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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-03
(54)【発明の名称】量子コンピュータ
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20240827BHJP
   G06N 10/20 20220101ALI20240827BHJP
【FI】
G06N10/40
G06N10/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514668
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(85)【翻訳文提出日】2024-03-05
(86)【国際出願番号】 FI2021050609
(87)【国際公開番号】W WO2023041833
(87)【国際公開日】2023-03-23
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519394241
【氏名又は名称】アイキューエム フィンランド オイ
(71)【出願人】
【識別番号】524085422
【氏名又は名称】ウニベルシダッド デル パイス バスコ/エウスカル エリコ ウニベルチタテア(ウペウベ/エアチェウ)
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘイモネン、ヘルマンニ
(72)【発明者】
【氏名】ポンセ マルティネス、マリオ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ペレス デ アルガバ、マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ピナ カネジェス、ビセンテ
(72)【発明者】
【氏名】デ ベーガ、イネス
(72)【発明者】
【氏名】カサノーバ マルコス、ホルヘ
(57)【要約】
本発明は、量子コンピューティングの分野に関し、より具体的には、量子処理ユニットにおける量子ビットの新規な配置、及び量子ビットに対してマルチ量子ビットゲート演算を実行するための新規な方法に関する。システムは、調整可能結合器を介して中央共振器に結合された複数の量子ビットを備えている。システムは、中心的に重要な要素を特徴とする量子アルゴリズムの実行に特に適しており、そのようなアルゴリズムで実行される量子ゲート演算の数を大幅に削減し得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
複数の量子ビット(101)と、
複数の同調可能結合器(102)と、
共振器(103)とを備え、
前記複数の量子ビットの各々は、前記複数の同調可能結合器のうちの1つを介して前記共振器に結合され、前記複数の量子ビットの各々は、前記共振器内の前記EM波の最大値又は前記EM波の最大値付近の前記EM波の前記波長の領域±20%内で前記共振器に結合される、システム。
【請求項2】
前記システムが、
前記量子ビット(101)のうちの1つで第1の状態を準備し、
前記第1の状態を、前記同調可能結合器(102)を介して前記共振器(103)に転送し、
前記共振器と他の量子ビットとの間の前記同調可能結合器を操作することによって、前記共振器と1つ以上の他の量子ビットとの間でマルチ量子ビットゲートを実行するように構成された、制御回路をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記システムが、コンデンサを介して前記共振器(103)に結合される、中央量子ビットと、
前記中央量子ビットにおいて第1の状態を準備し、
前記コンデンサ結合を介して前記第1の状態を前記共振器に転送し、
前記共振器と他の量子ビットとの間の前記同調可能結合を操作することによって、前記共振器と前記複数の量子ビットのうちの1つ以上との間でマルチ量子ビットゲートを実行するように構成された、制御回路とをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記複数の量子ビットは第1の複数の量子ビット(101a~j)であり、前記複数の同調可能結合器は第1の複数の同調可能結合器(102a~j)であり、及び前記共振器は第1の共振器(103a)であり、前記第1の複数の量子ビット及び同調可能結合器及び前記第1の共振器は第1のセットを形成し、
前記システムはさらに、第2の複数の量子ビット(101k~p)、第2の複数の同調可能結合器(102k~p)、及び第2の共振器(203)を含む第2のセットを備え、
前記第2の複数の量子ビットの各々は、前記第2の複数の同調可能結合器のうちの1つを介して前記第2の共振器に結合され、前記第2の複数の量子ビットの各々は、前記第2の共振器内の前記EM波の最大値で前記第2の共振器に結合され、
前記第2の共振器は前記第1の共振器(103)に結合される、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2の共振器(203)が、第1の同調可能結合器、量子ビット及び第2の同調可能結合器を含む少なくとも1つの結合チェーンによって前記第1の共振器(103)に結合される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記第2の共振器が、2つの結合チェーンによって前記第1の共振器に結合され、各結合チェーンは第1の同調可能結合器、量子ビット及び第2の同調可能結合器を備える、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムは、量子ビット、同調可能結合器及び共振器の1つ以上のさらなるセットをさらに備え、前記量子ビットは、前記共振器内の前記EM波の最大値で前記同調可能結合器を介して前記共振器に結合され、前記複数のセットの各々の前記共振器が結合されている、請求項4から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1のセット、第2のセット、及び1つ以上のさらなるセットの各々の前記共振器が、直列に結合される、請求項4から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記複数の量子ビットの各々が、調整可能結合器を介して、前記複数の量子ビットの中の他の量子ビットの1つ以上に直接結合される、請求項1から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記複数の量子ビットの各々が、6、7、8、9、又は10個未満の他の量子ビットに直接結合される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記システムは、各粒子の前記スピン状態を別々の量子ビットに符号化し、前記量子ビット又は量子ビットと共振器上でマルチ量子ビットゲートを実行して粒子間の前記相互作用をシミュレーションすることによって、スピンシステムをシミュレーションするように構成される、請求項1から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
方法であって、
第1の量子ビット(101)において第1の状態を準備すること、
前記第1の状態を、同調可能結合器(102)を介して共振器(103)に転送すること、
前記共振器と1つ以上のさらなる量子ビットとの間の同調可能結合器を操作することによって、前記共振器と1つ以上のさらなる量子ビットとの間でマルチ量子ビットゲートを実行することを含む、方法。
【請求項13】
前記1つ以上のさらなる量子ビットは、一連のさらなる量子ビットに論理的に配置された複数のさらなる量子ビットを含み、
前記第1の量子ビットにおいて前記第1の状態を準備することは、前記第1の量子ビットにおいて状態を準備すること及びアダマールゲートを前記第1の量子ビットに適用することを含み、
マルチ量子ビットゲートを実行することは、さらなる量子ビットの前記シーケンスに量子ビットが残らなくなるまで、以下のステップを反復的に実行することを含む、すなわち、
a)制御された位相ゲートを前記共振器及びさらなる量子ビットの前記シーケンスにおける各量子ビットに順次適用するステップ、
b)さらなる量子ビットの前記シーケンスにおける前記第1のさらなる量子ビットにアダマールゲートを適用するステップ、
c)さらなる量子ビットの前記シーケンスにおける前記第1のさらなる量子ビットの前記状態を前記共振器とスワップするステップ、及び
d)さらなる量子ビットの前記シーケンスから前記第1のさらなる量子ビットを除去するステップである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子コンピューティングの分野に関し、より具体的には、量子処理ユニットにおける量子ビットの新規な配置、及び量子ビットに対してマルチ量子ビットゲート演算を実行するための新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1つの量子ビットを多数の量子ビットに直接結合するには、キャパシタンス又はインダクタンスを増加させる必要があり、結果として量子ビットのサイズが大きくなるので、量子処理ユニットで多数の量子ビットを結合することは技術的に困難である。このような制約により、結合できる量子ビットの数と、単一のダイ又はウェーハ上に形成できる量子ビットの数の両方が制限される。さらに、多数の量子ビットが単一システムに結合されるため、周波数の混雑により、単一の量子ビットを確実に個別にアドレス指定することが妨げられる。
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様によれば、システムが提供される。このシステムは、複数の量子ビット、複数の同調可能結合器(102)、及び共振器(103)を備える。複数の量子ビットの各々は、複数の同調可能結合器のうちの1つを介して共振器に結合され、複数の量子ビットの各々は、共振器内のEM波の最大値又は共振器内のEM波の最大値付近のEM波の波長の領域±20%内で共振器に結合される。
【0004】
システムは、量子ビットのうちの1つにおいて第1の状態を準備し、同調可能結合器を介して共振器に第1の状態を転送し、共振器と他の量子ビットの間の調整可能な結合器を操作することによって共振器と他の量子ビットのうちの1つ以上との間でマルチ量子ビットゲートを実行するように構成された制御回路をさらに備えてもよい。
【0005】
システムは、コンデンサを介して共振器に結合される中央量子ビットと、中央量子ビットにおいて第1の状態を準備し、コンデンサ結合を介して第1の状態を共振器に転送し、共振器と他の量子ビットとの間の調整可能な結合を操作することによって共振器と複数の量子ビットのうちの1つ以上との間でマルチ量子ビットゲートを実行するように構成された制御回路とをさらに備えてもよい。
【0006】
量子ビット、同調可能結合器及び共振器は、複数の量子ビットが第1の複数の量子ビットであり、複数の同調可能結合器が第1の複数の同調可能結合器であり、共振器が第1の共振器である第1のセットを形成してもよく、システムは、第2の複数の量子ビット、第2の複数の同調可能結合器、及び第2の共振器(203)を含む第2のセットをさらに備えてもよい。第2の複数の量子ビットの各々は、第2の複数の同調可能結合器のうちの1つを介して第2の共振器に結合され得、第2の複数の量子ビットの各々は、第2の共振器内のEM波の最大値で第2の共振器に結合され得、そして第2の共振器は第1の共振器に結合されてもよい。
【0007】
第2の共振器は、第1の同調可能結合器、量子ビット及び第2の同調可能結合器を含む少なくとも1つの結合チェーンによって第1の共振器に結合され得る。
【0008】
第2の共振器は、2つの結合チェーンによって第1の共振器に結合され得、各結合チェーンは第1の同調可能結合器、量子ビット及び第2の同調可能結合器を備える。
【0009】
システムは、量子ビット、同調可能結合器、及び共振器の1つ以上のさらなるセットをさらに備えてもよく、量子ビットは、共振器内のEM波の最大値で同調可能結合器を介して共振器に結合され、複数のセットの各々の共振器が結合されている。
【0010】
第1のセット、第2のセット、及び1つ以上のさらなるセットの各々の共振器は、直列に結合され得る。
【0011】
複数の量子ビットの各々は、調整可能結合器を介して、複数の量子ビットの中の他の量子ビットの1つ以上に直接結合され得る。
【0012】
複数の量子ビットの各々は、6、7、8、9、又は10個未満の他の量子ビットに直接結合され得る。
【0013】
このシステムは、各粒子のスピン状態を別々の量子ビットに符号化し、量子ビット又は量子ビットと共振器上でマルチ量子ビットゲートを実行して粒子間の相互作用をシミュレーションすることによって、スピンシステムをシミュレーションするように構成され得る。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、方法が提供される。本方法は、第1の量子ビットで第1の状態を準備すること、同調可能結合器を介して第1の状態を共振器に転送すること、及び共振器と1つ以上のさらなる量子ビットとの間で調整可能結合器を操作することによって、共振器と1つ以上のさらなる量子ビットとの間のマルチ量子ビットゲートを実行することを含む。
【0015】
1つ以上のさらなる量子ビットは、一連のさらなる量子ビットに論理的に配置された複数のさらなる量子ビットを含み得る。第1の量子ビットにおける第1の状態を準備することは、第1の量子ビットにおいて状態を準備すること、及びアダマールゲートを第1の量子ビットに適用することを含むみ得、マルチ量子ビットゲートを実行することは、さらなる量子ビットのシーケンスにおいて残りの量子ビットがなくなるまで以下のステップを反復的に実行することを含み得る、すなわち、
a)制御された位相ゲートを共振器及びさらなる量子ビットのシーケンスにおける各量子ビットに順次適用する。
b)さらなる量子ビットのシーケンスにおける第1のさらなる量子ビットにアダマールゲートを適用する、
c)さらなる量子ビットのシーケンスにおける第1のさらなる量子ビットの状態を共振器とスワップする、
d)さらなる量子ビットのシーケンスから第1のさらなる量子ビットを除去する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態における量子ビットの配置の概略図である。
図2】複数の結合共振器を含む本発明の一実施形態の概略図である。
図3】量子ビットが同調可能結合器を介して直接接続される本発明の一実施形態の概略図である。
図4図1から図3に示したシステムを動作させる方法を示すフローチャートである。
図5図1から図3に示すシステム上で量子フーリエ変換を実行する方法を示す量子回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態における量子ビットの配置の概略図を示す。個々の量子ビット101(黒丸で示す)は、調整可能結合器102(白丸で示す)を介して共振器103に結合される。量子ビット101は、Koch et al.,Charge-insensitive qubit design derived from the Cooper pair box,Phys.Rev.A 76,042319(doi:10.1103/PhysRevA.76.042319)で詳細に説明されているように、トランズモン量子ビットであり得る。同調可能結合器102はまた、各量子ビット101を共振器103に選択的に結合するように、すなわち必要に応じて結合を「オン」又は「オフ」にすることができるように、周波数特性が外部から制御されることができるトランズモン、又は他の結合回路であってもよい。
【0018】
共振器103は、例えば、超電導コプレーナ導波路共振器であってもよい。このような共振器は、導電トラックの各側に1つずつ配置された一対のリターン導体を伴う単一の導電トラックで形成される。境界条件、つまりゼロ電流又はゼロ電圧が導電トラックの端部に課され、境界条件に一致する一連の共振周波数が生じる。共振器モード周波数は量子ビット101の周波数に近いが、同調可能結合器102のデフォルト周波数は量子ビット101の周波数より高いか低い。量子ビット101と共振器103との間の周波数差は、量子ビット101の非調和性の絶対値未満であることが好ましい。トランズモン量子ビットの場合、|0>状態と|1>状態の間の遷移頻度の約2%の負の値である。
【0019】
同調可能結合器102は、共振器103内で生じる電磁定在波の電圧最大値の位置に対応する共振器103に沿った位置に配置されている。共振器103への同調可能結合器102(及び任意の直接量子ビット接続)は、各最大値付近の定在波の波長の±10%の領域内に位置することが好ましい。しかしながら、共振器103への同調可能結合器102(及び任意の直接量子ビット接続)は、各最大値付近の定在波の波長の最大±20%の領域内に配置してもよい。したがって、共振器103の長さをスケーリングすることによって、共振器内の最大値の数を増やすことができ、量子ビット101を、同調可能結合器102を介して共振器103に結合できるより多くの位置を提供する。図1に示すように、量子ビット101は、共振器103の各側で(同調可能結合器102を介して)共振器103に結合することができる。図1では、単一位置で共振器の各側に接続された1つの量子ビット/調整可能結合器が示されているが、各最大値で最大20量子ビットを共振器に接続することができる。
【0020】
第1の実施形態では、量子ビットに対する演算を実行するために、(必ずしも中央に位置するわけではないが)中央量子ビットと考えることができる量子ビット101のうちの1つで第1の任意の量子ビット状態が準備される。第1の状態は、中央量子ビットを共振器103に結合する同調可能結合器102を介して、中央量子ビットから共振器103に転送される。第1の状態は、同調可能結合器102をオフにすることによって中央量子ビットが共振器103から切り離されている間に、中央量子ビットにマイクロ波パルスを印加することによって準備され得る。調整可能な結合器は、その共振周波数を、量子ビットと共振器の間の相互作用が打ち消される特定の周波数に調整することによってオフになる。第1の状態が準備されると、中央量子ビット及び同調可能結合器102は、第1の状態を中央量子ビットから共振器103に効果的に転送するのに必要な特定の長さの時間の間、中央量子ビットを共振器103に結合するように調整される。
【0021】
第2の実施形態では、中央量子ビット(再び、必ずしも中央に位置する必要はない)は、コンデンサによって、すなわち中間の同調可能結合器なしで、共振器103に直接結合され得る。第1の状態は中央量子ビットで準備され、準備された第1の状態を中央量子ビットから共振器103に転送するために、中央量子ビットは共振器103と共振するようになる。この転送動作は、ラビスワップに対応する。
【0022】
第1の状態が共振器103に転送されると、共振器と他の量子ビットとの間の同調可能結合器を操作することによって、条件付き位相ゲートなどの2つの量子ビットゲート動作を、共振器と1つ以上の他の量子ビットとの間で実行することができる。このようにして、共振器は、一般的な場合のように単なる情報バスとしてではなく、情報記憶構成要素として機能している。測定は、共振器103の状態を中央量子ビット、又は状態を測定できる任意の量子ビットに転送して戻すことによって実行することができる。したがって、この配置により、量子ビット101のいずれかを共振器103を介して他の量子ビット101のいずれかと結合することが可能で、各量子ビット101の状態を共振器内に順次スワップすることによって全対全結合が可能になる。多対多の結合が必要なアプリケーション及びアルゴリズムの場合、この量子ビット配置により、他の量子ビット配置と比較して、実行する必要がある2つの量子ビットゲート動作の数が大幅に減少する。
【0023】
図1は、合計10個の量子ビット101及び10個の調整可能結合器102を示しているが、少なくとも48個の量子ビット101及び調整可能結合器102を単一の共振器103に結合することが可能である。この上限は、共振器103の長さが増加するにつれて減少する共振器103の品質係数及び量子ビット線幅と比較した共振器モードの周波数分離によって左右される。結合できる量子ビット101の数をさらに増やすために、図2に示すように、量子ビット、結合器及び共振器200a~c上の複数のグループを、共振器203a~cを介して結合してもよい。好ましくは、各共振器203a~cは、2つのCQC結合201a、201bによって別の共振器203a~cに結合され、各CQC結合は、直列に接続された第1の同調可能結合器(C)、量子ビット(Q)、及び第2の同調可能結合器(C)を含む。CQC結合における各同調可能結合器は、共振器203a~cのうちの異なる1つに接続され、2つの共振器203a~cをリンクする。各セット201、201bにおける2つのCQC結合は、共振器103、203の間に並列に配置される。各CQC結合は、動作中に共振器内に形成される電磁定在波の最大値で共振器203a~cに接続される。図2は、3セットの量子ビット、結合器及び共振器200a~cを示すが、さらなる共振器を共振器203a~cのいずれかに結合して、共振器のチェーン又は任意の他のアーキテクチャを形成し得る。
【0024】
代替として、セット200a~cの共振器203a~cは、単一のCQC結合によって結合することもできる。ただし、ターゲット共振器が空、すなわち基底状態にある場合、単一のCQCを使用して、ある共振器から他の共振器に状態を転送できる。両方の共振器間で任意の状態の転送を可能にするには、図2に示すような2つのCQC結合によって提供される2つの並列パスが必要とされる。共振器間に単一のCQC結合を使用することによって課される制限は、例えば、量子ビット上で実行される量子アルゴリズムが共振器間の任意の状態の転送を必要としない特定のアプリケーション固有の実装では望ましい場合がある。2つの共振器間に2つのCQC結合が設けられている場合、第1の共振器からの状態は第1のCQC結合の量子ビットに転送され、第2の共振器からの状態は第2のCQC結合の量子ビットに転送される。その後、第1のCQC結合の量子ビットからの状態が第2の共振器に転送され、第2のCQC結合からの状態が第1の共振器に転送される。
【0025】
さらなる代替として、共振器は、1つのCQC結合器及び1つの直接結合器、すなわち単一の同調可能結合器によって接続されてもよい。第1の共振器からの量子状態がCQC結合器の量子ビットに転送され、次いで直接結合を介して2つの共振器間でiSWAPゲート動作が実行され、状態が第2の共振器から第1の共振器に転送される。最終的に、CQC量子ビットに保持されている状態が第2の共振器に転送される。共振器を結合する2つのCQC結合を伴うシステムと比較すると、単一のCQC結合及び直接結合では、直接結合を介して転送される状態の位相変化が生じるが、CQC結合を介して転送される状態は同じ位相を維持する。ただし、アルゴリズムによっては、これが許容される場合や、望ましい場合もある。
【0026】
量子ビット101を他の量子ビット101に(すなわち、共振器103を介さずに)直接結合することも可能である。このような直接結合には、図3に示すように調整可能結合器がなお含まれていてもよく、代替として、量子ビット間の結合は、容量又は誘導結合を介して、すなわち調整可能結合器なしである場合がある。図3は、単一の共振器303を含むシステムの簡単な例を示しており、量子ビット301は、調整可能結合302を介して共振器303に結合されているが、量子ビット301はまた、直接的に、すなわち共振器303を介さずに、調整可能結合器304を介して隣接する量子ビットに結合されている。各量子ビット101は、共振器103を介して他の量子ビット101に間接的に結合されるだけでなく、6~10個もの他の量子ビットに直接結合されてもよい。さらに、そのような直接量子ビット間結合は、複数の共振器103を伴うシステムにも存在し得、そのような直接量子ビット間結合は、同じ共振器に接続された量子ビット間、さらには異なる共振器にさえも存在し得ることが理解されるであろう。
【0027】
図4は、上述のシステムの量子ビットに対して量子演算を実行するための方法を示すフローチャートである。ステップ401で、中央量子ビット(「第1量子ビット」とも呼ばれる)において第1の状態が準備される。第1の状態は、例えば、量子ビットを|0>で初期化し、1つ以上の単一量子ビット量子ゲートを適用して量子ビットを目的の状態に移動することによって準備され得る。
【0028】
ステップ402で、第1の状態が中央量子ビットから共振器に転送される。中央量子ビットが調整可能結合器を介して共振器に接続されているとき、調整可能結合器に適切な刺激を加えて中央量子ビットと共振器との間の交換相互作用をオンにすることによって、状態を共振器に転送し得る。この転送は、中央量子ビット及び共振器に適用されるiSWAPゲートに対応する。代替実施形態において、中央量子ビットがコンデンサを介して共振器に結合されている場合、中央量子ビットで準備された状態は、ラビスワップによって共振器に転送され得る。
【0029】
ステップ403で、共振器と他の量子ビットとの間の同調可能結合器を操作することによって、条件付き位相ゲートなどの2つの量子ビットゲート動作を、共振器と1つ以上の他の量子ビットとの間で実行することができる。このようにして、共振器は、一般的な場合のように単なる情報バスとしてではなく、情報記憶構成要素を機能させている。測定は、共振器の状態を中央の量子ビットに戻すことで実行することができる。
【0030】
同じ基本プロセスは、結合共振器と量子ビットとの間で繰り返し転送を実行することで、図2に示すようなより複雑なシステムに適用することができる。
【0031】
上述のシステムは、多くの実際的な用途、例えば、スピンシステムなどの中心に影響を与える要素を伴う物理システムのシミュレーションに有利に使用され得、例えば、NVはダイヤモンドの中心にあり、複数の物体のスピン(又はその他の特性)が相互依存している。このようなシステムでは、各物体又は粒子のスピン(又は他の特性)は1つ以上の量子ビットによって表現又は符号化され、各物体又は粒子間の相互作用は量子ビット間の接続及び相互作用によって表される。
【0032】
さらなる例として、システムは、量子ビット0がNV中心を表し、残りのN-1量子ビットが原子核を表す過分極プロトコルをシミュレーションするのに特に適している。次に、1サイクル内のシステムの進化は、進化演算子で与えられる、すなわち、
【数1】
【0033】
式中、
【数2】
【0034】
ここで、X、Y、Zはパウリ演算子であり、
【数3】


は中央量子ビット上で動作する。残りのパラメータは物理システムを反映する定数である。
【0035】
通常gjk定数は無視できるため、結果として2つの量子ビットゲートが中心量子ビット及び非中心量子ビットでのみ動作する。シミュレーションアルゴリズムは、トロッター展開を使用して進化演算子を分割することによって生成することができる。アルゴリズムには、単一の量子ビットゲートと、中心量子ビットと非中心要素に適用される2つの量子ビットゲートのみが必要であるが、2つの非中心量子ビットに適用される2つの量子ビットゲートは必要ない。その結果、本発明のシステムを使用してシミュレーションが実行されるとき、量子ビットをスワップすることなくアルゴリズムを実行することが可能であり、他のアーキテクチャを伴う量子コンピューティングシステム上で物理システムをシミュレーションするために必要なかなりの数のステップが排除される。
【0036】
システムはまた、量子フーリエ変換などの量子アルゴリズムを実行するために有利に採用され得る。上述のように、共振器に結合された中心量子ビットとさらにN-1個の量子ビットで構成されるシステムでは、量子フーリエ変換は、他の量子ビットとの必要な2つの量子ビットゲートを実行するために、各量子ビットの状態を共振器に順次スワップすることによって実行され得る。
【0037】
最初に、各量子ビットの初期量子状態を、中心量子ビットを含む必要な数の量子ビットで準備する。アダマールゲートが中央量子ビットに適用され、中央量子ビットの状態が共振器内にスワップされる。
【0038】
他の量子ビット101は、論理シーケンス、qからqにあると考えることができる。制御された位相ゲートCRは、シーケンスqからqの共振器と各量子ビット101に、すなわち、ペア[R、q]に順次適用され、ここで、Rは共振器で、qkはk=2からk=Nである。制御された位相ゲートCRは次の行列で表すことができる、すなわち、
【数4】
【0039】
次に、アダマールゲートがqに適用され、結果としてqの状態が共振器にスワップされる。
【0040】
プロセスは、各量子ビットのインデックスを1ずつシフトして反復する、すなわち、qがqになるか、又はより一般的にはqがqi-1になり、前のqがシーケンスから削除される。制御された位相ゲートは、再度、qから始まるシーケンス内の共振器と各量子ビットに、すなわち、ペア[R、q]に順次適用され、Rは共振器で、qはk=2からk=N-1である。このプロセスは、さらなる量子ビットのシーケンスに残っている量子ビットがなくなるまで繰り返される。5量子ビットシステムの例示的な量子回路図を図5に示している。現在のシステムを使用してプロセスを任意の数の量子ビットに拡張できるが、複数の結合共振器が使用される場合、共振器間で状態を転送する追加のステップが必要になることが理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-03-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
複数の量子ビット(101)と、
複数の同調可能結合器(102)と、
共振器(103)とを備え、
前記複数の量子ビットの各々は、前記複数の同調可能結合器のうちの1つを介して前記共振器に結合され、前記複数の量子ビットの各々は、前記共振器内のEM波の最大値又は前記EM波の最大値付近の前記EM波の波長の領域±20%内で前記共振器に結合される、システム。
【請求項2】
前記システムが、
前記複数の量子ビット(101)のうちの1つの量子ビットで第1の状態を準備し、
前記第1の状態を、前記同調可能結合器(102)を介して前記共振器(103)に転送し、
前記共振器(103)前記複数の量子ビット(101)のうちの他の量子ビットの1つ以上の量子ビットとの間の前記同調可能結合器を操作することによって、前記共振器と前記複数の量子ビット(101)のうちの他の量子ビットの1つ以上の量子ビットとの間でマルチ量子ビットゲートを実行するように構成された、制御回路をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記システムが、コンデンサを介して前記共振器(103)に結合される、中央量子ビットと、
前記中央量子ビットにおいて第1の状態を準備し、
前記コンデンサ結合を介して前記第1の状態を前記共振器に転送し、
前記共振器と前記複数の量子ビット(101)のうちの他の量子ビットとの間の同調可能結合を操作することによって、前記共振器と前記複数の量子ビットのうちの1つ以上の量子ビットとの間でマルチ量子ビットゲートを実行するように構成された、制御回路とをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記複数の量子ビットは第1の複数の量子ビット(101a~j)であり、前記複数の同調可能結合器は第1の複数の同調可能結合器(102a~j)であり、及び前記共振器は第1の共振器(103)であり、前記第1の複数の量子ビット及び同調可能結合器及び前記第1の共振器は第1のセットを形成し、
前記システムはさらに、第2の複数の量子ビット(101k~p)、第2の複数の同調可能結合器(102k~p)、及び第2の共振器(203)を含む第2のセットを備え、
前記第2の複数の量子ビットの各々は、前記第2の複数の同調可能結合器のうちの1つを介して前記第2の共振器に結合され、前記第2の複数の量子ビットの各々は、前記第2の共振器内の前記EM波の最大値で前記第2の共振器に結合され、
前記第2の共振器は前記第1の共振器(103)に結合される、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2の共振器(203)が、第1の同調可能結合器、量子ビット及び第2の同調可能結合器を含む少なくとも1つの結合チェーンによって前記第1の共振器(103)に結合される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記第2の共振器(203)が、2つの結合チェーンによって前記第1の共振器に結合され、各結合チェーンは第1の同調可能結合器、量子ビット及び第2の同調可能結合器を備える、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムは、量子ビット、同調可能結合器及び共振器の1つ以上のさらなるセットをさらに備え、前記量子ビットは、前記共振器内の前記EM波の最大値で前記同調可能結合器を介して前記共振器に結合され、前記複数のセットの各々の前記共振器が結合されている、請求項4から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1のセット、第2のセット、及び1つ以上のさらなるセットの各々の前記共振器が、直列に結合される、請求項4から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記複数の量子ビットの各量子ビットが、容量結合または誘導結合を介して、前記複数の量子ビット内の1つまたは複数の他の量子ビットに直接結合される、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記複数の量子ビットの各量子ビットが、調整可能結合器を介して、前記複数の量子ビットの中の他の量子ビットの1つ以上に直接結合される、請求項1から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記複数の量子ビットの各々が、6、7、8、9、又は10個未満の他の量子ビットに直接結合される、請求項9又は請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記システムは、各粒子のスピン状態を別々の量子ビットに符号化し、前記量子ビット又は量子ビットと共振器上でマルチ量子ビットゲートを実行して粒子間の相互作用をシミュレーションすることによって、スピンシステムをシミュレーションするように構成される、請求項1から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
方法であって、
第1の量子ビット(101)において第1の状態を準備すること、
前記第1の状態を、同調可能結合器(102)を介して共振器(103)に転送すること、
前記共振器と1つ以上のさらなる量子ビットとの間の同調可能結合器を操作することによって、前記共振器と1つ以上のさらなる量子ビットとの間でマルチ量子ビットゲートを実行することを含む、方法。
【請求項14】
前記1つ以上のさらなる量子ビットは、一連のさらなる量子ビットに論理的に配置された複数のさらなる量子ビットを含み、
前記第1の量子ビットにおいて前記第1の状態を準備することは、前記第1の量子ビットにおいて状態を準備すること及びアダマールゲートを前記第1の量子ビットに適用することを含み、
マルチ量子ビットゲートを実行することは、さらなる量子ビットのシーケンスに量子ビットが残らなくなるまで、以下のステップを反復的に実行することを含む、すなわち、
a)制御された位相ゲートを前記共振器及びさらなる量子ビットの前記シーケンスにおける各量子ビットに順次適用するステップ、
b)さらなる量子ビットの前記シーケンスにおける前記第1のさらなる量子ビットにアダマールゲートを適用するステップ、
c)さらなる量子ビットの前記シーケンスにおける前記第1のさらなる量子ビットの前記状態を前記共振器とスワップするステップ、及び
d)さらなる量子ビットの前記シーケンスから前記第1のさらなる量子ビットを除去するステップである、請求項13に記載の方法。
【国際調査報告】