(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】抗体薬物複合体のフロースルー陽イオン交換クロマトグラフィー精製方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20240829BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C07K16/00
C07K1/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510666
(86)(22)【出願日】2022-08-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 US2022075252
(87)【国際公開番号】W WO2023028446
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリックス, レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】ハッチンソン, マシュー ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】フェデスコ, マーク フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】トラン, ベンジャミン フー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA72
4H045DA75
4H045EA20
4H045GA23
(57)【要約】
本発明は、ADCの臨界品質特性(CQA)を変更することなく、抗体中間体の精製条件を活用するフロースルーモードでの陽イオン交換クロマトグラフィーを使用する、抗体薬物複合体の精製方法を開発する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システイン指向性抗体薬物複合体(cys ADC)中のタンパク質凝集体の濃度を低下させるための方法であって、前記方法が、
a.第1のセットの精製条件を使用して陽イオン交換クロマトグラフィー材料で抗体の第1の精製を実施して、精製された抗体中間体を得る工程;
b.前記精製された抗体中間体を細胞毒性薬と結合させて、cys ADCおよびタンパク質凝集体を含む粗調製物を形成する工程;および
c.前記第1のセットの精製条件を使用してフロースルーモードで陽イオン交換クロマトグラフィー材料により前記粗調製物の第2の精製を実施して、精製されたcys ADCを生成する工程
を含み、
前記第1のセットの精製条件が、緩衝系の負荷密度、緩衝種、pHおよび導電率を含む、方法。
【請求項2】
前記陽イオン交換クロマトグラフィー材料を洗浄して精製されたcys ADCを回収する、追加の工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記精製されたcys ADCの収率が98重量%を超える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記精製されたcys ADC中のタンパク質凝集体の濃度が、前記cys ADCの臨界品質特性(CQA)を変更することなく、cys ADCおよびタンパク質凝集体の粗混合物中のタンパク質凝集体の濃度に対して少なくとも85%低下する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質凝集体が、超高分子量種(vHMWS)および高分子量種(HMWS)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質凝集体がvHMWSである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記vHMWSがオリゴマーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記精製されたcys ADC中の前記vHMWSが0.1%未満に減少する、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記cys ADC中の前記vHMWSが0.02%未満に減少する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
システイン指向性抗体薬物複合体(cys ADC)を精製する方法であって、前記方法が、
a.第1のセットの精製条件を使用して陽イオン交換クロマトグラフィー材料で抗体の第1の精製を実施して、精製された抗体中間体を得る工程;
b.前記精製された抗体中間体を細胞毒性薬と結合させて、cys ADCの粗調製物を形成する工程;および
c.前記第1のセットの精製条件を使用してフロースルーモードで陽イオン交換クロマトグラフィー材料により前記粗調製物の第2の精製を実施して、精製されたcys ADCを生成する工程
を含み、
前記第1のセットの精製条件が、緩衝系の負荷密度、緩衝種、pHおよび導電率を含む、方法。
【請求項11】
前記陽イオン交換クロマトグラフィー材料を洗浄して精製されたcys ADCを回収する、追加の工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記精製されたcys ADCの収率が98重量%を超える、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記cys ADCが、天然システインを標的とする操作されたシステインおよび鎖間システイン複合体を介した部位特異的複合体からなる群から選択される、請求項1または請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記cys ADCが、操作されたシステインを介した部位特異的複合体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記cys ADCが、天然システインを標的とする鎖間システイン複合体である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記陽イオン交換材料が樹脂である、請求項1または請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記樹脂が、POROS 50HS、POROS XS、およびSPFF樹脂からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記樹脂がPOROS XSである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記樹脂がSPFFである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
cys ADCおよびタンパク質凝集体の粗混合物の前記第2の精製における前記負荷密度が100g/L
r~1000g/L
rである、請求項1または請求項10に記載の方法。
【請求項21】
cys ADCおよびタンパク質凝集体の前記粗混合物の前記第2の精製における前記負荷密度が500g/L
rである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
精製された抗体中間体を得るための第1のセットの精製条件を使用する前記抗体の前記第1の精製が、結合-溶出モードで実施される、請求項1または請求項10に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞毒性薬が、アウリスタチン、メイタンシノイドおよびDNA損傷剤からなる群から選択される、請求項1または請求項10に記載の方法。
【請求項24】
前記DNA損傷剤が、カリケアマイシン、アントラサイクリンおよびピロロベンゾジアゼピンからなる群から選択される誘導体である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞毒性薬がピロロベンゾジアゼピン誘導体である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞毒性薬がピロロベンゾジアゼピンモノアミドである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞毒性薬がアウリスタチンの誘導体である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞毒性薬がMMAE(モノメチルアウリスタチンE)である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞毒性薬がリンカー薬物複合体を形成する、請求項1または請求項10に記載の方法。
【請求項30】
前記リンカー薬物複合体がvcMMAE(モノメチルアウリスタチンE、バリン-シトルリン(vc-)リンカーを有する細胞毒素)である、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月23日に出願された米国仮出願第63/236,170号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
一般に、本発明は、フロースルーモードで陽イオン交換クロマトグラフィーを使用する抗体薬物複合体の精製方法を開発する方法に関する。特に、本発明は、フロースルーモードで陽イオン交換クロマトグラフィーを使用するシステイン標的化抗体薬物複合体の精製方法に関する。より詳細には、本発明は、抗体中間体の精製条件を活用するフロースルーモードでの陽イオン交換クロマトグラフィーを使用するシステイン標的化抗体薬物複合体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
抗体分子は、タンパク質医薬群の一部として、物理的および化学的な分解を非常に受けやすい。化学的な分解は、結合形成または開裂を介するタンパク質の修飾を含む任意のプロセスを含み、新しい化学物質が得られる。種々の化学反応は、タンパク質に影響を与えることが知られている。これらの反応は、ペプチド結合の開裂を含む加水分解、ならびに脱アミド化、異性化、酸化および分解を含んでいてもよい。物理的な分解は、より高次の構造の変化を指し、変性、表面への吸着、凝集および沈殿を含む。タンパク質の安定性は、例えば、アミノ酸配列、グリコシル化パターンなどのタンパク質自体の特徴によって影響され、温度、溶媒、pH、賦形剤、界面、または剪断速度などの外的な影響によって影響される。
【0004】
抗体-薬物複合体(ADC)は、従来の小分子および抗体癌化学療法と比較して非特異的毒性を減少させ、有効性を増加させるように設計された標的化抗癌治療薬である。それらは、モノクローナル抗体の強力な標的能力を用いて、効力の高い複合体化小分子療法薬を癌細胞に特異的に送達する。ADCは、抗体に複合体化された強力な小分子薬物からなり、腫瘍細胞への標的化送達を可能にする。複合体化プロセスは、所望の薬物対抗体比(DAR)を達成するための抗体および細胞毒性薬の化学反応を含む。(R.V.J.Chari,M.L.Miller,W.C.Widdison,Antibody-Drug Conjugates:An Emerging Concept in Cancer Therapy,Ange.Chem.Int.Ed.53(2014)3796-3827;P.Polakis,Pharmacological Reviews(2016),3-19).DARは安全性および有効性の両方に直接影響を及ぼすため、厳密に制御する必要がある。DARはまた、製品の一貫性を確保するために適切に狭い仕様に制御される必要がある。
【0005】
抗体-薬物複合体を形成するために必要な化学反応工程は、タンパク質凝集をもたらし得る長い保持時間、高いpH、溶媒バックグラウンドなどの反応条件を必要とする場合がある。最終原薬として、複合体中の凝集体のレベルは、要求される仕様内で制御されなければならない。凝集体の総レベルに加えて、非常に高分子量の種(vHMWS)と呼ばれることが多い二量体よりも大きい生成物多量体に特に焦点を当てる必要があり得る。特に超高分子量種(vHMWS)では、タンパク質凝集体からの免疫原性のリスクが増大するため、この特定の凝集体種の形成を減少させるための協調的な努力がなされてきた(W.Wang,S.K.Singh,N.Li,M.R.Toler,K.R.King,S.Nema,Immunogenicity of protein aggregates--concerns and realities,Int J Pharm.431(2012)1-11)。
【0006】
出発モノクローナル抗体(mAb)中間体は、標準的な生物学的治療薬と同様の製品品質を達成するために製造および精製される(A.A.Shukla,B.Hubbard,T.Tressel,S.Guhan S,D.Low,Downstream processing of monoclonal antibodies--application of platform approaches,J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci.848(2007)28-39);P.Gronemeyer,R.Ditz,J.Strube.Trends in Upstream and Downstream Process Development for Antibody Manufacturing.Bioengineering(Basel)1(2014)188-212)。
【0007】
抗体の精製は、典型的には、結合-溶出クロマトグラフィーまたはフロースルークロマトグラフィーを用いて行われる。弱分配クロマトグラフィー(Kelley,BDら,2008 Biotechnol Bioeng 101(3):553-566;米国特許出願公開第2007/0060741号)および過負荷クロマトグラフィー(PCT/US2011/037977)は、それぞれ陰イオン交換樹脂(AEX)および陽イオン交換(CEX)樹脂に対して、抗体精製を強化するために使用されている。
【0008】
プラットフォームプロセスおよびHTS法を活用する精製方法は、典型的には、抗体精製方法における凝集体および不純物の除去に一般的に使用される陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)を用いた抗体精製の開発に使用される。CEXは、典型的には、比較的低い目標負荷密度結合-溶出モードで運転される(H.F.Liu,J.Ma,C.Winter,R.Bayer,Recovery and purification process development for monoclonal antibody production,mAbs,2(2010)480-499)。
【0009】
結合-溶出クロマトグラフィー:結合-溶出クロマトグラフィーでは、生成物は通常、クロマトグラフィー材料への動的結合容量(DBC)が最大になるように負荷され、次いで、溶出液において最大の生成物純度が達成されるように洗浄および溶出条件が特定される。結合-溶出クロマトグラフィーの限界は、実際の樹脂DBCに対する負荷密度の制限である。したがって、結合-溶出クロマトグラフィー精製は、負荷密度が低いために、より大きなカラムサイズを必要とする。結合-溶出モードの精製工程は、製造段階で開発および実施するためにより複雑である。結合溶出精製工程のプール基準は重要なパラメータであり得、収率の低下および設備適合の課題をもたらす可能性がある。
【0010】
フロースルークロマトグラフィー:フロースルークロマトグラフィーを使用して、生成物が流れる間に不純物がクロマトグラフィー材料に強く結合する負荷条件が特定される。フロースルークロマトグラフィーにより、標準抗体の高負荷密度が可能になる。
【0011】
過負荷クロマトグラフィー:このクロマトグラフィーのモードでは、目的の生成物は、生成物に対するクロマトグラフィー材料の動的結合容量を超えて負荷され、したがって過負荷と呼ばれる。操作様式は、陽イオン交換(CEX)媒体、特に膜を用いた抗体精製を提供することが実証されている。しかし、この手法の限界は、溶出相が存在しないため、樹脂では収率が低くなる可能性がある。過負荷クロマトグラフィーのさらなる課題は、高力価のための設備および適切な負荷条件を含む適切な重要なプロセスパラメータである。
【0012】
標準的なモノクローナル抗体の精製開発に典型的に使用されるハイスループットスクリーニング(HTS)ロボット装置。しかし、そのようなハイスループットスクリーニング(HTS)ロボット装置は、細胞毒性化合物の取り扱いには適切でないか、安全でない可能性がある(J.L.Coffman,J.F.Kramarczyk,B.D.Kelley,High-throughput screening of chromatographic separations:I.Method development and column modeling.Biotechnol.Bioeng.,100(2008)605-618;M.I.Hensgen,B.Stump,Safe Handling of Cytotoxic Compounds in a Biopharmaceutical Environment.In:Ducry L.(編),Antibody-Drug Conjugates.Methods in Molecular Biology(Methods and Protocols),1045(2013);Humana Press,Totowa,NJ.2013,pp.130-142)。これにより、ADCの精製のためにHTSを使用する際の課題がもたらされる。
【0013】
ADCを形成するための複合体化反応中に凝集体の形成を確実に制御できない場合、原薬凝集体の仕様を達成するために、複合体化後に精製工程を実施しなければならない。精製は、強力な化合物を取り扱う安全性要件を損なうことなく、DARおよび薬物負荷分布などの所望のADC製品の品質に影響を与えることなく行われなければならない。ADC精製技術はまた、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を使用する。HICは、分子の疎水性に基づいて分子を分離するための有用なツールである。通常、高塩緩衝液中のサンプル分子がHICカラムに負荷される。緩衝液中の塩は水分子と相互作用して溶液中の分子の溶媒和を減少させ、それによってサンプル分子中の疎水性領域を露出させ、その結果HICカラムに吸着する。分子の疎水性が高いほど、結合を促進するために必要な塩は少なくなる。通常、減少する塩勾配を使用して、カラムからサンプルを溶出する。イオン強度が低下すると、分子の親水性領域の露出が増加し、疎水性が高い順に分子がカラムから溶出する。サンプルの溶出は、穏やかな有機改質剤または界面活性剤を溶出緩衝液に添加することによっても達成され得る。HICは、Protein Purification,第2版,Springer-Verlag,New York,第176-179頁(1988)に概説されている。
【0014】
しかし、高塩濃度の存在下でほぼ中性のpHで一般的に実施されるHIC技術は、ADCの沈殿ならびにフィルタの汚染による強力な化合物の取り扱いにおける安全性の問題をもたらし得る。(Becker C.L.,Duffy R.J.,Gandarilla J.,Richter S.M.(2020)Purification of ADCs by Hydrophobic Interaction Chromatography.In:Tumey L.(編)Antibody-Drug Conjugates.Methods in Molecular Biology,vol 2078.Humana,New York,NY.https://doi.org/10.1007/978-1-4939-9929-3_19)
【0015】
一般に、ADC精製の開発は、細胞毒性化合物を取り扱う安全性要件のためにより困難である。ヒト治療薬として使用するのに十分な純度までのADCの大規模で費用効果の高い精製は、依然として困難な課題である。
【0016】
種々のADC精製技術が文献で説明されている。例えば、CN104208719には、ADC精製のための溶出および過負荷が記載されている。しかし、CN104208719には、フロースルーモードでの精製についての教示は提供されていない。さらに、CN104208719は、抗体精製を論じておらず、抗体中間体精製中に開発された精製条件をADCの精製に活用するための教示も提供していない。別の例では、米国特許出願公開第2013245139号では、抗体の凝集体精製のためにCEX膜が使用されている。しかし、米国特許出願公開第2013245139号は、ADCの精製、特に抗体中間体精製中に開発された精製条件をADCの精製に活用するための教示を提供していない。
【0017】
したがって、本発明の目的は、抗体中間体の精製条件を活用するフロースルーモードで陽イオン交換クロマトグラフィーを使用する抗体薬物複合体の精製方法を開発する方法を提供することである。
【0018】
DARおよび薬物負荷分布などのADC製品の重要な品質特性(CQA)にも影響を及ぼさない凝集体を除去するための精製中の条件を特定することも本発明の目的である。
【0019】
本発明の別の目的は、フロースルーモードで陽イオン交換クロマトグラフィーを使用する抗体薬物複合体の迅速かつ堅牢な精製工程の開発を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、フロースルーモードで陽イオン交換クロマトグラフィーを使用する抗体薬物複合体のための低コストで堅牢な精製工程を提供することである。
【0021】
本発明の目的はまた、vHMWSを特異的に除去することである。
【0022】
単純化されたADC精製方法およびADC精製プロセスは、vHMWSを有意に減少させ、一貫して高い収率を達成し、ADC生成物の重要な品質特性(CQA)を変化させなかった。この精製アプローチはまた、最小限の発達でADCのためのvHMWS除去のための精製方法を開発するために使用し得る。
【発明の概要】
【0023】
概要
本発明は、抗体中間体精製中に開発された精製条件をADCの精製のために活用するための方法を提供する。
【0024】
一態様では、本発明は、システイン指向性抗体薬物複合体(ADC)中の超高分子量種(vHMWS)の濃度を低下させるための改良された方法であって、本方法が、
a.第1のセットの精製条件を使用して陽イオン交換クロマトグラフィー材料で抗体の第1の精製を実施して、精製された抗体中間体を得る工程;
b.精製された抗体中間体を細胞毒性薬と結合させて、cys ADCおよびタンパク質凝集体を含む粗調製物を形成する工程;および
c.第1のセットの精製条件を使用してフロースルーモードで陽イオン交換クロマトグラフィー材料により粗調製物の第2の精製を実施して、精製されたcys ADCを生成する工程
を含み、
セットの精製条件が、緩衝系の負荷密度、緩衝種、pHおよび導電率を含む、方法を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、cysADCの重要な品質特性(CQA)を変更することなく、溶出液中のvHMWSの濃度を、cysADCおよびタンパク質凝集体の粗混合物中のタンパク質凝集体の濃度に対して少なくとも85%低下させることを提供する。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、ADC中のvHMWSを0.1%未満に減少させる方法を提供する。
【0027】
さらに別の態様では、本発明は、陽イオン交換カラムに使用される樹脂がPOROS 50HS、POROS XS、およびSPFF樹脂から選択される方法を提供する。
【0028】
さらなる態様では、本発明は、システイン指向性抗体薬物複合体(cys ADC)を精製する方法であって、本方法が、
a.第1のセットの精製条件を使用して陽イオン交換クロマトグラフィー材料で抗体の第1の精製を実施して、精製された抗体中間体を得る工程;
b.精製された抗体中間体を細胞毒性薬と結合させて、cys ADCの粗調製物を形成する工程;および
c.第1のセットの精製条件を使用してフロースルーモードで陽イオン交換クロマトグラフィー材料により粗調製物の第2の精製を実施して、精製されたcys ADCを生成する工程
を含み、
セットの精製条件が、緩衝系の負荷密度、緩衝種、pHおよび導電率を含む、方法を提供する。
【0029】
cys ADCを精製する方法の一実施形態では、細胞毒性子は、アウリスタチン、メイタンシノイドおよびDNA損傷剤からなる群から選択される。
【0030】
Cys ADCを精製する方法の別の実施形態では、DNA損傷剤は、カリケアマイシン、アントラサイクリンおよびピロロベンゾジアゼピンからなる群から選択される誘導体である、請求項23に記載の方法。
【0031】
本発明のなおさらなる実施形態では、cys ADCの形成に使用される抗体は、結合-溶出モードで精製される。
【0032】
本発明の別の実施形態では、精製抗体中間体を得るための第1の精製は、段階溶出を含む。
【0033】
本発明のさらに別の実施形態では、精製抗体中間体を得るための第1の精製は、勾配溶出を含む。
【0034】
抗体を精製する方法の別の実施形態では、抗体の結合挙動を決定するスクリーニング方法はハイスループットスクリーニング(HTS)である。
【0035】
本発明の別の実施形態では、抗体の精製において使用されるHTSは、pHおよび対イオン濃度の関数としての抗体の結合挙動をマッピングするために使用される。
【0036】
別の実施形態では、抗体の結合挙動をマッピングするために使用される抗体HTSの結果を活用して、ADC精製のためのフロースルー条件を特定する。
【0037】
本発明のさらなる実施形態では、抗体またはcys ADCの精製中に除去されるタンパク質凝集種は、抗体またはcys ADCの超高分子量種(vHMWS)および高分子量種(HMWS)を含む。
【0038】
本発明のなおさらなる実施形態では、精製中に除去されるタンパク質凝集種は、超高分子量種(vHMWS)である。
【0039】
本発明の別の実施形態では、cys ADCは、天然システインを標的とする操作されたシステインおよび鎖間システイン複合体を介して部位特異的複合体から選択される。
【0040】
別の実施形態では、cys ADCは、操作されたシステインを介した部位特異的複合体である。
【0041】
さらに別の実施形態では、cys ADCは、天然システインを標的とする鎖間システイン複合体である。
【0042】
本発明のなおさらなる実施形態では、精製方法を開発する方法は、チオマブ抗生物質抗体複合体(AAC)を含む。
【0043】
本発明の別の実施形態では、cys ADCのプール基準は0.5OD~0.5ODである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】
図1は、TSKgel G3000SWxLカラム(7.8×300mm、日本東京都東ソーバイオサイエンス)を使用したSEC-HPLCによって分析されたタンパク質不純物のクロマトグラムの例を示す。ピークを、15% IPAおよび85%の0.2Mリン酸カリウム、0.25M塩化カリウム、pH 6.95の移動相を使用した定組成分離で分離した。流速を周囲温度で0.5mL/分に維持し、280nmでUV検出した。検出された2つの主な凝集種には、vHMWSおよびHMWSが含まれる。HMWSは抗体-薬物複合体のタンパク質二量体であり、vHMWSは抗体-薬物複合体のオリゴマーである。
【0045】
【
図2】
図2は、鎖間システイン複合体の分析的疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)法を使用して決定した平均DARおよび薬物負荷分布の例を示す。
【0046】
【
図3】
図3は、部位特異的複合体の分析的疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)法を使用して決定された平均DARおよび薬物負荷分布の例を示す図である。
【0047】
【
図4】
図4は、CEX樹脂上の抗体およびその対応するシステイン指向性抗体薬物複合体(cys ADC)に対する結合挙動を比較するバッチ結合等高線図の例を示す。
【0048】
【
図5】
図5は、500g/L
rの複合体負荷密度を有するCEXカラム用のシステイン指向性抗体薬物複合体の凝集種(vHMWSおよびHMWS)ブレークスルーの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発明の詳細な説明
本発明は、抗体を精製し、ADC精製のための抗体中間体凝集体種の結合挙動を活用することを含む、システイン指向性抗体薬物複合体の精製を開発する方法およびシステイン指向性抗体薬物複合体の精製方法を開発する方法に関する。
【0050】
本明細書および特許請求の範囲の目的のために、特に指示しない限り、成分の量、材料の割合または比率、反応条件、ならびに本明細書および特許請求の範囲で使用される他の数値を表す全ての数字は、明示的に示されているか否かにかかわらず、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。「約」という用語は、一般に、列挙された値と等価であると考えられる数の範囲を指す。多くの場合、「約」という用語は、最も近い有効数字に四捨五入された数字を含み得る。さらに、本明細書に開示される全ての範囲は、その中に包含される全ての下位範囲を包含すると理解されるべきである。
【0051】
本明細書に引用される全ての出版物、特許、および特許出願は、あらゆる目的のために参照によりそれらの全体が本明細書に援用される。
【0052】
本発明を更に詳細に説明する前に、いくつかの用語を定義する。これらの用語の使用は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の説明を容易にするためにのみ役立つ。
定義:
【0053】
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、具体的には、無傷のモノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの無傷の抗体から形成された多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の生物学的活性を示す限り抗体断片を包含する。
【0054】
「抗体断片」は、無傷の抗体の一部、一般に無傷の抗体の抗原結合領域または可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「抗体中間体」は、細胞毒性薬と複合体化させて抗体薬物複合体を生成するために使用される、第1のセットの精製条件を使用して第1の精製を行うことによって精製された精製抗体を指す。
【0056】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される、単数形「a(1つの)」、「or(または)」、および「the(その)」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0057】
本明細書で使用される場合、「結合挙動」は、pHおよび対イオン濃度を含む特定の条件での抗体、抗体中間体またはADCの樹脂への結合または非結合を指す。
【0058】
本明細書で使用される場合、「緩衝液」とは、その酸-塩基複合体成分の作用によりpHの変化に抵抗する緩衝溶液を指す。本発明のCEXクロマトグラフィー態様の緩衝液は、約4.5~6.5、好ましくは約5.3~5.7の範囲のpHを有する。pHをこの範囲内に調整する緩衝液の例としては、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩もしくはアンモニウム緩衝液、または2つ以上の緩衝液が挙げられる。好ましいそのような緩衝液は、酢酸塩、クエン酸塩およびアンモニウム緩衝液であり、最も好ましくは酢酸ナトリウム緩衝液である。「負荷緩衝液」は、ADCと不純物/汚染物質との混合物をCEXカラムに充填するために使用されるものであり、「平衡/洗浄緩衝液」は、不純物/汚染物質がカラムに保持されている間に抗体を回収するためにカラムからADCを洗浄するために使用されるものである。多くの場合、負荷緩衝液および平衡/洗浄緩衝液は、同じpHおよび/または導電率条件を有する。
【0059】
クロマトグラフィーに関して本明細書で使用される「連続的(sequential)」という用語は、第1のクロマトグラフィーに続いて第2のクロマトグラフィーを有することを指す。さらなる工程が第1のクロマトグラフィーと第2のクロマトグラフィーとの間に含まれていてもよい。
【0060】
クロマトグラフィーに関して本明細書で使用される「継続的」という用語は、直接接続されているか、または2つのクロマトグラフィー材料の間の継続流を可能にする何らかの他の機構を介して接続された第1のクロマトグラフィー材料と第2のクロマトグラフィーとを有することを指す。
【0061】
本明細書で使用される操作されたシステインという用語は、部位特異的複合体化のための操作された反応性システイン残基を有し、均一な複合体化を示す抗体を指す。
【0062】
本明細書で使用されるシステイン指向性抗体薬物複合体(cys ADC)という用語は、細胞毒性薬との複合体化に利用可能なシステイン残基を有する抗体の複合体を指す。
【0063】
本明細書で使用される天然システインという用語は、鎖間ジスルフィド結合を指し、0、2、4、6、および8-DAR形態からなる不均一な複合体をもたらす部分還元によって生成される。
【0064】
本明細書で使用される場合、「細胞毒性薬」という用語は、細胞機能を阻害もしくは防止し、および/または細胞死もしくは破壊を引き起こす物質を指す。細胞毒性薬としては、アウリスタチン、メイタンシノイド、ならびにカリケアマイシン、アントラサイクリンおよびピロロベンゾジアゼピンを含むDNA損傷剤、放射性同位体;化学療法剤または薬物(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシンまたは他の挿入剤);成長阻害剤;核酸分解酵素などの酵素およびその断片;抗生物質;毒素、例えば細菌、真菌、植物または動物起源の小分子毒素または酵素的に活性な毒素、例えばその断片および/またはバリアント;ならびに様々な抗腫瘍剤または抗癌剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
本明細書で使用される場合、「DAR」という用語は、平均薬物抗体比である。DARはADCの安全性および有効性に直接影響し、ADC製造方法中に直接制御される。
【0066】
本明細書で使用される場合「薬物負荷分布」という用語は、抗体に複合体化された薬物の数を指す。
【0067】
重要な品質特性(CQA)という用語は、平均薬物対抗体比(DAR)および薬物負荷分布を含み、ADCによって送達され得る細胞毒性薬の量を決定する。
【0068】
クロマトグラフィー材料の「動的結合容量」は、生成物、例えばポリペプチドの量であり、物質は、未結合生成物の有意なブレークスルーが起こる前に実際の流動条件下で結合する。
【0069】
本明細書で使用される場合、「分配係数」、Kpは、固定相中の生成物、例えばポリペプチドのモル濃度を移動相中の生成物のモル濃度で割ったものを指す。
【0070】
「負荷密度」は、クロマトグラフィー材料の体積(例えば、リットル)と接触した組成物の量(例えば、グラム)を指す。いくつかの例では、負荷密度はg/Lrで表される。
【0071】
本明細書で使用される場合、「イオン交換」および「イオン交換クロマトグラフィー」という用語は、目的の抗体または抗体薬物複合体が固相イオン交換材料に連結された荷電化合物と相互作用するか、または相互作用しないクロマトグラフィー法を指し、その結果、混合物中の不純物または凝集物が、目的の抗体または抗体薬物複合体よりも速くまたは遅くイオン交換材料のカラムから溶出し、不純物または凝集物と比較して樹脂に結合するか、または樹脂から排除される。「イオン交換クロマトグラフィー」には、具外的に、陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィーおよび混合モードクロマトグラフィーが挙げられる。
【0072】
本明細書で使用される場合、「陰イオン交換樹脂」または「AEX」という用語は、正に帯電している固相を指し、例えば、それに結合した第四級アミノ基などの1つ以上の正に帯電したリガンドを有する。市販の陰イオン交換樹脂としては、DEAEセルロース、QAE SEPHADEX(商標)およびFAST Q SEPHAROSE(商標)(Pharmacia)が挙げられる。陰イオン交換クロマトグラフィーは、標的分子に結合し、続いて溶出させることが可能であり、または標的抗体もしくは抗体薬物複合体がカラムを通過する間に、主に不純物を結合させ得る。
【0073】
陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、負に帯電した固相であり、固相を通過する水溶液(抗体および不純物を含む組成物など)中の陽イオンと交換するための遊離陰イオンを有する。本明細書に記載の任意の方法のいくつかの実施形態では、陽イオン交換材料は、膜、モノリス、または樹脂であり得る。いくつかの実施形態では、陽イオン交換材料は、樹脂であり得る。陽イオン交換材料は、例えば、スルホン酸塩、カルボキシル、カルボキシメチルスルホン酸、スルホイソブチル、スルホエチル、カルボキシル、スルホプロピル、スルホニル、スルホキシエチル、またはオルトリン酸塩であるが、これらに限定されないカルボン酸官能基またはスルホン酸官能基を含み得る。上述のいくつかの実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、陽イオン交換クロマトグラフィーカラムである。上述のいくつかの実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、陽イオン交換クロマトグラフィー膜である。樹脂を含む陽イオン交換材料の例は、当技術分野で公知であり、Mustang(登録商標)S、Sartobind(登録商標)S、S03Monolith(例えば、CIM(登録商標)、CIMmultus(登録商標)およびCIMac(登録商標)S03)、S Ceramic HyperD(登録商標)、Poros(登録商標)XS、Poros(登録商標)HS 50、Poros(登録商標)HS 20、sulphopyl-Sepharose(登録商標)Fast Flow(SPSFF)、SP-Sepharose(登録商標)XL(SPXL)、CM Sepharose(登録商標)Fast Flow、Capto(商標)S、Fractogel(登録商標)EMD Se Hicap、Fractogel(登録商標)EMD S03、またはFractogel(登録商標)EMD COOが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィーは「結合-溶出液」モードで実施される。いくつかの実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィーは「フロースルー」モードで実施される。上記のいくつかの実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィー材料はカラム内にある。上記のいくつかの実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィー材料は膜中にある。
【0074】
「不純物」とは、所望のポリペプチド産物とは異なる物質を指す。不純物は、ワンアーム抗体および誤って組み立てられた抗体などの産物特異的なポリペプチド、塩基性バリアントおよび酸性バリアントを含む抗体バリアント、ならびに凝集体を指し得る。他の不純物としては、宿主細胞タンパク質(HCP)などの宿主細胞材料を含むプロセス特異的不純物;浸出プロテインA;核酸;別のポリペプチド;内毒素;ウイルス汚染物質;細胞培養培地成分などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの例では、不純物は、例えば、大腸菌細胞(ECP)などの細菌細胞、昆虫細胞、原核細胞、真核細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、鳥類細胞、真菌細胞からのHCPであり得るが、これらに限定されない。いくつかの例では、不純物は、CHO細胞などの哺乳類細胞からのHCP、すなわち、CHO細胞タンパク質(CHOP)であり得る。不純物は、多重特異性抗体の発現、折り畳み、または組み立てを促進するために使用されるアクセサリータンパク質;例えば、FkpA、DsbAおよびDsbCなどの原核生物シャペロンなどを指す場合がある。
【0075】
本明細書で使用される場合、高分子量物質(HMWS)は、ADCのタンパク質二量体または抗体のタンパク質二量体を指す。
【0076】
本明細書で使用される場合、超高分子量物質は、ADCのオリゴマーまたは抗体のオリゴマーを指す。
【0077】
本明細書で使用される場合、タンパク質という用語は、抗体およびADCを含む。
【0078】
純度は相対的な用語であり、必ずしも絶対的な純度を意味するわけではない。本明細書で互換的に使用される「精製」、「分離」または「単離」という用語は、所望の分子および1つ以上の不純物を含む組成物またはサンプルから所望の分子の純度を増加させることを指す。典型的には、組成物から少なくとも1つの不純物を(完全にまたは部分的に)除去することによって、所望の分子の純度の程度が高められる。
【0079】
精製条件も相対的な用語であり、これらの条件は精製方法ごとに異なり得る。精製条件は、緩衝系の負荷密度、緩衝種、pHおよび導電率を含み得る。
【0080】
材料および方法
a.薬物複合体
【0081】
複合体化は、複合体設計に基づいて異なっていてもよいタンパク質を改変するための多段階プロセスである。天然システインを標的とする操作されたシステインおよび鎖間システイン複合体を介した2種類の複合体:部位特異的複合体を用いて精製を検討した。
【0082】
部位特異的複合体の場合、精製中間体を還元剤と共に一晩インキュベートして、抗体の天然のシステインおよび操作されたシステインを完全に還元し、操作されたシステインから全てのシステインまたはグルタチオンキャップを除去する。還元された抗体を緩衝液交換して、残留還元体およびキャップ種を除去する。鎖間ジスルフィド結合は、再酸化工程を介して再形成され、操作されたシステインがリンカー-薬物との複合体化に利用可能になる。過剰なリンカー-薬物を添加して、全ての遊離チオールとの完全な複合体化を確実にする(J.Junutula,H.Raab,S.Clark,ら、Site-specific conjugation of a cytotoxic drug to an antibody improves the therapeutic index,Nat Biotechnol26(2008)925-932)。リンカー-薬物に応じて、複合体化は、反応のpHを低下させることによってクエンチまたは停止される。最後に、残留遊離薬物を除去する。
【0083】
鎖間システイン複合体の場合、抗体中間体の天然システインは、リンカー薬物との複合体化の前に、予め定義された量の還元剤で部分的に還元される(M.M.C.Sun,K.S.Beam,C.G.Cerveny,K.J.Hamblett,R.S.Blackmore,M.Y.Torgov,F.G.M.Handley,N.C.Ihle,P.D.Senter,S.C.Alley,Reduction-Alkylation Strategies for the Modification of Specific Monoclonal Antibody Disulfides,Bioconjugate Chemistry 16(2005)1282-1290)。過剰なリンカー薬物をクエンチし、残留遊離薬物を除去する。
【0084】
b.複合体カラム精製
カラムクロマトグラフィー実験は、陽イオン交換樹脂を充填した様々なサイズのカラムを備えたAKTA Explorer 100を使用して行った。調整した荷重を様々な荷重密度で平衡化カラムに適用し、フロースルーを収集した。負荷段階の後、カラムを平衡化緩衝液で洗浄して、ADCの回収率を増大させた。プールを洗浄段階の終了時またはODが0.5未満になったときに終了した。カラムを0.5N NaClで再生し、0.5N NaOHで清潔にし、0.1N NaOH中で保存した。
【0085】
c.抗体中間体精製開発
抗体中間体について、公知の方法(P.McDonald,B.Tran,C.R.Williams,M.Wong,T.Zhao,B.D.Kelley,P.Lester,The rapid identification of elution conditions for therapeutic antibodies from cation-exchange chromatography resins using high-throughput screening,J Chromatogr A.1433(2016)66-74)を用いてハイスループットスクリーニング(HTS)を実施した。HTSは、pHおよび緩衝液濃度の関数として抗体の結合挙動をマッピングする(J.L.Coffman,J.F.Kramarczyk,B.D.Kelley,High-throughput screening of chromatographic separations:I.Method development and column modeling.Biotechnol.Bioeng.,100(2008)605-618)。陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂上での結合および溶出条件を開発するために、Tecan Robotic液体取り扱いシステムまたはマルチチャネルピペットを使用する96ウェルフィルタープレートを備えたHTSをバッチ結合実験に使用した。条件を確認および最適化するために、充填床実験室規模のカラムを使用した。
【0086】
抗体中間体精製方法は、凝集物および宿主細胞不純物の除去のためにCEXを実施し、100g/Lr未満の負荷密度で結合-溶出モードで操作する(H.F.Liu,B.McCooey,T.Duarte,D.E.Myers,T.Hudson,A.Amanullah,R.van Reis,B.D.Kelley,Exploration of overloaded cation exchange chromatography for monoclonal antibody purification,J Chromatogr A.1218(2011)6943-52)。生成物を負荷し、カラムを洗浄した後、モノマーを溶出緩衝液で溶出した。抗体中間体凝集種の結合挙動をADC精製開発のために活用した。
【0087】
d.分析方法
タンパク質の濃度を、UV-vis分光光度法(Agilent 8453)によって定量した。タンパク質濃度は、光散乱を補正するために320nmまたは400nmのいずれかの吸光度を差し引いた280nmでの吸光度によって決定した。サンプルの消衰係数εを以下の式で使用した。ここで、
はサンプル経路長であり、A
280およびA
320はそれぞれ280nmおよび320nmでの測定吸光度値である。
【0088】
タンパク質不純物を、TSKgel G3000SWxLカラム(7.8×300mm、日本東京都東ソーバイオサイエンス)を使用するSEC-HPLCによって分析した。ピークを、15% IPAおよび85%の0.2Mリン酸カリウム、0.25M塩化カリウム、pH 6.95の移動相を使用した定組成分離で分離した。流速を周囲温度で0.5mL/分に維持し、280nmでUV検出した。クロマトグラムの例が
図1に示されており、両方の複合体のタイプを代表している。検出された2つの主な凝集種には、vHMWSおよびHMWSが含まれる。HMWSはタンパク質二量体であり、vHMWSは抗体/ADCのオリゴマーである。
【0089】
平均DARおよび薬物負荷分布は、
図2および
図3に示すように、分析的疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)法を使用して測定した。サンプルを東ソーバイオサイエンスButyl-NPRカラム(4.6mm×3.5cm、2.5μm)に注入し、0.8mL/分の流量で溶媒Bを用いて直線勾配にわたって溶出させ、280nmで吸光度をモニターした。個々の複合体の勾配および溶媒Bを表1に示す。
【表1】
【0090】
ADCの精製方法は、それらのそれぞれの抗体中間体の開発に基づいて開発された。抗体中間体のそれぞれは、それらの特性(例えば、pI、結合特性など)に基づいて独立した精製方法開発が行われ、わずかに異なる精製プロセスおよび操作様式をもたらした(表2)。異なる抗体精製工程に基づいて、異なるアプローチを使用して、本明細書に記載の複合体分子のフロースルー精製条件を開発した。
【0091】
ADC-1:抗体-1は勾配溶出を利用したので、手動の樹脂スクリーニングをADC-1を用いて実施し、抗体-1についてのHTSの結果と比較した。カラムを通ってモノマーが流れるように凝集体を強く結合するがモノマーを結合しない、0.75~1.25のLogKp(抗体)を有する条件およびpH/導電率条件を含む有望な条件が選択された。充填床カラム実験を用いて有望な条件を試験して、最適なフロースルー条件を決定した。
【0092】
ADC-2:HTSはADCに対して実施されず、代わりに抗体-2の開発HTS結果が活用された。抗体中間工程溶出条件は、凝集体を保持したままモノマーがカラムから溶出するように開発された。これらの条件を複合体に適用して、カラム負荷材料が凝集種を除去しながら生成物のフロースルーをもたらすようにした。精製能力に対する負荷条件のロバスト性を、充填床カラム実験を用いて評価し、製造規模で性能を評価した。
【0093】
ADC-3:抗体精製条件をADCに適用し得るという理論を、第3の生成物を用いて試験した。抗体-2と同様に、HTSをADC-3について実施せず、抗体-3からの段階溶出条件をADCに適用して、フロースルーで凝集種を除去した。単一充填カラム実験を実施して、複合体の精製能力を確認した。
【表2】
【0094】
特に明記しない限り、ADC精製操作には、0.66cm内径(ID)×1.0cm床高さ(BH)の小規模カラムを使用した。また、平衡/洗浄緩衝液条件を負荷条件に適合するように調整した。ADC精製の焦点はvHMWSの除去であったが、HMWS除去も監視した。さらに、精製工程にわたってDARまたは薬物負荷分布を変更することは望まれなかった。
【0095】
実施例1:ADC-1精製方法
【0096】
ADC-1のフロースルー条件を決定するために、マルチチャネルピペットおよび96ウェルプレートを使用してCEX樹脂を用いて手動バッチ結合スクリーニングを実施した。複合体スクリーニングの結果は、同様の結合挙動を有する抗体と複合体との間で同等であった(
図4)。約1のLogK
p値に対応する214mM酢酸ナトリウム、pH5.5の負荷条件を、凝集体が樹脂に結合したままモノマーをフロースルーさせる目標条件として選択した。
【0097】
精製工程をフロースルーモードで実行できるように、選択された標的精製条件をADC-1に適用した。ADC負荷を目標の導電率およびpHに滴定し、500g/L
rの負荷密度までカラムに負荷した。カラムを10CVの平衡化緩衝液で洗浄してADC-1を回収した。負荷およびプールを、凝集体についてはSEC-HPLCによって分析し、DARへの影響についてはHIC-HPLCによって分析した(表3)。
【表3】
【0098】
フロースルー精製条件は、ADC-1についてvHMWSを0.10%に減少させることに成功した。89%の収率が達成され、平均DARまたは薬物分布に対する影響はなかった。抗体-1は精製のために段階溶出を使用しなかったが、この研究は、抗体HTSをADC精製開発のために活用し得、複合体を用いた手動バッチ結合スクリーニングが不要であることが実証された。抗体HTSの結果を活用してADC精製のためのフロースルー条件を同定し得るという理論を更に試験するために、2つのさらなる生成物を評価した。
【0099】
実施例2:ADC-2精製方法
i.抗体2のハイスループットスクリーニング
a.抗体-2のCEX工程の展開は、HTSを用いて実施した。これらの実験により、凝集不純物が樹脂に結合したままでモノマーを溶出すると予測された有望な段階溶出条件の特定を支持するLogK
p等高線図が生成された。これらのデータに基づいて、標的溶出緩衝液を抗体-2のために選択し、その後のロバスト性研究により、段階溶出精製のロバスト性が確認された。
ii.ADC-2の精製開発
b.抗体-2の工程溶出条件をADC-2 CEX工程の開発中に活用して、所望の生成物(モノマー)が流れる間に凝集体が樹脂に結合して除去されるような条件を特定した。これを達成するために、カラム平衡、負荷および洗浄相を、抗体-2プロセスに使用される溶出条件(pHおよび導電率)に適合するように調整した。
c.目標条件での凝集体除去の成功を実証した後、目標付近でのプロセスのロバスト性を様々なpHおよび伝導率条件で試験した(表4)。pHの低下および導電率の低下によるCEXカラムのより強い結合条件を表す「低」条件を選択した。逆に、生成物の結合を減少させるだけでなく、凝集体の除去も減少させる可能性が高い「高」負荷条件が特定された。様々なpHおよび導電率範囲で複数の「高」負荷条件を試験して、凝集体除去に関して最悪の場合の条件付近の動作のロバスト性を調査した。複合体負荷を、適切な緩衝液種を使用して所望の導電率およびpHに調整した。平衡化緩衝液および洗浄緩衝液を、負荷の様々な条件に適合するように調整した。負荷密度は220~300g/L
rの範囲であった。
【表4】
d.「低」負荷条件は、精製の過負荷メカニズムと同様に、樹脂への初期結合およびその後のブレークスルーを示し、HMWSもこの負荷条件で有意に減少した(H.F.Liu,B.McCooey,T.Duarte,D.E.Myers,T.Hudson,A.Amanullah,R.van Reis,B.D.Kelley,Exploration of overloaded cation exchange chromatography for monoclonal antibody purification,J Chromatogr A.1218(2011)6943-52)。質量負荷密度が高いほど収率が向上した。「高++」負荷条件は、障害点を特定し、vHMWSを除去しなかった。しかし、負荷条件の範囲は、「低」条件から「高+」条件の間の目標負荷条件の周りで堅牢であると実証された(±0.1pH、±0.7mS/cm)。負荷および緩衝液の仕様は、製造への堅牢な実装を保証するように設定された。
e.許容可能な操作範囲が実証された後、0.66cm ID×20cm BHカラムを使用して負荷密度を500g/L
rまでで負荷した。複合体化されたプールを目標負荷pHおよび導電率に調整し、カラムに500g/L
rまで負荷した。
f.高負荷密度実験からの収率は96%であり、vHMWSはプール中で0.02%に減少した(表5)。さらに、精製による平均DARへの影響はなかった。抗体-2CEX工程の溶出条件を、500g/L
rの負荷密度でフロースルーモードで複合体に効果的に適用した。
【表5】
【0100】
ADC-2精製方法は、14cm ID×15cm BHカラムを使用して製造規模に首尾よく拡大された。目標条件での3回の実行を行い、カラムを実行あたり約260g/L
rまで充填した。原薬の結果は、検出可能なvHMWSを示さず、他の全ての製品品質属性を満たした(表6)。さらに、3回の実行のクロマトグラムは一貫しており、負荷段階中に圧力は増加しなかった。
【表6】
a.略語:ND=検出されず
a結果は最終原薬に対するものである。プロセス中プール分析は、大規模な実行では行わなかった。
【0101】
実施例3:ADC-3精製開発
【0102】
抗体-2と同様に、抗体-3の精製方法は、凝集体および不純物を除去するための段階溶出CEX工程を使用した。ADC精製の開発を実施せずに、抗体-3段階溶出条件をADC-3精製に活用した。抗体段階溶出条件を、凝集体が樹脂に結合し、所望の生成物(モノマー)が流れる間に除去されるようにADCに適用した。
【0103】
生成物のフロースルーを達成するために、複合体ADC-3のpHおよび導電率を標的抗体-3溶出緩衝液条件に調整した。調整した複合体化の負荷量をCEXカラムに500g/L
rの負荷密度になるまで負荷した。カラムを10CVの平衡化緩衝液で洗浄し、画分を50g/L
rごとに回収した。画分をプールし、結果を負荷と比較した(表7)。
【表7】
【0104】
300g/L
rの負荷密度で開始して、vHMWSの小さなブレークスルーが観察された(
図5)。vHMWSのブレークスルーを緩和するために、より低い負荷密度またはわずかに強い結合条件を使用した。しかし、精製プール中のvHMWSの最終レベルは、500g/L
rの負荷密度に負荷した場合でも許容レベルまで低下した。
【0105】
これらの結果により、抗体中間体精製工程がADC精製のために活用され得ることが実証される。抗体-3段階溶出条件が、フロースルーモードで実行される複合体のために首尾よく実施されたので、ADC精製の開発は実施しなかった。フロースルー精製条件は、ADC-3についてvHMWSを0.39%~0.03%に減少させることに成功し、収率は98%であった。さらに、平均DARおよび薬物分布に影響はなかった。
【0106】
結論
抗体精製開発データを使用して、それぞれの複合体の単純なフロースルー精製工程の開発を合理化し得る。抗体段階溶出条件(pHおよび導電率)をADCに変換して、フロースルー精製を可能にする。抗体段階溶出条件の非存在下では、抗体HTSを活用して、理想的なADCフロースルー条件を特定し得る。ADC精製工程:
● vHMWSが有意に減少させ、
● 一貫して高い収率を達成したが、
● 平均DARや薬物負荷分布に変化はなかった。
【0107】
上記の開示は、独立した有用性を有する複数の別個の発明を包含し得る。多数の変形が可能であり、本明細書に開示および例示されるその特定の実施形態は、限定的な意味で考慮されるべきではない。以下の特許請求の範囲は、新規かつ非自明であると見なされる特定の組み合わせおよび部分的な組み合わせを特に指摘する。特徴、機能、要素、および/または特性の他の組み合わせおよび部分的な組み合わせで具体化された発明は、本出願または関連出願からの優先権を主張する出願において特許請求し得る。そのような請求項は、種々の発明または同じ発明を対象とするかどうか、および元の請求項の範囲より広いか、狭いか、等しいか、または異なるかどうかにかかわらず、本明細書で教示される発明の主題内に含まれると見なされる。
【国際調査報告】