(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】炎症性疾患の処置のためのタンパク質組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 14/375 20060101AFI20240829BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240829BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240829BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240829BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C07K14/375 ZNA
A61P1/02
A61P29/00
A61K38/16
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/26
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506781
(86)(22)【出願日】2022-08-27
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 IB2022058039
(87)【国際公開番号】W WO2023031751
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202121039213
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515259694
【氏名又は名称】ユニケム ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダナンジャイ・サテ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィヴェーク・ミシュラ
(72)【発明者】
【氏名】スニル・ジョグ
(72)【発明者】
【氏名】ガウタム・バクシ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB22
4C076CC04
4C076CC16
4C076DD23Z
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4C084BA01
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4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA15
4H045DA80
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、レクチンタンパク質の医薬組成物、並びに炎症性疾患を含めた炎症の防止、処置、及び治癒のためのその使用に関する。より詳細には、本発明は、レクチンタンパク質を含む局所適用のための医薬組成物、並びに化学療法及び/又は放射線療法が原因の炎症の防止、処置、及び治癒のためのその使用に関する。レクチンは、配列番号1の配列又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の予防的及び/又は治療的処置において使用するための、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質。
【請求項2】
炎症が口腔粘膜炎である、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
口腔粘膜炎の予防的及び/又は治療的処置において使用するための、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質。
【請求項4】
配列番号1と少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む又はそれからなる請求項1から3のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項5】
配列番号2、配列番号3、又は配列番号4のアミノ酸配列を含む又はそれからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項6】
配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質を含む、局所適用のための組成物。
【請求項7】
口腔粘膜への局所適用のために配合される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
緩衝剤、増粘剤、安定化剤、及び湿潤剤から選択される、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤及び/又は希釈剤を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
タンパク質が、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなる、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
a)トリス緩衝液及び塩化ナトリウムから選択される1つ又は複数の緩衝剤、
b)ヒドロキシエチルセルロース、ポロキサマー-188、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムから選択される1つ又は複数の増粘剤、
c)グリセリン、プロピレングリコールから選択される1つ又は複数の湿潤剤、
d)スクロース、L-アルギニン塩酸塩から選択される安定化剤のうちの1つ又は複数
を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
0.01%~2.5%のレクチンタンパク質、0.005%~1.7%のトリス、0.007%~2.4%の塩化ナトリウム(NaCl)、0.1~4%のヒドロキシエチルセルロース(HEC)、20%~40%のプロピレングリコール、及び8%~40%のグリセリンを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項12】
0.01%~2.5%のレクチンタンパク質、0.005%~1.7%のトリス、0.007%~2.4%の塩化ナトリウム(NaCl)、3%~10%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCナトリウム)、0.01%~4.5%のポロキサマー、4%~60%のプロピレングリコール、0.01%~4.5%のスクロース、及び0.01%~0.2%のL-アルギニン塩酸塩を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項13】
0.01%~2.5%のレクチンタンパク質、0.005%~1.7%のトリス、0.007%~2.4%の塩化ナトリウム(NaCl)、0.1~4%のヒドロキシエチルセルロース(HEC)、3%~10%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCナトリウム)、4%~60%のプロピレングリコール、及び8%~40%のグリセリンを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項14】
有効量の(i)配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、若しくは配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質、又は(ii)有効量の配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、若しくは配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質を含む医薬組成物を投与する工程を含む、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の予防的及び/又は治療的処置の方法。
【請求項15】
タンパク質又は組成物を局所的に、より好ましくは口腔粘膜に投与する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
レクチンを、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の予防的及び/又は治療的処置のための医薬品の製造のために使用する、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項17】
炎症が口腔粘膜炎である、請求項16に記載のタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レクチンタンパク質の医薬組成物、並びに炎症性疾患を含めた炎症の防止、処置、及び治癒のためのその使用に関する。より詳細には、本発明の態様は、レクチンタンパク質の局所用医薬組成物、並びに化学療法及び/又は放射線療法が原因の炎症の防止、処置、及び治癒のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、治癒プロセスを開始させる化学的シグナルの多因子的ネットワークを始動させることによって、傷害を受けた組織をさらなる感染症から保護することに寄与する。これは、重要な血液細胞(好中球、肥満細胞、及び好酸球)の活性化並びに損傷部位への遊走が関与する。細胞(マクロファージ、肥満細胞、内皮細胞、及びシュワン細胞)は、サイトカイン及び細胞の再生に必要な特定の成長因子を分泌し、このプロセスは、最終的には正常な微小環境の再構成をもたらす。サイトカイン及び成長因子は、細胞増殖、分化、アポトーシス、免疫学的又は造血応答、形態形成、血管形成、代謝、創傷治癒、及び組織恒常性の維持等の多種多様な生理的プロセスに影響を与える。
【0003】
癌処置の方法は、とりわけ放射線療法及び化学療法を含むことができる。放射線療法は、照射した身体部位内及びその周囲の組織及び臓器の炎症を引き起こす場合がある。放射線は、皮膚の炎症を起こして、熱傷又は永久の色素沈着を引き起こす場合がある。化学療法は、粘膜において細胞を損傷させることが知られている。
【0004】
粘膜の細胞は、胃腸管を裏打ちする迅速に分裂中の上皮前駆細胞の破壊又は損失が原因で炎症を起こし(粘膜炎と呼ばれる状態)、粘膜組織が潰瘍形成を受けやすくする。これは、有痛性の潰瘍、出血、及び感染症をもたらす場合がある。
【0005】
炎症の重篤度は、薬物の用量、投与間隔、処置した組織の体積、及び放射線の種類を含む、様々な要因に応じて変動する。
【0006】
化学療法誘導性の腸炎、膵炎、末梢神経障害、静脈炎/輸液静脈炎(Ph)、及び筋肉減少症は、化学療法が原因の炎症の一般的な形態である。
【0007】
放射線療法誘導性の放射線腸炎、腸骨静脈の血管炎、視神経症、直腸炎、放射線肺炎、及び皮膚反応(RISR)は、放射線療法が原因の炎症の一般的な形態である。
【0008】
化学療法及び放射線療法が原因の炎症は、二次発癌をもたらし得る重篤な炎症であるが、主焦点が癌の処置であるため、対処されることがない。
【0009】
化学療法及び/又は放射線療法の副作用としての最も一般的な炎症の種類は、口腔粘膜炎(OM)である。これは、疼痛、摂食不能の結果としての栄養上の問題、及び粘膜中の開放痛が原因の感染症の危険性の増加をもたらすため、癌処置の衰弱性の合併症である。
【0010】
口腔粘膜炎の現在の臨床的管理は、疼痛管理、栄養上の支援、及び水分補給等の対症措置、生理食塩水の洗液の使用、局所的及び全身性の鎮痛、感染症の監視及び処置、並びに良好な口腔衛生の維持に主な焦点を当てている。
【0011】
それ以外に、口腔粘膜炎の管理のために、様々な段階の臨床開発にあるいくつかの有望な治療剤が存在する。
【0012】
現在、Kepivance(商標)(パリフェルミン、US6677301)は、静脈内注射としての自己造血幹細胞支援の設定において骨髄毒性治療を受けている、血液悪性腫瘍を有する患者における重篤なOMの発生率及び持続期間を減少させることが示されている、粘膜皮膚上皮ヒト成長因子である。しかし、OMの処置におけるKepivance(商標)の使用に向けていくつかの制限がある。第一に、Kepivance(商標)の安全性及び有効性は、非血液悪性腫瘍を有する患者において確立されておらず、第二に、同種異系造血幹細胞サポートの設定において骨髄毒性治療を受けている、血液悪性腫瘍を有する患者における重篤な粘膜炎の発生率を減少させることにおいて有効でない。加えて、その高い費用は、OMの処置又は防止におけるその値段的な入手可能性における制限である。
【0013】
他の化合物が、OMの予防及び処置として使用するために評価されている。リドカイン洗口液等の鎮痛剤は短期間の間有効であるが、数時間以内に、疼痛及び不快感が通常は戻る。Brilacidin(国際特許出願WO2012158672を参照)、Mosedipimod(WO2017082629を参照)、及びDusquetide(WO2015038264を参照)は、化学療法及び/又は放射線療法が原因の口内炎について調査下にある分子の一部である。
【0014】
残念ながら、今日現在、化学療法及び/又は放射線療法によって引き起こされた炎症等の重篤な副作用を効率的な様式で防止、低減、又は排除することができる、値段的に入手可能な医薬組成物は1つもない。癌及びその処置が原因の激痛を有する患者は、癌処置の副作用の防止及び処置のための、使用又は施用が容易であり、有効であり、安価であり、高効率である選択肢を必要としている。近年の癌患者集団の相当な増加に伴って、癌処置によって引き起こされた副作用、特に化学療法及び/又は放射線療法が原因の炎症の有効な処置の必要性が差し迫っている。
【0015】
出願人の以前の特許出願である350/MUM/2009(特許IN 277986として許可)は、腫瘍関連グリカンTF抗原(Galβ1-3GalNAc-α-O-Ser/Thr)に対して高い結合特異性を有する配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンを開示する。別の出願WO2020074984 (A1)では、出願人は、乾癬、乾癬性関節炎、関節リウマチ(RA)、肝炎、喘息、炎症性腸疾患、側頭動脈炎、アトピー性皮膚炎、全身性ループス、多発性硬化症、又はサルコイドーシスを含む炎症性疾患の処置及び防止のための、配列番号2等のレクチンタンパク質の使用を開示した。更に、出願人は、その出願WO2021005500 (A1)中で、好ましくは非経口的に投与する配列番号2等の組換えレクチンタンパク質の安定配合物を開示する。
【0016】
WO2021005500 (A1)中に開示した配合物は、癌処置を受けている対象において、炎症の処置において有益な効果を有し得る。しかし、化学療法若しくは放射線療法又は両方、或いは任意の他のそのような処置が原因で苦痛を受けている患者は、そのような主要な処置の副作用を処置するために、高度に有効かつ使用が容易な配合物を好むであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】US6677301
【特許文献2】WO2012158672
【特許文献3】WO2017082629
【特許文献4】WO2015038264
【特許文献5】350/MUM/2009(特許IN 277986として許可)
【特許文献6】WO2020074984 (A1)
【特許文献7】WO2021005500 (A1)
【特許文献8】WO 2010/095143
【特許文献9】WO 2014/203261
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Altschul et al. Nucleic Acids Res. 1997 Sep 1; 25 (17):3389-402
【非特許文献2】Handbook of Pharmaceutical Excipients (Rowe RC, Sheskey P, Quinn M. Pharmaceutical Press; 2009)
【非特許文献3】The Theory and Practice of Industrial Pharmacy (Lachman, L., Lieberman, H. A., &Kanig, J. L. 1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、癌処置が原因で引き起こされた炎症の防止又は処置のための有効な医薬組成物を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、癌処置が原因で引き起こされた炎症の防止又は処置のための組換えタンパク質を提供することである。
【0021】
本発明の更に別の目的は、癌処置によって引き起こされた副作用の防止及び処置のための、特異性の高い、有効な、安価な選択肢を提供することである。
【0022】
本発明の更に別の目的は、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の防止及び処置の経済的かつ有効な方法を提供することである。
【0023】
本発明の更に別の目的は、癌を患っている及び/又は癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症を治癒する又はその効果を低減させる方法を提供することである。
【0024】
本発明の更に別の目的は、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の防止及び処置のための有効な局所的医薬組成物を提供することである。
【0025】
本発明の更に別の目的は、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた口腔粘膜炎(OM)の処置又は防止のための有効な局所的配合物を提供することである。
【0026】
本発明の別の目的は、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされたOMを治癒する、又は低減させる、又は防止する、又は処置する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の第1の態様によれば、癌処置を受けている対象において、炎症の予防的又は治療的処置において使用するための、組換えレクチンタンパク質又は組換えレクチンタンパク質を含む医薬組成物が提供される。
【0028】
本明細書中における「癌処置」又は「癌治療」又は「癌の処置(treamement)」とは、癌を処置する、癌を治癒する、癌を縮小させる、又は癌の進行及び転移(metastatis)を止めるための、手術、放射線、薬物療法、及び/又は他の療法の使用をいう。薬物療法を使用した癌処置とは、対象から癌を無くす、又は癌細胞の進行を阻害するために使用される、小分子、たとえば5-フルオロウラシル(5-FU)を含めた細胞毒性薬物等の化学物質を使用した処置をいう。そのような薬物は化学療法薬/剤と呼ばれ、癌のそのような処置は化学療法であると言われる。癌はまた、放射線を独立して又は化学療法と共に使用して、処置することができる。癌細胞を、それらを死滅させる又はそのDNAを失活させるかのどちらかのために、高エネルギーを有する光若しくは熱放射線、X線、又はガンマ線等の放射線に曝露させ、それにより癌細胞の進行が阻害される。そのような処置は放射線療法として知られる。標的化治療、ホルモン療法、又は免疫療法等の癌処置の他の方法が存在し、癌患者を、それらに独立して又は化学療法及び/若しくは放射線療法と共にのいずれかで供する。
【0029】
一部の実施形態では、癌処置は、対象における癌を処置する、防止する、低減させる、又は寛解させるために使用する方法を含み得る。特定の一態様によれば、方法は化学療法及び/又は放射線療法を含み、そのような療法は、独立して又は一緒にのいずれかで使用される。また、これらの療法は、癌処置の任意の他の方法と共に、又はその前若しくは後にも使用され得る。
【0030】
本発明に関連して本明細書中で使用する用語「炎症」とは、癌処置を受けている間に引き起こされ、癌処置の副作用の結果である、対象における任意の種類の炎症性免疫応答に関する。炎症は、癌治療又は癌処置方法によって誘導される又はそれが原因であると言われる。炎症は、慢性炎症性疾患に関連し得る、又は急性炎症であり得る。本発明の特定の態様によれば、炎症は消化管の炎症である。本発明のより詳細な態様によれば、炎症は、口内炎、更により詳細には口腔粘膜炎を含む上部消化管の炎症である。
【0031】
本明細書中における用語「誘導する」又は「引き起こす」とは、生じることを意味する。本発明のコンテキストにおいて、癌治療の方法は炎症を引き起こす又は誘導し、癌治療は、癌処置を受けている対象において、炎症又は炎症性疾患の開始及び又は進行の潜在的なトリガーである。
【0032】
用語「処置」は、炎症若しくは根底にある慢性炎症性疾患を実質的に治癒すること(すなわち排除すること)、又は炎症に関連する症状を低減させる(永久的又は一時的のいずれか)を含むことが理解されよう。そのような症状は、腫脹、疼痛、そう痒、熱、発赤(たとえば皮膚の)、機能喪失型(たとえば関節又は肢の)、及び呼吸困難を含み得る。実施形態では、この用語は、炎症、疾患、及び/又は症状の発症を防止することを含み得る(「治療処置」と対照的な「予防的処置」)。
【0033】
用語「防止」とは、炎症の発症を防止すること、又は炎症若しくは根底にある慢性炎症性疾患の進行を防止する若しくは遅くすることを含み得ることが理解されよう。
【0034】
本発明の第2の態様によれば、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の予防的及び/又は治療的処置において使用するための、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質が提供される。また、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の予防的及び/又は治療的処置のための医薬品の製造における、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質の使用も提供される。
【0035】
本発明の第3の態様によれば、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法誘導性のOMの予防的及び/又は治療的処置において使用するための、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質が提供される。また、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法誘導性のOMの予防的及び/又は治療的処置のための医薬品の製造における、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質の使用も提供される。本態様のさらなる提供は、対象におけるOMの予防的及び/又は治療的処置において使用するための、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質、並びに対象におけるOMの予防的及び/又は治療的処置のための医薬品の製造における、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質の使用である。
【0036】
本発明の第4の態様によれば、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質を含む、局所適用のための医薬組成物が提供される。好ましい実施形態では、組成物は、口腔粘膜への局所適用のために配合される。
【0037】
局所用医薬組成物とは、身体上又は身体内の特定の場所に施用する薬物である。局所的投与とは、様々な状態を処置するために、組成物を皮膚又は粘膜等の身体表面に施用することをいう。溶液、クリーム、泡沫、ゲル、フィルム、ローション、及び軟膏が局所的配合物の一部の例である。
【0038】
本発明の第5の態様によれば、癌処置を受けている対象において、炎症の予防的及び/又は治療的処置において使用するための、配列番号1のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質を含む、局所適用のための医薬組成物が提供される。
【0039】
本発明の第6の態様によれば、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法によって誘導されたOMの予防的及び/又は治療的処置において使用するための、配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質を含む、局所適用のための医薬組成物が提供される。また、対象におけるOMの予防的及び/又は治療的処置において使用するための、配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質を含む、局所適用のための医薬組成物も提供される。
【0040】
本発明の第7の態様によれば、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の予防的及び/又は治療的処置において使用するための、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質を含む局所適用のための医薬組成物が提供される。特定の態様によれば、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/若しくは放射線療法が原因で引き起こされたOMの予防的及び/若しくは治療的処置において使用するための、又は対象におけるOMの予防的及び/若しくは治療的処置において使用するための、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンタンパク質を含む局所適用のための医薬組成物が提供される。
【0041】
本発明の別の態様によれば、有効量の(i)組換えレクチン、又は(ii)有効量の組換えレクチンを含む医薬組成物を、対象に投与する工程を含む、癌処置を受けている対象における、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の予防的及び/又は治療的処置の方法が提供される。
【0042】
更に別の態様によれば、本発明は、有効量の(i)配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、若しくは配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質、又は(ii)有効量の配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、若しくは配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質を含む医薬組成物を、対象に投与する工程を含む、癌処置を受けている対象における、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の予防的及び/又は治療的処置の方法を提供する。
【0043】
更に別の態様によれば、本発明は、有効量の(i)組換えレクチン、又は(ii)有効量の組換えレクチンと薬学的に許容される希釈剤若しくは賦形剤とを含む医薬組成物を、対象に投与する工程を含む、癌処置を受けている対象における、化学療法及び/又は放射線療法によって誘導されたOMの予防的及び/又は治療的処置の方法を提供する。
【0044】
さらなる一態様では、本発明は、対象に、有効量の(i)配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、若しくは配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質、又は(ii)有効量の配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、若しくは配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質を含む医薬組成物を投与する工程を含む、癌処置を受けている前記対象における、化学療法及び/又は放射線療法によって誘導されたOMの予防的及び/又は治療的処置の方法を提供する。好ましくは、タンパク質又は組成物は、局所的に、より好ましくは口腔粘膜に局所的に投与される。実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約0.1mg~約50mgの範囲である。
【0045】
本発明はまた、有効量の配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質の投与を含む、癌処置を受けている対象における、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の予防的及び/又は治療的処置の方法にも関し、有効量は、対象の体重1kgあたり約0.1mg~約50mgの範囲であり、レクチンタンパク質は、それ自体として、又は薬学的に許容される形態で投与される(admininstered)。
【0046】
定義
用語「癌」、「腫瘍」、及び「腫瘍」とは、当業者には理解されるように、本出願中で互換性があるように使用される。癌又は腫瘍は、異常な細胞成長から生じる。これらは、正常細胞が制御不能に成長し、押し出された際に形成される。腫瘍の形成はしばしば、組織、臓器、又は生物が正常に機能することに影響を与える。
【0047】
癌は身体内の任意の場所で始まることができ、また、身体の他の部分へと拡大することもできる。癌細胞の拡大は転移と呼ばれる。したがって、用語「癌」は、原発性癌及び転移癌をどちらも包含する。本明細書中で使用する用語「癌」としては、それだけには限定されないが、固形腫瘍及び血液に運ばれる腫瘍が挙げられる。
【0048】
用語「癌」は、皮膚、組織、臓器、骨、軟骨の疾患を含む。本発明に関連性があり得る癌の例としては、それだけには限定されないが、胆管、膀胱、骨、脳、乳房、子宮頸部、結腸、食道、胃腸管系(回腸、結腸、直腸、及び/又は肛門を含む)、頭部、腎臓、肝臓、肺、上咽頭、頸部、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、甲状腺、尿膜管、膣及び子宮の癌が挙げられる。
【0049】
癌は、良性又は悪性、及び悪性腫瘍の任意の段階であり得る。
【0050】
癌は、上皮組織、非上皮組織、皮膚若しくは臓器を裏打ちする組織を構成する細胞、免疫系の細胞、結合組織、又は脊髄若しくは脳の細胞の癌であり得る。
【0051】
癌は癌腫であり得る。本発明の一部の態様によれば、癌は腺癌である。腺癌は、食道、膵臓、前立腺、頸部、乳房、結腸若しくは結腸直腸、肺、胆管、経膣、尿膜管、又は胃腺の癌腫であり得る。
【0052】
本明細書中における「粘膜炎」とは、口から肛門まで消化管を裏打ちする粘膜の炎症及び潰瘍形成をいう。粘膜炎は、癌治療の用量規制毒性が原因でしばしば引き起こされる、粘膜の損傷である。
【0053】
本明細書中における「口腔粘膜炎」(又は「OM」)とは、上部消化管、特に口中の粘膜の炎症をいう(referes)。対象は、対象が癌処置を受けており、放射線及び/又は化学療法によって引き起こされる組織の腫脹、疼痛、潰瘍形成、乾燥感、ヒリヒリ感、口を含む消化管中又は舌上の柔らかく白っぽいパッチ又は膿、及び粘膜中の開いた傷が原因の感染症の危険性の増加が存在する場合に、OMを患っている(sufering)と言われる。
【0054】
本明細書中で使用する用語「レクチン」とは、炭水化物結合タンパク質をいう。
【0055】
本明細書中で使用する用語「タンパク質」とは、アミノ酸残基のポリマーをいう。
【0056】
本明細書中で使用する用語「アミノ酸」とは、天然に存在する及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と類似の機能を有するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体をいう。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によってコードされているものであり、タンパク原性アミノ酸を含む。天然に存在するアミノ酸はまた、細胞中で翻訳後に修飾されたものも含む。合成アミノ酸は、セレノシステイン及びピロリジン等の非カノニカルアミノ酸を含む。典型的には、合成アミノ酸はタンパク原性アミノ酸ではない。
【0057】
アミノ酸を様々な生化学的特性に従って群分けできることを、理解されよう。例としては、極性アミノ酸、非極性アミノ酸、酸性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸が挙げられる。一態様によれば、アミノ酸修飾に使用されるアミノ酸は、それだけには限定されないが、極性、非極性、酸性、塩基性、セレノシステイン、ピロリジン、及び非カノニカルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0058】
本明細書中で使用する用語「相同性」又は「相同的な」とは、所定の領域又は一部分にわたって少なくとも部分的な同一性を共有する、2つ以上の言及した実体をいう。相同性又は同一性の面積、領域、又はドメインとは、相同性を共有する、又は同じである、2つ以上の言及した実体の一部分をいう。したがって、1つ又は複数の配列領域にわたって2つの配列が同一である場合、これらは、これらの領域において同一性を共有する。実質的な相同性とは、それが相同性を共有する参照分子又は参照分子の関連/対応する領域若しくは一部分の、構造又は機能(たとえば生物学的機能若しくは活性)のうちの1つ又は複数の少なくとも部分的な構造又は機能を有するように、又は有すると予測されるように、構造的又は機能的に保存されている分子をいう。
【0059】
一態様によれば、2つの配列間の「相同性」の百分率は、BLASTPアルゴリズムを使用して、初期設定パラメータを用いて決定する(Altschul et al. Nucleic Acids Res. 1997 Sep 1; 25 (17):3389-402)。詳細には、BLASTアルゴリズムは、インターネット上でURL:https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiを使用してアクセスすることができる。代替態様によれば、グローバル配列アラインメントには、2つの配列間の相同性の百分率は、EMBOSS Needleアルゴリズムを使用して、初期設定パラメータを使用して決定する。詳細には、EMBOSS Needleアルゴリズムは、インターネット上でURL:https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/を使用してアクセスすることができる。別段に指定しない限りは、相同性の百分率について言及した場合、これはBLASTPアルゴリズムを使用して決定する。
【0060】
別段に指定しない限りは、用語「相同性」は、本明細書中で用語「配列同一性」と互換性があるように使用される。用語「局所的組成物」とは、薬学的に許容される成分及び組換えタンパク質を含み、経口又は静脈内投与経路を介して摂取する組成物とは対照的に皮膚又は粘膜の表面への施用を意図する、医薬組成物をいう。
【0061】
局所的組成物は、その意図する効果を施用部位で有し、血流又は他の組織中に顕著な薬物濃度をもたらさないことを一般に意図する。本明細書中で使用する用語「賦形剤」とは、活性成分のためのビヒクル又は媒体として役割を果たすが、活性成分の治療効果に影響を与えない、配合物に加える非活性又は通常は不活性の物質である。これは、所望の粘稠性を提供するため、安定性を改善するため、及び/又は組成物の重量モル浸透圧濃度を調節するために使用し得る。薬学的に許容される賦形剤は、安全であり、無毒性であり、ヒトでの薬学的使用に許容される賦形剤である。そのような賦形剤は、米国の食品薬品局(FDA)若しくは欧州の欧州医薬品庁(European Medical Agency)(EMA)又は世界中の対応する機関等の規制団体によって、ヒトでの使用について許容及び認可されている。
【0062】
用語「アッセイ」は、当分野で公知の適切な分析方法による、薬物製品中に存在する原薬の定量的推定に関する。本発明のコンテキストにおける「アッセイ」とは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)方法による、組成物中の配列番号2のレクチンタンパク質の定量的推定を決定するための分析である。
【0063】
用語「バイオアッセイ」は、生きた動物若しくは植物(in vivo)、又は生細胞若しくは組織(in vitro)に対するその効果による、物質の濃度又は効力を決定するための分析方法に関する。本発明のコンテキストにおける「バイオアッセイ」とは、本発明の組成物中の配列番号2のレクチンタンパク質の濃度又は効力を決定するための分析である。
【0064】
用語「ペプチドマッピング」は、タンパク質の同一性試験、特にrDNA技術によって得られたものに関する。これは、ペプチド断片の形成をもたらすタンパク質の化学的又は酵素的処理、続いて、生じた断片の再現性のある様式での分離及び同定を含む。
【0065】
添付の配列の簡単な説明
・配列番号1:ネイティブエス・ロルフシイ(S.rolfsii)のレクチンアミノ酸配列を表す。
・配列番号2:エス・ロルフシイのレクチンアミノ酸配列のバリアントを表す(WO 2010/095143中にRec-2として報告)。
・配列番号3:エス・ロルフシイのレクチンアミノ酸配列のバリアントを表す(WO 2010/095143中にRec-3として報告)。
・配列番号4:エス・ロルフシイのレクチンアミノ酸配列のバリアントを表す(WO 2014/203261中に報告)。
【0066】
配列番号1は以下の配列を有する:
【0067】
【0068】
配列番号2は以下の配列を有する:
【0069】
【0070】
配列番号3は以下の配列を有する:
【0071】
【0072】
配列番号4は以下の配列を有する:
【0073】
【0074】
配列番号1の配列と比較した、配列番号2~4の配列の相違に下線を引いた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】群の%体重変化(g, change in body weight)の百分率を示す図である[二元配置ANOVA、続いてボンフェローニ検定後によって分析、#p<0.05、##p<0.01:G1、G2と比較]。
【
図2】TNF-αレベルに対する配列番号2の効果を示す図である。
【
図3】インターロイキン(Interluekin)-1βレベルに対する配列番号2の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
本発明は、癌処置を受けている対象において、炎症の予防的又は治療的処置において使用するための、組換えレクチンタンパク質又は組換えレクチンタンパク質を含む医薬組成物に関する。
【0077】
本発明の一態様によれば、レクチンは、真菌及び植物からなる群から選択される生物に由来する。一部の態様によれば、レクチンは、スクレロティウム・ロルフシイ(Sclerotium rolfsii)(S.rolfsii)等の、土壌伝播性の植物病原性真菌の菌核体から単離したタンパク質に由来する。「由来する」とは、レクチンがネイティブ配列と同一又は同様であるアミノ酸配列を含むことが理解されよう。レクチンは、配列番号1を有するネイティブ配列と少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含み得る又はそれからなり得る。
【0078】
レクチンは、配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を含み得る又はそれからなり得る。一部の態様によれば、レクチンは、配列番号2、3、又は4と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を含み得る。一部の態様によれば、アミノ酸配列は、配列番号1と少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の相同性を有する。
【0079】
配列番号2は配列番号1と98%の相同性を有する。配列番号3は配列番号1と96%の相同性を有する。配列番号4は配列番号1と91%の相同性を有する。
【0080】
本発明の一部の態様によれば、レクチンは、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなる。
【0081】
特定の態様によれば、レクチンは、配列番号2によるアミノ酸配列を含む又はそれからなり、配列番号2は組換え配列である。
【0082】
特定の態様によれば、レクチンは組換えレクチンであり、レクチン遺伝子を宿主細胞(細菌又は酵母等)内に導入し、その後、遺伝子を発現させてレクチンを生成する。組換えタンパク質を生成する方法は当業者に周知である。たとえば、レクチンをコードしている核酸配列を含む、プラスミド又はウイルスベクター等の組換えDNA分子を提供し得る。核酸配列は、適切な宿主細胞中でのレクチンの発現を制御することができるプロモーターと作動可能に連結させ得る。組換えDNA分子は、当分野で公知の方法を使用して、たとえば形質転換によって、適切な宿主細胞内に挿入し得る。適切な宿主細胞としては、原核細胞(たとえば大腸菌(E.coli))並びに下等真核細胞(たとえば酵母細胞)及び高等真核細胞の両方が挙げられる。その後、宿主細胞を適切な条件下で培養することができ、それによって組換えレクチンが発現される。したがって、組換えレクチンを単離によって宿主細胞からの発現産物として得ることができる。組換えタンパク質は、当分野で公知の慣用技術、典型的には慣用のクロマトグラフィー方法によって精製することができる。
【0083】
本発明の一態様では、癌処置を受けている対象において、炎症の予防的又は治療的処置において使用するための、組換えレクチンタンパク質を含む医薬組成物が提供される。
【0084】
用語「配合物」、「組成物」、「医薬配合物」、及び「医薬組成物」は互換性があるように使用され、活性成分の生物活性が有効となることを可能にするような形態である調製物をいい、したがって、予防的又は治療的使用のために対象に投与してよく、対象は好ましくはヒトである。本明細書中で使用する「活性成分」とは、対象から疾患若しくは疾患の症状を無くす、又は疾患若しくは疾患の症状の重篤度若しくは程度を低減させる、又は疾患の進行を遅くする若しくは遅延させる、又は疾患若しくは疾患の症状の発症を遅くする、遅延させる、若しくは防止するための、所望の生物活性又は治療活性を有する組換えレクチン又は組換えタンパク質をいう。
【0085】
一態様によれば、本発明の組成物は、液体、半固体、又は固体として配合し得る。特定の一態様によれば、本発明の組成物は、溶液、クリーム、ローション、リニメント、ゲル、油状物、懸濁液、軟膏、ペースト、エマルゲル、液滴、リンス、エアロゾル泡沫、フィルム若しくはスプレー、粉末、又は経皮パッチとして配合し得る。
【0086】
一部の態様によれば、本明細書中に記載の医薬組成物は、対象に局所的に投与する。組成物は、固体(錠剤若しくはカプセル等)、凍結乾燥粉末、液体(溶液若しくは懸濁液等)、半固体(クリーム、ゲル、ローション等)、又は当業者に公知の任意の他の形態である剤形として投与し得る。本発明の一部の態様によれば、レクチンタンパク質の医薬組成物は局所的に投与される。
【0087】
一態様によれば、本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤を更に含み得る。一態様によれば、賦形剤は、緩衝剤、安定化剤、ポリマー、可溶化剤、凍結保護剤、凍結乾燥保護剤及び軟化剤、充填剤、希釈剤、乳化剤、界面活性剤、流体力学制御剤、抗微生物剤、抗酸化剤、湿潤剤、シリコン、保存料、フィルム形成剤、キレート化剤から選択され得る。
【0088】
本発明の組成物を調製するための賦形剤の選択は、当業者の知識及び理解の範囲内に十分ある。更に適切な賦形剤は、Handbook of Pharmaceutical Excipients (Rowe RC, Sheskey P, Quinn M. Pharmaceutical Press; 2009)及びThe Theory and Practice of Industrial Pharmacy (Lachman, L., Lieberman, H. A., &Kanig, J. L. 1976)等の標準の参考文献を使用して選択し得る。
【0089】
賦形剤の非限定的な例は、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム二水和物(dehydrate)、リン酸二水素ナトリウム二水和物(dehydrate)、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、TRIS-塩化ナトリウム、リン酸緩衝剤、たとえば二塩基性リン酸カリウム、一塩基性リン酸カリウム、又はヒスチジン等の緩衝剤;デキストラン、グリシン、マンニトール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ソルビトール、及びトレハロース等の凍結保護剤又は凍結乾燥保護剤;ラノリン、炭化水素、たとえばパラフィン、ペトロラタム、及び鉱物油、湿潤剤、たとえばカルボン酸及び乳酸、並びに油、たとえばオリーブ、綿実、トウモロコシ、アーモンド、ピーナッツ、及びヤシ油等の軟化剤;大豆及び卵レシチン、モノ及びジグリセリド、ポリソルベート、カラゲナン、グアルガム、及びキャノーラ油等の乳化剤;ビタミンC及びE、セレン、並びにカロテノイド、たとえばベータ-カロテン、リコペン、ルテイン、及びゼアキサンチン等の抗酸化剤;EDTA等のキレート化剤であり;安定化剤は、当業者に公知のタンパク質安定化剤、又は参考として本明細書中に組み込まれている出願人の以前の出願WO2021005500中に列挙されている安定化剤のリストから選択され得る。一例では、安定化剤は、アミノ酸若しくはその塩、ポリオール、糖、炭水化物、又は界面活性剤の、個々又はその組合せのいずれかであり得る。保存料は、ベンジルアルコール、m-クレゾール、メチルパラベン、フェノール、又はその組合せ;塩化ナトリウム、デキストロース、塩化カリウム、塩化カルシウム、スクロース、又はその組合せ等の等張性改質剤;エチレンジアミン四酢酸等のキレート化剤;アスコルビン酸等の抗酸化剤、及び/又はマンニトール、エチレングリコール、グリセロール、スクロース、トレハロース、及び/又はデキストロース等の凍結保護剤;グリセリン、プロピレングリコール等の湿潤剤(humactant)から選択され得る。組成物中のポリマー又は増粘剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ヒドロキシルエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCナトリウム)、若しくはPEG-4000、又はその組合せ等のポリマー;及びヒト血清アルブミン若しくはゼラチン又はその組合せ等のタンパク質を挙げ得る。アミノ酸は、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、システイン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リシン、アルギニン、又はその組合せから選択され得る。アミノ酸は、L-アミノ酸又はD-アミノ酸、好ましくはL-アミノ酸であり得る。アミノ酸は、それ自体として、又はその塩として使用し得る。塩は、アルカリ塩若しくはアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩若しくはトリエタノールアミン塩等の有機アミン塩、塩基性アミノ酸塩等のアルギニン塩、又は酸塩、たとえば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、鉱酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、或いは当業者に公知の任意の他のアミノ酸塩であり得る。一態様によれば、本発明の組成物は局所的配合物である。
【0090】
特定の一態様によれば、組成物は、局所的配合物のために適切な薬学的に許容される賦形剤を含む。そのような適切な賦形剤は、乳化剤、界面活性剤、軟化剤、流体力学制御/改質剤、抗微生物剤、抗酸化剤、シリコン、可溶化剤、又はフィルム形成剤から選択され得る。一態様によれば、液体の局所的配合物のための賦形剤は、ビヒクル又は溶媒、消泡剤、乳化剤、湿潤剤、界面活性剤、可溶化剤、及び保存料から選択され得る。別の態様では、賦形剤は、緩衝剤、増粘剤又はポリマー、安定化剤、湿潤剤、及び溶媒から選択され得る。
【0091】
一部の態様によれば、本発明の組成物は、グリセロール及び/又はポリエチレングリコール等の薬学的に許容される賦形剤を含み得る。
【0092】
特定の一態様によれば、局所適用のための組換えレクチンタンパク質の医薬組成物は、プロピレングリコール及びグリセリン中の、組換えタンパク質の凍結乾燥粉末を含み得る。
【0093】
本発明の別の態様によれば、配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質を含む、局所適用のための医薬組成物が提供される。
【0094】
本発明の特定の態様によれば、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する組換えレクチンを含む、局所適用のための医薬組成物が提供される。
【0095】
本発明の別の特定の態様によれば、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンを含む、局所適用のための医薬組成物が提供される。
【0096】
一部の態様によれば、本発明の組成物は、約0.01%~約2.5%のレクチン(好ましくは配列番号2のレクチン)、約0.005%~約1.7%のトリス、約0.007%~約2.4%の塩化ナトリウム(NaCl)、約0.1~約4%のヒドロキシエチルセルロース(HEC)、約20%~約40%のプロピレングリコール、及び約8%~約40%のグリセリンから選択される薬学的に許容される賦形剤を含んでよく、百分率は質量比(w/w)である。
【0097】
別の態様によれば、本発明の組成物は、約0.01%~約2.5%のレクチン(好ましくは配列番号2のレクチン)、約0.005%~約1.7%のトリス、約0.007%~約2.4%の塩化ナトリウム(NaCl)、約3%~約10%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCナトリウム)、約0.01%~約4.5%のポロキサマー、約4%~約60%のプロピレングリコール、約0.01%~約4.5%のスクロース、及び約0.01%~約0.2%のL-アルギニン塩酸塩から選択される薬学的に許容される賦形剤を含んでよく、百分率は質量比(w/w)である。
【0098】
更に別の態様では、本発明の医薬組成物は、約0.01%~約2.5%のレクチン(好ましくは配列番号2のレクチン)、約0.005%~約1.7%のトリス、約0.007%~約2.4%の塩化ナトリウム(NaCl)、約0.1~4%のヒドロキシエチルセルロース(HEC)、約3%~約10%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCナトリウム)、約4%~約60%のプロピレングリコール、及び約8%~約40%のグリセリンから選択される薬学的に許容される賦形剤を含んでよく、百分率は質量比(w/w)である。
【0099】
例示的には、本発明の医薬組成物は、約0.01%~約2.5%のレクチン(好ましくは配列番号2のレクチン)、約0.005%~約1.7%のトリス、約0.007%~約2.4%の塩化ナトリウム(NaCl)、約0.002%~約0.5%のポリソルベート-80、約30%~約40%のプロピレングリコール、及び約30%~約40%のポロキサマー407を含んでよく、百分率は質量比(w/w)である。
【0100】
更に別の例では、本発明の組成物は、約0.01%~約2.5%のレクチン(好ましくは配列番号2のレクチン)、約0.005%~約1.7%のトリス、約0.007%~約2.4%のNaCl、約0.002%~約0.5%のポリソルベート-80、及び必要量のグリセロールを含み得る。
【0101】
本発明の一態様によれば、医薬組成物は、当業者に公知の慣用の方法又はプロセスによって調製することができる。
【0102】
或いは、組成物は、緩衝剤中のレクチンタンパク質を安定化剤と合わせ、続いて、ゲル化剤、等張化剤、保存料、抗酸化剤、着色料、及び/又は香味料等の1つ又は複数の任意選択の賦形剤を添加することによって調製し得る。組成物のpHは、塩酸等の酸又は水酸化ナトリウム等の塩基を使用して約7~約8.5に調節し得る。質量又は希釈率を調節するためには、水を組成物に加え得る。
【0103】
本発明の一態様によれば、医薬組成物は、当業者に公知の慣用の方法又はプロセスによって調製することができる。
【0104】
一態様によれば、本発明の組換えレクチンタンパク質又は医薬組成物は、癌処置を受けている対象において、炎症の予防的又は治療的処置において使用する。
【0105】
本発明の一態様によれば、炎症は、癌処置を受けている間に癌処置の副作用として引き起こされる、対象における任意の種類の炎症性免疫応答に関する。化学療法又は放射線療法等の癌治療は、そのような炎症のトリガーであると言われている。炎症は、慢性炎症性疾患に関連し得る、又は急性炎症であり得る。
【0106】
本発明の特定の一態様によれば、炎症は消化管の炎症である。より詳細な態様では、炎症は、口内炎を含む上部消化管の炎症である。
【0107】
別の特定の態様では、炎症又は慢性炎症性疾患は、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法によって誘導されたOMである。
【0108】
本発明の組換えレクチンタンパク質又は医薬組成物は、抗炎症効果を有し得る。
【0109】
一部の態様によれば、本発明の組換えレクチンタンパク質又は組換えレクチンタンパク質を含む医薬組成物は、化学療法又は放射線療法を使用した癌処置を受けている対象において、抗炎症効果を有し得る。
【0110】
一部の態様では、本発明の組換えレクチンタンパク質又は医薬組成物は、対象を、癌処置を受けている間に引き起こされた炎症から防止及び保護することができ、癌処置は化学療法及び/又は放射線療法を含み得る。
【0111】
配列番号2のアミノ配列を有するレクチン等の本発明の組換えレクチンタンパク質は、細胞を、5-フルオロウラシル(5-FU)等の化学療法剤及びガンマ放射線(3.5kGy)等の放射線療法が原因で引き起こされた損傷から保護された。口腔(頬側)粘膜細胞(TR146)を用いたin vitro研究では、5-FUに曝露させた場合、化学療法が原因の細胞毒性の百分率は、10μg/mLの濃度の配列番号2で28.9%まで、及び50μg/mLで21.6%まで低下した。同様に、TR146は、ガンマ放射線(3.5kGy)に曝露させた場合、放射線療法が原因の細胞毒性の百分率は、1μg/mLの濃度の配列番号2で20.6%まで、及び10μg/mLで18%まで低下した。
【0112】
一態様によれば、本発明の組換えレクチンタンパク質又は医薬組成物は、化学療法及び/又は放射線療法誘導性の炎症において抗アポトーシス効果を有し得る。特定の態様では、本発明の組換えレクチンタンパク質は、化学療法及び/又は放射線療法誘導性のOMにおいて抗アポトーシス効果を有する。
【0113】
アポトーシスはプログラム細胞死の一種である。正常な状況下では、これは、生物が、望まない欠陥のある細胞を規則正しいプロセスを通じて排除することを可能にする。しかし、炎症等の疾患の場合、細胞の非制御のアポトーシスが存在する。これは、ミトコンドリア膜電位(MMP)の降下又は細胞中の活性酸素種の増加等の、いくつかの理由が原因であり得る。炎症部位でのアポトーシスの低下は、炎症の低減及び治癒プロセスの増大に対してプラスの効果を有する。
【0114】
配列番号2を有するレクチン等の本発明の組換えレクチンタンパク質は、化学療法剤(5-FU)又はガンマ放射線療法(3.5kGy)から生じた炎症によって引き起こされた細胞のアポトーシスを低減させた。ヒト口腔(頬側)粘膜(TR146)細胞におけるOM等の口内炎を、5-FU及びガンマ放射線を使用して誘導し、その後、配列番号2を有する組換えレクチンを用いて処置した。5-FUが原因の炎症を起こした細胞は、ミトコンドリア膜電位(MMP)の低下を示した一方で、配列番号2で処置した細胞は、炎症を起こした細胞におけるMMPの量と比較して、0.01μg/mLで約67%~50μg/mLで約110%のMMPの増加を示した。同様に、放射線照射した細胞は、配列番号2で処置した場合に、0.01μg/mLで約25%及び50μg/mLで約37%のMMPの増加を示した。
【0115】
更に、配列番号2は、アポトーシス細胞集団を、化学療法剤で処置した細胞と比較して0.01μg/mLで81.7%、及び放射線療法で処置した細胞と比較して10μg/mLで62.2%減少させた。
【0116】
炎症は、アポトーシスサブ(G0/G1)細胞の相当な増加を引き起こす。配列番号2等の本発明の組換えレクチンタンパク質は、口腔(頬側)粘膜細胞(TR146)における化学療法及び放射線療法誘導性の炎症におけるアポトーシスサブ(G0/G1)細胞集団を、それぞれ10μg/mLで78%及び0.1μg/mLで59.5%低減させる。
【0117】
一部の態様によれば、組換えレクチンタンパク質は、サイトカイン、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)等の炎症マーカーの分泌を阻害する又は低減させることができ、炎症は、特に癌処置方法が原因で引き起こされる。
【0118】
当分野で公知であるように、サイトカインは、細胞シグナル伝達に関与している小さなタンパク質である。サイトカインとしては、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、血管内皮成長因子(VEGF)、及び腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。本明細書中で使用する「インターロイキン」(IL)としては、IL-1、IL-2、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-18、IL-1β、IL-17A、IL-17F、IL-22、IL-26、IL-23、IL-20、及びIL-15が挙げられる。
【0119】
NF-kB核因子kBは、放射線又は化学療法剤等の炎症又はストレス刺激因子に曝露された際にはいつでも炎症性サイトカインの生成及び炎症を調節する、強力な転写因子である。NF-kBが活性化された際、これは、サイトカイン、サイトカイン受容体、及びシクロオキシゲナーゼ遺伝子を同時に活性化させ、炎症を生じさせる。
【0120】
メタロプロテイナーゼ(MMP)は、コラーゲン基質を分解することによって上皮基底膜を損傷させる、別のそのような顕著なバイオマーカーである。放射線及び/又は化学療法による損傷に対する応答として、フィブロネクチンの分解が起こり、立ち代わってこれがマクロファージを刺激し、MMPの活性化をもたらす。
【0121】
血管内皮成長因子(VEGF)バイオマーカーは、血管新生を促進することができる、OMの臨床的バイオマーカーのうちの1つである。化学療法及び/又は放射線療法は、どちらもVEGFの生成及び続く血管形成に影響を与える。
【0122】
同様に、終末糖化産物受容体(RAGE)又はケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド(CCL)等の他のバイオマーカーのレベルは、炎症部位で急速に増加する。また、シクロオキシゲナーゼ-2等の酵素は、炎症の疼痛及び腫脹並びに他の有痛状態を引き起こす原因となっている、炎症経路の媒介因子である。したがって、OM等の炎症の臨床的バイオマーカーの発現を制御することは、OMの病因を制御する古典的な方法のうちの1つである。
【0123】
組換えレクチンタンパク質の、炎症性サイトカインの分泌を阻害する又は低減させる能力は、本明細書中に記載の方法を含めた標準技法を使用して決定し得る。たとえば、組換えレクチンタンパク質の存在下で炎症後に分泌された炎症性サイトカインのレベルを決定し、組換えレクチンタンパク質の非存在下で炎症後に分泌されたサイトカインのレベルと比較することができる。細胞培養上清(in vitro研究用)又は血清試料(in vivo研究用)等の試料中のサイトカインのレベルは、ELISA等の標準技法を使用して決定することができる。
【0124】
配列番号2等の本発明の組換えレクチンタンパク質は、ヒト口腔(頬側)粘膜細胞(TR146)において、放射線誘導性炎症に対してTNF-α、MMP-3、CCL-2、MMP-8、RAGE、及びVEGFのダウンレギュレーションを実証した。同様に、配列番号2は、化学療法5-FUが原因の炎症を有するヒト口腔(頬側)粘膜細胞(TR146)において、サイトカイン(IL-12/IL-23p40、IL-6、IL-1-β、TNF-α)、VEGF、MMP-3、及びNF-kBのレベルの低下を実証した。
【0125】
特定の一態様によれば、本発明の組換えレクチンタンパク質は、炎症マーカーの分泌又は活性を調節又は阻害することによって炎症を制御することにおいて有効である。配列番号2等の組換えレクチンによるこれらのバイオマーカーのダウンレギュレーションは、化学療法及び/又は放射線療法によって特異的に誘導されたOMの予後診断の治療制御を解明する。これらすべてのバイオマーカーは、疾患の発症中に顕著な役割を果たす。
【0126】
別の態様によれば、本発明の組換えレクチンタンパク質又は組換えレクチンタンパク質を含む医薬組成物は、化学療法及び/又は放射線療法誘導性の炎症に対して相当な治療効果を有し得る。
【0127】
治療効果とは、病状の処置又は防止をもたらす、化学療法及び/又は放射線療法誘導性の炎症等の病状を患っている対象に対する、組換えレクチンタンパク質又はその医薬組成物の効果である。治療効果は、前記病状を患っている対象に対する、発赤、腫脹、そう痒、疼痛等の疾患の触知できる症状に対する、又は病状が原因で分泌されるか阻害されるかのいずれかのバイオマーカー若しくは受容体に対する、組換えレクチンタンパク質又はその医薬組成物の効果を分析することによって、研究することができる。そのような分析は、当業者に公知の方法を使用して又は本明細書中に記載のように使用する方法によって、目視検査によって又はバイオマーカーのレベルの分析によって行う。
【0128】
一部の態様によれば、本発明の組換えレクチンタンパク質又は医薬組成物は、発赤若しくは腫脹等の触知できる症状を低下若しくは低減させる、又は炎症、特に化学療法若しくは放射線療法によって引き起こされるOMを患っている対象において増加しているバイオマーカーのレベルを減少させる効果を有する。
【0129】
本明細書中に記載のin-vivo研究では、5-FU及び放射線が原因のOMを患っているハムスター等の対象は、配列番号2の組換えレクチンタンパク質の組成物で処置した場合に、未処置の対象と比較して、粘膜炎スコア、組織学スコアの低減、並びにIL-1β及びTNF-α等のサイトカインのレベルの低減も示した。
【0130】
一態様では、本発明は、有効量の組換えレクチンタンパク質又は有効量の組換えレクチンタンパク質を含む医薬組成物を、対象に投与する工程を含む、癌処置を受けている対象における、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の、予防的又は治療的処置の方法を提供する。したがって、組換えレクチンタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質である。
【0131】
本発明によれば、予防的又は治療的処置の方法は、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症の発症若しくは進行を防止する、又はそれを治癒する若しくはその効果を低減させる方法を含む。したがって、本発明のレクチンタンパク質又は組成物は、癌処置を受けている対象において、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされた炎症を治癒する、その進行を防止する、又はその効果を低減させることにおいて使用するためのものである。
【0132】
本発明の非常に具体的な態様によれば、炎症は、癌処置を受けている対象における、化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされたOMである。対象は、癌処置を受けている間又はそのような処置の後に、口及び消化管のOMの症状を発生し得る。
【0133】
本発明はまた、有効量の配列番号1のアミノ酸配列を有するレクチンタンパク質、又は配列番号1と少なくとも70%の相同性を有するレクチンタンパク質の投与を含み、有効量が対象の体重1kgあたり約0.1mg~50mgの範囲である、炎症性疾患の予防的又は治療的処置の方法にも関する。レクチンタンパク質は、それ自体として、又は局所的組成物等の薬学的に許容される形態で投与し得る。
【0134】
予防的又は治療的処置は、治療上有効な量の組換えレクチンタンパク質又は組換えレクチンタンパク質を含む医薬組成物を対象に投与する工程を含み得る。一部の態様によれば、レクチン又はその医薬組成物は、0.1mg/kg~1000mg/kg、0.5mg/kg~100mg/kg、又は1mg/kg~50mg/kgの用量で投与される。処置する状態及び対象の性質に応じて投与するレクチンの量を決定することは、当業者の能力範囲内にある。
【0135】
予防的又は治療的処置は、治療上有効な量のレクチンを、それ自体として、又は局所的組成物等の薬学的に許容される配合物として投与する工程を含み得る。薬学的に許容される配合物は、治療上有効な量のレクチンと賦形剤とを含み得る。例示的な賦形剤としては、乳化剤及び界面活性剤、軟化剤、流体力学制御剤、抗微生物剤、抗酸化剤、シリコン、可溶化剤、並びにフィルム形成剤が挙げられる。本発明では、用語「配合物」及び「組成物」は互換性があるように使用される。
【0136】
本発明は更に、本明細書中に記載のレクチン又は医薬組成物を対象に投与する工程を含む、対象における炎症の予防的又は治療的処置の方法を提供する。詳細には、炎症は化学療法及び/又は放射線療法が原因で引き起こされたOMであり、対象は癌を患っておりかつその処置を受けている。
【0137】
対象は哺乳動物対象であり得る。一部の態様によれば、対象はヒトである。詳細には、対象は、癌を患っておりかつその処置を受けており、また、癌処置の副作用又は有害作用として引き起こされた炎症又は炎症性疾患を患っている、又はその防止を追求している、ヒト対象である。
【0138】
本発明は、組換えレクチンタンパク質又はその医薬組成物を使用した、化学療法誘導性及び/又は放射線誘導性の炎症性疾患の予防的又は治療的処置に関し、レクチンは、配列番号1、2、3、又は4のアミノ酸配列を有するレクチンであり得る。本発明はまた、対象における、レクチン又はその医薬組成物を使用した、化学療法誘導性及び/又は放射線誘導性の炎症性疾患の発症又は進行を防止するための方法にも関し、レクチンは、配列番号1、2、3、又は4のアミノ酸配列を有するレクチンであり得る。本発明は、更には、対象における、レクチン又はその医薬組成物を使用した、化学療法誘導性及び/又は放射線誘導性の炎症性疾患を治癒する又はその効果を低減させる方法に関し、レクチンは、配列番号1、2、3、又は4のアミノ酸配列を有するレクチンであり得る。
【0139】
本発明は、配列番号2のアミノ酸配列を有するレクチン又はその相同体を使用した、対象における化学療法及び/又は放射線療法誘導性のOMの予防的又は治療的処置の方法に関する。本発明は、更には、対象における化学療法及び/又は放射線療法誘導性のOMの処置において使用する、配列番号2のアミノ酸配列を有するレクチン又はその相同体に関する。本発明はまた、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン又はその相同体を使用した、対象においてOMの発症又は進行を防止するための方法も提供する。更に、本発明は、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン又はその相同体を使用した、対象においてOMを治癒する又はその効果を低減させる方法に関する。本明細書中で使用する「配列番号2又はその相同体」とは、配列番号2と70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するアミノ酸配列をいう。
【実施例】
【0140】
以下の実施例は、本発明の最良の性能形式を実証するために与える。実施例は、いかなる様式でも本発明を限定しない。
【0141】
(実施例1)
配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンの細胞保護効果の評価
非細胞毒性濃度の配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンは、口腔(頬側)粘膜細胞(TR146)を様々な濃度の配列番号2で24時間処置し、MTTアッセイを使用して細胞生存度を決定することによって決定した。配列番号2は、0.01μg/ml~100μg/mlの範囲の濃度で>70%の細胞生存度を実証し、したがって、この濃度は非細胞毒性であると言われた。同様に、陽性対照(PC)没食子酸エピガロカテキン(EGCG)(PC-1)は0.01μM~10μMの濃度範囲で無毒性であることが見出され、アミフォスチン(PC-2)は1μg/ml~25μg/mlの濃度範囲で非細胞毒性であることが見出された。
【0142】
更に、配列番号2の細胞保護効果(試験項目又はTI)は、口腔頬側粘膜細胞(TR146)を、非細胞毒性濃度の配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンで処置することによって決定し、化学療法誘導性炎症には細胞を損傷(5-FU、5mM)に1.25時間、曝露させ、放射線誘導性炎症にはコバルト60を使用したガンマ放射線(3.5kGy)に曝露させた。細胞生存度を(MTT)アッセイによって評価し、陽性対照(アミフォスチン、EGCG、及びEGFで処置した細胞)並びに陰性アッセイ(未処置の細胞)と比較し、対照は、化学療法/放射線療法を受けた細胞であった。
【0143】
5-FU誘導性損傷に対するTR146細胞の生存に対する組換えレクチンの保護効果は、以下の計算を使用して決定した。
細胞の生存度は:%細胞生存度=(100-%細胞毒性)として決定し、
ここで、それぞれの処置に対応する細胞毒性の百分率は:%細胞毒性=[(R-X)/R]*100[式中、X=5-FU又は放射線損傷で処置した細胞の吸光度/TI+5-FU、R=対照細胞(未処置)の吸光度である]として計算し、保護の百分率は以下として計算した:
{(TI+5-FU又は放射線の吸光度)-(5-FU又は放射線単独の吸光度)/(未処置の吸光度)-(5-FU単独の吸光度)}*100
【0144】
試験項目(1μg/ml~100μg/ml)は、5-FU誘導性細胞損傷に対する56.8%から78.4%の細胞生存度の増加によって反映されるように、5-FU誘導性細胞毒性に対して有意な(p<0.01)細胞保護の潜在性を実証した。結果はTable 1(表1)中に提供する通りである。
【0145】
【0146】
試験項目(0.01μg/ml~25μg/ml)も、60.5%から82%の細胞生存度の増加によって反映されるように、放射線誘導性細胞毒性に対して有意な(p<0.001)細胞保護の潜在性を実証した。最大で54.1%の細胞保護が観察された。結果はTable 2(表2)中に提供する通りである。
【0147】
【0148】
(実施例2)
化学療法及び放射線療法誘導性の炎症における、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンの抗アポトーシス効果
口腔頬側粘膜細胞(TR146)を終夜、5%のCO2インキュベーター中、37℃で24時間インキュベートした。24時間後、細胞を非細胞毒性濃度の配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン(試験項目すなわちTI)で24時間処置した。24時間の処置の後、細胞を、化学療法誘導性炎症には損傷(5-FU、5mM)に1.25時間、曝露させ、放射線誘導性炎症にはコバルト60を使用したガンマ放射線(3.5kGy)に曝露させた。曝露の後、配列番号2の抗アポトーシス効果を、JC-1染色によるミトコンドリア膜脱分極の回復並びにアポトーシス細胞集団(アネキシン陽性及び細胞周期分析におけるサブG0/G1細胞)の低減によって決定した。
【0149】
インキュベーション後、上清を廃棄し、100μlのJC1-色素溶液(1mMのDMSOストックを1×PBS中で10μMに希釈することによって調製)をそれぞれのウェルに加えた。その後、細胞を色素と共に、CO2インキュベーター中、37℃で15分間インキュベートし、その後、上清を除去し、細胞を1×PBSで2回洗浄した。最後に100μlの1×PBSをそれぞれのウェルに加えた。Biotek社Synergy HTプレートリーダーを使用して赤色蛍光(励起550nm、発光600nm)及び緑色蛍光(励起485nm、発光535nm)を測定した。ミトコンドリア膜電位(Δψm)を赤色蛍光の強度対緑色蛍光の強度の比として計算した。
【0150】
ミトコンドリア膜電位(MMP)の増加/回復の百分率は以下のように計算した:%増加=[(R-X)/R]*100
[式中、TI+5-FUで処置した細胞又はTI+放射線で処置した細胞に対応するX=Δψmであり、R=対照細胞(FUで損傷又は放射線で損傷の単独)に対応するΔψmである]
【0151】
以下のTable 3(表3)中に提供するように、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン(0.01μg/ml~100μg/ml)が、化学療法誘導性OMにおいて対照(5-FU単独)と比較して、66.7%~106.2%のMMPの有意な(p<0.001)増加を実証したことが見られた。
【0152】
【0153】
以下のTable 4(表4)中に示すように、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン(1μg/ml)は、放射線誘導性炎症において対照(放射線単独)と比較して、36.6%のMMPの有意な(p<0.05)増加を実証した。
【0154】
【0155】
アネキシン-v染色を使用してアポトーシス細胞集団の低減を決定するために、細胞を事前にラベル付けした無菌的な遠心管内に静かに採取し、300×gで5~7分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを200μlの新鮮な培養培地中に再懸濁させた。100μlの細胞懸濁液を事前にラベル付けした無菌的な遠心管内に移した。100μlのアネキシン-V試薬をそれぞれの管に加え、30分間、RT、暗所でインキュベートした。その後、アネキシン-Vについて染色した細胞を96ウェルプレート内に移し、フローサイトメーター(Guava technologies社)上で獲得した。アネキシン-V陽性細胞の百分率を以下のように計算した:
={[5-FU又は放射線単独における%アネキシン陽性細胞]-[(TI+5-FU)又は(TI+放射線)における%アネキシン陽性細胞]/5-FU又は放射線単独における%アネキシン陽性細胞}*100
【0156】
以下のTable 5(表5)中に提供するように、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン(0.01μg/ml~10μg/ml)は、対照(5-FU単独)と比較して、81.7%~51.5%のアポトーシス細胞集団の有意な(p<0.01)低減を実証した。
【0157】
【0158】
以下のTable 6(表6)中に提供するように、1μg/ml及び0μg/mlの濃度の配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンは、対照と比較して、それぞれ56%及び62.6%のアポトーシス細胞集団の有意な(p<0.001)減少を実証した。
【0159】
【0160】
細胞周期に対する試験項目の効果を決定するために、口腔頬側粘膜細胞(TR146)を終夜、5%のCO2インキュベーター中、37℃で24時間インキュベートした。終夜インキュベーションの後、細胞を非細胞毒性濃度の配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン(試験項目(TI))で24時間処置した。24時間の処置の後、細胞を化学療法(5-FU、10mM)に24時間又は放射線療法(コバルト60を使用したガンマ放射線(3.5kGy))に2時間、曝露させた。
【0161】
インキュベーション後、細胞をトリプシン処理によって採取し、細胞周期アッセイのために処理した。したがって、細胞を事前にラベル付けした遠心管に採取し、450g、5分間、室温(RT、低ブレーキ)で遠心分離した。上清を注意深く除去し、廃棄した。1mlの1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)をペレットに加え、穏やかに再懸濁させて、均質な懸濁液を生じた。細胞を450gで5分間、RT(低ブレーキ)で遠心分離した。上清を注意深く除去し、約100μlのPBSを残した。細胞を、穏やかであるがしっかりと、残留PBS中に再懸濁させた。低速で渦撹拌しながら、氷冷70%エタノール(100μl)をそれぞれの管内の細胞に滴下添加した(固定化ステップ)。4℃で24時間保管した細胞を、450gで5分間、RT(低ブレーキ)で遠心分離した。ペレットを触らずに上清を注意深く除去して廃棄した。1mlの1×PBSをペレットに加え、穏やかに再懸濁させた。細胞を1分間RTでインキュベートした。細胞を450gで5分間、RT(低ブレーキ)で遠心分離した。ペレットを触らずに上清を注意深く除去し、約20~50μlのPBSを残した。200μlの細胞周期試薬をそれぞれの管に加えた。細胞を穏やかに再懸濁させ、混合した。細胞を30分間、RT、暗所でインキュベートした。染色した試料を96ウェルプレート内に移し、フローサイトメーター(Guava technologies社)上で獲得した。細胞周期試薬が、細胞周期の様々な期、すなわち、サブ(G0/G1)、G1、S、G2、及びMの細胞のDNAを染色するPI染色を含有するという概念に基づいて、サブ(G0/G1)期の細胞の百分率を決定した。サブ(G0/G1)期の細胞がアポトーシス細胞に対応する。アポトーシス細胞におけるパーセント阻害は以下の式によって決定する:
=[(5-FU/放射線単独中の%サブ(G0/G1)細胞)-(TI+5-FU/放射線中の%サブ(G0/G1)細胞)/5-FU/放射線単独中の%サブ(G0/G1)細胞]*100
【0162】
対照(5-FU又は放射線単独)と比較した、試験項目によるサブ(G0/G1)細胞集団の阻害を、以下のTable 7(表7)及び8(表8)中に提供する。
【0163】
【0164】
【0165】
(実施例3)
多重分析による配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンの作用機構の決定。
口腔頬側粘膜細胞(TR146)細胞を終夜、37℃、5%のCO2インキュベーター中でインキュベートした。24時間後、細胞血清を4時間、飢餓させ、0.01μg/ml~100μg/mlの範囲の様々な濃度の配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン(試験項目すなわちTI)で24時間処置した。その後、細胞を、化学療法には5-FU(10mM)で更に24時間、放射線療法にはコバルト60を使用したガンマ放射線(3.5kGy)で刺激した。24時間後、細胞培養上清をそれぞれのウェルから収集し、多重分析まで-20℃で保管した。NF-kBの推定には、細胞溶解液を調製した。Magpix(登録商標)多重マシンを使用してバイオマーカーのレベルを推定した。アミフォスチン(5-FU又は放射線と共に)で処置した細胞を陽性対照(PC)とみなした。未処置の細胞(5-FU又は放射線単独で処置)を陰性対照(NC)として使用した。
【0166】
それぞれの試料におけるパーセント変調は以下のように決定した:
[{対照細胞(5-FU又は放射線単独で処置)におけるバイオマーカーの濃度(pg/ml)-配列番号2+5-FU又は放射線で処置した細胞におけるバイオマーカーの濃度(pg/ml)}/対照細胞(5-FU又は放射線単独で処置)におけるバイオマーカーの濃度(pg/ml)]*100
【0167】
試験項目は、化学療法誘導性レベルに対してサイトカイン(IL-12/IL-23p40、IL-6、IL-1-β、TNF-α)、VEGF、MMP-3、及びNF-kBのダウンレギュレーションを示した(以下のTable 9(表9))。
【0168】
【0169】
試験項目は、放射線誘導性レベルに対してTNF-α、MMP-3、CCL-2、MMP-8、RAGE、及びVEGFのダウンレギュレーションを実証した(以下のTable 10(表10))。
【0170】
【0171】
(実施例4)
頬袋の粘膜炎スコア、バイオマーカーの推定、及び組織病理学的評価を測定することによる、ハムスターにおける5-フルオロウラシル誘導性OMに対する配列番号2の治療効果の評価。
配列番号2(試験項目)を、Table 11(表11)中に提供するように配合した。
【0172】
【0173】
In-vivo実験を健康なゴールデンシリアンハムスターにおいて実施し、動物を以下のように群分けした。
【0174】
【0175】
OMを誘導するために、動物(正常対照以外)に、5-フルオロウラシル(5-FU)を腹腔内経路によって、それぞれ60mg/kg及び40mg/kgの用量を最初の2日間に投与した。4日目に、麻酔下で、OMを増強させることを目的として、ワイヤーブラシを使用して口腔粘膜の機械的刺激を行った。処置は4日目から12日目に開始した。第3群の動物には、標準薬デキサメタゾンを0.1mgで含む100μlのビヒクルを頬側の頬袋に注入した。第4、5、及び6群の動物には、配列番号2をそれぞれ0.25mg、0.5mg、及び1mgで含む100μlのビヒクルを頬側の頬袋に注入した。処置期間の終わりに、ハムスターの頬袋を曝露させ、粘膜炎のスコア付けを実施し、画像を獲得した。その後、動物を人道的に屠殺し、頬袋/頬骨(jugular)粘膜を単離して、ELISA方法並びにヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色を使用することによってそれぞれバイオマーカーの推定及び組織病理学的調査に使用した。
【0176】
それぞれの動物の体重を実験の終わりまで毎日記録した。動物の体重変化の百分率は、4日目に対して以下の式を使用することによって計算した。
%体重変化={(X日目の平均体重-初期平均体重)/初期平均体重}*100
【0177】
G1-正常対照群は、11.19%の体重増加を示した。G2-OM群は、4.46%の体重減少を示し、これは、G1群-正常対照群と比較して11日目(p<0.05)、12日目(p<0.01)に有意である。処置群(G2~G6)は有意でない減少を示した。G2と比較して、G3-参照標準デキサメタゾンは6.59%、0.25mg/動物の試験項目のG4は3.61%の減少を示し、0.5mg/動物のG5は4.36%を示し、1mg/動物のG6は6.8%の体重減少を示した。
図1は、すべての群における体重変化の百分率を示す。
【0178】
粘膜炎の重篤度は以下に提供するようにスコア付けした。
頬袋は完全に健康-0、軽度の紅班-1、重篤な紅班及び表面上のびらん-2、1つ又は複数の部位における潰瘍の形成-3、約50%の頬袋表面積で累積潰瘍形成-4、頬袋粘膜の完全な潰瘍形成-5。
【0179】
12日間の処置の後の、すべての群の粘膜炎重篤度スコアは以下の通りであった。
G1-正常対照群は完全に健康な頬骨粘膜を示した。
G2-OM群の動物はスコアの有意な(p<0.001)増加を示し、4.00±0.5であり、
G3-デキサメタゾン群はスコアの有意な(p<0.01)減少を示し、2.00±0.3であり、
G4-0.25mg/動物の試験項目の群は粘膜炎スコア3.00±0.4を示し、
G5-0.5mg/動物の試験項目の群は粘膜炎スコア2.8±0.3を示し、
G6-1mg/動物の試験項目の群は粘膜炎スコア4.00±0.3を示した。
【0180】
更に、バイオマーカーの推定には、頬骨(jugular)粘膜を解剖して取り出し、組織を秤量し、氷冷1×PBS中に保管した。100mgの組織を取り、1mlの1×PBS緩衝液中に入れた。ホモジネートの上清を、製造者の指示に従ってELISA方法を使用したTNF-α及びインターロイキン-1βの分析に使用した。TNF-α及びインターロイキン-1βのレベルは、それぞれTable 13(表13)、
図2、及びTable 14(表14)、
図3中に提供する。
【0181】
【0182】
【0183】
組織病理学には、口腔粘膜組織を5μmの厚さの切片にし、ヘマトキシリン-エオシン染色を用いて染色した。組織病理学的研究には、切片を光学顕微鏡観察によって分析した。
【0184】
頬袋/頸静脈の粘膜を観察し、炎症細胞の浸潤、血管拡張、易出血領域の存在、浮腫、潰瘍形成、及び膿瘍についてスコア付けした。
採点システムは以下に提供する通りであった。
【0185】
【0186】
以下のTable 15(表16)は、研究した群の組織病理学的スコアを示す。
【0187】
【0188】
一元配置ANOVA、続いてダネット多重比較検定によって分析
#p<0.05 G1-正常対照群と比較したG2-OM群。
【0189】
(実施例5)
局所経口溶液組成物
配列番号2のレクチンを含む局所経口溶液組成物を、薬学的に許容される賦形剤を用いて配合した。前記組成物は、緩衝剤、増粘剤、湿潤剤、及び溶媒を含む薬学的に許容される賦形剤を用いて、以下に言及した手順を使用して調製した。
【0190】
調製した組成物を、外見並びに1カ月間、25℃/60RH並びに3カ月間、2℃~8℃の安定性条件でのアッセイについて評価した。
【0191】
手順:
必要量の水を取り、磁気撹拌機を使用して撹拌した。
【0192】
必要量の増粘剤を渦撹拌中の上記容器にゆっくりと加えて、透明な溶液が得られた。
【0193】
絶えず撹拌しながら必要量の湿潤剤を上記溶液に加えた。
【0194】
撹拌下で、必要量の配列番号2のレクチンを上記溶液に加えた。
【0195】
上記混合物を連続的に撹拌して、透明な溶液が得られた。体積又は質量を水で埋め合わせた。混合物を撹拌して均一な溶液が得られた。
【0196】
上記製造方法を使用して以下の組成物を配合した。
【0197】
【0198】
観察:調製した組成物は、透明な粘稠溶液外見のものであることが見出された。調製した組成物を、1カ月間、25℃/60RH及び3カ月間、2℃~8℃でのアッセイについて試験し、アッセイの規制基準(90~110%)に従っていることが見出された。調製した組成物のpH範囲は、7~9の範囲内にあることが観察された。
【0199】
(実施例6)
局所経口溶液組成物
配列番号2のレクチンを含む局所経口溶液組成物を、薬学的に許容される賦形剤を用いて配合した。前記組成物は、緩衝剤、増粘剤、安定化剤、湿潤剤、及び溶媒を含む薬学的に許容される賦形剤を用いて、以下に言及した手順を使用して調製した。
【0200】
調製した組成物を、外見並びに1カ月間、25℃/60RH並びに3カ月間、2℃~8℃の安定性条件でのアッセイについて評価した。
【0201】
手順:ビーカー中、必要量の熱水をCMCナトリウムに加え、透明になるまで溶液を撹拌し、必要量のプロピレングリコールを加え、透明な溶液が得られるまで溶液を撹拌した。
【0202】
上記溶液に、必要量のポロキサマー188を加え、透明な溶液が観察されるまで撹拌した。
【0203】
上記溶液を室温まで解凍した。
【0204】
必要量の配列番号2のレクチンを上記溶液に加え、透明な溶液が観察されるまで溶液を撹拌した。体積又は重量を水で埋め合わせた。混合物を撹拌して均一な溶液が得られた。
【0205】
上記製造方法を使用して以下の組成物を配合した。
【0206】
【0207】
観察:調製した組成物は、透明な粘稠溶液外見のものであることが見出された。調製した組成物を、1カ月間、25℃/60RH及び3カ月間、2℃~8℃でのアッセイについて試験し、アッセイの規制基準(90~110%)に従っていることが見出された。調製した組成物のpH範囲は、7~9の範囲内にあることが観察された。
【0208】
(実施例7)
局所経口ゲル組成物
配列番号2のレクチンを含む局所経口ゲル組成物を、薬学的に許容される賦形剤を用いて配合した。前記組成物は、緩衝剤、増粘剤、安定化剤、湿潤剤、及び溶媒を含む薬学的に許容される賦形剤を用いて、以下に言及した手順を使用して調製した。
【0209】
手順:
ビーカー中、必要量の水を入れ、機械撹拌機を使用して撹拌した。必要量のプロピレングリコール及びグリセリンを上記容器に加え、10分間撹拌した。
【0210】
ポリバッグ中、必要量のCMCナトリウム及びヒドロキシエチルセルロースを混合し、混合物を水、プロピレングリコール、及びグリセリンの溶液にゆっくりと加えた。
【0211】
生じた混合物を成分が適切に溶解するまで撹拌し、濃いゲルが調製された。透明で均一なゲルが形成された。バッチサイズを水で埋め合わせ、混合物を撹拌して均一なゲルが得られた。
【0212】
【0213】
観察:調製した組成物は、透明な粘稠溶液外見のものであることが見出された。調製した組成物のpH範囲は、7~9の範囲内にあることが観察された。
【配列表】
【国際調査報告】