(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】コーティングされた切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20240829BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20240829BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20240829BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23C5/16
B23B51/00 J
C23C14/06 L
C23C14/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566566
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2022061565
(87)【国際公開番号】W WO2022229429
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506297474
【氏名又は名称】ヴァルター アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リービッヒ, ヤン フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】エンゲルハート, ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】シーア, ファイト
【テーマコード(参考)】
3C037
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C037CC02
3C037CC04
3C037CC09
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3C037CC11
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4K029AA02
4K029AA04
4K029BA58
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4K029DC04
4K029DC16
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4K029DC39
4K029EA01
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのすくい面および少なくとも1つの逃げ面ならびにその間の切削刃を有する、基材およびコーティングを備えるコーティングされた切削工具であって、コーティングは、(Ti,Al)N層を備え、(Ti,Al)N層は、>0.67であるが、≦0.85の全体的原子比率Al/(Ti+Al)を有し、(Ti,Al)N層は、111方位差角度の分布を示し、111方位差角度は、(Ti,Al)N層の表面に対する法線ベクトルと、(Ti,Al)N層の表面に対する法線ベクトルに最も近い<111>方向との間の角度であり、111方位差角度の累積度数分布は、111方位差角度の≧60%が10度未満であるような累積度数分布である、コーティングされた切削工具に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのすくい面および少なくとも1つの逃げ面ならびにその間の切削刃を有する、基材およびコーティングを備えるコーティングされた切削工具であって、コーティングは、(Ti,Al)N層を備え、(Ti,Al)N層は、単一のモノリシック層であるか、または組成が異なる2つ以上の交互(Ti,Al)N副層型の多層であり、(Ti,Al)N層は、>0.67であるが、≦0.85の全体的原子比率Al/(Ti+Al)を有する、コーティングされた切削工具において、
(Ti,Al)N層が、111方位差角度の分布を示し、111方位差角度は、(Ti,Al)N層の表面に対する法線ベクトルと、(Ti,Al)N層の表面に対する法線ベクトルに最も近い<111>方向との間の角度であり、
111方位差角度の累積度数分布が、111方位差角度の≧60%が10度未満であるような累積度数分布であることを特徴とする、コーティングされた切削工具。
【請求項2】
111方位差角度の累積度数分布が、111方位差角度の75~97%が10度未満であるような累積度数分布である、請求項1に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項3】
111方位差角度の累積度数分布が、111方位差角度の≧20%、好ましくは≧35%が5度未満であるような累積度数分布である、請求項1または2に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項4】
111方位差角度の累積度数分布が、111方位差角度の20~90%、好ましくは30~75%、最も好ましくは35~65%が5度未満であるような累積度数分布である、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項5】
(Ti,Al)N層が、0.1~15μmの厚さを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項6】
(Ti,Al)N層が、3000HV以上(15mNの負荷)のビッカース硬度を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項7】
(Ti,Al)N層が、≧450GPaの単純(plain)ひずみ弾性率を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項8】
(Ti,Al)N層が、0.70~0.80の全体的原子比率Al/(Ti+Al)を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項9】
(Ti,Al)N層が、単一のモノリシック層である、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項10】
(Ti,Al)N層が、組成が異なる2つ以上の交互(Ti,Al)N副層型の多層であり、そのうち、少なくとも1つの(Ti,Al)N副層型が0.50~0.67の原子比率Al/(Ti+Al)を有し、少なくとも1つの(Ti,Al)N副層型が0.70~0.90の原子比率Al/(Ti+Al)を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項11】
(Ti,Al)N層が、0.70~0.90の原子比率Al/(Ti+Al)を有する1つの(Ti,Al)N副層型と交互する0.50~0.67の原子比率Al/(Ti+Al)を有する1つの(Ti,Al)N副層型の多層である、請求項10に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項12】
多層における(Ti,Al)N副層型が、1~100nmの平均厚さを有する、請求項10または11に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項13】
基材が、超硬合金、サーメット、立方晶窒化ホウ素(cBN)、セラミック、多結晶ダイヤモンド(PCD)および高速度鋼(HSS)から選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項14】
インサート、ドリルまたはエンドミルの形態である、請求項1から13のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、111結晶学的組織構造を有する(Ti,Al)N層を備えるコーティングを有するコーティングされた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属機械加工用の切削工具がより長持ちし、より高い切削速度および/またはますます要求が厳しくなる他の切削操作に耐えるように、それらを改善することが常に望まれている。一般に、金属機械加工用の切削工具は、薄くて硬い耐摩耗性コーティングを有する超硬合金等の硬質基材材料を含む。
【0003】
耐摩耗性コーティングを堆積させる場合、使用される一般的な方法は、化学気相堆積(CVD)または物理気相堆積(PVD)である。いずれかの方法で提供することができるコーティング特性には制限がある。いずれかの方法で同じ化学組成のコーティングが堆積されたとしても、その特性は、例えば、内部残留応力、密度、結晶化度および結晶サイズの点で様々となる。したがって、最終的な金属切削用途におけるその特性および性能は異なる。
【0004】
耐摩耗性コーティングは、通常、金属窒化物、金属炭窒化物または金属酸化物の層、またはそれらの層の組合せを備える。PVD法により堆積されたコーティング中の金属元素の源は、PVD反応器内のいわゆる「ターゲット」である。様々なPVD法が存在し、そのうち主なカテゴリーは、カソードアークエバポレーションおよびマグネトロンスパッタリングである。「マグネトロンスパッタリング」という一般的用語には、デュアルマグネトロンスパッタリング(DMS)および高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)等、互いに異なる様々な方法がさらに存在する。
【0005】
PVD法により堆積された窒化チタンアルミニウム(Ti,Al)Nコーティングは、切削工具における耐摩耗性コーティングとしてのその使用と共に周知である。(Ti,Al)Nコーティングの1つの種類は、(Ti,Al)N組成が層全体を通して本質的に同じである、単層である。単層コーティングは、堆積プロセスにおいて使用される1つまたは複数のターゲットが同じTi:Al比率を有する場合に提供される。(Ti,Al)Nコーティングの別の種類は、層に異なる組成の(Ti,Al)N副層が存在する多層である。そのような多層は、チャンバ内で基材が回転されたときに異なる組成の副層が交互に堆積されるように、堆積プロセスにおいて使用されるターゲットの少なくとも2つが異なるTi:Al比率を有する場合に提供され得る。特別な種類の多層は、個々の層の厚さがわずか数ナノメートル程度であり得るナノ多層である。
【0006】
PVDコーティングにおける(Ti,Al)Nの結晶構造は、立方晶または六方晶であり得る。先行技術の研究では、一般に、(Ti,Al)N中のより低いAl含有量、例えばAl+Tiの60at%未満のAl含有量は、単一相の立方晶構造をもたらし、一方、(Ti,Al)N中のAl+Tiの67at%超のAl含有量、特に70at%超のAl含有量では、実質的な量の六方晶構造が観察される。単一相の立方晶構造、または立方晶構造および六方晶構造の両方を含む混合構造をもたらすためのAl含有量のレベルの特定の限界が報告されており、例えば堆積条件に依存してある程度変動する。
【0007】
立方晶相の(Ti,Al)Nは、硬度および弾性率の点で良好な特性を有することが知られている。これらの特性を有することは、切削工具のコーティングに有益である。一方、六方晶相の(Ti,Al)Nはより機械的特性が低く、金属切削におけるコーティングの耐摩耗性に悪影響を及ぼす。
【0008】
発明の目的
本発明の目的は、優れた耐摩耗性、特にフライス加工操作において優れた逃げ面耐摩耗性を示すコーティングされた切削工具を提供することである。
【0009】
本発明
ここで、上述の目的を果たすコーティングされた切削工具が提供された。少なくとも1つのすくい面および少なくとも1つの逃げ面ならびにその間の切削刃を有する、基材およびコーティングを備える、コーティングされた切削工具であって、コーティングは、(Ti,Al)N層を備え、(Ti,Al)N層は、単一のモノリシック層であるか、または組成が異なる2つ以上の交互(Ti,Al)N副層型の多層であり、(Ti,Al)N層は、>0.67であるが≦0.85の全体的原子比率Al/(Ti+Al)を有し、(Ti,Al)N層は、111方位差角度の分布を示し、111方位差角度は、(Ti,Al)N層の表面に対する法線ベクトルと、(Ti,Al)N層の表面に対する法線ベクトルに最も近い<111>方向との間の角度であり、111方位差角度の累積度数分布は、111方位差角度の60%以上が10度未満であるような累積度数分布である、コーティングされた切削工具。
【0010】
逆平行方向/面を除いた場合(例えば、-1-1-1は111に対して逆平行である)、立方晶結晶構造において4つの固有の{111}型面の組が存在する((111)、(1-1-1)、(-11-1)、および(-1-11))。それらは互いに対して70.5°の角度にある。これらの面の1つが(Ti,Al)N表面に平行である場合、すなわち理想的な111方位にある場合、111方位差角度は0°であるが、表面の法線ベクトルに対して0°方位差角度より大きい角度を依然として有する他の{111}型面が存在する。本明細書において意図される111方位差角度は、最小角度、すなわち、(Ti,Al)N層に対する法線ベクトルと、(Ti,Al)N層に対する法線ベクトルに最も近い<111>方向との間の角度である。
【0011】
111方位差角度の分布は、電子後方散乱分析(EBSD)において決定され得る。しかしながら、(Ti,Al)N層の厚さを増加させることにより、特に(Ti,Al)N層の最初の数マイクロメートルでは柱状粒幅が一般に増加し、またEBSD分析は、粒幅が小さすぎる場合好適でない場合がある。したがって、2μm以下の厚さの(Ti,Al)N層を有する場合には、111方位差角度の分布は、粒サイズがEBSD分析には小さすぎるとみなされる場合、好ましくは透過型電子顕微鏡(TEM)分析において決定される。EBSDまたはTEM分析は、切削刃から0.7mmの距離内で行われる。
【0012】
111方位差角度の累積度数分布は、好適には111方位差角度の75%以上、好ましくは90%以上が10度未満であるような累積度数分布である。
【0013】
111方位差角度の累積度数分布は、好適には111方位差角度の75~97%、好ましくは90~95%が10度未満であるような累積度数分布である。
【0014】
一実施形態において、111方位差角度の累積度数分布は、111方位差角度の≧20%、好ましくは≧35%が5度未満であるような累積度数分布である。
【0015】
一実施形態において、111方位差角度の累積度数分布は、111方位差角度の20~90%、好ましくは30~75%、最も好ましくは35~65%が5度未満であるような累積度数分布である。
【0016】
一実施形態において、(Ti,Al)N層は、0.1~15μm、好ましくは0.5~12μm、最も好ましくは1~8μmの厚さを有する。
【0017】
一実施形態において、(Ti,Al)N層は、3000HV以上(15mNの負荷)、好ましくは3500~4200HV(15mNの負荷)のビッカース硬度を有する。
【0018】
一実施形態において、(Ti,Al)N層は、450GPa以上、好ましくは475GPa以上の単純(plain)ひずみ弾性率を有する。(Ti,Al)N層は、好ましくは、450~540GPa、より好ましくは475~530GPaの単純(plain)ひずみ弾性率を有する。
【0019】
(Ti,Al)N層は、好適には、0.70~0.85、好ましくは0.70~0.80、最も好ましくは0.72~0.76の全体的原子比率Al/(Ti+Al)を有する。
【0020】
一実施形態において、(Ti,Al)N層は、単一のモノリシック層である。
【0021】
一実施形態において、(Ti,Al)N層は、組成が異なる2つ以上の交互(Ti,Al)N副層型の多層であり、そのうち、少なくとも1つの(Ti,Al)N副層型が0.50~0.67、好ましくは0.55~0.67、最も好ましくは0.60~0.67の原子比率Al/(Ti+Al)を有し、少なくとも1つの(Ti,Al)N副層型が0.70~0.90、好ましくは0.75~0.90、最も好ましくは0.75~0.85の原子比率Al/(Ti+Al)を有する。
【0022】
一実施形態において、(Ti,Al)N層は、0.70~0.90、好ましくは0.75~0.90、最も好ましくは0.75~0.85の原子比率Al/(Ti+Al)を有する1つまたは2つの(Ti,Al)N副層型と交互した、0.50~0.67、好ましくは0.55~0.67、最も好ましくは0.60~0.67の原子比率Al/(Ti+Al)を有する1つまたは2つの(Ti,Al)N副層型の多層である。
【0023】
好ましい実施形態において、(Ti,Al)N層は、0.70~0.90、好ましくは0.75~0.90、最も好ましくは0.75~0.85の原子比率Al/(Ti+Al)を有する1つの(Ti,Al)N副層型と交互した、0.50~0.67、好ましくは0.55~0.67、最も好ましくは0.60~0.67の原子比率Al/(Ti+Al)を有する1つの(Ti,Al)N副層型の多層である。
【0024】
多層における(Ti,Al)N副層型は、好適には、1~100nm、好ましくは1.5~50nm、最も好ましくは2~20nmの平均厚さを有する。
【0025】
一実施形態において、異なる(Ti,Al)N副層型の平均厚さの間の比率は、0.5~2、好ましくは0.75~1.5である。
【0026】
(Ti,Al)N層は、立方晶結晶構造を備える。
【0027】
一実施形態において、(Ti,Al)N層は、すくい面および/または逃げ面上の切削刃に対して垂直の方向に沿った切削刃の点から少なくとも0.5mmの距離にわたり、好ましくは少なくとも1mmの距離にわたり、単一相の立方晶B1結晶構造である。
【0028】
(Ti,Al)N層に存在する結晶構造(1つまたは複数)の決定は、好適には、X線回折分析、あるいはTEM分析により行われる。
【0029】
一実施形態において、切削刃から0.5mm以内、好ましくは1mm以内の(Ti,Al)N層は、X線回折分析において、またはTEM分析において、立方晶(Ti,Al)N反射のみを示す。
【0030】
(Ti,Al)N層に存在する結晶構造(1つまたは複数)の決定は、好適には、X線回折分析、あるいはTEM分析により行われる。
【0031】
X線回折分析、またはTEM分析において、少なくとも切削刃から1mm以内で測定した場合、好適には立方晶(Ti,Al)N反射のみが観察される。
【0032】
一実施形態において、(Ti,Al)N層は、(Ti,Al)N層のより低い接触面から最大2μmの距離で測定される、175nm未満、好ましくは150nm未満の平均柱状粒幅を有する。
【0033】
一実施形態において、(Ti,Al)N層は、(Ti,Al)N層のより低い接触面から最大2μmの距離で測定される、80~175nm、好ましくは100~150nmの平均柱状粒幅を有する。
【0034】
一実施形態において、(Ti,Al)N層の下には、元素周期表の第4、5もしくは6族に属する1種もしくは複数の元素の窒化物、または、Alおよび元素周期表の第4、5もしくは6族に属する1種もしくは複数の元素の窒化物のコーティングの最内層が、直接基材上にある。この最内層は、基材への全体的なコーティングの接着を増加させる、基材への結合層として少なくとも部分的に機能し得る。そのような結合層は、当技術分野において一般的に使用され、当業者は好適なものを選択するであろう。この最内層の好ましい代替例は、TiNおよび(Ti1-xAlx)Nであり、xは好適には0超0.67以下である。この最内層の厚さは、好適には3μm未満である。この最内層の厚さは、一実施形態において、0.1~3μm、好ましくは0.2~1μmである。
【0035】
一実施形態において、本発明の(Ti,Al)N層と組み合わせて、切削工具用のコーティングに一般的に使用される1つまたは複数の他の層がある。例えば、元素周期表の第4、5もしくは6族に属する1種もしくは複数の元素の窒化物、または、Alおよび元素周期表の第4、5もしくは6族に属する1種もしくは複数の元素の窒化物である。例えば、(Ti1-yAly)Nの層であり、yは、好適には0超0.67以下である。
【0036】
一実施形態において、コーティングは、厚さ0.5~3μmの(Ti1-yAly)N(0.25≦y≦0.67)の内側層に続いて、厚さ0.5~5μmの本発明の(Ti,Al)N層を備える。
【0037】
本発明による(Ti,Al)N層はPVDにより堆積され、すなわち(Ti,Al)N層はPVD層である。好適には、(Ti,Al)N層は、スパッタリングプロセスにより堆積されたPVD層、好ましくは高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)で堆積された層である。
【0038】
コーティングされた切削ツールの基材は、金属機械加工用の切削ツールの分野において一般的な任意の種類のものであってもよい。基材は、超硬合金、サーメット、立方晶窒化ホウ素(cBN)、セラミック、多結晶ダイヤモンド(PCD)および高速度鋼(HSS)から好適に選択される。
【0039】
1つの好ましい実施形態において、基材は、超硬合金である。
【0040】
コーティングされた切削ツールは、好適には、インサート、ドリルまたはエンドミルの形態である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】フライスインサートである切削ツールの一実施形態の概略図である。
【
図2】基材およびコーティングを示す本発明のコーティングされた切削ツールの実施形態の断面の概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態である「試料2a(本発明)」の電子後方散乱回折(EBSD)分析からの111方位差角度の度数分布曲線を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態である「試料5(本発明)」の電子後方散乱回折(EBSD)分析からの111方位差角度の度数分布曲線を示す図である。
【
図5】「試料6(比較)」の電子後方散乱回折(EBSD)分析からの111方位差角度の度数分布曲線を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態である「試料2a(本発明)」の(Ti,Al)N層の透過型電子顕微鏡(TEM)電子回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1は、すくい面(2)、逃げ面(3)および切削刃(4)を有する切削ツール(1)の一実施形態の概略図を示す。この実施形態において、切削ツール(1)は、フライスインサートである。
図2は、基材本体(5)および(Ti,Al)Nコーティング(6)を有する本発明のコーティングされた切削ツールの実施形態の断面の概略図を示す。
【0043】
方法
電子後方散乱回折(EBSD):
EBSD測定は、切削刃から50μmの距離で切削工具試料の逃げ面に対して行った。
【0044】
EBSDスキャンの前に、40nm(Struers OPS 0.04μm)の公称粒サイズを有するコロイド状シリカ懸濁液を使用して、それぞれの試料表面を慎重に研磨した。このステップは、堆積直後のコーティング表面上に存在するいかなる粗度も除去するのに役立つ。この手順によって100nm以下のトップコーティングが除去される。
【0045】
(Ti,Al)N層がコーティングの最上層でなかった場合には、最終的にEBSDスキャン用の研磨(Ti,Al)N表面を提供するために、研磨等の好適な方法を使用して(Ti,Al)N層の上に位置する層を除去する。
【0046】
電子回折パターンは、EDAX DigiView 5 EBSDカメラ(EDAX Inc.、マファ、NJ、USA)と併せたZeiss CrossBeam 540 FIB-SEM(Carl Zeiss AG、オーバーコッヘン、ドイツ)において、70°の標準試料傾斜および5mmの作動距離で取得した。取得には、10~13kVの電子ビーム加速電圧を使用した。マッピングのステップサイズは20nmであった。マッピング面積は15.00×11.25μmであった。
【0047】
EDAX TEAMソフトウェアでインデックスを付けながら、EDAX OIM分析ソフトウェアを使用して、決定された結晶方位データをさらに評価した。
【0048】
111方位差角度の累積度数分布は、以下のように計算した。全EBSDスキャンの各スポット測定(全体的な分析表面領域の表面積増分を表す)について、(Ti,Al)N層の表面平面に対して垂直な結晶学的方向は、測定された絶対的な結晶学的方位(すなわち、オイラー角における方位データ)から得られる。
【0049】
その後、この結晶学的方向と、最も近い<111>型方向との間のベクトル角が計算される。「最も近い」が(4つ全ての結晶学的に等価な可能性のうち)<111>型方向を指す場合、それは、表面法線との可能な限り小さい角度を含む。この角度は、111方位差角度として定義される。それぞれの測定点は等しい割合の分析エリアを構成するため、これらの角度方位差値の相対的度数分布は、111表面組織構造の全体的な度を特徴付ける。
【0050】
透過型電子顕微鏡(TEM)における電子回折:
本明細書において行われる電子回折分析には、透過型電子顕微鏡:JEOL ARM 200F顕微鏡、200kVを使用して行われたTEM測定がある。制限視野絞りを使用することにより、コーティングのみが回折パターンに寄与するべきである。TEMは、制限視野電子回折(SAED)手順における回折のために平行照射で操作された。
【0051】
試料は断面において分析され、すなわち、入射電子ビームはフィルム面と平行であった。試料調製中の非晶質化を除外するために、i)機械的切削、接着、粉砕およびイオン研磨を含む従来の調製、ならびにii)試料を切削し、リフトアウトを形成して最終研磨を行うためのFIBの使用の、異なる方法を使用することができる。分析の位置は基材の近くであり、基材から約200nmであった。分析の位置はさらに、切削刃から1mm以内の距離であった。
【0052】
試料についてSAEDデータを得た。SAEDデータから、コーティング法線に対応する角度位置を中心とする111リングに沿った回折強度プロファイルが得られた。次いで、111回折スポットおよび-1-1-1回折スポットの両方で、45度の方位差角度までそれぞれ正規化積分を行った。2つの積分を合わせて、1つの強度分布曲線にした。データ点の数を増やし、それにより信号対ノイズ比を可能な限り低減するために、111回折スポットおよび-1-1-1回折スポットの両方からの強度分布データを使用した。
【0053】
ある特定の方位差角度における強度は、この方位差を示す試料体積に正比例する。したがって、強度分布曲線は、111方位差角度の分布と同等である。すると、それに対応して、強度分布曲線から得られた累積強度曲線は、111方位差角度の累積度数分布と同等である。
【0054】
X線回折:
X線回折パターンは、Seifert/GE(PTS3003)からの回折計で斜入射モード(GID)により取得した。ポリキャピラリレンズ(平行ビームを生成するため)によるCu-Kα照射を分析に適用した(高張力40kV、電流40mA)。入射ビームは0.5mmピンホールにより画定された。回折ビーム経路には、エネルギー分散検出器(Meteor 0D)を使用した。測定は、斜入射モード(オメガ=4°)で行った。2シータ範囲は約20~80°であり、ステップサイズは0.03°、カウント時間は6秒であった。XRD測定は、切削刃から1mm以内の距離で切削工具試料の逃げ面に対して行った。
【0055】
ビッカース硬度:
ビッカース硬度は、Helmut Fischer GmbH、ジンデルフィンゲン、ドイツのPicodentor HM500を使用して、ナノインデンテーション(負荷-深さグラフ)により測定した。測定および計算には、OliverおよびPharrの評価アルゴリズムを適用し、ビッカースに従うダイヤモンド試験体を層に押し込み、測定中に力-経路曲線を記録した。使用した最大負荷は、15mN(HV0.0015)であり、負荷の増加および負荷の減少の期間は、それぞれ20秒であった。この曲線から、硬度を計算した。
【0056】
平面ひずみ弾性率:
コーティング試料の弾性特性を、OliverおよびPharrの方法によるナノインデンテーションにより得られるいわゆる平面ひずみ弾性率Epsにより特性決定した。ナノインデンテーションデータは、上記のビッカース硬度に関して説明されたインデンテーションから得た。
【0057】
粒幅:
平均(Ti,Al)N粒幅は、立体的直線交点法により、SEM断面の評価から決定した。SEM顕微鏡写真に線グリッドを重ね、直線と粒界ネットワークとの交点をマークした。隣接する交点間の距離の統計は、3次元粒のサイズを反映する(例えば、B.Ilschner、R.F.Singer、Werkstoffwissenschaften und Fertigungstechnik、Springer Berlin Heidelberg、2016、ISBN:978-3-642-53891-9を参照されたい)。SEM顕微鏡写真は、逃げ面上で、切削刃から約0.7μmの距離で撮影した。
【実施例】
【0058】
例1
Ti0.33Al0.67の組成を有する1つのターゲットおよびTi0.20Al0.80の組成を有する1つのターゲットのターゲット構成を使用して、(Ti,Al)Nの層をWC-Coベース基材上に堆積させた。コーティングのより容易な分析のために、WC-Coベース基材は、平坦形状のインサートであった。基材は、8重量%のCoおよび残りのWCの組成を有していた。
【0059】
Hauzer Flexicoat 1000機器において、HIPIMSモードを使用した。3回の別個の堆積の実行において、他の全ての条件を同じに維持しながら合計圧力を変動させた。0.505Pa、0.219Paおよび0.167Paの3つの異なる合計圧力を試験した。
【0060】
以下のプロセスパラメータを使用した。
温度: 300℃
平均出力: 40kW(ターゲット当たり20kW)
パルス持続期間: 80μs
設定ピーク電流: ターゲット1:800A、ターゲット2:800A
DCパルス電圧: 1800V
Ar流量: 500sccm | 180sccm | 130sccm
合計圧力(N2+Ar):0.505Pa | 0.219Pa | 0.167Pa
(約167sccm N2)|(約115sccm N2)|(約108sccm N2)
バイアス電位: -100V
【0061】
約1.75μmの厚さを有する(Ti,Al)N層が堆積された。基材回転速度から、(Ti,Al)N副層の平均厚さは約3nmであると計算された。
【0062】
得られたコーティングされた切削工具は、「試料1(比較)」、「試料2(本発明)」および「試料3(本発明)」と呼ばれる。
【0063】
「試料2(本発明)」に対応するさらなる試料を、より厚い厚さ(7.3μm)で作製した。プロセスパラメータは以下の通りである。
温度: 300℃
平均出力: 40kW(ターゲット当たり20kW)
パルス持続期間: 80μs
設定ピーク電流: ターゲット1:800A、ターゲット2:800A
DCパルス電圧: 1800V
Ar流量: 180sccm
合計圧力(N2+Ar):0.22Pa
(約115sccm N2)
バイアス電位: -110V
【0064】
得られたコーティングされた切削工具は、「試料2a(本発明)」と呼ばれる。
【0065】
金属切削における試験を意図して、本発明によるさらなる試料を作製した。カソードアークエバポレーションにより堆積される1.3μmの従来のTi0.40Al0.60Nの第1の層をWC-Coベース基材上に形成し、続いて「試料2(本発明)」の(Ti,Al)N層に非常に類似した1.25μmの(Ti,Al)N層を形成した。WC-Coベース基材は、2つの異なるフライスインサート形状のもの、SPMW12およびADMT160608R-F56であった。基材は、8重量%のCoおよび残りのWCの組成を有していた。アークエバポレーションにより堆積された最内層の主な目的は、工具の寿命が剥離により制限されないように基材への接着を改善することである。2つの層は以下のように作製した。
【0066】
Ti0.40Al0.60Nの最内層:
Ti0.40Al0.60の組成を有するターゲットを使用して、1.3μmのTi0.40Al0.60Nの層を、WC-Coベース基材上に堆積させた。
【0067】
Hauzer Flexicoat 1000機器において、アークモードを使用した。5Paの合計圧力、-40VのDCバイアスおよび580℃の温度で堆積を実行した。
【0068】
(Ti,Al)Nの層:
Ti0.33Al0.67の組成を有する1つのターゲットおよびTi0.20Al0.80の組成を有する1つのターゲットのターゲット構成を使用して、1.25μmの(Ti,Al)Nの層をアーク堆積させたTi0.40Al0.60N層上に堆積させた。Hauzer Flexicoat 1000機器において、HIPIMSモードを使用した。
【0069】
以下のプロセスパラメータを使用した。
温度: 300℃
平均出力: 40kW(ターゲット当たり20kW)
パルス持続期間: 80μs
設定ピーク電流: ターゲット1:800A、ターゲット2:800A
DCパルス電圧: 1800V
Ar流量: 180sccm
合計圧力(N2+Ar): 0.22Pa
(約115sccm N2)
バイアス電位: -100V
【0070】
基材回転速度から、(Ti,Al)N副層の平均厚さは約3nmであると計算された。
【0071】
得られたコーティングされた切削工具は、「試料4(本発明)」と呼ばれる。
【0072】
例2
Ti0.20Al0.80の組成を有する1つのターゲットのターゲット構成を使用して、単一のモノリシック層である(Ti,Al)Nの層をWC-Coベース基材上に堆積させた。コーティングのより容易な分析のために、WC-Coベース基材は、平坦形状のインサートであった。基材は、8重量%のCoおよび残りのWCの組成を有していた。
【0073】
Hauzer Flexicoat 1000機器において、HIPIMSモードを使用した。
【0074】
以下のプロセスパラメータを使用した。
温度: 200℃
平均出力: 20kW
パルス持続期間: 80μs
設定ピーク電流: 800A
DCパルス電圧: 1800V
Ar流量: 150sccm
合計圧力(N2+Ar): 0.190Pa
(約88sccm N2)
バイアス電位: -150V
【0075】
約1.7μmの厚さを有する(Ti,Al)N層をインサート上に堆積させた。
【0076】
得られたコーティングされた切削工具は、「試料5(本発明)」と呼ばれる。
【0077】
例3
(比較例):
S3p技術を使用したOerlikon Balzers機器においてHIPIMSモードを使用して、Ti0.40Al0.60N層を、フライスインサート型SPMW12およびADMT160608R-F56、ならびに平坦インサート(コーティングのより容易な分析のため)の切削ツールであるWC-Coベース基材上に堆積させた。このHIPIMS堆積コーティングは、鋼(ISO-P)材料の機械加工において非常に良好な結果をもたらすことが知られていた。
【0078】
基材は、8重量%のCoおよび残りのWCの組成を有していた。
【0079】
堆積プロセスは、以下のプロセスパラメータを使用してHIPIMSモードで実行した。
ターゲット材料: Ti0.40Al0.60
ターゲットサイズ: 6×円形、直径15cm
ターゲット当たりの平均出力:9kW
ピークパルス出力: 55kW
パルスオン時間: 4ms
温度: 430℃
合計圧力: 0.61Pa
アルゴン圧力: 0.43Pa
バイアス電位: -40V
【0080】
約7.2μmの層厚が堆積された。
【0081】
得られたコーティングされた切削工具は、「試料6(比較)」と呼ばれる。
【0082】
例4
(比較例):
Ti0.10Al0.90N単層を、コーティングの容易な分析のための平坦切削インサートであるWC-Coベース基材上に堆積させた。対面するTi0.10Al0.90の2つのターゲットを使用した。堆積は、以下のプロセスパラメータによりHIPIMSモードを使用して行った。
ターゲット材料: (2×)Ti0.10Al0.90
温度: 300℃
平均出力: 40kW(ターゲット当たり20kW)
パルス持続期間: 80μs
設定ピーク電流: ターゲット1:800A、ターゲット2:800A
DCパルス電圧: 1800V
Ar流量: 150sccm
合計圧力(N2+Ar): 0.19Pa
(約125sccm N2)
バイアス電位: -110V
【0083】
約1.4μmの層厚が堆積された。
【0084】
得られたコーティングされた切削工具は、「試料7(比較)」と呼ばれる。
【0085】
例5
(分析):
XRD:
「試料1(比較)」、「試料2(本発明)」、「試料3(本発明)」、および「試料5(本発明)」に対してXRD分析を行った。
【0086】
4つ全ての試料が、立方晶(111)、(200)および(220)面からのピークを示す。しかしながら、「試料1(比較)」はさらに、約57および70度2シータに顕著なピークを示し、これらのピークは、六方晶(110)(hex AlN 57.29°)、ならびに(112)(hex AlN 68.85°)および(201)(hex AlN 69.98°)の一方または両方である。
【0087】
XRD分析はまた、「試料7(比較)」に対しても行った。
【0088】
顕著な六方晶ピークが観察された。
【0089】
EBSD:
電子後方散乱回折(EBSD)分析を、「試料2a(本発明)」、「試料5(本発明)」および「試料6(比較)」に対して行った。粒サイズは、その層厚がわずか1.7μmであったにもかかわらず、「試料5(本発明)」に対してEBSD分析を行うことができる十分な大きさであった。111方位差角度の累積度数分布を、「方法」セクションに記載のように計算した。
図3は、「試料2a(本発明)」のEBSD分析からの111方位差角度の度数分布曲線を示す。
図4は、「試料5(本発明)」のEBSD分析からの111方位差角度の度数分布曲線を示す。
図5は、「試料6(比較)」のEBSD分析からの111方位差角度の度数分布曲線を示す。
【0090】
「試料2a(本発明)」について、(Ti,Al)N層は、111方位差角度の約94%が10度未満であり、111方位差角度の約55%が5度℃未満であるような111方位差角度の累積度数分布を示す。
【0091】
「試料5(本発明)」について、(Ti,Al)N層は、111方位差角度の約77%が10度未満であり、111方位差角度の約37%が5度未満であるような111方位差角度の累積度数分布を示す。
【0092】
「試料6(比較)」について、Ti0.40Al0.60N層は、111方位差角度の約14%が10度未満であり、111方位差角度の約4%が5度未満であるような111方位差角度の累積度数分布を示す。
【0093】
TEM:
「試料2a(本発明)」に対して透過型電子顕微鏡(TEM)分析を行った。
図6は、「試料2a(本発明)」の(Ti,Al)N層のTEM電子回折パターンを示す。
【0094】
「試料2a(本発明)」からの回折パターンは明確なスポットを示しており、これは高い結晶学的組織構造を意味する。回折パターンは、111組織構造層を示している。
【0095】
「試料2a(本発明)」に対するTEM分析はまた、(Ti,Al)N副層型のそれぞれの平均厚さがほぼ同じで約3nmであることを示した。
【0096】
EDX:
「試料2a(本発明)」の(Ti,Al)N層の平均組成は、エネルギー分散X線分光法(EDX)分析により、ターゲット組成からの予測値に対応することが証明された。平均組成はTi0.27Al0.73Nであり、すなわち(Ti,Al)N層は0.73の全体的原子比率Al/(Ti+Al)を有していた。
【0097】
機械的特性:
ビッカース硬度および単純(plain)ひずみmo弾性率(E
ps)を決定するために、表1に列挙されたコーティングされた切削工具の逃げ面に対して硬度測定(負荷15mN)を行った。
【0098】
本発明の範囲内である試料1、2および5は全て、高い硬度および高い平面ひずみ弾性率値を示す。
【0099】
「試料1(比較)」の場合のように過度に高い合計圧力が使用された場合、硬度が低くなり、また単純(plain)ひずみ弾性率も低くなることが結論付けられる。これは、コーティングにおける不十分な量の立方晶結晶構造を暗に意味する。XRD結果はまた、立方晶ピークの他に六方晶ピークの存在を示している。
【0100】
「試料6(比較)」は、六方晶相の可能な形成のための限界を十分下回るAl含有量を有する、完全立方晶Ti0.40Al0.60N試料である。したがって、良好な機械的特性は予測通りである。
【0101】
さらに、「試料7(比較)」の場合のように(Ti,Al)N層に過度に高いAl含有量が存在する場合、硬度が低くなり、また単純(plain)ひずみ弾性率も低くなることが結論付けられる。これは、コーティングにおける不十分な量の立方晶結晶構造を暗に意味する。XRD分析はまた、極めて弱い立方晶ピークの他に六方晶ピークの顕著な存在を示している。
【0102】
粒幅:
「試料2a(本発明)」に対して粒幅を決定した。粒幅は、基材へのより低い接触面から2、4および6μmの距離で決定した。
【0103】
平均粒幅値は、それぞれ127、165および247nmであった。
【0104】
例5
切削試験、ISO-Pフライス加工:
「試料4(本発明)」をISO-Pフライス加工試験においてさらに試験し、逃げ面摩耗を測定した。この試験では、「試料4(本発明)」を、ISO-Pフライス加工において良好であることが知られている「試料6(比較)」とほぼ同一の切削インサートと比較した。
【0105】
比較試料は、商業生産からのものであった。それらは、「試料6(比較)」に存在するものに加えて、色およびより容易な摩耗検出の目的で堆積された0.2μmの上部ZrN薄膜をさらに有していた。しかしながら、この追加の層は、決して実質的に耐摩耗性に影響しない。
【0106】
比較例のコーティングされた工具は、8wt%のCoおよび残りのWCの組成を有するSPMW12形状のフライスインサート超硬合金基材を提供し、以下の条件に従ってコーティングを堆積させることにより作製した。
【0107】
Ti0.40Al0.60N最内層:
ターゲット材料: Ti0.40Al0.60
ターゲットサイズ: 6×円形、直径15cm
ターゲット当たりの平均出力:9kW
ピークパルス出力: 55kW
パルスオン時間: 4ms
温度: 430℃
合計圧力: 0.61Pa
アルゴン圧力: 0.43Pa
バイアス電位: -40V
【0108】
2.1μmの層が堆積された。
【0109】
ZrN最外層:
ターゲット材料: Zr
ターゲットサイズ: 3×円形、直径15cm
ターゲット当たりの平均出力:9kW
ピークパルス出力: 27kW
パルスオン時間: 26ms
温度: 430℃
合計圧力: 0.55Pa
アルゴン圧力: 0.43Pa
バイアス電位: -40V
【0110】
0.2μmの層が堆積された。
【0111】
試験条件および試験データを以下に要約する。加工対象材料として鋼(ISO-P)を使用した。
【0112】
試験条件:
240m/分の切削速度でフライス加工試験を行った。他の試験条件は以下の通りである。
【0113】
工具形状:
インサート形状: SPMW12
工具直径Dc: 125mm
設定角度k: 45°
【0114】
切削データ:
接触幅ae: 100mm
切削深さap: 3mm
切削速度: 240m/分
歯当たりの送り量:0.2mm
【0115】
加工対象:
材料 ISO-P鋼、42CrMoV4型
引張強度 785MPa
【0116】
切削液:なし、すなわち乾燥
【0117】
この試験では、逃げ面側の切削刃に最大摩耗が観察された。各試料の3つの切削刃を試験し、各切削長の平均値を表2に示す。
【0118】
比較試料は、ISO-P鋼のフライス加工において非常に良好な結果をもたらすことが知られているコーティングを有する。それにもかかわらず、「試料4(本発明)」は、比較試料よりはるかに良好な性能を示すことが結論付けられる。
【0119】
比較試料は本質的に「試料6(比較)」であり、「試料4(本発明)は、「試料6(比較)」のコーティングの上半分が「試料2(本発明)」の本発明の(Ti,Al)N層に交換されたものとみなすことができる。
【0120】
「試料6(比較)」および「試料2(本発明)」は、表1に見られるように、同様の機械的特性(硬度および単純(plain)ひずみ弾性率)を有する。それにもかかわらず、「試料6(比較)」は、この切削試験において、本発明の試料よりもはるかに低い性能を示す。
【0121】
例6
切削試験、ISO-Mフライス加工:
「試料4(本発明)」をISO-Mフライス加工試験においてさらに試験し、逃げ面摩耗を測定した。この試験では、「試料4(本発明)」を、ISO-Mフライス加工において良好であることが知られているアーク堆積コーティングを有する切削インサートと比較した。
【0122】
比較例のコーティングされた工具は、8wt%のCoおよび残りのWCの組成を有するフライスインサート超硬合金基材を提供し、以下の条件に従ってコーティングを堆積させることにより作製した。
【0123】
最内層であるTi0.50Al0.50N/Ti0.33Al0.67N層:
ターゲット材料:1×Ti0.50Al0.50/1×Ti0.33Al0.67
温度: 550℃
合計圧力: 10Pa
バイアス電位: -60V
【0124】
1.3μmの層が堆積された。
【0125】
最外層であるTi0.50Al0.50N/Ti0.33Al0.67N層:
ターゲット材料:1×Ti0.50Al0.50/2×Ti0.33Al0.67
温度: 550℃
合計圧力: 10Pa
バイアス電位: -50V
【0126】
1.2μmの層が堆積された。
【0127】
試験条件および試験データを以下に要約する。加工対象材料としてステンレス鋼(ISO-M)を使用した。
【0128】
試験条件:
工具形状:
インサート形状: ADMT160608R-F56
工具直径Dc: 63mm
設定角度k: 90°
歯の数/装着したインサート:3
【0129】
切削データ:
接触幅ae: 50mm
切削深さap: 3mm
切削速度: 240m/分
歯当たりの送り量:0.15mm
【0130】
加工対象:
材料 1.4571/V4A-ステンレス鋼
引張強度 720MPa
【0131】
切削液:なし、すなわち乾燥
【0132】
この試験では、逃げ面側の切削刃に最大摩耗が観察された。各コーティングの3つの切削刃を試験し、各切削長の平均値を表3に示す。
【0133】
比較試料は、ステンレス鋼(ISO-M)のフライス加工において非常に良好な結果をもたらすことが知られているコーティングを有する。それにもかかわらず、「試料4(本発明)」は、比較試料よりはるかに良好な性能を示すことが結論付けられる。
【国際調査報告】