(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】血友病Aの治療における使用のための修飾コロイド粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 47/24 20060101AFI20240829BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240829BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240829BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240829BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240829BHJP
A61K 38/37 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
A61K47/24
A61P7/04
A61K9/10
A61K9/127
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/34
A61K38/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509467
(86)(22)【出願日】2022-08-17
(85)【翻訳文提出日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2022073001
(87)【国際公開番号】W WO2023021109
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512279958
【氏名又は名称】カンタブ バイオファーマシューティカルズ パテンツ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウォルフ-ギャラウェイ,リチャード
(72)【発明者】
【氏名】トッデンハム,エドワード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA19
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC14
4C076DD09
4C076DD15
4C076DD63
4C076EE23
4C076EE24
4C076FF16
4C076FF31
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DC15
4C084MA21
4C084MA24
4C084MA66
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZA531
4C084ZA532
(57)【要約】
本発明は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を有するまたは抗体阻害剤を発生させた病歴を有する患者における血友病Aの治療のためのコロイド粒子の使用に関する。本発明は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を有するまたは抗体阻害剤を発生させた病歴を有する患者における血友病Aを治療するための、コロイド粒子を含む方法、キット、および剤形にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における血友病Aの治療における使用のための、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含むコロイド粒子を含む組成物であって、
前記第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含み、
前記対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある、
組成物。
【請求項2】
前記生体適合性親水性ポリマーは、ポリアルキルエーテル、ポリ乳酸、およびポリグリコール酸からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記生体適合性親水性ポリマーはポリエチレングリコール(PEG)である、請求項1または請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールは、約500~約5000ダルトンの分子量を有する、請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコールは、約2000ダルトンまたは約5000ダルトンの分子量を有する、請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記リン脂質は、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG)である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記リン脂質は、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG2000)またはN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG5000)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記ホスファチジルコリン(PC)は、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)である、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
90~99:10~1のモル比で前記第1の両親媒性脂質および前記第2の両親媒性脂質を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
97:3のモル比で前記第1の両親媒性脂質および前記第2の両親媒性脂質を含む、請求項9に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記コロイド粒子は、(iii)ポリオキシエチレンソルビタン、ポリヒドロキシエチレンステアレート、およびポリヒドロキシエチレンラウリルエーテルからなる群から選択される非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートである、請求項11に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記コロイド粒子は、30:1~2:1w/wの比で前記第1の両親媒性脂質および前記第2の両親媒性脂質対前記非イオン性界面活性剤を含む、請求項11または請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
10~40:1:0~4w/wの比で前記第1の両親媒性脂質対前記第2の両親媒性脂質対前記非イオン性界面活性剤を含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
第VIII因子(FVIII)分子をさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
1~90:1の化学量論比で前記コロイド粒子および前記第VIII因子(FVIII)分子を含む、請求項15に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
10~20:1または5~10:1の化学量論比で前記コロイド粒子および前記第VIII因子(FVIII)分子を含む、請求項15または請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記血友病Aは先天性血友病A(cHA)である、請求項1~17のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
前記血友病Aは後天性血友病A(aHA)である、請求項1~17のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
治療活性化合物をさらに含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
賦形剤、希釈剤、またはアジュバントをさらに含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
前記対象は小児対象である、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含むコロイド粒子を含む組成物を投与する工程を含む、対象における血友病Aを治療する方法であって、
前記第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含み、
前記対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある、
方法。
【請求項24】
前記生体適合性親水性ポリマーは、ポリアルキルエーテル、ポリ乳酸、およびポリグリコール酸からなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記生体適合性親水性ポリマーはポリエチレングリコール(PEG)である、請求項23または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリエチレングリコールは、約500~約5000ダルトンの分子量を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ポリエチレングリコールは、約2000ダルトンまたは約5000ダルトンの分子量を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ホスファチジルコリン(PC)は、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)である、請求項23~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記リン脂質は、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG)である、請求項23~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記リン脂質は、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG2000)またはN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG5000)である、請求項23~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項23~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物は第VIII因子(FVIII)分子をさらに含む、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
第VIII因子(FVIII)分子を含む組成物を別個にまたは後続して投与するさらなる工程を含む、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記血友病Aは先天性血友病A(cHA)である、請求項23~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記血友病Aは後天性血友病A(aHA)である、請求項23~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記対象は小児対象である、請求項23~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
対象における血友病Aの治療における使用のための、(i)コロイド粒子を含む組成物、および(ii)第VIII因子(FVIII)分子を含む組成物を含むキットであって、
前記対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがあり、
前記コロイド粒子は、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含み、
前記第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む、
キット。
【請求項38】
前記コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
対象における血友病Aの治療における別個の、同時の、または後続の使用のための、(i)コロイド粒子を含む組成物、および(ii)第VIII因子(FVIII)分子を含む組成物を含むキットであって、前記対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがあり、
前記コロイド粒子は、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含み、
前記第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む、
キット。
【請求項40】
前記コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
対象における血友病Aの治療における使用のための、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含むコロイド粒子を含む医薬組成物の剤形であって、
前記第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含み、
前記対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある、
剤形。
【請求項42】
前記コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項41に記載の剤形。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を有するまたは抗体阻害剤を発生させた病歴を有する患者における血友病Aの治療のためのコロイド粒子の使用に関する。コロイド粒子は、第1および第2の両親媒性脂質を含み、第2の両親媒性脂質は、ポリエチレングリコール(PEG)等の生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分であり得る。本発明は、コロイド粒子を含む方法、キット、および剤形にも関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固につながる凝固カスケードは、損傷の場合に凝血の安全な形成を可能にする調節性フィードバックメカニズムと連動して、多くの異なるタンパク質および因子を伴う多工程の過程である。血友病等の血液の障害において、これらの因子の1種または複数は、欠陥があり得または不在であり得、欠陥のあるまたは低品質の凝血につながる。
【0003】
凝血第VIII因子(「FVIII」)は、凝固カスケードの二次止血過程における増幅相に関わる血中タンパク質である。カスケードの究極の目標は、フィブリンを生成して凝血を形成して出血を止めることである。損傷時、血小板は裏返しになり、「活性化され」、他の因子が結合する反応面を曝露し、そこでそれらはそれらの特異的作用に着手する。FXからFXa因子への活性化につながる「開始」または「外因性」相は、組織因子(TF)によるFVIIの変換後に、TF-FVIIaによってこの反応面で全面的に媒介され得、プロトロンビンからのトロンビンの産生およびフィブリノーゲンからフィブリンへの変換につながり、それはFXIIIの作用により架橋されて凝血を形成する。この開始後、良質な凝血は、通常、他の因子の中でもFVIIIを含むさらなる「増幅」または「内因性」相に起因して急速に形成され:この相の間にFVIIIは活性型(FVIIIa)になり、血小板の反応面に結合され、FIXaに結合して内因性「テナーゼ」複合体を形成し、それは次いでFXをFXaに変換する。FIXからのFIXaの形成も、TF-FVIIa複合体によって触媒される(FIXが失われている血友病Bの場合を除いて)。開始相の間に産生されたトロンビンは、増幅相を触媒するのを助け、最適な凝血形成にはTF、FVII、FIX、およびFVIIIの存在が要されることを意味する。
【0004】
先天性血友病Aにおいて等、FVIIIの不在下で、反応は、FXからFXaのへ変換を触媒するのに開始相のみに依存しなければならないことから、はるかによりゆっくりと進む。この経路(「外因性テナーゼ」経路)は、十分なFVIIIを欠如し、特に、外部FVIII(FVIIIで治療されたことがある先天性血友病患者の場合)または彼ら自身のFVIII(後天性血友病aHAの場合)のいずれかに対して抗体(「阻害剤」)を発生させたことがある血友病A患者において、FVIIaの外部投与により強化される。
【0005】
先天性血友病A(cHA)または後天性血友病A(aHA)のいずれかを治療するための、供与された血漿由来または組み換え供給源由来の補充FVIIIの使用は、臨床実践において非常によく確立されている。しかしながら、そのような産物の効力は、一部の患者に存在している阻害性抗体(「阻害剤」)の出現に起因して限定され、それは、外在的に送達された第VIII因子の有効性を低下させる。阻害剤は、彼らが受ける外在性FVIIIに対する応答として、cHA罹患者(「阻害剤患者」)の25~35%において生じ;aHAでは、患者は自己免疫に起因して彼ら自身のFVIIIに対する阻害剤を発生させることから、疾患が生じる。
【0006】
該タンパク質は、阻害剤抗体によって結合され、中和され、循環から迅速に取り除かれることから、阻害剤の存在は、外在性FVIIIで阻害剤患者を治療する有効性を低下させ、補充ヒトFVIIIを用いた予防的治療を非常に困難にするまたは通常不可能にする。FVIIIの準最適な分量とは、たとえ凝血が仮に形成され得るとしても、それはゆっくりと形成される、または形成され次第迅速に壊れる低品質のものであることを意味する。
【0007】
野生型FVIII分子は、6個のドメイン:A1-A2-B-A3-C1-C2に編成された2332個のアミノ酸を含む。A1-A2-Bドメインは、一緒になって、「重鎖」(HC)を含み、A3-C1-C2ドメインは「軽鎖」(LC)を含み、これらの鎖は非共有結合的に連結される。生命体において、FVIIIは、通常、循環中でフォンビルブランド因子(VWF)と結び付くであろう。VWFはFVIIIの輸送を促し、FVIIIを時期尚早な不活性化およびクリアランスから保護する(Mannucci,P.M.ら(2014)Novel investigations on the protective role of the FVIII/VWF complex in inhibitor development.Haemophilia.20(補足6)、2~16.)。VWFとの結び付きは、免疫原性の低下、阻害剤の存在下での効力、および免疫寛容治療における実用性とも関連する。VWFを含有する血漿由来FVIII(pdFVIII)の商業的濃縮物の使用は、SIPPET治験において、FVIIIの組み換え濃縮物(rFVIII)よりも免疫原性が低いことが示された(Peyvandi,F.ら(2016)A randomized trial of Factor VIII and neutralizing antibodies in Hemophilia A、N Engl J Med.374、2054~64)。pdFVIII濃縮物の免疫原性の低下はVWFシャペロンと関連し、それは、FVIII分子上の重大なエピトープを覆い、かつ/または樹状細胞によるそのエンドサイトーシスを阻止すると考えられる(Astermark,J.(2015)FVIII inhibitors:pathogenesis and avoidance.Blood.125(13)、2045~51)。また、組み換えFVIII分子は、これらの分子の大部分はヒト化されず、非ヒト細胞株において産生され、それらの免疫原性を潜在的に増強する非ヒトグリカンエピトープの存在をもたらすという付加的な複雑性を有する。
【0008】
FVIIIにおけるこれらのエピトープに対する阻害剤の発生は、依然として血友病治療の最も頻度の高い副作用である(Van den Bergら(2020).ITI treatment is not a first-choice in children with hemophilia A and low-responding inhibitors:Evidence from a PedNet study.Coagulation and Fibrinolysis.120、1166~1172)。リスクは、最高40%の全発生率を有して、以前に治療されていない患者(PUP)において高く(同書)、FVIII活性を不活性化し、これらの患者を保護するのに代替的でかつ費用のかかる方策を要する。一部の患者において、長くかつ費用のかかる技法である免疫寛容誘導療法の使用は、阻害剤を根絶し得るが、該技法はすべての患者に対して働くわけではなく、彼らが補充FVIII療法を使用するのを妨げる。阻害剤発生のリスクは、補充FVIIIへの最初の20日間の曝露日(ED)の間に最も高く、最高75ED持続する(Liesner,R.J.ら(2021)Simoctocog alfa(Nuwiq(商標))in previously untreated patients with severe haemophilia A:final results of the NuProtect study.Thromb Haemost.オンライン)。患者は、この期間にわたって阻害剤の発生に関してモニターされなければならない。
【0009】
現在、阻害剤の発生に対処する2つの主な方法:阻害剤寛容誘導(ITI)の使用、または迂回療法の使用が存在する。ITIは、患者が通常の投薬レジメンに戻ることを可能にするという目標を有して、数カ月にわたるFVIIIの大量の反復投薬を利用して、FVIIIに対して免疫系において寛容を誘導する。療法は必ずしも有効ではなく、数カ月にわたるFVIIIの反復の高用量注射は、患者にとって不快でもあり、極めて費用もかかり、相当な医療制度費用になる。したがって、「阻害剤患者」とは、彼らの医療歴において、治療用血液因子の適用に応答して阻害性抗体(「阻害剤」)を発生させたことがある個体(先天性血友病の場合)、または彼ら自身のFVIIIに対して阻害剤を発生させたことがある(後天性血友病の場合)個体である。彼らは、現在、阻害剤を有してまたは有しないで存在し得るが、後者の場合には、ITIによりおそらく寛容化されておらず、FVIIIを再提示された場合に依然として阻害剤を生成し得るであろう。
【0010】
迂回療法は、増幅相を完全に「迂回する」ことによって、阻害剤の問題を回避する。最も一般的な治療は、単独での(例えば、NovoSeven)、またはプロトロンビン複合体濃縮物(PCC)(例えば、活性化PCCであるFEIBA)としての組合せでのFVIIaであり、それは、上で記載されるように、凝血カスケードの開始相を支援するのを助ける。これらの特殊な治療も高価であり、必要に応じた使用はITI療法と大体等価である。予防的使用は極めて高価であり、これらの患者は、予防的治療が約束する心の平安を受ける可能性が低いことを意味する。より最近の開発は、二重特異性抗体の使用によりFIXaとFXとを一つにまとめることにおいて、FVIIIaの役割を置き換えようと試みている。
【0011】
FVIIIの連続的な不在下における単独での迂回法は、増幅相を可能にしないことから、それは準最適な解決策であり、他の治療は、ブタFVIII等のヒトFVIIIの偽物および模倣体、または活性型ヒトFVIII(FVIIIa)と同様の結合機能を果たし得る、抗体等の他の分子の使用により、内因性テナーゼ複合体を引き付けようと試みている。これらは通常のFVIII阻害剤抗体によって認識され得ないものの、それらは、身体にとって異物であるタンパク質産物であることから、これらは引き続いては、それら自身に対する抗体の生成を引き起こすであろうという懸念が依然として残る。また、それらの作用の様態は、全身循環におけるトロンビンの過度の産生を阻止するように高度に適応される天然の第VIII因子の調節機能を完全には再現しない。破綻出血が生じた場合、模倣体の貯蔵との組合せでの救援療法(通常、阻害剤患者においてFVIIaまたはaPCC複合体)の投与は、患者を血栓性事象の危険に置き得ることから、抗体ベースの産物の一部についての長い半減期も懸念であり得る。
【0012】
「リバランス剤」という別のクラスの新規の作用物質は、凝固が達成され次第、凝固カスケードを減速させることによって、不要な血栓性事象を通常では阻止するであろうフィードバックループを下方調節することに焦点を当てている。現在の3つの手法は、組織因子経路阻害剤(TFPI)、抗トロンビン、または活性化プロテインCを攻撃することを伴う。書かれた時点で、市場に到達していない、より進歩したプログラムが、治験の間に血栓性事象の困難に直面している。
【0013】
cHA患者に関しては、これらの患者が、彼らの人生において初めて十分な量の彼ら自身のFVIIIを生成することを可能にする遺伝子療法の長期にわたる希望が依然としてあり:これは、十分なFVIIIを生成するが、彼ら自身のFVIIIに対する阻害剤を発生させたことがあるaHA患者にとっては選択肢ではない。この療法は、肝臓細胞に遺伝子コードを送達するウイルスベクターを通常使用して、肝臓からのFVIII発現を刺激する。送達ベクターに対して抗体が発生するであろうかどうかは依然として不明であり、いまだ懸念されている。
【0014】
いくつかのグループによって取られた代替的手法は、巨核球(骨髄)における発現を標的にすることであり、それにより、結果として生じた血小板細胞は、それらのα-顆粒内に保管されたFVIIIを有する。Shiら(2006)(J.Clin.Invest.116、1974~1982)によって最初に提唱されたこの手法は、任意の阻害剤および他のクリアランスメカニズムからFVIIIを隠すという、ならびに凝固カスケードに対する正しい位置に分子を置くという二重の利点を有する。同じグループによるより最近の仕事(Baumgartnerら(2015)(J Thromb.Haemost.13、2210~2219)は、血小板由来FVIII(「2bF8」)および血漿FVIII(rhFVIII-Xyntha、Pfizer)の相対的効力を比較した。この仕事は、広範な用量にわたるトロンビン生成に目を向け、両方とも同様のレベルのトロンビンを生成するものの、血小板関連FVIIIは、トロンビン生成を有意に加速させるだけでなく、トロンビン生成の始まりおよびピークを刺激するのに、用量の10分の1を要することを見出した。グループは、因子補充療法と比較した2bF8のより高い治療効力は、トロンビン生成の加速に起因するように思われると結論付けた。
【0015】
WO2009/140598は、FVIIIと血小板とを結び付ける手法の例示として、Shiグループの遺伝子療法血小板由来の仕事を記載する。その出願の明記される目的は、免疫原性を低下させること、副作用を低下させること、およびインビボにおけるその作用の部位のすぐ近くに治療用タンパク質を放出することによって、さらなる利点を獲得することである。主張される因子は、2種の中核となる市販の外在的に投与される因子としてのFVIIIおよびFIXである。標的化の方法は、比較的特異的であり、血液細胞上の膜タンパク質に特異的に結合する因子の構造内にドメインを操作する工程を伴う。この手法は、該タンパク質の正常な構造を変更する工程を伴い、それは、それが異物として認識されるという、および抗体の生成を刺激するという危険性を持つ。
【0016】
本発明は、血小板と他の細胞体とを融合しかつまたは別様に結び付けることによって増幅相を再び可能にすることを追求し、それによって、外在的に適用されたFVIII(血友病Aの場合)を血小板に結び付けかつ/またはそれが血小板内に貪食されることを可能にし、ゆえに、それが必要とされるであろう部位にそれを置きもし、阻害性抗体またはメモリーBもしくはT細胞による認識およびダメージからそれを保護もする。それゆえ、本明細書に記載される本発明との関連を可能にするために、FVIIIのさらなる修飾は必要でないはずである。
【0017】
本発明は、血小板への患者自身のFVII(およびFVIIa)の付加的な結び付きを可能にし、かつ/またはそれが血小板内に貪食されることを可能にし、ゆえにまた、それが最も必要とされる部位にそれを置いて、トロンビンバーストを提供して、増幅相を刺激する。FVIIaが迂回剤として外在的に投与される対象となった場合、本発明の使用を使用して、FVIIaを標的にして、血小板、および血小板活性化の後に生じるTF担持凝固促進性微粒子と結び付くようにもなり得る。
【0018】
本発明は、血小板への患者自身のFVIIIの付加的な結び付きを可能にし(これは、不在までは欠損していない場合)、かつ/またはそれが血小板内に貪食されることを可能にし、ゆえにまた、それが最も必要とされる部位にそれを置いて、トロンビンバーストを提供して、増幅相を刺激する。
【0019】
本発明は、血小板およびそれが融合する他の細胞体の断絶(disruption)を可能にし、FVIIからTF-FVIIaへの変換を触媒する長寿命のTF担持凝固促進性微粒子(TFBPM)を作り出し、それはまた、FIXからFIXaへのおよびFXからFXaへの変換を触媒し、それによって、外因性経路の効能を長期間増強し、より大きなトロンビンバーストおよびより継続したFVIII非依存的トロンビン産生をもたらす。
【0020】
血小板上および/または中のFVIIIの両方(およびその後、活性化後のそれらの活性化形態)を濃縮しかつ固定することによって、ならびにTF担持凝固促進性微粒子(TFBPM)の迂回する作用産生により、本発明の究極の目的は、損傷の始まりにトロンビン生成の異常に迅速なバーストを可能にしかつ維持して、分解に抵抗性である頑丈で良質な凝血に急速に安定化され得る凝血の形成を加速させることである。
【0021】
治療される対象となる疾患において、正常なレベルよりも低くある限定された量のFVIIIの効果を濃縮しかつ増幅することによって、本発明は、FVIII倹約的であると考えられ、血友病患者において、および特に、FVIIIを、それらの阻害性抗体が該タンパク質を破壊し、それらを非保護の状態にするであろうことから、通常では投与され得ない阻害剤患者において、より低い用量が投与されることを可能にし、かつ/または止血を達成するために通常要される注射の回数を低下させると予測される。
【0022】
本発明は、限定された量のFVIIIおよびFVIIIに対する阻害剤の両方の存在下で、FXからFXaへの変換を向上させる複数のやり方で作用し得る。第1に、FIXaとのテナーゼ複合体を形成し得る限定された量のFVIIIの潜在性を保護し、増強し、かつ最大限に高めて、FXからFXaへの変換を触媒することによって;第2に、FVIIIを模倣しかつFIXaに結合して、代用テナーゼ複合体を提供して、FXおよびFXaの変換を触媒することによって;第3に、TFBPMの産生により、およびFVII/FVIIaを濃縮して、外因性テナーゼ複合体によるFXからFXaへの変換を刺激することの両方により、外因性経路を上方調節することによって;ならびに最後に、上方調節された外因性経路を介して、FIXからFIXaへの変換を増強して、内因性テナーゼ複合体の形成を増大させることによって。これらの作用を通じて、本発明は、内因性経路のテナーゼ複合体におけるFVIIIの活性を保護し、保存し、かつ最大限に高め、一方で、テナーゼ複合体におけるFVIIIaの機能性を模倣し、また外因性経路の上方調節を通じてその経路を同時に迂回することによる、複数の作用の様態を有する。
【0023】
標的血液因子(例えば、血友病Aの場合にはFVIII)の標準的な血漿由来の形態または組み換えで産生された形態の使用を可能にすることによって、本発明が、阻害剤を有する血友病A患者においてFVIIIを用いた予防的治療を可能にすることに対する費用効果の高い解決策を可能にすることは究極の目的である。
【0024】
本発明は、本発明(多特異性脂質小胞)と標的血液因子との共投与または別個の投与を可能にし、標準ケアの外在的に適用される因子(血友病Aの場合にはFVIIIである)と並行してそれが使用されるのを可能にする。本発明の別個の投与は、少量であるが準最適な量の標的血液因子が内在的に存在する患者において、例えば、中等度の血友病患者、または遺伝子療法後に彼ら自身の標的血液因子を生成する限定された能力を回復している患者においても有用であり得る。
【発明の概要】
【0025】
本発明は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を有するまたは抗体阻害剤を発生させた病歴を有する血友病患者、例えばFVIIIに対する阻害剤を有する後天性血友病(aHA)または先天性血友病(cHA)を有する者を治療するための、コロイド粒子を含む組成物、方法、キット、および剤形を提供する。
【0026】
本発明の第1の態様において、対象における血友病Aの治療における使用のための、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含むコロイド粒子を含む組成物であって、前記第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む、組成物が提供される。対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある。
【0027】
生体適合性親水性ポリマーは、ポリアルキルエーテル、ポリ乳酸、およびポリグリコール酸からなる群から選択され得、好ましくは、生体適合性親水性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。ポリエチレングリコールは、約500~約5000ダルトン、好ましくは約2000ダルトンまたは約5000ダルトンの分子量を有し得る。
【0028】
第2の両親媒性脂質は、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG2000)またはN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG5000)等のN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG)であり得る。
【0029】
ホスファチジルコリン(PC)は、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)であり得る。
【0030】
第1の両親媒性脂質および第2の両親媒性脂質は、100:3または97:3等、90~110:10~1、または90~99:10~1のモル比にあり得る。
【0031】
コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタン、ポリヒドロキシエチレンステアレート、およびポリヒドロキシエチレンラウリルエーテルからなる群から選択され得る。非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートであり得る。コロイド粒子は、30:1~2:1w/wの比で第1の両親媒性脂質および第2の両親媒性脂質対非イオン性界面活性剤を含み得る({第1の両親媒性脂質+第2の両親媒性脂質}:{非イオン性界面活性剤})。
【0032】
第1の両親媒性脂質対第2の両親媒性脂質対非イオン性界面活性剤は、10~40:1:0~4w/wの比にあり得る({第1の両親媒性脂質}:{第2の両親媒性脂質}:{非イオン性界面活性剤})。
【0033】
組成物は、第VIII因子(FVIII)分子をさらに含み得る。コロイド粒子および第VIII因子(FVIII)分子は、10~20:1または5~10:1等、1~90:1の化学量論比にあり得る。
【0034】
血友病Aは、先天性血友病A(cHA)または後天性血友病A(aHA)であり得る。
【0035】
組成物は、治療活性化合物をさらに含み得る。組成物は、賦形剤、希釈剤、および/またはアジュバントもさらに含み得る。
【0036】
対象は小児患者であり得る。
【0037】
本発明の組成物は、すぐに使用できる水性懸濁液に製剤化され得る、または組成物は、凍結乾燥製剤として調製され得る。本発明の凍結乾燥製剤は、同様に提供される適切な希釈剤、アジュバント、または賦形剤、例えば生理学的に許容される緩衝剤と併せて、別個の剤形として供給され得る。本明細書に記載されるように、そのような組成物は、別個の剤形として第VIII因子を付加的に含み得る、または本明細書に記載されるコロイド粒子とともに製剤化され得る。
【0038】
本発明の第2の態様において、コロイド粒子を含む組成物を投与する工程を含む、対象における血友病Aを治療する方法が提供される。コロイド粒子は、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含む。第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む。対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある。
【0039】
生体適合性親水性ポリマーは、ポリアルキルエーテル、ポリ乳酸、およびポリグリコール酸からなる群から選択され得、好ましくは、生体適合性親水性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。ポリエチレングリコールは、約500~約5000ダルトン、好ましくは約2000ダルトンまたは約5000ダルトンの分子量を有し得る。
【0040】
ホスファチジルコリン(PC)は、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)であり得る。
【0041】
第2の両親媒性脂質は、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG2000)またはN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG5000)等のN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG)であり得る。
【0042】
コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0043】
組成物は、第VIII因子(FVIII)をさらに含み得る。代替的に、方法は、第VIII因子(FVIII)を含む組成物を別個にまたは後続して投与するさらなる工程を含み得る。
【0044】
血友病は、先天性血友病A(cHA);または後天性血友病A(aHA)であり得る。
【0045】
対象は小児患者であり得る。
【0046】
本発明の第3の態様において、対象における血友病Aの治療における使用のための、(i)コロイド粒子を含む組成物、および(ii)第VIII因子(FVIII)分子を含む組成物を含むキットが提供される。対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある。コロイド粒子は、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質から構成される。第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む。
【0047】
コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0048】
本発明の第4の態様において、対象における血友病Aの治療における別個の、同時の、または後続の使用のための、(i)コロイド粒子を含む組成物、および(ii)第VIII因子(FVIII)分子を含む組成物を含むキットが提供される。対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある。コロイド粒子は、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質から構成される。第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む。
【0049】
コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0050】
本発明の第5の態様において、対象における血友病Aの治療における使用のための、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含むコロイド粒子を含む医薬組成物の剤形であって、前記第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む、剤形が提供される。対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある。
【0051】
コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0052】
一実施形態において、コロイド粒子は、非共有結合的に、可逆的にFVIIIの能力があり、ならびに血小板および血液の他の細胞要素と結合しかつ融合し得、それにより、限定された量の外在的に適用された第VIII因子(FVIII)は、血小板の表面でおよび/またはその中で、他の内在性血液因子(例えば、FVII/FVIIa)とともに濃縮されるであろう、ならびにこの結び付きは、阻害剤による分解および通常のクリアランスメカニズムから第VIII因子(FVIII)(通常の濃度よりも低く存在する)を保護もし、組織因子(TF)担持凝固促進性微粒子(TFBPM)の並行した産生に起因して、損傷時の凝血カスケードの迅速な始まりおよび加速を可能にもするであろう。これは、血友病患者において、およびとりわけ、保護されていない標的血液因子(すなわち、PEGLiPなしの、例えば血友病Aの場合にはFVIII)が迅速に取り除かれるであろう阻害剤を有する者において、より良質な凝血のより速い形成をもたらし、これらの患者に対してはるかにより安全な治療選択肢を提供する。
【0053】
本発明は、補充因子の使用が通常では無効であろうような、凝血因子を欠損もしておりかつ阻害剤患者でもある患者において、生体適合性ポリマーで誘導体化されたリン脂質が、血液因子を欠損しておりかつその血液因子に対する抗体を産生した病歴を有する患者において、それらが、失われた因子の投与とともに共製剤化されてまたはそれに対して別個の注射として投与される場合、凝固カスケードに対する2つの有益な効果を有するという驚くべきかつ予想外の発見に基づく。第1に、それらは、その標的血液因子(例えば、血友病Aの場合にはFVIII)に対する阻害剤の存在下で、外在的に適用された標的血液因子の見かけの半減期を延長し得、長期の止血被覆を提供する。第2に、それらは、FVIII非依存的様式で凝固カスケードを増強し、例えば凝固の始まり(「凝血時間」)および凝血品質(「最大凝血硬度」)を低下させる。理論によって拘束されることを望むことなく、後者の効果は、多様な原因、例えば、凝固カスケード内の複数の実体との可逆的非共有結合性アフィニティーを有することによる、血小板でのおよびその中での、既存の内在性血液因子、例えばFVII、およびFIX(血友病Aの場合)の結合およびゆえに濃縮;本発明と血液の細胞構成要素との融合によって刺激された、組織因子を担持する凝固促進性微粒子の産生による、外因性凝固経路の上方調節であって、微粒子は、凝血カスケードの構成要素に対する拡大した反応面としての役割も果たし、ならびにTFを提供もして、他の迂回剤と同様の形式で外因性経路をブーストする、上方調節;FIXaとともに働いて、FXからFXaへの触媒のための代用テナーゼ複合体を形成すること;外因性経路の上方調節を通じて、FIXaの産生を増強して、テナーゼ複合体を増大させること、に起因し得る。
【0054】
一実施形態において、患者の血友病の重症度に適当な量であるべきである、注射されるPEGLipの量、ならびに特定の標的血液因子(例えば、血友病Aの場合にはFVIII)の特徴、とりわけその特異的活性(IU/mg)および分子質量(g/molまたはkDa)に関して、PEGLiP粒子の理想化された製剤が提供される。注射の前に共製剤化する場合、いくつかのPEGLiP粒子は、これらの標的血液因子分子に可逆的に結合するであろう。標的血液因子非依存的作用、例えば血友病Aの場合には、血流からの充分な患者のFVIIおよびFIXの可逆的捕捉を可能にして、外因性経路を増強して、または代用テナーゼ複合体;もしくは外因性経路を増強するのに十分なTFBPMを産生するための、血小板および他の細胞構成要素との適度な相互作用を形成して、本発明の利益を最大限に高めるために、注射の時点で十分なPEGLiPが遊離のままの状態であり、標的血液因子に結合していないことは、本発明の重大な態様である。
【0055】
一実施形態において、それゆえ、標的血液因子単独について予想されるものを超えて、止血被覆を増強しかつ延長するそのFVIII非依存的作用を効果的に可能にするのに十分な結び付いていないPEGLiPを残す、投与前のPEGLiP粒子対FVIII分子の比での、標的血液因子、例えば血友病Aの場合にはFVIIIに対する阻害剤を有する患者に投与される対象となる、第VIII因子と混ぜられた懸濁液PEGLip(コロイド粒子)を含む組成物が提供される。
【0056】
準最適な内在的濃度の標的血液因子を有する患者に、標的血液因子(例えば、血友病Aの場合にはFVIII)が別個に投与される予定である場合、または本発明を単独で投与することが意図される場合、血中におけるPEGLip対標的血液因子の最適な比は、a)投与される対象となる標的血液因子の量、または準最適な濃度の標的血液因子による患者の現在についての査定;b)使用される特定のタンパク質の特異的活性;およびc)使用される特定のタンパク質の分子質量に基づいて、注射の前に計算され得る。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明は、対象における血友病Aの治療における使用のための、コロイド粒子を含む組成物、方法、キット、および剤形であって、対象は、重大な内因性血液因子に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある、組成物、方法、キット、および剤形を提供する。コロイド粒子は、凝血因子にも結合し、血小板とも結合しかつ融合して、血友病Aの治療において凝血の形成を加速させ得かつ向上させ得る。
【0058】
FVIIIに対する阻害剤または抗体阻害剤とは、FVIIIに対する、抗体阻害剤または中和抗体としても互換可能に知られる、抗体を指す。抗体は、内在性FVIIIに対する自己抗体、または外在性FVIIIに対する抗体であり得る。
【0059】
上で記載される第1の態様によれば、コロイド粒子は、(i)第1の両親媒性脂質、および(ii)第2の両親媒性脂質を含む。第1の両親媒性脂質は、ホスファチジルコリン(PC)部分であり得る。ホスファチジルコリン(PC)部分の適切な例は、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)であり得る。第2の両親媒性脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分である。ホスファチジルエタノールアミン(PE)の適切な例は、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノール-35アミン(DSPE)であり得る。アミノプロパンジオールジステアロイル(DS)脂質は、両親媒性脂質でもあるカルバメート連結非荷電リポポリマーである。ホスファチジルエタノールアミン(PE)の他の例は、DPPE、DMPE、およびDOPEを含む。
【0060】
本発明のコロイド粒子は、典型的に、脂質小胞またはリポソームの形態にあり、当技術分野において周知である。本明細書におけるコロイド粒子への言及は、文脈が別様に指定しない限り、リポソームおよび脂質小胞を含む。
【0061】
第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分である。
【0062】
生体適合性親水性ポリマーの目的は、コロイド粒子を立体的に安定化し、ゆえにインビトロにおいてコロイド粒子の融合を阻止し、コロイド粒子がインビボにおいて細網内皮系による吸着を逃れるのを可能にすることである。生体適合性親水性ポリマーは、ポリアルキルエーテル、ポリ乳酸、およびポリグリコール酸からなる群から選択され得る。生体適合性親水性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)であり得る。ポリエチレングリコールは、分岐状または非分岐状であり得る。生体適合性ポリマーは、約100Da、250Da、350Da、550Da、750Da、1000Da、1500Da、2000Da、2500Da、3000Da、3500Da、4000Da、4500Da、5000Da、5500Da、6000Da、6500Da、7000Da、7500Da、8000Da、8500Da、9500Da、および10,000Daの好ましい値を有して、約100~約10,000Da、適切には約2000~約5000Daの分子量を有し得る。生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質の適切な例は、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG2000)およびN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG5000)等のN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG)であり得る。
【0063】
第1の両親媒性脂質および第2の両親媒性脂質は、90~110:10~1、90~100:10~1、90~99:10~1、93~99:7~1、95~99:5~1、適切には100:3、100:3、99:3、98:3、97:3、96:3、または95:3のモル比で提供され得る。97.3というモル比は、32.4:1というモル比としても表現され得、同じように100:3というモル比は、33.2:1というモル比として表現され得る。第1の両親媒性脂質および第2の両親媒性脂質の比は、重量/重量比、例えば1:1~20:1w/w、適切には2:1~12:1w/wまたは4:1~9:1w/w、例えば4:1、5:1、6:1、9:1、または12:1w/wとしても表現され得る。適切には、組成物は、90~99:10~1、93~99:7~1、95~99:5~1、適切には97:3のモル比(POPC:DSPE)の、パルミトイル-オレオイルホスファチジルコリン(POPC)と1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノール-アミン(DSPE)との混合物から構成されるコロイド粒子を含み得る。重量/重量比として表現すると、これは、例えば1:1~20:1w/w、適切には2:1~12:1w/w、例えば4:1、5:1、6:1、9:1、または2:1w/wであり得る。
【0064】
1つの例では、コロイド粒子は、97:3モル比または9:1w/w比の、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)およびN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG(2000))から構成され得る。
【0065】
コロイド粒子は、0.05~0.0.3μm径、適切には0.1、0.15、0.2、または0.25ミクロン(μm)前後に及ぶ平均粒子サイズ(平均的粒子サイズ)を有し得る。平均的粒子サイズ(平均粒子サイズ)は、100~130ナノメートル(nm)、適切には110~120nm、112~118nm、150~170nm、155~165nm、より適切には110、112、114、116、118、120、160、162、164、166、168、または170nmであり得る。
【0066】
平均粒子サイズは、Malvern Zetasizer Ultra ZSU 5700を使用して測定され得る。この機器は光散乱によって粒子サイズを判定し、レーザー光からの後方散乱がサンプルに差し込み、衝突粒子が173°の角度で検出される(173°は、それ自身のほぼ後部であり、それゆえ後方散乱という用語)。粒子のブラウン運動は、光を種々の強度で散乱させる。ブラウン運動の速さは粒子サイズに関係するため、粒子サイズは、ストークス・アインシュタインの関係性により推測され得る。
【0067】
平均粒子サイズは、コロイド粒子の平均径に対応する。粒子サイズ測定との関連で引き合いに出される多分散性指数(PDI)は、コロイド粒子の平均径周辺の分布の大きさに対応する。例えば、本発明において、多分散性指数は、最大0.2、適切には0.15、0.12、0.1、または0.5であり得る。
【0068】
PDIは、標準偏差/平均の平方、すなわちPDI=(s/m)2として計算される。
【0069】
平均粒子サイズおよび多分散性指数から、標準偏差が計算され得る。標準偏差の2倍は、粒子サイズ周辺の95%信頼区間、すなわちサンプルにおけるコロイド粒子の95%が存在する域の計算を容易にする。
【0070】
適切には、95%平均粒子サイズは、50~500nm、適切には50~290nm、50~285nm、65~265nm、65~260nm、65~180nm、65~175nm、65~170nm、65~165nm、65~160nm、より適切には65~173nm、64~161nm、65~263nm、または54~282nmであり得る。
【0071】
コロイド粒子は、水性クエン酸塩緩衝液中9%(w/v)総脂質の懸濁液として保管され得、適切には、粒子は、7%、6%、5%、4%(w/v)総脂質の懸濁液として保管され得る。
【0072】
コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤等の界面活性剤をさらに含み得る。非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタン、ポリヒドロキシエチレンステアレート、およびポリヒドロキシエチレンラウリルエーテルからなる群から選択され得る。非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80またはTween80としても公知)であり得る。第1の両親媒性脂質および第2の両親媒性脂質対非イオン性界面活性剤は、30:1~2:1w/w、適切には25:1、20:1、16:1、15:1、14:1、13:1、12:1、11:1、10:1、9:1、8:1、または5:1w/w({第1の両親媒性脂質+第2の両親媒性脂質}:{非イオン性界面活性剤})の比で提供され得る。モル比として表現すると、これは、例えば10~20:1、12~18:1、14~16:1、適切には14:1、15:1、または16:1であり得る。界面活性剤濃度は、0.25重量%~5重量%、例えば1%~3%、1~2%であり得、一部の例示的な値は、0.47%、0.85%、または3.5%であり得る。
【0073】
非イオン性界面活性剤はPEG化もされ得る。PEG化非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80またはTween80としても公知)であり得る。ポリエチレングリコールは、分岐状または非分岐状であり得る。生体適合性ポリマーは、約100Da、250Da、350Da、550Da、750Da、1000Da、1500Da、2000Da、2500Da、3000Da、3500Da、4000Da、4500Da、5000Da、5500Da、6000Da、6500Da、7000Da、7500Da、8000Da、8500Da、9500Da、および10,000Daの好ましい値を有して、約100~約10,000Da、適切には約2000~約5000Daの分子量を有し得る。
【0074】
非イオン性界面活性剤は、コロイド粒子と結び付けられ得る、コロイド粒子の脂質二重膜に組み入れられ得る、コロイド粒子の脂質二重膜の外層に組み入れられ得る、またはコロイド粒子の内層脂質二重膜に組み入れられ得る。
【0075】
したがって、第1の両親媒性脂質対第2の両親媒性脂質対非イオン性界面活性剤は、2~10:1:0~2、3~9:1:0.5~1.5、4~9:1:0.5~1w/w、適切には9:1:0、9:1:1、4:1:0、または4:1:0.5w/w({第1の両親媒性脂質}:{第2の両親媒性脂質}:{非イオン性界面活性剤})の比で提供され得る。モル比として表現すると、これは、例えば30~40:1:0~5、30~35:1:0~2.5、30~35:1:0~2.5、適切には33:1:0、33:1:2、または32:1:3であり得る。
【0076】
組成物は、第VIII因子(FVIII)分子またはその断片をさらに含み得る。組成物が第VIII因子の断片を含む場合、第VIII因子断片は、適切には、断片が、生物学的活性、または天然の第VIII因子分子と実質的に同じ生物学的活性を保持する活性断片であり得る。例えば、1種のそのような活性断片は、Bドメイン短縮第VIII因子である。組成物は、天然の血液因子およびその断片の両方を含み得ることがさらに可能である。コロイド粒子および第VIII因子(FVIII)分子は、10~20:1および5~10:1等、1~90:1、適切には2~90:1、5~85:1、6~10:1、7~8:1、7.5~20:1、10~80:1、10~15:1、10~16:1、10~20:1、13~19:1、15~16:1、15~75:1、20~70:1、25~65:1、30~60:1、35~55:1、40~50:1の化学量論比で提供され得る。代替的に表現すると、コロイド粒子および第VIII因子(FVIII)分子は、15.5:1、13:1、8:1、7.7:1、7:1等、1:1、2:1、5:1、7.5:1、10:1、15:1、16:1、17:1、18:1、19:1、20:1、22:1、25:1、26:1、27:1、28:1、29:1、30:1、35:1、40:1、45:1、50:1、55:1、60:1、65:1、70:1、75:1、80:1、85:1、86:1、90:1の化学量論比で提供され得る。全長FVIII分子に関してより具体的には、化学量論比は、10:1~19:1、および任意選択で10~15:1または5~10:1、および任意選択で7.5:1であり得る。ベータドメイン欠失またはベータドメイン短縮FVIII分子に関して、域は、13~19:1、および任意選択で10~16:1または6~10:1、および任意選択で8:1であり得る。
【0077】
理論によって拘束されることを望むことなく、組成物に存在する過度のコロイド粒子は、遊離コロイド粒子を、他の中核になる血液因子(例えば、血友病Aの場合にはFVIIおよびFIX)に可逆的に結合させるのに十分な量にあり、それは、粒子と結び付いたある量の第VIII因子(FVIII)とともに、投与後に血小板に捕捉されかつ可逆的に結合されて、血小板で因子を濃縮し得、外因性血液凝固経路をブーストし得るという推定がある。
【0078】
第VIII因子は、任意の適切な供給源由来であり得、分子生物学的技法を使用した組み換えDNA技術によって産生される組み換えタンパク質であり得る、もしくは化学的に合成され得る、もしくは哺乳類の母乳においてトランスジェニック的に産生され得る、または第VIII因子は、天然の供給源から単離され得る(例えば、血漿から精製される)。適切には、第VIII因子は、ヒト第VIII因子等の哺乳類第VIII因子である。
【0079】
第VIII因子等の血液因子は、表面付着の特性によって特徴付けられる。これは、酵素および補因子が、カスケードにおける他の参加者に、血小板の表面に、および損傷の部位における組織に付着することを要する凝固カスケードの必要な特質である。凝血が損傷の部位にとどまり、漂流して危険な血栓形成を引き起こさないことが特に重要である。第VIII因子等の血液因子は、任意のガラスおよびプラスチック表面に過度に吸着するであろうことから、この特性は、薬物産物の製剤化において課題を提示する。実践的観点から、これは、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80)等の非イオン性界面活性剤の大量使用によって軽減される。
【0080】
コロイド粒子対第VIII因子(FVIII)分子の化学量論比を判定するために、以下の計算が実施されるべきである。第1に、FVIIIのIUあたりのFVIIIの分子が判定されるべきである。注記、FVIIIの質量は、FVIIIの変異型(例えば、全長対βドメイン欠失)に応じて変動する。第2に、コロイド粒子のグラムあたりの粒子の数が判定されるべきである。最後に、化学量論比がそれに従って判定され得る。35IU/kg FVIII(ベータドメイン欠失および全長の両方)および22mg/kgコロイド(PEGLip)を用いた例となる計算は、以下のとおりである:
計算例1、ベータドメイン欠失rFVIII
【0081】
【0082】
計算例2、全長rFVIII
【0083】
【0084】
組成物は、さらなる治療活性化合物または分子、例えば抗炎症薬、鎮痛剤、もしくは抗生物質、または第VIII因子の活性を促進し得るもしくは増強し得る他の薬学的活性剤を含み得る。
【0085】
本発明の組成物は、標準的実践に従って、本明細書に記載される投与に適切な医薬組成物として製剤化され得る。例えば、組成物は、任意の適切な賦形剤、希釈剤、および/またはアジュバントをさらに含み得る。緩衝剤等の適切な希釈剤は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水溶性塩、および適切な酸とともに製剤化され得る。適切な緩衝溶液は、アミノ酸(例えば、ヒスチジン)、無機酸(例えば、クエン酸、乳酸、コハク酸、クエン酸、およびリン酸からなる群から選択される酸)の塩、およびアルカリ金属またはアルカリ土類金属、(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、またはクエン酸ナトリウムとして例示される、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、リチウム塩、またはカルシウム塩)を含み得るが、それらに限定されない。そのような賦形剤、緩衝剤、および/またはアジュバントの例は、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、および/またはクエン酸ナトリウムを含む。他の生物学的緩衝剤は、PIPES、MOPS等を含み得る。
【0086】
適切な水性クエン酸塩緩衝液は、クエン酸ナトリウム緩衝液またはクエン酸カリウム緩衝液、例えば50mMクエン酸ナトリウム緩衝液であり得る。適切なリン酸塩緩衝液は、リン酸ナトリウム緩衝液、例えば25mMリン酸ナトリウム緩衝液であり得る。
【0087】
組成物に対する適切なpH値は、例えばpH5.0~pH9.0、適切にはpH6.7~pH7.4、またはpH6.8、pH6.9、pH7.0、pH7.2等、インビボにおける投与のための、任意の一般的に許容されるpH値を含む。pHは、適切な酸またはアルカリ、例えば塩酸を用いて、それに応じて調整され得る。
【0088】
本発明の組成物は、すぐに使用できる水性懸濁液に製剤化され得る、または組成物は、凍結乾燥製剤として調製され得る。本発明の凍結乾燥製剤は、同様に提供される適切な希釈剤、アジュバント、または賦形剤、例えば生理学的に許容される緩衝剤と併せて、別個の剤形として供給され得る。本明細書に記載されるように、そのような組成物は、別個の剤形として第VIII因子を付加的に含み得る、または本明細書に記載されるコロイド粒子とともに製剤化され得る。典型的には、再構成のために、凍結乾燥された第VIII因子(FVIII)のバイアル、およびコロイド粒子(PEGLip)溶液の別個のバイアルが提供されるであろう。
【0089】
コロイド粒子は、水性クエン酸塩緩衝液中9%(w/v)総脂質の懸濁液として保管され得、適切には、粒子は、7%、6%、5%、4%(w/v)総脂質の懸濁液として保管され得る。外在性第VIII因子(FVIII)の要される濃度が患者に対してわかり次第、バルク溶液を、必要な場合には50mMクエン酸ナトリウム溶液で希釈して、コロイド粒子の濃度を調整し得、それにより、第VIII因子(FVIII)が添加される場合、コロイド粒子対第VIII因子(FVIII)分子の所望の比が獲得される。
【0090】
第VIII因子は、完全に外在性であり得、例えば阻害剤を有する重度の血友病患者の場合には、注射の前に本発明とともに製剤化され得、その使用に関して、それは血漿濃縮物に由来し得る、または組み換えで産生され得る。代替的に、患者が第VIII因子を自己製造する一部の能力を保持する場合(例えば、軽度もしくは中等度血友病患者、または後天性血友病を有する患者)、より低い量の外在性第VIII因子が投与されるであろう、または外在性第VIII因子は投与されないであろう。
【0091】
理論によって拘束されることを望むことなく、組成物に存在する過度のコロイド粒子は、遊離コロイド粒子を、他の中核になる血液因子(例えば、血友病Aの場合にはFVIIおよびFIX)に可逆的に結合させるのに十分な量にあり、それは、粒子と結び付いたある量の第VIII因子(FVIII)とともに、投与後に血小板に捕捉されかつ可逆的に結合されて、血小板で因子を濃縮し得、外因性血液凝固経路をブーストし得るという推定がある。
【0092】
注射されると、コロイド粒子は、血小板の表面に可逆的に結合し、他の膜と融合するであろう。コロイド粒子がすでに外在性第VIII因子と結合している場合、これは、血小板の表面で第VIII因子を濃縮すると考えられ、一部は、血小板内に貪食され得、または産生されるTF担持凝固促進性微粒子ともしくはその中で結び付き得、阻害剤およびまた通常のクリアランスメカニズムから該タンパク質を保護し、例えばLRP-1、該タンパク質により長い半減期を付与する。中等度または軽度の血友病を有する患者において、コロイド粒子は、任意の循環第VIII因子も捕捉すると考えられ、血小板でもしくはその中で、または生じたTF担持凝固促進性微粒子の中でそれを濃縮する。注射時に第VIII因子と結び付いていないコロイド粒子は、血小板の表面でFVIIならびに他の内在性血液因子(例えば、FIX)を捕捉しかつ濃縮し始め、これらと、産生された任意のTF担持凝固促進性微粒子とを結び付け始めると考えられ;接着した因子を有しない粒子も血小板の表面に結合しかつ融合し、凝血カスケードの混乱の間に血小板反応面で、TF担持凝固促進性微粒子を形成もし、活性形態、FVIIa、およびFIXaを含めたさらなる因子を捕捉しかつ濃縮する日和見性トラップとして作用もすることも実現可能である。
【0093】
通常では、内皮への損傷時、組織因子はFVIIをFVIIaに変換し、それと結合する。次いで、TF-FVIIa複合体は、活性化血小板の表面へ移動しかつその表面に結合し、FXをFXaに変換し始めて、プロトロンビンを切断してトロンビンを生成し、その過程は、FXaがFVIIa(活性化血小板から放出された)と複合して、プロトロンビナーゼ複合体を形成する場合に最適化され、それは、活性化血小板およびそれらに由来するTF担持凝固促進性微粒子の曝露された膜表面でも会合する。本発明は、FVIIをこの反応面にごく接近して置き、それは、多くのTF担持凝固促進性微粒子に粉砕されていてもよい。ゆえに、FVIIa(コロイド粒子、ゆえに血小板および微粒子に結合したままである)への変換、およびTF-FVIIa複合体の形成は、2つの重要でかつ即時の効果を有して、血小板およびそれらの微粒子の反応面で生じる:
1)FXからFXaへの限局性変換であって、これらの血小板およびTF担持凝固促進性微粒子表面でも、それはFVと結合して(「プロトロンビナーゼ複合体」)、高度に限局性のトロンビンバーストを生じさせ、それはフィブリンの産生を開始もし、増幅相を触媒もするであろう、限局性変換;ならびに同時に、
2)FIXからFIXaへの限局性変換であって、それは次いで、コロイド粒子により共局在化しているFVIIIと結び付いて、同じ膜表面でテナーゼ複合体を形成し得、ゆえに、上の(1)において目下強化された開始相からのトロンビンによって触媒されている増幅相を増大しかつ最適化する、限局性変換。代替的にかつ付加的に、コロイド粒子膜は、代用テナーゼ複合体を形成し得、引き付け、FXをFXaに変換する。
【0094】
凝血カスケードが開始しかつフィブリンが産生され次第、血小板は通常では凝固してフィブリンメッシュを塞ぐ。血小板と結合しかつ融合するコロイド粒子の能力は、メッシュにおいて一緒に血小板の付着性を強めることにおいてここで果たす最終的な役割を有して、凝血を安定化する。
【0095】
本発明は、限定された量のFVIIIおよびFVIIIに対する阻害剤の両方の存在下で、FXからFXaへの変換を向上させる複数のやり方で作用し得る。第1に、FIXaとのテナーゼ複合体を形成し得る限定された量のFVIIIの潜在性を保護し、増強し、かつ最大限に高めて、FXからFXaへの変換を触媒することによって;第2に、FVIIIの作用を模倣しかつFIXaに結合して、代用テナーゼ複合体を提供して、FXからFXaへの変換を触媒することによって;第3に、TF担持凝固促進性微粒子の産生により、およびFVII/FVIIaを濃縮して、外因性テナーゼ複合体によるFXからFXaへの変換を刺激することの両方により、外因性経路を上方調節することによって;ならびに最後に、上方調節された外因性経路を介して、FIXからFIXaへの変換を増強して、内因性テナーゼ複合体の形成を増大させることによって。これらの作用を通じて、本発明は、内因性経路のテナーゼ複合体におけるFVIIIの活性を保護し、保存し、かつ最大限に高め、一方で、テナーゼ複合体におけるFVIIIaの機能性を模倣し、また外因性経路の上方調節を通じてその経路を同時に迂回することによる、複数の作用の様態を有する。
【0096】
コロイド粒子は、外因性経路を介してFXからFXaへの変換を増強する迂回剤として、ならびにFVIIIの保護およびFIX/FIXaを濃縮することの両方により内因性経路を増幅する、二重の作用を有し、テナーゼ複合体の形成を加速させる、またはFIXaとFVIII非依存的テナーゼ複合体を形成する。増強された開始(外因性)および増幅(内因性)相は、一緒になって、とりわけ阻害性抗体の存在下における、そのような低下した量の第VIII因子を用いて通常考え得るであろうよりも、凝血のより迅速な始まり、およびより硬い凝血に結合され得るフィブリンのより速い生成の両方を可能にし、患者の出血のより速い解決につながる。
【0097】
本発明は、ゆえに、血小板表面でおよび血小板の内側で内在性および外在性第VIII因子の両方の正しい量を濃縮するために、コロイド粒子の能力、および特にコロイド粒子対第VIII因子のその特異的製剤比の両方に依存し、ならびにTF担持凝固促進性微粒子の産生を刺激し、それにより、凝血カスケードのTF-FVIIa中心の開始相および増幅相の両方とも、血友病A)の場合には第VIII因子に対する阻害剤の存在下で、限定された量の第VIII因子を用いて、トロンビン生成の始まりを加速させる相乗効果とともに最適化される。
【0098】
注射された外在性第VIII因子は、阻害剤および通常のクリアランスメカニズムの両方による分解から保護されるため、ならびに血小板で因子を濃縮しかつTF担持凝固促進性微粒子の効果を加速させることの両方により、より良質な凝血がより速く形成されるため、本発明は、遺伝子療法による血小板における異所性FVIIIの産生によって見出される、第VIII因子を供給する他の方法と比べて第VIII因子倹約的であろう。この利益は、患者にとってより少量のまたはより低頻度の注射として現れると考えられ、既定の治療の順守を増加させ、偶発的および場合によっては致命的な出血の可能性を減少させる。
【0099】
遺伝子療法により血小板において異所的にFVIIIを産生しようとする試みの成功とは異なり、本発明は、血小板でおよび血小板中で、外在性第VIII因子および内在性因子(FVII/FVIIaおよびFIX/FIXa)を濃縮するものの、それは、ウイルス媒介性導入遺伝子療法の長い開発プログラム、規制の負担、または不可逆的性質を要しない。
【0100】
治療される対象となる疾患において、正常なレベルよりも低くある限定された量の第VIII因子の効果を濃縮しかつ増幅することによって(例えば、血友病A(HA)の場合にはFVIII)、本発明は、第VIII因子倹約的であると考えられ、血友病患者において、および特に、第VIII因子を、それらの阻害性抗体が該タンパク質を破壊し、それらを非保護の状態にするであろうことから、通常では投与され得ない阻害剤患者において、より低い用量が投与されることを可能にし、かつ/または止血を達成するために通常要される注射の回数を低下させると予測される。
【0101】
新規の操作された第VIII因子分子もしくはこれらの分子の模倣体またはそれらの活性化形態を作り出す手法とは異なり、本発明は、分子内、例えば組み換えヒトFVIII(rhFVIII)に外来配列を操作する必要なく、任意の現在の血漿由来のまたは組み換えの第VIII因子とともに使用され得る。このことは、新規の認識されていないタンパク質に対して生じる免疫調節応答の危険性を低下させる。
【0102】
これらの手法、すなわち血小板におけるFVIIIの産生または模倣体の使用の両方とは異なり、本発明は、外因性の加速的経路の外在的に適用された構成要素を濃縮するだけでなく、内在性因子を濃縮もしかつTF担持凝固促進性微粒子の産生を刺激もして、迅速なトロンビンバーストに対する内因性経路、および外因性経路の他の主要な構成要素(FIXa)の局所的生成を増幅し、それは、第VIII因子レベルは再度落ちることから、トロンビン産生の共通の経路を推進し続け得る、新規でかつ非常に必要な二重の作用を有する。
【0103】
本発明の使用は、遊離第VIII因子と比べて第VIII因子倹約的である。このことは、患者にとってより多くの利便性(より少量の注射)、より良好な順守(予防的注射のより少ない失念)、およびより良好な医療経済学(より低費用の第VIII因子、血友病患者が順守しておらず出血を有した場合の、より低い緊急度の注入)を意味する。
【0104】
第VIII因子の標準的な血漿由来の形態または組み換えで産生された形態の使用を可能にすることによって、本発明が、阻害剤を有する血友病A患者においてFVIIIを用いた予防的治療を可能にすることに対する費用効果の高い解決策を可能にすることは究極の目的である。
【0105】
本発明の使用は、阻害剤を有する血友病患者において、迂回剤としての外在性FVIIaの使用と比べて倹約的である。本発明は、患者自身のFVIIを使用するだけでなく、血小板でこれを濃縮もしかつTF担持凝固促進性微粒子の産生を刺激もして、FVIIの有効性を最大限に高め、ゆえに外在性FVIIaの費用、および該タンパク質の過剰摂取に起因した血栓性反応の任意の懸念を回避する。
【0106】
組成物は、注射または注入によって、好ましくは静脈内、皮下、皮内、または筋肉内に投与され得る。注射は、組成物の単回投薬の投与を含む。注入は、長期間にわたる組成物の投与を含む。
【0107】
本発明の組成物は、1日あたり少なくとも1回、1日あたり少なくとも2回、1週間あたり約1回、1週間あたり約2回、2週間あたり約1回、または1カ月あたり約1回の投与のためのものであり得る。組成物は、また、FVIIIの血中濃度を一貫したレベルで維持させる間隔で投与され得かつ/または再投薬され得、患者の血中におけるFVIIIの濃度が、治療量以下のまたは治療上非関連のレベルに到達するまで再投薬するのを待つ必要なく、継続的で、一定で、かつ予測可能な治療効果を提供する。伝統的実践では、「健常なレベル」または治療上有効な/関連するレベルのFVIIIが血流になおも存在する間、FVIIIの後続投薬は、通常では患者に与えられない。ゆえに、本発明は、予防にとってより理想的に適している、血流におけるより一貫した治療レベルのFVIIIを提供する。
【0108】
患者の血中におけるFVIIIの治療量以下のまたは治療上非関連のレベルは、患者が、20分間以下、15分間以下、または12分間以下の全血凝固時間を維持することができない場合であると特徴付けられ得る。
【0109】
本発明は、患者が、多くとも(no more than)20分間、多くとも15分間、または多くとも12分間の全血凝固時間を維持することができる組成物を提供する。
【0110】
生体適合性ポリマーで誘導体化されたコロイド粒子(リポソーム)を伴った血液因子の製剤は、上手く皮下投与され得、血友病に罹患した対象に治療有効用量の血液因子をもたらし得ることが驚くべきことに見出された。
【0111】
本発明の実施例において、PEGは、血液因子との結び付きの前に、小胞形成の間にコロイド粒子内に組み入れられる。血液因子上の特異的アミノ酸配列が、リポソームの外側にあるPEG分子のカルバメート官能基に非共有結合的に結合し得ると思われる。
【0112】
コロイド粒子は血液因子をカプセル化しない。血液因子は、リポソームの外面上のポリマー鎖と非共有結合的に相互作用し、ポリマー鎖を活性化する化学反応は行われない。血液因子と生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリポソームとの間の相互作用の性質は、イオン性相互作用、疎水性相互作用、水素結合、およびファンデルワールス力等の任意の非共有結合性メカニズムによるものであり得る(Arakawa,T.およびTimasheff,S.N.、Biochemistry 24:6756~6762(1985);Lee,J.C.およびLee,L.L.Y.、J.Biol.Chem.226:625~631(1981))。そのようなポリマーの例は、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0113】
親水性ポリマーで誘導体化された脂質を形成する小胞を調製するために、多様な公知のカップリング反応が使用され得る。例えば、ポリマー(PEG等)は、塩化シアヌル基を通じて、ホスファチジルエタノールアミン(PE)等の脂質に誘導体化され得る。代替的に、キャップ付きPEGをカルボニルジイミダゾールカップリング試薬で活性化して、活性化イミダゾール化合物を形成し得る。カルバメート連結化合物は、MPEG(メトキシPEG)の末端ヒドロキシルとクロロギ酸p-ニトロフェニルとを反応させて炭酸p-ニトロフェニルを得ることによって調製され得る。次いで、この産物を1-アミノ-2,3-プロパンジオールと反応させて、カルバメート中間体を得る。ジオールのヒドロキシル基をアシル化して最終産物を得る。WO01/05873に記載されるように、1-アミノ-2,3-プロパンジオールの代わりにグリセロールを使用した同様の合成を使用して、カルボネート連結産物を産生し得る。他の反応が周知であり、例えばUS5,013,556に記載される。
【0114】
コロイド粒子(リポソーム)は、様々なパラメーターに従って分類され得る。例えば、ラメラのサイズおよび数(構造的パラメーター)をパラメーターとして使用する場合には、3種の主要なタイプのリポソームが記載され得る:多重層小胞(MLV)、小さな単層小胞(SUV)、および大きな単層小胞(LW)。
【0115】
MLVは、それらのゲル-液晶相転移温度(Tm)よりも上で、乾燥リン脂質の水和時に自然発生的に形成される種である。MLVのサイズは不均一であり、それらの構造は、交互の同心円状の水層および脂質層のタマネギの皮に似ている。
【0116】
SUVは、超音波処理、または押出、高圧ホモジナイゼーション、もしくは高剪断混合等の他の方法によってMLVから形成され、単一層である。それらは、高い表面対容積比を有する最も小さな種であり、それゆえ、脂質の重量に対して最も低い捕捉容積の水性空間を有する。
【0117】
第3のタイプのリポソームLUVは、大きな水性コンパートメントおよび単一(単層)のまたはごくわずかな(オリゴラメラの)脂質層を有する。さらなる詳細は、D.LichtenbergおよびY.Barenholz、「Liposomes:Preparation,Characterization,and Preservation,in Methods of Biochemical Analysis」、第33巻、337~462頁(1988)に開示される。
【0118】
本明細書において使用されるとき、「搭載」という用語は、搭載される対象となるバイオポリマー物質の任意の種類の相互作用、例えば、バイオポリマー物質の押出の有無にかかわらない、カプセル化、付着(小胞の内壁または外壁への)、または壁内への埋め込み等の相互作用を意味する。
【0119】
本明細書において使用されかつ上で示されるとき、「リポソーム」という用語は、コロイド粒子を指し、自然発生的にまたは非自然発生的に小胞を生じ得る任意の両親媒性化合物のすべての球体または小胞、例えば少なくとも1個のアシル基が、複雑なリン酸エステルによって置き換えられているリン脂質を含むことを意図される。リポソームは、ガラス状態から液晶までの任意の物理的状態で存在し得る。ほとんどのトリアシルグリセリドが適切であり、本発明における使用に適切な最も一般的なリン脂質は、レシチン(ホスファチジルコリン(PC)とも称される)であり、それは、リン酸のコリンエステルに連結した、ステアリン酸、パルミチン酸、およびオレイン酸のジグリセリドの混合物である。レシチンは、卵、大豆、および動物組織(脳、心臓等)等、すべての動物および植物に見出され、合成でも産生され得る。リン脂質の供給源またはその合成の方法は重大ではなく、任意の天然に存在するまたは合成のホスファチドが使用され得る。
【0120】
具体的なホスファチドの例は、L-a-(ジステアロイル)レシチン、L-a-(ジパルミトイル)レシチン、L-a-ホスファチジン酸(phosphatide acid)、L-a-(ジラウロイル)-ホスファチジン酸、L-a(ジミリストイル)ホスファチジン酸、L-a(ジオレオイル)ホスファチジン酸、DL-a(ジ-パルミトイル)ホスファチジン酸、L-a(ジステアロイル)ホスファチジン酸、および脳、肝臓、卵黄、心臓、大豆等から、または合成で調製された様々なタイプのL-a-ホスファチジルコリン、ならびにその塩である。他の適切な修飾は、ホスファチジルコリン(PC)における脂肪アシル残基架橋剤の制御性過酸化、およびそれら自身で、またはPCのアルキル類似体等のPCと混合された場合にミセルを形成する双性イオン性両親媒性物質(amphipathate)を含む。
【0121】
リン脂質は、純度が変動し得、完全にまたは部分的に水素化もされ得る。水素化は、不要な過酸化のレベルを低下させ、パッキングおよび漏出をもたらすゲル-液体/結晶相転移温度(Tm)を修正しかつ制御する。
【0122】
リポソームは、様々な生物学的流体を含む任意の特異的貯蔵庫の要件に「合わせ」られ得、凝集またはクロマトグラフ分離なしでそれらの安定性を維持し、注射される流体中に十分に分散しかつ懸濁されたままの状態である。インサイチューにおける流動性は、組成、温度、塩分濃度、2価イオン、およびタンパク質の存在に起因して変化する。リポソームは、任意の他の溶媒または界面活性剤の有無にかかわらず使用され得る。
【0123】
一般的に適切な脂質は、少なくとも、卵または大豆PCにおけるアシル鎖構成要素の転移温度(Tm)に関して特徴的であるアシル鎖組成を有し得る、すなわち1本の鎖が飽和でありかつ1本が不飽和である、または両方が不飽和である。しかしながら、2本の飽和鎖を使用する可能性が除外されない。
【0124】
リポソームは、これらが、不安定性および/または凝集および/またはクロマトグラフ分離を誘導しない限りにおいて、他の脂質構成要素を含有し得る。これは、ルーチン実験によって判定され得る。
【0125】
PEG化リン脂質は、コロイド粒子の表面に物理的に接着され得る、またはコロイド粒子の膜に挿入され得る。ポリマーは、それゆえ、コロイド粒子に共有結合され得る。
【0126】
単層または多重層である修飾コロイド粒子を産生するための多様な方法が公知であり、使用可能である(LichtenbergおよびBarenholz、(1988)を参照されたい):
1.リン脂質の薄膜を水性媒体で水和し、その後に機械的振とうおよび/もしくは超音波照射および/もしくは適切なフィルターを通した押出が続く;
2.適切な有機溶媒中でのリン脂質の溶解、水性媒体との混合、その後に溶媒の除去が続く;
3.その臨界点を上回る気体の使用(すなわち、フロン、およびCO2、またはCO2と他のガス状炭化水素との混合物等の他の気体)、または
4.脂質洗剤混合ミセルを調製し、次いで洗剤の濃度を、リポソームが形成されるその臨界濃度を下回るレベルまで下げる。
【0127】
一般的に、そのような方法は、約0.02~10μm以上の不均一なサイズを有するコロイド粒子を産生する。比較的小さくかつサイズが十分に規定されるコロイド粒子が、本発明における使用に好ましいことから、「コロイド粒子小型化」として規定される第2のプロセシング工程は、コロイド粒子懸濁液のサイズおよびサイズ不均一性を低下させるために使用され得る。
【0128】
コロイド粒子懸濁液のサイズを測って、約5μm未満のサイズ域、例えば<0.4μmにある小胞の選択的サイズ分布を達成し得る。本発明の1つの実施形態において、コロイド粒子は、約0.03~0.4ミクロン(μm)、適切には0.1ミクロン(μm)前後の平均的粒子サイズ径を有する。
【0129】
この域にあるコロイド粒子は、適切なフィルターを通した濾過によって容易に滅菌され得る。より小さな小胞ほど、保管時に凝集する傾向がより低いことも示し、ゆえに、リポソームが静脈内にまたは皮下に注射される場合、潜在的に深刻な閉塞または詰まり問題を低下させる。最後に、サブミクロン域まで小型化されているリポソームは、より均一な分布を示す。
【0130】
いくつかの技法が、本発明に適切な様式で、コロイド粒子のサイズおよびサイズ不均一性を低下させるために使用可能である。標準的な水槽またはプローブ超音波装置によるコロイド粒子懸濁液の超音波照射は、サイズが0.02~0.08μmの小さな単層小胞(SUV)への漸進的サイズ低下をもたらす。
【0131】
ホモジナイゼーションは、大きなコロイド粒子をより小さなものに断片化するために剪断エネルギーに依存する別の方法である。典型的なホモジナイゼーション手順では、選択されたリポソームサイズ、典型的には0.1~0.5μmが観察されるまで、コロイド粒子懸濁液を標準的エマルジョンホモジナイザーを通して再循環させる。両方法において、粒子サイズ分布は、従来のレーザービーム粒子サイズ判定によってモニターされ得る。
【0132】
小細孔ポリカーボネートフィルターまたは等価の膜を通したコロイド粒子の押出も、膜の細孔サイズに応じて、平均が約0.02~5μmの域にある、比較的十分に規定されたサイズ分布までコロイド粒子サイズを低下させるための有効な方法である。
【0133】
典型的に、所望のコロイド粒子サイズ分布が達成されるまで、懸濁液を1枚または2枚の積層膜を通して数回循環させる。コロイド粒子を連続してより小さな細孔膜を通して押出して、リポソームサイズの段階的低下を達成し得る。
【0134】
遠心分離および分子篩クロマトグラフィーは、1μm未満の選択閾値を下回る粒子サイズを有するリポソーム懸濁液を産生するために使用可能である他の方法である。これら2つのそれぞれの方法は、大きな粒子からより小さなものへの変換よりもむしろ、大きなリポソームの優先的除去を伴う。コロイド粒子収率は、それに応じて低下する。
【0135】
サイズ処理されたコロイド粒子懸濁液は、従来の0.45μmデプス膜フィルター等、約0.4μmの粒子識別サイズを有する滅菌膜を通過することによって容易に滅菌され得る。リポソームは、凍結乾燥形態で安定であり、水中に取り込ませることによって使用の直前に再構成され得る。
【0136】
コロイド粒子を形成するための適切な脂質は、上で記載される。適切な例は、ジミリストイルホスファチジルコリン(dimirystoylphosphatidylcholine)(DMPC)および/またはジミリストイル(dimirystoyl)-ホスファチジルグリセロール(DMPG)等のリン脂質、直接的にまたは部分的なもしくは完全な水素化が後に続く、部分的なまたは完全な精製の後に獲得される卵および大豆由来のリン脂質を含むが、それらに限定されない。
【0137】
以下の4つの方法は、WO95/04524に記載され、概して、本発明に従って使用されるコロイド粒子(リポソーム)の調製に適切である。
方法A
a)水不混和性有機溶媒中で小胞を形成するのに適切な脂質等、両親媒性物質を混合する
b)固体支持体の存在下で溶媒を除去し、代替的に、乾燥両親媒性物質またはその混合物が、直接任意の形態(粉末、顆粒等)で使用され得る、
c)生理学的適合性溶液中のバイオポリマー物質の溶液に、工程b)の産物を取り込ませる
d)可溶化または分散特性を有する有機溶媒を添加する、ならびに
e)バイオポリマー物質の機能を保持する条件下で、工程d)において獲得された画分を乾燥させる。
【0138】
方法Aの工程a)に従って、上で挙げられる小胞を形成するのに適切な両親媒性物質を、水不混和性有機溶媒中で混合する。水不混和性有機溶媒は、フッ素化炭化水素、塩素化炭化水素等の極性プロトン性溶媒であり得る。
【0139】
本発明の方法の工程b)において、溶媒を、固体支持体の存在下で除去する。固体支持体は、ビーズ様構造を有する不活性有機または無機材料であり得る。無機支持体材料の材料はガラスであり得、有機材料は、Teflon(商標)または他の同様のポリマーであり得る。
【0140】
本発明の方法Aの工程c)は、生理学的適合性溶液中のカプセル化される対象となる物質の溶液に、工程b)の産物を取り込ませるためのものである。
【0141】
生理学的適合性溶液は、重量で最高約1.5までの塩化ナトリウム溶液と等価であり得る。他の塩を、それらが、例えば凍結保護剤として生理学的に適合性である限りにおいて、使用することも可能である、例えば糖類および/またはアミノ酸。例えば、ラクトース、スクロース、またはトレハロースが、凍結保護剤として使用され得る。
【0142】
任意選択で、工程a)とb)との間に、工程a)の画分等のウイルス不活性化、滅菌、脱パイロジェン化、濾過の工程が提供され得る。これは、調製の初期段階で薬学的に許容される溶液を有するために有利であり得る。
【0143】
方法Aの工程d)は、可溶化または分散特性を有する有機溶媒を添加する工程である。
【0144】
有機溶媒は、水と混和性の有機極性プロトン性溶媒であり得る。第3級ブタノール(tert-ブタノール)等、アルキル鎖に1~5個の炭素原子を有する低級脂肪族アルコールも使用され得る。水と混和性の有機極性プロトン性溶媒の量は、リポソームに搭載される対象となる物質へのその干渉に強く依存している。例えば、タンパク質が搭載される対象となる場合、上限は、タンパク質の活性が影響を受ける溶媒の量によって設定される。これは、搭載される対象となる物質の性質によって強く変動し得る。例えば、凝血因子が第IX因子を含む場合には、tert-ブタノールのおよその量は30%前後であり、一方で、第VIII因子に関しては、10%未満の量のtert-ブタノールが適切である(第VIII因子は、tert-ブタノールの影響にはるかに感受性が高い)。これらの例におけるtert-ブタノールのパーセンテージは、最終濃度に対して計算される容積でのパーセントに基づく。
【0145】
任意選択で、工程d)に続いて、工程d)の後に得られた画分のウイルス不活性化滅菌、および/または分配が行われ得る。
【0146】
本発明の工程e)は、搭載される対象となる物質の機能を保持する条件下で、工程d)において獲得された画分を乾燥させる工程である。混合物を乾燥させるための1つの方法は凍結乾燥である。凍結乾燥は、凍結保護剤、例えばラクトースもしくは他のサッカリド、またはアミノ酸の存在下で行われ得る。代替的に、蒸発または噴霧乾燥が使用され得る。
【0147】
乾燥した残留物は、次いで、使用前に水性媒体に取り込まれ得る。固体の取り込み後、それは、それぞれのリポソームの分散体を形成する。水性媒体は生理食塩溶液を含有し得、形成された分散体は、必要な場合には、任意選択で適切なフィルターに通されて、リポソームを小型化し得る。適切には、リポソームは、0.02~5μm、例えば<0.4μmの域にあるサイズを有し得る。
【0148】
方法Aによって獲得可能なリポソームは、血液因子の高い搭載を示す。
【0149】
本発明の組成物は、方法Aの工程c)またはd)のいずれかの画分の単離によって獲得可能な中間産物でもあり得る。したがって、本発明の製剤は、分散体の形態の、水中に方法Aの工程e)の産物を取り込ませた後に獲得可能な水性分散体も含む(水性媒体中のリポソーム)。
【0150】
代替的に、本発明の医薬組成物は、方法B、C、D、およびEと称される以下の方法によっても獲得可能である。
方法B
この方法も、方法Aの工程a)、b)、およびc)を含む。しかしながら、方法Aの工程d)およびe)は省かれる。
方法C
方法Cでは、方法Aの工程d)は、凍結および融解サイクルによって置き換えられ、それは少なくとも2回反復される必要がある。この工程は、リポソームを産生する先行技術において周知である。
方法D
方法Dは、いかなる浸透性構成要素の使用も除外する。小胞の調製の工程である方法Dでは、搭載される対象となる物質の実質的に塩不含の溶液を混ぜる工程、およびこのようにして獲得された画分を共乾燥する工程を伴う。
方法E
方法Eは、上で記載される方法A~Dよりも簡単である。それは、tert-ブタノール等の極性プロトン性水混和性溶媒に、リポソーム調製に使用される化合物(脂質酸化防止剤等)を溶解する工程を要する。次いで、この溶液を、血液因子を含有する水溶液または分散体と混合する。混合は、作用物質の生物学的および薬理学的活性を維持するために要される最適な容積比で実施される。
【0151】
次いで、混合物を、凍結保護剤の存在または不在下で凍結乾燥する。リポソーム製剤の使用前に、再水和が要される。これらのリポソームは多重層であり、それらの小型化は、WO95/04524に記載される方法の1つによって達成され得る。
【0152】
本発明の第1の態様の対象における血友病Aの治療における使用のための組成物は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある対象に使用され得る。本発明の第1の態様の対象における血友病Aの治療における使用のための組成物は、外在的に投与された第VIII因子(FVIII)に対する免疫応答を開始するまたは生成する対象に使用され得る。本発明の第1の態様の対象における血友病Aの治療における使用のための組成物は、外在性第VIII因子(FVIII)を用いた治療、すなわち第VIII因子療法に抵抗性である対象に使用され得る。別のやり方で表現すると、本発明の第1の態様の対象における血友病Aの治療における使用のための組成物は、FVIIIに対する阻害剤(抗体)に試験で陽性を示している対象に使用され得る。本発明を踏まえて、患者は、それゆえ、本発明に従った治療の前に、FVIII阻害剤(FVIIIに対する抗体)の存在について試験され得る。任意選択で、それゆえ、本発明に従った治療の方法は、本明細書に規定される組成物を用いて対象を治療する工程の前に、第VIII因子に対する抗体の生成について対象を試験する工程を含み得る。
【0153】
適切には、対象を免疫負荷アッセイにおいて試験して、対象が、外在的に投与された第VIII因子(FVIII)に対する免疫応答を開始するかどうかを判定し得る。漸増量の外在性第VIII因子(FVIII)を、規定された回数の曝露にわたって対象に投与して、対象が、外在的に投与された第VIII因子(FVIII)に対する免疫応答を開始するかどうかを判定し得、例えば、外在性第VIII因子(FVIII)への曝露の回数は50回以下の曝露であり得る。漸増量の外在性第VIII因子(FVIII)は、滴定曲線の一部、すなわち50回の曝露にわたって投与された第VIII因子(FVIII)の量として計算され得る。
【0154】
本発明の第1の態様の対象における血友病Aの治療における使用のための組成物は、小児対象に使用され得る。小児患者は、出生~18歳の集団のその部分として欧州連合(EU)において定義される。小児集団は、いくつかのサブセットを包含する。小児患者の適用される年齢分類は:
・0~27日間の満期前および満期新生児;
・1カ月~23カ月の乳児(または幼児);
・2歳~11歳の子ども;および
・12~18歳未満の青少年。
(http://ec.europa.eu/health/sites/health/files/files/eudralex/vol-1/2014 c338 01/2014 c338 01 en.pdfを参照されたい)。
【0155】
血友病は、先天性血友病A(cHA)または後天性血友病A(aHA)であり得る。先天性血友病は、凝血第VIII因子の不在または低下したレベルによって特徴付けられる遺伝性出血性障害である。後天性血友病は、出血のいかなる個人のまたは家族の病歴なく、個体において自己抗体阻害剤の突然の産生がある自己免疫病態である。身体は、血友病Aにおいて内在性第VIII因子に対する自己抗体を産生する。
【0156】
「阻害剤患者」とは、彼らの医療歴において、外在性の治療用血液因子の適用に応答して阻害性抗体(「阻害剤」)を発生させたことがある者(先天性血友病の場合)、または彼ら自身の内在性FVIIIに対して阻害剤を発生させたことがある者(後天性血友病の場合)として定義される。彼らは、阻害剤を有してまたは有しないで現在存在し得るが、後者の場合には、ITIによりおそらく寛容化されておらず、FVIIIを再提示された場合に依然として阻害剤を生成し得るであろう。そのような対象は、第VIII因子(FVIII)療法に対して非ナイーブである患者であるとも見なされ得る。
【0157】
阻害剤患者は、5ベセスダ単位未満のFVIII阻害剤(抗体)活性を有し得る。患者の血中の抗体阻害剤は、ベセスダ法を使用して定量され、患者における阻害剤のレベルについて話す場合、専門的には「ベセスダ単位」を共通して使用する。5ベセスダ単位を上回る値のFVIII阻害剤は、高力価の阻害剤と見なされる(https://www.ema.europa.eu/en/documents/scientific-guideline/guideline-clinical-investigation-recombinant-human-plasma-derived-factor-viii-products-revision-2_en.pdfを参照されたい)。
【0158】
本発明の第1の態様の対象における血友病Aの治療における使用のための組成物は、5ベセスダ単位を上回るまたはそれに等しいFVIII阻害剤(抗体)活性を有する対象にも使用され得る。本発明の第1の態様の対象における血友病Aの治療における使用のための組成物は、5ベセスダ単位未満のFVIII阻害剤(抗体)活性を有する対象にも使用され得る。
【0159】
ベセスダ単位(BU)は、血液凝固阻害剤活性の尺度である。実践的止血によれば、「1ベセスダ単位(Bu)とは、37℃における2時間のインキュベーション後の正常血漿における1単位の第VIII因子:Cの50%を中和するであろう、血漿サンプルにおける阻害剤の量として定義される」(Schumacher,Harold Robert(2000).Handbook of Hematologic Pathology.Informa Health Care、583頁)。1単位の第VIII因子は、1IU/mLの第VIII因子に等しい。
【0160】
ベセスダアッセイは、試験血漿の希釈後に残る残留FVIII活性を測定することに基づく。アッセイは、37℃で2時間インキュベートされた、試験血漿および正常血漿の試験混合物と、正常血漿および緩衝液の対照混合物との比較を要する。試験混合物における残留活性パーセントは、ベセスダ単位(BU)に変換される。
【0161】
ベセスダアッセイは、以下のとおりに実施される:
1.試験(患者)血漿の倍加希釈[通常1/2~1/1024]を、イミダゾール緩衝生理食塩水において作製し、等容積の正常血漿プールと37℃でインキュベートする。ナイメゲン変法では、患者血漿の希釈は、第VIII因子欠損血漿において作製される。
2.イミダゾール緩衝生理食塩水(または、ナイメゲン変法の場合、免疫枯渇した第VIII因子欠損血漿)と混合された等容積の正常血漿からなる対照混合物を調製する。正常血漿プールは、約100%[100IU/dL]の第VIII因子を含有するであろう。この混合物は、実際には、50%[50IU/dL]の第VIII因子の開始濃度を有する(緩衝液を用いた50:50希釈を実施しているため)が、これは、同じ供給源および容積がすべてのインキュベーション混合物に添加されるため問題ではない。対照の使用は、インキュベーション期間の間の第VIIIおよびV因子の劣化を補う。
3.インキュベーション期間の終わりに、残留第VIII因子を、インキュベートされた対照を100%[100IU/dL]標準物質として使用した、標準的1段階APTTベースのアッセイを使用してアッセイする。
4.阻害剤濃度を、残留第VIII因子活性対阻害剤単位のグラフから計算する。50%に最も近いが30~60%域内にある残留第VIII因子を与える試験血漿の希釈を、阻害剤の計算に選定する。各希釈に対する阻害剤力価を計算し、平均を取ることも可能である。<25%[25IU/dL]または>75%[75IU/dL]のいかなる残留第VIII因子も、阻害剤レベルの計算に使用されるべきではない。
5.残留第VIII因子活性が80~100%[80~100IU/dL]にある場合、サンプルは阻害剤を含有しない。
6.グラフから阻害剤力価を導き出し、希釈を掛けて最終力価を与える。既知の阻害剤力価の陽性対照血漿が含まれるべきである。
【0162】
血液凝固カスケードにおける活性のレベルは、任意の適切なアッセイ、例えば全血凝固時間(WBCT)試験、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、またはROTEMによって測定され得る。1段階および2段階/発色アッセイにおいて、主にアッセイ方法は分光光度法を伴い、そのためサンプルは透明である必要があるため、血液サンプルは、細胞断片を除去するために遠心分離によって調製される必要がある。下の包括的な凝血アッセイは、凝血の物理的形成の時間経過を査定し、ゆえに、凝血に寄与するすべての構成要素、例えば血小板が含まれることから、「本物の生命体」により近い。
【0163】
全血凝固時間(WBCT)試験は、全血が、外部環境、通常ガラスチューブまたはディッシュにおいて凝血を形成するのにかかる時間を測定する。WBCTは、回収の直後に採取され、2本のガラスチューブに分けられた2mlの全血を用いて査定され得る。これら2本のチューブを、次いで37℃の水槽に置き、穏やかに傾転させることによっておよそ20~30秒ごとにチェックする。チューブを水平に転倒させることができ、血漿の流出がなく、固形の凝血が保持される場合、凝血が判定される。
【0164】
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)試験は、凝血経路の一部のパラメーターを測定する。それは、血友病においておよび静脈内ヘパリン療法によって異常に上昇する。APTTは、静脈由来の数ミリリットルの血液を要する。APTT時間は、「内因性経路」として公知の凝血系の一部についての尺度である。APTT値は、検査室試験において生じる特異的凝血過程に関する秒単位の時間である。この結果は、正常血液の「対照」サンプルと必ず比較される。試験サンプルが、対照サンプルよりも長くかかる場合、それは、内因性経路における凝血機能の減少を示す。一般的な内科療法は、通常、45~70秒間の規模のAPTTの域を目指すが、値は、試験対正常の比、例えば正常の1.5倍としても表現され得る。ヘパリン治療の不在下における高いAPTTは、血友病に起因し得、それはさらなる試験を要し得る。
【0165】
ROTEM(回転式トロンボエラストメトリー)は、ROTEM Delta 2.7.2システムを使用して、NATEMアッセイにより血液サンプルの凝固能を査定する(再石灰化のみによって活性化される)。測定に関しては、20uLのCaCl2および340uLのクエン酸全血サンプルを装置に置く。アッセイは、新たな血液サンプルを採取した15分以内に実施される。アッセイは、他の中でも凝血時間(CT-血液が凝血を始める時間)、凝血形成時間(CFT-最大凝血硬度までの時間)を含めた、凝血の形成の間に多数の統計値をもたらす。
【0166】
本発明は、対象が、20分間未満、15分間未満、または適切には12分間未満の全血凝固時間を維持することを可能にする組成物を提供する。
【0167】
以下は、FVIII濃度を査定するための発色アッセイ(「2段階アッセイ」と呼ばれることもある)を記載する。
【0168】
FVIII血漿活性は、以下のような供給された方法の修正を有して、Chromogenix Coamatic Factor VIII発色アッセイ(Diapharma、K822585)を使用して判定され得る:
i.血漿サンプル希釈との比較可能性をもたらすための、FVIII標準物質調製におけるある量のナイーブ血漿の内包、
ii.各試験品目に特異的なFVIII標準物質の使用(Nuwiq(商標)またはFactane(商標))、
iii.2つの標準曲線域内への付加的なFVIII活性値の内包。
Nuwiq(商標)およびFactane(商標)FVIII標準物質ストック溶液の調製:
各試験品目のバイアルは、精製水で100IU/mlに再構成され得、-70℃にて小さなアリコートで冷凍されて保管され得、アリコートは、アッセイの日に37℃で融解され得る。調査試験品目に適当なストック溶液が、対応する血漿サンプルの分析に使用される。
【0169】
概略的アッセイ方法は、以下のとおりであった:
1.Technoclone Factor VIII-deficient plasma(native;Diapharma 5154007)のバイアルを、1ml精製水中で新たに再構成した、
2.0.990mL FVIII欠損血漿への0.010mLの適当なFVIII標準物質ストック溶液(100IU/ml)の添加によって、FVIII標準物質ワーキングストック溶液(1IU/mL)を新たに調製した、
3.CoamaticキットFactor試薬、S-2765+I-2581基質、および緩衝液ワーキング溶液を、キット使用説明書に従って調製し、37℃に予熱した、
4.20%酢酸停止溶液を調製した、
5.調査サンプルに適当なFVIII域を使用して、FVIIIワーキングストック溶液(1IU/ml)から標準曲線を作成した(表1および2を参照されたい)、
6.各試験血漿サンプルの1つのアリコートを、37℃で急速に融解した。
7.25μlの融解された試験血漿サンプルを、2000μlの緩衝液ワーキング溶液で希釈した。
8.50μlの希釈されたFVIII標準物質および希釈された試験血漿サンプルを、プレートマップに従って96ウェルプレートのウェルに添加し、37℃で4分間インキュベートした。
9.50μIのFactor試薬を各ウェルに添加し、37℃で2分間(高域の標準曲線)または37℃で4分間(低域の標準曲線)インキュベートした。
10.50μlのS-2765+I-2581基質を各ウェルに添加し、37℃で2分間(高域の標準曲線)または37℃で10分間(低域の標準曲線)インキュベートした。
11.50μlの20%酢酸停止溶液を各ウェルに添加した。ウェル内の色はわずかに黄色になり、光学密度を吸光度405nmでマイクロプレートリーダーによって測定した。
12.最良にフィットした線形曲線を使用して、FVIII標準物質活性(IU/ml)を405nmにおける吸光度に対してプロットした。
13.試験血漿サンプル吸光度を標準曲線に対して読み取り、FVIII活性をIU/ml単位で報告した。
14.平均(および、個々の調査において示される場合には中央値)FVIII活性結果を、各時点における3つのマウス試験血漿サンプルから計算し、データを薬物動態学的分析に供した。
【0170】
FVIII濃度を査定するためのさらなる試験は、以下のものを含む:
発色性FVIII活性アッセイ
Biophen FVIII:CアッセイキットRef#221406を、アッセイ緩衝液に1:10で希釈された血漿サンプルとともに使用し、Nuwiq(商標)およびヒト血漿参照標準曲線の両方に対してランした。各曲線を、イヌFVIII欠損血漿の連続希釈、次いでアッセイ緩衝液における1:10希釈によって作成した。両曲線における標準域は0.003~0.4U/mLであり、線形域は0.13~1.00U/mLであった。アッセイをキットプロトコールのとおりに実施した。
1段階第VIII因子アッセイ-Siemens BCS-XPシステム
2.5%イヌFVIII欠損血漿を含有するオーレンベロナール緩衝液に希釈された正常イヌプール血漿を使用して作成されたイヌFVIII参照曲線に対して、サンプルを測定した。曲線の域は5~200%である。血漿サンプルをオーレンベロナール緩衝液に1:10で希釈し、FVIII欠損血漿と混合し、次いでActin FSを添加した。3分間のインキュベーションの後、CaCl2での活性化を開始し、凝血するまでの時間を405nmで測定した。
【0171】
上で記載される第2の態様によれば、対象における血友病Aを治療する方法は、コロイド粒子を含む組成物を投与する工程を含む。コロイド粒子は、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含む。第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む。対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある。
【0172】
生体適合性親水性ポリマーは、ポリアルキルエーテル、ポリ乳酸、およびポリグリコール酸からなる群から選択され得、好ましくは、生体適合性親水性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。ポリエチレングリコールは、約500~約5000ダルトン、好ましくはおよそ2000ダルトンまたは5000ダルトンの分子量を有し得る。
【0173】
ホスファチジルコリン(PC)は、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)であり得る。
【0174】
第2の両親媒性脂質は、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG2000)またはN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG5000)等のN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG)であり得る。
【0175】
コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0176】
組成物は、第VIII因子(FVIII)分子をさらに含み得る。代替的に、方法は、第VIII因子(FVIII)分子を含む組成物を別個にまたは後続して投与するさらなる工程を含み得る。
【0177】
コロイド粒子および第VIII因子を含む組成物は、治療レジメンの一部として投与され得る。コロイド粒子および第VIII因子を含む組成物は、適切には、2~21日間、4~14日間、4~7日間等、2、3、4、5、6、7、14、21日ごとに、FVIIIの血中濃度を一貫したレベルで維持させる間隔で投与され得かつ/または再投薬され得、患者の血中におけるFVIIIの濃度が、治療量以下のまたは治療上非関連のレベルに到達するまで再投薬するのを待つ必要なく、継続的で、一定で、かつ予測可能な治療効果を提供する。
【0178】
そのような治療レジメンは、血友病Aに罹患した患者を治療するために要されるFVIIIの量を低下させる。
【0179】
血友病は、先天性血友病A(cHA)または後天性血友病A(aHA)であり得る。
【0180】
対象は小児患者であり得る。
【0181】
本発明は、対象における血友病Aの治療のための医薬の製造における、コロイド粒子を含む組成物の使用であって、対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある、使用も含む。
【0182】
上で記載される第3の態様によれば、キットは、対象における血友病Aの治療における使用のための、(i)コロイド粒子を含む組成物、および(ii)第VIII因子(FVIII)分子を含む組成物を含む。対象は、重大な内因性血液因子に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある。コロイド粒子は、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質から構成される。第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む。
【0183】
本発明の凍結乾燥製剤は、同様に提供される適切な希釈剤、アジュバント、または賦形剤、例えば生理学的に許容される緩衝剤と併せて、別個の剤形として供給され得る。キットのコロイド粒子および/または第VIII因子(FVIII)は、凍結乾燥製剤として提供され得る。代替的に、キットの第VIII因子(FVIII)は凍結乾燥製剤として提供され得、コロイド粒子は、第VIII因子(FVIII)の再構成のための溶液として提供され得る。本明細書に記載されるように、そのような組成物は、別個の剤形として第VIII因子を付加的に含み得る、または本明細書に記載されるコロイド粒子とともに製剤化され得る。凍結乾燥形態は、500IUバイアルで提供され得る。キットのコロイド粒子および/または第VIII因子(FVIII)は、すぐに使用できる水性形態で提供され得る。
【0184】
コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0185】
キットは、任意選択で、使用のための使用説明書も含む。
【0186】
上で記載される第4の態様によれば、キットは、対象における血友病Aの治療における別個の、同時の、または後続の使用のための、(i)コロイド粒子を含む組成物、および(ii)第VIII因子(FVIII)分子を含む組成物を含む。対象は、重大な内因性血液因子に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある。コロイド粒子は、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質から構成される。第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む。
【0187】
本発明の凍結乾燥製剤は、同様に提供される適切な希釈剤、アジュバント、または賦形剤、例えば生理学的に許容される緩衝剤と併せて、別個の剤形として供給され得る。キットのコロイド粒子および/または第VIII因子(FVIII)は、凍結乾燥製剤として提供され得る。代替的に、キットの第VIII因子(FVIII)は凍結乾燥製剤として提供され得、コロイド粒子は、第VIII因子(FVIII)の再構成のための溶液として提供され得る。本明細書に記載されるように、そのような組成物は、別個の剤形として第VIII因子を付加的に含み得る、または本明細書に記載されるコロイド粒子とともに製剤化され得る。凍結乾燥形態は、500IUバイアルで提供され得る。キットのコロイド粒子および/または第VIII因子(FVIII)は、すぐに使用できる水性形態で提供され得る。
【0188】
コロイド粒子は、(iii)非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0189】
キットは、任意選択で、使用のための使用説明書も含む。
【0190】
上で記載される第5の態様によれば、医薬組成物の剤形は、対象における血友病の治療における使用のための、(i)ホスファチジルコリン(PC)部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびに(ii)ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質を含むコロイド粒子を含み、前記第2の両親媒性脂質は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化されたリン脂質部分を含む。対象は、第VIII因子(FVIII)に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある。
【0191】
コロイド粒子は、非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0192】
剤形は、患者に対する適当な用量を含有する適切な容器またはバイアルとして、例えば250IU、500IU、750IU、または1000IUバイアルとして提供され得る。剤形は、錠剤としてまたは液体形態でも提供され得る。剤形は、凍結乾燥形態にもあり得る。
【0193】
本発明によって実証される驚くべき技術的効果は、免疫応答、および抗FVIII抗体の後続の産生を通常では誘発するであろう、FVIIIのエピトープを覆うことによって達成される。
【0194】
理論によって拘束されることを望むことなく、これらの利益は、FVIIIのA3ドメインへのPEGLipの非共有結合的結び付きに由来し、ゆえに、身体の免疫系による認識から、FVIIIの軽鎖ドメインにおけるエピトープを守り;かつ/または樹状細胞によるFVIIIのエンドサイトーシスを阻止すると考えられる。
【0195】
この効果は、組み換えFVIII分子においてより顕著であり、それは、野生型FVIIIにおけるこれらのエピトープを天然には保護するであろうVWFとともに典型的には投与されない。
【0196】
エピトープの保護に加えて、PEGLipとの結び付きは、通常のタンパク質分解クリアランスメカニズムからFVIIIを保護することによってFVIIIの半減期を延長もし得、投薬間隔を延長し、経時的なFVIIIへの患者の総曝露を低下させる。
【0197】
驚くべき観察結果は、以下のとおり記載される:
臨床試験を立案して、阻害剤を有する患者におけるPEGLip+FVIIIの使用を検討し、組合せは、既存の抗体がFVIIIを攻撃するのを阻止するであろうと期待した。既存の抗体を有する患者と同様に、FVIIIを提示された場合に抗体を発生させた病歴を有するが、現在は抗体を呈していない一部の患者が含まれた。
【0198】
これらの患者は、15:1~16:1のコロイド粒子対FVIII分子比を有するPEGLip+FVIII組合せを提示された場合に、新しい抗体を発生させないことが驚くべきことに見出され、PEGLipは、樹状/B細胞からエピトープを守り得、かつ/またはFVIIIのエンドサイトーシスを阻止し得ることを暗示した。
【0199】
15:1~16:1のコロイド粒子対FVIII分子比を有する対照としてのPEGLip+ヒトFVIIIを用いたIV投薬を伴って、血友病Aイヌにおいても実験を行った。動物の免疫系は、天然には、抗体を産生することによって外来(ヒト)タンパク質に対して反応することから、そのような実験は通常困難である。驚くべきことに、この場合、動物は、それがPEGLipの存在下で投与された場合、ヒトタンパク質に対する抗体を産生しなかった。
【0200】
本発明に従って、以下のサンプルを作製しかつ試験する:
1.PEGはPEG-2000である、DSPE-PEG対POPCのより高い比を含む一連のコロイド粒子(PEGLip)。
2.PEGはPEG-5000である、DSPE-PEG対POPCの比を含む一連のコロイド粒子(PEGLip)。
3.ポリソルベート80をさらに含む、ポイント1.およびポイント2.に従ったコロイド粒子。
4.DSPE-PEG対POPCのより高い比および/または高い分子量PEGを含む一連のコロイド粒子(F-PEGLip)。
【0201】
ある特定の実施形態において、以下の製剤が提供される:
15~16:1製剤
15~16:1のPEGLip粒子対FVIII分子の比の、FVIII(Nuwiq(商標)、Octapharma AG)とともに製剤化された、9%懸濁での50mMクエン酸ナトリウム緩衝液中、97:3モル比の1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)およびN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG(2000))から構成されたPEGLip粒子。
7~8:1製剤
7~8:1のPEGLip粒子対FVIII分子の比の、FVIII(Nuwiq(商標)、Octapharma AG)とともに9%懸濁で製剤化された、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液中、97:3モル比の1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)およびN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG(2000))から構成されたPEGLip粒子。
【0202】
代替的な実施形態において、以下の製剤が提供される:
15~16:1製剤
15~16:1のPEGLip粒子対FVIII分子の比の、FVIII(Nuwiq(商標)、Octapharma AG)とともに製剤化された、9%懸濁での50mMクエン酸ナトリウム緩衝液中、97:3モル比の1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG(2000))、および9:1w/w比(POPC+DSPE-PEG(2000):ポリソルベート80)のポリソルベート80から構成されたPEGLip粒子。
7~8:1製剤
7~8:1のPEGLip粒子対FVIII分子の比の、FVIII(Nuwiq(商標)、Octapharma AG)とともに9%懸濁で製剤化された、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液中、97:3モル比の1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG(2000))、および9:1w/w比(POPC+DSPE-PEG(2000):ポリソルベート80)のポリソルベート80から構成されたPEGLip粒子。
【0203】
本発明の1つの特定の実施形態において、以下のような、第VIII因子に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある対象における血友病Aの治療における使用のための組成物が提供される:
・97:3モル比(9:1w/w)の、ホスファチジルコリン部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびにホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質、例えば、97:3モル比の1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)およびN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG2000)、またはより重いPEG化脂質の等価のモル比が使用される場合には重量補正比、例えば4:1~5:1のw/w比の1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)およびN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG5000)から構成されたコロイド粒子。
・緩衝剤等の希釈剤(適切には、生理学的に許容されるpH、例えばpH6.7の)、例えば、任意選択で50mMの濃度のクエン酸塩緩衝液。
【0204】
代替的な実施形態において、以下のような、第VIII因子に対する抗体阻害剤を以前に生成したことがある対象における血友病Aの治療における使用のための組成物が提供される:
・97:3モル比(9:1w/w)の、ホスファチジルコリン部分を含む第1の両親媒性脂質、ならびにホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルイノシトール(PI)からなる群から選択されるリン脂質部分を含む第2の両親媒性脂質、例えば、97:3モル比の1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)およびN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG2000)、またはより重いPEG化脂質の等価のモル比が使用される場合には重量補正比、例えば4:1~5:1のw/w比の1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)およびN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE-PEG5000)から構成されたコロイド粒子。ポリオキシエチレンソルビタン、ポリヒドロキシエチレンステアレート、およびポリヒドロキシエチレンラウリルエーテルからなる群から選択される非イオン性界面活性剤、例えばポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートをさらに含むコロイド粒子。
・緩衝剤等の希釈剤(適切には、生理学的に許容されるpH、例えばpH6.7の)、例えば、任意選択で50mMの濃度のクエン酸塩緩衝液。
【0205】
本発明の第2のおよび後続の態様に関する好ましい特質は、必要な変更を加えて、第1の態様に関するとおりである。
【0206】
本発明は、ここで、単なる例示の目的のために提示され、本発明に対する限定として解釈されるべきではない以下の実施例を参照して記載されるであろう。参照は、以下の図面に対してもなされる:
【図面の簡単な説明】
【0207】
【
図1】
図1は、阻害剤を有する重度の血友病患者のエクスビボ血液における凝固に対するPEGLipおよびF-PEGLipの効果を示している。
【
図2】
図2は、阻害剤を有する重度の血友病患者のエクスビボ血液における凝固に対するPEGLip-FVIIIの効果を示している。
【
図3】
図3は、阻害剤を有する重度の血友病患者のエクスビボ血液における凝固に対するPEGLip-FVIIIの効果を示している。
【実施例】
【0208】
以下の実施例は、回転式トロンボエラストメトリー(ROTEM)として公知の技法を使用して、凝血カスケードおよび凝血形成の様々なパラメーターを査定する。以下の略語が使用される。
【0209】
【0210】
【0211】
実施例1
阻害剤を含有する血友病血小板リッチなヒト血漿(PRP)における、単独でのおよびPEGLip(PLP-00)との組合せでの、rFVIIIの凝血形成能の比較。
PRPモデルの調製:
血漿プールの調製
重度の血友病患者からの血漿アリコート(「SHP」シングルドナー、2ml/アリコート)を37℃で4分間融解し、プールした。阻害剤血漿をSHPプールに添加して、10ベセスダ単位(BU)/mlの最終阻害剤濃度を有する阻害剤SHP(I-SHP)を調製した。一部の実験では、7BU/mlを含有するドナー阻害剤血漿を、SHPにおけるさらなる希釈なしで使用した。
血小板洗浄
血小板濃縮物アリコート(0.5ml/チューブ)に、血小板活性化阻害剤(PGE1-50ng/ml、クエン酸5mM)を補給し、回転しながら1分間および室温(15~25℃)で静置して付加的な7分間インキュベートし、次いで室温で5分間800gにて遠心分離した。血小板ペレットを、血小板活性化阻害剤を補給された4mlリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁し、上記のように再遠心分離した。
阻害剤-PRP(I-PRP)モデルの調製
洗浄された血小板ペレットを、生理学的な数(250個の血小板/nL)まで阻害剤-SHP(I-SHP)に再懸濁して、阻害剤血小板リッチな血漿(I-PRP)を作り出した。I-PRPアリコートをプールした。産物をI-PRPと10分間インキュベートした実験に関しては、単一個体由来の阻害剤血漿(148BU/ml)を使用した。I-PRPへの30分間の曝露がROTEG分析に先行した実験に関しては、3人の異なるドナー由来の阻害剤血漿(148BU/ml、106BU/ml、および7BU/ml)を使用した。
結果:
実験(a):この実験は、注射から少し経過した後の、阻害剤陽性血漿におけるFVIII依存的凝固活性を調査した。I-PRPに、遊離rFVIII(Kogenate、Bayer)またはPEGLiP:rFVIIIを、それぞれ1.0または1.5IU FVIII/ml、26:1および17:1 PEGLiP粒子対FVIII分子でスパイクした。ROTEM分析を10分後に開始した。結果は表2に示される:
【0212】
【0213】
【0214】
実験(b):この実験は、注射されたFVIIIを阻害性抗体に長期間曝露した場合の、FVIII依存的凝固活性を調査した。I-PRPに、遊離rFVIII(Kogenate、Bayer)またはPEGLiP:rFVIII(PLP-00)を、それぞれ1.5または2.0IU FVIII/ml、17:1および13:1 PEGLiP粒子対FVIII分子でスパイクした。3人の異なるドナー由来の阻害性血漿を使用した。
考察:
10分後に査定した場合、PEGLiP:rFVIII製剤は、rFVIII単独よりも、凝血のより速い開始(CT、33~40%低下)、より速い増幅(CFT、34~35%低下)、およびより硬くより良質な凝血(MCF、11~67%増加)を示した。30分後に査定した場合、PEGLiP:rFVIII製剤は、rFVIII単独よりも、凝血のより速い開始(CT、13~22%低下)、より速い増幅(CFT、34~56%低下)、およびより硬くより良質な凝血(MCF、8~13%増加)を示した。凝血形成の速度の大きな増加(アルファ、80~275%増加)は特に印象的であった。
【0215】
より長いインキュベーション実験において、PEGLiPは、複数の供給源由来の阻害に対してrFVIIIの効力を増加させた。
結論:
PEGLiPおよびrFVIIIの組合せの使用は、以下によって例示されるように、FVIII単独よりも、FVIII阻害性抗体の存在下でより効率的な凝血形成をもたらす:
- 凝血形成のより速い始まり
- 凝血カスケードのより迅速な増幅
- より良質でより強い凝血
- これらの増強は、30分後になおも明白である
- これらの増強は、3つの異なる供給源由来の阻害剤に対して見られ、PEGLiPが、広範なエピトープ特異性を有する抗体に対して有効であり、患者の幅広い集団においてその潜在的実用性を示すことを暗示する。
【0216】
実施例2
抗FVIII抗体を含有する全血における、PEGLiP-rFVIIIおよび遊離rFVIIIの全血凝固時間の比較。
【0217】
この調査は、3つの別個の実験においてヒト全血を使用して、阻害剤を含有する全血における凝血効力を増強することにおけるPEGLiP産物(PLP-00)の有効性を検討した。これは、重要なことには、凝血カスケードのより多くの構成要素を付加し、後天性血友病のモデルをシミュレーションもする。3つの実験は:
a)阻害剤を含有する全血に添加されるFVIIIの凝血能を増強するPEGLiPの能力についての検討
b)FVIII投薬に対する暗示を有して、PEGLiPを添加することによって達成された効果サイズの定量
c)凝血増強の大きさに対する、PEGLiP粒子対FVIII分子の比を変動させる効果についての検討
であった。
血液サンプリング:
血液サンプルを、健常ドナーからクエン酸チューブに回収した。血液を使用前に室温で15分間置いておき、次いで回収の4時間以内に分析した。全血(「WB」、250μl)を、約15BU/mlの最終阻害剤濃度まで、重度の血友病患者血漿(SHP)または阻害剤血漿(50μl)と混合して、全血(WB)または阻害剤-全血(I-WB)基質を作り出し、37℃で10分間インキュベートした。次いで、試験品目(rFVIII(Kogenate、Bayer)またはPEGLiP:rFVIII)およびCaCl2溶液を添加し、ROTEM分析を直ちに始めた。
結果:
実験(a):この試行は、全血(WB)または阻害剤-全血(I-WB)の凝血パラメーター、およびrFVIII単独(Kogenate、Bayer)、または13:1 PEGLiP粒子対rFVIII分子の比(13:1 PEGLiP-FVIII)のrFVIII+PEGLiPのいずれかを用いて獲得された凝血向上を比較した。実験を2回反復し、2回の反復についての平均的結果は表4に示される:
【0218】
【0219】
考察:
結果は、全血への阻害剤の添加が、凝血カスケードを重度に遅延させることを示している。これは、rFVIIIの添加である程度矯正される。13:1比のPEGLiP粒子対rFVIII分子で、rFVIIIにPEGLiPを供給することは、FVIII単独よりもなおさらに凝血までの時間を短くし、より良質な凝血を産生する(MCFの増加)。
【0220】
実験(b):この試行は、13:1の、1IU/mlのPEGLiP:rFVIII対1.0IU/mlおよび4.0IU/mlの濃度の遊離rFVIIIの組合せについての、阻害剤-全血(I-WB)における相対的凝血効力を比較した。
【0221】
【0222】
考察:結果は、13:1製剤においてrFVIIIとともにPEGLiPを投与することによって、1IU/ml濃度のrFVIIIの効力は向上し、それにより、それは4倍の大きさの濃度の効力に達する。このことは、HA阻害剤患者においてこれらの比でrFVIIIとの組合せでPEGLiPを投与することが、FVIII倹約的であり得、より少量でかつ/またはより低頻度の注射につながることを暗示する。
【0223】
実験(c):PEGLiP粒子対rFVIIIの比が13:1または1:1である、2つの試行を実施した。結果は、下の表6に与えられる。
【0224】
【0225】
考察:
PEGLiPを含有する両製剤は、rFVIII単独を用いた製剤と比べて、凝血過程の増強を示した。PEGLiPのより大きな割合(13:1)を有する製剤は、1:1製剤と比較して、より大きな増強を示した。特に、凝血過程の始まりにトロンビンバーストの指標を提供するアルファパラメーターは、1:1製剤と比べて、13:1製剤を用いた増強を示している。
結論:
(a)rFVIIIと結び付いたPEGLiPは、全血において、阻害剤の存在下でrFVIIIの効力を増強し得る。このことは、後天性血友病ならびに先天性血友病における潜在的実用性を暗示する。
【0226】
(b)rFVIII投薬のサイズおよび頻度に対する重要な暗示を有して、増強のサイズは、rFVIIIの用量の4倍とほぼ等価である。
【0227】
(c)PEGLiPは天然FVII(および、後にFVIIa)に付加的に結合し、これを血小板と結び付けるため、PEGLiP粒子対FVIII分子の濃度を低下させることはこの能力を低下させ、凝血開始までの時間およびトロンビンバーストの両方を低下させ、カスケードの増幅を低下させる。
【0228】
実施例3
阻害剤を有する重度の血友病患者血液のモデルにおける、凝固に対するPEGLip+FVIIIの効果についてのエクスビボ調査。
【0229】
この調査は、ヒト全血を使用して、阻害剤を含有する全血における凝血効力を増強することにおけるF-PEGLiP産物(PLP-01)の有効性を検討した。
方法:
健常ボランティアから採血された正常な全血(WB)のサンプルに、阻害剤を有する70BU/ml FVIII欠損血漿(70BU/ml、George King Biomedical)を投薬することによって、阻害剤を有する重度の血友病A血液のシミュレーションされた溶液を作り出した。十分な阻害剤血漿を添加し、混合物をインキュベートして、血液からFVIIIを枯渇させ、阻害剤血液(IB)のシミュレーションとして15ベセスダ単位/mlとした。
【0230】
WB、IB、または試験品目をスパイクされたIBのサンプル(表7を参照されたい)を、少量の組織因子活性化因子を使用して、ROTEMによる分析に供した。
結果
【0231】
【0232】
全血にFVIIIに対する阻害剤をスパイクして阻害剤血液のモデルを作り出すことは、阻害剤全血(I-WB)において凝血時間の延長をもたらした。凝血時間は、FVIIIまたはPEGLip単独に関して回復しなかった。FVIIIをF-PEGLip(PLP-01)と共投与した場合、凝血時間の低下を有して凝固は回復した。FVIII+F-PEGLip(PLP-01)を用いた、阻害剤を有するHAモデルにおける凝血時間の低下が観察された。
図1も参照されたい。
結論:
PLP-00およびPLP-01の両方とも、より高いPEGLiP:FVIII比で、阻害剤血液における凝固のより有効な回復の傾向を示す。
【0233】
実施例4
阻害剤を有する重度の血友病患者の血液における、凝固に対するPEGLip:FVIIIの効果についてのエクスビボ調査。
【0234】
これらの実験は、ヒト(5.6BU)およびイヌ(3.2BU)FVIIIの両方に対する低力価の抗FVIII抗体を用いて、血友病Aイヌ由来のクエン酸塩抗凝固全血サンプルへの、FVIII、PEGLip(PLP-00)、様々な比のPEGLip(PLP-00):FVIII(10:1、29:1、86:1)、またはF-PEGLip:FVIII(PLP-01)の28:1混合物の添加の効果を評価した。試験産物のサンプルを阻害剤血液に添加し、穏やかに混合し、次いでROTEMカップに添加し、その後に10μl CaCl2が続いた。NATEMプログラムを使用して、凝固を60分間追跡した。
試験品目:
FVIII:1000IU/ml FVIII:Nuwiq(Octapharma、0.5ml滅菌水を用いて再構成された500IUバイアル)
PLP-00:50mMクエン酸塩緩衝液pH6.7中、90mg/ml PEGLip:9%PEG化リポソーム(バッチ19-740)
PLP-01:50mMクエン酸塩緩衝液pH6.7中、68mg/ml F-PEGLip:6.8%Tween化PEG化リポソーム(バッチ09-01-2020)
対照:50mMクエン酸ナトリウム緩衝液pH6.7
結果:
【0235】
【0236】
任意の処理の前に、対象の阻害剤血液は、要される時間尺度内に凝血しなかった。これは、阻害剤血液にFVIII単独をまたはPLP-00単独をスパイクした場合、解消されなかった。同様に、阻害剤血液にPLP-00+FVIIIの10:1混合物をスパイクした場合、凝固時間の補正はなかった。
【0237】
しかしながら、29:1および86:1のPLP-00+FVIIIおよび28:1のPLP-01+FVIIIの混合物はすべて、阻害剤血液の凝固時間を有意に低下させた。
図2も参照されたい。
【0238】
結論として、29:1以上の比でのFVIIIへのPLP-00の添加は、血中における阻害剤によるFVIIIの作用の阻害を阻止した。しかしながら、低レベルのPLP-00(10:1)は、阻害からFVIIIを保護することはできなかった。このことは、PEGLipが抗体阻害剤からの保護を提供する、10:1~29:1の間にPEGLip:FVIIIの臨界比があることを暗示する。
【0239】
付加的なPEGを組み入れたPEG化リポソームの第2の製剤(F-PEGLip/PLP-01)も、28:1のPLP-01:FVIII比で、阻害剤抗体分解からの保護をFVIIIに提供した。
【0240】
実施例5
阻害剤患者におけるPEGLiP+FVIIIの臨床調査
調査は、規定された比のPEGLip-FVIIIが、阻害剤患者において凝固を回復させることを実証するために進行中である。
【0241】
阻害剤が発生しやすいHA患者は、PEGLiP+FVIII(PLP-00)を注射された場合に阻害剤を生成せず、一方で凝固補正をなおも示した。
【0242】
FVIIIに対する抗体阻害剤を生成した病歴を有する4人の重度の血友病患者が、治験を受けた。彼らの病歴に起因して、これらの患者は、彼らが阻害剤を生成するリスクに起因して、予防的療法として補充FVIIIを受けることができない。治験において、これらの患者のうちの3人は、当初阻害剤なしを提示し、1人は低い力価(<5BU)を提示した。すべての患者に、22mg/kg PEGLipおよび35IU/kg組み換えヒト化FVIIIのPEGLip+FVIII(15:1~16:1のコロイド粒子:FVIII比)を投薬した。査定の最初の週にわたって、すべての患者は、相当な凝固補正を経験し、続く6週間にわたって平均で6日(域4~7日)ごとに彼らに投薬することを可能にした。6週間にわたる週1回ベースでの再投薬にもかかわらず、阻害剤なしを提示した3人の阻害剤が発生しやすい患者の誰も、治療に対して阻害剤を生成しなかった。低力価の阻害剤を提示した1人の患者は、最初の段階の間にわずかな臨床的に重要ではない上昇を経験し、それは、第2相での反復投薬の間に実際には低下した。阻害剤が発生しやすい個体においてPEGLip-FVIIIが阻害剤生成を刺激することができないことは、以前に治療されていない患者または最小限に治療された患者の治療に例外的に適切な産物を作製して、これらの脆弱な個体において阻害剤の生成を阻止するであろうことが提唱される。
【0243】
【0244】
結論:
15:1~16:1の比のPEGLiP対FVIIIは両方とも、さらなる相当量の阻害剤の産生を刺激することなく、FVIIIに対する阻害剤を有する患者において、ならびにFVIIIに対する阻害剤を発生させやすい患者において、出血性事象のリスクを下げる。
実施例の概要
10:1以下のPEGLip:FVIIIの比(実施例1、実施例2-実験c、実施例3、および実施例4)は、より高い比(13:1以上)よりも、凝固を向上させることにおいて効果が低い。臨床実験は、15:1~16:1の比が、血友病Aを有する阻害剤患者において出血を阻止するだけでなく、この製剤が阻害剤の存在下でも有効であり、阻害剤が発生しやすい患者においても阻害剤の生成を阻止することを示している。
【0245】
実施例6
阻害剤を有する重度の血友病患者の血液における、凝固に対するPEGLip:FVIIIの効果についてのエクスビボ調査。
【0246】
これらの実験は、ヒト(5.6BU)およびイヌ(3.2BU)FVIIIの両方に対する低力価の抗FVIII抗体を用いて、血友病Aイヌ由来のクエン酸塩抗凝固全血サンプルへの、FVIII、PEGLip(PLP-00)、様々な比のPEGLip:FVIII(PLP-00;10:1、15:1、20:1、25:1、30:1、90:1)、および様々な比のF-PEGLip:FVIII(PLP-01;10:1、20:1、30:1)の添加の効果を評価した。試験産物のサンプルを阻害剤血液に添加し、穏やかに混合し、次いでROTEMカップに添加し、その後に10μl CaCl2が続いた。NATEMプログラムを使用して、凝固を60分間追跡した。有効性を、未治療の血友病患者阻害剤血液についてのパーセンテージとして、各治療を用いて達成された凝血時間によって判断した。
試験品目:
FVIII:1000IU/ml FVIII:Nuwiq(Octapharma、0.5ml滅菌水を用いて再構成された500IUバイアル)
PLP-00:50mMクエン酸塩緩衝液pH6.7中、90mg/ml PEGLip:9%PEG化リポソーム(バッチ19-740)
PLP-01:50mMクエン酸塩緩衝液pH6.7中、68mg/ml F-PEGLip:6.8%Tween化PEG化リポソーム(バッチ09-01-2020)
対照:50mMクエン酸ナトリウム緩衝液pH6.7
結果:
【0247】
【0248】
任意の処理の前に、対象の阻害剤血液は、要される時間尺度内に凝血しなかった。これは、阻害剤血液にFVIII単独をまたはPLP-00単独をスパイクした場合、解消されなかった。同様に、阻害剤血液にPLP-00+FVIIIの10:1混合物をスパイクした場合、凝固時間の補正はなかった。
【0249】
しかしながら、≧15:1のPLP-00+FVIIIおよび30:1のPLP-01+FVIIIの混合物はすべて、阻害剤血液の凝固時間を有意に低下させた。
図3も参照されたい。
【0250】
結論として、15:1以上の比でのFVIIIへのPLP-00の添加は、血中における阻害剤によるFVIIIの作用の阻害を阻止した。しかしながら、低レベルのPLP-00(10:1)は、阻害からFVIIIを保護することはできなかった。このことは、PEGLipが抗体阻害剤からの保護を提供し始める、10:1~15:1の間にPEGLip:FVIIIの臨界比があることを暗示する。90:1の比は、30:1の比と比べてわずかな利益しか提供せず、15:1~30:1の間に最適なPEGLip倹約的比があることを暗示する。
【0251】
付加的なPEG(F-PEGLip/PLP-01)を組み入れたPEG化リポソームの第2の製剤も、30:1のPLP-01:FVIII比で、阻害剤抗体分解からの保護をFVIIIに提供し、とはいえ、この製剤の有効性の下限は、PLP-00がいくらかの効力をなおも提供する比である20:1よりも高い。
【0252】
実施例7
阻害剤患者におけるPEGLiP+FVIIIの臨床調査
第2相臨床試験に着手して、規定された比のPEGLip-FVIIIが、阻害剤患者において凝固を回復させることを実証した。調査は、実施例5に記載される知見を踏まえた。
【0253】
スクリーニング時に阻害剤を有した、または臨床記録が彼らはFVIIIへの曝露で阻害剤を発生させやすいことを示した重度のHA患者は、PEGLiP+FVIII(PLP-00+シモクトコグアルファ)を注射された場合に、それぞれ彼らの阻害剤力価を増加させずまたは阻害剤を生成せず、一方で凝固補正および出血頻度の低下をなおも示した。
【0254】
FVIIIに対する抗体阻害剤を生成した病歴を有する13人の重度の血友病患者が、治験を受けた。彼らの病歴に起因して、これらの患者のうちの8人は、彼らが阻害剤を生成するリスクに起因して、予防的療法として補充FVIIIを受けることができない。他の5人の患者は、活性な阻害剤力価(平均2.4ベセスダ単位)をスクリーニング時に提示した。すべての患者に、22mg/kg PEGLipおよび35IU/kg組み換えヒト化FVIIIのPEGLip+FVIII(シモクトコグアルファ)(15:1~16:1のコロイド粒子:FVIII比)を投薬した。査定の最初の週にわたって、すべての患者は、相当な凝固補正を経験し、投薬間隔の相当な延長を表す(シモクトコグアルファに関する通常の投薬間隔は、1日おきまたは週あたり2~3回である)、続く6週間にわたって平均で5.5日(域3.0~7.4日)ごとに彼らに投薬することを可能にした。
【0255】
このより低い投薬の頻度にもかかわらず、出血性事象は患者において有意に低下し、平均的な月の出血率は、月あたり平均1回(年あたり12.3回)から月あたり0.3回(年あたり3.2回)に落ちた。
【0256】
6週間にわたる週1回ベースでの再投薬にもかかわらず、阻害剤なしを提示した8人の阻害剤が発生しやすい患者の誰も、治療に対して阻害剤を生成しなかった。加えて、阻害剤を提示した5人の患者は、その治験の6週間の予防的段階の間に阻害剤力価の有意な上昇を経験しなかった。阻害剤を提示するおよび阻害剤が発生しやすい患者に対する治療と同様に、阻害剤が発生しやすい個体においてPEGLip-FVIIIが阻害剤生成を刺激することができないことは、以前に治療されていない患者または最小限に治療された患者の治療に例外的に適切な産物を付加的に作製して、これらの脆弱な個体において阻害剤の生成を阻止するであろうことが提唱される。
【0257】
【国際調査報告】