(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-03
(54)【発明の名称】多形核骨髄由来免疫抑制細胞(PMN-MDSC)に特異的な新規診断用及び治療用マーカーとしての抗原CD111
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240827BHJP
G01N 33/577 20060101ALI20240827BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240827BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240827BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240827BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240827BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240827BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/53 D
G01N33/577 B
A61P35/00
A61P31/00
A61K39/395 N
A61P35/02
A61K35/17
C07K16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505060
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 IT2022050220
(87)【国際公開番号】W WO2023012844
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】102021000020702
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520352377
【氏名又は名称】オスペダーレ ペディアトリコ バンビーノ ジェス
【氏名又は名称原語表記】OSPEDALE PEDIATRICO BAMBINO GESU’
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】モレッタ, ロレンツォ
(72)【発明者】
【氏名】バッカ, パオラ
(72)【発明者】
【氏名】トゥミノ, ニコラ
【テーマコード(参考)】
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZB32
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA28
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
多形核骨髄由来免疫抑制細胞(PMN-MDSC)に特異的な新規の診断用及び治療用マーカーとしてのCD111抗原。本発明は、多形核骨髄由来免疫抑制細胞(PMN-MDSC)のマーカーとしてCD111抗原を用いることによって、生体試料中の前記細胞を検出するための方法、及び免疫療法の標的としての前記マーカーの使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の多形核骨髄由来免疫抑制細胞を検出するためのマーカーとしてのCD111タンパク質の使用。
【請求項2】
前記生体試料が、例えば末梢血、腹水、滑液などの液体試料、又は例えば新鮮な、パラフィン包埋された、若しくは凍結保存された組織生検などの固形組織から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
生体試料中の多形核骨髄由来免疫抑制細胞を検出するための方法であって、前記細胞のためのマーカーとしてのCD111タンパク質の同定によって前記細胞を検出する工程を含む、方法。
【請求項4】
前記生体試料が、例えば末梢血、腹水、滑液などの液体試料、又は例えば新鮮な、パラフィン包埋された、若しくは凍結保存された組織生検などの固形組織から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
フローサイトメトリー又は免疫組織化学的分析によって行われる、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
腫瘍又は感染性疾患の治療における使用のための多形核骨髄由来免疫抑制細胞の阻害剤製品であって、CD111マーカーを自身の標的とする、阻害剤製品。
【請求項7】
抗CD111モノクローナル抗体、又はCD111タンパク質を選択的に認識するように構築物で遺伝子改変された例えばT及びNKリンパ球などのエフェクター細胞から選択される、請求項6に記載の使用のための請求項6に記載の阻害剤製品。
【請求項8】
抗CD111モノクローナル抗体であり、前記抗体が、例えば薬物、毒素、又は放射性同位体などの、多形核型の骨髄由来免疫抑制細胞の死を誘導することができる物質に結合される、請求項7に記載の阻害剤製品。
【請求項9】
前記腫瘍が、固形腫瘍、例えば肺がん及び神経芽細胞腫、又は小児若しくは成人の血液がん、例えば白血病から選択される、請求項6に記載の使用のための請求項6~8のいずれか一項に記載の阻害剤製品。
【請求項10】
抗CD111モノクローナル抗体を用いることによって幹細胞を含むアフェレーシス試料中の多形核骨髄由来免疫抑制細胞を排除する工程を含む、幹細胞移植のための製品を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多形核骨髄由来免疫抑制細胞(PMN-MDSC)に特異的な新規診断用及び治療用マーカーとしてのCD111抗原に関する。
【0002】
特に、本発明は、多形核骨髄由来免疫抑制細胞(PMN-MDSC)のマーカーとしてCD111抗原を用いることによって生体試料中の前記細胞を検出するための方法、及び免疫療法の標的としての前記マーカーの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)には、免疫調節活性を有する成熟及び未成熟骨髄細胞の不均一集団が含まれることが知られている。MDSCは、造血系共通前駆細胞に由来し、一個体において先天免疫系と適応免疫系の両方を抑制することができる。
【0004】
健康な個体では、骨髄系統の前駆体(IMC)は、末梢血単核細胞(PBMC)のうちの約2.5%であり、骨髄中で生成され、顆粒球、マクロファージ、又は樹状細胞に分化する。反対に、がん、様々な感染性疾患、敗血症、外傷、骨髄移植、及び一部の自己免疫疾患などの病的状態では、IMC分化の部分的な遮断、及びそれに続くMDSCの蓄積が誘導される。MDSCが腫瘍進行、転移、及び腫瘍に対する免疫寛容の誘導に有利に働くことができるため、実質的な証拠によってヒト新生物におけるMDSCの重要性が示唆されている(1、2)。特に、これらの細胞の研究では、該細胞の増殖は、感染症、腫瘍、及び自己免疫疾患を含む炎症状態を特徴とする様々な病的状態と相関することが示されている。さらに、ある特定の因子がMDSCの増殖及び活性化の両方を促進する可能性があることが強調されている。文献において現在までのところ利用可能な証拠のほとんどは、主に動物の腫瘍モデル及びがん患者の研究に基づくものである。しかしながら、これらの細胞について、活性化過剰免疫系が調節されなければならない自己免疫性病理学においても研究することが非常に重要である。これらの自己免疫性病理学では、MDSCが免疫応答の恒常性の維持に有利であることが実証されている(3)。
【0005】
MDSCは表現型的及び機能的不均一性であるため、MDSCが発生し、蓄積し、その活性を実行する正確な機序はまだ明白に定義されていない。PMN-MDSCの存在及び阻害効果は、ハイリスク白血病の治療のためのハプロタイプ一致移植の関連において、インビトロで既に実証されている。特に、造血幹細胞移植の関連では、ドナーの成熟NK細胞は、化学/放射線療法での調整の措置の後での、患者に残存する白血病細胞の排除に重要な役割を果たす。しかしながら、「αβT及びB枯渇」移植の関連では、ドナーのNK細胞の抗白血病効果は大きく阻害される。既に実証されているように、G-CSFによって通常通りに「動員された」ドナーの移植片では、造血幹細胞の有意な増加に加えて、PMN-MDSCの蓄積がみられる。PMN-MDSCは、様々な機序(IDO、PGE2、及びエクソソームの放出)でドナーの成熟NK細胞の活性を阻害し、よって、ドナーの成熟NK細胞の抗白血病効果を弱める(4)。
【0006】
腫瘍を有する患者では、さらに、末梢血中のPMN-MDSCの存在と治療に対する応答との間に相関が認められている(1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、PMN-MDSCは、免疫細胞の抗腫瘍応答を阻害する並外れた能力を示す。異なる病理学におけるPMN-MDSCの免疫抑制的役割をかんがみると、よって、幹細胞移植の関連ではアフェレーシス産物、及び新生物を有する患者の末梢血の両方から、PMN-MDSCを標的選択して排除することを可能にするためには、PMN-MDSCを直接的に認識できるマーカーを使ってPMN-MDSCを容易に同定できることが重要と考えられる。特に移植の関連では、PMN-MDSCの直接的な同定及び選択/排除によって、NK細胞の抗白血病活性(GvL)の機能的回復が可能となると考えられ、一方、新生物を有する患者では、PMN-MDSCの直接的な同定及び選択/排除によって、末梢血中のPMN-MDSCの存在が容易に確認でき、治療の有効性及び疾患の再発の両方を評価することが可能となると考えられる。
【0008】
しかしながら、PMN-MDSCを同定するための専用マーカーは、現在のところまだ特定されていない。
【0009】
現在のところ、MDSCを同定するためには、MDSCを単球性(MO)と多形核(PMN)との2グループに類別する様々なマーカーを組み合わせることが必要である。MDSCの両グループとも、成熟骨髄細胞及び好中球と形態的に似ていることから、それらを同定するためには、先の研究で実証されているように、特定の表面マーカーを互いに組み合わせて発現を評価すること、及びそれらの免疫抑制活性を評価することの両方が必要である(5)。MDSCは系列(CD3/56/19/123)-HLA-DRlow/negCD33+CD11b+として同定され;MO-MDSCはCD14+であるのに対し、PMN-MDSCはCD15+CD66b+である。
【0010】
これらの細胞の同定には、密度勾配媒体上に層状に重ね、次いで、様々なマーカーの発現又は非存在を判定する複合的表現型分析を行い、最後に、機能性試験による免疫抑制能を評価する、という手順を実行することが必要である。
【0011】
上記をかんがみると、既知マーカーの不利な点を克服する、PMN-MDSCの選択的同定のための新規マーカーを提供することが必要であることが明らかとなる。
【0012】
本発明による解決策は、PMN-MDSCを同定するための特異的マーカーを提供することを目的としており、この状況に適合する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(A)フローサイトメトリー分析、末梢血形態(FSC)の評価、及び粒度(SSC)による、異なった白血球亜集団の同定;(B)CD66b及びCD111の発現;(C)単離されたPBMCにおけるPMN-MDSCの同定;(D)同定されたPMN-MDSCにおけるCD111の発現、を示す図である。
【
図2A-1】プロテインアトラスデータセットを使用した、様々なヒト組織におけるCD111コードmRNAの発現を示す図である。
【
図2A-2】プロテインアトラスデータセットを使用した、様々なヒト組織におけるCD111コードmRNAの発現を示す図である。
【
図2B】プロテインアトラスデータセットを使用した、免疫系の様々なヒト細胞サブセットにおける、CD111をコードするmRNAの発現を示す図である。
【
図3】健康なドナー及び肺がんを有する患者(患者)の末梢血由来PBMCにおけるPMN-MDSCの頻度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
CD111マーカーは、ポリオウイルス受容体関連1(PVRL1)又はネクチン-1とも呼ばれ、免疫グロブリンのスーパーファミリーに属すヒトタンパク質であり、またネクチンのメンバーとされることが公知である。CD111マーカーは、3つの細胞外免疫グロブリンドメインと膜貫通型シングルヘリックスと細胞質側末端とを有する膜タンパク質である。CD111は、Ca2
+非依存的に機能する接着分子である。後に下記にて、特に
図2Aにて示す、実験データによっても確認されるように、CD111マーカーは、様々な組織の接合部、特に、上皮組織の接合部間、又はニューロンの化学シナプスに限局化する(
図2A)。化学シナプスでは、PVRL1はPVRL3(ネクチン-3)と相互作用しており、両タンパク質とも、既に脳発生の初期においてニューロン性組織において見出すことができる。CD111タンパク質はまた、ウイルス糖タンパク質D(gD)と相互作用することによって、単純ヘルペスウイルスの細胞への侵入において役割を果たしている(6)。
【0015】
本発明によると、CD111マーカーによって、PMN-MDSCを選択的に同定することができることが、今や見出されている。詳細には、後に下記にて報告する実験データによって示すように、本発明によると、既知の方法によって同定されたすべてのPMN-MDSCがCD111マーカーを発現することが観察された。PMN-MDSCは、健康な個体と比較して、腫瘍を有する個体の末梢血に極めて豊富に存在することが知られている。
【0016】
既知の方法とは異なり、本発明によるCD111マーカーは、有利には、単核細胞を分離することを全く必要とせずに、PMN-MDSCをその好中球類似物と区別することができる。実際、PBMCの精製で、末梢血を層状に重ねる工程が非存在の場合、顕微鏡法及びフローサイトメトリーの両方によって分析すると、PMN-MDSCと好中球とは同じ形態を有することを示す。したがって、既知の方法による末梢血中でのこれらの細胞の直接的な同定は、現在のところ不可能である。驚くべきことに、本発明によるCD111マーカーの同定によれば、好中球はこのマーカーを発現しないため、末梢血で直接、PMN-MDSCを選択的に同定することが可能である。
【0017】
したがって、本発明によるCD111発現の評価によって、有利には、末梢血試料で直接、PMN-MDSCの迅速で直接的な同定が可能となり、疾患経過及び使用される様々な治療アプローチに対する応答に及ぼすPMN-MDSCの影響を研究することが可能となる。上述のように、実際に、PMN-MDSCが、NK細胞及びTリンパ球などの免疫系のリンパ系エフェクター細胞の機能性を激的に阻害することが知られている。
【0018】
さらに、本発明によるCD111マーカーは、この細胞サブセット、すなわちPMN-MDSCを排除するために、免疫療法の標的/マーカーとして有利に用いることができ、これによって、免疫系のエフェクター細胞の抗腫瘍性機能を回復させることができる。
【0019】
したがって、本発明の具体的な目的は、生体試料中の多形核骨髄由来免疫抑制細胞(PMN-MDSC)を検出するためのマーカーとしてのCD111タンパク質(遺伝子ID:5818)の使用である。
【0020】
本発明によると、生体試料は、例えば末梢血、腹水、滑液などの液体試料、又は例えば新鮮な、パラフィン包埋された、若しくは凍結保存された組織生検などの固形組織から選択されてもよい。
【0021】
本発明は、生体試料中の多形核骨髄由来免疫抑制細胞(PMN-MDSC)を検出するための方法であって、前記細胞のためのマーカーとしてのCD111タンパク質の同定によって前記細胞を検出する工程を含む、方法にさらに関する。本発明によると、生体試料は、例えば末梢血、腹水、滑液などの液体試料、又は例えば新鮮な、パラフィン包埋された、若しくは凍結保存された組織生検などの固形組織から選択されてもよい。本発明による方法は、フローサイトメトリー又は免疫組織化学的分析によって実施されてもよい。
【0022】
本発明によると、CD111タンパク質は、免疫療法の標的として有利に用いることができる。例えば、CD111マーカーは、多形核骨髄由来免疫抑制細胞を阻害且つ/又は選択的に排除することができる製品を調製するために用いることができ、前記製品は、CD111マーカーを自身の標的とする。多形核骨髄由来免疫抑制細胞の選択的排除によって、免疫系のエフェクター細胞の抗腫瘍性機能を回復させることが可能となる。
【0023】
本発明は、腫瘍又は感染性疾患の治療における使用のための多形核骨髄由来免疫抑制細胞の阻害剤製品であって、CD111マーカーを自身の標的とする、阻害剤製品にさらに関する。
【0024】
本発明による阻害剤製品は、したがって、CD111分子を自身の特異的標的とする分子であり、CD111分子に結合することによって、PMN-MDSCを認識且つ排除/阻害することができるものである。特に、前記阻害剤製品のCD111との結合によって、PMN-MDSCの抑制性機能の遮断又は細胞自身(PMN-MDSC)の死の誘導を媒介することができる。
【0025】
本発明によると、前記阻害剤製品は、抗CD111モノクローナル抗体、又はCD111タンパク質を選択的に認識することができる構築物で、特に受容体で、遺伝子改変されたエフェクター細胞(例えばT及びNKリンパ球)から選択されてもよい。
【0026】
特に、本発明による腫瘍又は感染性疾患の治療において用いられる阻害剤製品が、CD111を選択的に認識することができるモノクローナル抗体である場合、前記抗体は、2通りのアプローチによって用いることが可能であるという利点を有する。第1のアプローチによると、本発明による前記抗体は、内在性の免疫系を活性化する目的でそれ自体が投与されることが可能である:該抗体の免疫グロブリンの定常部(Fc)は、Fc部に対する受容体を発現する内在性の免疫系細胞(ナチュラルキラー細胞及び単球)によって認識されうる。この特異的認識によって、抗体依存性細胞介在性細胞障害(ADCC)として同定されるプロセスの活性化が確実となる。さらに、該抗体のFcは、補体系によって認識され、CD111陽性細胞のオプソニン化及び排除を誘導することができる。
【0027】
本発明による別の治療アプローチによると、前記抗体のFcフラグメントを、例えば毒素、放射性同位体、又は薬物などの、CD111陽性多形核型の骨髄由来免疫抑制細胞の死を特異的に誘導することができる物質に結合させることができる。この方法では、抗CD111抗体の結合特異性と前記物質の薬理活性とが有利に組み合わせされることになる。したがって、本発明によると、前記阻害剤製品は抗CD111モノクローナル抗体であってもよく、前記抗体、又は、より特には前記抗体のFcフラグメントは、例えば薬物、毒素、又は放射性同位体などの、多形核型の骨髄由来免疫抑制細胞の死を誘導することができる物質に結合される。
【0028】
本発明によると、治療されるべき腫瘍は、固形腫瘍、例えば肺がん及び神経芽細胞腫、又は小児若しくは成人の血液がん、例えば白血病から選択され得る。
【0029】
さらに、本発明は、抗CD111モノクローナル抗体を用いることによって幹細胞を含むアフェレーシス試料中の多形核骨髄由来免疫抑制細胞を排除する工程を含む、幹細胞の移植のための製品を調製する方法に関する。
【0030】
ここで、本発明を、その好ましい一実施形態によって、添付の図面の例及び図への個々の言及とともに、例示ではあるが非限定として説明する。
【実施例】
【0031】
実施例1:PMN-MDSCのマーカーとしてのCD111タンパク質の研究
材料及び方法
精製、単離、及び細胞培養物:
産業財産権法(CPI)の第170条bisに従った公表:実験で使用したヒト由来のすべての生物学的材料は、現行の立法に基づき、そのような採取及び使用に対する、材料を採取される個人のエクスプレスフリー(express free)及びインフォームドコンセントを得て採取され、使用された。(倫理委員会:1. Bambino Gesu Paediatric Hospital照合番号132 28/01/2019;2. 地方保健当局3(Local Health Authority 3)(ASL3、Genoa)コード:N9-13、2013;ID:4975、2020)。
【0032】
アフェレーシス産物又は末梢血は、等量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈(1:1比)した後、密度勾配媒体(フィコール)上に層状に重ねた。このように希釈した血液を、フィコール-パク(Ficoll-Paque)上にゆっくりと層状に重ね、2:1の血液:フィコール容量比を維持した。層状に重ねた試料を、次いで、傾斜ローターを備えた遠心機で、20℃にて400×gで20分間、遠心分離した;減速勾配は最小又は無効に設定した。遠心分離終了時に、相の混合を防ぐよう、試料を静かに遠心機から取り出した。リンパ球及びMDSCの精製のためには、上層(血漿及び血小板を含む)の2/3を界面相(単核細胞を含む)近くまで慎重に吸引し;次いで、リンパ球及びMDSCの層を全部吸引し、新しい試験管に移した。次いで、採取した細胞の層に3容量のリン酸緩衝生理食塩水を加え、20℃にて100×gで10分間、遠心分離し、上清を除去した。この洗浄を2回繰り返した。最後に、細胞ペレットを、もう一度、適用に好適な媒体に懸濁した。続いて、細胞計数を行い、1:1比にて細胞をトリパンブルーで希釈し、次いで自動セルカウンターを使用して細胞計数することによって生存率を評価した。
【0033】
フローサイトメトリー分析
MDSCの同定では、それぞれに異なる表面マーカーに特異的なモノクローナル抗体の混合物を使用して、マルチパラメトリックパネルを設計した。使用した抗体は:CD11b-FITC、HLADR-PE、CD14-ECD、CD33-PC7、CD66-APC、CD3-APC-A700、CD19-APC-A700、CD45-KrO、CD56-BV650、及びCD123-APC-A700であった。マーキングには、500万個/mlの濃度の細胞懸濁液100μlが必須である。この抗体の混合物を細胞に加えた。4℃にて20分間のインキュベーションの後、PBSで洗浄し、マーカーの発現をフローサイトメトリー(Beckman CoulterのCytoflex LX)によって評価した。得られたデータは、続いてFlowJOソフトウエアを使用して解析した。
【0034】
プロテインアトラスによる、CD111をコードするmRNAの発現の解析
CD111発現の評価は、アドレスhttps://www.proteinatlas.org/にてオンラインで入手可能なデータセットを使用して行った。異なるヒト組織及び免疫系の様々な細胞サブセットにおける発現を評価することによって解析した。ヒューマンプロテインアトラス(Human Protein Atlas)の使用は、著作権によって保護されているデータベースの全部分に対し、Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0によって国際的に許諾されている。
【0035】
結果及び考察
CD111マーカーは排他的な方法でPMN-MDSCを同定する
MDSCは、成熟骨髄細胞及び好中球と形態的に似ている。したがって、MDSCを同定するためには、様々な表面マーカーの発現を互いに組み合わせて評価することが必要である。上述のように、先の研究において、MDSCは系列HLA-DRlow/negCD33+CD11b+として同定され;MO-MDSCはCD14+であるのに対し、PMN-MDSCはCD15+CD66b+であることが実証されている(7)。
【0036】
健康なドナーの末梢血(PB)を、PMN-MDSCの存在を評価するために分析した。実証されているように、現在のところ、PMN-MDSCの同定は、密度勾配による末梢血細胞(PBMC)の分別を必要とする。実際に、健康なドナーの末梢血では、異なった細胞集団は、細胞粒度(SSC)及び寸法(FSC)に基づいて識別することができる。
図1Aに示すように、顆粒球は高いSSC値及びFSC値を特徴とし、単球は中間的なSSC値及びFSC値を有するのに対し、T、B、及びNKリンパ球を含むリンパ球はSSC及びFSCが最も低い集団である。しかしながら、PMN-MDSCはまた、好中球の形態と類似した形態を有する。
図1Bは、CD66b
+細胞(好中球)の一部に、CD111を共発現する小集団が含まれることを示している。2つの亜集団(CD66b
+/CD111
-及びCD66b
+/CD111
+)のFSC及びSSCの評価を進めると(
図1B)、両者は同じ形態を示すと推論することができる。
【0037】
続いて、末梢血単核細胞(PBMC)を好中球及び赤血球から分離するために、血液を密度勾配媒体(フィコール)上に層状に重ねた。層状に重ねた後に形成した単核細胞を、PMN-MDSCの存在について分析した。マルチパラメトリックフローサイトメトリーを、単核細胞の試料中のこれらの細胞を同定する目的で使用した。
図1Cに示すように、細胞がPMN-MDSC亜集団に属すという確認を可能とするには、連続的なゲーティング戦略が不可欠である。特に、PMN-MDSCは、リンパ球系統(lin-)のためのマーカー(CD3/56/19/123)
-を発現せず、HLA-DRの発現は低いレベルか又は陰性レベルであるが、CD33
+及びCD11b
+であることを示している。この亜集団の中で、PMN-MDSCはCD66b及びCD15を発現している。最後に、同定されたPMN-MDSCのうちでCD111発現を評価したところ、これらの細胞はすべて、同じ様式で該マーカーを発現することが観察された(
図1D)。したがって、密度勾配上に層状に重ねる工程が非存在の場合、PMN-MDSC及び好中球を顕微鏡法及びフローサイトメトリーによって分析すると両者は同じ形態を有するように見えることから、末梢血でのこれらの細胞の直接的な同定は今まで不可能とされてきた。観察されたことに基づくと(
図1)、末梢血でのCD111発現によって、単核細胞を分離することを必要とせずに、PMN-MDSCをその好中球類似物と区別することが可能となると推論することができる。
【0038】
様々な組織領域におけるCD111発現の評価
CD111抗原の発現が、生理学的及び病的状態下の末梢血に存在するPMN-MDSCの集団に限定されていたことを確認する目的で、mRNA発現レベルに関する情報を提供する、オンラインの無料で入手できるデータベースを使用して、CD111発現の分析を実施した。分析したデータでは、形質細胞様樹状細胞が、CD111をコードするmRNAを発現する唯一の細胞であることが実証されている(
図2B)。しかしながら、形質細胞様樹状細胞は、末梢血の循環細胞のうち1%未満である。さらに、形質細胞様樹状細胞におけるこのCD111をコードするmRNAの発現は非常に低く、mRNAの存在はタンパク質発現の直接的な証拠ではない。末梢血細胞亜集団の大部分に関するデータを含むこのデータベース内で、PMN-MDSCは分析されていなかったことは考慮するに値する。特に、骨髄系カテゴリーに関しては、樹状細胞、単球、及び好中球しか分析されていない。
【0039】
PMN-MDSCに特異的な新規の診断用及び治療用マーカーとしてのCD111
健康なドナー及び腫瘍を有する患者から得た異なる末梢血試料において、PMN-MDSCの存在を分析した。実証されているように、健康なドナーでは、PMN-MDSCの頻度は非常に低く、末梢血の0%~5%の範囲である。この頻度は、G-CSFでの処理後にかなり上昇する。G-CSFは、造血幹細胞を動員するために使用されており、該造血幹細胞は、血液学的新生物(haematological neoplasia)に冒された患者に追って注入されるものである(4)。さらに、肺疾患新生物に冒された患者では、健康なドナーの血液で観察された平均頻度と比較して、PMN-MDSCの増加が観察される(
図3)。
【0040】
CD111発現の評価によって、末梢血試料で直接なされる、迅速且つ直接的なPMN-MDSCの同定が可能となり、疾患経過及び使用される異なる治療アプローチに対する応答に及ぼすPMN-MDSCの影響を研究することが可能となる。実際に、PMN-MDSCがNK細胞及びTリンパ球などの免疫系のリンパ系エフェクター細胞の機能性を激的に抑制することは知られている。さらに、この細胞サブセットを排除するために、CD111を免疫療法の標的として用い、これによって、免疫系のエフェクター細胞の抗腫瘍性機能を回復させることが可能である。
【0041】
(参考文献)
(1) Kumar V, Patel S, Tcyganov E,Gabrilovich DI. The Nature of Myeloid-Derived Suppressor Cells in the TumorMicroenvironment. Trends in immunology 2016;37(3):208-20 doi10.1016/j.it.2016.01.004.
(2) Nagaraj S, Youn JI, Gabrilovich DI.Reciprocal relationship between myeloid-derived suppressor cells and T cells.Journal of immunology 2013;191(1):17-23 doi 10.4049/jimmunol.1300654.
(3) Pawelec G, Verschoor CP,Ostrand-Rosenberg S. Myeloid-Derived Suppressor Cells: Not Only in TumorImmunity. Frontiers in immunology 2019;10:1099 doi10.3389/fimmu.2019.01099.
(4) Tumino N, Besi F, Di Pace AL, Mariotti FR,Merli P, Li Pira G, et al. PMN-MDSC are a new target torescue graft-versus-leukemia activity of NK cells in haplo-HSC transplantation.Leukemia 2020;34(3):932-7 doi 10.1038/s41375-019-0585-7.
(5) Bronte V, Brandau S, Chen SH, ColomboMP, Frey AB, Greten TF, et al. Recommendations for myeloid-derived suppressorcell nomenclature and characterization standards. Naturecommunications 2016;7:12150 doi 10.1038/ncomms12150.
(6) Di Giovine P, Settembre EC, Bhargava AK,Luftig MA, Lou H, Cohen GH, et al. Structure of herpessimplex virus glycoprotein D bound to the human receptor nectin-1. PLoSpathogens 2011;7(9):e1002277 doi 10.1371/journal.ppat.1002277.
【手続補正書】
【提出日】2024-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の多形核骨髄由来免疫抑制細胞を検出するための方法であって、前記細胞のためのマーカーとしてのCD111タンパク質の同定によって前記細胞を検出する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記生体試料が
、末梢血、腹水、
及び滑液
からなる群より選択される液体試料、
並びに新鮮な、パラフィン包埋された、
及び凍結保存された組織生検
からなる群より選択される固形組織から選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
フローサイトメトリー又は免疫組織化学的分析によって行われる、請求項
1又は
2に記載の方法。
【請求項4】
腫瘍又は感染性疾患の治
療のための
組成物であって、前記組成物は多形核骨髄由来免疫抑制細胞の阻害剤製品
を含み、
前記阻害剤製品はCD111マーカーを自身の標的とする、
組成物。
【請求項5】
前記阻害剤製品が、抗CD111モノクローナル抗体、
及びCD111タンパク質を選択的に認識するように構築物で遺伝子改変され
たエフェクター細胞から選択される
、請求項
4に記載の
組成物。
【請求項6】
前記エフェクター細胞が、CD111タンパク質を選択的に認識するように構築物で遺伝子改変された、T及びNKリンパ球から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記阻害剤製品が、抗CD111モノクローナル抗体であり、前記抗体
が多形核型の骨髄由来免疫抑制細胞の死を誘導することができる物質に結合される、請求項
5に記載の
組成物。
【請求項8】
前記物質が、薬物、毒素、及び放射性同位体からなる群より選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記腫瘍が、固形腫瘍
、及び小児
又は成人の血液がん
からなる群より選択される
、請求項
4~8のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項10】
前記固形腫瘍が、肺がん及び神経芽細胞腫からなる群より選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記小児又は成人の血液がんが、白血病である、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
抗CD111モノクローナル抗体を用いることによって幹細胞を含むアフェレーシス試料中の多形核骨髄由来免疫抑制細胞を排除する工程を含む、幹細胞移植のための製品を調製する方法。
【請求項13】
生体試料中の多形核骨髄由来免疫抑制細胞のためのマーカーであって、前記マーカーがCD111タンパク質を含むマーカー。
【請求項14】
前記生体試料が、末梢血、腹水、及び滑液からなる群より選択される液体試料、並びに新鮮な、パラフィン包埋された、及び凍結保存された組織生検からなる群より選択される固形組織から選択される、請求項13に記載のマーカー。
【国際調査報告】