(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】数秒以内での磁気共鳴造影剤の信号増幅のための広帯域方法及び磁気共鳴造影剤の精製
(51)【国際特許分類】
G01N 24/00 20060101AFI20240829BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20240829BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G01N24/00 100B
G01N24/08 510D
G01N24/08 510Y
A61B5/055 383
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510628
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2022073818
(87)【国際公開番号】W WO2023025950
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505119966
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フェルデルング デア ヴィッセンシャフテン エー. ファオ.
【氏名又は名称原語表記】MAX-PLANCK-GESELLSCHAFT ZUR FOERDERUNG DER WISSENSCHAFTEN E.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレッグラー、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】コルチャク、セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】マモネ、サルヴァトーレ
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA11
4C096AD06
4C096FC14
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのヘテロ核の過分極に分子(例えば、パラ水素)の2スピン秩序を移動させる方法であって、2つのプロトン含む分子(例えば、パラ水素pH2)と少なくとも1つのヘテロ核S3、S4とを用意するステップであって、プロトンは、核スピンが少なくとも1つのヘテロ核の核スピンに結合されている、用意するステップと、z方向における例えば均一な磁場(B0)にプロトン及び少なくとも1つのヘテロ核を曝露するステップであって、z方向は、x方向及びy方向とともに右手系直交座標系を形成する、曝露するステップと、少なくとも1つのヘテロ核の過分極に上記2スピン秩序を移動させるために、プロトン及び少なくとも1つのヘテロ核に高周波パルスのシーケンスを印加するステップであって、高周波パルスのシーケンスは、第1の群NA、第2の群NB、及び第3の群NCの180°高周波パルスを含み、第1の群NAの180°高周波パルスは、第1の時間間隔τA中にnA回連続して印加され、第2の群NBの180°高周波パルスは、最後の第1の群の後、第2の時間間隔中にnB回連続して印加され、第3の群NCの180°高周波パルスは、最後の第2の群の後、第3の時間間隔τC中にnC回連続して印加され、nA、nB、nCはそれぞれ整数である、印加するステップと、を含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)の過分極に分子の2スピン秩序を移動させる方法であって、
2つのプロトン(H
1、H
2)を含む分子と前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)とを用意するステップであって、前記プロトンは、核スピンが前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)の核スピンに結合されている、用意するステップと、
z方向における磁場(B
0)に前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核を曝露するステップであって、前記z方向は、x方向及びy方向とともに右手系直交座標系を形成する、曝露するステップと、
前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極に前記2スピン秩序を移動させるために、前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)に高周波パルスのシーケンスを印加するステップであって、前記高周波パルスのシーケンスは、第1の群(N
A)、第2の群(N
B)、及び第3の群(N
C)の180°高周波パルスを含み、前記第1の群(N
A)の180°高周波パルスは、第1の時間間隔(τA)中にn
A回連続して印加され、前記第2の群(N
B)の180°高周波パルスは、最後の前記第1の群の後、第2の時間間隔(τ
B)中にn
B回連続して印加され、前記第3の群(N
C)の180°高周波パルスは、最後の前記第2の群の後、第3の時間間隔(τ
C)中にn
C回連続して印加され、n
A、n
B、n
Cはそれぞれ整数である、印加するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の群(N
A)の180°高周波パルスは、位相Ψ
11を有するとともに前記プロトンに作用する第1の180°高周波パルス(P1)と、位相Ψ
21を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に作用する第2の180°高周波パルス(P2)とを含み、前記第1の群(N
A)の180°高周波パルスは、位相Ψ
12を有するとともに前記プロトンに作用する第3の180°高周波パルス(P3)と、位相Ψ
22を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に作用する第4の180°高周波パルス(P4)とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の群(N
B)の180°高周波パルスは、位相Ψ
13を有するとともに前記プロトンに作用する第1の180°高周波パルス(P5)と、位相Ψ
14を有するとともに前記プロトンに作用する後続の第2の180°高周波パルス(P6)とを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の群(N
B)の180°高周波パルスは、位相Ψ
23を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に作用する第1の180°高周波パルス(P11)と、位相Ψ
13を有するとともに前記プロトンに作用する後続の第2の180°高周波パルス(P5)とを含み、前記第2の群(N
B)の180°高周波パルスは、位相Ψ
24を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に作用する第3の180°高周波パルス(P12)と、位相Ψ
14を有するとともに前記プロトンに作用する後続の第4の180°高周波パルス(P6)とを含み、前記第2の群(N
B)の前記第3の180°高周波パルス(P12)及び前記第4の180°高周波パルス(P6)は、前記第2の群(N
B)の前記第2の180°高周波パルス(P5)の後に印加される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記第3の群(N
C)の180°高周波パルスは、位相Ψ
15を有するとともに前記プロトンに作用する第1の180°高周波パルス(P7)と、位相Ψ
25を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に作用する第2の180°高周波パルス(P8)とを含み、前記第3の群(N
C)の180°高周波パルスは、位相Ψ
16を有するとともに前記プロトンに作用する第3の180°高周波パルス(P9)と、位相Ψ
26を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に作用する第4の180°高周波パルス(P10)とを含む、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
11を有するとともに前記プロトンに作用する第1の90°高周波パルス(RF1)をさらに含み、前記第1の群(N
A)の180°高周波パルスは、前記第1の90°高周波パルス(RF1)の後、前記第1の時間間隔(τ
A)中にn
A回連続して印加され、前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
12を有するとともに前記プロトンに作用する第2の90°高周波パルス(RF2)をさらに含み、前記第2の90°高周波パルス(RF2)は、前記第1の90°高周波パルス(RF1)の後に続き、前記第1の時間間隔(τ
A)の終わりに前記プロトンに印加され、前記第2の群(N
B)の180°高周波パルスは、前記第2の90°高周波パルス(RF2)の後、前記第2の時間間隔(τ
B)中にn
B回連続して印加され、前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
13を有するとともに前記プロトンに作用する第3の90°高周波パルス(RF3)をさらに含み、前記第3の90°高周波パルス(RF3)は、前記第2の90°高周波パルス(RF2)の後に続き、前記第2の時間間隔(τ
B)の終わりに前記プロトンに印加され、前記第3の群(N
C)の180°高周波パルスは、前記第3の90°高周波パルス(RF3)の後、前記第3の時間間隔(τ
C)中にn
C回連続して印加される、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
22を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に作用する第4の90°高周波パルス(RF4)と、位相φ
23を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に作用する後続の第5の90°高周波パルス(RF5)とをさらに含み、特に前記第3の90°高周波パルス(RF3)は、前記第4の90°高周波パルス(R4)と同時である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の90°高周波パルス(RF1)の前記位相φ
11、前記第2の90°高周波パルス(RF2)の前記位相φ
12、及び前記第3の90°高周波パルス(RF3)の前記位相φ
13は、共線的であり、及び/又は、前記第5の90°高周波パルス(RF5)の前記位相(φ
23)は、前記第4の90°高周波パルス(RF4)の前記位相(φ
22)に対して直交し、特に、φ
11=φ
12=φ
13=x、φ
22=x、φ
23=yである、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
14を有するとともに前記プロトンに作用する第6の90°高周波パルス(RF6)をさらに含み、前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
21を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に作用する第7の90°高周波パルス(RF7)をさらに含み、特に前記第6の90°高周波パルス(RF6)は、前記第5の90°高周波パルス(RF5)と同時であり、特に前記第7の90°高周波パルス(RF7)は、前記第1の90°高周波パルス(RF1)と同時である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の90°高周波パルス(RF1)の前記位相φ
11、前記第2の90°高周波パルス(RF2)の前記位相φ
12、前記第3の90°高周波パルス(RF3)の前記位相φ
13、及び前記第6の90°高周波パルス(RF6)の前記位相φ
14は、共線的であり、前記第7の90°高周波パルス(RF7)の前記位相φ
21は、φ
21=φ
23+πに対応し、特に、φ
11=φ
12=φ
13=φ
14=x、φ
22=x、φ
23=y、及びφ
21=-yである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
分子と少なくとも1つのヘテロ核とを用意する前記ステップはまた、さらなるヘテロ核(S
4)を用意することであって、前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)の前記核スピンが前記さらなるヘテロ核(S
4)の核スピンに結合されている、用意することを含み、前記z方向における磁場(B
0)に前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核を曝露する前記ステップはまた、前記磁場(B
0)に前記さらなるヘテロ核(S
4)を曝露することを含み、前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)の前記過分極に前記2スピン秩序を移動させるために前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)に高周波パルスのシーケンスを印加する前記ステップはまた、前記さらなるヘテロ核(S
4)の過分極への前記2スピン秩序の移動を含み、特に、前記ヘテロ核及び前記さらなるヘテロ核は、同じ種とすることができるか又は異なる種に属することができる、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
24を有するとともに前記ヘテロ核(S
3、S
4)に作用する、角度θの第6の高周波パルス(RF8)であって、前記第3の90°高周波パルス(RF3)から第4の時間間隔(τ
D)だけ離間している、角度θの第6の高周波パルス(RF8)をさらに含み、前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
25を有するとともに前記ヘテロ核(S
3、S
4)に作用する第7の90°高周波パルス(RF9)を含み、前記第7の90°高周波パルス(RF9)は、角度θの前記第6の高周波パルス(RF8)から第5の時間間隔(τ
E)だけ離間している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記高周波パルスのシーケンスは、前記第5の90°高周波パルス(RF5)の後及び角度θの前記第6の高周波パルス(RF8)の前に、位相Ψ
27を有するとともに前記ヘテロ核(S
3、S
4)に作用する180°高周波パルス(P13)をさらに含み、前記高周波パルスのシーケンスは、角度θの前記第6の高周波パルス(RF8)の後及び前記第7の90°高周波パルス(RF9)の前に、位相Ψ
28を有するとともに前記ヘテロ核(S
3、S
4)に作用する180°高周波パルス(P14)をさらに含む、請求項7及び12に記載の方法。
【請求項14】
前記高周波パルスのシーケンスは、2つの前記ヘテロ核(S
3、S
4)に作用する単一連続波照射であって、特に2つの前記ヘテロ核(S
3、S
4)に対する分極を調節するように2つの前記ヘテロ核(S
3、S
4)間の化学シフト差よりも大きいパワーを含む単一連続波照射をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)を含む過分極造影剤を得るため、前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)の前記過分極に前記2スピン秩序を移動させるために、前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核に高周波パルスのシーケンスを印加する前記ステップの前に、前記分子は、
最終的に前記過分極造影剤の一部ではない伝達物質、
前記過分極造影剤の前駆体であって、前記前駆体は最終的に前記過分極造影剤の一部であり、前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)は、前記前駆体によって構成される、前記過分極造影剤の前駆体、
前記過分極造影剤の前駆体であって、その後、前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3)を含む前記造影剤を得るように分離される、前記過分極造影剤の前駆体、
造影剤であって、前記少なくとも1つのヘテロ核が前記造影剤によって構成される、造影剤
のうちの1つに添加される、請求項1から14までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
それぞれの前記高周波パルスは、矩形パルス、周波数選択パルス、矩形形状から逸脱した形状を有する整形パルスのうちの1つである、請求項1から15までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ヘテロ核に対する最後の高周波パルスは、
特に、前記磁化の一部分を直接観察するため、及び、前記磁化の残りを保存するため、前記z軸に沿って前記磁化を傾けるのに用いられるか、又は、任意の方向に前記磁化を傾けるのに用いられる、
前記磁化をすべて直接観察することを可能にするように前記z軸に沿って前記磁化を傾ける場合には省略される
のうちの一方である、請求項1から16までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)の過分極に分子の2スピン秩序を移動させる方法であって、
2つのプロトン(H
1、H
2)を含む分子と前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)とを用意するステップであって、前記プロトンは、核スピンが前記少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)の核スピンに結合されており、1つのプロトンと前記少なくとも1つのヘテロ核との間のJ結合が、2つの前記プロトン間のJ結合よりも大きい、用意するステップと、
高周波パルスを用いて、前記少なくとも1つのヘテロ核に前記2スピン秩序を移動させるステップと、
を含む、方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極は、有機溶媒中で触媒の助けにより行われ、前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極の後、水溶液が前記有機溶媒に添加され、前記水溶液は、過分極した前記少なくとも1つのヘテロ核を含む前駆体を開裂して過分極造影剤を得るように構成された開裂剤を含み得、前記触媒を捕捉するため、前記水溶液を前記有機溶媒に添加する前又は添加した後に錯化剤を前記有機溶媒に添加することができ、前記有機溶媒は、ストリッピング・ガスを用いることによって蒸発又は除去され、前記造影剤を含む注射液を得るため、前記水溶液を濾過して、蒸発時に沈殿した副産物及び/又は不純物を除去し、
或いは
造影剤の一部を形成する前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極は、溶媒中で行われ、前記溶媒は、水溶液、有機溶液、水溶液と有機溶液との混合物のうちの1つであり、前記溶媒は、ストリッピング・ガスを用いることによって蒸発又は除去され、前記過分極造影剤を特に固体形態で残し、前記造影剤は、前記造影剤が溶解しない溶媒で洗浄され、前記造影剤を含む注射液を得るため、前記造影剤は溶液に添加される、請求項1から18までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
造影剤を含む注射液を得る方法であって、
少なくとも1つのヘテロ核の過分極が、有機溶媒中で触媒の助けにより行われ、前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極の後、水溶液が前記有機溶媒に添加され、前記水溶液は、過分極した前記少なくとも1つのヘテロ核を含む前駆体を開裂して過分極造影剤を得るように構成された開裂剤を含み得、前記触媒を捕捉するため、前記水溶液を前記有機溶媒に添加する前又は添加した後に錯化剤を前記有機溶媒に添加することができ、前記有機溶媒は、ストリッピング・ガスを用いることによって蒸発又は除去され、前記造影剤を含む注射液を得るため、前記水溶液を濾過して、蒸発時に沈殿した副産物及び/又は不純物を除去し、
或いは
造影剤の一部を形成する少なくとも1つのヘテロ核の過分極が、溶媒中で行われ、前記溶媒は、水溶液、有機溶液、水溶液と有機溶液との混合物のうちの1つであり、前記溶媒は、ストリッピング・ガスを用いることによって蒸発又は除去され、前記過分極造影剤を特に固体形態で残し、前記造影剤は、前記造影剤が溶解しない溶媒で洗浄され、前記造影剤を含む注射液を得るため、前記造影剤は溶液に添加される、方法。
【請求項21】
前記有機溶媒の前記蒸発は、真空を適用することによって促され、特に前記有機溶媒の前記蒸発は、前記溶液を通るストリッピング・ガス流によって促される、請求項19又は20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのヘテロ核の過分極に例えばパラ水素分子のスピン秩序を移動させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic resonance imaging)は、疾患パターンを検査及び診断するために研究機関及びクリニックにおいて広く用いられている技術である。
【0003】
しかしながら、MRIの主な欠点は、核磁気共鳴(NMR:nuclear magnetic resonance)信号の強度がイメージング核の核スピン状態集団間の差異に応じることに関する。ボルツマン方程式(ΔN=γhB0/(2πkT))によれば、この差異は、温度及び印加された磁場の関数であり、熱平衡において(10-5のオーダで)比較的低い。
【0004】
疾患をより目に見えるようにするために、種々の組織における水緩和の差を高める造影剤が生物体内に注入される。造影剤を用いた約3千万の検査が、毎年世界中のクリニックにおいて行われている。代謝などの化学プロセスが直接観察されることを可能にする特殊な形態の造影剤は、過分極のプロセスに基づく。
【0005】
核磁気共鳴(NMR)の分野において、MRIが基づく事象である、過分極法は、造影剤の信号を数桁の大きさ増加させる。過分極は例えば、代謝産物の信号を増加させるのに用いられ、これら信号が次いで、腫瘍における代謝を視覚化するために導入される。これは既に、ヒトでの臨床試験において示されている。特に、そのような方法を用いて腫瘍を特定するとともに治療の有効性を評価することができることが示されている。
【0006】
過分極によって信号を増幅させる一般的な方法は、動的核分極(DNP:dynamic nuclear polarization)技術に基づく。可能な限り最大の信号増幅を達成するために、造影剤は通常、マイクロ波放射を用いてラジカルの存在下で極低温で(すなわち、2K未満の温度で)過分極される。このプロセスは数十分から数時間かかり、したがって、非常に時間のかかるものであり、このため、この方法の使用が著しく限定される。信号増幅の後、造影剤は加熱され、注入することができるように溶解される。
【0007】
数秒以内に増幅信号を送達する別の過分極方法は、パラ水素又は重水素に基づく。パラ水素の使用は、過分極のより一般的な形態である。パラ水素は、対応するガスを低温で触媒(通常は酸化鉄又は活性炭)に通すことによって濃縮した水素ガスのスピン異性体である。77Kで、約50%の濃縮度が達成され、25Kで、濃縮度は約100%である。濃縮後に触媒が除去されると、ガスをボトルに充填し、室温で数日から数週間貯蔵することができる。パラ水素は、SO=l1xl2x+l1yl2y+l1zl2zとして積演算子形式で示される一重項スピン秩序を有し、式中、x、y、zは直交枠の軸である。一重項スピン秩序は、2つの直交成分、すなわち、横方向2スピン秩序成分ZQx=l1xl2x+l1yl2y及び縦方向2スピン秩序成分l1zl2zに分解することができ、式中、zは通常、印加される磁場の方向として選択される。パラ水素に基づいた過分極プロセスにおいて、パラ水素の濃縮によってつくり出されたスピン秩序は、分子から増幅信号に変換され、これら増幅信号が次いで造影剤として使用される。
【0008】
過分極信号を達成するためにパラ水素が基質と結合することができる2つのモダリティがある。一方で、パラ水素は、触媒によって分子に添加することができ、これにより基質の化学構造が変化する(水素化パラ水素誘起分極法(PHIP:para-hydrogen induced polarization))。添加プロセスの後、スピン秩序が、増幅された観察可能な信号に変換される。他方で、パラ水素は、触媒及び対象の化合物(例えば、代謝産物)と一時的に安定な錯体を形成することができ、そこでスピン秩序が対象の化合物の増幅信号に変換される(次いで、レービル錯体は再びその成分が分離し、不変の信号増幅された造影剤が得られる。この非水素化PHIP法は、SABRE(可逆的交換による信号増幅(SABRE:Signal Amplification By Reversible Exchange))と呼ばれる。
【0009】
両方のパラ水素に基づいた方法において、目的は、造影剤にパラ水素の最大スピン秩序を移動させることである。原則として、いわゆるヘテロ核、すなわち、水素以外の核を過分極するものとする。これは、造影剤におけるヘテロ核(例えば、13C及び15N)は通常、生物体内であっても、非常に長い間(分)追従することができることによる。最も関連があるのは、炭素13(13C)同位体の信号増幅であるが、その理由は、炭素13(13C)同位体が多くの代謝産物に含まれているからである。
【0010】
これらのヘテロ核にスピン秩序を移動させるために、いくつかの方法が既に開発されてきている。それらの方法は、関係する個々のスピン間、すなわち、パラ水素のスピンと、過分極されるべき核のスピンと、場合によっては他の既存の核のスピンとの間に、移動に用いることができる結合(J結合)が存在することに基づいている。加えて、分子における個々の核種が種々の分光周波数(化学シフト)で観察されることが関係している。これらの周波数差もまた、効率的な移動に用いることができる。
【0011】
造影剤が変更されないパラ水素プロセス(SABRE)に関して、最も効率的なプロセスは、スピン秩序が低磁場で造影剤の増幅信号に変換される磁場循環法である。この技法は、プロトン及び選択された化合物の15N核に効率的に機能するが、重要な13C化合物の医学的に関連する過分極を生じさせない。
【0012】
不飽和化合物へのパラ水素の添加(PHIP)及び13C核へのその後の移動は、SABREよりも最大で1桁高い信号増幅をもたらす。近年、不飽和代謝産物前駆体が開発されてきているため、13C核を過分極し、その後の化学変換後、代謝造影剤に変換させることができる、PHIP法は、特に関連性が高くなってきている。多数のパラ水素法が既に開発されており、これらを用いて、13C核、特に造影剤にスピン秩序を移動させることができる。しかしながら、全般的に、これらの方法は高い過分極値を達成するほど効果的ではなく、このことが、広く利用可能な方法としてパラ水素がそれ自体まだ確立されていない理由である。一方で、磁場循環による移動があるが、これは強い信号増幅を達成せず、他方、高周波(RF:radio frequency)パルスに基づいた方法(RF法)がある。
【0013】
RF法は、ヘテロ核の信号に変換されるパラ水素スピン秩序に基づいて分類することができる。RF法は、関係する個々のスピン間、すなわち、パラ水素のスピンと、過分極されるべき核のスピンと、場合によっては他の既存の核のスピンとの間の、移動に用いることができる結合(J結合)に基づいている。
【0014】
RF法のサブセットは、十分に分離された周波数(化学シフト)で、場合によっては、その周波数分離に比して狭い周波数窓内で、プロトンスピンが共鳴することを用いる。このようにして、スピンを選択RFパルスによって独立して操作することができ、及び/又は、化学シフト差を分極移動に効果的に用いることができる。これらの方法は、低磁場磁石における使用には不適当であり、コンパクトで費用効果の高いシステムは通常、均一性が低い。
【0015】
高周波パルスによって、90%超のスピン秩序を理論上、移動させることができる。しかしながら、これまで開発された方法は、あまりロバストではないか又は特定のJ結合スキームに最適化されていない。特に、PHIP又はSABREにおいてパラ水素の一重項スピン秩序を維持しようと試みる方法が主として用いられている。効率的な移動を確実にするために、ここでは非常に正確なパルスが使用されねばならず、これは実験的に実現することが困難である。他の方法は、いわゆる2スピン秩序又は縦秩序を用い、この2スピン秩序又は縦秩序は、PHIP又はSABREにおいて使用されるパラ水素が錯体を形成すると生じることができ、錯体では2つの核が弱結合の状態にある。PHIPにおける弱結合は、排他的ではないが主として、高磁場(>0.5テスラ)で生じる。このため、以下のこと
1.結合されたパラ水素又はヘテロ核に対するJ結合を有するH核以外、論じたようなスピン・ダイナミクスに対するその影響が取り除かれる又は無視される又はリフォーカスされる可能性がある場合を除き、分極移動を妨げるものは、何も存在しないこと
2.2つの核間の化学シフト差がプロトン-プロトンJ結合よりも大きいこと、及び/又は
3.ヘテロ核に対するJ結合差がHH J結合よりも大きいこと
が当てはまることが必要である。
【0016】
したがって、特定の結合スキームによる分子であって、多くの場合、弱結合を達成するのに高磁場の使用に限定される分子に利用可能な実験のみが、この手法のために設計され得る。
【0017】
過分極を生じさせ、造影剤を維持した後、必要な触媒を分離し、造影剤を水溶液中に入れて、健康上のリスクを最小限にすることが、依然として困難である。
【0018】
これまでのところ、最良のプロセスは、造影剤を有機(通常、塩素化された)溶媒中で生成し、次いで水相に抽出する、相分離手法からなる。しかしながら、このプロセスは、水から分離する溶媒中で最適な過分極の結果を達成することに依存する。加えて、代謝産物前駆体を信号増幅代謝産物に変換する場合、反応がまた、有機溶媒中で十分に迅速でなければならないか又は抽出中に界面で十分に迅速でなければならない。これら2つの点は、変換することが困難であり、用途を制限する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】「Pulsed Magnetic Resonance to Signal-Enhance Metaboliltes within Seconds by utilizing para-Hydrogen」、ChemistryOpen 2018年、7,344-348、Sergey Korchak、Shengjun Yang、Salvatore Mamone、及びStefan Gloggler著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記に基づき、本発明の基礎となる課題は、MRIにおいて使用される様々な異なる造影剤に適用することができるヘテロ核の過分極にパラ水素の2スピン秩序を移動させる迅速で効率的な方法を提供することである。さらに、特に、過分極造影剤を含む注射液を最終的に得るために過分極造影剤の精製方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の主な目的は、請求項1の特徴を含む方法によって解決される。本発明のこの態様の好ましい実施例を、対応する従属請求項において述べ、以下で説明する。さらに、本発明の他の態様も以下で詳細に述べる。
【0022】
請求項1によれば、少なくとも1つのヘテロ核の過分極にパラ水素分子の2スピン秩序を移動させる方法であって、
特にパラ水素(pH2)の形態の分子と少なくとも1つのヘテロ核とを用意するステップであって、分子は、分子の一組の2つのプロトンにおいて、2スピン秩序、特に2スピン縦秩序l1zl2zの形成を可能にし、プロトンは、核スピンが少なくとも1つのヘテロ核の核スピンに結合されている、用意するステップと、
z方向における磁場(B0)(磁場は均一な磁場とすることができる)にプロトン及び少なくとも1つのヘテロ核を曝露するステップであって、z方向は、x方向及びy方向とともに右手系直交座標系を形成する、曝露するステップと、
少なくとも1つのヘテロ核の過分極に上記2スピン秩序を移動させるために、プロトン及び少なくとも1つのヘテロ核に高周波パルスのシーケンスを印加するステップであって、上記高周波パルスのシーケンスは、第1の群、第2の群、及び第3の群の180°高周波パルスを含み、第1の群の180°高周波パルスは、第1の時間間隔τA中にnA回連続して印加され、第2の群の180°高周波パルスは、最後の第1の群の後、第2の時間間隔τB中にnB回連続して印加され、第3の群の180°高周波パルスは、最後の第2の群の後、第3の時間間隔τC中にnC回連続して印加され、nA、nB、nCはそれぞれ整数である、印加するステップと、
を含む、方法が開示される。
【0023】
分子(例えば、パラ水素)のスピン秩序を、例えば水素化反応により又は遷移金属系触媒におけるパラ水素及び基質の一時的な会合によって種々の分子に移動させることができる(SABRE)。水素化PHIPを用いることは、パラ水素スピン配向を非常に効率的に用いることを可能にするが、その理由は、2つの初期プロトンが標的分子(例えば、造影剤)の一部であり、その結果、非常に高い増大因子を得ることができるからである。他方、SABRE手法は、不飽和前駆体を必要とせず、J結合によりスピン秩序を移動させることを可能にし、したがって、不飽和前駆体を使用する必要なく異なる組の分子の過分極を可能にする。
【0024】
一実施例によれば、磁場B0は均一な磁場である。しかしながら、本発明による方法は、不均一な磁場の場合にも、特に、均一性によって導入された分散よりもはるかに大きく拡散による位相分散(dephasing)が僅かである帯域幅をRFパルスが含む場合にも機能する。
【0025】
本発明による方法の好ましい実施例によれば、第1の群の180°高周波パルスは、位相Ψ11を有するとともにプロトンに作用する第1の180°高周波パルスと、位相Ψ21を有するとともに少なくとも1つのヘテロ核に作用する好ましくは同時の第2の180°高周波パルスとを含み、第1の群の180°高周波パルスは好ましくは、位相Ψ12を有するとともにプロトンに作用する第3の180°高周波パルスと、位相Ψ22を有するとともに少なくとも1つのヘテロ核に作用する好ましくは同時の第4の180°高周波パルスとをさらに含む。
【0026】
好ましくは、プロトンに作用するすべての群の180°高周波パルスは、時間が等間隔とすることができる。さらに、特に、少なくとも1つのヘテロ核に作用するすべての群の180°高周波パルスは、時間が等間隔とすることができる。
【0027】
本発明のさらなる実施例によれば、第2の群の180°高周波パルスもまた、位相Ψ13を有するとともにプロトンに作用する第1の180°高周波パルスと、位相Ψ14を有するとともにプロトンに作用する後続の第2の180°高周波パルスとを含む。
【0028】
SABREの設定において用いることができる代替的な実施例によれば、第2の群の180°高周波パルスは、位相Ψ23を有するとともに少なくとも1つのヘテロ核に作用する第1の180°高周波パルスと、位相Ψ13を有するとともにプロトンに作用する後続の第2の180°高周波パルスとを含み、第2の群の180°高周波パルスは、位相Ψ24を有するとともに少なくとも1つのヘテロ核に作用する第3の180°高周波パルスと、位相Ψ14を有するとともにプロトンに作用する後続の第4の180°高周波パルスとを含み、第2の群の第3の180°高周波パルス及び第4の180°高周波パルスは、第1の群の180°高周波パルスの後に印加される。
【0029】
さらに、本発明の一実施例によれば、第3の群の180°高周波パルスは、位相Ψ15を有するとともにプロトンに作用する第1の180°高周波パルスと、位相Ψ25を有するとともに少なくとも1つのヘテロ核に作用する好ましくは同時の第2の180°高周波パルスとを含み、第3の群の180°高周波パルスは、位相Ψ16を有するとともにプロトンに作用する第3の180°高周波パルスと、位相Ψ26を有するとともに少なくとも1つのヘテロ核に作用する好ましくは同時の第4の180°高周波パルスとを含む。
【0030】
さらに、一実施例によれば、第1の時間間隔τAは、第2の時間間隔τBとは異なり、及び/又は、第1の時間間隔τAは、第3の時間間隔τCに等しい。さらなる実施例によれば、すべての時間間隔τA、τB、τCは、互いとは異なる。
【0031】
さらに、本発明による方法の好ましい実施例によれば、上記整数nA、nB、nCは、nA=1、nB=1、及びnC=1であるように選択される。
【0032】
さらに、好ましい実施例によれば、整数nA、nB、nCは、以下の三つ組、すなわち、nA=2、nB=9、nC=5;nA=6、nB=3、nC=3;nA=5、nB=10、nC=1;nA=1、nB=2、nC=11;nA=3、nB=1、nC=15;nA=11、nB=6、nC=15のうちの1つとして選択することができる。
【0033】
さらに、好ましい実施例によれば、第1の時間間隔τA、第2の時間間隔τB、第3の時間間隔τCは、以下の三つ組、すなわち、τA=135.1ms、τB=71.1ms、τC=135.1ms;τA=135.1ms、τB=76.7ms、τC=135.1ms;τA=1216ms、τB=774ms、τC=1486ms;τA=45.0ms、τB=46.0ms、τC=45.0ms;τA=45.0ms、τB=45.2ms、τC=45.0ms;τA=495ms、τB=478ms、τC=45ms;τA=3.0ms、τB=44.3ms、τC=3.0ms;τA=3.0ms、τB=44.8ms、τC=3.0ms;τA=1709ms、τB=360ms、τC=1709ms;τA=1709ms、τB=504ms、τC=1709ms;τA=2215ms、τB=1521ms、τC=2088ms;τA=135ms、τB=73.9ms、τC=58.1ms;τA=58.1ms、τB=68.1ms、τC=58.1ms;τA=174ms、τB=657ms、τC=58.1ms;τA=96.1ms、τB=309.4ms、τC=19.2ms;τA=19.2ms、τB=1040ms、τC=19.2ms;τA=19.2ms、τB=787ms、τC=19.2msのうちの1つとして選択することができる。
【0034】
さらなる実施例では、上記の三つ組におけるそれぞれの第1の時間間隔τAについて提示した特定の時間値の代わりに、それぞれの第1の時間間隔τAは、Ams~Bmsの範囲内にあるものとすることができ、Aは、τAについて示したそれぞれの値マイナス25%、好ましくはマイナス10%、より好ましくはマイナス5%であり、Bは、τAについて示されたそれぞれの値プラス25%、好ましくはプラス10%、より好ましくはプラス5%である(すなわち、例えばτA=135.1msの場合、さらなる実施例によれば、τAは代替的に、101.325ms~168.875msの範囲内、好ましくは121.59ms~148.61msの範囲内、より好ましくは128.345ms~141.855msの範囲内にあってもよい)。
【0035】
同様に、上記の三つ組におけるそれぞれの第2の時間間隔τBについて提示した特定の時間値の代わりに、それぞれの第2の時間間隔τBは、Cms~Dmsの範囲内にあるものとすることができ、Cは、τBについて示したそれぞれの値マイナス25%、好ましくはマイナス10%、より好ましくはマイナス5%であり、Dは、τBについて示されたそれぞれの値プラス25%、好ましくはプラス10%、より好ましくはプラス5%である。
【0036】
同様に、上記の三つ組におけるそれぞれの第3の時間間隔τcについて提示した特定の時間値の代わりに、それぞれの第3の時間間隔τcは、Ems~Fmsの範囲内にあるものとすることができ、Eは、τCについて示したそれぞれの値マイナス25%、好ましくはマイナス10%、より好ましくはマイナス5%であり、Fは、τCについて示されたそれぞれの値プラス25%、好ましくはプラス10%、より好ましくはプラス5%である。
【0037】
さらなる特定の実施例を表1~表3に提示する。特に、時間間隔τA、τB、τC及び整数nA、nB、nCに関連する上述した実施例に関して適切な磁場及びヘテロ核を、以下で表1~表3に提示する。
【0038】
さらに、磁場B0がz方向と位置合わせされる上記で定義した座標系におけるそれぞれの180°高周波パルスの方向(すなわち、スピンがそれぞれの180°高周波パルスによって180°反転する方向)に対応する、180°高周波パルスの位相Ψ11、Ψ12、Ψ13、Ψ14、Ψ15、Ψ16、Ψ21、Ψ22、Ψ25、Ψ26に関して、本発明の一実施例は、各群において、プロトンに作用する180°高周波パルスの位相(例えば、Ψ11及びΨ12など)が互いに対して180°シフトすることを提供する。同様に、一実施例では、各群において、少なくとも1つのヘテロ核に作用する180°高周波パルスの位相(例えば、Ψ21及びΨ22など)が互いに対して180°シフトする。特定の実施例によれば、プロトンに作用する180°高周波パルスの位相は、各群においてxと-xとで交互となることができる。同様にして、少なくとも1つのヘテロ核に作用する180°高周波パルスの位相は、各群においてxと-xとの間で交互となることができる。
【0039】
さらなる実施例によれば、
【数1】
回目に印加される第1の群において、第3の180°高周波パルス及び第4の180°高周波パルスが省略され、及び/又は、
【数2】
回目に印加される第2の群において、第2の180°高周波パルス又は第4の180°高周波パルスが省略され、及び/又は、
【数3】
回目に印加される第3の群において、第3の180°高周波パルス及び第4の180°高周波パルスが省略される。特に、これらの省略される180°RFパルスは、90°RFパルスの直前にある180°RFパルスに対応する。
【0040】
本発明による方法のさらに別の実施例によれば、上記高周波パルスのシーケンスは、位相φ11を有するとともにプロトンに作用する第1の90°高周波パルスをさらに含み、第1の群の180°高周波パルスは、上記第1の90°高周波パルスの後、上記第1の時間間隔τA中にnA回連続して印加され、上記高周波パルスのシーケンスは、位相φ12を有するとともにプロトンに作用する第2の90°高周波パルスをさらに含み、第2の90°高周波パルスは、第1の90°高周波パルスの後に続き、第1の時間間隔τAの終わりにプロトンに印加され、第2の群の180°高周波パルスは、上記第2の90°高周波パルスの後、上記第2の時間間隔τB中にnB回連続して印加され、上記高周波パルスのシーケンスは、位相φ13を有するとともにプロトンに作用する第3の90°高周波パルスをさらに含み、第3の90°高周波パルスは、第2の90°高周波パルスの後に続き、第2の時間間隔τBの終わりにプロトンに印加され、第3の群の180°高周波パルスは、上記第3の90°高周波パルスの後、上記第3の時間間隔τC中にNC回連続して印加される。
【0041】
特に、第2の90°高周波パルスは、第1の90°高周波パルスから第1の時間間隔τAだけ離間し、第3の90°高周波パルスは、第2の90°高周波パルスから第2の時間間隔τBだけ離間している。
【0042】
さらなる実施例によれば、上記高周波パルスのシーケンスは、位相φ22を有するとともに少なくとも1つのヘテロ核に作用する第4の90°高周波パルスと、位相φ23を有するとともに少なくとも1つのヘテロ核に作用する後続の任意選択的な第5の90°高周波パルスとをさらに含み、特に第3の90°高周波パルスは、上記第4の90°高周波パルスと同時である。全般的に、すべての実施例では、第5の高周波パルスも省略することができる。したがって、それに応じて、後に続くパルスは番号変更することができる。
【0043】
さらに、特に、上記第5の90°高周波パルスは、第3の90°高周波パルス及び上記第4の90°高周波パルスから第3の時間間隔τCだけ離間している。
【0044】
本発明による方法の好ましい実施例によれば、第1の90°高周波パルスの位相φ11、第2の90°高周波パルスの位相φ12及び第3の90°高周波パルスの位相φ13は、共線的である。さらに、好ましくは、第5の90°高周波パルスの位相φ23は、第4の90°高周波パルスの位相φ22に対して直交する。特定の実施例によれば、個々の位相は、φ11=φ12=φ13=x、φ22=x、φ23=yに従い、つまり、位相φ11、φ12、φ13は、x方向に対応し、位相φ22は、x方向に対応し、位相φ23は、y方向に対応する。
【0045】
さらに、特に、過分極がSABREの設定において達成される場合では、本発明の一実施例によれば、上記高周波パルスのシーケンスは、位相φ14を有するとともにプロトンに作用する第6の90°高周波パルスをさらに含み、上記高周波パルスのシーケンスは、位相φ21を有するとともに少なくとも1つのヘテロ核に作用する第7の90°高周波パルスをさらに含み、一実施例では、第6の90°高周波パルスは、第5の90°高周波パルス(存在する場合)と同時であり、一実施例では、第7の90°高周波パルスは、第1の90°高周波パルスと同時であることが想定される。
【0046】
特に、これに関して、本発明の一実施例によれば、第1の90°高周波パルスの位相φ11、第2の90°高周波パルスの位相φ12、第3の90°高周波パルスの位相φ13及び第6の90°高周波パルスの位相φ14は、共線的であり、第7の90°高周波パルスの位相φ21は、φ21=φ23+πに対応することが想定される。特定の実施例では、個々の位相は、φ11=φ12=φ13=φ14=x、φ22=x、φ23=y、及びφ21=-yに従う。
【0047】
さらに、好ましい実施例によれば、高周波パルスのシーケンスは、上記第5の90°高周波パルス及び/又は第6の90°高周波パルスを印加した後、第4の時間間隔τDの経過後に繰り返され、特に、上記高周波パルスのシーケンスは、n回繰り返され、nは整数であり、好ましくは、上記整数nA、nB、nCは、nA=1、nB=1、及びnC=1であるように選択される。
【0048】
本発明による方法のさらなる実施例によれば、分子(例えば、パラ水素)と少なくとも1つのヘテロ核とを用意するステップはまた、さらなるヘテロ核を用意することであって、少なくとも1つのヘテロ核の核スピンがさらなるヘテロ核の核スピンに結合されている、用意することを含み、z方向における均一な磁場B0にプロトン及び少なくとも1つのヘテロ核を曝露するステップはまた、上記磁場B0にさらなるヘテロ核を曝露することを含み、少なくとも1つのヘテロ核の過分極に上記2スピン秩序を移動させるためにプロトン及び少なくとも1つのヘテロ核に高周波パルスのシーケンスを印加するステップはまた、さらなるヘテロ核の過分極への2スピン秩序の移動を含む。
【0049】
一実施例によれば、ヘテロ核及びさらなるヘテロ核は、同じ種とすることができる(すなわち、互いに同一とすることができる)。しかしながら、一実施例では、ヘテロ核及びさらなるヘテロ核はまた、互いとは異なるものとすることができ、すなわち、異なる種に属することができる。
【0050】
方法のさらなる実施例によれば、(2つのヘテロ核の過分極を達成するための)上記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
24を有するとともにヘテロ核に作用する、角度θの第6の高周波パルス(つまり、パルスがそれぞれのスピンをこの角度θだけ反転させる)であって、第3の90°高周波パルスから第4の時間間隔τ
Dだけ離間している、角度θの第6の高周波パルスをさらに含み、上記高周波パルスのシーケンスは、位相φ
25を有するとともにヘテロ核に作用する第7の90°高周波パルスを含み、第7の90°高周波パルスは、角度θの上記第6の高周波パルスから第5の時間間隔τ
Eだけ離間している、特に、一実施例では、τ
D及びτ
Eは、
【数4】
、及び
【数5】
に従って選択することができ、式中、nは、自由に選択することができる整数であり、J
34は、2つのヘテロ核(S
3及びS
4)間のJ結合である。
【0051】
特に、ヘテロ核についての効率(f1)及びさらなるヘテロ核についての効率(f2)は、f1=cos2θ、及びf2=sin2θとして示される。これは、ヘテロ核又はさらなるヘテロ核を過分極する場合の最大効率を決定するのに用いることができる(0°がcos2項を最大にし、90°がsin2項を最大にする)。両方の核において分極を等しく分布させるには、45°パルスが最良の結果を示す。したがって、一実施例によれば、θ=45°である。しかしながら、θについて他の値も考えられる。
【0052】
方法の好ましい実施例によれば、高周波パルスのシーケンスは、特に上記第5の90°高周波パルス(存在する場合)の後及び特に角度θの上記第6の高周波パルスの前に、位相Ψ27を有するとともにヘテロ核に作用する180°高周波パルスをさらに含み、上記高周波パルスのシーケンスは、角度θの第6の高周波パルスの後及び上記第7の90°高周波パルスの前に、位相Ψ28を有するとともにヘテロ核に作用する180°高周波パルスをさらに含む。
【0053】
特に、一実施例では、2つの180°高周波パルスの位相は、Ψ22=Ψ28=xであり、位相φ24=x及び位相φ25=yである。
【0054】
少なくとも1つのヘテロ核にスピン秩序を移動させる上述の方法は、過分極(つまり信号増幅)造影剤をもたらすために様々な異なる手順で適用することができる。
【0055】
特に、少なくとも1つのヘテロ核の過分極に上記2スピン秩序を移動させるために、プロトン及び少なくとも1つのヘテロ核に高周波パルスのシーケンスを印加する上記ステップの前に、上記分子(例えば、パラ水素pH2)は、
最終的に過分極造影剤の一部ではない伝達物質(例えば、SABREでは、ヘテロ核は触媒、例えばIR-lmesに一時的に結合される)であって、特に、少なくとも1つのヘテロ核の過分極に上記2スピン秩序を移動させた後で、伝達物質、上記分子(例えば、パラ水素)、及び造影剤として用いられる分子によって形成された中間状態が、崩壊又は分解し、過分極造影剤を放出する、伝達物質、
過分極造影剤の前駆体(例えば、ホスホ-エノール-ラクテート)であって、前駆体は最終的に過分極造影剤の一部であり、少なくとも1つのヘテロ核は、前駆体によって構成される、過分極造影剤の前駆体、
過分極造影剤の前駆体であって、その後、少なくとも1つのヘテロ核を含む造影剤(例えば、ピルビン酸塩、酢酸塩、乳酸塩のような代謝産物)を得るように分離される、過分極造影剤の前駆体。特に、前駆体は、代謝産物と、不飽和二重結合又は不飽和三重結合とを含む分子とすることができる。そのような不飽和結合パラ水素に添加される。したがって、水素化ステップ(すなわち、パラ水素の添加)の後、前駆体は例えば、酢酸エチル、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸シンナミル、乳酸シンナミル、ピルビン酸シンナミルとすることができる。
造影剤であって、少なくとも1つのヘテロ核が造影剤によって構成される、造影剤
のうちの1つに添加される。
【0056】
さらに、本発明による方法の一実施例では、上記少なくとも1つのヘテロ核は、ピルビン酸塩中に含まれる13C、酢酸塩中に含まれる13C、酢酸エチル中に含まれる13C、酢酸シンナミル中に含まれる13C(シンナミル部分の1-13C)、酢酸シンナミル中に含まれる13C(シンナミル部分の2-13C)、乳酸塩中に含まれる13C、ホスホラクテート中に含まれる31P、ホスホ-エノール-ラクテート中に含まれる13C、ホスホ-エノール-ラクテート中に含まれる31P、アセト酢酸中に含まれる13C、3-ヒドロキシ酪酸中に含まれる13C、アミノ酸中に含まれる13C、脂肪酸中に含まれる13C、ピルビン酸シンナミル中に含まれる13C、乳酸シンナミル中に含まれる13Cのうちの1つである、
【0057】
特に、ホスホ-エノール-ラクテートに関して、2スピン秩序をプロトン(例えば、パラ水素)から31Pに移動させることができるが、13Cも関係する可能性がある(2つのヘテロ核への2スピン秩序の移動)。特に、2スピン秩序をプロトンからヘテロ核に、次いでさらなるヘテロ核に移動させることができ、2つのヘテロ核は、RFパルスの印加によって別個に処理可能である。特に、上記移動は、中間スピン状態により実現することができる。特に、この状況は、ヘテロ核及びさらなるヘテロ核が、同じ種(例えば、13C)であるとともに大きな化学シフトによって分離されるか又は異なる(例えば、ヘテロ核が31Pに対応し、さらなるヘテロ核が13Cに対応する)場合に当てはまる。特に、ホスホラクテートの場合、31Pと13Cとの間のスピン状態である、中間スピン状態は、最終的に13Cの信号を増幅させるのに必要とされる。
【0058】
方法のさらなる実施例によれば、少なくとも1つのヘテロ核の上記過分極は、有機溶媒中で触媒の存在下で達成される。理想的には、溶媒は、水と共沸混合物を形成するのではなく、1つの位相を形成する。そのような溶媒は例えば、アセトン及びメタノールである。
【0059】
方法のさらなる実施例によれば、少なくとも1つのヘテロ核の過分極の後、水溶液が有機溶媒に添加される。
【0060】
好ましくは、一実施例では、水溶液は、過分極した少なくとも1つのヘテロ核を含む前駆体を開裂して過分極造影剤を得るように構成された開裂剤を含み、特に、前駆体は、代謝産物前駆体であり、特に、造影剤は、代謝産物造影剤である。好ましくは、開裂剤は、酸、塩基、酵素のうちの1つである。特に、実例は、金属水酸化物(NaOH、KOH、CsOHなど)、金属炭酸塩(NA2CO3、K2CO3、Cs2CO3など)、アミン(トリメチルアミンなど)、ピリジンによる塩基性加水分解である。さらなる実例は、蒸発によって除去することができる、強酸、特に無機酸及び有機酸、特にトリフルオロ酢酸による酸加水分解である。さらに別の実例によれば、エステラーゼ(加水分解酵素)などの酵素を使用することができる。
【0061】
方法のさらなる実施例によれば、触媒を捕捉するため、水溶液を有機溶媒に添加する前又は添加した後に錯化剤が有機溶媒に添加される。例えば、有機溶媒に可溶性であるのは、ジチゾン、1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトールなどである。錯化剤は、より容易な濾過のためにマイクロビーズ上に固定化することができる。特に、一実施例によれば、錯化剤は、金属又は他のリガンドを結合するチオール基を有する微粒子を含む。
【0062】
方法のさらなる実施例によれば、有機溶媒は蒸発される。
【0063】
方法のさらなる実施例によれば、有機溶媒の蒸発は、真空を適用することによって促される。
【0064】
方法のさらなる実施例によれば、有機溶媒の蒸発は、溶液を通るストリッピング・ガス流によって促される。ストリッピング・ガスは、任意のガス又は蒸気、好ましくは不活性ガス、例えば窒素、水素とすることができる。ストリッピング・ガスは、真空と組み合わせられるとより効率的である。ストリッピング・ガスは、意図的に添加することができるか、又は、設定において残留ガス圧(例えば、水素)が溶液を通って流れる際に真空を適用する結果とすることができる。
【0065】
方法のさらなる実施例によれば、過分極造影剤を含む注射液を得るため、水溶液を濾過して、蒸発時に沈殿した少なくとも1つの副産物(例えば、触媒、開裂後の側鎖など)を除去する。特に、造影剤が水中で難溶性である場合、有機溶媒が注射液に添加され、有機溶媒は、例えばエタノールである。
【0066】
本発明による方法の代替的な実施例によれば、造影剤の一部を形成する少なくとも1つのヘテロ核の上記過分極は、溶媒中で達成され、溶媒は、水溶液、有機溶液、水溶液と有機溶液との混合物のうちの1つである。
【0067】
ここで、一実施例では、溶媒は蒸発され、過分極造影剤を例えば固体形態で残す。
【0068】
方法のさらなる実施例によれば、造影剤は、造影剤が溶解しない溶媒で洗浄される。特に、溶媒は、クロロホルム、ジエチル・エーテル、ヘプタン、非極性溶媒のうちの1つとすることができる。
【0069】
さらに、本発明による方法の一実施例によれば、それぞれの高周波パルスは、矩形パルス、周波数選択パルス、矩形形状から逸脱した形状を有する整形パルスのうちの1つである。特に、周波数選択パルスは、分子のほんの僅かな共鳴(すなわち、信号)に作用するパルスであり、全スペクトルを励起しない。さらに、整形パルスは、矩形(すなわち、ハード)パルスから逸脱する。整形パルスを用いると、スペクトルにおける共鳴の励起を高めることができるだけでなく、励起時により良好な選択性が達成され得る。したがって、整形パルスは、周波数選択パルスとしても働く。
【0070】
一実施例では、本発明によるシーケンスでは、各パルスは矩形パルスとすることができる。しかしながら、各矩形パルスの代わりに周波数選択パルス又は整形パルスを用いることができる。さらなる実施例では、特に、180°高周波パルスのそれぞれは、周波数選択パルス又は整形パルスとすることができ、その一方、残りのパルスは、例えば矩形パルスとすることができる。
【0071】
さらに、一実施例によれば、本明細書において説明するシーケンスにおける、ヘテロ核に対するそれぞれの最後の高周波パルスは、特に、磁化の一部分(fraction)を直接観察するため、及び、磁化の残りを保存するため、z軸に沿って磁化を傾けるのに用いることができるか、又は、任意の方向に磁化を傾けるのに用いることができる。代替的に、この最後のパルスは、z軸に沿って磁化を傾けてすべての磁化を直接観察することを可能にする場合には省略することもできる。
【0072】
特に、z成分を、後での取得のために磁化が保存される方向と呼ぶことができる。もっぱら信号の一部及び後でその残りを取得することを望む場合、磁化全体をz方向に反転させなくてもよい。
【0073】
特に本明細書において説明するそれぞれのシーケンスの全般的な目標は、磁化を生じさせることであり、これはパルス・シーケンスの最後に達成される。最後の90°パルスが、保存のためにz方向に磁化をもたらす。このパルスが印加されない場合、信号は、直接観察することができる。
【0074】
さらに、方法の一実施例では、造影剤を含む注射液を得るため、造影剤が溶液、例えば生理学的緩衝液(例えばPBS又はHEPES)に添加される。
【0075】
本発明のさらに別の態様によれば、過分極造影剤を得る方法が開示される。これによれば、方法は、
2スピン秩序を形成する2つのプロトンを含む分子(例えば、パラ水素)を過分極造影剤の前駆体に添加するステップと、
造影剤を得るように前駆体を分離するステップと、
過分極造影剤を得るように造影剤の少なくとも1つのヘテロ核の過分極に2つのスピン秩序を移動させるステップと、
を含む。
【0076】
上述したように、前駆体を分離することは必須ではない。特に、造影剤は、水素化後に直接得ることもできる。
【0077】
特に、この方法の一実施例では、少なくとも1つのヘテロ核の過分極に2スピン秩序を移動させることは、本明細書において説明するような本発明による方法を用いて行われる。
【0078】
本発明のさらに別の態様によれば、少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)の過分極に分子の2スピン秩序を移動させる方法であって、
2つのプロトン(H
1、H
2)を含む分子と少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)とを用意するステップであって、プロトンは、核スピンが少なくとも1つのヘテロ核(S
3、S
4)の核スピンに結合されており、プロトンと少なくとも1つのヘテロ核との間のJ結合が、2つのプロトン間のJ結合よりも大きい(例えば、
図1及び
図5を参照)、用意するステップと、
高周波パルスを用いて少なくとも1つのヘテロ核に2スピン秩序を移動させるステップと、
を含む、方法が開示される。
【0079】
特に、プロトン及び少なくとも1つのヘテロ核は、(例えば、z方向における)(例えば、静)磁場(B0)に曝露することができる。代替的に、高周波パルス以外、ヘテロ核及びプロトンはまた、別個の(例えば、静)磁場に全く曝露されなくてもよい。つまり、本発明のこの態様による方法は、磁場に関して磁場に関係なく用いる/行うことができる。
【0080】
概して、本発明は特に、縦又は2スピン秩序を生成することができる場合(上記も参照)に外部磁場とは関係ないパルス伝達方法を最適に適用することを可能にする。これは通常、ほぼ例外なく高磁場で達成される。しかしながら、このスピン状態はまた、上記で示した初期条件が満たされる場合、すなわち、プロトンと少なくとも1つのヘテロ核との間のJ結合が2つのプロトン間のJ結合よりも大きい場合、低磁場で達成される。本明細書において提示するパルス・シーケンスは、本発明のこの態様の特定の実例である。本発明によるパルス・シーケンスの特定の実施を、例えば、表2及び表3における分子酢酸シンナミル(2)について述べ、パルス・シーケンスの条件が磁場に関係ないことを示す。さらに、請求項18に特許請求される本発明の上述のさらなる態様は、本明細書において開示する本発明による方法の個々の特徴及び実施例によってさらに明記することができる。
【0081】
本発明のさらに別の態様によれば、造影剤を含む注射液を得る方法であって、
少なくとも1つのヘテロ核の過分極が、有機溶媒中で触媒の助けにより行われ、少なくとも1つのヘテロ核の過分極の後、水溶液が有機溶媒に添加され、水溶液は、過分極した少なくとも1つのヘテロ核を含む前駆体を開裂して過分極造影剤を得るように構成された開裂剤を含むことができ、触媒を捕捉するため、水溶液を有機溶媒に添加する前又は添加した後に錯化剤を有機溶媒に添加することができ、有機溶媒は、ストリッピング・ガスによって蒸発又は除去することができ、造影剤を含む注射液を得るため、水溶液を濾過して、蒸発時に沈殿した副産物及び/又は不純物を除去することができ、
或いは
造影剤の一部を形成する少なくとも1つのヘテロ核の過分極が、溶媒中で行われ、溶媒は、水溶液、有機溶液、水溶液と有機溶液との混合物のうちの1つであり、溶媒は、ストリッピング・ガスを用いることによって蒸発又は除去され、過分極造影剤を特に固体形態で残し、造影剤は、造影剤が溶解しない溶媒で洗浄され、造影剤を含む注射液を得るため、造影剤は溶液に添加される、方法が開示される。
【0082】
特に、この方法は、本明細書において説明する様々な過分極方法に関する特徴及び実施例に基づいてさらに明記することができる。
【0083】
本発明のさらなる実施例、特徴及び利点を、図を参照しながら以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】J
12:パラ水素の2つのプロトン間のJ結合、δ
HH:2つのプロトン間の化学シフト、J
13:一方のプロトンとヘテロ核S
3との間の結合、及びJ
23:他方のプロトンとヘテロ核S
3との結合である、関連する結合を有する、核スピン・ネットワークを示す。
【
図2】3つの(特に異なる)時間間隔τ
A、τ
B及びτ
C並びに180°パルスの3つの繰り返し可能な群(ブロックとしても示される)N
A、N
B及びN
Cを含む、効率的な分極移動のための本発明による方法の一実施例の図を示す。
【
図3】強い非等価レジーム(strong non-equivalent regime)における結合及び時間間隔τ
Aに関した、本発明による方法の移動効率を示す。
【
図4】広帯域移動効率の描写(左側)と、強い非等価レジームにおける固定時間についての一例とを示す。
【
図5】さらなるヘテロ核を有する拡張スピン系を用いた方法の一実施例を示す。
【
図6】
図5に示したような2つのヘテロ核にスピン秩序を移動させるパルス・シーケンスを示す。かぎとなるのは角度Θを有するパルスであり、複数のヘテロ核(例えば、
図5のS
3及びS
4)間にスピン秩序を分離することを可能にする。
【
図7】τ
Dが、シーケンスの最後でH
2-触媒錯体に結合された基質の放出を可能にする遅延である、SABREに関して適用されるシーケンスの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0085】
図2に示すように、本発明は、数秒以内に多数の造影剤を増幅するのに使用することができる効率的な広帯域方法を提供する。有利には、方法は、PHIP及びSABREの両方に用いることができる。方法は、パラ水素pH
2(
図1を参照)のプロトンH
1、H
2によって生じるロバストな2スピン秩序を用いるが、個々のJ結合間に僅かな差(>0.1Hz)しかない場合でも高い効率(>90%)を達成する。この秩序をヘテロ核スピンの過分極に効率的に転換するのに高周波パルスが使用される。このスピン秩序移動を達成するための例示的なNMRパルス・シーケンスが
図2に示されている。
【0086】
特に、一実施例(
図1及び
図2を参照)によれば、方法は、2つのプロトンを含むパラ水素(pH
2)などの分子系と少なくとも1つのヘテロ核S
3とを用意するステップであって、プロトンH
1及びH
2(
図1を参照)は、核スピンが少なくとも1つのヘテロ核S
3の核スピンに結合されている(パラ水素は、以下でさらに説明する種々のやり方で造影剤を製造する際に関係する前駆体又は伝達物質に添加することができる)、用意するステップと、z方向における磁場B
0(特に、磁場B
0は均一な磁場とすることができる)にプロトン及び少なくとも1つのヘテロ核を曝露するステップであって、z方向は、x方向及びy方向とともに右手系直交座標系を形成する、曝露するステップと、上記2スピン秩序を少なくとも1つのヘテロ核S
3の過分極に移動させるために、高周波(RF)パルスのシーケンスをプロトンH
1及びH
2並びに少なくとも1つのヘテロ核S
3に印加するステップであって、上記高周波パルスのシーケンスは、3つの繰り返し可能な群(ブロックとしても示される)N
A、N
B、N
Cでの180°RFパルスを含み、整数n
A、n
B、n
Cは、それぞれの群の繰り返し数を示す、印加するステップと、を含む。第1の時間間隔τ
Aは、第1の群N
Aのすべての繰り返しの持続時間を示す。同様に、第2の時間間隔τ
B及び第3の時間間隔τ
cは、第2の群N
B及び第3の群N
Cについてのこれらの持続時間を示す。
【0087】
特に、
図2における実例は、n
A=n
B=n
C=1及びτ
A=τ
Cに対応する。
【0088】
第1の群NA及び第3の群NCはそれぞれ、プロトン1Hチャネルにおいて、位相Ψ11、Ψ12及びΨ15、Ψ16有する2つの180°高周波パルスP1、P3及びP7、P9と、ヘテロ核Sチャネルにおいて、位相Ψ21、Ψ22及びΨ25、Ψ26有する2つの180°高周波パルスP2、P4及びP8、P10とを含み、パルスP1はパルスP2と同時であり、パルスP3はパルス4と同時であり、パルスP7はパルスP8と同時であり、パルスP9はパルスP10と同時である。しかしながら、それぞれの同時性は厳密ではなく、パルス対であるP1及びP2、P3及びP4、P7及びP8、並びにP9及びP10はそれぞれ、或る時間間隔だけ時間的な隔たりがあり得る。示唆されることは、化学シフト、J結合及びRFオフセットによって引き起こされる展開が、1Hチャネル及びSチャネルにおけるパルス間の時間的隔たりの間ごく僅かであることである。特に、好ましい同時RFパルス(例えば、P1及びP2、P3及びP4、P7及びP8、並びにP9及びP10)に対する間の時間間隔は、100ms未満、特に10ms未満、特に1ms未満である。
【0089】
特に、第2の群NBは単に、プロトン・チャネルにおいて、位相Ψ13、Ψ14を有する2つの後続の180°パルスP5、P6を含むにすぎない。
【0090】
さらに、高周波パルスのシーケンスは、
図2に示すように、プロトン・チャネルにおいて、プロトン・チャネルにおいて続けて作用する、位相φ
11を有する第1の90°高周波パルスRF1、位相φ
12を有する第2の90°高周波パルスRF2、及び位相φ
13を有する第3の90°高周波パルスRF3と、ヘテロ核S
3チャネルにおいて続けて作用する、位相φ
22を有する90°高周波パルスRF4及び位相φ
23を有する90°高周波パルスRF5とをさらに含む。
【0091】
図2に示すように、それぞれの群N
A、N
B、N
Cの180°パルスは、後続の90°パルスRF1、RF2;R2、RF3/RF4;RF3/RF4、RF5の間に印加される。
【0092】
特に、90°高周波パルスRF3は、上記90°高周波パルスRF4が少なくとも1つのヘテロ核S
3に印加される同じ時間T3においてプロトンH
1、H
2に印加される。さらに、特に、2つのチャネルにおける90°パルスは、図示のパルス・シーケンスにおいて上記時間間隔τ
A、τ
B、及びτ
Cだけ互いから隔てられている。さらに、
図2に示すように、各群の最後の繰り返しのそれぞれの第2の180°パルスP3、P4、P6、P9、P10は、後続の90°パルスRF2、RF3/RF4、RF5の直前にある。
【0093】
特に、後続の90°パルスRF2、RF3/RF4、RF5の直前にある、各群NA、NB、NCの最後の繰り返しのこれらの180°パルスP3、P4、P6、P9、P10は、一実施例では省略され、それに応じて90°RFパルスの位相が調整される。
【0094】
さらに、任意選択で、第2の群N
Bは、ヘテロ核チャネルにおいて、位相Ψ
23及びΨ
24を有するさらなる180°RFパルスP11、P12を含むことができる。これらの任意選択的なRFパルスP11、P12はまた、本発明による方法の他の実施例(
図6及び
図7を参照)において存在することができる。低磁場において、これらの任意選択的な180°RFパルスP11、P12は、条件がプロトンの等価へ向かう場合にシーケンスの効率を高めることに役立つ。
【0095】
z方向が磁場B0と位置合わせされる座標系に関してそれぞれのRFパルスの方向に対応する、個々のRFパルスの位相の特定の選択は例えば、
第1の90°高周波パルスRF1の位相φ11、第2の90°高周波パルスRF2の位相φ12、及び第3の90°高周波パルスRF3の位相φ13がすべて共線的であり、
第5の90°高周波パルスRF5の位相φ23が、第4の90°高周波パルスRF4の位相φ22に対して直交する
ことによって示される。
【0096】
特定の実施例では、φ11=φ12=φ13=x、φ22=x、φ23=y、すなわち、第1の90°RFパルスRF1、第2の90°RFパルスRF2、第3の90°RFパルスRF3がx方向にあり、第4の90°RFパルスがx方向にあり、第5の90°RFパルスがy方向にあるように選択することができる。
【0097】
さらに、各群の各チャネルにおける180°パルスの位相は、180°だけ互いに対してシフトすることができる。特に、各群の各チャネルにおける180°パルスの位相は、xと-xとで交互となることができる。
【0098】
特に、一実施例では、180°RFパルスの位相は、Ψ11=Ψ13=Ψ13=x、Ψ12=Ψ14=Ψ16=-x、Ψ21=Ψ25=x、及びΨ22=Ψ26=-xとすることができる。特に、180°RFパルスP11及びP12が存在する場合、Ψ23=Ψ21及びΨ24=Ψ26を選択することができる。
【0099】
一般に、上述した移動メカニズムを利用することができる、所望の造影剤を得るための以下の3つのプロセスを認めることができる。
1)パラ水素を、最終的に信号増幅分子の一部ではない伝達物質に添加する。この伝達物質は、造影剤前駆体の不飽和結合(PHIP)又は一時的に安定しているにすぎない金属錯体(SABRE)のどちらかである。その後、スピン秩序を所望の化合物内でパラ水素からヘテロ核へ移動させる。その後、一時的に安定な分子が崩壊するか又は前駆体が分解されて、所望の造影剤を得る。
2)パラ水素を造影剤前駆体(又は造影剤)に添加し、造影剤前駆体は最終的に造影剤の一部である。スピン秩序を同じくヘテロ核に移動させて増幅信号を生成する。ここで、例えば、水素化のために不飽和前駆体を安定させるように保護基を使用することもできる。これらを次いで分離して造影剤を得る。
3)パラ水素を前駆体に添加し、この前駆体を次いで分離して造影剤を得る。分離の後にのみ、スピン秩序がヘテロ核に移動する。このプロセスは、添加後のプロトン分極が長寿命を有する場合に特に有用である。さらに、このプロセスは、移動にとってより好適な結合ネットワークをつくり出すのに有用とすることができる。
【0100】
細目1)~3)で挙げた一般的な手順のそれぞれは、本発明によるロバストで効率的な広帯域スピン秩序移動方法から大いに恩恵を受ける。
【0101】
さらに、特に、本発明による方法は、以下の少なくとも3つのシナリオのうちの1つにおいて用いることができる。
A)考慮されるスピンはすべて、2スピン秩序の生成の必須条件として弱結合される(化学シフトはすべてJ結合よりも大きい)。以下、これを高磁場例と呼ぶ。
B)水素化反応は、A)で述べた条件下で、高磁場で行われ、その条件が当てはまらない、移動の試みについて、より低い磁場B0に至らしめられる。本発明による方法によって、ヘテロ核の所望の分極を生じさせることが依然として可能である。以下、これを低磁場例と呼ぶ。
C)方法は、プロトン-ヘテロ核結合がすべての他の結合よりもはるかに大きい、特に、少なくとも3倍大きい、特に少なくとも5倍大きい、特に少なくとも10倍大きい場合、磁場に関係なく用いることができる。
【0102】
高磁場例
高磁場例では、nA=nB=nC=1及びτA=τCという条件は好ましくは、一実施例に従って用いられる。スピン秩序の移動効率|fWC|を評価するために、以下の略記が導入される。
ΔJ=||J13|-|J23||
ΣJ=|J13|+|J23|
【0103】
これらの関係によって、種々の時間間隔τ
A、τ
B、τ
Cに関して、最適な移動条件を選択することが可能である。移動効率を
図3に示す。
【0104】
簡略化表現のため、
図4は、
図3による効率及び可能なパラメータ・パスの一次元投影を示す。
【0105】
特に、効率の表現は、方法を広帯域で用いることができること、したがって、方法が先行技術を超えることを示す。
【0106】
C)で上述した例、より詳しくは、非常に大きなプロトン-ヘテロ核結合に、
図2の同じシーケンスを使用することができる。
【0107】
以下の表1、2及び3は、関連する分子及びその最適化パラメータの実例を提示する。最も関連する分子は、ピルビン酸塩、酢酸塩及び乳酸塩、並びに他のカルボン酸であり、これらはすべて、同様の結合ネットワークを有する。
【0108】
特に、以下の表では、酢酸エチル及び酢酸シンナミルがそれぞれ、造影剤の前駆体を形成し、その一方、ホスホラクテートが造影剤に対応する。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
低磁場例
上述の例B)では、最も高い可能な効率は、n
A、n
B及びn
C、並びに時間τ
A、τ
B及びτ
Cが互いにそれぞれに考慮され、結合に関して最適化される場合に、
図2の図示のパルス・シーケンスで達成される。
【0113】
複数のヘテロ核の信号増幅器
1つだけのヘテロ核の信号を増幅することに加え、複数のヘテロ核を過分極する、例えば、種々の代謝経路を観察することが有用であり得る。これはまた、
図2に示すシーケンスを拡張することによって可能である。考慮されるスピン系が
図5に示されており、別のヘテロ核S
4によって拡張されている。これは、2つのヘテロ核間に別の化学シフトδ
SS及びJ
34を加える。前述のシーケンスの拡張を
図6に示す。
【0114】
それによれば、スピン秩序の移動を達成するのに使用される高周波パルスのシーケンスは、位相φ24を有する(例えば、このパルスはx方向にあるものとすることができる)とともにヘテロ核Sチャネルに作用する、90°高周波パルスRF3から第4の時間間隔τDだけ離間している、角度θの高周波パルスRF8をさらに含む。さらに、シーケンスは、位相φ25(例えば、y方向)を有するとともに、ヘテロ核Sチャネルに作用するさらなる90°高周波パルスRF9を含み、このさらなる90°高周波パルスRF9は、角度θの上記高周波パルスRF8から第5の時間間隔τEだけ離間している。
【0115】
特に、τ
D及びτ
Eは、
【数6】
、及び
【数7】
に従って選択することができ、式中、nは整数であり、J
34は2つのヘテロ核S
3及びS
4(
図5を参照)間のJ結合である。
【0116】
さらに、上記90°高周波パルスRF5の後及び角度θの上記高周波パルスRF7の前に、位相Ψ27(例えば、x方向)を有する別の180°高周波パルスP13が、ヘテロ核チャネルSにおいて印加される。さらに、角度θの高周波数RF7の後及び90°高周波パルスRF9の前に、位相Ψ28(例えば、x方向)を有する180°高周波パルスP14が、ヘテロ核Sチャネルにおいて印加される。
【0117】
さらに、S3及びS4への移動を表す、
図6のシーケンスについて、時点T4で開始する、
1Hのデカップリングを加えることができ、RFパルスP13、RF8及びP14は、S
3及びS
4に対する分極を調節するように、S
3とS
4との間の化学シフト差よりもはるかに大きいパワーを含む単一連続波(CW)照射によって交換することができる。
【0118】
さらに、
図6によるシーケンスではまた、第2の群N
Bが、ヘテロ核チャネルにおいて、位相Ψ
23及びΨ
24を有する任意選択的なさらなる180°RFパルスP11、P12を含むことができる。
【0119】
さらに、
図6に示すシーケンスのさらに別の変更によれば、高周波パルスRF5を省略することができる。
【0120】
さらに、
図7は、SABREシーケンスに関する、本発明による方法のさらなる実施例を示す。特に、SABREは、パラ水素分子、触媒及び基質(並びに溶媒を含む他の支援用共リガンド)が合わさってレービル錯体を形成するPHIP法を指す。錯体は、パラ水素から基質の標的ヘテロ核への移動分極に十分に長い間存続する。基質が次いで、化学的非修飾形態で放出され、水素分子も放出される場合、触媒は、別の移動サイクルの準備完了状態のままとなる。
【0121】
水素化PHIPに関して、SABREにおいて標的ヘテロ核にパラ水素の秩序を移動させる2つのやり方、すなわち、第1の方式が、種々の磁場においてサンプルを通すことを必須にし(磁場循環法)、第2の方式が、1つの固定磁場において高周波パルス及び遅延を利用する(RF法)、という2つのやり方がある。
【0122】
適切な変更によって、既知のESOTHERICパルス・シーケンス(「Pulsed Magnetic Resonance to Signal-Enhance Metabolites within Seconds by utilizing para-Hydrogen」、ChemistryOpen 2018年、7,344-348、Sergey Korchak、Shengjun Yang、Salvatore Mamone、及びStefan Gloggler著を参照)を、PHIP-SABREにおいてスピン秩序を移動させるように適合させることができる。SABRE分極移動において、2つの基質プール、すなわち、一方は、基質が触媒-H2錯体に結合された状態であり、他方は、基質が自由である、2つの基質プールの存在を考慮する必要がある。
【0123】
以下、
結合される水素-触媒-基質におけるH2を除き、基質の重水素化を必要とする可能性がある、ヘテロ核に直接j結合される核スピンは存在しないこと、又は
ヘテロ核に直接j結合されたプロトンが存在する場合、プロトンを選択的にデカップリングすることができるか、又は誘起発生をタイミングの適切な選択によってリフォーカスすることができること、
が想定される。
【0124】
本来のESOTHERICと比較すると、変更は特に、以下にある。
H
2-触媒-基質錯体が形成され、シーケンス
【数8】
の持続時間すべてにわたって維持され、式中、fは移動の効率である、分子に対する
遅延τ
D後、錯体が解離する、すなわち、
【数9】
であり、
ヘテロ核チャネルにおいて、90°パルスが第1のブロックに印加され、2つの180°パルスが第2のブロックの約1/4及び3/4においてそれぞれ印加される。自由な基質プールの磁化について全体として
【数10】
であり、
1Hチャネルにおいて、最後のブロックの終わりにおける90°パルスは、自由であるか又は(H2-触媒-基質なし錯体)にあるかのどちらかであるH2分子すべてについてI
1ZI
1Z→I
1ZI
1Zであることを確実にする。このパルスは任意選択である。
最後に、ループは、結合された基質のプールから自由な基質のプールへのポンプ分極に適用される。
【0125】
ループにおけるサイクル毎に、最大スピン秩序I1ZI2ZがH2-触媒-基質錯体に存在することが重要である。これは、ループ・サイクルの開始において発泡時間を導入することによって、又はパラH2の連続発泡によって達成することができる。
【0126】
この簡略化されたモデルでは、自由な基質において到達可能な最大分極は、
【数11】
であると示すことが可能であり、
その際、繰り返されるシーケンスの適用時、
【数12】
の緩和はごく僅かである。f=1の場合、最大の50%分極が自由な基質に移動することができる。
【0127】
特に、
図7に示すように、シーケンスは、3つの群の180°RFパルスを含み、第1の群N
Aが、プロトン・チャネルにおいて180°RFパルスP1、P3及びヘテロ核チャネルにおいて180°RFパルスP2、P4を含み、パルスP1、P3、P2、P4は、位相Ψ
11、Ψ
12、Ψ
21、Ψ
22を有する。さらに、第2の群N
Bが、プロトン・チャネルにおいて180°RFパルスP5、P6及びヘテロ核チャネルにおいて180°RFパルスP11、P12を含み、パルスP5、P6、P11、P12は、位相Ψ
13、Ψ
14、Ψ
23、Ψ
24を有する。さらに、第3の群N
Cが、プロトン・チャネルにおいて180°RFパルスP7、P9及びヘテロ核チャネルにおいて180°RFパルスP8、P10を含み、パルスP7、P9、P8、P10は、位相Ψ
15、Ψ
16、Ψ
25、Ψ
26を有する。
【0128】
各群において、180°RFパルスは、第1の時間間隔τA、第2の時間間隔τB及び第3の時間間隔τC中に印加される。特に、一実例として、それぞれの時間間隔は、3秒以下とすることができる。
【0129】
特に、第4の時間間隔τDは、シーケンスの最後でH2-触媒錯体に結合された基質の放出を可能にする遅延である。シーケンスの特定の実施例では、RFパルスの位相(方向)について以下の値を選択することができる。
サブブロック毎に、同じチャネルにおける2つの180°パルスの位相を互いに対して180度だけシフトさせる。
1Hチャネルにおける90°パルスの位相(φ11、φ12、φ13、φ14)が共線的である。
位相φ22は自由に選択することができる。
位相φ23はφ22に対して直交する。
位相φ21=φ23+π。特定の選択は、xと-xとで交互となる、各サブブロックにおけるすべての位相であり、φ11=φ12=φ13=φ14=x、φ22=x、φ23=y、φ21=-yである。
【0130】
シーケンスの他の実用的な実施例では、90°パルスに先立つ180°パルスのいずれも、後続の90°パルスの位相の適切な調整により、遅らせる(dropped)ことができる。
【0131】
同様に、任意選択で、第2の群NBは、ヘテロ核チャネルにおいて、位相Ψ23及びΨ24を有するさらなる180°RFパルスP11、P12を含むことができる。
【0132】
特に、180°RFパルスP11及びP12が存在する場合、Ψ23=Ψ21及びΨ24=Ψ26を選択することができる。
【0133】
造影剤の精製
信号増幅のための反応及び造影剤の処理を以下に説明する実例に従って導くことができる。
【0134】
特に、過分極を有機溶媒中の触媒によって達成する。理想的には、溶媒は、水と共沸混合物を形成するのではなく、位相を形成する。そのような溶媒は例えば、アセトン及びメタノールである。ヘテロ核の信号増幅(例えば、本明細書において説明するような)の後、水溶液を反応混合物に添加する。水溶液は、信号増幅された代謝産物を得るために代謝産物前駆体を分解する基質(例えば、酸又は塩基又は酵素)を含有し得る。加えて、使用した触媒を捕捉するために溶液に錯化試薬を添加してもよい。錯化剤は例えば、錯体中で貧溶性である金属又は他のリガンドと結合するチオール基を有する微粒子である。このステップは、有機溶媒中への水の添加の前に既に予め実行することができる。次いで、有機溶媒を蒸発させ、蒸発は、ストリッピング・ガスにより溶媒を除去することも意味し得る。蒸発は、ストリッピング・ガスの有無を問わず、真空を適用することによって促すことができる。ストリッピング・ガスは、意図的に添加することができるか、又は、真空を適用した後での設定におけるガス(例えば、水素)の残圧の結果とすることができる。
【0135】
このプロセス中、副産物及び不純物(触媒、分解後の側鎖など)が沈殿する可能性があり、これらは次いで、水溶液を濾過することによって除去される。最後に、造影剤を有する純粋な注射液が得られる。水中で難溶性である造影剤については、例えばエタノールの形態の有機溶媒を注射液に添加することができる。
【0136】
代替的に、造影剤を、水溶液若しくは有機溶液又はその混合物中で過分極させることができる。次いで、溶媒を蒸発させ、造影剤を残す。次いで、造影剤を、造影剤が溶解しない溶媒で洗浄することができる。溶液中での造影剤の吸収の結果、純粋な注射液が得られる。
【0137】
特定の実例(特にPHIPの文脈に関する)によれば、アセトンd6中の100mMピルビン酸フェニルアセチレン及び2mMロジウム触媒の0.5ml溶液を7barsのp-H2を用いて50Cで水素化して、ピルビン酸シンナミルを得る。圧力を解放する。0.1mlの10mMキレート剤(ジチゾン又は別の水中で不溶性のもの)をアセトン溶液に添加した。水中で0.5mlの100mM炭酸ナトリウムを添加して前駆体を2秒で加水分解し、ピルビン酸塩及びシンナミル・アルコールを遊離(free)する。アセトンを真空下で(残留水素ガスが溶液を通って流れ、溶液と混合し、したがって蒸発を促す)蒸発させ、0.2ml濃縮PBSバッファを添加する。溶液を濾過して、シンナミル・アルコール、錯化されたロジウム及び不溶性触媒残渣を除去し、生理学的PBSバッファ中に純粋なピルビン酸を残す。
【0138】
その上、さらに別の特定の実例(SABREの情況に関する)によれば、メタノールd3中の100mM 15Nニコチン酸及び2mMイリジウム触媒の0.5ml溶液に、20秒間、7bars p-H2を用いて30Cで水素を供給する。圧力を解放する。0.1mlの10mMキレート剤(ジチゾン又は別の水中で不溶性のもの)をメタノール溶液に添加する。0.5mlの生物学的PBSバッファを添加する。メタノールを真空下で蒸発させる。溶液を濾過して、錯化されたイリジウム及び不溶性触媒残渣を除去し、生理学的PBSバッファ中に純粋なニコチン酸を残す。
【0139】
さらに、一実施例によれば、本明細書において説明する又は
図2、
図6、
図7に示すシーケンスすべてにおいて、ヘテロ核に対する最後の高周波パルスを用いて、z軸に沿って磁化を傾ける。原則的に、この高周波パルスは、磁化の一部分を直接観察すること及び磁化の残りを保存することを望む場合、任意の値とすることができる。この高周波パルスは、磁化のすべてを直接観察することを望む場合、除くことができる。
【0140】
本発明は、以下の項目をさらに包含するがそれらに限定されない。したがって、各項目は、項目に述べる従属項に記載の他の請求項に関連することができる、本出願の特許請求の範囲としても明確に述べることができる。括弧内に記載される参照番号は上記の図に関連する。
【0141】
項目1:少なくとも1つのヘテロ核の過分極に分子の2スピン秩序を移動させる方法であって、
2つのプロトンを含む分子と少なくとも1つのヘテロ核(S3、S4)とを用意するステップであって、前記プロトンは、核スピンが前記少なくとも1つのヘテロ核の核スピンに結合されている、用意するステップと、
z方向における磁場(B0)に前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核を曝露するステップであって、前記z方向は、x方向及びy方向とともに右手系直交座標系を形成する、曝露するステップと、
前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極に前記2スピン秩序を移動させるために、前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核に高周波パルスのシーケンスを印加するステップであって、前記高周波パルスのシーケンスは、第1の群(NA)、第2の群(NB)、及び第3の群(NC)の180°高周波パルスを含み、前記第1の群(NA)の180°高周波パルスは、第1の時間間隔(τA)中にnA回連続して印加され、前記第2の群(NB)の180°高周波パルスは、最後の前記第1の群の後、第2の時間間隔(τB)中にnB回連続して印加され、前記第3の群(NC)の180°高周波パルスは、前記最後の第2の群の後、第3の時間間隔(τC)中にnC回連続して印加され、nA、nB、nCはそれぞれ整数である、印加するステップと、
を含む、方法。
【0142】
項目2:前記第1の群(NA)の180°高周波パルスは、位相Ψ11を有するとともに前記プロトンに作用する第1の180°高周波パルス(P1)と、位相Ψ21を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)に作用する第2の180°高周波パルス(P2)とを含み、前記第1の群(NA)の180°高周波パルスは、位相Ψ12を有するとともに前記プロトンに作用する第3の180°高周波パルス(P3)と、位相Ψ22を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)に作用する第4の180°高周波パルス(P4)とを含む、項目1に記載の方法。
【0143】
項目3:前記第2の群(NB)の180°高周波パルスは、位相Ψ13を有するとともに前記プロトンに作用する第1の180°高周波パルス(P5)と、位相Ψ14を有するとともに前記プロトンに作用する後続の第2の180°高周波パルス(P6)とを含む、項目1又は2に記載の方法。
【0144】
項目4:前記第2の群(NB)の180°高周波パルスは、位相Ψ23を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)に作用する第1の180°高周波パルス(P11)と、位相Ψ13を有するとともに前記プロトンに作用する後続の第2の180°高周波パルス(P5)とを含み、前記第2の群(NB)の180°高周波パルスは、位相Ψ24を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)に作用する第3の180°高周波パルス(P12)と、位相Ψ14を有するとともに前記プロトンに作用する後続の第4の180°高周波パルス(P6)とを含み、前記第2の群(NB)の前記第3の180°高周波パルス(P12)及び前記第4の180°高周波パルス(P6)は、前記第2の群(NB)の前記第2の180°高周波パルス(P5)の後に印加される、項目1又は2に記載の方法。
【0145】
項目5:前記第3の群(NC)の180°高周波パルスは、位相Ψ15を有するとともに前記プロトンに作用する第1の180°高周波パルス(P7)と、位相Ψ25を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)に作用する第2の180°高周波パルス(P8)とを含み、前記第3の群(NC)の180°高周波パルスは、位相Ψ16を有するとともに前記プロトンに作用する第3の180°高周波パルス(P9)と、位相Ψ26を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)に作用する第4の180°高周波パルス(P10)とを含む、項目1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【0146】
項目6:前記第1の時間間隔(τA)は、前記第2の時間間隔(τB)とは異なり、及び/又は、前記第1の時間間隔(τA)は、前記第3の時間間隔(τC)に等しい、項目1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【0147】
項目7:前記整数nA、nB、nCは、nA=1、nB=1、及びnC=1になるように選択される、項目1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【0148】
項目8:各群(NA、NB、NC)において、前記プロトンに作用する前記180°高周波パルスの前記位相は、互いに対して180°だけシフトされ、及び/又は、各群(NA、NB、NC)において、前記少なくとも1つのヘテロ核に作用する前記180°高周波パルスの前記位相は、互いに対して180°だけシフトされる、項目1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【0149】
項目9:前記nA回目に印加される第1の群(NA)において、前記第3の180°高周波パルス(P3)及び前記第4の高周波パルス(P4)は省略され、及び/又は、前記nB回目に印加される第2の群(NB)において、前記第2の180°高周波パルス(P6)又は前記第4の180°高周波パルス(P6)は省略され、及び/又は前記nC回目に印加される第3の群(NC)において、前記第3の180°高周波パルス(P9)及び前記第4の高周波パルス(P10)は省略される、項目1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【0150】
項目10:前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ11を有するとともに前記プロトンに作用する第1の90°高周波パルス(RF1)をさらに含み、前記第1の群(NA)の180°高周波パルスは、前記第1の90°高周波パルス(RF1)の後、前記第1の時間間隔(τA)中にnA回連続して印加され、前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ12を有するとともに前記プロトンに作用する第2の90°高周波パルス(RF2)をさらに含み、前記第2の90°高周波パルス(RF2)は、前記第1の90°高周波パルス(RF1)の後に続き、前記第1の時間間隔(τA)の終わりに前記プロトンに印加され、前記第2の群(NB)の180°高周波パルスは、前記第2の90°高周波パルス(RF2)の後、前記第2の時間間隔(τB)中にnB回連続して印加され、前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ13を有するとともに前記プロトンに作用する第3の90°高周波パルス(RF3)をさらに含み、前記第3の90°高周波パルス(RF3)は、前記第2の90°高周波パルス(RF2)の後に続き、前記第2の時間間隔(τB)の終わりに前記プロトンに印加され、前記第3の群(NC)の180°高周波パルスは、前記第3の90°高周波パルス(RF3)の後、前記第3の時間間隔(τC)中にnC回連続して印加される、項目1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【0151】
項目11:前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ22を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)に作用する第4の90°高周波パルス(RF4)と、位相φ23を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核に作用する後続の任意選択的な第5の90°高周波パルス(RF5)とをさらに含み、特に前記第3の90°高周波パルス(RF3)は、前記第4の90°高周波パルス(R4)と同時である、項目10に記載の方法。
【0152】
項目12:前記第1の90°高周波パルス(RF1)の前記位相φ11、前記第2の90°高周波パルス(RF2)の前記位相φ12、及び前記第3の90°高周波パルス(RF3)の前記位相φ13は、共線的であり、及び/又は、前記第5の90°高周波パルス(RF5)の前記位相(φ23)は、前記第4の90°高周波パルス(RF4)の前記位相(φ22)に対して直交し、特に、φ11=φ12=φ13=x、φ22=x、φ23=yである、項目10又は11に記載の方法。
【0153】
項目13:前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ14を有するとともに前記プロトンに作用する第6の90°高周波パルス(RF6)をさらに含み、前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ21を有するとともに前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)に作用する第7の90°高周波パルス(RF7)をさらに含み、特に前記第6の90°高周波パルス(RF6)は、前記第5の90°高周波パルス(RF5)と同時であり、特に前記第7の90°高周波パルス(RF7)は、前記第1の90°高周波パルス(RF1)と同時である、項目11又は12に記載の方法。
【0154】
項目14:前記第1の90°高周波パルス(RF1)の前記位相φ11、前記第2の90°高周波パルス(RF2)の前記位相φ12、前記第3の90°高周波パルス(RF3)の前記位相φ13、及び前記第6の90°高周波パルス(RF6)の前記位相φ14は、共線的であり、前記第7の90°高周波パルス(RF7)の前記位相φ21は、φ21=φ23+πに対応し、特に、φ11=φ12=φ13=φ14=x、φ22=x、φ23=y、及びφ21=-yである、項目13に記載の方法。
【0155】
項目15:前記高周波パルスのシーケンスは、前記第5の90°高周波パルス(RF5)及び/又は前記第6の90°高周波パルス(RF6)を印加した後、第4の時間間隔(τD)の経過後に繰り返され、特に、前記高周波パルスのシーケンスは、n回繰り返され、nは整数である、項目13又は14に記載の方法。
【0156】
項目16:分子と少なくとも1つのヘテロ核とを用意する前記ステップはまた、さらなるヘテロ核(S4)を用意することであって、前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)の前記核スピンが前記さらなるヘテロ核(S4)の核スピンに結合されている、用意することを含み、前記z方向における磁場(B0)に前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核を曝露する前記ステップはまた、前記磁場(B0)に前記さらなるヘテロ核(S4)を曝露することを含み、前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)の前記過分極に前記2スピン秩序を移動させるために前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)に高周波パルスのシーケンスを印加する前記ステップはまた、前記さらなるヘテロ核(S4)の過分極への前記2スピン秩序の移動を含む、項目1から12までのいずれか一項に記載の方法。
【0157】
項目17:前記ヘテロ核及び前記さらなるヘテロ核は、同じ種とすることができるか又は異なる種に属することができる、請求項16に記載の方法。
【0158】
項目18:前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ24を有するとともに前記ヘテロ核(S3、S4)に作用する、角度θの第6の高周波パルス(RF8)であって、前記第3の90°高周波パルス(RF3)から第4の時間間隔(τD)だけ離間している、角度θの第6の高周波パルス(RF8)をさらに含み、前記高周波パルスのシーケンスは、位相φ25を有するとともに前記ヘテロ核(S3、S4)に作用する第7の90°高周波パルス(RF9)を含み、前記第7の90°高周波パルス(RF9)は、角度θの前記第6の高周波パルス(RF8)から第5の時間間隔(τE)だけ離間している、項目16又は17に記載の方法。
【0159】
項目19:前記高周波パルスのシーケンスは、特に前記第5の90°高周波パルス(RF5)の後及び/又は角度θの前記第6の高周波パルス(RF8)の前に、位相Ψ27を有するとともに前記ヘテロ核(S3、S4)に作用する180°高周波パルス(P13)をさらに含み、前記高周波パルスのシーケンスは、角度θの前記第6の高周波パルス(RF8)の後及び前記第7の90°高周波パルス(RF9)の前に、位相Ψ28を有するとともに前記ヘテロ核(S3、S4)に作用する180°高周波パルス(P14)をさらに含む、項目11及び18に記載の方法。
【0160】
項目20:前記高周波パルスのシーケンスは、2つの前記ヘテロ核(S3、S4)に作用する単一連続波照射であって、特に2つの前記ヘテロ核(S3、S4)に対する分極を調節するように2つの前記ヘテロ核(S3、S4)間の化学シフト差よりも大きいパワーを含む単一連続波照射をさらに含む、項目16に記載の方法。
【0161】
項目21:前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)を含む過分極造影剤を得るため、前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)の前記過分極に前記2スピン秩序を移動させるために、前記プロトン及び前記少なくとも1つのヘテロ核に高周波パルスのシーケンスを印加する前記ステップの前に、前記分子は、
最終的に前記過分極造影剤の一部ではない伝達物質、
前記過分極造影剤の前駆体であって、前記前駆体は最終的に前記過分極造影剤の一部であり、前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)は、前記前駆体によって構成される、前記過分極造影剤の前駆体、
前記過分極造影剤の前駆体であって、その後、前記少なくとも1つのヘテロ核(S3)を含む前記造影剤を得るように分離される、前記過分極造影剤の前駆体、
造影剤であって、前記少なくとも1つのヘテロ核が前記造影剤によって構成される、造影剤
のうちの1つに添加される、項目1から20までのいずれか一項に記載の方法
【0162】
項目22:前記少なくとも1つのヘテロ核(S3、S4)は、
ピルビン酸塩中に含まれる13C、
酢酸塩中に含まれる13C、
酢酸エチル中に含まれる13C、
酢酸シンナミル中に含まれる13C(1)、
酢酸シンナミル中に含まれる13C(2)、
乳酸塩中に含まれる13C、
ホスホラクテート中に含まれる31P、
ホスホ-エノール-ラクテート中に含まれる13C、
ホスホ-エノール-ラクテート中に含まれる31P、
アセト酢酸中に含まれる13C、
3-ヒドロキシ酪酸中に含まれる13C、
アミノ酸中に含まれる13C、
脂肪酸中に含まれる13C、
ピルビン酸シンナミル中に含まれる13C、
乳酸シンナミル中に含まれる13C
のうちの1つである、項目1から21までのいずれか一項に記載の方法。
【0163】
項目23:それぞれの前記高周波パルスは、矩形パルス、周波数選択パルス、矩形形状から逸脱した形状を有する整形パルスのうちの1つである、項目1から22までのいずれか一項に記載の方法。
【0164】
項目24:前記ヘテロ核に対する最後の高周波パルスは、
特に、前記磁化の一部分を直接観察するため、及び、前記磁化の残りを保存するため、前記z軸に沿って前記磁化を傾けるのに用いられるか、又は、任意の方向に前記磁化を傾けるのに用いられる、
前記磁化をすべて直接観察することを可能にするように前記z軸に沿って前記磁化を傾ける場合には省略される
のうちの一方である、項目1から23までのいずれか一項に記載の方法。
【0165】
項目25:少なくとも1つのヘテロ核(S3、S4)の過分極に分子の2スピン秩序を移動させる方法であって、
2つのプロトン(H1、H2)を含む分子と前記少なくとも1つのヘテロ核(S3、S4)とを用意するステップであって、前記プロトンは、核スピンが前記少なくとも1つのヘテロ核(S3、S4)の核スピンに結合されており、1つのプロトンと前記少なくとも1つのヘテロ核との間のJ結合が、2つの前記プロトン間のJ結合よりも大きい、用意するステップと、
高周波パルスを用いて、前記少なくとも1つのヘテロ核に前記2スピン秩序を移動させるステップと、
を含む、方法。
【0166】
項目26:前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極は、有機溶媒中で触媒の助けにより行われる、項目1から25までのいずれか一項に記載の方法。
【0167】
項目27:前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極の後、水溶液が前記有機溶媒に添加される、項目26に記載の方法。
【0168】
項目28:前記水溶液は、過分極した前記少なくとも1つのヘテロ核を含む前駆体を開裂して過分極造影剤を得るように構成された開裂剤を含む、項目27に記載の方法。
【0169】
項目29:前記触媒を捕捉するため、前記水溶液を前記有機溶媒に添加する前又は添加した後に錯化剤が前記有機溶媒に添加される、項目26から28までのいずれか一項に記載の方法。
【0170】
項目30:前記有機溶媒は、ストリッピング・ガスを用いることによって蒸発又は除去される、項目29に記載の方法。特に、前記有機溶媒の前記蒸発は、真空を適用することによって促される。特に、前記有機溶媒の前記蒸発は、前記水溶液を通るストリッピング・ガス流によって促される。前記ストリッピング・ガスは、任意のガス又は蒸気、好ましくは不活性ガス、例えば窒素、水素とすることができる。
【0171】
項目31:前記造影剤を含む注射液を得るため、前記水溶液を濾過して、蒸発時に沈殿した副産物及び/又は不純物を除去する、項目30に記載の方法。
【0172】
項目32:造影剤の一部を形成する前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極は、溶媒中で行われ、前記溶媒は、水溶液、有機溶液、水溶液と有機溶液との混合物のうちの1つである、項目1から25までのいずれか一項に記載の方法。
【0173】
項目33:前記溶媒は、ストリッピング・ガスを用いることによって蒸発又は除去され、前記過分極造影剤を特に固体形態で残す、項目32に記載の方法。特に、前記有機溶媒の前記蒸発は、真空を適用することによって促される。特に、前記有機溶媒の前記蒸発は、前記溶液を通るストリッピング・ガス流によって促される。前記ストリッピング・ガスは、任意のガス又は蒸気、好ましくは不活性ガス、例えば窒素、水素とすることができる。
【0174】
項目34:前記造影剤は、前記造影剤が溶解しない溶媒で洗浄される、項目33に記載の方法。
【0175】
項目35:前記造影剤を含む注射液を得るため、前記造影剤が溶液に添加される、項目34に記載の方法。
【0176】
項目36:過分極造影剤を得る方法であって、
2スピン秩序を形成する2つのプロトンを含む分子を前記造影剤の前駆体に添加するステップと、
前記造影剤を得るように前記前駆体を分離するステップと、
前記過分極造影剤を得るように前記造影剤の少なくとも1つのヘテロ核の過分極に前記2つのスピン秩序を移動させるステップと、
を含む、方法。
【0177】
項目37:前記少なくとも1つのヘテロ核の過分極に前記2つのスピン秩序を移動させることは、項目1から20、22から35までのいずれか一項に記載の方法を用いて行われる、項目36に記載の方法。
【0178】
項目38:造影剤を含む注射液を得る方法であって、
少なくとも1つのヘテロ核の過分極が、有機溶媒中で触媒の助けにより行われ、前記少なくとも1つのヘテロ核の前記過分極の後、水溶液が前記有機溶媒に添加され、前記水溶液は、過分極した前記少なくとも1つのヘテロ核を含む前駆体を開裂して過分極造影剤を得るように構成された開裂剤を含み得、前記触媒を捕捉するため、前記水溶液を前記有機溶媒に添加する前又は添加した後に錯化剤を前記有機溶媒に添加することができ、前記有機溶媒は、ストリッピング・ガスを用いることによって蒸発又は除去され、前記造影剤を含む注射液を得るため、前記水溶液を濾過して、蒸発時に沈殿した副産物及び/又は不純物を除去し、
或いは
造影剤の一部を形成する少なくとも1つのヘテロ核の過分極が、溶媒中で行われ、前記溶媒は、水溶液、有機溶液、水溶液と有機溶液との混合物のうちの1つであり、前記溶媒は、ストリッピング・ガスを用いることによって蒸発又は除去され、前記過分極造影剤を特に固体形態で残し、前記造影剤は、前記造影剤が溶解しない溶媒で洗浄され、前記造影剤を含む注射液を得るため、前記造影剤は溶液に添加される、方法。
【0179】
項目39:前記有機溶媒の前記蒸発は、真空を適用することによって促され、特に前記有機溶媒の前記蒸発は、前記溶液を通るストリッピング・ガス流によって促される、請求項38に記載の方法。
【国際調査報告】