(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】療法酵素のターゲティング化送達
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240829BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240829BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240829BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20240829BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240829BHJP
A61K 38/47 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
C07K19/00
A61K47/68
A61P43/00 105
A61K39/395 L
C12N9/14 ZNA
C07K16/28
A61K38/47
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510236
(86)(22)【出願日】2022-08-17
(85)【翻訳文提出日】2024-04-10
(86)【国際出願番号】 RU2022050251
(87)【国際公開番号】W WO2023022629
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522068706
【氏名又は名称】ジョイント-ストック カンパニー “ジェネリウム”
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】シュクロフ、 ラクヒム ラクマンクルイェヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】カミトフ、 ラヴィル アヴガトヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】シュスター、 アレクサンドル ミカイロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】レシェトニク、 エリザベタ ヴヤチェスラボブナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC26
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4C084AA02
4C084BA02
4C084DC22
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB21
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4C085AA25
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4C085BB41
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045DA89
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に、より具体的には、医薬に適用可能な療法酵素の送達(輸送)に関する。本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する化合物であって、輸送要素が、インスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片である、化合物に関し、かつ疾患を治療するための医薬組成物を製造するための化合物の使用に関するとともに、疾患、特にリソソーム蓄積症の治療および予防のための、とりわけそれぞれのリソソーム蓄積症、例えばムコ多糖症、特にI型およびII型ムコ多糖症に特徴的な酵素不全の治療および予防のための化合物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接にまたはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する化合物であって、前記輸送要素がインスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片である、前記化合物。
【請求項2】
直接にまたはリンカーによって互いにカップリングされた該療法酵素および該輸送要素を含有する、請求項1に記載の化合物であって、前記輸送要素がインスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片であり、血液脳関門を通じて前記療法酵素を輸送可能である、前記化合物。
【請求項3】
該インスリン受容体エピトープが配列番号1のアミノ酸配列によって表される、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
該療法酵素および該輸送要素がリンカーによってカップリングされる、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記リンカーが1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーである、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記リンカーが、グリシン、セリンおよびロイシンより選択される1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーである、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
該輸送要素が免疫グロブリンIgGのFab断片のアミノ酸配列を含有し、該免疫グロブリンIgGがIgG1、IgG2またはIgG4である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
該輸送要素が免疫グロブリンIgGのFab断片のアミノ酸配列を含有し、該免疫グロブリンIgGがIgG1である、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
該輸送要素が、配列番号2に対して少なくとも80%の同一性である第一のアミノ酸配列および配列番号3の第二のアミノ酸配列からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片を含有する、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
該輸送要素が、配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列、および配列番号3の第二のアミノ酸配列からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片を含有する、請求項8に記載の化合物。
【請求項11】
該輸送要素が、配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号3の第二のアミノ酸配列からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片を含有する、請求項8に記載の化合物。
【請求項12】
リソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項1に記載の化合物であって、前記療法酵素が、イズロン酸-2-スルファターゼ、α-L-イズロニダーゼからなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項15】
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項14に記載の化合物であって、前記療法酵素が、イズロン酸-2-スルファターゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ活性を有するイズロン酸-2-スルファターゼ断片、またはイズロン酸-2-スルファターゼ類似体からなる群より選択される、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項14に記載の化合物であって、前記療法酵素が、α-L-イズロニダーゼ、α-L-イズロニダーゼ活性を有するα-L-イズロニダーゼ断片、またはα-L-イズロニダーゼ類似体からなる群より選択される、請求項14に記載の化合物。
【請求項17】
前記輸送要素が前記酵素をリソソームに輸送可能である、請求項1に記載の化合物。
【請求項18】
前記輸送要素が、神経組織細胞のリソソームに前記酵素を輸送可能である、請求項17に記載の化合物。
【請求項19】
配列番号2に対して少なくとも80%の同一性を有する第一のアミノ酸配列および配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する第二のアミノ酸配列によって表される、II型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる請求項1または2に記載の化合物。
【請求項20】
配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列および配列番号4、5、12、13、14または15より選択される第二のアミノ酸配列によって表される、II型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる請求項1または2に記載の化合物。
【請求項21】
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号4の第二のアミノ酸配列によって表される、II型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる請求項19に記載の化合物。
【請求項22】
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号4の第二のアミノ酸配列によって表される、神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる請求項19に記載の化合物。
【請求項23】
配列番号2のアミノ酸配列および配列番号5の第二のアミノ酸配列によって表される、神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる請求項18に記載の化合物。
【請求項24】
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号6の第二のアミノ酸配列によって表される、I型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる請求項1または2に記載の化合物。
【請求項25】
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号6の第二のアミノ酸配列によって表される、神経学的構成要素を有するI型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる請求項22に記載の化合物。
【請求項26】
神経学的構成要素を有するI型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる、配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号7の第二のアミノ酸配列によって表される、請求項23に記載の化合物。
【請求項27】
前記化合物の有効量および医薬的に許容されるキャリアーを含有する医薬組成物を得るための、請求項1~15、17~22のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項28】
リソソーム蓄積症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための請求項1~15、17~22のいずれか一項に記載の化合物の使用であって、前記使用が、前記被験体に前記化合物の有効量を投与することを含む、前記使用。
【請求項29】
該リソソーム蓄積症がムコ多糖症である、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
該リソソーム蓄積症が神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症である、請求項28に記載の使用。
【請求項31】
該リソソーム蓄積症が神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症である、請求項28に記載の使用。
【請求項32】
該リソソーム蓄積症がII型ムコ多糖症である、請求項28に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に、より具体的には、医薬に適用可能な療法酵素の送達(輸送)に関する。本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素(transport element)を含有する化合物であって、輸送要素が、インスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片である、前記化合物に関し、かつ疾患を治療するための医薬組成物を製造するための前記化合物の使用に関するとともに、疾患、特にリソソーム蓄積症の治療および予防のための、とりわけそれぞれのリソソーム蓄積症、例えばムコ多糖症、特にI型およびII型ムコ多糖症に特徴的な酵素不全の治療および予防のための前記化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
療法における酵素の使用は、当該技術分野において長年知られている。現代医学は、その高い活性および特異性のため、多様な医学分野において、療法酵素を広く用いている。現在、酵素療法の以下の方向が生じてきている(Kazanskaya N. F. et al., 1984):1)先天性または後天性機能不全を補償するための酵素不全排除;2)非生存変性構造、細胞および組織断片の除去;3)血餅の溶解;4)悪性新生物の複合療法;5)身体の解毒。
【0003】
先天性または後天性機能不全を補償するため、酵素不全を除去するための療法酵素の使用は、長年行われてきた。150超が記述されている先天性酵素不全の治療は、置換療法において、重要な課題である。遺伝性疾患、例えば糖原病、リピドーシス、ムコ多糖症および他のリソソーム蓄積症は、主に、対応する天然酵素の組換え類似体の静脈内投与によって治療される。
【0004】
リソソーム蓄積症は、複雑な分子の分解に関与するリソソーム酵素の非存在または不全によって引き起こされる稀な(orphanな)遺伝性代謝疾患群である。
【0005】
現在(Novikov P.V., 2014)、以下のリソソーム蓄積症群が識別されている:1)ムコ多糖症;2)リピドーシス(スフィンゴリピドーシス-GM1およびGM2ガングリオシドーシス、ゴーシェ病、ガラクトシアリドーシス、ファーバー肉芽腫症、白質ジストロフィー、A型およびB型ニーマン・ピック病);3)ムコリピドーシス;4)糖タンパク質症(フコシドーシス、シアリドーシス、マンノシドーシス、II型グリコーゲン蓄積症-ポンペ病、ダノン病等);5)神経セロイドリポフスチン症;6)他の蓄積症(C型ニーマン・ピック病、ウォルマン病、コレステロール蓄積症、シスチン症、サル病、濃化異骨症等)。
【0006】
ムコ多糖症(MPS)は、40を超える遺伝性障害によって引き起こされ、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)の加水分解的分解に関与する多くのリソソーム酵素の非存在または機能不全を導く、9つ(I~IX、中間型を含めば14)の代謝性疾患をまとめる群である。グリコサミノグリカンは、骨、軟骨、靭帯、角膜、皮膚、結合組織および滑液の形成に関与するオリゴ糖である(Burrow T. A. et al, 2013)。
【0007】
ムコ多糖症に罹患している患者においては、グリコサミノグリカン異化の11の酵素の少なくとも1つの不全または非存在があり、これが長期間にわたって、結合組織を含む、細胞および体液中のこれらの炭水化物の漸進的な集積を導く。その結果、ムコ多糖の永続的な集積が、細胞損傷、組織および臓器の機能不全を導き、これは高血圧-水頭症症候群、肝脾腫、心臓血管不全、骨関節合併症、中枢神経系(CNS)の機能障害において最もしばしば顕著であり、これには、重度認知障害および認知症が含まれる(表1)(Burrow T. A. et al, 2013)。
【0008】
【0009】
I型ムコ多糖症は、リソソーム酵素、α-L-イズロニダーゼの不全によって引き起こされる。この不全は、組織および臓器において、ムコ多糖、特にデルマタン硫酸の集積を導く。過剰なデルマタン硫酸の集積は、組織および臓器において、多くの形態異常の漸進性の発達を導く。I型ムコ多糖症は、遺伝の常染色体劣性様式によって特徴づけられる。
【0010】
今日まで、I型MPSを治療する2つの有効な方法、造血幹細胞移植(HSCT)および酵素置換療法(ERT)が開発されてきている。
【0011】
HSCTは、I型MPSの重症型、ハーラー症候群のみを治療し、この治療法は酵素α-L-イズロニダーゼの不全を修正することを可能にし、続いて、患者状態の有意な改善を導くが、この疾患のいくつかの重度の合併症は完全には消失しない。HSCTは、重度神経障害の開始より前に、できる限り初期に行われなければならない。患者状態の改善にもかかわらず、HSCTは、深刻な移植後合併症の高いリスクを伴い、複雑で多段階であり、高コストの方法である。
【0012】
ERTは、安全で患者によく許容され、重度の不都合な事象を引き起こさず、非加水分解基質の分解を導く。この薬剤の投与に対してありうる稀な反応は、注射タンパク質に対する抗体の形成によって引き起こされるが、これらは永続的ではなく、通例、標準投薬によって迅速に緩和される。ERTの原理は、集積した基質を加水分解し、そのさらなる集積を防ぐために十分なレベルに、酵素活性を回復することに基づく。
【0013】
薬剤、アルドラザイム(INN:ラロニダーゼ)(Genzyme、USA)は、I型ムコ多糖症の3つの臨床的変形(IH、IH/SおよびIS型、またはハーラー、ハーラー・シャイエおよびシャイエ症候群)の患者、ならびにHSCT待機中(血縁/非血縁ドナーに関するサーチ中)および小児の状態が安定化するまでのHSCT後の3~6ヶ月の間の小児における、ERTのために意図される。これとともに、アルドラザイムは、ドナー酵素α-L-イズロニダーゼのレベルが低いままである場合のHSCT後のハーラー症候群に罹患した患者に指示される。
【0014】
ラロニダーゼ(Bayomarin Pharmaceutical Inc., USA)は、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養を用い、組換えDNA技術を用いて製造される、ヒトα-L-イズロニダーゼの組換え型である。静脈内投与後、ラロニダーゼは迅速に全身循環を離れ、マンノース-6-リン酸受容体(M6PR)を通じて細胞に吸収され、リソソームに進入する。この薬剤は、週1回、3~4時間、静脈内投与される(100単位/kg体重の用量)。
【0015】
ラロニダーゼは、およそ83k Daの分子量の628アミノ酸残基の組換えタンパク質である。その分子は、マンノース-6-リン酸(M6P)残基を含有するものを含め、異なる構造のオリゴ糖に、アミノ酸を通じて結合する、6つのセクションを含有する(Rodney J.Y. Ho, Biotechnology and biopharmaceuticals: transforming proteins and genes into drugs. - Wiley-Blackwell, 2013 , p. 380)。ラロニダーゼ分子は、血液脳関門(脳毛細管の内皮細胞の形質膜のタイトジャンクションによって形成され、非常に小さい分子であっても、脳内への分子のトランスファーを制限する緊密な関門を生成する、末梢循環と脳との間の生理的関門;以後、BBBとも示される)に浸透せず、したがって、I型ムコ多糖症に特徴的な中枢神経系(CNS)の障害の発展を遅延させず、または防止しない(Pastores G.M. et al, 2007)。
【0016】
II型ムコ多糖症(MPS-II、ハンター症候群)は、遺伝の常染色体劣性様式を有するすべての他の型のムコ多糖症とは異なり、遺伝のX連鎖劣性様式を持つ、ムコ多糖症の唯一の型である。MPS IIは、酵素イズロン酸-2-スルファターゼ(イズルスルファターゼ)の不全から生じる、リソソーム集積の進行性病態である臨床徴候にしたがって不均一である。この酵素は通常、O-連結硫酸基の加水分解的除去による、ムコ多糖、デルマタン硫酸およびヘパラン硫酸の分解に関与する。したがって、MPS IIの場合、主な病因機構は、リソソーム中のデルマタン硫酸およびヘパラン硫酸の進行性集積と関連する。
【0017】
MPS-IIの最も一般的な臨床症状は、精神遅滞、舌肥大、顔骨格、脱毛症、歯科異常、拘束性肺疾患、肝脾腫、心臓弁病理、骨関節病理、重度低身長症の特徴的な病理である。また、進行性神経学的障害がしばしば観察され、これには水頭症および頭蓋内圧増加が伴う。通常、10代から20代にかけて、最も頻繁には呼吸器および/または心不全のため、死亡する。この疾患は、認知低下を含む、病的プロセスにおける神経系の関与とともに生じることを強調することが重要である。
【0018】
今日では、MPS IIを治療する2つの主な方法、すなわちERTおよび対症療法(肝保護剤、心臓血管および抗炎症薬剤、ビタミンおよび酸化防止保護を改善する薬剤の使用を含む)がある。MPS IIの治療のためのHSCTは、I型ムコ多糖症とは異なり、有効ではない。
【0019】
エラプレース(INN:イズルスルファターゼ)(Shayer, USA)は、組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼに相当する医薬製品である。この酵素は、デルマタン硫酸およびヘパラン硫酸のグリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一部である、イズロン酸残基のC2-硫酸エステル結合の加水分解に関与する(Burrow T. A. et al., 2013)。エラプレースの通常の投薬措置は、週1回、0.5mg/kg体重であり、投与は、3時間の静脈内注入によって行われる(注入時間は、漸次、1時間に減少させてもよい)。
【0020】
イズルスルファターゼは、2つのジスルフィド結合、および複雑な高マンノースオリゴ糖によって占められる8つのN-連結グリコシル化部位を含有する。オリゴ糖鎖中のM6P残基の存在によって、組換え酵素が、ターゲット細胞表面上のM6P受容体に結合することが可能になり、これがこの酵素の細胞内への内在化およびリソソームへの内在化を導き、ここで、リソソームムコ多糖の分解が確実になる(Muenzer J., et al., Genet Med 2006 Aug;8(8):465-473)。
【0021】
ERTを行うと、ハンター症候群の患者の平均余命は数倍増加する。これにもかかわらず、エラプレースもまた、血液脳関門に浸透せず、その結果、エラプレースでERTを行うと、患者は神経変性の結果、20歳で死亡し、通例、エラプレースを投与された患者は、10代で大きな学習困難を経験し、日常生活においてさえヘルパーを必要とする(da Silva E. M. et al., 2016; Wraith J.E. et al., 2008)。
【0022】
したがって、I型およびII型ムコ多糖症のERTに用いられるすべての現存の薬剤の一般的な不都合な点は、血液脳関門から中枢神経系に浸透できないことであり、これにより、I型およびII型ムコ多糖症を含むムコ多糖症に関連する神経系損傷を有する患者において、これらの薬剤の使用の有効性は制限される。
【0023】
多くのリソソーム蓄積症に関して、特定の末梢組織(ポンペ病の横隔膜筋肉、ハンター病の肝臓および脾臓、ファブリー病の腎臓など)の細胞への酵素の内在化を改善する必要がある(Hawkes C. et al., 2004)。
【発明の概要】
【0024】
したがって、I型MPSまたはII型MPSなどのリソソーム蓄積症を治療するために使用可能であり、高い活性を示し、神経組織細胞のリソソームを含む、多様な臓器の組織細胞のリソソームに輸送される能力が改善される一方で、対応する療法酵素の機能特性を保持しており、I型およびII型MPSの患者の生活の質および平均余命の有意な改善を達成可能にするであろう、療法化合物を開発する喫緊の必要性がある。
【0025】
上記目的は、本発明において成功裡に解決され、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有し、明記される輸送要素が、インスリン受容体エピトープに特異的なIgG免疫グロブリンのFab断片である、リソソーム蓄積症の治療のために意図される化合物に関する。本発明は、療法酵素に直接またはリンカーによってカップリングされた、インスリン受容体エピトープに特異的なIgG免疫グロブリンのFab断片である輸送要素が、予期されぬことに、酵素が、神経組織細胞のリソソームを含む、多様な臓器および組織のリソソームに輸送される能力の改善を導き、同時に、化合物の酵素活性が高レベルなままであるという発見に基づく。この予期されぬ効果のおかげで、I型およびII型ムコ多糖症などのリソソーム蓄積症の酵素置換療法の分野で進歩が生じて、持続期間が増加し、リソソーム蓄積症に罹患し、療法を必要とする被験体の生活の質が改善される。本発明の化合物はまた、疾患、特にリソソーム蓄積症、例えばムコ多糖症、特にI型およびII型ムコ多糖症の治療および防止に用いられる薬剤の武器の拡大も提供する。
【0026】
さらに、輸送要素を含まない療法酵素と比較して、療法酵素に直接またはリンカーによってカップリングされた、インスリン受容体エピトープに特異的なIgG免疫グロブリンのFab断片である輸送要素を含有する化合物の酵素活性の予期せぬ増加が見られ;また、療法酵素に直接またはリンカーによってカップリングされた、インスリン受容体エピトープに特異的なIgG免疫グロブリンのFab断片である輸送要素を含有する化合物の導入は、Mab断片を含有する化合物と比較して、ヒト脳における療法酵素の、より高い度合いの活性の置換を提供する。
【0027】
本発明のこの概要は、本発明の主題および本質を簡単に概略するため、本発明の簡単な説明を提示する。本発明の概要は、請求項の範囲または内容を解釈するかまたは制限するために用いられてはならないという十分な認識とともに提供される。
【0028】
本発明の第一の主題は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する、リソソーム蓄積症治療のために意図される化合物であり、輸送要素は、インスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片である。
【0029】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、輸送要素がインスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片であり、血液脳関門を通じてこの酵素を輸送可能である、前記化合物を提供する。
【0030】
特定の実施形態において、本発明は、輸送要素がインスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片であり、血液脳関門を通じて前記酵素を輸送可能であり、療法酵素および輸送要素がリンカーによって互いにカップリングされている、療法酵素および輸送要素を含むリソソーム蓄積症の治療のための化合物を提供する。リンカーは、1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーであってもよい。リンカーは、グリシン、セリンおよびロイシンより選択される1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーであってもよい。
【0031】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、輸送要素が免疫グロブリンIgGのFab断片であり、免疫グロブリンIgGがIgG1、IgG2またはIgG4である、前記化合物を提供する。
【0032】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、輸送要素が免疫グロブリンIgGのFab断片であり、免疫グロブリンIgGがIgG1である、前記化合物を提供する。
【0033】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、輸送要素が、インスリン受容体に対する免疫グロブリンIgG1軽鎖(配列番号2、8、9、10および11)および重鎖(配列番号3)からなる免疫グロブリンIgG1のFab断片である、前記化合物を提供する。特定の実施形態において、本発明の主題は、輸送要素が、インスリン受容体に対する免疫グロブリンIgG1の軽鎖、配列番号2および重鎖、配列番号3からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片である、化合物である。
【0034】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、療法酵素が、このリソソーム蓄積症に特徴的な酵素不全の治療を含む、リソソーム蓄積症の治療に用いられる、前記化合物である。
【0035】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、療法酵素が、このリソソーム蓄積症に特徴的な酵素不全の治療のためを含む、神経学的構成要素を含むリソソーム蓄積症を治療するために用いられる、前記化合物を提供する。
【0036】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、神経学的構成要素を含むリソソーム蓄積症のための療法酵素が、イズロン酸-2-スルファターゼおよびα-L-イズロニダーゼからなる群より選択される、前記化合物を提供する。
【0037】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、神経学的構成要素を含むリソソーム蓄積症のための療法酵素が、イズロン酸-2-スルファターゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ活性を有するイズロン酸-2-スルファターゼ断片、またはイズロン酸-2-スルファターゼ類似体からなる群より選択される、前記化合物を提供する。
【0038】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、神経学的構成要素を含むリソソーム蓄積症のための療法酵素が、α-L-イズロニダーゼ、α-L-イズロニダーゼ活性を有するα-L-イズロニダーゼ断片、またはα-L-イズロニダーゼ類似体からなる群より選択される、前記化合物を提供する。
【0039】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、前記リンカーが、1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーである、前記化合物を提供する。
【0040】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、前記リンカーが、グリシン、セリンおよびロイシンより選択される1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーである、前記化合物を提供する。
【0041】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、前記輸送要素が、組織細胞のリソソームに前記酵素を輸送可能である、前記化合物を提供する。
【0042】
特定の実施形態において、本発明は、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む、リソソーム蓄積症の治療のための化合物であって、前記輸送要素が、神経組織細胞のリソソームに前記酵素を輸送可能である、前記化合物を提供する。
【0043】
本発明の別の主題は、配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列および配列番号4、5、12、13、14または15より選択される第二のアミノ酸配列によって表される、II型ムコ多糖症を有する被験体における、酵素不全(イズロン酸-2-スルファターゼ不全)の治療または防止のための化合物である。特定の実施形態において、本発明は、配列番号2および配列番号4のアミノ酸配列によって表される、II型ムコ多糖症を有する被験体における、酵素不全(イズロン酸-2-スルファターゼ不全)の治療または防止のための化合物を提供する。
【0044】
本発明の別の主題は、配列番号2および配列番号4のアミノ酸配列によって表される、神経学的構成要素を含むII型ムコ多糖症を有する被験体における、酵素不全(イズロン酸-2-スルファターゼ不全)の治療または防止のための化合物である。
【0045】
本発明の別の主題は、配列番号2および配列番号5のアミノ酸配列によって表される、神経学的構成要素を含むII型ムコ多糖症を有する被験体における、酵素不全(イズロン酸-2-スルファターゼ不全)の治療または防止のための化合物である。
【0046】
本発明の別の主題は、配列番号2および配列番号6のアミノ酸配列によって表される、I型ムコ多糖症を有する被験体における、酵素不全(α-L-イズロニダーゼ不全)の治療または防止のための化合物である。
【0047】
本発明の別の主題は、I型ムコ多糖症を有する被験体における、酵素不全(α-L-イズロニダーゼ不全)の治療または防止のための、配列番号2および配列番号6のアミノ酸配列によって表される化合物である。
【0048】
本発明の別の主題は、神経学的構成要素を含むI型ムコ多糖症を有する被験体における、酵素不全(α-L-イズロニダーゼ不全)の治療または防止のための、配列番号2および配列番号6のアミノ酸配列によって表される化合物である。
【0049】
本発明の別の主題は、神経学的構成要素を含むI型ムコ多糖症を有する被験体における、酵素不全(α-L-イズロニダーゼ不全)の治療または防止のための、配列番号2および配列番号7のアミノ酸配列によって表される化合物である。
【0050】
さらに、本発明は、この化合物の有効量および医薬的に許容されるキャリアーを含有する医薬組成物を調製するための、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する、化合物の使用に関する。
【0051】
さらに、本発明は、リソソーム蓄積症を有する被験体の治療または防止のための、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する化合物の使用であって、前記化合物の有効量を前記被験体に投与することを含む、前記使用に関する。
【0052】
特定の実施形態において、本発明は、リソソーム蓄積症を有する被験体における酵素不全の治療または防止のための、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む化合物の使用であって、リソソーム蓄積症がムコ多糖症であり、化合物が、被験体に有効量で、好ましくは医薬的に許容されるキャリアーと組み合わせて投与される、前記使用に関する。
【0053】
特定の実施形態において、本発明は、リソソーム蓄積症を有する被験体における酵素不全(イズロン酸-2-スルファターゼ不全)の治療または防止のための、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む化合物の使用であって、リソソーム蓄積症が神経学的構成要素を含むII型ムコ多糖症であり、化合物が、被験体に有効量で、好ましくは医薬的に許容されるキャリアーと組み合わせて投与される、前記使用に関する。
【0054】
特定の実施形態において、本発明は、リソソーム蓄積症を有する被験体における酵素不全(α-L-イズロニダーゼ不全)の治療または防止のための、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含む化合物の使用であって、リソソーム蓄積症が神経学的構成要素を含むI型ムコ多糖症であり、化合物が、被験体に有効量で、好ましくは医薬的に許容されるキャリアーと組み合わせて投与される、前記使用に関する。
【0055】
さらに、本発明は、リソソーム蓄積症を有する被験体における酵素不全(イズロン酸-2-スルファターゼ不全)の治療または防止のための、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する化合物の使用であって、リソソーム蓄積症がII型ムコ多糖症であり、化合物がアミノ酸配列、配列番号2および配列番号4によって示され、有効量の前記化合物および医薬的に許容されるキャリアーを含有する医薬組成物の調製のためである、前記使用に関する。
【0056】
さらに、本発明は、リソソーム蓄積症を有する被験体における酵素不全(イズロン酸-2-スルファターゼ不全)の治療または防止のための、直接またはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する化合物の使用であって、リソソーム蓄積症がII型ムコ多糖症であり、化合物がアミノ酸配列、配列番号2および配列番号4によって示され、被験体における酵素不全の治療または防止のためである、前記使用に関する。
【0057】
他の実施形態において、本発明のアプローチを用いて、他のリソソーム蓄積症を治療してもよく、特に他のタイプのムコ多糖症、例えばIIIA型、IIIB型、IIIC型およびIIID型ムコ多糖症を含むIII型ムコ多糖症(サンフィリポ症候群);IVA型およびIVB型ムコ多糖症を含むIV型ムコ多糖症(モルキオ症候群);VI型ムコ多糖症(マロトー・ラミー症候群)、VII型ムコ多糖症(スライ症候群)およびIX型ムコ多糖症を治療してもよい。これらの場合、α-L-イズロニダーゼまたはイズロン酸-2-スルファターゼの代わりに、ムコ多糖症の対応する型を持つ患者がその不全に遭遇する、適切な療法酵素として、以下のような別の療法酵素が用いられる:IIIA型ムコ多糖症に関してはヘパランスルファミダーゼ、IIIB型ムコ多糖症に関してはN-アセチルグルコサミニダーゼ、IIIC型ムコ多糖症に関してはヘパラン-α-グルコサミニド-N-アセチルトランスフェラーゼ、IIID型ムコ多糖症に関してはN-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、IVA型ムコ多糖症に関してはガラクトース-6-硫酸スルファターゼ、IVB型ムコ多糖症に関してはβ-ガラクトシダーゼ、VI型ムコ多糖症に関してはN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、VII型ムコ多糖症に関してはβ-グルクロニダーゼおよびIX型ムコ多糖症に関してはヒアルロニダーゼ。これらの療法酵素のアミノ酸配列は、当該技術分野に知られる多くのコンピュータプログラム、例えばBLASTまたはFASTA等のいずれを用いても得られる。BLASTおよびFASTAはどちらもオフラインおよびオンライン検索能を有する(Ausubel et al., 1999 ibid, 7-58 - 7-60頁、National Institutes of HealthウェブサイトのNational Center for Biotechnology Informationウェブサイトを参照されたい)。
【0058】
本発明に提唱されるアプローチはまた、本発明の別の実施形態において、α-L-イズロニダーゼまたはイズロン酸-2-スルファターゼの代わりに、対応するリソソーム蓄積症を有する患者において不全である、別のリソソーム酵素を用いることによって、ムコ多糖症に関連しないリソソーム蓄積症の治療にも用いられうる。本発明の特定の限定されない実施形態において、提唱されるアプローチは、特に、アミノ酸代謝障害、例えばシスチン症の治療;炭水化物代謝障害、例えばグリコーゲン蓄積症、特にポンペ病;スフィンゴ脂質代謝障害および他の脂質蓄積症、特にサンドホフ病およびテイ・サックス病を含むGM2ガングリオシドーシス;他のガングリオシドーシス、特にGM1ガングリオシドーシスおよびムコリピドーシスIV;他のスフィンゴリピドーシス、特にファブリー病、ゴーシェ病、クラッベ病、ニーマン・ピック病、ファーバー症候群、異染性白質ジストロフィーおよび多種スルファターゼ不全;神経におけるリポフスチン沈着症、特にバッテン、ビールショウスキー・ジャンスキー、カフス、スピールメイヤー・フォークト病;他の脂質蓄積症、特にウォルマン病の治療のために、ならびにII型ムコリピドーシス(I細胞病)、III型ムコリピドーシス(ハーラー・シュードリポジストロフィー)を含む糖タンパク質代謝障害の治療のため、アスパチルグルコサミン尿症、フコシドーシス、マンノシドーシスおよびシアリドーシスを含む糖タンパク質分解不全の治療に用いられてもよい。
【0059】
これらの場合、α-L-イズロニダーゼまたはイズロン酸-2-スルファターゼの代わりに、対応するリソソーム蓄積症の患者で不全である対応する酵素のアミノ酸配列を、直接またはリンカーによって、輸送要素にカップリングする。
【0060】
本発明の最も好ましい実施形態を以下に記載する。しかし、これらの好ましい実施形態は、本発明の例示の目的のためにのみ提供され、特許請求の範囲を限定するためではない。
【0061】
本発明は、以下の図によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】0.0020mg/kg体重の名目上の用量レベルで、[
125I]-HIR-Fab-IDSの単回静脈内投与の2時間後に記録された雄カニクイザル(cynomolgus monkey)の代表的なオートラジオグラムを示す。
【
図2】0.0015mg/kg体重の名目上の用量レベルで、[
125I]-HIR-Mab-IDSの単回静脈内投与の2時間後に記録された雄カニクイザルの代表的なオートラジオグラムを示す。
【
図3】0.0010mg/kg体重の名目上の用量レベルで、[
125I]-IDS(対照)の単回静脈内投与の2時間後に記録された雄カニクイザルの代表的なオートラジオグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
別に記載しない限り、本明細書で用いられるすべての技術的および科学的用語は、当該技術分野(例えば分子遺伝学、核酸化学、タンパク質化学、生化学、有機化学、免疫学、微生物学、遺伝学等)の平均的な当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0064】
本明細書で用いられる際、用語「化合物」は、コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質構築物、タンパク質複合体等である、少なくとも1つの分子として、最も広い意味で理解される。
【0065】
本明細書で用いられる際、用語「含有する」は、他を排除することなく、列挙する要素を含有する化合物を指す。
【0066】
本明細書において、用語「療法酵素」および「酵素」は同義であり、その酵素の欠如、欠陥、機能不全等から生じる疾患を治療するための酵素であって、疾患に罹患しているその被験体がERT、酵素の投与等によって治療されうる、前記酵素を指す。特に、酵素は、限定されるわけではないが、リソソーム酵素の欠如、不全および機能不全によって起こりうる疾患の治療のための酵素であってもよい。
【0067】
本開示の化合物に含まれる療法酵素には、限定なしに、β-グルコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ガラクトース-6-スルファターゼ、酸セラミダーゼ、酸スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、β-ヘキソサミニダーゼA、β-ヘキソサミニダーゼB、ヘパリン-N-スルファターゼ、α-D-マンノシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、リソソーム酸リパーゼ、α-N-アセチル-D-グルコサミニダーゼ(NAGLU)、グルコセレブロシダーゼ、ブチリルコリンエステラーゼ、キチナーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、リパーゼ、ウリカーゼ、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ、中性エンドペプチダーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、アセチル-CoA-グルコサミニド-N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、ガラクトサミン-6-スルファターゼ(GALN)、ヒアルロニダーゼ、α-フコシダーゼ、β-マンノシダーゼ、α-ノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)、N-アセチル-グルコサミン-1-ホスホトランスフェラーゼ、ムコリピン-1、α-N-アセチル-ガラクトサミニダーゼ、N-アスパルチル-β-グルコサミニダーゼ、LAMP-2(リソソーム関連膜タンパク質2)、シスチノシン、シアリン、セラミダーゼ、酸P-グルコシダーゼ、ガラクトシルセラミダーゼ、NPC1(ニーマン・ピック病タンパク質C1型)、カテプシンA、SUMF-1(スルファターゼ修飾因子-1)、リソソーム酸リパーゼ(LIPA)およびトリペプチジルペプチダーゼ1を含む、リソソーム蓄積症に対する療法効果を有する任意の酵素が含まれる。
【0068】
特に、療法酵素には、アガルシダーゼ、イミグルセラーゼ、ガルスルファーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼおよびα-L-イズロニダーゼのような酵素が含まれる。最も好ましくは、療法酵素はイズロン酸-2-スルファターゼまたはα-L-イズロニダーゼである。
【0069】
しかし、本明細書はまた、酵素のタイプまたは起源に関わりなく、限定なしに、任意の療法酵素も含みうる。
【0070】
本開示において、用語「イズロン酸-2-スルファターゼ」、ならびに「イズルスルファターゼ」、「IDS」、「I2S」は、通常、ムコ多糖、デルマタン硫酸およびヘパラン硫酸のO-連結硫酸基を加水分解する、リソソーム酵素、イズロン酸-2-スルファターゼの組換え類似体を意味する。本発明において、用語「イズロン酸-2-スルファターゼ」は、用語「イズルスルファターゼ」と交換可能に使用されうる。
【0071】
本開示の文脈において、用語「HIR-Fab-IDS」、ならびに「rIDS-FAB-HI」、「rHI-FAB-IDS」、「rIDS-FAB-HIR」および「rHIR-FAB-IDS」は同義であり、ヒトインスリン受容体に対するモノクローナル抗体のFab断片に共有連結された、イズロン酸-2-スルファターゼのハイブリッド組換えタンパク質を指す。本明細書で用いられる際、「HIR-Fab-IDS」は、限定されるわけではないが、ヒトインスリン受容体に対するモノクローナル抗体断片を伴うイズロン酸-2-スルファターゼを意味する。本発明の特定の(限定されない)実施形態において、HIR-Fab-IDSバリアントは、配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列、および配列番号4、5、12、13、14または15より選択される第二のアミノ酸配列によって表される。本発明の特定の実施形態において、HIR-Fab-IDSは、配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号4の第二のアミノ酸配列によって表される。
【0072】
本開示の文脈において、「HIR-Mab-IDS」は、ヒトインスリン受容体に対する全長モノクローナル抗体に共有連結された組換えイズロン酸-2-スルファターゼ融合タンパク質である。本発明の特定の(限定されない)実施形態において、HIR-Mab-IDSのバリアントは、米国特許文書US8834874 B2、16.09.2014に記載のバリアントである。本発明の特定の実施形態において、HIR-Mab-IDSは、プロジェクトAGT-182に記載のArmaGen Technologies Incの製品のアミノ酸配列である。
【0073】
本開示において、用語「α-L-イズロニダーゼ」ならびに「イズロニダーゼ」、「ラロニダーゼ」、「IDUA」は、デルマタン硫酸およびヘパラン硫酸などのグリコサミノグリカンの加水分解に関与する酵素を指す。本明細書で用いられる際、用語「α-L-イズロニダーゼ」は、用語「ラロニダーゼ」と交換可能に用いられうる。I型ムコ多糖症で起こるイズロニダーゼの不全(遺伝的に決定される不全)は、体の細胞および組織において、グリコサミノグリカン、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸の漸次的集積を導く。
【0074】
「HIR-Fab-IDUA」、ならびに「rIDUA-FAB-HI」、「rHI-FAB-IDUA」、「rIDUA-FAB-HIR」、「rHIR-FAB-IDS」は、ヒトインスリン受容体に対するモノクローナル抗体のFab断片に共有連結された融合組換えタンパク質α-L-イズロニダーゼである。本発明の特定の(限定されない)実施形態において、HIR-Fab-IDUAバリアントは、配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列、および配列番号6、7より選択される第二のアミノ酸配列によって表される。
【0075】
HIR-Mab-IDUAは、ヒトインスリン受容体に対する全長モノクローナル抗体に共有連結された、融合組換えα-L-イズロニダーゼタンパク質である。
【0076】
本発明の化合物に含まれうる療法酵素は、天然型、ならびに対応する療法酵素の天然型と同じ酵素活性を有する限り、酵素の一部からなる断片の形、あるいは限定なしに、特定のアミノ酸の置換、付加、欠失、修飾およびその組み合わせからなる群より選択される改変が起きている酵素の類似体であってもよい。本発明の特定の(限定されない)実施形態において、対応する酵素の天然型の活性を有する酵素断片を用いてもよい。酵素の類似体(analogues)とは、限定なしに、異なる宿主における既知の酵素の発現による、異なるグリコシル化特性およびグリコシル化の度合いを有する酵素、ならびに標準配列に対して対応する酵素の特定のアミノ酸残基の様々な度合いの置換を有するものであって置換の度合いが100%置換ではない、酵素である。本発明のプライベートな(限定されない)実施形態において、特許US5932211 A、08/03/1999、US6153188 A、11/28/2006およびUS6541254 B1、04/01/2003から知られるα-L-イズロニダーゼの類似体、ならびにイズロン酸-2-スルファターゼの類似体を用いてもよい。当該技術分野の平均的な当業者は、当該技術分野に現在知られるか、または後に知られるようになる、対応する酵素の天然型の活性を有する、酵素α-L-イズロニダーゼおよびイズロン酸-2-スルファターゼの他の断片および類似体が用いられ得ることを理解するであろう。
【0077】
酵素は、例えば、動物細胞、大腸菌(E. coli)、酵母、昆虫、植物および生存動物等において、当業者に周知の多様な発現ベクターを用いて、遺伝子組換えを通じて、当該技術分野の慣用法によって産生されうる。産生法はこれらに限定されず、当業者に知られる酵素を産生するための他の方法も含む。多様な生物の細胞において酵素を産生するためのこうした方法の限定されない例、ならびに発現ベクターの限定されない例に関しては、Sambrook et al., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual” - CSH Press, Cold Spring Harbor, 1989, “Current Protocols in Molecular Biology , John Wiley & Sons, New York, 2001を参照されたい。本発明の好ましい実施形態において、酵素は哺乳動物細胞において産生される。本発明の最も好ましい実施形態において、酵素はチャイニーズハムスター卵巣細胞において産生される。
【0078】
本発明の特定の好ましい実施形態において、酵素は、市販の酵素であってもよい。さらに、酵素には、上記酵素またはその類似体と少なくとも80%、より具体的には90%、さらにより具体的には91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%以上の相同性を有するアミノ酸配列が含まれてもよく、酵素は、組み換え技術を用いて、微生物から得られてもよいし、あるいは限定なしに市販の供給源から購入されてもよい。
【0079】
本開示において、用語「相同性」は、野生型タンパク質のアミノ酸配列またはアミノ酸をコードするヌクレオチド配列に対する類似性の度合いを意味し、本発明のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列に対する、パーセンテージで表される配列類似性の上記度合いを有する配列をカバーする。相同性は、2つの所定の配列を、裸眼で比較することによって決定されてもよいし、または比較のため問題の配列を整列することによって相同性分析を可能にするバイオインフォマティクスアルゴリズムを用いて決定されてもよい。2つの所定のアミノ酸配列間の相同性は、パーセンテージとして示されてもよい。Wisconsin Genetics software package (Genetics Computer Group, Madison, WI, USA)のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTAソフトウェアモジュールで使用可能な有効な自動化アルゴリズムがある。これらのモジュールにおいて自動化される整列アルゴリズムには、Needleman and Wunsch、Pearson and Lipman、およびSmith and Watermanの配列整列アルゴリズムが含まれる。配列整列および相同性決定に用いてもよい他のアルゴリズムは、プログラムFASTP、BLAST、BLAST2、PSIBLASTおよびCLUSTAL Wにおいて自動化されている。酵素およびその類似体をコードするアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、限定されるわけではないが、GenBank NCBIなどの周知のデータベースから得られうる。
【0080】
いくつかの実施形態において、化合物輸送要素は、配列番号2に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%以上の同一性である第一のアミノ酸配列からなるIgG1免疫グロブリンFab断片を含む。
【0081】
特定の実施形態において、化合物輸送要素は、配列番号2に対して少なくとも80%以上の同一性である第一のアミノ酸配列からなるIgG1免疫グロブリンFab断片を含む。
【0082】
いくつかの実施形態において、配列番号2に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91 、92、93、94、95、96、97、98、99%以上の同一性である第一のアミノ酸配列および配列番号4に対して少なくとも同一である第二のアミノ酸配列によって表される化合物が、II型ムコ多糖症を有する被験体において、リソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる。
【0083】
特定の実施形態において、配列番号2に対して少なくとも80%以上の同一性の第一のアミノ酸配列および配列番号4に対して少なくとも同一である第二のアミノ酸配列を有する化合物が、II型ムコ多糖症を有する被験体において、リソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる。
【0084】
用語「アミノ酸」は、天然に存在する、すなわち直接または前駆体の形で核酸によってコードされうるものか、あるいは天然に存在しない、いずれかのカルボキシ-α-アミノ酸の群を指す。個々の天然に存在するアミノ酸は、コドンまたは塩基3つ組と称される3つのヌクレオチドからなる核酸によってコードされる。各アミノ酸は、少なくとも1つのコドンによってコードされる。
【0085】
用語「アミノ酸」は、本明細書で用いられる際、以下を含む天然存在カルボキシ-α-アミノ酸を指す:アラニン(3文字コード:Ala、1文字コード:A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、リジン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)およびバリン(Val、V)。天然に存在しないアミノ酸(非タンパク質原性アミノ酸)の例には、Aad(アルファ-アミノアジピン酸)、Abu(アミノ酪酸)、Ach(アルファ-アミノシクロヘキサンカルボン酸)、Acp(アルファ-アミノシクロペンタンカルボン酸)、Acpc(1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸)、Aib(アルファ-アミノイソ酪酸)、Aic(2-アミノインダン-2-カルボン酸;2-2-Aicとも称される)、1-1-Aic(1-アミノインダン-1-カルボン酸)、(2-アミノインダン-2-カルボン酸)、アリルグリシン(アリルGly)、アロイソロイシン(アロ-Ile)、Asu(アルファ-アミノスベリン酸、2-アミノオクタン二酸)、Bip(4-フェニル-フェニルアラニン-カルボン酸)、BnHP((2S,4R)-4-ヒドロキシプロリン)、Cha(ベータ-シクロヘキシルアラニン)、Cit(シトルリン)、シクロヘキシルグリシン(Chg)、シクロペンチルアラニン、ベータ-シクロプロピルアラニン、Dab(1,4-ジアミノ酪酸)、Dap(1,3-ジアミノプロピオン酸、p-(3,3-ジフェニルアラニン-カルボン酸)、3,3-ジフェニルアラニン、ジ-n-プロピルグリシン(Dpg)、2-フリルアラニン、ホモシクロヘキシルアラニン(HoCha)、ホモシトルリン(HoCit)、ホモシクロロイシン、ホモロイシン(HoLeu)、ホモアルギニン(HoArg)、ホモセリン(HoSer)、ヒドロキシプロリン、Lys(Ac)、(1)Nal(1-ナフチルアラニン)、(2)Nal(2-ナフチルアラニン)、4-MeO-Ars(1-アミノ-4-(4-メトキシフェニル)-シクロヘキサン-1-カルボン酸)、ノルロイシン(Nle)、Nva(ノルバリン)、オマチン(omatine)、3-Pal(アルファ-アミノ-3-ピリジルアラニン-カルボン酸)、4-Pal(アルファ-アミノ-4-ピリジルアラニン-カルボン酸)、3,4,5,F3-Phe(3,4,5-トリフルオロフェニルアラニン)、2,3,4,5,6,F5-Phe(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニルアラニン)、Pqa(4-オキソ-6-(1-ピペラジニル)-3(4H)-キナゾリン-酢酸(CAS 889958-08-1))、ピリジルアラニン、キノリルアラニン、ザルコシン(Sar)、チアゾリルアラニン、チエニルアラニン、Tic(アルファ-アミノ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸)、Tic(OH)、Tle(tert-ブチルグリシン)およびTyr(Me)が含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
用語「アミノ酸配列」は、対応する療法酵素の天然配列を有するポリペプチドとはある程度異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。典型的には、アミノ酸配列バリアントは、対応する療法酵素の天然配列を有するポリペプチドに対して、少なくとも約70%の配列同一性を有するであろう。1つの実施形態において、バリアントは、対応する療法酵素の天然配列を有するポリペプチドに対して、約80%以上の配列同一性を有する。1つの実施形態において、バリアントは、対応する療法酵素の天然配列を有するポリペプチドに対して、およそ90%以上の配列同一性を有する。1つの実施形態において、バリアントは、対応する療法酵素の天然配列を有するポリペプチドに対して、約95%以上の配列同一性を有する。1つの実施形態において、バリアントは、対応する療法酵素の天然配列を有するポリペプチドに対して、およそ98%以上の配列同一性を有する。アミノ酸配列バリアントは、対応する療法酵素の天然アミノ酸配列のアミノ酸配列内の特定の位で、置換、欠失および/または挿入を有する。アミノ酸は、伝統的な名称、1文字および3文字コードによって表される。
【0087】
用語「第一のアミノ酸配列」は、本発明で用いられる際、IgG免疫グロブリンのアミノ酸配列全般を、特にIgG免疫グロブリンの軽鎖を指す。特に、限定されない実施形態において、第一のアミノ酸配列は、配列番号2、8、9、10または11より選択される、IgG1免疫グロブリンアミノ酸配列、IgG1免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列、IgG1免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列の断片である。特定の実施形態において、第一のアミノ酸配列は、免疫グロブリンIgG軽鎖のアミノ酸配列、配列番号2である。
【0088】
用語「第二のアミノ酸配列」は、本発明で用いられる際、IgG免疫グロブリンのアミノ酸配列全般を;特に、IgG免疫グロブリン重鎖、IgG免疫グロブリン重鎖断片、直接またはリンカーによって酵素配列にカップリングされたIgG免疫グロブリン重鎖断片を指す。特定の(限定されない)実施形態において、第二のアミノ酸配列は、免疫グロブリンIgG1アミノ酸配列、重鎖断片アミノ酸配列、配列番号3であり、配列番号4、5、12、13、14または15より選択されるイズロン酸-2-スルファターゼ配列にカップリングされたIgG1免疫グロブリン重鎖断片である。
【0089】
用語「輸送要素」は、本発明で用いられる際、多様な組織の細胞のリソソームに療法酵素を運ぶ、輸送する、送達することが可能な物質を指す。特に、限定されるわけではないが、輸送要素は、神経組織細胞のリソソームへの有効な送達を確実にするような方式で、エピトープ、抗原、受容体またはターゲットと特異的に相互作用するであろう。こうしたエピトープ、抗原、受容体またはターゲットは、本開示の文脈において、BBBを通るものを含めて、これを通じて薬剤、ペプチドまたはタンパク質の送達が行われる、ヒトインスリン受容体またはその一部であってもよい。
【0090】
「免疫グロブリン」は、四量体分子であり、本明細書で用いられる際、概念「全長抗体」である。天然存在免疫グロブリンにおいて、各四量体は、2つの同一の対のポリペプチド鎖からなり、各対は、1つの「軽」鎖(およそ25 kDa)および1つの「重」鎖(およそ50~70 kDa)を有する。各鎖のN末端部分には、主に抗原認識に関与する約100~110あるいはそれ以上のアミノ酸の可変領域が含まれる。各鎖のカルボキシル部分は、エフェクター機能に主に関与する定常領域を定義する。
【0091】
本開示の文脈において、用語「抗体」は、最も広い意味で用いられ、限定されるわけではないが、これには、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成される多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および必要な生物学的活性を有する限り抗体断片が含まれる。
【0092】
本明細書で用いられる際、「抗体断片」は、抗原に結合する能力を保持する、インタクトな抗体の部分を含有する。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFv断片;二量体抗体(ディアボディ);直鎖抗体;一本鎖抗体分子、例えば一本鎖Fab、scFvおよび抗体断片から形成される多重特異性抗体である。パパインによる抗体の切断は、各々1つの抗原結合部位を有する「Fab断片」と称される2つの同一の抗原結合断片、および容易に結晶化する能力を反映する名前を持つ、残りの「Fc断片」を生じる。
【0093】
「Fab断片」、「Fab」、「FAB」は、重鎖および軽鎖可変ドメインを含有し、軽鎖定常ドメインおよび第一の重鎖定常ドメインも含有する、一価断片である。本明細書で用いられる際、輸送要素は、IgG免疫グロブリンのFab断片のアミノ酸配列を含み、ここでIgG免疫グロブリンは、IgG1、IgG2またはIgG4である。本発明の特定の(限定されない)実施形態において、IgG免疫グロブリンはIgG1である。特定の実施形態において、輸送要素は、配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列、および配列番号3の第二のアミノ酸からなる、IgG1免疫グロブリンFab断片のアミノ酸配列を含む。より具体的な実施形態において、輸送要素は、配列番号2および配列番号3からなるIgG1免疫グロブリンFab断片のアミノ酸配列を含む。
【0094】
本明細書で用いられる際、用語「リンカー」は、本発明の化合物の療法酵素および輸送要素をカップリングする、化学リンカーまたは一本鎖ペプチドリンカーを指す。リンカーは、例えば、そのターゲットがインスリン受容体である、IgのCH2-CH3ドメインおよびsFabを含有する一価連結要素をカップリングし、すなわち、リンカーは、sFabをIgのCH3-CH2ドメインのC末端にカップリングする。
【0095】
いくつかの実施形態において、リンカーは化学的リンカーである。ペプチド結合によって連結される1~20のアミノ酸を含有する一本鎖ペプチドリンカーを用いてもよい。特定の実施形態において、アミノ酸は、20の天然存在(タンパク質原性)アミノ酸より選択される。他の特定の実施形態において、1つ以上のアミノ酸は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミンおよびリジンより選択される。本発明の特定の(限定されない)実施形態において、1つ以上のアミノ酸は、グリシン、セリンおよびロイシンより選択される。
【0096】
本発明の特定の実施形態において、前記リンカーは、そのアミノ酸配列が、少なくとも1つのアミノ酸、好ましくは1~2のアミノ酸からなる一本鎖ペプチドである。本発明の特定の(限定されない)実施形態において、リンカーのアミノ酸配列は、1~2のアミノ酸より多い、例えば3または15のアミノ酸からなってもよい。
【0097】
療法酵素および輸送要素のカップリングは、直接、または当該技術分野に知られる多様な化学的リンカーを用いて、達成されてもよい。本発明の特定の好ましい(限定されない)実施形態において、療法酵素および輸送要素のカップリングは、多様な二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-サクシニミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、サクシニミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、二官能性イミドエステル(例えばアジピン酸ジメチル・HCl)、活性エステル(例えばスベリン酸ジサクシニミジル)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビスジアゾニウム誘導体(例えばビス(p-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトルエン-2,6-ジイソシアネート)およびビス-活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を用いて達成されてもよい。当業者はまた、本明細書に明らかには言及されていない当該技術分野に知られる他の化学的およびペプチドリンカーを、本発明の目的のために用いてもよいことも理解するであろう。
【0098】
本発明の特定の好ましい実施形態において、リンカーは、細胞および組織内に化合物を輸送した後、療法酵素の放出を容易にする、「切断可能リンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカーを用いてもよい(Chari R. et al., Cancer Res. 52, 1992, pp. 127-131; US 5,208,020, Chari Ravi J. et al.,05/04/1993)。当業者はまた、ひとたび化合物が中枢神経系の細胞および組織に進入したら、療法酵素の放出を容易にする、当該技術分野に知られる他の切断可能リンカーを、本発明の目的のために用いてもよいことも認識するであろう。
【0099】
用語「エピトープ」は、抗体を含む、抗原結合タンパク質に結合される抗原の領域である。エピトープは、構造的なものまたは機能的なものとして定義され得る。機能的エピトープは、一般的に、構造的エピトープのサブセットであり、相互作用のアフィニティに直接寄与する残基を有する。エピトープはまた、非直線的アミノ酸で構成されるコンホメーション性であってもよく、言い換えると、コンホメーション性エピトープは、非連続的なアミノ酸で構成される。エピトープには、分子の化学的活性表面部分である決定基、例えばアミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基またはスルホニル基が含まれてもよく、エピトープは、特定の三次元構造特性および/または特定の電荷特性を有してもよい。本明細書で用いられる際、エピトープは、Zhang B, Roth RA. (1991) Proc Natl Acad Sci U S A.; 88(21):9858‐9862、およびS A Prigent, K K Stanley, and K Siddle. (1990) J. Biol. 1991に記載される配列番号1によって表されるインスリン受容体エピトープである。
【0100】
「インスリン受容体」(HIR)は、ジスルフィド架橋によって連結された2つのαサブユニットおよび2つのβサブユニットからなり(αサブユニットは細胞外に位置し、インスリン結合ドメインを含有する)、人体において、グルコースの吸収および分布、ならびに脂肪、タンパク質および炭水化物の合成および集積の制御に関与する、膜貫通糖タンパク質(分子量およそ320,000 Da)である。インスリン受容体およびその細胞外インスリン結合ドメイン(ECD)は、構造的および機能的の両方で、当該技術分野に広く知られている。インスリン受容体の局在は、インスリン感受性組織、例えば結合組織細胞、骨格筋、脂肪組織細胞、肝臓細胞等の細胞表面を指すことが最も多い。例えば、Yip et al. (2003), J Biol. Chem. 278 (30): 27329-27332;およびWhittaker et al. (2005), J Biol Chem, 280 (22): 20932-20936を参照されたい。1つの実施形態において、本明細書のHIRは、Kasuya et al. (Biochemistry 32 (1993) 13531-13536)に表されるアミノ酸配列を含む、ヒトインスリン受容体である。
【0101】
インスリン受容体は、ほぼすべての場所で発現され、こうした送達経路の使用は、組換え酵素の生物学的利用可能性を有意に増加させ、療法の有効性を増加させうる。脳組織への送達は、ヒトインスリン受容体との相互作用を通じ、中枢神経系の毛細管内皮を通じたトランスサイトーシスによって行われる。
【0102】
M6PRを発現する末梢および脳組織において(Hawkes C. et al., 2004)、キメラ分子の内在化は、抗体-HIR相互作用および酵素-M6PR相互作用の両方の方式で行われうる。この場合、リソソームへのターゲティング化送達は、M6P受容体との相互作用を通じて起こる。HIR(ヒトインスリン受容体)を通じた内在化は、初期にはエンドソーム内への進入を、続いてトランスサイトーシスを生じる。CNSへの機能性酵素の送達に加えて、多くのリソソーム蓄積病は、特定の末梢組織(ポンペ病の横隔膜筋肉、ハンター病の肝臓および脾臓、ファブリー病の腎臓など)による内在化の改善を必要とする。
【0103】
用語「特異的」は、この用語に関連する分子が、別の分子の特定の領域と複合体を形成可能であることを意味する。結合は、プラズモン共鳴(BIAcore, GE-Healthcare, Uppsala, Sweden)などのin vitroアッセイによって検出されうる。別の分子の結合部位との分子の特異的相互作用(複合体形成アフィニティ)は、指標ka(複合体を形成する化合物の会合に関する速度定数)、kD(解離定数、複合体の解離)およびKD(kD/ka)によって決定される。結合または特異的結合は、約10-7M以下の、1つの実施形態において、約10-8M~10-13Mの、1つの実施形態において、約10-9M~10-13Mの結合アフィニティ(KD)を意味する。
【0104】
用語「リソソーム」は、細胞自体に由来する(例えば細胞の構造構成要素がプロセシングされた際)かまたは外部から捕捉されたかいずれかの巨大分子を破壊可能ないくつかの酵素(酸ヒドロラーゼ)を含有する小胞タイプである細胞オルガネラを指す。リソソーム酵素(または他のリソソーム構成要素)の生得的欠損または不全は、未分解の代謝産物の集積につながりうる。グリコサミノグリカン(以前はムコ多糖と称された)は、細胞表面ならびに細胞外マトリックスおよび構造の一般的な多糖である。グリコサミノグリカンの分解に干渉する酵素不全は、リソソーム中にグリコサミノグリカン断片の集積を引き起こし、骨、柔組織および中枢神経系の広範な変化を引き起こす。
【0105】
本発明の酵素(複数可)の「活性」は、任意の適切な試験を用いて測定されうる。典型的には、pH決定および温度決定は、問題の酵素に適応させてもよい。試験pH範囲の例は、pH 2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12である。試験温度の例は、30、35、37、40、45、50、55、60、65、70、80、90または95℃である。好ましいpHおよび温度値は、生理学的範囲であり、例えば4、5、6、7または8のpH、30、35、37または40℃の温度である。例えば、問題のプロテアーゼの特異性に関連するペプチド結合を含む基質を用いる任意の試験を用いて、プロテアーゼ活性を測定してもよい。
【0106】
適切な酵素試験の例は、実験セクションに含まれ、特に、実施例2を参照されたい。本明細書で用いられる際、説明の文脈に応じて、用語「活性」は、「酵素活性」、「特異的活性」、「酵素特異的活性」、「特異的強度」を意味する。
【0107】
用語「血液脳関門」または「BBB」は、末梢血流と、脳および脊髄の間の生理学的関門を指し、脳毛細管の内皮形質膜におけるタイトジャンクションによって形成され、尿素(60 Da)などの非常に小さい分子であってさえ、脳内への分子の輸送を制限する緊密な関門を生成する。脳中のBBB、脊髄中の血液脊髄関門、および網膜中の血液網膜関門は、CNS中の連続毛細管関門であり、本明細書において、一般に、血液脳関門(本明細書において、以後、BBBとも称される)と称される。BBBにはまた、血液と脳脊髄液との間の関門も含まれる。
【0108】
「医薬組成物」は、本明細書記載の化合物、あるいはその生理学的/医薬的に許容される塩またはプロドラッグの1つ以上と、他の化学的構成要素、例えば生理学的/医薬的に許容されるキャリアーおよび賦形剤の混合物を指す。医薬組成物の目的は、体内への化合物の投与を促進することである。
【0109】
用語、例えば医薬組成物中の化合物の「有効量」は、治療されている被験体において、望ましい療法的または予防的結果(効果)を達成するために必要な用量および期間で有効である一方、合理的な利益/リスクが観察される量を指す。
【0110】
用語「医薬的に許容されるキャリアー」は、被験体に対して非毒性である、活性物質(化合物、剤等)以外の、医薬組成物の成分を指す。医薬的に許容されるキャリアーには、限定されるわけではないが、緩衝剤、賦形剤、安定化剤または保存剤が含まれる。本発明の特定の(限定されない)実施形態において、医薬的に許容されるキャリアーが、化合物とともに投与される。
【0111】
本発明にしたがって用いられる化合物を含有する医薬組成物は、任意選択の医薬的に許容されるキャリアー、賦形剤または安定化剤と混合することによって(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed., ed. Osol A., 1980)、好ましくは凍結乾燥組成物または水溶液の形で、貯蔵用に調製される。許容されうるキャリアー、賦形剤または安定化剤は、使用される投薬量および濃度で被験体に対して非毒性であり、これには、リン酸、クエン酸および他の有機酸緩衝剤などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール;ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノールおよびメタ-クレゾール);低分子量ポリペプチド(約10残基未満を含有する);タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリ(ビニルピロリドン);アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン;グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む単糖、二糖および他の炭水化物;キレート剤、例えばEDTA;糖、例えばスクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属含有複合体(例えばZn-タンパク質複合体);および/または非イオン性界面活性剤、例えばTWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。
【0112】
本明細書で用いられる医薬組成物はまた、任意選択で、リソソーム蓄積症に対して活性である1より多い活性物質(薬剤)、任意選択で、互いに不都合に影響を及ぼさないさらなる活性を有する物質も含有してもよい。こうした薬剤のタイプおよび有効量は、例えば、組成物中に存在する療法酵素および輸送要素含有化合物の量、ならびに被験体の臨床パラメータに応じる。
【0113】
請求される療法化合物の用量の投与は、当業者に周知の任意の適切な経路によって、例えば注射、例えば静脈内、筋内または皮下注射によって、実施されてもよい。療法化合物の投与の特定の経路の選択は、当業者によって行われ、特に、投与が短期であるかまたは長期であるかに応じる。当業者は、当該技術分野に知られる他の投与経路、例えば(限定なしに)、クモ膜下腔内投与、動脈内投与、腹腔内投与、経皮投与、吸入投与、頬投与、鼻内投与、経口投与、舌下投与または経鼻投与を用いて、請求される化合物の投薬量を投与してもよいことを認識するであろう(Felice B.R., Wright T.L., Boyd R.B. Safety Evaluation of Chronic Intrathecal Administration of Idursulfase-IT in Cynomolgus Monkeys. - Toxicol Pathol. 2011 Aug;39(5):879-9, WO 2011/044542 A1)。
【0114】
本開示の文脈において、多様な投薬スケジュールが考慮されてもよく、これには、限定されるわけではないが、単回または異なる時点での多重投与、ボーラス投与、およびパルス状注入が含まれる。
【0115】
「被験体」、「個体」または「患者」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されるわけではないが、飼育動物(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えばヒトおよび霊長類、例えばサル、特に類人猿)、ウサギ、および齧歯類(例えばマウスおよびラット)が含まれる。いくつかの実施形態において、被験体または患者はヒトである。
【0116】
本明細書で用いられる際、用語「治療」(およびその文法的変形、例えば「治療する(to treat)」または「治療プロセス(the process of treatment)」)は、治療されている個体における疾患の自然経過を変化させる目的を伴う臨床介入を指し、防止のため、または臨床病理の発達のプロセスにおいてのいずれで行われてもよい。望ましい治療作用には、限定されるわけではないが、疾患の開始または再発の防止、症状の緩和、疾患の任意の直接または間接的な病的結果の減少、転移の防止、疾患進行率の減少、疾患状態の軽減または一時的緩和、および寛解または予後の改善が含まれる。いくつかの実施形態において、本発明の化合物を用いて、疾患の発展を遅延させるか、または疾患の進行を緩慢にする。
【0117】
用語「CNS」または「中枢神経系」は、身体機能を制御する神経組織の複合体を指し、これには脳および脊髄が含まれる。
【0118】
本明細書で用いられる際、用語「リソソーム蓄積症」(LSD;「リソソーム蓄積障害」とも称されうる)は、リソソーム酵素の1つの活性の部分的なまたは完全な喪失のため、上記のリソソーム機能の喪失を生じる、稀な遺伝的障害を指す。この場合、その活性が完全にまたは部分的に失われた酵素、あるいは存在しない酵素を補充するために、ERTが必要である。本明細書で用いられる際、用語「リソソーム蓄積症」は、用語「リソソーム蓄積障害」と交換可能に用いられる(「リソソーム蓄積障害」とも称されうる)。リソソーム蓄積症は、酵素の欠損または不全に応じて:(i)スフィンゴリピドーシス、(ii)ムコ多糖症、(iii)グリコーゲン蓄積症、(iv)ムコリピドーシス、(v)オリゴ糖症、(vi)リピドーシス、(vii)リソソーム輸送障害等と分類されうる。
【0119】
以下で、リソソーム蓄積症は、その分類にしたがってより詳細に記載される。
【0120】
本明細書で用いられる際、用語「スフィンゴリピドーシス」は、スフィンゴ脂質の炭水化物側鎖またはコリン側鎖を加水分解するリソソーム酵素の遺伝的に決定される不全症候群を指す。疾患は、蓄積する脂質各々の分布に応じて分類され、例えば、クラッベ病はガラクトセレブロシダーゼ不全によって引き起こされ、ファブリー病はα-ガラクトシダーゼA不全によって引き起こされ、ニーマン・ピック病はスフィンゴミエリナーゼ不全によって引き起こされ、ゴーシェ病はグルコセレブロシダーゼ不全によって引き起こされ、テイ・サックス病はヘキソサミニダーゼA不全によって引き起こされる等であり、これらは、X連鎖遺伝病であるファブリー病を除いて、常染色体劣性方式で遺伝する。
【0121】
本開示において、用語「ムコ多糖症」(MPS)は、炭水化物鎖分解酵素、スルファターゼ、アセチルトランスフェラーゼ等の不全によって引き起こされる、ムコ多糖ヒドロラーゼの遺伝的不全症候群を指す。ムコ多糖症(MPS)の主な症状は、尿中のムコ多糖の過剰な分泌である。現在、MPSは、6つのタイプに分類され、この中で、I型疾患には、ハーラー症候群およびシャイエ症候群が含まれ、II型にはハンター症候群が含まれ、III型にはA、B、CおよびD型サンフィリッポ症候群が含まれ;IV型にはA型およびB型モルキオ症候群が含まれ;VI型にはマロトー・ラミー症候群が含まれ、VII型にはスライ症候群が含まれる。
【0122】
本明細書で用いられる際、用語「グリコーゲン蓄積症」(糖原病としても知られる)は、グリコーゲン蓄積によって引き起こされる炭水化物代謝の先天的なエラーを指し、通常、サブタイプI~VIIに分けられる。リソソーム蓄積症(LSD)に関連するグリコーゲン蓄積症のサブタイプは、II型(ポンペ病)およびIIIb型(ダノン病)である。
【0123】
本明細書に記載されるようなリソソーム蓄積症、ならびに表1に開示されるものの詳細な説明は:The Online Metabolic & Molecular Bases of Inherited Diseases (Scriver’s OMMBID), Part 16 (David L. Valle, Stylianos Antonarakis, Andrea Ballabio, Arthur L. Beaudet, Grant A. Mitchell, McGraw-Hill Education, 2007)に提供される。
【0124】
「I型ムコ多糖症」(MPS I)は、その機能が、ムコ多糖、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸を分解することである、酵素、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)における欠損によって引き起こされる先天性代謝疾患である。不十分なレベルのIDUAは、患者の組織および臓器において、例えば心臓、肝臓および中枢神経系において、これらのムコ多糖の病的集積を導く。神経変性および精神遅滞を含む症状は小児期に始まり、臓器損傷のため、早期の死亡が起こりうる。炭水化物分解酵素α-L-イズロニダーゼにおける遺伝子不全は、I型ムコ多糖症(MPS I)として知られるリソソーム蓄積症を引き起こす。重度のMPS Iは、一般的にハーラー症候群として知られ、精神遅滞、角膜混濁、粗い顔面特徴(coarse facial feature)、心臓病、呼吸器疾患、肝臓および脾臓肥大、ヘルニア、および関節のこわばりなどの多様な問題と関連する。ハーラー症候群に罹患している患者は、通常、10歳以前に死亡する。ハーラー・シャイエ症候群として知られる中程度の型では、通常、精神機能は大きくは影響を受けないが、身体的問題で、これもまた青年期または20歳~29歳の間に死に至りうる。シャイエ症候群はMPS Iの軽度な型である。これは通常の平均余命に対応するが、関節のこわばり、角膜混濁および心臓弁疾患が深刻な問題を引き起こす。
【0125】
「II型ムコ多糖症(MPS II)」または「ハンター症候群」は、酵素、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の不全によって引き起こされる、X連鎖先天性代謝障害である。I2Sは、リソソームに局在し、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸のグリコサミノグリカン(GAG)の異化に重要な役割を果たす。この酵素が存在せず、これらの基質が細胞に集積し、最終的に停滞を、次いで細胞死および組織破壊を引き起こす。この酵素が広く発現されるため、MPS II患者では、異なるタイプの細胞、臓器およびシステムが影響を受ける。この疾患に特徴的な臨床特性は、中枢神経系(CNS)変性であり、これは認知障害(例えばIQ減少)につながる。さらに、患者のMRIスキャンは、白質損傷、脳実質、神経節、脳梁および脳幹における血管周辺空間の拡大、委縮症および脳室拡大を示した(Wang et al. Molecular Genetics and Metabolism, 2009)。疾患は通常、生後1歳までに、臓器肥大症および骨格異常を伴って現れる。認知機能の進行性喪失を経験する患者もあり、大部分の患者は生後10年または20年の間に疾患関連合併症で死亡する(Raluy-Callado M et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:101)。
【0126】
本明細書で用いられる際、用語「神経学的構成要素」は、中枢神経系に影響を及ぼす疾患または障害、および/または中枢神経系に関連する病因を指す。CNS疾患または障害の例には、限定されるわけではないが、ニューロパチー、アミロイドーシス、癌、目の疾患または障害、ウイルスまたは微生物感染、炎症、虚血、神経変性疾患、癲癇障害、行動障害、およびリソソーム蓄積症が含まれる。神経学的障害の特定の例には、限定されるわけではないが、神経変性疾患(限定されるわけではないが、レビー小体病、脊髄炎後症候群(postmyelitis syndrome)、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統委縮症、線条体黒質変性症を含む)、タウオパチー(限定されるわけではないが、アルツハイマー病および核上体麻痺を含む)、プリオン病(限定されるわけではないが、ウシ海綿状脳症、スクレーピー、クロイツフェルト・ヤコブ症候群、クールー、ゲルストマン・シュトロイスラー病、シェンカー病、慢性消耗性疾患、および致死性家族性不眠症が含まれる)、麻痺、運動ニューロン病、および神経系のヘテロ変性(heterodegenerative)障害(限定されるわけではないが、カナバン病、ハンチントン病、神経セロイドリポフスチン症、アレクサンダー病、トゥーレット症候群、メンケス縮毛、コケイン症候群、ヘイラーワーデン・スパッツ(Hallerwarden-Spatz)症候群、ラフォラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュ・ナイハン症候群およびウンフェルリヒト・ルントボルク病が含まれる)、認知症(限定されるわけではないが、ピック病および脊髄小脳失調症が含まれる)、癌(例えば中枢神経系および/または脳の癌、身体の任意の領域の癌からの脳転移を含む)が含まれる。
【0127】
本発明の化合物は、個々に、または他の剤と組み合わせてのいずれかで、療法において使用可能である。例えば、リンカーによってカップリングされる療法酵素および輸送要素を含む本発明の化合物を、少なくとも1つのさらなる療法剤と同時投与してもよい。特定の実施形態において、さらなる療法剤は、本発明の化合物を用いるものと同じ神経学的障害、または別の神経学的障害を治療する際に有効である療法剤である。さらなる療法剤の例には、限定されるわけではないが、上記の多様な神経学的薬剤が含まれ、コリンエステラーゼ阻害剤(例えばドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン(rovastigmine)およびタクリン)、NMDA受容体アンタゴニスト(例えばメマンチン)、アミロイドベータペプチド凝集阻害剤、酸化防止剤、γ-セクレターゼ調節剤、神経増殖因子(NGF)模倣剤またはNGF遺伝子治療剤、PPARyアゴニスト、HMS-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン)、アンパキン、カルシウムチャネルブロッカー、GABA受容体アンタゴニスト、グリコーゲンシンターゼキナーゼ阻害剤、静脈内投与を意図される免疫グロブリン、ムスカリン受容体アゴニスト、ニコチン受容体調節剤、アミロイドベータペプチドに対する能動的または受動的免疫剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、セロトニン受容体アンタゴニストおよびアミロイドベータペプチドに対する抗体が含まれる。上に定義されるようなこうした併用療法には、同時投与(2つ以上の療法剤が、同じまたは異なる組成物中に含まれる場合)、および本発明のリンカーによってカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する化合物の投与が、さらなる療法剤および/またはアジュバントの投与の前、それと同時、および/またはその後に行われてもよい、別個の投与が含まれる。
【0128】
上に定義されるいくつかの用語は、1回よりも多く出現しうるが、その場合、各用語は、互いに独立に定義されるべきである。
【0129】
本明細書において、以後、本発明の例示的な実施形態が詳細に記載される。さらに、本文書において、実施例として提供される説明および実施の各々は、例として提供される他の説明および実施にも有効でありうる。したがって、本明細書記載の多様な要素のすべての組み合わせが、本発明の範囲内である。さらに、本発明の範囲は、以下の提供される特定の説明に限定されない。
【実施例】
【0130】
本発明は、ここで、以下の実施例に関連して、より詳細に記載されるであろう。しかし、以下に記載される実施例は、例示目的のみのためであり、本発明を限定することを意図されない。
【0131】
実施例1:獲得
化合物を得るため、動物細胞発現ベクターを導入した動物細胞を培養し、精製した。
【0132】
発現ベクターの構築
シグナルペプチドMDWTWRVFCLLAVAPGAHSを含むHIR-FAB-IDS変異体を得るため、第一のLC-HIR-FAB-IDS(配列番号2、8、9、10および11)および第二のHC-HIR-FAB-IDS(配列番号4、5、12、13、14、15)のアミノ酸配列を、ヌクレオチド配列に変換した。遺伝子合成後、pCLN-1ベクター内にクローニングするため、以下のHindIII制限部位およびコザック配列を、配列の5’端に付加した。2つの停止コドンおよびXbaI制限部位を、配列の3'端に付加した。
【0133】
リソース:http://gcua.schoedl.deおよびhttp://www.kazusa.or.jpを用いて、チャイニーズハムスター細胞のヌクレオチド配列のコドン最適化を行った。軽鎖および重鎖LC-HIR-FAB-IDSおよびHC-HIR-FAB-IDSの合成を、GenArt(USA)で行い、ベクターpRA1675およびpRA1673(それぞれ、遺伝子LC-HIR-FAB-IDSおよびHC-HIR-FAB-IDSを含有する)の一部としてトランスファーした。
【0134】
プラスミドpRA1675およびpRA1673由来の配列HC-HIR-FAB-IDS、LC-HIR-MABを、発現ベクターpCLN-1にHindIII/XbaI部位でクローニングして、ベクターpGNR-055-007(pCLN-1-HC-HIR-FAB-IDS)およびpGNR-055-008(pCLN-1-LC-HIR-FAB-IDS)を得た。生じたベクターを、BspHI/PvuI部位で直線化した。
【0135】
本発明のベクターを、当該技術分野に周知の分子生物学技術にしたがって構築した。Brown T, "Gene Cloning" (Chapman & Hall, London, GB, 1995); Watson R, et al., "Recombinant DNA", 2nd Ed. (Scientific American Books, New York, NY, US, 1992); Alberts B, et al., "Molecular Biology of the Cell" (Garland Publishing Inc., New York, NY, US, 2008); Innis M, et al., Eds., "PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications" (Academic Press Inc., San Diego, CA, US, 1990); Erlich H, Ed., "PCR Technology. Principles and Applications for DNA Amplification" (Stockton Press, New York, NY, US, 1989); Sambrook J, et al., "Molecular Cloning. A Laboratory Manual" (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, US, 1989); Bishop T, et al., "Nucleic Acid and Protein Sequence. A Practical Approach" (IRL Press, Oxford, GB, 1987); Reznikoff W, Ed., "Maximizing Gene Expression" (Butterworths Publishers, Stoneham, MA, US, 1987); Davis L, et al., "Basic Methods in Molecular Biology" (Elsevier Science Publishing Co., New York, NY, US, 1986), Schleef M, Ed., "Plasmid for Therapy and Vaccination" (Wiley-VCH Verlag GmbH, Weinheim, DE, 2001)を参照されたい。
【0136】
モノクローナル細胞株の獲得
親細胞株CHO-S。細胞を37℃、5% CO2、70%湿度、BalanCD CHO増殖A培地(Invitrogen)中で培養した。2つの直線化プラスミドpCLN-1-HC-HIR-FAB-IDSおよびpCLN-1-LC-HIR-FAB-IDSを用い、CHO細胞に関する標準プロトコルにしたがって、NEONデバイス(Invitrogen)上で安定トランスフェクションを行った。トランスフェクションには等モルDNA比を用いた。
【0137】
48時間後、トランスフェクションプールを、選択抗生物質ネオマイシン600μg/mlを含有するBalanCD CHO増殖A培地中、96ウェルプレート中のミニプールにシーディングした。37℃、5% CO2、70%湿度の安定条件下で10日間、ミニプールを培養し、その後、EIAを用いて、一連の生産性スクリーニングを行った。6ウェルプレートを用いて、単一コロニー増殖のため、リーダーミニプールを半固体ClonaCell Flex培地(STEMCELL)にクローニングした。プレートを、37℃、5% CO2、70%湿度でインキュベーションした。
【0138】
スクリーニング中、培養液内に分泌されるターゲットタンパク質HIR-FAB-IDSの濃度を決定した。一次抗体の代わりに組換えヒトインスリン受容体断片(炭酸-重炭酸緩衝液pH9.6中、5μg/ml)を用いて、サンドイッチEIA法によって、決定を行い;イズロン酸-2-スルファターゼに対するホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート化ラット抗体(1:10000に希釈)を二次抗体として用いた。テトラメチルベンジジン溶液で発色させ、反応を0.5M硫酸で停止した。
【0139】
6ウェルプレートのスクリーニング結果に基づいて、0.4~2.1 mg/lの生産性を持つ20のリーディングミニプールを選択し、これを懸濁培養に適応させるため、フラスコにトランスファーした。懸濁培養に適応させるため、3回の継代を行い、その後、20のミニプールを凍結した。
【0140】
ClonePixロボット(Molecular Devices)を用いて、クローンを自動的に96ウェルプレート内に選択した。生じたクローンをスクリーニングした。この目的のため、バッチ方式で7日間の培養プロセスをシミュレーションし、ここで、以下のパラメータにしたがってクローンを評価した:培養生存度の動態、生存細胞密度の動態、ターゲットHIR-FAB-IDSの濃度、および累積細胞密度に対する産生体積の依存性。
【0141】
産生細胞の培養
HIR-FAB-IDSを発現する産生細胞の培養を、オーバーヘッドスターラーを備えたバイオリアクター中、37℃の温度およびpH 6.9で12日間、BalanCD CHO増殖A培地(Irvine Scientific)および栄養添加剤BalanCD CHOフィード2(Irvine Scientific)中で行った。培養プロセス後、深層濾過によって培養液を清澄化し、単離のためトランスファーした。
【0142】
単離および精製
タンパク質単離および精製の標準技術を用いて、単離および精製を行った。タンパク質を単離または精製するために当該技術分野に知られる任意の方法によって、例えばクロマトグラフィ(例えばイオン交換、高性能液体クロマトグラフィ、アフィニティ補助、プロテインAおよびサイズ分取カラムクロマトグラフィ)、遠心分離、示差可溶性、あるいは任意の他の標準タンパク質単離または精製技術によって、化合物を単離または精製してもよい。
【0143】
実施例2. イズロン酸-2-スルファターゼのアミノ酸配列にカップリングされたインスリン受容体に対する抗体のFab断片の酵素活性レベルの決定
4-ムチルウンベリフェリル(mutilumbelliferyl)-L-イズロニド-2-スルフェート(4-MUS)(Moscerdam Substrates, the Netherlands)を用い、HIR-FAB-IDSおよびHIR-MAB-IDSの比活性を決定する(Voznyi YV et al., 2001; Tolun AA , et al., 2012; 9. Johnson BA et al., 2013; Azadeh M et al., 2017)。分析中、基質をイズロン酸-2-スルファターゼによって加水分解して、4-ムチルウンベリフェリル(mutylumbelliferyl)-L-イズロニド(MUBI)を産生し、これはイズロニダーゼ(IDUA、アルジュラザイム、Genzyme、USA)によって4-メチルウンベリフェリル(4-MU)に加水分解され、これは、以下の蛍光計セッティングを用いて蛍光的に検出される:450nmの波長の蛍光励起および365nmの波長の蛍光検出。標準溶液4-MU(Sigma-Aldrich, USA)を用いて、検量線を構築する。分析中、混合物をまず、37℃、pH=4.5で4時間インキュベーションし、次いで、IDSを12μgの量で添加し、混合物を37℃で24時間、さらにインキュベーションする。0.2mlの0.5M炭酸ナトリウムpH=10.3を添加することによってインキュベーションを停止する。HIR-FAB-IDSは、基質4-MU-αIdoA-2S(4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロネート(idopyranosiduronate)-2-スルフェート)に対する特異的酵素(イズロン酸-2-スルファターゼ)活性を示す。
【0144】
装置および機器
1. 恒温振盪装置PST-60 HL-4(BioSan, Latviaまたは類似のもの)
2. 多機能読み取り装置Spectra Max M3(Molecular Devices, USAまたは類似のもの)
3. 多機能読み取り装置用ソフトウェアSoft Max Pro (Molecular Devices, USAまたは類似のもの)
4. 化学天秤ML 204(Mettler Toledo, Switzerlandまたは類似のもの)
5. 非吸収表面96ウェル黒色プレート(Corning, USA、カタログ番号3916または類似のもの)
【0145】
試薬
1. 4-メチルウンベリフェロンナトリウム塩(Sigma-Aldrich、製品番号M1508または同等のもの)
2. 組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(R&D SYSTEM、製品番号4119-GH8または同等の品質のもの)
3. 4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロン酸(idopyranosiduronic acid)2-スルフェートナトリウム塩、0.5mg/バイアル(USBiological、製品番号017551または同等のもの)
4. 無水酢酸ナトリウム(AppliChem Panreac、製品番号141633.1211または同等の品質のもの)
5. 酢酸(Fluka、製品番号49199または同等の品質のもの)
6. ウシ血清アルブミン(Sigma、製品番号A7030または同等の品質のもの)
7. カルボン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、製品番号S7795または同等の品質のもの)
8. 重炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、製品番号S6297または同等の品質のもの)
9. 二酢酸鉛三水和物(Aldrich、製品番号467863または同等の品質のもの)
10. リン酸ナトリウム二水和物(Sigma-Aldrich、製品番号71643または同等の品質のもの)
11. 無水クエン酸(AppliChem Panreac、製品番号141808または同等の品質のもの)
【0146】
溶液の調製
試料希釈溶液、pH(5.5±0.2)。約4.1gの無水酢酸ナトリウムおよび0.5 gのウシ血清アルブミンを1リットルビーカーにいれ、700 mlの精製水に溶解する。溶液のpHを、酢酸で(5.5±0.2)の値に調整する。生じた溶液を1リットルのメスフラスコに移し、溶液体積を精製水で印まで調整し、混合し、0.45μmの孔直径の膜フィルターを通じて濾過する。
【0147】
貯蔵寿命は2~8℃の温度で3ヶ月である。
【0148】
基質希釈溶液、pH(5.00±0.05)。4.1 gの無水酢酸ナトリウム、1.9 gの二酢酸鉛三水和物を、500 mlの体積容量であるビーカーにいれ、450 mlの精製水を添加し、溶解するまで混合物を攪拌する。溶液のpHを、酢酸(約1.1ml)で(5.00±0.05)の値に調整する。生じた溶液を500 mlのメスフラスコに移し、溶液体積を精製水で印まで調整し、混合し、0.45μmの孔直径の膜フィルターを通じて濾過する。
【0149】
貯蔵寿命は2~8℃の温度で3ヶ月である。
【0150】
基質溶液(1.25mmol/l)。0.83 mlの基質希釈溶液を、基質(4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロン酸2-スルフェートナトリウム塩)を含有する瓶に添加し、穏やかに混合する。生じた溶液を0.2mlアリコットに分割し、凍結する。
【0151】
貯蔵寿命はマイナス70℃を超えない温度で3ヶ月である。
【0152】
組換えヒトα-L-イズロニダーゼの溶液。400μlの精製水を、組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(10μg)を含有する瓶に添加し、混合する。生じた溶液を0.1 mlアリコットに分割し、凍結する。
【0153】
貯蔵寿命はマイナス70℃を超えない温度で3ヶ月である。
【0154】
クエン酸の0.1 M溶液。約19.2 gの無水クエン酸を1リットル容量のフラスコに入れ、900 mlの精製水に溶解し、溶液体積を精製水で印まで調整し、0.22μm膜フィルターを通じて濾過する。
【0155】
貯蔵寿命は15~25℃の温度で3ヶ月である。
【0156】
二置換リン酸ナトリウムの0.2 M溶液。約35.6 gのリン酸ナトリウム二水和物を、1リットル容量のフラスコに入れ、900 mlの精製水に溶解し、溶液体積を精製水で印まで調整し、0.22μm膜フィルターを通じて濾過する。
【0157】
貯蔵寿命は15~25℃の温度で3ヶ月である。
【0158】
リン酸・クエン酸緩衝溶液、pH(4.5±0.1)。55.0 mlの0.1 Mクエン酸溶液および45.0 mlの0.2 M二塩基性リン酸ナトリウム溶液を100 ml容量のメスフラスコ中で混合し、0.22μmの孔直径の膜フィルターを通じて濾過する。
【0159】
貯蔵寿命は15~25℃の温度で3ヶ月である。
【0160】
0.5 M重炭酸ナトリウム溶液。約42.0 gの重炭酸ナトリウムを1リットルメスフラスコに入れ、900 mlの精製水に溶解し、溶液体積を精製水で印まで調整し、混合し、0.22μmの孔直径の膜フィルターを通じて濾過する。
【0161】
貯蔵寿命は15~25℃の温度で6ヶ月である。
【0162】
0.5 M炭酸ナトリウム溶液。約53.0 gの炭酸ナトリウムを1リットルメスフラスコに入れ、900 mlの精製水に溶解し、溶液体積を精製水で印まで調整し、混合し、0.22μmの孔直径の膜フィルターを通じて濾過する。
【0163】
貯蔵寿命は15~25℃の温度で6ヶ月である。
【0164】
停止溶液、pH(10.8±0.5)。900 mlの0.5 M炭酸ナトリウム溶液および100 mlの0.5 M重炭酸ナトリウム溶液を1リットル容量のメスフラスコに添加し、混合し、0.22μmの孔直径の膜フィルターを通じて濾過する。
【0165】
貯蔵寿命は15~25℃の温度で6ヶ月である。
【0166】
4-メチルウンベリフェロンナトリウム溶液(100μmol/ml)の一次溶液。約1.0 g(正確に秤量)の4-メチルウンベリフェロンナトリウム塩を50 ml容量のメスフラスコに入れ、30 mlの精製水を添加し、混合し、精製水で印まで調整する。溶液を2.0μlアリコットに分割する。
【0167】
貯蔵寿命はマイナス18℃を超えない温度で6ヶ月である。
【0168】
4-メチルウンベリフェロンナトリウム塩の標準溶液(50 nmol/ml)。
4-メチルウンベリフェロンナトリウム塩の一次溶液のアリコットを、37℃の温度で5分間、水槽中に維持する。以下のスキームにしたがい、連続希釈を調製する:
【0169】
4-メチルウンベリフェロンナトリウム塩の標準溶液の希釈。4-メチルウンベリフェロンナトリウム塩の作業標準溶液の希釈を、以下のスキームにしたがって調製する:
【0170】
試験試料の希釈。証明書に記載される実際のHIR-FAB-IDS含量に基づいて、1 mg/mlの濃度まで、試料希釈溶液で試験試料を希釈する。次いで、以下のスキームにしたがい、連続希釈を調製する:
【0171】
試験開始まで、すべての希釈を氷上に保存する。
さらなる研究のため、試験管5~7番の溶液を用いる。
【0172】
分析の実施
第一の酵素反応
試験試料の各希釈10μl(2つの複製物で)をプレートのウェルに添加し;試料希釈溶液を参照溶液として用いる。20μlの基質溶液(4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロン酸2-スルフェートナトリウム塩)を添加する。プレートをフィルムで覆い、恒温振盪装置中、(37.0±0.2)℃の温度で4時間、攪拌速度250 rpmでインキュベーションを行う。全インキュベーション期間中、プレートを光から保護しなければならない。
【0173】
第二の酵素反応
インキュベーション終了時、20μlのリン酸-クエン酸緩衝溶液をプレートのウェルに添加して、第一の酵素反応を停止する。次いで、10μlの組換えα-L-イズロニダーゼ溶液を各ウェルに添加し、穏やかに混合する。プレートをフィルムで覆い、恒温振盪装置中、37℃の温度で22~26時間、攪拌速度250 rpmでインキュベーションを行う。全インキュベーション期間中、プレートを光から保護しなければならない。
【0174】
反応を停止するため、200μlの停止溶液を、インキュベーションした混合物を含む各ウェルに添加する。
【0175】
260μlの量の4-メチルウンベリフェロンナトリウム塩の標準溶液の希釈を、プレートの空のウェルに添加する。
【0176】
365 nmの励起波長および460 nmの検出波長で、プレートのウェルにおいて蛍光シグナルを測定する。
【0177】
結果の評価
4-メチルウンベリフェロンナトリウム塩の標準溶液の希釈を含むウェルにおいて蛍光シグナルを測定した結果に基づき、蛍光シグナルと4-メチルウンベリフェロンナトリウム塩の濃度(nmol/ml)との間の線形関係をプロットする。線形関数等式を用い、試験試料の希釈および参照溶液(nmol/ml)を含むウェルにおいて反応中に生じる4-メチルウンベリフェロンの濃度を計算する。
【0178】
単位/μgの比活性Aを、以下の式を用いて計算する:
【数1】
式中、mは、nmol/mlの、試験試料の所定の希釈を含むウェルにおいて反応中に集積する4-メチルウンベリフェロンの濃度(2つの複製物の平均値)であり;
m
0は、nmol/mlの、参照溶液を含むウェルにおいて反応中に産生される4-メチルウンベリフェロンの濃度(2つの複製物の平均値)であり;
0.26は、mlの、蛍光シグナルを測定するためプレートのウェルに添加された標準溶液と試験試料の希釈の最終体積であり;
240は、分の、第一の酵素反応の時間であり;
Cは、ng/mlの、試験試料の調製された希釈各々におけるHIR-Fab-IDSの含量であり;
0.01は、mlの、第一の酵素反応に添加された試験試料の希釈の体積であり;
1000は、ngからμgへの変換係数である。
【0179】
各希釈に関して計算される比活性の平均として、試験試料に関する最終比活性値を計算する。
【0180】
薬剤エラプレースと比較したHIR-FAB-IDSおよびHIR-MAB-IDS変異体の酵素活性を決定するために得た結果を表2に提示する。
表2. 非修飾イズロン酸-2-スルファターゼ酵素(エラプレース)に対する、HIR-FAB-IDSおよびHIR-MAB-IDS変異体のイズロン酸-2-スルファターゼ活性の評価
【表2】
【0181】
表2に提示する結果からわかるように、HIR-FAB-IDS薬剤は、基質4-MU-αIdoA-2S(4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロネート-2-スルフェート)に対する特異的酵素(イズロン酸-2-スルファターゼ)活性27.0 U/μgを示す。この場合、フリーの組換え酵素イズロン酸-2-スルファターゼは、14.6 U/μgの活性を示す。イズロン酸-2-スルファターゼのアミノ酸配列にカップリングされた全長インスリン受容体抗体(HIR-MAB-IDS)は、HIR-FAB-IDSに比較して、より低い比活性(11.0U/μg)を示す。
【0182】
研究結果として、HIR-FAB-IDSの組成物中のイズロン酸-2-スルファターゼは、遊離組換え酵素のレベルで主な機能(酵素)特性を保持する。同時に、HIR-FAB-IDSの比活性は、薬剤エラプレースおよびHIR-MAB-IDS(AGT-182)よりも高い。
【0183】
したがって、輸送要素を伴わない療法酵素、およびMABによって示される輸送要素を伴う療法酵素に比較して、療法酵素に直接またはリンカーを通じてカップリングされた、インスリン受容体エピトープに特異的なIgG免疫グロブリンのFab断片である輸送要素を含有する化合物の酵素活性の増加が検出された。
【0184】
実施例3. ヒトおよびマウスインスリン受容体と、インスリン受容体に対する抗体の修飾Fab断片の相互作用の分析
全長組換えモノクローナル抗体、Fab断片のバリアント、ならびにIDSを伴うその修飾物の、インスリン受容体との相互作用の定量的評価を行うため、サンドイッチ形式の酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)技術を用いる(Kim C, Seo J, Chung Y et al. , 2017)。この方法は、タンパク質HIR-MAB(83-14 Mab)、HIR-MAB-IDSおよびHIR-FAB-IDSと、ヒトインスリン受容体のタンパク質断片(ヒトインスリン受容体タンパク質断片(Abcamカタログ番号ab200510))またはマウスインスリン受容体(mInsR, R&D Systems, Inc.、カタログ番号7544-MR)の結合に基づく。
【0185】
ヒトインスリン受容体および研究下のタンパク質の複合体のインキュベーション後に、二次抗体、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼにコンジュゲート化されたヒト免疫グロブリンに対するFab特異的ヤギ抗体(抗ヒトIgG(Fab特異的)-ペルオキシダーゼ(Sigma-Aldrich、カタログ番号A0293))を用いて検出プロセスを行う。
【0186】
以前記載された、ヒトインスリン受容体に対するマウス抗体(INSR/インスリン受容体アルファ抗体83-14 AHR0221 Life technologies、カタログ番号AHR0221)およびマウスインスリン受容体に対する抗体(マウス抗ヒトインスリン受容体クローン83-14 mAb Cell sciences)を陽性対照として用いた(カタログ番号MAI1)。ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼにコンジュゲート化されたマウス免疫グロブリンに対するヤギポリクローナル抗体(Ms IgGに対するヤギpAb(HRP) Abcam、カタログ番号ab97023)を用いて、検出を行う。
【0187】
ヒトおよびマウスインスリン受容体と試験分子の相互作用を決定するために得た結果を表3および4に提示する。
【0188】
表3. ヒトインスリン受容体(Abcamカタログ番号ab200510)と、インスリン受容体に対する抗体の修飾Fab断片との結合。
【表3】
【0189】
表4. マウスインスリン受容体(R&D Systems, Inc.、カタログ番号7544-MR)への、インスリン受容体抗体の修飾Fab断片の結合。
【表4】
【0190】
したがって、HIR-FAB-IDSは、ヒトインスリン受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインと特異的に相互作用するが、マウスインスリン受容体の細胞外ドメインとは相互作用しないことが立証された。ヒトインスリン受容体と、インスリン受容体に対する抗体のFab断片の結合は、対照抗体(83-14 mAb)に匹敵し、インスリン受容体に対する類似の全長抗体(HIR-MAB-IDS)への結合を越える。
【0191】
ヒトインスリン受容体とHIR-FAB-IDSの相互作用は、細胞リソソームへの分子の能動的トランスサイトーシス全般、特にBBBを通じたものを確実にすることの基礎となる。
【0192】
実施例4. イズロン酸-2-スルファターゼのアミノ酸配列にカップリングされた、インスリン受容体に対する抗体の放射標識Fab断片、[125I]-HIR-Fab-IDS(配列番号2および配列番号4)、[125I]-HIR-Mab-IDS、[125I]-IDS(対照)の、カニクイザル(cynomolgus monkey)における静脈内投与後の組織分布の分析
実験動物の左大腿静脈に、1~2分間に渡る静脈内ボーラス注射によって、2 ml/kg体重のターゲット用量で、試験物質の対応する分子を1回、注射した。ターゲット放射活性用量レベルは、研究するすべての分子に関して、1 MBq/kg動物体重であった。
【0193】
試験物質が投与された動物を、ケタミン塩酸塩の筋内注射、その後、過剰用量のドレティル(Doletil)(ペンタボルビトンナトリウム(sodium pentaborbitone))の静脈内投与によって沈静した。試験物質を投与した2時間後、動物を人道的に安楽死させた。鎮静中、2mlの血液を各動物の橈側皮静脈から収集し、遠心分離して血漿を得た。動物の血漿において、放射活性濃度を測定した。ひとたび死亡が確認されたら、各動物を、ヘキサン中の固体二酸化炭素混合物中で迅速凍結した。完全に凍結したら、2%(w/v)水性カルボキシメチルセルロースペーストを含有する型に体を入れた。各動物に関して、少なくとも5つの身体レベルで、必要であれば3つの頭部レベルで、いくつかの長軸矢状切片(名目上30μm)を採取した。
【0194】
Filmolux 610テープ(Neschan)に付着させた切片を、GVD03ベンチトップ凍結乾燥装置(Girovac Ltd)中で凍結乾燥し、FUJI X線プレート(BAS-MS型、Raytek Scientific Ltd)に置いた。やはり30μmの名目上の厚さの切片の形で調製した、適切な活性のアイソトープ[125I]で標識した血液標準を、放射線プレート上に置いた。
【0195】
銅コーティング鉛ボックス中で7日間現像した後、FUJI FLA-5000放射線システム(Raytek Scientific Ltd)を用いて、放射線プレートをプロセシングした。PCに基づく画像分析システム(Seescan 2ソフトウェア、LabLogic Ltd)を用いて電子画像を分析した。各オートラジオグラム中に含まれる[125I]標準を用いて、放射性濃度のある範囲に渡って、検量線を構築した。
【0196】
組織濃度データを[125I]HIR-Fab-IDS、[125I]HIR-Mab-IDSおよび[125I]-IDS(対照)のng当量として記録した。
【0197】
結果は、小数点第2位までの3桁の有効数字として表された。データ表をコンピュータで生成し、個々のデータを適切に四捨五入した。
【0198】
[125I]HIR-Fab-IDS、[125I]HIR-Mab-IDSおよび[125I]-IDS(対照)を、0.0020 mg/kg、0.00 15mg/kg、および0.0010 mg/kg体重の名目上の用量レベルで単回静脈内用量として、雄カニクイザルに投与した。各薬剤投与の2時間後、動物を安楽死させ、その後、全身オートラジオグラフィを用いた研究のため、動物を凍結した。
【0199】
静脈内投与後、薬剤は吸収され、身体の組織全体に広く分布し、屠殺時には、研究したすべての組織が薬剤に曝露されていた。定量化の下限は、それぞれ、すべての動物の組織濃度測定に関して、0.2、0.03、および0.097 ng薬剤当量/gであった。
【0200】
[125I]HIR-Fab-IDSで処置された動物の血漿および血液中の放射活性濃度は、それぞれ2.55および3.11 ng eq/gであった(血液:血漿比1.22)。延髄(1.09 ng eq/g)、大脳皮質(1.03 ng eq/g)、小脳(0.908 ng eq/g)、視床下部(0.869 ng eq/g)、小脳の樹状物質(arborescent substance)(0.799 ng eq/g)、脳橋(0.793 ng eq/g)および髄質(0.562 ng eq/g)を含めて、いくつかの脳領域に定量化可能なレベルの放射活性が存在した;TP比は0.22~0.43の範囲であった。
【0201】
[125I]HIR-Mab-IDSで処置された動物の血漿および血液中の放射活性濃度は、それぞれ2.13および1.86 ng eq/gであった(血液:血漿比0.87)。動物脳のいくつかの領域に定量化可能なレベルの放射活性が存在した。これらの領域には、延髄(0.803 ng eq/g)、小脳樹状部分(cerebellar arboresum)(0.606 ng eq/g)、小脳(0.494 ng eq/g)、大脳皮質(0.453 ng eq/g)、脳橋(0.438 ng eq/g)、髄質(0.288 ng eq/g)および視床下部(0.279 ng eq/g)が含まれ、TP濃度比は0.13~0.38の範囲であった。
【0202】
[125I]IDSで処置された動物における血漿および血液濃度は、それぞれ、0.910および0.753 ng eq/gであった(血液:血漿比0.83)。脳全体で定量化可能なレベルの放射活性が存在した(0.113 ng eq/g)が、調べた領域:延髄、大脳皮質、小脳、視床下部、小脳樹状部分、脳橋および髄質のすべてで、濃度は定量化下限(0.097 ng eq/g)未満であった。CNS組織中の濃度は、血漿および血液中よりも、有意により低かった。
【0203】
これらの結果は、HIR-Fab-IDS結合物質ならびにHIR-Mab-IDS結合物質が、IDS結合物質と比較して、血液脳関門を貫通し、CNS組織が試験物質またはその標識代謝産物に曝露され、血液を通じて伝達される放射活性は、CNS組織中の濃度の決定にほとんど影響を及ぼさなかったことを明らかにする(
図1および2)。さらに、HIR-Fab-IDSは、HIR-Mab-IDS分子に比較して、身体組織において、より広い分布を示した(表5、
図3)。
【0204】
発明US8834874 B2の実施例10において(AGT-182またはHIR-MAB-IDS)、アカゲザル(rhesus monkeys)の脳内へのAGT-182(HIR-MAB-IDS)の浸透に関する実験データに基づいて、ヒト脳内への浸透効率は、脳組織1000グラムあたり投与された用量の1%と概算されることに注目すべきである。このレベルの浸透では、ヒト脳において、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)活性の20%が達成されると予期され、これは病気の個人の脳において、グリコサミノグリカンの集積を排除するであろうと言及される。
【0205】
カニクイザルの脳内への浸透に関して得られたデータを考慮して(表5)、本発明者らは、本発明の化合物が、AGT-182(HIR-MAB-IDS)よりほぼ2倍優れてカニクイザル脳内に浸透する、したがって0.84 ng eq/gのHIR-FAB-IDS対0.43 ng eq/gのHIR-MAB-IDSであると結論付けることができる。これはしたがって、HIR-FAB-IDSが、ヒト脳に2%効率で浸透することを意味する。US8834874B2の実施例10に示される計算に基づいて、HIR-MAB-IDS(AGT-182)に比較したHIR-FAB-IDSの活性増加を除いて、ヒト脳においてイズロン酸-2-スルファターゼ活性の40%が達成されると予期される。表2を参照されたい。
【0206】
実施例2、表2に示される、HIR-MAB-IDS(AGT-182)に勝るHIR-FAB-IDSの比活性の増加の事実、つまり本発明の化合物の27 U/μgおよび他方の11 U/μg、ならびに脳内へのより多い浸透を考慮すると、27/11 = 2.4倍高い特異的イズロン酸-2-スルファターゼ活性、0.84/0.43 = 1.95倍高い脳への浸透であり、これは、療法HIR-MAB-IDS(AGT-182)中の患者脳におけるIDS活性の20%の回復、および、健康な個人の脳におけるIDS活性レベルから、II型MPS患者の脳におけるイズロン酸-2-スルファターゼ活性の20% * 2.4 * 1.95 = 93.6%の回復をもたらす。したがって、本発明は、病気の個人の脳において、IDSの酵素機能をほぼ完全に回復する一方、もう一方のAGT-182(HIR-MAB-IDS)は20%しか回復しない(93%対20%)。
【0207】
したがって、療法酵素と直接またはリンカーによってカップリングされる、インスリン受容体エピトープに特異的なIgG免疫グロブリンのFab断片である輸送要素を含有する化合物の投与は、Mabを含有する化合物と比較して、ヒト脳における療法酵素の活性のより高い度合いの置換を提供する。
【0208】
表5. 0.0020 mg/kg体重の名目上の用量レベルでの[
125I]-HIR-Fab-IDSの単回静脈内投与後のカニクイザル組織における放射活性濃度
【表5】
【0209】
本明細書は、BBBを通した神経組織リソソームへの輸送を含めて、組織リソソームに療法酵素を輸送する能力を有しつつ、これらの化合物中で特異的酵素活性を示す、療法酵素と、インスリン受容体と相互作用可能な輸送要素とを含有する化合物を提示する。したがって、化合物は、高い活性と、神経組織細胞のリソソームを含む多様な臓器の組織細胞のリソソームに輸送される改善された能力を示し、このことは、リソソーム蓄積症の被験体の治療または防止のための酵素置換療法のための、本発明の使用を示唆する。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-07-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接にまたはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する化合物であって、前記輸送要素がインスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片である、前記化合物。
【請求項2】
直接にまたはリンカーによって互いにカップリングされた該療法酵素および該輸送要素を含有する、請求項1に記載の化合物であって、前記輸送要素がインスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片であり、血液脳関門を通じて前記療法酵素を輸送可能である、前記化合物。
【請求項3】
該インスリン受容体エピトープが配列番号1のアミノ酸配列によって表される、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
該療法酵素および該輸送要素がリンカーによってカップリングされる、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記リンカーが1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーである、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記リンカーが、グリシン、セリンおよびロイシンより選択される1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーである、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
該輸送要素が免疫グロブリンIgGのFab断片のアミノ酸配列を含有し、該免疫グロブリンIgGがIgG1、IgG2またはIgG4である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
該輸送要素が免疫グロブリンIgGのFab断片のアミノ酸配列を含有し、該免疫グロブリンIgGがIgG1である、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
該輸送要素が、配列番号2に対して少なくとも80%の同一性である第一のアミノ酸配列および配列番号3の第二のアミノ酸配列からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片を含有する、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
該輸送要素が、配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列、および配列番号3の第二のアミノ酸配列からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片を含有する、請求項8に記載の化合物。
【請求項11】
該輸送要素が、配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号3の第二のアミノ酸配列からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片を含有する、請求項8に記載の化合物。
【請求項12】
リソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項1に記載の化合物であって、前記療法酵素が、イズロン酸-2-スルファターゼ、α-L-イズロニダーゼからなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項15】
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項14に記載の化合物であって、前記療法酵素が、イズロン酸-2-スルファターゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ活性を有するイズロン酸-2-スルファターゼ断片、またはイズロン酸-2-スルファターゼ類似体からなる群より選択される、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、請求項14に記載の化合物であって、前記療法酵素が、α-L-イズロニダーゼ、α-L-イズロニダーゼ活性を有するα-L-イズロニダーゼ断片、またはα-L-イズロニダーゼ類似体からなる群より選択される、請求項14に記載の化合物。
【請求項17】
前記輸送要素が前記酵素をリソソームに輸送可能である、請求項1に記載の化合物。
【請求項18】
前記輸送要素が、神経組織細胞のリソソームに前記酵素を輸送可能である、請求項17に記載の化合物。
【請求項19】
配列番号2に対して少なくとも80%の同一性を有する第一のアミノ酸配列および配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する第二のアミノ酸配列によって表される
請求項1または2に記載の化合物を含む、II型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる
医薬組成物。
【請求項20】
配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列および配列番号4、5、12、13、14または15より選択される第二のアミノ酸配列によって表される
請求項1または2に記載の化合物を含む、II型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる
医薬組成物。
【請求項21】
前記化合物が配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号4の第二のアミノ酸配列によって表される
、請求項19に記載の
医薬組成物。
【請求項22】
前記化合物が配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号4の第二のアミノ酸配列によって表される、神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる請求項19に記載の
医薬組成物。
【請求項23】
配列番号2のアミノ酸配列および配列番号5の第二のアミノ酸配列によって表される
請求項18に記載の化合物を含む、神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる
医薬組成物。
【請求項24】
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号6の第二のアミノ酸配列によって表される
請求項1または2に記載の化合物を含む、I型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる
医薬組成物。
【請求項25】
前記医薬組成物は、神経学的構成要素を有するI型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる
、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号7の第二のアミノ酸配列によって表される、請求項1または2に記載の化合物を含む、神経学的構成要素を有するI型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる
医薬組成物。
【請求項27】
前記化合物の有効量および医薬的に許容されるキャリアーを含有する医薬組成物を得るための、請求項1~15、17~
18のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項28】
請求項1~15、17~18のいずれか一項に記載の化合物を含む、リソソーム蓄積症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止
における使用のための
医薬組成物であって、前記使用が、前記被験体に前記化合物の有効量を投与することを含む、前記
医薬組成物。
【請求項29】
該リソソーム蓄積症がムコ多糖症である、請求項28に記載の
医薬組成物。
【請求項30】
該リソソーム蓄積症が神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症である、請求項28に記載の
医薬組成物。
【請求項31】
該リソソーム蓄積症が神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症である、請求項28に記載の
医薬組成物。
【請求項32】
該リソソーム蓄積症がII型ムコ多糖症である、請求項28に記載の
医薬組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0209
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0209】
本明細書は、BBBを通した神経組織リソソームへの輸送を含めて、組織リソソームに療法酵素を輸送する能力を有しつつ、これらの化合物中で特異的酵素活性を示す、療法酵素と、インスリン受容体と相互作用可能な輸送要素とを含有する化合物を提示する。したがって、化合物は、高い活性と、神経組織細胞のリソソームを含む多様な臓器の組織細胞のリソソームに輸送される改善された能力を示し、このことは、リソソーム蓄積症の被験体の治療または防止のための酵素置換療法のための、本発明の使用を示唆する。
本開示は以下の実施形態を含む。
実施形態1
直接にまたはリンカーによって互いにカップリングされた療法酵素および輸送要素を含有する化合物であって、前記輸送要素がインスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片である、前記化合物。
実施形態2
直接にまたはリンカーによって互いにカップリングされた該療法酵素および該輸送要素を含有する、実施形態1に記載の化合物であって、前記輸送要素がインスリン受容体エピトープに特異的な免疫グロブリンIgGのFab断片であり、血液脳関門を通じて前記療法酵素を輸送可能である、前記化合物。
実施形態3
該インスリン受容体エピトープが配列番号1のアミノ酸配列によって表される、実施形態2に記載の化合物。
実施形態4
該療法酵素および該輸送要素がリンカーによってカップリングされる、実施形態3に記載の化合物。
実施形態5
前記リンカーが1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーである、実施形態4に記載の化合物。
実施形態6
前記リンカーが、グリシン、セリンおよびロイシンより選択される1つ以上のアミノ酸を含有するペプチドリンカーである、実施形態5に記載の化合物。
実施形態7
該輸送要素が免疫グロブリンIgGのFab断片のアミノ酸配列を含有し、該免疫グロブリンIgGがIgG1、IgG2またはIgG4である、実施形態1に記載の化合物。
実施形態8
該輸送要素が免疫グロブリンIgGのFab断片のアミノ酸配列を含有し、該免疫グロブリンIgGがIgG1である、実施形態1に記載の化合物。
実施形態9
該輸送要素が、配列番号2に対して少なくとも80%の同一性である第一のアミノ酸配列および配列番号3の第二のアミノ酸配列からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片を含有する、実施形態8に記載の化合物。
実施形態10
該輸送要素が、配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列、および配列番号3の第二のアミノ酸配列からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片を含有する、実施形態8に記載の化合物。
実施形態11
該輸送要素が、配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号3の第二のアミノ酸配列からなる、免疫グロブリンIgG1のFab断片を含有する、実施形態8に記載の化合物。
実施形態12
リソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、実施形態1に記載の化合物。
実施形態13
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、実施形態1に記載の化合物。
実施形態14
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、実施形態1に記載の化合物であって、前記療法酵素が、イズロン酸-2-スルファターゼ、α-L-イズロニダーゼからなる群より選択される、実施形態1に記載の化合物。
実施形態15
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、実施形態14に記載の化合物であって、前記療法酵素が、イズロン酸-2-スルファターゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ活性を有するイズロン酸-2-スルファターゼ断片、またはイズロン酸-2-スルファターゼ類似体からなる群より選択される、実施形態14に記載の化合物。
実施形態16
神経学的構成要素を有するリソソーム蓄積症におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための療法酵素を含有する、実施形態14に記載の化合物であって、前記療法酵素が、α-L-イズロニダーゼ、α-L-イズロニダーゼ活性を有するα-L-イズロニダーゼ断片、またはα-L-イズロニダーゼ類似体からなる群より選択される、実施形態14に記載の化合物。
実施形態17
前記輸送要素が前記酵素をリソソームに輸送可能である、実施形態1に記載の化合物。
実施形態18
前記輸送要素が、神経組織細胞のリソソームに前記酵素を輸送可能である、実施形態17に記載の化合物。
実施形態19
配列番号2に対して少なくとも80%の同一性を有する第一のアミノ酸配列および配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する第二のアミノ酸配列によって表される、II型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる実施形態1または2に記載の化合物。
実施形態20
配列番号2、8、9、10または11より選択される第一のアミノ酸配列および配列番号4、5、12、13、14または15より選択される第二のアミノ酸配列によって表される、II型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる実施形態1または2に記載の化合物。
実施形態21
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号4の第二のアミノ酸配列によって表される、II型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる実施形態19に記載の化合物。
実施形態22
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号4の第二のアミノ酸配列によって表される、神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる実施形態19に記載の化合物。
実施形態23
配列番号2のアミノ酸配列および配列番号5の第二のアミノ酸配列によって表される、神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる実施形態18に記載の化合物。
実施形態24
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号6の第二のアミノ酸配列によって表される、I型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる実施形態1または2に記載の化合物。
実施形態25
配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号6の第二のアミノ酸配列によって表される、神経学的構成要素を有するI型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる実施形態22に記載の化合物。
実施形態26
神経学的構成要素を有するI型ムコ多糖症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のために用いられる、配列番号2の第一のアミノ酸配列および配列番号7の第二のアミノ酸配列によって表される、実施形態23に記載の化合物。
実施形態27
前記化合物の有効量および医薬的に許容されるキャリアーを含有する医薬組成物を得るための、実施形態1~15、17~22のいずれか一項に記載の化合物の使用。
実施形態28
リソソーム蓄積症を有する被験体におけるリソソーム酵素不全の治療または防止のための実施形態1~15、17~22のいずれか一項に記載の化合物の使用であって、前記使用が、前記被験体に前記化合物の有効量を投与することを含む、前記使用。
実施形態29
該リソソーム蓄積症がムコ多糖症である、実施形態28に記載の使用。
実施形態30
該リソソーム蓄積症が神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症である、実施形態28に記載の使用。
実施形態31
該リソソーム蓄積症が神経学的構成要素を有するII型ムコ多糖症である、実施形態28に記載の使用。
実施形態32
該リソソーム蓄積症がII型ムコ多糖症である、実施形態28に記載の使用。
【国際調査報告】