(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-03
(54)【発明の名称】バイオマスからPHAを回収するための方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/625 20220101AFI20240827BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C12P7/625
C12P1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512991
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 US2022040857
(87)【国際公開番号】W WO2023027953
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523348656
【氏名又は名称】ダニマー・アイピーシーオー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レゲット,キャロル・ジー
(72)【発明者】
【氏名】バン・トランプ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】レゲット,トーマス・ケー,ザサード
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD83
4B064CA02
4B064CA21
4B064CC06
4B064CC07
4B064CC15
4B064CE02
4B064CE03
4B064DA16
(57)【要約】
バイオマスからポリヒドロキシアルカノエートを回収するための方法が開示される。方法によれば、エンドヌクレアーゼを添加することによってポリヌクレオチド鎖が切断される。微生物細胞の細胞壁を破壊し、細胞から細胞内ポリヒドロキシアルカノエートを遊離させるために溶解剤が使用される。ペプチダーゼを添加することによってタンパク質も分解される。その後、細胞の細胞デブリからポリヒドロキシアルカノエートが分離される。本開示によれば、この方法は、切断工程、溶解工程、及び分解工程において有機溶媒を使用することなく実施される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内ポリヒドロキシアルカノエートを含む微生物細胞のバイオマスからポリヒドロキシアルカノエートを回収するための方法であって、前記方法が、
(a)エンドヌクレアーゼを前記バイオマスに添加することによって、前記微生物細胞由来のポリヌクレオチド鎖を切断すること、
(b)前記微生物細胞の細胞壁が破壊されて前記微生物細胞から前記細胞内ポリヒドロキシアルカノエートが遊離するように、溶解剤を前記バイオマスに添加することによって、前記バイオマス中の前記微生物細胞を溶解すること、及び
(c)ペプチダーゼを前記バイオマスに添加することによって、前記微生物細胞由来のタンパク質を分解すること
によって前記バイオマスの前記微生物細胞を酵素的に処理する工程と、
前記微生物細胞の細胞デブリからポリヒドロキシアルカノエートを分離する工程と、
を含み、
前記方法が、前記切断工程、前記溶解工程、及び前記分解工程において有機溶媒を使用することなく実施される、前記方法。
【請求項2】
前記エンドヌクレアーゼがデオキシリボヌクレアーゼを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エンドヌクレアーゼがリボヌクレアーゼを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶解剤が、リゾチーム、ブロメライン、パパイン、トリプシン、及びそれらの混合物からなる群から選択される作用物質を、前記バイオマスの体積に基づいて0.01mg/L~8g/Lの量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶解剤が、非イオン性サーファクタント及び界面活性剤をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶解工程が、20分~24時間の時間、20℃~70℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチダーゼが、セリンプロテアーゼ、中性メタロプロテイナーゼ、システインプロテアーゼ、及びそれらの混合物からなる群から選択されるプロテアーゼを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質分解工程が、20分~24時間の時間、30℃~65℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記微生物細胞が細菌細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記微生物細胞を電磁放射線に曝露することによって前記バイオマス中の前記細胞を不活性化する工程を、前記切断工程の前にさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも2分の時間少なくとも50℃の温度に前記バイオマスを加熱するのに十分な量の赤外線エネルギーに、前記微生物細胞を曝露することによって、前記バイオマス中の前記細胞を不活性化する工程を、前記切断工程の前にさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記バイオマスに蒸気を注入することによって前記バイオマス中の前記微生物細胞を不活性化する工程を、前記切断工程の前にさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
(a)6.0未満のバイオマスpHを確立するのに十分な量で1つ以上の酸を前記バイオマスに添加すること、または(b)8.0超のバイオマスpHを確立するのに十分な量で1つ以上の塩基を前記バイオマスに添加すること、のいずれかによって前記バイオマス中の前記微生物細胞を不活性化する工程を、前記切断工程の前にさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記バイオマスに酸化剤を添加することによって、前記微生物細胞由来の前記ポリヒドロキシアルカノエートを漂白する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞デブリ由来の前記ポリヒドロキシアルカノエートの前記分離が、ろ過または遠心分離によって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質分解工程の前、間または後に、界面活性剤を前記バイオマス混合物に添加することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記エンドヌクレアーゼが、前記溶解剤を前記バイオマスに添加する前に前記バイオマスに添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記エンドヌクレアーゼ及び前記溶解剤が、同時に前記バイオマスに添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記溶解剤が、前記ペプチダーゼを前記バイオマスに添加する前に前記バイオマスに添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記溶解剤及び前記ペプチダーゼが、同時に前記バイオマスに添加される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月23日出願の仮出願63/235,853の先の出願日の利益を主張するものであり、当該仮出願の開示は、その全体が参照によって組み込まれる。
【0002】
本開示は、生分解性ポリマー組成物に関する。より具体的には、本開示は、微生物細胞のバイオマスからポリヒドロキシアルカノエートを回収するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の石油ベースのポリマーと関連する環境への懸念に起因して、生物起源及び/または生分解性である代替ポリマーへの関心が高まっている。生物起源であり、かつ生分解性でもあるクラスの1つのポリマーはポリヒドロキシアルカノエートである。ポリヒドロキシアルカノエートは、典型的には、バイオリアクターにおける細菌または他の微生物のバイオマスの発酵によって生産される。ポリヒドロキシアルカノエートは、微生物の細胞によって合成され、その中に蓄積する。使用のためのポリヒドロキシアルカノエートを回収するには、微生物の細胞を溶解しなくてはならず、さらに、その後に溶解細胞材料からポリヒドロキシアルカノエートを抽出しなくてはならない。
【0004】
従来、このポリヒドロキシアルカノエート抽出プロセスにおいては有機溶媒が使用されてきた。そのような溶媒を用いれば、ポリヒドロキシアルカノエート産物の単離には成功するものの、ひいては、溶媒がさらなる難問を招く。例えば、有機溶媒は、それ自体が健康上、安全上、または環境上の懸念を生じさせ得る。したがって、有機溶媒は、特別な回収方法及び処分方法を必要とし得る。それらは、産物汚染も引き起こし得る。
【0005】
したがって、危険な有機溶媒の使用を回避し、それ故に環境により優しく、特別な処分措置を必要としないバイオマス由来ポリヒドロキシアルカノエートの代替抽出方法を提供することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様では、本開示は、細胞内ポリヒドロキシアルカノエートを含む微生物細胞のバイオマスからポリヒドロキシアルカノエートを回収するための方法を提供する。一実施形態によれば、方法は、(a)エンドヌクレアーゼをバイオマスに添加することによって微生物細胞由来のポリヌクレオチド鎖を切断すること、(b)微生物細胞の細胞壁が破壊され、微生物細胞から細胞内ポリヒドロキシアルカノエートが遊離するように溶解剤をバイオマスに添加することによってバイオマス中の微生物細胞を溶解すること、及び(c)ペプチダーゼをバイオマスに添加することによって微生物細胞由来のタンパク質を分解すること、によってバイオマスの微生物細胞を酵素的に処理する工程を含む。その後、微生物細胞の細胞デブリからポリヒドロキシアルカノエートが分離される。重要なことに、本開示によれば、この方法は、切断工程、溶解工程、及び分解工程において有機溶媒を使用することなく実施される。
【0007】
ある特定の実施形態によれば、エンドヌクレアーゼは、好ましくは、デオキシリボヌクレアーゼである。ある特定の他の実施形態では、エンドヌクレアーゼは、好ましくは、リボヌクレアーゼである。
【0008】
いくつかの実施形態では、溶解剤は、好ましくは、リゾチーム、ブロメライン、パパイン、トリプシン、及びそれらの混合物からなる群から選択される作用物質を含む。より好ましくは、溶解剤は、リゾチームを含む。溶解剤は、好ましくは、バイオマスの体積に基づいて約0.01mg/L~約8g/Lの量、好ましくは、約0.01mg/L~約2g/Lの量で存在する。さらに、ある特定の実施形態では、溶解剤は、好ましくは、非イオン性サーファクタント及び界面活性剤も含む。
【0009】
場合によっては、溶解工程は、好ましくは、約20分~約24時間の時間、約20℃~約70℃の温度で実施される。
【0010】
ある特定の実施形態では、ペプチダーゼは、好ましくは、セリンプロテアーゼ、中性メタロプロテイナーゼ、システインプロテアーゼ、及びそれらの混合物からなる群から選択されるプロテアーゼを含む。また、ある特定の実施形態によれば、タンパク質分解工程は、好ましくは、約20分~約24時間の時間、約30℃~約65℃の温度で実施される。
【0011】
ある特定の実施形態では、微生物細胞は、好ましくは、細菌細胞である。より好ましくは、微生物細胞は、Ralstonia属、Bacillus属、Escherchia属、Cupriavidus属、Alcaligenes属、Wausteria属、Aeromonas属、及びPseudomonas属からなる群から選択される少なくとも1つの細菌種を含む。特に好ましい種は、E.coliである。
【0012】
場合によっては、方法は、酵素処理前に、バイオマス中の微生物細胞を不活性化する追加の工程も含む。この不活性化は、さまざまな手段で実施され得る。例えば、一実施形態では、細胞は、電磁放射線に細胞を曝露することによって不活性化され得る。代替的には、別の実施形態では、細胞は、少なくとも2分の時間、少なくとも50℃の温度にバイオマスを加熱する上で十分な量の赤外線エネルギーに細胞を曝露することによって不活性化され得る。
【0013】
第3の実施形態では、細胞は、バイオマスに蒸気を注入することによって不活性化され得る。さらに別の実施形態では、細胞は、(a)約6.0未満のバイオマスpHを確立する上で十分な量で1つ以上の酸をバイオマスに添加すること、または(b)約8.0超のバイオマスpHを確立する上で十分な量で1つ以上の塩基をバイオマスに添加すること、または(c)バイオマスを高圧(せん断)均質化すること、のいずれかによって不活性化され得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、方法は、酸化剤(好ましくは、酸化漂白剤)をバイオマスに添加することによって微生物細胞由来のポリヒドロキシアルカノエートを漂白する追加の工程も含む。
【0015】
ある特定の実施形態によれば、ポリヒドロキシアルカノエートを細胞デブリから分離する工程は、好ましくは、ろ過または遠心分離によって実施される。
【0016】
ある特定の実施形態では、タンパク質分解工程の前、間、または直後に界面活性剤をバイオマス混合物に添加することも好ましい。界面活性剤は、イオン性または非イオン性であり得る。場合によっては、陰イオン性界面活性剤が好ましくあり得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、好ましくは、溶解剤をバイオマスに添加する前にバイオマスに添加される。他の実施形態では、エンドヌクレアーゼ及び溶解剤は、好ましくは、同時にバイオマスに添加される。
【0018】
また、ある特定の実施形態では、溶解剤は、好ましくは、ペプチダーゼをバイオマスに添加する前にバイオマスに添加される。他の実施形態では、溶解剤及びペプチダーゼは、好ましくは、同時にバイオマスに添加される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の態様では、本開示は、細胞内ポリヒドロキシアルカノエートを含む微生物細胞のバイオマスからポリヒドロキシアルカノエートを回収するための方法を提供する。
【0020】
ポリヒドロキシアルカノエートは、生物起源であり、かつ生分解性でもあるクラスのポリマーであり、さまざまな用途において商業的関心を集めている。場合によっては、本開示に従って回収されるポリヒドロキシアルカノエートは、ポリヒドロキシブチレートなどのホモポリマーで構成されているものであり得る。他の場合では、ポリヒドロキシアルカノエートは、異なるヒドロキシアルカノエートモノマーから形成されるコポリマー、またはさらにはターポリマーで構成されているものである。
【0021】
例えば、いくつかの実施形態では、ポリヒドロキシアルカノエートは、約75~約99.9モルパーセントが3-ヒドロキシブチレートのモノマー反復単位で構成されており、約0.1~約25モルパーセントが、5~12個の炭素原子を有する第2のヒドキシアルカノエート(ヒドロキシヘキサノエート、ヒドロキシオクタノエート、ヒドロキシデカノエート、ヒドロキシドデカノエート、またはヒドロキシテトラデカノエートなど)のモノマー反復単位で構成されているコポリマーであり得る。より好ましくは、第2のヒドキシアルカノエートは、3-ヒドロキシヘキサノエートである。
【0022】
他の実施形態では、ポリヒドロキシアルカノエートは、約75~約99.9モルパーセントが3-ヒドロキシブチレートのモノマー反復単位で構成されており、約0.1~約25モルパーセントが3-ヒドロキシヘキサノエートのモノマー反復単位で構成されており、約0.1~約25モルパーセントが、5~12個の炭素原子を有する第3の3-ヒドキシアルカノエートのモノマー反復単位で構成されているターポリマーであり得る。
【0023】
ポリヒドロキシアルカノエートは、典型的には、バイオリアクターにおいて微生物のバイオマスの発酵によって産生される。ある特定の実施形態では、微生物細胞は、好ましくは、細菌細胞である。より好ましくは、微生物は、Ralstonia属、Bacillus属、Escherchia属、Cupriavidus属、Alcaligenes属、Wausteria属、Aeromonas属、及びPseudomonas属からなる群から選択される少なくとも1つの細菌種を含む。特に好ましい種は、E.coliである。
【0024】
他の実施形態では、微生物は、Rhodococcus属の種、Bacillus属の種、Cupriavidus属の種、Aeromonas属の種、Pseudomonas属の種、Ralstonia属の種、Alcaligenes属の種、Wausteria属の種、Azotobacter属の種、Halococcus属の種、Halorubrum属の種、Halopiger属の種、Haloarcula属の種、Halomonas属の種、Haloferax属の種、Halostagnicola属の種、Haloterrigena、Halobiforma属の種、Halobacterium属の種、Natrinema属の種、Natronobacterium属の種、Natronococcus属の種、Halogranum属の種、Burkholderia属の種、Thiococcus属の種、Sinorhizobium属の種、Methylobacterium属の種、Zobellella属の種、Clostridium属の種、Salmonella属の種、Chloroflexus属の種、Shimwellia属の種、Klebsiella属の種、Azohydromonas属の種、Vibrio属の種からなる群から選択される少なくとも1つの種を含む。
【0025】
ポリヒドロキシアルカノエートは、微生物の細胞によって合成され、その中に蓄積する。したがって、使用のためのポリヒドロキシアルカノエートを回収するには、微生物の細胞を溶解しなくてはならず、さらに、その後に溶解細胞材料からポリヒドロキシアルカノエートを抽出しなくてはならない。
【0026】
本開示のいくつかの実施形態では、方法は、他のいずれの回収工程よりも前にバイオマス中の微生物細胞を不活性化する最初の工程を含むことになる。バイオマス細胞の不活性化は、さまざまな手段で実施され得る。
【0027】
例えば、バイオマス細胞は、細胞を不活性化する上で十分な時間、電磁放射線(ガンマ線、X線、紫外線、または赤外線など)に細胞を曝露することによって不活性化され得る。典型的には、これは、約10秒~約30分の範囲となる。場合によっては、バイオマス細胞は、少なくとも2分の時間、少なくとも50℃の温度にバイオマスを加熱する上で十分な量の赤外線エネルギーに細胞を曝露することによって不活性化され得る。
【0028】
代替の実施形態では、細胞は、バイオマスに蒸気を注入することによって不活性化され得る。さらに別の実施形態では、細胞は、(a)約6.0未満のバイオマスpHを確立する上で十分な量で1つ以上の酸をバイオマスに添加すること、または(b)約8.0超のバイオマスpHを確立する上で十分な量で1つ以上の塩基をバイオマスに添加すること、または(c)バイオマスを高圧(せん断)均質化すること、のいずれかによって不活性化され得る。
【0029】
いずれかの細胞不活性化工程の後、方法は、バイオマスの微生物細胞を酵素的に処理する工程を含む。この酵素処理は、少なくとも3つのパートを含む:(a)エンドヌクレアーゼをバイオマスに添加することによって微生物細胞由来のポリヌクレオチド鎖を切断するパート、(b)微生物細胞の細胞壁が破壊され、微生物細胞から細胞内ポリヒドロキシアルカノエートが遊離するように溶解剤をバイオマスに添加することによってバイオマス中の微生物細胞を溶解するパート、及び(c)ペプチダーゼをバイオマスに添加することによって微生物細胞由来のタンパク質を分解するパート。
【0030】
一般に、3つの前述の酵素処理パート(すなわち、ポリヌクレオチド鎖の切断、細胞の溶解、及びタンパク質の分解)は、本開示の方法に従って任意の順序で実施され得ると考えられる。実際は、場合によっては、これらの酵素処理パートのうちの2つまたはさらには3つすべてが同時に実施され得る。
【0031】
例えば、本開示のある特定の実施形態によれば、エンドヌクレアーゼは、溶解剤をバイオマスに添加する前にバイオマスに添加され得る。一方で、他の実施形態では、エンドヌクレアーゼ及び溶解剤は、同時にバイオマスに添加され得る。
【0032】
また、本開示のある特定の実施形態によれば、溶解剤は、ペプチダーゼをバイオマスに添加する前にバイオマスに添加され得る。一方で、他の実施形態では、溶解剤及びペプチダーゼは、同時にバイオマスに添加され得る。
【0033】
本開示のある特定の実施形態では、エンドヌクレアーゼ添加が最初に実施され、次いで溶解剤添加、次いでペプチダーゼ添加が実施され得る。
【0034】
繰り返しになるが、本方法の酵素処理は、エンドヌクレアーゼをバイオマスに添加することによって微生物細胞由来のポリヌクレオチド鎖を切断する工程を含む。
【0035】
本発明者らは、従来のポリヒドロキシアルカノエート回収方法では、実質的に完全な細胞ポリヌクレオチド鎖が細胞から遊離することでバイオマス混合物の粘度が劇的に上昇することを見出している。こうした高粘度は、ポリヒドロキシアルカノエートの回収を一層難しくするものである。しかしながら、プロセス中のこの時点でエンドヌクレアーゼを添加してポリヌクレオチド鎖をより小さな断片へと切断することによって、バイオマス混合物の粘度低下が維持され、それによってポリヒドロキシアルカノエートの回収が容易になり得ることを本発明者らは見出している。
【0036】
場合によっては、このエンドヌクレアーゼは、デオキシリボヌクレアーゼ(エンドデオキシリボヌクレアーゼ、エキソデオキシリボヌクレアーゼ、またはミクロコッカスヌクレアーゼなど)であり得る。代替的には、エンドヌクレアーゼは、リボヌクレアーゼ(エンドリボヌクレアーゼまたはエキソリボヌクレアーゼなど)であり得る。さらに、いくつかの実施形態では、切断工程において複数のデオキシリボヌクレアーゼ、または複数のリボヌクレアーゼ、またはデオキシリボヌクレアーゼとリボヌクレアーゼとの組み合わせが使用され得る。
【0037】
典型的には、切断工程は、いずれの有機溶媒も用いずに水性混合物においてエンドヌクレアーゼ(複数可)を細胞のバイオマスと混合することによって実施される。エンドヌクレアーゼ(複数可)は、典型的には、処理されているバイオマスの重量に基づいて約0.001マイクログラム/グラム~約5ミリグラム/グラムの量で添加される。
【0038】
混合物中の総固形含量を調整するために水も混合物に添加され得る。一般に、総固形含量は、約1~約30重量パーセントであり、好ましくは、約5~約25重量パーセントであり、より好ましくは、約10~約15重量パーセントである。
【0039】
一般に、バイオマス及びエンドヌクレアーゼ(複数可)は、約30℃~約60℃の温度で約20分~約24時間の時間、混合及び撹拌され、その時間の間に、エンドヌクレアーゼ(複数可)は、微生物細胞由来のポリヌクレオチド鎖を酵素的に切断する。好都合には、この工程は、バイオマスが最初に発酵されたものと同じバイオリアクターにおいて実施されるか、または別の適切なリアクターもしくは混合容器において実施され得る。
【0040】
本開示の酵素処理は、溶解工程も含む。この工程の間、微生物細胞の細胞壁が破壊され、微生物細胞から細胞内ポリヒドロキシアルカノエートが遊離するように溶解剤がバイオマスに添加される。
【0041】
いくつかの実施形態では、溶解剤は、N-アセチル-ムラミドグリカンヒドロラーゼを含む。好ましくは、溶解剤は、ムラミダーゼ(リゾチーム、アミダーゼ、グルコサミニダーゼ、溶解性トランスグリコシラーゼ、及びペプチドグリカンヒドロラーゼなど)を含む。他の実施形態では、溶解剤は、ブロメライン、パパイン、及び/またはトリプシンであり得る。より好ましくは、溶解剤は、バイオマスの体積に基づいて約0.01mg/L~約8g/Lの量の、リゾチーム、ブロメライン、パパイン、トリプシン、及びそれらの混合物からなる群から選択される作用物質である。さらにより好ましくは、溶解剤は、リゾチームである。また、溶解剤の量は、より好ましくは、バイオマスの体積に基づいて約0.01g/L~約2g/Lである。
【0042】
場合によっては、溶解剤は、細胞膜分解を向上させるための非イオン性サーファクタント及び/または界面活性剤も含み得る。例えば、溶解剤は、非イオン性サーファクタント(ポリエチレングリコール及び/もしくはポリプロピレングリコールのポリマーまたは多価酸など)を、典型的には、バイオマスの重量に基づいて約0.01重量パーセント~約2重量パーセントの量で含み得る。溶解剤は、界面活性剤(ポリソルベート(例えば、Tween20またはTween80)、Triton、エトキシル化アルコール(例えば、Tergitol)など)を、典型的には、バイオマスの重量に基づいて約0.01重量パーセント~約5重量パーセントの量で含み得る。
【0043】
一般に、溶解は、いずれの有機溶媒も用いずに水性混合物において溶解剤を細胞のバイオマスと混合することによって実施される。バイオマス及び溶解剤は、典型的には、約20℃~約70℃の温度で約20分~約24時間、好ましくは、約2~4時間の時間、混合及び撹拌される。好ましくは、温度は、約30℃~約65℃であり、より好ましくは、約37℃~約60℃である。この時間の間、溶解剤は、微生物細胞の細胞壁が酵素的に破壊され、微生物細胞から細胞内ポリヒドロキシアルカノエートが遊離するように作用する。
【0044】
切断工程と同様に、この工程は、バイオマスが最初に発酵されたものと同じバイオリアクターにおいて実施されるか、または別の適切なリアクターもしくは混合容器において実施され得る。
【0045】
本開示の酵素処理は、タンパク質分解工程も含む。この工程の間、微生物細胞由来のタンパク質を分解するためにペプチダーゼがバイオマスに添加される。
【0046】
上に論じられるポリヌクレオチド鎖と同様に、大きなタンパク質構造がバイオマス細胞から遊離することでもバイオマス混合物の粘度が大幅に上昇し、それによってポリヒドロキシアルカノエートの回収が一層難しくなることを本発明者らは見出している。ペプチダーゼを添加して細胞由来のタンパク質をより小さな断片へと分解することによって、バイオマス混合物の粘度低下が維持され、それによってポリヒドロキシアルカノエートの回収が容易になり得ることを本発明者らは見出している。
【0047】
ある特定の実施形態では、ペプチダーゼは、セリンプロテアーゼ、中性メタロプロテイナーゼ、システインプロテアーゼ、及びそれらの混合物からなる群から選択されるプロテアーゼを含み得る。ペプチダーゼの組み合わせも使用され得る。典型的には、タンパク質分解工程は、いずれの有機溶媒も用いずに水性混合物においてペプチダーゼ(複数可)を細胞のバイオマスと混合することによって実施される。ペプチダーゼ(複数可)は、典型的には、処理されているバイオマスの重量に基づいて約0.01重量パーセント~約5重量パーセントの量で添加される。
【0048】
場合によっては、タンパク質分解工程の間または直前もしくは直後にバイオマス混合物に界面活性剤が添加される。界面活性剤は、イオン性または非イオン性であり得る。場合によっては、陰イオン性界面活性剤が好ましくあり得る。例えば、適切な界面活性剤は、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート、ポリエチレングリコールソルビタンモノオレエート、ポリエチレングリコールソルビタンモノステアレート、ポリエチレングリコールソルビタンパルミテート、第2級エトキシル化アルコール、ポリエチレンtert-オクチルフェニルエーテル、またはラウリル硫酸ナトリウムを、典型的には、バイオマスの重量に基づいて約0.01%~約10%重量パーセントの量で含み得る。
【0049】
一般に、バイオマス及びペプチダーゼ(複数可)は、約30℃~約65℃、好ましくは約50℃~約60℃、より好ましくは、約57℃~約58℃の温度で約20分~約24時間、好ましくは、約2~約4時間の時間、混合及び撹拌され、その時間の間に、ペプチダーゼ(複数可)は、微生物細胞由来のポリペプチド鎖を酵素的に切断する。先の工程と同様に、この工程は、バイオマスが最初に発酵されたものと同じバイオリアクターにおいて実施されるか、または別の適切なリアクターもしくは混合容器において実施され得る。
【0050】
タンパク質分解後、ポリヒドロキシアルカノエートは、微生物細胞の細胞デブリから物理的に分離される。この分離は、さまざまな分離手法によって実施され得る。例えば、分離は、プレート及びフレーム式フィルタープレスを使用するろ過、またはタンジェンシャルフローろ過、または遠心分離によって実施され得る。
【0051】
物理的分離の前に、サーファクタント、好ましくは、非イオン性サーファクタントが任意選択でバイオマス混合物に添加され得る。サーファクタントは、細胞デブリを凝集させ且つ残存細胞デブリからのポリヒドロキシアルカノエートの分離を容易にする、ミセルの形成を促進する。
【0052】
任意選択で、ポリヒドロキシアルカノエートはポリヒドロキシアルカノエートの脱臭及び白色化を行うために、酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、過酢酸、またはオゾンなど、より好ましくは、過酸化水素)を用いて漂白され得る。典型的には、この工程は、タンパク質分解工程の後、かつ分離工程の前に酸化剤をバイオマスと混合することによって実施される。
【0053】
また、ポリヒドロキシアルカノエートは、ろ過または他の物理的分離の後に、任意選択で最終洗浄工程において処理され得る。洗浄工程は、ろ過の完了後にフィルタープレス上のフィルターケーキ中または分離タンク中にポリヒドロキシアルカノエートが依然として存在する間、実施され得る。洗浄混合物には、水単独及び/または水と脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、もしくはイソプロパノールなど)との混合物が含まれ得る。
【0054】
本開示は、下記の実施形態によってもさらに例示される。
【0055】
実施形態1
細胞内ポリヒドロキシアルカノエートを含む微生物細胞のバイオマスからポリヒドロキシアルカノエートを回収するための方法であって、前記方法が、
(a)エンドヌクレアーゼを前記バイオマスに添加することによって前記微生物細胞由来のポリヌクレオチド鎖を切断すること、
(b)前記微生物細胞の細胞壁が破壊され、前記微生物細胞から前記細胞内ポリヒドロキシアルカノエートが遊離するように溶解剤を前記バイオマスに添加することによって前記バイオマス中の前記微生物細胞を溶解すること、及び
(c)ペプチダーゼを前記バイオマスに添加することによって前記微生物細胞由来のタンパク質を分解すること
によって前記バイオマスの前記微生物細胞を酵素的に処理する工程と、
前記微生物細胞の細胞デブリからポリヒドロキシアルカノエートを分離する工程と、
を含み、
前記方法が、前記切断工程、前記溶解工程、及び前記分解工程において有機溶媒を使用することなく実施される、前記方法。
【0056】
実施形態2
前記エンドヌクレアーゼがデオキシリボヌクレアーゼを含む、実施形態1に記載の方法。
【0057】
実施形態3
前記エンドヌクレアーゼがリボヌクレアーゼを含む、実施形態1に記載の方法。
【0058】
実施形態4
前記溶解剤が、リゾチーム、ブロメライン、パパイン、トリプシン、及びそれらの混合物からなる群から選択される作用物質を、前記バイオマスの体積に基づいて約0.01mg/L~約8g/Lの量で含む、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0059】
実施形態5
前記溶解剤が、非イオン性サーファクタント及び界面活性剤をさらに含む、実施形態4に記載の方法。
【0060】
実施形態6
前記溶解工程が、約20分~約24時間の時間、約20℃~約70℃の温度で実施される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0061】
実施形態7
前記ペプチダーゼが、セリンプロテアーゼ、中性メタロプロテイナーゼ、システインプロテアーゼ、及びそれらの混合物からなる群から選択されるプロテアーゼを含む、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0062】
実施形態8
前記タンパク質分解工程が、約20分~約24時間の時間、約30℃~約65℃の温度で実施される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0063】
実施形態9
前記微生物細胞が細菌細胞である、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0064】
実施形態10
前記微生物細胞を電磁放射線に曝露することによって前記バイオマス中の前記細胞を不活性化する工程を、前記切断工程の前にさらに含む、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0065】
実施形態11
少なくとも2分の時間、少なくとも50℃の温度に前記バイオマスを加熱する上で十分な量の赤外線エネルギーに前記微生物細胞を曝露することによって前記バイオマス中の前記細胞を不活性化する工程を、前記切断工程の前にさらに含む、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
【0066】
実施形態12
前記バイオマスに蒸気を注入することによって前記バイオマス中の前記微生物細胞を不活性化する工程を、前記切断工程の前にさらに含む、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
【0067】
実施形態13
(a)約6.0未満のバイオマスpHを確立する上で十分な量で1つ以上の酸を前記バイオマスに添加すること、または(b)約8.0超のバイオマスpHを確立する上で十分な量で1つ以上の塩基を前記バイオマスに添加すること、のいずれかによって前記バイオマス中の前記微生物細胞を不活性化する工程を、前記切断工程の前にさらに含む、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
【0068】
実施形態14
前記バイオマスに酸化剤を添加することによって前記微生物細胞由来の前記ポリヒドロキシアルカノエートを漂白する工程をさらに含む、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0069】
実施形態15
前記細胞デブリ由来の前記ポリヒドロキシアルカノエートの前記分離が、ろ過または遠心分離によって実施される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0070】
実施形態16
前記タンパク質分解工程の前、間、または後に界面活性剤を前記バイオマス混合物に添加することをさらに含む、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0071】
実施形態17
前記エンドヌクレアーゼが、前記溶解剤を前記バイオマスに添加する前に前記バイオマスに添加される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0072】
実施形態18
前記エンドヌクレアーゼ及び前記溶解剤が、同時に前記バイオマスに添加される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0073】
実施形態19
前記溶解剤が、前記ペプチダーゼを前記バイオマスに添加する前に前記バイオマスに添加される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0074】
実施形態20
前記溶解剤及び前記ペプチダーゼが、同時に前記バイオマスに添加される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【実施例】
【0075】
下記の非限定的な実施例は、本発明のさまざまな追加の態様を例示するものである。別段の指定がない限り、温度はセ氏温度でのものであり、パーセントは、調製物の乾燥重量に基づく重量によるものである。
【0076】
実施例1:
この実施例では、発酵槽由来のE.Coli細胞の水性ブロスで構成されるバイオマスを酵素的に処理して、バイオマス細胞からポリアルカノエートを抽出した。処理したバイオマスブロスの総体積は約100mLであり、その乾燥固形含量は約15重量パーセントであった。
【0077】
抽出プロセスは、約50rpmで穏やかに撹拌しながら約37℃の初期温度で発酵槽において実施した。第1の添加工程では、下記の化学物質をバイオマスブロスに添加した。
【表1】
【0078】
2つのサーファクタント、ポリヌクレオチド鎖を切断するためのエンドヌクレアーゼ(C-Lecta Denarase)、及び溶解剤(リゾチーム)を添加物に含めてバイオマス中の細胞壁を破壊した。この化学物質添加の後、温度を約37℃、pHを約6.2に維持しながらバイオマスブロスを60分間撹拌してエンドヌクレアーゼ及びリゾチームが、それぞれポリヌクレオチド鎖及び細胞壁を壊せるようにした。
【0079】
次に、バイオマス混合物の温度を約60℃に上昇させ、第2の化学物質添加を実施した。この第2の添加工程では、下記の化学物質をバイオマスブロスに添加した。
【表2】
【0080】
この添加の後、温度を約60℃に維持しながらバイオマスブロスをさらに60分間撹拌して、プロテアーゼがバイオマスの細胞由来のタンパク質を壊せるようにした。
【0081】
次に、第3の化学物質添加を実施し、ここでは、3.69グラムの過酸化水素をバイオマス混合物に添加した。この添加の後、温度を約58℃に維持しながらバイオマスブロスをさらに240分間撹拌して過酸化水素が混合物を漂白できるようにし、その結果、その色及び臭いが改善した。
【0082】
最終的に、ろ過によってバイオマスの残りからポリアルカノエートを分離した。
【0083】
本発明に好ましい実施形態についての前述の説明は、例示及び説明を目的として示されている。それらは、包括的であること、または本発明を開示の詳細形態に限定することを意図するものではない。上記の教示を踏まえれば、自明の改変または変形が可能である。実施形態は、本発明の原理及びその実用的な用途の最良な例示を提供し、それによって当業者がさまざまな実施形態において本発明を利用できるようにするための努力の中で選択及び説明されており、企図される具体的な使用に適するようにさまざまな改変が施される。そのような改変及び変形はすべて、それらが公平に、法的に、かつ公正に権利が付与される広がりに従って解釈される場合、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲に含まれる。
【国際調査報告】