(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】蒸気生成システム
(51)【国際特許分類】
A24F 40/53 20200101AFI20240829BHJP
A24F 40/40 20200101ALI20240829BHJP
【FI】
A24F40/53
A24F40/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505360
(86)(22)【出願日】2022-08-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2022072841
(87)【国際公開番号】W WO2023025621
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516004949
【氏名又は名称】ジェイティー インターナショナル エスエイ
【住所又は居所原語表記】8,rue Kazem Radjavi,1202 Geneva,SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【氏名又は名称】末松 亮太
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,ジアン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ブーチュイギュア,レイス・スリマン
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ピーター
【テーマコード(参考)】
4B162
【Fターム(参考)】
4B162AA03
4B162AA05
4B162AA22
4B162AB12
4B162AB14
4B162AC06
4B162AD08
(57)【要約】
蒸気生成システム(3)の使用者を認証する装置及び方法は、システム(3)の吸い口(10)から使用者(21)の口腔(20)内へ送信信号を発信するステップと、使用者(21)の舌(26)からの送信信号の反射を含む受信信号を検出するステップとを含む。受信信号は、舌(26)が受信器(32)に近づくか又は遠ざかることに起因するドップラーシフトを含む特性を導出すべく解析される。システム(3)の動作は、使用者が舌(26)を所定のパターンで、例えば、導出された特性が事前訓練ステップで記憶されていた許可された使用者の対応する特性と合致するように、パスワードを聞き取れないように話すことにより動かした場合にだけ有効になる。舌(26)の動きの所定のパターンは、許可されていない人物が検知又は再現することが容易ではない。送信信号は高周波の音響信号であってよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を使用者(21)の口腔(20)内へ発信する送信器(30)と、前記送信信号の反射を含む受信信号を検出する受信器(32)とを含む吸い口(10)と、
前記システム(3)の使用者を認証すべく前記受信信号の特性を解析する解析器(52)と
を含み、前記解析された特性が、前記送信信号の反射におけるドップラーシフトを含み、前記認証が、前記ドップラーシフトのパターンが前記使用者(21)の舌(26)の動きの所定のパターンに対応するか否かに少なくとも部分的に基づいている蒸気生成システム(3)。
【請求項2】
前記送信及び受信信号が音響信号である、請求項1に記載の蒸気生成システム(3)。
【請求項3】
前記送信信号が、人間の通常の可聴範囲よりも高い主周波数を含む、請求項2に記載の蒸気生成システム(3)。
【請求項4】
前記送信信号が、15kHz~30kHzの範囲の主周波数を含む、請求項2に記載の蒸気生成システム(3)。
【請求項5】
蒸気生成システム(3)の使用者を認証する方法であって、
前記システム(3)の吸い口(10)を前記使用者(21)の口腔(20)内に挿入するステップと、
前記システム(3)の前記吸い口から送信信号を発信するステップと、
前記送信信号の反射を含む受信信号を検出するステップと、
前記送信信号の前記反射におけるドップラーシフトを含む前記受信信号の特性を導出すべく前記受信信号を解析するステップと、
前記ドップラーシフトのパターンが、前記使用者(21)の前記舌(26)の動きの所定のパターンに対応するか否かに少なくとも部分的に基づいて、前記使用者(21)を認証するステップと
を含む方法。
【請求項6】
前記所定のパターンが、前記使用者(21)が1つ以上の所定のパスワードを聞こえるように、又は聞こえないように話すことから生じる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記受信信号を解析するステップが、前記信号を周波数領域に変換し、次いで前記周波数領域における信号勾配を解析するステップを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記使用者(21)を認証するステップが、前記使用者(21)を他の既知の使用者から区別可能な導出された特性の特徴を評価すべくバイナリ使用者分類テストを適用するステップを含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
事前の使用者分類訓練ステップを更に含み、前記ステップが、
前記システム(3)の前記吸い口を許可された使用者(21)の口腔内に挿入するステップと、
前記システム(3)の前記吸い口(10)から前記送信信号を発信するステップと、
前記送信信号の反射を含む受信信号を検出するステップと、
前記許可された使用者(21)が前記舌(26)を所定のパターンで動かした際に前記許可された使用者(21)の前記舌(26)からの前記送信信号の前記反射におけるドップラーシフトのパターンを含む前記受信信号の特性を導出すべく前記受信信号を解析するステップと、
学習アルゴリズムを用いて、前記許可された使用者(21)の前記導出された特性を他の既知の使用者の対応する特性の記憶された表現と比較して、前記許可された使用者(21)を他の既知の使用者から区別することができるバイナリ使用者分類テストを生成するステップとを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記使用者(21)を認証するステップが、前記使用者(21)を詐称者から区別可能な導出された特性の特徴を評価すべく、詐称者分類バイナリテストを適用するステップを含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記送信及び受信信号が音響信号である、請求項5~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記送信信号が人間の通常の可聴範囲よりも高い主周波数を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記送信信号が15kHz~30kHzの範囲の主周波数を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記解析器(52)が、請求項5~13のいずれか1項に記載の方法を実行すべく構成されたプロセッサを含む、請求項1に記載の蒸気生成システム(3)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、液体を加熱して蒸気を生成し、その蒸気が冷却及び凝縮してシステムの使用者が吸入するためのエアロゾルを形成すべく構成された蒸気生成システムに関する。より具体的には、そのような蒸気生成システムを使用する前に使用者の素性を認証することに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気生成システム(又はより一般的に、電子タバコ又はe-タバコ(e-cigarette))という用語は、従来の紙巻タバコとしてタバコ葉を喫煙する感覚又は体験をシミュレートすることを意図した携帯電子機器を指す。電子タバコは、蒸気生成液体を加熱して蒸気を生成し、その蒸気が冷却及び凝縮して使用者により吸引されるエアロゾルを形成することにより機能する。従って、電子タバコの使用は「ベイピング」と呼ばれることもある。蒸気生成液体は通常、ニコチン、プロピレングリコール、グリセリン、香料を含む。
【0003】
典型的な電子タバコの気化ユニット、すなわち蒸気生成液体を気化させるシステム又はサブシステムは加熱要素を利用してカプセル、タンク又は貯液槽に貯蔵された液体から蒸気を生成する。使用者が電子タバコを操作した際に、液体が貯液槽から液体移送要素、例えば綿芯又は多孔質セラミックブロックを通って搬送され、加熱要素により加熱されて蒸気を生成し、その蒸気が冷却及び凝縮することにより吸入可能なエアロゾルを形成する。電子タバコを使い易くすべく着脱可能なカートリッジを採用する場合が多い。これらのカートリッジは「カトマイザー」として構成される場合が多く、これは液体貯蔵容器、液体移送要素及び加熱器を含む一体型部品を意味する。加熱要素と電源の間に電気的接続を確立すべく電気コネクタが設けられていてよい。このようなカートリッジは使い捨て、すなわち貯液槽内の液体の供給が尽きた後で再利用できるようには意図されていない。代替的に、これらは新たに供給された蒸気生成液体で貯液槽を再充填できる手段が設けられていて再利用可能であってよい。
【0004】
電子タバコ用カートリッジは典型的に、第1の終端における吸気口、第2の反対側の終端における排気口を含む。(システムの使用者の観点から考えて、カートリッジの第1の終端は遠位端とも呼ばれ、カートリッジの第2の終端は近位端又は吸い口端とも呼ばれる場合がある)。カートリッジの第1終端は、例えば、電源及び制御電子部品を含んでいてよい蒸気生成システムの本体に取り外し可能に接続されるべく構成されている。使用者はカートリッジの第2の終端の吸い口から吸入して吸気口から排気口までの空気流路に沿って空気を吸引する。空気流路は、加熱要素により気化された液体が空気と混合する気化チャンバを貫通する。
【0005】
個々の蒸気生成システムは、無許可の人物が使用できないことが望ましい。これにより異なる使用者同士の感染又は交叉汚染を防ぐことができる。また、子供等の不適切な人物が蒸気生成システムを使用するのを防ぐこともできる。従って、蒸気生成システムは、使用者が操作する前に認証を行えることが必要である。認証処理により現在の使用者が許可された使用者として分類できない場合、蒸気生成システムは動作を停止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
携帯蒸気生成システムは、小型且つ電池出力に制限があり、再利用可能であるにもかかわらず寿命が短い場合が多い。従って認証処理は電池に大きな負荷を掛けるべきではなく、且つ実行に高価なセンサー又はその他の部品を必要とすべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、蒸気生成システムであって、
使用者の口腔内へ送信信号を発信する送信器と、送信信号の反射を含む受信信号を検出する受信器とを含む吸い口と、
受信信号の特性を解析してシステムの使用者を認証する解析器であって、解析された特性が送信信号の反射におけるドップラーシフトを含み、認証が、ドップラーシフトのパターンが使用者の舌の動きの所定のパターンに対応するか否かに少なくとも部分的に基づいている解析器と
を含む蒸気生成システムを提供する。
【0008】
本発明は更に、蒸気生成システムの使用者を認証する方法であって、
システムの吸い口を使用者の口腔内に挿入するステップと、
システムの吸い口から送信信号を発信するステップと、
送信信号の反射を含む受信信号を検出するステップと、
送信信号の反射におけるドップラーシフトを含む受信信号の特性を導出すべく受信信号を解析するステップと、
ドップラーシフトのパターンが使用者の舌の動きの所定のパターンに対応するか否かに少なくとも部分的に基づいて使用者を認証するステップと
を含む方法を提供する。
【0009】
蒸気生成システムは本質的に、生成された蒸気を使用者が吸入するために使用者の口腔内に受容される吸い口を含む。これにより、吸い口により送信及び受信される信号に対する影響から検出できる所定のパターンの舌の動きを行うよう使用者を促すことにより、使用者を認証できるようになる。利点として、近くにいるかもしれない無許可の人物からは舌の動きが隠されているため、そのような人物が所定のパターンを学習し、これを用いて蒸気生成システムを動作可能にすることができない。たとえ無許可の人物が一般的なレベルで所定のパターンを学習したとしても、許可された使用者の舌の動かし方の導出された特性に含まれている詳細を再現できる可能性は極めて低いと思われる。従って、本発明は、使用者を認証する安全な装置及び方法を提供する。
【0010】
受信信号の導出された特性は、使用者が舌を受信器に近づけたか又は遠ざけた際の送信信号のドップラーシフトのパターンを含む。このようなドップラープロファイルに基づく特性は、少なくとも唇の動きの同様の状況において、異なる使用者同士を確実に区別できることがデモンストレーションされている。ドップラープロファイルは、受信信号に含まれる周波数だけを判定することにより、確立された信号処理技術により取得できる舌の動きの特徴を導出する比較的簡単な方法を提供する。この方式により、舌の位置又は口腔の形状の絶対値を判定できる、より複雑なセンサーの必要性を回避する。
【0011】
所定のパターンは好適には、使用者が1つ以上の所定のパスワードを聞こえるように、又は聞こえないように話すことから得られる。これは、使用者が自身の舌の動きの詳細について意識的に考える必要無しに、素早く反復可能に、且つ潜在的に極めて複雑な仕方で舌を動かすのに便利である。
【0012】
受信信号を解析するステップは、信号を周波数領域に変換し、次いで周波数領域における信号勾配を解析するステップを含み得る。高速フーリエ変換等の確立された技術を用いて信号を変換することができる。周波数領域での動作は、舌の動きに起因するドップラーシフトした周波数を送信信号の主周波数から区別すると共に、所定のパターンの動きが実行されている間の時間経過に伴うこれらの周波数の変化も識別する便利な仕方を提供する。
【0013】
使用者を認証するステップは、使用者を他の既知の使用者から区別可能な導出された特性の特徴を評価すべく使用者分類バイナリテストを適用するステップを含んでいてよい。バイナリテストは、少なくとも単一の使用者に蒸気生成装置の使用を許可する状況に適している。この場合、認証処理は、そのようなシステムの可能性のある既知の使用者全員から使用者の素性を探すのではなく、「現在の使用者は現在の機器の許可された使用者か?」との質問に対する「はい」又は「いいえ」の答えを見つけるだけでよい。適切なバイナリテストは、システムが並外れた処理能力を有していなくても、又は既知の使用者全員の詳細を保存する必要無しに、1つ又はいくつかのステップでその答えを与えることができる。
【0014】
使用者を認証する方法は、好適には、事前の使用者分類訓練ステップを含み、当該ステップは、
許可された使用者の口腔内にシステムの吸い口を挿入するステップと、
システムの吸い口から送信信号を発信するステップと、
送信信号の反射を含む受信信号を検出するステップと、
許可された使用者が所定のパターンで舌を動かした際に許可された使用者の舌からの送信信号の反射におけるドップラーシフトのパターンを含む受信信号の特性を導出すべく受信信号を解析するステップと、
学習アルゴリズムを使用して、許可された使用者の導出された特性を、他の既知の使用者の対応する特性の記憶された表現と比較し、許可された使用者を他の既知の使用者から区別することができる使用者分類バイナリテストを生成するステップと
を含む。
【0015】
このように、システムは許可された使用者を認識するように訓練され、将来、他の無許可の使用者がシステムを操作するのを防ぐことができる。受信信号を解析するステップは、生成されたバイナリテストが使用者の動作の実行におけるバラツキを必ず考慮に入れるべく、使用者が所定の動作パターンを数回反復する間に実施することができる。
【0016】
使用者を認証するステップは更に、使用者を詐称者から区別可能な導出された特性の特徴を評価すべく、詐称者分類バイナリテストを適用するステップを含んでいてよい。詐称者は、舌の動きの所定のパターンを知り、それを再現して蒸気生成システムにアクセスしようとする認証されていない人物である。しかし、認証された使用者が行う動きの全ての詳細を詐称者が再現できる可能性は低いと思われるため、本発明の本態様によれば、更なるバイナリテストにより、認証された使用者と詐称者を区別することができる。
【0017】
本発明の特定の実施形態において、送信及び受信信号は音響信号である。このような信号は、スピーカーによって容易に生成されてマイクロホンによって検出され、これらは小型且つ低コストで蒸気生成システムの吸い口に設けることができる低消費電力の単純な部品である。本発明の代替的な実施形態は、電磁スペクトル内の送信及び受信信号、例えば車両の速度検出器に使用されるものと同様のマイクロ波に基づいていてよい。
【0018】
送信される音響信号は、好適には、例えば15kHz~30kHzの範囲等、人間の通常の聴覚範囲よりも高い主周波数を含む。この範囲の音響信号は、使用者に聞こえず、又は煩わしくも有害でもなく、口腔内の空気を通して効果的に伝達されて舌から効果的に反射される。
【0019】
本明細書において、「認証」は、蒸気生成システムの現在の使用者がシステムの許可された使用者であるか否かを判定する処理である。認証の結果は従って肯定又は否定である。
【0020】
「上側」及び「下側」等の用語は、システムの認証又は使用中おける蒸気生成システムの通常の向きを示す。本システムが、任意の向きで製造、輸送、保管又は販売されても請求項に記載する発明の範囲内にあり得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】先行技術による、本発明を使用し得る種類の蒸気生成システムの模式図である。
【
図2】本発明による蒸気生成システムの使用を模式的に示す、使用者の口腔を通る垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本発明による蒸気生成システム3の1つの可能な構成を模式的に示す。蒸気生成システム3の本体1は、制御回路52に電力を供給する電源50を収容する。蒸気生成システム3は更に、蒸気生成液体の供給を含む貯液槽18を収容するカートリッジ2を含む。カートリッジ2の遠位端6は、本体1に取り外し可能に接続されているため、貯液槽18内の蒸気生成液体の供給が枯渇した場合、カートリッジ2を取り外して交換又は再充填することができる。カートリッジ2の近位端8には吸い口10があり、カートリッジ2に取り付けられていても、又は一体化されていてもよい。空気流路は、吸気口12から気化チャンバ14を通って吸い口10の排気口16まで伸長しているため、使用者は吸い口10を通して吸入することにより気化チャンバ14を通る空気流路に沿って空気を引き込むことができる。
【0023】
綿芯又は浸透性セラミックブロック等の手段(
図1に示さず)により、蒸気生成液体が貯液槽18から気化チャンバ14にゆっくりと浸透することができる。端子54が制御回路52を介して電源50をカートリッジ2内の加熱器60に結合する。加熱器60に電力を印加することにより気化チャンバ14内の温度を上昇させることができるため、気化チャンバ14内に露出した蒸気生成液体を気化させることができる。生じた蒸気は、使用者の吸入により空気流路に沿って吸引される空気の流れに巻き込まれる。蒸気が気化チャンバ14から排気口16に向かって搬送されるにつれて、吸入に適した温度に冷却され、少なくとも部分的に凝縮して液滴となり、その大部分は使用者が吸入する空気流に巻き込まれたままである。
【0024】
図1は蒸気生成システム3のカートリッジ2と本体1が終端同士で接続された構成を示しているが、本発明の代替的な実施形態において、カートリッジ2が本体1内に取り外し可能に受容できることが理解されよう。その場合、吸い口10は、カートリッジ2ではなく蒸気生成システムの本体1に取り付けられるか又は一体化されていてよい。
【0025】
図2に、
図1に示す一般的な種類の蒸気生成システムを模式的に示しており、蒸気生成システムの吸い口10は、使用者21の口を介して口腔20内に受容される。好適には、使用者21の上側と下側の唇22、及び上側と下側の歯24が吸い口の外側に載る。これにより、蒸気生成システムの排気口16は、口腔20内で歯24の奥側に位置するため、開口部が概ね舌26の方を向く。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、蒸気生成システムが、口腔に対して定位置で口腔内に受容されることが重要な場合がある。蒸気生成システムの形状又は表面装飾(図示せず)により、使用者は、当該システムを保持する長手方向軸の回りの正しい向きを容易に識別することができる。吸い口10は、蒸気生成システムを長手方向の定位置に配置できるように使用者21の歯24又は唇22と係合する凹部、止め部又は他の特徴(図示せず)を有するように整形されていてよい。他の実施形態において、(後述する)信号処理により、蒸気生成システムを異なる位置に挿入することが可能であり得る。
【0027】
吸い口10は、口腔20内に信号を放射する送信器30と、口腔20内の表面、特に舌26からの送信信号の反射を含む信号を検出する受信器32とを含む。送信器30及び受信器32は、送信器30又は受信器32と口腔20の関連部分との間の視線が妨害されない位置で吸い口10に設けられるべきである。
図2の模式的な例では吸い口10の近位端面に配置されている。これらは代替的に、使用中に歯24又は舌26との接触から、及び非使用時には一般的な環境から保護すべく排気口16の直内側に配置されていてよい。
図2の模式的な例において、送信器30は排気口16の直上方に配置され、受信器32は排気口16の直下方に配置されているが、これらは代替的に排気口16の反対側(左右)に配置されていてもよい。他の実施形態において、送信器30と受信器32は互いに隣接して配置されていてよい。いくつかの種類の送信器及び受信器は、例えばInfineon(登録商標)社から販売されているBGT60LTR11AIPマイクロ波レーダーモーションセンサチップ等の単一マイクロチップ上でパッケージ化された状態で入手可能である。いくつかの用途では、単一の要素を送信器と受信器の両方に用いることが可能な場合もある。
【0028】
蒸気生成システム1の制御回路52は、受信器32が受信した信号を解析し、受信信号の特性に基づいてシステムの使用者21を認証する解析器を含む。解析器は、専用プロセッサ又は汎用コンピュータに実装されていてよい。蒸気生成システム1は更に、WiFi、Bluetooth(登録商標)、又は他の有線或いは無線通信手段(図示せず)を含んでいてよく、これを用いて受信信号を表すデータをスマートフォン等の別の機器にエクスポートして解析の少なくとも一部を遠隔実行すること、及びこれを用いて解析結果をインポートして使用者の認証を完了するか又は認証の結果に基づいて動作することができる。本発明のいくつかの実施形態において、現在の使用者を識別するために、解析器により判定された特性を既知の使用者の特性のデータベースと比較することでき、当該データベースは、更新が容易に行えるように蒸気生成システム3から遠隔な中央拠点に保存されていることが好都合である。本発明の大多数のアプリケーションにおいて、許可された1名の使用者が特定の蒸気生成システムに紐付けられる。従って、システムは、可能な使用者全員から現在の使用者を識別する必要がなく、現在の使用者の検出された特性が許可された使用者の保存されている特性と合致するか否かを判定する(「はい」又は「いいえ」と答える)バイナリテストを実行するだけでよい。
【0029】
使用者は最初に、システム3を使用するために起動する。これは様々な方法、例えばボタンを押す、又は吸い口10に息を吹き込む等により行うことができる。システム3は、使用者が手に取ればシステムを起動する動きセンサー、又は吸い口10が使用者の口に入れられたことに反応できる圧力センサー又は光センサー(図示せず)を含んでいてよい。
【0030】
起動されたならば、蒸気生成システム3は動作可能になる前に使用者を認証する必要がある。典型的には、使用者が認証されるまでは、制御回路52は加熱器60に電力を供給しないため、システム3は蒸気を生成できない。システム3は、認証が必要であることを、例えば音を発信したり、又は振動したりすることにより、使用者に示すことができる。本発明によれば、認証は、使用者が、使用者を特徴付ける所定のパターンに従い自身の舌26を動かすことにより行われる。名目的に同一パターンを実装している2人の使用者が解析器が区別できる程度に充分に異なる仕方でそうする可能性が高いと思われるため、選択されたパターンは必ずしもこのようなシステムの使用者全員の間で一意ではない。
【0031】
所定のパターンは簡単な一連の動き、例えば、舌26の先端で左側の歯24に1回触れ、次いで右側の歯24に2回触れ、続いて口蓋に触れる等、であってよい。好適には、所定のパターンは、使用者が1つ以上の所定のパスワードを話すときの舌の動きから生じる。
【0032】
パスワードが充分な個数のシラブルを含む場合、そのようなパターンは、単純なシーケンスよりも複雑である可能性が高く、使用者がパスワードを素早く、且つ関連する動きを意識せずに話すことができるため、より一貫性がある。無論、吸い口10が使用者の歯に挟まれていることによりパスワードの発音が影響を受けるため、使用者はそのような状況で発音するのが難しい要素、例えば文字「p」又は「b」等を含む単語を避ける方が容易な場合がある。一方、発音の困難さはシステムにとって問題ではなく、うまく発音された単語よりも一貫した動きのパターンが検出できるだけでよい。パスワードは、近くにいる他人に知られないように静かに、又は聞き取れないように話されるのが好適であるが、たとえ他人がパスワードを知ったとしても、パスワードを話しながら使用者の特徴的な舌の動きを再現できる可能性は低いと考えられる。このようなシステムは、使用者が話す音には依存しないため、騒がしい環境でも同様に機能するであろう。
【0033】
送信器30が信号を発信し、受信器32は舌から反射された信号の変化を通じて舌26の動きを検出する。受信信号は、動いている舌26から反射された際の信号の周波数のドップラーシフトを検出すべく処理される。使用者が舌26を所定のパターンで動かして舌が受信器32に近づいたり遠ざかったりするにつれてドップラーシフトは時間経過に伴い特徴的に変化する。この技術では、舌の位置又は移動速度を直接測定する必要はなく、ドップラープロファイルさえあれば充分に機能する。小さなドップラーシフトを検出できるように、送信信号は、単一の主周波数で、又は主周波数近辺の狭い帯域で発信される実質的に連続的なトーンであってよい。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態において、送信器30は、高周波音響信号を発信するスピーカーであってよく、受信器32は同様の周波数に感応するマイクロホンであってよい。この文脈において「高周波数」は人間の通常の可聴域を超える周波数、例えば15kHz~30kHzの範囲の周波数を意味し、従ってトーンは使用者の気を散らす、又は煩わしいものではない。この周波数は、医療用超音波画像診断に用いられる、固形組織だけを透過し得る更に高い周波数(1MHz超)とは異なり、空気中を透過しても減衰が少ないものでなければならない。
【0035】
高周波音響信号に基づく同様の技術は、2018 IEEE Conference on Computer CommunicationsにおけるLi Luらによる研究論文「LipPass:Lip Reading-based User Authentication on Smartphones Leveraging Acoustic Signals」(DOI:10.1109/INFOCOM.2018.8486283)でデモンストレーションされている。当該デモンストレーションにおいて、例えば20kHzの音響信号を使用者の口に向けて発信し、反射された信号を解析して、所定のパスワードを使用者が話している間の唇の動きに固有の特徴を抽出した。マイクロホンで検出されたサンプリング振幅を高速フーリエ変換を用いて周波数領域に変換することにより、唇の動きによるドップラー効果の変化に起因して反射信号の周波数が時間経過に伴い変化する様子のプロファイルを生成した。発話中の使用者の唇から反射された音響信号のドップラープロファイルにより、たとえ同じ単語を話していても、異なる使用者の各々に固有な唇の動きのパターンがあることが示された。このように、同じ使用者が異なる状況で言葉を話す場合、結果的に得られるプロファイルには他の使用者が同じ言葉を話した場合には存在しない共通の特徴がある。
【0036】
唇の動きを特徴付けるべく、LipPassのデモンストレーションでは、ディープラーニングに基づく方法を用いてドップラープロファイルから効率的な特徴を抽出した。当該方法は次いで、サポートベクトルマシン及びサポートベクトル領域記述技術を採用して使用者の識別及び詐称者検出のために二値分類器及び詐称者検出器を各々構築した。その後、各使用者を正確に認証すべく二分木に基づく認証アプローチを採用し、その際に登録使用者に関しては二値分類器を、及び許可された使用者のパスワードの話し方を真似る恐れがある登録使用者ではない他の人物である詐称者に関しては詐称者検出器を活用した。
【0037】
本発明によるシステムでは同じ技術を用いて、使用者を認証できるドップラープロファイルから特性を導出することができる。
【0038】
音響信号の代替として、例えば1GHz超の周波数範囲の無線周波数電磁放射を用いて動作する送信器30及び受信器32が蒸気生成システム3に設けられていてよい。音響の場合と同様に、舌が受信器32に近づくか又は遠ざかるにつれて反射信号の周波数にドップラーシフトが生じ、これを受信器32が検出して、時間経過に伴い変化する周波数シフトのドップラープロファイルの生成に用いることができる。使用者が、例えばパスワードを聞こえるように、又は聞こえないように話すことにより舌26を所定のパターンで動かす場合のドップラープロファイルは、他の使用者及び詐称者との区別に利用できる特徴を含んでおり、システム3は従って使用者を認証する方法として検出されたドップラープロファイルを用いることができる。
【0039】
認証処理により使用者がシステム3の使用を許可されていると判定されたならば、ヒータ60を含むシステムの機能が従来の仕方で動作可能になる。動作は、所定時間にわたり、又は喫煙セッションの終了等、一定の条件に達したと判断されるまで有効であり続けることが許可されてよい。
【0040】
システム3を初めて使用する前に、認証された使用者を認識する事前の使用者分類訓練処理を実行してシステムを訓練する必要がある。システム3が起動され、許可された使用者が吸い口10を自身の口に入れる。システム3は、使用者に、例えば1つ以上のパスワードを話すことにより選択された所定のパターンで舌26を動かすように指示する。認証された使用者がこれを行う間、送信器30が信号を発信し、動いている舌26から反射された信号を受信器32が検出し、認証処理中と同じ仕方で解析器が検出された信号を処理してドップラープロファイルを生成する。しかし、訓練処理中にドップラープロファイルが解析されて、現在の許可された使用者と他の無許可使用者との区別に利用できる特徴を導出する。システム3は、ドップラープロファイルから適切な特性を導出できない場合、例えばパスワードが認可された使用者を一意に識別できる特性を含めるのに充分な長さを有していない場合、認可された使用者に警告を発することができる。
【0041】
好適には、システム3は許可された使用者に、舌の動きの連続的な反復における変動を許容できるように舌の動きのパターンを多数回反復するように促す。反復回数は予め決められていても、又は充分なデータが収集されるまで反復を続けてもよい。連続するドップラープロファイルはシステム3のメモリに保存され、次いでサポートベクトルマシン又はサポートベクトル領域記述等の深層学習技術を適用して、許可された使用者に固有の使用者識別及び詐称者検出用の二値分類器を構築する。二値分類器の構築は、システム3の制御回路内の解析器により実行されてよく、又はシステム3に外部通信手段が設けられていれば構築ステップを遠隔処理すべくエクスポートされてもよい。システム3は、例えば反復される舌の動き同士のバラツキが多過ぎるために適切な分類器が構築できなければ、許可された使用者に警告を発信することができる。
【0042】
二値分類器は、後続する状況でシステム3による使用者の認証時で使用すべく蒸気生成システム3のメモリに格納される。二値分類器は遠隔地に保存されていてもよいため、認証された使用者が同じ種類の新たな蒸気生成システム3を用いたいと望めば、新たな分類器を作成すべく認証された使用者が新たな訓練処理を実行する代替方式として、保存された二値分類器を遠隔地から新たなシステム3にダウンロードすることができる。
【国際調査報告】