(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-03
(54)【発明の名称】FGF21変異タンパク質及びその応用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/50 20060101AFI20240827BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240827BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240827BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240827BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240827BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240827BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240827BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240827BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240827BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240827BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240827BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C07K14/50 ZNA
C12N15/12
C12N15/09 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
A61P3/10
A61P3/06
A61P3/04
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513063
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 CN2022110072
(87)【国際公開番号】W WO2023035817
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】202111048898.6
(32)【優先日】2021-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522118506
【氏名又は名称】リートー ラボラトリーズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LETO LABORATORIES CO., LTD
【住所又は居所原語表記】Building 4, Beilun Industrial Park, 9 North Yongteng Road, Haidian District Beijing 100094 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】ガオ シァン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ジェンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ユィ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA701
4C084ZA702
4C084ZC331
4C084ZC332
4C084ZC351
4C084ZC352
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA27
4H045FA74
4H045GA23
4H045GA25
(57)【要約】
本発明はFGF21変異タンパク質及びその応用を提供する。該変異タンパク質は野生型ヒトFGF21配列に基づいていくつかの変更を有する:171位のプロリン残基が欠失、又は一つ又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失、又は添加により171位のプロリン残基の前後に一対のジスルフィド結合を形成する。本発明のFGF21変異タンパク質は、線維芽細胞活性化プロテアーゼ(FAP)がそのC末端に対する酵素切断分解を抵抗することができ、C末端がβ-klotho受容体と結合する活性を保持し、それによりその体内半減期と薬効を延長することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF21変異タンパク質であって、
野生型ヒトFGF21配列に基づいて以下のa又はbの変更を有するアミノ酸配列を含み、
a.171位のプロリン残基を削除し、
b.1つ又は複数のアミノ酸残基の置換、削除、又は添加により、171位のプロリン残基又はその前後に一対のジスルフィド結合を形成する、ことを特徴とするFGF21変異タンパク質。
【請求項2】
SEQ ID NO:4、10、16、及び22で示されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項3】
171位のプロリン残基の前後三つの部位以内に置換及び/又は添加によって二つのシステイン残基を導入する、ことを特徴とする請求項1に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項4】
ジスルフィド結合を形成する二つのシステイン残基の間は、1個、2個、又は3個のアミノ酸で隔てる、ことを特徴とする請求項3に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項5】
置換されたシステイン残基又は導入されたシステイン残基の二つの部位の間は、1個、2個、又は3個のアミノ酸で隔て、或いは置換されたシステイン残基又は導入されたシステイン残基の二つの部位の間は、アミノ酸残基を添加する方式によって1個、2個、又は3個のアミノ酸で隔てる、ことを特徴とする請求項4に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項6】
a、171位の前の三つの部位以内に一つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換え、
b、171位の後の三つの部位以内に一つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換え、
c、171位と、171位の前のシステイン残基に置換する部位との間に一又は二個のアミノ酸残基を添加し、及び/又は171位と、171位の後のシステイン残基に置換する部位との間に一又は二個のアミノ酸残基を添加する、ことを特徴とする請求項3に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項7】
添加された前記一つ又は二つのアミノ酸残基は、グリシン、アラニン、又はセリンから選択される、ことを特徴とする請求項6に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項8】
a、170Gを170Cに置き換え、
b、172Sを172Cに置き換え、
c、171Pと172Cとの間に一つ又は二つのアミノ酸残基を挿入する、ことを特徴とする請求項6に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項9】
SEQ ID NO:5、6、7、8、9、11、12、13、14、15、17、18、19、20、21、23、24、25、26、及び27で示されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、ことを特徴とする請求項3に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項10】
171位のプロリン残基を置換し、またその近傍部位の一つ又は複数のアミノ酸残基を置換、削除、又は添加した後、171位及びその近傍部位の間にジスルフィド結合を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項11】
121Nを121Qに、168Mを168Lに置き換え、
及び/又は、野生型ヒトFGF21配列の第一位のヒスチジン残基の前に、1つのアラニン残基、グリシン残基、又はセリン残基を添加する、ことを特徴とする請求項1に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項12】
さらに化学修飾を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のFGF21変異タンパク質。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のFGF21変異タンパク質をコードする、ことを特徴とする核酸分子。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸分子を含む、ことを特徴とする担体。
【請求項15】
請求項14に記載の担体を含む、ことを特徴とする遺伝子操作された細胞。
【請求項16】
薬物組成物であって、
請求項1~12のいずれか一項に記載のFGF21変異タンパク質及び薬学的に許容される賦形剤を含む、ことを特徴とする薬物組成物。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか一項に記載のFGF21変異タンパク質又は請求項16に記載の薬物組成物が血糖、血中脂質の制御及び体重の低減における応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はFGF21変異タンパク質及びその応用に関し、バイオ技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
ヒト線維芽細胞増殖因子21(Fibroblast growth factor 21,FGF21)は209個のアミノ酸で構成されるポリペプチドであり、そのうちFGF21タンパク質のN末端に28個のアミノ酸で構成されるシグナルペプチドを含み、そのためシグナルペプチドに剪断された後に形成された成熟FGF21は181個のアミノ酸で構成される(SEQ ID NO:1)。
【0003】
FGF21は、肝臓、膵臓、脂肪組織など、ヒトの様々な臓器や組織において発現する。人体において、FGF21は血液循環に分泌し、且つ肝臓、膵臓及び脂肪組織における複数種類の信号通路及び機能活動を誘導することができ、さらに糖脂質代謝の調節及び膵島β細胞を保護する生理機能を実現する。研究により、食事誘導又は遺伝子操作により生成された肥満マウスにおいて、FGF21タンパク質を注射することによりマウスの体重及び血糖レベルを顕著に低下させることができ、同時にマウス血清中のトリグリセリド(triglyceride)含有量も顕著に低下することが示される。さらに検討した結果、FGF21は肝臓のインスリン感受性を向上させ、ブドウ糖不耐症を緩和することができることがわかった。ヒトにより近い哺乳類動物の研究により、FGF21は用量依存的に実験動物の体重及び体脂肪を減少することができ、例えば糖尿病に罹患したアカゲザルにFGF21を投与すれば、その空腹血漿ブドウ糖及びトリグリセリドレベルはいずれも顕著に低下することが分かる。また、FGF21はさらに外分泌膵臓細胞及び肝細胞信号通路を活性化することができ、肝グリコーゲン出力を抑制する。
【0004】
FGF21はFGF(線維芽細胞増殖因子)ファミリーメンバーであるが、大多数のFGFが有する広域スペクトルの有糸分裂促進能力とは異なり、顕著な細胞増殖促進能力はない。研究により、FGF21トランスジェニックマウスは全ライフサイクル内に、体内に腫瘍及び組織増殖等の異常状況が発見されない。同時に、薬物動態学及び薬物安全性実験により、薬理学的用量を超えるFGF21は低血糖症が発生せず、これはFGF21が潜在的な糖尿病及び肥満等の疾患を理想的に治療する薬物であることを示す。
【0005】
多くのFGFファミリーメンバーと異なり、FGF21が下流信号通路を活性化することは、同時にFGF受容体(Fibroblast growth factor receptors,FGFRs)及び補助受容体β-klothoによって実現する必要があり、単独のβ-klotho又はFGFRはいずれもFGF21信号を活性化することができない。構造生物学的研究により、FGF21の構造は二つの部分に分けることができ、そのうちN末端構造ドメインは主にFGFRの結合に関連し、C末端構造ドメインは相対的に柔軟な配列であり、β-klothoの結合に関連する。FGF21はβ-klotho、FGFRと一つの三元複合体を形成した後、下流に関連する信号通路を活性化することができ、さらにその生物効果を発揮する。
【0006】
FGF21の血糖制御及び体重低減等の生理機能は関連疾患の治療に期待をもたらし、しかし野生型FGF21はプロテアーゼに加水分解されやすく、分子量が小さすぎる等の欠点が存在し、その半減期が0.5~2時間のみであり、直接薬物とすることに適しない。同時に、FGF21タンパク質のC末端に含まれるβ-klotho受容体と結合することを担当するフレキシブル領域は、繊維芽細胞活性化プロテアーゼ(Fibroblast Activation Protein,FAP)に分解されやすく、その主な分解部位はPro171周囲である。P171がFAPプロテアーゼによって切断された後、FGF21分子はβ-klotho補助受容体と結合できなくなり、さらにFGF21分子の不活性化を引き起こす。このような困難に対して、医学界は酵素切断部位アミノ酸部位特異的変異を行って長時間作用融合タンパク質を調製し、又はポリエチレングリコール、脂肪酸鎖等をポリペプチド骨格に接続する等の方法によりFGF21の半減期を向上させる。US 8,034,770 B2にいくつかのヒト野生型FGF21ポリペプチド配列に基づく変異体が記述され、そのうちP171G又はP171Aは、FAPプロテアーゼがFGF21タンパク質C末端への加水分解を効果的に低減することができるが、該特許の報告によっても我々の体外実験においても、P171Gは依然としてある程度のFAP加水分解されて不活性化される形態が存在し、新たなより効果的な変異体を探してFAPプロテアーゼの加水分解を低減することはFGF21タンパク質の創薬可能性(druggability)をさらに向上させることに大きな意義を有する。
【発明の概要】
【0007】
天然の野生型ヒトFGF21タンパク質はSEQ ID NO:1に示すようなアミノ酸配列を有し、該タンパク質の171位プロリン残基(Pro)はFAPプロテアーゼの酵素切断部位である。本発明の目的は、野生型FGF21の酵素切断部位及び/又はその近傍の構造を変更することによりFGF21の加水分解率を低下させ、その体内半減期及び薬効を延長することである。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様はFGF21変異タンパク質を提供する。一つの具体的な実施形態において、それは野生型ヒトFGF21配列に基づいて以下のa又はbの変更を有するアミノ酸配列を含む。
a.171位のプロリン残基を削除する。
b.1つ又は複数のアミノ酸残基の置換、削除、又は添加により、171位のプロリン残基又はその前後に一対のジスルフィド結合を形成する。
【0009】
本発明の一つの態様は171位のプロリン残基(例えばSEQ ID NO:4、10、16、及び22に示される配列)を直接削除し、FGF21タンパク質がFAPの酵素切断部位を失い、従って加水分解されない。選択的に、FGF21変異タンパク質は、SEQ ID NO:4で示されるアミノ酸配列を含む。
【0010】
本発明の別の態様は、171位のプロリン残基の近傍部位に置換及び/又は添加によって二つのシステイン残基を導入する。
【0011】
選択的に、Pro171の両側に隣接するアミノ酸残基の置換、削除、又は添加により、Pro171の前後に、該部位を跨ぐ一対のジスルフィド結合を形成し、Pro171の酵素切断部位を遮断し、それによりそれが加水分解されにくい。
【0012】
選択的に、上記ジスルフィド結合は直接171部位に形成することができ、すなわち171位のプロリン残基を置換し、及びその近傍部位の一つ又は複数のアミノ酸残基を置換、削除、又は添加した後、171位及びその近傍部位の間にジスルフィド結合を形成する。
【0013】
選択的に、上記近傍部位は前後三つの部位以内を指す。さらに好ましくは、前後二つの部位以内である。
【0014】
本発明の別の実施形態において、上記FGF21変異タンパク質は171位のプロリン残基の前後三つの部位以内に置換及び/又は添加によって、それぞれ二つのシステイン残基を導入する。
【0015】
選択的に、171位のプロリン残基の前後三つの部位以内に、一つ又は二つのアミノ酸残基によって置換及び/又は添加して、それぞれ一つのシステイン残基を導入する。
【0016】
選択的に、ジスルフィド結合を形成する二つのシステイン残基の間は、1個、2個、又は3個のアミノ酸で隔てる。
【0017】
置換されたシステイン残基又は導入されたシステイン残基の二つの部位の間は、1個、2個、又は3個のアミノ酸で隔て、或いは置換されたシステイン残基又は導入されたシステイン残基の二つの部位の間は、アミノ酸残基を添加する方式によって1個、2個、又は3個のアミノ酸で隔てる。
【0018】
選択的に、171位の前の三つの部位以内、又は前後二つの部位以内に、一つのアミノ酸残基をシステイン残基に置換し、171位の後の三つの部位以内、又は前後二つの部位以内に一つのアミノ酸残基をシステイン残基に置換する。171位と、171位の前のシステイン残基に置換する部位との間に一又は二個のアミノ酸残基を添加し、及び/又は171位と、171位の後のシステイン残基に置換する部位との間に一又は二個のアミノ酸残基を添加する。
【0019】
選択的に、添加された上記1つ又は2つのアミノ酸残基は、グリシン、アラニン、及びセリンから選択される。好ましくは、添加されたアミノ酸残基はグリシンである。
【0020】
ジスルフィド結合を形成する二つのシステイン残基の間を二つ又は三つのアミノ酸残基で間隔させることにより、上記間隔を形成して導入されたアミノ酸がグリシン、アラニン、又はセリン(好ましくはグリシン)である場合、FGF21変異体がミスマッチ二量体の形成を減少させることができる。
【0021】
選択的に、170Gを170Cに、172Sを172Cに置き換え、171Pと172Cとの間に一つ又は二つのアミノ酸残基を挿入する。
【0022】
選択的に、FGF21変異タンパク質は、SEQ ID NO:5、6、7、8、9、11、12、13、14、15、17、18、19、20、21、23、24、25、26、及び27で示されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。そのうち、SEQ ID NO:4、16、22はSEQ ID NO:10の基礎でSEQ ID NO:10の第1位ヒスチジンの前にそれぞれ1つのアラニン残基、セリン残基、グリシン残基を増加して形成された配列である。SEQ ID NO:5、17、23とSEQ ID NO:11、SEQ ID NO:6、18、24とSEQ ID NO:12、SEQ ID NO:7、19、25とSEQ ID NO:13、SEQ ID NO:8、20、26とSEQ ID NO:14、SEQ ID NO:9、21、27とSEQ ID NO:15の関係は類似し、ここで説明を省略する。
【0023】
他の実施例において、171位のプロリン残基を置換し、またその近傍部位の一つ又は複数のアミノ酸残基を置換、削除、又は添加した後、171位及びその近傍部位の間にジスルフィド結合を形成する。
【0024】
選択的に、121Nを121Qに、168Mを168Lに置き換えると、121位の脱アミノ基反応と168位の酸化反応を弱めることができる。
【0025】
選択的に、野生型ヒトFGF21配列の第一位のヒスチジン残基の前に1つのアラニン残基、グリシン残基又はセリン残基を添加し、原核発現(例えば大腸菌発現)時の開始コドンメチオニンを除去するために用いることができる。
【0026】
さらに、本発明の上記FGF21変異タンパク質はさらに化学修飾を有し、上記修飾はPEGと脂肪酸鎖を含むが、それらに限定されない。
【0027】
本発明の第二態様では、上記FGF21変異タンパク質のいずれかをコードする核酸分子を提供する。
【0028】
本発明の第三態様では、上記の核酸分子を含む担体を提供する。
【0029】
本発明の第四態様では、上記担体を含む遺伝子操作された細胞を提供する。
【0030】
本発明の第五態様では、タンパク質の調製方法を提供し、以下のステップを含む。
1)上記担体を構築する。
2)構築された担体を宿主細胞にトランスフェクションする。
3)発現に適する条件で、上記宿主細胞を培養する。
4)培養物から本発明のFGF21変異タンパク質を分離する。
【0031】
本発明の第六態様では、上記FGF21変異タンパク質と薬学的に許容される賦形剤とを含有する医薬組成物を提供する。
【0032】
本発明の第七の態様では、上記FGF21変異タンパク質が血糖、血中脂質の制御及び体重の低減における応用を提供する。
【0033】
本発明の提供するFGF21変異タンパク質はFAP酵素がそのC末端に対する酵素切断分解を抵抗し且つC末端の活性を保持することができ、すなわちβ-klotho(KLB)受容体との結合であり、それによりその体内半減期及び薬効を延長することができる。且つ変異体P171Gに比べ、本発明の具体的な実施形態におけるFGF21変異体はFAPプロテアーゼ加水分解を遅くするより強い能力を有する。
【0034】
本発明に関する全てのアミノ酸配列番号はいずれも野生型FGF21(SEQ ID NO:1)を基準とし、SEQ ID NO:1において第一アミノ酸部位番号は1であり、第二は2であり、このように最後のアミノ酸まで類推する。
【0035】
以下では、本発明の目的、特徴及び効果を十分に理解するために、本発明の構想、具体的な構造及び得られる技術的効果について、図面と関連してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】は、171位のプロリン残基の両側(170C/173Cを例とし、SEQ ID NO:5)にジスルフィド結合を形成する分子シミュレーション構造概略図である。
【
図2】は、実施例2におけるタンパク質が発現精製された後のSDS-PAGE電気泳動図であり、そのうちMはMarkerである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
実施例1 組換え発現担体の構築及び発現
1.1、発現プラスミドの構築
以下に示す番号1414、1407、1408、1409、1410、1411、1412、及び1413のタンパク質を発現する遺伝子をそれぞれ、「蘇州金唯智生物科技有限公司」が合成し、pET21b担体にクローニングした後、BL21(DE3)株に形質転換する。
FGF21(121Q,168L)変異体1414は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:2で示されるように、変異部位121Q及び168Lが121位の脱アミノ基反応及び168位の酸化反応を弱めるためのものであり、それ自体はその活力や他の機能(WO2011154349A2、CN113728013Aに開示されている)に影響を与えない。従って、実施例では変異体1414をコントロールとし、その実験結果は野生型FGF21の結果を示す。なお、FGF21野生型の第1位ヒスチジン残基の前に1個アラニン残基を添加し、原核発現時の開始コドンメチオニンを除去するために用いる。FGF21(P171G)変異体1407のアミノ酸配列をSEQ ID NO:3で示す。FGF21(Del-P171)変異体1408のアミノ酸配列をSEQ ID NO:4で示す。FGF21(170C/Ins-172G/173C)変異体1409のアミノ酸配列をSEQ ID NO:5で示す。FGF21(170C/172C)変異体1410のアミノ酸配列をSEQ ID NO:6で示す。FGF21(170C/173C)変異体1411のアミノ酸配列をSEQ ID NO:7で示す。FGF21(170C/Ins-172A/173C)変異体1412のアミノ酸配列をSEQ ID NO:8で示す。FGF21(170C/Ins-172S/173C)変異体1413のアミノ酸配列をSEQ ID NO:9で示す。
【0038】
1.2、発現
一晩培養した種子は1:50の体積比でKana耐性を有する500mL TB培地の三角フラスコに移し、初期OD600は約0.1、37℃、220rpmであり、OD600が2.0になるまで培養し、IPTG(最終濃度は0.5mmol/Lである)を加え、37℃、220rpmで一晩培養した後に菌を回収する。タンパク質は封入体(inclusion body、IB)の形式で発現される。
【0039】
実施例2 FGF21及び変異体タンパク質のリフォールディングと精製
2.1 封入体の変性溶解
実施例1において細胞破砕と洗浄を経て得られた封入体を、8M尿素と10mM DTTを用いて溶解する。封入体の溶解は室温で行い、時間は4時間である。
【0040】
2.2 リフォールディング
以上の溶解した封入体溶液をリフォールディング液に加え、リフォールディング液に2M尿素、10mM cysteine及びpHが8.0の20mM Tris-Cl緩衝液を含み、室温で一晩インキュベートする。リフォールディング期間には連続的に撹拌する必要があり、回転数は200回転/分である。
【0041】
2.3 FGF21及び変異体タンパク質に対して疎水性作用クロマトグラフィーPhenyl精製を行う
終濃度が2M NaClと20mM Tris-Clの緩衝液を加えた後に疎水性クロマトグラフィーphenyl柱(GEから購入する)を流れ、続いてNaCl溶液勾配溶出を行い、勾配が2Mから0Mである。SDS-PAGEに基づいて目的タンパク質が位置する収集管を選択して合併して保存し、このステップは目的タンパク質を捕捉し且ついくつかのヘテロタンパク質を除去することができる。
【0042】
2.4 FGF21及び変異体タンパク質に対してイオン交換クロマトグラフィーSource 30Q精製を行う
疎水性作用クロマトグラフィー後に合併されたタンパク質を10倍希釈した後にSource 30Qイオン交換クロマトグラフィーを行い、NaCl溶液を用いて勾配溶出し、勾配が0Mから1.0Mであり、核酸といくつかのタンパク質高重合体とヘテロタンパク質をさらに除去する。
【0043】
2.5 FGF21及び変異体タンパク質に対して分子篩の微細精製を行う
イオン交換クロマトグラフィーsource 30Q精製後に合併したタンパク質を濃縮し、続いて分子篩Superdex 200 pg微細精製を行い、PBSを緩衝液とし、このステップで精製したタンパク質を最終サンプルとする。
【0044】
精製情報は表1に示すように、全てのタンパク質が電気泳動純の純度に達する。
【0045】
【0046】
最終的なFGF21変異体1414及び変異体の精製で得られたタンパク質のSDS-PAGE解析図(
図2)から分かるように、FGF21変異体1414及び変異体1407、1408、1409はいずれも単体で存在する。そのうちFGF21変異体1409に追加導入されたジスルフィド結合は既に完全に分子内ジスルフィド結合を形成し、誤って分子間ジスルフィド結合を形成してFGF21二量体の形成を引き起こすことはない。FGF21変異体1410は二量体を大量に形成し、該分子が追加的に導入したジスルフィド結合は正確な分子内ジスルフィド結合を形成することができず、大量の分子間ジスルフィド結合を誤って形成することを示す。1409と1410の分子設計を比較し、1409はP171位の後に一つのグリシン(Ins-G172)を挿入し、G172の挿入によりC170-C173の間により多くの空間が分子内ジスルフィド結合を形成することができる。挿入するグリシンG172をA172(FGF21変異体1412)又はS172(FGF21変異体1413)に置換すれば類似の技術的効果を奏するが、少量の誤った二量体を形成してしまう。FGF21変異体1411は、P171の後の変異を173位(SEQID NO:7)に移行したものであり、この変異体は微量の誤った二量体しか発生しない。
【0047】
実施例3 体外でFAP酵素切断試験を行う
FAPは、体内に存在するプロテアーゼであり、FGF21の第171-172の間のアミノ酸を特異的に切断することができ、体内に注射された又は体内に存在するFGF21のC末端を不完全にさせ、さらに体内β-klotho受容体と結合せず、活性及び組織特異性を失わせる。本実施例はこの特性を利用し、体外FAP(「北京百普賽斯生物科技股▲ふん▼有限公司」から購入し、カタログ番号FAP-H5244)の酵素切断実験を行い、酵素切断されないFGF21変異体を選別する。実験は文献(http://dx.doi.org/10.1016/j.molmet.2016.07.003)に従って行い、結果を表2に示すように、ネガティブコントロールFGF21変異体1414が完全にFAPで酵素切断された場合、FGF21変異体P171G(1407)はこの実験条件でも約半分が酵素切断されたが、この発明で設計した変異体1408-1413(1410未検出)は微量しか酵素切断されていないか、酵素切断されていない。
【0048】
【0049】
実施例4 FGF21及び変異体と、β-Klotho受容体との結合試験
ヒト由来のβ-Klotho受容体細胞外末端タンパク質(C末端にPoly-His tagが融合される)は本社で発現及び精製され、配列はUniprotデータベースから由来する。アフィニティー測定はBiacore-8Kを用いて行い、具体的にはヒト由来β-Klothoタンパク質をNTAチップに固定し、固定量は1000RUであり、流動緩衝液としてPBS(0.05% Tween-20含有)を用いた。実験時に異なる濃度のFGF21変異体を流すことにより、そのβ-Klothoへの結合状態を検出する。最終データは動力学を用いてフィッティングを行って解離定数KDを算出する。具体的なアフィニティーの結果を表3に示す。1407-1413変異体(1410未試験)はいずれもFGF21コントロール変異体1414と類似のβ-Klothoに対するアフィニティーを示すことが認められた。これは、各変異体のアフィニティー活性が阻害されておらず、各変異体の活性が互いに類似していることを示している。
【0050】
【0051】
実施例5 FGF21及び変異体の、β-Klotho-ERK細胞活性実験
該発明におけるFGF21及び変異体の活性をさらに検証するために、β-Klothoを過剰発現したHEK293細胞(細胞は「康龍化成(北京)新藥技術股▲ふん▼有限公司」で構築される)を用いてFGF21及び変異のERK信号通路に対する活性化作用をテストする。具体的な実験ステップは、DMEM+10%FBS+1*PS細胞培地を用いて、β-Klothoを過剰発現したHEK293細胞を培養し、且つ細胞が指数期まで培養するときに、20μL細胞懸濁液を取って白色384測定プレートに添加し、適切な培地及び適切な細胞密度(5000/孔)に添加し、37℃、5%のCO2で培養する。FGF21及び変異体は培地中で3uM/6uM/15uMから開始し、3倍勾配で希釈し、細胞実験プレートに10ul化合物/孔を加える。被検タンパク質を加えた細胞を37℃、5%のCO2の培養器に0.5時間放置する。細胞上清を除去した後、細胞溶解緩衝液16μLを加え、室温で30~60分間振とうする。4μLの検出緩衝液中で調製したプレミックス抗体溶液を加え、実験プレートを封板で封止し、室温で一晩培養した後、665nmと620nmの蛍光発光を読み取り、そのEC50値を比較することにより変異体の活性を測定する。結果表4に示すように、1407-1413変異体(1410未試験)は、FGF21コントロール変異体1414に対して非常に類似した生物学的活性を有する。
【0052】
【0053】
以上、本発明のより良い具体的な実施例について詳細に説明した。当業者は、創造的な労力を要することなく、本発明の構想に基づいて多くの修正及び変更を行うことができることが理解されるべきである。したがって、本技術分野において技術者が本発明の着想に基づいて先行技術に基づいて論理的な分析、推論又は限定的な実験によって得ることができる技術的解決手段は、すべて特許請求の範囲で定められた保護の範囲内にあるものとする。
【配列表】
【国際調査報告】