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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】レンズ及びそれを備えた車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20240829BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20240829BHJP
   F21S 41/148 20180101ALI20240829BHJP
   F21S 41/255 20180101ALI20240829BHJP
   F21S 41/32 20180101ALI20240829BHJP
   F21S 41/43 20180101ALI20240829BHJP
   F21W 102/145 20180101ALN20240829BHJP
   F21W 102/16 20180101ALN20240829BHJP
【FI】
G02B3/00 Z
G02B5/18
F21S41/148
F21S41/255
F21S41/32
F21S41/43
F21W102:145
F21W102:16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528292
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-05-11
(86)【国際出願番号】 CN2022126206
(87)【国際公開番号】W WO2024036740
(87)【国際公開日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】202210976219.X
(32)【優先日】2022-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519212314
【氏名又は名称】チャンヂョウ シンユ オートモーティブ ライティング システムズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CHANGZHOU XINGYU AUTOMOTIVE LIGHTING SYSTEMS CO., LTD
【住所又は居所原語表記】No.398 Hanjiang Road,Xinbei District Changzhou,Jiangsu 213022 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鄭 賢良
(72)【発明者】
【氏名】周 暁萍
【テーマコード(参考)】
2H249
【Fターム(参考)】
2H249AA18
2H249AA50
(57)【要約】
本発明は、レンズの技術分野に関し、特に、レンズ及びそれを備えた車両用灯具に関する。レンズは、層化射出成形の方式によって加工してなるものであり、光軸方向に沿って対向する第1屈折回折面と第2屈折回折面を設けたレンズ本体を備え、前記屈折回折面のうち、少なくとも一方の面が光軸に対して回転対称である回折構造を有し、回折構造のジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める。本発明は、良好な耐熱特性を有し、鮮明で彩らないロービームカットオフラインを生じ、製品コストを節約することができ、好適に適用されることが有望視されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層化射出成形の方式によって加工してなるものであり、レンズ焦点箇所からの拡散光をコリメートして平行光を形成でき、屈折回折混合レンズであり、光軸L方向に沿って対向する第1屈折回折面(1)と第2屈折回折面(2)を設けたレンズ本体を備え、第2屈折回折面(2)がレンズ焦点に近い一側に位置し、第1屈折回折面(1)がレンズ焦点から離れた一側に位置し、第1屈折回折面(1)と第2屈折回折面(2)のうち、少なくとも一方の屈折回折面が光軸Lに対して回転対称である回折構造を有し、回折構造のジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占めることを特徴とするレンズ。
【請求項2】
前記第1屈折回折面(1)は凸面であり、第2屈折回折面(2)は平面又は凸面であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記第1屈折回折面(1)には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記第2屈折回折面(2)には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項5】
前記第1屈折回折面(1)と第2屈折回折面(2)のそれぞれには、それらのジオプターの和がレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項6】
前記レンズ本体中の光通過孔径における光軸Lから最も遠く離れた厚さが縁厚さH1であり、前記第1屈折回折面(1)及び第2屈折回折面(2)と光軸Lとの交点の距離がレンズ中心厚さH2であり、H1:H2=1:30~1:2であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項7】
ロービーム光源(707)、ロービーム反射板(706)、ロービーム遮光板(705)及びレンズを具備し、該レンズに請求項1~6のいずれか一項に記載の構造が採用され、前記ロービーム反射板(706)がロービーム光源(707)の外側にカバーするように設けられ、レンズがロービーム光源(707)の光射出側に位置し、ロービーム遮光板(705)がロービーム光源(707)とレンズとの間に位置することを特徴とする車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの技術分野に関し、特に、レンズ及びそれを備えた車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズは、ハイビーム・ロービームモジュールのコア素子であり、光線を屈曲させ、ロービーム遮光板映像を車両の前方に投射する機能を有し、レンズのコスト、重量及び光学効果はハイビーム・ロービームモジュールにおいて重要な注目点となっている。ガラスレンズは低い分散と優れた耐熱性能を有するが、加工難度が大きく、コストが高く、重量が重い。プラスチックレンズは重量が軽く、コストが低く、加工しやすい長所を有するが、一般に用いられるプラスチック材料は自分の欠点を有し、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)は低い分散を有するが、自動車ヘッドライトの耐熱要求を満たすことができなく、ポリ炭酸エステル(PC)は耐熱性能に優れるが、分散が大きく、ロービームカットオフラインを青み又は黄みを帯びた光にすることがある。
【0003】
特許の名称が回折レンズ及びそれを用いた車載用灯具である中国特許CN109716175Aには、回折構造を用いてレンズの縁-中心厚さの差を減少すると共に、ロービームカットオフラインの性能を確保する車両用レンズが開示されている。該解決手段はコストと加工性に基づいて、レンズ曲率、ジオプター及び壁厚さに多い制限を加え、レンズ設計自由度と性能を低下させた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術の欠点を克服するために、質量が軽く、良好な加工性と耐熱性を有すると共に、ロービームカットオフラインの鮮明度を確保し、ロービームカットオフラインが彩るという現象を軽減できるレンズ及びそれを備えた車両用灯具を提供することを解決しようとする技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明がこの技術課題を解決するために採用する技術手段は、層化射出成形の方式によって加工してなるものであり、レンズ焦点箇所からの拡散光をコリメートして平行光を形成でき、屈折回折混合レンズであり、光軸L方向に沿って対向する第1屈折回折面と第2屈折回折面を設けたレンズ本体を備え、第2屈折回折面がレンズ焦点に近い一側に位置し、第1屈折回折面がレンズ焦点から離れた一側に位置し、第1屈折回折面と第2屈折回折面のうち、少なくとも一方の屈折回折面が光軸Lに対して回転対称である回折構造を有し、回折構造のジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占めるレンズである。
【0006】
更に、前記第1屈折回折面は凸面であり、第2屈折回折面は平面又は凸面である。
【0007】
更に、前記第1屈折回折面には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられている。
【0008】
更に、前記第2屈折回折面には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられている。
【0009】
更に、前記第1屈折回折面と第2屈折回折面のそれぞれには、それらのジオプターの和がレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられている。
【0010】
更に、前記レンズ本体中の光通過孔径における光軸Lから最も遠く離れた厚さが縁厚さH1であり、前記第1屈折回折面及び第2屈折回折面と光軸Lとの交点の距離がレンズ中心厚さH2であり、H1:H2=1:30~1:2である。
【0011】
ロービーム光源、ロービーム反射板、ロービーム遮光板及びレンズを具備し、該レンズに上記構造が採用され、前記ロービーム反射板がロービーム光源の外側にカバーするように設けられ、レンズがロービーム光源の光射出側に位置し、ロービーム遮光板がロービーム光源とレンズとの間に位置する車両用灯具である。
【0012】
本発明の有用な効果は以下の通りである。本発明は、構造が簡単で、設計が合理的で、操作しやすく、レンズは良好な耐熱性と低い分散を有し、焦点箇所からの、異なる波長の拡散光に対して良好なコリメート性能を有し、ロービームのカットオフラインを鮮明にし、カットオフラインが彩ってぼやけることを回避できる。
【0013】
以下、図面と実施例を参照しながら本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明におけるレンズの斜視図である。
図2図1の構造模式図である。
図3】PC材質屈折レンズの軸上色収差曲線である。
図4】PC材質屈折レンズの側面図である。
図5】回折レンズの軸上色収差曲線である。
図6】PMMAレンズの回折ジオプターの占める割合、縁と中心の厚さの割合及び軸上色収差の比較表である。
図7】実施例1におけるレンズの性能試験の側面図である。
図8】実施例1におけるレンズのパラメータ表の図である。
図9】実施例1におけるレンズの軸上色収差曲線図である。
図10】実施例2におけるレンズのパラメータ表の図である。
図11】実施例2におけるレンズの軸上色収差曲線図である。
図12】本発明における車両用灯具の構造模式図である。
図13】レンズを採用した/採用しなかったロービームカットオフラインの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面と好ましい実施例を参照しながら本発明を更に詳細に説明する。これらの図面はいずれも簡略化された模式図であり、本発明の基本的構造を模式的に説明するものに過ぎないので、本発明に関連する構成のみを示す。
【0016】
図1図2に示すレンズは、層化射出成形の方式によって加工してなるものであり、光軸方向に沿って対向する第1屈折回折面1と第2屈折回折面2を設けたレンズ本体を備え、第2屈折回折面2がレンズ焦点に近い一側に位置し、第1屈折回折面1がレンズ焦点から離れた一側に位置し、第1屈折回折面1と第2屈折回折面2のうち、少なくとも一方の屈折回折面が光軸に対して回転対称である回折構造を有し、回折構造のジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める。レンズ本体合計ジオプターは第1屈折回折面1における屈折構造ジオプター及び/又は回折構造ジオプター、第2屈折回折面2における屈折構造ジオプター及び/又は回折構造ジオプターの総和である。
【0017】
レンズ材料は、光学グレードのプラスチックであり、ポリ炭酸エステル(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、大阪ガス光学樹脂(OKPシリーズ)、三菱ガス光学樹脂(EPシリーズ)、日本合成ゴム光学樹脂(ARTON F/Dシリーズ)又は日本ゼオン光学樹脂(Zeonex)を含むが、これらに限定されない。
【0018】
第1屈折回折面1は凸面であり、第2屈折回折面2は平面又は凸面であり、第2屈折回折面2の曲率半径は50mmより小さくない。
【0019】
第1屈折回折面1と第2屈折回折面2のうち、少なくとも一方の屈折回折面は光軸に対して回転対称である回折構造を有し、具体的には、
第1屈折回折面1には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられているか、
又は、第2屈折回折面2には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられているか、
又は、第1屈折回折面1と第2屈折回折面2のそれぞれには、それらのジオプターの和がレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられている。
【0020】
レンズ本体中の光通過孔径における光軸Lから最も遠く離れた厚さが縁厚さH1であり、前記第1屈折回折面及び第2屈折回折面と光軸Lとの交点の距離がレンズ中心厚さH2であり、H1:H2=1:30~1:2である。
【0021】
ロービームカットオフラインの鮮明度を確保するために、車両用灯具のレンズは一般に以下の特性を有する。光軸Lと平行する光線はレンズを通り、レンズによって屈曲(光線屈折)し、レンズの焦点箇所に集光する。レンズの光線屈曲能力はジオプターと称され、通常の場合に、パラメータが知られているレンズにおいては、焦点距離とジオプターは光線波長によって相違するため、波長が異なる光軸Lと平行する入射光はレンズ後方の異なる位置に集光し、軸上色収差(Longitudinal Aberration)を形成する。車載ヘッドライトのロービームに対して、レンズの軸上色収差はロービームカットオフラインが拡散し彩ることを引き起こし、ユーザ体験に影響を及ぼす。以下に伝統的なレンズ(屈折レンズ)と回折レンズの軸方向分散について簡単に分析する。
【0022】
屈折レンズは異なる材料の光に対する屈折率差によって光線屈折を完成し、一般の材料は屈折率が光線波長と逆相関し、即ち、光線波長が長いほど、材料屈折率が小さいので、屈折レンズの光線屈折で正分散が発生し、即ち、波長が長いほど、レンズのジオプター絶対値が小さい。一般に用いられる可視光波長480nm(青色光)、644nm(赤色光)及び一般に用いられる光学樹脂ポリ炭酸エステル(polycarbonate,PC)を例とすると、PCは480nm波長の光に対する屈折率n480が1.5991であり、644nm波長の光に対するn644屈折率が1.5807であり、光線は空気からPCレンズ内部に入射し、平行光線はレンズの入射面と出射面を通り、レンズ後部焦点箇所に集光し、2つの光学面の曲率半径をそれぞれr、rとすると、2つの面の焦点距離f、fと曲率半径との関係はそれぞれ以下の通りである。
【数1】
【0023】
レンズ中心厚さをH2とすると、レンズジオプターΦと全焦点距離fはf、fとH2の関数である。
【数2】
【0024】
とrの絶対値がレンズ中心厚さdより遥かに大きい時に、(n-1)項を無視してもよく、即ち、以下の通りである
【数3】
【0025】
上述したように、PC材質は異なる波長の光線に対する屈折率が異なるので、屈折レンズは異なる波長の光線に対する焦点距離とジオプターが異なる。レンズの644nm赤色光に対するジオプターΦr644と480nm青色光に対するジオプターΦr480を比較したところ、以下の式を分かった。
【数4】
【0026】
この部分の分散は屈折によって取り入れられるものなので、ΔΦと記する。上記の式から分かるように、ΔΦはレンズの面の形に関連せず、レンズ材質と波長のみに関連する。図3はPC材質屈折レンズの軸上色収差曲線であり、レンズジオプターが23.36Dであり、該曲線から分かるように、該レンズは赤色光と青色光に対する軸上色収差が約1.3mmであり、即ち、赤色光焦点と青色光焦点の光軸Lでの距離が1.3mmであり、そして480nm光の焦点がレンズに更に近く、644nm光の焦点がレンズから更に遠く離れており、このような色収差は正色収差と称される。
【0027】
屈折レンズにおいてよく見られるもう1つの問題は中心-縁の厚さ差が大きいことであり、即ち、レンズ材質(PC)、屈折率(n=1.4938@546nm)が定められた後、入射した平行光をレンズ焦点へ屈折させるには、レンズ表面に十分な傾斜度を有さなければならない。図4は上記PC材質屈折レンズの側面図であり、レンズジオプターが23.36D、直径が28mm、縁厚さが1.5mmであり、中心厚さが17.16mmに達し、縁厚さと中心厚さの差が1:10を超えている。射出成形プロセスで、大き過ぎる中心-縁の厚さ差によって、レンズ中心が縮小し、面の形の保持に不利である。
【0028】
回折レンズにおいては、レンズの1つ又は2つの表面に非等距離の円環状段階構造を設け、回折光学原理を用いて光線回折を実現する。段階のピッチと高さは、レンズ表面におけるそれぞれの点の入射光角度、出射光角度、光路長変調量、レンズ屈折率及び調和回折係数の全てによって定められる。回折構造の作用で、光線の偏向角度は波長に正比例し、即ち、光線波長が長いほど、レンズジオプターが大きい。図5は回折レンズの軸上色収差曲線であり、レンズジオプターが23.81Dであり、赤色光と青色光に対する軸上色収差が約12mmであり、屈折レンズの約9倍であり、軸上色収差方向が同等条件の屈折レンズと反対であり、644nm光の焦点がレンズに更に近く、480nm光の焦点がレンズから離れ、このような色収差は負色収差と称される。
【0029】
屈折回折混合光学技術は、上記屈折レンズと回折レンズの分散特性を活用し、伝統的な屈折光学面に回折構造を増設し、レンズの一部のジオプターを回折光線に割り当て、回折光線の負色収差と屈折光線の正色収差が互いに打ち消し合うことで、レンズの全体的な分散を低減する。
【0030】
中国特許CN109716175A(特許の名称が回折レンズ及びそれを用いた車載用灯具)に記載のレンズは下記の特性を有する。即ち、回折光線を利用してレンズの30%~60%のジオプターを分担し、レンズの縁-中心の厚さ差とレンズ全厚さが低くなり、良好な一次射出成形特性を得たが、該解決手段は実質的に加工性のために設計を犠牲にした。上述したように、回折光線の分散係数が屈折の分散より遥かに大きく、分散の高いPC材料にとって、軸方向回折分散の絶対値が軸方向屈折分散の9倍であり、分散係数の低いPMMA(ポリメタクリル酸メチル)材料にとって、軸方向回折分散の絶対値が軸方向屈折分散の19倍である。回折光線を多く取り入れると、ひどい分散を招き、ロービームカットオフラインの光の色に影響を及ぼす。中国特許CN109716175Aに用いられたPMMA材料を例とし、レンズ直径56mm、レンズ本体合計ジオプター20mm-1、縁厚さ1.5mmとすると、レンズ回折ジオプターの占める割合、縁と中心の厚さの割合及び軸上色収差は比較表図6に示す通りになり、全屈折レンズ(回折構造ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの0%を占める)の軸上色収差が正色収差であり、640nmと480nmの光の軸上色収差が0.8mmであり、回折ジオプターがレンズ本体合計ジオプターで占める割合が5%に達した時に、回折色収差が屈折色収差を超え、レンズは全体的に軸方向負色収差を示し、回折ジオプターがレンズ本体合計ジオプターで占める割合が10%を超えた時に、レンズ軸上色収差絶対値が全屈折レンズより大きく、つまり、回折構造を取り入れることでレンズの軸上色収差が却って大きくなり、回折ジオプターがレンズ合計ジオプターの30%を占めた時に、レンズ縁厚さと中心厚さの割合が約1:2であったが、軸上色収差が8mmに達し、回折ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの60%を占めた時に、軸上色収差が18mmに達した。従って、本発明はレンズ回折構造のジオプターをレンズ合計ジオプターの20%以下に制限することで、回折構造が過量の色収差を取り入れることを回避する。
【0031】
層化射出成形は、レンズ射出成形問題を解決し、射出成形する面の形の精度を向上させる有効な手段であり、二次射出成形の方法によってレンズの面の形の精度を確保し、このようにしてレンズの屈折/回折ジオプターをより合理的に割り当て、ロービームカットオフラインの光の色を確保することができる。
【0032】
図12に示す車両用灯具は、ロービーム光源707、ロービーム反射板706、ロービーム遮光板705及びレンズを具備し、該レンズに上記構造が採用され、ロービーム反射板706がロービーム光源707の外側にカバーするように設けられ、レンズがロービーム光源707の光射出側に位置し、ロービーム遮光板705がロービーム光源707とレンズとの間に位置する。この図において、第2屈折回折面2が使用入射面703となり、第1屈折回折面1が使用出射面702となる。
【実施例1】
【0033】
図7は屈折回折混合レンズの性能試験の側面図であり、図8は本実施例における屈折回折混合レンズのパラメータ表の図である。レンズを正常に使用する時に、光源が第2屈折回折面2と同一側に位置し、第2屈折回折面2が入射面となり、第1屈折回折面1が出射面となる。
【0034】
しかしながら、コリメート光学デバイスは、性能試験時に、一般に逆光路設計を採用して検出し、平行光を集束させることによってレンズ性能を評価するので、図7において右側はレンズ焦点404であり、第1屈折回折面1は試験入射面402となり、第2屈折回折面2は試験出射面403となる。試験入射面402は回折構造406を設けた包絡面405を有する。
【0035】
本実施例では、レンズ材料はポリ炭酸エステル(PC)であり、この材料は優れた耐熱特性を有し、ビカット軟化温度が140℃に達し、自動車ヘッドライトの熱量要求を満たすことができるが、分散係数が大きい。本実施例の設計波長が480nmと580nmであり、PCのこれら2つの波長に対する屈折率がそれぞれn=1.601とn=1.586であった。レンズジオプターが23.06Dである場合に、全屈折レンズを採用すると、2つの波長のジオプター差が約-0.55Dとなり、レンズ本体合計ジオプターの-2.3%を占める。全回折レンズの2つの波長のジオプター差が4.07mm-1に達し、レンズ本体合計ジオプターの20.8%に相当する。レンズ分散を解消するために、屈折ジオプターが回折ジオプターの約9倍であり、回折ジオプターがレンズ合計ジオプターの10%を占める。
【0036】
図9は本実施例におけるレンズの軸上色収差曲線図であり、この図から分かるように、屈折回折混合方法によって最適化した後、レンズの488nm~644nm光線に対する軸上色収差が0.3mmより少なく、その中、重点として最適化された480nmと580nmの光線は、軸上色収差が0.05mmを超えなかった。
【実施例2】
【0037】
本実施例はレンズのパラメータ表が図10に示す通りである点で実施例1と異なる。
【0038】
本実施例におけるレンズの材料は三菱ガスEP-6000であり、材料屈折率N=1.64であり、分散係数アッベ数V=23.5であり、ガラス転移温度が145℃に達する。本実施例の設計波長が480nmと644nmであり、EP-6000のこれら2つの波長に対する屈折率がそれぞれn=1.657とn=1.631であった。レンズ本体合計ジオプターが24.76Dである時に、全屈折レンズを採用すると、2つの波長のジオプター差が約-1.02Dとなり、レンズ本体合計ジオプターの4%を占める。レンズ分散を解消するために、屈折ジオプターが回折ジオプターの約8倍であり、回折ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの11%を占める。図11は実施例2におけるレンズの軸上色収差曲線図であり、屈折回折混合方法によって最適化した後、レンズの480nm~644nm光線に対する軸上色収差が0.3mmより小さく、その中、重点として最適化された480nmと644nmの光線は、軸上色収差が0.05mmを超えなかった。
【0039】
以上をまとめると、本発明は、構造が簡単で、設計が合理的で、操作しやすく、レンズは良好な耐熱性と低い分散を有し、焦点箇所からの、異なる波長の拡散光に対して良好なコリメート性能を有し、図13に示すように、ロービームのカットオフラインを鮮明にし、カットオフラインが彩ってぼやけることを回避できる。
【0040】
以上の明細書に記載は本発明の具体的な実施形態に過ぎず、例を挙げて行った各種の説明は本発明の実質内容を制限するものとならなく、当業者であれば、明細書を読んだ上で、発明の実質と範囲から逸脱することなく上記の具体的な実施形態に修正や変形を施すことができる。
【符号の説明】
【0041】
1 第1屈折回折面
2 第2屈折回折面
402 試験入射面
403 試験出射面
404 レンズ焦点
405 包絡面
406 回折構造
702 使用出射面
703 使用入射面
705 ロービーム遮光板
706 ロービーム反射板
707 ロービーム光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-05-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの技術分野に関し、特に、レンズ及びそれを備えた車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズは、ハイビーム・ロービームモジュールのコア素子であり、光線を屈曲させ、ロービーム遮光板映像を車両の前方に投射する機能を有し、レンズのコスト、重量及び光学効果はハイビーム・ロービームモジュールにおいて重要な注目点となっている。ガラスレンズは低い分散と優れた耐熱性能を有するが、加工難度が大きく、コストが高く、重量が重い。プラスチックレンズは重量が軽く、コストが低く、加工しやすい長所を有するが、一般に用いられるプラスチック材料は自分の欠点を有し、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)は低い分散を有するが、自動車ヘッドライトの耐熱要求を満たすことができなく、ポリ炭酸エステル(PC)は耐熱性能に優れるが、分散が大きく、ロービームカットオフラインを青み又は黄みを帯びた光にすることがある。
【0003】
特許の名称が回折レンズ及びそれを用いた車載用灯具である中国特許CN109716175Aには、回折構造を用いてレンズの縁-中心厚さの差を減少すると共に、ロービームカットオフラインの性能を確保する車両用レンズが開示されている。該解決手段はコストと加工性に基づいて、レンズ曲率、ジオプター及び壁厚さに多い制限を加え、レンズ設計自由度と性能を低下させた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術の欠点を克服するために、質量が軽く、良好な加工性と耐熱性を有すると共に、ロービームカットオフラインの鮮明度を確保し、ロービームカットオフラインが彩るという現象を軽減できるレンズ及びそれを備えた車両用灯具を提供することを解決しようとする技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明がこの技術課題を解決するために採用する技術手段は、層化射出成形の方式によって加工してなるものであり、レンズ焦点箇所からの拡散光をコリメートして平行光を形成でき、屈折回折混合レンズであり、光軸L方向に沿って対向する第1屈折回折面と第2屈折回折面を設けたレンズ本体を備え、第2屈折回折面がレンズ焦点に近い一側に位置し、第1屈折回折面がレンズ焦点から離れた一側に位置し、第1屈折回折面と第2屈折回折面のうち、少なくとも一方の屈折回折面が光軸Lに対して回転対称である回折構造を有し、回折構造のジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占め、前記レンズ本体中の光通過孔径における光軸Lから最も遠く離れた厚さが縁厚さH1であり、前記第1屈折回折面及び第2屈折回折面と光軸Lとの交点の距離がレンズ中心厚さH2であり、H1:H2=1:30~1:2であるレンズである。
【0006】
更に、前記第1屈折回折面は凸面であり、第2屈折回折面は平面又は凸面である。
【0007】
更に、前記第1屈折回折面には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられている。
【0008】
更に、前記第2屈折回折面には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられている。
【0009】
更に、前記第1屈折回折面と第2屈折回折面のそれぞれには、それらのジオプターの和がレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられている。
【0010】
ロービーム光源、ロービーム反射板、ロービーム遮光板及びレンズを具備し、該レンズに上記構造が採用され、前記ロービーム反射板がロービーム光源の外側にカバーするように設けられ、レンズがロービーム光源の光射出側に位置し、ロービーム遮光板がロービーム光源とレンズとの間に位置する車両用灯具である。
【0011】
本発明の有用な効果は以下の通りである。本発明は、構造が簡単で、設計が合理的で、操作しやすく、レンズは良好な耐熱性と低い分散を有し、焦点箇所からの、異なる波長の拡散光に対して良好なコリメート性能を有し、ロービームのカットオフラインを鮮明にし、カットオフラインが彩ってぼやけることを回避できる。
【0012】
以下、図面と実施例を参照しながら本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明におけるレンズの斜視図である。
図2図1の構造模式図である。
図3】PC材質屈折レンズの軸上色収差曲線である。
図4】PC材質屈折レンズの側面図である。
図5】回折レンズの軸上色収差曲線である。
図6】PMMAレンズの回折ジオプターの占める割合、縁と中心の厚さの割合及び軸上色収差の比較表である。
図7】実施例1におけるレンズの性能試験の側面図である。
図8】実施例1におけるレンズのパラメータ表の図である。
図9】実施例1におけるレンズの軸上色収差曲線図である。
図10】実施例2におけるレンズのパラメータ表の図である。
図11】実施例2におけるレンズの軸上色収差曲線図である。
図12】本発明における車両用灯具の構造模式図である。
図13】レンズを採用した/採用しなかったロービームカットオフラインの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面と好ましい実施例を参照しながら本発明を更に詳細に説明する。これらの図面はいずれも簡略化された模式図であり、本発明の基本的構造を模式的に説明するものに過ぎないので、本発明に関連する構成のみを示す。
【0015】
図1図2に示すレンズは、層化射出成形の方式によって加工してなるものであり、光軸方向に沿って対向する第1屈折回折面1と第2屈折回折面2を設けたレンズ本体を備え、第2屈折回折面2がレンズ焦点に近い一側に位置し、第1屈折回折面1がレンズ焦点から離れた一側に位置し、第1屈折回折面1と第2屈折回折面2のうち、少なくとも一方の屈折回折面が光軸に対して回転対称である回折構造を有し、回折構造のジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める。レンズ本体合計ジオプターは第1屈折回折面1における屈折構造ジオプター及び/又は回折構造ジオプター、第2屈折回折面2における屈折構造ジオプター及び/又は回折構造ジオプターの総和であり、レンズ本体中の光通過孔径における光軸Lから最も遠く離れた厚さが縁厚さH1であり、前記第1屈折回折面及び第2屈折回折面と光軸Lとの交点の距離がレンズ中心厚さH2であり、H1:H2=1:30~1:2である。
【0016】
レンズ材料は、光学グレードのプラスチックであり、ポリ炭酸エステル(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、大阪ガス光学樹脂(OKPシリーズ)、三菱ガス光学樹脂(EPシリーズ)、日本合成ゴム光学樹脂(ARTON F/Dシリーズ)又は日本ゼオン光学樹脂(Zeonex)を含むが、これらに限定されない。
【0017】
第1屈折回折面1は凸面であり、第2屈折回折面2は平面又は凸面であり、第2屈折回折面2の曲率半径は50mmより小さくない。
【0018】
第1屈折回折面1と第2屈折回折面2のうち、少なくとも一方の屈折回折面は光軸に対して回転対称である回折構造を有し、具体的には、
第1屈折回折面1には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられているか、
又は、第2屈折回折面2には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられているか、
又は、第1屈折回折面1と第2屈折回折面2のそれぞれには、それらのジオプターの和がレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられている。
【0019】
ロービームカットオフラインの鮮明度を確保するために、車両用灯具のレンズは一般に以下の特性を有する。光軸Lと平行する光線はレンズを通り、レンズによって屈曲(光線屈折)し、レンズの焦点箇所に集光する。レンズの光線屈曲能力はジオプターと称され、通常の場合に、パラメータが知られているレンズにおいては、焦点距離とジオプターは光線波長によって相違するため、波長が異なる光軸Lと平行する入射光はレンズ後方の異なる位置に集光し、軸上色収差(Longitudinal Aberration)を形成する。車載ヘッドライトのロービームに対して、レンズの軸上色収差はロービームカットオフラインが拡散し彩ることを引き起こし、ユーザ体験に影響を及ぼす。以下に伝統的なレンズ(屈折レンズ)と回折レンズの軸方向分散について簡単に分析する。
【0020】
屈折レンズは異なる材料の光に対する屈折率差によって光線屈折を完成し、一般の材料は屈折率が光線波長と逆相関し、即ち、光線波長が長いほど、材料屈折率が小さいので、屈折レンズの光線屈折で正分散が発生し、即ち、波長が長いほど、レンズのジオプター絶対値が小さい。一般に用いられる可視光波長480nm(青色光)、644nm(赤色光)及び一般に用いられる光学樹脂ポリ炭酸エステル(polycarbonate,PC)を例とすると、PCは480nm波長の光に対する屈折率n480が1.5991であり、644nm波長の光に対するn644屈折率が1.5807であり、光線は空気からPCレンズ内部に入射し、平行光線はレンズの入射面と出射面を通り、レンズ後部焦点箇所に集光し、2つの光学面の曲率半径をそれぞれr、rとすると、2つの面の焦点距離f、fと曲率半径との関係はそれぞれ以下の通りである。
【数1】
【0021】
レンズ中心厚さをH2とすると、レンズジオプターΦと全焦点距離fはf、fとH2の関数である。
【数2】
【0022】
とrの絶対値がレンズ中心厚さdより遥かに大きい時に、(n-1)項を無視してもよく、即ち、以下の通りである
【数3】
【0023】
上述したように、PC材質は異なる波長の光線に対する屈折率が異なるので、屈折レンズは異なる波長の光線に対する焦点距離とジオプターが異なる。レンズの644nm赤色光に対するジオプターΦr644と480nm青色光に対するジオプターΦr480を比較したところ、以下の式を分かった。
【数4】
【0024】
この部分の分散は屈折によって取り入れられるものなので、ΔΦと記する。上記の式から分かるように、ΔΦはレンズの面の形に関連せず、レンズ材質と波長のみに関連する。図3はPC材質屈折レンズの軸上色収差曲線であり、レンズジオプターが23.36Dであり、該曲線から分かるように、該レンズは赤色光と青色光に対する軸上色収差が約1.3mmであり、即ち、赤色光焦点と青色光焦点の光軸Lでの距離が1.3mmであり、そして480nm光の焦点がレンズに更に近く、644nm光の焦点がレンズから更に遠く離れており、このような色収差は正色収差と称される。
【0025】
屈折レンズにおいてよく見られるもう1つの問題は中心-縁の厚さ差が大きいことであり、即ち、レンズ材質(PC)、屈折率(n=1.4938@546nm)が定められた後、入射した平行光をレンズ焦点へ屈折させるには、レンズ表面に十分な傾斜度を有さなければならない。図4は上記PC材質屈折レンズの側面図であり、レンズジオプターが23.36D、直径が28mm、縁厚さが1.5mmであり、中心厚さが17.16mmに達し、縁厚さと中心厚さの差が1:10を超えている。射出成形プロセスで、大き過ぎる中心-縁の厚さ差によって、レンズ中心が縮小し、面の形の保持に不利である。
【0026】
回折レンズにおいては、レンズの1つ又は2つの表面に非等距離の円環状段階構造を設け、回折光学原理を用いて光線回折を実現する。段階のピッチと高さは、レンズ表面におけるそれぞれの点の入射光角度、出射光角度、光路長変調量、レンズ屈折率及び調和回折係数の全てによって定められる。回折構造の作用で、光線の偏向角度は波長に正比例し、即ち、光線波長が長いほど、レンズジオプターが大きい。図5は回折レンズの軸上色収差曲線であり、レンズジオプターが23.81Dであり、赤色光と青色光に対する軸上色収差が約12mmであり、屈折レンズの約9倍であり、軸上色収差方向が同等条件の屈折レンズと反対であり、644nm光の焦点がレンズに更に近く、480nm光の焦点がレンズから離れ、このような色収差は負色収差と称される。
【0027】
屈折回折混合光学技術は、上記屈折レンズと回折レンズの分散特性を活用し、伝統的な屈折光学面に回折構造を増設し、レンズの一部のジオプターを回折光線に割り当て、回折光線の負色収差と屈折光線の正色収差が互いに打ち消し合うことで、レンズの全体的な分散を低減する。
【0028】
中国特許CN109716175A(特許の名称が回折レンズ及びそれを用いた車載用灯具)に記載のレンズは下記の特性を有する。即ち、回折光線を利用してレンズの30%~60%のジオプターを分担し、レンズの縁-中心の厚さ差とレンズ全厚さが低くなり、良好な一次射出成形特性を得たが、該解決手段は実質的に加工性のために設計を犠牲にした。上述したように、回折光線の分散係数が屈折の分散より遥かに大きく、分散の高いPC材料にとって、軸方向回折分散の絶対値が軸方向屈折分散の9倍であり、分散係数の低いPMMA(ポリメタクリル酸メチル)材料にとって、軸方向回折分散の絶対値が軸方向屈折分散の19倍である。回折光線を多く取り入れると、ひどい分散を招き、ロービームカットオフラインの光の色に影響を及ぼす。中国特許CN109716175Aに用いられたPMMA材料を例とし、レンズ直径56mm、レンズ本体合計ジオプター20mm-1、縁厚さ1.5mmとすると、レンズ回折ジオプターの占める割合、縁と中心の厚さの割合及び軸上色収差は比較表図6に示す通りになり、全屈折レンズ(回折構造ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの0%を占める)の軸上色収差が正色収差であり、640nmと480nmの光の軸上色収差が0.8mmであり、回折ジオプターがレンズ本体合計ジオプターで占める割合が5%に達した時に、回折色収差が屈折色収差を超え、レンズは全体的に軸方向負色収差を示し、回折ジオプターがレンズ本体合計ジオプターで占める割合が10%を超えた時に、レンズ軸上色収差絶対値が全屈折レンズより大きく、つまり、回折構造を取り入れることでレンズの軸上色収差が却って大きくなり、回折ジオプターがレンズ合計ジオプターの30%を占めた時に、レンズ縁厚さと中心厚さの割合が約1:2であったが、軸上色収差が8mmに達し、回折ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの60%を占めた時に、軸上色収差が18mmに達した。従って、本発明はレンズ回折構造のジオプターをレンズ合計ジオプターの20%以下に制限することで、回折構造が過量の色収差を取り入れることを回避する。
【0029】
層化射出成形は、レンズ射出成形問題を解決し、射出成形する面の形の精度を向上させる有効な手段であり、二次射出成形の方法によってレンズの面の形の精度を確保し、このようにしてレンズの屈折/回折ジオプターをより合理的に割り当て、ロービームカットオフラインの光の色を確保することができる。
【0030】
図12に示す車両用灯具は、ロービーム光源707、ロービーム反射板706、ロービーム遮光板705及びレンズを具備し、該レンズに上記構造が採用され、ロービーム反射板706がロービーム光源707の外側にカバーするように設けられ、レンズがロービーム光源707の光射出側に位置し、ロービーム遮光板705がロービーム光源707とレンズとの間に位置する。この図において、第2屈折回折面2が使用入射面703となり、第1屈折回折面1が使用出射面702となる。
【実施例1】
【0031】
図7は屈折回折混合レンズの性能試験の側面図であり、図8は本実施例における屈折回折混合レンズのパラメータ表の図である。レンズを正常に使用する時に、光源が第2屈折回折面2と同一側に位置し、第2屈折回折面2が入射面となり、第1屈折回折面1が出射面となる。
【0032】
しかしながら、コリメート光学デバイスは、性能試験時に、一般に逆光路設計を採用して検出し、平行光を集束させることによってレンズ性能を評価するので、図7において右側はレンズ焦点404であり、第1屈折回折面1は試験入射面402となり、第2屈折回折面2は試験出射面403となる。試験入射面402は回折構造406を設けた包絡面405を有する。
【0033】
本実施例では、レンズ材料はポリ炭酸エステル(PC)であり、この材料は優れた耐熱特性を有し、ビカット軟化温度が140℃に達し、自動車ヘッドライトの熱量要求を満たすことができるが、分散係数が大きい。本実施例の設計波長が480nmと580nmであり、PCのこれら2つの波長に対する屈折率がそれぞれn=1.601とn=1.586であった。レンズジオプターが23.06Dである場合に、全屈折レンズを採用すると、2つの波長のジオプター差が約-0.55Dとなり、レンズ本体合計ジオプターの-2.3%を占める。全回折レンズの2つの波長のジオプター差が4.07mm-1に達し、レンズ本体合計ジオプターの20.8%に相当する。レンズ分散を解消するために、屈折ジオプターが回折ジオプターの約9倍であり、回折ジオプターがレンズ合計ジオプターの10%を占める。
【0034】
図9は本実施例におけるレンズの軸上色収差曲線図であり、この図から分かるように、屈折回折混合方法によって最適化した後、レンズの488nm~644nm光線に対する軸上色収差が0.3mmより少なく、その中、重点として最適化された480nmと580nmの光線は、軸上色収差が0.05mmを超えなかった。
【実施例2】
【0035】
本実施例はレンズのパラメータ表が図10に示す通りである点で実施例1と異なる。
【0036】
本実施例におけるレンズの材料は三菱ガスEP-6000であり、材料屈折率N=1.64であり、分散係数アッベ数V=23.5であり、ガラス転移温度が145℃に達する。本実施例の設計波長が480nmと644nmであり、EP-6000のこれら2つの波長に対する屈折率がそれぞれn=1.657とn=1.631であった。レンズ本体合計ジオプターが24.76Dである時に、全屈折レンズを採用すると、2つの波長のジオプター差が約-1.02Dとなり、レンズ本体合計ジオプターの4%を占める。レンズ分散を解消するために、屈折ジオプターが回折ジオプターの約8倍であり、回折ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの11%を占める。図11は実施例2におけるレンズの軸上色収差曲線図であり、屈折回折混合方法によって最適化した後、レンズの480nm~644nm光線に対する軸上色収差が0.3mmより小さく、その中、重点として最適化された480nmと644nmの光線は、軸上色収差が0.05mmを超えなかった。
【0037】
以上をまとめると、本発明は、構造が簡単で、設計が合理的で、操作しやすく、レンズは良好な耐熱性と低い分散を有し、焦点箇所からの、異なる波長の拡散光に対して良好なコリメート性能を有し、図13に示すように、ロービームのカットオフラインを鮮明にし、カットオフラインが彩ってぼやけることを回避できる。
【0038】
以上の明細書の記載は本発明の具体的な実施形態に過ぎず、例を挙げて行った各種の説明は本発明の実質内容を制限するものとならなく、当業者であれば、明細書を読んだ上で、発明の実質と範囲から逸脱することなく上記の具体的な実施形態に修正や変形を施すことができる。
【符号の説明】
【0039】
1 第1屈折回折面
2 第2屈折回折面
402 試験入射面
403 試験出射面
404 レンズ焦点
405 包絡面
406 回折構造
702 使用出射面
703 使用入射面
705 ロービーム遮光板
706 ロービーム反射板
707 ロービーム光源
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層化射出成形の方式によって加工してなるものであり、レンズ焦点箇所からの拡散光をコリメートして平行光を形成でき、屈折回折混合レンズであり、光軸L方向に沿って対向する第1屈折回折面(1)と第2屈折回折面(2)を設けたレンズ本体を備え、第2屈折回折面(2)がレンズ焦点に近い一側に位置し、第1屈折回折面(1)がレンズ焦点から離れた一側に位置し、第1屈折回折面(1)と第2屈折回折面(2)のうち、少なくとも一方の屈折回折面が光軸Lに対して回転対称である回折構造を有し、回折構造のジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占め、前記レンズ本体中の光通過孔径における光軸Lから最も遠く離れた厚さが縁厚さH1であり、前記第1屈折回折面(1)及び第2屈折回折面(2)と光軸Lとの交点の距離がレンズ中心厚さH2であり、H1:H2=1:30~1:2であることを特徴とするレンズ。
【請求項2】
前記第1屈折回折面(1)は凸面であり、第2屈折回折面(2)は平面又は凸面であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記第1屈折回折面(1)には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記第2屈折回折面(2)には、ジオプターがレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項5】
前記第1屈折回折面(1)と第2屈折回折面(2)のそれぞれには、それらのジオプターの和がレンズ本体合計ジオプターの1%~20%を占める回折構造が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項6】
ロービーム光源(707)、ロービーム反射板(706)、ロービーム遮光板(705)及びレンズを具備し、該レンズに請求項1又は2に記載の構造が採用され、前記ロービーム反射板(706)がロービーム光源(707)の外側にカバーするように設けられ、レンズがロービーム光源(707)の光射出側に位置し、ロービーム遮光板(705)がロービーム光源(707)とレンズとの間に位置することを特徴とする車両用灯具。
【請求項7】
ロービーム光源(707)、ロービーム反射板(706)、ロービーム遮光板(705)及びレンズを具備し、該レンズに請求項3に記載の構造が採用され、前記ロービーム反射板(706)がロービーム光源(707)の外側にカバーするように設けられ、レンズがロービーム光源(707)の光射出側に位置し、ロービーム遮光板(705)がロービーム光源(707)とレンズとの間に位置することを特徴とする車両用灯具。
【請求項8】
ロービーム光源(707)、ロービーム反射板(706)、ロービーム遮光板(705)及びレンズを具備し、該レンズに請求項4に記載の構造が採用され、前記ロービーム反射板(706)がロービーム光源(707)の外側にカバーするように設けられ、レンズがロービーム光源(707)の光射出側に位置し、ロービーム遮光板(705)がロービーム光源(707)とレンズとの間に位置することを特徴とする車両用灯具。
【請求項9】
ロービーム光源(707)、ロービーム反射板(706)、ロービーム遮光板(705)及びレンズを具備し、該レンズに請求項5に記載の構造が採用され、前記ロービーム反射板(706)がロービーム光源(707)の外側にカバーするように設けられ、レンズがロービーム光源(707)の光射出側に位置し、ロービーム遮光板(705)がロービーム光源(707)とレンズとの間に位置することを特徴とする車両用灯具。
【国際調査報告】