースを使用して、前記検査対象の血液試料の前記仮想基準値を決定するステップと、
が行われるように前記デバイスを駆動するように設計された、デバイス。
【請求項14】
予め定義された量の活性化剤を前記PRP(17)に自動的に添加するためのアプリケータ(22)を備え、前記制御モジュール(19)が、
c.ステップaによる前記測定を行った後、予め定義された量の活性化剤を前記検査対象の血液試料の前記PRPに添加するステップと、
d.前記検査対象の血液試料の前記PRPに前記活性化剤を添加した後、かつ、前記活性化剤によって引き起こされる凝集を導入する前に、ステップaによる前記測定を繰り返すステップと、
e.ステップdによって得られた前記測定結果をステップbの前記決定に組み込むステップと、
が行われるように前記デバイスを駆動するように設計された、請求項13に記載のデバイス。
【国際調査報告】