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特表2024-532189臓器保存のためのH-NOXタンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】臓器保存のためのH-NOXタンパク質
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20240829BHJP
   A01N 63/50 20200101ALI20240829BHJP
【FI】
A01N1/02
A01N63/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510306
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(85)【翻訳文提出日】2024-04-10
(86)【国際出願番号】 US2022075179
(87)【国際公開番号】W WO2023023627
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】63/234,454
(32)【優先日】2021-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524062560
【氏名又は名称】オムニオックス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン ウィンガー
(72)【発明者】
【氏名】アナ クルトリカ
(72)【発明者】
【氏名】フランシス アレクサンドラ ルークス
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011BB20
4H011CA01
4H011CB05
(57)【要約】
本発明は、移植用臓器の保存のための重合体型H-NOXタンパク質を提供する。移植用の臓器を保存するための重合体型H-NOXタンパク質を含む方法及び組成物も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーの脳死又は心臓死後に提供用臓器を保存する方法であって、少なくとも1つのH-NOXタンパク質、安定化溶液、及び/又は臓器保存溶液を含む組成物をドナーに投与することを含み、前記組成物が0℃~37℃の温度にある上記方法。
【請求項2】
前記安定化溶液が、塩を含み、pHが6.5~7.6である水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液がナトリウムイオンを含む水溶液である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記安定化溶液が、20mMのクエン酸ナトリウム、250mMのグルコース、10mMのグルタチオン、及び0.1%のポロキサマー188を含む、pH6.8±0.2の水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記臓器保存液が、pH6.5~7.5の塩を有し、塩、砂糖、酸化防止剤、活性剤を含む水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液が、塩化物、硫酸塩、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、又はカリウムイオン;マンニトール、ラフィノース、スクラーゼ、グルコース、フルクトース、ラクトビオネート、及びグルコン酸塩から選択される糖類;グルタチオン;キサンチンオキシダーゼ阻害剤、乳酸塩、及びアミノ酸から選択される活性剤、及び任意選択的にヒドロキシエチルデンプン、ポリエチレングリコール、及びデキストランから選択されるコロイドを含む水溶液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記H-NOXタンパク質が、組成物の最終容量に対して0.001mg/ml~100mg/mlの濃度で存在し、前記組成物が250~350mOsm/1のオスモル濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記H-NOXタンパク質が、前記組成物の最終容量と比較して、0.5mg/ml~5mg/mlで存在し、前記組成物が275~310mOsm/lのオスモル濃度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
脳死後提供ドナー又は心臓死後提供ドナーの臓器を原位置外で保存する方法であって、以下の工程を含む方法:
a)請求項1で定義された組成物による前記死亡したドナーを灌流する工程;次に
b)移植すべき臓器を採取する工程;次に
c)工程b)で得られた前記臓器を、0℃~37℃の温度で、前記臓器に応じて所定の時間、工程a)で定義された組成物又は水溶液中で静的又は動的灌流保存する工程。
【請求項10】
少なくとも1つのH-NOXタンパク質、安定化溶液、及び/又は臓器保存溶液を含む組成物の使用であって、脳死又は心停止で死亡したドナーの臓器を保存するために、前記組成物が0℃~37℃の温度を有する、上記使用。
【請求項11】
前記H-NOXタンパク質が、T.テンコンジェンシスH-NOX、L.ニューモフィラ2 H-NOX、ホモ・サピエンス β1、ドブネズミ β1、オオカミ H-NOXドメイン、ショウジョウバエβ1、ショウジョウバエCG14885-PA、C.エレガンスGCY-35、藍藻類H-NOX、C.クレセンタスH-NOX、S.オネイデンシスH-NOX、又はC.アセトブチリカムH-NOXであることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記安定化溶液が、塩、好ましくはナトリウムイオンを含む水溶液であり、本発明による組成物に6.5~7.6のpHを与えることを特徴とする、請求項10又は11に記載の使用。
【請求項13】
前記安定化溶液が、20mMのクエン酸ナトリウム、250mMのグルコース、10mMのグルタチオン、及び0.1%のポロキサマー188を含む、pH6.8±0.2の水溶液であることを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記臓器保存溶液が、6.5~7.5のpHを有し、そして塩、好ましくは塩化物、硫酸塩、ナトリウムイオン及びカルシウムイオン、マグネシウム及びカリウム;糖、好ましくはマンニトール、ラフィノース、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトビオネート、又はグルコン酸塩;抗酸化剤、好ましくはグルタチオン;活性剤、好ましくはキサンチンオキシダーゼ阻害剤、例えばアロプリノール、乳酸塩、又はアミノ酸、例えばヒスチジン、グルタミン酸(又はグルタミン酸塩)、トリプトファン;及び任意選択的に、コロイド、例えばヒドロキシエチルデンプン、ポリエチレングリコール、又はデキストランを含むことを特徴とする、請求項10~13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記H-NOXタンパク質が、組成物の最終容量に対して、0.001mg/ml~100mg/ml、好ましくは0.005mg/ml~20mg/ml、より好ましくは0.5mg/ml~5mg/mlの濃度で存在し、そして前記組成物のオスモル濃度が、250~350mOsm/L、好ましくは275~310mOsm/L、好ましくは約302mOsm/Lであることを特徴とする、請求項10~14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
脳死又は心停止状態で死亡した死亡ドナーの臓器を原位置外で保存する方法であって、以下の工程を含む方法:
a)前記死亡したドナーに請求項10~15のいずれか1項に記載の組成物、又は請求項12~15のいずれか1項に記載の水溶液を注入する工程;次に
b)移植すべき臓器を取り出す工程;次に
c)工程b)で得られた前記臓器を、静的又は動的灌流状態で、0℃から37℃、好ましくは2℃~25℃、より好ましくは約4℃又は37℃の温度で、前記臓器に応じて決定される時間、工程a)で定義された組成物又は水溶液中で維持する工程。
【請求項17】
死亡したドナーの臓器を原位置外で保存する方法であって、以下の工程を含む方法:
a)移植すべき臓器を取り出す工程、及び
b)工程a)で得られた前記臓器を、静的又は動的灌流状態で、0℃から37℃、好ましくは2℃~25℃、より好ましくは約4℃又は37℃の温度で、前記臓器に応じて決定される時間、請求項10~15のいずれか1項に記載の組成物中で、又は請求項12~15のいずれか1項に記載の水溶液を用いて維持する工程。
【請求項18】
臓器を原位置外で保存するための方法であって、以下の工程を含む方法:
a)移植すべき臓器を採取する工程;次に
b)工程a)で得られた前記臓器を、静的又は動的灌流状態で0℃~37℃の温度で、前記臓器に応じて所定の時間、請求項1に記載の組成物又は水溶液中で維持する工程。
【請求項19】
6.5~7.6のpHを有し、以下を含む組成物:
少なくとも1つのH-NOXタンパク質;
好ましくは0~0.5mMの量のカルシウムイオン;
好ましくは20~100mMの量のKOH;
好ましくは20~125mMの量のNaOH;
好ましくは20~25mMの量のKHPO
好ましくは3~5mMの量のMgCl
好ましくは5~200mMの量のラフィノース及びグルコースから選択される少なくとも1つの糖;
好ましくは3~5mMの量のアデノシン;
好ましくは2~4mMの量のグルタチオン;
好ましくは0~1mMの量のアロプリノール;及び、
好ましくは1~50g/lの量の、ヒドロキシエチルデンプン、様々な分子量のポリエチレングリコール、及びヒト血清アルブミンから選択される少なくとも1つの化合物。
【請求項20】
6.5~7.6のpHを有し、以下を含む組成物:
少なくとも1つのH-NOXタンパク質;
好ましくは0~0.5mMの量のカルシウムイオン;
好ましくは15~30mMの量のNaOH;
好ましくは2~10mMの量のヘペス;
好ましくは20~25mMの量のKHPO
好ましくは20~35mMの量のマンニトール;
好ましくは3~10mMの量のグルコース;
好ましくは50~100mMの量のグルコン酸ナトリウム;
好ましくは1~5mMの量のグルコン酸マグネシウム;
好ましくは2~5mMの量のリボース;
好ましくは1~50g/lの量の、ヒドロキシエチルデンプン、様々な分子量のポリエチレングリコール、及びヒト血清アルブミンから選択される少なくとも1つの化合物
好ましくは2~4mMの量のグルタチオン;及び
好ましくは3~5mMの量のアデニン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2021年8月18日に出願された米国仮特許出願第63/234,454号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本出願は、ドナーの脳死後の提供、又はドナーの心臓死後の提供において、少なくとも1つの臓器を原位置又は原位置外で保存する方法における重合体型H-NOXタンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
H-NOXタンパク質[ヘム一酸化窒素及びOXygen結合ドメイン(Heme-Nitric oxide and OXygen binding domain)にちなんで命名された]は、高度に保存され、よく特性評価されたヘムタンパク質ファミリーのメンバーである(Iyer, LM et al. (2003) BMC Genomics 4(1):5; Karow, DS et al. (2004) Biochemistry 43(31):10203-10211; Boon, EM et al. (2005) Nature Chem. Biol. 1:53-59; Boon, EM et al. (2005) Curr. Opin. Chem. Biol. 9(5):441-446; Boon, EM et al. (2005) J. Inorg. Biochem. 99(4):892-902; Cary, SP et al. (2005) Proc Natl Acad Sci USA 102(37):13064-9; Karow DS et al. (2005) Biochemistry 44(49):16266-74; Cary, SP et al. (2006) Trends Biochem Sci 31(4):231-9; Boon, EM et al. (2006) J Biol Chem 281(31):21892-902; Winger, JA et al. (2007) J Biol Chem. 282(2):897-907)。H-NOXタンパク質は一酸化窒素中性であり、これまでのヘモグロビンベースの酸素担体とは異なり、循環する一酸化窒素を除去しないため、高血圧や腎臓の副作用とは関係がない。本質的に低いNO反応性(及び高いNO安定性)により、野生型及び変異体H-NOXタンパク質は望ましい血液代替物となっている。これは、内因性NOによるH-NOXタンパク質の不活化の可能性が低く、H-NOXタンパク質による内因性NOの除去の可能性が低いためである。重要なことに、一部のH-NOXタンパク質における遠位ポケットチロシンの存在(Pellicena, P. et al. (2004) Proc Natl. Acad Sci USA 101(35):12854-12859)は、望ましくない高いNO反応性を示唆しており、血液代替品としての使用を禁止している。例えば、類推すると、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のヘモグロビンタンパク質は、構造的に類似した遠位ポケットチロシンを有し、NOと極めて迅速に反応し、そして結核菌によって使用されて、感染した宿主によって生成される防御的NOを効果的に除去し回避する(Ouellet, H. et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci.U S A 99(9):5902-5907)。しかし、驚くべきことに、H-NOXタンパク質は実際にはヘモグロビンよりもNO反応性がはるかに低く、血液代替物としての使用が可能であることが発見された。
【0004】
NOには結合するがOには結合しないH-NOXタンパク質は、単一のアミノ酸変異の導入によりNOとOの両方に結合するH-NOXタンパク質に変換することができることが発見された(WO2007/139791号及びWO2007/139767号を参照)。従って、O及びNOに対するH-NOXタンパク質の親和性、及びOとNOリガンドを区別するH-NOXタンパク質の能力は、1つ又はそれ以上のアミノ酸変異の導入によって変更でき、H-NOXタンパク質が所望の親和性でO又はNOと結合するように調整することができる。追加の突然変異を導入して、O及び/又はNOに対する親和性をさらに改変することができる。従って、H-NOXタンパク質ファミリーは、O送達に関して改善された又は最適な速度論的及び熱力学的特性を示すように操作することができる。例えば、O結合の解離定数及び/又は解離速度を改変した変異体H-NOXタンパク質が生成されており、これにより、様々な臨床及び産業用途におけるH-NOXタンパク質の有用性が向上する。H-NOXタンパク質を調整してOに結合し送達する能力は、現在のO担体の主要な欠点に対処し、克服する治療手段である。
【0005】
臓器提供とは、臓器が重篤な損傷を受けた患者(レシピエント)を治療する目的で、ドナーと呼ばれるヒトの体から臓器を採取することである。
【0006】
この提供の難しさの1つは依然として、臓器の保存期間である。実際、正常体温(37℃)では、ドナーから採取する前及び/又は採取した後に、臓器は温虚血期間、すなわち臓器がもうドナーの血液によって灌流されていないのに、まだ冷蔵されていない期間を経験する。臓器は急速に劣化し、酸素が供給されなくなる。移植臓器が低体温下(すなわち、約4℃)で保存される場合、移植臓器のその後の機能の再開を保証する許容可能な時間は、臓器によって異なる。例えば、心臓や肺の場合は約4~6時間、肝臓の場合は8~12時間、腎臓の場合は24~48時間、膵臓や腸の場合は8~10時間程度である。従って、臓器の機能を確実に維持するために、移植は明確に定められた期間内に実施する必要がある。
【0007】
さらに、低体温は保存の重要な要素である。移植臓器は摘出されると、温度が37℃から4℃に急速に下げるためにすぐに冷却される。このため、臓器は容器を介して保存液で洗われ、次に、保証された無菌条件に従って砕いた氷によって低温に維持されたこの保存液に単純に浸される。組織の温度の低下は、細胞代謝の低下、すなわち細胞の生存に必要な触媒酵素活性の減速につながるが、それを止めることはない(Belzer F. O., Southard J. H. Principles of solid-organ preservation by cold storage. Transplantation 1988; 45(4): 673-676)。4℃に置かれた移植臓器は、代謝が約85%低下する。従って、低体温は、血液循環の停止によって引き起こされる酸素欠乏と栄養欠乏の有害な影響と戦うことを可能にし、組織壊死の原因となる細胞死を遅らせる。
【0008】
提供数の不足に直面しているため、長期間にわたる移植臓器の保存とその酸素供給は不可欠な関心事であり、これにより、臓器の品質が維持され、臓器の生存期間が延長されるため、移植の成功が可能になる。実際、4℃で保存された移植臓器の代謝は低下するが、すべての好気性組織と同様に、依然として酸素を必要とする。
【0009】
さらに、パーフルオロカーボン(PFC)、HBOC、ヒトの血液などの現在入手可能な血液代替品の大部分は臓器に酸素を供給することができるが、どの温度でも使用することができるわけではない。特に、これらは4℃では機能しない。さらに、PFCは酸素輸送体ではないが、酸素分圧に応じて大量の酸素を溶解することができる溶質である。従って、単純に使用することはできず、酸化ストレスの問題を引き起こす可能性がある。
【0010】
特許出願及び刊行物を含む、本明細書に引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
要約
本開示は、重合体型H-NOXタンパク質が、虚血性脳卒中時の脳又は全体的低酸素血症時の心臓などの病的低酸素組織に優先的に酸素を供給し、そして単量体H-NOXタンパク質と比較して、より長い循環半減期によってより長い酸素化ウィンドウを提供するという驚くべき発見に一部基づいている。従って、本開示は、臓器がドナーから採取される前に臓器の機能を維持するために、例えば、ドナーの臓器を最適な条件下で保存し酸素を供給するために、酸素の送達のためのタンパク質、組成物、キット、及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
少なくとも1つの実施態様において、本開示はドナーの脳死又は心臓死の後に提供用臓器を保存する方法であって、少なくとも1つのH-NOXタンパク質、安定化溶液、及び/又は臓器保存溶液を含む組成物をドナーに投与することを含む方法に関し、ここで、組成物は0℃~37℃の温度にある。
【0013】
少なくとも1つの実施態様において、安定化溶液は塩を含み、pHが6.5~7.6である水溶液である。少なくとも1つの実施態様において、溶液はナトリウムイオンを含む水溶液である。
【0014】
少なくとも1つの実施態様において、安定化溶液は、20mMのクエン酸ナトリウム、250mMのグルコース、10mMのグルタチオン、及び0.1%のポロキサマー188を含む、pH6.8±0.2の水溶液である。
【0015】
少なくとも1つの実施態様において、臓器保存溶液は、6.5~7.5のpHを有し、塩、砂糖、酸化防止剤、活性剤を含む水溶液である。少なくとも1つの実施態様において、前記溶液は、塩化物、硫酸塩、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、又はカリウムイオン;マンニトール、ラフィノース、スクラーゼ、グルコース、フルクトース、ラクトビオネート、及びグルコン酸塩から選択される糖類;グルタチオン;キサンチンオキシダーゼ阻害剤、乳酸塩、及びアミノ酸から選択される活性剤、及び任意選択的にヒドロキシエチルデンプン、ポリエチレングリコール、及びデキストランから選択されるコロイドを含む水溶液である。
【0016】
少なくとも1つの実施態様において、H-NOXタンパク質は、組成物の最終容量に対して0.001mg/ml~100mg/mlの濃度で存在し、組成物は250~350mOsm/lのオスモル濃度を有する。少なくとも1つの実施態様において、H-NOXタンパク質は、組成物の最終容量と比較して、0.5mg/ml~5mg/mlで存在し、組成物は275~310mOsm/lのオスモル濃度を有する。
【0017】
少なくとも1つの実施態様において、本開示は、脳死後提供ドナー又は心臓死後提供ドナーにおいて臓器を原位置外で保存するための方法であって、a)前記死亡したドナーを組成物で灌流する工程、次にb)移植すべき臓器を採取する工程、次にc)工程b)で得られた前記臓器を、工程a)で規定された組成物又は水溶液中で、前記臓器に応じて所定の時間0℃~37℃の温度で静的又は動的灌流保存する工程を含む方法に関する。
【0018】
少なくとも1つの実施態様において、本開示は、少なくとも1つのH-NOXタンパク質、安定化溶液、及び/又は臓器保存溶液を含む組成物の使用に関し、前記組成物は、脳死又は心停止で死亡した死亡ドナーの臓器を保存するために、0℃~37℃の温度を有する。
【0019】
少なくとも1つの実施態様において、使用は、H-NOXタンパク質が、T.テンコンジェンシス(T. tengcongensis)H-NOX、L.ニューモフィラ(L. pneumophilia)2 H-NOX、ホモ・サピエンス(H. sapiens) β1、ドブネズミ(R. norvegicus) β1、オオカミ(C. lupus) H-NOXドメイン、ショウジョウバエ(D. melangaster)β1、ショウジョウバエCG14885-PA、エレガンス線虫(C. elegans)GCY-35、藍藻類(N. punctiforme)H-NOX、C.クレセンタス(C. crescentus)H-NOX、S.オネイデンシス(S. oneidensis)H-NOX、又はC.アセトブチリカム(C. acetobutylicum)H-NOXであることを特徴とする。少なくとも1つの実施態様において、使用は、安定化溶液が、塩、好ましくはナトリウムイオンを含む水溶液であり、本発明による組成物に6.5~7.6のpHを与えることを特徴とする。少なくとも1つの実施態様において、使用は、安定化溶液が、20mMのクエン酸ナトリウム、250mMのグルコース、10mMのグルタチオン、及び0.1%のポロキサマー188を含む、pH6.8±0.2の水溶液であることを特徴とする。少なくとも1つの実施態様において、使用は、臓器保存溶液が、6.5~7.5のpHを有し、そして塩、好ましくは塩化物、硫酸塩、ナトリウムイオン及びカルシウムイオン、マグネシウム及びカリウム;糖、好ましくはマンニトール、ラフィノース、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトビオネート、又はグルコン酸塩;抗酸化剤、好ましくはグルタチオン;活性剤、好ましくはキサンチンオキシダーゼ阻害剤、例えばアロプリノール、乳酸塩、又はアミノ酸、例えばヒスチジン、グルタミン酸(又はグルタミン酸塩)、トリプトファン;及び任意選択的に、コロイド、例えばヒドロキシエチルデンプン、ポリエチレングリコール、又はデキストランを含むことを特徴とする。少なくとも1つの実施態様において、使用は、H-NOXタンパク質が、組成物の最終容量に対して、0.001mg/ml~100mg/ml、好ましくは0.005mg/ml~20mg/ml、より好ましくは0.5mg/ml~5mg/mlの濃度で存在し、そして組成物のオスモル濃度が、250~350mOsm/L、好ましくは275~310mOsm/L、好ましくは約302mOsm/Lであることを特徴とする。
【0020】
少なくとも1つの実施態様において、本開示は、脳死又は心停止状態で死亡した死亡ドナーの臓器を原位置外で保存する方法であって、a)前記死亡したドナーに、本開示の組成物又は本開示の水溶液を注入する工程と、次に、b)移植すべき臓器を取り出す工程と、次に、c)工程b)で得られた前記臓器を、静的又は動的灌流状態で、0℃~37℃、好ましくは2℃~25℃、より好ましくは約4℃又は37℃の温度で、前記臓器に応じて決定される時間、工程a)で定義された組成物又は水溶液中で維持する工程とを含む方法に関する。
【0021】
少なくとも1つの実施態様において、本開示は、死亡したドナーの原位置外の臓器を保存する方法であって、a)移植すべき臓器を取り出す工程、b)工程a)で得られた前記臓器を、静的又は動的灌流状態で0℃~37℃、好ましくは2℃~25℃、より好ましくは約4℃又は37℃の温度で、前記臓器に従って決定される時間、本開示の組成物中で、又は本開示の水溶液と共に、維持する工程とを含む方法に関する。
【0022】
少なくとも1つの実施態様において、本開示は、臓器を原位置外で保存するための方法であって、a)移植すべき臓器を採取する工程、次に、b)工程a)で得られた前記臓器を、静的又は動的灌流状態で0℃~37℃の温度で、前記臓器に従って所定の時間、本開示の組成物又水溶液中で維持する工程を含む方法に関する。
【0023】
少なくとも1つの実施態様において、本開示は、6.5~7.6のpHを有する組成物に関し、この組成物は、少なくとも1つのH-NOXタンパク質;好ましくは0~0.5mMの量のカルシウムイオン;好ましくは20~100mMの量のKOH;好ましくは20~125mMの量のNaOH;好ましくは20~25mMの量のKHPO;好ましくは3~5mMの量のMgCl;好ましくは5~200mMの量のラフィノース及びグルコースから選択される少なくとも1つの糖;好ましくは3~5mMの量のアデノシン;好ましくは2~4mMの量のグルタチオン;好ましくは0~1mMの量のアロプリノール;及び、好ましくは1~50g/lの量の、ヒドロキシエチルデンプン、様々な分子量のポリエチレングリコール、及びヒト血清アルブミンから選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0024】
少なくとも1つの実施態様において、本開示は、6.5~7.6のpHを有する組成物に関し、この組成物は、少なくとも1つのH-NOXタンパク質;好ましくは0~0.5mMの量のカルシウムイオン;好ましくは15~30mMの量のNaOH;好ましくは2~10mMの量のヘペス;好ましくは20~25mMの量のKHPO;好ましくは20~35mMの量のマンニトール;好ましくは3~10mMの量のグルコース;好ましくは50~100mMの量のグルコン酸ナトリウム;好ましくは1~5mMの量のグルコン酸マグネシウム;好ましくは2~5mMのリボース;好ましくは1~50g/lの量のヒドロキシエチルデンプン、様々な分子量のポリエチレングリコール、及びヒト血清アルブミンから選択される少なくとも1つの化合物;好ましくは2~4mMの量のグルタチオン;及び好ましくは3~5mMの量のアデニンを含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本開示の特徴は、特に添付の特許請求の範囲で詳細に記載される。本開示の特徴及び利点は、本開示の原理が利用される例示的な実施態様を説明する以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することによって、よりよく理解されるであろう。
【0026】
図1】ポンプの機能評価を示す。ドナー#1(図1A及び1C)及びドナー#2(図1B及び1D)からの遺伝的に適合制御された腎臓の両方について、抵抗及び流量を、0、1、2、3、4、6、8、及び10時間目に測定した。
【0027】
図2-1】組織病理学的評価を示す。ドナー#1(図2A、2C、及び2E)及びドナー#2(図2B、2D、及び2F)からの遺伝的に適合制御された腎臓の両方について、尿細管変性、壊死、及びアポトーシスを、0、1、2、3、4、6、8、及び10時間目に評価した。
図2-2】組織病理学的評価を示す。ドナー#1(図2A、2C、及び2E)及びドナー#2(図2B、2D、及び2F)からの遺伝的に適合制御された腎臓の両方について、尿細管変性、壊死、及びアポトーシスを、0、1、2、3、4、6、8、及び10時間目に評価した。
【0028】
図3】病理組織学的評価を示す。ドナー#1及びドナー#2からの遺伝的に適合制御された腎臓の両方について、細胞骨格の乱れを、0、1、2、3、4、6、8、及び10時間目に評価した。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
以下の説明及び実施例は、本開示の実施態様を詳細に説明する。
【0030】
本開示は、本明細書に記載される特定の実施態様に限定されず、従って、変更し得ることを理解されたい。当業者は、本開示の変更及び修正が存在し、それらが本開示の範囲内に包含されることを認識するであろう。
【0031】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、整理のみを目的としており、説明されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0032】
本開示の様々な特徴は、単一の実施態様に関連して説明することができるが、それらの特徴は、個別に、又は任意の適切な組み合わせで提供することもできる。逆に、本開示は、明確にするために本明細書では別個の実施態様に関連して説明することができるが、本開示は単一の実施態様で実施することもできる。
【0033】
本開示は、重合体型H-NOXタンパク質が、虚血性脳卒中時の脳又は全体的低酸素血症時の心臓などの病的低酸素組織に優先的に酸素を供給し、そして単量体H-NOXタンパク質と比較して、より長い循環半減期によってより長い酸素化ウィンドウを提供するという驚くべき発見に一部基づいている。従って、本開示は、臓器がドナーから採取される前に臓器の機能を維持するために、例えば、ドナーの臓器を最適な条件下で保存し酸素を供給するために、酸素の送達のためのタンパク質、組成物、キット、及び方法を提供する。
【0034】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語の意味は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものである。当業者であれば、本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の方法及び材料も、本開示を実施又は試験するために使用することができることを理解するであろう。
【0035】
本明細書で使用する場合、特に他に明記しない限り、用語「a」、「an」などの使用は、1つ又はそれ以上を指す。
【0036】
本出願において、「又は」の使用は、明示的に記載されないか又は当業者によって理解されない限り、「及び/又は」を意味する。複数の従属請求項の文脈において、「又は」の使用は、先行する複数の独立請求項又は従属請求項を指す。
【0037】
本明細書における値又はパラメータの「約」への言及には、その値又はパラメータ自体を対象とする実施態様を含む(及び説明する)。例えば、「約X」という記述は、「X」の説明を含む。
【0038】
本明細書に記載される開示の態様及び実施態様は、態様及び実施態様を「含む」、「からなる」、及び「本質的にからなる」ことを含むことが理解される。
【0039】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために互換的に使用され、最小の長さに限定されない。このようなアミノ酸残基のポリマーは、天然又は非天然のアミノ酸残基を含むことができ、限定されるものではないが、アミノ酸残基のペプチド、オリゴペプチド、二量体、三量体、及びポリマーを含む。全長タンパク質とその断片の両方がこの定義に包含される。この用語はまた、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、シアル化、アセチル化、リン酸化なども含む。さらに、本開示の目的上、「ポリペプチド」とは、タンパク質が所望の活性を維持する限り、天然配列に対して欠失、付加、及び置換(一般的に、本来保存的)などの修飾を含むタンパク質を指す。これらの修飾は、部位特異的突然変異誘発による意図的な場合もあれば、タンパク質を生成する宿主の突然変異やPCR増幅のエラーなどの偶発的な場合もある。本明細書で使用されるタンパク質は、共有結合又は非共有結合で会合した2つ又はそれ以上のサブユニットを含み得る。例えば、タンパク質は2つ又はそれ以上の会合した単量体を含み得る。
【0040】
「核酸分子」、「核酸」、及び「ポリヌクレオチド」という用語は、互換的に使用することができ、ヌクレオチドのポリマーを指す。このようなヌクレオチドのポリマーは、天然及び/又は非天然のヌクレオチドを含むことができ、及び、限定されるものではないが、DNA、RNA、及びPNAを含む。「核酸配列」とは、核酸分子又はポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドの線状配列を指す。
【0041】
本明細書で使用される「H-NOXタンパク質」は、H-NOXドメイン(ヘム一酸化窒素及びOXγ結合ドメイン(Heme-Nitric oxide and OXygen結合ドメイン)にちなんで命名)を有するタンパク質を意味する。H-NOXタンパク質は、H-NOXドメインに加えて1つ又はそれ以上の他のドメインを含むこともあれば含まないこともある。いくつかの例において、H-NOXタンパク質はグアニリルシクラーゼドメインを含まない。H-NOXタンパク質は、重合ドメインを含むこともあれば含まないこともある。
【0042】
本明細書で使用される「重合体型H-NOXタンパク質」は、2つ又はそれ以上のH-NOXドメインを含むH-NOXタンパク質である。H-NOXドメインは、共有的に又は非共有的に会合していてもよい。
【0043】
本明細書で使用される「H-NOXドメイン」は、ヘムを介して一酸化窒素及び/又は酸素に結合するタンパク質の全部又は一部である。H-NOXドメインはヘムを含んでもよいし、ヘムに結合することができるアポプロタンパク質として見出され得る。いくつかの例において、H-NOXドメインは6つのアルファらせん、それに続く2つのベータ鎖、その後に1つのアルファらせん、その後に2つのベータ鎖を含む。いくつかの例において、H-NOXドメインは、配列番号2に記載のサーモアナエロバクター・テンコンジェンシス(Thermoanaerobacter tengcongensis)H-NOXのH-NOXドメインに対応する。例えば、H-NOXドメインは、配列番号2に記載のサーモアナエロバクター・テンコンジェンシスH-NOXのH-NOXドメインと、少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は99%同一であり得る。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、配列番号2に記載のサーモアナエロバクター・テンコンジェンシスH-NOXのH-NOXドメインと、10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、90%~95%、95%~99%又、は100%同一であり得る。
【0044】
本明細書で使用される「重合ドメイン」は、単量体部分の会合を促進してポリマー構造を形成するドメイン(例えば、ポリペプチドドメイン)である。例えば、重合ドメインは、単量体H-NOXドメインの会合を促進して、重合体型H-NOXタンパク質を生成し得る。例示的な重合ドメインは、三量体ポリペプチドの形成を促進するT4バクテリオファージのフォルドン(foldon)ドメインである。重合ドメインの他の例には、限定されるものではないが、Arc、POZ、コイルドコイルドメイン(GCN4、ロイシンジッパー、ベルクロを含む)、ウテログロビン、コラーゲン、3本鎖コイルドコイル(マトリリン-1)、トロンボスポンジン類TRPV1-C、P53、Mnt、アビジン、ストレプトアビジン、Bcr-Abl、COMP、ベロ毒素サブユニットB、CamKII、RCK、及びNエチルマレイミド感受性融合タンパク質のドメイン、STM3548、KaiC、TyrR、Hcp1、CcmK4、GP41、炭疽菌防御抗原、アエロリシン、α溶血素、C4b結合タンパク質、Mi-CK、アリールスルファターゼA、及びウイルスキャプシドタンパク質が含まれる。
【0045】
本明細書で使用される「アミノ酸リンカー配列」又は「アミノ酸スペーサー配列」は、タンパク質の2つのドメインを連結するために使用され得る短いポリペプチド配列である。いくつかの実施態様において、アミノ酸リンカー配列は、長さが1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10を超えるアミノ酸である。例示的なアミノ酸リンカー配列には、限定されるものではないが、Gly-Ser-Gly配列及びArg-Gly-Ser配列が含まれる。
【0046】
本明細書で使用される「Hisタグ」は、ポリペプチドに結合した6つのHis残基を含むペプチドを指す。Hisタグはタンパク質の精製を容易にするために使用でき、例えば、Hisタグに特異的なクロマトグラフィーが使用される。精製後、エキソペプチダーゼを使用してHisタグを切断することができる。
【0047】
本明細書で使用される「実質的に類似」又は「実質的に同じ」という用語は、2つ又はそれ以上の数値間の十分に高い類似性を意味し、従って、当業者は、2つ又はそれ以上の数値間の差異が、前記値によって測定される生物学的特性の文脈内で、ほとんど又はまったく統計的に有意ではないと考えるであろう。いくつかの実施態様において、2つ又はそれ以上の実質的に同様の値は、約5%、10%、15%、20%、25%、又は50%のいずれか1つ以下だけ異なる。
【0048】
本明細書で使用される「実質的に低下している」又は「実質的に異なる」という用語は、2つの数値間の十分に高い程度の差異を意味し、従って、当業者は、2つの値間の差異が、前記値によって測定される生物学的特性の文脈内で、統計的に有意であると考えるであろう。いくつかの実施態様において、2つの実質的に異なる数値は、約10%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、又は90%のいずれか1つを超えて異なる。いくつかの実施態様において、2つの実質的に異なる数値は、約10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、90%~95%、95%~99%、又は100%のいずれか1つだけ異なる。
【0049】
「天然配列」ポリペプチドは、自然界に見出されるポリペプチドと同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。従って、天然配列ポリペプチドは、任意の生物由来の天然に存在するポリペプチドのアミノ酸配列を有し得る。そのような天然配列ポリペプチドは、自然から単離することができ、あるいは組換え若しくは合成手段によって生成することができる。「天然配列」ポリペプチドという用語は、ポリペプチドの天然に存在する末端切断型又は分泌型(例えば、細胞外ドメイン配列)、天然に存在する変種型(例えば、選択的スプライシング型)、及びポリペプチドの天然に存在する対立遺伝子変種を特に包含する。
【0050】
ポリペプチド「変種」とは、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して最大パーセントの配列同一性を達成した後、配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮しない場合に、天然配列ポリペプチドと少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有する生物学的に活性なポリペプチドを意味する。そのような変種には、例えば、ポリペプチドのN末端又はC末端で1つ又はそれ以上のアミノ酸残基が付加又は欠失されているポリペプチドが含まれる。いくつかの実施態様において、変種は、天然配列ポリペプチドと少なくとも約80%、90%、又は95%のアミノ酸配列同一性のいずれかを有するであろう。いくつかの実施態様において、変種は、天然配列ポリペプチドと約80%~90%、90%~95%、又は95%~99%のアミノ酸配列同一性のいずれかを有する。
【0051】
本明細書で使用される「変異体タンパク質」とは、天然に存在するタンパク質と比較して、1つ又はそれ以上の変異を有するタンパク質を意味する。1つの実施態様において、変異タンパク質は、天然に存在するすべてのタンパク質の配列とは異なる配列を有する。様々な実施態様において、変異体タンパク質のアミノ酸配列は、天然に存在するタンパク質の対応する領域のアミノ酸配列と、少なくとも約10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、95、97、98、99、又は99.5%同一である。いくつかの実施態様において、変異体タンパク質のアミノ酸配列は、天然に存在するタンパク質の対応する領域のアミノ酸配列と、少なくとも約10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、90%~95%、95%~99%、又は100%同一である。いくつかの実施態様において、変異体タンパク質は、全長タンパク質からの少なくとも約25、50、75、100、150、200、300、又は400個の連続アミノ酸のいずれかを含むタンパク質断片である。いくつかの実施態様において、変異体タンパク質は、全長タンパク質由来の約25~50、50~75、75~100、100~150、150~200、200~300、又は300~400個の連続アミノ酸のいずれかを含むタンパク質断片である。配列同一性は、例えば、その中で特定されたデフォルトパラメータを用いる配列解析ソフトウェア(例えばUniversity of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, WI 53705の Genetics Computer Group の配列解析ソフトウェアパッケージ)を使用して測定することができる。このソフトウェアプログラムは、様々なアミノ酸の置換、欠失、その他の修飾に相同性の程度を割り当てることによって、類似した配列を照合する。
【0052】
本明細書で使用される「突然変異」は、天然に存在する参照核酸又はアミノ酸配列における変化を意味する。例示的な核酸変異には、挿入、欠失、フレームシフト変異、サイレント変異、ナンセンス変異、又はミスセンス変異が含まれる。いくつかの実施態様において、核酸変異はサイレント変異ではない。例示的なタンパク質変異としては、1つ又はそれ以上のアミノ酸の挿入(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のアミノ酸の挿入)、1つ又はそれ以上のアミノ酸の欠失(例えば、N末端、C末端、及び/又は内部残基の欠失、例えば、少なくとも約5、10、15、25、50、75、100、150、200、300個、又は1つ又はそれ以上のアミノ酸のいずれかの欠失、又は約5~10、10~15、15~25、25~50、50~75、75~100、100~150、150~200、200~300、若しくは300~400個のアミノ酸のいずれかの欠失)、1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のアミノ酸の置換)、又は前述の2つ又はそれ以上の組み合わせが含まれる。特定のアミノ酸変異を指す際に使用される命名法では、最初に野生型アミノ酸が特定され、続いて残基番号、そして最後に置換アミノ酸が続く。例えば、Y140Lは、チロシンが残基番号140でロイシンに置換されていることを意味する。同様に、変種H-NOXタンパク質は、H-NOXタンパク質のアミノ酸変種によって呼ばれることがある。例えば、T.テンコンジェンシスY140L H-NOXタンパク質は、位置番号140のチロシン残基がロイシン残基に置換されたT.テンコンジェンシスH-NOXタンパク質を指し、及びT.テンコンジェンシスW9F/Y140L H-NOXタンパク質は、9位のトリプトファン残基がフェニルアラニン残基で置換され、140位のチロシン残基がロイシン残基で置換されたT.テンコンジェンシスH-NOXタンパク質を指す。
【0053】
「進化的に保存された突然変異」とは、あるタンパク質内のアミノ酸が、同じタンパク質ファミリー内の別のタンパク質の対応する位置にあるアミノ酸によって置換されることである。
【0054】
本明細書で使用される「に由来する」とは、1つ又はそれ以上の変異が導入されるタンパク質の供給源を指す。例えば、「哺乳類タンパク質に由来する」タンパク質は、野生型(すなわち、天然に存在する配列)哺乳類タンパク質の配列に1つ又はそれ以上の変異を導入することによって生じる目的のタンパク質を指す。
【0055】
ペプチド、ポリペプチド、又は抗体配列に関して、本明細書で使用される「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」及び「相同性」は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して最大パーセント配列同一性を達成した後の、配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮しない場合の、特定のペプチド又はポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。アミノ酸配列の同一性パーセントを決定するための整列は、当業者の技術の範囲内である様々な方法、例えば公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMEGALIGNTM(DNASTAR)ソフトウェアを使用して、達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大の整列を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、整列を測定するための適切なパラメータを決定することができる。
【0056】
本明細書で使用される「koff」とは、「タンパク質からのO又はNOの放出速度などの解離速度を指す。koffの数値が低いほど、解離速度が遅いことを示す。
【0057】
本明細書で使用される「kon」は、タンパク質へのO又はNOの結合速度などの会合速度を指す。konの数値が低いほど、会合速度が遅いことを示す。
【0058】
本明細書で使用される「解離定数」は、「速度論的解離定数」又は「計算された解離定数」を指す。「速度論的解離定数」又は「K」は、速度論的オフレート(koff)と速度論的オンレート(kon)との比であり、例えば当業者に公知の方法及び/又は本明細書に記載の方法を含む標準的な方法(例えば、標準的な分光法、ストップフロー法、又はフラッシュ光分解法)を使用して絶対値として決定されるK値を指す。「計算された解離定数」又は「計算されたK」は、測定されたkoffに基づく速度論的解離定数の近似値を指す。konの値は、本明細書に記載されるように、速度論的Kとkoffとの間の相関を介して導かれる。
【0059】
本明細書で使用される「酸素親和性」は、タンパク質のヘム部分への酸素結合の強さを指す定性的な用語である。この親和性は、酸素のkoffとkonの両方の影響を受ける。数値的に低い酸素K値は、より高い親和性を意味する。
【0060】
本明細書で使用される「NO親和性」は、タンパク質へのNO結合(ヘム基への結合、又はタンパク質に会合したヘム基に結合した酸素への結合など)の強さを指す定性的な用語である。この親和性は、NOのkoffとkonの両方の影響を受ける。NOK値が数値的に低いほど、親和性が高いことを意味する。
【0061】
本明細書で使用される「NO安定性」とは、酸素の存在下のNOによる酸化に対するタンパク質の安定性又は耐性を指す。例えば、酸素の存在下でタンパク質がNOに結合しても酸化されない能力は、タンパク質のNO安定性を示す。いくつかの実施態様において、20℃で約1、2、4、6、8、10、15、又は20時間のいずれかのインキュベーション後に、H-NOXタンパク質の約50、40、30、10、又は5%未満のいずれかが酸化される。
【0062】
本明細書で使用される「NO反応性」とは、ヘム結合タンパク質のヘム中の鉄が酸素の存在下でNOによって酸化される速度を指す。s-1の単位で表されるNO反応性の数値が低いほど、NO反応性が低いことを示す。
【0063】
本明細書で使用される「自己酸化速度」は、ヘム結合タンパク質のヘム中の鉄が自己酸化される速度を指す。s-1単位で表される低い自己酸化の数値が低いほど、自己酸化速度が低いことを示す。
【0064】
「ベクター」という用語は、宿主細胞内で増殖され得るクローン化ポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドを含むように工学作成され得るポリヌクレオチドを説明するために使用される。ベクターは、以下の要素のうちの1つ又はそれ以上を含み得る:複製開始点、目的のポリペプチドの発現を調節する1つ又はそれ以上の調節配列(例えば、プロモーター及び/又はエンハンサーなど)、及び/又は1つ又はそれ以上の選択可能なマーカー遺伝子(例えば、抗生物質耐性遺伝子、及び比色アッセイで使用され得る遺伝子、例えば、β-ガラクトシダーゼ)。「発現ベクター」という用語は、宿主細胞内で目的のポリペプチドを発現させるために使用されるベクターを指す。
【0065】
「宿主細胞」とは、ベクター又は単離されたポリヌクレオチドの受容体であり得るか又は受容体であった細胞を指す。宿主細胞は原核細胞であっても真核細胞であってもよい。例示的な真核細胞には、哺乳動物細胞、例えば霊長類又は非霊長類動物細胞;真菌細胞、例えば酵母;植物細胞;及び昆虫細胞が含まれる。例示的な原核細胞には細菌細胞、例えば大腸菌細胞が含まれる。
【0066】
本明細書で使用される用語「単離されている」とは、通常天然に存在するか又は生成される成分の少なくとも一部から分離された分子を指す。例えば、ポリペプチドが、それが生成された細胞の成分の少なくとも一部から分離されている場合、それは「単離されている」と呼ばれる。発現後にポリペプチドが細胞によって分泌される場合、ポリペプチドを産生した細胞からポリペプチドを含む上清を物理的に分離することは、ポリペプチドを「単離する」こととみなされる。同様に、ポリヌクレオチドは、それが通常天然に存在するより大きなポリヌクレオチド(例えば、DNAポリヌクレオチドの場合、ゲノムDNA又はミトコンドリアDNA)の一部ではない場合、又は、例えばRNAポリヌクレオチドの場合、それを産生した細胞の成分の少なくとも一部から分離されている場合、「単離されている」と呼ばれる。従って、宿主細胞内のベクターに含まれるDNAポリヌクレオチドは、「単離されている」と呼ぶことができる。
【0067】
「個体」又は「被験体」という用語は、本明細書では哺乳動物などの動物を指すために互換的に使用される。いくつかの実施態様において、限定されるものではないが、ヒト、げっ歯類、サル、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、哺乳動物実験動物、哺乳動物家畜、哺乳動物スポーツ動物、及び哺乳動物ペットを含む哺乳動物を治療する方法が提供される。いくつかの例において、「個体」又は「被験体」は、疾患又は障害の治療を必要とする個体又は被験体を指す。
【0068】
「疾患」又は「障害」とは、治療が必要な状態を指す。
【0069】
「阻害」又は「阻害する」という用語は、任意の表現型特徴の減少若しくは停止、又はその特徴の発生率、程度、若しくは可能性の減少若しくは停止を指す。「低下させる」又は「阻害する」とは、基準と比較して、活性、機能、及び/又は量を減少させる、低下させる、又は停止させることを意味する。特定の実施態様において、「低下させる」又は「阻害する」とは、全体として20%以上の減少を引き起こす能力を意味する。別の実施態様において、「低下させる」又は「阻害する」とは、全体として50%以上の減少を引き起こす能力を意味する。さらに別の実施態様において、「低下させる」又は「阻害する」とは、75%、85%、90%、95%、又は99%の全体的な減少を引き起こす能力を意味する。
【0070】
「基準」とは、比較目的で使用される任意の試料、標準、又はレベルを指す。基準は、健康な試料及び/又は病気でない試料から取得され得る。いくつかの例において、基準は未処理の試料から取得され得る。いくつかの例において、基準は、被験個体の非罹患かつ未治療の試料から得られる。いくつかの例において、基準は、被験体又は患者ではない1人又はそれ以上の健康な個人から取得される。
【0071】
本明細書で使用される「予防する」とは、疾患に対する素因を有するが、まだ疾患を有すると診断されていない被験体における疾患の発生又は再発に関して予防を提供することが含まれる。
【0072】
薬剤の「有効量」とは、所望の治療又は予防結果を達成するために必要な用量及び期間で有効な量を指す。
【0073】
「医薬製剤」及び「医薬組成物」という用語は、有効成分の生物学的活性が効果的であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される被験体に対して許容できないほど有毒である追加の成分を含まない製剤を指す。このような製剤は無菌であり、エンドトキシンを本質的に含まないものであり得る。
【0074】
「医薬的に許容し得る担体」とは、被験体への投与のための「医薬組成物」を一緒に含む治療薬とともに使用するための当技術分野の、非毒性の固体、半固体、又は液体の充填剤、希釈剤、封入材料、配合補助剤、又は担体を指す。医薬的に許容し得る担体は、使用される用量及び濃度においてレシピエントに対して非毒性であり、製剤の他の成分と適合性がある。医薬的に許容し得る担体は、使用される製剤に適切である。
【0075】
「無菌」製剤は無菌であるか、又は生きた微生物とその胞子を本質的に含まないものである。
【0076】
1つ又はそれ以上のさらなる治療薬と「と一緒の」投与には、同時(同時)及び任意の順序の連続的又は逐次的投与が含まれる。
【0077】
「同時に」という用語は、本明細書では、2つ又はそれ以上の治療薬の投与を指すために使用され、ここで、投与の少なくとも一部は時間的に重複するか、又は一方の治療薬の投与が他方の治療薬の投与と比較して短期間内に収まる。例えば、2つ又はそれ以上の治療薬は、約60分以下、例えば約30、15、10、5、又は1分以下のいずれかの時間間隔で投与される。
【0078】
「逐次」という用語は、本明細書では、2つ以上の治療薬の投与を指すために使用されし、ここで、1つ又はそれ以上の他の薬剤の投与を中止した後、1つ又はそれ以上の薬剤の投与が継続する。例えば、2つ又はそれ以上の治療薬の投与は、約15分を超える時間間隔、例えば、約20、30、40、50、又は60分、1日、2日、3日、1週間、2週間、又は1か月のいずれかを超える時間間隔で投与される。
【0079】
本明細書で使用される「と共に」とは、別の治療様式に加えて、ある治療様式を実施することを指す。従って、「と共に」とは、個体への他の治療法の実施前、実施中、又は実施後の、ある治療法の実施を指す。
【0080】
「添付文書」という用語は、治療用製品の市販パッケージに慣例的に含まれる説明書を指すために使用され、そのような治療用製品の使用に関する適応症、用法、用量、投与、併用療法、禁忌、及び/又は警告に関する情報を含む。
【0081】
「製品」は、少なくとも1つの試薬、例えば、本明細書に記載の、疾患又は障害(例えば、癌)の治療用の薬剤、又はバイオマーカーを特異的に検出するためのプローブを含む任意の製造品(例えば、パッケージ又は容器)、又はキットである。特定の実施態様において、製造品又はキットは、本明細書に記載の方法を実施するためのユニットとして宣伝、配布、又は販売される。
【0082】
H-NOXタンパク質
H-NOXタンパク質ファミリーの概要
他に指示がない限り、任意の野生型又は変異体H-NOXタンパク質を、本明細書に記載の組成物、キット、及び方法において使用することができる。本明細書で使用される「H-NOXタンパク質」は、H-NOXドメイン(Heme-Nitric oxide and OXygen結合ドメインにちなんで命名)を有するタンパク質を意味する。H-NOXタンパク質は、H-NOXドメインに加えて1つ又はそれ以上の他のドメインを含むことも含まないこともある。H-NOXタンパク質は、高度に保存され、よく特徴付けられたヘムタンパク質ファミリーのメンバーである(Iyer, L. M. et al. (February 3, 2003). BMC Genomics 4(1):5; Karow, D. S. et al. (August 10, 2004). Biochemistry 43(31):10203-10211; Boon, E. M. et al. (2005). Nature Chem. Biol. 1:53-59; Boon, E. M. et al. (October 2005). Curr. Opin. Chem. Biol. 9(5):441-446; Boon, E. M. et al. (2005). J. Inorg. Biochem. 99(4):892-902)。H-NOXタンパク質は、Pfam07700タンパク質又はHNOBタンパク質とも呼ばれる(Pfam-タンパク質ドメインファミリー整列と隠れマルコフモデル(Hidden Markov Models)のデータベース、著作権(C)1996-2006 The Pfam Consortium; GNU LGPL Free Software Foundation, Inc., 59 Temple Place - Suite 330, Boston, MA 02111-1307, USA)。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、6つのアルファらせんの後に2つのベータ鎖、その後に1つのアルファらせん、その後に2つのベータ鎖を含む二次構造を有するか又は有すると予測されている。H-NOXタンパク質は、ヘムと結合することができるアポタンパク質、又はヘムが結合したホロタンパク質であり得る。H-NOXタンパク質は、ヘム基に共有結合又は非共有結合することができる。H-NOXタンパク質には、NOには結合するがOには結合しないものもあれば、NOとOの両方に結合するものもある。単離された通性好気性菌由来のH-NOXドメインは、NOには結合するがOには結合しない。偏性好気性原核生物であるC.エレガンス及びD.メンランガスターのH-NOXタンパク質は、NO及びOに結合する。哺乳動物は2つのH-NOXタンパク質(β1とβ2)を有する。マウス、ラット、ウシ、ヒトのH-NOX配列を整列させると、これらの種が99%超の同一性を共有していることがわかる。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質のH-NOXドメイン又はH-NOXタンパク質全体は、天然に存在するサーモアナエロバクター・テンコンジェンシスH-NOXタンパク質(例えば、配列番号2)又は天然に存在するsGCタンパク質(例えば、天然に存在するsGCβ1タンパク質)の対応する領域のものと、少なくとも約10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、95、97、98、99又は99.5%のいずれか同一である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質のH-NOXドメイン又はH-NOXタンパク質全体は、天然に存在するサーモアナエロバクター・テンコンジェンシスH-NOXタンパク質(例えば、配列番号2)又は天然に存在するsGCタンパク質(例えば、天然に存在するsGCβ1タンパク質)の対応する領域のものと、少なくとも約10~20%、20~30%、30ww40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~95%、95~99%、又は99~99.9%のいずれか同一である。本明細書でさらに議論されるように、H-NOXタンパク質は、対応する天然に存在するH-NOXタンパク質と比較して、任意選択的に1つ又はそれ以上の突然変異を含み得る。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、H-NOXドメインに加えて1つ又はそれ以上のドメインを含む。特定の実施態様において、H-NOXタンパク質は、1つ又はそれ以上のドメイン、又は別のタンパク質からの配列全体を含む。例えば、H-NOXタンパク質は、H-NOXドメインと、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)などの別のタンパク質の一部又は全部を含む融合タンパク質であり得る。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインのみが存在する。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質はグアニリルシクラーゼドメインを含まない。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質はタグ、例えばHisタグを含む。
【0083】
重合体型H-NOXタンパク質
いくつかの態様において、本開示は、2つ又はそれ以上のH-NOXドメインを含む重合体型H-NOXタンパク質を提供する。2つ又はそれ以上のH-NOXドメインは、共有結合又は非共有結合していてもよい。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、二量体、三量体、四量体、五量体、六量体、七量体、八量体、九量体、又は十量体の形態である。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は相同H-NOXドメインを含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、異種H-NOXドメインを含む。例えば、H-NOXドメインは、H-NOXドメインの特定の種のアミノ酸変異体を含んでもよく、又は異なる種に由来するH-NOXドメインを含んでもよい。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXドメインの少なくとも1つは、T.テンコンジェンシスH-NOXのL144F変異に対応する変異を含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質の少なくとも1つのH-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスH-NOXのW9F/L144F変異に対応する変異を含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、1つ又はそれ以上の重合ドメインを含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は三量体H-NOXタンパク質である。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、少なくとも1つの三量体化ドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXタンパク質は、3つのT.テンコンジェンシスH-NOXドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXドメインは、3つのT.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXドメインは、3つのT.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメインを含む。
【0084】
本開示のいくつかの態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、2つ又はそれ以上の会合した単量体を含む。単量体は共有結合していても非共有結合していてもよい。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質の単量体サブユニットが生成され、ここで、単量体サブユニットがインビトロ又はインビボで会合して重合体型H-NOXタンパク質を形成する。いくつかの実施態様において、単量体は、H-NOXドメイン及び重合ドメインを含む。いくつかの実施態様において、重合ドメインはH-NOXドメインに共有結合している。例えば、H-NOXドメインのC末端は、重合ドメインのN末端又はC末端に共有結合している。他の実施態様において、H-NOXドメインのN末端は、重合ドメインのN末端又はC末端に共有結合している。いくつかの実施態様において、アミノ酸スペーサーは、H-NOXドメインと重合ドメインとの間で共有結合している。「アミノ酸スペーサー」及び「アミノ酸リンカー」は、本明細書では互換的に使用される。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質の少なくとも1つの単量体サブユニットは、T.テンコンジェンシスH-NOXのL144F変異に対応する変異を含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質の少なくとも1つの単量体サブユニットは、T.テンコンジェンシスH-NOXのW9F/L144F変異に対応する変異を含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は三量体H-NOXタンパク質である。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXタンパク質の単量体は、T4バクテリオファージのH-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXタンパク質の単量体は、T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXタンパク質の単量体は、T.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXタンパク質の単量体は、T.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXタンパク質は3つの単量体を含み、各単量体はT.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、アミノ酸リンカー(例えば、Gly-Ser-Glyリンカー)を用いてフォルドンドメインに連結される。いくつかの実施態様において、少なくとも1つのH-NOXドメインはタグを含む。いくつかの実施態様において、少なくとも1つのH-NOXドメインはHisタグを含む。いくつかの実施態様において、Hisタグは、アミノ酸リンカー(例えば、Arg-Gly-Serリンカー)を用いてフォルドンドメインに連結される。いくつかの実施態様において、全てのH-NOXドメインはHisタグを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXタンパク質は、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号26、又は配列番号29に記載のアミノ酸配列を含む。
【0085】
T.テンコンジェンシス由来の例示的なH-NOXドメインは約26.7kDalである。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、約50kDal、75kDal、100kDal、125kDal、最大約150kDalのいずれよりも大きい原子質量を有する。
【0086】
H-NOXタンパク質とH-NOXドメインの供給源
任意の属又は種に由来するH-NOXタンパク質及びH-NOXドメインを、本明細書に記載の組成物、キット、及び方法に使用することができる。様々な実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインは、哺乳動物[例えば、霊長類(例えば、ヒト、サル、ゴリラ、類人猿、キツネザルなど)、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、若しくはネコ科の動物]、昆虫、酵母若しくは細菌由来のタンパク質又はドメイン、又はそのようなタンパク質に由来する。例示的な哺乳類H-NOXタンパク質には、野生型のヒト及びラットの可溶性グアニル酸シクラーゼ(β1サブユニットなど)が含まれる。H-NOXタンパク質の例には、野生型哺乳動物類H-NOXタンパク質[例えば、ホモ・サピエンス(H. sapiens)、ハツカネズミ(M. musculus)、イエイヌ(C. familiaris)、ウシ(B. Taurus)、オオカミ(C. lupus)、及びドブネズミ(R. norvegicus)]、及び野生型の非哺乳動物脊椎動物H-NOXタンパク質[例えば、アフリカツメガエル(X. laevis)、ミナミメダカ(O. latipes)、O.クリバトゥス(O. curivatus)、及びF.ルブリペス(F. rubripes)]が含まれる。非哺乳動物の野生型NO結合H-NOXタンパク質の例には、キイロショウジョウバエ、ガンビエハマダラカ(A. gambiae)、及びタバコスズメガ(M. sexta)の野生型H-NOXタンパク質が含まれる。非哺乳動物の野生型O結合H-NOXタンパク質の例には、エレガンス線虫gcy-31、gcy-32、gcy-33、gcy-34、gcy-35、gcy-36、及びgcy-37;キイロショウジョウバエ CG14885、CG14886、及びCG4154;及びタバコスズメガベータ-3の野生型H-NOXタンパク質が含まれる。原核生物の野生型H-NOXタンパク質の例には、T.テンコンジェンシス、V.コレラ(V. cholera)、V.フィシェリ(V. fischerii)、N.プンクチフォルメ(N. punctiforme)、D.デスルフリカンス(D. desulfuricans)、L.ニューモフィラ 1、L.ニューモフィラ 2、及び C.アセトブチリクム(C. acetobutylicum)のH-NOXタンパク質が含まれる。
【0087】
例示的H-NOXタンパク質のNCBI登録番号には以下が含まれる:ホモ・サピエンスβ1[gi:2746083]、ドブネズミβ1[gi:27127318]、キイロショウジョウバエβ1[gi:861203]、キイロショウジョウバエCG14885-PA[gi:23171476]、エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans)GCY-35[gi:52782806]、ノストック・プンクチフォルメ(Nostoc punctiforme)[gi:23129606]、カウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)[gi:16127222]、シュワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)[gi:24373702]、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)(ORF2)[CUCGC_272624]、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)[gi:15896488]、及びサーモアナエロバクター・テンコンジェンシス[gi:20807169]。タイリクオオカミ(Canis lupus)H-NOXは、GenBank受け入れDQ008576によって提供される。例示的なH-NOXタンパク質及びドメインの核酸配列及びアミノ酸配列が図37に提供される。
【0088】
例示的なH-NOXタンパク質にはまた、それらの遺伝子名、次にそれらの種の略語、及びGenbank識別子によって列挙される以下のH-NOXタンパク質も含まれる(例えば、2006年5月21日、2006年5月22日、2007年5月21日、2007年5月22日の時点で利用可能な以下のタンパク質配列など、それぞれその全体が参照により本明細書に組み込まれる):Npun5905_Npu_23129606、alr2278_Ana_17229770、SO2144_Sone_24373702、Mdeg1343_Mde_23027521、VCA0720_Vch_15601476,CC2992_Ccr_16127222、Rsph2043_Rhsp_22958463 (gi:46192757)、Mmc10739_Mcsp_22999020、Tar4_Tte_20807169,Ddes2822_Dde_23475919,CAC3243_Cac_15896488 ,gcy-31_Ce_17568389、CG14885_Dm_24647455,GUCY1B3_Hs_4504215、HpGCS-beta1_Hpul_14245738、Gycbeta100B_Dm_24651577、CG4154_Dm_24646993(gi:NP_650424.2、gi:62484298)、gcy-32_Ce_13539160,gcy-36_Ce_17568391(gi:32566352、gi:86564713)、gcy-35_Ce-17507861(gi:71990146)、gcy-37_Ce_17540904(gi:71985505)、GCY1a3_Hs_20535603、GCY1a2-Hs_899477、又はGYCa-99B_Dm_729270(gi:68067738)(Lakshminarayan et al. (2003). BMG Genomics 4:5-13)。これらの名前に使用される種の略語には、Ana-アナベナ属(Anabaena Sp)、Ccr-カウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)、Cac-クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、Dde-デスルホビブリオ・デスルフリカンス(Desulfovibrio desulfuricans)、Mcsp-マグネトコッカス属(Magnetococcus sp.)、Mde-ミクロブルビフェル・デグラダンス(Microbulbifer degradans)、Npu-ノストック・プンクチフォルメ(Nostoc punctiforme)、Rhsp-ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、Sone-シュワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)、Tte-サーモアナエロバクター・テンコンジェンシス(Thermoanaerobacter tengcongensis)、Vch-コレラ菌(Vibrio cholerae)、Ce-エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans)、Dm-キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、Hpul-バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)、Hs-ホモ・サピエンス(Homo sapiens)が含まれる。
【0089】
他の例示的なH-NOXタンパク質には、生物名及びPfamデータベース登録番号によって列挙される以下のH-NOXタンパク質が含まれる(例えば、2006年5月21日、2006年5月22日、2007年5月17日、2007年5月21日、又は2007年5月22日の時点で利用可能な以下のタンパク質配列など、それぞれその全体が参照により本明細書に組み込まれる):ブリグサ線虫(Caenorhabditis briggsae)Q622M5_CAEBR、ブリグサ線虫Q61P44_CAEBR、ブリグサ線虫Q61R54_CAEBR、ブリグサ線虫Q61V90_CAEBR、ブリグサ線虫Q61A94_CAEBR、ブリグサ線虫Q60TP4_CAEBR、ブリグサ線虫Q60M10_CAEBR、エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans)GCY37_CAEEL、エレガンス線虫GCY31_CAEEL、エレガンス線虫GCY36_CAEEL、エレガンス線虫GCY32_CAEEL、エレガンス線虫GCY35_CAEEL、エレガンス線虫GCY34_CAEEL、エレガンス線虫GCY33_CAEEL、ハイナンメダカ(Oryzias curvinotus)Q7T040_ORYCU、ハイナンメダカQ75WF0_ORYCU、ミナミメダカP79998_ORYLA、ミナミメダカQ7ZSZ5_ORYLA、ミドリフグ(Tetraodon nigroviridis)Q4SW38_TETNG、ミドリフグQ4RZ94_TETNG、ミドリフグQ4S6K5_TETNG、トラフグ(Fugu rubripes)Q90VY5_FUGRU、アフリカツメガエルQ6INK9_XENLA、ホモ・サピエンスQ5T8J7_HUMAN、ホモ・サピエンスGCYA2_HUMAN、ホモ・サピエンスGCYB2_HUMAN、ホモ・サピエンスGCYB1_HUMAN、ゴリラゴリラ(Gorilla gorilla)Q9N193_9PRIM、ポンゴ・ピグマアス(Pongo pygmaeus)Q5RAN8_PONPY、パン・トログロダイト(Pan troglodytes)Q9N192_PANTR、アカゲザル(Mus musculus)Q9N194_MACMU、シロテテナガザル(Hylobates lar)Q9N191_HYLLA、ハツカネズミQ8BXH3_MOUSE、ハツカネズミGCYB1_MOUSE、ハツカネズミQ3UTI4_MOUSE、ハツカネズミQ3UH83_MOUSE、ハツカネズミQ6XE41_MOUSE、ハツカネズミQ80YP4_MOUSE、ドブネズミQ80WX7_RAT、ドブネズミQ80WX8_RAT、ドブネズミQ920Q1_RAT、ドブネズミQ54A43_RAT、ドブネズミQ80WY0_RAT、ドブネズミQ80WY4_RAT、ドブネズミQ8CH85_RAT、ドブネズミQ80WY5_RAT、ドブネズミGCYB1_RAT、ドブネズミQ8CH90_RAT、ドブネズミQ91XJ7_RAT、ドブネズミQ80WX9_RAT、ドブネズミGCYB2_RAT、ドブネズミGCYA2_RAT、イエイヌ(Canis familiaris)Q4ZHR9_CANFA、ウシ(Bos taurus)GCYB1_BOVIN、イノシシ(Sus scrofa)Q4ZHR7_PIG、フタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)Q59HN5_GRYBI、タバコスズメガ(Manduca sexta )O77106_MANSE、タバコスズメガO76340_MANSE、セイヨウミツバチ(Apis mellifera)Q5UAF0_APIME、セイヨウミツバチQ5FAN0_APIME、セイヨウミツバチQ6L5L6_APIME、ガンビアハマダラカ(Anopheles gambiae)株PEST Q7PYK9_ANOGA、ガンビアハマダラカ株PEST Q7Q9W6_ANOGA、ガンビアハマダラカ株PEST Q7QF31_ANOGA、ガンビアハマダラカ株PEST Q7PS01_ANOGA、ガンビアハマダラカ株PEST Q7PFY2_ANOGA、ガンビアハマダラカQ7KQ93_ANOGA、キイロショウジョウバエQ24086_DROME、キイロショウジョウバエGCYH_DROME、キイロショウジョウバエGCY8E_DROME、キイロショウジョウバエGCYDA_DROME、キイロショウジョウバエGCYDB_DROME、キイロショウジョウバエQ9VA09_DROME、ウスグロショウジョウバエ(Drosophila pseudoobscura)Q29CE1_DROPS、ウスグロショウジョウバエQ296C7_DROPS、ウスグロショウジョウバエQ296C8_DROPS、ウスグロショウジョウバエQ29BU7_DROPS、ジャンボアメフラシ(Aplysia californica)Q7YWK7_APLCA、バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)Q95NK5_HEMPU、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)Q5YLC2_CHLRE、アナベナ属Q8YUQ7_ANASP、フラボバクテリウム科細菌(Flavobacteria bacterium)BBFL7 Q26GR8_9BACT、好冷性海洋細菌(Psychroflexus torquis)ATCC 700755 Q1VQE5_9FLAO、海洋性ガンマプロテオバクテリウム(marine gamma proteobacterium)HTCC2207 Q1YPJ5_9GAMM、海洋ガンマプロテオバクテリウムHTCC2207 Q1YTK4_9GAMM、カウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)Q9A451_CAUCR、アシジフィリウム・クリプタム(Acidiphilium cryptum)JF-5 Q2DG60_ACICY、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)Q3J0U9_RHOS4、シリシバクター・ポメロイ(Silicibacter pomeroyi)Q5LPV1_SILPO、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)PD1222、Q3PC67_PARDE、シリシバクター属TM1040 Q3QNY2_9RHOB、ヤナスキア属(Jannaschia sp)Q28ML8_JANSC、磁気球菌属(Magnetococcus sp)MC-1Q3XT27_9PROT、レジオネラ・ニューモフィラQ5WXP0_LEGPL、レジオネラ・ニューモフィラQ5WTZ5_LEGPL、レジオネラ・ニューモフィラQ5X268_LEGPA、レジオネラ・ニューモフィラQ5X2R2_LEGPA、レジオネラ・ニューモフィラ亜種ニューモフィラQ5ZWM9_LEGPH、レジオネラ・ニューモフィラ亜種ニューモフィラQ5ZSQ8_LEGPH、海洋性好冷性細菌(Colwellia psychrerythraea)Q47Y43_COLP3、シュードアルテロモナス・アトランティカ(Pseudoalteromonas atlantica)T6c Q3CSZ5_ALTAT、シュワネラ・オネイデンシスQ8EF49_SHEON、サッカロファガス・デグラダンス(Saccharophagus degradans)Q21E20_SACD2、サッカロファガス・デグラダンスQ21ER7_SACD2、ビブリオ・アングスタム(Vibrio angustum)S14 Q1ZWE5_9VIBR、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)Q8DAE2_VIBVU、ビブリオ・アルギノリティクス(Vibrio alginolyticus)12G01 Q1VCP6_VIBAL、ビブリオ属DAT722 Q2FA22_9VIBR、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)Q87NJ1_VIBPA、ビブリオ・フィシェリ(Vibrio fischeri)Q5E1F5_VIBF1、ビブリオ・バルニフィカスQ7MJS8_VIBVY、光細菌属SKA34 Q2C6Z5_9GAMM、ハヘラ・チェジュエンシス(Hahella chejuensis)Q2SFY7_HAHCH、オセアノスピリルム属(Oceanospirillum sp)MED92 Q2BKV0_9GAMM、オセアノバクター属(Oceanobacter sp)RED65 Q1N035_9GAMM、デスルフォビブリオ・デスルフリカンス(Desulfovibrio desulfuricans)Q310U7_DESDG、ハロサーモトリクス・オレニ(Halothermothrix orenii)H168 Q2AIW5_9FIRM、サーモアナエロバクター・テンコンゲンシスQ8RBX6_THETN、カルディセルロシルプトル・サッカロリティクス(Caldicellulosiruptor saccharolyticus)DSM 8903 Q2ZH17_CALSA、クロストリジウム・アセトブチリカムQ97E73_CLOAB、アルカリフィルス・メタリレディゲネス(Alkaliphilus metalliredigenes)QYMF Q3C763_9CLOT、破傷風菌(Clostridium tetani)Q899J9_CLOTE、及びクロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerincki)NCIMB 8052 Q2WVN0_CLOBE。これらの配列は、本明細書に記載のPfamデータベースを使用するH-NOXタンパク質ファミリーに属するものとしてのこれらのタンパク質の同定に基づいて、H-NOXタンパク質をコードすると予測される。
【0090】
本明細書に記載の医薬組成物及び方法での使用に適し得る追加のH-NOXタンパク質、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXドメイン、及び核酸は、標準的な方法を使用して同定することができる。例えば、標準的な配列整列及び/又は構造予測プログラムを使用して、予測されたタンパク質の一次構造及び二次構造と既知のH-NOXタンパク質及び核酸との類似性に基づいて、追加のH-NOXタンパク質及び核酸を同定することができる。例えば、Pfamデータベースは、定義された整列アルゴリズムと隠れマルコフモデル(Pfam21.0など)を使用して、タンパク質をH-NOXタンパク質ファミリーなどのファミリーに分類する(Pfam - A database of protein domain family alignments and Hidden Markov Models, 著作権 (C) 1996-2006 The Pfam Consortium; GNU LGPL Free Software Foundation, Inc., 59 Temple Place - Suite 330, Boston, MA 02111-1307, USA)。スイスプロット-tremblデータベース(ワールドワイドウェブ「expasy.org」、Swiss Institute of Bioinformatics Swiss-Prot group CMU - 1 rue Michel Servet CH-1211 Geneva 4, Switzerland)などの標準データベースも、H-NOXタンパク質ファミリーのメンバーの同定に使用することができる。H-NOXタンパク質の二次構造及び/又は三次構造は、PredictProtein(630 West, 168 Street, BB217, New York, N.Y. 10032, USA)などの標準構造予測プログラムのデフォルト設定を使用して予測することができる。あるいは、H-NOXタンパク質の実際の二次構造及び/又は三次構造は、標準的な方法を使用して決定することもできる。
【0091】
いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスH-NOXにおける以下の遠位ポケット残基のいずれかと対応する位置に同じアミノ酸を有する:Thr4、Ile5、Thr8、Trp9、Trp67、Asn74、Ile75、Phe78、Phe82、Tyr140、Leu144、又はこれらの2つ又はそれ以上の任意の組み合わせ。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、アミノ酸配列の配列整列に基づいて、それぞれT.テンコンジェンシスH-NOXのPro115又はArg135の位置に対応する位置に、プロリン又はアルギニンを有する。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、ドブネズミ β1 H-NOXのHis105に対応するヒスチジンを有する。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、6つのアルファらせん、続いて2つのベータ鎖、続いて1つのアルファらせん、続いて2つのベータ鎖を含む二次構造を有するか又は有すると予測される。この二次構造は、H-NOXタンパク質について報告されている。
【0092】
所望であれば、新たに同定されたH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインを試験して、標準的な方法を使用してヘムに結合するかどうかを決定することができる。H-NOXドメインがO担体として機能する能力は、本明細書に記載されるような標準的な方法を用いてH-NOXドメインがOに結合するかどうかを決定することによって試験することができる。所望であれば、本明細書に記載の変異のうちの1つ又はそれ以上をH-NOXドメインに導入して、O担体としての特性を最適化することができる。例えば、1つ又はそれ以上の突然変異を導入して、そのO解離定数、酸素のkoff、ヘムの自己酸化速度、NO反応性、NO安定性、又は上記の2つ又はそれ以上の任意の組み合わせを変更することができる。本明細書に記載されているような標準的な技術を使用して、これらのパラメータを測定することができる。
【0093】
変異体H-NOXタンパク質
本明細書でさらに議論されるように、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインは、対応する野生型タンパク質と比較して、1つ又はそれ以上の突然変異、例えば、O解離定数、酸素のkoff、ヘムの自己酸化速度、NO反応性、NO安定性、又は前述の2つ又はそれ以上の任意の組み合わせを変化させる突然変異を含み得る。いくつかの実施態様において、本開示は、対応する野生型タンパク質と比較して、1つ又はそれ以上の突然変異、例えば、O解離定数、酸素のkoff、ヘムの自己酸化速度、NO反応性、NO安定性、又は前述の2つ又はそれ以上の任意の組み合わせを変化させる突然変異などを含む1つ又はそれ以上のH-NOXドメインを含む重合体型H-NOXタンパク質を提供する。工学作成されたH-NOXドメインのパネルは、ランダム突然変異誘発と、それに続く必要な又は所望の解離定数、解離速度、NO反応性、安定性、物理的適合性、又は前述の2つ又はそれ以上の任意の組み合わせについて、本明細書に提供される教示の観点から、本明細書に記載の、及びさらには当業者に公知の技術を使用して、経験的スクリーニングを行うことによって生成され得る。あるいは、突然変異誘発は、H-NOXタンパク質の実験的に決定又は予測される三次元構造(例えば、特に野生型及び変異体H-NOXタンパク質の配列に関して、Boon, E. M. et al. (2005). Nature Chemical Biology 1:53-59を参照、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる)から、又は配列整列から同定される進化的に保存された残基から明らかな遠位ポケット残基などの特定の領域又は残基を選択的に標的とすることができる(例えば、特に野生型及び変異体H-NOXタンパク質の配列に関して、Boon, E. M. et al. (2005). Nature Chemical Biology 1:53-59を参照、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0094】
本開示のいくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質の変異体H-NOXタンパク質又は変異体H-NOXドメインは、天然に存在するすべてのH-NOXタンパク質又はドメインの配列とは異なる配列を有する。様々な実施態様において、変異体タンパク質のアミノ酸配列は、天然に存在するH-NOXタンパク質の対応する領域と、少なくとも約10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、95、97、98、99、又は99.5%のいずれかで同一である。様々な実施態様において、変異体タンパク質のアミノ酸配列は、天然に存在するH-NOXタンパク質の対応する領域と、約10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80%~約90%、90~95%、95~99%、又は99.5%同一である。いくつかの実施態様において、変異体タンパク質は、全長タンパク質からの少なくとも約25、50、75、100、150、200、300、又は400個の連続アミノ酸のいずれかを含むタンパク質断片である。いくつかの実施態様において、変異体タンパク質は、全長タンパク質からの25~50、50~75、75~100、100~150、150~200、200~300、又は300~400個の連続アミノ酸を含むタンパク質断片である。配列同一性は、例えば、その中で指定されたデフォルトパラメータを用いて配列解析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, WI 53705)を使用して測定することができる。このソフトウェアプログラムは、様々なアミノ酸の置換、欠失、その他の修飾に相同性の程度を割り当てることによって、類似した配列を照合する。
【0095】
本開示のいくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質の変異体H-NOXタンパク質又は変異体H-NOXドメインは、1つ又はそれ以上のアミノ酸の挿入(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のアミノ酸の挿入)を含む。本開示のいくつかの実施態様において、変異体H-NOXタンパク質又は変異体H-NOXドメインは、1つ又はそれ以上のアミノ酸の欠失(例えば、N末端、C末端、及び/又は内部残基、例えば、少なくとも約5、10、15、25、50、75、100、150、200、300個、若しくはそれ以上のアミノ酸のいずれかの欠失、又は5~10、10~15、15~25、25~50、50~75、75~100、100~150、150~200、200~300、又は300~400個のアミノ酸の欠失)を含む。本開示のいくつかの実施態様において、変異体H-NOXタンパク質又は変異体H-NOXドメインは、1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のアミノ酸の置換)、又は前述の2つ又はそれ以上の組み合わせを含む。いくつかの実施態様において、変異体タンパク質は、天然に存在するタンパク質と比較して、少なくとも1つのアミノ酸の改変を有する。いくつかの実施態様において、変異体核酸配列は、天然に存在するタンパク質と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変を有するタンパク質をコードする。いくつかの実施態様において、核酸は、天然に存在するタンパク質と同一のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、天然に存在する核酸の縮重バージョンではない。
【0096】
いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインにおける変異は、進化的に保存された変異(クラスI変異とも呼ばれる)である。クラスI変異の例を表1Aに示す。表1Aでは、変異はヒトβ1 H-NOXの配列に従って番号付け/注釈付けされているが、すべてのH-NOX配列について類似している。従って、任意の他のH-NOXタンパク質中の対応する位置は、指定された残基に変異する可能性がある。例えば、他のH-NOXタンパク質はこの位置にチロシンを有するため、ヒトβ1 H-NOXのPhe4はチロシンに変異する可能性がある。任意の他のH-NOXタンパク質では、対応するフェニルアラニン残基はチロシンに変異する可能性がある。特定の実施態様において、1つ又はそれ以上の変異は進化的に保存された残基に限定される。いくつかの実施態様において、1つ又はそれ以上の変異は、少なくとも1つの進化的に保存された変異及び少なくとも1つの非進化的に保存された変異を含み得る。所望であれば、これらの変異体H-NOXタンパク質は、本明細書で提供される教示を考慮して、NO/O解離定数、NO反応性、安定性、及び物理的適合性についての経験的スクリーニングに供される。
【表1A】
【0097】
いくつかの実施態様において、変異は、アルファらせんA、D、E、又はGにおける残基の変異などの遠位ポケット変異である(Pellicena, P. et al. (August 31, 2004). Proc Natl. Acad Sci USA 101(35):12854-12859)。例示的な遠位ポケット変異(クラスII変異とも呼ばれる)を表1Bに列挙する。表1Bでは、変異はヒトβ1 H-NOXの配列に従って番号付け/注釈付けされているが、すべてのH-NOX配列について類似している。いくつかの置換により、列挙された各残基に実行可能な変異がもたらされるため、示された各位置の残基を他の天然又は非天然アミノ酸(「X」で示される)に変更することができる。このような変異により、様々な望ましい親和性、安定性、及び反応性特性を備えたH-NOXタンパク質を生成することができる。
【表1B】
【0098】
特定の実施態様において、変異はヘム遠位ポケット変異である。本明細書に記載されるように、H-NOXファミリーのNO結合メンバーにおけるO結合を妨げる重要な分子決定因子は、ヘムの遠位ポケットにおけるH結合供与体の欠如である。従って、いくつかの実施態様において、変異は、遠位ポケット内のH-NOXドメインとリガンドとのH結合を変化させる。いくつかの実施態様において、変異は、遠位ポケットの水素結合ドナーを破壊し、及び/又は対応する野生型H-NOXドメインと比較して低下したOリガンド結合を与える。例示的な遠位ポケット残基には、T.テンコンジェンシスH-NOXのThr4、Ile5、Thr8、Trp9、Trp67、Asn74、Ile75、Phe78、Phe82、Tyr140、及びLeu144、及び任意の他のH-NOXタンパク質における対応する残基が含まれる。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインは、1つ又はそれ以上の遠位ポケット変異を含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10を超える遠位ポケット変異を含む。いくつかの実施態様において、遠位ポケット変異は、T.テンコンジェンシスH-NOXのL144F変異に対応する。いくつかの実施態様において、遠位ポケット変異は、T.テンコンジェンシスH-NOXのL144F変異である。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインは、2つの遠位ポケット変異を含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスH-NOXのW9F/L144F変異に対応する。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスH-NOXのW9F/L144F変異である。
【0099】
遠位ポケットにない残基もヘム基の三次元構造に影響を与える可能性がある。この構造は、次にヘム基の鉄へのO及びNOの結合に影響を与える。従って、いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインは、遠位ポケットの外側に1つ又はそれ以上の変異を有する。変異する可能性があるが遠位ポケットにはない残基の例には、T.テンコンジェンシスH-NOXのPro115及びArg135が含まれる。いくつかの実施態様において、変異は、ヘム鉄に連結する残基としてHis105を含む近位ポケット内にある。
【0100】
いくつかの実施態様において、2つ又はそれ以上の変異が存在する場合。少なくとも1つの変異は遠位ポケット内にあり、少なくとも1つの変異は遠位ポケットの外側にある(例えば、近位ポケット内の変異)。いくつかの実施態様において、すべての変異は遠位ポケット内にある。
【0101】
ヒト以外の起源に由来するH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインの免疫原性を低下させるために、H-NOXタンパク質又はH-NOXドメインのアミノ酸をヒトH-NOXの対応するアミノ酸に変異させることができる。例えば、非ヒトH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインの三次構造の表面上の1つ又はそれ以上のアミノ酸を、ヒトH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインの対応するアミノ酸に変異させることができる。いくつかの変更態様において、1つ又はそれ以上の表面アミノ酸の変異は、2つ又はそれ以上の遠位ポケット残基の変異、遠位ポケットの外側の1つ又はそれ以上の残基の変異(例えば、近位ポケットにおける変異)、又は上記のうち2つ又はそれ以上の組み合わせと組み合わされてもよい。
【0102】
本開示はまた、二重、三重、又はそれ以上の多重変異などの本明細書に記載される変異の任意の組み合わせにも関する。例えば、本明細書に記載の変異のいずれかの組み合わせを、同じH-NOXタンパク質内で作製することができる。本開示には、他の哺乳動物又は非哺乳動物のH-NOXタンパク質における同等の位置における変異も包含されることに留意されたい。例示的な変異体H-NOXタンパク質又は変異体H-NOXドメインは、対応する野生型H-NOXドメインと比較して改変されたO又はNOリガンド結合を付与し、生理学的に適合する哺乳動物のO血液ガス担体として機能する1つ又はそれ以上の変異を含む。
【0103】
変異の残基番号は、記載されている特定のH-NOXタンパク質の配列内の位置を示す。例えば、T.テンコンジェンシスI5Aは、T.テンコンジェンシスH-NOXの5番目の位置におけるイソロイシンのアラニンによる置換を指す。同じイソロイシンからアラニンへの変異は、任意の他のH-NOXタンパク質又はH-NOXドメインの対応する残基で作成することができる(この残基は、他のH-NOXタンパク質の配列の5番目の残基であってもそうでなくてもよい)。哺乳類のβ1 H-NOXドメインのアミノ酸配列の違いは最大2つのアミノ酸であるため、野生型ラットβ1 H-NOXタンパク質に導入された場合に望ましい変異体H-NOXタンパク質又はH-NOXドメインを生成する変異は、ヒトなどの他の哺乳動物由来の野生型β1 H-NOXタンパク質又はH-NOXドメインに導入された場合も、望ましい変異体H-NOXタンパク質又はH-NOXドメインを生成することが期待される。
【0104】
いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、3つのT.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及び3つのフォルドンドメインを含む三量体である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、3つのT.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメイン及び3つのフォルドンドメインを含む三量体である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、3つのT.テンコンジェンシス野生型H-NOXドメイン及び3つのフォルドンドメインを含む三量体である。
【0105】
H-NOXタンパク質の修飾
重合体型H-NOXタンパク質を含む野生型又は変異体H-NOXタンパク質はいずれも、標準的な方法を使用して修飾及び/又は製剤化して、治療又は産業への応用を強化することができる。例えば、特に異種の工学作成H-NOXタンパク質に適用される場合、かかる薬剤を免疫追跡から切り離すために、架橋、PEG化、炭水化物修飾などを含む様々な方法[例えば、 Rohlfs, R. J. et al. (May 15, 1998). J. Biol. Chem. 273(20):12128-12134; Migita, R. et al. (June 1997). J. Appl. Physiol. 82(6):1995-2002; Vandegriff, K. D. et al. (August 15, 2004). Biochem J. 382(Pt 1):183-189、これらはそれぞれ、特にタンパク質の修飾に関して、その全体が参照により本明細書に組み入れられる]、並びに当業者に公知の他の技術が当技術分野で知られている。重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質をヒト血清アルブミンなどのヒトタンパク質と融合させると、血清半減期、粘度、及びコロイド浸透圧を上昇させることができる。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、その免疫原性を減少させ、及び/又はその血漿保持時間を増加させるために、その合成中又は合成後に修飾される。H-NOXタンパク質はまたカプセル化することもできる(例えば、リポソーム又はナノ粒子内へのカプセル化)。
【0106】
いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、例えば、H-NOXタンパク質の精製を補助するために1つ又はそれ以上のタグを含む。タグの例には、限定されるものではないが、His、FLAG、GST、及びMBPが含まれる。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は1つ又はそれ以上のHisタグを含む。この1つ又はそれ以上のHisタグは、重合体型H-NOXタンパク質の使用前に、例えばエキソペプチダーゼで処理することにより除去することができる。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、3つのT.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン、3つのフォルドンドメイン、及び3つのHisタグを含む三量体である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、3つのT.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメイン、3つのフォルドンドメイン、及び3つのHisタグを含む三量体である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、3つのT.テンコンジェンシス野生型H-NOXドメイン、3つのフォルドンドメイン、及び3つのHisタグを含む三量体である。
【0107】
重合ドメイン
いくつかの態様において、本開示は、2つ又はそれ以上のH-NOXドメイン及び1つ又はそれ以上の重合ドメインを含む重合体型H-NOXタンパク質を提供する。重合ドメインは、2つ又はそれ以上のH-NOXドメインを連結して重合体型H-NOXタンパク質を形成するために使用される。1つ又はそれ以上の重合ドメインを使用して、H-NOXタンパク質の二量体、三量体、四量体、五量体などを生成することができる。重合ドメインは当技術分野で公知であり、例えば、T4バクテリオファージフィブリチンのフォルドン、Arc、POZ、コイルドコイルドメイン(GCN4、ロイシンジッパー、ベルクロを含む)、ウテログロビン、コラーゲン、3本鎖コイルドコイル(マトリリン-1)、トロンボスポンジン、TRPV1-C、P53、Mnt、アビジン、ストレプトアビジン、Bcr-Abl、COMP、ベロ毒素サブユニットB、CamKII、RCK、及びNエチルマレイミド感受性融合タンパク質由来のドメイン、STM3548、KaiC、TyrR、Hcp1、CcmK4、GP41、炭疽菌防御抗原、アエロリシン、α溶血素、C4b結合タンパク質、Mi-CK、アリールスルファターゼA、及びウイルスキャプシドタンパク質が知られている。重合ドメインは、H-NOXドメインに共有結合又は非共有結合していてもよい。いくつかの実施態様において、重合ドメインはH-NOXドメインに連結されて単量体サブユニットを形成し、こうして、複数の単量体サブユニットからの重合ドメインが会合して重合体型H-NOXドメインが形成される。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインのC末端は、重合ドメインのN末端に連結される。他の実施態様において、H-NOXドメインのN末端は、重合ドメインのN末端に連結される。さらに他の実施態様において、H-NOXドメインのC末端は、重合ドメインのC末端に連結される。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインのN末端は、重合ドメインのC末端に連結される。
【0108】
リンカー、例えばアミノ酸リンカーを使用して、重合ドメインをH-NOXドメインに結合させることができる。いくつかの実施態様において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10を超えるアミノ酸のいずれか1つを含むリンカーは、重合ドメインとH-NOXドメインとの間に配置され得る。リンカーの例には、限定されるものではないが、Gly-Ser-Gly及びArg-Gly-Serリンカーが含まれる。
【0109】
バクテリオファージT4フィブリチン三量体化ドメイン
例示的な重合ドメインは、バクテリオファージT4のフォルドンドメインである。バクテリオファージT4由来のwac遺伝子は、C末端三量体化ドメイン(残基457~483)を有する486アミノ酸のタンパク質であるフィブリチンタンパク質をコードする(Efimov, V. P. et al. (1994) J Mol Biol 242:470-486)。このドメインは、インビトロ及びインビボの両方でフィブリチンを三量体化することができる(Boudko, S. P. et al. (2002) Eur J Biochem 269:833-841; Letarov, A. V., et al., (1999) Biochemistry (Mosc)64:817-823; Tao, Y., et al., (1997) Structure 5:789-798)。単離された27残基の三量体化ドメインは「フォルドンドメイン」と呼ばれることが多く、多くの異なるタンパク質[HIVエンベロープ糖タンパク質(Yang, X. et al., (2002) J Virol 76:4634-4642)、アデノウイルスアドヘシン(Papanikolopoulou, K., et al., (2004) J Biol Chem 279:8991-8998; Papanikolopoulou, K. et al. (2004) J Mol Biol 342:219-227)、コラーゲン (Zhang, C., et al. (2009) Biotechnol Prog 25:1660-1668)、ファージP22gp26(Bhardwaj, A., et al. (2008) Protein Sci 17:1475-1485)、及び狂犬病ウイルス糖タンパク質(Sissoeff, L., et al. (2005) J Gen Virol 86:2543-2552]でキメラ三量体を構築するために使用されている。フォルドンドメインの例示的な配列は図1に示され、配列番号4に提供される。
【0110】
単離されたフォルドンドメインは折り畳まれて単一のβ-ヘアピン構造になり、三量体化して3つのヘアピンを含むβ-プロペラ構造になる(Guthe, S. et al. (2004) J Mol Biol 337:905-915)。フォルドンドメイン単独の構造はNMR(Guthe, S. et al. (2004) J Mol Biol 337:905-915)によって決定されており、フォルドンドメインで三量体化されたいくつかのタンパク質の構造がX線結晶学によって解明されている(Papanikolopoulou, K., et al., (2004) J Biol Chem 279:8991-8998; Stetefeld, J. et al. (2003) Structure 11:339-346; Yokoi, N. et al. (2010) Small 6:1873-1879)。ドメインは折り畳まれ及び三量体化されて、中間体又は経路外のオリゴマー化産物のミスフォールディングの機会を急速に減少させる(Guthe, S. et al. (2004) J Mol Biol 337:905-915)。フォルドンドメインは非常に安定であり、>10%SDS、6.0M塩酸グアニジン、又は80℃において三次構造及びオリゴマー化を維持することができ(Bhardwaj, A., et al. (2008) Protein Sci 17:1475-1485; Bhardwaj, A., et al. (2007) J Mol Biol 371:374-387)、及びフォルドンドメインに融合した配列の安定性を改善することができる(Du, C. et al. (2008) Appl Microbiol Biotechnol 79:195-202)。
【0111】
いくつかの実施態様において、H-NOXドメインのC末端はフォルドンドメインのN末端に連結される。他の実施態様において、H-NOXドメインのN末端はフォルドンドメインのN末端に連結される。さらに他の実施態様において、H-NOXドメインのC末端はフォルドンドメインのC末端に連結される。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインのN末端はフォルドンドメインのC末端に連結される。
【0112】
いくつかの実施態様において、リンカーは、フォルドンドメインをH-NOXドメインに結合させるために使用される。いくつかの実施態様において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10を超えるアミノ酸のいずれか1つを含むリンカーは、重合ドメインとH-NOXドメインとの間に配置され得る。リンカーの例には、限定されるものではないが、Gly-Ser-Gly及びArg-Gly-Serリンカーが含まれる。いくつかの実施態様において、本開示は、N末端からC末端へ以下を含む三量体H-NOXタンパク質を提供する:T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー、及びフォルドンドメイン。いくつかの実施態様において、本開示は、N末端からC末端へ以下を含む三量体H-NOXタンパク質を提供する:T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー、フォルドンドメイン、Arg-Gly-Serアミノ酸リンカー、及びHisタグ。いくつかの実施態様において、T.テンコンジェンシスH-NOXドメインはL144F変異を含む。いくつかの実施態様において、T.テンコンジェンシスH-NOXドメインは、W9F変異及びL144F変異を含む。いくつかの実施態様において、T.テンコンジェンシスH-NOXドメインは野生型H-NOXドメインである。
【0113】
単量体H-NOXドメインサブユニット
1つの態様において、本開示は、会合して重合体型H-NOXタンパク質を形成することができる組換え単量体H-NOXタンパク質(すなわち、重合体型H-NOXタンパク質の単量体H-NOXサブユニット)を提供する。いくつかの実施態様において、本開示は、本明細書に記載のH-NOXドメイン及び重合ドメインを含む組換えH-NOXタンパク質を提供する。H-NOXドメインと重合ドメインは共有結合していても非共有結合していてもよい。いくつかの実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質のH-NOXドメインのC末端は、重合ドメインのN末端に連結される。他の実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質のH-NOXドメインのN末端は、重合ドメインのN末端に連結される。さらに他の実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質のH-NOXドメインのC末端は、重合ドメインのC末端に連結される。いくつかの実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質のH-NOXドメインのN末端は、重合ドメインのC末端に連結される。いくつかの実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質は、グアニリルシクラーゼドメインを含まない。
【0114】
いくつかの実施態様において、単量体H-NOXタンパク質は野生型H-NOXドメインを含む。本開示のいくつかの実施態様において、単量体H-NOXタンパク質は、H-NOXドメインに1つ又はそれ以上の変異を含む。いくつかの実施態様において、1つ又はそれ以上の変異は、対応する野生型H-NOXドメインと比較して、O解離定数、酸素のkoff、ヘムの自己酸化速度、NO反応性、NO安定性、又はこれらの2つ又はそれ以上の任意の組み合わせを改変する。いくつかの実施態様において、変異は遠位ポケット変異である。いくつかの実施態様において、変異は遠位ポケット内にない変異を含む。いくつかの実施態様において、遠位ポケット変異は、T.テンコンジェンシスのL144変異(例えば、L144F変異)に対応する。いくつかの実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質は、T.テンコンジェンシスのW9及びL144変異(例えば、W9F/L144F変異)に対応する2つの遠位ポケット変異を含む。
【0115】
いくつかの態様において、本開示は、会合して三量体H-NOXタンパク質を形成する組換え単量体H-NOXタンパク質を提供する。いくつかの実施態様において、組換えH-NOXタンパク質は、H-NOXドメイン及び三量体化ドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体化ドメインは、本明細書で論じられるようなフォルドンドメインである。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスH-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、T.テンコンジェンシスH-NOXドメインのC末端は、フォルドンドメインのN末端に共有結合している。いくつかの実施態様において、T.テンコンジェンシスH-NOXドメインのC末端は、フォルドンドメインのC末端に共有結合している。いくつかの実施態様において、T.テンコンジェンシスドメインはL144F H-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、T.テンコンジェンシスドメインはW9F/L144F H-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、T.テンコンジェンシスドメインは野生型H-NOXドメインである。
【0116】
いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、アミノ酸リンカー配列を使用して重合ドメインに共有結合している。いくつかの実施態様において、アミノ酸リンカー配列は、長さが1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10を超えるアミノ酸である。例示的なアミノ酸リンカー配列には、限定されるものではないが、Gly-Ser-Gly配列及びArg-Gly-Ser配列が含まれる。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、3つのH-NOXドメイン及び3つの三量体化配列を含む三量体H-NOXタンパク質であり、ここで、H-NOXドメインは、アミノ酸リンカー配列を介して三量体化ドメインに共有結合している。いくつかの実施態様において、単量体H-NOXタンパク質は、N末端からC末端へ以下を含む:L144F T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、及びフォルドンドメイン。いくつかの実施態様において、単量体H-NOXタンパク質は、N末端からC末端へ以下を含む:W9F/L144F T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、及びフォルドンドメイン。いくつかの実施態様において、単量体H-NOXタンパク質は、N末端からC末端へ以下を含む:野生型T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、及びフォルドンドメイン。
【0117】
いくつかの実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質はタグ、例えば、His、FLAG、GST、又はMBPタグを含む。いくつかの実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質は、Hisタグを含む。いくつかの実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質はタグを含まない。いくつかの実施態様において、タグ(例えば、Hisタグ)は、アミノ酸スペーサー配列を使用して重合ドメインに共有結合している。いくつかの実施態様において、アミノ酸リンカー配列は、長さが1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10を超えるアミノ酸である。例示的なアミノ酸リンカー配列には、限定されるものではないが、Gly-Ser-Gly配列及びArg-Gly-Ser配列が含まれる。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、3つのH-NOXドメイン、3つの三量体化配列、及び3つのHisタグを含む三量体H-NOXタンパク質であり、ここで、H-NOXドメインは、アミノ酸リンカー配列を介して三量体化ドメインに共有結合しており、及び三量体化ドメインは、アミノ酸リンカー配列を介してHisタグに共有結合している。いくつかの実施態様において、単量体H-NOXタンパク質は、N末端からC末端へ以下を含む:L144F T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、フォルドンドメイン、Arg-Gly-Serリンカー配列、及びHisタグ。いくつかの実施態様において、単量体H-NOXタンパク質は、N末端からC末端へ以下を含む:W9F/L144F T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、フォルドンドメイン、Arg-Gly-Serリンカー配列、及びHisタグ。いくつかの実施態様において、単量体H-NOXタンパク質は、N末端からC末端へ以下を含む:野生型T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、フォルドンドメイン、Arg-Gly-Serリンカー配列、及びHisタグ。
【0118】
いくつかの実施態様において、組換え単量体H-NOXタンパク質は、配列番号6、配列番号8、配列番号10、又は配列番号12のアミノ酸配列を含む。
【0119】
野生型及び変異体H-NOXタンパク質の特徴
本明細書に記載されるように、重合体型H-NOXタンパク質を含み、いくつかの範囲のNO及びOの解離定数、Ooff、NO反応性、及び安定性を提供する多数の多様なH-NOX変異体タンパク質を作製されている。機能的な血液ガス担体を提供するために、H-NOXタンパク質を使用して、ヘモグロビンなどの内因性O担体を機能的に置き換えるか又は補足することができる。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質などのH-NOXタンパク質は、放射線療法又は化学療法の補助として低酸素腫瘍組織(例えば神経膠芽腫)にOを送達するために使用される。従って、いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、ヘモグロビンなどの内因性O担体と比較して、同様の又は改善されたO会合速度、O解離速度、O結合の解離定数、NO安定性、NO反応性、自己酸化速度、血漿保持時間、又は上記の2つ又はそれ以上の任意の組み合わせを有する。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は重合体型H-NOXタンパク質である。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質であり、各単量体は、T.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質であり、各単量体は、T.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質であり、各単量体は、T.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。
【0120】
様々な実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質のOのkoffは、20℃で約0.01~約200s-1、例えば約0.1~約200s-1、約0.1~100s-1、約1.0~約16.0s-1、約1.35~約23.4s-1、約1.34~約18s-1、約1.35~約14.5s-1、約0.21~約23.4s-1、約1.35~約2.9s-1、約2~約3s-1、約5~約15s-1、又は約0.1~約1s-1である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、20℃で約0.65s-1以下(例えば、20℃で約0.21s-1~約0.65s-1)の酸素のkoffを有する。
【0121】
様々な実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質のOのkonは、20℃で約0.14~約60μM-1-1、例えば、約6~約60μM-1-1、約6~12μM-1-1、約15~約60μM-1-1、約5~約18μM-1-1、又は約6~約15μM-1-1である。
【0122】
様々な実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質によるO結合の速度論的又は計算されたKは、約1nM~1mM、約1μM~約10μM、又は約10μM~約50μMである。いくつかの実施態様において、O結合の計算されたKは、20℃で約2nM~約2μM、約2μM~約1mM、約100nM~約1μM、約9μM~約50μM、約100μM~約1mM、約50nM~約10μM、約2nM~約50μM、約100nM~約1.9μM、約150nM~約1μM、又は約100nM~約255nM、約20nM~約2μM、20nM~約75nM、約1μM~約2μM、約2μM~約10μM、約2μM~約9μM、又は約100nM~500nMのいずれか1つである。いくつかの実施態様において、O結合の速度論的又は計算されたKは、20℃で約100nM、80nM、50nM、30nM、25nM、20nM、又は10nM未満のいずれかである。
【0123】
様々な実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質によるO結合の速度論的又は計算されたKは、同じ条件下(例えば20℃)でヘモグロビンの約0.01~約100倍以内、例えば同じ条件下(例えば20℃)でヘモグロビンの約0.1~約10倍又は約0.5~約2倍である。様々な実施態様において、H-NOXタンパク質によるNO結合の速度論的又は計算されたKは、同じ条件下(例えば20℃)でヘモグロビンの約0.01~約100倍以内、例えば同じ条件下(例えば20℃)でヘモグロビンの約0.1~約10倍又は約0.5~約2倍である。
【0124】
いくつかの実施態様において、20℃で約1、2、4、6、8、10、15、又は20時間のいずれかの時間インキュベーション後に、重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質の約50、40、30、10、又は5%未満のいずれかが酸化される。
【0125】
様々な実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質のNO反応性は、20℃で約700s-1未満、例えば、20℃で約600s-1、500s-1、400s-1、300s-1、200s-1、100s-1、75s-1、50s-1、25s-1、20s-1、10s-1、50s-1、3s-1、2s-1、1.8s-1、1.5s-1、1.2s-1、1.0s-1、0.8s-1、0.7s-1、又は0.6s-1未満である。様々な実施態様において、H-NOXタンパク質のNO反応性は、20℃で約0.1~約600s-1、例えば、20℃で約0.5~約400s-1、約0.5~約100s-1、約0.5~約50s-1、約0.5~約10s-1、約1~約5s-1、又は約0.5~約2.1s-1である。様々な実施態様において、H-NOXタンパク質の反応性は、例えば20℃の同じ条件下でヘモグロビンの反応性よりも、少なくとも約10、100、1,000、又は10,000倍低い。
【0126】
様々な実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質のヘムの自己酸化の速度は、37℃で約1.0h-1未満、例えば、37℃で約0.9h-1、0.8h-1、0.7h-1、0.6h-1、0.5h-1、0.4h-1、0.3h-1、0.2h-1、0.1h-1、又は0.05h-1未満のいずれかである。様々な実施態様において、H-NOXタンパク質のヘムの自己酸化の速度は、37℃で約0.006~約5.0h-1、例えば37℃で約0.006~約1.0h-1、0.006~約0.9h-1、又は約0.06~約0.5h-1である。
【0127】
様々な実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質を含む変異体H-NOXタンパク質は、(a)ヘモグロビンのそれの2桁以内の、O又はNO解離定数、会合速度(O又はNOのkon)、又は解離速度(O又はNOのkoff)、(b)それぞれ、sGC1のそれよりも弱いNO親和性(例えば、少なくとも約10倍、100倍、又は1000倍弱い)、(c)ヘモグロビンより少なくとも1000倍低い結合OとのNO反応性、(d)ヘモグロビンのそれより少なくとも2、10、100、又は1000倍大きいインビボ血漿保持時間、又は(e)前述の2つ又はそれ以上の任意の組み合わせ、を有する。
【0128】
例示的な適切なO担体は、ヘモグロビンの解離定数の2桁以内、すなわちヘモグロビンの約0.01~100倍、例えば約0.1~10倍、又は約0.5~2倍の解離定数を提供する。解離定数を定量するために、本明細書に記載の技術などの様々な確立された技術[Boon, E. M. et al. (2005). Nature Chem. Biol. 1:53-59; Boon, E. M. et al. (October 2005). Curr. Opin. Chem. Biol. 9(5):441-446; Boon, E. M. et al. (2005). J. Inorg. Biochem. 99(4):892-902), Vandegriff, K. D. et al. (August 15, 2004). Biochem J. 382(Pt 1):183-189, これらはそれぞれ、特に解離定数の測定に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる]、並びに当業者に知られている技術を使用することができる。例示的なO担体は、結合OとのH-NOXタンパク質の低い又は最小限のNO反応性、例えばヘモグロビンのNO反応性よりも低いNO反応性を提供する。いくつかの実施態様において、NO反応性は、ヘモグロビンのそれよりもはるかに低く、例えば、ヘモグロビンのそれよりも少なくとも約10、100、1,000、又は10,000倍低い。NO反応性を定量するために、確立された様々な技術[Boon, E. M. et al. (2005). Nature Chem. Biol. 1:53-59; Boon, E. M. et al. (October 2005). Curr. Opin. Chem. Biol. 9(5):441-446; Boon, E. M. et al. (2005). J. Inorg. Biochem. 99(4):892-902), Vandegriff, K. D. et al. (August 15, 2004). Biochem J. 382(Pt 1):183-189、これらはそれぞれ、特にNO反応性の測定に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる]、並びに当業者に知られている技術を使用することができる。野生型T.テンコンジェンシスH-NOXは非常に低いNO反応性を有するため、他の野生型H-NOXタンパク質及び変異体H-NOXタンパク質も同様に低いNO反応性を有する可能性がある。例えば、T.テンコンジェンシスH-NOX Y140Hは、野生型T.テンコンジェンシスH-NOXの反応性と同様のNO反応性を有する。
【0129】
さらに、適切なO担体は、高い安定性又は最大の安定性、特にインビボ安定性を提供する。酸化安定性(例えば、自己酸化又はNOによる酸化に対する安定性)、温度安定性、及びインビボ安定性などの様々な安定性測定基準を使用することができる。安定性を定量するために、本明細書に記載の技術などの様々な確立された技術(Boon, E. M. et al. (2005). Nature Chem. Biol. 1:53-59; Boon, E. M. et al. (October 2005). Curr. Opin. Chem. Biol. 9(5):441-446; Boon, E. M. et al. (2005). J. Inorg. Biochem. 99(4):892-902)、並びに当業者に知られている技術を使用することができる。血漿、血液、又は組織におけるインビボ安定性の場合、例示的な安定性測定基準には、保持時間、クリアランス速度、及び半減期が含まれる。好熱性生物由来のH-NOXタンパク質は、高温でも安定であると予測される。様々な実施態様において、血漿保持時間は、ヘモグロビンの保持時間より少なくとも約2倍、10倍、100倍、又は1000倍長い(例えば、Bobofchak, K. M. et al. (August 2003). Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 285(2):H549-H561)。当業者には理解されるように、ヘモグロビンベースの血液代替物は、血漿から無細胞ヘモグロビンを除去するヘモグロビンに対する受容体の存在のために、血漿からの無細胞ヘモグロビンの急速なクリアランスによって制限される。血漿中にはH-NOXタンパク質の受容体が存在しないため、野生の及び変異体H-NOXタンパク質はヘモグロビンよりも血漿保持時間が長いと予測される。所望であれば、血漿保持時間は、標準的な方法(例えば、本明細書に記載される方法及び当業者に知られている方法)を使用して、H-NOXタンパク質をPEG化若しくは架橋するか、又はH-NOXタンパク質を別のタンパク質と融合させることによって延長することができる。
【0130】
様々な実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質は、20℃で約1nM~約1mMのO解離定数を有し、例えば20℃の同じ条件下でヘモグロビンの反応性より少なくとも約10倍低いNO反応性を有する。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、20℃で約1nM~約1mMのO解離定数と、20℃で約700s-1未満(例えば、20℃で約600s-1、500s-1、100s-1、20s-1、又は1.8s-1 未満)のNO反応性を有する。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、ヘモグロビンの解離定数の2桁以内のO解離定数を有し、例えば20℃の同じ条件下でヘモグロビンよりも少なくとも約10倍低いNO反応性を有する。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、20℃で約0.01~約200s-1の酸素のkoffを有し、例えば20℃の同じ条件下で、ヘモグロビンの反応性よりも少なくとも約10倍低いNO反応性を有する。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、20℃で約0.65s-1未満(例えば、20℃で約0.21s-1~約0.64s-1)の酸素のkoffと、例えば20℃の同じ条件下でヘモグロビンの反応性よりも少なくとも約10倍低いNO反応性を有する。本開示のいくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質のO解離定数は、約1nM~約1μM(1000nM)、約1μM~約10μM、又は約10μM~約50μMである。特定の実施態様において、H-NOXタンパク質のO解離定数は、20℃で約2nM~約50μM、約50nM~約10μM、約100nM~約1.9μM、約150nM~約1μM、又は約100nM~約255nMである。様々な実施態様において、H-NOXタンパク質のO解離定数は、20℃で約80nM未満、例えば、20℃で約20nM~約75nMである。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質のNO反応性は、例えば20℃の同じ条件下で、ヘモグロビンの反応性より少なくとも約100倍又は約1,000倍低い。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質のNO反応性は、20℃で約700s-1未満、例えば約600s-1、500s-1、400s-1、300s-1、200s-1、100s-1、75s-1、50s-1、25s-1、20s-1、10s-1、50s-1、3s-1、2s-1、1.8s-1、1.5s-1、1.2s-1、1.0s-1、0.8s-1、0.7s-1、又は0.6s-1未満である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質の酸素のkoffは、20℃で0.01~200s-1、例えば約0.1~約200s-1、約0.1~100s-1、約1.35~約23.4s-1、約1.34~約18s-1、約1.35~約14.5s-1、約0.21~約23.4s-1、約2~約3s-1、約5~約15s-1、又は約0.1~約1s-1である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質のO解離定数は、20℃で約100nM~約1.9μMであり、H-NOXタンパク質の酸素のkoffは、20℃で 約1.35s-1~約14.5s-1である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質のヘムの自己酸化速度は、37℃で約1h-1未満、例えば約0.9h-1、0.8h-1、0.7h-1、0.6h-1、0.5h-1、0.4h-1、0.3h-1、0.2h-1、又は0.1h-1未満のいずれかである。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質の酸素のkoffは、20℃で約1.35s-1~約14.5s-1であり、H-NOXタンパク質のヘムの自己酸化速度は、37℃で約1h-1未満である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質の酸素のkoffは、20℃で約1.35s-1~約14.5s-1であり、H-NOXのNO反応性は、20℃で約700s-1未満(例えば、20℃で約600s-1、500s-1、100s-1、20s-1、又は1.8s-1未満)である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質のヘムの自己酸化速度は、37℃で約1h-1未満であり、H-NOXタンパク質のNO反応性は、20℃で約700s-1未満(例えば、20℃で約600s-1、500s-1、100s-1、20s-1、又は1.8s-1未満)である。
【0131】
いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質溶液を含むH-NOXタンパク質溶液の粘度は、1~4センチポアズ(cP)である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質溶液のコロイド浸透圧は、20~50mmHgである。
【0132】
及び/又はNO結合の測定
当業者は、当技術分野で知られている方法及び後述の非限定的な例示的な方法により、三量体H-NOXタンパク質などの重合体型H-NOXタンパク質を含む任意のH-NOXタンパク質の酸素及び一酸化窒素結合特性を容易に決定することができる。
【0133】
速度論的K:koffとkonの比
速度論的K値は、本質的にBoon, E.M. et al. (2005). Nature Chemical Biology 1:53-59(これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)によって記載されているように、ポリマーH-NOSタンパク質を含む野生型及び変異体H-NOXタンパク質について、特に自然ケミカルバイオロジーこの文献は、特にO会合速度、O解離速度、O結合の解離定数、自己酸化速度、NO解離速度の測定に関して、決定される。
【0134】
on(O会合速度)
ヘムへのO結合は、20℃でフラッシュ光分解を使用して測定される。非常に速い対再結合反応速度の結果として、FeII-O錯体をフラッシュオフすることは不可能である。従って、FeII-CO錯体は、560nmのレーザー光(Hewlett-Packard, Palo Alto, CA)を使用してフラッシュ光分解を受け、5配位のFeII中間体を生成し、ここへの分子Oの結合が様々な波長で追跡される。タンパク質試料は、10mM亜ジチオン酸で嫌気性還元し、続いてPD-10カラム(Millipore, Inc., Billerica, MA)で脱塩することによって作成される。次に試料を、100μL~1mLのサイズで光路長1cmの雰囲気制御された石英キュベット内で、50mMTEA、50mM NaCl、pH7.5の緩衝液で希釈して20μMヘムにする。このキュベットのヘッドスペースにCOガスを10分間流し、FeII-CO錯体を形成し、その形成は紫外可視分光法(ソレット最大423nm)によって確認される。次に、この試料を使用して、フラッシュ光分解後のCO再結合速度を1気圧のCOガス下で測定するか、又はフラッシュ光分解前に開封して空気中で30分間撹拌して緩衝液を完全に酸素化した後、O再結合イベントを観察する。Oヘムとの会合は複数の波長対時間で追跡される。これらのトレースは、IgorProソフトウェア(Wavemetrics, Inc., Oswego, OR; latest 2005 バージョン)を使用して単一の指数関数にフィッティングされる。この速度は観察波長には依存せず、O濃度に依存する。紫外可視分光法を全体を通して使用して、すべての錯体及び中間体を確認する(Cary 3K, Varian, Inc. Palo Alto, CA)。一過性吸収データは、Dmochowski, I. J. et al. (August 31, 2000), J Inorg Biochem. 81(3):221-228(これは、特に機器に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている機器を使用して収集される。この機器の応答時間は20nsで、データは200メガ試料s-1でデジタル化される。
【0135】
off(O解離速度)
offを測定するために、タンパク質のFeII-O錯体(5Mヘム)を嫌気性の50mMTEA、50mM NaCl、pH7.5の緩衝液で希釈し、様々な濃度の亜ジチオン酸塩及び/又は飽和COガスを含む同量の同じ緩衝液(嫌気性)と急速に混合する。データは、20℃に設定された Neslab RTE-100 恒温槽を備えたHI-TECH Scientific SF-61ストップフロー分光光度計(TGK Scientific LTD., Bradford On Avon, United Kingdom)で取得する。ヘムからのOの解離は、FeII-FeII-O差分スペクトルの最大値である437nm、又はFeII-FeII-COの差分スペクトルの最大値である425nmにおける吸光度の増加として追跡される。最終的なトレースは、機器の一部であるソフトウェアを使用して単一の指数関数にフィッティングされる。各実験は最低6回行われ、結果の速度が平均される。測定された解離速度は、10mM亜ジチオン酸塩が存在する場合と存在しない場合の両方で、亜ジチオン酸濃度には依存せず、還元種のトラップとしての飽和COにも依存しない。
【0136】
速度論的K
速度論的Kは、上述のkoff及びkonの測定値を使用して、koffとkonとの比を計算することによって決定される。
【0137】
計算されたK
計算されたKを測定するために、上記のように得られたkoff及び速度論的Kの値がグラフ化される。koffと速度論的Kとの線形関係は、方程式(y=mx+b)によって定義される。次に、koff値を線に沿って補間して、エクセル:MAC2004(Microsoft, Redmond, WA)を使用して計算されたKを得た。測定されるkonが存在しない場合、この補間はkoffをKに関連付ける方法を提供する。
【0138】
自己酸化速度
自己酸化速度を測定するために、タンパク質試料を嫌気的に還元し、好気性の50mMTEA、50mM NaCl、pH7.5の緩衝液で希釈して5μMヘムにする。次に、これらの試料を、37℃に設定されたNeslab RTE-100恒温槽を備えたCary3E分光光度計中でインキュベートし、定期的にスキャンする(Cary 3E, Varian, Inc., Palo Alto, CA)。自己酸化速度は、時間に対してプロットされたFeIII-FeII差分スペクトルの最大値と最小値の差から決定され、エクセル:MAC2004(Microsoft, Redmond, WA)を使用して単一の指数関数で近似される。
【0139】
NOとの反応速度
NO反応性は、緩衝液A中2μMで調製された精製タンパク質(H-NOX、ポリマーH-NOX、ホモサピエンスヘモグロビン(Hs Hb)など)と緩衝液A(緩衝液A:50mMヘペス、pH7.5、50mM NaCl)中200μMで調製されたNOを使用して測定される。データは、20℃に設定された Neslab RTE-100 恒温槽を備えたHI-TECH Scientific SF-61ストップフロー分光光度計(TGK Scientific LTD., Bradford On Avon, United Kingdom)で取得される。タンパク質は、0.00125秒の積分時間で1:1の比率でNOと急速に混合される。最大変化の波長は、分光計の一部であるソフトウェアを使用して単一の指数関数にフィッティングされ、基本的にNOによる酸化の律速段階を測定する。反応の最終生成物は、HNOXタンパク質の場合は第二鉄NO、Hs Hbの場合は第二鉄-アコ(aquo)である。
【0140】
p50測定値
所望であれば、変異体又は野生型H-NOXタンパク質のp50値を、Guarnone, R. et al. (September/October 1995). Haematologica 80(5):426-430(これは、特にp50値の測定に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように測定することができる。p50値は、HemOx分析装置を使用して測定される。測定チャンバーは酸素0%から開始し、酸素100%に向かって徐々に増加する。チャンバー内の酸素プローブは酸素飽和度%を測定する。第2のプローブ(紫外-可視光)は、ヘムタンパク質(例えば、ヘムと複合体を形成したH-NOXなどのタンパク質)の紫外-可視スペクトルのアルファピーク及びベータピークに調整された2つの吸収波長を測定する。これらの吸収ピークは、ヘムタンパク質が酸素と結合すると直線的に増加する。次に、非結合から100%結合への変化パーセントを酸素%値に対してプロットして、曲線を生成する。p50は、ヘムタンパク質の50%が酸素と結合する曲線上の点である。
【0141】
具体的には、Hemox-Analyzer(TCS Scientific Corporation, New Hope, PA)が、50μLの血液又はヘムタンパク質を増加する酸素分圧にさらし、これを窒素ガスで脱酸素することにより、オキシヘムタンパク質解離曲線(ODC)を決定する。Clark 酸素電極は酸素分圧の変化を検出し、x-yレコーダーのx軸上に記録される。結果として生じるオキシヘムタンパク質画分の増加は、560nmと576nmの二重波長分光測光法によって同時に追跡され、y軸上に表示される。血液試料は前内側静脈から採取され、ヘパリンで抗凝固処理され、アッセイするまで湿った氷上で4℃に保たれる。50μLの全血を5μLのHemox 溶液(溶液のpHを7.4±0.01の値に保つメーカー提供の緩衝液)で希釈する。試料-緩衝液は Hemox-Analyzer の一部であるキュベットに引き込まれ、混合物の温度は平衡化されて37℃になる。次に、試料は空気で100%酸素化される。pO値の調整後、試料は窒素で脱酸素される。脱酸素プロセス中に、曲線がグラフ用紙に記録される。P50値は、Hemox-Analyzer の一部であるソフトウェアを使用して、O飽和が50%になる点としてx軸上に外挿される。完全な記録に必要な時間は約30分である。
【0142】
H-NOX核酸
本開示はまた、本明細書に記載の変異体H-NOXタンパク質、ポリマーH-NOX、又は組換え単量体H-NOXタンパク質サブユニットのいずれかをコードする核酸を特徴とする。
【0143】
特定の実施態様において、核酸は、H-NOXタンパク質又はH-NOXドメインをコードする核酸のいずれかのセグメント又は全体の核酸配列を含む。いくつかの実施態様において、核酸は、H-NOX核酸からの少なくとも約50、100、150、200、300、400、500、600、700、800個、又はそれ以上の連続ヌクレオチドを含み、1つ又はそれ以上の変異(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の変異)を含む。様々な実施態様において、変異体H-NOX核酸は、それが由来するH-NOX核酸と比較して、約20、15、12、10、9、8、7、6、5、4、3、又は2個少ない変異を含む。本開示はまた、変異体H-NOXタンパク質をコードする任意の核酸の縮重変異体を特徴とする。
【0144】
いくつかの実施態様において、核酸は、2つ又はそれ以上のH-NOXドメインをコードする核酸を含む。いくつかの実施態様において、2つ又はそれ以上のH-NOXドメインを含む核酸は、重合体型H-NOXタンパク質が核酸から発現されるように連結される。さらなる実施態様において、核酸は、1つ又はそれ以上の重合ドメインをコードする核酸を含む。いくつかの実施態様において、2つ又はそれ以上のH-NOXドメイン及び1つ又はそれ以上の重合ドメインを含む核酸は、重合体型H-NOXタンパク質が核酸から発現されるように連結される。
【0145】
いくつかの実施態様において、核酸は、重合ドメインをコードする任意の核酸のセグメント又は核酸配列全体を含む。いくつかの実施態様において、核酸は、H-NOXドメイン及び重合ドメインをコードする核酸を含む。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインをコードする核酸及び重合ドメインをコードする核酸は、生成されるポリペプチドがH-NOXドメイン及び重合ドメインを含む融合タンパク質となるように連結される。
【0146】
いくつかの実施態様において、核酸は、1つ又はそれ以上のHisタグをコードする核酸を含む。いくつかの実施態様において、核酸は、H-NOXドメイン、重合ドメイン、及び/又はHisタグをコードする核酸の間に位置するリンカー配列をコードする核酸をさらに含む。
【0147】
いくつかの実施態様において、本開示は、H-NOXドメイン及びフォルドンドメインをコードする核酸を提供する。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスH-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは野生型T.テンコンジェンシスH-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメインである。
【0148】
いくつかの実施態様において、本開示は、以下の5’~3’をコードする核酸を提供する:L144F T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、及びフォルドンドメイン。いくつかの実施態様において、本開示は、以下の5’~3’をコードする核酸を提供する:W9F/L144F T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、及びフォルドンドメイン。いくつかの実施態様において、本開示は、以下の5’~3’をコードする核酸を提供する:野生型T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、及びフォルドンドメイン。
【0149】
いくつかの実施態様において、本開示は、以下の5’~3’をコードする核酸を提供する:L144F T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、フォルドンドメイン、Arg-Gly-Serリンカー配列、及びHisタグ。いくつかの実施態様において、本開示は、以下の5’~3’をコードする核酸を提供する:W9F/L144F T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、フォルドンドメイン、Arg-Gly-Serリンカー配列、及びHisタグ。いくつかの実施態様において、本開示は、以下の5’~3’をコードする核酸を提供する:野生型T.テンコンジェンシスH-NOXドメイン、Gly-Ser-Glyアミノ酸リンカー配列、フォルドンドメイン、Arg-Gly-Serリンカー配列、及びHisタグ。
【0150】
いくつかの実施態様において、核酸は、配列番号5、配列番号7、配列番号9、又は配列番号11に記載の核酸配列を含む。
【0151】
本開示はまた、本明細書に記載の変異体H-NOXタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸を含む細胞又は細胞集団を含む。例示的な細胞には、昆虫、植物、酵母、細菌、及び哺乳動物の細胞が含まれる。これらの細胞は、本明細書に記載されるような標準的な方法を使用する変異体H-NOXタンパク質の産生に有用である。
【0152】
いくつかの実施態様において、本開示は、H-NOXドメイン及びフォルドンドメインをコードする核酸を含む細胞を提供する。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスH-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは野生型T.テンコンジェンシスH-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、H-NOXドメインは、T.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメインである。いくつかの実施態様において、本開示は、配列番号5、配列番号7、配列番号9、又は配列番号11に記載の核酸配列を含む核酸を含む細胞を提供する。
【0153】
H-NOXタンパク質の製剤
本明細書に記載の任意の野生型又は変異体H-NOXタンパク質(重合体型H-NOXタンパク質を含む)は、医薬組成物又は非医薬組成物の製剤に使用され得る。いくつかの実施態様において、製剤は、単量体H-NOXタンパク質がインビトロ又はインビボで会合して重合体H-NOXタンパク質を生成するように、H-NOXドメイン及び重合ドメインを含む単量体H-NOXタンパク質を含む。以下でさらに説明するように、これらの製剤は様々な治療及び産業用途に有用である。
【0154】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は、重合体型H-NOXタンパク質を含む、本明細書に記載の1つ若しくはそれ以上の野生型又は変異体H-NOXタンパク質、及び医薬的に許容し得る担体又は賦形剤を含む。医薬的に許容し得る担体又は賦形剤の例には、限定されるものではないが、リン酸緩衝化生理食塩水、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、及び様々なタイプの湿潤剤などの標準的な医薬担体又は賦形剤のいずれかが含まれる。エアロゾル又は非経口投与のための例示的な希釈剤は、リン酸緩衝化生理食塩水又は通常(0.9%)の生理食塩水である。このような担体を含む組成物は、周知の従来の方法によって製剤化される(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, A. Gennaro, ed., Mack Publishing Co., Easton, PA, 1990; and Remington, The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. Mack Publishing, 2000を参照、これらはそれぞれ、特に製剤に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。いくつかの実施態様において、製剤は無菌である。いくつかの実施態様において、製剤は本質的にエンドトキシンを含まない。
【0155】
当業者に公知の任意の適切な担体を本開示の医薬組成物に使用することができるが、担体の種類は投与様式に応じて変化するであろう。組成物は、例えば、静脈内、動脈内、小胞内、吸入、腹腔内、肺内、筋肉内、皮下、気管内、経粘膜、眼内、くも膜下腔内、又は経皮投与を含む、任意の適切な投与方法用に製剤化することができる。皮下注射などの非経口投与の場合、担体には、例えば、水、生理食塩水、アルコール、脂肪、ワックス、又は緩衝液が含まれ得る。経口投与の場合、上記担体のいずれか、又は固体担体、例えばマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、又は炭酸マグネシウムを使用することができる。生分解性微小球(例えば、ポリ乳酸ポリグリコレート)も担体として使用することができる。
【0156】
いくつかの実施態様において、医薬組成物又は非医薬組成物には、緩衝液(例えば、中性緩衝化食塩水、リン酸緩衝化食塩水など)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロース、デキストランなど)、抗酸化剤、キレート剤(例えば、EDTA、グルタチオンなど)、保存剤、酸素の結合及び/又は輸送に有用な別の化合物、不活性成分(例えば、安定剤、充填剤など)、又は前述の2つ又はそれ以上の組み合わせが含まれる。いくつかの実施態様において、組成物は凍結乾燥物として製剤化される。H-NOXタンパク質はまた、周知の技術を使用してリポソーム又はナノ粒子内にカプセル化することもできる。H-NOXタンパク質に使用することができる他の例示的な配合物は、例えば、米国特許第6,974,795号及び6,432,918号に記載されており、これらはそれぞれ、特にタンパク質の製剤に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0157】
本明細書に記載の組成物は、徐放性製剤(例えば、投与後に化合物の徐放を生じるカプセル又はスポンジなどの製剤)の一部として投与することができる。このような製剤は一般に、周知の技術を使用して調製し、例えば、経口、直腸、又は皮下の移植によって、又は所望の標的部位への移植によって投与することができる。徐放性製剤は、担体マトリックス中に分散された、及び/又は速度制御膜で囲まれたリザーバー内に含まれたH-NOXタンパク質を含み得る。このような製剤内で使用される担体は生体適合性があり、また生分解性であってもよい。いくつかの実施態様において、製剤は、比較的一定のレベルのH-NOXタンパク質放出を提供する。徐放性製剤に含まれるH-NOXタンパク質の量は、移植部位、放出速度と予測される放出期間、治療又は予防される症状の性質によって異なる。
【0158】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は、有効量の野生型又は変異体H-NOXタンパク質を含む。いくつかの実施態様において、医薬組成物は、2つ又はそれ以上の野生型又は変異体H-NOXドメインを含む有効量の重合体型H-NOXタンパク質を含む。いくつかの実施態様において、医薬組成物は、本明細書に記載の野生型又は変異体H-NOXドメイン及び重合ドメインを含む有効量の組換え単量体H-NOXタンパク質を含む。いくつかの実施態様において、製剤は、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体はT.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、製剤は、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体は、T.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、製剤は、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体はT.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。
【0159】
血液代替物としてのヘモグロビンの例示的な用量は、患者の体重1キログラム当たり約10m~約5グラム以上の細胞外ヘモグロビンである。従って、いくつかの実施態様において、ヒトに投与するためのH-NOXタンパク質の有効量は、数グラムから約350グラムを超えるまでの間である。H-NOXタンパク質の他の例示的な用量には、適切な注入速度、例えば約0.5ml/分で、約4.4、5、10、又は13G/DL(ここで、G/DLは循環への注入前のH-NOXタンパク質溶液の濃度である)のいずれかを含む(例えば、Winslow, R. Chapter 12 In Blood Substitutes を参照)。必要な有効量は複数回の投与の組合わせ効果によって達成され得るため、各剤形の個々の用量に含まれる有効成分の単位含有量がそれ自体で有効量を構成する必要はないことが理解されるであろう。医薬組成物に含まれるH-NOXタンパク質の量の選択は、当業者の決定に従って、利用される剤形、治療される状態、及び達成される特定の目的に依存する。
【0160】
例示的な組成物には、遺伝的に工学作成された組換えH-NOXタンパク質が含まれ、これは、単離又は精製することができ、対応する野生型H-NOXタンパク質と比較して、改変されたO又はNOリガンド結合を集合的に付与し、生理学的に適合する哺乳動物の血液ガス担体として機能する、1つ又はそれ以上の突然変異を含む。例えば、本明細書に記載の変異体H-NOXタンパク質。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、重合体型H-NOXタンパク質である。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、本明細書に記載の野生型又は変異体H-NOXドメイン及び重合ドメインを含む組換え単量体H-NOXタンパク質である。いくつかの実施態様において、組成物は、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体はT.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、組成物は、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体は、T.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、組成物は、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体はT.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。
【0161】
医薬組成物を投与されたヒト被験体における免疫応答を軽減又は予防するために、ヒトH-NOXタンパク質若しくはドメイン(野生型ヒトタンパク質、又は1つ又はそれ以上の突然変異が導入されたヒトタンパク質のいずれか)、又は他の非抗原性H-NOXタンパク質又はドメイン(例えば、哺乳動物のH-NOXタンパク質)を使用することができる。ヒト以外の起源に由来するH-NOXタンパク質の免疫原性を軽減又は排除するために、H-NOXタンパク質又はH-NOXドメイン中のアミノ酸をヒトH-NOXの対応するアミノ酸に変異させることができる。例えば、非ヒトH-NOXタンパク質の三次構造の表面上の1つ又はそれ以上のアミノ酸を、ヒトH-NOXタンパク質の対応するアミノ酸に変異させることができる。
【0162】
H-NOXタンパク質の治療への応用
本明細書に記載の重合体型H-NOXタンパク質を含む野生型若しくは変異体H-NOXタンパク質、又は医薬組成物のいずれも、治療用途に使用することができる。
【0163】
重合体型H-NOXタンパク質を含む特定のH-NOXタンパク質は、所望のO会合速度、O解離速度、O結合の解離定数、NO安定性、NO反応性、自己酸化速度、血漿保持時間、又は治療される特定の症状に対する前述の2つ又はそれ以上の任意の組み合わせに基づいて、そのような用途のために選択することができる。
【0164】
細胞外H-NOXタンパク質の血管系における分布は赤血球のサイズによって制限されないため、本開示の重合体型H-NOXタンパク質を使用して、赤血球が通過できない領域にOを送達することができる。これらの領域には、赤血球の流れに対する障害の下流に位置する任意の組織領域、例えば、1つ又はそれ以上の血栓、鎌状赤血球閉塞、動脈閉塞、末梢血管閉塞、血管形成バルーン、手術器具、酸素欠乏又は低酸素状態を患っている組織の下流領域などが含まれる。さらに、H-NOXタンパク質を使用して、あらゆるタイプの組織虚血を治療することができる。このような組織虚血としては、例えば、周術期虚血、脳卒中、新興脳卒中、一過性虚血発作、心筋気絶及び休止状態、急性又は不安定狭心症、新興狭心症、及び心筋梗塞(例えば、ST上昇心筋梗塞)が含まれる。H-NOXタンパク質を使用して治療することができる他の例示的な心血管適応症には、心筋麻痺及び鎌状赤血球貧血が含まれる。例示的な標的適応症には、機能的ヘモグロビン欠乏症の状態、例えば、失血、低酸素症などを含む、血液代替物又はO担体が必要な場合などが含まれる。
【0165】
特定の態様において、本開示は、ドナーの脳死後の提供又はドナーの心臓死後の提供において臓器を保存するために、H-NOXタンパク質を使用してOを送達する方法を提供する。従って、臓器の保存は、死亡したドナーの原位置で直接、又は原位置外(例えば、必要に応じて背面のテーブル上)で行われる。本開示による組成物は、様々な移植臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、腸、角膜など)の採取を待っているドナーに直接灌流することができる。
【0166】
本開示によれば、臓器保存はドナーの死後に直接行うことができる。死亡したドナーは脳死状態又は心停止状態にある可能性がある。後者の場合、心拍のない臓器の調達が指示される。保存液はまた、静的保存剤として、又はポンプを介して流し続ける灌流型保存剤としても使用することができる。どちらの方法も使用されているか又は使用するために開発されており、H-NOXタンパク質はどちらの方法でも使用することができる。
【0167】
本明細書に記載の方法において、不可逆性昏睡又はステージIV昏睡としても知られる脳死は、血液循環が持続しているが、脳活動が完全かつ決定的に不可逆的に停止していると定義される。臓器の血行力学的活動や血管新生が一時的に持続しているにもかかわらず、脳が不可逆的に破壊されると、ドナーは脳死(brain death)又は脳死(encephalic death)の状態になる。
【0168】
本明細書に記載の方法において、心肺機能蘇生措置が中止された後にこの心停止が不可逆的である場合、ドナーは心停止している。心停止が不可逆的であるとみなされるまでの時間は、心肺機能蘇生措置が中止されてから約1分である。ただし、5分以上の時間が必要であると推奨されている。
【0169】
従って、本開示は、ドナーの脳死又は心臓死後に提供用臓器を保存する方法であって、少なくとも1つのH-NOXタンパク質、安定化溶液、及び/又は臓器保存溶液を含む組成物をドナーに投与することを含む方法を提供し、ここで、組成物は0℃~37℃の温度にある。
【0170】
本開示はまた、脳死後提供ドナー又は心臓死後提供ドナーにおいて臓器を原位置外で保存する方法を提供し、この方法は、a)本明細書に記載の組成物による前記死亡したドナーを灌流する工程、次にb)移植すべき臓器を採取する工程、次にc)工程b)で得られた前記臓器を、工程a)で規定された組成物又は水溶液中で、0℃~37℃の間の温度で、前記臓器に応じて所定の時間、静的又は動的灌流保存する工程を含む。
【0171】
本開示の方法では、臓器保存はまた、臓器がドナーから摘出された死後に行うこともできる。保存溶液はまた、静的保存剤として、又はポンプを介して流し続ける灌流型保存剤として使用することもできる。例として、いくつかの実施態様において、H-NOX生成物は、保管、輸送、及び最終的なレシピエントへの移植に備えてドナーから取り出されるときに、1つ又はそれ以上の臓器に投与することができる。他の実施態様において、H-NOX生成物は、結果として1つ又はそれ以上の臓器が低酸素損傷を受けている期間、ドナーから摘出された1つ又はそれ以上の臓器に投与することができる。
【0172】
1つの態様において、本開示は、臓器を原位置外で保存するための方法を提供し、この方法は、a)移植すべき臓器を採取する工程、次にb)工程a)で得られた前記臓器を、本明細書に記載の組成物又は水溶液中で、0℃~37℃の温度で、前記臓器に応じて所定の時間、静的又は動的灌流状態に維持する工程を含む。
【0173】
上述したように、本発明による組成物は、少なくとも1つのH-NOXタンパク質と、安定化溶液、及び/又は臓器保存溶液を含む。いくつかの実施態様において、臓器保存溶液は静的ベースの保存に使用するためのものである。他の実施態様において、臓器保存溶液は、灌流ベースの保存に使用するためのものである。灌流ポンプを使用する正常体温臓器の保存などの一部の用途では、溶液はH-NOXベースの生成物を補足した全血でもよい。これにより、H-NOX製品のより高いO親和性を利用して、O送達範囲を拡張することができる可能性があり、高度に低酸素の組織などで血液からのOが枯渇した場合でも、H-NOX生成物は依然としてOに結合しており、従って、Oを供給し続けるであろう。
【0174】
この溶液は、移植臓器を構成する細胞の基礎代謝を維持することを可能にする。これは、3つの目的を満たす:移植臓器から動脈血を洗浄すること、移植臓器を均一に所望の保存温度にすること、及び虚血と再灌流による損傷を防御及び予防し、そして機能の再開を最適化すること。従って、臓器保存液は臨床的に許容される。
【0175】
本明細書に記載される安定化溶液は、例えば、塩を含む水溶液であり得、6.5~7.6のpHを含む。少なくとも1つの実施態様において、溶液はナトリウムイオンを含む水溶液である。
【0176】
少なくとも1つの実施態様において、安定化溶液は、20mMのクエン酸ナトリウム、250mMのグルコース、10mMのグルタチオン、及び0.1%のポロキサマー188を含むpH6.8±0.2の水溶液である。
【0177】
臓器保存溶液は、6.5~7.5のpHを有する水溶液であり得、塩、好ましくは好ましくは塩化物、硫酸塩、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、及びカリウムイオン;糖類、好ましくはマンニトール、ラフィノース、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトビオネート(これは非透過性(imper-meant)である)、又はグルコン酸塩;抗酸化剤、好ましくはグルタチオン;活性剤、好ましくはキサンチンオキシダーゼ阻害剤、例えばアロプリノール、乳酸塩、アミノ酸、例えばヒスチジン、グルタミン酸(又はグルタミン酸塩)、又はトリプトファン;及び、任意選択的に、コロイド、例えばヒドロキシエチルデンプン、ポリエチレングリコール、又はデキストランを含む。
【0178】
本開示の1つの好適な実施態様によれば、臓器保存溶液は以下から選択される:
University of Wisconsin (UW又はViaspan(登録商標))溶液、これは、オスモル濃度320mOsmol/kg及びpH7.4を有し、水1リットル当たり以下の配合を有する:
ラクトビオン酸カリウム:100mM
KOH:100mM
NaOH:27mM
KHPO:25mM
MgSO:5mM
ラフィノース:30mM
アデノシン:5mM
グルタチオン:3mM
アロプリノール:1mM
ヒドロキシエチルデンプン:50g/1;
IGL-1(登録商標)、これは、オスモル濃度320mOsm/kg及びpH7.4を有し、水1リットル当たり以下の配合を有する:
塩化ナトリウム:125mM
KHPO:25mM
MgSO:5mM
ラフィノース:30mM
ラクトビオン酸カリウム:100mM
グルタチオン:3mM
アロプリノール:1mM
アデノシン:5mM
ポリエチレングリコール(分子量:35kDa):1g/l;
Celsior(登録商標)、これは、オスモル濃度320mOsm/kg及びpH7.3を有し、水1リットル当たり以下の配合を有する:
グルタチオン:3mM
マンニトール:60mM
ラクトビオン酸:80mM
グルタミン酸:20mM
NaOH:100mM
塩化カルシウム二水和物:0.25mM
MgSO:1.2mM
KC1:15mM
塩化マグネシウム六水和物:13mM
ヒスチジン:30mM;
Macopharma 製の SCOT 15 Multi Organes Abdominaux(登録商標)及び SCOT 30 Greffons Vasculaires(登録商標)、両方とも、特に高分子量(20kDa)ポリエチレングリコールを含む;BMPS Belzer(登録商標)又は Belzer 機械灌流溶液、又はKPS1、特に100mEq/lのナトリウム、25mEq/lのカリウムを含み、周囲温度でpH7.4であり、及びオスモル濃度300mOsm/lを有する;
Custodiol(登録商標)HTK溶液、これは水1リットル当たり以下の配合を有し、pHは周囲温度で7.20であり、オスモル濃度310mOsm/kgを有する:
NaCl:18.0mM
KC1:15.0mM
KHPO:9mM
水素化2-ケトグルタル酸カリウム:1.0mM塩化マグネシウム六水和物:4.0mMヒスチジン・HCl.HO:18.0mM
ヒスチジン:198.0mM
トリプトファン:2.0mM
マンニトール:30.0mM
塩化カルシウム二水和物:0.015mM;
Euro-Collins(登録商標)、これは、オスモル濃度355mOsm/kg及びpH7.0を有し、水1リットル当たり以下の配合を有する:
ナトリウム:10mM
カリウム:115mM
塩化物:15mM
PO :15mM
HPO 2-:42.5mM
HCO :10mM
グルコース:194mM;
Soltran(登録商標)、これは、オスモル濃度486mOsm/kg及びpH7.1を有し、水1リットル当たり以下の配合を有する:
ナトリウム:84mM
カリウム:80mM
マグネシウム:41mM
硫酸塩:41mM
マンニトール:33.8g/1
クエン酸塩:54mM
グルコース:194mM;
Perfadex(登録商標)、これは、オスモル濃度295mOsmo1/1を有し、水中で以下の配合を有する:50g/1の デキストラン40(分子量40,000):
Na:138mM、
:6mM、
Mg2+:0.8mM、
C1:142mM、
SO 2-:0.8mM、
(HPO -HPO 2-):0.8mM、及び
グルコース:5mM;
Ringer Lactate(登録商標))、これは、水中で以下の配合を有し、pHは周囲温度で6.0~7.5であり、オスモル濃度276.8mOsmo1/1を有する:
Na:130mM、
:5.4mM、
Ca2+:1.8mM、
C1:111mM、
乳酸塩:27.7mM;
Plegisol(登録商標)、これは、水中で以下の配合を有する:
KC1:1.193g/1、
MgCl・6HO:3.253g/l、
NaCl:6.43g/1、
CaCl:0.176g/l;
Edouard Henriot 病院の溶液、これは、水中で以下の配合を有し、pHは周囲温度で7.4に等しく、オスモル濃度320mOsmo1/1を有する:
KOH:25mM、
NaOH:125mM、
KHPO:25mM、
MgCl:5mM、
MgSO:5mM、
ラフィノース:30mM、
ラクトビオネート:100mM、
グルタチオン:3mM、
アロプリノール:1mM、
アデノシン:5mM、
ヒドロキシエチルデンプン:50g/1;
及び、Steen(登録商標)溶液、これは、ヒト血清アルブミン、デキストラン、及び低カリウム濃度の細胞外電解質を含む。これらの臓器保存液はいずれも市販品である。
【0179】
別の実施態様において、臓器保存溶液は、水中で次の配合を有するUniversity of Wisconsin の機械灌流溶液であり、水中で以下の配合を有する:
塩化カルシウム(無水物):0.5mM、
水酸化ナトリウム:18mM、
ヘペス(遊離酸):10mM、
リン酸カリウム(一塩基性):25mM、
マンニトール(USP):30mM、
ベータD(+)グルコース:10mM、
グルコン酸ナトリウム:80mM、
グルコン酸マグネシウムD(-)グルコン酸、ヘミマグネシウム塩:5mM、
リボース、D(-):5mM、
ヒドロキシエチルデンプン(HES):50g/l、
グルタチオン、還元型:3mM、
アデニン(遊離塩基):5mM。
【0180】
1つの好適な実施態様によれば、本開示による組成物の温度は、0℃~37℃、好ましくは2℃~32℃、好ましくは4℃~25℃、及びより好ましくは約4℃である。
【0181】
本開示による組成物は、低体温条件下及び正常温度条件(生理学的温度に近い)の両方で機能することを可能にする。
【0182】
追加の組成物も本明細書で企図される。1つの態様において、本開示は、6.5~7.6のpHを有する組成物に関し、この組成物は以下を含む:少なくとも1つのH-NOXタンパク質;カルシウムイオン、好ましくは0~0.5mMの量;KOH、好ましくは20~100mMの量;NaOH、好ましくは20~125mMの量;KHPO、好ましくは20~25mMの量;MgCl、好ましくは3~5mMの量;ラフィノース及びグルコースから選択される少なくとも1つの糖、好ましくは5~200mMの量;アデノシン、好ましくは3~5mMの量;グルタチオン、好ましくは2~4mMの量;アロプリノール、好ましくは0~1mMの量;及び、ヒドロキシエチルデンプン、様々な分子量のポリエチレングリコール、及びヒト血清アルブミンから選択される少なくとも1つの化合物、好ましくは1~50g/lの量。
【0183】
別の態様において、本開示は、6.5~7.6のpHを有する組成物に関し、この組成物は以下を含む:少なくとも1つのH-NOXタンパク質;カルシウムイオン、好ましくは0~0.5mMの量;NaOH、好ましくは15~30mMの量;ヘペス、好ましくは2~10mMの量;KHPO、好ましくは20~25mMの量;マンニトール、好ましくは20~35mMの量;グルコース、好ましくは3~10mMの量;グルコン酸ナトリウム、好ましくは50~100mMの量;グルコン酸マグネシウム、好ましくは1~5mMの量;リボース、好ましくは2~5mMの量;ヒドロキシエチルデンプン、様々な分子量のポリエチレングリコール、及びヒト血清アルブミンから選択される少なくとも1つの化合物、好ましくは1~50g/lの量;グルタチオン、好ましくは2~4mMの量;及びアデニン、好ましくは3~5mMの量。
【0184】
様々な実施態様において、本開示は、ドナーにOを送達するのに十分な量の重合体型H-NOXタンパク質を含む野生型又は変異体H-NOXタンパク質を、それを必要とするドナーに投与することにより、臓器ドナー[例えば、哺乳動物、例えば霊長類(例えば、ヒト、サル、ゴリラ、類人猿、キツネザルなど)、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、又はネコ]にOを送達する方法を特徴とする。いくつかの実施態様において、本開示は、哺乳動物などのドナーに血液ガスを運ぶ又は送達する方法を提供し、個体(例えば、哺乳動物)の血液に1つ又はそれ以上のH-NOX組成物を送達(例えば、輸血など)する工程を含む。O担体を血液又は組織(例えば、哺乳動物の血液又は組織)に送達するための方法は、当技術分野で知られている。様々な実施態様において、H-NOXタンパク質は、ヘムに結合することができるアポタンパク質、又はヘムが結合したホロタンパク質である。H-NOXタンパク質は、ドナーへのH-NOXタンパク質の投与前にヘム結合していてもしていなくてもよい。いくつかの実施態様において、Oは、ドナーに送達される前にH-NOXタンパク質に結合している。他の実施態様において、Oは、ドナーへのタンパク質の投与前にH-NOXタンパク質に結合しておらず、H-NOXタンパク質は、Oをドナーのある場所からドナー内の別の場所へ輸送する。
【0185】
に対する比較的低いK(例えば、約80nM未満又は約50nM未満)を有する、重合体型H-NOXタンパク質を含む野生型及び変異体H-NOXタンパク質は、酸素分圧が低い組織(例えば、腫瘍、一部の創傷、又は酸素分圧が非常に低い、例えばp50が1mmHg未満の他の領域)の治療に特に有用であると期待される。このようなH-NOXタンパク質のOに対する高い親和性により、OがH-NOXタンパク質に結合したままになる時間が長くなり、それによってH-NOXタンパク質が治療を受ける組織に到達する前に放出されるOの量が減少する可能性がある。
【0186】
が結合したH-NOXタンパク質を体内の特定の部位(例えば、移植部位に必要な臓器の部位)に直接送達するためのいくつかの実施態様において、Oはすでにタンパク質に結合しており(konの重要性が低くなる)、酸素は体内の特定の部位又はその近くで(koffの影響を受ける速度で)放出される必要があるため、OのkoffはKD値よりも重要である。いくつかの実施態様において、koffはまた、H-NOXタンパク質が循環中の赤血球の存在下にある場合にも重要である可能性があり、ここで、これらは赤血球からのOの拡散を促進し、おそらく、希釈された赤血球が血管系のさらなる点にOを輸送する能力を延長する。
【0187】
個体の血流中を循環するH-NOXタンパク質を送達するためのいくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は肺でOに結合し、体内の1つ又はそれ以上の他の部位でOを放出する。これらの適用の一部では、O結合が平衡又は平衡に近いため、K値はkoffよりも重要である。極端な血液希釈のためのいくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質が循環中を移動する際にOに結合し、継続的にOを放出するため、H-NOXタンパク質が主要なO担体である場合、Kはkoffよりも重要である。ヘモグロビンのp50は14mmHgであるため、赤血球(コンデンサーのように機能する)のp50は約30mmHgであり、HBOCは5mmHg~90mmHgの範囲で開発されているため、いくつかの用途について、H-NOXタンパク質の最適なK範囲は約2mmHg~約100mmHgである可能性がある。
【0188】
本開示の重合体型H-NOXタンパク質を含むH-NOXタンパク質及び医薬組成物は、任意の従来の手段、例えば経口、局所、眼内、くも膜下腔内、肺内、気管内、又はエアロゾル投与によって;経皮又は粘膜吸着によって;又は注射(例えば、皮下、静脈内、動脈内、小胞内、又は筋肉内注射)によって、個体に投与することができる。H-NOXタンパク質はまた、代用血液として使用するために、大量の非経口溶液に含まれる場合もある。例示的な実施態様において、H-NOXタンパク質は、個体の血液(例えば、静脈、動脈、又は毛細血管などの血管への投与)、創傷、腫瘍、低酸素組織、又は低酸素臓器に投与される。
【0189】
いくつかの実施態様において、組成物の徐放性連続放出製剤が使用される。H-NOXタンパク質の投与は、投与の目的に応じて、例えば数秒から数時間の期間にわたって行われ得る。例えば、血液送達ビヒクルとして、例示的な投与時間経過は、可能な限り迅速である。他の例示的な時間経過には、約10、20、30、40、60、90、又は120分のいずれかが含まれる。血液代替物としてのH-NOX溶液の例示的な注入速度は、約30mL/時間~約13,260mL/時間、例えば、約100mL/時間~約3,000mL/時間である。H-NOXタンパク質の例示的な総用量は、13,260mL/時間で20分間かけて約900mg/kgが投与される。ブタに対するH-NOXタンパク質の例示的な総用量は、約18.9グラムである。
【0190】
本開示による組成物は、好ましくは注射、特に血管内注射によって投与される。これはまた、正常体温体外膜酸素化(正常体温ECMO)によって、すなわち、動脈カテーテル、静脈カテーテル、及びフォガティカテーテルを用いて、又はドナーの全身冷却のための低体温体外膜酸素化(低体温ECMO)によって投与することもできる。これはまた、ダブルバルーントリプルルーメンカテーテル又は他の同様の技術を使用して投与することもできる。
【0191】
正常体温ECMO又は低体温ECMOシステムは、血液流体の体外循環のための技術である。
【0192】
ダブルバルーントリプルルーメンカテーテルでは、腹部臓器のその場での冷却が可能になる。特に、これは大腿動脈回路に埋め込むと、腎循環を隔離することが可能になる。本開示による組成物の迅速な灌流は、ダブルバルーントリプルルーメンカテーテルを通じて実行することができる。排出ルートは大腿静脈に埋め込まれ、灌流された液体組成物の排出が可能になる。
【0193】
例示的な投与頻度には、限定されるものではないが、週に少なくとも1、2、3、4、5、6、又は7回(すなわち、毎日)が含まれる。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、1日に少なくとも2、3、4、又は6回投与される。H-NOXタンパク質は、例えば、数日又は数週間の期間にわたって投与することができる。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質は、数ヶ月又は数年などのより長期間投与される。組成物の投与頻度は、投与する医師の判断に基づいて、治療の過程にわたって調整され得る。
【0194】
上述したように、H-NOXタンパク質の投与量の選択は、利用される剤形、投与の頻度及び回数、治療される状態、及び当業者の決定に従って達成される特定の目的に依存する。いくつかの実施態様において、ヒトに投与するためのH-NOXタンパク質の有効量は、数グラムから350グラムを超えるまでの間である。
【0195】
いくつかの実施態様において、2つ又はそれ以上の異なるH-NOXタンパク質が、同時に(simultaneously)、逐次的に、又は同時に(concurrently)投与される。いくつかの実施態様において、Oの送達に有用な別の化合物又は治療法は、1つ又はそれ以上のH-NOXタンパク質の投与と同時に、逐次的に、又は同時に施される。
【0196】
H-NOXタンパク質を使用することができる他の例示的な治療用途は、例えば、米国特許第6,974,795号及び6,432,918号に記載されており、これらはそれぞれ、特にO担体の治療用途に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0197】
H-NOXタンパク質を含むキット
また、重合体型H-NOXタンパク質を含む本明細書に記載のH-NOXタンパク質のいずれかを含む製品及びキット、及び適切なパッケージングも提供される。いくつかの実施態様において、本開示は、(i)H-NOXタンパク質(例えば、本明細書に記載の野生型若しくは変異体H-NOXタンパク質又は本明細書に記載のその製剤)、及び(ii)個体にOを送達するためのキットの使用説明書、を含むキットを含む。
【0198】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の方法で使用するためのキットが提供される。いくつかの実施態様において、キットは重合体型H-NOXタンパク質を含む。いくつかの実施態様において、キットは、2つ又はそれ以上の野生型又は変異体H-NOXドメインを含む有効量の重合体型H-NOXタンパク質を含む。いくつかの実施態様において、キットは、本明細書に記載の野生型又は変異体H-NOXドメイン及び重合ドメインを含む有効量の組換え単量体H-NOXタンパク質を含む。いくつかの実施態様において、キットは、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体は、T.テンコンジェンシスL144F H-NOX変異に対応する変異及び三量体化ドメインを含む。いくつかの実施態様において、キットは、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体は、T.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOX変異に対応する変異及び三量体化ドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXタンパク質はヒトH-NOXドメインを含む。いくつかの実施態様において、三量体H-NOXタンパク質はイヌH-NOXドメインを含む。いくつかの実施態様において、キットは、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体は、T.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、キットは、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体は、T.テンコンジェンシスW9F/L144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。いくつかの実施態様において、キットは、3つの単量体を含む三量体H-NOXタンパク質を含み、各単量体は、T.テンコンジェンシスL144F H-NOXドメイン及びフォルドンドメインを含む。
【0199】
本明細書に記載される組成物に適したパッケージングは当技術分野で知られており、例えば、バイアル(例えば、密封されたバイアル)、容器、アンプル、ボトル、ジャー、柔軟なパッケージング(例えば、密封されたマイラー又はプラスチックバッグ)などが含まれる。これらの製品はさらに滅菌及び/又は密封されてもよい。また、本明細書に記載の組成物を含む単位剤形も提供される。これらの単位剤形は、単一又は複数の単位剤形で適切なパッケージングで保存でき、さらに滅菌及び密封することもできる。本開示のキットに提供される説明書は、典型的には、ラベル又は添付文書(例えば、キットに含まれる紙シート)に書かれた説明書であるが、機械読み取り可能な説明書(例えば、磁気又は光学記憶ディスクに記録された説明書)もまた許容される。H-NOXタンパク質の使用に関する説明書には、通常、目的の治療又は産業上の用途のための用量、投与スケジュール、及び投与経路に関する情報が含まれている。キットはさらに、個体又は治療法を選択するための説明を含むこともある。
【0200】
容器は、単位用量、バルクパッケージ(例えば、複数回用量パッケージ)、又は部分単位用量であり得る。例えば、約1週間、2週間、3週間、4週間、6週間、8週間、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、又はそれ以上のいずれかの長期間、個体に効果的な治療を提供するのに十分な用量の本明細書に開示されるH-NOXタンパク質を含むキットも提供され得る。キットには、複数の単位用量のH-NOXタンパク質と使用説明書も含まれており、薬局(病院薬局や調剤薬局など)での保管及び使用に十分な量でパッケージ化されている。いくつかの実施態様において、キットは、一般にH-NOXタンパク質の安定な水性懸濁液を形成するために、復元、再懸濁、又は再水和することができる乾燥(例えば、凍結乾燥)組成物を含む。
【0201】
H-NOXタンパク質の例示的な製造方法
本開示はまた、本明細書に記載の重合体型H-NOXタンパク質のいずれかを生成するための方法を提供する。いくつかの実施態様において、この方法は、重合体型H-NOXタンパク質をコードする核酸を有する細胞を、重合体型H-NOXタンパク質の産生に適した条件下で培養することを含む。様々な実施態様において、ポリマーH-NOXも精製される(例えば、細胞又は培地からのH-NOXタンパク質の精製)。いくつかの実施態様において、この方法は、H-NOXドメイン及び重合ドメインを含む単量体H-NOXタンパク質をコードする核酸を有する細胞を培養することを含む。次に、単量体はインビボ又はインビトロで会合して、重合体型H-NOXタンパク質を形成する。異種H-NOXドメインを含む重合体型H-NOXタンパク質は、所望のH-NOXドメインを有する単量体H-NOXタンパク質をコードする2つ又はそれ以上の核酸を同時導入することによって生成することができ、ここで、2つ又はそれ以上の単量体H-NOXタンパク質は、同じ重合ドメインを含む。
【0202】
いくつかの実施態様において、異種H-NOXドメインを含む重合体型H-NOXタンパク質は、所望のH-NOXドメイン及び共通の重合ドメインを含む相同単量体H-NOXサブユニットを含む重合体型H-NOXタンパク質を別々に調製することによって調製される。様々な相同H-NOXタンパク質は所望の比率の異種H-NOXサブユニットと混合され、相同重合体型H-NOXタンパク質は(例えば、熱、変性剤、高塩などにより)解離され、その後会合されて異種重合体型H-NOXタンパク質が形成される。異種重合体型H-NOXタンパク質の混合物は、所望の比率の所望のサブユニットの存在について選択することによってさらに精製することができる。例えば、それぞれの異なるH-NOX単量体は、異種重合体型H-NOXタンパク質の精製と異種サブユニットの同定及び定量を補助するために別個のタグを有する場合がある。
【0203】
上で述べたように、いくつかの野生型H-NOXタンパク質及び核酸の配列は既知であり、本開示の変異体H-NOXドメイン及び核酸を生成するために使用することができる。組換えH-NOXタンパク質の突然変異、発現、及び精製のための技術は、例えば、Boon, E.M. et al. (2005). Nature Chemical Biology 1:53-59 and Karow, D. S. et al. (August 10, 2004). Biochemistry 43(31):10203-10211に記載されており、これは、特に組換えH-NOXタンパク質の突然変異、発現、及び精製に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。これらの技術又は他の標準的な技術を使用して、任意の変異体H-NOXタンパク質を生成することができる。
【0204】
特に、本明細書に記載の変異体H-NOXタンパク質は、当技術分野で知られている多くの方法で生成することができる。突然変異は、アミノ酸の化学修飾によるアミノ酸レベルで、又は特定のアミノ酸をコードするヌクレオチド配列の改変によるコドンレベルで発生する。タンパク質内の任意の位置でのアミノ酸の置換は、そのアミノ酸をコードするコドンを改変することによって実現することができる。これは、例えば:(i)Taylor, J.W. et al. (December 20, 1985). Nucleic Acids Res. 13(24):8749-8764; Taylor, J.W. et al. (December 20, 1985). Nucleic Acids Res. 13(24):8765-8785; Nakamaye, K. L. et al. (December 22, 1986). Nucleic Acids Res.14(24):9679-9698; and Dente et al. (1985). in DNA Cloning, Glover, Ed., IRL Press, pages 791-802の方法に基づく Amersham技術(Amersham 突然変異誘発キット, Amersham, Inc., Cleveland, Ohio)、(ii)Promegaキット(Promega Inc., Madison, Wis.)、又は(iii)Kunkel, T. A. (January 1985). Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(2):488-492; Kunkel, T. A. (1987). Methods Enzymol. 154:367-382; Kunkel, 米国特許第4,873,192号(これらは、それぞれ、特にタンパク質の突然変異誘発に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)の方法に基づく Bioradキット(Biorad Inc., Richmond, Calif.)を使用する部位特異的突然変異誘発によって達成することができる。突然変異誘発はまた、例えば、変異体オリゴヌクレオチドを用いる部位特異的突然変異誘発を利用するものなどの他の商業的に入手可能な手段又は非商業的手段によって達成することもできる。
【0205】
部位特異的突然変異誘発は、Zhengbin et al. (1992). pages 205-207 in PCR Methods and Applications, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York; Jones, D. H. et al. (February 1990). Biotechniques 8(2):178-183; Jones, D. H. et al. (January 1991). Biotechniques 10(1):62-66(これらは、それぞれ、特にタンパク質の突然変異誘発に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているようなPCRベースの突然変異誘発を使用して達成することもできる。部位特異的突然変異誘発は、当業者に知られている技術によるカセット突然変異誘発を使用して達成することもできる。
【0206】
変異体H-NOX核酸及び/又は重合ドメインは、標準的な技術を使用して、発現ベクターなどのベクターに組み込むことができる。例えば、制限酵素を使用して、変異型H-NOX核酸及びベクターを切断することができる。次に、切断された変異体H-NOX核酸と切断されたベクターの適合末端を連結することができる。得られたベクターは、コードされたH-NOXタンパク質を発現させるための標準技術(例えば、電気穿孔法)を使用して細胞(例えば、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、又は細菌細胞)に挿入することができる。
【0207】
特に、異種タンパク質は、多くの生物学的発現系、例えば昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、細菌細胞で発現されている。従って、任意の適切な生物学的タンパク質発現系を利用して、大量の組換えH-NOXタンパク質を産生することができる。いくつかの実施態様において、H-NOXタンパク質(例えば、変異体又は野生型H-NOXタンパク質)は、単離されたタンパク質である。
【0208】
所望であれば、H-NOXタンパク質は標準的な技術を使用して精製することができる。いくつかの実施態様において、タンパク質は少なくとも約60重量%が、タンパク質が生成されるときに存在する他の成分を含まない。様々な実施態様において、タンパク質は少なくとも約75%、90%、又は99重量%純粋である。精製タンパク質は、例えば、天然源、組換え発現系、又は化学合成のための反応混合物からの精製(例えば、抽出)によって得ることができる。例示的な精製方法には、免疫沈降、カラムクロマトグラフィー(例えば、免疫親和性クロマトグラフィー)、磁気ビーズ免疫親和性精製、及びプレート結合抗体を用いたパニング、並びに当業者に公知の他の技術が含まれる。純度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、又はHPLC分析によってアッセイすることができる。いくつかの実施態様において、精製タンパク質は、本開示の医薬組成物に組み込まれるか、又は本開示の方法で使用される。本開示の医薬組成物は、精製タンパク質に加えて、添加剤、担体、又は他の成分を有してもよい。
【0209】
いくつかの実施態様において、重合体型H-NOXタンパク質は、1つ又はそれ以上のHisタグを含む。少なくとも1つのHisタグを含むH-NOXタンパク質は、クロマトグラフィー、例えばNi2+親和性クロマトグラフィーを使用して精製することができる。精製後、Hisタグは、例えばエキソペプチダーゼを使用して除去することができる。いくつかの実施態様において、本開示は、重合体型H-NOXタンパク質がHisタグの使用を通じて精製された、精製重合体型H-NOXタンパク質を提供する。いくつかの実施態様において、精製H-NOXタンパク質はエキソペプチダーゼで処理されて、Hisタグが除去される。
【実施例
【0210】
実施例は、本開示内容の純粋に例示的なものであることを意図しており、従って、いかなる形でも本開示を限定するものとみなすべきではなく、また実施例は、上で論じた本開示の態様及び実施態様について説明及び詳述する。実施例は、以下の実験が実施されたすべての実験又は唯一の実験であることを示すことを意図したものではない。特に指示がない限り、温度は摂氏であり、圧力は大気圧又はほぼ大気圧である。
【0211】
実施例1.体外の臓器保存のサポートの改善
この実施例の目的は、本明細書に開示される方法を使用した場合の、臓器移植のための体外の臓器保存の改善を証明する臓器保存研究を説明することである。
【0212】
健康なミニブタから摘出した心臓、腎臓、及び/又は肝臓を洗い流して血液を除去し、標準治療のUniversity of Wisconsin(UW)冷蔵保存液単独で、又はOMX-4.80P(0.5~2mg/mlの濃度)を補足したUW液で灌流し、臓器を同じ溶液に摂氏4度で最大24時間浸す。臓器生検材料は一定間隔で採取される。例えば、時点のサブセットには、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、18時間、24時間が含まれる。臓器生検材料は、エネルギー及び代謝状態(例えば、ATPレベル、ミトコンドリア状態のEM評価、乳酸生成など)、酸化ストレスのマーカー(例えば、カタラーゼ、SOD、脂質過酸化-MDAなど)、組織の炎症と完全性のマーカー(例えば、組織の構成と構造に関するH&E染色、細胞死の存在、免疫浸潤、炎症マーカーの存在に対するIL6やTNFαなどのサイトカインの発現など)について分析される。
【0213】
標準治療用のUW冷蔵保存液のみに同じ時間曝露された臓器と比較して、OMX-4.80Pを補足した冷蔵保存溶液に曝露された臓器は、組織構造の崩壊と細胞死のレベルが低く、ATPレベルが高く、又はより高いエネルギー状態と好気性代謝速度とミトコンドリア機能の他の指標の存在、及びより低レベルの組織の炎症及び/又は酸化ストレスを示すことが予測される。
【0214】
実施例2.移植後の臓器の成績の改善と移植後の転帰の改善
この実施例の目的は、本明細書に開示される方法を使用した場合の、移植後の移植臓器の成績の改善、並びに移植後の患者転帰の改善を証明する臓器保存研究を説明することである。
【0215】
健康なミニブタから摘出した心臓、腎臓、及び/又は肝臓を洗い流して血液を除去し、標準治療のUniversity of Wisconsin(UW)冷蔵保存液単独で、又はOMX-4.80P(0.5~2mg/mlの濃度)を補足したUW液で灌流し、臓器を同じ溶液に摂4℃で4~24時間浸す。冷溶液単独又はOMX-4.80P補足冷溶液で体外保存後、臓器はレシピエント動物に移植される。両方の動物コホートは、臓器機能と動物の生存率について手術後最大7日間評価される。
【0216】
OMX-4.80P補足保存溶液中で保存された臓器のレシピエント動物は、循環器マーカー(例えば、肝臓のALT、AST、心臓のトロポニン2、腎臓の尿素、BUN)によって評価されるように、より良好な臓器機能、より低い炎症性サイトカインレベル(例えば、TNFα、IL6、γIFN)、及び終末剖検における組織学的評価(例えば、H&E染色など)によって評価されるように、より良好な組織完全性及び/又はより低い組織炎症を示すことが予測される。対照群の全体的生存率が低くても、OMX-4.80Pコホートではレシピエント動物の生存率の改善が見られることがある。
【0217】
実施例3.保存液へのOMXの添加は、機械灌流腎臓における低酸素依存性の機能不全及び病態生理学を軽減及び/又は遅延させる
この進行中の研究の目的は、OMX-4.80P医薬品(OMX)補足冷蔵保存溶液(CSS)が、灌流ポンプ上に置かれたヒトの死亡ドナー腎臓を、CSS単独よりも安全かつ効果的に保存することができるかどうかを、組織の質と機能の組織学的及び生化学的マーカーにより測定して評価することであった。現在までに、2つの対応対の腎臓(同じドナーからの遺伝的に同一の腎臓)が研究されており、各対について、一方の腎臓にはCSSのみを投与し、もう一方の腎臓にはCSS+OMXを投与した。機能的及び組織病理学的データは、CSS単独と比較して、OMXを補足したCSSが冷蔵保存中の腎機能の保存を改善するという仮説を裏付けている。この研究は進行中であり、追加のデータが入手でき次第、組み込まれるであろう。
【0218】
実験計画
実験計画を表2に示す。
【表2】
【0219】
材料
OMXは、ヘム一酸化窒素/酸素(H NOX)タンパク質ファミリーのメンバーに由来するペグ化酸素担体であり、正常酸素組織の酸素レベルを上昇させることなく、酸素を組織の低酸素(低酸素)領域に特異的に送達するように工学作成されている。この研究で使用されたOMX試験品は、大腸菌細胞培養と下流の精製及び処理を使用して調製されたバルク物質として生成され、水性緩衝液中で配合された。製品の品質と安全性は、動物試験で使用する前に、事前に定められた仕様に照らして試験することによって確認された。OMXは-80℃で冷凍保存され、使用前に解凍された。
【0220】
この研究のビヒクルは KPS-1 腎臓灌流溶液であり、これは、機械灌流用に配合されたUW CSSのバージョンであり、LifePort Kidney Transporter 灌流システムを使用して送達された。KPS-1 とLifePort Kidney Transporter は両方ともOrgan Recovery Systemsから得られる。試験品を室温で解凍し、次に2~8℃で遮光して保持した。試験品を冷CSSで目標濃度まで希釈し、使用するまで2~8℃で保存した。
【0221】
ビヒクル/試験品投与
本明細書に記載のデータを生成するために使用された臓器について、以下の手順が実行された。臓器が到着する直前に、ポンプを以下のように準備した。氷チャンバーは砕いた氷と水で満たされた。主臓器チャンバーは1LのCSS±OMXで満たされた。そして、溶液の循環を開始して気泡を除去した。1mLのCSS±OMX溶液を採取し、試験品製剤試料として凍結した(-50~-90℃)。
【0222】
臓器が到着して開梱した後、動脈と静脈を適切なカニューレに取り付け、主要臓器チャンバーラインに固定した。これが完了した後、CSSによる静圧灌流が開始され(時間0)、約10時間続行した。各臓器に継続的にポンプを作動させた。臓器チャンバーは生検材料採取のために断続的に開けられた。
【0223】
データ収集
収縮期及び拡張期の圧力(mmHg)、流量(mL/分)、抵抗(mmHg)、及び温度(℃)を含む灌流システムの測定値をT=0で記録し、最初の4時間は1時間ごとに、その後は6、8時、そして10時間目に記録した。灌流残留液を0、1、6、及び10時間目に収集し、6mmウェッジ生検材料をT=0の時点及びその後1時間ごとに採取した。
【0224】
灌流残留液を、臓器機能の生化学マーカーの将来の分析のために冷凍保存した(-50~-90℃)。より大きな生検材料をT=0、6時間、及び10時間目で採取し、分割し、半分は組織学用に固定し、残りの半分は、組織のOMXレベル又は臓器の品質と機能の他のバイオマーカーの潜在的な評価のために凍結した。
【0225】
組織病理学
固定生検材料を処理し、顕微鏡評価のために盲検化した。組織はパラフィン包埋され、薄片化され、ヘマトキシリンとエオシンで染色され、認定病理学者によって顕微鏡で検査された。各生検材料は、同種移植病理学のバンフ分類(Banff Classification of Allograft Pathology) [Roufosse et al, A 2018 Reference Guide to the Banff Classification of Renal Allograft Pathology(公表された修正は Transplantation. 2018 Dec;102(12):e497 に示されている). Transplantation. 2018;102(11):1795-1814]に基づいてスコア付けされた。
【0226】
結果
機能分析。プロトコールに従い、最初の1時間後に目標抵抗値0~0.4mmHg/mL/分を維持するように腎血流を調整した。流量の増加/抵抗の低下は、腎機能が良くなったことを示す。
【0227】
図1A及び1Cに示すように、ドナー1の両方の腎臓は、0.4mmHg/mL/分未満の抵抗を維持することができ、OMX処理した腎臓は、CSS単独の腎臓よりもわずかに高い流量に対する能力を早期に示した。ドナー2では、OMX処理腎臓のみが0.4mmHg/mL/分未満の抵抗を維持でき、CSS処理腎臓は研究全体を通じて>0.52の抵抗を維持した。OMX処理した腎臓の流量も実質的に高かった(図1B及び1D)。
【0228】
病理組織学的分析。各腎臓から様々な時点で採取された生検材料は、尿細管変性、尿細管壊死、アポトーシス、及び細胞骨格の乱れについて分析された。これらは、腎機能に対する低酸素症の影響の指標の一部である(Chevalier, R. L. The proximal tubule is the primary target of injury and progression of kidney disease: role of the glomerulotubular junction, Am J Physiol Renal Physiol. 2016 Jul 1; 311(1): F145-F161; Shu, S. et al, Hypoxia and Hypoxia-Inducible Factors in Kidney Injury and Repair, Cells. 2019 Mar; 8(3): 207)。
【0229】
図2A~2Fに示されるように、OMX処理された機械灌流腎臓は、CSS処理された腎臓と比較して、尿細管変性の減少、尿細管壊死レベルの低下、及びアポトーシスレベルの低下を示す。さらに、図3に示されるように、OMX処理された機械灌流腎臓は、CSS処理された腎臓と比較して、細胞骨格の乱れの減少及び/又は遅延を示す。
【0230】
従って、保存溶液にOMXを添加すると、機械灌流腎臓における低酸素依存性の機能不全及び病態生理が軽減及び/又は延期される可能性がある。
【0231】
OMX処理した腎臓は両方とも、目標とする抵抗を維持しながら、対応するCSS処理腎臓よりも高い腎血流速度を得ることができた。
【0232】
OMX処理した腎臓は両方とも、対応するCSS処理した腎臓と比較して、より低レベルの尿細管変性、壊死、及びアポトーシスを示した。
【0233】
OMX処理した腎臓は両方とも、対応するCSS処理した腎臓と比較して、より低レベルの細胞骨格の乱れを示し、細胞骨格の乱れが増加するまでの時間が遅れた。
【0234】
本開示は、特定の実施態様(そのうちのいくつかは好適な実施態様である)を参照して具体的に示し及び説明されてきたが、当業者であれば、本明細書に開示される本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、前記実施態様の形態及び詳細に様々な変更を加えることができることを理解するはずである。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
【国際調査報告】