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特表2024-532109油圧制御システム並びに該油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクの設定方法及びキャリブレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】油圧制御システム並びに該油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクの設定方法及びキャリブレーション方法
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/028 20060101AFI20240829BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20240829BHJP
   G05D 16/20 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
F15B11/028 A
E02F9/22 R
G05D16/20 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508758
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022025383
(87)【国際公開番号】W WO2023025412
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2021137855
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 寿和
【テーマコード(参考)】
2D003
3H089
5H316
【Fターム(参考)】
2D003AB05
2D003AB06
2D003BA02
2D003BB02
2D003CA02
2D003DA02
2D003DB01
2D003DB02
3H089AA02
3H089AA20
3H089AA82
3H089BB17
3H089CC01
3H089CC08
3H089CC11
3H089DA03
3H089DA13
3H089DB03
3H089EE04
3H089EE05
3H089EE26
3H089EE36
3H089FF01
3H089FF08
3H089FF12
3H089GG02
3H089JJ02
5H316AA18
5H316BB09
5H316CC03
5H316DD01
5H316DD17
5H316EE08
5H316EE09
5H316EE22
5H316ES04
5H316GG03
5H316HH12
5H316LL03
(57)【要約】
【課題】油圧ポンプの吐出油が供給されるポンプ油路のリリーフ圧を、ソフトウェアで精度良く制御管理できるようにする。
【解決手段】リリーフ時のポンプ油路2の検出圧力値が目標リリーフ圧LPtとなるようにポンプ流量を調整した状態でエンジントルクを検出し、該検出されたエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定、キャリブレーションするリリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19と、リリーフ時にエンジントルクの検出値がリリーフ時目標エンジントルクLTtとなるようにポンプ流量を制御するリリーフ時制御部20とを設けた。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動され、複数の油圧アクチュエータの油圧供給源となる可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出油が供給されるポンプ油路から油タンクに至るリリーフ油路に配されるリリーフ弁と、油圧ポンプの容量可変手段に制御指令を出力してポンプ流量を制御するポンプ制御手段とを備えてなる作業機械の油圧制御システムにおいて、該油圧制御システムに、前記リリーフ弁が開くリリーフ時のポンプ油路の圧力を制御するリリーフ圧制御手段を設けるとともに、該リリーフ圧制御手段は、ポンプ油路の圧力を検出するポンプ圧検出手段と、エンジントルクを検出するエンジントルク検出手段と、リリーフ時のポンプ油路の検出圧力値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整した状態で検出されたエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定するリリーフ時目標エンジントルク設定手段と、リリーフ時にエンジントルクの検出値が前記リリーフ時目標エンジントルクとなるようにポンプ制御手段に制御指令を出力して油圧ポンプの流量を制御するリリーフ時制御手段とを具備することを特徴とする油圧制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のリリーフ時目標エンジントルク設定手段を用いてリリーフ時目標エンジントルクを設定する方法であって、該設定方法は、リリーフ時にポンプ油路の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整する工程と、ポンプ油路の圧力検出値が目標リリーフ圧となったときのエンジントルクを検出し、該検出エンジントルクが予め設定される初期設定目標エンジントルクの範囲内であるか否かを判断する工程と、検出エンジントルクが初期設定目標エンジントルクの範囲内の場合には該初期設定目標エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定し、初期設定目標エンジントルクの範囲外の場合には検出エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定する工程とを含むことを特徴とする油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクの設定方法。
【請求項3】
請求項1において、油圧制御システムに、リリーフ時目標エンジントルク設定手段により設定されたリリーフ時目標エンジントルクの値をキャリブレーションするキャリブレーション手段を設けたことを特徴とする油圧制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載のキャリブレーション手段を用いてリリーフ時目標エンジントルクの値をキャリブレーションする方法であって、該キャリブレーション方法は、リリーフ時にポンプ油路の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整する工程と、ポンプ油路の圧力検出値が目標リリーフ圧となったときのエンジントルクを検出し、該検出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲内であるか否かを判断する工程と、検出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲内の場合には該既設定のリリーフ時目標エンジントルクをそのままリリーフ時目標エンジントルクとし、既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲外の場合には検出エンジントルクをキャリブレーションされた新たなリリーフ時目標エンジントルクとして設定する工程とを含むことを特徴とする油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクのキャリブレーション方法。
【請求項5】
エンジンにより駆動され、複数の油圧アクチュエータの油圧供給源となる可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出油が供給されるポンプ油路から油タンクに至るリリーフ油路に配されるリリーフ弁と、油圧ポンプの容量可変手段に制御指令を出力してポンプ流量を制御するポンプ制御手段とを備えてなる作業機械の油圧制御システムにおいて、該油圧制御システムに、前記リリーフ弁が開くリリーフ時のポンプ油路の圧力を制御するリリーフ圧制御手段を設けるとともに、該リリーフ圧制御手段は、ポンプ油路の圧力を検出するポンプ圧検出手段と、リリーフ時のポンプ油路の検出圧力値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整した状態で該ポンプ流量と検出圧力値とに基づいてエンジントルクを算出し、該算出されたエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定するリリーフ時目標エンジントルク設定手段と、リリーフ時にエンジントルクが前記リリーフ時目標エンジントルクとなるようにポンプ制御手段に制御指令を出力して油圧ポンプの流量を制御するリリーフ時制御手段とを具備することを特徴とする油圧制御システム。
【請求項6】
請求項5に記載のリリーフ時目標エンジントルク設定手段を用いてリリーフ時目標エンジントルクを設定する方法であって、該設定方法は、リリーフ時にポンプ油路の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整する工程と、該調整されたポンプ流量と圧力検出値とに基づいてエンジントルクを算出し、該算出エンジントルクが予め設定される初期設定目標エンジントルクの範囲内であるか否かを判断する工程と、算出エンジントルクが初期設定目標エンジントルクの範囲内の場合には該初期設定目標エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定し、初期設定目標エンジントルクの範囲外の場合には算出エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定する工程とを含むことを特徴とする油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクの設定方法。
【請求項7】
請求項5において、油圧制御システムに、リリーフ時目標エンジントルク設定手段により設定されたリリーフ時目標エンジントルクの値をキャリブレーションするキャリブレーション手段を設けたことを特徴とする油圧制御システム。
【請求項8】
請求項7に記載のキャリブレーション手段を用いてリリーフ時目標エンジントルクの値をキャリブレーションする方法であって、該キャリブレーション方法は、リリーフ時にポンプ油路の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整する工程と、該調整されたポンプ流量と圧力検出値とに基づいてエンジントルクを算出し、該算出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲内であるか否かを判断する工程と、算出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲内の場合には該既設定のリリーフ時目標エンジントルクをそのままリリーフ時目標エンジントルクとし、既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲外の場合には算出エンジントルクをキャリブレーションされた新たなリリーフ時目標エンジントルクとして設定する工程とを含むことを特徴とする油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクのキャリブレーション方法。
【請求項9】
請求項3または7において、キャリブレーション手段によるキャリブレーション情報をモニタリングするモニタリング手段を設けたことを特徴とする油圧制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械における油圧制御システムの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の作業機械には、複数の油圧アクチュエータの油圧供給源として、エンジンにより駆動される油圧ポンプが設けられるが、該油圧ポンプの吐出油が供給されるポンプ油路の回路圧(最高圧)は、一般的に、ポンプ油路から油タンクに至るリリーフ油路に配設されたリリーフ弁によって制限されるように構成されている。しかるに、リリーフ弁は、リリーフ弁を通過する流量が増加するとオーバーライド特性によりリリーフ弁の上流側圧力(回路圧)も上昇してしまうため、回路圧を精度良く制御するためには、リリーフ時の流量に応じてリリーフ弁の設定圧を調整する必要がある。しかしながら、油圧ショベル等の作業機械におけるリリーフ時の流量は、エンジン出力のバラツキ、ポンプ効率のバラツキ等から個体差が大きく、このため、リリーフ弁あるいはリリーフ弁が組み込まれるバルブユニットの出荷時に、リリーフ時の回路圧を目標リリーフ圧にするべくリリーフ弁の設定圧を調整しても、リリーフ弁を作業機械に搭載した状態での再調整が必要であって、手間がかかるという問題がある。
そこで、特定の油圧アクチュエータ回路の圧力制御のためのリリーフ弁として電気式可変リリーフ弁を用いるとともに、該電気式可変リリーフ弁の設定圧及びリリーフ弁通過流量に関する入力信号に基づいてオーバーライド圧力特性を補正し、該補正した信号を電気式可変リリーフ弁に出力する制御手段を設けた技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-141705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1のものは、オーバーライド圧力特性を補正するためにはリリーフ弁通過流量の値が必要となるが、該リリーフ弁通過流量の値として、油圧アクチュエータに応じて個別に設定される油圧アクチュエータ設定流量(アタッチメント設定流量)を用いている。このため、特許文献1のものは、供給流量が予め設定されている特定の油圧アクチュエータ回路の回路圧を制御したい場合には採用できるが、エンジン出力のバラツキやポンプ効率のバラツキ等からリリーフ時の流量に個体差がある油圧ショベル等のポンプ油路の回路圧制御には採用できないという問題がある。さらに、回路圧(最高圧)制御は、回路を構成する各種油圧機器の保護、故障予知の観点から重要であり、長期に亘って制御管理したいという要望があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、エンジンにより駆動され、複数の油圧アクチュエータの油圧供給源となる可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出油が供給されるポンプ油路から油タンクに至るリリーフ油路に配されるリリーフ弁と、油圧ポンプの容量可変手段に制御指令を出力してポンプ流量を制御するポンプ制御手段とを備えてなる作業機械の油圧制御システムにおいて、該油圧制御システムに、前記リリーフ弁が開くリリーフ時のポンプ油路の圧力を制御するリリーフ圧制御手段を設けるとともに、該リリーフ圧制御手段は、ポンプ油路の圧力を検出するポンプ圧検出手段と、エンジントルクを検出するエンジントルク検出手段と、リリーフ時のポンプ油路の検出圧力値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整した状態で検出されたエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定するリリーフ時目標エンジントルク設定手段と、リリーフ時にエンジントルクの検出値が前記リリーフ時目標エンジントルクとなるようにポンプ制御手段に制御指令を出力して油圧ポンプの流量を制御するリリーフ時制御手段とを具備することを特徴とする油圧制御システムである。
請求項2の発明は、請求項1に記載のリリーフ時目標エンジントルク設定手段を用いてリリーフ時目標エンジントルクを設定する方法であって、該設定方法は、リリーフ時にポンプ油路の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整する工程と、ポンプ油路の圧力検出値が目標リリーフ圧となったときのエンジントルクを検出し、該検出エンジントルクが予め設定される初期設定目標エンジントルクの範囲内であるか否かを判断する工程と、検出エンジントルクが初期設定目標エンジントルクの範囲内の場合には該初期設定目標エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定し、初期設定目標エンジントルクの範囲外の場合には検出エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定する工程とを含むことを特徴とする油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクの設定方法である。
請求項3の発明は、請求項1において、油圧制御システムに、リリーフ時目標エンジントルク設定手段により設定されたリリーフ時目標エンジントルクの値をキャリブレーションするキャリブレーション手段を設けたことを特徴とする油圧制御システムである。
請求項4の発明は、請求項3に記載のキャリブレーション手段を用いてリリーフ時目標エンジントルクの値をキャリブレーションする方法であって、該キャリブレーション方法は、リリーフ時にポンプ油路の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整する工程と、ポンプ油路の圧力検出値が目標リリーフ圧となったときのエンジントルクを検出し、該検出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲内であるか否かを判断する工程と、検出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲内の場合には該既設定のリリーフ時目標エンジントルクをそのままリリーフ時目標エンジントルクとし、既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲外の場合には検出エンジントルクをキャリブレーションされた新たなリリーフ時目標エンジントルクとして設定する工程とを含むことを特徴とする油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクのキャリブレーション方法である。
請求項5の発明は、エンジンにより駆動され、複数の油圧アクチュエータの油圧供給源となる可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプの吐出油が供給されるポンプ油路から油タンクに至るリリーフ油路に配されるリリーフ弁と、油圧ポンプの容量可変手段に制御指令を出力してポンプ流量を制御するポンプ制御手段とを備えてなる作業機械の油圧制御システムにおいて、該油圧制御システムに、前記リリーフ弁が開くリリーフ時のポンプ油路の圧力を制御するリリーフ圧制御手段を設けるとともに、該リリーフ圧制御手段は、ポンプ油路の圧力を検出するポンプ圧検出手段と、リリーフ時のポンプ油路の検出圧力値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整した状態で該ポンプ流量と検出圧力値とに基づいてエンジントルクを算出し、該算出されたエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定するリリーフ時目標エンジントルク設定手段と、リリーフ時にエンジントルクが前記リリーフ時目標エンジントルクとなるようにポンプ制御手段に制御指令を出力して油圧ポンプの流量を制御するリリーフ時制御手段とを具備することを特徴とする油圧制御システムである。
請求項6の発明は、請求項5に記載のリリーフ時目標エンジントルク設定手段を用いてリリーフ時目標エンジントルクを設定する方法であって、該設定方法は、リリーフ時にポンプ油路の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整する工程と、該調整されたポンプ流量と圧力検出値とに基づいてエンジントルクを算出し、該算出エンジントルクが予め設定される初期設定目標エンジントルクの範囲内であるか否かを判断する工程と、算出エンジントルクが初期設定目標エンジントルクの範囲内の場合には該初期設定目標エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定し、初期設定目標エンジントルクの範囲外の場合には算出エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクとして設定する工程とを含むことを特徴とする油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクの設定方法である。
請求項7の発明は、請求項5において、油圧制御システムに、リリーフ時目標エンジントルク設定手段により設定されたリリーフ時目標エンジントルクの値をキャリブレーションするキャリブレーション手段を設けたことを特徴とする油圧制御システムである。
請求項8の発明は、請求項7に記載のキャリブレーション手段を用いてリリーフ時目標エンジントルクの値をキャリブレーションする方法であって、該キャリブレーション方法は、リリーフ時にポンプ油路の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整する工程と、該調整されたポンプ流量と圧力検出値とに基づいてエンジントルクを算出し、該算出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲内であるか否かを判断する工程と、算出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲内の場合には該既設定のリリーフ時目標エンジントルクをそのままリリーフ時目標エンジントルクとし、既設定のリリーフ時目標エンジントルクの範囲外の場合には算出エンジントルクをキャリブレーションされた新たなリリーフ時目標エンジントルクとして設定する工程とを含むことを特徴とする油圧制御システムにおけるリリーフ時目標エンジントルクのキャリブレーション方法である。
請求項9の発明は、請求項3または7において、キャリブレーション手段によるキャリブレーション情報をモニタリングするモニタリング手段を設けたことを特徴とする油圧制御システムである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1、5の発明とすることにより、個々の作業機械にエンジン出力のバラツキ、ポンプ効率のバラツキ等の個体差があっても、リリーフ圧を精度良く制御管理できることになって、リリーフ時における負荷のバラツキを抑制でき、油圧システムを構成する各種油圧機器の保護、寿命向上に大きく貢献できる。
請求項2、6の発明とすることにより、リリーフ圧を目標リリーフ圧となるように制御するために必要なリリーフ時目標エンジントルクの設定を、精度良く簡単に行える。
請求項3、7の発明とすることにより、長期に亘って精度良くリリーフ圧の制御管理を行うことができる。
請求項4、8の発明とすることにより、リリーフ時目標エンジントルクのキャリブレーションを、精度良く簡単に行える。
請求項9の発明とすることにより、キャリブレーション情報を油圧機器の故障予測等に有効利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】作業機械の概略油圧回路図である。
図2】リリーフ弁のオーバーライド特性を示す図である。
図3】油圧ポンプの出力特性を示す図である。
図4】リリーフ圧制御部の構成を示すブロック図である。
図5】リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部の制御手順を示すフローチャート図である。
図6】ポンプ容量制御用電磁比例弁への出力電流とポンプ容量との関係を示す図である。
図7】他の実施の形態におけるリリーフ時目標エンジントルクの設定・キャリブレーションの制御手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、油圧ショベル等の作業機械の油圧回路の概略図であって、該図1において、1は作業機械に搭載されたエンジンEの動力により駆動される容量可変型の油圧ポンプ、1aは油圧ポンプ1の容量を可変させるレギュレータ、2は油圧ポンプ1の吐出油が供給されるポンプ油路、3は油タンク、Aは油圧ポンプ1を油圧供給源として駆動する油圧シリンダや油圧モータ等の各種油圧アクチュエータ(例えば作業機械が油圧ショベルの場合、左右の走行モータ、旋回モータ、ブームシリンダ、スティックシリンダ、バケットシリンダ等)、4は各油圧アクチュエータAに対する油給排制御をそれぞれ行う油圧アクチュエータ用スプール(図示せず)が纏めて配置されたスプール群、5はポンプ油路2から分岐形成されて油タンク3に至るリリーフ油路、6はリリーフ油路5に配されるリリーフ弁、7は前記スプール群4やリリーフ弁6等が組み込まれたコントロールバルブユニットである。さらに、8はポンプ油路2の圧力(油圧ポンプ1の吐出圧)を検出するポンプ圧センサ(本発明のポンプ圧検出手段に相当する)、9はエンジントルクを検出するエンジントルク検出手段、10は後述するポンプ制御部17からの制御信号に基づいて油圧ポンプ1のレギュレータ1aに容量可変用の制御圧を出力するポンプ容量制御用電磁比例弁である。尚、前記エンジントルク検出手段9は、本実施の形態では、燃料噴射量に基づいてエンジントルクを検出演算するものであって、エンジンコントローラに具備されている。また、前記レギュレータ1a及びポンプ容量制御用電磁比例弁10は本発明の容量可変手段に相当する。
【0009】
前記リリーフ弁6は、ポンプ油路2の最高圧を制限するためのものであって、本実施の形態ではバランスピストン形のものが用いられているが、該リリーフ弁6は、図2のオーバーライド特性ラインRに示すように、リリーフ弁6を通過する流量が増加するとオーバーライド特性によりリリーフ圧(リリーフ弁6の上流側圧力、つまりポンプ油路2の圧力)がクラッキング圧力CPから漸次上昇するようになっている。しかして、ポンプ流量の全量がリリーフ弁6によりリリーフされている状態で、ポンプ油路2の圧力(ポンプ圧力)が予め設定される目標リリーフ圧LPtになるときのポンプ流量は、このオーバーライド特性により一意的に決まるようになっている。尚、リリーフ弁6のクラッキング圧力CPは、前記目標リリーフ圧LPtよりも所定圧だけ低くなるように予め調圧されている。
【0010】
また、図3は前記油圧ポンプ1の出力特性を示す図であって、ポンプ圧力が中高圧の領域では、圧力・流量特性曲線B(B1、B2、B3)で示されるように、油圧ポンプ1の出力トルク(あるいは馬力)を一定に保つようにポンプ圧力に応じてポンプ流量が制御されるとともに、上記圧力・流量特性曲線Bは、予め設定された目標エンジントルクTtの増減に応じて、矢印方向にシフトするように制御される。図3では、目標エンジントルクTt1、Tt2、Tt3のときの圧力・流量特性曲線B1、B2、B3を示す。さらに、図3において、Rは前記リリーフ弁6のオーバーライド特性を示すオーバーライド特性ラインであって、該オーバーライド特性ラインRと前記圧力・流量特性曲線B1、B2、B3との交点C1、C2、C3が、目標エンジントルクTt1、Tt2、Tt3のときのリリーフ弁6のリリーフポイントとなり、該リリーフポイントC1、C2、C3でのポンプ圧力がリリーフ圧LP1、LP2、LP3となる。つまり、目標エンジントルクTtの値に応じてリリーフ圧LPは変化し、例えば図3において、目標エンジントルクがTt2のとき(圧力・流量特性曲線B2のとき)のリリーフ圧はLP2となる。
【0011】
一方、作業機械には、オペレータの操作やエンジン出力等に応じて機体の各種動作を制御するためのコントローラ11が搭載されるが、該コントローラ11には、ポンプ油路2のリリーフ圧(回路最高圧)を制御するためのリリーフ圧制御部15が設けられている。該リリーフ圧制御部15は、図4のブロック図に示す如く、ポンプ油路2の圧力を検出するポンプ圧センサ8、エンジントルクを検出するエンジントルク検出手段9、作業機械の運転室等に設けられ、コントローラ11に対する入力操作や表示出力を行う装置として機能するモニタ装置16、前記ポンプ容量制御用電磁比例弁10に制御信号を出力するポンプ制御部17等に接続されているとともに、後述するリリーフ状態判断部18、リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19、リリーフ時制御部20、モニタリング部21、メモリー22等を備えている。尚、コントローラ11には、前記リリーフ圧制御部15だけでなく、操作具操作等に基づいて各種油圧アクチュエータへの供給流量やポンプ流量を制御する油圧アクチュエータ制御部等、種々の制御部が設けられているが、図4には、リリーフ圧制御部15に関する部分のみを記載している。また、前記リリーフ圧制御部15、ポンプ圧センサ(ポンプ圧検出手段)8、エンジントルク検出手段9は、本発明のリリーフ圧制御手段を構成する。さらに、前記ポンプ制御部17は本発明のポンプ制御手段に相当し、リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19は本発明のリリーフ時目標エンジントルク設定手段及びキャリブレーション手段に相当し、リリーフ時制御部20は本発明のリリーフ時制御手段に相当し、モニタリング部21は本発明のモニタリング手段に相当する。
【0012】
ついで、前記リリーフ圧制御部15に設けられるリリーフ状態判断部18、リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19、リリーフ時制御部20、モニタリング部21の各部について説明する。
前記リリーフ状態判断部18は、ポンプ油路2がリリーフ状態であるか否かを判断し、その判断結果をリリーフ時制御部20に出力する。上記リリーフ状態であるか否かの判断は、本実施の形態では、ポンプ圧センサ8により検出されるポンプ油路2の圧力が、予め設定される目標リリーフ圧LPtの近傍値(例えば、目標リリーフ圧±2Mpa)である状態が一定時間以上継続した場合に、リリーフ状態であると判断するように構成されている。
尚、前記目標リリーフ圧LPtは、ポンプ油路2のリリーフ圧(回路最高圧)の目標値として予め設定されるものであって、メモリー22に予め保存されているが、モニタ装置16を用いて目標リリーフ圧を任意に設定する構成にすることもできる。
また、前記リリーフ状態判断部18からリリーフ時制御部20への出力は、後述するリリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19においてリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定及びキャリブレーションが実行されている場合(後述する「設定、キャリブレーションモード」の場合)には、行われないようになっている。
さらに、前記リリーフ状態判断部18によるリリーフ状態であるか否かの判断は、前述したようなポンプ油路2の圧力検出値に基づいて行うことに限定されず、例えば、作動機械に設けられる油圧シリンダがシリンダエンドに位置している状態を検出するシリンダエンド検出手段と、該油圧シリンダ用の操作具が操作されている状態を検出する操作検出手段とを設け、これら両方の検出手段による検出状態が一定時間以上継続した場合に、リリーフ状態であると判断する構成にすることもできる。
【0013】
また、前記リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19は、モニタ装置16からの操作信号に基づいて、リリーフ時におけるエンジントルクの目標値であるリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定及びキャリブレーションを実行する。
ここで、前記モニタ装置16は、リリーフ時目標エンジントルクLTtの設定、キャリブレーションを行うときのモードとして予め設定される「設定、キャリブレーションモード」を選択するときにオペレータが操作するモード選択手段16a(操作スイッチ、操作画面等)を備えている。そして、該モード選択手段16aの操作に基づいて「設定、キャリブレーションモード」が選択された場合に、リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19の制御がスタートするように構成されている。また、「設定、キャリブレーションモード」では、油圧アクチュエータAへの圧油供給は行われず、リリーフ時にはポンプ流量(油圧ポンプ1の吐出流量)の全量がリリーフ弁6を通過するように制御される。さらに、「設定、キャリブレーションモード」では、後述するリリーフ時制御部20における制御は実行されないようになっている。
【0014】
次いで、前記リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19におけるリリーフ時目標エンジントルクの設定、キャリブレーションの制御手順について、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19は、制御がスタートすると、まず、ポンプ油路2のリリーフを開始するべくポンプ制御部17に制御指令を出力してポンプ流量を増加させる(ステップS1)。
次いで、ポンプ圧センサ8により検出されるポンプ油路2の圧力(ポンプ圧)を読み込み、該検出ポンプ圧が予め設定される目標リリーフ圧LPtの設定範囲内(例えば、目標リリーフ圧LPt±公差)となるように、ポンプ制御部17に制御指令を出力してポンプ流量を調整する(ステップS2)。この場合、図6に示すごとく、ポンプ制御部17からポンプ容量制御用電磁比例弁10に出力される電流値に応じてポンプ容量が変化し、これによりポンプ流量の増減調整がなされる。このポンプ流量の調整は、検出ポンプ圧が目標リリーフ圧LPtの設定範囲内になるまで行われる(ステップS3)。
そして、ポンプ圧が目標リリーフ圧LPtの設定範囲内であると判断された場合には、続けて、メモリー22に既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtが保存されているか否かを判断する(ステップS4)。そして、メモリー22に既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtが保存されていない場合には、ステップS5~ステップS7においてリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定を行い、また、メモリー22に既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtが保存されている場合には、ステップS8~ステップS10においてリリーフ時目標エンジントルクLTtのキャリブレーションを行う。
前記リリーフ時目標エンジントルクLTtの設定を行う場合(ステップS4において、メモリー22に既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtが保存されていないと判断された場合)には、続けて、エンジントルク検出手段9により検出されるエンジントルクの値を読み込み、該検出エンジントルクがリリーフ時の目標エンジントルクの初期値として予め設定された初期設定目標エンジントルクの設定範囲内(例えば、初期設定目標エンジントルク±所定のバラツキ)であるか否かを判断する(ステップS5)。そして、ステップS5の判断で、検出エンジントルクが初期設定目標エンジントルクの設定範囲内であると判断された場合には、該初期設定目標エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定する(ステップS6)。一方、検出エンジントルクが初期設定目標エンジントルクの設定範囲内でないと判断された場合には、検出エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定する(ステップS7)。そして、該設定されたリリーフ時目標エンジントルクLTtはメモリー22に保存される。尚、前記初期設定目標エンジントルクは、予めメモリー22に保存されているが、モニタ装置16を用いて初期設定目標エンジントルクを任意に設定できる構成にすることもできる。
一方、リリーフ時目標エンジントルクLTtのキャリブレーションを行う場合(ステップS4において、メモリー22に既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtが保存されていると判断された場合)には、続けて、エンジントルク検出手段9により検出されるエンジントルクの値を読み込み、該検出エンジントルクがメモリー22に保存されている既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定範囲内(例えば、既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTt±所定のバラツキ)であるか否かを判断する(ステップS8)。そして、ステップS8の判断で、検出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定範囲内であると判断された場合には、該既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtをそのままリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定する(ステップS9)。一方、検出エンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定範囲内でないと判断された場合には、検出エンジントルクを新たなリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定する。そして、メモリー22に保存されている既設定のリリーフ時目標エンジントルクを、新たに設定されたリリーフ時目標エンジントルクLTtに書き換える。
【0015】
しかして、前記リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19では、リリーフ時のポンプ油路2の圧力が目標リリーフ圧LPtになるようにポンプ流量を調整した状態での検出エンジントルクがリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定あるいはキャリブレーションされて、メモリー22に保存されるようになっている。そして、該メモリー22に保存されたリリーフ時目標エンジントルクLTtは、リリーフ時制御部20に出力される。
【0016】
一方、前記リリーフ時制御部20は、リリーフ状態判断部18からポンプ油路2がリリーフ状態であるとの判断結果が入力された場合に、エンジントルク検出手段9で検出される検出エンジントルクが、メモリー22に保存されている最新のリリーフ時目標エンジントルクLTtとなるように、ポンプ制御部17に制御指令を出力してポンプ流量を制御する。つまり、検出エンジントルクがリリーフ時目標エンジントルクLTtよりも小さい場合にはポンプ流量を増加させてエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクLTtまで増加させる一方、検出エンジントルクがリリーフ時目標エンジントルクLTtよりも大きい場合にはポンプ流量を減少させてエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクLTtまで減少させるフィードバック制御を行う。この場合に、リリーフ時目標エンジントルクLTtは、リリーフ時のポンプ油路2の圧力が目標リリーフ圧LPtになるようにポンプ流量を調整した状態での検出エンジントルクの値であるから、該リリーフ時目標エンジントルクLTtとなるようにポンプ流量を制御することによって、リリーフ時のポンプ油路2の圧力は目標リリーフ圧LPtとなるように制御されることになる。
【0017】
さらに、前記リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19におけるキャリブレーションの情報(履歴、データ)はモニタリング部21に出力され、該モニタリング部21において蓄積されて継続監視(モニタリング)される。そして、該モニタリングの結果は、モニタ装置16に出力されて、例えばエンジントルクの変動傾向データとして表示され、故障予測等に用いることができるようになっている。
【0018】
叙述の如く構成された本形態において、作業機械の油圧制御システムには、エンジンEにより駆動され、複数の油圧アクチュエータAの油圧供給源となる可変容量型の油圧ポンプ1と、該油圧ポンプ1の吐出油が供給されるポンプ油路2から油タンク2に至るリリーフ油路5に配されるリリーフ弁6と、油圧ポンプ1のレギュレータ1aにポンプ容量制御用電磁比例弁10を介して制御指令を出力してポンプ流量を制御するポンプ制御部17とが設けられているが、さらに該油圧制御システムには、リリーフ弁6が開くリリーフ時のポンプ油路2の圧力を制御するリリーフ圧制御部15が設けられている。該リリーフ圧制御部15は、ポンプ油路2の圧力を検出するポンプ圧センサ8、及びエンジントルクを検出するエンジントルク検出手段9に接続されるとともに、リリーフ時のポンプ油路2の検出圧力値が予め設定される目標リリーフ圧LPtとなるようにポンプ流量を調整した状態で検出されたエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定するリリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19と、リリーフ時にエンジントルクの検出値が前記リリーフ時目標エンジントルクLTtとなるようにポンプ制御部17に制御指令を出力して油圧ポンプ1の流量を制御するリリーフ時制御部20とを具備していることになる。
【0019】
しかして、リリーフ弁6が開くリリーフ時には、エンジントルクの検出値がリリーフ時目標エンジントルクLTtとなるように油圧ポンプ1の流量が制御されることになるが、該リリーフ時目標エンジントルクLTtは、リリーフ時のポンプ油路2の検出圧力値が目標リリーフ圧LPtとなるようにポンプ流量を調整した状態で検出されたエンジントルクの値であるから、該リリーフ時目標エンジントルクLTtとなるようにポンプ流量を制御することによって、リリーフ時のポンプ油路2の圧力は目標リリーフ圧LPtとなるように制御されることになる。
【0020】
この結果、個々の作業機械にエンジン出力のバラツキ、ポンプ効率のバラツキ等の個体差があっても、リリーフ時のエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクLTtとなるように制御することで、リリーフ圧を目標リリーフ圧LPtとなるように精度良く制御管理できることになって、リリーフ時における負荷のバラツキを抑制でき、油圧システムを構成する各種油圧機器の保護、寿命向上に大きく貢献できる。しかも、前記リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19によるリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定、リリーフ時制御部20によるエンジントルクの制御は、リリーフ弁6を作業機械に搭載した状態でソフトウェアによって行われるものであるから、リリーフ圧の制御管理が容易であるとともに、リリーフ弁6単体あるいはリリーフ弁6が組み込まれるコントロールバルブユニット7の出荷時におけるリリーフ弁6の調整作業は不要となり、該調整作業の手間を省くことができる。
【0021】
このものにおいて、前記リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19によるリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定は、リリーフ時にポンプ油路2の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧LPtとなるようにポンプ流量を調整する工程(前述のステップS1、S2、S3)と、ポンプ油路2の圧力検出値が目標リリーフ圧LPtとなったときのエンジントルクを検出し、該検出されたエンジントルクが予め設定される初期設定目標エンジントルクの範囲内であるか否かを判断する工程(前述のステップS5)と、検出エンジントルクが初期設定目標エンジントルクの範囲内の場合には該初期設定目標エンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定し、初期設定目標エンジントルクの範囲外の場合には検出されたエンジントルクをリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定する工程(前述のステップS6、S7)とが順次実行され、これにより、リリーフ圧を目標リリーフ圧LPtとなるように制御するために必要なリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定を、ソフトウェア上で精度良く簡単に行える。
【0022】
さらに、前記リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19は、該リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19で設定されたリリーフ時目標エンジントルクLTtの値をキャリブレーションする制御も行う構成になっているから、例えば作業開始前等にリリーフ時目標エンジントルクLTtの値を定期的にキャリブレーションすることで、長期に亘って精度良くリリーフ圧の制御管理を行えることになる。
【0023】
そして、前記リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19によるリリーフ時目標エンジントルクLTtのキャリブレーションは、リリーフ時にポンプ油路2の圧力検出値が予め設定される目標リリーフ圧LPtとなるようにポンプ流量を調整する工程(前述のステップS1、S2、S3)と、ポンプ油路2の圧力検出値が目標リリーフ圧LPtとなったときのエンジントルクを検出し、該検出されたエンジントルクが既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtの範囲内であるか否かを判断する工程(前述のステップS8)と、既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtの範囲内の場合には該既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtをそのままリリーフ時目標エンジントルクLTtとし、既設定のリリーフ時目標エンジントルクLTtの範囲外の場合には検出されたエンジントルクをキャリブレーションされた新たなリリーフ時目標エンジントルクLTtとして設定する工程(前述のステップS9、S10)とが順次実行され、これにより、リリーフ圧を目標リリーフ圧LPtとなるように制御するために必要なリリーフ時目標エンジントルクLTtのキャリブレーションを、ソフトウェア上で精度良く簡単に行える。
【0024】
さらに、前記リリーフ時目標エンジントルク設定・キャリブレーション部19によるリリーフ時目標エンジントルクLTtのキャリブレーション情報(履歴、データ)は、モニタリング部21において蓄積されてモニタリングされることになるから、キャリブレーション情報を油圧機器の故障予測等に有効利用できることになる。
【0025】
尚、本発明は前記実施の形態に限定されないことは勿論であって、例えば、作業機械に搭載したAI(人工知能)に機械学習させて、リリーフ時目標エンジントルクの値を、掘削作業中のリリーフ時エンジントルクを基に自動でキャリブレーションする構成にすることも可能である。
また、前記実施の形態では、エンジントルクを検出するエンジントルク検出手段を設け、該エンジントルク検出手段で検出されたエンジントルクの検出値(検出エンジントルク)を用いてリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定、キャリブレーションを行う構成になっているが、これに限定されることなく、エンジントルク検出手段の検出値を用いなくても、本発明を実施できる。この場合には、リリーフ時目標エンジントルク設定手段およびキャリブレーション手段に、リリーフ時のポンプ油路の検出圧力値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整した状態で、該ポンプ流量とポンプ油路の検出圧力値とに基づいてエンジントルクを算出するエンジントルク算出手段を設け、該エンジントルク算出手段で算出されたエンジントルクの算出値(算出エンジントルク)を用いてリリーフ時目標エンジントルクLTtの設定、キャリブレーションを行う構成にする。この場合、エンジントルク算出手段は、前述したように、リリーフ時のポンプ油路の検出圧力値が予め設定される目標リリーフ圧となるようにポンプ流量を調整した状態で、該ポンプ流量とポンプ油路の検出圧力値とに基づいて、例えば以下の式(1)を用いてエンジントルクを算出する。
Tr=(P・Q)/(2π・n・ητ) ・・・(1)
上記式(1)において、Trはエンジントルク、Pはポンプ圧力、Qはポンプ流量、nはエンジン回転数、ητは全効率である。そして、このようにして算出した算出エンジントルクを、前記実施の形態の検知エンジントルクに代えて用いることで、リリーフ時目標エンジントルクの設定、キャリブレーションを行えることになるが、この場合、図7のフローチャート図に示す如く、前記実施の形態を示した図5のフローチャート図のステップS3の後に、調整されたポンプ流量の値とポンプ油路の圧力検出値とに基づいてエンジントルクを算出するステップ(ステップS11)を追加するとともに、ステップS5~S10では、検出エンジントルクに代えて算出エンジントルクを用いる。このように算出エンジントルクを用いる場合には、エンジントルク検出手段は設けなくても良いが、この場合には、リリーフ時制御手段(リリーフ時制御部20)は、リリーフ状態判断部18からポンプ油路2がリリーフ状態であるとの判断結果が入力された場合、エンジントルクがリリーフ時目標エンジントルクLTtとなるポンプ流量をポンプ圧力に基づいて求め、該ポンプ流量となるようにポンプ制御手段(ポンプ制御部17)に制御指令を出力することになる。
またさらに、前記実施の形態では、リリーフ時の目標エンジントルクを設定、キャリブレーションする構成になっているが、該設定、キャリブレーションされたリリーフ時の目標エンジントルクを、リリーフ時だけでなく、前記図3に示した圧力・流量特性曲線Bの全域における目標エンジントルクとして設定する構成にすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械において、油圧ポンプの吐出油が供給されるポンプ油路のリリーフ圧制御に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】