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特表2024-532155抗原の標的送達のためのナノ粒子を含む医薬組成物
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  • 特表-抗原の標的送達のためのナノ粒子を含む医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】抗原の標的送達のためのナノ粒子を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/10 20060101AFI20240829BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240829BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
A61K9/10
A61P17/00
A61K9/14
A61K38/00
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/32
A61K47/02
C07K7/08 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509405
(86)(22)【出願日】2022-08-17
(85)【翻訳文提出日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2022072984
(87)【国際公開番号】W WO2023021098
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】21191798.4
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522324509
【氏名又は名称】トパス セラピューティクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】サビヌ フライシャー
(72)【発明者】
【氏名】レイナルド ディジゴウ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ ファンズッティ
(72)【発明者】
【氏名】リジア マルガリーダ マルケス メスキータ
(72)【発明者】
【氏名】ダリア クルジカラ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA31
4C076AA95
4C076BB31
4C076DD21
4C076DD29
4C076DD38Z
4C076DD50Z
4C076EE03
4C076FF61
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084MA21
4C084MA41
4C084NA13
4C084ZA891
4C084ZA892
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA17
4H045BA62
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA22
4H045FA33
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、ナノ粒子であって、それぞれがa)両親媒性ポリマーを含むミセルと、b)少なくとも1つのペプチドとを含む前記ナノ粒子を含む医薬組成物であって、配列番号1~4を含むペプチドを含む前記医薬組成物を提供する。本発明は、さらに、尋常性天疱瘡の治療に使用するためのそれぞれの医薬組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子であって、それぞれが
a)両親媒性ポリマーを含むミセルと、
b)少なくとも1つのペプチドと
を含む前記ナノ粒子を含む医薬組成物であって、配列番号1~4を含むペプチドを含む、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子が、ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアをさらに含み、前記コアが、酸化鉄、CdSe/CdS/ZnS、銀及び金を含むグループから選択される追跡可能な無機材料を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つのペプチドが前記ミセルの外側に結合している、請求項1~2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
各ペプチドが、配列番号1~4の配列の1つからなる、請求項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
少なくとも4つの異なる型のナノ粒子であって、ペプチド配列が互いに異なる前記異なる型のナノ粒子を含み、第1の型のナノ粒子が配列番号1を有するペプチドを含み、第2の型のナノ粒子が配列番号2を有するペプチドを含み、型のナノ粒子が配列番号3を有するペプチドを含み、かつ第4の型のナノ粒子が配列番号4を有するペプチドを含む、請求項1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
それぞれの型のナノ粒子が等モル量で存在する、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、配列番号1~4の配列を有するペプチドのみを含む、請求項1~6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記両親媒性ポリマーが、20,000g/mol以下、好ましくは10,000g/mol以下、最も好ましくは6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する、請求項1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記両親媒性ポリマーが、次の構成単位
【化1】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、C4~C22アルキル基、好ましくはC8~C20アルキル基である)
を含む、請求項1~8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記両親媒性ポリマーが、ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)、ポリ(マレイン酸-alt-1-ドデセン)及びポリ(マレイン酸-alt-1-テトラデセン)を含むグループから選択され、好ましくは、前記ポリマーがポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)であり、かつ該ポリマーの数平均分子量が6,000~1,000g/molである、請求項1~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
各ペプチドが、前記ミセルに共有結合的に連結しているか、又は非共有結合している、請求項1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
水性緩衝液であって、好ましくは少なくとも1種の糖、少なくとも1種の第一級アミン及び少なくとも1種のアミノ酸を含む前記水性緩衝液をさらに含む、請求項1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記緩衝液が、D-マンニトール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及びL-乳酸を含む、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
各ナノ粒子が、酸化鉄コアと、6,000~1,000g/molの数平均分子量を有するポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)を含むミセルとを含む、請求項1~13のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記組成物を患者に投与すると、前記患者におけるFoxp3+制御性T細胞の数が増加する、請求項1~14のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項16】
尋常性天疱瘡の治療に使用するための、請求項1~15のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ナノ粒子であって、それぞれが両親媒性ポリマーを含むミセルと、少なくとも1つのペプチドとを含む前記ナノ粒子を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、配列番号1~4を含むペプチドを含む。該医薬組成物は、尋常性天疱瘡の治療に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
肝臓は、循環に侵入する血液由来の抗原、例えば食物抗原に対する望まれない免疫応答の抑制において中心的役割を果たす。肝臓のこの基本的機構を用いて、外来タンパク質抗原又は自己抗原に対する有害な免疫応答を特異的に下方制御することができる。
【0003】
肝臓の独自に免疫寛容を誘発する環境内での非従来型抗原提示細胞(APC)、例えば、肝類洞壁内皮細胞(LSEC)による抗原提示は、免疫寛容と恒常性を維持するように工夫されている。これは、活性化T細胞の維持及び排除、並びに制御性T細胞の誘導を含めた、細胞固有の調節機構と能動的な調節機構との両方を包含する、肝臓における寛容の様々な機構を通じて達成される。
【0004】
肝臓における神経細胞由来の抗原の異所性発現は、多発性硬化症の動物モデルであるマウスの実験的自己免疫性脳脊髄炎において、自己免疫性の神経炎症を予防することができる。
【0005】
有効な取り込み及び免疫寛容誘発性の提示のために抗原を肝臓に向けるために、肝類洞壁内皮細胞(LSEC)の非常に有効な捕捉機能を使用して、血液由来の抗原を除去することができる。この目的のために、抗原ペプチドを、血液由来の抗原を模倣するように設計された小さい(<200nm)ナノ粒子にコンジュゲートさせる。これらの注入されたナノ粒子コンジュゲートは、血液由来の抗原と同様に、肝臓を標的にし、肝臓で、LSECによって、まず取り込まれる。これらのペプチドは、細胞内に取り込まれてプロセシングされると、MHC/HLA分子に結合し、細胞表面に提示されるようになり、細胞表面で、こうしたペプチド/MHC複合体は、抗原特異的T細胞によって認識される。肝臓の免疫寛容誘発性環境内では、このT細胞抗原認識が、T細胞寛容をもたらす。
【0006】
いくつかの異なる動物モデルにおいて、疾患関連抗原ペプチドと結合させたナノ粒子を使用して、MHC/HLA-クラスI制限ペプチドとクラスII制限ペプチドの両方が、抗原特異的な様式で寛容性を誘導し、それによって疾患又は望まれない免疫応答を予防又は改善することができることが示された。
【0007】
自己免疫疾患は、患者と医療システムにとって大きな負担となっている。現在の治療法は、主に免疫抑制薬に依存しているが、これはかなりの副作用がある。疾患特異的な免疫病理を排他的に標的とし、患者の一般的な免疫状態をそのままにする自己抗原特異的免疫療法は、満たされていない医療ニーズと見なされている。
【0008】
尋常性天疱瘡(PV)は、まれな疾患として分類されており、十分に特徴づけられたCD4+ T細胞依存性自己抗体媒介性自己免疫疾患とみなされている。ヒトPV疾患では、主に疾患の活動期に見られる自己反応性病原性自己抗体が主な病理学的要因である。それらは主に、上皮角化細胞間の接着を安定化させるカドヘリンであるデスモグレイン-3に向けられている。これらの自己抗体とデスモグレイン-3の干渉は、粘膜及び皮膚における細胞接着の喪失による水疱(アカントリシスと呼ばれる)を引き起こす。PVに関連する水疱は壊れやすく、簡単に破裂するため、バリア機能の深刻な喪失、感染症及び致命的な臨床転帰をもたらす。自己反応性Dsg3ペプチド特異的CD4+ T細胞は、PVにおける自己免疫性B細胞応答を促進し、病原性抗Dsg3抗体の産生をもたらすと考えられているため、Dsg3ペプチド特異的CD4 + T細胞を治療的に標的とし、最終的に抗Dsg3抗体価を低下させることが目的とされている。
【0009】
この目的のために、両親媒性ポリマーシェルを含むナノ粒子を使用することができる。ポリマーシェルは、自己抗原ペプチドの共有結合を可能にする表面構造を有するミセル構造を形成する。
【0010】
WO 2013/072051は、特定の免疫応答の抑制が有益である疾患を治療又は予防するための、対象における少なくとも1種のCD4+ T細胞エピトープに特異的な寛容CD4+ T細胞を産生する際に使用するための医薬組成物を開示している。ナノ粒子は、両親媒性ポリマーを含むミセルと、ミセルの外側に結合された少なくとも1つのT細胞エピトープを含むペプチドとを含む。それぞれが1つの特異的なペプチドの複数のコピーを担持しているナノ粒子を混合することができる。異なるナノ粒子-ペプチドコンジュゲートのこの混合物は、TPM(Topas粒子混合物(Topas Particle Mixture))と呼ばれる。
【0011】
EP 20157797.0は、20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーを含むミセルと、少なくとも1つのT細胞エピトープを含む少なくとも1つのペプチドとを含むナノ粒子に関する。
【0012】
しかし、ナノ粒子の表面に高密度のペプチドがカップリングされた、すべてのペプチドナノ粒子の組み合わせを生成することができるとは限らないことが判明した。ある種の医療用途では、効率的な精製方法を使用して、非常に高い密度のペプチド装填並びに高濃度の純度を有するナノ粒子を生成できることが重要である。
【0013】
したがって、当技術分野では、ヒト対象に使用するのに適している改良された医薬組成物の必要性が、依然として存在する。特に、幅広い免疫寛容を誘導する医薬組成物が求められている。
【発明の概要】
【0014】
(発明の概要)
本発明によれば、先述の問題は、ナノ粒子であって、それぞれが
a)両親媒性ポリマーを含むミセルと、
b)少なくとも1つのペプチドと
を含む前記ナノ粒子を含む医薬組成物であって、配列番号1~4を含むペプチドを含む前記医薬組成物によって解決される。
【0015】
ナノ粒子は、ポリマーミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアをさらに含むことができるか、又は固体の疎水性コアを含まない。
【0016】
本発明の医薬組成物は、LSECを直接標的とする粒子媒介送達法を採用することにより、天然の肝臓特異的寛容誘導機構を利用する。それぞれがナノ粒子にカップリングしている少なくとも4つのペプチドの混合物は、無害な食物抗原を模倣し、静脈内注射後にLSECによって優先的に取り込まれる。LSECは、(ナノ粒子から切断され、MHC/HLA分子に結合した後に)ペプチドを循環デスモグレイン-3特異的CD4+ T細胞に提示し、寛容をもたらす。このようにして、定義される免疫疾患の原因となる抗原に対してペプチド特異的な免疫寛容を誘導し、疾患の改善を目標とすることができる。本発明者らは驚いたことに、ナノ粒子の混合物を使用することによって、同時にいくつかの自己抗原ペプチドによる、より広範な免疫寛容を誘導することができることを発見した。
【0017】
ヒト化HLAトランスジェニックマウスモデルでは、ヒトDsg3による免疫により、PV患者血清由来のIgG自己抗体と同じスペクトルのDsg3エピトープを認識するDsg3特異的IgG抗体が形成される。インビトロでヒト上皮に注入されると、これらの抗体は、PVに匹敵する病状を誘発する。
【0018】
それぞれがナノ粒子にカップリングしている配列番号1~4の4つのペプチドの混合物を、PVのHLAトランスジェニックヒト化マウスモデルにおいて、混合物を予防モードで適用することにより有効であることが証明されたが、混合物中のペプチドを3つだけに減らすと、寛容効果が有意に低下した。
【0019】
それぞれがナノ粒子にカップリングしている配列番号1~4の4つのペプチドの混合物は、Dsg3で免疫する前に投与すると、3つのペプチドのみの混合物よりもマウスにおけるDsg3特異的なIgGの形成をより効果的に低下させることが実証され、4つのDsg3ペプチドを含む混合物は、Dsg3に対する寛容を誘導する点で3つのDsg3ペプチドを含む混合物よりも優れていることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】例示的なナノ粒子の概略構造である。
図2】オレイン酸鉄錯体合成のフローチャートである;図2では(並びに図3~5、7及び8では)、図の左側の薄い青色の矢印が合成ステップを示すのに対して、図の右側の濃い青色の矢印は精製ステップを示すことに留意されたい。
図3】代替のオレイン酸鉄錯体合成のフローチャートである。
図4】SPION合成のフローチャートである。
図5】LM-PMAOD合成のフローチャートである。
図6】LM-PMAcOD合成のフローチャートである。
図7】代替のLM-PMAcOD合成のフローチャートである。
図8】SPIONのポリマー被覆である。
図9】PMAcOD-SPION粒子合成のフローチャートである。
図10】ペプチドカップリング及びナノ粒子合成のフローチャートである。
図11】3つのTPC-Dsg3-ペプチドコンジュゲートと4つのTPC-Dsg3-ペプチドコンジュゲートの治療効果を試験した結果である。
図12】研究プロトコル(図12A)及びDsg3での免疫の7日後のHLA DRB1*0402トランスジェニックマウス(TG1マウス)における免疫細胞の活性化に対するDsg3-TPCの予防投与を示す結果(図12B及び12C)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明によれば、ナノ粒子を含む医薬組成物が提供される。該ナノ粒子のそれぞれは、両親媒性ポリマーと、少なくとも1つのペプチドとを含むミセルを含む。該医薬組成物は、配列番号1~4を含むペプチドを含む。したがって、該医薬組成物は、配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4の配列を含むペプチドを含む。配列番号1~4は、以下のアミノ酸配列を特徴とする:
【化1】
【0022】
本出願によれば、用語「ナノ粒子」は、「ナノスケール粒子」と互換的に使用される。こうした粒子は、1~999nm、好ましくは2~600nm、5~500nm、10~300nm、30~100nm又は40~50nmの直径を有する。
【0023】
本発明の文脈では、ナノ粒子は、少なくとも1つのミセルと、ミセルに結合されているペプチドとによって形成される構造である。ペプチドは、ミセルの外側に結合されていてもよいし、ミセルの内側に封入されていてもよい。該ナノ粒子は、ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体疎水性コアをさらに含んでもよいし、又は固体疎水性コアを含まない。
【0024】
本発明の医薬組成物は、異なる型のナノ粒子、好ましくは少なくとも4つの異なる型のナノ粒子を含む。それぞれの型は、少なくとも1つのペプチド配列を含んでもよく、これは、他の型のナノ粒子のペプチド配列又は複数のペプチド配列とは異なる。したがって、該ナノ粒子はペプチド配列が異なり得る。好ましい実施態様では、それぞれの型のナノ粒子は、(1つの特異的アミノ酸配列を有する)1つのみの型のペプチドを含む。したがって、各ナノ粒子は、同じアミノ酸配列を有する多数のペプチドを含むことができ、該組成物は、異なるナノ粒子を混合することによって得ることができる。配列番号1~4からなるペプチドを含むナノ粒子の混合物を含む治験薬(IMP)が生成され、試験されている。
【0025】
本発明の好ましい実施態様では、該医薬組成物は、4~6つの異なる型のナノ粒子を含み、好ましくは、異なる型のナノ粒子のすべての関連ペプチドは、少なくとも1つのT細胞エピトープを含む。特に、各ナノ粒子は、デスモグレイン-3に由来する異なる抗原性ペプチドと結合し得る。
【0026】
本発明の好ましい実施態様では、該医薬組成物は、少なくとも4つの異なる型のナノ粒子を含み、異なる型のナノ粒子はペプチド配列が互いに異なり、第1の型のナノ粒子は配列番号1からなるペプチドを含み、第2の型のナノ粒子は配列番号2からなるペプチドを含み、第3の型のナノ粒子は配列番号3からなるペプチドを含み、かつ第4の型のナノ粒子は配列番号4からなるペプチドを含む。好ましくは、それぞれの型のナノ粒子は、同じペプチド配列のペプチドのみを含む。
【0027】
本発明の特に好ましい実施態様では、該医薬組成物は、4つの異なる型のナノ粒子を含み、異なる型のナノ粒子は、それらのペプチド配列によって区別することができ、第1の型のナノ粒子は配列番号1からなるペプチドを含み、第2の型のナノ粒子は配列番号2からなるペプチドを含み、第3の型のナノ粒子は配列番号3からなるペプチドを含み、かつ第4の型のナノ粒子は配列番号4からなるペプチドを含む。好ましくは、それぞれの型のナノ粒子は、同一のペプチド配列のペプチドのみを含む。
【0028】
本発明の実施態様では、本発明の医薬組成物は、固体の疎水性コアと、20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーを含むコアを被覆するミセルと、少なくとも1つのペプチドとを含むナノ粒子を含む。これは、ナノ粒子をより容易に、より高純度に生成することができるという追加の利点を有する。本発明者らは驚くべきことに、低分子量両親媒性ポリマーが、高分子量両親媒性ポリマーよりも固体コアの被覆時に生じる凝集体が少ないことを見出した。加えて、低分子量の両親媒性ポリマーは、高分子量の両親媒性ポリマーと比較して、より効率的に精製することができる。特に、未結合ポリマーは、低分子量の両親媒性ポリマーを本発明のナノ粒子に使用すると、より効果的に分離することができる。
【0029】
本発明の好ましい実施態様では、該医薬組成物中のナノ粒子は、
a)次の構成単位
【化2】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C11~C17アルキル基である)
を含む両親媒性ポリマーであって、6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する前記ポリマーを含むミセルと、
b)配列番号1~4の1つの配列を含む少なくとも1つのペプチドであって、該ポリマーに共有結合的に連結している前記ペプチドと、
c)ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアであって、酸化鉄、CdSe/CdS/ZnS、銀及び金を含むグループから選択される追跡可能な無機材料を含む前記コアと
を含む。
【0030】
特に好ましい実施態様では、1つのナノ粒子b)のポリマーに共有結合的に連結されたすべてのペプチドは、同じアミノ酸配列を有し、低分子量ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)で構成される両親媒性ポリマーシェルa)と超常磁性の酸化鉄ナノ粒子(SPION)コアc)とを含むミセル構造の外側に共有結合されている(概略構造は、図1に示される)。
【0031】
関連する態様では、本発明は、少なくとも4つの異なる型のナノ粒子であって、10~300nmの直径を有し、各ナノ粒子が、
a)次の構成単位
【化3】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C11~C17アルキル基である)
を含む両親媒性ポリマーであって、6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する前記ポリマーを含むか、又はそれからなるミセルと、
b)配列番号1~4の1つの配列からなる1つのペプチドであって、該ポリマーに共有結合的に連結している前記ペプチドと、
c)ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアであって、酸化鉄、CdSe/CdS/ZnS、銀及び金を含むグループから選択される追跡可能な無機材料を含む前記コアと
を含み、
ペプチド配列が互いに異なる前記4つの異なる型のナノ粒子を含む、医薬組成物を提供する。
【0032】
上記の医薬組成物は、尋常性天疱瘡の治療に、特に尋常性天疱瘡と診断されたヒトの治療に使用することができる。
【0033】
本発明は、したがって、尋常性天疱瘡の治療のための医薬組成物であって、少なくとも4つの異なる型のナノ粒子であって、10~300nmの直径を有し、それぞれが、
a)次の構成単位
【化4】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C11~C17アルキル基である)
を含む両親媒性ポリマーであって、6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する前記ポリマーを含むか、又はそれからなるミセルと、
b)配列番号1~4の1つの配列からなる1つのペプチドであって、該ポリマーに共有結合的に連結している前記ペプチドと、
c)ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアであって、酸化鉄、CdSe/CdS/ZnS、銀及び金を含むグループから選択される追跡可能な無機材料を含む前記コアと
を含み、
ペプチド配列が互いに異なる前記4つの異なる型のナノ粒子を含む、前記医薬組成物を提供する。
【0034】
(ナノ粒子)
本発明の医薬組成物中のナノ粒子は、ある部分、例えば、肝類洞壁内皮細胞及び/又はクッパー細胞などの特定の細胞を標的にする、又は標的にすることを促進する炭水化物又はタンパク質をさらに含むことができる。こうした部分は、例えば、受容体介在型エンドサイトーシスを介する循環からの取り込みを増強又は加速する可能性がある。好適な修飾の例は、マンノースなどの炭水化物である。
【0035】
該ナノ粒子は、ミセルを形成するポリマーのおかげで、負に帯電していても、非荷電であってもよい。好ましくは、該ナノ粒子は、pH6~7(測定時のpH)で負に帯電する。ポリマー被膜が酸、例えば、カルボン酸基を含むと、負に帯電したナノ粒子につながり得る。
【0036】
本発明の医薬組成物に用いられる該ナノ粒子は、pH6~7(測定時のpH)において、-20~-60mV、好ましくは-30~-50mV、より好ましくは-35~-45mVのゼータ電位を有し得る。ゼータ電位は、Malvern社のZetasizer Nano ZS装置を使用して測定することができる。
【0037】
該ナノ粒子は、動的光散乱法(DLS)によって測定された場合に、10~100nm又は10~70、好ましくは10~50、より好ましくは15~40m、最も好ましくは20~35nmの流体力学的直径(z-平均)を有することができる。
【0038】
該ナノ粒子は、動的光散乱法(DLS)によって測定された場合に、0.50未満、好ましくは0.05~0.45、より好ましくは0.10~0.40の多分散指数(polydispersity index)を有することができる。
【0039】
流体力学的直径及び多分散指数の決定は、電気泳動光散乱分析方法、好ましくはMalvern社のZetasizerを使用して実施される。一実施態様では、流体力学的直径及び多分散指数を決定するための方法は、電気泳動光散乱法、使い捨てのポリスチレンキュベット、Zetasizerソフトウェア7.12、ミリQ水を使用して実施される。20nm及び100nmのナノ球体サイズ標準物質(NIST認証又は等価物)を、0.9%塩化ナトリウム水溶液に希釈し、試験試料を水に希釈する。すべての水性試薬は、使用前に0.22μm膜で濾過する。本発明の最も好ましい実施態様では、流体力学的直径及び多分散指数を決定するための方法は、以下の分析条件と組み合わせて、電気泳動光散乱法を使用して実施される:
【0040】
分析条件の一覧:
【表1】
【0041】
データの評価は、粒度分布(size distribution)の尺度として使用される、DLSにおいてキュムラント平均(cumulants mean)及び多分散指数(PDI)としても公知のパラメータである、平均直径(z-平均、nm、強度による)に基づく。
【0042】
さらに、本発明の医薬組成物中のナノ粒子は、0.1~5mg/mL、好ましくは0.5~4mg/mL、より好ましくは1~3mg/mLの総ポリマー含有量を有することができる。総ポリマー含有量は、GPCによって決定される。総ポリマー含有量を測定するために、ペプチドを加水分解し、粒子を破壊する(例えば、6M HCl溶液を使用)。ポリマーはEDTAの添加後に抽出される。溶媒の蒸発後、残渣を再溶解し、ポリマー含有量をGPCによって測定する。
【0043】
総ポリマー含有量の測定は、好ましくは、参照材料として以下の試薬及び参照標準物質:水(HPLCグレード)、アセトニトリル(HPLCグレード)、BHTを含むテトラヒドロフラン(THF-HPLCグレード)、酢酸100%(分析グレード)、塩酸37%(分析グレード)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物(分析グレード)、酢酸エチル(分析グレード)、水酸化ナトリウム(分析グレード)及びポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)を用いて実施される。総ポリマー含有量を測定するためのクロマトグラフィー条件は次のとおりである。
【0044】
【表2】
【0045】
本発明の医薬組成物中のナノ粒子は、多くの量のペプチドを含む。特に、該医薬組成物は、0.1mMを超える、好ましくは0.2~1mM、より好ましくは0.3~0.8mMの総ペプチド含量を有することができる。総ペプチド含有量は、HPLC分析の前にペプチドをHClで加水分解し、得られたアミノ酸をオルトフタルアルデヒドで誘導体化することによって測定できる。試料は、アミノ酸標準液を標準添加することにより分析できる。
【0046】
本発明の医薬組成物に使用されるナノ粒子の異なる構成成分は、以下のセクションにおいて、より詳細に説明される。
【0047】
(ミセル)
本発明の文脈では、用語「ミセル」は、水溶液中に分散した両親媒性分子の凝集体に関する。この両親媒性分子の親水性部分は、周囲溶媒と接しており、両親媒性分子の疎水性の「尾部」領域はミセルの内部に隔離され、したがって、水性液体中でのナノ粒子の溶解様の分布挙動がもたらされる、すなわち、ナノ粒子が水溶性になる。この型のミセルは、順相ミセル(又は水中油型ミセル)としても公知である。
【0048】
ミセルは、1つ、しかしまた2つ以上、例えば、2つ、3つ又は4つの両親媒性ポリマー分子によって形成することができる。ミセルは、同じ又は異なる両親媒性ポリマー分子によって形成することができる。一般に、本明細書の文脈では、「a」又は「the」は、特に記述されない限り、「1つ」に限定されることは意図されない。
【0049】
好ましい実施態様では、ミセルは、単層の両親媒性ポリマーによって形成される。
【0050】
こうしたミセルは、両親媒性ポリマーによって形成される二重層又はリポソームとは構造的に異なる可能性がある。この場合、これらの構造は、本発明のナノ粒子には含まれない、又は有意な割合までは含まれない(例えば、10%を超えない、5%を超えない、又は好ましくは1%を超えない)。
【0051】
本発明の一実施態様では、両親媒性ポリマーを使用して、ミセルの少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%を生成する。好ましい実施態様では、ミセルは、両親媒性ポリマーで構成される。
【0052】
本発明のいくつかの実施態様では、ナノ粒子は、固体の疎水性コアを含まない。他の実施態様では、ナノ粒子は、ミセルと固体の疎水性コアとを含む。
【0053】
本発明の一実施態様では、ミセルは、脂肪酸又はホスファチジルコリンなどのさらなる構成成分で共安定化(co-stabilize)することができる。これに関して、好ましい脂肪酸は、ステアリン酸又はオレイン酸である。好ましいホスファチジルコリンは、Lipoid S100、Lipoid S PC3及びDSPCから選択される。コレステロールも、共安定剤(co-stabilizer)として使用することができる。
【0054】
(両親媒性ポリマー)
両親媒性ポリマーは、一般に、8~23個、好ましくは8~21個、最も好ましくは16~18個の炭素原子の長さを有する疎水性脂肪族鎖を含む疎水性領域を含む。両親媒性ポリマーの親水性領域は、水溶液中で負に帯電していることができる。
【0055】
本発明の好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、溶液中で自然にミセルを形成する。固体の疎水性コアが存在する場合、両親媒性ポリマーは、固体のコアの周囲にミセルを形成し、ナノ粒子が水溶性になる。
【0056】
両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、20,000g/mol以下、好ましくは10,000g/mol以下、又は6,000g/mol以下、より好ましくは6,000~1,000g/mol、最も好ましくは3,000~6,000g/molであり得る。
【0057】
数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して、好ましくは較正標準物質としてポリスチレンを使用して、決定することができる。
【0058】
好ましい実施態様では、数平均分子量は、35℃の温度の屈折率検出器及び較正標準物質としてのポリスチレンと組み合わせて、40℃の温度のPL-gel mixed Dカラム、テトラヒドロフラン/酢酸90/10%(v/v)で構成される移動相、1.0ml/分の流速を使用して決定される。
【0059】
最も好ましい実施態様では、数平均分子量の決定は、GPC及び次の測定条件を使用する:
【0060】
【表3】
【0061】
両親媒性ポリマーは、交互コポリマーであり得る。交互コポリマーは、交互に並んで分布する2種類のモノマー単位を含むコポリマーである。
【0062】
本発明の一実施態様では、両親媒性ポリマーは、無水マレイン酸と少なくとも1種のアルケンとのコポリマーである。
【0063】
両親媒性ポリマーの生成に使用されるアルケンは、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン又は1-エイコセンのうちの1つ以上から選択することができ、好ましくは、アルケンは、1-オクタデセンである。
【0064】
本発明の好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、無水マレイン酸とアルケンとのコポリマーである。
【0065】
本発明の好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、疎水性のアルキル側鎖を有する、親水性のポリ無水マレイン酸主骨格を有する。典型的には、側鎖は、5~23個の炭素原子、特に9~21個の原子を有することができる。最も好ましい実施態様では、側鎖は、直鎖であり、10~18個の炭素原子を有する。
【0066】
両親媒性ポリマーは、次の構成単位
【化5】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基である)
を含むことができる。本発明の好ましい実施態様では、Rは、C4~C22アルキル基、例えばC7~C19アルキル基である。
【0067】
よりいっそう好ましい実施態様では、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C7~C17アルキル基であり、最も好ましくは、Rは、直鎖ペンタデシル基又は直鎖ノニル基である。
【0068】
両親媒性ポリマーは、先に定義された構成単位で構成され得る。
【0069】
本発明による他の実施態様では、両親媒性ポリマーは、少なくとも50%の、好ましくは少なくとも70%の、最も好ましくは90%を超える、先に定義された構成単位を含む。
【0070】
好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、ポリ(マレイン酸-1-オクタデセン)、ポリ(マレイン酸-1-テトラデセン)、又はポリ(マレイン酸-1-ドデセン)を含むグループから選択され、好ましくは、ポリマーは、ポリ(マレイン酸-1-オクタデセン)であり、ポリマーの数平均分子量は、6,000~1,000g/molである。
【0071】
特に好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)、ポリ(マレイン酸-alt-1-ドデセン)及びポリ(マレイン酸-alt-1-テトラデセン)を含むグループから選択され、好ましくは、ポリマーは、ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)であり、ポリマーの数平均分子量は、5000~1000g/molである。
【0072】
(ペプチド)
本発明の医薬組成物は、ナノ粒子の一部を形成する配列番号1~4を含むペプチドを含む。
【化6】
【0073】
好ましい実施態様では、少なくとも1つのペプチドは、配列番号1~4の配列のうちの1つからなる。別の実施態様では、少なくとも1つのペプチドは、(配列番号1~4の配列に加えて)2個以下、好ましくは1個以下の追加アミノ酸を含む。
【0074】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、配列番号1~4の配列を有するペプチドのみを含む。これは、この実施態様では、これらのペプチドのみが存在し得ることを意味するが、これは組成物中の他の構成成分の存在を排除するものではない。
【0075】
該ペプチドは、合成する、組換えによって発現させる、又は天然源から単離若しくは修飾することができる。
【0076】
該ペプチドは、ミセルの外側に結合されていてもよいし、又は(ナノ粒子中に固体の疎水性コアが存在しない実施態様では)ミセルの内側に封入されていてもよい。したがって、該ペプチドは、ミセルの外側又はミセルの内側に局在し得る。
【0077】
該ペプチドは、ミセルに共有結合的に連結していても、又は非共有結合していてもよく、好ましくはミセルに共有結合的に連結していてよい。
【0078】
好ましい実施態様では、該ペプチドは、カルボジイミド又はスクシンイミドカップリングなどの、当技術分野で公知の、ペプチドを共有結合的にカップリングする方法を使用して、該ミセルに共有結合的に連結される。好ましくは、該ペプチドは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)化学を使用して、該ミセルに共有結合的に連結される。
【0079】
(固体の疎水性コア)
本発明の一実施態様では、ナノ粒子は、ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアを含む。コアは、好ましくは酸化鉄、CdSe、銀、又は金を含む、無機コアであり得る。
【0080】
コアの直径は、2~500nm、好ましくは3~25nm、より好ましくは、5~15nmであり得る。コアの直径は、透過型電子顕微鏡法(TEM)又はX線小角散乱法(SAXS)を使用して決定することができる。
【0081】
例示的な無機コアは、オレイン酸又は別のカルボン酸(C14~C22、好ましくはC16~C18)によって安定化させた酸化鉄ナノ粒子、量子ドット(例えばトリオクチルオキシンホスフィンオキシド(trioctyloxinphosphinoxide)によって安定化させたCdSe/CdS/ZnS)、例えばスルホン化合物によって安定化させた金ナノ粒子である。
【0082】
こうした無機コアは、単独では、典型的には、水などの水性溶媒中で安定ではないが、無機コアをポリマーミセルに埋め込むことで、これは水溶性となる。両親媒性ポリマーの疎水性部分は、ナノ粒子の疎水性コアと相互作用し、コアの周囲に単一被覆層のポリマーの形成をもたらす。被覆プロセスにおいて、両親媒性ポリマーは、リガンド交換によって、コアの疎水性部分と置き換わることができ、したがって、コアの周りに二重層ミセルが形成される。本発明の一実施態様では、ポリマーは、コア粒子の表面上のオレイン酸と少なくとも一部分が置き換わり、ポリマーの親水性部分は、酸化鉄コアの表面と相互作用し、ポリマーの疎水性部分は、互いに相互作用し、酸化鉄コアの周りに二重層ミセルが形成され、ポリマーで被覆された酸化鉄がもたらされる。
【0083】
本発明の好ましい実施態様によれば、コアは、超常磁性である。
【0084】
本発明の特に好ましい実施態様では、コアは、オレイン酸によって安定化させることができる超常磁性の酸化鉄ナノ粒子(SPION)である。
【0085】
コアは、好ましくは、例えば蛍光、電子顕微鏡法又は他の検出方法におけるその特性によって、本発明のナノ粒子を追跡可能にする。
【0086】
(ナノ粒子の生成)
本発明の医薬組成物中に存在するナノ粒子は、
a)疎水性コアナノ粒子を得るステップと、
b)好ましくはラジカル共重合を使用して両親媒性ポリマーを得るステップと、
c)該両親媒性ポリマーを任意に精製するステップと
d)該疎水性コアナノ粒子と該両親媒性ポリマーを混合して、ミセルを形成するステップと
e)少なくとも1つのペプチドを添加して、ナノ粒子を形成するステップと
を含む方法によって生成することができる。
【0087】
ペプチドがミセルによって封入される場合、ステップd)の前に、ステップe)が実施される。この場合、ミセル形成の前に、両親媒性ポリマーにペプチドが添加される。
【0088】
ステップa)の疎水性コアは、溶液中で適切な反応物を使用して合成することができる。好ましくは、疎水性コアは、有機溶媒の存在下で、反応物としての金属塩及びカルボン酸の塩を使用して合成される。好ましくは、反応は、酸素制限下で、高温で行われる。
【0089】
本発明のナノ粒子に使用される両親媒性ポリマーは、ラジカル開始剤を使用するラジカル共重合によって調製することができる。
【0090】
20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーを得る一つの方法は、無水物のポリマーを生成するステップと、この無水物を加水分解して酸を得るステップとを含む2ステップ方法を使用して、これを合成することに帰する。ポリマーの分子量は、反応物の濃度又はラジカル開始剤の量を変えることによって制御することができる。ポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって分析することができる。共重合は、1,4ジオキサン、キシレン、又はクロロベンゼンなどの有機溶媒中で行うことができる。
【0091】
多くのラジカル開始剤が、当技術分野で公知である;これには、様々な過酸化物及びアゾ系化合物が含まれる。好適な過酸化物の例は、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル、過酸化ジ-t-ブチル、過酸化2,4-ジクロロベンジル、ヒドロ過酸化t-ブチル、ヒドロ過酸化クメン、過酸化ジアセチル、ペルオキシ炭酸ジエチル、過安息香酸及び過ホウ酸t-ブチルである。好適なアゾ系化合物には、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、ホウフッ化p-ブロモベンゼンジアゾニウム、p-トリルジアゾアミノベンゼン、水酸化p-ブロモベンゼンジアゾニウム、アゾメタン、及びハロゲン化フェニルジアゾニウムが含まれる。好ましくは、ラジカル開始剤は、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)である。
【0092】
共重合は、70~120℃、好ましくは90~110℃などの高温で行うことができる。好ましくは、共重合は、混合物を、70~120℃、好ましくは90~110℃に加熱することによって開始される。
【0093】
ステップb)は、反応物を混合するステップと、混合物を脱酸素するステップと、混合物を加熱するステップと、次いで混合物を冷却するステップとを含むことができる。その後、ポリマーを、一晩、溶解及び撹拌することができる。形成された固体を、好ましくは遠心分離を使用して、回収することができる。
【0094】
ステップb)は、ポリマーへの塩基の添加を含むことができる(例えばNaOH)。好ましくは、ほとんどすべての固体が溶解するまで、塩基を、高温、好ましくは50℃~70℃、例えば60℃で、ポリマーと反応させる。得られた懸濁液を、酸性化することができる(例えばpH<2)。その後、反応混合物を、酢酸エチルなどの有機溶媒で抽出することができる。有機層を、水酸化ナトリウム溶液で抽出することができる。この水溶液を、酢酸エチルなどの有機溶媒で再び抽出し、次いで乾燥させて、精製した両親媒性ポリマーを得ることができる。
【0095】
ポリマーは、さらに精製することができる(ステップc)。好ましくは、ポリマーは、ポリマーをn-ヘキサン又はn-ヘプタンで抽出することによって、さらに精製される。抽出は、10g/Lを超える、好ましくは100g/lの濃度で実施することができる。さらに、両親媒性ポリマーの追加の精製ステップを追加することができる。この追加の精製ステップでは、重合の粗反応生成物を、溶解及び沈殿させる。好ましい実施態様では、溶媒はジクロロメタンであり、ポリマーを、メタノール/ヘプタン又はアセトニトリル/イソプロパノールの混合物を使用して沈殿させる。使用される混合物は、例えば95/5%(v/v%)メタノール/ヘプタン、10/90(v/v%)アセトニトリル/イソプロパノール又は5/95(v/v%)アセトニトリル/イソプロパノールを含有することができる。好ましい実施態様では、沈殿混合物は、-10~10℃、好ましくは-5~5℃の温度で添加される。
【0096】
加水分解及び後処理後の両親媒性ポリマーの純度を、1H NMRによって測定することができる。
【0097】
ミセルは、両親媒性ポリマーを含有する溶液を形成することによって形成することができる(ステップd))。好ましくは、ミセルは、水溶液中で形成される。両親媒性ポリマーに、共安定剤を添加して、ミセル形成を改善することができる。好ましくは、ステップd)は、両親媒性ポリマー及びコア粒子を可溶化するサブステップと、薄膜が形成されるまで溶媒を除去するサブステップと、上昇温度及び周囲圧力で塩基性水溶液を添加して、水性のコロイド分散物を形成させるサブステップと、溶液を希釈するサブステップと、これを任意に濾過するサブステップとを含む。その後、数回の洗浄ステップを適用することができる。
【0098】
ステップe)に使用されることとなるペプチドは、最先端の固相化学を使用して合成することができる。
【0099】
ペプチドの合成は、固相ペプチド合成(SPPS)を使用して、CからN方向に、Fmoc化学を介して達成され得る。各アミノ酸のαアミノ基が、フルオレン-9-イルメトキシカルボニル(Fmoc)基で保護されるのに対して、側鎖官能基も、様々な適切な保護基でブロックされる。一般に、SPPSは、N末端の脱保護、それに続くカップリング反応のサイクルの繰り返しで構成される。最初のFmoc保護されたアミノ酸は、樹脂にカップリングされる。その後、アミン基が、ピペリジンをジメチルホルムアミド(DMF)に入れた混合物で脱保護され、次いで、第2のFmoc保護されたアミノ酸の遊離の酸とカップリングされる。このサイクルが、所望される配列が得られるまで繰り返される。各ステップ間で、樹脂を洗浄する。各カップリング反応の完了は、定性的なニンヒドリン試験によって観察する。合成の最後のステップでは、未精製のペプチド樹脂を、DMF及びメタノールで連続的に洗浄し、乾燥させる。次いで、ペプチドから保護基を除去し、トリフルオロ酢酸(TFA)を使用してペプチドを樹脂から切断する。得られた未精製のペプチドを、エーテル沈殿によって、切断混合物から単離する。さらに、分取HPLCを通じてペプチドを精製して純度要件に到達させ、適切な溶媒-緩衝液系を使用することによって、対イオンTFAを塩化物イオンと置き換える。最後に、精製したペプチドを凍結乾燥させる。
【0100】
得られたナノ粒子は、強力洗浄及び濾過ステップを使用して精製して、カップリング試薬(1種又は複数)及びあらゆる低分子量成分を除去することができる。
【0101】
(組成物)
本発明の医薬組成物は、液体の又は凍結乾燥された担体を含み得る。特に、ヒト対象への投与については、組成物は、無菌且つ生物学的に適合性があることが好ましいことが明らかである。
【0102】
好ましい実施態様では、該医薬組成物は、液体担体中にナノ粒子を含む。液体担体は、好ましくは、水、又は水をベースにする、例えば水性緩衝液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンゲル液、トリス緩衝液又は塩化ナトリウム溶液である。好適な保存剤を、含有してもしなくてもよい。
【0103】
好ましい実施態様では、本発明の医薬組成物は、水性緩衝液中に分散されたナノ粒子を含み、ここで、緩衝液は、好ましくは、少なくとも1種の糖、少なくとも1種の第一級アミン及び/又は少なくとも1種のアミノ酸を含む。特に好ましい実施態様では、該組成物は、D-マンニトール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)及び/又はL-乳酸の水溶液中に分散されたナノ粒子を含む。この緩衝液の使用は、粒子がこの緩衝液中で非常に安定であり、後で凍結乾燥することができるという利点を有する。
【0104】
本発明の医薬組成物は、少なくとも4つの異なる型のナノ粒子を含むことができる。好ましくは、それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列(単数)又はペプチド配列(複数)とは異なる少なくとも1つのペプチド配列を含む。該医薬組成物は、100μM未満、好ましくは0.5~80μM、最も好ましくは1~50μMの濃度でそれぞれの型のナノ粒子を含むことができる。本発明の医薬組成物は、等モル濃度の異なる型のナノ粒子を含むことができる。
【0105】
本発明の好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、好ましくは水性緩衝液中に分散した4つの異なる型のナノ粒子を等モル濃度で含む。
【0106】
本発明の好ましい実施態様では、本発明の医薬組成物は、
a)次の構成単位
【化7】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C11~C17アルキル基である)
を含む両親媒性ポリマーであって、6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する前記ポリマーを含むミセルと、
b)配列番号1~4の1つの配列を含む少なくとも1つのペプチドと、
c)ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアであって、酸化鉄、CdSe/CdS/ZnS、銀及び金を含むグループから選択される追跡可能な無機材料を含む前記コアと
を含むナノ粒子を含む。
【0107】
好ましい実施態様では、該医薬組成物は、4つの異なる型のナノ粒子であって、それぞれが、
a)次の構成単位
【化8】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C11~C17アルキル基である)
を含む両親媒性ポリマーであって、6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する前記ポリマーを含むミセルと、
b)配列番号1~4の配列から選択される1つのペプチドと、
c)ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアであって、酸化鉄、CdSe/CdS/ZnS、銀及び金を含むグループから選択される追跡可能な無機材料を含む前記コアと
を含み、
4つの異なる型のナノ粒子はペプチド配列が互いに異なり、第1の型のナノ粒子は配列番号1を有するペプチドを含み、第2の型のナノ粒子は配列番号2を有するペプチドを含み、第3の型のナノ粒子は配列番号3を有するペプチドを含み、第4の型のナノ粒子は配列番号4を有するペプチドを含む、前記4つの異なる型のナノ粒子を含む。
【0108】
特に好ましい実施態様では、該医薬組成物は、4つの異なる型のナノ粒子であって、それぞれが、
a)次の構成単位
【化9】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C11~C17アルキル基である)
を含む両親媒性ポリマーであって、6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する前記ポリマーを含むミセルと、
b)配列が配列番号1~4から選択される同一のアミノ酸配列を有する多数のペプチドと、
c)固体の酸化鉄コアと
からなる、前記4つの異なる型のナノ粒子を含む。
【0109】
(組成物の使用)
本発明の医薬組成物は、尋常性天疱瘡の治療に使用することができる。本発明によれば、用語「治療すること」は、対象におけるある特定の疾患の症状の軽減、及び/又はある特定の障害と関連する確認可能な測定値の改善を指すために使用される。本発明は、尋常性天疱瘡自己抗原に対する免疫学的寛容の誘導に使用するための組成物を提供する。
【0110】
該医薬組成物は、それを必要とする対象に投与することができる。
【0111】
対象への投与に必要とされる用量及び濃度は、その症例の事実及び状況に従って、責任ある主治医(medical attendant)によって決定することができる。例示的な用量は、例えばヒト対象について、患者の体重あたり0.03μmol~0.90μmolを含むであろう。
【0112】
投与は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、10又は14日の投与間隔で、例えば2回、3回、又は4回繰り返すことができる。投与は、年に1回、2回、3回又は4回を含め、長期間にわたって繰り返すこともできる。
【実施例
【0113】
(実施例)
本発明を、本発明によるナノ粒子の合成を詳細に説明している以下の実施例によって例示する。
【0114】
これらの実施例は、本発明の範囲を限定するとみなされるべきではなく、例示するとみなされるべきである。
【0115】
(実施例1:超常磁性の酸化鉄結晶コア(SPION)の調製)
(a)SPIONコアの調製)
オレイン酸鉄錯体の合成に使用する方法を、図2に模式的に示す。別の方法を図3に示す。SPIONの合成を、図4に模式的に示す。
【0116】
オレイン酸鉄錯体を、70℃のヘプタンでの還流下で、エタノール中のオレイン酸、水酸化ナトリウム及び水中の塩化鉄を混合することによって調製する。反応後、生成物を反応器内で数回の抽出洗浄ステップによって精製する。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、次いで最後にロータリーエバポレーターで濃縮する。図3に示す代替方法では、オレイン酸鉄錯体を真空条件下、80℃でさらに24時間加熱し、最終生成物を5±3℃で保存する。
【0117】
図4に示す第2のステップでは、オレイン酸鉄錯体を、オレイン酸と共に、室温で1-オクタデセンに溶解し、完全な溶解まで撹拌した。この溶液を脱酸素し、110℃で脱水し、次いで、酸化鉄ナノ結晶の形成のために300℃で加熱した。冷ました後、この生成物を、磁気分離を使用して、アセトン及びテトラヒドロフランでの数回の洗浄ステップによって精製した。次いで、精製したSPIONを、クロロホルムで希釈し、ロータリーエバポレーター中で濃縮し、最後に、以下に記載する通りに、さらなる製造ステップに使用するために、クロロホルムで希釈した。
【0118】
(b)低分子量ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)(LM-PMAcOD)の調製)
低分子量ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)(LM-PMAcOD)の合成を、図5~8に模式的に示される2ステッププロセスで実施した。
【0119】
第1のステップ(図5)では、1,4-ジオキサン中の2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル))(AIBN)によって開始される、1-オクタデセンと無水マレイン酸との共重合を実施した。この生成物を、ジクロロメタンとの共蒸発及びイソプロパノール及びアセトニトリルでの沈殿によって精製し、数平均分子量(Mn)2500~4000g/molを有する低分子量ポリ(無水マレイン酸-alt-1-オクタデセン)、すなわちLM-PMAODをもたらした。
【0120】
第2のステップ(図6)では、LM-PMAODを、水酸化ナトリウム溶液中で、ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)(LM-PMAcOD)に加水分解した。生成物の精製のために、また残留1-オクタデセンなどの不純物を除去するために、H2SO4、酢酸エチル、及びNaOHを用いて2つの酸塩基抽出ステップを実施した。この生成物を、硫酸マグネシウムで乾燥させ、クロロホルムと共蒸発させ、最後に、ヘプタン中で、固液抽出によって精製した。
【0121】
図7に代替法が示されており、これは、上記の加水分解工程と、生成物の精製のためにH2SO4及び酢酸エチルを使用する単一の酸塩基抽出工程のみを含む。代替方法の他のステップは、図6に示すものと同じである。
【0122】
(c)SPIONのポリマー被覆)
SPIONのポリマー被覆を、図8に模式的に示す。PMAcOD-SPION粒子合成のフローチャートを、図9に示す。
【0123】
両親媒性ポリマーPMAcODをSPIONコアの周囲に配列させることによって、ミセル構造を形成した。SPIONの表面上に存在するオレイン酸分子の大部分を、PMAcOD単位とのリガンド交換によって置き換え、それによって、疎水性ポリマー側鎖は、疎水性の二重層を形成し、負に帯電したミセル構造が構成される。ミセルの表面上の帯電したカルボキシル基は、ペプチドのためのアンカーとして働く。
【0124】
被覆手順のために、ポリマーとSPIONを、クロロホルムに溶解した。薄膜が形成されるまで、回転蒸発を介して溶媒を除去した。水酸化ナトリウム溶液を添加し、透明な暗褐色の水性のコロイド分散が形成されるまで、フラスコを上昇温度及び周囲圧力で回転させた。この分散物を、水酸化ナトリウム溶液で希釈し、0.2μmフィルターで濾過する。次いで、低分子量成分の分離のためのタンジェンシャルフロー濾過(TFF)を使用して、水及び水中のNaOH/NaClでの数回の洗浄ステップを実施し、それに続いて、より大きい粒子及び凝集物を除去するために、また、PMAcOD-SPION分散物の滅菌のために、0.1μmフィルターでの濾過を行った。最終のナノ粒子を、水に分散させた(図9)。
【0125】
(d)ペプチド及びペプチドカップリング)
ペプチドカップリング及びナノ粒子合成を、図10に模式的に示す。
【0126】
ペプチドの合成は、固相ペプチド合成(SPPS)を使用して、CからN方向に、Fmoc化学を介して達成した。各アミノ酸のアルファアミノ基を、フルオレン-9-イルメトキシカルボニル(Fmoc)基で保護したのに対して、側鎖官能基も、様々な適切な保護基でブロックした。
【0127】
分取HPLCを通じてペプチドを精製して純度要件に到達させ、適切な溶媒-緩衝液系を使用することによって、対イオンTFAを塩化物イオンと置き換えた。最後に、精製したペプチドを凍結乾燥させた。
【0128】
遊離のペプチド(出発材料)の特性決定を、LC-MSによって実施した。ペプチドの分子量を、マルチモードエレクトロスプレー・大気圧化学イオン化質量分析によって測定した。
【0129】
【表4】
*理論上のDa単位のモノアイソトピック質量
【0130】
ペプチドを、ホウ酸/四ホウ酸ナトリウム十水和物(SBB)緩衝液中で、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)化学を使用して、ポリマー表面にカップリングさせた。次いで、得られたTPC(Topas粒子コンジュゲート)調製物を濾過し、TFF精製によって精製した。最終のナノ粒子を、水に分散させ、0.2μmフィルターで濾過し、無菌容器に収集した。
【0131】
(実施例2: 3つのペプチドコンジュゲートを含む組成物対4つのペプチドコンジュゲートを含む組成物の治療効果)
この実験では、異なるナノ粒子を含む異なる組成物の治療効果を比較した。簡単に説明すると、3つの異なるペプチドを含む組成物を、4つの異なるペプチドを含むナノ粒子を含む組成物と比較した。その結果を図11に示す。
【0132】
試験した以下の異なる混合物は、
混合物1:それぞれが配列番号1、2及び4のペプチドの1つにカップリングしており、3つの異なる濃度(3、2.1、1.05μmol/kg)で試験した3つの異なるナノ粒子の等モル混合物
混合物2:それぞれが配列番号1~4のペプチドのうちの1つにカップリングしている4つの異なるナノ粒子の非等モル混合物(3.05μmol/kg)
混合物3:それぞれが配列番号1~4のペプチドのうちの1つにカップリングしている4つの異なるナノ粒子の等モル混合物(3.05μmol/kg)
混合物4:それぞれが配列番号1、2及び4のペプチドの1つにカップリングしている3つの異なるナノ粒子で試験した3つのTPC-Dsg3-ペプチドの非等モル混合物(2.62μmol/kg)
対照:PBS緩衝液
であった。
【0133】
研究PoC5及び6で使用した異なる混合物を、マンニトール-トリス-乳酸緩衝液(5%マンニトール + 5mMトリス + 6mM L-乳酸)で調製した。PoC5においてのみ、混合物2を100mM NaCl溶液で調合した。
【0134】
抗Dsg3抗体の誘導については、別の文献(Emingらの文献, J Immunol. 193, 4391-9 (2014)に記載したように、8~12週齢の雌雄HLA-DRB1*04:02-トランスジェニックマウスを、0日目にミョウバン中の組換えDsg3タンパク質の腹腔内注射によって免疫し、続いて14日目に2回目の免疫を行った。このDsg3免疫プロトコルは、21日目以降、抗体価の検出可能な増加を誘発し、28日目にはIgG力価が堅牢であった。
【0135】
Dsg3による2回の免疫のそれぞれの1日前に、HLAトランスジェニックマウスの尾静脈に、ナノ粒子の異なる混合物と関連する対照を注入することによって、予防的アプローチに似た状況を作り出した。
【0136】
実験は免疫の28日後に完了した。TPC治療効果の主要な情報として、Emingらの文献, J Immunol. 193, 4391-9 (2014)に記載されているように、抗Dsg3 ELISAによって、実験の過程で抗Dsg3抗体の産生をモニターした。
【0137】
この目的のために、血清試料を、免疫前のベースライン時(例えば、-2日目)及び免疫の後12、21及び28日目に採取した。Dsg3-IgG ELISA値の統計解析を、ダゴスティーノ・ピアソン正規性検定を行った後、マン・ホイットニー検定を用いて行った。データを平均値とSEMとして示す。
【0138】
緩衝液(ビヒクル)のみを投与した免疫マウスは、28日後に高レベルの抗Dsg3 IgGを産生し、対照として役立った。
【0139】
図10の左のグラフに示すように、混合物2による抗Dsg3-IgG力価の有意な低下とは対照的に、混合物1では、試験した3つの濃度のいずれにおいても効果は観察されなかった。
【0140】
さらに、図10の右グラフに示すように、4つのTPC-Dsg3-ペプチドの混合物(混合物2及び混合物3)を投与した動物のグループでのみ治療効果が観察され、非等モル混合物2で有意な結果が得られ、等モル混合物3で顕著な傾向が見られた。この効果とは対照的に、3つのTPC-Dsg3-ペプチドの非等モル混合物(混合物4)では、抗Dsg3-IgG力価の明らかな低下は示されなかった。
【0141】
(実施例3:マウスにおける制御性T細胞の誘導)
HLA DRB1*0402トランスジェニックマウス(TG1マウス)の脾臓、リンパ節及び肝臓における免疫細胞の組成と活性化に対するDsg3-TPCの予防投与の影響を、免疫後7日目に分析した。
【0142】
材料と方法
TPC(Topas粒子コンジュゲート)
上記のようにして、以下の3つのナノ粒子の調製物を生成した:
12A.1: それぞれが配列番号1~4のうちの1つを有する1つのペプチドに0.5μmol/kgの濃度でカップリングしている4つの異なるナノ粒子の等モル混合物。
12A.2: それぞれが配列番号1~4のうちの1つを有する1つのペプチドに2μmol/kgの濃度でカップリングしている4つの異なるナノ粒子の等モル混合物。
12A.3: 12A.1及び12A.2の平均鉄含有量に対応する鉄含有量に調整された空の対照粒子。
【0143】
マウス20g当たり各ペプチド2.5nmol(10nmolの総ペプチド用量)又はマウス20g当たり各ペプチド10nmol(40nmolの総ペプチド用量)を適用するように、TPCをロードした。TPCを製剤緩衝液(5%マンニトール + 5mM トリス + 6mM L-乳酸、pH7.4)に分散させた。
【0144】
TPC試料を生成し、使用するまで標準的な冷蔵庫で、4℃(2~8℃)で保存した。
【0145】
使用(マウスへの注射)前に、TPCの入ったチューブを指先で静かに振とうした(ボルテックスではない)。
【0146】
(マウス)
7~10週齢のDRB1*04:02 tg (TG1マウス)雄及び雌マウスの3つのグループを使用した:
A:対照グループ(n = 2): PBS
B:治療グループ1 (n = 6): 12A.1 - TPM203, 10 nmol
C:治療グループ2 (n = 6): 12B.1 - TPM203, 40 nmol
D:治療グループ3 (n = 6): 12C.1 -空のTP。
【0147】
(治療プロトコル)
-1日目:採血と血清収集。
-1日目:体重20gあたりそれぞれ120μlのTPC懸濁液をグループA、B及びCのマウスにi.v.投与した。治療は、上記の実施例2と同様とした。
0日目:グループB、C及びDのすべてのマウスは、標準プロトコルに従ってDsg3タンパク質/ミョウバンのi.p.注射によって感作された。グループAは、PBSのみ(バックグラウンド対照)のi.p.注射によって偽感作された。
7日目:動物の準備と生体材料の収集。
【0148】
プロトコルは、図12Aにも示されている。
【0149】
収集した試料をフローサイトメトリーで分析した。簡単に説明すると、脾臓から単一細胞懸濁液を生成し、赤血球溶解を行い、以下の試薬を使用して100万個の細胞を染色した:
・PacO-NHS, P30253を使用した死細胞排除
・CD3-PE-Cy7(クローン17A2)、
・CD4-PE-Dazzle(クローン: GK1.5)、
・Foxp3-FITC(クローン: FJK-16s)。
【0150】
Foxp3の染色は、eBioscience Foxp3キットを用いて行った。
【0151】
BD Fortessaフローサイトメータを解析に用い、以下のゲーティング戦略を適用した:ダブレットの除去(FSC-A対FSC-H) → リンパ球のゲーティング(FSC-A対SSC-A) → CD3+CD4+のゲーティング → Foxp3+CD4+のゲーティング。
【0152】
その結果、制御性T細胞すなわちTregを、フローサイトメトリーにおけるFoxp3の発現に基づいて定義した。
【0153】
結果は、図12B及び図12Cに示されており、Dsg3を用いたHLA DRB1*0402トランスジェニックマウスの免疫の1日前にTPM203を1回注射すると、脾臓においてFoxp3+制御性T細胞の堅牢な増加を誘導することを示す(左;右の代表画像)。分析を、免疫後7日目に実施した。P値を、クラスカル・ウォリス検定によって計算した; *p<0.05; ***p<0.001。対照は、PBSで偽免疫した無治療のマウスである。
【0154】
Tregは、一般的に免疫寛容に寄与することがよく知られている(Sakaguchiらの文献、 Cell. 2008 May 30;133(5):775-87. doi: 0.1016/j.cell.2008.05.009)。尋常性天疱瘡の患者では、Tregは、健常対照と比較して低下した濃度で存在していることが知られている(Sugiyamaらの文献、 Dermatology, 2007;214(3):210-20. doi: 10.1159/000099585)。したがって、図12B及び図12Cに示されているTreg濃度の増加は、TPCによる治療によって引き起こされる有益な調節効果を示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A-B】
図12C
【配列表】
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【国際調査報告】