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特表2024-532233磁気共鳴イメージング(MRI)信号のコヒーレンスフィルタリング
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  • 特表-磁気共鳴イメージング(MRI)信号のコヒーレンスフィルタリング 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング(MRI)信号のコヒーレンスフィルタリング
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240829BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
A61B5/055 376
G01N24/00 530Y
G01N24/00 530H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510655
(86)(22)【出願日】2022-08-16
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2022072806
(87)【国際公開番号】W WO2023025614
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】63/237,559
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】カルデロン リコ ロドリゴ
(72)【発明者】
【氏名】キール アルトン
(72)【発明者】
【氏名】キング スコット ブラッドレー
(72)【発明者】
【氏名】レイコウスキー アーネ
(72)【発明者】
【氏名】ウィン トレーシー アリン
(72)【発明者】
【氏名】ピーチィ ソロモン
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB07
4C096AD12
4C096DA08
4C096DB10
(57)【要約】
磁気共鳴(MR)信号をフィルタリングするデバイス18は、少なくとも1つの電子プロセッサ24を含む。少なくとも1つの電子プロセッサ24は、MRイメージングデバイス10に配置された被検体内で励起された少なくとも1つのMR信号26を受信し、時間及び瞬間周波数スペクトルの関数として少なくとも1つのMR信号を表すコヒーレンス関数で少なくとも1つのMR信号を変換し、変換された少なくとも1つのMR信号にスペクトルフィルタリングを適用し、フィルタリングされた少なくとも1つのMR信号から少なくとも1つの医用画像を再構成するようにプログラムされている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電子プロセッサを含む、磁気共鳴(MR)信号をフィルタリングするデバイスであって、前記少なくとも1つの電子プロセッサは、
MRイメージングデバイスに配置された被検体内で励起された少なくとも1つのMR信号を受信し、
時間及び瞬間周波数スペクトルの関数として前記少なくとも1つのMR信号を表すコヒーレンス関数で、前記少なくとも1つのMR信号を変換し、
変換された前記少なくとも1つのMR信号にスペクトルフィルタリングを適用し、
フィルタリングされた前記少なくとも1つのMR信号から少なくとも1つの医用画像を再構成するようにプログラムされている、デバイス。
【請求項2】
前記少なくとも1つのMR信号は、1つのMR信号を含み、前記コヒーレンス関数は、自己コヒーレンス関数を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記自己コヒーレンス関数は、コーエンクラスの時間-周波数変換を含む、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記コーエンクラスの時間-周波数変換は、ウィグナー・ビレ分布(WVD)を含む、請求項3のデバイス。
【請求項5】
前記コーエンクラスの時間-周波数変換は、平滑化された疑似ウィグナー・ビレ分布(SPWVD)を含む、請求項3のデバイス。
【請求項6】
前記少なくとも1つのMR信号は、複数のMR信号を含み、前記コヒーレンス関数は、クロスコヒーレンス関数を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記複数のMR信号の各MR信号は、MRコイル内の対応するチャネルから受信され、前記クロスコヒーレンス関数は、チャネル対のベースで使用される平均二乗コヒーレンスを含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記変換は、高速フーリエ変換(FFT)を使用して前記少なくとも1つのMR信号を周波数領域に変換することを含み、フィルタリングは、
前記少なくとも1つのMR信号の時間における各データポイント周辺の選択された時間ウィンドウについて、所定のスケールで前記コヒーレンス関数を計算して、コヒーレンス値を生成することと、
選択された前記時間ウィンドウにおいて前記少なくとも1つのMR信号の前記FFTに前記コヒーレンス値を掛けることと、
を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記フィルタリングは更に、
前記乗算の前に、前記コヒーレンス値を閾値化して、コヒーレンスが所定の閾値を下回る時間間隔において前記信号を完全に抑制することを含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記少なくとも1つのMR信号は、複数のMR信号を含み、前記コヒーレンス関数は、平均二乗コヒーレンス関数を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記少なくとも1つのMR信号は、複数のMR信号を含み、前記コヒーレンス関数は、
【数8】
を含み、ここで、
【数9】
は、周波数ビンに基づく前記複数のMR信号のうちの第1のMR信号のクロスパワースペクトル密度及び前記第1のMR信号のフレーム指数を含み、
【数10】
は、周波数ビンに基づく前記複数のMR信号のうちの第2のMR信号のクロスパワースペクトル密度及び前記第2のMR信号のフレーム指数を含み、
【数11】
は、前記第1のMR信号と前記第2のMR信号との乗算のクロスパワースペクトル密度を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記少なくとも1つのMR信号は、単一のMR信号を含み、前記コヒーレンス関数は、時間領域での時間ウィンドウと周波数領域での減衰フィルタウィンドウとを含む平滑化された疑似ウィグナー・ビレ分布を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記少なくとも1つのMR信号は、単一のMR信号を含み、前記コヒーレンス関数は、
【数12】
を含み、ここで、SPWは前記コヒーレンス関数を含み、tは時間を表し、vは周波数を表し、h(t)は時間領域での時間ウィンドウを表し、g(t)は周波数領域での減衰ウィンドウフィルタを表す、請求項1から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
磁気共鳴(MR)イメージングデバイスに配置された被検体内で励起されたMR信号を受信する少なくとも1つのMRコイル要素と、電子機器とを含む、MR受信コイルであって、
前記電子機器は、
前記MRイメージングデバイスに配置された被検体内で励起されたMR信号を受信し、
時間及び瞬間周波数スペクトルの関数として前記MR信号を表すコヒーレンス関数で、前記MR信号を変換し、
変換された前記MR信号にスペクトルフィルタリングを適用し、
フィルタリングされた前記MR信号から少なくとも1つの医用画像を再構成する、MR受信コイル。
【請求項15】
前記コヒーレンス関数は、コーエンクラスの時間-周波数変換を含む、請求項14に記載のMR受信コイル。
【請求項16】
前記変換は、高速フーリエ変換(FFT)を使用して前記少なくとも1つのMR信号を周波数領域に変換することを含み、フィルタリングは、
前記少なくとも1つのMR信号の時間における各データポイント周辺の選択された時間ウィンドウについて、所定のスケールで前記コヒーレンス関数を計算して、コヒーレンス値を生成することと、
選択された前記時間ウィンドウにおいて前記少なくとも1つのMR信号の前記FFTに前記コヒーレンス値を掛けることと、
を含む、請求項14又は15に記載のMR受信コイル。
【請求項17】
前記フィルタリングは更に、前記乗算の前に、前記コヒーレンス値を閾値化して、コヒーレンスが所定の閾値を下回る時間間隔において前記信号を完全に抑制することを含む、請求項16に記載のMR受信コイル。
【請求項18】
前記少なくとも1つのMR信号は、複数のMR信号を含み、前記コヒーレンス関数は、
【数13】
を含み、ここで、
【数14】
は、周波数ビンに基づく前記複数のMR信号のうちの第1のMR信号のクロスパワースペクトル密度及び前記第1のMR信号のフレーム指数を含み、
【数15】
は、周波数ビンに基づく前記複数のMR信号のうちの第2のMR信号のクロスパワースペクトル密度及び前記第2のMR信号のフレーム指数を含み、
【数16】
は、前記第1のMR信号と前記第2のMR信号との乗算のクロスパワースペクトル密度を含む、請求項14から17のいずれか一項に記載のMR受信コイル。
【請求項19】
前記少なくとも1つのMR信号は、単一のMR信号を含み、前記コヒーレンス関数は、
【数17】
を含み、ここで、SPWは前記コヒーレンス関数を含み、tは時間を表し、vは周波数を表し、h(t)は時間領域での時間ウィンドウを表し、g(t)は周波数領域での減衰ウィンドウフィルタを表す、請求項14から17のいずれか一項に記載のMR受信コイル。
【請求項20】

磁気共鳴(MR)イメージングデバイスに配置された被検体内で励起されたMR信号を受信する少なくとも1つのMRコイル要素と、電子機器とを含む、MR受信コイルであって、
前記電子機器は、
MRイメージングデバイスに配置された被検体内で励起された複数のMR信号を受信し、
時間及び瞬間周波数スペクトルの関数として前記複数のMR信号の各信号を表すコヒーレンス関数で前記複数のMR信号を変換し、
変換された前記MR信号にスペクトルフィルタリングを適用し、
フィルタリングされた前記MR信号から少なくとも1つの医用画像を再構成する、MR受信コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 以下は、概して、磁気共鳴(MR)イメージング技術、MR画像再構成技術、MR信号処理技術、MR信号収集技術、MR信号フィルタリング技術、及び関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 磁気共鳴(MR)イメージングでは、被検体(患者、獣医学の被検体、考古学のミイラなど)を静磁場(しばしばB磁場と呼ばれる)に配置し、被検体内の核磁気共鳴を励起し、励起された磁気共鳴を検出することを必要とする。イメージングのために、励起されたMRは、励起中、MR励起とMR読み出しとの間の時間間隔、及び/又はMR読み出し中に、静B磁場に磁場勾配を重ね合わせることにより、位置、位相、及び/又は周波数に関して空間的にエンコードされる。典型的な設計では、MRイメージングデバイス(MRIスキャナと呼ばれることもある)には、MR検査領域が位置する中央ボアのあるハウジングが含まれている。静B磁場は、中央ボアの周囲に巻かれ、MRIスキャナハウジング内に収容されたソレノイド磁石巻線によって生成される。これらのソレノイド磁石巻線は、現代のMRIスキャナではしばしば超電導巻線であり、ハウジングには、超電導巻線を冷却する液体ヘリウム(LHe)リザーバが含まれている。磁場勾配コイルも、中央ボアの周囲でハウジング内に配置されている。
【0003】
[0003] 人間が被検体の場合にMR励起を行うために、一般的にボディコイルが使用される。ボディコイルは、通常、ボアの周囲に同心円状に設置された円筒形のバードケージコイル、TEMコイル、又は何らかのそのバリエーションである。或いは、イメージングする身体部位の近くに配置されたローカルコイルを励起に使用する。MR読み出しは通常、イメージングする身体部位の近くに配置されたローカルMR受信コイルを使用して行われる。ローカルMR受信コイルとローカルMR励起コイル(使用される場合)とは、同じコイルであっても、異なるコイルであってもよい。様々な理由から、MR受信コイルには複数のコイル要素を含むMRコイルアレイが含まれており、各コイル要素は通常ループコイルとして構成されているが、他のコイル要素の設計も知られている。このようなMRコイルアレイは、いくつかのMR受信チャネルを実装できる。例えば、単一のコイル要素又は空間的に連続するコイル要素のグループが1つのMRチャネルを画定できる。このようなマルチチャネルMR受信コイルを使用すると、特定の利点がある。例えば、感度エンコーディング(SENSE)又は複数の受信チャネルを活用した他の並列MR収集技術を使用すると、MRデータ収集を高速化できる。
【発明の概要】
【0004】
[0004] 以下に、これらの問題及び他の問題を解決するための特定の改良点について開示する。
【0005】
[0005] 本明細書に開示されるいくつかの実施形態では、磁気共鳴(MR)信号をフィルタリングするデバイスは、少なくとも1つの電子プロセッサを含む。少なくとも1つの電子プロセッサは、MRイメージングデバイスに配置された被検体内で励起された少なくとも1つのMR信号を受信し、時間及び瞬間周波数スペクトルの関数として少なくとも1つのMR信号を表すコヒーレンス関数で、少なくとも1つのMR信号を変換し、変換された少なくとも1つのMR信号にスペクトルフィルタリングを適用し、フィルタリングされた少なくとも1つのMR信号から少なくとも1つの医用画像を再構成するようにプログラムされている。
【0006】
[0006] 本明細書に開示されるいくつかの実施形態では、MR受信コイルは、MRイメージングデバイスに配置された被検体内で励起されたMR信号を受信する少なくとも1つのMRコイル要素と、電子機器であって、MRイメージングデバイスに配置された被検体内で励起されたMR信号を受信し、時間及び瞬間周波数スペクトルの関数としてMR信号を表すコヒーレンス関数で、MR信号を変換し、変換されたMR信号にスペクトルフィルタリングを適用し、フィルタリングされたMR信号から少なくとも1つの医用画像を再構成する、電子機器とを含む。
【0007】
[0007] 本明細書に開示されるいくつかの実施形態では、MR受信コイルは、MRイメージングデバイスに配置された被検体内で励起されたMR信号を受信する少なくとも1つのMRコイル要素と、電子機器とを含み、電子機器は、MRイメージングデバイスに配置された被検体内で励起された複数のMR信号を受信し、複数のMR信号の各信号を時間及び瞬間周波数スペクトルの関数として表すコヒーレンス関数で複数のMR信号を変換し、変換されたMR信号にスペクトルフィルタリングを適用し、フィルタリングされたMR信号から少なくとも1つの医用画像を再構成する。
【0008】
[0008] 1つの利点は、MRI信号からインコヒーレントノイズを抑制することにある。
【0009】
[0009] 別の利点は、MR信号の信号対ノイズ比(SNR)を向上させることにある。
【0010】
[0010] 別の利点は、時間の関数として動的に順応するノイズフィルタリングを可能にすることによって、MR信号から短時間ノイズを抑制するためにコヒーレンス関数を使用することにある。
【0011】
[0011] 別の利点は、マルチチャネルコイルのチャネル間の予想される部分コヒーレンスを利用して、MR信号ノイズフィルタリングを向上させることにある。
【0012】
[0012] 所与の実施形態は、上記の利点のいずれも提供しない、上記の利点のうちの1つ、2つ以上、又は全てを提供でき、及び/又は、本開示を読んで理解した上で、当業者には明らかになる他の利点を提供することもある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
[0013] 本開示は、様々な構成要素及び構成要素の配置、並びに、様々なステップ及びステップの配置の形態をとることができる。図面は、好ましい実施形態を説明することのみを目的とし、本開示を限定していると解釈されるべきではない。
【0014】
図1】[0014] 図1は、本開示によるMRコイル要素を含む磁気共鳴(MR)イメージングデバイスを図式的に示す。
図2】[0015] 図2は、図1のデバイスのモジュールを示す。
図3】[0015] 図3は、図1のデバイスのモジュールを示す。
図4】[0016] 図4は、開示されたアプローチを用いた短時間ノイズ事象の抑制を図式的に示す。
図5】[0017] 図5は、図1のデバイスを用いたMRIイメージング方法を図式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[0018] 磁気共鳴イメージング(MRI)信号処理は一般的に、例えば、高速フーリエ変換(FFT)を使用して信号を周波数領域に変換し、FFT変換された信号にスペクトルフィルタリングを適用することによって行われる。ただし、このアプローチでは、時間領域全体に同じスペクトルフィルタリングが適用される。ノイズ信号が一時的に現れる場合、例えば間欠ノイズや他の短時間ノイズの場合、この時間グローバルフィルタはノイズを抑制するために適切に調整されていない。本明細書に開示する実施形態では、MR信号を、時間及び瞬間周波数スペクトルの関数として少なくとも1つのMR信号を表すコヒーレンス関数で変換し、変換したMR信号にスペクトルフィルタリングを適用する。このように、スペクトルフィルタリングを時間の関数として動的に調整でき、ノイズをより効果的に抑制できる。1つのMR受信チャネルのみが使用可能な場合(又は複数のMR受信チャネルを個別にフィルタリングする場合)、使用されるコヒーレンス関数は自己コヒーレンス関数になる。一方、マルチチャネルコイルの場合、チャネル間に予想される部分コヒーレンスを考慮すると、使用されるコヒーレンス関数はチャネルの対に適用されるクロスコヒーレンス関数である。
【0016】
[0019] 現在のMR設計では、被検体内のMR励起からMR信号が生成される。信号のフーリエ変換(FFT)はMR信号が生成された時間に関する情報を提供しないため、コヒーレンス関数を定義するには2次元(2D)表現(時間及び周波数など)が必要である。このような時間-周波数表現を使用して、MR信号の瞬間周波数が特定される(例えば、Francois Auger、Patrick Flandrin、Paulo Concalves、Olivier Lemoine、「Time-Frequency Toolbox-For Use with MATLAB(登録商標)」(CNRS(フランス)、ライス大学(米国)、1995~1996)を参照されたい)。時間-周波数表現の他の例としては、MRI信号のウィグナー・ビレ(Wigner-Ville)分布(WVD)及び/又は平滑化された疑似WVD(SPWVD)がある。
【0017】
[0020] 本明細書に開示されているいくつかの実施形態では、信号はコヒーレンス関数を用いて変換される。コヒーレンス関数は、時間及び瞬間周波数スペクトルの関数としてデータを表す。単一のMRI信号を処理する場合、コヒーレンス関数は、適切に、ウィグナー・ビレ分布(WVD)や平滑化された擬似WVD(すなわち、SPWVD)などのコーエン(Cohen)クラスの時間-周波数変換などの自己コヒーレンス関数である。マルチチャネルMRI受信コイルの場合のように、有意に相関した複数のMRI信号チャネルが使用可能な場合は、平均二乗コヒーレンスなどのクロスコヒーレンス関数をチャネル対のベースで使用できる。
【0018】
[0021] MRI信号のフィルタリングを行うために、例示的なアプローチでは、時間における各データポイント周辺の時間ウィンドウについて、コヒーレンス(自己コヒーレンス又はクロスコヒーレンスなど)を0~1のスケール(0は完全にインコヒーレントで、1は完全なコヒーレンス)で計算し、その時間ウィンドウにおける信号のFFTにコヒーレンス値を掛ける。或いは、コヒーレンス値は、乗算を行う前に閾値化し、これにより、コヒーレンスが閾値を下回る時間間隔で信号を完全に抑制できる。
【0019】
[0022] 図1を参照して、被検体S(例えば患者などの例示的な人間の被検体S、獣医学の被検体、又は考古学のミイラなど)をイメージングするための例示的な磁気共鳴(MR)イメージングシステム又はデバイス10は、磁気共鳴(MR)イメージングスキャナ(本明細書では、MRIスキャナとも呼ぶ)を含む。MRIスキャナは、例示する実施例では、図1に示す様々な構成要素を含むハウジング又はガントリ2を含む。様々な構成要素には、非限定的な例として、静(B)磁場を発生させる超電導又は抵抗磁石4、B磁場上に磁場勾配を重ね合わせるための磁場勾配コイル6、MRボア12又は他のMR検査領域に配置されたイメージング対象の患者内の磁気共鳴を励起及び/又は空間的にエンコードするために高周波(RF)パルスを印加するための全身RFコイル8などが含まれる。磁石4及び勾配コイル6は、ボア12の周りを同心円状に配置されている。ロボット患者カウチ14又は他の患者サポートを使用すると、患者、医学的スクリーニング中の患者、又は他のイメージング対象の患者を、イメージングのためにMRボア12の中にロードできる。
【0020】
[0023] イメージング対象の被検体S内で励起された磁気共鳴は、MR受信コイル18によって読み出される。MR受信コイル18は、例示する実施形態では、複数のMRコイル要素22を含む。(極端な場合、コイル要素の数は1つである。つまり、コイルには単一のコイル要素のみが含まれている場合がある)。各コイル要素22は、MRイメージングデバイス10内に配置された被検体内で励起されたMR信号を受信するための高周波アンテナである。各コイル要素22は通常、MR受信チャネルを形成する。
【0021】
[0024] 図1は、複数の例示的なコイル要素22を有する例示的なMRコイル18(又はコイルアレイ18)を示している。コイル18には、一般に、任意の数のコイル要素22、例えば、16個のコイル要素、20個のコイル要素、32個のコイル要素などが含まれ得ることが理解されるであろう。各コイル要素22は通常、MR受信チャネルの一部である。MR受信チャネルには、MR周波数帯域のMR信号を受信するMRコイル要素22及び前置増幅器と、しばしば、他の信号処理電子機器とが含まれる。例示する各コイル要素22は、銅、銅合金、又は別の導電性材料の単一ループであり、例えば、回路基板、プラスチックシート、プラスチックフォーマ、又は他の電気絶縁基板上に堆積された銅層として形成されるか、又は代わりに独立した金属ループとして形成される。しかし、より一般的に、コイル要素22は、MR周波数帯域のMR信号と結合できる任意の適切なアンテナ(マルチループコイル又は他の形状のアンテナなど)であり得る。いくつかの実施例では、MRコイル要素22を含むMRコイル18が、図1に示すように検査領域(つまり、MRボア12)に配設される。
【0022】
[0025] 図2及び図3を参照し、図1を引き続き参照すると、電子機器24(電子プロセッサ、より具体的にはマイクロプロセッサなど)が、コイル要素22からMR信号を受信する。一般に、MRイメージングデバイス10内の被検体S内で励起された少なくとも1つのMR信号26が、MR18コイルから電子機器24によって受信される。マルチチャネルコイル18を使用した例示する実施形態では、MR信号26には通常、各チャネルのMR信号が含まれている。1つ以上のMR信号26は、次に、アナログ-デジタル変換器(ADC、又はマルチチャネル信号の場合はADCバンク)28によって処理され、1つ以上のMR信号26を対応するデジタル信号に変換する。
【0023】
[0026] 電子機器24は、少なくとも1つのMR信号を時間及び瞬間周波数スペクトルの関数として表すコヒーレンス関数モジュール32(図2及び図3を参照)を使用して少なくとも1つのMR信号26を変換するようにプログラムされている。図2に示す実施形態では、少なくとも1つのMR信号は、単一のMR信号26を含む。これらの実施形態において、コヒーレンス関数32は、コーエンクラスの時間-周波数変換などの自己コヒーレンス関数を含む。その例としては、ウィグナー・ビレ分布(WVD)及び/又は平滑化された疑似WVD(SPWVD)が挙げられる。このような実施形態では、少なくとも1つのMR信号が単一のMR信号26を含むとき、コヒーレンス関数は、時間領域での時間ウィンドウと周波数領域での減衰フィルタウィンドウとを含むSPWVDを含む。
【0024】
[0027] 図3に示す実施形態では、少なくとも1つのMR信号26は、複数のMR信号26を含み(図2は、これを第2のMR信号26’及び第2のADC28を用いて示しているが、MR信号26の数に対応する任意の数のADC28を含めることができる)、コヒーレンス関数32はクロスコヒーレンス関数を含む。例えば、複数のMR信号の各MR信号は、例示したマルチチャネルMRコイル18の対応するチャネルから受信され、クロスコヒーレンス関数は、チャネル対のベースで使用される平均二乗コヒーレンスを含む。このような実施形態では、少なくとも1つのMR信号26が複数のMR信号を含むとき、コヒーレンス関数は平均二乗コヒーレンス関数を含み、平均二乗コヒーレンス関数がゼロ閾値を下回るコヒーレンス値を出力すると、各MR信号26は、MR信号26をゼロに設定することで変換される。
【0025】
[0028] 変換を行うために、デジタルMR信号26はFFTモジュール30によって処理されて(又は、複数のMR信号26がある場合は、少なくとも第2のFFTモジュール30’が含まれる)、デジタルMR信号26を周波数領域に変換する。いくつかの実施例では、変換されたMR信号26を、変換されたMR信号26のノイズを抑制する信号対ノイズ比(SNR)モジュール34に入力できる。
【0026】
[0029] 次に、電子機器24は、変換された少なくとも1つのMR信号26にスペクトルフィルタリングを適用する。これを行うために、コヒーレンス関数モジュール32は、少なくとも1つのMR信号26の時間における各データポイント周辺の選択された時間ウィンドウについて、所定のスケールでコヒーレンス関数を計算して、コヒーレンス値を生成するようにプログラムされている。MR信号26のFFTに、選択された時間ウィンドウにおいてコヒーレンス値を掛ける。いくつかの実施形態では、乗算の前に、抑制モジュール36がコヒーレンス値を閾値化して、コヒーレンスが所定の閾値を下回る時間間隔において信号を完全に抑制する一方で、コヒーレンスが所定の閾値を上回る時間間隔において信号を減衰せずに通過させる。
【0027】
[0030] フィルタリングされたMR信号26は、次に、逆FFT(IFFT)モジュール38(図2)によって、又は第1のIFFTモジュール38及び第2のIFFTモジュール38’(図3)によって更に処理されて、フィルタリングされたMR信号26のノイズを更に抑制する。次に、画像再構成モジュール40が、フィルタリングされたMR信号26を、被検体Sの1つ以上の再構成された医用画像に処理するようにプログラムされる。
【0028】
[0031] 図4を参照して、コヒーレンス関数モジュール32を用いる開示するアプローチにおいて、短時間の信号事象を抑制するやり方をシミュレーション計算によって図式的に示している。図4では、時間の関数として信号50がプロットされている。この信号50において、第2の信号事象51が観察される。図4の左側には、メイン信号50の周波数領域を、対応するエネルギースペクトル密度(ESD)52として示している。信号成分50は、エネルギースペクトル密度52では、主要ピーク50ESDとして見られ、第2の信号事象51は、エネルギースペクトル密度53では、メイン信号ピーク50ESDから十分に離れた低振幅高周波数ピーク51ESDとして見られる。しかし、エネルギースペクトル密度52は時間の関数としては分解されない。これは、FFT(図示せず)など、MR信号50の他の典型的な周波数領域表現にも当てはまる。周波数領域表現52は時間の関数として分解されないため、ノイズを除去するために周波数領域表現52に作用するノイズフィルタを時間の経過と共にグローバルに適用する必要がある。これにより、短時間の信号事象51の一部の時間エリアでフィルタリングが適用されないため、最適でないノイズ除去が発生する可能性がある。
【0029】
[0032] 図4を引き続き参照すると、MR信号50のコヒーレンス関数変換が、平滑化された疑似ウィグナー・ビレ分布(SPWVD)54として示される。コヒーレンス変換56は、少なくとも1つの信号を、時間(横座標又は水平x軸にプロットされる)及び瞬間周波数スペクトル(縦座標又は垂直y軸にプロットされる)の関数として表す。信号50の信号成分は、SPWVD54では、プロットされた時間間隔全体にわたって延在する構造50SPWVDとして見られ、これは、信号50の上のプロットに見られるように、信号がプロットされた時間間隔全体にわたって延在するためである。一方、第2の信号事象51は、SPWVD54では、メイン信号構造50SPWVDから十分に離れ、また、SPWVD54に示す時間間隔tsignal2に時間的に制限されている高周波特徴51SPWVDとして見られる。第2の信号事象51は、SPWVD54では時間の関数として分解されるので、ノイズを除去するためにSPWVD54に作用するノイズフィルタを、時間的に限定されたやり方で、例えば、時間間隔tsignal2やtsignal2より少し大きい時間間隔を除いて適用できる。これにより、時間の関数として動的に順応するノイズフィルタリングが可能になり、時間の関数として分解されないFFT、ESD、又は他の周波数領域表現を使用してフィルタリングする際に、短時間の信号事象が存在するときに発生する可能性のある、望ましくない信号損失や最適でないノイズ除去を回避できる。
【0030】
[0033] 図5を参照し、また、図1及び図2を再び参照して、MRデバイス10を使用する例示的なイメージング方法100がフローチャートとして図式的に示されている。方法100を開始するために、患者がカウチ1上に、そして、ボア12内にロードされる。MRコイル18が患者の上に配置される。ステップ102において、電子機器24によってMR信号26が受信される。ステップ104において、MR信号26は、MR信号26を時間及び瞬間周波数スペクトルの関数として表すコヒーレンス関数で変換される。ステップ106において、変換されたMR信号26がスペクトルフィルタリングされる。ステップ108において、フィルタリングされたMR信号26が少なくとも1つの医用画像に再構成される。
【0031】
実施例
[0034] 図2を引き続き参照して、単一チャネルでのMRI信号のM個の観察に基づいて、各MRI信号は、信号とノイズとでy(m)=x(m)+n(m)で構成され、y(m)は、見積もられる信号である。指数iはチャネルiの信号成分であり、mはサンプル値である。信号はそれ自身と強く相関しており、信号には相関のないノイズ源(情報を伝達しない信号)が付いてくるとされている。コヒーレンス関数の値は、信号が存在するかどうかを判断するために使用される主要なメトリックである。更に、ノイズ統計の学習は不要であり、信号の受信した現在の観測だけが必要である。ノイズがある信号(同じチャネル又は異なるチャネル)間のコヒーレンス関数の振幅が1に等しい又は1に近い場合、信号が優勢であり、歪みなしに通過するはずである。
【0032】
[0035] MRI信号は空間的に分離され、したがって、各信号は式1に従って表される:
[m]=x[m]+n[m]、 [i=1、2、3、・・・] (1)
これにより、n(m)はノイズを表し、x(m)はノイズのない関心の信号を表し、y(m)はノイズがある信号を表し、i個のチャネルとm個のサンプルとがある。FFTをM個のサンプルのブロックで行うことができるか、又は、スライディングウィンドウFFTフィルタリングの重複-加算法を使用してM個のサブセット(Q<M)で行うことができる。一般に、FFT分解能は、標準的なゼロ充填技術を使用してQからMにすることができる。信号のFFTを取得した後、信号は式2に従って表される:
[f,k]=X[f,k]+N[f,k]、 [i=1、2、3、・・・] (2)
ここで、fは周波数ビンであり、kはフレーム指数である。信号とノイズとは相関していない、図3に示すような2チャネルコイルの実施例では、Y[f,k]のクロスパワースペクトル密度は式3に従って表される:
【数1】
ここで、Puv[f,k]=E{U[f,k]V*[f,k]}は、それらの乗法的関数の期待値としてのクロススペクトル密度を含む。したがって、信号y[m]と信号y[m]との間の振幅コヒーレンス関数は式4に従って定義される:
【数2】
【0033】
[0036] すると、平均二乗コヒーレンス(MSC)は、
【数3】
に等しくなる。これは、相関のない信号をターンオフし、相関のある信号を通過させるために使用される。観察は、0~1のコヒーレンス関数を有し、重み付け基準決定を実施できる。この関数は、周波数ビンに直接作用する。
【0034】
[0037] 上記の2チャネルコヒーレンスプロセスは、他の全てのチャネル対に適用でき、ゼロにする周波数ビンの決定は、抑制関数出力のORアルゴリズムに基づいて行われる。
【0035】
[0038] 信号のインコヒーレントノイズを相殺するために、いくつかの抑制関数を設計できる(例えばNima Yousefian、Kostas Kokkinakis、Philipos C.Loizou、「A Coherence-Based Algorithm for Noise Reduction in Dual-Microphone Applications」(第18回欧州信号処理会議(EUSIPCO-2010)、2010年8月を参照)。ここで、抑制関数は、式5に従って表される:
【数4】
【0036】
[0039] ここで、
【数5】
はチャネルにおけるノイズがある信号のコヒーレンスであり、したがって、関数G[f,k]は、コヒーレンス<Thで全ての周波数成分を減衰させる。
【0037】
[0040] 次に、(周波数空間における)最終的な信号値は、Y[f,k]*G[f,k](y[m]のFFTである信号Yの場合)として計算され、同様にY[f,k]*G[f,k](y[m]のFFTである信号Yの場合)として計算される。
【0038】
[0041] 更に、単一チャネルコヒーレンスベースのノイズ除去では、SPWVDアルゴリズムが使用され、式6に従って、コヒーレンス関数を使用する代わりに、サンプリングされた信号から自己コヒーレンスを直接計算できる:
【数6】
ここで、t=時間であり、vは周波数であり、h(t)は時間領域内の交差項を減らすための時間ウィンドウであり、g(t)減衰ウィンドウフィルタを使用して、周波数領域内の成分間の交差項を平滑化するか又は最小化する。
【数7】
【0039】
[0042] 次に、(周波数空間における)最終的な信号値は、Y[f,k]*G[f,k](y[m]のFFTである信号Yの場合)として計算される。
【0040】
[0043] なお、ここでの信号の表記は、離散的ではなく連続的である。
【0041】
[0044] コイル要素のNチャネルアレイの場合、この方法は、結合コイルの対ごとに繰り返される。結合に関する知識(ノイズ抵抗結合と相互インダクタンス信号結合)を方法に組み込むことができる。
【0042】
[0045] この説明は、周波数次元でスライディングウィンドウFFTを使用する1DのSPWVDについてのものである。このデータ収集次元は一般に高速A/Dに関連する高速データ収集方向であるためである。しかし、この手法は、全てのk空間ラインを集めた後のk空間ライン次元(k)にも適用でき、したがって、2Dノイズ低減アルゴリズムが存在する。
【0043】
[0046] 本開示は、好ましい実施形態を参照して説明されている。前の詳細な記述を読み、理解した者は、修正及び変更を想到するであろう。模範的な実施形態は、添付の特許請求の範囲又はその等価物の範囲内である限り、そのようなすべての修正及び変更を含むものと解釈されることを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】