(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】抗生物質耐性サンプルと抗生物質感受性サンプルとの識別
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240829BHJP
C12Q 1/18 20060101ALI20240829BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20240829BHJP
C12N 7/00 20060101ALI20240829BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240829BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240829BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20240829BHJP
C12M 1/42 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/18
C12Q1/70
C12N7/00
C07K16/00
C12M1/00 A
C12M1/34 B
C12M1/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503483
(86)(22)【出願日】2022-08-20
(85)【翻訳文提出日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 US2022040978
(87)【国際公開番号】W WO2023023388
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506147560
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ-オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF PITTSBURGH OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
(71)【出願人】
【識別番号】511082090
【氏名又は名称】デュケイン ユニバーシティー オブ ザ ホリー スピリット
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ケラム,ジュニア.,ジョン オールストン
(72)【発明者】
【氏名】エドガー,ロバート ヒュー
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト,シエラ リン
(72)【発明者】
【氏名】ビアター,ジョン,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ヘンペル,ジョン ディー.
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB02
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4H045EA50
4H045EA60
(57)【要約】
細菌の抗生物質耐性を特定する方法は、細菌を含むサンプルを複数のサブサンプルへと分割し、複数のサブサンプルの各々に標識剤を混合することを含む。各々の標識剤は、光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して検出可能である。標識剤はさらに活性化し、細菌と選択的に結合する。本方法はさらに、抗生物質を複数のサブサンプルのうちの一つ以上に適用し、複数のサブサンプルのうちの他の一つ以上には適用しないステップと、抗生物質が適用されたサブサンプルのうちの少なくとも一つ、及び、抗生物質が適用されていないサブサンプルのうちの少なくとも一つを、検出システムを介して特定された期間後に特徴付けるステップと、検出システムを介した特徴付けに基づいて細菌の抗生物質耐性を特定するステップと、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌の抗生物質耐性を特定する方法であって、
前記細菌を含むサンプルを複数のサブサンプルへと分割することと、
標識剤を混合することであって、各々の前記標識剤は光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して前記複数のサブサンプルのうちの各々を検出可能であり、前記標識剤は前記細菌と選択的に結合する活性を有する、標識剤を混合することと、
抗生物質を、前記複数のサブサンプルのうちの一つ以上に適用し、前記複数のサブサンプルのうちの他の一つ以上には適用しないことと、
前記抗生物質が適用された少なくとも一つのサブサンプル、及び、前記抗生物質が適用されていない少なくとも一つのサブサンプルを、前記検出システムを介して特定された期間後に特徴付けることと、
前記検出システムを介した特徴付けに基づいて、前記細菌の抗生物質耐性を決定することと、
を含む方法。
【請求項2】
前記検出システムを介した特徴付けは、前記特定された期間後に前記抗生物質が適用された前記少なくとも一つの前記サブサンプル中、及び、前記特定された期間後に前記抗生物質が適用されなかった前記少なくとも一つのサブサンプル中の前記細菌を定量することを含むことを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
細菌の抗生物質耐性を決定することが、抗生物質が適用されたサブサンプルの少なくとも一つにおける細菌の定量と、決定された期間後に抗生物質が適用されなかったサブサンプルの少なくとも一つにおける細菌の定量との間の差を特徴付けることを含む、請求項2に記載された方法。
【請求項4】
細菌の抗生物質耐性を決定することが、細菌が抗生物質に対して耐性であるか、または抗生物質に対して同種感受性であるかの決定を行うことを含む、請求項3に記載された方法。
【請求項5】
細菌の抗生物質耐性を決定することが、細菌が抗生物質に対して同種耐性、異種耐性または同種感受性であるかどうかの決定を行うことを含んでなる、請求項3に記載された方法。
【請求項6】
標識剤が、細菌に選択的に結合する活性を有する実体に付着した、検出システムを介して検出可能な一つ以上の標識を含む、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された方法。
【請求項7】
実体が、タンパク質、ペプチド、バクテリオファージ、またはバクテリオファージの一部からなる、請求項6に記載された方法。
【請求項8】
バクテリオファージの一部が、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、またはバクテリオファージ宿主認識タンパク質である、請求項7に記載された方法。
【請求項9】
一つ以上の標識が、実体に取り付けられた検出系を介して検出可能な化合物を含む、請求項6に記載された方法。
【請求項10】
一つ以上の標識が、実体に取り付けられた検出システムを介して検出可能な固体粒子を含み、固体粒子が、1nmから500μmの間のサイズ、10nmから500μmの間のサイズ、または10nmから100μmの間のサイズである、請求項6に記載された方法。
【請求項11】
複数の実体が固体粒子に付着している、請求項10に記載された方法。
【請求項12】
抗生物質が、アミノグリコシド類、カルバペネム類、アセフェロスポリン類、キノロン類、フルオロキノロン類、グリコペプチド類、リポグリコペプチド類、マクロライド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、ポリペプチド類リファマイシン、スルホンアミド、ストレプトグラミン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、ダプトマイシン、ホスホマイシン、レファムリン、メトロニダゾール、ムピロシン、ニトロフラントイン又はチゲサイクリンを含む、請求項6に記載された方法。
【請求項13】
実体が、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部分、またはバクテリオファージの宿主認識タンパク質である、請求項12に記載された方法、
【請求項14】
バクテリオファージの一部が、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、および一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部である、請求項7に記載された方法。
【請求項15】
十分な数の標識剤が細菌と混合され、少なくとも一つの標識剤が細菌の各細胞に結合する、請求項6に記載された方法。
【請求項16】
細菌の各細胞に複数の標識剤が結合するように、十分な数の標識剤が細菌と混合される、請求項6に記載された方法。
【請求項17】
バクテリオファージが、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有する、請求項6記載された方法。
【請求項18】
細菌細胞の溶解を遅延または除去するように改変され、細菌種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの少なくとも一部に付着した光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して検出可能な一つ以上の標識を含む標識剤。
【請求項19】
一つ以上の標識がバクテリオファージの一部に付着しており、バクテリオファージの核酸の少なくとも一部がバクテリオファージの一部から欠失している、請求項18に記載された標識剤。
【請求項20】
バクテリオファージの一部が、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、または宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部からなる、請求項19に記載された標識剤。
【請求項21】
一つ以上の標識が、検出システムを介して検出可能な化合物からなる、請求項18に記載された標識剤、
【請求項22】
一つ以上の標識が、検出システムを介して検出可能な固体粒子を含み、該固体粒子が、1nmから500μmの間のサイズ、10nmから500μmの間のサイズ、または10nmから100μmの間のサイズである、請求項19に記載された標識剤。
【請求項23】
固体粒子がバクテリオファージの複数の部分に付着している、請求項22に記載された標識剤。
【請求項24】
バクテリオファージの一部が、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、およびバクテリオファージの宿主認識タンパク質からなる群より選択される、請求項22に記載された標識剤。
【請求項25】
バクテリオファージの一部が、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、および一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの尾部の一部からなる群より選択される、請求項22に記載された標識剤、
【請求項26】
固体粒子が、検出系を介して本質的に検出可能であるか、または検出系を介して検出可能な一つ以上の実体を含む、請求項22に記載された標識剤。
【請求項27】
光音響波を検出するセンサーを含む光音響検出システムを介した検出のために細菌を標識化する方法であって、検出システムを介して検出可能な一つ以上の標識を含む標識化剤を細菌に付着させる工程を含み、一つ以上の標識は、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部に付着している、方法。
【請求項28】
一つ以上の標識がバクテリオファージの一部に結合され、バクテリオファージ核酸の少なくとも一部がバクテリオファージの一部から欠失する、請求項27に記載された方法。
【請求項29】
バクテリオファージの一部が、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、または宿主認識タンパク質を含む、請求項28に記載された方法。
【請求項30】
一つ以上の標識が、検出系を介して検出可能な化合物を含む、請求項28に記載された方法。
【請求項31】
一つ以上の標識が、検出システムを介して検出可能な固体粒子を含み、該固体粒子が、1nmと500μmの間のサイズ、10nmと500μmの間のサイズ、または10nmから100μmの間のサイズである、請求項28に記載された方法。
【請求項32】
固体粒子がバクテリオファージの複数の部分に付着している、請求項31に記載された方法。
【請求項33】
バクテリオファージの一部が、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、またはバクテリオファージの宿主認識タンパク質を含む、請求項31に記載された方法。
【請求項34】
バクテリオファージの一部が、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、または一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部を含む、請求項31に記載された方法。
【請求項35】
固体粒子が、検出システムを介して本質的に検出可能であるか、または検出システムを介して検出可能な一つ以上の実体を含む、請求項31に記載された方法。
【請求項36】
細菌の抗生物質耐性を決定する方法であって、
細菌の種、株、またはタイプがサンプル中に存在すると決定することと、
細菌の種、株、または種類がサンプル中に存在すると決定した後、光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して検出可能な標識を含む標識剤をサンプルと混合する工程であって、標識剤は、抗生物質に耐性を有する細菌の種、株、または種類の細菌と選択的に結合する活性を有することと、
検出システムを介した特徴付けに基づいて、細菌の種、株、またはタイプの抗生物質耐性を決定することと、
を含む、方法。
【請求項37】
検出システムを介した特徴付けが、標識剤が結合するサンプル中の細菌を定量することを含む、請求項36に記載された方法。
【請求項38】
細菌の種、株または型がサンプル中に存在することを決定することが、検出システムを介して検出可能な標識を含む標識化標識剤を混合することを含み、標識化標識剤が細菌の種、株または型と選択的に結合する活性を有し、検出システムを用いて細菌の種、株または型に結合した標識化標識剤の存在を決定することを含む、請求項36に記載された方法。
【請求項39】
組成物であって
第一の細菌に選択的に結合する実体、および該実体が該第一の細菌に選択的に結合する能力を保持するように該実体に付着した固体粒子であって、該固体粒子が、光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して検出可能である、固体粒子を含み、
固体粒子は、光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して検出可能であり、固体粒子のサイズは、1nmから500μmの間、10nmから500μmの間、または10nmから100μmの間である、組成物。
【請求項40】
第一の細菌に選択的に結合する実体が、タンパク質、ペプチド、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延させるかもしくは排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部からなる、請求項39に記載された組成物。
【請求項41】
第一の細菌に選択的に結合する実体が、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延または排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部を含む、請求項39に記載された組成物。
【請求項42】
第一の細菌に選択的に結合する実体が、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、およびバクテリオファージの宿主認識タンパク質からなる群から選択されるバクテリオファージの一部を含む、請求項39に記載された組成物。
【請求項43】
複数の実体が固体粒子に付着している、請求項39に記載された組成物。
【請求項44】
複数の実体が、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変されたバクテリオファージであって、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部を含む、請求項43に記載された組成物。
【請求項45】
複数の実体が、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、およびバクテリオファージの宿主認識タンパク質からなる群より選択されるバクテリオファージの一部を含む、請求項44に記載された組成物。
【請求項46】
バクテリオファージの一部が、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、およびバクテリオファージの宿主認識タンパク質からなる群より選択される、請求項45に記載された組成物。
【請求項47】
固体粒子が、検出系を介して本質的に検出可能であるか、または検出系を介して検出可能な一つ以上の実体を含む、請求項39に記載された組成物。
【請求項48】
固体粒子に付着した、第一の細菌とは異なる第二の細菌に選択的に結合する、第1の実体とは異なる少なくとも一つの他の実体をさらに含む、請求項39から請求項47のいずれか一項に記載された組成物。
【請求項49】
固体粒子に付着した、第一の細菌とは異なる第二の細菌に選択的に結合する、複数の少なくとも一つの他の実体をさらに含む、請求項48のいずれかに記載された組成物。
【請求項50】
他の実体が、タンパク質、ペプチド、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部を含む、請求項48に記載された組成物。
【請求項51】
他の実体が、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部からなる、請求項50に記載された組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[政府の権利]
本発明は、国立衛生研究所により授与された助成金No.CA182840に基づく政府の支援を受けてなされたものである。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
[関連出願との相互参照]
本出願は、2021年8月20日に出願された米国仮特許出願第63/235,406号の利益を主張するものであり、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
以下の情報は、以下に開示される技術およびそのような技術が通常使用され得る環境を理解する上で読者を支援するために提供される。本明細書において使用される用語は、本明細書において特に明記されない限り、特定の狭い解釈に限定されることを意図するものではない。本明細書に記載された参考文献は、技術またはその背景の理解を容易にする場合がある。本明細書において引用される全ての参考文献の開示は、参考として援用される。
【0004】
抗菌剤耐性は、世界の健康にとって最も差し迫った懸念事項のひとつとなっており、それゆえ研究や製品開発の焦点となっている。抗生物質耐性は、細菌が抗生物質の作用に打ち勝つ能力を付与する遺伝子カセットを獲得し、発現させることによって生じることがほとんどである。細菌は抗生物質に対する耐性を獲得するために、ポンプと酵素という2つの主要な戦略を用いる。ポンプは、抗生物質が限界レベルに達する前に細胞質から排出する働きをする。酵素は抗生物質が効果を発揮する前に、その分子を分解する働きをする。非遺伝的な抗生物質耐性も少数ではあるが存在し、多くの場合、細胞集団間の低分子伝達や細胞壁の一般的な不透過性によって媒介される。抗生物質に対する耐性は、抗生物質使用の必然的な結果である。ペニシリン耐性が初めて報告されたのは、ペニシリンが広く使用されてからわずか2年後のことであった。細菌の種類によって抗生物質耐性を獲得する経路は複数ある。抗生物質耐性を獲得する方法としては、遺伝子の水平移動が支配的である。
【0005】
黄色ブドウ球菌の抗生物質耐性の最も迅速な検査法は、mecA遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応に基づくPCR法である。PCR法は標準的な抗生物質ディスク法よりはるかに速いが、使用される症例は限られている。抗生物質ディスク法では、細菌の芝生の上に抗生物質ディスクを置き、抗生物質による阻害域を測定する必要がある。この方法では、最初の細菌同定からさらに24時間を要する。PCR法は3~4時間で完了するが、未知のサンプル条件や濃度、あるいは臨床的に関連する遺伝的形質やマーカーをマスクする亜集団の増幅に起因する失敗に悩まされる可能性がある。臨床医にとって最も問題となるのは、耐性株が感受性株と誤認された場合の偽陰性である。その結果、適切な抗菌薬治療が遅れ、患者に不利益をもたらす可能性がある。時折、これらの検査は菌株の耐性に関して中間的な、あるいは相反する結果を示すことがある。
【0006】
耐性遺伝子の発現が不均一な分離株は、患者の治療に重大な問題を引き起こす可能性がある。低発現株は、抗生物質ディスク法を用いたり、オキサシリンなどの第一選択抗生物質で治療したりすると、感受性があるように見える。場合によっては、大部分の細菌が死滅し、残りのわずかな割合が免疫系によって処理される。感染症が治ったように見えても、数日後に再発する場合もある。感染症は、患者が最初に発症した当初の細菌株によるものであることに変わりはないが、感染症が再出現するまでに要した時間に応じて、臨床医は感染症を未解決感染症または新規感染症として扱うことになる。感染の再発は、おそらく院内感染に分類されるであろう。院内感染は、メディケア・メディケイド・サービスセンターから払い戻しを受けられなくなった。さらに、院内感染が増加すると、各医療機関の院内感染状況スコアに悪影響を及ぼし、メディケア・メディケイドサービスからの資金と償還率が全体的に減少する。医療機関にとって、誤分類は、最初の市中感染に対して請求できなくなるため、コストのかかるミスである。
【0007】
フローサイトメトリーは、1968年にWolfgang Gohdeが初めて開発して以来、大規模で不均一な細胞集団の分析に効果的に用いられてきた。蛍光フローサイトメトリーは、対象物によるレーザー光の吸収と、その対象物からの別の波長の蛍光の検出に依存している。蛍光フローサイトメトリーにはいくつかの欠点があり、細菌同定への有用性が制限されることがある。光は非常に強力ではあるが、血液のような濁った環境では容易に消光または遮断される。さらに、単一細胞からの少量の光は、希薄なサンプルでは検出が困難な場合がある。蛍光フローサイトメトリーは、細胞数が多く、濁りのない透明な環境で最も効果的に機能する。一方、光音響フローサイトメトリー(Photoacoustic flow cytometry:PAFC)は、レーザー光の吸収と光音響効果によって生じる超音波の検出に依存している。
【0008】
光音響効果はさまざまな方法で利用されてきた。例えば、ポートワイン染みを治療するためのヒト組織の深度プロファイリングや、血管の光音響イメージングが行われている。PAFCは循環腫瘍細胞の算定に用いられ、メラノーマの転移を予測する確かな指標であることが示されている。さらに、PAFCはいくつかのグループによって、循環腫瘍細胞の分離に成功した。PAFCは、複雑な環境にある希少な個々の粒子を見つけるために開発された。光音響効果によって発生する超音波は頑強で、細胞懸濁液や血液サンプルのような濁った媒体中では消衰しない。最近、PAFCは血液サンプルにin vitroで使用され、光学タグとして改変されたバクテリオファージを使用して細菌を検出・同定している。Edgar, R. H. et al., "Bacteriophage-mediated identification ofbacteria using photoacoustic flow cytometry Journal of Biomedical Optics24(11), p. 115003 (2019)、並びに、米国特許第10,544,443号および第10,961,557号の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
臨床サンプル中の抗生物質感受性細菌と抗生物質耐性細菌を区別することができ、また異種の抗生物質耐性細菌を区別することができる検査に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一つの態様において、細菌の抗生物質耐性を決定する方法は、細菌を含むサンプルを複数のサブサンプルに分割し、複数のサブサンプルの各々に標識剤を混合することを含む。標識剤はそれぞれ、光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して検出可能である。標識剤はさらに、細菌と選択的に結合する活性を有する。本方法はさらに、抗生物質を複数のサブサンプルの一つ以上に適用し、複数のサブサンプルの他の一つ以上には適用しないことと、検出システムを介して、抗生物質が適用されたサブサンプルの少なくとも一つと抗生物質が適用されていないサブサンプルの少なくとも一つとを決定された期間後に特徴付けることと、検出システムを介した特徴付けに基づいて細菌の抗生物質耐性を決定することとを含む。検出システムを介した特徴付けは、例えば、抗生物質が適用されたサブサンプルの少なくとも一つと、決定された期間後に抗生物質が適用されなかったサブサンプルの少なくとも一つにおける細菌を定量することを含み得る。多数の実施形態において、細菌の抗生物質耐性を決定することは、抗生物質が適用されたサブサンプルのうちの少なくとも一つにおける細菌の定量と、決定された期間の後に抗生物質が適用されなかったサブサンプルのうちの少なくとも一つにおける細菌の定量との間の差を特徴付けることを含む。
【0011】
多数の実施形態において、細菌の抗生物質耐性を決定することは、細菌が抗生物質に対して耐性であるか、または抗生物質に対して同種感受性であるかの決定を行うことを含む。多数の実施形態において、細菌の抗生物質耐性を決定することは、細菌が抗生物質に対して同種耐性、異種耐性または同種感受性であるかどうかの決定を行うことを含む。
【0012】
多くの実施形態において、標識剤は、細菌に選択的に結合する活性を有する実体を含む。標識剤は、例えば、タンパク質(例えば、抗体または宿主認識タンパク質)、ペプチド、バクテリオファージ、または細菌に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部(例えば、一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部または部分)を含み得る。バクテリオファージは、例えば、細菌の種に選択的に結合する活性を保持しながら、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変され得る。本明細書での使用に適したバクテリオファージの部分には、例えば、バクテリオファージゴースト、カプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージの部分(例えば、尾部)、バクテリオファージの部分(例えば、尾部、フィラメント、または宿主認識/付着機能性を含むバクテリオファージの他の部分の部分)、または宿主認識タンパク質が含まれる。多くの実施形態において、バクテリオファージの一部またはバクテリオファージ部分は、以下にさらに記載されるように、溶菌が完全なバクテリオファージと比較して遅延されるかまたは排除されるように、そこから核酸の一部または全部を除去するように改変された後に残るバクテリオファージの部分である。
【0013】
多数の実施形態において、タンパク質は抗体または宿主認識タンパク質である。多数の実施形態において、バクテリオファージの部分は、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの部分、またはバクテリオファージ宿主認識タンパク質を含むか、またはバクテリオファージゴーストである。バクテリオファージの部分は、例えば、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ(例えば、バクテリオファージタッド)、または一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの部分(例えば、尾部または繊維の部分)であってもよい。
【0014】
多くの実施形態において、標識剤は、細菌に選択的に結合する活性を有する実体(例えば、タンパク質、ペプチド、バクテリオファージ、または細菌に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部)に付着した検出システムを介して検出可能である/検出可能である一つ以上の標識を含む。つまたは複数の標識は、例えば、細菌に選択的に結合する活性を有する実体(例えば、タンパク質、ペプチド、バクテリオファージ、またはバクテリオファージの一部に結合している)に付着した検出システムを介して検出可能な化合物を含むことができる。つ以上の標識は、例えば、実体に付着した検出システムを介して検出可能な固体粒子を含み得、ここで固体粒子は、1nmから500μmのサイズ、10nmから500μmのサイズ、または10nmから100μmのサイズである。多数の実施形態において、標識剤は、細菌に選択的に結合する活性を有する複数の実体に付着した固体粒子からなる。多数の実施形態において、複数の実体が固体粒子に付着される。複数の実体は、例えば、バクテリオファージの複数の部分を含み得る。
【0015】
十分な数の標識剤は、例えば、少なくとも一つの標識剤が細菌の各細胞に結合するように細菌と混合され得る。多数の実施形態において、十分な数の標識剤は、複数の標識剤が細菌の各細胞に結合されるように細菌と混合される。
【0016】
抗生物質としては、例えば、アミノグリコシド、カルバペネム、アセファロスポリン、キノロン、フルオロキノロン、グリコペプチド、リポグリコペプチド、マクロライド、オキサゾリジノン、ペニシリン、ポリペプチド、リファマイシン、スルホンアミド、ストレプトグラミン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、ダプトマイシン、ホスホマイシン、レファムリン、メトロニダゾール、ルンピロシン、ニトロフラントイン又はチゲサイクリンを含んでもよい。
【0017】
別の態様において、標識剤は、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの少なくとも一部に付着した光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して検出可能な一つ以上の標識を含む。多数の実施形態において、一つ以上の標識は、バクテリオファージの一部に付着され、バクテリオファージ核酸の少なくとも一部または一部は、バクテリオファージの一部から欠失している。バクテリオファージの一部は、例えば、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、または宿主認識タンパク質を含むか、またはそれらである。バクテリオファージの部分は、例えば、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ(例えば、バクテリオファージ尾部)、または一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの部分(例えば、尾部またはフィラメントの部分)であってもよい。上述したように、タンパク質は、例えば、抗体または宿主認識タンパク質であり得る。
【0018】
一つまたは複数の標識は、例えば、細菌に選択的に結合する活性を有する実体に付着した検出システムを介して検出可能な化合物(例えば、タンパク質、ペプチド、バクテリオファージ、またはバクテリオファージの一部に付着したもの)を含んでもよい。一つ以上の標識は、例えば、実体に付着した検出システムを介して検出可能な固体粒子を含み得、ここで、固体粒子は、サイズが1nmから500μmの間、サイズが10nmから500μmの間、またはサイズが10nmから100μmの間であり、多数の実施形態において、標識剤は、細菌に選択的に結合する活性を有する複数の実体に付着した固体粒子を含む。多数の実施形態において、複数の実体は固体粒子に付着される。複数の実体は、例えば、バクテリオファージの複数の部分を含み得る。固体粒子は、検出システムを介して本質的に検出可能であってもよいし、検出システムを介して検出可能な一つ以上の実体(例えば、基または化合物)を含んでもよい。
【0019】
別の態様において、光音響波を検出するセンサーを含む光音響検出システムを介した検出のために細菌を標識する方法は、検出システムを介して検出可能な一つ以上の標識を含む標識剤を細菌に付着させることを含む。つ以上の標識は、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの少なくとも一部、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部に付着される。
【0020】
多数の実施形態において、一つ以上の標識は、バクテリオファージの一部に付着され、ここで、バクテリオファージ核酸の少なくとも一部または一部は、バクテリオファージの一部から欠失している。バクテリオファージの一部は、例えば、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、または宿主認識タンパク質を含むか、またはそれらである。バクテリオファージの部分は、例えば、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ(例えば、バクテリオファージ尾部)、または一つ以上の宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの部分(例えば、尾部または繊維の部分)であってもよい。
【0021】
上述のように、一つ以上の標識は、例えば、検出システムを介して検出可能な化合物を含んでもよい。つまたは複数の標識は、例えば、検出システムを介して検出可能な固体粒子を含んでもよく、ここで、固体粒子は、サイズが1nmから500μm、サイズが10nmから500μm、またはサイズが10nmから500μmの間である。多数の実施形態において、複数のバクテリオファージまたは複数のバクテリオファージの部分は、固体粒子に付着される。多数の実施形態において、バクテリオファージの複数の部分は、固体パニクルに付着される。固体粒子は、検出システムを介して本質的に検出可能であってもよいし、検出システムを介して検出可能な一つ以上の実体(例えば、基または化合物)を含んでもよい。
【0022】
別の態様において、細菌の抗生物質耐性を決定する方法は、細菌の種、株、またはタイプがサンプル中に存在することを決定すること、細菌の種、株、またはタイプがサンプル中に存在することを決定した後、光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して検出可能な標識を含む標識剤をサンプルと混合することを含む、ここで、標識剤は、抗生物質に耐性を有する細菌の種、株、またはタイプの細菌と選択的に結合する活性を有し、検出システムを介した特徴付けに基づいて細菌の種、株、またはタイプの抗生物質耐性を決定する。検出システムを介した特徴付けは、標識剤が結合したサンプル中の細菌を定量することを含み得る。
【0023】
多くの実施形態において、細菌の種、株、またはタイプがサンプル中に存在することを決定することは、検出システムを介して検出可能な標識を含む標識化標識剤を混合することを含む。標識化標識剤は、細菌の種、株、または種類と選択的に結合する活性を有する。本方法はさらに、検出システムを使用して、細菌の種、株、または種類に結合した標識化標識剤の存在を決定することを含む。
【0024】
さらなる態様において、組成物は、第一の細菌に選択的に結合する実体と、実体が第一の細菌に選択的に結合する能力を保持するように、実体に付着した固体粒子とを含む。固体粒子は、光音響波を検出するセンサーを含む検出システムを介して検出可能であり、固体粒子のサイズは1nmから500μm、10nmから500μm、または10nmから100μmの間のサイズである。固体粒子は、検出システムを介して本質的に検出可能であってもよいし、検出システムを介して検出可能な一つ以上の実体を含んでもよい。
【0025】
第一の細菌に選択的に結合する実体は、例えば、タンパク質、ペプチド、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延または排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部を含み得る。多数の実施形態において、第一の細菌に選択的に結合する実体は、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部を含む。第一の細菌に選択的に結合する実体は、例えば、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部分、およびバクテリオファージの宿主認識タンパク質からなる群から選択されるバクテリオファージの一部分であるか、またはそれらを含み得る。
【0026】
多数の実施形態において、複数の実体が固体粒子に付着される。複数の実体は、例えば、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延させるかまたは排除するように改変されたバクテリオファージであって細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または上記のように細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部を含み得る。多数の実施形態において、複数の実体の各々は、バクテリオファージゴースト、少なくともそのカプシドの一部が除去されたバクテリオファージ、宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、およびバクテリオファージの宿主認識タンパク質からなる群より選択されるバクテリオファージの一部を含む。バクテリオファージの一部は、例えば、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージ、宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部、およびバクテリオファージの宿主認識タンパク質からなる群から選択され得る。
【0027】
多数の実施形態において、組成物は、微粒子に付着した第一の細菌とは異なる第二の細菌に選択的に結合する、第一の実体とは異なる少なくとも一つの他の実体をさらに含む。組成物は、例えば、微粒子に付着した、第一の細菌とは異なる第二の細菌に選択的に結合する、少なくとも一つの他の実体をさらに複数含み得る。
【0028】
多数の実施形態において、他の実体は、タンパク質、ペプチド、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延または排除するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部を含む。多くの実施形態において、他の実体は、バクテリオファージ、細菌細胞の溶解を遅延または除去するように改変され、細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージ、または細菌の種に選択的に結合する活性を有するバクテリオファージの一部を含む。
【0029】
本発明の装置、システム、方法、および組成物は、その属性および付随する利点とともに、添付の図面と併せて考慮される以下の詳細な説明を考慮して、最もよく理解され、理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、尾部鞘、カプシド、および尾部繊維が標識されたバクテリオファージDet7ビリオン粒子の透過型電子顕微鏡又はTEM顕微鏡の写真を示し、TEM顕微鏡写真は、酢酸ウラニル染色を伴うLeica TEMを使用して52,000倍の倍率で撮影された。
【0031】
【
図2】
図2は、Leppanen et al、"Imaging bacterialcolonies and phage-bacterium interaction at sub-nanometer resolution usinghelium-ion microscopy," Advanced Biosystems 1(8), p.1700070 (2017)と、細菌細胞に付着したバクテリオファージ粒子、標識されたバクテリオファージ、標識されたバクテリオファージゴースト、およびカプシドが完全に除去されたバクテリオファージの標識された尾部の模式図であり、バクテリオファージゴースト中のカプシドに内在する光音響標識がグレースケールで図示されている。
【0032】
【
図3】
図3は、本システムの識別のためにラベル付けされたポートを有する光音響フローチャンバーの実施形態を概略的に示す。
【0033】
【
図4A】
図4Aは、ダプトマイシンに対する感受性を示す臨床分離株の未処理培養物および処理培養物の研究を示す図であり、左上のパネル(a)は2時間の増殖分化についての光学密度(OD)を示し、右上のパネル(b)は16時間の全増殖についての光学密度を示し、中央のパネル(c)は2時間のタイムポイントで試験されたサンプルの光音響検出による細胞数を示し、処理されたサンプルにおける増殖の完全な阻害およびゼロ検出が観察される。
【0034】
【
図4B】
図4Bは、ダプトマイシンに対する耐性を示す臨床分離株の未処理培養物および処理培養物の研究を示し、左上のパネル(a)は2時間の増殖分化の光学密度を示し、右上のパネル(b)は16時間の全増殖の光学密度を示し、中央のパネル(c)は2時間のタイムポイントで試験したサンプルの光音響検出による細胞数を示し、増殖の遅延または阻害が観察されず、処理サンプルおよび未処理サンプルの両方が同時に指数関数的増殖に達する。
【0035】
【
図4C】
図4Cは、ダプトマイシンに対する異種耐性を示す臨床分離株(異種株A)の未処理培養物および処理培養物の研究を示す図であり、左上のパネル(a)は2時間の増殖分化の光学密度を示し、右上のパネル(b)は16時間の全増殖の光学密度を示し、中央のパネル(c)は2時間のタイムポイントで試験したサンプルの光音響検出による細胞数を示し、指数関数的増殖の遅延が観察される。
【0036】
【
図4D】
図4Dは、ダプトマイシンに対する異種耐性を示す別の臨床分離株(異種株B)の未処理培養物および処理培養物の研究を示す図であり、左上のパネル(a)は2時間の増殖分化の光学密度を示し、右上のパネル(b)は16時間の増殖の光学密度を示し、中央のパネル(c)は2時間のタイムポイントで試験したサンプルの光音響検出による細胞数を示し、初期増殖の遅延は観察されないが、1.5時間から試験終了まで続く。
【0037】
【
図5】
図5は、Direct Red(又はDRED)及びヨウ化プロピジウム(ProID)を含むゴースト粒子(13)と、DRED及び臭化エチジウム(EthBr)を含むゴースト粒子(G2)と、DREDを含むゴースト粒子(G1)とを含むチューブを示す。
【0038】
【
図6A-6B】
図6Aは、ランダムな配向で結合した複数のファージ尾部を有する単一の機能化マイクロ粒子を示す。
【0039】
図6Bは、付着したファージ尾部を有する複数の機能化マイクロ粒子を示す。
【0040】
【
図7】
図7は、赤色および青色色素で機能化したマイクロ粒子の吸光度スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本明細書の図に一般的に記載され図示されたような実施形態の構成要素は、記載された代表的な実施形態に加えて、多種多様な異なる構成で配置され設計され得ることが容易に理解されるであろう。したがって、図に示されるような代表的な実施形態のより詳細な以下の説明は、特許請求されるような実施形態の範囲を限定することを意図するものではなく、単に代表的な実施形態を例示するものである。
【0042】
本明細書全体を通して「一実施形態」または「一実施形態」(またはその類)に対する言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも一つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な箇所で「一実施形態において」または「一実施形態において」などの表現が現れるのは、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではない。
【0043】
さらに、記載された特徴、構造、または特性は、一つまたは複数の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせることができる。以下の説明では、実施形態を完全に理解するために、多数の具体的な詳細が提供される。しかしながら、関連技術の当業者であれば、様々な実施形態は、一つ以上の具体的な詳細がなくても、または他の方法、構成要素、材料などを用いて実施することができることを認識するであろう。他の例では、よく知られた構造、材料、または操作は、難読化を避けるために詳細に示されず、または説明されない。
【0044】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでないことが指示されない限り、複数の参照を含む。したがって、例えば、「a label(標識)」への言及は、当業者に公知の複数のそのようなラベルおよびその等価物などを含み、「the label(標識)」への言及は、当業者に公知の一つまたは複数のそのような標識およびその等価物などへの言及である。本明細書における値の範囲の記載は、単に、範囲内に入る各個別の値を個別に参照する略記法としての役割を果たすことを意図している。本明細書において別段の指示がない限り、各別の値、および中間の範囲は、本明細書においてあたかも個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書で説明するすべての方法は、本明細書で特に指示しない限り、または本文で明らかに禁忌としない限り、任意の適切な順序で実行することができる。
【0045】
本明細書で使用する「電子回路」、「回路」または「回路」という用語は、機能または動作を実行するためのハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、またはそれぞれの組み合わせを含むが、これらに限定されない。例えば、所望の機能または必要性に基づいて、回路は、ソフトウェア制御マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)などのディスクリートロジック、または他のプログラムされたロジックデバイスを含むことができる。回路はまた、完全にソフトウェアとして具現化されることもある。本明細書において、「回路」は「論理」と同義である。本明細書で使用される「ロジック」という用語は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、または機能もしくは動作を実行する、または別のコンポーネントから機能もしくは動作を引き起こすためのそれぞれの組み合わせを含むが、これらに限定されない。例えば、所望の用途または必要性に基づいて、ロジックは、ソフトウェア制御マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)などのディスクリートロジック、または他のプログラムされたロジックデバイスを含むことができる。ロジックはまた、ソフトウェアとして具現化されることもある。
【0046】
本明細書で使用される「プロセッサ」には、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、中央処理装置(CPU)、およびデジタル信号プロセッサ(DSP)など、実質的に任意の数のプロセッサシステムまたはスタンドアロンプロセッサの一つ以上が含まれるが、これらに限定されない。プロセッサは、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、プログラマブル・リードオンリーメモリ(PROM)、消去可能プログラマブル・リードオンリーメモリ(EPROM)、クロック、デコーダ、メモリ・コントローラ、または割り込みコントローラなど、プロセッサの動作をサポートする他の様々な回路と関連付けられることがある。これらのサポート回路は、プロセッサまたはその関連電子パッケージの内部または外部にある場合がある。サポート回路は、プロセッサと動作可能に通信する。サポート回路は、ブロック図または他の図面において、必ずしもプロセッサから分離して示される必要はない。
【0047】
本明細書で使用する「ソフトウェア」という用語は、コンピュータまたは他の電子デバイスに機能、動作、または所望の態様での動作を実行させる一つまたは複数のコンピュータ可読命令または実行可能命令を含むが、これらに限定されない。命令は、ルーチン、アルゴリズム、モジュール、または別個のアプリケーションや動的にリンクされたライブラリからのコードを含むプログラムなど、様々な形態で具現化することができる。ソフトウェアはまた、スタンドアロンプログラム、ファンクションコール、サーブレット、アプレット、メモリに格納された命令、オペレーティングシステムの一部、または他のタイプの実行可能命令など、さまざまな形態で実装される可能性がある。ソフトウェアの形態は、例えば、所望のアプリケーションの要件、それが実行される環境、または設計者/プログラマーなどの欲求に依存することが、当業者には理解されるであろう。
【0048】
細菌耐性は、世界的に増大し続けている問題である。CDCによる2019年の抗生物質耐性の脅威に関する報告書では、米国では毎年230万人以上の抗生物質耐性感染症が発生していると推定されている。菌血症は重篤で致死的となりうる病態である。黄色ブドウ球菌は菌血症の主要な原因であり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が症例の3分の1以上を占めている。メチシリン感受性黄色ブドウ球菌と比較して、MRSAは致死的となる可能性が2倍以上ある。さらに、一見同種と思われる細菌の亜集団が、しばしば不均一耐性と呼ばれる様々な抗生物質感受性を示すことがある。このような不均一な抗生物質耐性感染症は、院内二次感染として誤診されることが多いが、これは同系統の抗生物質耐性と不均一な抗生物質耐性を鑑別できる検査が臨床的に用いられていないからである。同種感受性、同種耐性、および異種耐性または異種耐性は、例えば、Dewachter, L. et al.,"Bacterial Heterogeneity and Antibiotic Survival: Understanding andCombatting Persistence and Heteroresistaace," Molecular Cell 76, 255-267(2019)で議論されており、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。本明細書の装置、システム、および方法の多数の実施形態では、抗生物質耐性および感受性細菌感染の特性化および鑑別を伴う光音響フローサイトメトリーおよび標識バクテリオファージを使用して、迅速な細菌同定が達成される。
【0049】
光音響フローサイトメトリーでは、パルスレーザー光が、集束トランスデューサーおよびレーザー光を吸収して音響応答を生じる粒子を通過して流れるサンプルに照射される。光学的に標識されたバクテリオファージは、例えば、光音響チャンバーを流れる細菌混合物に添加される。標的細菌の存在は、光音響的に検出される結合した標識ファージによって決定される。
【0050】
多くの代表的な研究において、抗生物質ダプトマイシンの存在下および非存在下での細菌サンプルのインキュベーションにより、細菌細胞の定量化(すなわち、細胞数、細胞質量、光学密度など)に差が生じ、これは、例えば、光音響フローサイトメトリーを用いて定量化される。細菌細胞は、光音響的に応答するタグ、ラベル、または色素を含む細菌と結合する標識剤と組み合わされる。上述したように、標識剤の光音響タグ、ラベル、または色素は、光の吸収時に検出可能な音響/音波または圧力波を発生または放出し、このような音響/音波または圧力波は、例えば、光音響センサーを含む検出:システムを用いて検出可能である。
【0051】
さらに上述したように、抗生物質耐性を決定する代表的なシステムを開発するために、代表的な抗生物質であるダプトマイシンを、分子標識またはタグ剤として光音響フローサイトメトリーおよびバクテリオファージと併用して、本明細書の多くの研究において使用した。ダプトマイシンは、他の抗生物質クラスとの交差耐性の欠如、およびMRSA分離株に対する広範な活性を示した。
【0052】
バクテリオファージは、特異的な方法で細菌に感染するウイルスであり、細菌株の分類に使用することができる。バクテリオファージが宿主細菌を識別し、選択的に強固に結合する能力は、バクテリオファージのフィットネスと進化的生存に不可欠である。複雑な環境であっても、バクテリオファージは数秒以内に標的細菌を識別し結合することができる。バクテリオファージの宿主への結合は、長い尾部繊維または尾部スパイクタンパク質とのタンパク質間相互作用を介して達成される。
【0053】
それらのタンパク質は、自然界に見出される最も安定なタンパク質複合体の一つであるように発展してきた。抗体のようなタンパク質を含む多くの実体が、本明細書の方法において細菌プローブとして細菌細胞に付着するために使用され得るが、バクテリオファージの宿主認識タンパク質(バクテリオファージのタイプに応じて、例えばバクテリオファージの尾部またはフィラメント上に見出される)は、例えば抗体よりも多くの利点を有する。例えば尾部繊維やフィラメントに宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージは、細菌宿主内でバクテリオファージが自己複製する過程で生産されるため、抗体よりも生産コストが低い。尾部線維を含むバクテリオファージの電子顕微鏡写真を
図1に示す。さらに、バクテリオファージ、または宿主認識タンパク質を含むバクテリオファージの一部/部分は、抗体よりも安定である。一般に、バクテリオファージの一部またはバクテリオファージの部分とは、以下にさらに記載されるように、完全なバクテリオファージと比較して溶解が遅延または排除されるように、そこからすべての核酸の一部を除去した後に残るバクテリオファージの部分である。バクテリオファージの宿主認識タンパク質は特定のレセプターに結合する。バクテリオファージの尾部繊維やフィラメントは抗体よりも特異性が高く、細菌の必須表面抗原に結合するように進化してきたため、細菌が変化しにくい。バクテリオファージは細菌とともに進化し、抗生物質耐性を獲得した新しい亜種の細菌にまで分化してきた。バクテリオファージが細菌の表面抗原に付着する様子は、
図2に写真と図式で示されている。
【0054】
バクテリオファージによって提供されるPAFCシステム100(
図3参照)と関連して使用される場合のさらなる利点は、サイズが重要な役割を果たすことである。この点に関して、単一の自由浮遊ファージ粒子は、通常、または選択的に、光音響システムの検出閾値以下である。バクテリオファージは細菌細胞表面の外表面抗原に結合するため、複数のバクテリオファージが一つの細胞に結合することができる。個々の細胞に結合するバクテリオファージの数について。Max Delbruckは1930年代に、バクテリオファージが表面レセプターに結合する際、大多数の細菌細胞にはバクテリオファージがすべて結合し、ごく少数の細菌細胞にはそれ以上またはそれ以下しか結合しないというパターンがあることを証明しました。標識されたバクテリオファージ(または標識された選択的に結合する部分)が細菌細胞の表面で凝集すると、検出可能な音響応答を生じるのに十分な大きさの光吸収体を形成する。その結果、光音響検出システムの感度によっては、目的のバクテリオファージの標的細菌からのみ音響信号が検出され、結合していないバクテリオファージからは検出されないことがある。多くの代表的な研究において、例えば、音響信号振幅の閾値はノイズフロアの2.5倍に設定されており、これは、バクテリオファージが結合していない細菌細胞でさえ、検出可能で定量可能な信号を生じることを意味する。
【0055】
さらに、細菌細胞懸濁液は、ポアソン分布に従って、検出体積中の細胞の期待値が1個になるように希釈することができる。よく混合されたサンプルからの細胞の均一な分布を仮定すると、検出の大部分は一つの細菌細胞を有するが、二つの細菌細胞を有するものもある。三つ以上の検出はごくわずかである。単純な振幅閾値検出では、閾値に達するのに十分な数がある限り、本方法は、付着したバクテリオファージ、バクテリオファージ部分、または他の選択的結合エンティティの相対数に依存しない。光音響信号の自動分類器は、十分に大規模なデータプールの特性評価によって生成される可能性がある。
【0056】
BioTek Synergy H1プレートリーダー(BioTek Instruments (of Agilent Technologies)、Winooski, Vermontから入手可能)を用いて、
図4Aから
図4Dに示すような代表的な細菌である黄色ブドウ球菌の複数の臨床分離株の増殖曲線を決定した。黄色ブドウ球菌分離株の増殖率は、代表的な抗生物質であるダプトマイシンの存在下と非存在下で試験した。増殖速度の差は、16時間の増殖曲線の2時間後に識別可能であった。時間後の差異は、Newton-Raphson根探索法によって確認された。
【0057】
ダプトマイシンで処理したサンプルは、耐性、感受性、および異種耐性の3つのカテゴリーに分類された。耐性株とは、未処理のコントロールに対して処理したサンプルで増殖阻害が観察されなかった株である。耐性株では、指数関数的増殖速度は処理サンプルと無処理サンプルの間でほぼ同じであり、担持能力もほぼ同じであった。感受性株とは、未処理コントロールに対して処理サンプルでほぼ完全な増殖阻害を示す株である。
【0058】
異種耐性株とは、クローン分離株(遺伝的に同一)の増殖曲線が、感受性増殖曲線と耐性増殖曲線の中間である株である。異種耐性株は、例えば、指数関数的増殖期への到達が遅れるか、指数関数的増殖の達成が完全に遅れるかのいずれかを示した。すべてのサンプルは、増殖速度の測定と並行して、PAFCシステムを用いて試験された。各菌株の増殖曲線は、報告された遺伝子型と一致させた。0.25μg/mlのダプトマイシンで感受性を示した株は、ゲノムにmecA遺伝子が存在しないMRSA株と遺伝子型的に一致した。
【0059】
多くの研究において、SP1バクテリオファージを、黄色ブドウ球菌株AS113(ATCC、バージニア州オールドタウンManassasから入手可能)を用いて増殖させ、R. H. Edgar, et al,"Bacteriophage-mediated identification of bacteria using photoacousticflow cytometry Journal of Biomedical Option 24(11). p. 115003, 2019、並びに、米国特許第10,544,443号及び第10,961,557号に記載されている方法を用いて濃縮した。1ミリリットルあたり1×1012のプラーク形成単位(PFU/ml)の精製ファージを、Direct Red81色素(Sigma Aldrich, Saint Louis, Missouriから入手可能)の飽和溶液に添加した。その後、ウイルス粒子をペレット化し、緩衝液(10mMのTris、pH7.5、10mMのMgCl2、68mMのNaCl)に再懸濁した。未結合の色素を確実に除去するために、このプロセスを繰り返した。染色したファージの吸光度スペクトルをBioTek H1を用いて測定し、染色していないファージ粒子の吸光度スペクトルと比較した。染色されたファージは、染色プロセスによる有害な影響が観察されないことを確認するために、タイトリングされた。染色されたファージは、150日後に感染能力について再試験されたが、力価に差は観察されなかった。
【0060】
すべての菌株を、ダプトマイシンの存在下および非存在下で試験した。ここでの多くの研究において、培養物を新鮮な培地に希釈し、25μg/mlのダプトマイシンの存在下および非存在下で2時間再成長させた。その後、各サンプルを細菌細胞あたり複数の染色ファージとともに室温で10分間インキュベートした。インキュベートされたサンプルはPAFCシステム100で処理され、検出された細胞数が記録された。単離株は、プレートリーダーとPAFCシステムの両方で3倍ずつ試験した。検出された細胞数(パネル(c))は、
図4Aから
図4Dの対応する増殖曲線(パネル(a)および(b))とともに表示されている。
【0061】
上記のように、
図4Aから
図4Dの研究において、4つの臨床分離株をダプトマイシンの存在下および非存在下で試験した。各単離株の光音響事象を記録し、成長曲線と比較した。再び、代表的な抗生物質であるダプトマイシンで処理したサンプルは、感受性(
図4A)、耐性(
図4B)、異種耐性(
図4Cおよび
図4D)の3つのカテゴリーに分類された。
図4Aから
図4Dでは、未処理培養と処理培養の成長曲線が表示されている。各図において、左側のパネル(a)は2時間の増殖分化を示し、パネル(b)は16時間の全増殖を示し、パネル(c)は2時間の時点で試験した各サンプルの光音響検出により決定した細胞数を示す。
【0062】
ダプトマイシンは、標準的なオキサシリンよりもMRSA分離株に対してより広範に活性を示すことが判明した。上述のように、ダプトマイシンは他の抗生物質クラスとの交差耐性の欠如を示している。ダプトマイシンに対する感受性は、MRSA(MIC0.25~1μg/ml)とVRSA(MIC>4μg/ml)の両方に対して用量依存的である。ダプトマイシンは、いくつかの研究で使用され、ヨーロッパ中で試験された抗生物質耐性黄色ブドウ球菌株に対して広く有効であったように、0.25μg/mlの濃度で使用された。
【0063】
各細菌株の増殖曲線を、報告された遺伝子型と一致させた。0.25μg/mlのダプトマイシンで感受性を示した株は、ゲノムにmecA遺伝子が存在しないMRSA株と遺伝子型的に一致した。ダプトマイシン存在下では、
図4Aに見られるように、2時間または16時間のいずれの時点でも、同種の感受性株では増殖がほとんど観察されなかった。光学密度またはOD成長曲線と光音響反応を関連付けるため、ダプトマイシンの存在下および非存在下で、複数の菌株をPAFCシステムで試験した。光音響検出のために、細菌細胞に光吸収を付加するために、再懸濁した培養液に染色したバクテリオファージSPIを添加した。同種の感受性株では、
図4Aに見られるように、処理した細菌培養物から細菌は検出されず、増殖が完全に阻害されたことが示された。上述したように、PAFCシステムの結果は、16時間の増殖曲線によって裏付けられ、4時間以内に抗生物質感受性を同定する能力を実証した。
【0064】
再び、耐性株は2つの異なるカテゴリーに分類された。本明細書で均一耐性株と定義するものは、ダプトマイシン存在下および非存在下での増殖が区別できない株である。均一耐性株の例を
図4Bに示す。均一耐性は、mecA遺伝子の発現が完全に浸透しているとも言える。PAFCで試験した場合、均一耐性株では、処理した培養と未処理の培養のそれぞれで、同一またはほぼ同一の細胞数が検出される。一方、異種耐性株は、
図4Cおよび
図4Dに示すように、増殖にわずかな遅延が観察された株であり、多くの遺伝子型耐性株はダプトマイシン存在下で中間的な増殖を示した。増殖阻害のレベルは、その集団におけるmecA遺伝子発現の浸透度と相関している。異種耐性株AおよびB(それぞれ
図4Bおよび
図4C)は、ダプトマイシン存在下で増殖曲線が中間的な阻害(すなわち、同種感受性株および同種耐性株の阻害の中間)を示した株の代表例である。異種耐性株を
図3のPAFCシステムで試験すると、増殖曲線と検出された細胞数の中間値との間に裏付けが観察された。
図4Dの異種耐性株Bは、増殖の遅延と、完全ではないが大きな増殖阻害の両方を示した。
【0065】
増殖曲線のデータとPAFCの結果を組み合わせると、ヘテロジニアスA株とB株はmecA遺伝子の発現においてヘテロジニアスであることが判明した。この結果は、
図4CのHeterogeneous Resistant A株はmecA遺伝子に由来する抵抗性を高い浸透率で発現しているのに対し、
図4DのHeterogeneous Resistant B株はmecA遺伝子を低い浸透率で発現していることを示している。RNASeqを実施して、遺伝子発現の浸透度を成長曲線およびPAFCから検出された細胞とさらに相関させてもよい。
【0066】
本装置、システム、および方法は、例えば天然由来のバクテリオファージプローブの特異性とレーザー誘起超音波の頑健な性質を利用して、多種多様なサンプル培地における細菌種およびその抗生物質感受性を客観的に同定するための迅速で明確な方法を提供する。例えば、黄色ブドウ球菌の抗生物質耐性を4時間以内に同定することができる。この4時間には、抗生物質を用いた場合と用いない場合の2時間の培養が含まれ、その後、光音響検査が行われるが、その時間は2時間以下である。さらに、ここでの研究結果は、誤認されがちな異種耐性株を同定する能力を示している。患者の治療における利点に加え、異種耐性黄色ブドウ球菌の正しい同定は、例えば、病院の経費や資源を節約できる可能性がある。
【0067】
特定の抗生物質治療に対する同種耐性、異種耐性、または感受性として細菌を特徴付けまたは分類するための閾値は、本方法論において開発することができる。このような閾値は、例えば、文脈に敏感であってもよい。さらに、臨床医は、
図4Aから
図4Cに示される代表的な研究に示されるように、本方法の実施において、そのような菌株を容易に区別することができる。さらに、一つまたは複数のコンピュータに実装された人工知能(例えば、機械学習)アルゴリズムが、本明細書の結果を特徴付ける際に使用され得る。
【0068】
図3を再び参照すると、本実施形態のシステム10は、例えば、PAFCシステム100の制御および/またはそれからのデータの処理/分析に使用され得る電子回路200と動作可能に接続された光音響フローサイトメトリーシステムまたはPAFCシステム100を含む。図示の実施形態では、電子回路200は、プロセッサシステムと、プロセッサシステムと通信可能に接続されたメモリシステムとを含む。プロセッサシステムおよびメモリシステムは、例えば、単一のコンピュータに具現化されてもよいし、複数のデバイスおよび/または場所に分散されてもよい。データベースシステムは、例えば、メモリシステムに格納されてもよい。データベースシステムは、例えば、PAFCシステム100および/または他のPAFCシステムからの細菌株の過去の特性評価に関連するデータを含むことができる。データベースシステムのデータは、(例えば、クラウドベースのシステムを介して)PAFCシステム100および/または他のPAFCシステムからのデータで継続的に更新または強化することができる。そのようなデータは、例えば、メモリシステムに記憶され、プロセッサシステムによって実行可能な一つ以上のアルゴリズムの一つ以上の機械学習モデルを訓練するために使用され得る。本明細書の実施形態において使用される機械学習アルゴリズム(複数可)は、PAFCシステム100および/または他のPAFCシステムから収集されたデータを使用して、教師なしまたは教師あり/訓練された(例えば、既知のデータおよび専門セラピスト/識者の特徴付けに基づいて)ものであってもよい。
【0069】
本明細書の特性評価アルゴリズム)は、例えば、より優れた特性評価性能を得るために、一つまたは複数の機械学習アルゴリズムを含むことができる。本明細書での使用に適した個々の機械学習アルゴリズムの代表例としては、クラスタリングアルゴリズム、分類アルゴリズム、および/または回帰アルゴリズムが挙げられるが、これらに限定されない。多くの実施形態において、一つまたは複数の個別に採用される機械学習アルゴリズムまたはモデルは、一つの単一の機械学習アルゴリズムおよびモデルに組み込まれるか、または組み合わされてもよい。人工知能分野で知られているように、機械学習モデルは、「機械学習アルゴリズム」が訓練データセットで訓練されたときに生成される出力である。機械学習アルゴリズム/モデルの組み合わせを含む多数の実施形態において、組み合わされたアルゴリズム/モデルは、個々のアルゴリズムのそれぞれについて特徴付けを出力し、最良の結果最良の信頼区間を有するモデル予測を選択することができる。機械学習アルゴリズム/モデルは、事前に決定されたテストデータセットに対して、精度、精度、学習性能、および予測性能を含むがこれらに限定されない評価指標セットで評価される場合がある。
【0070】
代表的な例では、k平均法は、黄色ブドウ球菌または黄色ブドウ球菌が抗生物質オキサシリンに対して耐性または感受性であることを100%の精度で特徴付けるのに使用された。k平均法については、Arthur, D. and S. Vassilvitski k-means++; SuradwMages of carefulseeding. 2007に記載されており、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。臨床医は、上記のようにオキサチリン処理後の細菌数を未処理のサブサンプルの細菌数と比較して解釈し、細菌が同種感受性、同種耐性、または異種耐性のいずれであるかを容易に決定することができるが、耐性を自動的に決定する形式的/客観的な方法が有利になる可能性がある。k平均法は、他のクラスタリング手法と同様に、1次元以上の空間内のデータ点を取り、近接性によってそれらの点の自然なグループ分けを決定する。クラスタの数kが与えられると、アルゴリズムはすべての点をその数のグループに分ける。したがって、k平均法は、サンプルの集合をグループに分離する客観的な手段を提供することができる。k平均法は、事前に決定されたサンプルの性質で一貫した結果を提供するが、結果を改善するために、クラスタリング方法ではなく、分類器を開発してもよい。コンピュータ技術の当業者には明らかなように、適切な訓練データセットが与えられれば、本方法論における結果の迅速な特徴付けのために、教師あり分類アルゴリズムを容易に開発/訓練することができる。分類アルゴリズムのような機械学習アルゴリズムは、例えば、多数の研究の特徴付けに有用である。
【0071】
代表的な研究では、合計13のサンプルについてPCR法を用いてmecA遺伝子を検査し、光音響検査の前にメチシリン耐性を決定した。各黄色ブドウ球菌株の菌叢をマンニトール塩寒天平板上で増殖させた。各ストリークプレートから得られたシングルコロニーを用い、36.5℃の振とうウォーターバスで2時間、マンニトール塩肉汁中で菌株を再生させた。オキサシリンを1μmg/mlの最終濃度で各培養液の半分に添加し、さらに2時間培養した。PAFCシステムで処理する前に、各培養物から100μlを取り出し、H1プレートリーダー(バーモント州WinooskiのBiotek社から入手可能)での増殖解析に使用した。各培養物について、処理した培養物と未処理の培養物の光学濃度を16時間にわたって1分ごとに測定し、増殖曲線を作成した。上述したように、事前の実験から、抗生物質処理は2時間で十分であると判断された。光音響試験を行う前に、処理サンプルと未処理サンプルを2時間並べて培養した。各単離株について、処理サンプルと未処理サンプルの光音響試験を交互に行い、同様の増殖時間が得られるように、両方のサンプルを20分以内に試験した。こうして、総菌数を適切に比較することができた。
【表1】
【0072】
フローサイトメーターから得られた光音響データを解釈するために、k平均法を用いてメチシリン耐性サンプルと感受性サンプルの区別を行った。オキサシル処理後の菌数を未処理のサブサンプルの菌数と比較するという単純な解釈で、その菌がメチシリン耐性かそうでないかがわかるかもしれないが、耐性判定の自動化がすぐにできることを示すために正式な方法を用いた。k平均法は、他のクラスタリング手法と同様に、1次元以上の空間内のデータ点を取り、近接性によってそれらの点の自然なグループ分けを決定する。クラスタの数kが与えられると、アルゴリズムはすべての点をその数のグループに分ける。代表的な研究では、耐性グループと感受性グループのみを識別することに関心があった。したがって、k=2が選択された。
【0073】
未処理の検出数に対する処理の検出数の比を求めた結果、13個の検出数がほぼ0から1の範囲であった。数値が低いほど、オキサシリンが黄色ブドウ球菌の集団を減少させるのに有効であったことを示す。しかし、抗生物質耐性を決定するためのアドホックな閾値はなかった。MATLABプログラミング言語(マサチューセッツ州ナティックのMath Works社から入手可能)を用いて、2つのクラスターを持つk平均法をデータセットに適用した。MATLABの関数kmeansはロイドアルゴリズムを使用している。簡単のため、ユークリッド距離を測定と反復クラスターの確立に使用した。分析の結果、MRSAおよびメチシリン感受性検体について、2つの明確に定義されたクラスターが得られた。
【0074】
表1に、本試験の患者から得られた臨床分離株のそれぞれを示す。表1は、オキサシリン処理および未処理のサブサンプルにおいて、どれだけの光音響イベントが検出されたか、したがって、どれだけの細菌細胞が検出されたかを示している。光音響検査の結果、オキサシリンとともに培養した場合、2時間後の細菌数は2~689であったのに対し、抗生物質なしで培養したサンプルでは88~818であった。サンプルサイズが比較的小さく、分布が明らかにガウス分布ではなかったため、ノンパラメトリック検定を行って、オキサシリン処理前後の細菌数の平均値を比較した。Wilcoxonマッチドペア符号付き順位検定を用いて、0.0007のp値が計算された。
【0075】
オキサシリンとのインキュベーション後、2つの異なる亜集団が観察された。一つの亜集団では、増殖率は処理と未処理の間で類似しており、処理と未処理の平均比は0.87であったが、第2の集団では平均比が0.10と著しく異なっていた。今回もサンプル数が限られていたため、2群のノンパラメトリック検定を行った。Mann-Whitney検定を用いて、0.0012のp値が算出された。臨床分離株13株のうちの7株は、mecA遺伝子のPCR検査によりメチシルリン耐性であることが判明した。mecA遺伝子を持つ分離株は、同様の増殖率を示すサブグループに相当した。
【0076】
光音響検出結果によるグループ分けを確認するために、不偏クラスタリング法であるk平均法を用いた。表1のk平均法の列は、MATLABアルゴリズムによって決定された、グループ1または2にクラスタリングされた比率を決定した数値を示す。k平均法アルゴリズムは、mecA遺伝子解析を用いた既知の抗生物質耐性と100%の一致を示した。k平均法は、事前に決定されたサンプルの性質と一致したが、例えば、クラスタリング法ではなく、分類器を使用して、臨床において単一サンプルから抗生物質に対する耐性、感受性、または異種耐性を決定することができる。
【0077】
黄色ブドウ球菌は、細菌性角膜炎、結膜炎、眼内炎の一般的な原因である。上記の研究で使用されたサンプルは、角膜炎の臨床例から得られたものである。バンコマイシンはMRSA角膜炎の治療にしばしば使用されるが、角膜毒性を伴う。MRSA角膜炎は多くの場合、視機能に影響を及ぼす一連の併存疾患の一部であるため、臨床的意義は控えめにはできない。光音響学は、基礎となる細菌感染を確実に同定し、感染に対する治療を管理するために使用することができる因子に関する洞察を提供することができるが、光音響法は、まだ臨床的に困難な複雑な環境で発現する角膜炎に広く適用するために適応される可能性がある。
【0078】
本明細書の多くの代表的な研究は、抗生物質の代表例としてダプトマイシンおよびオキサシリンを、代表的な細菌として黄色ブドウ球菌を使用したが、当業者は、本明細書のPAFCベースの装置、システム、および方法の実施形態が、他のタイプの抗生物質、細菌、および耐性に対する抗生物質感受性を決定するために拡張され得ることを理解する。限定するものではないが、代表的な抗生物質の例示的なクラスには、アミノグリコシド、カルバペネム、セファロスポリン、キノロン/フツオロキノロン、グリコペプチドおよびリポグリコペプチド(バンコマイシンなど)、マクロライド系(エイイスロマイシン、アジスロマイシンなど)、モノバクタム系(アズトレオナム)、オキサゾリジノン系(リネゾリド、テジゾリドなど)、ペニシリン系、ポリペプチド系、リファマイシン系、スルホンアミド系、ストレプトグラミン系(キヌプリスチン、ダルホプリスチウなど)、テトラサイクリン系。カルバペネム系、セファロスポリン系、モノバクタム系、ペニシリン系はβ-ラクタム系抗生物質のサブクラスであり、β-ラクタム環と呼ばれる化学構造を特徴とする抗生物質のクラスである。上記のクラスに当てはまらない代表的な抗生物質としては、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、ダプトマイシン、ホスホマイシン、レイアムリン、メトロニダゾール、ムピロシン、ニトロフラントイン、チゲサイクリンなどがある。本方法論は、単一の抗生物質またはそれらの混合物を用いて実施することができる。さらに、RNA-seqを実施して、遺伝子発現の浸透レベルを成長曲線とPAFCから検出された細胞とさらに相関させることができる。
【0079】
バンコマイシン耐性株は、一般的ではないが、治療が劇的に困難であり、病院の限られた資源を浪費する。バンコマイシン耐性カルバペネム耐性腸内細菌科細菌、および多剤耐性緑膿菌は、CDCによって深刻な脅威としてリストアップされており、早期発見と感受性の決定が有益であろう。個人規模でも世界規模でも、迅速な同定と特性解析が不可欠である。細菌性病原体による世界的なパンデミックの可能性は、CDC及びWHOにとって中心的な関心事である。多剤耐性の細菌感染症は、死亡率が50%近く、感染率はインフルエンザやSARS-COV-19と同様で、死亡率は1%に近い。個々の患者を守るために、より優れた、より高度な迅速診断法が必要なのは明らかである。ディスク拡散法は1956年以来ゴールドスタンダードであるが、培養後16~24時間を要する。PAFCは、処理した培養細胞と未処理の培養細胞の差を4時間以内に直接カウントすることで、ゴールドスタンダードに取って代わる可能性を秘めている。
【0080】
ファージの生産と精製は、例えば実験室環境で試験できるサンプル数を制限する要因になり得る。バクテリオファージの生産と精製は比較的安価であるが、実験室規模であっても時間がかかり、専門的な技術を必要とする。しかし、ファージ治療の進歩に伴い、Advanced Phage Therapeutics社(メリーランド州ゲイサーズバーグ)やARMATA pharmaceuticals社(カリフォルニア州マリーナ・デル・レイ)など数社が、FDA認可のGMPファージの大規模生産を開始している。高力価の精製ファージの可逆性は、細菌検出のための装置、システム、および方法の実用性を著しく高め、費用を低減する。さらに、本明細書の装置、システム、および方法は、治療目的のために特定のファージに対する細菌の感受性を迅速に試験するためのファージ療法にも使用することができる。
【0081】
光音響フローサイトメーターは比較的経済的に構築でき、多くの一般的な実験装置よりもはるかに単純である。最もコストがかかるのはレーザー光源であり、すべての部品は市販されている。実験室のセットアップの総費用は30,000ドル程度であるが、市販のセットアップはもっと安価に製造可能である。光音響フローサイトメトリーは、X線装置や超音波装置と同様に、一般的な臨床ツールになる可能性がある。
【0082】
標識バクテリオファージを使用する本明細書の方法論およびPAFCに基づく装置、システム、および方法は、一般に、バクテリオファージの溶解プロセスが遅延または不活性化された標識バクテリオファージを使用することによってさらに改善され得る。バクテリオファージの溶菌プロセスを遅延/不活性化することは、例えば、バクテリオファージの残りの部分において細菌に選択的に結合する活性を保持しながら、バクテリオファージの核酸の一部または全部を除去することによって達成することができる。例えば、カプシドと尾部を含むバクテリオファージでは、カプシドまたはその一部を除去して、ある種の細菌に選択的に結合する能力を保持するが、溶解を開始するのに必要な核酸を欠く、
図2に示されるような標識尾部を提供することができる。あるいは、バクテリオファージから核酸を除去しつつ、カプシドを保持することもできる(例えば、核酸を除去するために多孔性にする)。バクテリオファージまたはファージビリオンのうち、核酸を欠くものは、バクテリオファージ/ファージゴースト、ゴースト粒子、またはゴーストと呼ばれる。核酸は、例えば浸透圧ショックなど、多くの方法論によってバクテリオファージから除去することができる。バクテリオファージのゴーストは吸着能力を保持することができる。ゴースト粒子、バクテリオファージ切片(例えば、尾部、またはカプシドが部分的もしくは完全に除去されたその切片)、またはバクテリオファージ宿主認識タンパク質(またはバクテリオファージ宿主認識タンパク質に基づく合成宿主認識タンパク質)などのバクテリオファージの一部を使用することにより、核酸が欠如しているため、光定数フローサイトメトリー用に調製される患者サンプルにおける細菌の溶解を防止することができ、それにより、検査の時間スケールを長くすることができる。溶解プロセスの遅延または停止/不活性化は、例えば、オペレーターの依存性を低減することができる。
【0083】
本明細書で使用する標識剤は、バクテリオファージ用に開発されたものと同様の標識化学を用いて、バクテリオファージおよびバクテリオファージの一部(例えば、バクテリオファージの尾部)以外の実体に拡張することができる。上記のように、本明細書では標識抗体を標識剤として使用することができる。さらに、様々なタンパク質(例えば、抗体または宿主認識タンパク質)、ペプチド、および/または細菌に選択的に結合する(例えば、その上の受容体を介して)他の実体も、光音響応答性標識またはタグと結合させ、本明細書の装置、システム、および方法における細菌標識剤として使用することができる。例えば、バクテリオシンは、類似または近縁の細菌株の増殖を阻害するために細菌によって産生されるタンパク質性またはペプチド性の毒素であり、本明細書の標識剤として使用することができる。ピオシンは、例えば、本明細書において標識剤として使用され得るバクテリオシンのサブセットである。ピオシンは緑膿菌の90%以上の菌株で産生され、各菌株はいくつかのピオシンを合成する。ピオシン遺伝子は緑膿菌染色体上に存在し、その活性はマイトマイシンCのような変異原性薬剤により誘導可能である。(i).R型ピオシンはバクテリオファージの非柔軟で収縮性の尾部に似ている。細孔形成に関連して細胞質膜の脱分極を引き起こす。(ii).F型ピオシンもファージ尾部に似ているが、柔軟で非収縮性の棒状構造を持つ。(iii).S型ピオシンはコリシン様のプロテアーゼ感受性タンパク質である。S型ピオシンはコリシン様のプロテアーゼ感受性タンパク質で、二つの成分から構成されている。大きい成分は殺傷活性を持つ(ピオシンS1、S2、S3、AP1はDNase活性、ピオシンS4はtRNase、ピオシンS5はチャネル形成活性)。それは小成分(免疫タンパク質)と相互作用する。
【0084】
上記のように、R型ピロシンはバクテリオファージの柔軟性のない収縮性の尾部に似ており、さらに五つのグループ(R1、R2、R3、R4及びR5)に分類される。構造的および血清学的性質は互いに類似しているが、受容体特異性は異なっている。この主な違いの原因として、感受性の高い菌株の受容体に結合するための装置である尾部繊維タンパク質が提唱されている。R型ピオシンのレセプターは外膜に存在するリポ多糖またはリポオリゴ糖である。R型ピオシンは、感受性の高い細胞にチャレンジさせると、孔形成に関連して細胞質膜の脱分極を引き起こし、活性輸送を阻害する。この殺菌作用には、タイ様構造の収縮が必要である。
【0085】
抗生物質耐性を決定するための別の方法では、抗生物質で処理したサブセットと未処理のサブセットの応答を決定するために、サンプルを複数のサブサンプルに分離する必要はない。その方法では、まず、例えば米国特許第10,544,443号および第10,961,557号に開示されている装置、方法、システムを用いて、特定のウイルスの種、株、またはタイプがサンプル中に存在するという判定が行われる。これに関して、黄色ブドウ球菌の代表的な例では、例えば、光音響検出システムを用いて黄色ブドウ球菌の存在を判定するために、黄色ブドウ球菌の98%以上に感染するSPIのような広域スペクトル標識バクテリオファージを標識標識剤として使用することができる。(例えば、標識SP1バクテリオファージを用いて黄色ブドウ球菌陽性と判定された患者サンプルには、抗生物質に耐性を持つ細菌を特異的に標的にする第二の黄色ブドウ球菌ファージを投与することができる。例えば、黄色ブドウ球菌用のB1バクテリオファージはメチシリン耐性株を標的とする。耐性菌を標的とするバクテリオファージは、光音響検出システムまたは光音響セルを含む検出システムを介して検出可能な標識またはタグで標識されていてもよい。このような標識バクテリオファージを患者サンプルに添加し、その後、光音響検出システムを介してサンプルを特徴付け、耐性細菌株の存在を決定する。
【0086】
本明細書の別の実施形態では、機能化された固体粒子が、細菌の種に選択的に結合する実体と関連して使用された。本明細書で使用するためのナノ粒子またはマイクロ粒子は、例えば、1nmから500μmのサイズ、10nmから500μmのサイズ、または10nmから100μmのサイズの固体粒子であり得る。多数の実施形態において、そのような粒子は、金属粒子(例えば、金、銀、鉄など)、ポリマー性ポリマー(例えば、ポリスチレンなど)、セラミック、または天然に存在する材料の粒子(例えば、鉱物、メラニンなど)である。粒子が光音響システムを介して天然または本質的に吸着/検出可能でない場合(例えば、特定のポリマー粒子の場合)を含む多くの実施形態では、光音響検出システムを介して検出可能な化合物が粒子に添加される。合成または天然に存在する物質(例えば、メラニンの粒子)の粒子の場合、粒子は光音響検出システムで検出可能である。一般に、光エネルギーを本質的に吸収せず、音響波を放出する粒子の場合、光音響検出システムを介して検出可能な化合物を添加することができる。多数の実施形態において、一般に球状の色素含有粒子または球(例えば、ポリマーナノ粒子またはポリマーマイクロ粒子)が代表例として使用された。多数の代表的な実施例において、光吸収機能性を含む粒子は、例えば、細菌に選択的に結合する一つ以上の実体(例えば、バクテリオファージ、バクテリオファージゴースト、そのカプシドの少なくとも一部が除去されたバクテリオファージの尾部など)に、実体が細菌に選択的に結合する機能を維持するように付着された。多くの研究において、機能化マイクロ粒子は、例えば、ビオチン結合タンパク質でコートされた(例えば、ストレプトアビジンで被覆された)着色光吸収マイクロ粒子に直接バクテリオファージの尾部を付着させることによって製造された。バクテリオファージの尾部には、バクテリオファージ結合における選択性と特異性の原因となる宿主付着タンパク質が含まれている。
図6Aおよび
図6Bは、それぞれ、ランダムな配向で複数のファージ尾部が結合した単一の機能化マイクロ粒子と、ファージ尾部が付着した複数の機能化マイクロ粒子を示している。共有結合、イオン結合、電荷-電荷相互作用、および他のタンパク質-タンパク質相互作用が挙げられるが、これらに限定されない。一般に、ビオトーム-アビジン相互作用に類似した、比較的緊密な結合特性または小さな解離定数を有するタンパク質-タンパク質またはタンパク質-低分子の組合せのような他の付着/相互作用の組合せは、本明細書での使用に容易に適合される。
【0087】
図6Aおよび
図6Bに示したような電子顕微鏡写真により、バクテリオファージ尾部が各マイクロ粒子の表面を完全に覆っていることが確認された。バクテリオファージ尾部は、電子顕微鏡で確認されたように、マイクロ粒子表面上でランダムに配向していた。ランダムに配向したファージ尾部は、配向したファージ尾部とほぼ同じ効率で結合することが示されている。従って、ファージ尾部がランダムに配向していることによる結合能の大幅な低下は予想されない。尾部の向きを確認している間に、尾部がわずかに過剰であることに気づいた。に気づいた。最適化するために、精製した尾部を最大限に利用し、過密の問題を最小限にするために、付着した尾部の数を減らしてマイクロ粒子を製造することができる。
【0088】
マイクロ粒子のような市販の粒子にバクテリオファージ尾部を付着させることで、バクテリオファージ尾部によって提供される付着および不可逆的結合を利用して、マイクロ粒子から産生される高いシグナルを利用することができる。例えば、ポリマーマイクロ粒子のウイフォミサイズと色は、シグナルの均一性を可能にする。均一なシグナルサイズにより、検出のためのピーク閾値を正確に決定することができる。さらに、このようなマイクロ粒子から得られる堅牢で一貫性のあるシグナルにより、ノイズに対するシグナルの比を高めることができる。さらに、一つ以上の宿主認識タンパク質の存在によって選択的結合を保持しながらDNAを除去したバクテリオファージ部分を使用することで、上記のような細菌細胞の溶解の可能性を除去することができる。溶菌の阻害は、検出された細菌細胞の下流での捕獲と検査を可能にする。捕捉された細胞は、その後、配列決定され得るか、または潜在的にクローン性コロニーがさらなる分析のためにそれらから増殖され得る。
【0089】
以下の表2に要約された対照実験において、PBS、標的および非標的細菌、ならびに赤色および青色機能化マイクロ粒子からはゼロシグナルを得る一方で、黒色マイクロ粒子からは陽性シグナルを示した。
【表2】
【0090】
機能化マイクロ粒子の結合および検出を試験するために、標的および非標的細菌の各組み合わせを、赤色および青色の機能化マイクロ粒子で試験した。細菌株を増殖させ、培養物を試験ごとにおよそ100細胞に希釈した。マイクロ粒子は、細菌細胞1個あたり約500個の機能化マイクロ粒子、または1試験あたり50,000個の機能化マイクロ粒子を添加した。結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0091】
赤色官能基化マイクロ粒子と青色官能基化マイクロ粒子の間の同程度の検出を実証するために、Kruskal-Walls統計学的検定が実施された。この分析の目的は、赤色官能基化マイクロ粒子と青色官能基化マイクロ粒子の両方が同じように識別することを実証することである。この検定の結果は、中央値が不同であることを示している。したがって、両方の機能化マイクロ粒子は同様に識別する。検出の差はすべて吸光度に起因すると考えられる。これをテストするために、各着色マイクロ粒子の吸光度スペクトルが決定され、その結果が
図7に示されている。
【0092】
二色のマイクロ粒子および2つの異なる細菌宿主への結合が研究された多くの研究において、バクテリオファージDet7からの尾部は、赤色および青色化マイクロ粒子の両方を産生するために使用された。Det7はサルモネラ菌にのみ結合するバクテリオファージである。非標的宿主として大腸菌K12を用いた。Det7は大腸菌K12には結合も感染もしない。赤色および青色機能化マイクロ粒子を、サルモネラ菌LT2を用いて、PAFCシステム100で三連試験した。赤色マイクロ粒子の平均検出数は109.3、青色マイクロ粒子の平均検出数は86.7で、赤色マイクロ粒子の方が約20%多く検出された。この検出数の差にはいくつかの理由が考えられる。第一に、赤色マイクロは、同じサイズの青色マイクロ粒子よりも緑色レーザー光をわずかによく吸収する。この吸光度の差が、約20%の検出数の差につながったと考えられる。また、可能性は低いが、各細菌培養の希釈率がわずかに偏っていた可能性もある。標的菌の検出数にこのような差があるにもかかわらず、非標的菌の検出数は一貫してゼロであり、細菌株と結合の特異性の識別が非常に優れていることを示している。
【0093】
バクテリオファージ尾部に存在するようなバクテリオファージ宿主認識タンパク質の宿主付着特異性と、ポリスチレンマイクロ粒子のような染色マイクロ粒子の均一な生産および吸収を組み合わせることにより、特定の細菌汚染物質を定量することができる。この技術により、バクテリオファージが産生する結合の任意の組み合わせでマルチターゲットマイクロ粒子を製造することができる。バクテリオファージの宿主認識タンパク質の結合は、多くの場合、必須細胞表面タンパク質に結合するため、抗体検出よりもはるかに優れている。さらに、上述したように、ファージ付着/宿主認識タンパク質は、発見された最も安定なタンパク質構造の一部であることが示されており、細菌プローブとしての機能化マイクロ粒子の保存が容易で、長期間の生存が可能である。
【0094】
ナノ粒子やマイクロ粒子のような機能化粒子と組み合わせた光音響フローサイトメトリーは、均一なシグナルと検出された各細菌細胞の回収の可能性という付加的な利点を持つ、迅速な細菌検出と定量化の方法を提示する。この方法をさらに発展させ、抗生物質の感受性を測定する方法と組み合わせることで、臨床応用やポイント・オブ・ケアでの使用の可能性が示される。細菌感染の迅速な検出と同定は、コスト削減だけでなく、より重要なこととして、救命の可能性を秘めた技術でもある。しばしば、患者の治療の制限要因は、結果を待つために費やされる時間である。
【0095】
多宿主機能化マイクロ粒子は、本明細書に記載されるように、広い標的宿主範囲で製造することができ、細菌汚染をさらに迅速に同定することができる。バクテリオファージの宿主範囲は細菌の種類によって劇的に異なる。例えば、サルモネラ菌には2600以上の血清型があり、すべてバクテリオファージに付着する抗原が異なる。サルモネラ菌のように広い宿主範囲を持つバクテリオファージはほとんどない。黄色ブドウ球菌には、テイコ酸の結合部位が類似しているため、非常に広い宿主範囲を持つバクテリオファージがいくつかある。
【0096】
多くの代表的な実施形態において、マルチホスト粒子は、例えば、病原性腸内細菌対非病原性腸内細菌に焦点を当てることができる。非病原性株とol57:H7のような病原性大腸菌とを迅速に区別する能力は、例えば食品産業にとって非常に価値がある。例えば、食品加工施設や浄水施設の病原性腸内細菌をリアルタイムでモニタリングすることは、特に第三世界諸国において、大きな影響を与える可能性がある。もうひとつのターゲットは、たとえばESKAPE病原体のような日和見血液媒介病原体である。ESKAPEとは、以下の6つの非常に病原性が強く抗生物質耐性の細菌性病原体(エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcusfaecium)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacterbaumanni)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロバクター属(Enterobacter spp))の学名からなる頭字語である。ESKAPE病原体のいずれかが存在することを迅速に特定することで、特定の病原体を特定するためのさらなる検査が可能となり、その後、迅速な抗生物質感受性検査が開始される。
【実施例】
【0097】
実験例
【0098】
材料および方法
【0099】
光音響セットアップ(
図3参照)は、米国特許第10,544,443号および第10,961,557号に記載されているものと同様である。米国特許第10,544,443号および第10,961,557号に記載されているものと同様である。PAFCは以前に説明されており、希薄サンプル中の希少粒子を検出する堅牢な方法であることが示されている。PAFCシステムをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で試験し、バックグラウンドノイズや変動性のレベルを実証した。システム機能の陽性対照として、Polybead社(ペンシルバニア州ワーリントン)から入手した10μmのポリスチレン球を使用し、PAFCシステムを通してタイトリングした。黄色ブドウ球菌SA113株(ATCC 35556、バージニア州マナサス)はAmerican Type Culture Collectionから入手し、大腸菌K12を対照菌種として用いた。染色したSP1バクテリオファージを、再懸濁した培養物に細菌細胞あたり1000ファージの割合で添加した。ファージ/細菌混合物をベンチ上で10分間インキュベートし、ファージを付着させた後、PAFCシステムで処理した。
【0100】
サンプルの調製
黄色ブドウ球菌の臨床分離株は、UPMC整形外科のUrisch研究室から入手した。分離株はマンニトール塩寒天培地(MSA)プレート上でシングルコロニーをストリークし、マンニトール塩ブロス中において36.5℃で振盪培養した。指数関数的に増殖した培養物を培地またはダプトマイシンと1:1の割合で混合した。ダプトマイシンを0.5mlの培養液に0.25μg/mlの最終濃度となるように添加した。PAFCおよびBioTek H1プレートリーダーを用いたすべての実験において、同一の培養液を使用した。光音響試験には、バクテリオファージSP1を細菌細胞あたり1000ファージの濃度になるように添加した。成長曲線は16時間行い、測定は1分に一回行った。各菌株の増殖曲線と対応するPAFCの結果を
図4Aから
図4Dに示す。
【0101】
丸底96ウェル培養プレート(Falcon microtest 96ウェルプレート 35077,ThermoFisher, Waltham, Massachusetts)に処理培養物と対照培養物を入れ、BioTek H1プレートリーダーにセットした。光学密度(OD)測定は波長600nmで1分ごとに行った。測定と測定の間に、プレートを100rpmで振とうし、36.5℃に維持して細菌の増殖を待った。2時間という時間は、増殖速度を区別するのに十分であると判断された。さらに、各菌株の複数の複製をBioTek H1プレートリーダーで36.5℃で増殖させ、10分ごとに100μLを取り出してMSAプレートにプレーティングした。各菌株について、これらの力価から直接増殖曲線を作成し、各ODについて定量可能な細菌細胞数を得た。各菌株は、細胞力価とODのと間に一貫した相関関係があることがわかった。
【0102】
光音響フローサイトメトリー
光音響フローチャンバーを
図3に示す。開口数0.39の1000μm光ファイバー(Thorlabs社、ニュージャージー州ニュートン)を使用し、Nd:YAGレーザー(LitronNano社、モンタナ州ボーズマン)から5nsのパルス幅で532nmのレーザー光を照射した。レーザービームのエネルギーは、すべてのPAFC実験において1.9~2.1/mJの間で維持され、測定された。光ファイバーは、厚さ10μmの石英管(Quartz 10 QZ, Charles Supper, Natick, Massachusetts)から5mm離して設置した。サンプルは、3Dプリントされたフローチャンバー内の石英管を通して送液された。レーザービームはガウス型と仮定され、フルエンスは0.014mJ/cm
2、検出量は0.04μLと計算された。
【0103】
SonotechLithoClear音響ゲル(Next Medical Products Company,Branchburg, New Jersey)が3Dプリントされたフローチャンバーの内部空間を満たし、2.25MHzのトランスデューサが石英サンプル管に焦点を合わせた。音響ゲルは、熱弾性膨張から発生する音響波の伝搬に沿って、石英管とトランスデューサーの間に音響結合をもたらした。Tegam 4040Bアンプ(Tegam, Inc. LabViewプログラムを実行するコンピュータが信号波形を記録した。
【0104】
検出された細胞をマイクロ流体で捕捉できるようにするために、多くの実施形態では、二相流が導入された。非混和性液体であるミネラルオイルをサンプル流に導入し、オイルとサンプルの交互液滴を形成した。この交互液滴により、細胞はフローシステム内に保持されず、音響イベントの局所的な検出と分離が可能になった。音響イベントの検出は、集束トランスデューサーをアンプ(National Instruments社製、テキサス州オースティン)に接続して行った、Dell, Round Rock, Texas)に接続し、音響イベントの記録と定量化のために開発したLabVIEW(National Instruments, Austin, Texas)プログラムを実行した。
【0105】
バックグラウンドノイズを測定するため、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)とファージバッファー(10mMのTris、pH7.5、10mMのMgCl2、68mMのNaCl)を用いて光音響フローサイトメトリー(PAFC)システムをテストした。陽性システムコントロールとして、10μmのポリスチレンマイクロ粒子(Polybead, Warrington, PA)を試験し、PAFCシステムで滴定した。LT2サルモネラおよびK12大腸菌の培養液をPBSに希釈し、PAFCシステムで滴定した。さらに、0.2μmのストレプトアビジンで被覆された染色マイクロ粒子をPAFCシステムで滴定し、マイクロ粒子が検出されるまでマイクロ粒子の濃度を増加させた。
【0106】
バクテリオファージの調製
SP1バクテリオファージは、黄色ブドウ球菌SA113株(ATCC、バージニア州オールドタウンマナサス)を用いて増殖させ、前述の方法で濃縮した。精製したファージを、1ミリリットルあたり1×1012のプラーク形成単位(PFU/ml)のDirect Red81色素(Sigma Aldrich, Saint Louis. Missouri)の飽和溶液に添加した。その後、ウイルス粒子をペレット化し、緩衝液(10mMのTris、pH7.5、10mMのMgCl2、68mMのNaCl)に再懸濁した。未結合の色素を確実に除去するために、この工程を繰り返した。BioTek H1を用いて染色ファージの吸光度スペクトルを測定し、染色していないファージ粒子の吸光度スペクトルと比較した。染色されたファージは、染色プロセスによる有害な影響が観察されないことを確認するために、タイトリングされた。染色ファージは150日後に感染能力について再試験されたが、力価に差は見られなかった。
【0107】
すべての株をダプトムイシン存在下と非存在下で試験した。培養物を新鮮な培地に希釈し、25μg/mlのダプトマイシンの存在下および非存在下で2時間再成長させた。その後、各サンプルを細菌細胞あたり複数の染色ファージを用いて室温で10分間インキュベートした。インキュベートされたサンプルはPAFCシステムで処理され、検出された細胞数が記録された。分離株は、プレートリーダーとPAFCシステムの両方で3連試験した。
【0108】
ゴーストバクテリオファージの調製
ゴースト粒子は、多くの手順を用いて調製することができる。一実施形態では、10mLの高濃度Det7バクテリオファージを得、ファージを、各端がよく固定されるような長さを有する透析チューブの一部に移し、90mLの2.3M過塩素酸ナトリウム(NaClO4)を、溶液および前のステップからの透析チューブを保持するのに十分な大きさのビーカーに移す。2.3Mの場合:90mLのD1水と25.35gのNaClO4とを合わせ、溶解するまで撹拌する。この溶液に50mMのEDTAを100マイクロリットル加える。チューブはこの溶液に30分間浸しておく。その後、チューブを溶液から取り出し、すぐにファージバッファーの入ったビーカーに入れ、反応を止める。DNAはチューブ内で凝固し始めるので、これを除去するためにDNAaseをチューブに加え、余分なDNAを除去する。
【0109】
バクテリオファージ染色プロトコール
臭化エチジウム(Ethidium Bromide:本明細書ではEthBrと称することがある)、ヨウ化プロピジウム(Propidium Iodide:本明細書ではProIdと称することがある)、Direct Red(本明細書ではDREDと称することがある)、DREDおよびEthBr、DREDおよびProId染料がプロトコールで使用される。以下のプロトコールは、上記の各染料で完了する:
1. 上記の染料について、以下のプロトコルを完了する:
a. 1012pfu/mlのDet7を100マイクロリットルの色素とともに250マイクロリットルのPCRチューブに入れる、
i. 二種類の色素を使用する場合はPCRチューブを使用する:1012pfu/mlのDet7を100マイクロリットル、第一の色素を50マイクロリットル、第二の色素を50マイクロリットル。最終容量は200マイクロリットルとなる。
ii. 三つの色素を使用する場合は、PCRチューブを使用する:1012pfu/mlのDet7を100マイクロリットル、第一の色素を50マイクロリットル、第二の色素を50マイクロリットル、第三の色素を50マイクロリットル。最終容量は250マイクロリットル。(このステップでは色素濃度が下がるが、色素はまだ過剰なので影響はない)
b. コントロール、1012pfu/mlのDet7を100マイクロリットル、ファージバッファーを100マイクロリットル。
c. サーモサイクラーで50℃で1時間加熱する。
d. 加熱が完了したら、PCRチューブの中身を800マイクロリットルのファージバッファーの入ったエッペンドルフチューブに移す。その結果、1mL(1011pfu/ml)となる。
i. 二つの色素を含むチューブの場合、ステップi.の両方のPCRチューブの内容物を、800マイクロリットルのファージバッファーの入ったエッペンドルフチューブに移す。結果は1mLとなる。
ii. 三つの色素を含むチューブの場合、ステップi.の両方のPCRチューブの内容物を750マイクロリットルのファージバッファーを含むエッペンドルフチューブに移す。結果容量は1mLとなる。
e. 14,000rpm、20℃で3時間遠心する。
f. 上清を除去し、ペレットを1mlのファージバッファー(1x)で洗浄し、ペレットを1mLのファージバッファーで懸濁する。
i. 最終ファージ力価(1011pfu/ml)
2. 両方の色素について、以下のプロトコールを行う:
a. 1012pfu/mlのDet7を100マイクロリットルの色素とともにPCRチューブに入れる。
i. 二種類の色素を使用する場合はPCRチューブを使用する:1012のDet7を100マイクロリットル、第一の色素を50マイクロリットル、第二の色素を50マイクロリットル。最終容量は200マイクロリットル。
ii. 三つの色素を使用する場合は、PCRチューブを使用する:1012pfu/mlのDet7を100マイクロリットル、第一の色素を50マイクロリットル、第二の色素を50マイクロリットル、第三の色素を50マイクロリットル。最終量は250マイクロリットル。(このステップでは色素濃度が減少するが、色素はまだ過剰なので影響はない)。
b. コントロールとして、1011pfu/mlのDet7を100マイクロリットル、ファージバッファーを100マイクロリットル用意する。
c. 両方のチューブをベンチの上に3時間放置する。
d. インキュベーションが完了したら、PCRチューブの中身を800マイクロリットルのファージバッファーの入ったエッペンドルフチューブに移す。結果として1mLの容量となる。
i. 二つの色素を含むチューブの場合、ステップa.i.の両方のPCRチューブの内容物を750マイクロリットルのファージバッファーの入ったエッペンドルフチューブに移す。結果は1mLとなる。
e. 14,000rpm、20℃で3時間遠心する。
f. 上清を除去し、ペレットを1mLのファージバッファーで洗浄し、ペレットを1mLのファージバッファーで懸濁する。
対照
1. 未染色ファージ:チューブは透明な液体で、紡糸後、チューブの一番底に大きなかすんだペレットがある。
2. 未染色ゴースト:チューブは透明な液体で、紡糸後、目に見えるペレットはない。
3. 未染色ファージw/Direct Red81:液体は鮮やかな赤色で、紡糸後のペレットは大きく、オレンジ色を帯びている。
4. ファージw/臭化エチジウム:液体は鮮やかな赤色で、ペレットは前のチューブに似ており、赤みがかったオレンジ色のペレットである、
5. ファージw/ヨウ化プロピジウム:液体はオレンジ色で、ペレットは少し小さいが見える。
6.臭化エチジウムとヨウ化プロピジウムとを併用したファージ:液体は明るいオレンジ色、ペレットは赤色で、大きさはチューブ5と同じ。
7. DRED/臭化エチジウム/ヨウ化プロピジウムを用いたファージ:これまでで最も濃いペレットで、液体はチューブ6に似ている。
8. 50℃染色ファージw/Direct Red81:DREDのみのチューブに比べ、ペレットが濃く見える。
9. 50℃ファージw/臭化エチジウム:黒い球がペレットとして観察されたもので、室温のペレットに比べ、液体は鮮やかな赤色。ペレットは均一に分散していない。
10. 50℃ファージw/ヨウ化プロピジウム:室温よりもかなり濃い、明るい赤色のペレット。
11. 50℃ファージw/臭化エチジウム及びヨウ化プロピジウムを併用したファージ:非加熱のチューブ6と非常によく似たペレット。
12. 50℃ファージw/DRED/臭化エチジウム/ヨウ化プロピジウム:チューブ7のペレットとよく似た非常に暗いペレット。
【0110】
図5は、以下に記載するように形成された、DRED及びProIDを用いたゴースト粒子(G3)、DRED及びEthBrを用いたゴースト粒子(G2)、DREDを用いたゴースト粒子(G1)を含むチューブを示している。
1. DREDゴースト粒子:ペレットはほとんどない。
a. 飽和DRED中において50℃で1時間保持したゴースト粒子。
b. ファージはペレット化され、ファージバッファーに懸濁される。
2. DRED/エチジウムゴースト粒子:大きなペレットがチューブの側面に出ており、非常に暗い。
a. ゴースト粒子を飽和DRED/エチジウム中で50℃、1時間保持。
b. ファージをペレット化し、ファージバッファーに懸濁する。
3. DRED/ヨウ化プロピジウムのゴースト粒子:液体は透明、ペレットは暗色でチューブの側面に移動する。
a. ゴースト粒子を飽和DRED/ヨウ化プロピジウム中で50℃、1時間保持。
b. ファージをペレット化し、ファージバッファーに懸濁する。
【0111】
デラウェア州ウィルミントンのNanoDrop Technologies LLC社から入手可能な)NANODROP
(R)微量分光光度計を使用して、チューブを作成し、テストした後、すべてのチューブについて以下のように希釈系列を作成する。
1. 250マイクロリットルのPCRチューブに100マイクロリットルのファージバッファーを入れる。
2. 各チューブから100マイクロリットルずつ希釈する。
3. 可溶化抗原除去バッファーSARB-1を用いて、各希釈系列のプレートを作成する。
a. 5マイクロリットルを用いて、各シリーズのスポット試験を行う。
以下の表4に、各種製剤のスポット試験の結果を示す。
【表4】
一般に、任意の光音響タグまたはラベルが、本装置、システム、および方法での使用に適している。他の代表的な例としては、フルオレセインイソチオシアネート、エバンスブルー色素、IR775S、BlueおよびDirect Red81が挙げられる。
【0112】
マイクロ粒子に付着させるためのバクテリオファージ尾部の生産。
バクテリオファージは、塩化セシウム(CsCl)勾配精製を用いて精製した。浸透圧ショックを用いて、尾部からファージのカプシドを除去した。バクテリオファージを生産し、1×1012pfu/mlになるように濃縮し、CsClを加えて溶液の密度を1.5g/mlにした。バクテリオファージをCsCl中で一晩インキュベートし、CsClがカプシドに強固にパッケージされたバクテリオファージDNAに注入されるようにした。その後、CsClを注入したバクテリオファージをファージバッファーに急速に希釈し、バクテリオファージからCsClを急速に拡散させた。この急速な拡散により、バクテリオファージのカプシドと尾部がネックコネクターで分離した。無傷のカプシドと尾部を分離するこのプロセスは、長年ファージ生物学者によって用いられてきた。
【0113】
ファージ尾部は、Bio-Rad HPLC(カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いてさらに精製し、純度を分光光度法および電子顕微鏡法によって決定した。タンパク質の純度および濃度は、BioTek Synergy H1(Winooski.Vermont)を用いて吸光度から計算した。BioTek Synergy H1と96ウェルプレートを用いて、280nmで複数の吸光度測定を行った。そしてBeer-Lambertの法則を用いてタンパク質濃度を推定した。次に、260nmから280nmの間の吸光度比を用いて、タンパク質の純度とDNA汚染の可能性を推定した。
【0114】
電子顕微鏡写真を、Gatan US 1000とGrins CCDカメラ(オレゴン州ヒルズボロ)を用いて、THermo Fisher/FEI T12 Spiritで撮影した。)顕微鏡写真は、バクテリオファージで一般的に精製される汚染DNAまたはgroELの存在について検査された。尾部調製物は高品質で純度が高く、混入しているDNAやgroELは観察されなかった。純度の確認後、尾部調製物を後のマイクロ粒子への付着のための手順で使用した。
【0115】
ストレプトアビジンで被覆されたマイクロ粒子へのファージ尾部の付着
公称直径0.19μmのストレプトアビジンで被覆された染色ポリスチレンマイクロ粒子をBangs Laboratories(インディアナ州フィッシャーズ)から入手した。ストレプトアビジンで被覆されたマイクロ粒子をPBSで4回洗浄し、メーカーが使用している安定剤と抗菌剤を除去した。マイクロ粒子をPBSで洗浄し、Spin-X濃縮カラムで3回洗浄した。ビオチン(Thermo ScientificEZ-Link.Sulfo-NHS-Biotin)を別に調製し、ファージ尾部タンパク質結合に対して少なくとも20倍過剰の濃度でPBSに再懸濁した。ビオチンと精製尾部を合わせ、氷上で2時間インキュベートした。インキュベーション後、過剰のビオチンを2kD分子量カット透析カセット(Slide-A-Lyzer、Thermo Scientific)を用いた透析で除去した。ビオチン化した尾部を、洗浄したストレプトアビジンで被覆されたマイクロ粒子と室温で30分間穏やかに混合しながらインキュベートした。マイクロ粒子を10回洗浄し、結合していないビオチン化ファージ尾部を除去した。次に、結合したファージ尾部を有するマイクロ粒子を、低速遠心分離を用いて濃縮した。
【0116】
機能化プローブの検証。結合した尾部を有するマイクロ粒子を、電子顕微鏡を用いて検査した。サンプルを陰性に染色し、結合した尾部を有するマイクロ粒子の複数希釈を検査した。尾部の均一な付着が観察された。未結合のファージ尾部を完全に持たないマイクロ粒子は確認されなかった。各調製物において、遊離した未結合のファージ尾部はほとんど確認されなかったことから、尾部結合と洗浄の両方の手順が効果的であったことが示唆された。さらにDNAまたはgroELELによるコンタミネーションを調査した。調製されたどのサンプルにも、純度が高いことを示唆するDNAやgroELの存在は観察されなかった。官能基化されたマイクロ粒子の例は、
図6Aおよび
図6Bで見ることができる。
【0117】
機能化マイクロ粒子を用いた光音響フローサイトメトリー。
それぞれの黄色ブドウ球菌株の一晩培養液を、マンニトール塩フェノール肉汁(Mannitol Salt Phenol Broth:MSB)培地(MilliporeSigma, Burlington, MA)で調製した。一晩培養したものを1/20に希釈し、LB培地で2時間再成長させ、指数関数的増殖期の同期培養を確保した。再成長後、培養物をペレット化し、PAFCに必要な濃度に希釈した。各サンプルは、1試験あたりおよそ100個の細菌細胞を含むように希釈した。機能化マイクロ粒子を希釈した細菌培養液に加え、室温で10分間インキュベートし、細菌表面に結合させた。各細菌培養に過剰の機能化マイクロ粒子を添加し、細菌細胞あたり約500個の機能化マイクロ粒子が存在するようにした。結合したサンプルは、60μl/minの結合速度で二相流を使用してPAFCシステムで実行した。
【0118】
機能化マイクロ粒子の結合とシグナル発生を試験するために、2つの細菌株を使用した。サルモネラLT2はバクテリオファージDet7の標的宿主であり、そこから尾部が産生された。バクテリオファージDet7の結合特異性と宿主範囲は以前に確立されている。ネガティブバインディングコントロールとしてバクテリオファージDet7が結合しない大腸菌K12株を用いた。黒色の1μmのポリスチレンマイクロ粒子を陽性対照としてPAFCシステムで試験し、高い検出シグナルを与えた。陰性コントロールとして、まず再懸濁バッファーPBSからシグナルがゼロであることが示され、その後、両菌株を試験濃度と同じ濃度で行ったところ、シグナルがゼロであることが示された。この一連の実験には、ストレプトアビジンで被覆され赤と青に染色された0.2μmのポリスチレンマイクロ粒子を使用した。各色のマイクロ粒子を1×及び10×の濃度で試験した。検出ゼロは、色または濃度に関係なく登録された。
【0119】
前述の説明および添付の図面は、現時点における多数の代表的な実施形態を示すものである。様々な修正、追加および代替設計は、もちろん、前述の説明によってではなく、以下の特許請求の範囲によって示される本明細書の範囲から逸脱することなく、前述の教示に照らして当業者に明らかになるであろう。特許請求の範囲の意味および同等性の範囲内にあるすべての変更および変形は、その範囲内に包含される。
【国際調査報告】