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▶ ケンナメタル インコ−ポレイテツドの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】表面被覆された切削ツール
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
B23B27/14 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509523
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 US2022042017
(87)【国際公開番号】W WO2023034286
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/238,551
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594027476
【氏名又は名称】ケンナメタル インコ-ポレイテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ、チェンユー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィヤヴァーレ、キマヤ、プラカシュ
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF09
3C046FF10
3C046FF11
3C046FF13
3C046FF16
3C046FF22
3C046FF23
3C046FF24
3C046FF25
(57)【要約】
一つの態様において、多結晶α-Alの一つ以上の耐火層を用いる耐摩耗被覆を含む切削ツールが、本明細書に記載されている。簡潔に述べると、本明細書に記載の被覆された切削ツールは、基材と、基材に接着された被覆とを備え、被覆は、化学蒸着(CVD)によって堆積された多結晶α-Alの層を含み、電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)および後方散乱電子回折(EBSD)検出器を使用して決定される場合に、多結晶α-Al層中の全粒界の少なくとも5%は、15度未満の方位差角度を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆された切削ツールであって、
基材と、
前記基材に接着された被覆であって、前記被覆が、化学蒸着(CVD)によって堆積された多結晶α-Alの層を含み、電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)および後方散乱電子回折(EBSD)検出器を使用して決定される場合に、前記多結晶α-Al層中の全粒界の5%~15%が、2~5度の方位差を有し、前記多結晶α-Al層中の全粒界の少なくとも5%が、5度超~最大15度の方位差を有する、被覆と、を備える、被覆された切削ツール。
【請求項2】
前記多結晶α-Al層中の全粒界の少なくとも6%が、5度超~最大15度の方位差を有する、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項3】
多結晶α-Al層の全粒界の7~10%が、2~5度の方位差を有し、多結晶α-Al層の全粒界の6.5~10%が、5度超~最大15度の方位差を有する、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項4】
前記多結晶α-Al層中の2~5度の方位差を有する粒界と、5度超~最大15度の方位差を有する粒界との比が、0.7~1.8の値である、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項5】
前記比が0.9~1.7である、請求項4に記載の被覆された切削ツール。
【請求項6】
前記比が1.3~1.6である、請求項4に記載の被覆された切削ツール。
【請求項7】
前記比が1.4~1.7である、請求項4に記載の被覆された切削ツール。
【請求項8】
前記多結晶α-Al層が1~20μmの厚さを有する、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項9】
前記多結晶α-Al層が柱状粒構造を有する、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項10】
前記多結晶α-Al層が、(006)成長方向に対して6を超えるテクスチャ係数(TC)を有し、前記テクスチャ係数が次式の通りに定義され、
【数1】

式中、
I(hkl)=(hkl)反射の強度測定値
(hkl)=国際回折データセンター(ICDD)カード43-1484による、(hkl)反射の標準強度
n=TC計算で使用される反射の数
TC計算で使用される(hkl)反射が、(012)、(104)、(110)、(006)、(113)、(202)、(024)、および(116)である、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項11】
前記TC(006)が7を超える、請求項10に記載の被覆された切削ツール。
【請求項12】
前記多結晶α-Al層が、(0 0 12)成長方向に対して5を超えるテクスチャ係数(TC)を有し、前記テクスチャ係数が次式の通りに定義され、
【数2】

式中、
I(hkl)=(hkl)反射の強度測定値
(hkl)=国際回折データセンター(ICDD)カード42-1468による、(hkl)反射の標準強度
n=TC計算で使用される反射の数
TC計算で使用される(hkl)反射が、(012)、(104)、(110)、(113)、(116)、(300)、および(0 0 12)である、請求項10に記載の被覆された切削ツール。
【請求項13】
前記TC(0 0 12)が6を超える、請求項12に記載の被覆された切削ツール。
【請求項14】
TC(006)とTC(0 0 12)の比が1超~最大1.2である、請求項13に記載の被覆された切削ツール。
【請求項15】
前記被覆が、前記多結晶α-Alの層と前記基材の間に一つ以上の内層をさらに含む、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項16】
前記一つ以上の内層が、アルミニウムおよび周期表のIVB族、VB族、VIB族の金属元素から成る群から選択される一種以上の金属元素と、周期表のIIIA族、IVA族、VA族、VIA族の非金属元素から成る群から選択される一種以上の非金属元素とを含む、請求項15に記載の被覆された切削ツール。
【請求項17】
一つ以上の内層がTiCN層を含む、請求項16に記載の被覆された切削ツール。
【請求項18】
前記被覆が、前記多相耐火層の上に一つ以上の外層をさらに備える、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項19】
前記基材が、1~15重量パーセントの量の金属結合剤を含むセメント化炭化物を含む、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項20】
前記基材が、5~12重量パーセントの量の金属結合剤を含むセメント化炭化物を含む、請求項1に記載の被覆された切削ツール。
【請求項21】
被覆された切削ツールであって、
基材と、
前記基材に接着された被覆であって、前記被覆が、化学蒸着(CVD)によって堆積された多結晶α-Alの層を含み、電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)および後方散乱電子回折(EBSD)検出器を使用して決定される場合に、前記多結晶α-Al層中の2~5度の方位差を有する粒界と、5度超~最大15度の方位差を有する粒界との比が、0.7~1.8の値を有する、被覆と、を備える、被覆された切削ツール。
【請求項22】
前記比が0.9~1.7である、請求項21に記載の被覆された切削ツール。
【請求項23】
前記比が1.3~1.6である、請求項21に記載の被覆された切削ツール。
【請求項24】
前記比が1.4~1.7である、請求項21に記載の被覆された切削ツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年8月30日に出願された米国特許出願第63/238,551号に対する特許協力条約第8条に基づく優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、耐火剤被覆に関し、特に切削ツールおよび/または金属除去の用途のための化学蒸着(CVD)によって堆積された耐火剤被覆に関する。
【背景技術】
【0003】
超硬合金切削ツールを含む切削ツールは、様々な金属および合金を機械加工するために、被覆された状態と被覆されていない状態の両方で使用されてきた。切削ツールの耐摩耗性、性能、寿命を延ばすために、耐火材料の一つ以上の層が切削ツール表面に施されてきた。例えば、TiC、TiCN、TiN、および/またはAlが、CVDおよび物理蒸着(PVD)によって超硬合金基材に施されてきた。前述の耐火材料の単層または多層の構造に基づく耐火剤被覆は、様々な用途における摩耗の抑制およびツール寿命の延長に効果的である一方で、その性能限界にますます達してきていて、それによって切削ツールのための新しい被覆アーキテクチャの開発が求められている。
【発明の概要】
【0004】
一つの態様において、多結晶α-Alの一つ以上の耐火層を用いる耐摩耗被覆を含む切削ツールが、本明細書に記載されている。簡潔に述べると、本明細書に記載の被覆された切削ツールは、基材と、基材に接着された被覆とを備え、被覆は、化学蒸着(CVD)によって堆積された多結晶α-Alの層を含み、電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)および後方散乱電子回折(EBSD)検出器を使用して決定される場合に、多結晶α-Al層中の全粒界の少なくとも5%が、15度未満の方位差角度を有する。
【0005】
一部の実施形態において、方位差角度は10度未満または5度未満である。
【0006】
一部の実施形態において、多結晶α-Al層中の全粒界の5%~15%は、2~5度の方位差を有し、多結晶α-Al層中の全粒界の少なくとも5%または少なくとも6%は、5度超~最大15度の方位差を有する。一部の実施形態において、例えば多結晶α-Al層の全粒界の7~10%は、2~5度の方位差を有し、多結晶α-Al層の全粒界の6.5~10%は、5度超~最大15度の方位差を有する。さらに、多結晶α-Al層中の2~5度の方位差を有する粒界と、5度超~最大15度の方位差を有する粒界との比は、0.7~1.8の値である。
【0007】
さらに、上述の低角度の粒界に加えて、一部の実施形態において、多結晶α-Alの層はまた、(006)成長方向に対して6を超えるテクスチャ係数(TC)を呈してよく、テクスチャ係数は次式の通りに定義される。
【数1】

式中、
I(hkl)=(hkl)反射の強度測定値
(hkl)=国際回折データセンター(ICDD)カード43-1484による、(hkl)反射の標準強度
n=TC計算で使用される反射の数
TC計算で使用される(hkl)反射は、(012)、(104)、(110)、(006)、(113)、(202)、(024)、および(116)である。
【0008】
更なる実施形態において、多結晶α-Alの層は、(0 0 12)成長方向に対して5を超えるテクスチャ係数(TC)を呈することができ、テクスチャ係数は次式の通りに定義される。
【数2】

式中、
I(hkl)=(hkl)反射の強度測定値
(hkl)=国際回折データセンター(ICDD)カード42-1468による、(hkl)反射の標準強度
n=TC計算で使用される反射の数
TC計算で使用される(hkl)反射は、(012)、(104)、(110)、(113)、(116)、(300)、および(0 0 12)である。
【0009】
これらおよび他の実施形態は、以下の「発明を実施するための形態」でさらに記述されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載の実施形態は、以下の詳細な説明および実施例、ならびにそれらの前および後の記述を参照することによって、より容易に理解されることができる。しかしながら、本明細書に記載の要素、装置、方法は、発明を実施するための形態および実施例に提示される特定の実施形態に限定されない。これらの実施形態は、本発明の原理の単なる例示に過ぎないことが認識されるべきである。当業者には、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、多数の修正および適合が容易に明らかとなるであろう。
【0011】
一つの態様において、亀裂および/または剥離を含む様々な劣化のメカニズムに抵抗するために有利な粒界構造を有する一つ以上の多結晶α-Al層を用いる耐火剤被覆を含む切削ツールが、本明細書に記載されている。従って、一部の実施形態において、このような耐火剤被覆を有する切削ツールは、損耗および/または摩耗が大きい用途(金属切削作業など)に適している。ここで特定の構成要素を参照すると、被覆された物品は基材を備える。被覆された物品は、本発明の目的と矛盾しない任意の基材を含むことができる。例えば、基材は、損耗の用途で使用される切削ツールまたはツーリングとすることができる。切削ツールには、切削インサート(インデックス可能およびインデックス不可能なもの)、エンドミルまたはドリルが含まれるが、これらに限定されない。インデックス可能な切削インサートは、フライス加工または旋削用途のための任意の所望のANSI標準形状を有することができる。本明細書に記載の被覆された物品の基材は、超硬合金、炭化物、セラミック、セラミック、サーメット、鋼、または他の合金で形成されることができる。一部の実施形態において、超硬合金基材は炭化タングステン(WC)を含む。WCは、少なくとも約80重量パーセントの量または少なくとも約85重量パーセントの量で切削ツール基材中に存在することができる。さらに、超硬合金の金属結合剤は、コバルトまたはコバルト合金を含むことができる。コバルトは例えば、1重量パーセント~15重量パーセントの範囲の量で超硬合金基材中に存在することができる。一部の実施形態において、コバルトは、5~12重量パーセントまたは6~10重量パーセントの範囲の量で超硬合金基材中に存在する。さらに、超硬合金基材は、基材の表面から始まり、基材の表面から内向きに延在する結合剤濃縮ゾーンを呈しうる。
【0012】
超硬合金基材はまた、例えばチタン、ニオブ、バナジウム、タンタル、クロム、ジルコニウム、および/またはハフニウムの元素および/またはそれらの化合物の一種以上など、一種以上の添加剤を含むことができる。一部の実施形態において、チタン、ニオブ、バナジウム、タンタル、クロム、ジルコニウム、および/またはハフニウムは、基材のWCを有する固溶体炭化物を形成する。こうした実施形態において、基材は、0.1~5重量パーセントの範囲の量で一種以上の固溶体炭化物を含むことができる。さらに、超硬合金基材は窒素を含むことができる。
【0013】
上述の通り、基材に接着された被覆は、CVDによって堆積された多結晶α-Alの層を含み、電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)および後方散乱電子回折(EBSD)検出器を使用して決定される場合に、多結晶α-Al層中の全粒界の少なくとも5%は、15度未満の方位差角度を有する。こうした低角度の粒界は、切削用途のためのアルミナ層の強度および性能を高めることができる。一部の実施形態において、多結晶α-Al層中の全粒界の少なくとも10%は、15度未満の方位差角度を有する。例えば、多結晶α-Al層中の全粒界の10~50%は、15度未満の方位差角度を有する。さらに、一部の実施形態において、多結晶α-Al層中の粒界の前述の割合は、10度未満の方位差角度(2~5度など)を呈することができる。本明細書において、粒界の方位差角度、および/または方位差角度を呈する粒界の割合を調整するように多結晶α-Al層の堆積条件を選択できることが企図される。一部の実施形態において、例えば多結晶α-Al層中の全粒界の50%超は、15度未満または10度未満の方位差角度を呈する。
【0014】
一部の実施形態において、多結晶α-Al層中の全粒界の5%~15%は、2~5度の方位差を有し、多結晶α-Al層中の全粒界の少なくとも5%または少なくとも6%は、5度超~最大15度の方位差を有する。一部の実施形態において、例えば多結晶α-Al層の全粒界の7~10%は、2~5度の方位差を有し、多結晶α-Al層の全粒界の6.5~10%は、5度超~最大15度の方位差を有する。さらに、多結晶α-Al層中の2~5度の方位差を有する粒界と、5度超~最大15度の方位差を有する粒界との比は、0.7~1.8の値である。表Iは、多結晶α-Al層中の2~5度の方位差を有する粒界と、5度超~最大15度の方位差を有する粒界との比の追加的な値を提供する。
【表1】
【0015】
前述の方位差比は、整列したアルミナ粒のより広範な広がりを示し、これは切削性能および被覆寿命を高めることができる。以前のα-Al層は、5度未満の方位差を有する全粒界の10~15%を呈しうる。しかしながら、5度を超えると、アルミナ粒は非常に秩序が乱れる。秩序のある粒子と無秩序な粒子との間のこうした急激な落差は、α-Al層の完全性を損ない、それによって、切削および/または他の損耗動作中に層が一つ以上の劣化メカニズムを起こしやすくする。
【0016】
一部の実施形態において、多結晶α-Al層の粒界は、傾角粒界またはねじれ粒界である。一部の実施形態において、粒界は、傾角粒界とねじれ粒界の混合である。混合が存在する場合、一部の実施形態において、粒界の大半は傾角粒界である。
【0017】
粒界は、5つの回転パラメータおよび3つの並進パラメータによって特徴付けられる。これらのパラメータはすべて、境界の特性に影響を与える。3つの並進パラメータは、粒界で発生しうる原子シフトを説明する。回転パラメータは、結晶間の方位差を説明する3つのパラメータと、粒界法線を説明する2つのパラメータである。方位差自体は、回転軸(2パラメータ)および回転角度(1パラメータ)から成る回転である。通常、回転角度が小さい(約15度未満)時に、粒界は個別の転位から成っていて、境界は小角度・低角度の粒界と呼ばれる。角度がより大きい時に、境界構造はあまり明確に画定されていなく、大角度の粒界と呼ばれる。
【0018】
粒界およびそれらの特徴的な回転パラメータは、例えば2Dおよび3DのEBSDによって、またはTEMによって観察されることができる。原子パラメータは、原子分解能TEMによってのみ観察されることができる。
【0019】
結晶性材料において、結晶子の配向は、単位セルの基礎によって画定される通り、試料基準フレーム(すなわち、圧延または押出プロセスの方向および二つの直交方向によって画定される)から結晶格子の局所基準フレームへの変換によって画定される。同様に、方位差は、一つの局所結晶フレームから何らかの他の結晶フレームに移動するために必要な変換である。すなわち、二つの別個の配向間の配向空間の距離である。配向が方向余弦gAおよびgBの行列の形で指定される場合、AからBに進む方位差演算子△gABは、次式の通りに定義されることができる。
【数3】

式中、g-1Aという項は、gAの逆算、すなわち結晶フレームAからサンプルフレームへの変換である。これは、第一の結晶フレーム(A)からサンプルフレームに戻り、続いて新しい結晶フレーム(B)に変換する連続的な演算としての方位差の代替的な説明を提供する。
【0020】
この変換演算を表すために、様々な方法を使用されることができ、例えば オイラー角、ロドリゲスのベクトル、軸/角度(軸が結晶学的方向として指定されている場合)、または単位四元数がある。EBSDは、粒界に関する統計情報と空間情報の両方を与えるため、このタイプの情報を抽出するのによく適している。パターンは、回折結晶の格子面に直接関係する、菊池バンドと呼ばれる直線の明るいバンドから成り、バンドの各々の中心線は、格子面のグノモン投影に直接対応する。菊池バンドの幅は、関連する格子面上の電子回折のブラッグ角にほぼ比例する。バンド強度プロファイルは、関連する格子面にわたる揺動実験で得られた動的電子回折強度に対応する。
【0021】
パターンにおける菊池バンドの幾何学的形状から、結晶位相および配向を決定することができる。バンドプロファイルには、局所的な欠陥密度(特に転位密度)に関する情報が含まれる。この情報は、いわゆるEBSDベースの配向顕微鏡(ORM)の基礎を表示するコンピュータソフトウェアによって、高度に自動化された様態で取得されることができる。
【0022】
多結晶α-Alにおける粒界の方位差は、以下のプロトコルに従って決定されることができる。被覆されたツールの断面積は、鏡面仕上げに研磨される。コロイダルシリカは好適な研磨剤であるものの、ダイヤモンドペースト、イオンミリング、および他の方法が許容される。準備された表面は、電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)および後方散乱電子回折(EBSD)検出器を使用して観察される。FESEMを用いて、25kVの加速電圧の電子ビームが研磨表面を照射し、これは入射電子ビームに対して70度に傾斜していて、収集された菊池回折パターンに基づいて六角形アルミナ結晶粒の配向角度を測定した。データは、約20μm×80μmの領域から、0.1μmのステップサイズで収集される。データ処理は、FESEM/EBSD装置用の市販のソフトウェアを使用して行われ、方位差角度を決定する。2度未満の方位差角度は、個々の粒内に歪みが考えられるため捨て、その一方で粒界を2度超の方位差角度によって識別した。3つのEBSDマップについて平均すると、方位差値が得られる。
【0023】
上述の低角度の粒界に加えて、一部の実施形態において、多結晶α-Alの層は、(006)成長方向に対して6を超えるテクスチャ係数(TC)も呈してもよく、テクスチャ係数は次式の通りに定義される。
【数4】

式中、
I(hkl)=(hkl)反射の強度測定値
(hkl)=国際回折データセンター(ICDD)カード43-1484による、(hkl)反射の標準強度
n=TC計算で使用される反射の数
TC計算で使用される(hkl)反射は、(012)、(104)、(110)、(006)、(113)、(202)、(024)、および(116)である。一部の実施形態において、多結晶α-Al層のTC(006)は7を超える(7~7.8または7.3~7.7など)。
【0024】
更なる実施形態において、多結晶α-Alの層は、(0 0 12)成長方向に対して5を超えるテクスチャ係数(TC)を呈することができ、テクスチャ係数は次式の通りに定義される。
【数5】

式中、
I(hkl)=(hkl)反射の強度測定値
(hkl)=国際回折データセンター(ICDD)カード42-1468による、(hkl)反射の標準強度
n=TC計算で使用される反射の数
TC計算で使用される(hkl)反射は、(012)、(104)、(110)、(113)、(116)、(300)、および(0 0 12)である。一部の実施形態において、多結晶α-AlのTC(0 0 12)は6を超える(6.5~7.5など)。一部の実施形態において、多結晶α-Al層のTC(006)とTC(0 0 12)との比は、1超~最大1.2である。
【0025】
TC(006)およびTC(0 0 12)の計算のためのXRDピークデータは、ブラッグ集束回折計上で測定される。
【0026】
<入射光学系として含まれるもの:>
45KVおよび40MAで動作する、高精度長焦点X線管。
分析全体を通して一定の照射サンプル体積を保証するために、自動モードで動作する可変発散光学素子。
【0027】
固定型散乱防止スリット
<受信光学系として含まれるもの:>
自動発散スリットと一致するように、自動モードで動作する可変散乱防止スリット
スキャンモードで動作するマルチストリップソリッドステート検出器。
【0028】
スキャンパラメータ(速度およびカウント時間)は、最も強いピークについて、ピークの半値全幅(FWHM)、および合計約10,000個のカウントの中から最小10個のデータステップを保証するように選択される。収集されたデータはまず、可変モードから、分析のために使用可能な固定モードに変換される。この変換は、次式を使用して完了する。
【数6】

式中、a=発散角であり、またL=サンプル上の照射された長さである
補正された強度は、収集されたデータ内のすべてのピークのピーク位置を特定するために、ピーク検出ソフトウェアを使用して分析される。次いで、プロファイル機能を使用してピークを精密化して、ピーク位置およびピーク高さを正確に特定する。このピークデータは、アルミナテクスチャ係数分析に使用される。CVD被覆構造の複雑さに起因して、ピーク強度についての厚さ補正は適用されなかった。
【0029】
一部の実施形態において、多結晶α-Al層の粒は、基材に対して垂直または実質的に垂直な長軸を有する柱状形態を呈することができる。さらに、アルミナ相は、堆積状態において低い残留引張応力を呈することができる。一部の実施形態において、アルミナ相は、堆積状態において100~500MPaまたは20~400MPaの残留引張応力を有する。アルミナ相の残留応力は、(116)反射を参照して、χチルトSinψ法を使用して決定されることができる。アルミナ相分析については、ナノインデント硬度による単相α-アルミナ被覆の分析から、ポアソン比
【数7】

は0.19に設定され、弾性係数(E、単位GPa)は415であると決定された。さらに、多結晶α-Al層は、任意の所望の厚さを有することができる。一部の実施形態において、多結晶α-Al層は、1~20μmまたは5~15μmの厚さを有する。
【0030】
多結晶α-Al層は、基材表面上に直接堆積されることができる。別の方法として、本明細書に記載の被覆は、多結晶α-Al層と基材の間に一つ以上の内層をさらに含むことができる。一部の実施形態において、内層は、アルミニウムおよび周期表のIVB族、VB族、VIB族の金属元素から成る群から選択される一種以上の金属元素、ならびに周期表のIIIA族、IVA族、VA族、VIA族から選択される一種以上の非金属元素を含むことができる。一部の実施形態において、基材と多相耐火層との間の一つ以上の内層は、アルミニウムおよび周期表のIVB族、VB族、VIB族の金属元素から成る群から選択される一種以上の金属元素の炭化物、窒化物、炭窒化物、オキシ炭窒化物、酸化物、またはホウ化物を含む。
【0031】
例えば、一つ以上の内層は、窒化チタン、炭窒化チタン、オキシ炭窒化チタン、炭化チタン、窒化ジルコニウム、炭窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、炭窒化ハフニウム、TiAlSiN、およびオキシ窒化アルミニウムから成る群から選択される。さらに、被覆の耐火層および内層のための結合層として、酸炭窒化チタンの層を用いることができる。被覆の内層は、本発明の目的と一致しない任意の厚さを有することができる。一部の実施形態において、単一の内層は、少なくとも1.5μmの厚さを有することができる。別の方法として、複数の内層は、少なくとも1.5μmの厚さを集合的に達成することができる。
【0032】
多結晶α-Al層は、被覆の最も外側の層とすることができる。別の方法として、本明細書に記載の被覆は、多結晶α-Al層の上に一つ以上の外層を含むことができる。外層は、アルミニウムおよび周期表のIVB族、VB族、VIB族の金属元素から成る群から選択される一種以上の金属元素と、周期表のIIIA族、IVA族、VA族、VIA族から選択される一種以上の非金属元素とを含むことができる。多結晶α-Al層の上の外層は、アルミニウムおよび周期表のIVB族、VB族、VIB族の金属元素から成る群から選択される一種以上の金属元素の炭化物、窒化物、炭窒化物、オキシ炭窒化物、酸化物、またはホウ化物を含むことができる。例えば、一つ以上の外層は、窒化チタン、炭窒化チタン、オキシ炭窒化チタン、炭化チタン、窒化ジルコニウム、炭窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、炭窒化ハフニウム、アルミナ、TiAlSiN、オキシ窒化アルミニウム、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0033】
本明細書に記載の被覆の外層は、本発明の目的と一致しない任意の厚さを有することができる。一部の実施形態において、被覆外層は、0.2μm~5μmの範囲の厚さを有することができる。
【0034】
本明細書に記載の被覆は、被覆後処理を受けることができる。例えば、被覆は、様々な湿潤および/または乾燥の粒子組成物を用いてブラスト処理されることができる。ポストコートブラスト処理は、任意の所望の様態で施行されることができる。一部の実施形態において、ポストコートブラスト処理は、ショットブラスト処理または加圧ブラスト処理を含む。加圧ブラスト処理は、圧縮空気ブラスト処理、湿式圧縮空気ブラスト処理、加圧液体ブラスト処理、湿式ブラスト処理、蒸気ブラスト処理を含む様々な形態で施行されることができる。例えば、湿式ブラスト処理は、無機粒子および/またはセラミック粒子(アルミナなど)と水とのスラリーを使用して達成される。粒子スラリーは、被覆された切削ツール本体の表面に空気式に発射させて、被覆の表面に衝突させることができる。無機粒子および/またはセラミック粒子は一般に、約20μm~約100μmのサイズの範囲とすることができる。
【0035】
ブラスト処理パラメータとしては、圧力、衝突角、部品表面までの距離、持続時間が挙げられる。一部の実施形態において、衝突角は、約10度~約90度の範囲とすることができ、すなわち粒子は、約10度~約90度の範囲の角度で被覆表面に衝突する。適切な圧力は、1~6インチの被覆表面までの距離で、30~55ポンド/平方インチ(psi)の範囲とすることができる。さらに、ブラスト処理の持続時間は一般に、1~10秒以上の範囲とすることができる。ブラスト処理は一般に、被覆の表面積全体にわたって施行されることができ、または切削工具の工作物接触域など、選択された場所に施されることができる。工作物接触域は、切削工具のホーニング仕上げ領域とすることができる。
【0036】
他の実施形態において、被覆は研磨被覆後処理を受ける。研磨は、適切なダイヤモンドまたはセラミックのグリットサイズのペーストを用いて施行されることができる。一部の実施形態において、ペーストのグリットサイズは、1μm~10μmの範囲である。一つの実施形態において、5~10μmのダイヤモンドグリットペーストを使用して、被覆を研磨する。さらに、グリットペーストは、本発明の目的と矛盾しない任意の器具(ブラシなど)によってCVD被覆に施されることができる。一つの実施形態において、例えば平坦なブラシを使用して、切削ツールの工作物接触領域でグリットペーストをCVD被覆に施す。
【0037】
本明細書に記載の被覆は、所望の表面粗さ(R)および/または被覆内の残留引張応力など他のパラメータを達成するために十分な期間にわたり、ブラスト処理または研磨されることができる。一部の実施形態において、被覆後処理を受ける被覆は、表Iから選択される表面粗さ(R)を有する。
【表2】
【0038】
被覆表面粗さは、Veeco Instruments, Inc.(米国ニューヨーク州プレインビュー)から市販されているWYKO(登録商標)NTシリーズ光学プロファイラーを使用して光学プロフィロメトリーによって決定されることができる。被覆表面の粗さは、Bruker Alicona(イリノイ州アイタスカ)から市販されている器具を用いた光学的計測法を介して決定されることができる。
【0039】
さらに、一部の実施形態において、被覆後処理は、被覆の一つ以上の外層を除去しない。一部の実施形態において、例えば被覆後処理は、TiN、TiCN、および/またはTiOCNの外層を除去しない。別の方法として、被覆後処理は、TiN、TiCN、TiOCNなどの一つ以上の外層を除去するか、または部分的に除去して、下にある多結晶α-Al層を露出させることができる。
【0040】
これらおよび他の実施形態は、以下の非限定的な実施例においてさらに例示される。
【実施例
【0041】
実施例1-被覆された切削ツール
表IIの組成を有するANSI幾何学的形状CNMG433RPの焼結超硬合金切削インサートが提供された。
【表3】
【0042】
焼結超硬合金切削インサートには、表IIIに提供された組成および構造を有するCVD被覆が提供された。
【表4】
【0043】
被覆を、Oerlikon Balzersから市販されているSucotec CVD炉内に堆積させた。表IVおよび表Vのパラメータに従って被覆を堆積させた。接着を強化するために、HT-TiCNおよびTiOCNを含む結合層がAl層に隣接している。
【表5】

【表6】
【0044】
被覆されたインサートのすくい面を、上述の通りスラリーでブラスト処理して、外側TiCN/TiN層を除去し、下にあるα-Al層を露出させた。ブラスト処理されたインサートのうちの9つを、テクスチャ評価およびα-Al層の粒の方位差の特徴付けのために選択した。特性評価の結果を表VIおよび表VIIに提供する。
【表7】

【表8】
【0045】
被覆されたインサートのうちの2つは、Kennametal Inc.から市販されているものと同じ形状のKCP25インサートと比較して金属切削試験を行った。旋削試験のパラメータは以下の通りであった。
工作物:1045鋼
速度:1200sfm
送り速度:0.013ipr
切削深さ:0.08mm
冷却剤:フラッド
連続旋削試験の結果を表VIIIに示す。
【表9】
【0046】
表VIIIに提供された通り、本明細書に記載の本発明の被覆を含む切削インサートは、匹敵するKCP25と比較して有意により長い工具寿命を示す。
【0047】
以下の通り、追加の金属切削試験を実施した。
工作物:4340鋼
速度:700sfm
送り速度:0.012ipr
切削深さ:0.1mm
冷却剤:フラッド
連続旋削試験の結果を表IXに示す。
【表10】
【0048】
表IXに提供された通り、本明細書に記載の本発明の被覆を含む切削インサートは、匹敵するKCP25と比較して有意により長い工具寿命を示す。
【0049】
本発明の様々な実施形態が、本発明の様々な目的の実現において記述されている。これらの実施形態は、本発明の原理の単なる例示に過ぎないことが認識されるべきである。当業者には、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、その多数の修正および適合が容易に明らかとなるであろう。
【国際調査報告】