(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】HDLBP/VIGILINの人為的な同時発現によるタンパク質発現及び分泌の増加
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240829BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/19 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/23 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/16 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/17 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240829BHJP
C07K 14/575 20060101ALI20240829BHJP
C07K 14/62 20060101ALI20240829BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240829BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240829BHJP
C07K 14/555 20060101ALI20240829BHJP
C07K 14/57 20060101ALI20240829BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20240829BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240829BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20240829BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20240829BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12N15/13 ZNA
C12N15/19
C12N15/23
C12N15/16
C12N15/17
C12N15/62 Z
C07K14/575
C07K14/62
C07K16/00
C07K19/00
C07K14/555
C07K14/57
C12N5/10
C12N15/85 Z
A61K38/17
A61K38/21
A61K38/28
A61P43/00 101
A61K39/395 D
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509087
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 EP2022073116
(87)【国際公開番号】W WO2023030914
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510101631
【氏名又は名称】マックス-デルブルック-セントラム フール モレクラーレ メディツィン(エムディーシー)
【氏名又は名称原語表記】MAX-DELBRUCK-CENTRUM FUR MOLEKULARE MEDIZIN(MDC)
(71)【出願人】
【識別番号】520106862
【氏名又は名称】フンボルト‐ウニヴェルズィテート ズ ベルリン
【氏名又は名称原語表記】HUMBOLDT-UNIVERSITAT ZU BERLIN
【住所又は居所原語表記】Unter den Linden 6, 10099 Berlin, (DE)
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ラントターラー, マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ツィナル, ウルリケ
(72)【発明者】
【氏名】ミニア, イゴール
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG10
4B064AG15
4B064AG16
4B064AG18
4B064CA01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB40
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA60
4C084AA02
4C084BA01
4C084DA23
4C084DB34
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB21
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC01
4C085DD21
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045DA01
4H045DA17
4H045DA18
4H045DA30
4H045DA37
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、細胞において目的の分泌組換えタンパク質を産生するための方法であって、上記目的の分泌組換えタンパク質とは異なるタンパク質を人為的に同時発現させる工程を含む方法に関する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞において目的の分泌組換えタンパク質を産生するための方法であって、上記目的の分泌組換えタンパク質とは異なるタンパク質を人為的に同時発現させる工程を含み、この同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、又はこの同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、方法。
【請求項2】
上記同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有し、好ましくは、上記同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記同時発現タンパク質が、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列を含み、好ましくは、上記同時発現タンパク質が、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
上記目的の分泌組換えタンパク質が、タンパク質ベースの治療に好適であり、好ましくは、上記分泌組換えタンパク質が、治療用抗体等の抗体、その抗原結合フラグメント、ナノボディ、抗体薬物複合体、組換え融合タンパク質、エクソソーム、IFN-β等のサイトカイン、インスリン等のホルモン、又はGnRH類似体等のホルモン類似体からなる群より選択され、より好ましくは、上記目的の分泌組換えタンパク質がEPO-Fcである、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記目的の分泌組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドが、野生型配列と比較して増加したCU含量を有するように最適化されているPro、Ser又はLeuをコードするコドンを少なくとも1つ有し、好ましくは、Leuをコードする少なくとも1つのコドンがCUUに最適化されているか、又はProをコードする少なくとも1つのコドンがCCUに最適化されているか、又はSerをコードする少なくとも1つのコドンがUCUに最適化されており、より好ましくは、Leuをコードする少なくとも1つのCUGコドンがCUUに最適化されているか、又はProをコードする少なくとも1つのCCCコドンがCCUに最適化されているか、又はSerをコードする少なくとも1つのUCAコドンがUCUに最適化されており、さらにより好ましくは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、もしくは少なくとも4つのコドンがこのように最適化されている、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記細胞が真核細胞である、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
上記細胞が、CHO細胞、BHK-21細胞、HEK293細胞、C127、A549、Sp2/0、YB2/0、SF-9細胞、NS0細胞、Vero細胞、PER.C6、及びそれらの任意の誘導体からなる群より選択される、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記方法がインビトロで実施される、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記細胞がさらに、フィトヘマグルチニン、テストステロンC、β-エストラジオール、スペルミジン、又はコレステロールで処理され、好ましくは、上記細胞がさらに、フィトヘマグルチニン又はスペルミジンで処理される、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
目的の分泌組換えタンパク質を産生するように改変され、上記目的の分泌組換えタンパク質とは異なるタンパク質を人為的に同時発現する真核細胞であって、この同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の相同性を有するか、又はこの同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、真核細胞。
【請求項11】
上記目的の分泌組換えタンパク質が、一過的に、恒常的に、及び/又は誘導的に/条件的に発現される、請求項10に記載の真核細胞。
【請求項12】
上記細胞が、上記目的の分泌組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列を含み、好ましくは、上記細胞が、上記目的の分泌組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列を含む非ゲノム組換えポリヌクレオチド配列、発現カセット又はベクターを含む、請求項10又は11のいずれか一項に記載の真核細胞。
【請求項13】
上記目的の分泌組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列が、コード配列内に組込まれたCUリッチな同義コドンを含む、請求項12に記載の真核細胞。
【請求項14】
上記組換えポリヌクレオチド配列がmRNA配列である、請求項12に記載の真核細胞。
【請求項15】
上記細胞が、CHO細胞、BHK-21細胞、HEK293細胞、C127、Sp2/0、YB2/0、SF-9細胞、NS0細胞、Vero細胞、及びそれらの任意の誘導体からなる群より選択される、請求項10又は11のいずれか一項に記載の真核細胞。
【請求項16】
上記目的の分泌組換えタンパク質が、タンパク質ベースの治療に好適であり、好ましくは、上記分泌組換えタンパク質が、治療用抗体等の抗体、その抗原結合フラグメント、ナノボディ、抗体薬物複合体、組換え融合タンパク質、エクソソーム、IFN-β等のサイトカイン、インスリン等のホルモン、又はGnRH類似体等のホルモン類似体からなる群より選択される、請求項10又は11のいずれか一項に記載の真核細胞。
【請求項17】
目的の分泌組換えタンパク質をインビトロで産生する方法における請求項10又は11のいずれか一項に記載の真核細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的の分泌組換えタンパク質を産生するための方法、及び目的の分泌タンパク質の産生に使用される細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞では、機能性タンパク質産物の最終的な局在は、その翻訳部位によって大部分が決定される。可溶性タンパク質はサイトゾルにおいて翻訳されるが、翻訳と同時の小胞体(ER)への標的化によって、新たに合成されたタンパク質が分泌経路に入ることができ、その分泌又は膜挿入が生じる。
【0003】
古典的分泌経路は、サイトゾルにおいて疎水性標的シグナル(シグナルペプチド又は膜貫通型ドメイン)の合成から開始される。その後、シグナル認識粒子(SRP)が新生ペプチドに結合すると、リボソームの伸長停止が生じ、リボソーム新生鎖複合体(RNC)が形成される。これにより、サイトゾルのSRP-RNCがSRP受容体を介してER膜に再局在し、新生ペプチドがER内腔に転移することが可能になる。
【0004】
近年、リボソーム結合前のmRNAへのSRPの動員及びSRP非依存性ER標的化についてのエビデンスとともに、非古典的SRP非依存性経路が酵母において発見された。このことは、膜結合mRNAの認識に関する未知のメカニズムが存在する可能性を提起している。
【0005】
リボソームの伸長停止及び新生鎖の認識におけるmRNA配列中の調節エレメントの潜在的な役割は、よく理解されていない。幾つかの研究では、ER結合mRNAとサイトゾルmRNAとを区別し得る、コード配列(CDS)及び3’非翻訳領域(3’UTR)内のエレメントが確認されている。しかしながら、このようなエレメントの認識を担い得るトランス作用因子は未知である。
【0006】
最近、可溶性タンパク質をコードするmRNAの小さなサブセットもERに局在し、翻訳され得ることが観察され、局在するmRNAの運命を調節する更なるメカニズムが示された。筋肉においてピルビン酸キナーゼと相互作用するER関連リボソームのサブプールについてのエビデンスはあるが、サイトゾルリボソーム及びER結合リボソームの構成、アセンブリ及び活性翻訳状態の総合的な差異は確認されていない。
【0007】
さらに、リボソーム依存性ナンセンス介在的分解(NMD)経路の新規な変異体がERで発見され、ER結合mRNAの調節の新たな層が示唆された。要約すると、可溶性タンパク質及び膜タンパク質をコードするmRNAの翻訳運命は、古典的SRP依存性モデルの域を超えて機能し得るRNA結合タンパク質等のトランス作用因子によって厳密に調節されている可能性がある。
【0008】
バイオテクノロジー並びに生物医学の分野では、治療用抗体、ホルモン、酵素等の分泌タンパク質の生産及び入手容易性が、大きな経済的関心事である。このようなタンパク質ベースの化合物、特に医療目的に使用できるものの生産を最適化し向上させる手段は、社会的にも経済的にも非常に重要である。
【0009】
したがって、細胞発現系においてこのようなタンパク質ベースの化合物の産生、発現、及び分泌を改善し増加させるための新たな戦略及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、細胞において目的の分泌組換えタンパク質を発現及び分泌させるための新規で有利な方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、分泌組換えタンパク質の発現のための改良された細胞発現系を提供することである。
【0012】
さらに、目的の分泌組換えタンパク質を産生する方法におけるこのような改良された細胞発現系の使用を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、以下に明記する本発明の態様によって解決される。
【0014】
本発明の第一の態様によれば、細胞において目的の分泌組換えタンパク質を産生するための方法であって、上記目的の分泌組換えタンパク質とは異なるタンパク質を人為的に同時発現させる工程を含み、この同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、又はこの同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、方法が提供される。
【0015】
本発明の第一の態様の好ましい実施形態では、上記同時発現タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有し、より好ましくは、上記同時発現タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0016】
本発明の第一の態様の別の好ましい実施形態では、上記同時発現タンパク質は、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列を含み、より好ましくは、上記同時発現タンパク質は、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる。
【0017】
本発明の第一の態様の好ましい一実施形態では、上記目的の分泌組換えタンパク質は、タンパク質ベースの治療に好適であり、より好ましくは、上記分泌組換えタンパク質は、治療用抗体等の抗体、その抗原結合フラグメント、ナノボディ、抗体薬物複合体、組換え融合タンパク質、エクソソーム、IFN-β等のサイトカイン、インスリン等のホルモン、又はGnRH類似体等のホルモン類似体からなる群より選択される。
【0018】
本発明の第一の態様の好ましい実施形態では、上記細胞は真核細胞である。
【0019】
本発明の第一の態様の別の好ましい実施形態では、上記細胞は、CHO細胞、BHK-21細胞、HEK293細胞、C127、A549、Sp2/0、YB2/0、SF-9細胞、NS0細胞、Vero細胞、及びそれらの任意の誘導体からなる群より選択される。
【0020】
本発明の第一の態様の好ましい一実施形態では、上記方法はインビトロで実施される。
【0021】
本発明の第二の態様によれば、目的の分泌組換えタンパク質を産生するように改変され、上記目的の分泌組換えタンパク質とは異なるタンパク質を人為的に同時発現する真核細胞であって、この同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の相同性を有するか、又はこの同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、真核細胞が提供される。
【0022】
本発明の第二の態様の好ましい実施形態では、上記目的の分泌組換えタンパク質は、一過的に、恒常的に、及び/又は誘導的に/条件的に発現される。
【0023】
本発明の第二の態様の別の好ましい実施形態では、上記細胞は、上記目的の分泌組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列を含み、より好ましくは、上記細胞は、上記目的の分泌組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列を含む非ゲノム組換えポリヌクレオチド配列、発現カセット又はベクターを含む。
【0024】
本発明の第二の態様の好ましい一実施形態では、上記目的の分泌組換えタンパク質をコードし、上記細胞において発現された組換えポリヌクレオチド配列は、コード配列内に組込まれたCUリッチな同義コドンを含み、好ましくは、上記組換えポリヌクレオチド配列はmRNA配列である。
【0025】
本発明の第二の態様の好ましい実施形態では、上記細胞は、CHO細胞、BHK-21細胞、HEK293細胞、C127、A549、Sp2/0、YB2/0、SF-9細胞、NS0細胞、Vero細胞、及びそれらの任意の誘導体からなる群より選択される。
【0026】
本発明の第二の態様の別の好ましい実施形態では、上記目的の分泌組換えタンパク質は、タンパク質ベースの治療に好適であり、より好ましくは、上記分泌組換えタンパク質は、治療用抗体等の抗体、その抗原結合フラグメント、ナノボディ、抗体薬物複合体、組換え融合タンパク質、エクソソーム、IFN-β等のサイトカイン、インスリン等のホルモン、又はGnRH類似体等のホルモン類似体からなる群より選択される。
【0027】
本発明の第三の態様によれば、目的の分泌組換えタンパク質をインビトロで産生する方法における本発明の第二の態様に係る真核細胞の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】標準的なタンパク質産生プロセスと比較して、HDLBP/Vigilinの過剰発現(VgSECプラットフォーム)により分泌タンパク質の分泌が向上したことを示す図である。
【
図2】誘導量のドキシサイクリンの存在下(+DOX)及び非存在下(-DOX)での親HEK293(WT)、及びドキシサイクリン誘導性HDLBPを持つpiggybacトランスポゾンを安定的にトランスフェクトした細胞におけるSEAP及びガウシアルシフェラーゼ活性測定を示す図である。SEAP及びガウシアルシフェラーゼシグナルを細胞培地中で定量し、細胞内ホタルルシフェラーゼ(Fluc)活性に対して標準化した(実験は、少なくとも5回の技術反復により5回実施した)。
【
図3】(A)野生型A549細胞(WT)、及びHDLBPを過剰発現するpiggybackコンストラクトを安定的にトランスフェクトしたA549細胞(OE)のウエスタン分析を示す図である。(B)A459野生型細胞(WT)、Vigilin/HDLBPノックアウト細胞(KO)、及びVigilin/HDLBP過剰発現細胞(OE)におけるSEAP活性測定を示す図である。
【
図4】(A)野生型(WT)及びコドン最適化バージョンのSEAP(opt1及びopt2)を示す図である。(B)SEAP WT又はコドン最適化SEAPタンパク質を発現するHEK293 WT細胞及びHDLBP過剰発現細胞における発現及び分泌を反映する相対的なSEAP酵素活性を示す図である。
【
図5】HDLBP及びEPO-FCの誘導性過剰発現を有するCHO細胞株を生成するための戦略を示す図であり、ここで、EPO-Fc Opt遺伝子は、よりCUリッチなLeu、Ser及びProコドンを含む。
【
図6】(A)抗GAPDH抗体、抗HDLBP抗体及び抗Fc抗体;ローディングコントロールとしてポンソー染色を用いた、ドキシサイクリン(dox)誘導性EPO-Fc(EPO WT)遺伝子及びコドン最適化されたEPO-Fc(EPO Opt)遺伝子のみを発現するCHO細胞(CHO細胞WT)、並びにEPO WT遺伝子及びEPO Opt遺伝子を発現するドキシサイクリン誘導性HDLBP過剰発現コンストラクトを有するCHO細胞(CHO細胞HDLBP OE)のウエスタン分析を示す図である。(B)HDLBP過剰発現のないCHO細胞(コントロール)、並びにEPO-Fc(EPO-WT)及びコドン最適化されたEPO-Fcコンストラクト(EPO Opt)を安定的にトランスフェクトしたHDLBP過剰発現CHO細胞(HDLBP OE)の上清中のEPO-FcについてのELISAを示す図である。
【
図7】(A)抗GAPDH抗体、抗HDLBP抗体及び抗Fc抗体;ローディングコントロールとしてポンソー染色を用いた、未処理(コントロール)CHO細胞、及び示した各濃度の様々な化合物(PHA-P:フィトヘマグルチニン;TSC:テストステロンC;β-ED:β-エストラジオール;SPD:スペルミジン;CS:コレステロール)で処理した細胞におけるEPO-Fc発現についてのウエスタン分析を示す図である。(B)未処理コントロール細胞、及び示した各濃度の様々な化合物(PHA-P:フィトヘマグルチニン;TSC:テストステロンC;β-ED:β-エストラジオール;SPD:スペルミジン;CS:コレステロール)で処理した細胞の上清中のEPO-FcについてのELISAを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、真核細胞におけるHDLBP(高密度リポタンパク質結合タンパク質)/Vigilinの(同時)発現の増加が、特に分泌タンパク質の組換え発現のための細胞発現系において、この細胞からの分泌タンパク質の発現及び分泌を向上させるという認識に基づくものである。本発明者らは、分泌経路を鋭意研究し、HDLBP/Vigilin、並びに真核細胞における分泌タンパク質の翻訳、発現及び分泌の効率のためのその重要な役割を確認することに成功した。
【0030】
HDLBP(Vigilinとしても知られている;本明細書ではVigilin及びHDLBPは交換可能に用いられ得る)は、サイトゾル及びER膜の両方に局在する保存された遍在的に発現するRNA結合タンパク質である。ヒトでは、アイソフォームa(NCBI参照配列NP_001307894.1;配列番号1)、アイソフォームb(NCBI参照配列NP_001230829.1;配列番号2)及びアイソフォームc(NCBI参照配列NP_001307896.1;配列番号3)と呼ばれる3つの主要なアイソフォームが存在する。
【0031】
キイロショウジョウバエ(D.melanogaster)(ドデカ-サテライト結合タンパク質1、アイソフォームA;NCBI参照配列NP_995886.1;配列番号4)、マウス(Vigilin、NCBI参照配列NP_598569.1;配列番号5)、チャイニーズハムスター(Vigilin、NCBI参照配列XP_027253465.1;配列番号6)、ミドリザル(VigilinアイソフォームX1、NCBI参照配列XP_037856519.1;配列番号7)、及び他の種に由来する相同タンパク質も知られている。これらの相同タンパク質のいずれも、例えば同一又は近縁の生物に由来する発現系において各相同体を同時発現させることによって、本発明の文脈において使用され得る。
【0032】
ヒトのアイソフォームは、15個のhnRNP K相同性(KH)RNA結合ドメイン(RBD)を含む。KHドメインは、高親和性RNA認識エレメント(RRE)であり、最も一般的には、FMRP27、SF1、HNRNPK等に観察されるようなテトラヌクレオチドである。HDLBP及びその酵母オルソログであるSCP160は、翻訳又はタンパク質凝集等の多くの生物学的プロセスに寄与することが分かっており、発癌とも関連付けられている。
【0033】
最近、HDLBPは、フラビウイルスZIKV及びDENVの複製に必要であることが示されている。動脈硬化を起こす傾向があるLdlr-/-マウスで肝臓HDLBPをノックダウンすると、動脈硬化プラークが減少すると考えられるため、HDLBPは心血管系研究の有望な標的でもある。しかしながら、RNAに結合するHDLBPの機能的側面、及び翻訳中のメカニズム的イベントは、依然として不明である。
【0034】
本発明の一部として、HDLBP結合部位をPAR-CLIPによりトランスクリプトームワイドにアッセイし、ER結合mRNAの選択的な配列決定因子としてのその潜在的な機能を発見した。HDLBPは、全ER局在mRNAの少なくとも80%という高い割合と直接的かつ特異的に相互作用し、主にそのコード配列中の長いCUリッチモチーフに結合したが、これは、サイトゾルmRNAと比較して膜結合mRNAにおいてはるかに多く見られるユニークな特徴である。
【0035】
生化学的方法、トランスクリプトーム方法及びプロテオミクス方法を用いて、HDLBPの非存在がERの翻訳効率、タンパク質合成及び分泌に対して及ぼす機能的な影響を評価したところ、これらの生物学的プロセスのためのその必要性が浮き彫りになった。
【0036】
これらの考察に基づき、本発明者らは、分泌タンパク質の産生の増加のための、HDLBPを過剰発現する細胞発現系の関連性及び適合性を認識した。
【0037】
したがって、発明の第一の態様において、細胞において目的の分泌組換えタンパク質を産生するための方法であって、上記目的の分泌組換えタンパク質とは異なるタンパク質を人為的に同時発現させる工程を含み、この同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、又はこの同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、方法が提供される。
【0038】
本明細書で用いる「産生」という用語は、ヌクレオチド配列の翻訳によって目的のタンパク質を産生することが可能な真核細胞を用いたこの組換えタンパク質の産生を意味する。「組換え」ポリヌクレオチド又はタンパク質として、トランスフェクション、形質導入、又は当技術分野で一般的に知られている遺伝子工学の他の手段によって産生細胞に導入されたポリヌクレオチド又はタンパク質が記載され得る。さらに、「組換え」ポリヌクレオチド又はタンパク質は、産生細胞において天然には存在しないものであり得る。
【0039】
例えば、目的のタンパク質を産生するために、1つ又は複数の目的のタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列を細胞に導入することができ、その後、このタンパク質が、通常の細胞転写/翻訳プロセスの一環として上記細胞によって産生される。このような核酸は、当技術分野で一般的に知られている様々な経路により細胞内に導入することができる。
【0040】
タンパク質産生のために細胞によって転写及び/又は翻訳される核酸を導入するのに好適な輸送媒体としては、例えば、DNAを含むベクターが挙げられる。さらに、RNA等の一本鎖核酸、好ましくは、導入される一本鎖核酸がmRNAであるものも、本発明の範囲内で想定される。あるいは、目的のタンパク質をコードするこのような核酸は、タンパク質産生に使用される真核細胞のゲノム内に(単一コピー又は複数コピーとして)安定的に組込まれ得る。
【0041】
発現系として使用される真核細胞は、産生するタンパク質をコードする核酸を取込む必要がある。この取込みは、当業者には周知の様々な遺伝子形質転換経路によって媒介され得る。非制限的な例としては、真核細胞のエレクトロポレーション、化学物質ベースのトランスフェクション、粒子ベースのトランスフェクション、注入及び/又は形質導入が挙げられる。
【0042】
原則として、本発明の方法は、任意の発現系の文脈において、また任意の目的の分泌タンパク質の産生のために適用することができる。このため、本発明の恩恵を得るために、分泌タンパク質のための既存の発現系を採用し、HDLBPの過剰発現を達成するように改変してもよい。これらのタンパク質産生経路は、任意の規模で実施可能であり、また、目的のタンパク質を大量に生成するのにも好適である。
【0043】
「分泌タンパク質」は、細胞によって分泌される任意のタンパク質として理解されるべきであり、これは、細胞が、産生した目的のタンパク質を細胞外又は外部媒体中に送達することを意味する。
【0044】
「目的の組換えタンパク質」は、細胞によって発現される任意のタンパク質であってもよく、上記細胞は、上記細胞内に上記タンパク質をコードする異種又は組換えポリヌクレオチド配列が存在することによって特徴付けられる。
【0045】
特に、上記組換えポリヌクレオチド配列に含まれるコード配列は、細胞内の相同性コード配列と同一であってもよいが、細胞内の相同性配列に対する他の差異が、組換えポリヌクレオチド配列内、例えばエンハンサー、プロモーター、又は他のこのような領域等のポリヌクレオチド配列の調節領域に、存在することが好ましい。
【0046】
また、組換えポリヌクレオチド配列は、発現系として使用される真核細胞に対して異種の及び/又は外来性のコード配列を含んでいてもよい。一実施形態では、ポリシストロニック発現系を採用してもよく、好ましくは、ポリシストロニック発現系が、配列内リボソーム進入部位(IRES)又は2Aペプチドを用いたベクターを含んでいてもよい。
【0047】
このようなエレメントは、Yeo JHM,et al.Methods Mol Biol.2018;1827:335-349.doi:10.1007/978-1-4939-8648-4;Cruz TA et al.Biotechnol Lett 42,2511-2522(2020).https://doi.org/10.1007/s10529-020-02952-8、又はChng J et al.MAbs.2015;7(2):403-412.doi:10.1080/19420862.2015.1008351において例示的に記載されているが、当技術分野においても、また当業者にも周知である。
【0048】
本明細書で用いる「人為的に」及び「人為的に同時発現させる」という用語は、未改変の真核細胞又は発現系では自然に起こらない同時発現タンパク質の発現、特にその増加又は向上した発現として理解されるとみなされる。
【0049】
したがって、本発明による同時発現タンパク質の人為的な同時発現によって、天然の又は未改変の真核細胞における上記タンパク質レベルと比較して、真核細胞内でより高いレベルの上記タンパク質が得られることが好ましい。このため、目的の分泌組換えタンパク質とは異なる同時発現タンパク質の天然の細胞発現が、人為的な同時発現とは独立して、やはり上記細胞内で生じ得る。
【0050】
本明細書で用いる「同時発現された」又は「同時発現」とは、2つ(又はそれ以上)の異なる遺伝子、特に2つ以上の異なる組換え遺伝子の、同時の発現として定義される。目的の同時発現タンパク質は、細胞内で一過的に、恒常的に、及び/又は誘導的に/条件的に発現されてもよく、好ましくは、同時発現タンパク質は恒常的に発現される。
【0051】
本発明によれば、同時発現タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、又は同時発現タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0052】
本発明によれば、同時発現タンパク質は、ヒトにおけるVigilin又はHDLBPと呼ばれるタンパク質に対して相同性のタンパク質であってもよい。本発明の一実施形態では、同時発現タンパク質は、発現系として用いた真核細胞と同じ種の各Vigilin/HDLBP相同体であるか、又は各Vigilin/HDLBP相同体のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質である。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、タンパク質配列は、本明細書に開示される参照タンパク質配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%同一であるタンパク質配列からなるか、又は該タンパク質配列を含む同時発現タンパク質として本発明の一部を構成する。
【0054】
2つの配列間の同一性パーセントの決定は、Karlin及びAltschulの数学的アルゴリズムを使用することにより、本発明に従って達成される(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:5873-5877)。このようなアルゴリズムは、AltschulらのBLASTN及びBLASTPプログラムのベースとなっている(J.Mol.Biol.(1990)215:403-410)。BLASTヌクレオチド検索はBLASTNプログラムを用いて行われる。比較目的でギャップ有りアラインメントを得るために、Altschulらにより記載されるGapped BLASTが利用される(Nucleic Acids Res.(1997)25:3389-3402)。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラムのデフォルトパラメーターが使用される。
【0055】
本発明の特定の一実施形態によれば、Vigilin/HDLBP相同体の個別化された配列に対する所定の同一性パーセントによって上で定義した本発明の一部を構成するタンパク質配列は、各Vigilin/HDLBP相同体の機能を維持するものである。
【0056】
一実施形態では、例えば本開示に従って測定した場合に、同一細胞において同時発現された際に目的の分泌組換えタンパク質の産生を増加させることが可能なタンパク質配列のみが包含される。
【0057】
一実施形態では、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号1のタンパク質配列であってよい。別の実施形態では、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号2のタンパク質配列であってよい。さらに別の実施形態では、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号3のタンパク質配列であってよい。
【0058】
一実施形態では、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号4のタンパク質配列であってよい。一実施形態では、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号5のタンパク質配列であってよい。一実施形態では、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号6のタンパク質配列であってよい。一実施形態では、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号7のタンパク質配列であってよい。特定の実施形態では、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、本発明の方法で使用される発現系又は真核細胞の種に対応する。
【0059】
したがって、一実施形態では、ヒト細胞、好ましくはHEK293細胞、その誘導体、又は他のヒト由来の細胞株を使用する場合、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号1、配列番号2又は配列番号3のタンパク質配列であってよい。
【0060】
異なる実施形態では、昆虫細胞、好ましくはSf-9細胞、その誘導体、又は他の昆虫由来の細胞株を使用する場合、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号4のタンパク質配列であってよい。
【0061】
別の実施形態では、マウス、ラット又はハムスター細胞、好ましくはCHO細胞、BHK-21細胞、C127細胞、SP2/0細胞、YB2/0細胞、又はNS0細胞を使用する場合、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号5又は6のタンパク質配列であってよい。
【0062】
一実施形態では、サル細胞、好ましくはVero細胞を使用する場合、同時発現タンパク質のタンパク質配列は、配列番号7のタンパク質配列であってよい。
【0063】
異なる種におけるVigilin/HDLPBPの実質的な相同性を考慮すると、任意の哺乳動物由来の真核細胞において配列番号1、2、3、5、6及び7のタンパク質配列を有するタンパク質のいずれかを使用することが好ましい場合もある。
【0064】
好ましい一実施形態では、同時発現タンパク質は、本明細書に開示されるVigilin/HDLPBP相同体配列のいずれかからなり、より好ましくは、同時発現タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0065】
以下に、特定のVigilin/HDLBP相同体のアミノ酸配列を共通の1文字コードで示す。
【0066】
配列番号1(ヒトアイソフォームa)
>NP_001307894 HDLBP(Homo sapiens)Isoform a
【0067】
【0068】
配列番号2(ヒトアイソフォームb)
>NP_001230829 HDLBP(Homo sapiens)Isoform b
【0069】
【0070】
配列番号3(ヒトアイソフォームc)
>NP_001307896 HDLBP(Homo sapiens)Isoform c
【0071】
【0072】
配列番号4(キイロショウジョウバエ(D.melanogaster)由来Dp1)
>NP_995886.1 Dodeca-satellite-binding protein 1,isoform A[Drosophila melanogaster]
【0073】
【0074】
配列番号5(ハツカネズミ(M.musculus)由来Vigilin)
>NP_598569.1 vigilin[Mus musculus]
【0075】
【0076】
配列番号6(チャイニーズハムスター(C.griseus)由来Vigilin)
>XP_027253465.1 vigilin[Cricetulus griseus]
【0077】
【0078】
配列番号7(ミドリザル(C.sabaeus)由来Vigilin)
>XP_037856519.1 vigilin isoform X1[Chlorocebus sabaeus]
【0079】
【0080】
本発明によれば、目的の分泌組換えタンパク質は、分泌経路に対して標的化された任意のタンパク質であってよい。一実施形態では、目的の分泌組換えタンパク質は、治療用途に好適なタンパク質性化合物である。特定の実施形態では、分泌組換えタンパク質は、治療用抗体等の抗体、その抗原結合フラグメント、IFN-β等のサイトカイン、インスリン等のホルモン、又はGnRH類似体等のホルモン類似体からなる群より選択される。
【0081】
本明細書で用いる「サイトカイン」は、インターフェロン、インターロイキン、コロニー刺激因子、腫瘍壊死因子、及びケモカイン等の全てのクラスのサイトカインを含む。
【0082】
インターフェロンの非限定的な例としては、例えば、IFN-α(IFN-α-2a及びIFN-α-2b)、IFN-β(IFN-β-1a及びIFN-β-1b)、並びにIFN-γが挙げられる。インターロイキンの非限定的な例としては、例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-16、IL-18、及びIL-23が挙げられる。コロニー刺激因子の非限定的な例としては、例えば、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、及びM-CSF(マクロファージコロニー刺激因子)が挙げられる。腫瘍壊死因子の非限定的な例としては、例えば、TNF-α及びTNF-βが挙げられる。
【0083】
ホルモンの非限定的な例としては、ペプチドホルモン(タンパク質ホルモン)及び糖タンパク質ホルモンが挙げられる。
【0084】
ペプチドホルモンとしては、アディポネクチン、アディウレチン(Adiuretin)(バソプレシン、ADH)、アドレノメデュリン、アグーチ関連ペプチド(AGRP)、アンジオテンシンII(AII)、抗ミュラー菅ホルモン(AMH)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ボンベシン、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、カルシトニン(CT)、コレシストキニン(CCK)、CRH、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、エンテログルカゴン(GLI)、エリスロポエチン(EPO)、FGF19、FGF21、FGF23、ガストリン、グレリン、GHRH、胃抑制ペプチド(GIP)、グルカゴン、GnRH、ヘプシジン、HGH(GH、STH)、恒常性胸腺ホルモン(HTH)、IGF 1、IGF 2、インヒビン、インスリン、レプチン、MCH、メラトニン、モチリン、神経ペプチドY(NPY)、ニューロテンシン、副甲状腺ホルモン(PTH)、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)、胎盤成長ホルモン(hGH-V)、オメンチン、オステオカルシン、オキシトシン、膵臓ポリペプチド(PP)、ペプチドYY(PYY)、プロラクチン(PRL)、プロオピオメラノコルチン誘導体(α-MSH、β-MSH、γ-MSH、CLIP、エンドルフィン、エンケファリン、コルチコトロピン(ACTH)、β-リポトロピン等)、リラキシン、レジスチン、セクレチン、ソマトスタチン、サブスタンスP、チモシン(チモシンα-1及びチモシンβ-4)、チムリン、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、バスピン、及びビスファチンが挙げられる。
【0085】
糖タンパク質ホルモンとしては、例えば、FSH、HCG(β-HCG)、LH、サイロスティムリン(TSH 2)、及びTSH(TSH 1)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本明細書において、「ホルモン類似体」という用語は、対応するホルモンと同様の化学(「類似体」)構造を有し、よって、対応する受容体に結合して対応するホルモンと同じ効果を達成することができる物質として理解されるとみなされる。ホルモン類似体の非限定的な例としては、例えば、GnRH類似体(ゴナドトロピン放出ホルモン)が挙げられる。
【0087】
本発明の範囲内で使用される目的の分泌組換えタンパク質の特定の一例として、エリスロポエチンと抗体のFc(フラグメント結晶化可能)ドメインとの融合タンパク質であるEPO-Fcが挙げられる。そのため、EPO-Fcは、サイトカインや、免疫グロブリンベースの治療薬又は抗体薬物複合体の発現のための代表例である。
【0088】
治療用免疫グロブリン、サイトカイン等の目的のタンパク質の発現及び分泌に対する本発明の効果を評価するために、まずは細胞にHDLBP過剰発現コンストラクトをトランスフェクトした。
【0089】
次の工程で、HDLBP過剰発現細胞に、EPO-Fc WTコンストラクト(EPO-Fc WTをコードするヌクレオチド配列については配列番号8)又はEPO-Fc Optコンストラクト(ここでは、配列は、Leu、Ser及びProコドンをよりCUリッチにすることによってコドン最適化されている。この特定の配列では、16個のProコドン、20個のLeuコドン、及び7個のSerコドンがそれに応じて最適化されている。EPO-Fc Optをコードするヌクレオチド配列については配列番号9)のいずれかをさらにトランスフェクトした。これらの細胞を樹立するための戦略を
図5に図示する。
【0090】
以下に、EPO-Fc WTコンストラクト及びEPO-Fc Optコンストラクトのヌクレオチド配列を共通の1文字コードで示すが、ここでは、最適化されたコドンを認識することができる。
【0091】
配列番号8(EPO-Fc WTコンストラクト)
【0092】
【0093】
配列番号9(EPO-Fc Optコンストラクト)
【0094】
【0095】
EPO-Fcの発現量の分析により、EPO-Fc WTとともにHDLBPを過剰発現させると、HDLBPを過剰発現しないコントロールと比べて75%を超える、タンパク質の発現及び分泌の増加が既に得られることが示されている(
図6Bの左側部分を参照)。
【0096】
驚くほどに、より多数のCUリッチなコドンを有するコドン最適化バージョンのEPO-Fcを使用すると、HDLBP過剰発現がない場合でも、約115%のタンパク質の発現及び分泌の増加が既に得られる。この増加は、細胞において自然に存在するHDLBPに対して著しい効果を有するコドン最適化のみによって既にもたらされると考えられる。
【0097】
そして、コドン最適化とHDLBP過剰発現との組合せにより、HDLBPを過剰発現せず、コドン最適化コンストラクトを使用しないコントロールと比べて290%を超える増加が得られる(
図6Bの右側部分を参照)。
【0098】
翻訳を伴うタンパク質の産生には、必然的に産生細胞又は細胞株の提供が必要となる。原則として、組換え特定タンパク質の人為的な発現に使用できる全ての細胞株が、この目的のために好適である。本発明の一実施形態では、細胞は真核細胞である。
【0099】
真核細胞としては、ハムスター細胞株(CHO及びその誘導体)、マウス細胞株(C127、NS0、SP2/0、YB2/0、XB2/09、及びそれら全ての誘導体等)、又はヒト細胞株(HEK293及びその誘導体、HT-1080、PER.C6、もしくはHuh-7等)等が挙げられるが、これらに限定されない。また、Vero細胞及びその誘導体等のサル由来の細胞株、又はSF-9細胞及びその誘導体等の昆虫由来の細胞株も含まれる。
【0100】
本明細書で用いる「誘導体」とは、それらから誘導されたか、又は改変もしくはさらなる開発によりそれらから出現した全ての子孫細胞株として理解されるべきである。
【0101】
好ましい一実施形態では、目的の分泌組換えタンパク質は、一過的に、恒常的に、及び/又は誘導的に/条件的に発現される。
【0102】
本明細書で用いる「一過的に発現される」とは、一定の期間及び規定された継続時間に限定される発現として理解されるべきである。例えば、一過性発現は、核酸をコードするmRNA等のRNA又はコード核酸を含むベクターにより生じさせることができ、該ベクターは、細胞内に導入されて特定の期間維持される。
【0103】
一方、「恒常的に発現される」とは、タンパク質の発現が一定であるか、不変であるか、又は連続的であることを意味する。これは、例えば発現させるタンパク質をコードする核酸を細胞のゲノムDNAに挿入することによって、得ることができる。
【0104】
本明細書で用いる「誘導的に/条件的に発現される」とは、発現が条件的及び/又は活性化依存的であるとして理解されるべきである。例えば、このような誘導性発現は、細胞培地に添加される物質によって惹起することができる。誘導性発現を、本明細書で定義する一過性発現又は恒常的発現と組合せることができることが当業者には明らかである。
【0105】
別の好ましい実施形態では、細胞は、目的の分泌及び/又は同時発現組換えタンパク質をコードする人為的な組換えポリヌクレオチド配列を含み、好ましくは、細胞は、該目的の分泌及び/又は同時発現組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列を含む別個の組換えポリヌクレオチド配列、発現カセット又はベクターを含む。
【0106】
これによれば、さらなる好ましい実施形態では、目的の分泌組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列は、コード配列内に組込まれた最適化されたCUリッチな同義コドンを含む。最適化されたCUリッチな同義コドンの非限定的な好ましい例としては、例えば、Leu:CUG→CUU、CUC→CUU;Pro:CCG→CCU、CCA→CCU、CCC→CCU、Ser:AGU→UCU、UCG→UCU、UCA→UCUが挙げられる。
【0107】
実証できたように、本発明の文脈内での目的の遺伝子のコドン最適化により、HDLBPを同時発現させると目的の分泌タンパク質の発現のより一層顕著な増加が得られる(
図4及び
図6を参照)。
【0108】
組換えポリヌクレオチド配列がDNA配列である場合、その配列は、転写されたmRNA配列内で最適化されたCUリッチな同義コドンに転写される組込まれたコドンを含む。
【0109】
CUリッチな配列は、各種タンパク質の結合能力に影響を及ぼすことが当技術分野において知られている。好ましい一実施形態では、目的のタンパク質のコード配列内にCUリッチな同義コドンを組込むと、HDLBPとのmRNA相互作用が増加し、さらには、本発明に従ってその翻訳及び産生を増加させるように機能し得る。
【0110】
上述のとおり、細胞は、産生する目的のタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列を取込む必要がある。これによれば、より好ましい実施形態では、組換えポリヌクレオチド配列はmRNA配列である。
【0111】
これに関連して、別の好ましい実施形態では、上記方法は、タンパク質発現を改善するためのプラットフォームとして機能し得る(
図1も参照)。この点について、本明細書では2つの戦略が想定される。第一に、目的の特定の分泌タンパク質の発現のために樹立細胞株を、上記細胞内でHDLBPの過剰発現又は強制発現を引起こすポリヌクレオチド配列を導入することにより改変することで、樹立細胞株又は親細胞株と比較して、目的のタンパク質の発現の増加を得てもよい。
【0112】
第二に、HDLBPを人為的に同時発現及び過剰発現するように改変された標準的な真核細胞株を、目的の分泌組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の導入のために使用してもよい。上記細胞株により、標準的な又は未改変のHDLBP発現を有する他の細胞株と比較して、分泌タンパク質の発現レベルの増加が得られることになる。
【0113】
いずれの戦略によっても、高度な柔軟性、及び所望の目的の分泌タンパク質への適応が可能になる。
【0114】
別の好ましい実施形態では、上記方法はインビトロで実施される。本明細書で用いる「インビトロで実施される」とは、上記方法が、生きているヒト又は動物生物体外で行われるとして理解されるべきである。好ましくは、上記方法は、細胞培養系において実施される。
【0115】
本発明の第一の態様の一実施形態では、細胞は、フィトヘマグルチニン、テストステロンC、β-エストラジオール、スペルミジン、又はコレステロール、好ましくはフィトヘマグルチニン又はスペルミジンで処理される。このような処理は、未処理コントロールと比較して、目的のタンパク質の発現及び分泌を最大250%までさらに増加させることが可能である(
図7参照)。
【0116】
特定の一実施形態では、細胞は、フィトヘマグルチニン、好ましくは1μg/ml~1mg/ml、より好ましくは5μg/ml~500μg/ml、さらにより好ましくは8μg/ml~200μg/mlのフィトヘマグルチニンで処理される。
【0117】
別の特定の実施形態では、細胞は、0.2~10mMのスペルミジン、好ましくは0.5~5mM、より好ましくは0.8~2mMのスペルミジンで処理される。
【0118】
これらの物質による細胞のさらなる処理によって、さらに96%(1mMスペルミジンを使用)、又は95%及び最大250%(それぞれ10μg/ml又は100μg/mlのフィトヘマグルチニンを使用)のタンパク質分泌の増加を得ることができる(
図7参照)。このような増加は、HDLBP過剰発現細胞系においても目的のタンパク質の発現及び分泌に影響を及ぼすと考えられる。
【0119】
本発明の第二の態様では、目的の分泌組換えタンパク質を産生するように改変され、上記目的の分泌組換えタンパク質とは異なるタンパク質を人為的に同時発現する真核細胞であって、この同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の相同性を有するか、又はこの同時発現タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、真核細胞が、本明細書において提供される。
【0120】
一実施形態では、上記真核細胞は、上記目的の分泌組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列を含み、好ましくは、上記細胞は、上記目的の分泌組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列を含む非ゲノム組換えポリヌクレオチド配列、発現カセット又はベクターを含む。
【0121】
特定の実施形態では、上記真核細胞における上記目的の分泌組換えタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド配列は、コード配列内に組込まれたCUリッチな同義コドンを含む。
【0122】
本発明の一実施形態では、上記組換えポリヌクレオチド配列はmRNA配列である。
【0123】
本発明に係る真核細胞は、CHO細胞、BHK-21細胞、HEK293細胞、C127、Sp2/0、YB2/0、SF-9細胞、NS0細胞、Vero細胞、及びそれらの任意の誘導体からなる群より選択されてもよい。
【0124】
本発明の真核細胞の一実施形態では、上記目的の分泌組換えタンパク質は、タンパク質ベースの治療に好適であり、好ましくは、上記分泌組換えタンパク質は、治療用抗体等の抗体、その抗原結合フラグメント、ナノボディ、抗体薬物複合体、組換え融合タンパク質、エクソソーム、IFN-β等のサイトカイン、インスリン等のホルモン、又はGnRH類似体等のホルモン類似体からなる群より選択される。
【0125】
本発明の第三の態様では、目的の分泌組換えタンパク質をインビトロで産生する方法における本発明の第二の態様に係る真核細胞の使用が提供される。
【0126】
本明細書に開示及び記載される本発明の全ての実施形態は、当業者が技術的な意味を有さないと考えない限り、任意の組合せで組合せることが可能であるとみなされる。
【0127】
次に、本発明を個々の実施例によってさらに説明するが、これらの実施例は例示を目的とし、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0128】
先の知見に基づき、本発明者らは、ER関連翻訳及び分泌におけるHDLBPの機能を調査した。このため、まずは、2種類のCRISPR/Cas9 HDLBPノックアウト(KO)細胞株を生成することによって、HDLBPの非存在下での活性翻訳のプロセスを研究した。
【0129】
Edit-R CRISPR-Cas9 Gene Engineeringキット(Dharmacon)を製造業者の指示書に従って使用して、HEK293及びA549 HDLBPノックアウト細胞株を作製した。簡潔に説明すると、合成tracrRNA(U-002000-05)、hCMV-PuroR-Cas9(U-005100-120)及び予め設計したHDLBP crRNA(ガイド1(CR-019956-01-0005)もしくはガイド2(CR-019956-04-0005)のどちらか)、又は非標的コントロール(U-007501-05)のトランスフェクションを、12ウェルプレートにおいてDharmaFECT Duoトランスフェクション試薬(Dharmacon、T2010-01)を用いて実施した。
【0130】
2日後、細胞を10cmディッシュに再播種し、ピューロマイシン(HEK293細胞については2μg/ml、A549細胞については1μg/ml)で処理した。生存コロニーを選択し、ウエスタン分析を行った(例えば、A549 KO細胞株については
図3Aを参照)。
【0131】
HEK293 Flp-In T-REx(HEK293)(Thermo Fisher Scientific)、HEK293安定細胞株、及びA549細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS、Sigma-Aldrich)及び1%L-グルタミン(200mM、Thermo Fisher Scientific)を添加した標準ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Thermo Fisher Scientific)において培養した。
【0132】
HEK293 HDLBPノックアウト細胞は明らかな増殖欠陥を示さず、ERの電子顕微鏡イメージングでは形態変化は見られなかった(データは示さず)。HDLBPが存在しない場合、概して、膜結合mRNAによってコードされるタンパク質のタンパク質合成の減少が生じ、減少の程度は、このようなmRNAへのHDLBP架橋のレベルに依存していた(データは示さず)。
【0133】
したがって、HDLBPは、その標的mRNAの効率的なタンパク質合成に必要であることを立証することができた。
【0134】
HDLBPがある一定のタンパク質の分泌に影響を与えているかどうかを理解するために、レポータータンパク質として分泌型ガウシアルシフェラーゼ(Gluc)及びアルカリホスファターゼ(SEAP)を使用し、WT(野生型)条件及びOE(過剰発現)条件でHEK293細胞において発現させて、培地中の酵素活性を定量した。
【0135】
1μg/mlのドキシサイクリンを培地に添加し、16時間インキュベートすることによって、安定細胞株の誘導を達成した。
【0136】
予想通り、親WT細胞を比較すると、ドキシサイクリンで誘導されていても誘導されていなくても、SEAP及びガウシアルシフェラーゼレポータータンパク質の分泌の変化は極めて小さいことが示された(
図2を参照)。
【0137】
対照的に、piggybacをトランスフェクトしたHEK293細胞におけるドキシサイクリン誘導によるHDLBPの誘導性過剰発現により、増殖培地中のSEAP及びガウシアルシフェラーゼがそれぞれ約1.8倍及び1.4倍増加した(
図2)。
【0138】
HDLBPノックアウト細胞株では、Gluc活性及びSEAP活性は、HDLBP WTと比較して20~40%と著しく減少したため、HDLBPの欠乏により2つのレポータータンパク質の分泌が低下することが示された(
図3BにA549細胞におけるSEAP測定について例示)。
【0139】
HDLBPの欠乏により分泌が低下したことから、HDLBP過剰発現の影響も試験した。この目的のために、ドキシサイクリン誘導性HDLBPを持つpiggybacトランスポゾンを用いて、A549細胞でHDLBPを安定的に過剰発現させた。
【0140】
このように、直接的な比較によって、A549細胞におけるHDLBPの過剰発現によりSEAP分泌の約2倍の増加が得られることが実証できた一方で、A549細胞におけるHDLBPのノックアウトにより分泌が約30%低下したため、HDLBP発現レベルがタンパク質分泌の程度に直接影響を与えることが確認された(
図3Bを参照)。
【0141】
これらの知見に基づき、本発明者らは、治療用タンパク質であるEPO-Fcの分泌におけるHDLBPの機能を調査した。CHO細胞に、piggyback転位により誘導性HLDBPコンストラクトを安定的にトランスフェクトした。これらのHDLBP過剰発現CHO細胞に、誘導性EPO-Fc発現又はコドン最適化された誘導性EPO-Fc opt発現を可能にするコンストラクトをさらに安定的にトランスフェクトした。親CHO細胞に、誘導性EPO-Fc発現又はコドン最適化された誘導性EPO-Fc opt発現を可能にするコンストラクトを安定的にトランスフェクトして、EPO-Fc及びEPO-Fc optの分泌に対するHDLBP発現の効果を調査した(
図5)。
【0142】
それぞれのCHO細胞株におけるHDLBP及びEPO-Fc又はEPO-Fc optの細胞内発現を、ドキシサイクリンによる誘導を24時間行った後に抗HDLBP抗体及び抗Fc抗体を用いてウエスタン分析により調査した。ウエスタン分析では、抗GAPDH抗体及びポンソー染色を用いてタンパク質サンプルの同等のローディングを制御した(
図6A)。
【0143】
EPO-Fc又はEPO-Fc opt遺伝子のみを発現するコントロールCHO細胞(コントロール)と比較して、細胞培地中のEPO-Fcの産生/分泌に対するHDLBP過剰発現(HDLBP OE)の効果を決定するために、細胞培地中のEPO-Fc量を、抗Fc抗体を用いたELISAアッセイにより測定した。分泌されたEPO-Fcの相対量は、EPO-Fcタンパク質量をコントロール細胞に対して標準化することによって決定した(
図6B)。HDLBPの過剰発現により、EPO-Fc分泌は75%増加した。興味深いことに、コドン最適化により、最適化されていないEPO-Fcコンストラクトを発現する親コントロール細胞と比較して、HDLBPの過剰発現無しでは115%、HDLBP過剰発現有りでは290%増加した。
【0144】
EPO-Fc発現に対する天然化合物の効果を調査するために、EPO-Fc発現コンストラクトを安定的にトランスフェクトしたCHO細胞を、示した各濃度のフィトヘマグルチニン、テストステロンC、β-エストラジオール、スペルミジン、又はコレステロールで24時間処理した。EPO-Fcの発現は、天然化合物の添加とともにドキシサイクリンの添加によって誘導した。
【0145】
それぞれのCHO細胞株におけるHDLBP及びEPO-Fcの細胞内発現を、化合物処理及びドキシサイクリンによる誘導を24時間行った後に抗HDLBP抗体及び抗Fc抗体を用いてウエスタン分析により調査した。ウエスタン分析では、抗GAPDH抗体及びポンソー染色を用いてタンパク質サンプルの同等のローディングを制御した(
図7A)。
【0146】
未処理EPO-Fc発現CHO細胞(コントロール)と比較して、細胞培地中のEPO-Fcの産生/分泌に対する天然化合物の効果を決定するために、細胞培地中のEPO-Fc量を、抗Fc抗体を用いたELISAアッセイにより測定した。処理細胞から分泌されたEPO-Fcの相対量は、EPO-Fcタンパク質量を未処理コントロール細胞に対して標準化することによって決定した(
図7B)。興味深いことに、フィトヘマグルチニン及びスペルミジンによる処理により、EPO-Fc分泌がそれぞれ250%及び96%増加した。
【0147】
まとめると、これらの結果は、HDLBPが真核生物発現系において分泌タンパク質の分泌の程度に直接影響を与えることを実証している。さらには、真核細胞におけるHDLBPの過剰発現/強制発現により、組換え分泌タンパク質の産生の著しい増加が得られることを示すことができた。
【配列表】
【国際調査報告】