(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】DNA収量の向上が可能な新規ヌクレオチド複合体
(51)【国際特許分類】
C12P 19/34 20060101AFI20240829BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
C12P19/34 A
C12N15/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509327
(86)(22)【出願日】2022-08-16
(85)【翻訳文提出日】2024-04-09
(86)【国際出願番号】 GB2022052132
(87)【国際公開番号】W WO2023021286
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517006588
【氏名又は名称】タッチライト・アイピー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】キシュ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ロスウェル,ポール
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064CA21
4B064CC05
4B064CC06
4B064CC24
4B064CD12
4B064CD15
4B064DA01
4B064DA13
(57)【要約】
本発明は、DNAの酵素的生成を増強する新規ヌクレオチド複合体に関する。ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で二価カチオンを含むが、一価イオン(任意の溶媒由来の水素またはヒドロニウムイオン以外)は最小限である。ヌクレオチド複合体は、好ましくは大規模または工業規模でのデオキシリボ核酸(DNA)の合成、特にDNAの無細胞酵素合成に望ましい特性を有する。さらに、本発明は、前記ヌクレオチド複合体を調製するための改善された製法を含む。より高い濃度においてDNA合成を加速させる点で固有の特性を有するさらなる複合体が開示され、これらの複合体はまた、双性イオン分子を含有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で存在する二価カチオンと会合しており、任意選択で、ヌクレオチド1つ当たり4個以下の双性イオン性分子の量で存在する双性イオン性分子とさらに会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体。
【請求項2】
溶液中に、任意選択で水中に、存在する、請求項1に記載のヌクレオチド複合体。
【請求項3】
(i)二価カチオンが、カルシウム、マグネシウム、またはマンガンのうちのいずれか1つまたは複数から好ましくは選択される二価金属カチオンである、
(ii)存在する場合、双性イオン性分子が、ヒスチジン、リジン、アルギニン、またはジメチルスルホキソニウム-(イソブタノイル)メチリドのうちのいずれか1つまたは複数から好ましくは選択されるアミノ酸またはイリドである、
(iii)ヌクレオチド複合体が、ヌクレオチド1つ当たり0.5個未満の一価カチオンを含む、および/あるいは
(iv)ヌクレオチド複合体と会合している追加のイオンの濃度が、ヌクレオチド複合体の濃度の5%、4%、3%、2%、もしくは1%未満であるか、または完全に存在しない、
請求項1または2に記載のヌクレオチド複合体。
【請求項4】
(i)ヌクレオチド1つ当たり1個のマグネシウムイオンと会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体、
(ii)ヌクレオチド1つ当たり1個のマグネシウムイオンおよび少なくとも1個のヒスチジン分子と会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体、または
(iii)ヌクレオチド1つ当たりのジメチルスルホキソニウム-(イソブタノイル)メチリド分子1個当たり1個のマグネシウムイオンおよび少なくとも1個と会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のヌクレオチド複合体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のヌクレオチド複合体から本質的になるヌクレオチド複合体。
【請求項6】
デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)である、請求項1から5のいずれか一項に記載のヌクレオチド複合体。
【請求項7】
溶液中でのDNAの酵素合成のための無細胞製法であって、請求項1から6のいずれか一項に記載のヌクレオチド複合体を取得するステップと、ヌクレオチジルトランスフェラーゼを添加するステップとを含む無細胞製法。
【請求項8】
前記ヌクレオチド複合体が、40mM~160mM、任意選択で50~150mMまたは60~140mMの濃度で取得される、請求項7に記載の無細胞製法。
【請求項9】
ヌクレオチド複合体の濃度が、DNAの合成全体にわたって、40mM~160mM、任意選択で50~150mMまたは60~140mM、100mM、110mM、120mM、130mM、または140mMの濃度に維持される、請求項7または8に記載の無細胞製法。
【請求項10】
(a)鋳型核酸、
(b)プライマー、
(c)プライマーゼ、
(d)変性剤、例えば水酸化ナトリウムもしくは水酸化アンモニウム、
(e)緩衝剤、例えば緩衝塩、
(f)ピロホスファターゼ、および/または
(g)マグネシウム塩もしくはマンガン塩
のうちのいずれか1つまたは複数を含むがこれらに限定されないさらなる成分が無細胞製法に添加される、請求項7から9のいずれか一項に記載の無細胞製法。
【請求項11】
マグネシウム塩またはマンガン塩がヌクレオチジルトランスフェラーゼの補因子として、マグネシウムおよび/またはマンガンの合計対ヌクレオチドの比が2:1を超えないように、反応混合物に添加される、請求項10に記載の無細胞製法。
【請求項12】
前記ヌクレオチジルトランスフェラーゼが、DNAポリメラーゼ、好ましくは鎖置換型DNAポリメラーゼであり、前記合成が等温DNA合成である、請求項7から11のいずれか一項に記載の無細胞製法。
【請求項13】
40~55時間の間に少なくとも15g/LのDNAを酵素的に製造するための無細胞製法であって、ヌクレオチジルトランスフェラーゼと、約1個のマグネシウムイオンまたはマンガンイオン、および任意選択でヒスチジン、リジン、アルギニン、またはジメチルスルホキソニウム-(イソブタノイル)メチリドである少なくとも1個の双性イオン性分子と会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体との使用を含む無細胞製法。
【請求項14】
任意選択で緩衝剤を含有しない水中で実行される、請求項7から13のいずれか一項に記載の無細胞製法。
【請求項15】
ヌクレオチド複合体の調製のための製法であって、
(i)多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む出発ヌクレオチド複合体を用意するステップであって、カチオンの多原子部分が揮発可能である、ステップと、
(ii)熱、真空、および/またはpHの変化のうちのいずれか1つまたは複数を出発ヌクレオチド複合体に適用して、ある割合の多原子部分が蒸発することを可能にするステップと、
(iii)ステップ(ii)の前、間、または後に、出発ヌクレオチド複合体を、第2のヌクレオチド複合体と混合するステップであって、前記第2のヌクレオチド複合体が二価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む、ステップと
を含む製法。
【請求項16】
前記出発ヌクレオチド複合体が、ヌクレオチド1つ当たり0.2~4個の間の多原子一価カチオンの比で存在する一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む、請求項15に記載の製法。
【請求項17】
前記第2のヌクレオチド複合体が、ヌクレオチド1つ当たり0.5~4個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む、請求項15または16に記載の製法。
【請求項18】
(iv)ステップ(ii)の前、間、または後に、出発ヌクレオチド混合物を双性イオン性分子と混合するステップ
を含む、請求項15から17のいずれか一項に記載の製法。
【請求項19】
前記好適な条件が熱および/または真空であり、任意選択で、これらの条件がステップ(ii)において適用される、請求項15から18のいずれか一項に記載の製法。
【請求項20】
蒸発する多原子部分の前記割合が、出発物質に存在する多原子部分の少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%である、請求項15から19のいずれか一項に記載の製法。
【請求項21】
実質的に全ての多原子部分が蒸発する、請求項15から19のいずれか一項に記載の製法。
【請求項22】
多原子一価カチオンが塩基の共役酸であり、塩基が揮発性多原子部分である、請求項15から21のいずれか一項に記載の製法。
【請求項23】
多原子一価カチオンの脱プロトン化形態が揮発性多原子部分であり、好ましくは、結果として生じる揮発性多原子部分が標準気圧において100℃未満の沸点を有する、請求項15から22のいずれか一項に記載の製法。
【請求項24】
前記多原子一価カチオンが、アンモニウムイオンまたはそのイオン誘導体である、請求項15から23のいずれか一項に記載の製法。
【請求項25】
調製されたヌクレオチド複合体が溶媒、好ましくは水に再懸濁される、請求項15から24のいずれか一項に記載の製法。
【請求項26】
ヌクレオチド複合体が緩衝剤の非存在下で再懸濁可能である、請求項25に記載の製法。
【請求項27】
ヌクレオチド複合体が粉末である、請求項15から26のいずれか一項に記載の製法。
【請求項28】
前記双性イオン性分子が、ヒスチジン、リジン、アルギニン、またはジメチルスルホキソニウム-(イソブタノイル)メチリドのうちのいずれか1つまたは複数である、請求項18から24のいずれか一項に記載の製法。
【請求項29】
二価カチオンが、カルシウム、マグネシウム、またはマンガンである、請求項15から28のいずれか一項に記載の製法。
【請求項30】
ステップ(ii)が、複合体の温度が40℃超、50℃超、60℃超、70℃超、80℃超、90℃超、または100℃超となるように、ヌクレオチド複合体に熱を適用することを含む、請求項15から29のいずれか一項に記載の製法。
【請求項31】
ステップ(ii)が、10
5Pa~100Paの間の圧力において作られる真空を適用することを含む、請求項15から30のいずれか一項に記載の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAの酵素的生成を増強する新規ヌクレオチド複合体に関する。ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で存在する二価カチオンを含むが、一価イオン(任意の溶媒由来の水素またはヒドロニウムイオン以外)は最小限である。ヌクレオチド複合体は、収量の向上および/または効率性の向上を伴う、好ましくは大規模または工業規模でのデオキシリボ核酸(DNA)の合成、特にDNAの無細胞酵素合成に望ましい特性を有する。さらに、本発明は、前記ヌクレオチド複合体を調製するための改善された製法(process)を含む。製法は、固有のヌクレオチド複合体をもたらし、複合体は、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で二価カチオンのみと対イオン結合(counter-ion)する。出発物質由来の一価カチオンを提供する実質的に全ての部分は除去される。より高い濃度においてDNA合成を加速させる点で固有の特性を有するさらなる複合体が開示され、これらの複合体はまた、双性イオン性分子を含有する。
【背景技術】
【0002】
デオキシリボ核酸(DNA)の増幅は、細胞ベースの製法の使用によって、例えば、発酵槽において増幅される、DNAを増殖させる細菌の培養によって実行され得る。ポリメラーゼ連鎖反応および鎖置換反応を含む、出発鋳型からのDNAの増幅のための無細胞酵素法もまた記載されている。
【0003】
かつて、試験規模でのDNAの増幅は、マイクロタイタープレートと、必要に応じて反応成分を添加するロボット制御されたピペットとに基づく装置を使用して実施されていた。そのような装置および製法は、試験目的での少ない分量のDNAを製造するのには好適であるが、他の目的には十分な分量をもたらさない。特定の核酸およびタンパク質の大規模増幅および製造は、大半の場合、細胞ベースの製法によって実行されている。そのような方法は、一般に、非常に多くの量の産物の生成に効果的であるが、構築するのにコストがかかる。さらに、臨床および治療目的においては、無細胞環境においてDNAを合成することが好ましい。発酵などの当技術分野において慣例的な方法を使用するプラスミドの増幅に関して、商業的な規模での運用は、2.6g/lを製造することが可能であり得る。これは、当業者によって「工業規模」であると考えられる。
【0004】
今日まで、ポリメラーゼなどの生体触媒は、in vitroにおけるDNA産物の工業規模製造には慣例的に利用されておらず、反応はマイクロリットル規模の容量に大きく限定されている。DNAの酵素合成を使用する製法をスケールアップすることは、特にDNA産物の収量が期待外れであり、問題があることが証明されている。
【0005】
本出願人らは、これまで、市販のヌクレオチドを使用してスケールアップすることができるか取り組んできた。参照によって本明細書に組み込まれるWO2016/034849に記載されているように、ヌクレオチドが枯渇したかまたは産物の濃度が閾値に達した場合に新鮮なヌクレオチドを反応混合物に添加するステップを伴う新たな製法が開発された。しかしながら、より高い収量でさえ達成可能であることが立証され、本発明者らは、二価カチオンと一価カチオンとの混合物と会合しているヌクレオチド複合体を開発した(PCT/GB2021/050366)。本出願に含まれるのは、このヌクレオチド複合体のさらなる改良である。
【0006】
酵素的DNA合成は、一般に、ヌクレオチドの新生核酸鎖への付加を触媒するためにポリメラーゼまたはポリメラーゼ様酵素の使用を必要とする。一般に、反応において増幅される鋳型DNAが必要とされる。しかしながら、組込みがde novoに生じる、鋳型なしでのDNA合成を実施することも可能である。
【0007】
核酸の高度に荷電されている性質のために、核酸は、配列の区域間での静電反発を軽減する、電荷の大半を中和する対イオンによって常に囲まれており、その結果、核酸は細胞中で整った緻密な構造に凝縮され得るということに留意することは重要である。核酸の構成単位であるヌクレオチドは、イオン種でもあり、電気的中性を維持するために正の対イオンの存在を必要とする。したがって、全てではないが大半のヌクレオチドは、正の対イオンとの塩として供給される。塩由来の正の対イオンが存在しない場合、ヌクレオチドは、電気的中性が水素イオンによって維持される遊離酸形態として現れる。ヌクレオチドは4の負電荷を有するため、塩は、典型的には、2個の二価カチオンまたは4個の一価カチオンと共に調製される。ヌクレオチド(塩または酸)は、水または他の溶媒に分散されるとすぐに、溶液中でアニオン性およびカチオン性成分に解離し得ることは当業者に明らかだろう。
【0008】
一般に、ヌクレオチドは、DNA合成、増幅、または配列決定の場合、リチウム塩またはナトリウム塩のいずれかとして供給される。リチウム塩は、ナトリウム塩よりも大きな溶解度、また、凍結および解凍サイクルの繰返しに対する安定性をもたらし、リチウムの様々な微生物に対する静菌活性のために滅菌状態のままであり、より高い確実性および長期の貯蔵寿命をもたらすため、リチウムが一般に好ましい。これらの塩の使用は非常に慣例的であるため、当業者がヌクレオチドと共に存在する対イオンを問題にすることはないと考えられる。実際、WO2016/034849の実施例において使用された全てのヌクレオチドは、ヌクレオチドのリチウム塩であり、その理由は、ヌクレオチドのリチウム塩が当業者に対して優れた選択肢として販売されているためである。マグネシウムイオンなどの二価カチオンのみの塩として供給されるヌクレオチドは、二価カチオンが酵素的DNA合成中に補因子として必要とされるため、非常に望ましい。残念なことに、マグネシウム塩として提供されるヌクレオチドは高度に不溶性であり、このことは、そのようなヌクレオチドの使用を限定する。代わりに、マグネシウムは、通例、一価カチオン種と対イオン結合しているヌクレオチドと併用されて、塩化物塩として別個に反応に供給される。
【0009】
本発明者らは、これまでに、参照によって本明細書に組み込まれるWO2020/035698およびWO2021/161051(PCT/GB2021/050366)に詳述されているように、ヌクレオチド塩に対イオンとして存在するカチオンの種が高収量酵素的DNA合成反応の収量、効率性、および正確性に重要であることを見出した。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、粉末化され得るかまたは溶液中に存在し得る新たなファミリーの新規ヌクレオチド複合体を開発した。これらのヌクレオチド複合体は重要な特徴を共有し、少なくとも1個の二価カチオンが、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で存在する。非常に単純に言えば、新規ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で存在する二価カチオンのみを含み、複合体と対イオン結合する他のカチオンは存在しない。当業者であれば、任意の溶媒中に潜在的に存在するイオン(例えば、水中に存在する水素およびヒドロニウムイオン)には、カチオンのこの定義が適用されないことを理解するだろう。この最も単純なヌクレオチド複合体に、双性イオン性分子などのさらなる実体が付加されてもよい。二価カチオンと双性イオンとの混合物を含むヌクレオチド複合体は、本発明者らによって、大きな収量のDNAを非常に迅速に作製する上で特定の有用性を有することが実証された。
【0011】
本発明者らは、今回、二価カチオンと一価カチオンとの混合物が効果的に対イオン結合しているヌクレオチド複合体から一価カチオン由来の多原子部分を除去する製法を使用することによって、またはこの製法を、一価カチオンのみと会合しているヌクレオチド複合体から一価実体を除去することによって開始し、次いで二価カチオンのみと会合しているヌクレオチド複合体を組み合わせることによって、DNA合成反応のための忍容可能な最大出発ヌクレオチド濃度をさらに一層増加させる手段を開発した。製法の出発物質は、事実上、一価カチオンが多原子であり、多原子部分が真空などの好適な条件下で揮発性となる、WO2021/161051(PCT/GB2021/050366)に記載されているような混合対イオンヌクレオチド複合体であり得る。
【0012】
出発物質はまた、例えば4個のアンモニウムイオンを含む、WO2020/035698に記載されているような単一対イオンヌクレオチド複合体であってもよい。この出発物質を用いる場合、一価実体が除去された後に、二価対イオン結合ヌクレオチド複合体が添加され得る。一価カチオンは多原子であり、多原子部分は真空などの好適な条件下で揮発性となり得る。
【0013】
いずれの方法も、一価カチオン由来の多原子部分の除去の前、間、または後の、双性イオン性分子の付加をさらに可能にし得る。
本発明の製法を使用して、本発明者らは、乾燥ヌクレオチド複合体を、緩衝剤を使用せずに溶媒に再懸濁させる手段により、ヌクレオチド複合体から「一価カチオン」をさらに除去することが可能であることを見出した。最も注目すべきことに、マグネシウムなどの二価カチオンとのヌクレオチド塩は可溶性が不十分であることはすでに公知であるため、このことは完全に予期せぬことであった。最終的な効果は、存在する一価カチオンの量を、WO2021/161051(PCT/GB2021/050366)に記載されているよりもさらに減少させることである。一価カチオンは、大きな濃度ではDNA合成に阻害性であると本発明者らによって仮定されているため、このことは重要である。一価カチオンによるこの阻害は、カチオンの供給源(ヌクレオチド、緩衝成分など)にかかわらず生じ得る。さらに、対イオンとしての二価カチオンもまたヌクレオチドに提供することによって、特にマグネシウム、マンガン、またはカルシウムの場合、これはまた、合成酵素によって必要とされる補因子を効果的に提供することができる。したがって、さらなるまたは追加の二価カチオンを提供する必要はない。マグネシウムまたはマンガンは、通例、塩(1個または複数個のアニオンに2の負電荷を含む)として反応に添加されるため、それらをヌクレオチドの対イオンとして代わりに含めることは、存在するアニオンの量を本質的に減少させることになる。そのような減少は、合成反応の最後に、さらなるプロセシングのためのDNAを調製するステップを少なくすることを可能にし得るため、下流のDNAプロセシング酵素に有益となり得る。
【0014】
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、双性イオンなどのさらなる分子を本発明の新規ヌクレオチド複合体に付加することが、DNA合成に関して変更された特性を有するさらなる新たなヌクレオチド複合体をもたらすことを実施例において示した。これらの複合体は、特に100mM超の開始濃度において、DNA合成の速度を加速させるのに特に有益であると考えられる。
【0015】
実施例において示されるデータは、新規ヌクレオチド複合体が、特にはるかにより高い濃度のヌクレオチド実体(とりわけ60mM超、およびさらには100mM超)において、これまでに調製されたヌクレオチド複合体よりも収量および効率性の点で優れていることを実証する。注目すべきことに、DNAは、多い分量のRNA、特にmRNAを製造するための鋳型として使用され、したがって、商業的な規模でDNAを生成することは、例えばRNAワクチンの大量生産に重要である。したがって、工業規模でのクリーンかつ効率的なDNA製造の必要性は、現在、指数関数的に増大している。本発明を使用して生成されたDNAは、SARS-CoV-2 mRNAワクチンなどを製造するための鋳型として使用され得る。DNAは、レンチウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなどのウイルス粒子の調製において使用され得る。
【0016】
〔概要〕
本発明は、新規ヌクレオチド複合体であって、その全てがヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で存在する二価カチオンの存在を必要とする、新規ヌクレオチド複合体に関する。ヌクレオチドと「対イオン結合」するためのさらなるカチオンは事実上存在せず、供給もされない。
【0017】
これらの二価カチオンは、好ましくは二価金属カチオン、任意選択で、マグネシウム、マンガン、またはカルシウムのうちの1つまたは複数である。二価カチオンは、単一イオン(例えばマグネシウム)であっても、イオンの混合物(例えばマグネシウムおよびカルシウム)であってもよい。
【0018】
最も単純なヌクレオチド複合体では、新規ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で存在する二価カチオンを含み、複合体と対イオン結合するための他のカチオンは実質的に存在しない。
【0019】
当業者であれば、任意の溶媒中に天然に存在するイオン(例えば、水中に存在する水素およびヒドロニウムイオン)には、カチオンのこの定義が適用されないことを理解するだろう。
【0020】
この最も単純なヌクレオチド複合体に、双性イオン性分子などのさらなる実体が付加されてもよい。二価カチオンと双性イオンとの混合物を含むヌクレオチド複合体は、本発明者らによって、大量のDNAを非常に迅速に作製する特定の有用性を有することが実証された。
【0021】
本発明は、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で存在する二価カチオンおよびヌクレオチド1つ当たり0~4個の双性イオン性分子の比で存在する双性イオン性分子と会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体に関する。したがって、双性イオン性分子の存在は任意選択である。
【0022】
本発明は、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の二価カチオンの比で存在する二価カチオンと会合しており、任意選択で、ヌクレオチド1つ当たり4個以下の双性イオン性分子の量で存在する双性イオン性分子とさらに会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体に関する。
【0023】
本発明は、新規ヌクレオチド複合体の調製のための少なくとも1つの製法であって、これまでに記載されているヌクレオチド複合体(例えばWO2021/161051におけるもの)を乾燥して、出発物質に含まれる一価カチオンの揮発性塩基を効果的にさらに減少させる製法に関する。そのような製法は、出発物質のために選択された一価カチオンが多原子であり、真空などの好適な条件下で揮発性となる場合に行われる。乾燥または蒸発ステップ後のヌクレオチド複合体は、部分的に乾燥されていても完全に乾燥されていてもよく、例えば大半のまたは全ての溶媒が除去されていてもよい。したがって、出発ヌクレオチド複合体は溶液中に存在し得ることが理解されるだろう。この製法のための出発物質は、単純に、二価カチオンと会合しているヌクレオチド複合体と、多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチド複合体との混合物であり得る。
【0024】
本発明は、前記二価カチオンと会合しているヌクレオチドと前記多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドとを任意の適切な時点において混合することを可能にし、この時点は、多原子部分が除去される前であっても、除去の間であっても、除去の後であってもよい。多原子部分の除去は、それを好適な条件下で揮発性にすることによって実行される。
【0025】
本発明のプロセスは、特に出発ヌクレオチド複合体または第2のヌクレオチド複合体が溶液中に存在する場合、「乾燥」または「蒸発」と考えることができる。
乾燥プロセスおよびその後の再懸濁は、現行の方法と比較して増強したDNAの生成、すなわち、現行の方法の下で可能であると考えられているよりも、増加したかもしくはより多い収量、より効率的な製法、より少ない追加の成分を有する環境において酵素的DNA合成を実施できることを可能にし得る。これは、生産性を有意に高めると同時に、DNAを、特に大規模に合成するコストを削減する。特に、そのようなヌクレオチド複合体は、ヌクレオチドの特に高い開始濃度、例えば60mMまたはさらには100mM以上における使用に好適であることが示される。
【0026】
工業規模での高収量を達成するためには、高濃度のDNAの「構成単位」、すなわちヌクレオチド(とりわけdNTP)を利用することが必要である。一般に、本発明者らは、反応条件のパラメータを変化させるだけでは、酵素反応からの収量を大きく増加させて、それを工業目的に好適にすることはできないことを見出している。
【0027】
ヌクレオチドの酵素反応への提供が塩としてのものであることを考慮すると、ヌクレオチドの分量を増加させることは、反応混合物のイオン強度の有意な増加をもたらす。イオン強度は、存在する全てのイオンの濃度の関数である。DNA合成反応を触媒する酵素はタンパク質であり、イオン強度の増加はタンパク質のアンフォールディング、したがって酵素活性の不活化をもたらし得るということは重要な検討事項である。
【0028】
さらに、塩の存在は反応混合物のpHにも影響を及ぼし得ると考えることができる。成分イオンの酸-塩基特性に応じて、塩は水に溶解して、中性溶液(強酸/強塩基)、塩基性溶液(弱酸/強塩基)または酸性溶液(強酸/弱塩基)をもたらし得る。したがって、反応混合物に対するヌクレオチド塩または他の任意の塩(一例として塩化マグネシウム)の濃度を増加させることによって、これはまた、pHに影響を及ぼし、さらに、存在する任意の緩衝剤のpH安定化性能を制限し得る。したがって、より高い濃度のヌクレオチド塩の添加は、例えば、最適以下のpH制御を生じる場合があり、これは、とりわけDNA収量を低下させるかまたはDNA合成の正確性に悪影響を及ぼすという点で、酵素的DNA合成に影響を与える。したがって、酵素的DNA製造の「スケールアップ」に関して、多くの考慮されるべき事項が存在し、本発明者らは、DNA合成反応に悪影響を及ぼすことなく収量を増加させる手段を考案した。
【0029】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、ヌクレオチド複合体のリン酸基が溶液中である程度の緩衝能を提供し得ると仮定する。さらに、DNA合成反応が進行するにつれて、反応は、ヌクレオチド複合体からのリン酸の放出により自己緩衝し得る。行われた測定は、ヌクレオチド複合体が調製された後にpHは低下するが、揮発性部分が除去された際に起こり得るヌクレオチドのプロトン化を考慮すると、予期されたほどは低下しなかったことを示す。
【0030】
したがって、本発明は、これまでに記載されているヌクレオチド複合体を任意選択で溶媒が残らない点まで乾燥プロセスに供することによる、これまでに記載されているヌクレオチド複合体をさらに改良するための製法に関する。本発明のヌクレオチド複合体の調製のための出発物質は、混合対イオンヌクレオチド複合体、例えばWO2021/161051(PCT/GB2021/050366)に記載されているものであってもよい。そのようなものには、二価カチオンおよび真空などの好適な条件下で揮発性となる多原子一価カチオンの存在が含まれ得る。出発物質は、単一対イオンヌクレオチド複合体またはWO2020/035698に記載されている塩であってもよい。
【0031】
本発明は、ヌクレオチド複合体の調製のための製法であって、熱および/または真空を出発ヌクレオチド複合体に適用するステップを含み、前記出発ヌクレオチド複合体が多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含み、多原子部分が熱および/または真空下で揮発性となる、製法に関する。
【0032】
本発明は、ヌクレオチド複合体の調製のための製法であって、出発ヌクレオチド複合体に存在する多原子部分を蒸発させるステップを含み、前記出発ヌクレオチド複合体が多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む、製法に関した。
【0033】
本発明の任意の態様による出発ヌクレオチド複合体はまた、二価カチオンを含み得る。あるいは、二価カチオンと会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体が、製法が実施される前または後に出発物質に添加され得る。
【0034】
あるいは、多原子部分は「揮発可能(volatisable)」と記載され得る。
代替的に示される場合、本発明は、
ヌクレオチド複合体の調製のための製法であって、
(i)多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む出発ヌクレオチド複合体を用意するステップであって、カチオンの多原子部分が揮発可能である、ステップと、
(ii)熱、真空、および/またはpHの変化のうちのいずれか1つまたは複数を出発ヌクレオチド複合体に適用して、ある割合の多原子部分が蒸発することを可能にするステップと、
(iii)ステップ(ii)の前、間、または後に、出発ヌクレオチド複合体を、第2のヌクレオチド複合体と混合するステップであって、前記第2のヌクレオチド複合体が二価カチオンと会合している、ステップと
を含む製法を提供する。
【0035】
多原子部分は揮発可能である。このことは、それらが好適な条件下では揮発性となり得るが、一般的に、正常/標準条件下では揮発性ではないことを意味する。好適な条件は、熱、真空、および/またはヌクレオチド複合体のpHの変更の適用であり得る。pHは、pHを上昇または減少させるように、好ましくはpHを上昇させるように変化し得る。
【0036】
前記方法は、
(iv)ステップ(ii)の前、間、または後に、出発ヌクレオチド混合物を双性イオン性分子と混合するステップ
をさらに含み得る。
【0037】
出発ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド1つ当たり0.2~4個の間の多原子一価カチオンの比、任意選択で、0.5~3個の間、1~2個の間、またはこれらの間の任意の比で存在する多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドであり得る。カチオンは、単一種の多原子一価カチオンであり得るか、または異なる種の混合物であってもよい。
【0038】
第2のヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド1つ当たり0.2~4個の間の二価カチオンの比、任意選択で、0.5~3個の間、1~2個の間、またはこれらの間の任意の比で存在する二価カチオンと会合しているヌクレオチドであり得る。カチオンは、単一種の二価カチオンであり得るか、または異なる種の混合物であってもよい。
【0039】
本発明は、出発ヌクレオチド複合体に存在する多原子部分を蒸発させることによる、ヌクレオチド複合体の調製のための製法であって、前記出発ヌクレオチド複合体が、ヌクレオチド1つ当たり0.2~2個の間の二価カチオンおよび0.2~2.5個の間の多原子一価イオンと会合している、製法に関する。
【0040】
新規ヌクレオチド複合体は、本発明の任意の方法に従って調製されたものとして使用され得る。あるいは、新規ヌクレオチド複合体は、多原子部分を蒸発させるプロセスの前または後に、少なくとも1個の双性イオン性分子と共に提供され得る。さらに、本発明は、ヌクレオチジルトランスフェラーゼ、例えば、いずれも任意選択で操作されて特定の特性を付与することができるポリメラーゼ酵素または他のDNAを合成する酵素と、本発明に従って調製されたヌクレオチド複合体のいずれかとを使用する酵素的DNA合成に関する。
【0041】
本発明は、使用されるヌクレオチジルトランスフェラーゼに応じて、核酸鋳型からのDNA合成または鋳型を伴わないde novo DNA合成に関し得る。
本発明は、DNAを合成する等温方法であって、増幅中の加熱および冷却により循環される温度を必要としないが、存在する場合には、熱の使用が鋳型を最初に変性させてもよい、等温方法に関し得る。本発明は、好ましくは、他の酵素に依存しないかまたは他の酵素を活用して、鎖置換複製を介して核酸鋳型を複製することができるポリメラーゼ酵素の使用に関する。
【0042】
本発明の製法は、本明細書では対イオンと称される場合もある会合イオンとの複合体の形態のヌクレオチドである、出発物質(出発ヌクレオチド複合体)および任意選択で第2のヌクレオチド複合体の使用を伴う。ヌクレオチド複合体は、概して、溶液中に存在し、したがって会合対イオンは、溶液に分散していてもしていなくてもよい。それらの調製物の性質により、対イオンは、ヌクレオチドの間で事実上「共有」される場合があり、結果として、整数ではない、対イオンのヌクレオチドに対する比が存在する。ヌクレオチドを含有する溶液において、イオン種は二価対イオンおよび多原子一価対イオンであり、結果として、各ヌクレオチドの部分的または完全な荷電バランスは、一価カチオンと二価カチオンとの混合物によってもたらされる。複合体が電気的に中性となるかまたは正味の負電荷を有し得ることが条件となり得る。出発ヌクレオチド複合体は、溶液において供給されても、固体ヌクレオチド複合体を溶液に添加することによって溶液に分散されていてもよい。
【0043】
あるいは、出発複合体は、プロセス中に二価カチオンのみと会合しているヌクレオチドと混合される、一価カチオンのみと会合しているヌクレオチドであってもよい。それらの調製物の性質により、対イオンは、ヌクレオチドの間で事実上「共有」される場合があり、結果として、整数ではない、対イオンのヌクレオチドに対する比が存在する。
【0044】
出発ヌクレオチド複合体は、溶液中に存在し、少なくとも2種の異なる正の対イオン(カチオン)と会合しているヌクレオチド(本明細書ではヌクレオチドイオンまたはイオン種としても記載される)を含む。これらの対イオンのうちの1種は、多原子一価カチオンである、すなわち、1個の電子の喪失により単一正電荷を有することが好ましい。一価カチオンの多原子部分は、真空下などの好適な条件下で揮発性になり得るべきである。それは揮発可能であるかまたは揮発させることができる(volatizable)。正常温度および圧力(NTPは20℃および101,325Pa(1atm)である)において、多原子一価カチオンの多原子部分は、好ましくは実質的に揮発性ではないこと、ならびに好適な条件が、上記部分を揮発性にするために適用されることが理解されるだろう。出発ヌクレオチド複合体におけるこれらの対イオンのうちの1種は、二価カチオンである、すなわち、2個の電子の喪失により二重正電荷を有することが好ましい。疑義を避けるために記すと、これらの二価対イオンは、本発明の製法中に喪失することも、除去されることも、蒸発することもない。あるいは、二価対イオンは、二価カチオンと会合しているヌクレオチド複合体の形態での添加によって製法中に提供されてもよい。
【0045】
出発ヌクレオチドは、多原子一価および二価カチオンである提供される混合対イオンとの複合体として提供され得る。出発ヌクレオチドは、多原子一価カチオンである提供される対イオンとの複合体として提供され得る。
【0046】
本発明を使用してプロセシングするために、多原子一価カチオンは真空などの好適な条件下で揮発性となることが可能であり得ることが理解されるだろう。したがって、リチウム、ナトリウム、およびカリウムなどの単純な金属一価カチオンは、多原子でもなければ、真空などの好適な条件下で揮発性となることもできないため、出発物質における対イオンとしての使用に好適ではない。元来の製造製法における夾雑物により、ヌクレオチド複合体に存在する非常に小さな割合の一価対イオンは、そのような金属イオンであり得る。
【0047】
したがって、出発ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチドと、会合一価多原子カチオンと、任意選択で二価カチオンとから本質的になり得る。少量の一価金属イオン夾雑物が存在し得るが、本発明において重要ではない濃度である。重要ではない量とは、ヌクレオチド複合体の濃度の5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満の濃度であり得る。一部の実施形態では、出発ヌクレオチド複合体は溶液中に存在し、追加の実体は、多原子部分を蒸発もしくは揮発させること(volatising)を補助するため、または形成される新規ヌクレオチド複合体にさらなる安定性をもたらすために添加され得る。そのような実体は、概して、金属イオンを含まないが、代わりに多原子であり、好ましくは双性イオン性分子を含む。そのような実体は、好ましくは、多原子部分と同じ条件下では揮発可能ではない。
【0048】
ヌクレオチドは4の負電荷を有するため、一般に4個の一価カチオンによって4の正電荷を提供して電気的中性を維持することが通例であり、大半の商業的なヌクレオチド塩はこれに基づいて取得されることが理解されるだろう。出発物質として、ヌクレオチド複合体が溶液中に存在する場合、4未満の正電荷が、対イオンとして使用される多原子一価および/または二価カチオンによって供給される可能性がある。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、残りの電荷は、必要とされる場合、ヒドロニウムイオンなどの実体によって提供されて、電気的中性に達し得ると仮定する。双性イオンなどの追加の実体が存在する場合、これらは、本発明者らによって、複合体を安定化させるのに役立つと考えられる。ヌクレオチド複合体が本発明の製法に供されると、ある割合の、または実質的に全ての多原子部分は除去されるかまたは蒸発する。ある割合とは、50%、55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の除去または蒸発であり得る(出発ヌクレオチド複合体と比較した場合)。好ましくは100%の部分が除去されるかまたは蒸発する。ヌクレオチド1つ当たり0.2個未満、任意選択で0.1個未満の多原子一価カチオンが残る、好ましくは多原子一価カチオンが残らないことが好ましい。
【0049】
多原子一価カチオンの多原子部分は、揮発可能であり、任意の好適な条件下で揮発性となり得る。多原子部分は、好ましくは、正常温度および圧力下では揮発性とならない。多原子部分は、本明細書において、揮発性となると記載される。そのような部分を記載する代替的な手段は、蒸発可能、気化できる、気化可能、または揮発可能である。揮発性は、物質の蒸気圧によって示される。より高い蒸気圧を有する物質は、好適な条件下において、より低い蒸気圧を有する物質よりも容易に気化し得る。所与の温度および圧力において、高い蒸気圧を有する物質は、蒸気として存在する可能性がより高く、低い蒸気圧を有する物質は、液体または固体である可能性がより高い。好適な条件は、物質を気化させるように選択される。
【0050】
部分を揮発性とするのに好適な条件は、温度(例えば熱の適用)または圧力(例えば真空の適用)である。一部の多原子実体は、pHの変化、例えばpHを上昇させることによって(例えば塩基性アミノ酸を含めることによって)揮発性となり得る。多原子部分を揮発性とするのに最も好適な条件は、熱および/または真空である。
【0051】
多原子一価カチオンは真空下で揮発性となり得る。カチオンが真空下で揮発性となる温度は、任意の好適な温度であり得、それゆえ、溶液中の複合体は室温(およそ20℃)であっても、冷却または加熱されてもよい。実施例において使用されるように、熱は、多原子一価カチオンを揮発性とすることを補助するために適用され得る。熱は、20~80℃、25~75℃、30~70℃、35~65℃の範囲、またはこれらの間の任意の好適な温度、例えば、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、もしくは80℃で適用され得る。
【0052】
真空は、大気圧未満のガス圧力を有する領域を作り出すことができる。したがって、ガス圧力は、105パスカル(Pa)~10-10Pa未満の範囲の任意の適切な圧力であり得る。理想的には、真空は、105パスカル(Pa)~100Paの圧力において作られ得る。標準気圧は101,325Paである。真空は、真空ポンプの使用を含む任意の適切な技法を使用して、または高速で流れる液体の使用などの圧力を低下させる他の任意の方法によって作られ得る。
【0053】
多原子一価カチオンは、熱を受けて揮発性となり得る。熱は、40~100℃、45~95℃、50~90℃、55~85℃の範囲、またはこれらの間の任意の好適な温度、例えば、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100℃で適用され得る。
【0054】
本明細書に記載される一価イオンは、多原子であり、それゆえ、2個以上の原子からなるイオンである。それらの原子のうちの1種は、窒素、例えばプロトン化窒素原子であり得る。例示的なイオンはアンモニウムイオン(NH4
+)である。
【0055】
多原子一価カチオンは、塩基の共役酸として記述することができ、ここで、塩基は揮発性部分である。例えば、真空下のアンモニウムに関して:
【0056】
【0057】
この例において、アンモニウムイオンはアンモニアの共役酸である(いずれも*で示されている)。
したがって、多原子一価カチオンは、塩基の共役酸として記述することができ、ここで、塩基は揮発性部分である。一般に、塩基とは、共役酸がプロトンを供与した後に形成される種である。一価カチオンは、代替的に、ブレンステッド-ローリー酸として記述することができ、ここで、共役塩基は揮発性である。プロトンは、本発明の製法においてヌクレオチド実体に供与されると仮定される。したがって、製法において蒸発するかまたは除去される部分は、本明細書では「多原子部分」と称される塩基である。
【0058】
例示的な共役塩基および酸としては、エチルアミン塩基およびエチルアンモニウム共役酸、メチルアミン塩基およびメチルアンモニウム共役酸が挙げられる。両者はアンモニウムの誘導体であり、プロトンを喪失して揮発性共役塩基(多原子部分)を形成する。
【0059】
したがって、多原子一価カチオンは、窒素原子、好ましくはプロトン化窒素原子を含み得る。
多原子一価カチオンは、アンモニウムまたはその誘導体であり得る。アンモニウムの誘導体もまた包含され、これらの非限定的かつ例示的なリストとしては、モノアルキルアンモニウムまたはジアルキルアンモニウムが挙げられる。当業者は、本発明における使用に適切な単一正電荷を有するアンモニウムの誘導体を認識するだろう。
【0060】
あるいは、多原子一価カチオンは、有機カチオンとして記述することができる。通例、アンモニウムは無機イオンとして記述されるが、その誘導体の多くは有機分子であり、アンモニウムイオンは、有機分子であるその誘導体と同じグループに含めることができる。有機窒素は、有機溶媒、ペプチド、およびタンパク質を含む多くの形態において生じる。
【0061】
したがって、新規ヌクレオチド複合体を調製する製法であって、ヌクレオチド複合体を乾燥させるステップを含み、前記複合体が、ヌクレオチドと、ヌクレオチド1つ当たり、0.2~2個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンと、0.2~2.5個の間の多原子一価カチオンの比で存在する多原子一価カチオンとを含む、製法が提供される。乾燥させるステップは、好ましくは、熱および/または真空下で実施され、一価カチオンの多原子部分は、これらの条件下で揮発性となる。好ましくは、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1個の間の二価カチオンが存在する。
【0062】
したがって、新規ヌクレオチド複合体を調製する製法であって、出発ヌクレオチド複合体から多原子部分を除去するステップを含み、前記出発ヌクレオチド複合体が、ヌクレオチドと、ヌクレオチド1つ当たり0.2~4個の間の多原子一価カチオンの比で存在する多原子一価カチオンとを含む、製法もまた提供される。出発ヌクレオチド複合体は、第2のヌクレオチド複合体と混合されてもよく、前記第2のヌクレオチド複合体は、ヌクレオチドと、ヌクレオチド1つ当たり0.4~2個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンとを含む。この混合ステップは、多原子部分の除去の前であっても後であってもよい。
【0063】
したがって、新規ヌクレオチド複合体を調製する製法であって、出発ヌクレオチド複合体から多原子部分を除去するステップを含み、前記出発複合体が、ヌクレオチドと、ヌクレオチド1つ当たり、0.2~2個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンと、0.2~2.5個の間の多原子一価カチオンの比で存在する多原子一価カチオンとを含む、製法もまた提供される。
【0064】
除去は、好ましくは、変更されたpH、熱、および/または真空下で実施され、一価カチオンの多原子部分は、これらの条件下で揮発性となる。
本発明の任意の製法によれば、揮発性部分の乾燥、蒸発、または除去は、好ましくは、真空下で行われる。
【0065】
当業者であれば、出発物質として使用されるヌクレオチド複合体が、概して、それを乾燥させること、または揮発可能部分を蒸発もしくは除去することを可能にする溶液中に存在し得ることを理解するだろう。
【0066】
ヌクレオチドという用語は、本明細書において使用される場合、ヌクレオチドイオンまたはヌクレオチドイオン種として解釈されてもよく、これは、いかなる対イオンも存在しないヌクレオチド実体であることが理解されるだろう。
【0067】
さらに、
DNAの酵素合成のための無細胞製法であって、溶液中のヌクレオチド複合体を取得するステップであって、前記複合体が本明細書に記載されるいずれかの製法または方法に従って調製される、ステップと、ヌクレオチジルトランスフェラーゼを添加するステップとを含む無細胞製法が提供される。
【0068】
調製後、本発明のヌクレオチド複合体は、元来会合していた一価カチオンを実質的に含まないと考えられる。したがって、レベルは、ヌクレオチド1つ当たりに存在する0~1個の間の一価カチオン、好ましくはヌクレオチド1つ当たり0~0.5の間、任意選択でヌクレオチド1つ当たり0.2個未満の一価カチオン、例えばヌクレオチド1つ当たり0.2、0.1または0個の一価カチオンに減少すると予期される。したがって、プロトンまたはヒドロニウムイオンは、本発明の目的のための一価カチオンであるとは考えられない。
【0069】
したがって、本発明は、新規ヌクレオチド複合体を提供する。新規ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド1つ当たり、0.5~1.5個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンおよび0.5個未満の一価カチオンの比で存在する多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドである。そのような新規ヌクレオチド複合体は、水などの溶媒中に存在し得る。溶液中のヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド自体からの製造夾雑物であり得る残留金属一価カチオン以外のさらなるカチオンを実質的に含まなくてもよい。これらの好適な忍容可能なレベルは、本明細書に開示される。
【0070】
したがって、本発明は、ヌクレオチドと、ヌクレオチド1つ当たり0.5~1.5個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンと、ヌクレオチド1つ当たり0.5個未満の一価カチオンの比で存在する一価カチオンとから事実上なる新規ヌクレオチド複合体溶液を提供する。
【0071】
二価カチオンが、ヌクレオチド1つ当たり0.5~1.5、0.6~1.4、0.7~1.3、0.8~1.2、0.9~1.1個の間の比で存在するか、またはヌクレオチド1つ当たり単純に1個の二価カチオンが存在する新規ヌクレオチド複合体溶液が好ましい。
【0072】
一価カチオンが、ヌクレオチド1つ当たり0.5、0.4、0.3、0.2、0.1個未満の比で存在するか、または実際には一価カチオンが存在しない新規ヌクレオチド複合体が好ましい。
【0073】
上記のいかなる組合せも、本発明の製法を使用して実現可能である。
二価カチオンは、好ましくは、カルシウム、マグネシウム、またはマンガンである。
本発明者らは、会合二価カチオンの「電荷」がヌクレオチドの電荷とのバランスをとらない場合は、ヒドロニウムイオン(H3O+)が追加の正電荷を提供すると仮定する。したがって、本明細書に記載される全てのヌクレオチド複合体に関して、ヒドロニウムイオンが存在し得る。これらのイオンは、ヌクレオチド1つ当たり0.5~3.5個、任意選択で1~3個、任意選択で1.5~2.5個、任意選択でおよそ2個のイオンの比で存在し得る。これらは、積極的には添加されず、ヌクレオチド複合体が本発明の製法に従って調製される場合、形成される。
【0074】
本発明の製法は、出発ヌクレオチド複合体または新規ヌクレオチド複合体に1個または複数個の双性イオン性分子を添加するステップをさらに含み得る。そのような双性イオン性分子は、好ましくは、本発明の製法において使用される条件下では揮発性とならない。
【0075】
双性イオンは、正荷電基および負荷電基の両方を含有し、正味電荷は0である。一部の双性イオンは、異性化して正荷電基および負荷電基を含有しなくなることはできないが、大半は全ての電荷を喪失し完全に中性になることができ、これは、多くの場合、中性pH(pH7)においてなされるが、常にそうであるわけではない。種々のpHにおいて、双性イオン性分子は、溶液中のヒドロニウムイオンを獲得または喪失することができ、このことは、それらを帯電させ、分子を双性イオン形態ではない形態に変換する。双性イオン性分子は、負電荷がカルボン酸イオンに由来し、正電荷がアンモニウムイオンに由来するアミノ酸であり得る。双性イオン性分子は、イリドであり得る。イリドとは、形式正電荷を有するヘテロ原子(通例、窒素、リン、または硫黄)に直接結合している形式上負に帯電した原子(通例カルバニオン)を含有する中性双極性分子である。イリドは、極性である双性イオンのサブクラスであり、ここで、正電荷を有する原子と負電荷を有する原子とは一緒に、すなわちX+-Y-として結合している。アミノ酸およびイリドの両方は、本明細書において例示されるヌクレオチド複合体に付加される。
【0076】
特にアミノ酸の場合、任意の好適な鏡像異性体が選択され得る。ヒスチジンのL-鏡像異性体が本明細書において例示される。L-鏡像異性体は生物学的に一般に見られ、したがって好ましい場合がある。好ましいアミノ酸はルイス酸:塩基である。ルイス酸:塩基である双性イオンは本発明に好適であり得る。
【0077】
ヌクレオチド複合体と会合し得る双性イオンの最大数は、1つの単独の正荷電基を想定すると、4であるが、さらなる双性イオンが溶液中に存在してもよい。
したがって、本発明は、新規ヌクレオチド複合体を提供する。新規ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド1つ当たり4個以下の双性イオン性分子の量で存在する双性イオン性分子、ヌクレオチド1つ当たり0.5~1.5個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオン、および任意選択でヌクレオチド1つ当たり0.5個未満の一価カチオンで存在する一価イオンと会合しているヌクレオチドである。そのような新規ヌクレオチド複合体は、水などの溶媒中に存在し得る。溶液中のヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド自体からの製造夾雑物であり得る残留金属一価カチオン以外のさらなるまたは追加のカチオンもイオンも実質的に含まなくてもよい。
【0078】
したがって、本発明は、ヌクレオチドと、ヌクレオチド1つ当たり4個以下の双性イオン性分子の量で存在する双性イオン性分子と、ヌクレオチド1つ当たり0.5~1.5個の間の二価カチオンの量で存在する二価カチオンと、任意選択でヌクレオチド1つ当たり0.5個未満の一価カチオンの量で存在する一価カチオンとから事実上なる新規ヌクレオチド複合体溶液を提供する。
【0079】
二価カチオンが、ヌクレオチド1つ当たり0.5~1.5、0.6~1.4、0.7~1.3、0.8~1.2、0.9~1.1個の間の比で存在するか、またはヌクレオチド1つ当たり単純に1個の二価カチオンが存在する新規ヌクレオチド複合体溶液が好ましい。
【0080】
一価カチオンが、ヌクレオチド1つ当たり0.5、0.4、0.3、0.2、0.1個未満の比で存在するか、または実際には一価カチオンが存在しない新規ヌクレオチド複合体が好ましい。
【0081】
双性イオン分子が、ヌクレオチド1つ当たりに存在する0~4、0~3、0.5~2.5、1~2、または1.5個の双性イオン性分子の比で存在する新規ヌクレオチド複合体が好ましい。本明細書において使用される場合、双性イオンおよび双性イオン性は交換可能に使用される。
【0082】
上記のいかなる組合せも、本発明の製法を使用して実現可能である。
二価カチオンは、好ましくは、カルシウム、マグネシウム、もしくはマンガン、またはそれらの混合物である。
【0083】
双性イオン分子は、好ましくは、アミノ酸またはイリドであり、好ましいアミノ酸は、ヒスチジン、リジン、およびアルギニンである。
ヌクレオチド1つ当たり0.5~1.5個の間の二価金属カチオンの比で存在する二価カチオンおよびヌクレオチド1つ当たり0.5~4個の間の双性イオン分子の比で存在する双性イオン分子と会合しているヌクレオチドを含む新規ヌクレオチド複合体が提供される。
【0084】
ヌクレオチド1つ当たり0.5~1.5個の間のカルシウム、マグネシウム、および/またはマンガン、ならびにヒスチジン、リジン、アルギニン、またはジメチルスルホキソニウム-(イソブタノイル)メチリドのうちのいずれか1つまたは複数から選択される0.5~4個の間の分子と会合しているヌクレオチドを含む新規ヌクレオチド複合体が好ましい。
【0085】
上記比のいずれも、これらの新規ヌクレオチド複合体に適用可能であることが理解されるだろう。新規ヌクレオチド複合体はまた、必要とされる場合、溶媒に加えて、列挙された実体から本質的になり得る。他のイオンは、好ましくは存在しないか、または先に論じられたように非常に低いレベルで存在する(ヌクレオチド濃度の5%、4%、3%、2%、または1%未満が夾雑イオンである)。
【0086】
本発明は、DNAの酵素合成のための無細胞製法であって、本明細書に記載される新規ヌクレオチド複合体のいずれかの使用を含む無細胞製法にさらに及ぶ。
DNAの酵素合成のための無細胞製法であって、溶液中のヌクレオチド複合体を取得するステップを含み、前記複合体が、ヌクレオチジルトランスフェラーゼと組み合わされた、ヌクレオチド1つ当たり、0.2~1.5個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンおよび0~1個の間の一価カチオンの比で存在する一価カチオンと会合しているヌクレオチドである、無細胞製法。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり4個以下の双性イオン性分子の量で存在する双性イオン分子と会合していてもよい。
【0087】
ヌクレオチジルトランスフェラーゼを使用するDNAの酵素合成のための無細胞製法であって、前記酵素とヌクレオチド複合体とを組み合わせるステップを含み、前記複合体が、ヌクレオチド1つ当たり、0.2~1.5個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンおよび0~1個の間の一価カチオンの比で存在する一価カチオンと会合しているヌクレオチドである、無細胞製法。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子の比で存在する双性イオン分子と会合していてもよい。
【0088】
ヌクレオチドと、ヌクレオチド1つ当たり、0.2~1.5個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンと、0~1個の間の一価カチオンで存在する一価カチオンとを含む、溶液中の新規ヌクレオチド複合体もまた提供される。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子で存在する双性イオン分子と会合していてもよい。
【0089】
ヌクレオチドと、ヌクレオチド1つ当たり、0.2~1.5個の間の二価カチオンと、0~1個の間の一価カチオンとから本質的になる、溶液中の新規ヌクレオチド複合体もまた提供される。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子と会合していてもよい。
【0090】
ヌクレオチドという用語は、本明細書において使用される場合、ヌクレオチドイオンまたはヌクレオチドイオン種として解釈されてもよく、これは、いかなる対イオンも存在しないヌクレオチド実体であることが理解されるだろう。
【0091】
溶液において、複合体を形成するイオンは解離していてもしていなくてもよいことが理解されるだろう。
ヌクレオチド複合体に関して、本明細書において使用される一価カチオンへの言及は、通例、ヒドロニウムイオンによるプロトン化も、ヒドロニウムイオンとの会合も含まない。いずれも、存在する電荷とのバランスをとるために溶液中のヌクレオチド複合体に存在し得る。
【0092】
酵素的DNA合成は、より大きな規模でのDNAの製造のため、すなわち、実験室規模の増幅(1リットル当たりng~mgの規模)ではなく、治療または予防的使用(反応混合物1リットル当たり数グラムとして記述される)のためのものであることが好ましい。この実験室規模の増幅のスケールアップにおいて、本発明者らは、これが、より多くの基質および他の成分を提供し、収量がそれに従うことを見出すというような単純なものではないことを見出した。したがって、製法は、概して30mM以上の濃度のヌクレオチド複合体の使用を含み、前記濃度は、ヌクレオチド複合体がヌクレオチジルトランスフェラーゼと組み合わされるときに決定される。ヌクレオチド複合体と酵素との混合は、反応混合物の形成をもたらす。ヌクレオチド複合体は乾燥される(か、または揮発性多原子部分は蒸発する)ため、これは、ヌクレオチジルトランスフェラーゼを含有する溶液に単純に添加されてもよい。濃度は、製法が実施される反応混合物において決定される。したがって、ヌクレオチド複合体の濃度は、ヌクレオチド複合体が添加されるときに反応混合物において決定される。したがって、濃度は、初期濃度または製法を始めるときの濃度である。
【0093】
したがって、酵素的DNA合成のための無細胞製法であって、溶液中で少なくとも30mMの濃度のヌクレオチド複合体の使用を含み、前記複合体が本明細書に記載されるいずれかの方法に従って調製される、無細胞製法が提供される。
【0094】
任意選択で、複合体は、少なくとも40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、110mM、または120mMの濃度で存在し得る。任意選択で、複合体は、40mM~160mM、50mM~150mM、60mM~140mM、70mM~130mM、もしくは80mM~120mM、またはこれらの値の間の任意の範囲の濃度で存在する。
【0095】
理論に拘束されることを望むものではないが、本明細書に記載される方法に従って調製されたヌクレオチド複合体は、0.2~1.5個の間の二価カチオンおよび0~1個の間の一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含み、前記一価カチオンは多原子である。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子と会合していてもよい。これらの全ては、ヌクレオチド複合体に存在していると記述することができる。
【0096】
本発明の任意の態様によれば、ヌクレオチド複合体は、リチウム(ヌクレオチド濃度の1%未満の濃度)、ナトリウム(5%未満)、およびカリウム(5%未満)などのいかなる一価金属カチオンも実質的に含まない。水酸化ナトリウムなどの変性物質がDNA合成中に必要とされる場合、これは、ヌクレオチド複合体が調製されると反応混合物に添加され得る。
【0097】
したがって、DNAの酵素合成のための無細胞製法であって、少なくとも30mMの濃度の溶液中のヌクレオチド複合体を取得するステップであって、前記複合体が、ヌクレオチド1つ当たり、0.2~1.5個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンおよび0~1個の間の多原子一価カチオンの比で存在する多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む、ステップと、ヌクレオチジルトランスフェラーゼを添加するステップとを含む無細胞製法が提供される。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子の比で存在する双性イオン分子と会合していてもよい。任意選択で、複合体は、少なくとも40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、110mM、または120mMの濃度で存在し得る。任意選択で、複合体は、40mM~160mM、50mM~150mM、60mM~140mM、70mM~130mM、もしくは80mM~120mM、またはこれらの値の間の任意の範囲の濃度で存在する。
【0098】
酵素的DNA合成は、DNAを合成することができる任意の酵素、とりわけヌクレオチジルトランスフェラーゼを伴うことができ、本明細書において、DNAを合成することができる任意の酵素の定義には、ヌクレオチドを、鋳型に基づいてまたはde novoに新生ポリヌクレオチド鎖の末端に転移させることができる全ての酵素が含まれる。ヌクレオチジルトランスフェラーゼとしては、ポリメラーゼまたは改変ポリメラーゼ、例えばDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼを挙げることができる。ポリメラーゼは、ファミリーA、B、C、D、X、Y、およびRTを含む、DNAポリメラーゼの公知のファミリーのいずれに由来してもよい。ファミリーX由来のDNAポリメラーゼの一例は、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼである。
【0099】
ヌクレオチジルトランスフェラーゼは溶液中に存在してもよく、ヌクレオチド複合体は溶液中の酵素に固体調製物として、例えば凍結乾燥粉末として添加され得る。
酵素的DNA合成は、鋳型の使用を伴わずにde novoに行われてもよい。
【0100】
酵素的DNA合成は、鋳型、例えばDNA鋳型を含む核酸鋳型を伴ってもよい。
酵素的DNA合成は、本明細書に記載される成分を含む反応混合物において行われてもよい。
【0101】
言い換えれば、溶液中のDNAを合成するための無細胞製法であって、1種または複数種のヌクレオチド複合体の存在下で鋳型を少なくとも1種のヌクレオチジルトランスフェラーゼと接触させるステップを含み、前記ヌクレオチド複合体が、ヌクレオチド1つ当たり、0.2~1.5個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンおよび0~1個の間の多原子一価カチオンの比で存在する多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む、無細胞製法が提供される。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子の比で存在する双性イオン分子と会合していてもよい。任意選択で、前記ヌクレオチド複合体の濃度は、少なくとも30mM、好ましくは40mMである。任意選択で、複合体は、少なくとも40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、110mM、または120mMの濃度で存在し得る。任意選択で、複合体は、40mM~160mM、50mM~150mM、60mM~140mM、70mM~130mM、もしくは80mM~120mM、またはこれらの値の間の任意の範囲の濃度で存在する。
【0102】
換言すれば、ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチドそれ自体と共に、二価カチオンと多原子一価カチオンとの混合物を含む。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子の比で存在する双性イオン分子と会合していてもよい。したがって、DNAを合成するための無細胞製法であって、1種または複数種のヌクレオチド複合体の存在下で鋳型を少なくとも1種のヌクレオチジルトランスフェラーゼと接触させて反応混合物を形成するステップを含み、前記ヌクレオチド複合体が、少なくとも30mMの濃度で存在し、0.2~1.5個の間の二価カチオンの比で存在する二価カチオンおよび0~1個の間の一価カチオンの比で存在する一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む、無細胞製法が提供される。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子の比で存在する双性イオン分子と会合していてもよい。
【0103】
ヌクレオチドまたはヌクレオチド複合体の濃度に言及する場合、これは、DNA合成製法が開始するときのヌクレオチド(またはその複合体)の濃度、すなわちヌクレオチド(またはヌクレオチド複合体)の開始または初期濃度であることが好ましい。したがって、それは、反応混合物への添加後の濃度である。他の成分の添加は、製法中に行うことができ、そのような添加は、さらなるヌクレオチド/ヌクレオチド複合体が供給されて濃度を補充しない限り、ヌクレオチド/ヌクレオチド複合体の濃度を希釈し得るということが理解されるだろう。さらに、ヌクレオチド/ヌクレオチド複合体は、製法、すなわちDNA合成反応によって使用または消費されることになるため、ヌクレオチド/ヌクレオチド複合体の濃度は、製法が進行するにつれて低下することになる。ある特定の実施形態では、さらなるヌクレオチド/ヌクレオチド複合体を、製法が進行するにつれて添加して、酵素反応のための基質を補充してもよい。理想的には、DNA合成反応におけるヌクレオチドの濃度は、40mM~160mM、50mM~150mM、60mM~140mM、70mM~130mM、もしくは80mM~120mMの範囲、またはこれらの値の間の任意の範囲もしくは値に保持され得る。ヌクレオチド濃度の不断の維持はDNA合成反応に有益であり得る。
【0104】
本発明者らは、驚くべきことに、多原子一価カチオンと二価カチオンとの混合物を含むヌクレオチド複合体が、熱および/または真空下で乾燥され、その後再懸濁される場合、生じたヌクレオチド複合体は、ポリメラーゼを用いるDNA合成反応において使用でき、様々な濃度において、ヌクレオチドのDNAへの変換効率が一定のままであることを見出した。実施例は、これらの新規ヌクレオチドを使用した反応効率が、40mM~120mMの間の試験された濃度にかかわらず、55~65%ほどのままであることを認める。そのような効果は、他の複合体が機能するために好む特定の「ピーク」を有するということをこれまでに認めた本発明者らによって、今まで観察されていなかった。このさらなる改良は、これまでに記載されている4個の一価カチオンを有する従来のヌクレオチド塩または混合ヌクレオチド複合体と比較した改良である。120mMにおいてヌクレオチド複合体の同じ変換効率を獲得することは、効率性の喪失を伴わずにスケールアップできることをもたらすため、特に刺激的である。
【0105】
本発明者らは、特に60mM超の濃度において、本発明の新規ヌクレオチド複合体、特に1個のマグネシウムイオンを含むもの(双性イオン性分子を有しないかまたは有しない)は、ヌクレオチドアンモニウム塩(4個のアンモニウムイオン)よりも性能が優れていることを実施例においてさらに実証した。より多い収量のDNAが生じる。
【0106】
双性イオン性分子の本発明のヌクレオチド複合体への添加はDNAの生成を加速し、結果として、特に100mM超の濃度のヌクレオチド複合体においてより高い収量がより急速に達成されることが観察された。このことは、試験された両方の双性イオン性分子において観察された。実際、実施例7によれば、16g/lのDNAがわずか48時間で合成された。
【0107】
したがって、本発明は、40~55時間の間に少なくとも15g/LのDNAを酵素的に製造するための無細胞製法であって、ヌクレオチジルトランスフェラーゼと、約1個のマグネシウムイオンまたはマンガンイオン、および任意選択でヒスチジン、リジン、アルギニン、またはジメチルスルホキソニウム-(イソブタノイル)メチリドである少なくとも1個の双性イオン性分子と会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体との使用を含む無細胞製法を提供する。
【0108】
このヌクレオチド複合体の全ての成分は、これまでに記載した通りである。
本発明者らはまた、マグネシウムカチオンまたはマンガンカチオンとヌクレオチド複合体との会合が、DNAを合成するための反応混合物において追加のマグネシウムもマンガンも必要としないことを意味することを認めた。このことは、成分、したがってコストの削減という点で有益である。さらに、これは、反応混合物のイオン強度が先行技術と比較してさらに低下し得ることを意味し、本発明者らは、このことがDNA合成反応に好都合であることを見出した。そのような条件は、一本鎖DNAの生成などの様々な合成反応に理想的に適し得る。本発明者らは、今日までに行われた研究において、本明細書で初めて記載されるヌクレオチド複合体が、それらの生成が由来する親ヌクレオチド複合体よりも多くの一本鎖DNAを生成するようであると認めた。
【0109】
慣習は、例えば、マグネシウム(二価カチオン)は、ヌクレオチドとの少なくとも1:1の最小比でDNA合成反応に存在すると規定する。なぜなら、マグネシウムが一部のヌクレオチジルトランスフェラーゼ酵素の活性部位に必要とされ得るからであり、マグネシウムは、組込み前にヌクレオチドと複合体を形成する場合があり、さらに、DNA合成中に放出されるリン酸イオン種と、それ自身の塩を形成する場合がある。マグネシウムまたはマンガンをヌクレオチド複合体に含めることの利益は、これが追加のマグネシウムまたはマンガンの必要性を減少または除去することである。このことは、マグネシウムまたはマンガン対ヌクレオチドのおよそ1:1の比(または1:1未満の比)を維持することを補助し、本発明者らはこれまでに、これを大規模DNA合成反応に望ましいと同定した。DNA合成に含まれる成分を減少することはとりわけ、コストを削減するが、さらに、より高い濃度(1:1超)のマグネシウムはDNA合成の正確性の低下に関連するため、このことは重要である。一部のDNA合成酵素は、マグネシウムの代わりにカルシウムを利用し、これらとしてはDP04が挙げられる。これらの酵素に関して、カルシウムを二価イオンとして含めることは魅力的である。
【0110】
複合体においてヌクレオチドと会合している二価カチオンは、マグネシウム(Mg2+)、ベリリウム(Be2+)、カルシウム(Ca2+)、ストロンチウム(Sr2+)、マンガン(Mn2+)、または亜鉛(Zn2+)、好ましくはMg2+またはMn2+からなるリストから選択される1つまたは複数の金属を含み得る。二価金属カチオンとヌクレオチド(ヌクレオチドイオンまたはヌクレオチドイオン種)との間の比は、溶液中で約1:1であってもよいが、好ましくは0.2:1~2:1の間、任意選択で0.5:1~1.5:1である。1:1よりも高い比は、DNA合成においてある程度の不正確性を生じ得るため、1:1よりも低い比が、DNA合成において望ましく、好ましい。したがって、ヌクレオチド複合体に関する二価カチオンの提供は、追加の二価カチオンを反応混合物に添加する必要を減少または除去し得る。しかしながら、さらに必要とされる場合、これらの二価カチオンは、任意の好適な塩の形態で酵素的DNA合成に提供されてもよい。
【0111】
さらに、本明細書において本発明者らによって開発された方法は、存在する他の成分に関して広い範囲の条件で実施され得る。これらの条件は、従来の緩衝レベルから、さらなる緩衝剤が提供されないまでの範囲であり、事実上、反応を、必要とされる成分を用いて水中で実施する。緩衝剤の濃度を増加させることは、緩衝能を高めてpH制御を直接改善することができるが、化学的緩衝物質はまた、マグネシウムイオンを含む多様な金属イオンをキレートする可能性があり、最適なDNA収量に必要とされる一価および二価カチオンのバランスに不利に干渉し得る。したがって、他の必須反応成分とのバランスをとって、pHを最適なDNA生成に関して許容される範囲内に維持すると同時に、緩衝剤の濃度を考えられる最低レベルで使用することが望ましい場合がある。当業者は、本明細書において提唱される対イオンの一部がそれ自体緩衝能力を有し得るか、またはDNA合成中に放出もしくは生成される実体(例えばピロリン酸およびリン酸)もまた過剰なpH変化を緩衝するのに役立ち得ることを理解するだろう。
【0112】
必要とされる成分としては、緩衝剤の提供にかかわらず、ポリメラーゼなどのDNAを合成する酵素(ヌクレオチジルトランスフェラーゼ)、ヌクレオチド複合体、および塩として提供される二価金属カチオン、鋳型、変性剤、ピロホスファターゼ、または1種もしくは複数種のプライマー/プライマーゼから選択される、反応の条件に応じて必要とされる任意選択の追加の成分を挙げることができる。これらの成分は、反応混合物を形成し得る。したがって、その最も基本的な形態において、反応混合物は単純に、ヌクレオチジルトランスフェラーゼを加えた、調製されたヌクレオチド複合体である。余分なイオン種はDNA合成に望ましくない影響を及ぼす場合があるため、反応混合物はそのような実体を含有しないことが望ましいことが理解されるだろう。ヌクレオチド複合体に存在するイオン以外に、他のイオンが、例えば変性剤(例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム)または緩衝剤中に最小量存在し得る。選択されるヌクレオチド複合体および反応に関与する酵素に応じて、マグネシウム塩またはマンガン塩をさらに補うことが必要な場合がある。例えば反応の開始時の反応混合物における「追加のイオン」の濃度は、最小レベル、例えば、50mM未満、40mM未満、30mM未満、20mM未満、または10mM未満に保持され得ることが好ましい。そのような追加のイオンは、ヌクレオチド複合体と共に供給されたかまたは反応の経過中にそれから生じたもの以外のイオンである。
【0113】
したがって、製法、すなわち反応混合物への、混合対イオン提供が減少した複合体としてのヌクレオチドの提供は、驚くべきことにDNA収量の向上および/またはヌクレオチドのDNAへの変換効率の向上を可能にするため、有利である。これらの向上は、必要な一価カチオン単独との従来の塩として全てのヌクレオチドが供給される類似の反応混合物と比較した向上であり得る。従来使用されるヌクレオチド塩の代わりとなる新規ヌクレオチド複合体の提供は、いくつかのさらなる驚くべき利点、例えば、反応混合物における緩衝剤の濃度を、一部の例では0に低下できること、および/または通例塩として添加される、反応混合物の二価カチオン補因子、最も注目すべきはマグネシウムの追加の提供の必要性を低下、低減、もしくは完全に除去できることを有する。この塩がもはや必要とされない場合があることを考慮すると、二価カチオン塩が添加されない場合、反応混合物への会合アニオンの提供が存在しない(例えばMgCl2、したがって2個の塩化物イオンの添加が回避される)ため、本発明は、反応混合物のイオン強度を低下させる効果を有する。溶液のイオン強度は、その溶液中のイオン濃度の尺度である。イオン性化合物は、水に溶解されると、イオンに解離する。本明細書において使用される場合、測定の単位はモル濃度(mol/L)である。本発明者らは、反応混合物のイオン強度の低下は製法に有益であり得ると仮定する。ヌクレオチド実体と共に提供される一価カチオンは、高濃度では製法に阻害性である可能性があり、したがって、それらを本発明の製法に従ってさらに除去することによって、さらなる改良が可能である。代替的にまたは付加的に、標準的な製法において、マグネシウムまたはマンガンは塩として供給され、この塩由来の高濃度の会合アニオン、例えば塩化物イオンもまた、製法に阻害性であり得る。さらに、本発明を使用して生成されたDNAを操作することが望ましい場合、本発明者らは、反応混合物に導入される酵素、例えば標的配列を切断しライゲーションする酵素(DNAプロセシング酵素)は、従来のヌクレオチドおよび二価塩によりイオン強度が著しく増加した可能性がある場合、一般にDNA合成反応の最後に添加されるため、これらの酵素がより低いイオン強度の条件を好むことを確認した。したがって、そのようなDNA合成反応からの産物は、酵素的にさらにプロセシングする(例えば、RNAポリメラーゼを使用してRNAを生成するための鋳型として使用する)のに好適であり得る。
【0114】
一態様では、鋳型は、製法において酵素的DNA合成を導く。この鋳型は任意の核酸鋳型、例えばDNAまたはRNA鋳型であり得る。鋳型は、天然核酸、人工核酸、またはその2つの組合せであり得る。鋳型の増幅は、好ましくは鎖置換を介して行われる。鋳型の増幅は、好ましくは等温増幅である、すなわち、増幅を進行するために、低温と高温との間を循環する必要性は存在しない。このシナリオでは、熱は、必要とされる場合、鋳型を変性させるために開始時に使用され得るか、または鋳型は化学的手段によって変性され得る。しかしながら、鋳型が変性されると、適切な場合、任意のプライマーまたは実際にはプライマーゼ酵素を二本鎖鋳型の間に侵入させるために、温度は、鋳型および産物の変性に影響を及ぼさない温度範囲に維持され得る。等温の温度条件は、反応が、鋳型および産物が変性する点まで加熱されないことを必要とする(鋳型および産物を変性させるために熱のサイクルを必要とするPCRと比較して)。概して、そのような反応は、酵素自体の選好性に応じて、一定温度で実施される。温度は、酵素に好適な任意の温度であり得る。
【0115】
無細胞製法は、好ましくは、鎖置換複製を介した鋳型の増幅を伴う。この合成は一本鎖DNAを放出し、次に、一本鎖DNAはポリメラーゼを使用して二本鎖DNAにコピーされ得る。鎖置換という用語は、合成中に遭遇した下流DNAを置換する能力を表し、ここで、ポリメラーゼは、二本鎖DNAを開裂して新生一本鎖を伸長する。様々な程度の鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼが商業的に入手可能である。あるいは、鎖置換は、DNAポリメラーゼおよび別個のヘリカーゼを供給することによって達成され得る。複製ヘリカーゼは、二重鎖DNAを開裂し、リーディング鎖ポリメラーゼの進行を容易にし得る。
【0116】
独立して、本発明の任意の態様の任意選択の特徴は、以下の通りであり得る。鋳型は環状であり得る。DNAは、任意選択で鎖置換複製による鋳型の増幅によって合成され得る。前記DNA鋳型の鎖置換増幅は、ローリングサークル増幅(RCA)によって実行され得る。ポリメラーゼは、Phi29またはそのバリアントであり得る。DNAの増幅は、等温増幅、すなわち一定温度で行われ得る。プライマーまたはプライマーゼは、増幅を開始するために使用され得る。ニッカーゼは、二本鎖環状鋳型において「in situ」でプライマーを生成するために使用され得る。1種または複数種のプライマーはランダムプライマーであり得る。1対または1組のプライマーが使用され得る。合成されたDNAは、DNA鋳型から増幅されたDNA配列のタンデム単位を含むコンカテマーを含み得る。DNA鋳型は、閉じた直鎖状DNAであり得、好ましくは、DNA鋳型は、変性条件下でインキュベートされて、閉じた環状一本鎖DNAを形成する。
【0117】
合成され得るDNAの分量は、反応混合物1リットル当たり3g以上、とりわけ16g/l以上、好ましくは最大25g/l以上である。
本開示の方法に従って調製された新規ヌクレオチド複合体は、高い開始濃度、例えば、90mM、100mM、またはさらには120mM以上におけるDNA合成を可能にし得る。
【0118】
合成され得るDNAの量は、反応混合物に関して算出された最大収量の60%を超え得る。好ましくは、合成され得るDNAの量は、算出された最大収量の80%を超え得る。算出された最大収量は、全てのヌクレオチドが産物に組み込まれる場合の理論上の収量に基づき、これは当業者によって算出可能である。
【0119】
ヌクレオチド(またはヌクレオチド複合体)からのDNA合成の効率性は、反応の過程にわたって産物に成功裏に組み込まれる、反応混合物に供給されるヌクレオチドまたはその複合体に対する百分率として記載され得る。
【0120】
DNA合成の効率性はまた、本発明によって、より広範囲のヌクレオチド濃度にわたって維持し、DNA合成が実施可能な濃度範囲の改善をもたらし得る。
新規ヌクレオチド複合体を調製するための製法は、少なくとも1種の出発ヌクレオチド複合体を必要とする。任意の好適な数のリン酸基が必要に応じて存在し得る。しかしながら、ヌクレオチド/ヌクレオチド複合体は、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)またはその誘導体もしくは改変バージョンであることが好ましい。ヌクレオチドは、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、デオキシチミジン三リン酸(dTTP)、およびそれらの誘導体のうちの1つまたは複数である。個々の各出発ヌクレオチド複合体は、4の正電荷を提供する様々なカチオンにより荷電バランスがとられて電気的中性を維持していてもよいが、そうである必要はない。乾燥プロセスにおいて使用される出発ヌクレオチド複合体は、1個または複数個の多原子一価カチオン、すなわち多原子一価カチオンの1つまたは複数の種、および1個または複数個の二価カチオン、すなわち二価カチオンの1つまたは複数の種を含み得る。これらは溶液中で解離し得、このために、溶液中でイオンは解離し得るため、各ヌクレオチド複合体と会合しているカチオンの数は整数である必要はないことが理解されるだろう。出発ヌクレオチド複合体は、電荷が完全にバランスがとられている場合、塩であると考えられ得る。
【0121】
この出発ヌクレオチド複合体は、WO2021/161051(PCT/GB2021/050366)に記載されているようなものであってもよい。
溶液中の出発ヌクレオチド複合体は、一価カチオンの提供が減少したヌクレオチド複合体を調製するために使用される。これは、一価カチオン由来の多原子部分が揮発性となり溶液から除去されるように熱および/または真空を適用することによって達成される。それらは効果的に蒸発する。溶媒、例えば水もまた溶液から除去され得る。この、一価カチオンの提供のさらなる減少は、再可溶化のために緩衝剤を必要としない新規ヌクレオチド複合体をもたらす。
【0122】
概して、本発明者らは、2種の異なるヌクレオチド複合体(一方は二価カチオンのみを有し、他方は一価カチオンのみを有する)を一緒に混合して、本発明の方法において使用される出発ヌクレオチド複合体を調製した。あるいは、これら2種のヌクレオチド複合体は、一価実体を除去するプロセスの間または後に混合されてもよい。ヌクレオチド複合体は、それぞれ独立して、全ての負電荷がバランスがとられているわけではない複合体を含む。このことはいくつかの利点を有する。二価カチオンと複合体を形成したヌクレオチドは、低い溶解度を有し、したがって、いかなる用途においても慣例的には使用されない。マグネシウムイオンと複合体を形成したヌクレオチドには特定の問題が見られ、それらは、溶液中に存在せず、そのままの形態では使用不可能である。しかしながら、1個または複数個の一価カチオンと会合しているヌクレオチド複合体と混合した場合、混合物は可溶性であり、溶液を形成する。したがって、このことは、これまで所望されていたが加工不可能であったヌクレオチド複合体を利用する簡潔な方法をもたらす。
【0123】
多原子一価イオンは、単一種の多原子イオンであり得るか、または異なる種の多原子イオンの混合物であり得る。二価イオンは、単一種のイオンであり得るか、または異なる種のイオンの混合物であり得る。二価イオンはマグネシウムであり得る。
【0124】
多原子一価イオンは、熱および/もしくは真空下またはpHの変化を伴うなどの好適な条件下で揮発性となる。したがって、多原子一価カチオンは塩基の共役酸であってもよく、ここで、塩基は揮発性部分である。したがって、多原子一価カチオンの脱プロトン化形態は揮発性部分として記述することができる。これは「多原子部分」と称される場合がある。
【0125】
揮発性とは、部分の、所与の条件下で蒸発する傾向を示し、部分が容易に気化する程度としても記述される。これは、所与の温度および圧力において示される。揮発性は、一般的に、部分の沸点(特に液体の場合)に関連して記載される。沸点とは、液体の蒸気圧が周囲の圧力と等しくなり、液体を急速に蒸発または沸騰させる温度である。それは圧力に依存する。概して、揮発性部分は100℃未満の沸点を有し得る。
【0126】
乾燥プロセス、除去または蒸発は、真空下で行われ得る。真空は、大気圧未満のガス圧力を有する領域を作り出すことができる。したがって、ガス圧力は、105パスカル(Pa)~100Paの範囲の任意の適切な圧力であり得る。したがって、圧力は、105Pa、104Pa、103Pa、102Pa、もしくは101Pa、またはこれらの間の任意の圧力であり得る。低真空は105~3×103Paにおいて生じ得、中真空は3×103~10-1Paにおいて生じ得、高真空は10-1~10-10Paにおいて生じ得る。低または中真空が好ましい。標準気圧は101,325Paであり、したがって低真空の場合の開始レベルよりも高い。真空は、真空ポンプの使用を含む任意の適切な技法を使用して、または高速で流れる液体の使用などの圧力を低下させる他の任意の方法によって作られ得る。真空は、任意の好適な実験室設備、アスピレータ、例えば、伝統的なロータリーベーンポンプ、コンビネーションポンプ、ピストンポンプ、ダイアフラムポンプおよびスクロールポンプおよびオイルフリー真空ポンプを使用して作られ得る。真空は、システム内の圧力を低下させ、それによって部分の沸点を低下させるように設計される。沸点を低くすることによって、部分はよりはるかに低い温度で蒸発する。
【0127】
乾燥プロセス、除去または蒸発は、任意の適切な温度で行われ得る。当業者は、揮発性部分の沸点が、乾燥に好適な一連の条件、例えば圧力および温度を決定し得ることを認識するだろう。製法または方法は室温で行われ得る。あるいは、熱が出発ヌクレオチド複合体に適用されてもよい。温度は、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、もしくは90℃、またはこれらの間の任意の温度範囲に上昇させることができる。部分を揮発性とするために必要とされる温度は、乾燥が実施される圧力に依存すると考えられる。
【0128】
好適な条件が熱および真空の適用であることが好ましい場合がある。装置は、実施例に例示されるような処理の組合せのために利用可能である。
代替的にまたは付加的に、部分は、pHを変更すること、例えば、塩基性成分を添加することによってpHを上昇させることなどによって揮発性となり得る。
【0129】
真空下での出発ヌクレオチド複合体の乾燥または処理は、共役酸と揮発性塩基との間の平衡化を完了させることができ、結果として、実質的に全ての揮発性部分が蒸発する。
出発ヌクレオチド複合体の乾燥または処理は、ヌクレオチド1つ当たり0.2個未満の多原子部分が残るような、実質的に全ての多原子一価部分の複合体からの除去をもたらし得る。理想的には、実質的に全ての多原子部分が除去される。理論に拘束されるものではないが、本発明者らは、ヌクレオチド実体がプロトン化され、それにより揮発性塩基が自由に蒸発するようになると考える。ヌクレオチドは、窒素またはリン酸基においてプロトン化され得る。あるいは、水の分子がプロトン化されて、ヒドロニウムイオンを生じる。
【0130】
乾燥、除去または蒸発は、粉末としても記載される乾燥ヌクレオチド複合体の形成をもたらし得る。本明細書において使用される場合、粉末とは、振盪または揺り動かされる場合に自由に流動し得る多くの非常に微細な粒子から構成される乾燥した固体である。粉末は結晶性であり得る。乾燥は、出発ヌクレオチド複合体溶液に存在する実質的に全ての溶媒の除去をもたらし得る。概して、溶媒は水であり得る。水または他の溶媒は乾燥プロセス中に蒸発し得る。理想的には、生成されたヌクレオチド複合体が乾燥状態(0%の開始容量)となるように、全ての溶媒が除去され得る。あるいは、残留量の溶媒が残り、結果として、産物における溶媒のレベルが、およそ10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満の開始容量となってもよい。そのようなものは、「粘着塊」として視覚的に観察され得る。実施例では、ヌクレオチド複合体は、真空下で1ml超の開始容量からおよそ20μlの最終容量まで乾燥させた。
【0131】
概して、多原子一価カチオンは、本発明による出発ヌクレオチド複合体に対して0.2~4、または0.2~2.5個の多原子一価カチオンの比で存在する。この範囲は、ヌクレオチド複合体1つ当たり0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、および2.5個、または2.6、2.7、2.8、2.9、3.0.3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、もしくは4個の多原子一価イオンを含む。イオンは、ヌクレオチドイオンの間で共有されることが可能である。これらの多原子部分は、本明細書に記載される乾燥プロセスを使用して効果的にまたは実質的に除去されるかまたは蒸発する。本発明の製法中、ある割合の多原子部分が除去される。この割合は、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%であり得る。好ましくは、100%が除去される。乾燥プロセス後、多原子部分(共役酸の揮発性塩基)のレベルは、好ましくは、ヌクレオチド1つ当たり0.2個未満、0.1個未満、またはさらには0個の多原子部分のレベルまで大きく低下する。
【0132】
本明細書に記載される乾燥プロセスと称されるプロセスはヌクレオチド複合体をもたらし、これは、次いで水に再懸濁された場合、pHが減少している。このpHの減少は、乾燥プロセス中の複合体におけるヌクレオチドのプロトン化に起因すると考えられる。実施例において、本発明者らは、再懸濁されたヌクレオチド複合体は、予期されたほど酸性ではなく、ヌクレオチド複合体の緩衝物質として作用する能力に起因し得ることを見出した。本発明者らは、使用前にヌクレオチド複合体を再可溶化または溶解するために緩衝物質の使用を必要としなかった。
【0133】
多原子一価カチオンとしては、好ましくは、プロトン化窒素原子が挙げられる。好適な多原子一価カチオンとしては、アンモニウムおよびその誘導体が挙げられる。多原子部分の気化の間にヌクレオチド実体に移動するのはこのプロトンである。
【0134】
実質的にまたは完全に乾燥すると、ヌクレオチド複合体は、冷凍庫中などの適切な条件で、使用に必要とされるまで保存され得る。使用の際に、調製されたヌクレオチド複合体は、例えば水または別の溶媒中での再可溶化を必要とし得る。そのようなものは、単独でまたはヌクレオチジルトランスフェラーゼと組み合わされて提供されて、反応混合物を形成し得る。他の成分が反応混合物に添加されてもよい。
【0135】
再可溶化のための溶媒は水であり得る。溶媒は任意の適切な溶媒であり得る。本発明者らは、驚くべきことに、揮発性部分の喪失にもかかわらず、再可溶化が緩衝物質を必要としないことを見出した。したがって、ヌクレオチド複合体は、潜在的に1つまたは複数のリン酸基の存在を介して、pHを独立して緩衝することができると仮定される。
【0136】
再可溶化は、前述した双性イオン性分子などの他の実体の添加を可能にし得る。これらは、溶媒中に存在しても、別個に添加されてもよい。
乾燥プロセスまたは蒸発において、出発ヌクレオチド複合体は任意の適切な濃度であり得る。
【0137】
乾燥プロセスまたは蒸発を使用することの利点は、それが、特にDNAの酵素合成における使用に有利な新規ヌクレオチド複合体をもたらすという点である。
DNAの酵素合成における、すなわち反応混合物におけるヌクレオチドまたはその複合体の濃度は、30mM超かつ最大で少なくとも160mMであり得ることが好ましい。そのような濃度は、より高い収量のDNAの生成において重要であり、収量は、示された2つの濃度の場合、9.75g/l~52g/lもの高さである可能性がある。記述されたヌクレオチドまたはその複合体の濃度は、合成反応の開始時のものである、すなわち、DNA合成に必要な酵素も含む反応混合物におけるヌクレオチドまたはその複合体の開始または初期濃度であることが好ましい。その後のさらなる成分の添加は、この濃度を減少させ得、DNA合成酵素によるそれらの使用もまた濃度を開始濃度から減少させ得る。当業者は、製法が準備されたときのヌクレオチド/ヌクレオチド複合体の濃度を、使用される他の成分およびストックヌクレオチド複合体溶液/粉末の容量に基づいて算出する方法を認識するだろう。上に記載したように、連続的にモニタリングし、濃度が低減する場合にさらなるヌクレオチドを添加することによって、またはヌクレオチド複合体の不断の添加によって、DNA合成反応におけるヌクレオチド複合体の濃度を一定に、例えば反応全体で100mM、110mM、120mM、130mM、または140mMに保持することが有益であり得る。
【0138】
DNA合成において、いかなる形態の対イオンも有しないヌクレオチドの提供および利用は現時点で不可能であるため、DNA合成または増幅の技術分野において、「ヌクレオチド」という用語は、著者が「ヌクレオチド塩」を意味する場合に使用されるということに留意すべきである。
【0139】
製法は、バッチ法であっても連続フロー法であってもよい。バッチは閉じたバッチであり得る(すなわち、全ての反応成分はDNA合成の開始時に提供される)か、または、参照によって本明細書に組み込まれるWO2016/034849に記載されているように、さらなる成分は、製法中、必要に応じて反応に供給され得る。さらなる添加が必要とされる場合、これは、さらなるヌクレオチド複合体が添加されて濃度を補充または上昇させない限り、ヌクレオチドまたはヌクレオチド複合体の濃度を希釈し得る。
【0140】
そのようなイオンを有するDNAの酵素無細胞合成は、最小限の緩衝剤で実行可能であり、ここで、DNA合成を増強するかまたはプライマー結合を補助することが示されている追加の塩も界面活性剤も添加されない。この最小限の緩衝物質は、pHを安定化させる薬剤(緩衝剤)を含み得る。最小限の緩衝剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化アンモニウムなどの鋳型を変性させるために使用される化学物質の存在によって提供される少量のカチオンを含有し得る。実施例では、5mM水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが変性物質として使用されたが、この濃度は、DNA変性を実施するために使用されるものの技術の範囲内において、反応の条件に適するように変更されてもよく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化アンモニウムの量は、2.5mMから、最大5mM、最大10mMにおいて提供することができ、鋳型の性質に応じて15mM、20mM、または25mM以上が用いられてもよい。したがって、反応混合物は、元来はヌクレオチド複合体と会合していなかった少量または最小量のカチオンおよびアニオンを含有し得る。
【0141】
さらなる利点は以下に記載される。
本発明を、例示的な実施形態および添付の図面を参照して以下にさらに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【
図1】実施例1~3において使用されたDNA鋳型のプラスミドマップである。DNA鋳型の様々な配列成分が示される。
【
図2】実施例4~6において使用されたDNA鋳型のプラスミドマップである。DNA鋳型の様々な配列成分が示される。
【
図3】実施例2および3においてDNA鋳型を使用して行われたDNA合成実験からの収量を示すグラフである。これは、ヌクレオチド複合体の説明および濃度(mM)対収量(g/L)のプロットである。水中での反応または緩衝剤を添加した反応の結果が比較される。
【
図4】実施例4においてDNA鋳型を使用して行われたDNA合成実験から取得されたピーク収量を示すグラフである。これは、ヌクレオチド複合体の説明および濃度(mM)対ピーク収量(g/L)のプロットである。これらは、多様なインキュベーション時間にわたって取得された最も高い収量である。
【
図5】実施例5においてDNA鋳型を使用して行われたDNA合成実験から取得された収量を示すグラフである。これは、ヌクレオチド複合体の説明およびインキュベーションの長さ(日数)対収量(g/L)のプロットである。これらは、100mMのdNTP濃度において多様なインキュベーション期間にわたって取得された収量である。
【
図6】実施例5においてDNA鋳型を使用して行われたDNA合成実験から取得された収量を示すグラフである。これは、ヌクレオチド複合体の説明およびインキュベーションの長さ(日数)対収量(g/L)のプロットである。これらは、120mMのdNTP濃度において多様なインキュベーション期間にわたって取得された収量である。
【
図7】実施例6においてDNA鋳型を使用して行われたDNA合成実験から取得された収量を示すグラフである。これは、ヌクレオチド複合体の説明および濃度(mM)対収量(g/L)のプロットである。これらは、様々なヌクレオチド複合体を用いた5日間のインキュベーション後に取得された収量である。
【
図8】実施例6においてDNA鋳型を使用して行われたDNA合成実験から取得された収量を示すグラフである。これは、ヌクレオチド複合体の説明および濃度(mM)対収量(g/L)のプロットである。これらは、様々なヌクレオチド複合体を用いた10日間のインキュベーション後に取得された収量である。
【発明を実施するための形態】
【0143】
本発明は、DNAの大規模合成のための無細胞製法に関する。本発明の製法は、DNAのハイスループット合成を可能にし得る。
本発明に従って合成されるデオキシリボ核酸(DNA)は、いかなるDNA分子であってもよい。DNAは一本鎖であっても二本鎖であってもよい。DNAは直鎖状であり得る。DNAは、プロセシングされて、環、特に小環、一本鎖の閉じた環、二本鎖の閉じた環、二本鎖の開いた環、または閉じた直鎖状二本鎖DNAを形成し得る。DNAは、特定の二次構造、例えば、これらに限定されないが、ヘアピンループ(ステムループ)、不完全ヘアピンループ、シュードノット、もしくは様々な種類の二重螺旋(A-DNA、B-DNA、またはZ-DNA)のいずれか1つを形成することが可能であり得るか、またはそれを形成するようにプロセシングされ得る。DNAはまた、ヘアピンおよびアプタマー構造を形成してもよい。
【0144】
合成されたDNAは、任意の好適な長さであり得る。本発明の製法を使用して、最大77キロ塩基またはそれを超える長さが可能であり得る。より詳細には、本発明の製法に従って合成され得るDNAの長さは、最大60キロ塩基、または最大50キロ塩基、または最大40キロ塩基、または最大30キロ塩基ほどであり得る。好ましくは、合成されたDNAは、100塩基~77キロ塩基超、500塩基~60キロ塩基、200塩基~20キロ塩基、より好ましくは200塩基~15キロ塩基、最も好ましくは2キロ塩基~15キロ塩基であり得る。
【0145】
本発明の製法に従って合成されたDNAの量は、9.75g/lを超え得る。合成されたDNAの量は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30g/l以上よりも多いことが好ましい。合成されたDNAの好ましい量は5g/lである。生成されたDNAの量は、大規模または大量生産における工業的または商業的分量として記述することができる。本発明の製法によって生成されたDNAは、品質の点で、すなわちDNA長および配列の点で一様であり得る。したがって、製法はDNAの大規模合成に好適であり得る。製法は、合成の正確性の点で一様であり得る。
【0146】
あるいは、合成反応において生成されたDNAの量は、合成されたDNAに100%のヌクレオチドが組み込まれた場合に達成され得る理論上の最大収量と比較されてもよい。本発明の方法は、取得された総収量だけではなく製法の効率性も向上させ、これは、これまでの方法におけるよりも多くの供給されたヌクレオチドが、合成されたDNA産物に組み込まれることを意味する。本発明の方法によって取得可能な収量は、理論上の最大値の50%を超え、理論上の最大値の最大90%およびそれを超える。したがって、本発明の方法によって達成される理論上の最大収量に対する割合としては、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、および95%以上が挙げられる。慣習的に、市販のヌクレオチド塩を使用する場合、達成される収量は、製法に阻害性であり得るイオンの作用により期待外れとなる可能性がある。
【0147】
DNAは酵素反応において合成される。この酵素合成は、DNAを合成する任意の酵素、ヌクレオチドを新生ポリヌクレオチド鎖に付加することができるヌクレオチジルトランスフェラーゼ、最も注目すべきはポリメラーゼ酵素または改変ポリメラーゼ酵素の使用を伴い得る。これらは以下でさらに論じられる。DNA合成は、de novoであり、鋳型を必要としなくてもよい。酵素合成はまた、DNA合成のために鋳型の使用を必要としてもよい。この鋳型は、ポリメラーゼに応じた任意の好適な核酸であり得るが、好ましくはDNA鋳型である。
【0148】
鋳型は、特定の配列を含むことによってDNAの合成のための指示を単に提供する任意の好適な鋳型であり得る。鋳型は一本鎖(ss)であっても二本鎖(ds)であってもよい。鋳型は直鎖状であっても環状であってもよい。鋳型は、天然、人工、もしくは改変塩基またはそれらの混合物を含み得る。
【0149】
鋳型は、天然に得られるかまたは人工の任意の配列を含み得る。
鋳型は、任意の好適な長さであり得る。特に、鋳型は、最大60キロ塩基、または最大50キロ塩基、または最大40キロ塩基、または最大30キロ塩基であり得る。好ましくは、DNA鋳型は、10塩基~100塩基、100塩基~60キロ塩基、200塩基~20キロ塩基、より好ましくは200塩基~15キロ塩基、最も好ましくは2キロ塩基~15キロ塩基であり得る。
【0150】
鋳型は、当技術分野で公知の任意の方法によって、製法における使用のために十分な量で提供され得る。例えば、鋳型はPCRによって生成され得る。
そのプロセスにおいて、鋳型の全体または選択された部分が増幅され得る。
【0151】
鋳型は、発現のための配列を含み得る。DNAは、細胞(すなわち、in vitroまたはin vivoにおけるトランスフェクトされた細胞)における発現のためのものであっても、無細胞システム(すなわち、タンパク質合成)における発現のためのものであってもよい。発現のための配列は、治療目的、すなわち、遺伝子療法またはDNAワクチンのためのものであり得る。発現のための配列は遺伝子であり得、前記遺伝子は、DNAワクチン、治療用タンパク質などをコードし得る。配列は、活性RNA形態、すなわち低分子干渉RNA分子(siRNA)に転写される配列を含んでもよい。配列は、mRNA、最も詳細にはワクチンを生産するためのmRNAに転写される配列を含んでもよい。配列は、ウイルス粒子、例えばレンチウイルスまたはアデノ随伴ウイルスの調製のための配列を含んでもよい。
【0152】
必要とされる場合、鋳型は、以下に記載されるように、少なくとも1種のポリメラーゼと接触されてもよい。
酵素的DNA合成反応は、少なくとも1種のDNA合成酵素(ヌクレオチジルトランスフェラーゼ)を必要とし得る。好ましくは、DNA合成酵素はポリメラーゼである。ポリメラーゼは、ヌクレオチドと一緒に連結して、DNAポリマーを形成する。1、2、3、4、または5種の異なる酵素および/またはポリメラーゼが使用され得る。ポリメラーゼは、DNAのポリマーを合成するような、ポリメラーゼの任意のファミリー由来の任意の好適なポリメラーゼであり得る。ポリメラーゼはDNAポリメラーゼであり得る。あらゆる市販のDNAポリメラーゼを含め、いかなるDNAポリメラーゼが使用されてもよい。2、3、4、または5種以上の異なるDNAポリメラーゼ、例えば、校正機能を提供する1種のDNAポリメラーゼと、提供しない1種または複数種の他のDNAポリメラーゼとが使用されてもよい。異なる機構を有するDNAポリメラーゼ、例えば、鎖置換型ポリメラーゼと、他の方法によってDNAを複製するDNAポリメラーゼとが使用されてもよい。鎖置換活性を有しないDNAポリメラーゼの好適な例はT4 DNAポリメラーゼである。鋳型非依存性ポリメラーゼ、例えばターミナルトランスフェラーゼが使用されてもよい。
【0153】
改変ポリメラーゼもまた使用されてもよい。これらは、それらの特徴を改変するように、例えば、それらの鋳型に対する依存性を除去するか、それらの温度依存性を変化させるか、またはin vitroにおける使用のために酵素を安定化させるように操作されていてもよい。
【0154】
ポリメラーゼは、その活性が製法条件下での長期のインキュベーションによって実質的に低下しないほど高度に安定であり得る。したがって、酵素は、好ましくは、温度およびpHを含むがこれらに限定されない多様な製法条件下で長い半減期を有する。ポリメラーゼが製造製法に好適な1つまたは複数の特徴を有することもまた好ましい。ポリメラーゼは、好ましくは、例えば校正活性を有することにより高い正確性を有する。さらに、ポリメラーゼが、高いプロセシング能、高い鎖置換活性、ならびにdNTPおよびDNAに対する低いKmのうちの1つまたは複数を呈することが好ましい。ポリメラーゼは、環状および/または直鎖状DNAを鋳型として使用することが可能であり得る。ポリメラーゼは、dsDNAまたはssDNAを鋳型として使用することが可能であり得る。ポリメラーゼは、その校正活性に関連しないDNAエキソヌクレアーゼ活性を呈しないことが好ましい。さらに、ポリメラーゼは、代替的な核酸を鋳型として使用することが可能であり得る。
【0155】
当業者は、市販のポリメラーゼ、例えば、Phi29(New England Biolabs,Inc.、Ipswich、MA、US)、Deep Vent(登録商標)(New England Biolabs,Inc.)、Bacillus stearothermophilus(Bst)DNAポリメラーゼI(New England Biolabs,Inc.)、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント(New England Biolabs,Inc.)、M-MuLV逆転写酵素(New England Biolabs,Inc.)、VentR(登録商標)(exo-minus)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.)、VentR(登録商標)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.)、Deep Vent(登録商標)(exo-)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.)、およびBst DNAポリメラーゼラージフラグメント(New England Biolabs,Inc.)によって呈される特性との比較によって、所与のポリメラーゼが上記で定義された特徴を呈するか否かを判定することができる。高いプロセシング能に言及する場合、これは、典型的には、鋳型との会合/解離当たりの、ポリメラーゼ酵素によって付加されたヌクレオチドの平均数、すなわち単一の会合事象から取得された新生伸長の長さを表す。
【0156】
鎖置換型ポリメラーゼが好ましい。好ましい鎖置換型ポリメラーゼは、Phi29、Deep Vent、およびBst DNAポリメラーゼI、またはそれらのいずれかのバリアントである。「鎖置換」とは、ポリメラーゼの、合成中に二本鎖DNAの領域に遭遇したときに相補鎖を置換する能力を記載する。したがって、鋳型は、相補鎖を置換して新たな相補鎖を合成することによって増幅される。したがって、鎖置換複製中、新たに複製された鎖は、置換されて、ポリメラーゼがさらなる相補鎖を複製する手段をもたらすことになる。増幅反応は、プライマーまたは一本鎖鋳型の3’自由末端が鋳型の相補配列とアニーリングする(どちらもプライミング事象である)ときに開始する。DNA合成が進行するとき、およびポリメラーゼが鋳型とアニーリングされたさらなるプライマーまたは他の鎖と遭遇する場合、ポリメラーゼはこれを置換し、その鎖伸長を継続する。鎖置換は、より多くのプライミング事象のための鋳型として作用することができる一本鎖DNAを放出し得る。新たに放出されたDNAのプライミングは、超分岐化、および高収量の産物をもたらすことができる。鎖置換増幅法は、二本鎖DNAが新たなDNA鎖の継続的な合成の妨げとならないので、変性のサイクルが効率的なDNA増幅に必須ではないという点でPCRベースの方法とは異なると理解されるべきである。鎖置換増幅は、最初の鋳型が二本鎖である場合はそれを変性させるため、プライマーが使用される場合はプライマーをプライマー結合部位とアニーリングさせるために、最初の1ラウンドの加熱のみを必要とし得る。この後、さらなる加熱も冷却も必要とされないため、増幅は等温増幅として記述することができる。対照的に、PCR法は、二本鎖DNAを融解し、新たな一本鎖鋳型を提供するために、増幅プロセス中に変性(すなわち温度を摂氏94度以上に上昇させる)のサイクルを必要とする。鎖置換中、ポリメラーゼはすでに合成されたDNAの鎖を置換する。さらに、ポリメラーゼは新たに合成されたDNAを鋳型として使用し、急速なDNAの増幅を保証する。
【0157】
本発明の製法において使用される鎖置換ポリメラーゼは、好ましくは、少なくとも20kb、より好ましくは、少なくとも30kb、少なくとも50kb、または少なくとも70kb以上のプロセシング能を有する。一実施形態では、鎖置換DNAポリメラーゼは、phi29 DNAポリメラーゼに匹敵するかまたはそれよりも高いプロセシング能を有する。
【0158】
したがって、鎖置換複製が好ましい。鎖置換複製中、鋳型は、ポリメラーゼの作用によって合成された、すでに複製された鎖を置換することによって増幅され、ポリメラーゼは、二本鎖鋳型の元来の相補鎖または新たに合成された相補鎖であり得る別の鎖を置換し、後者は、鋳型とアニーリングした初期プライマーに対するポリメラーゼの作用によって合成されたものである。したがって、鋳型の増幅は、別の鎖の鎖置換複製を介して、複製された鎖の置換によって行われてもよい。この製法は、鎖置換増幅または鎖置換複製として記載され得る。
【0159】
好ましい鎖置換複製法は、ループ介在等温増幅、すなわちLAMPである。LAMPは、一般に、鋳型DNAの6~8つの別々の領域を認識する4~6種のプライマーを使用する。簡潔に述べると、鎖置換型DNAポリメラーゼが合成を開始し、2種のプライマーがループ構造を形成して、その後の増幅ラウンドを容易にする。標的DNAのセンスおよびアンチセンス鎖の配列を含有する内部プライマーがLAMPを開始する。外部プライマーによってプライミングされるその後の鎖置換DNA合成は、一本鎖DNAを放出する。これは、標的の他方の末端にハイブリダイズする第2の内部および外部プライマーによってプライミングされるDNA合成の鋳型として役立ち、ステム-ループDNA構造を生成する。その後のLAMPサイクリングにおいて、1種の内部プライマーが、産物のループにハイブリダイズし、置換DNA合成を開始し、元のステム-ループDNAと、ステムが2倍の長さである新たなステム-ループDNAとを生じる。必要とされる内部プライマーがより少ない、改変されたLAMP手順もまた採用することができる。
【0160】
好ましい鎖置換複製法は、ローリングサークル増幅(RCA)である。RCAという用語は、RCA型ポリメラーゼの、ハイブリダイズされたプライマーを伸長させながら環状DNA鋳型鎖の周りを連続的に進行する能力を記載する。プライマーゼによって作られたかまたは二本鎖鋳型のうちの一方の鎖に切れ目を入れることによって生成された「プライマー」が付加されてもよい。この増幅は、増幅されたDNAの複数の反復配列を有する直鎖状一本鎖産物の形成をもたらす。環状鋳型の配列(単一ユニット)は、直鎖状産物内で複数回反復されている。環状鋳型に関して、鎖置換増幅の最初の産物は、鋳型の極性に応じてセンスまたはアンチセンスのいずれかである一本鎖コンカテマーである。これらの直鎖状一本鎖産物は、ハイブリダイゼーション、プライマー伸長、および鎖置換の複数の事象の根幹部分として機能し、コンカテマー二本鎖DNA産物の形成をもたらし、コンカテマー二本鎖DNA産物もまた、増幅されたDNAの複数の反復配列を含む。したがって、コンカテマー二本鎖DNA産物には、増幅された各「単一ユニット」DNAの複数のコピーが存在する。RCAポリメラーゼは、本発明の製法における使用に特に好ましい。RCA型鎖置換複製法の産物は、単一ユニットDNAを放出するためにプロセシングを必要とし得る。これは、DNAの単一ユニットが必要とされる場合に望ましい。Phi29 DNAポリメラーゼを使用する典型的な鎖置換条件には、高レベルのマグネシウムイオン、例えば、0.2~4mMヌクレオチド(典型的なリチウムまたはナトリウム塩として示される場合)と組み合わされた10mMマグネシウム(通常、塩化物塩として)が含まれる。
【0161】
増幅を可能にするために、一部の態様によれば、1種または複数種のプライマーが酵素的DNA合成によって必要とされる場合もある。鋳型が使用されない場合、プライマーは、DNA合成の出発点を与え、合成反応を開始するように設計される。鋳型が使用される場合、プライマーは、非特異的であっても(すなわち、配列がランダムであっても)、鋳型内に含まれる1つまたは複数の配列に特異的であってもよい。あるいは、プライマーゼまたは改変ポリメラーゼ酵素を供給して、プライマーをde novoに生成してもよい。プライマーがランダム配列である場合、それらは、鋳型の任意の部位における非特異的な開始を可能にする。このことは、各鋳型鎖からの複数の開始反応を介した高効率の増幅を可能にする。ランダムプライマーの例は、六量体、七量体、八量体、九量体、十量体、またはそれよりも長い長さの、例えば、12、15、18、20、もしくは30ヌクレオチド長の配列である。ランダムプライマーは、6~30、8~30、または12~30ヌクレオチド長であり得る。ランダムプライマーは、典型的には、鋳型における、例えば六量体、七量体、八量体、または九量体の可能な全ての組合せを表すオリゴヌクレオチドのミックスとして提供される。
【0162】
一実施形態では、全プライマーまたは1種もしくは複数種のプライマーが特異的である。これは、プライマーが、そこからの増幅の開始が望ましい鋳型における配列と相補的な配列を有することを意味する。この実施形態では、1対のプライマーが、2つのプライマー結合部位の内側にあるDNA鋳型の部分を特異的に増幅するために使用され得る。あるいは、単一の特異的なプライマーが使用されてもよい。1組のプライマーが用いられてもよい。
【0163】
プライマーはいかなる核酸組成であってもよい。プライマーは、標識されていなくても、1種または複数種の標識、例えば放射性核種または蛍光色素を含んでもよい。プライマーはまた、化学的に改変されたヌクレオチドを含んでもよい。例えば、プライマーは、キャップが除去されるまでDNA合成の開始を防止するために、すなわち化学的または物理的手段によってキャップされていてもよい。プライマー長/配列は、典型的には、温度に関する検討事項に基づいて、すなわち、増幅ステップにおいて使用される温度で鋳型に結合することができるものとして選択され得る。プライマーは、RNAプライマー、例えばプライマーゼによって合成されたものであってもよい。
【0164】
ある特定の態様では、鋳型と、合成酵素および1種または複数種のプライマーとの接触は、プライマーの鋳型へのアニーリングを促進する条件下で行われ得る。この条件には、プライマーのハイブリダイゼーションを可能にする一本鎖核酸の存在が含まれる。この条件にはまた、従来通り、プライマーの鋳型へのアニーリングを可能にする温度および緩衝物質も含まれる。適切なアニーリング/ハイブリダイゼーション条件は、プライマーの性質に応じて選択され得る。本発明において使用され得る従来のアニーリング条件の一例としては、30mMトリス-HCl pH7.5、20mM KCl、8mM MgCl2を含む緩衝物質が挙げられる。実施例において、本発明のヌクレオチド複合体との反応は、単独の緩衝剤としての30mMトリスpH8.0において実施される。しかしながら、本発明者らは、プライマー結合を依然として可能にする、減少された緩衝物質および二価金属イオン成分を用いる条件を本明細書に記載しており、これらは以下でさらに論じられる。アニーリングは、変性後、熱と、それに続く望ましい反応温度までの段階的冷却とを使用して実行され得る。
【0165】
しかしながら、鎖置換複製を使用する増幅は、プライマーを用いずに行うこともでき、したがって、ハイブリダイゼーションおよびプライマー伸長が起きることを必要としない。代わりに、一本鎖鋳型は、伸長に利用可能な自由3’末端を有するヘアピンを形成することによって自己プライミングする。増幅の残りのステップは同じままである。あるいは、二本鎖鋳型に切れ目を入れて、鎖置換複製が鋳型自体の一方の鎖をプライマーとして使用することを可能にしてもよい。当業者は、鋳型からの増幅の開始を提供するための全ての方法を認識している。
【0166】
鋳型および/またはポリメラーゼはまた、本明細書に定義されるヌクレオチド複合体としてのヌクレオチドと接触する。鋳型と、ヌクレオチジルトランスフェラーゼと、ヌクレオチド複合体との組合せは、反応混合物を形成すると記載され得る。反応混合物はまた、1種または複数種のプライマーまたはプライマーゼを含んでもよい。反応混合物はまた、ヌクレオチド複合体と共に十分に供給されていない場合、1種または複数種の二価金属カチオンを独立して含んでもよい。反応混合物は、化学的変性物質をさらに含んでもよい。そのような変性物質は、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、または水酸化ナトリウムであり得る。反応混合物は、追加の酵素、例えばヘリカーゼまたはピロホスファターゼをさらに含んでもよい。反応混合物は、pH緩衝剤を含有してもよく、一部の態様では、追加で添加されるpH緩衝剤を含有しない。
【0167】
ヌクレオチドは、核酸の単量体、または単一ユニットであり、ヌクレオチドは、窒素塩基、五炭糖(リボースまたはデオキシリボース)、および少なくとも1つのリン酸基から構成される。任意の好適なヌクレオチドが使用され得る。
【0168】
ヌクレオチドは、複合体として存在し、したがって、二価カチオンおよび最小量、または欠乏量の一価カチオンと会合している。二価カチオンとは、二重正電荷を有するイオン種であり、金属イオンまたは多原子イオンであり得る。
【0169】
対イオンとは、イオン種(本発明におけるヌクレオチド)の電荷と、部分的にまたは完全にバランスをとるためにそのイオン種に付随するかまたはそれと会合するイオンである。
【0170】
複合体とは、一般に、2つ以上の成分分子実体(イオン性または非荷電性)、または対応する化学種を伴う、緩い会合によって形成された分子実体であると理解される。複合体は、より単純な物質(化合物またはイオンとして)の結合によって形成され、物理的ではなく化学的な力によって(すなわち、特定の原子構造の特定の特性に依存して)一緒に保持された、イオンまたは電気的に中性の分子のいずれかであり得る。成分間の結合は、通常、共有結合よりも弱い。
【0171】
本明細書に記載されるように調製されたヌクレオチド複合体は、二価カチオンを含み得る。複合体においてヌクレオチドと会合している二価カチオンは、Mg2+、Be2+、Ca2+、Sr2+、Mn2+、またはZn2+、好ましくはMg2+またはMn2+からなるリストから選択される1つまたは複数の金属を含み得る。二価金属カチオンとヌクレオチド(ヌクレオチドイオンまたはヌクレオチドイオン種)との間の比は、溶液中で約1:1であってもよいが、好ましくは0.2:1~2:1の間、任意選択で0.5:1~1.5:1である。1:1よりも高い比は、DNA合成においてある程度の不正確性を生じさせ得るため、1:1よりも低い比が、DNA合成において望ましく、好ましい。したがって、ヌクレオチド複合体に関する二価カチオンの提供は、追加の二価カチオンを反応混合物に添加する必要を減少させ得るかまたは除去し得る。しかしながら、さらに必要とされる場合、これらの二価カチオンは、任意の好適な塩の形態で酵素的DNA合成に提供されてもよい。
【0172】
二価カチオンは、ヌクレオチド複合体において、ヌクレオチド1つ当たり0.2~2個の間の二価カチオンの比で存在し得る。この範囲には、ヌクレオチド複合体1つ当たり0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、および2個の二価カチオンが含まれる。当業者は、非整数がヌクレオチド遊離酸間での二価イオンの共有を表すことを理解するだろう。
【0173】
任意選択で、ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子の比で存在する双性イオン分子と会合しているヌクレオチドを含み得る。この範囲には、ヌクレオチド1つ当たり0.0、1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、または4個の双性イオン分子が含まれる。当業者は、非整数がヌクレオチド遊離酸間での分子の共有を表すことを理解するだろう。
【0174】
窒素塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)であり得る。窒素塩基はまた、改変塩基、例えば、5-メチルシトシン(m5C)、シュードウリジン(Ψ)、ジヒドロウリジン(D)、イノシン(I)、および7-メチルグアノシン(m7G)であってもよい。窒素塩基はさらに人工塩基であってもよい。ヌクレオチド複合体の濃度には、様々な窒素塩基の任意の組合せが含まれ得る。
【0175】
五炭糖がデオキシリボースであり、結果としてヌクレオチドがデオキシヌクレオチドであることが好ましい。
ヌクレオチドは、dNTPと表されるデオキシヌクレオシド三リン酸の形態であり得る。これは、本発明の好ましい実施形態である。好適なdNTPとしては、dATP(デオキシアデノシン三リン酸)、dGTP(デオキシグアノシン三リン酸)、dTTP(デオキシチミジン三リン酸)、dUTP(デオキシウリジン三リン酸)、dCTP(デオキシシチジン三リン酸)、dITP(デオキシイノシン三リン酸)、dXTP(デオキシキサントシン三リン酸)、ならびにそれらの誘導体および改変バージョンを挙げることができる。dNTPは、dATP、dGTP、dTTP、もしくはdCTP、またはそれらの改変バージョンもしくは誘導体のうちの1つまたは複数を含むことが好ましい。dATP、dGTP、dTTP、およびdCTP、またはそれらの改変バージョンの混合物を使用することが好ましい。これらのdNTPの任意の好適な比が、反応の必要に応じて使用され得る。
【0176】
ヌクレオチド複合体は、ヌクレオチジルトランスフェラーゼと混合する前にすでに溶液中に存在していても、固体、例えば粉末として供給されて溶液に分散される必要があってもよい。ヌクレオチド複合体は、改変ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチド複合体は、1種または複数種の好適な塩基、好ましくは、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)のうちの1つまたは複数の混合物において提供され得る。2、3、または好ましくは4種全てのヌクレオチド(A、G、T、およびC)が、DNAを合成する製法において使用される。これらのヌクレオチド複合体は全て、実質的に等しい量で存在しても、合成されるDNAの性質に応じて1または2種がより多く提供されてもよい。
【0177】
ヌクレオチドは全て、天然ヌクレオチド(すなわち非改変)であっても、天然ヌクレオチドのように作用し、生物学的に活性な改変ヌクレオチド(すなわち、LNAヌクレオチド-ロックド核酸)であっても、改変され、生物学的に不活性であっても、非改変ヌクレオチドと改変ヌクレオチドとの混合物、および/または生物学的に活性なヌクレオチドと生物学的に不活性なヌクレオチドとの混合物であってもよい。ヌクレオチドの各種類(すなわち塩基)は、1つまたは複数の形態、すなわち、非改変および改変、または生物学的に活性および生物学的に不活性な形態において提供され得る。これらのヌクレオチドの全ては、適切な複合体を形成することができる。
【0178】
本発明の一態様では、ヌクレオチドまたはヌクレオチド複合体は、少なくとも30mMの濃度で存在する。この態様によれば、ヌクレオチドまたはヌクレオチド複合体は、30mM超、35mM超、40mM超、45mM超、50mM超、55mM超、60mM超、65mM超、70mM超、75mM超、80mM超、85mM超、90mM超、95mM超、100mM超、110mM超、および120mM超の濃度で反応混合物に存在し得る。そのような濃度は、製法を始めるときまたは製法の開始時におけるヌクレオチド複合体の濃度として与えられる。濃度は、ヌクレオチド/ヌクレオチド複合体の添加後に与えられ、ここで、添加は反応混合物に対するものであり得る。ヌクレオチド複合体は、様々な窒素塩基を有するヌクレオチド複合体の任意の適切な混合物であり得る。濃度は、ヌクレオチド複合体の組成にかかわらず、製法の開始時に存在するヌクレオチド複合体の合計に適用される。したがって、例えば、30mMの濃度のヌクレオチド塩は、適切な一価および二価カチオンと対イオン結合したdCTP、dATP、dGTP、およびdTTPの任意の混合物であり得る。
【0179】
複合体として供給されるヌクレオチドは、水および他の溶媒中で解離して、アニオン性ヌクレオチド実体(ヌクレオチドイオン、ヌクレオチドイオン種)および任意の会合カチオン、ならびに存在する場合、任意選択で双性イオン性(双性イオン)分子を形成し得ることが理解されるだろう。ヌクレオチド複合体は乾燥プロセスに起因してプロトン化される場合があるため、これは、残り得るか、または任意の水分子とヒドロニウムイオンを形成し得る。本発明において使用される定義によれば、プロトンもヒドロニウムイオンも、本明細書に記載される多原子一価カチオンであるとは考えられない。
【0180】
ヌクレオチド複合体が対イオンと双性イオンとの混合物によって形成されることは、本発明の任意の態様の好ましい部分である。
酵素的DNA合成は、DNAの合成を促進する条件下において維持されてもよく、これは、選択される特定の方法に依存する。
【0181】
鎖置換を介した鋳型の増幅が好ましい。好ましくは、条件は、別の鎖の鎖置換複製を介して、複製された鎖の置換によって前記鋳型の増幅を促進する。条件は、一般的には摂氏20~90度の範囲の、DNAの増幅を可能にする任意の温度の使用を含む。好ましい温度範囲は、摂氏約20~約40または約25~約35度であり得る。LAMP増幅に好ましい温度は、摂氏約50~約70度である。
【0182】
典型的には、酵素的DNA合成に適切な温度は、特異的ポリメラーゼが最適な活性を有する温度に基づいて選択される。この情報は一般的に利用可能であり、当業者の一般知識の一部を形成する。例えば、phi29 DNAポリメラーゼが使用される場合、好適な温度範囲は、摂氏約25~約35度、好ましくは摂氏約30度であり得る。しかしながら、熱安定性phi29は、より高い一定温度で機能することができる。当業者であれば、本発明の製法に従った効率的な増幅に好適な温度を慣例的に同定することができるだろう。例えば、所与のポリメラーゼに最適な温度範囲を同定するために、製法が多様な温度で実行され、増幅されたDNAの収量がモニタリングされ得る。増幅は一定温度で実行されてもよく、製法は等温であることが好ましい。鎖置換増幅が好ましいため、DNA鎖を分離するために温度を変更する必要性は存在しない。したがって、製法は等温製法であり得る。
【0183】
DNA合成を促進する他の条件は、従来、好適な緩衝剤/pHの存在、および酵素性能または安定性に必要とされる他の因子を含むと考えられている。好適な従来の条件には、当技術分野で公知のポリメラーゼ酵素の活性を提供するために使用される任意の条件が含まれる。
【0184】
例えば、反応混合物のpHは、3~10、好ましくは5~8の範囲内、または約7、例えば約7.5であり得る。新規ヌクレオチド複合体の使用には必要ないが、pHは、1種または複数種の緩衝剤(pH緩衝剤とも呼ばれる)の使用によってこの範囲に維持され得る。緩衝剤の機能は、pHの変化を防止することである。そのような緩衝物質(緩衝剤)としては、MES、ビス-トリス、ADA、ACES、PIPES、MOBS、MOPS、MOPSO、ビス-トリスプロパン、BES、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、Trizma、HEPPSO、POPSO、TEA、EPPS、トリシン、Gly-Gly、ビシン、HEPBS、TAPS、AMPD、TABS、AMPSO、CHES、CAPSO、AMP、CAPS、CABS、リン酸塩、クエン酸-リン酸水素ナトリウム、クエン酸-クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム-酢酸、イミダゾール、および炭酸ナトリウム-重炭酸ナトリウムが挙げられるが、これらに制限されない。先に論じられたように、反応混合物にも反応混合物に存在する金属カチオンを有する複合体にもさらなるカチオンを提供しない緩衝剤が好ましい。
【0185】
緩衝物質は、一般に、反応成分の混合物によって定義される。通例、酵素の最適な活性または安定性を保証するために、安定なpHを維持するための緩衝剤;カチオン種およびアニオン種から構成される1種もしくは複数種の追加の塩、すなわち塩化ナトリウム、塩化カリウム;ならびに/または界面活性剤、例えばTriton-X-100が含まれる。最小限の緩衝物質は、追加の塩も界面活性剤も提供しない緩衝試薬のみから構成され、但し、化学的変性が必要とされるDNA合成のために少量のカチオン種が存在してもよいことを条件とする。驚くべきことに、本発明の製法においてより高い濃度のヌクレオチド塩を使用することは、これらの最小限の緩衝物質の使用を可能にする。
【0186】
「緩衝物質なし」の系は、提供または定義されるpH緩衝剤が反応成分の混合物中になく、追加の塩または界面活性剤がない。この「添加される緩衝剤がない」系は、DNA合成だけに必要とされる反応成分のみを含有し、(必要とされる場合)化学的変性のみのために提供されるカチオン種を含有する。したがって、この系には、DNA合成反応における特定の目的に役立つもの以外に添加される追加のイオンは存在しない。ヌクレオチドと共に(複合体として)提供される対イオンは、製法における使用の前にヌクレオチドを安定化させるのに役立つ。
【0187】
熱の適用(数分間にわたる95℃への曝露)が、二本鎖DNAを変性させるために使用されるが、DNA合成にとってより好適な他のアプローチが使用されてもよい。二本鎖DNAは、高もしくは低pH環境、または脱イオン水中などのカチオンが存在しないかもしくは非常に低い濃度で存在する環境への曝露によって容易に変性させることができる。ポリメラーゼは、DNA鋳型の複製を開始するために、短いオリゴヌクレオチドプライマー配列の、DNA鋳型の一本鎖領域への結合を必要とする。この相互作用の安定性、したがってDNA合成の効率性は、金属カチオン、特に製法の不可欠な部分として考えられ得るマグネシウム(Mg2+)イオンなどの二価カチオンの濃度の影響を特に受け得る。
【0188】
酵素的DNA合成はまた、追加の二価金属イオン、すなわち、ヌクレオチド複合体に外部から供給される二価カチオンの存在を必要とし得る。製法は、二価金属イオン:マグネシウム(Mg2+)、マンガン(Mn2+)、カルシウム(Ca2+)、ベリリウム(Be2+)、亜鉛(Zn2+)、およびストロンチウム(Sr2+)の塩の使用を含み得る。DNA合成において最もよく使用される二価イオンはマグネシウムまたはマンガンであり、その理由は、これらがDNA合成において補因子として作用するからである。任意の好適なアニオンがそのような塩において利用可能であるが、アニオンの選択は反応混合物のpHに影響を与える可能性があり、適切に説明されるべきであることに留意されたい。
【0189】
界面活性剤もまた、ある特定の態様では、反応混合物に含まれ得る。好適な界面活性剤の例としては、Triton X-100(商標)、Tween20(商標)、およびそれらのいずれかの誘導体が挙げられる。安定化剤もまた反応混合物に含まれ得る。任意の好適な安定化剤、特に、ウシ血清アルブミン(BSA)および他の安定化タンパク質が使用され得る。反応条件はまた、DNAをほどき鋳型変性をより容易にする薬剤を添加することによって改善させることができる。そのような薬剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド、グリセロール、およびベタインが挙げられる。DNA凝縮剤もまた反応混合物に含まれ得る。そのような薬剤としては、例えば、ポリエチレングリコールまたはカチオン性脂質またはカチオン性ポリマーが挙げられる。
【0190】
しかしながら、ある特定の実施形態では、これらの成分は、例えば添加される緩衝剤が最小限であるかまたは存在しない系において、反応混合物から減少または除去され得る。
当業者は、これらの追加の成分および条件を当業者の一般知識に基づいて使用して、本発明の製法のための合成条件を改変および最適化できることが理解されるべきである。同様に、特定の薬剤の具体的な濃度は、当技術分野における過去の例に基づいて選択され、一般知識に基づいてさらに最適化され得る。
【0191】
一例として、当技術分野におけるRCAベースの方法において使用される好適な反応緩衝物質は、50mMトリスHCl、pH7.5、10mM MgCl2、20mM(NH4)2SO4、5%グリセロール、0.2mM BSA、1mM dNTPである。RCA増幅において使用される好ましい反応緩衝物質は、通例、30mMトリス-HCl pH7.9、30mM KCl、7.5mM MgCl2、10mM(NH4)2SO4、4mM DTT、2mM dNTPである。この緩衝物質は、従来のヌクレオチドが購入される場合、Phi29 DNAポリメラーゼとの使用に特に好適である。
【0192】
本発明のヌクレオチド複合体との使用に好適な反応緩衝物質は、60mMトリスpH8.0である。さらに好適な反応緩衝物質は、30mMトリスpH8.0である。代替的な条件としては、30mMトリスHCl、pH7.9、5mM(NH4)2SO4、および30mM KClが挙げられる。ある特定の状況下では、酵素的DNA合成は水中(「添加される緩衝剤がない」)で行われてもよい。
【0193】
酵素的DNA合成はまた、1種または複数種の追加のタンパク質の使用を含み得る。鋳型は、少なくとも1種のピロホスファターゼ、例えば酵母無機ピロホスファターゼの存在下で増幅され得る。2、3、4、または5種以上の異なるピロホスファターゼが使用されてもよい。これらの酵素は、鎖複製中にポリメラーゼによってdNTPから生じたピロリン酸を分解することができる。反応におけるピロリン酸の蓄積は、DNAポリメラーゼの阻害を引き起こし、DNA増幅の速度および効率性を低下させる可能性がある。ピロホスファターゼは、ピロリン酸を非阻害性リン酸に分解することができる。本発明の製法における使用に好適なピロホスファターゼの一例は、New England Biolabs,Incから商業的に入手可能であるSaccharomyces cerevisiaeピロホスファターゼである。
【0194】
本発明の製法において、任意の一本鎖結合タンパク質(SSBP)が一本鎖DNAを安定化させるために使用され得る。SSBPは、生細胞の必須成分であり、DNA複製、修復、および組換えなどのssDNAを伴う全てのプロセスに関与する。これらのプロセスにおいて、SSBPは、一過性に形成されたssDNAに結合し、ssDNA構造を安定化させるのに役立ち得る。本発明の製法における使用に好適なSSBPの一例は、New England Biolabs,Incから商業的に入手可能であるT4遺伝子32タンパク質である。
【0195】
反応の収量は、合成されたDNAの量に関する。本発明による製法から予期される収量は、3g/lを超え得る。合成されたDNAの量は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30g/l以上よりも多いことが好ましい。合成されたDNAの好ましい量は5g/lである。30mMヌクレオチド複合体は、9.74g/lのDNAを生じることができる。本発明は、DNAの酵素合成から可能な収量を向上させる。本発明の目的は、DNAが費用対効果の高い方法で大規模に合成できるように、無細胞酵素的DNA合成製法の収量を向上させることである。本発明は、DNA合成酵素またはポリメラーゼによって触媒される酵素的製法を使用して、DNAの製造/合成を工業規模において経済的に可能にする。本製法は、ヌクレオチドのDNA産物への効率的な組込みを可能にする。本発明の製法は、反応混合物が、数十リットルを含む数リットルにスケールアップされることを可能にすると考えられる。向上した収量、生産性、またはプロセシング能は、ヌクレオチドの全てが一価カチオンの対イオンとの従来の塩(一般にリチウムまたはナトリウム)として供給される同一の反応混合物と比較され得る。
【0196】
一実施形態では、本発明は、DNAの合成を増強するための製法に関する。この増強は、使用されるヌクレオチド複合体の全てが独占的に一価カチオンの対イオンまたはそれらの混合物であることを除いて同一の反応混合物と比較され得る。製法は、本明細書に記載されるように調製された新規ヌクレオチド複合体の使用を伴い得る。
【0197】
一態様では、本発明は、DNAを合成するための無細胞製法であって、1種または複数種のヌクレオチド複合体の存在下でDNA鋳型を少なくとも1種のヌクレオチジルトランスフェラーゼと接触させるステップを含み、前記ヌクレオチド複合体のそれぞれが、0.2~2個の間の二価カチオンおよび0~1個の間の一価カチオン、好ましくは0.2個未満の一価カチオンと会合している、無細胞製法を提供する。一価カチオンは、好ましくは、任意選択で窒素原子を含有する多原子一価カチオンである。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子と会合していてもよい。
【0198】
本明細書においてDNAの合成に関して言及されるヌクレオチドの濃度は、製法の開始時におけるヌクレオチドの開始濃度、すなわち、反応混合物が形成されるときの初期濃度であることが好ましい。
【0199】
本発明はまた、DNAを合成するための無細胞製法であって、30mM超の濃度の1種または複数種のヌクレオチド複合体の存在下でDNA鋳型を少なくとも1種のヌクレオチジルトランスフェラーゼと接触させるステップを含む無細胞製法に関し得る。本発明は、DNAの酵素合成のための無細胞製法であって、複合体として供給されるヌクレオチドの使用を含み、前記複合体の前記それぞれが、0.2~1.5個の間の二価カチオンおよび0.2~1個の間、任意選択で0.2個未満の多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドであり、好ましくは、ヌクレオチド複合体が、30mMよりも高い濃度において取得されるか、供給されるか、または存在する、無細胞製法を提供する。任意選択で、ヌクレオチド複合体はまた、ヌクレオチド1つ当たり0~4個の間の双性イオン分子と会合していてもよい。
【0200】
ヌクレオチド複合体は、少なくとも40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、110mM、または120mMの濃度で存在し得る。任意選択で、複合体は、40mM~160mM、50mM~150mM、60mM~140mM、70mM~130mM、もしくは80mM~120mM、またはこれらの値の間の任意の範囲の濃度で存在する。
【0201】
本発明は、さらに追加で供給される二価カチオン、好ましくはマグネシウムが減少しているかまたはさらには存在しない条件下で実施される、酵素的DNA合成であって、ヌクレオチド複合体の使用を含み、前記複合体のそれぞれが、0.2~1.5個の間の二価カチオンおよび0~1個の間、任意選択で0.2個未満の一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含む、酵素的DNA合成をさらに提供する。ヌクレオチド複合体における二価カチオンの提供は、製法における二価カチオン塩のさらなる使用を回避する。しかしながら、ある特定の状況では、マグネシウムなどの二価カチオン塩の量は、本発明の複合体を使用して減少される。
【0202】
本明細書において使用される場合、当業者は、新規ヌクレオチド複合体が、イオン性実体に関して、複合体に関して列挙されたもののみを実質的に含むことを理解するだろう。換言すれば、新規ヌクレオチド複合体は、列挙された実体から本質的になる。
【0203】
条項
A.ヌクレオチド複合体の調製のための製法であって、ヌクレオチド1つ当たり0.2~1.5個の間の二価カチオンおよび0.2~2.5個の間の多原子一価カチオンと会合しているヌクレオチドを含むヌクレオチド複合体を乾燥させるステップを含み、多原子一価カチオンが真空下で揮発性となる、製法。
【0204】
B.多原子一価カチオンが塩基の共役酸であり、塩基が揮発性部分である、条項Aに記載の製法。
C.多原子一価カチオンの脱プロトン化形態が揮発性部分である、条項AまたはBに記載の製法。
【0205】
D.乾燥させるステップが、室温で、または熱の適用を用いて実施される、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
E.乾燥させるステップが、真空下で実施される、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
【0206】
F.乾燥させるステップが、105Pa~10-10Pa未満の圧力下で実施される、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
G.実質的に全ての多原子一価カチオンが、揮発性となり、乾燥プロセスにおいて除去される、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
【0207】
H.実質的に全ての多原子一価カチオンが、揮発性部分を形成し、乾燥プロセスにおいて除去される、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
I.ヌクレオチド複合体が水に再懸濁されると、pHの減少が結果として生じる、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
【0208】
J.二価カチオンが、マグネシウム、マンガン、またはカルシウムのうちのいずれか1つまたは複数から選択される、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
K.二価カチオンがヌクレオチドと1:1の比で存在する、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
【0209】
L.一価カチオンが真空下で揮発性となり、結果として生じる揮発性部分が標準気圧において100℃未満の沸点を有する、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
M.前記多原子一価カチオンが、窒素原子を含み、任意選択でプロトン化窒素原子を含む、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
【0210】
N.前記多原子一価カチオンが、アンモニウム塩またはそのイオン誘導体である、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
O.乾燥ヌクレオチド複合体が溶媒に再懸濁される、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
【0211】
P.ヌクレオチド複合体が緩衝剤の非存在下で再懸濁可能である、請求項Gに記載の製法。
Q.ヌクレオチド複合体が乾燥されて粉末を取得する、前記条項のいずれか1つに記載の製法。
【0212】
R.前記条項のいずれか1つに記載の製法によって生成されるヌクレオチド複合体。
S.溶液中でのDNAの酵素合成のための無細胞製法であって、条項Rに記載のヌクレオチド複合体を取得するステップと、ヌクレオチジルトランスフェラーゼを添加するステップとを含む無細胞製法。
【0213】
T.ヌクレオチド複合体が可溶性である、前記条項のいずれか1つに記載の製法、ヌクレオチド複合体、または無細胞製法。
U.前記ヌクレオチド複合体が、少なくとも80mM、任意選択で少なくとも100mMの濃度で取得される、条項SまたはTに記載の無細胞製法。
【0214】
V.前記ヌクレオチド複合体およびヌクレオチジルトランスフェラーゼが反応混合物を形成する、条項SからUのいずれか1つに記載の無細胞製法。
W.a)鋳型核酸、
b)プライマー、
c)プライマーゼ、
d)変性剤、例えば水酸化ナトリウムもしくは水酸化アンモニウム、
e)緩衝剤、例えば緩衝塩、
f)ピロホスファターゼ、および/または
g)マグネシウム塩もしくはマンガン塩
のうちのいずれか1つまたは複数を含むがこれらに限定されないさらなる成分が反応混合物に添加される、条項SからVのいずれか1つに記載の無細胞製法。
【0215】
X.マグネシウム塩またはマンガン塩がヌクレオチジルトランスフェラーゼの補因子として、マグネシウムおよび/またはマンガンの合計対ヌクレオチドの比が2:1を超えないように、反応混合物に添加される、条項Wに記載の無細胞製法。
【0216】
Y.前記ヌクレオチジルトランスフェラーゼが、DNAポリメラーゼ、好ましくは鎖置換型DNAポリメラーゼである、条項SからXのいずれか1つに記載の無細胞製法。
Z.前記ヌクレオチジルトランスフェラーゼが、等温DNA合成可能である、条項Yに記載の無細胞製法。
【0217】
本発明の様々なさらなる態様および実施形態は、本開示を考慮することで当業者には明らかであろう。
「および/または」は、本明細書において使用される場合、2つの明記された特徴または成分のそれぞれの、他方を伴うかまたは伴わない具体的な開示として考えられるべきである。例えば「Aおよび/またはB」は、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)AおよびBのそれぞれの、それぞれが本明細書に個々に記述されているような具体的な開示として考えられるべきである。
【0218】
文脈において別段の指示がない限り、上述された特徴の説明および定義は、本発明のいかなる特定の態様にも実施形態にも限定されず、記載されている全ての態様および実施形態に等しく適用される。
【0219】
本発明は、いくつかの実施形態を参照して例として記載されたが、本発明は開示された実施形態に限定されず、代替的な実施形態が、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく構築され得ることは、当業者によってさらに理解されるだろう。
【0220】
次に、いくつかの非限定的な例を参照して本発明を説明する。
実施例
材料および方法
材料および方法
試薬
以下の供給された試薬を、示される実施例において使用した:
溶液1- 200mM dATP:4NH
4
+
溶液2- 200mM dCTP:4NH
4
+
溶液3- 200mM dGTP:4NH
4
+
溶液4- 200mM dTTP:4NH
4
+
溶液5- 66mM dATP:2Mg
2+
溶液6- 59mM dCTP:2Mg
2+
溶液7- 64mM dGTP:2Mg
2+
溶液8- 74mM dTTP:2Mg
2+
Phi29 DNAポリメラーゼ、ストック濃度1.6g/Lまたは0.8g/L(自社で作製)
熱安定性ピロホスファターゼ、ストック濃度2000U/mL(NEB)
DNAプライマー、ストック濃度5mM(Oligofactory)
プラスミド鋳型:
図1に示すようなeGFP CMV、ストック濃度1.393g/L(自社で作製)-実施例2および3
図2に示すようなProTLx-K 15-10-15-0-15 eGFP B5x4 iAMB2016 DS3763、ストック濃度595ng/uL(自社で作製)-実施例4~6
ヌクレアーゼフリー水(Sigma Aldrich)
5M NaOH(Sigma Aldrich)
PEG8000(Applichem)
トリス-塩基(Thermo Fisher Scientific)
トリス-HCl(Sigma Aldrich)
NaCl(Sigma Aldrich)
ジメチルスルホキソニウム-(イソブタノイル)メチリド-C
7H
14O
2S(以降、単にイリドと称す)(Merck Life Science)
L-ヒスチジン(Thermo Fisher Scientific)
【実施例1】
【0221】
本発明に従ったdNTPミックスの調製:
対照として使用されるアンモニウム(dNTP:4NH4
+)複合体に関しては、個々のdNTP(溶液1~4)を1:1:1:1で混合して、ストック濃度200mMのdNTP混合物を生成した。ミックスを-20℃で保存した。
【0222】
マグネシウム混合複合体(dNTP:NH4
+/Mg2+)に関しては、dNTP(溶液1~4および5~8)を、等モル量の特定の各ヌクレオチド(すなわち、dATP、dCTP、dGTP、およびdTTP)をもたらすように混合した。ミックスを調製し、-20℃で保存した。
【0223】
【0224】
【0225】
200mM 4NH4
+dNTPに関しては、アンモニウムヌクレオチドを、表1に詳述した等モル量の各ヌクレオチドをもたらすように混合した。4000μLの最終容量の混合dNTPは、200mMの4NH4
+dNTPをもたらした。
【0226】
200mM 1Mg2+:2NH4
+dNTPに関しては、マグネシウムヌクレオチドを、等モル量の各ヌクレオチドをもたらすように混合した。容量は、最終容量が4000μLであった場合、100mMの各ヌクレオチドに対応する。アンモニウム:マグネシウム(1Mg2+:2NH4
+)dNTPを作製するために、6124μLの最終容量のマグネシウムdNTPを60℃のspeedvacによって粉末(すなわち0μL)にした。表2に詳述したアンモニウム予混合ヌクレオチドを追加の2000μLの水と共に使用して、粉末を再懸濁し、4000μLの最終容量にし、200mM 1Mg2+:2NH4
+dNTPを得て、これを後の使用のために-20℃で保存した。これらのステップは、2Mg dNTPが比較的高い濃度(100mM)では不溶性であるが、比較的低い濃度ではより可溶性となるため必要であった。したがって、比較的低い濃度の可溶性ヌクレオチド塩を、乾燥によって濃縮した後にアンモニウムイオン結合dNTPと混合して、新たなヌクレオチド複合体を作製するための出発物質を形成したか、または比較として使用した。
【0227】
200mM 1Mg2+dNTPに関しては、先に調製したアンモニウム:マグネシウム(200mM 1Mg2+:2NH4
+)dNTPを、15mLファルコンチューブにおいて4つの1000μLのアリコートに分割し、60℃のspeedvacによって粘着性の固体様ペレット(約20μl)にしたか、または乾燥させて粉末(0μl)にした。各ペレットまたは粉末を1000μLの水に再懸濁し、200mM 1Mg2+dNTPを得た。実施例2および3は、20μlのペレットまで調製されたヌクレオチド複合体を使用して調製した。
【0228】
200mM 1Mg2+dNTPに関しては、先に調製したアンモニウム:マグネシウム(200mM 1Mg2+:2NH4
+)dNTPを、2mLエッペンドルフチューブにおいて1000μLのアリコートに分割し、60℃のspeedvacによって粘着性の固体様ペレット(約20μl)にしたか、または乾燥させて粉末(0μl)にした。各ペレットまたは粉末を1000μLの水に再懸濁し、200mM 1Mg2+dNTPを得た。
【0229】
200mM 1Mg2+1His、200mM 1Mg2+2His dNTP、および200mM 1Mg2+2イリドdNTPに関しては、先に調製したアンモニウム:マグネシウム(200mM 1Mg2+:2NH4
+)dNTPを、2mLエッペンドルフチューブにおいて1000μLのアリコートに分割し、60℃のspeedvacによって粘着性の固体様ペレット(約20μl)にした。各ペレットを1000μLの200mM L-ヒスチジン(Fisher Scientific)、400mM L-ヒスチジン(Fisher Scientific)、または400mMイリドに再懸濁し、それぞれ、200mM 1Mg2+1His、200mM 1Mg2+2His dNTP、および200mM 1Mg2+2イリドdNTPを得た。
【0230】
アンモニアを除去するためのヌクレオチド複合体の乾燥
上記の調製したヌクレオチド複合体(1Mg:2NH4)を、真空下での乾燥のためにspeedvacに入れた。使用したspeedvacは、20hPa(20mbar)の真空、60℃の温度、および1400rpmの固定速度を備えるEppendorf Concentrator Plusであった。全ての試料を、必要とされるレベルの溶媒が残るまで、5~12時間または5~24時間にわたって乾燥させた。
【0231】
dNTPミックスのpH
各dNTPミックスのpHを乾燥手順の前および後に測定して、乾燥プロセス中に揮発性実体を蒸発させることの物理的影響を記録した。アンモニウムを有するヌクレオチド塩のpHを比較として示す。
【0232】
【0233】
乾燥後、ヌクレオチド複合体のpHは減少しており、このアンモニアがヌクレオチド複合体から放出され、蒸発したことを示していることが分かる。
【実施例2】
【0234】
DNA増幅反応のセットアップ
実施例1に従って調製した様々なヌクレオチドをDNA増幅反応において試験して、そのような複合体がDNAポリメラーゼと共に使用可能か否かを実証し、そのような複合体をDNAの調製において使用することの利点を決定した。比較として、2種の他のヌクレオチド複合体を使用した。一方の比較物質は、ヌクレオチド複合体が本発明に従って調製される出発物質(1Mg:2NH4dNTP)である。他方の比較物質は、4個のアンモニウムイオンを有するヌクレオチド複合体である(4NH4)。4NH4比較物質は、本明細書に示す実施例においてより広範に使用した。
【0235】
反応を以下の通りに100μlまたは200μLスケールでセットアップした:変性ミックスを調製し、室温で15分間放置する一方で、反応ミックスを構築した。次いで、これらを混合し、DNAポリメラーゼおよびピロホスファターゼを添加した。DNA増幅実験を、様々なdNTPを多様なdNTP濃度で使用して実施した。好適な期間後、例えば168時間後に反応を停止し、試料を、以下に詳述するように直ちにプロセシングした。評価した他の期間は、48時間、96時間、216時間、および480時間であった。
【0236】
マグネシウムを欠くdNTP複合体に関しては、以下に明記する等モル量のマグネシウム塩を反応ミックスに添加した。上に記載したようなマグネシウムa(すなわち1Mg)を含むdNTP複合体に関しては、追加のマグネシウムを反応ミックスに供給しなかった。表4は、マグネシウムを有しないdNTP(4NH4
+)のための実験プロトコル反応セットアップを示し、表5は、マグネシウム複合化dNTP(1Mg2+、1Mg2+:2NH4
+、および1Mg2+:2His)のための反応セットアップを示す。
【0237】
アンモニウムが揮発性になり、ヌクレオチド複合体から除去され得るかどうかを判定する実験を実行し、結果として、DNA合成反応、特にローリングサークル増幅反応において依然として機能性であるヌクレオチド複合体を得た。RCAのための材料および方法は上に記載されている。反応を30℃の温度で規定の期間(168時間)進め、その後、プロセシングおよび定量を行った。
種々のヌクレオチド複合体およびそれらの濃度のDNA合成に対する効果
ここでは、
図3に示すデータに関する実験セットアップを詳述する。
【0238】
【0239】
【0240】
試料プロセシング手順
各アリコートに、800μl(または後の実施例-実施例5および6では900μL)の水を希釈のために添加し、次いで500μLの25%PEG8000および200μLの5M NaClを添加した。溶液を、激しく振盪およびボルテックスすることによって混合した。DNAを、マイクロ遠心分離機での遠心分離(14,000×g、30分)によってペレット化した。上清を慎重にデカントし、ペレットを、容積式ピペッティングおよび激しい振盪によって1800μLの水(後の実施例-実施例5および6は、1000μL、2500μL、または5000μLの水を使用する)に再懸濁し、次いで一晩回転させた。翌日、反応DNA濃度を、nanodrop分光光度計におけるUV吸収測定から定量し、次いで、さらに回転混合させた。
【0241】
データを、反応容量の9倍の増加のために補正し、濃度を、使用したdNTP濃度と対比させて、元来の容量に対するg/Lとして表す。
結果
【0242】
【0243】
【0244】
このデータから本発明者らは、初めに、4個の一価対イオンを有する20~80mM dNTPを含む反応は最大の収量を生じるが、濃度が80mM超に上昇すると、1個の二価対イオンを有するdNTP(電荷とバランスをとるためにヒドロニウムイオンによりプロトン化されているかまたはヒドロニウムイオンと会合していると仮定される、新たに調製されたヌクレオチドの場合)において、生成される生DNAの有意な増加が存在すると結論付ける。本発明に従って調製されたもの、すなわちdNTP:1Mg2+を使用することによって、dNTP使用のレベルは増加する。新たに調製されたヌクレオチド複合体に関して24.7g/Lであるこの収量は、17.3g/LのDNA収量においてピークとなる4NH4
+を含むヌクレオチド複合体と比較して最も高い。マグネシウムイオンを含むヌクレオチド複合体が、試験されたdNTP濃度の範囲全体にわたって一貫したDNAへの変換効率を維持することに留意されたい。
【実施例3】
【0245】
実施例2は、新たに調製されたヌクレオチド複合体が、任意の追加の緩衝剤の非存在下において、DNA合成のために調製および使用できることを実証する。したがって、緩衝剤の効果を検討した。したがって、実施例2を緩衝物質の存在下において繰り返して、そのようなものが有用であるかどうかを判定した。
【0246】
反応を以下の通りに200μLスケールでセットアップした:変性ミックスを調製し、室温で15分間放置する一方で、反応ミックスを構築した。次いで、これらを混合し、DNAポリメラーゼおよびピロホスファターゼを添加した。DNA増幅実験を、様々なdNTPを多様なdNTP濃度で使用して、30mM pH8.0トリス緩衝液を添加して実施した。168時間後に反応を停止し、試料を、以下に詳述するように直ちにプロセシングした。
【0247】
マグネシウムを欠くdNTP複合体に関しては、以下に明記する等モル量のマグネシウム塩を反応ミックスに添加した。上に記載したようなマグネシウムa(すなわち1Mg)を含むdNTP複合体に関しては、追加のマグネシウムを反応ミックスに供給しなかった。表8は、マグネシウムを有しないdNTP(4NH4
+)のための実験プロトコル反応セットアップを示し、表9は、マグネシウム複合化dNTP(1Mg2+、1Mg2+:2NH4+)のための反応セットアップを示す。
【0248】
種々の対イオン複合体、それらの濃度、および緩衝物質の添加の、DNA合成に対する効果
【0249】
【0250】
【0251】
試料プロセシング手順
各アリコートに、800μLの水を希釈のために添加し、次いで500μLの25%PEG8000および200μLの5M NaClを添加した。溶液を、激しく振盪およびボルテックスすることによって混合した。DNAを、マイクロ遠心分離機での遠心分離(14,000×g、30分)によってペレット化した。上清を慎重にデカントし、ペレットを、容積式ピペッティングおよび激しい振盪によって1800μLの水に再懸濁し、次いで一晩回転させた。翌日、反応DNA濃度を、nanodrop分光光度計におけるUV吸収測定から定量し、次いで、さらに回転混合させた。データを、反応容量の9倍の増加のために補正し、濃度を、使用したdNTP濃度と対比させて、元来の容量に対するg/Lとして表す。
【0252】
結果
【0253】
【0254】
【0255】
このデータは、初めに、20~80mM dNTPでは、4個のアンモニウム対イオンを有するヌクレオチド複合体から最も高い収量が得られるが、より高い濃度では、1個の二価対イオンのみと会合しているヌクレオチド複合体(電荷とバランスをとるためにヒドロニウムイオンによりプロトン化されているかまたはヒドロニウムイオンと会合していると仮定される)において、生成される生DNAの有意な増加が存在することを示唆する。本発明に従って調製されたヌクレオチド複合体、すなわちdNTP:1Mg2+を使用することによって、ヌクレオチド組込み効率は、100mMにおいても安定したままとなる。標準的なdNTP:4NH4
+は、新たな方法に従って調製されたヌクレオチドを使用した場合の22.4g/Lに対し、19.2g/LのピークDNA収量を有する。
【0256】
本発明に従って調製されたヌクレオチド複合体は、試験されたヌクレオチド濃度の範囲全体にわたって、それらのDNAへの組込み効率を維持する。
ここで見たように、新たなヌクレオチド複合体は、緩衝環境においてより良好には機能せず、したがって、それは、これらの還元型対イオン複合体に必要な成分ではない。
【実施例4】
【0257】
実施例2に記載した実験条件を、異なるセットのヌクレオチド複合体に対して反復した。dNTP:1Mg2+、dNTP:1Mg2+:2His、dNTP:4NH4
+
種々のヌクレオチド複合体およびそれらの濃度のDNA合成に対する効果
【0258】
【0259】
【0260】
試料プロセシング手順-実施例2と同様
結果
【0261】
【0262】
【0263】
【0264】
【0265】
【0266】
このデータから本発明者らは、初めに、4個の一価対イオンを有する20~40mM dNTPを含む反応は20日後に最大の収量を生じるが、濃度が60mM超に上昇すると、1個の二価対イオンを有するdNTP(電荷とバランスをとるためにヒドロニウムイオンと会合している、新たに調製されたヌクレオチドの場合)、すなわち、1個の二価対イオンのdNTPが取って代わり、ここにおいて、生成される生DNAの有意な増加が存在すると結論付ける。1Mg2+:2H3O+は、試験された他の全てのdNTPおよび条件と比較して最も高い収量の生DNAを生じ、その収量は、16.99g/Lおよび14.83g/LのDNA収量においてピークとなる1Mg2+:2Hisおよび4NH4
+に対し、23.74g/Lである。本発明者らは、最初の48時間では、60mM超の濃度において1Mg2+:2His dNTPが他の全てのdNTPよりも性能が優れていることに留意する。この観察から本発明者らは、1Mg2+:2Hisが初期反応を加速し、RCA反応の最初の48時間において有意な生収量をもたらすと結論付ける。
【実施例5】
【0267】
実施例2および4は、新たに調製されたヌクレオチド複合体がDNA合成のために調製および使用できることを実証する。これまでに観察された結果に基づいて、本発明者らは、1Mg2+dNTP複合体次第で初期反応速度は加速され得ると結論付けた。したがって、実施例4を24、48、および72時間にわたって繰り返した。
【0268】
反応を、先に実施例4に記載したようにセットアップした。24時間、48時間、および72時間後に反応を停止し、試料を、以下に詳述するように直ちにプロセシングした。
マグネシウムを欠くdNTP複合体に関しては、以下に明記する等モル量のマグネシウム塩を反応ミックスに添加した。マグネシウムa(すなわち1Mg)を含むdNTP複合体に関しては、先にそれぞれ実施例2および実施例4、表12および表13に記載したように、追加のマグネシウムを反応ミックスに供給しなかった。しかしながら、本発明者らは、追加の1Mg2+dNTP複合体、すなわち1Mg2+:1Hisおよび1Mg2+:2を含めて、より高いdNTP複合体濃度、すなわち80mM、100mM、および120mMにおける1Mg2+dNTP複合体の加速効果を検討した。
【0269】
試料プロセシング手順-実施例2と同様
反応の最初の数日における、より高い濃度の種々のヌクレオチド複合体のDNA合成に対する効果。
【0270】
【0271】
【0272】
【0273】
このデータは、本発明に従って調製されたヌクレオチド複合体、すなわちdNTP:1Mg2+2H3O+を長期インキュベーション反応において80mMで使用することはより高い生DNA収量、16.43g/Lを生じるが、より高い濃度、100mMおよび120mMでは、発明された他の1Mg2+dNTP複合体(1Mg2+:1His、1Mg2+:2His)が、反応の最初の72時間において、4個の一価対イオンのdNTPおよび1個の二価対イオン(電荷とバランスをとるためにヒドロニウムイオンと会合している、新たに調製されたヌクレオチドの場合)よりも性能が優れており、1Mg2+:2Hisは、より高いdNTP濃度(100mMおよび120mM)において、72時間後にそれぞれ17.48g/Lおよび15.34g/Lの最も高い収量のDNAを生成することを示唆する。1Mg2+:1Hisは、1Mg2+2H3O+に匹敵するかまたはそれを上回ることによってすぐ後に続いた。1Mg2+:2Hisは、より高い濃度において、わずか48時間後に最も高い収量のDNAを生成した。
【0274】
本発明者らは、1個の二価対イオンの複合体は、最初の24時間において1個の二価対イオン単独および4個の一価対イオンのdNTPよりも性能が優れているため、これらの複合体は反応を加速させると結論付ける。このことは、80mM~120mMの濃度のdNTPにおける1Mg2+:1His、1Mg2+:2Hisにより観察される。
【0275】
1Mg2+:イリドdNTPは、100mM~120mMのより高いdNTP濃度では、最初の24時間において4個の一価対イオンのdNTPおよび1個の二価対イオン単独よりも性能が優れている。
【0276】
本発明者らは、上に示されたこのデータは、1個の二価対イオンのdNTP複合体、具体的には1Mg2+:1His、1Mg2+:2His、および1Mg2+:2イリドが、反応の最初の数日における加速物質であり、したがって、本発明者らがより短い期間でより高い収量のDNA生成を達成することを可能にするという過去のデータを補強すると結論付ける。
【実施例6】
【0277】
実施例5は、より高いdNTP濃度における1個の二価の1Mg2+dNTP複合体が、最初の72時間におけるRCA反応を加速させて、より高い収量のDNAを生成するために使用できることを実証する。これまでに観察された結果に基づいて、本発明者らは、より高いdNTP濃度において、1Mg2+dNTP複合体はDNA生成を加速させ、72時間での高DNA収量を可能にすると結論付けた。この結論を使用して、本発明者らは、1Mg2+dNTP複合体の、より高いdNTP濃度においてDNAを生成する能力を検討することを決定した。したがって、実施例5を80mM~120mMのdNTP濃度において繰り返し、120時間および240時間で停止した。
【0278】
反応を、先に実施例2および4に記載したようにセットアップした。120時間および240時間後に反応を停止し、試料を、以下に詳述するように直ちにプロセシングした。先に実施例4、表13に記載したように追加のマグネシウムを反応ミックスに供給しなかった場合、マグネシウム(すなわち1Mg)dNTP複合体を使用した。
【0279】
試料プロセシング手順-実施例2と同様
より高い濃度における種々のヌクレオチド複合体のDNA合成に対する効果。
【0280】
【0281】
【0282】
このデータは、本発明に従って調製された1Mg2+ヌクレオチド複合体、すなわちdNTP:1Mg2+:2H3O+、1Mg2+:1His、1Mg2+:2Hisを80mM~120mMの高dNTP濃度で使用することが、長期インキュベーション反応においてより高い生DNA収量を生じることを示唆する。
【0283】
より高いdNTP濃度において、1Mg2+:2Hisは、発明された他の全ての1Mg2+dNTP複合体よりも性能が優れており、1Mg2+:2Hisは、120時間および240時間において、19.75g/Lおよび26.93g/Lの最も高い収量の生DNAを生成した。本発明者らは、1Mg2+:2イリドdNTP複合体が、120時間および240時間にわたって、この特定のdNTP濃度における他の1Mg2+dNTP複合体;それぞれ13.08g/Lおよび19.54g/Lと比較して高い生DNA収量を生じたことを観察したため、1Mg2+:2イリドdNTPは、80mMのdNTP濃度において他の1Mg2+dNTP複合体よりも性能が優れている。
【0284】
本発明者らは、上に示されたこのデータは、1個の二価対イオンのdNTP複合体、具体的には1Mg2+:1His、1Mg2+:2His、および1Mg2+:2イリドが、反応の最初の数日における加速物質であり、したがって、本発明者らがより短い時間間隔でより高い収量のDNA生成を達成することを可能にするという過去のデータを補強すると結論付ける。
【0285】
結論:
本発明者らは、RCA反応の最初の数時間におけるDNA生成を加速させるだけでなく、とりわけより高いdNTP濃度において全体的な生DNA収量生成を増加させもする、1Mg2+dNTP複合体を使用することの有意な利点が存在すると結論付ける。
【国際調査報告】