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特表2024-532201鉄粒子の自燃のためのシステムおよびその方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】鉄粒子の自燃のためのシステムおよびその方法
(51)【国際特許分類】
   F23D 1/00 20060101AFI20240829BHJP
   F23D 17/00 20060101ALI20240829BHJP
   F23C 1/12 20060101ALI20240829BHJP
   F23C 10/10 20060101ALI20240829BHJP
   F23C 10/28 20060101ALI20240829BHJP
   F23L 1/00 20060101ALI20240829BHJP
   C10L 5/40 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
F23D1/00 Z
F23D17/00 103
F23C1/12
F23C10/10
F23C10/28
F23L1/00 E
C10L5/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510344
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 CA2022051307
(87)【国際公開番号】W WO2023028697
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/239,466
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510303442
【氏名又は名称】ザ ロイヤル インスティテューション フォー ザ アドバンスメント オブ ラーニング/マクギル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】バーグソーソン, ジェフリー マイルズ
(72)【発明者】
【氏名】ボーエン ブロネット, サムソン
(72)【発明者】
【氏名】アラロフ, マーティン
【テーマコード(参考)】
3K023
3K064
3K065
3K091
4H015
【Fターム(参考)】
3K023EA02
3K064AA20
3K064AD04
3K064AD05
3K064BB09
3K065QB09
3K065QB11
3K065QC03
3K091AA20
3K091BB25
3K091CC06
3K091CC12
3K091CC23
4H015AA26
4H015AB01
4H015BA04
4H015BB15
4H015CA03
4H015CB01
(57)【要約】
鉄粒子の連続燃焼システムが提供される。本システムは、その入口からその出口まで少なくとも3つの異なる通路を断面で画定している多環状燃焼管を備える。最も内側にある第1の管は、鉄粒子が浮遊している一次空気流を供給する第1の通路を画定する。第2の管は、二次空気流、パイロット可燃物流および火花発生器の発火点を提供する内側環状空間を画定する。第3の管は、第3の通路を画定し、スワール発生器を備え、三次空気流を供給する。これらの管は、多環状燃焼管内の所定の位置に入れ子になっている。本システムは、多環状燃焼管の出口における発散ノズルと;鉄粒子を燃焼させて酸化された鉄粒子を生成する乱流鉄火炎の生成および安定化のために、発散ノズルと流体連通している燃焼炉と;サイクロンとを備えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粒子の連続燃焼システムであって:
入口および出口を有し、前記入口から前記出口まで少なくとも3つの異なる通路を断面で画定している多環状燃焼管であり:
最も内側にあり、鉄粒子が浮遊している一次空気流を供給する第1の通路を画定する第1の管;
前記第1の管の外側にあり、前記第1の管と第2の管との間に画定された内側環状空間である第2の通路を画定し、前記内側環状空間が、二次空気流およびパイロット可燃物流を供給し、火花発生器の発火点をさらに備える、第2の管;ならびに
前記第2の管の外側に位置し、前記第2の管と第3の管との間に画定された外側環状空間である第3の通路を画定し、前記外側環状空間が、スワール発生器を備え、三次空気流を供給する、第3の管を備え;
前記第1の管、前記第2の管および前記第3の管は、前記多環状燃焼管内の所定の位置に入れ子になっている、多環状燃焼管と;
前記多環状燃焼管の前記出口にある発散ノズルと;
前記鉄粒子を燃焼させて酸化された鉄粒子を生成する乱流鉄火炎の生成および安定化のために、前記炉入口の反対側に、前記炉入口で前記発散ノズルと流体連通し、かつ水圧接続(hydraulically connect)された炉出口を含む、燃焼炉と;
サイクロン入口、ガス出口および粒子出口を有し、前記サイクロン入口が前記炉出口と流体連通している、サイクロンと
を備えるシステム。
【請求項2】
前記サイクロン入口に四次空気流を供給するエアギャップは、前記サイクロン入口と前記炉出口との間に画定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記燃焼炉内の噴射ポートを通る加圧空気流によって前記燃焼炉内に供給される四次流をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記多環状燃焼管は三重同心円管である、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記サイクロン分離器の下流に、前記サイクロン分離器から出る前記酸化された鉄粒子を捕捉するフィルタをさらに備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記サイクロン分離器の下流に、または前記サイクロン分離器に組み込まれた磁気分離器をさらに備える、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記サイクロン分離器に連結された温度制御システムをさらに備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
エネルギー発生装置をさらに備える、請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記エネルギー発生装置が、熱機関、スターリングエンジン、または蒸気機関から選択される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記内側環状空間は、フレームアレスタビーズをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
圧力が上昇した場合に圧力を解放するために、前記内側環状空間内に圧力弁をさらに備える、請求項1から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
金属燃料粉末サイロを備えた金属燃料貯蔵区画と、前記鉄粒子が浮遊している前記一次空気流を供給する、前記金属燃料粉末サイロに連結された圧縮空気システムとをさらに備える、請求項1から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
可燃物遮断弁をさらに備える、請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
輻射を反射し、前記燃焼炉を収容している筐体をさらに備える、請求項1から13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
鉄粒子を燃焼する方法であって:
発散ノズルを介して燃焼炉に、
前記鉄粒子が浮遊している一次空気流、
前記一次空気流から物理的に分離され、前記一次空気流を取り囲んでいる二次空気流、および
前記二次空気流から物理的に分離され、前記二次空気流を取り囲む、乱流スワール流である三次空気流
を含む多環状流を供給することと;
前記二次空気流およびパイロット火炎に点火するための火花とともに、パイロット可燃物流を供給することと;
前記パイロット火炎により乱流鉄火炎に点火することと;
前記乱流鉄火炎を安定させ、前記鉄粒子を前記燃焼炉の反応ゾーン内で燃焼させ、酸化された鉄粒子を含む空気流を発生させることであって、前記燃焼炉は、前記三次空気流によって生じ維持される、前記反応ゾーンを取り囲む再循環ゾーンを有する、ことと;
前記パイロット可燃物流を停止することと;
前記乱流鉄火炎を安定させることと;
前記空気流から前記酸化された鉄粒子をサイクロンで回収することと
を含む方法。
【請求項16】
前記サイクロンの上流に四次空気流を供給して温度を制御し、前記鉄粒子をさらに酸化することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記パイロット可燃物流は1分未満の間供給される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記酸化された鉄粒子を回収するステップは、前記サイクロンの壁の温度を制御することを含む、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記鉄粒子は、1から100μmの間のサイズを有する、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記酸化された鉄粒子は、少なくとも60重量%のマグネタイト(Fe)である、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記酸化された鉄粒子は、8μmより小さいサイズを有する粒子を1%未満含む、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月1日に出願された米国仮特許出願第63/239466号による優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に金属燃料燃焼の分野に関し、より具体的には、鉄粒子を用いて自立乱流鉄火炎を生成するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
化石燃料の供給は限られており、よりクリーンで持続可能性の高いエネルギー源への移行がすでに始まっている。エネルギー産業は、太陽光、風力、水力、およびその他の形態の再生可能エネルギーの成功を実証してきた。しかし、エネルギーの貯蔵および輸送のための再生可能な解決策は、依然として難題である。固体燃料としての金属が、石炭などの化石燃料の潜在的代替物として研究されてきた。適切な条件下で金属を燃焼させ、酸化させてそのエネルギーを放出することが可能である。実際、金属は一般に高いエネルギー密度を有し、石炭と比較してより密度が高く重い。あいにく、金属粒子(例えば、アルミニウムまたは鉄粒子)を固体燃料として利用する現在の試みは、規模拡大の限界および持続可能性の課題故に行き詰まっている。金属粒子燃焼の持続可能性の課題は、金属火炎を維持するために炭化水素燃料を継続的に供給する必要があることを一因としている。この問題は、メタンと、空気および酸素の混合物とを用いて点火するアルミニウム火炎について述べている中国特許第111853762号(以降、‘762)によって取り組まれた。‘762は、アルミニウム火炎を安定させる直径0.8mmの複数の微細穴を有するバーナーについて記述している。‘762は、メタンを連続的に添加することなく燃焼する安定した層状のアルミニウム火炎を得るために、フラットフレームバーナーを使用することを報告している。したがって、炭化水素を供給することなく安定した火炎が得られたものの、フラットフレームバーナーの拡張性は限られている。さらに、鉄を含む、アルミニウムの代替金属が’762に記載されているが、アルミニウム燃焼のみが例示されている。したがって、金属燃料炉の効率、持続可能性、および拡張性の改善が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、鉄粒子の連続燃焼システムであって:
入口および出口を有し、入口から出口まで少なくとも3つの異なる通路を断面で画定している多環状燃焼管であり:
最も内側にあり、鉄粒子が浮遊している一次空気流を供給する第1の通路を画定する第1の管;
第1の管の外側にあり、第1の管と第2の管との間に画定された内側環状空間である第2の通路を画定し、内側環状空間が、二次空気流およびパイロット可燃物流を供給し、火花発生器の発火点をさらに備える、第2の管;ならびに
第2の管の外側に位置し、第2の管と第3の管との間に画定された外側環状空間である第3の通路を画定し、外側環状空間が、スワール発生器を備え、三次空気流を供給する、第3の管を備え;
第1の管、第2の管および第3の管は、多環状燃焼管内の所定の位置に入れ子になっている、多環状燃焼管と;
多環状燃焼管の出口にある発散ノズルと;
鉄粒子を燃焼させて酸化された鉄粒子を生成する乱流鉄火炎の生成および安定化のために、炉入口の反対側に、炉入口で発散ノズルと流体連通し、かつ水圧接続(hydraulically connect)された炉出口を含む、燃焼炉と;
サイクロン入口、ガス出口および粒子出口を有し、サイクロン入口が炉出口と流体連通している、サイクロンと
を備えるシステムが提供される。
【0006】
いくつかの実施形態では、システムは、サイクロン入口と炉出口との間に画定される、サイクロン入口に四次空気流を供給するエアギャップをさらに備える。いくつかの実施形態では、システムは、燃焼炉内の噴射ポートを通る加圧空気流によって燃焼炉内に供給される四次流をさらに含む。さらなる実施形態では、多環状燃焼管は三重同心円管である。さらに別の実施形態では、本システムは、サイクロン分離器の下流に、サイクロン分離器から出る酸化された鉄粒子を捕捉するフィルタをさらに備える。さらに別の実施形態では、本システムは、サイクロン分離器の下流に、またはサイクロン分離器に組み込まれた磁気分離器をさらに備える。さらに別の実施形態では、本システムは、サイクロン分離器に連結された温度制御システムをさらに備える。追加の実施形態では、本システムは、エネルギー発生装置をさらに備える。さらなる追加の実施形態では、エネルギー発生装置は、熱機関、スターリングエンジン、または蒸気機関から選択される、さらなる追加の実施形態では、内側環状空間は、フレームアレスタビーズをさらに含む。さらに別の追加の実施形態では、本システムは、圧力が上昇した場合に圧力を解放するために、前記内側環状空間内に圧力弁をさらに備える。いくつかの実施形態では、本システムは、金属燃料粉末サイロを備えた金属燃料貯蔵区画と、鉄粒子が浮遊している一次空気流を供給する、金属燃料粉末サイロに連結された圧縮空気システムとをさらに備える。さらなる実施形態では、本システムは、可燃物遮断弁をさらに備える。さらに別の実施形態では、本システムは、輻射を反射し、燃焼炉を収容している筐体をさらに備える。
【0007】
さらなる態様では、鉄粒子を燃焼する方法であって:
発散ノズルを介して燃焼炉に、
鉄粒子が浮遊している一次空気流、
一次空気流から物理的に分離され、一次空気流を取り囲んでいる二次空気流、および
二次空気流から物理的に分離され、二次空気流を取り囲む、乱流スワール流である三次空気流
を含む多環状流を供給することと;
二次空気流およびパイロット火炎に点火するための火花とともに、パイロット可燃物流を供給することと;
パイロット火炎により乱流鉄火炎に点火することと;
乱流鉄火炎を安定させ、鉄粒子を燃焼炉の反応ゾーン内で燃焼させ、酸化された鉄粒子を含む空気流を発生させることであって、燃焼炉は、三次空気流によって生じ維持される、反応ゾーンを取り囲む再循環ゾーンを有する、ことと;
パイロット可燃物流を停止することと;
可燃物パイロット流なしで鉄-空気火炎を安定させることと;
空気流から酸化された鉄粒子をサイクロンで回収することと
を含む方法が提供される。
【0008】
いくつかの実施形態では、本方法は、サイクロンの上流に四次空気流を供給して温度を制御し、鉄粒子をさらに酸化することをさらに含む。さらなる実施形態では、パイロット可燃物流は1分未満の間供給される。さらに別の実施形態では、酸化された鉄粒子を回収するステップは、サイクロンの壁の温度を制御することを含む。さらに別の実施形態では、鉄粒子は、1から100μmの間のサイズを有する。追加の実施形態では、酸化された鉄粒子は、少なくとも60重量%のマグネタイト(Fe)である。さらなる追加の実施形態では、酸化された鉄粒子は、8μmより小さいサイズを有する粒子を1%未満含む。
【0009】
本発明の改善に関する多くのさらなる特徴およびそれらの組み合わせは、本開示を読めば当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態によるシステムの燃焼ゾーンの概略縦断面図である。
図2図1の実施形態による多環状管の線A-Aを横切る概略半径方向断面図である。
図3】本開示の一実施形態によるシステムの予備燃焼セクションの概略縦断面図である。
図4A】本開示の一実施形態によるスワール発生器の底板の概略斜視図である。
図4B】本開示の一実施形態によるスワール発生器の上板の概略斜視図である。
図4C図4Aの底板および図4Bの上板を有するスワール発生器の写真である。
図4D】本開示の一実施形態によるスワール発生器の写真である。
図5】本開示の一実施形態によるシステムの燃焼ゾーンの概略斜視縦断面図である。
図6A】本開示の一実施形態によるシステムのサイクロン入口ゾーンの概略断面図である。
図6B】本開示の一実施形態によるシステムのサイクロン入口ゾーンの概略断面図である。
図7】本開示の一実施形態によるシステムの燃焼ゾーンの概略縦断面図である。
図8】本開示の一実施形態によるサイクロンの概略縦断面図である。
図9】鉄粒子サイズの関数としての体積頻度(%)のグラフである(実線=Tata Steel Ltd製の鉄粒子、破線=生成された酸化された鉄粒子)。
図10】鉄粒子サイズの関数としての体積頻度(%)を示すグラフである(実線=TLS Technik Spezialpulver Gmbh(商標)製の鉄粒子、破線=生成された酸化された鉄粒子)。
図11】鉄粒子の走査型電子顕微鏡画像である。燃焼前のTata Steel Ltd製の鉄粒子の走査型電子顕微鏡画像(図11A及びB)。燃焼後、すなわち酸化されたTata Steel Ltd製の鉄粒子の走査型電子顕微鏡画像(図11C及びD)。
図12】鉄粒子の走査型電子顕微鏡画像である。燃焼前のTLS Technik Spezialpulver Gmbh(商標)製の鉄粒子の走査型電子顕微鏡画像(図12A)。燃焼後、すなわち酸化されたTLS Technik Spezialpulver Gmbh(商標)製の鉄粒子の走査型電子顕微鏡画像(図12B)。
図13】BASF SE製の鉄粒子を層流火炎中で酸化することにより得られた比較用の走査型電子顕微鏡写真である。
図14】乱流鉄火炎から水が得た熱量(kW)を、温水の流量(gpm)の関数として示すグラフである。
図15】一連の測定(データセット)に対する乱流鉄火炎温度(K単位)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
火炎に点火する以外に可燃物(例えば炭化水素燃料)を加えることなく、自立乱流鉄火炎を得ることができる、鉄粒子を燃料とする連続燃焼システムが提供される。鉄の燃焼は、他の燃料と同様に、熱を発生させ、その熱を取り込んで電気もしくは温水を生成したり、またはそのまま利用することができる。燃料源としての鉄は、鉄が無毒で、爆発性がなく、輸送および貯蔵が安全であるため有利である。大気へのCOの排出が大きく懸念される化石燃料および石炭と対照的に、鉄の燃焼ではCOおよびCOのような炭素汚染物質が発生しない。したがって、持続可能な事実上カーボンフリーの電力システムが実現する。さらに、他の燃料源とは異なり、鉄バーナーの排ガスは、得られる生成物には酸化鉄ナノ粒子、CO、および窒素酸化物(NO:NOおよびNO)種の含有量がごくわずかであるため、大きな環境問題の懸念なしに大気中に放出することができる。利用可能な鉄の量には限りがあるが、鉄は、有利なことにリサイクルおよび再利用することが可能な豊富な元素である。したがって、酸化鉄粒子が還元(リサイクル)されて元の酸化されていない形態に戻すことができるように酸化された鉄粒子を捕捉することによって、本発明のシステムおよび方法の持続可能性がさらに支持される。97%超、いくつかの実施形態では99%超の酸化鉄粒子の高い回収効率または捕捉効率が達成される。この回収はサイクロンにより行われるため、これによってフィルタ、湿式スクラバなどの消耗品が不要になり得る。クリーンな一次エネルギーを使用して燃焼した鉄粉をリサイクルすることにより、大気中にCOが取り込まれないリサイクル可能な燃料の連続サイクルを実施し、他の持続可能でない燃料を置き換えることができる。
【0012】
本明細書で使用する「鉄粒子」という用語は、鉄のミクロンサイズの粒子、例えば鉄粉を意味する。いくつかの実施形態では、鉄粒子は、1μmから500μmの間、1μmから200μmの間、1μmから100μmの間、10μmから100μmの間、20μmから100μmの間、10μmから50μmの間、または20μmから50μmの間の直径を有する。本開示の鉄粒子の利点は、均一な粒子分布を有する必要がないことである。
【0013】
鉄粒子の燃焼の文脈における「燃焼」、「燃焼する」、「燃焼された」などの用語は、乱流鉄火炎において鉄が受ける酸化反応を意味する。本明細書で使用される「乱流鉄火炎」という表現は、乱流の流れプロファイルにおける鉄粒子の燃焼によって持続する火炎を意味する。したがって、乱流鉄火炎は、一般に一定の円錐形状を特徴とする層流火炎とは対照的に、一定の形状も一定のサイズも有していない。
【0014】
乱流鉄火炎の文脈における「安定させる」、「安定化」、「持続した」、「自立型」などの用語は、炭化水素などの可燃物のような外部刺激を加えなくても、乱流鉄火炎が燃焼し、鉄粒子を燃焼することにより燃焼し続けることができることを意味する。
【0015】
沸点を超える火炎温度で燃焼する金属では、リフトされた拡散火炎が生じ、それによりナノメートルオーダーの小さなサイズの金属酸化物の生成につながることが知られている。火炎温度が沸点を十分に下回る場合、燃焼プロセスは、燃料粒子よりも大きなサイズの金属酸化物燃焼生成物を生成する純粋に不均一な燃焼モードで起こり得ると仮定されている。
【0016】
本開示は、ナノメートル単位の鉄酸化物をごくわずかしか生成しない鉄の不均一燃焼を実験的に実証した。鉄粒子は固相で燃焼を開始し、固体の酸化鉄を生成する。約1650K超では、燃焼生成物は液体状態の酸化第1鉄(FeO)、すなわちウスタイトを含むことができる。鉄の融点(1811K)を超えると、鉄粒子は液滴として燃焼する。鉄(III)またはヘマタイトの融点である1838Kを超え、酸化鉄(II、III)またはマグネタイトの融点である1870Kを超えると、鉄液滴が燃焼して液状酸化鉄を生成する。より高い燃焼温度、具体的には鉄の沸点である3134K超、および2500K超の温度では、鉄の燃焼が部分的に気相で起こり、ナノメートル単位の鉄酸化物(ヘマタイト、Fe)を生成することが観察されている。本開示は、酸化鉄ナノ粒子の生成が限られた鉄粒子の効率的な燃焼を実証する。いくつかの実施形態では、本開示は、鉄の燃焼から酸化鉄ナノ粒子を生成しない。
【0017】
生成物としてマグネタイト(Fe)を生成する乱流鉄火炎51における鉄の燃焼反応を以下に詳述する:
反応:3Fe+2O→Fe
データ:
Fe:55.85g/mol
Fe:231.55g/mol
【0018】
【数1】
反応の放熱量:
【0019】
【数2】
反応の質量増加量:
【0020】
【数3】
【0021】
図1は、本開示による連続燃焼システムの燃焼ゾーン1の概略縦断面図を示す。多環状燃焼管は、3つ以上の燃焼管を備えることができる。一実施形態では、図1に示すように、多環状燃焼管は、第1の管10、第2の管20、および第3の管30から構成される。第1の管10は、最も内側にあり、一次空気流11を供給する第1の通路を画定する。一次空気流11は、空気13中に浮遊する鉄粒子12を有する。
【0022】
固体鉄粒子は高密度であり、静止環境では急速に沈降する。鉄粒子を浮遊させて保つために、最低限のレベルの層流または乱流の空気/ガス流が必要である。さらに、固体鉄粒子の燃焼は、そのサイズ分布および形態に依存する。大きな鉄粒子を浮遊させるために必要な流量は、鉄火炎の層流燃焼速度を超えることがある。したがって、乱流は、高負荷の流れまたは大きな粒子の流れを安定させるために必須である。一般に、乱流火炎は拡張性(大規模工業規模を含む)に適しているが、層流火炎はそうではない。さらに、乱流鉄火炎の乱流は混合を引き起こし、これにより燃焼効率を高める。これは、起こる混合が限定されている層流とは対照的である。層流火炎の使用は、実験室または家庭規模に限られている。
【0023】
自立型火炎を作り出すためには、適切な鉄の質量流量で鉄粒子を分散させる必要がある。これは、鉄粒子サイロを備えた鉄燃料貯蔵区画に接続された粉末分散デバイスを用い、一次空気流11を形成するように調整可能な圧縮空気システムから供給される追加空気流とともに、中央鉄パイプのサイジングによって達成することができる。一次空気流11は、鉄と空気の混合物の速度および濃度を制御するのに役立つ。適切な鉄の質量流量は、システムの規模によって異なる。一実施形態では、鉄の適切な質量流量は1g/秒から2g/秒の間であり、マグネタイトである最終反応生成物に対しておよそ10kWの熱出力が得られる。
【0024】
図2は、図1の多環状管の線A-Aを横切る半径方向断面図を示す。本実施形態では、多環状管2は、第1の管10、第2の管20および第3の管30から構成される三重同心円管である。次に図3を参照すると、予備燃焼セクション3が示されている。多環状管は、底板14によって支持することができる。第2の管20は、任意選択で第2の管ホルダ25によって支持され、任意選択で可燃物管ホルダ26によって支持された可燃物管20aを備えることができる。
【0025】
第2の通路は、第1の管10と第2の管20との間の内側環状空間に画定されている。内側環状空間には二次空気流21が供給され、二次空気流21は、燃料としての可燃物と、点火中の空気と、燃焼中の空気とを含む。本明細書で使用する「可燃物」という用語は、火花刺激による火炎点火に使用できる種を意味する。可燃物とは、炭化水素燃料、水素、または、メタン、エタン、プロパン、もしくはブタンなどの、点火して火炎を得る任意の適切なガスであり得る。いくつかの実施形態では、図1に示すように、二次空気流21は、可燃物流21aと空気流21bとの混合物である。さらなる実施形態では、第2の管20は、フレームアレスタ機構22、例えば多孔性ハウジング23(例えばメッシュ)に封入されたセラミックビーズのようなフレームアレスタビーズを有する。第2の管20は、パイロット火炎24を発生させるための火花発生器の発火点を備える。フレームアレスタ機構22によりフラッシュバックを回避する。フラッシュバックとは、火炎が流入する流れに比べて速く燃焼しすぎて流れの発生源に逆戻りし、爆発に至る現象である。第2の管20の、可燃物および空気が混合するセクションには、圧力が上昇した場合に自動的に開く圧力開放弁27を備えることができる。確立されたパイロット火炎24は、流入する鉄粒子12に点火して乱流鉄火炎51を生成するために使用される。乱流鉄火炎51が点火され安定させると、パイロット火炎24は消される。パイロット火炎24は、可燃物遮断弁を閉鎖することによって消してもよい。
【0026】
乱流鉄火炎51の安定化は、三次空気流31によって部分的に達成される。三次空気流31は、第2の管20と第3の管30との間に画定された外側環状空間に供給される。第3の管は、スワール発生器32および側方空気入口33を備える。空気流31は、スワール発生器32を通って乱流スワール流となる。いくつかの実施形態では、図3に示すように、スワール発生器32は、架台32a、底板32bおよび上板32cを備える。図4Aは、底板32bの例示的実施形態を示し、図4Bは、上板32cの例示的実施形態を示す。上板32bおよび底板32cは両方とも、Oリング34および角柱形状の突起35を有する。底板32bおよび上板32cの角柱形状の突起35は、噛み合って半径方向チャネルを形成するように配置されるか、噛み合って接線方向チャネルを形成するように配置されるか、または突起35が接触しないように配置され、一連の半径方向チャネルおよび接線方向チャネルの両方を形成することができる。図4Cおよび図4Dは、スワール発生器32を形成するための底板32bおよび上板32cの例示的な組み立てを示す。スワール発生器32の板を互いに対して移動させることによって可能な様々な構成は、種々の最適化可能なガス状スワールの形成を可能にする。したがって、この例示的なスワール発生器32は、実験室規模でのスワールの最適化に適しているが、例えば工業規模では他のスワール発生器32も本開示により考慮される。しかしながら、本開示は、図4A図4Dの例示的なスワールデバイスに限定されず、固定ベーン型スワール装置および可変ベーン型スワール装置のような他のスワール形状を含む。
【0027】
図5は燃焼ゾーン5の斜視断面図である。発散ノズル40が多環状燃焼管の出口に配置されている。クアール(quarl)とも呼ばれる発散ノズル40は、多環状燃焼管の出口から下流側に発散する形状(例えば発散直径)を有する。いくつかの実施形態では、発散ノズル40は、図5で見てとれるように、円錐台形である。さらなる実施形態では、発散ノズルは、直円錐の錐台である。「錐台」という用語は、当該技術分野で公知のように理解されるべきであり、底部に平行な平面によって頂部を切り取ることによって形成される中実の円錐または角錐の基部、または実質的に平行な2つの平面の間で交差する中実の部分として定義することができる。発散ノズル40は、火炎を安定させ、流れを燃焼炉50に導くのに役立つ。
【0028】
本開示の発明者らが克服した課題は、乱流鉄火炎51が安定し、入口に向かって吹き飛ばされたりまたはフラッシュバックしたりしないように、燃焼炉50内の適切な流速を確保することであった。スワール発生器32の使用により、中央再循環ゾーン53が形成され、発散ノズル40付近に逆流が生じる。これは火炎を安定させるのに役立つが、粒子は再循環ゾーン53に留まるには慣性がありすぎるため、速度が大きすぎる噴射でも火炎を吹き飛ばす可能性がある。現在のところ、鉄(または任意の金属)の乱流燃焼速度に関する文献において限られたデータしかないが、本発明者らは、安定した乱流鉄火炎を操作するシステムの設計に成功した。燃焼炉50は、乱流鉄火炎51を封じ込め、安定させ、その熱を捕捉できるように誘導するのに役立つ。その輻射を伝達し、熱を捕捉するために、燃焼炉の壁52は溶融石英または他の適切な材料で作ることができる。燃焼室は入口において発散ノズル40と流体連通しており、流体的に接続されている。燃焼室は、入口の反対側に出口54を有する。いくつかの実施形態では、乱流鉄火炎51は、乱流鉄火炎51の二次酸化ゾーンが出口54に一時的に到達するように、燃焼室50全体に広がっている。任意選択で、四次空気流は、出口54とサイクロン入口61との間のエアギャップ55を通して二次酸化ゾーン56に導くことができる。あるいは、四次空気流は、様々な位置で燃焼室に入る加圧空気流によって供給してもよい。したがって、いくつかの実施形態では、二次酸化ゾーン56はサイクロン入口61へと広がっている。図6Aで見てとれるように、いくつかの実施形態では、サイクロン入口61は、二次酸化ゾーン56へと広がるように細長くてもよい(例えば、直線管、波状管、蛇行管など)。図6Aは、エアギャップ55に入る四次空気流57を示す。サイクロン60での吸引のため、サイクロン入口61の圧力は炉出口54の圧力よりも小さい。したがって、エアギャップから入る四次空気流57はサイクロン入口61に吸い込まれ、炉50内の流れを実質的に乱すことはない。理論に束縛されることなく、四次空気流57は、ナノ粒子の形成を最小限に抑え、NOx生成を防止するのに重要な温度制御を可能にする。あるいは、四次空気流57は、図6Bに示すように、様々な位置で燃焼室50に入る加圧空気流によって供給される。このような実施形態では、エアギャップをなくすか、または封止して、代わりに燃焼室50の空気噴射ポート58を使用してもよい。図6Bは、任意選択の覗き窓59a、空気噴射ポート58、および任意選択の空気サンプリングポート59bを有するいくつかの鋼製セクションから作られた燃焼室を示す。この燃焼室は、サイクロンダクトの入口と燃焼室の端部との間にエアギャップがないように取り付けることができる。四次噴射ポートに噴射された空気は最大1200cm/秒であり、NOx測定値はすべての試験条件において3ppm未満であった。図6Aおよび図6Bの実施形態は、NOx性能だけでなく、同様の火炎安定性および特性を提供する。
【0029】
図7および図8を参照すると、炉出口54の下流には、サイクロン入口61、ガス出口62および粒子出口63を有するサイクロン60がある。燃焼ゾーン7を示す図7で見てとれるように、サイクロン入口61は燃焼炉50と流体連通している。いくつかの実施形態では、サイクロン入口61および炉出口54は、(バーナー流量に対する)追加の空気流がサイクロン入口61に流入するエアギャップを設けるように物理的に分離されている。これは、粒子の温度を低下させ、ナノメートルサイズの粒子の生成を妨げる効果がある。サイクロンは、高温で研磨性の酸化された鉄粒子を受け取る。サイクロンは通常、乾燥した低温のより大きな非研磨性粒子を捕集するように設計されている。一般に、サイクロンを通過する流体の質量流量(および速度)が大きければ大きいほど、その捕集効率は高くなる。したがって、ほとんどの先行技術のサイクロンは、所定の用途に対して可能な限り高い流量および流速を生じさせるように設計されている。市販のサイクロンは、より多くの廃棄媒質を除去するために比較的高い流速を使用し、一般に、捕捉された物質は廃棄物であり、別の目的に必要とされないため、低い効率を有する。対照的に、本開示のサイクロンは、サイクロンの上流付近で火炎を乱さないように、かつ排気を可能な限り高温で維持するように、流量を最小限に維持するように設計される。いくつかの実施形態では、サイクロン吸引速度は、100CFM未満、80CFM未満、または60CFM未満、40CFM未満、20CFM未満、または10CFM未満である。
【0030】
サイクロンの吸引量が比較的少ない他の理由は、例えば低温の周囲空気である追加の空気流の流れを制御し、したがって混合気温度を制御するためである。換言すれば、サイクロンはバーナー排気に加えて周囲から空気を吸引し、両者を混合する。理論に束縛されることを望むものではないが、これによって、適切なタイミングで温度を制御する(この場合は低下させる)ことによって、燃焼生成物中のNOxおよびナノ粒子の生成を大幅に低減し、いくつかの実施形態ではなくすと考えられている。温度は、完全ではないにせよ、燃料の高いレベルの酸化を促すのに十分な高さで維持され、システムの燃焼効率を高めるだけでなく、より優れた熱抽出のための高品質の熱生成物をもたらす。いくつかの実施形態では、二次酸化ゾーン56内の混合物中の粒子の温度は、約500から約1377℃の間に維持される。
【0031】
いくつかの実施形態では、本開示の燃焼生成物は、少なくとも60重量%、少なくとも65重量%、少なくとも70重量%、または少なくとも75重量%のマグネタイトを含む。サイクロン60は、99%超の効率で高温の酸化された鉄粒子を捕集することができる。一般に、このような高効率を達成するためにフィルタが使用される。しかし、本システムでは、フィルタが粉末の捕捉および粒子の高温故に、フィルタが損傷し得るため、フィルタは必要なく、望ましいものでもない。実際、これによってさらなる不必要な運転コストが生じるであろう。しかし、いくつかの実施形態では、サイクロン分離器の捕集効率を検証する目的で、微粒子フィルタが本システムに追加される。
【0032】
燃焼生成物は固体であるため、輻射は従来の炭化水素火炎よりも重要な伝熱メカニズムである。輻射エネルギーの収集は、輻射伝熱メカニズムで行うことができる。輻射は電磁波であり、移動する媒体を必要とせず、空気によって相当量が吸収されることはない。輻射は固体によって吸収することができ、この固体は温度が上昇する。いくつかの実施形態では、燃焼炉50は、それを取り囲み、火炎のあらゆる入射輻射を捕捉し、伝熱機構に向けて集束させる筐体と連結された透明な溶融石英製の壁52を有することができる。筐体の壁は、入射するすべての輻射が反射され、吸収されないように、例えば、鏡面仕上げに研磨されたステンレス鋼製であることができる。
【0033】
したがって、温度勾配を利用してピストンを駆動し発電する熱機関、タービンと組み合わせた蒸気機関、またはスターリングエンジンを使用することによって、乱流鉄火炎から発電が可能である。スターリングエンジンは、作動流体を冷却するために水流を必要とし、電気に加えて温水を生成する。エンジンのコイルだけが、可能な限り多くの輻射を吸収するようにコーティングされている。こうすることで、火炎の輻射が反射面/非吸収面を加熱しないため、エンジンのコイルだけが熱くなる。コイルは、鉄粒子の流れから完全に分離された伝熱を可能にするが、これはエンジンのコイルが清潔に保たれることを意味する。これはスターリングエンジンの運転要件である。さらに、サイクロンへの燃焼粒子の流れは、有利なことに、熱回収にもかかわらず妨げられない。あるいは、鉄バーナーがボイラーとして機能する蒸気タービンエンジンを用いて発電が可能である。この場合、乱流鉄火炎から発生する熱は、図7に示すように、二重壁の鋳造または管巻き鋼製燃焼室によって捕捉され、その中で水が循環して火炎から熱を吸収する。水55aは流量計55bおよび熱電対55cを通ってコイル56に流れる。水55aはコイル内で加熱され、温水/蒸気55dとなり、第2の熱電対55eを通って蒸気機関に動力を供給する。
【0034】
二次酸化ゾーン56およびサイクロン60は、燃焼炉50から流入する高温ガスを所望の温度で維持して酸化を促進し、ナノ粒子およびNOxの形成を阻害し、熱抽出品質を向上させるように設計されている。多段階熱抽出は、例えば、図8に示す水ジャケット64などの二次流体冷却サイクルを通じて行うことができる。流体は、サイクロンと一体化された水ジャケット、またはサイクロン本体65の銅製熱交換器を循環する。排気および粒子中に存在する熱は回収され、さらなるエネルギー生成、補助熱、またはバーナーシステムの予熱に利用できる。
【0035】
理論に束縛されることを望まないが、サイクロンでの熱抽出が、燃焼する鉄粒子からのNOの生成を妨げると考えられている。より正確には、システム全体を通じた温度制御により、鉄粒子を燃焼モードに保ち、NOおよびナノメートルサイズの鉄酸化物の生成を抑制する。高温の流れからいくらか熱が抽出されるが、NOxの形成を阻害するのに十分な低温である一方で、粒子の完全燃焼を促進するのに十分高温のままである。さらに、本システムは、有利なことに、システム全体にわたって粒子の焼結を回避する。サイクロンでの熱抽出はさらに、粒子の焼結を防止し、したがって捕集効率を向上させると考えられている。また、焼結により、酸化鉄生成物のサイズが初期の鉄粒子よりも大きくなる可能性があり、このことは、酸化鉄を鉄燃料にリサイクルするときに、破砕および分離などの追加の工程の原因となる。
【0036】
達成されたNO抑制と同様に、システム全体の温度制御は、高レベルの鉄粒子燃焼を促す一方で、酸化鉄ナノ粒子の形成を阻害する。金属粒子の燃焼がナノ粒子を形成することは従来から示されている。これは、自然爆発、粒子が置かれている燃焼形態、およびその他のパラメータの組み合わせによるものであり得る。本システムでは、鉄粒子は最初に鉄および酸化鉄の融点より高い温度で燃焼する。混合物の温度を制御することによって、粒子は溶融後も新しく形成された球形状を維持するが、融点未満に冷却されるのはむしろ速い。温度は、熱抽出および四次空気流(比較的低温の空気流)によって制御される。このプロセスでは、酸化鉄ナノ粒子の形成につながり得る鉄またはその亜酸化物のミクロ爆発または気相燃焼は起こらない。いくつかの実施形態では、燃焼炉50の下流だがサイクロン60への入口の前に温度調節セクション(すなわちエアギャップ55)を追加することにより、どの酸化鉄が形成されるかを制御するのに役立ち得る。いくつかの実施形態では、酸化鉄粒子は、その酸化により(燃焼前の鉄粒子と比較して)サイズが大きくなることさえある。したがって、酸化された鉄粒子は、一般に、燃焼前の状態の鉄粒子(例えば、10から500μm)と同様のサイズを有する。いくつかの実施形態では、酸化された鉄粒子は、8μmより小さい直径を有する粒子を3重量%未満、2重量%未満、または1重量%未満含む。
【0037】
本明細書に記載のシステムを用いて鉄粒子を燃焼する方法も提供される。この方法は、多環状管内の多環状流を発散ノズル、次いで燃焼炉に供給することを含む。多環状流は、一次空気流、二次空気流および三次空気流から構成される。一次空気流は浮遊した鉄粒子を含む。二次空気流は、上記のように、一次空気流から物理的に分離され、一次空気流を取り囲んでいる。三次空気流もまた、二次空気流から物理的に分離され、二次空気流を取り囲んでいる。三次空気流は、スワール発生器によって発生する乱流スワール流である。パイロット火炎に点火するための火花とともに、パイロット可燃物流が二次空気流に提供される。パイロット火炎は、乱流鉄火炎に点火し、鉄粒子を酸化させる。燃焼炉は、三次空気流によって生じ維持される再循環ゾーンを有する。その後、パイロット可燃物流は停止される。パイロット火炎(例えばメタン火炎)は、1分未満、30秒未満、例えば10から30秒の間、または10から20秒の間供給することができる。酸化された鉄粒子はサイクロンを用いて回収される。任意選択で、追加の空気流が、炉出口とサイクロン入口との間のエアギャップからサイクロンに供給される。追加の空気流は、酸化された鉄粒子の温度を制御し、ナノ粒子の形成を防止し、NOxの形成を低減する。したがって、いくつかの実施形態では、酸化された鉄粒子を回収するステップは、サイクロンの壁の温度を制御することを含む。さらなる実施形態では、一次空気流に提供される鉄粒子の少なくとも一部は、本方法によって生成されるリサイクルされた酸化された鉄粒子である。酸化された鉄生成物の大部分は磁性のあるマグネタイトであるため、いくつかの実施形態では、磁気分離器による磁気分離を実行して、本方法の捕集効率をさらに向上させることができる。
【0038】
この方法は、有利なことに、周囲空気(すなわち約21vol%の酸素)を使用し、空気流に酸素を添加する必要がない。空気に酸素を添加する必要がないことにより、操作の手順、複雑さ、およびコストが削減される。実際、酸化窒素種の形成を軽減し、鉄の不均一燃焼を促すために、酸素欠乏燃焼を達成することは、本方法の利点である。酸素欠乏燃焼は、一次空気流中の鉄粒子流量を最適化することによって、ならびに/または一次空気流、二次空気流および三次空気流のうちの1つもしくは複数の空気の流れを最適化することによって達成することができる。
【実施例
【0039】
Powder & Surface Gmbhから購入した粉末フィーダを使用して、一次空気流を生成した。鉄粒子はTata Steel LtdおよびTLS Technik Spezialpulver Gmbh(商標)から入手した。一次空気流は、1.33g/sの鉄および415cc/sの空気を特徴とし、およそ4の中心等量比であった。三次空気流は2460cc/sであり、全体の等量比は0.6であった。生成された火炎の理論熱出力は8.9kWであった。メタン点火火炎は370cc/sの二次空気流を有し、等量比は1であり、すなわちメタンは35cc/s、空気は335cc/s、熱出力は1.15kWであった。選択されたタイプのスワールデバイスおよびその形状は、鉄火炎を安定させる目的で設計された(図4Cおよび図4D)。燃焼室もこの目的のために設計され、10kWの鉄火炎用にサイズ決めされた。本開示による設計により、他の熱源または燃料源(メタンなど)なしで、20分以上自立したままの安定した火炎を作り出すことができた。このシステムは、鉄粒子に富む一次空気流と、よりリーンな外側の空気流(二次空気流および三次空気流)を有する層状バーナーを備えるものであった。この設計のポイントは、コアの酸素を欠乏させることによってNOの形成を最小限に抑える一方で、残りの鉄粒子を周囲の流れでより低い温度でリーンに燃焼させることで高い燃焼効率を達成することであった。NOの測定は、バーナーおよびサイクロンダクトの様々な位置でサンプリングプローブを用いて行われた(図6Bのバーナーを使用した)。NOはほとんど、またはまったく観測されなかった(表1)。4ppm未満のNO測定値は、バーナーの超低NO能力を実証した。酸素濃度は、空気流の酸素がどの程度枯渇しているか、すなわちどの程度酸素が鉄粒子の燃焼に使用されたかを示す。鉄粒子および酸化された鉄粒子の粒度分布は、Tata Steel Ltdの鉄粒子については図9および表2に、TLS Technik Spezialpulver Gmbh(商標)(TLS Technik GmbH & Co.(商標)Spezialpulver KG(商標)、現ECKART TLS GmbH(商標)が所有)の鉄粒子については図10および表3に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
サイクロンで分離されなかった酸化された鉄粒子を捕捉するために、従来の高効率粒子状空気(HEPA)フィルタをサイクロンの下流に設置した。このフィルタは、最初は「空」であるとき、次にサイクロン運転後にフィルタを秤量することによってサイクロンから出る酸化された鉄粒子の量を定量化することができた。10kg超の酸化された鉄粒子を分離した後、フィルタの質量は10g未満増加し、これはサイクロンがシステム内に分散した酸化された鉄粒子を99%超保持していることを意味する。
【0044】
表4に示すX線回折は、試料中の特定の元素/相に関する情報を示す。未燃焼の純鉄、熱重量分析器(TGA)で緩慢な酸化を受けた純鉄、乱流バーナーでの燃焼から生じた酸化鉄粒子、および最後に乱流バーナーでの燃焼から生じ、その後TGAで緩慢な酸化を受けた酸化された鉄粒子の4種の異なる粉末をXRD分析を用いて試験した。鉄バーナーの燃焼生成物のXRD結果は、純鉄(2.7% Fe)がほとんど存在しないことを示しており、バーナーの総燃焼効率は96%超であった。加えて、生成物は大部分がマグネタイト(77.1% Fe)であり、ウスタイト(9.5% FeO)およびヘマタイト(10.7% Fe)が存在した。
【0045】
【表4】
【0046】
鉄火炎の燃焼生成物の試験によると、その組成が主にマグネタイトであり、ヘマタイトが若干存在し、ごく一部がウスタイトとして存在することが示された。四次空気流、ひいては混合気温度を制御することによって、生成物の組成および燃料粒子の燃焼(酸化)レベルが制御される。TGAおよびXRDの結果はこの理論と一致しており、純鉄およびマグネタイトの両方をTGAでゆっくりと低温酸化した後に酸化してヘマタイトとなり、800℃で粉末を酸化する。加えて、図11Cおよび図11Dならびに図12Bに示すように、燃焼粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)では、その形態がほとんど球状であることを示し、これは鉄粒子がその融点(1538℃)を超えて上昇し、冷却中に球状になったことを示している。燃焼鉄滴の測定温度は分光法を用いたところ、およそ1805℃であった(図15)。粒度分析は、燃焼後の粒度分布は大きくなっていることを示し、ナノメートルサイズの酸化物ではなく、ミクロンサイズの粒子が形成されていることを示している。これは初期鉄粒子に依存せず、不規則な海綿鉄もガス噴霧された球状粉末も同様の結果を示した。このことは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像によっても裏付けられ、ナノメートルサイズの酸化物の存在は認められなかった(図11A図11Dおよび図12A図12B)。対照的に、層流火炎で比較燃焼を行うと、ナノ酸化物の存在および粒子の爆発が見られた(図13)。
【0047】
金属火炎の輻射特性を活用し、乱流鉄火炎を妨げることなく、燃焼室の様々な熱抽出方法が試験された。鋼製パイプ、銅製チュービング、および水を用いた実験では、図7に示すように、燃焼室から熱を抽出できることが実証された。図14は、12インチ断面のおよそ9kWの乱流鉄火炎から、平均して3kWの熱が抽出されたことを実証している。火炎および生成物の燃焼特性を変化させることなく熱が抽出されたことに注目することが重要である。加えて、分光法を用いた粒子温度測定を行うことが可能であった。21回を超える実験による測定火炎温度は図15に示されており、バーナーの性能の一貫性と、平均鉄燃焼温度(2080K)が鉄(1811K)、ウスタイト(FeO、1650K)、マグネタイト(Fe、1870K)、およびヘマタイト(Fe、1838K)の融点を大きく上回っているが、鉄の沸点(3135K)を大きく下回っているという事実を実証している。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】