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特表2024-532255水素を貯蔵するまたは導くための装置およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】水素を貯蔵するまたは導くための装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/12 20060101AFI20240829BHJP
   F17C 1/16 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
F17C13/12 301Z
F17C1/16
F17C13/12 302Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024511993
(86)(22)【出願日】2022-08-17
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2022072957
(87)【国際公開番号】W WO2023025632
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】102021122024.6
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506029255
【氏名又は名称】フェストアルピネ シュタール ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】VOESTALPINE STAHL GMBH
【住所又は居所原語表記】VOESTALPINE-STRASSE 3, A-4020 LINZ, AUSTRIA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】エツルシュトルファー,クリストフ
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA03
3E172AA05
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA06
3E172DA31
3E172DA41
(57)【要約】
本発明は、水素を貯蔵するまたは導くための装置、特に水素タンクまたは水素ラインに関し、装置は、水素に向けられる内側から外側に向かって複数の層で構成され、より内側に配置された層が、それぞれの後続の層よりも低い水素の拡散係数(D)を有する:D内側<D<...<D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を貯蔵するまたは導くための装置、特に水素タンクまたは水素ラインであって、
ここで、前記装置が、水素に向けられる内側から、外側に向かって複数の層で構成され、
より内側に配置された層が、それぞれの後続の層よりも低い水素の拡散係数(D)を有し:D内側<D<...<D
前記層が、互いに冶金的に接合されるか、プレス溶接されるか、または一緒に管引抜き加工される、装置。
【請求項2】
内側の前記層の厚さ(t)が、隣接する層の厚さ(t)に対して以下:D <D のように挙動する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記装置が、少なくとも2つの金属層を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記金属層が、異なる合金組成を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記層が、鋼材またはニッケル基合金から作られていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項6】
前記装置の内側に、プラスチック製ライナーおよび/またはセラミック製ライナーが、設けられていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記装置の外側に、最外層の拡散係数よりも低い水素の拡散係数Dを有する有機腐食防止層または金属腐食防止層が、設けられていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
外側のコーティングが、ゴムコーティングもしくは合成樹脂系塗料もしくはアクリル系塗料などのポリマー溶液から、および/または亜鉛-ニッケル合金から、またはPVD法を用いて施された亜鉛層もしくは亜鉛合金層から、形成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
多層構造体が、2~45mmの厚さを有し、最内層の厚さが少なくとも0.3mmであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
最も強い層の降伏強度が、350MPa超、好ましくは500MPa超、より好ましくは650MPa超であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
水素と接触する内側材料として、高マンガンオーステナイト系TWIP、オーステナイト系ステンレス鋼、またはニッケル基合金などの、水素に対する拡散係数が比較的低い材料が用いられることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
変態遅延焼入れ焼戻し鋼、焼入れ可能なホウ素マンガン合金、または焼入れ焼戻し可能なクロムモリブデン合金が、外層、中間層、または両方の層として用いられることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
以下の材料配置が、内側から外側に向かって存在し、第3の外層が、任意である、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置:
第1層TWIP 第2層38MnSi4 第3層S355、または
第1層316L 第2層34CrMo4 第3層S235、または
第1層Alloy625 第2層42CrMo4 第3層340LA、または
第1層304L 第2層34MnB5 第3層420LA。
【請求項14】
水素を貯蔵するまたは導くための装置を製造するための、特に水素タンクまたは水素ラインを製造するための方法であって、
前記装置が、水素の方に向けられた内側から、外側に向かって複数の層で構成され、
より内側に位置する層が、それぞれの後続の層よりも低い水素拡散係数(D)を有し:D内側<D<...<D
少なくとも2つの金属層が、冶金的に接合されていることを特徴とする、方法。
【請求項15】
前記装置を形成するための前記材料が、圧延クラッド、爆着クラッドに供されるか、または一緒に管引抜き加工されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
水素の解離を防止するために、水素側に向けられた内層に、プラスチック製またはセラミック製のライナーが施されていることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
前記外層の外側に、前記外層よりも拡散係数の低い材料から作られた金属腐食防止層または有機腐食防止層が、施されていることを特徴とする、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
溶接継ぎ目が本体部の残りの部分と同等の材料構造を有するように、前記材料の各層が、同じ様式で溶接され、密閉容器が形成されるかあるいはパイプ部が接続される、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記材料の各層が、HF溶接、MIG/MAG溶接、またはTIG溶接により溶接されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
生成された水素を貯蔵するための定置式水素タンクとしての、または電気および熱を生成するための定置式内燃機関用の水素タンクとしての、または建物の暖房システムで使用するための水素タンクとしての、または金属鉱石の直接還元システムで使用するための水素を貯蔵するための水素タンクとしての、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項21】
自動車、トラック、農業用車両、船舶、航空機、および航空宇宙技術における水素タンクとしての、移動体用途における、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項22】
燃焼室に、もしくは噴射装置に、もしくは金属鉱石の直接還元システムに水素を供給するための燃料供給ラインおよび同様のライン、またはパイプラインとしての、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項23】
深部掘削技術の分野におけるドリルパイプの一部として、水素を導くための化学プラント建設、および水素曝露が生じる領域でのタンクおよびパイプライン建設における、ライナーまたはライニングおよびパイプとしての、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を貯蔵するまたは導くための装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、エネルギー源として、特に移動体における化石燃料の代替としてますます重要になっており、鉄鉱石の直接還元や発電用の燃料電池においても、使用されている。
【0003】
さらに、水素がどのような形であれ放出され、テクノロジーにおいて使用される材料に影響を及ぼし得る技術用途が、多数ある。この用途には、主に深層掘削技術が含まれるが、耐酸工事や天然ガスおよび石油部門全体も含まれる。
【0004】
水素の貯蔵だけでなく、技術的プロセスにおける水素の存在が課題となっている。
【0005】
水素を燃料として、適切に装備された内燃機関で直接燃焼させたり、燃料電池で発電したりする場合だけでなく、たとえば鉄鉱石の直接還元用に水素を貯蔵する場合にも、適切な貯蔵施設および貯蔵方法が必要となる。しかし、数ある燃料の中でも、水素には明らかに大きな危険性が潜んでいる。
【0006】
水素が漏れると、周囲の空気と可燃性の混合物を形成し、水素含有率が18%を超えると、爆発することさえある水素と酸素の混合物が、形成される。
【0007】
水素はすべての原子の中で最も小さいサイズを有するため、さまざまな物質を通って拡散する可能性があり、これにより、数多くの材料が、従来の燃料には完全に適していても、容器には適さなくなる。拡散プロセスは、一方では高温、他方では高い内部圧力によってさらに促進される。特に金属容器では、一般に水素脆化と呼ばれる現象が起こる。これは、時間の経過とともに材料が脆くなることを意味し、そのため、例えば侵入負荷に耐えるほどの十分な安定性が、もたらされなくなることを意味する。プラスチック容器ではこのような現象は起こらないが、多くのプラスチック素材はリサイクルが難しい。
【0008】
液化水素を使用する場合、液化水素は容器から蒸発するまたはガス放出が起きる可能性がある。この場合、体積が極端に増加し、圧力が上昇することへの対策が必要となり、特に過圧バルブを使用することで、水素がかなり失われる可能性がある。
【0009】
原理的には、加圧容器内での貯蔵の問題は現在では解決されていると考えられているが、既知の解決策は非常に複雑で高価であり、また比較的重い。
【0010】
上記の問題は、水素が対応するパイプラインに導かれる場合にも同様に発生する。
【0011】
しかし、これらの問題は、メタンや天然ガスなどの炭化水素ガスの処理や抽出の際にも生じ、そこでも水素曝露が起こり得る。
【0012】
液体または加圧ガスとしての貯蔵に加えて、一般に金属ハイブリッド貯蔵システムと呼ばれる、金属格子の隙間に水素を貯蔵するシステムも知られている。また、吸着貯蔵も知られている。
【0013】
すでに述べたように、金属は脆化を起こし、特に鋼では水素誘起割れや水素脆化が起こることが知られている。この場合、ppm程度の少量の水素でも、部品の早期破損を引き起こす原因となるのに十分な量である。金属材料によって水素耐性は異なるが、この脆化により時間の経過とともに強度が低下する。ここで特に問題となるのは、高強度鋼材が特に水素脆を示すことである。このことは、強度の低い金属、特に鋼製の容器を作製することで対処できる。しかしこれは、必要な安定性を確保するために、容器の壁を厚くしなければならないことを意味する。このことは重量の増加につながり、移動体用途では、重量増加により燃料消費量が増加する。さらに、水素を貯蔵する圧力が制限される場合があり、貯蔵容量も減少する。CFRP製のタンクは貯蔵という点では有益であるが、リサイクルが難しく、金属製のタンクよりもかなり高価である。金属水素化物での貯蔵は原理的にはうまくいくが、例えば移動体用途となると、装填に時間がかかり、困難なプロセスであるため、厳しく見なければならない。
【0014】
水素バリアは可能な解決策ではあるが、薄いバリア層は、局所的な最小限の損傷でも部品の故障やタンクの破裂につながる可能性があるため、リスクがある。さらに、バリア層は後で施す必要があり、作業工程が増える。さらに悪いことに、これらのバリア層ですら水素を100%透過させないわけではない。つまり、原子状水素は遅かれ早かれあらゆる材料を透過することになる。化学ポテンシャルは、水素の拡散と一般的な拡散に関与している。粒子はより低い化学ポテンシャルの場所へと拡散し、それによって化学ポテンシャルのバランスをとり、よりエネルギー的に好ましい状態に達する。固体中のあらゆる元素の局所的化学ポテンシャルは、局所的構造の化学組成や温度など、いくつかの要素によって決まる。しかし、最も重要な要素は、元素自体の濃度である。
【0015】
拡散の法則によれば、壁を通過する水素の拡散によって、外側に向かって濃度勾配が生じ、それに対応して水素に対するポテンシャルが特に低い材料の局所的な領域が生じ、そこに水素が蓄積して過剰濃度になる。このような局所的な過剰濃度は、水素脆化のため金属容器にとって特に危険である。
【0016】
水素分子はまず表面に付着し、解離して原子状水素となり、原子状水素は鋼を透過する。ガス自体からの原子状水素も材料を透過する可能性があるが、粒子が事前に再結合する可能性が高い。
【0017】
例えば亜鉛めっきがバリア層として知られている。上述したように、亜鉛めっきは水素の透過を部分的に防ぐが、通常2桁マイクロメートル台前半の薄い亜鉛コーティングはダメージを受けやすい。通常、鋼板の両面に施されるバリアも、材料からの水素の漏出を防ぐ。このような材料では、材料中の水素含有量は長期にわたって増加する。臨界水素濃度に達すると、すでに述べたように、水素脆化によって構成要素が破損する可能性がある。
【0018】
ドイツ特許第102017204240A1号は、内部からの選択的硬化と窒化によって異なる層が生成される鋼製のモノリシック部品を開示している。その目的は、信頼性の高い水素貯蔵を可能にするために、異なる層を生成することである。しかし、窒化における拡散深さによって、材料間の正確な移行が確実ではないため、問題がある。同様に、壁厚を通しての選択的冷却は、制御が難しいプロセスである。モノリシック基体の解析におけるわずかな変動が、結果に大きな変化をもたらす。この明細書では、マルテンサイトとオーステナイトの明確に画定された2つの層を有する構成要素が形成されると想定されているが、そのような明確に画定された層は形成されず、その代わりに、オーステナイトとマルテンサイトの間の連続遷移、ベイナイト混合相、および残留オーステナイトの異なる割合を有する壁が、生成される。このようなプロセスはかなり複雑であることに加え、規定された特性を有する構成要素を生成することもできない。
【0019】
米国特許第3,785,949B1号は、多数の層を有するタンクに関するもので、生じる圧力はバルブを介して内部から外部に排出される。このことは明らかに、水素を迂回させることで過圧や材料のダメージを防ぐことを意図している。外層への排出によって、具体的には、水素感応性層が水素と接触し、機械的ストレスを受ける。外層における溶接接続によりさらに不安定性が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】ドイツ特許第102017204240A1号
【特許文献2】米国特許第3,785,949B1号
【発明の概要】
【発明が解消しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、デザインがシンプルで、簡単かつ信頼性の高い方法で製造でき、しかも水素耐性が非常に良好で高い安定性を有する、水素を貯蔵するまたは導くための装置を生み出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、請求項1の特徴を備える装置によって、達成される。
【0023】
有益な変形例は、その従属請求項に開示されている。
【0024】
別の目的は、扱いやすくて、安価で、信頼性の高い装置を製造する方法を生み出すことである。
【0025】
この目的は、請求項13の特徴を備えた方法によって達成される。
【0026】
有益な変形例は、その従属請求項に開示されている。
【0027】
水素を貯蔵するまたは導くための本発明による装置は、例えば、水素を貯蔵するためのタンクであり得るが、水素を容器に導くまたは水素を容器から消費者に導く、水素を導くためのライン、特にパイプラインであってもよい。特に、前記装置は、内燃機関などのシリンダへの供給ラインであってもよい。
【0028】
以下において「容器」という用語を使用する場合、これは、任意の実施形態において水素を導くためのパイプラインおよび装置も指し、その逆もまた同様である。
【0029】
特に明記しない限り、以下に示す重量またはパーセントはすべて重量パーセントである。
【0030】
本発明によれば、水素を収容する、貯蔵する、または導くための装置は、金属、特に鋼、より詳細には異なる鋼種、から作られる。このようにして、金属製の多層構造体が作製される。この多層構造体は、少なくとも2つの層を有する。本発明によれば、内層、すなわち導かれるまたは貯蔵される水素、に面する層は、水素に対する脆弱性が低く、水素に対する拡散係数が低い材料、特に鋼材から作られる。
【0031】
冶金的に接合される外側材料は、水素に対してより高い拡散係数を有する。好ましくは、前記冶金的に接合される外側材料は、前述の材料よりも著しく高い引張強度も有する。
【0032】
本発明によれば、この結果、内側の水素非感応性材料の水素濃度が急激に低下する。その結果、外側の材料における前記濃度は低く保たれる。外層の拡散係数が比較的高いため、内層を通って拡散する水素は速やかに外部に放散され、前記外側材料内の水素の臨界濃度を超えることはない。
【0033】
したがって、本発明によれば、水素の不可避的な侵入を防止しようとするのではなく、水素の侵入を制御し、許容範囲内に維持する。もちろん、互いに材料結合式で接合された2つの層の代わりに、複数の冶金的に接合された層を使用することも可能であり、その場合、本発明によれば、追加の各外側鋼層は、それぞれ、水素に対してさらに高い拡散係数を有する必要がある。
【0034】
好ましくは、材料間の冶金的接合は、プレス溶接法を用いて生じさせる。周知のプレス溶接法は、一般に圧延クラッディング(Walzplattieren)と呼ばれるものであり、特に異なる鋼種の鋼板の2層以上の層が一緒に圧延される。化学的な作用によって多層化を実現しようとする先行技術とは対照的に、プレス溶接法では、厚さと特性が厳密に画定された層順序が実現される。加えて、このような公知のプレス溶接法により、材料間に気孔のない境界層が確保されるので、結合面における原子状水素の再結合も防止される。
【0035】
したがって、本発明は、特に、水素を貯蔵するまたは導くための装置、特に水素タンクまたは水素ラインに関し、この装置は、水素に向けられる内側から、外側に向かって複数の層で構成され、より内側に配置される層は、それぞれの後続の層よりも低い水素の拡散係数(D)を有する:D内側<D<...<D
【0036】
1つの変形例では、内側の層の厚さ(t)は、隣接する層の厚さ(t)に対して以下:D <D のように挙動する。
【0037】
1つの変形例では、前記層は、鋼材またはニッケル基合金から作られている。
【0038】
1つの変形例では、前記層は、互いに冶金的に接合されるか、プレス溶接されるか、または一緒に管引抜き加工される(rohrgezogen)。
【0039】
1つの変更例では、前記装置の内側には、プラスチック製ライナーおよび/またはセラミック製ライナーが、設けられている。このようなライナーの目的は、化学的な腐食防止を提供することである。
【0040】
1つの変更例では、前記装置の外側には、最外層の拡散係数よりも低い水素拡散係数Dを有する有機腐食防止層または金属腐食防止層が、設けられている。
【0041】
それらは例えば、ゴムコーティングもしくは合成樹脂系塗料もしくはアクリル系塗料などのポリマー溶液であり得る。金属層の適合性は、その組成と施す方法に大きく依存する。例えば、純粋な亜鉛のオーステナイト領域での拡散係数は非常に小さいが、合金としての拡散係数は桁違いに異なり、12%のNiでは水素に対する拡散係数は約0.510-12に達する。測定において、施す方法の影響も示されており、PVDによる亜鉛の腐食防止層は、水素に対して非常に高い透過性を示した。したがって、溶融亜鉛メッキまたは電解亜鉛メッキによる腐食防止対策は避けるべきであり、腐食防止層または塗装コーティングの、別の施す技術または別の合金組成を優先させるべきである。
【0042】
1つの変更例では、前記多層構造体は、2~45mmの厚さを有し、最内層の厚さは少なくとも0.3mmである。
【0043】
1つの変更例によれば、最も強い層の降伏強度は350MPa超、好ましくは500MPa超、特に好ましくは650MPa超である。
【0044】
1つの変更例では、高マンガンオーステナイト系TWIP、オーステナイト系ステンレス鋼、またはニッケル基合金などの、水素に対する拡散係数が比例的に低い材料が、内側で水素と接触する材料として用いられる。
【0045】
1つの変更例では、変態遅延焼入れ焼戻し鋼、焼入れ可能なホウ素マンガン合金、または焼入れ焼戻し可能なクロムモリブデン合金が、外層および/または中間層として用いられる。
【0046】
1つの変形例によれば、以下の材料が内側から外側に向かって配置され、第3の外層は任意である:
第1層TWIP 第2層38MnSi4 第3層S355、または
第1層316L 第2層34CrMo4 第3層S235、または
第1層Alloy625 第2層42CrMo4 第3層340LA、または
第1層304L 第2層34MnB5 第3層420LA。
【0047】
本発明のさらなる態様は、水素を貯蔵するまたは導くための装置を製造するための、特に水素タンクまたは水素ラインを製造するための方法に関し、前記装置は、水素に向けられる内側から、外側に向かって複数の層で形成され、より内側に位置する層は、それぞれの後続の層よりも低い水素拡散係数(D)を有し:D内側<D<...<D、少なくとも2つの金属層が冶金的に接合されている。
【0048】
1つの変形例では、前記装置を形成するための材料は、圧延クラッド、爆着クラッドに供されるか、または一緒に管引抜き加工される。
【0049】
1つの変形例では、水素の解離を防止するために、水素に向けられる内層にプラスチックライナーまたはセラミックライナーが施される。しかし、金属と比較すると、プラスチック製ライナーは水素を透過しやすい。
【0050】
1つの変形例では、外層の外側に、前記外層よりも拡散係数の低い材料から作られた金属腐食防止層または有機腐食防止層が設けられる。
【0051】
1つの変形例では、溶接継ぎ目が本体部の残りの部分と同等の材料構造を有するように、前記材料の各層は、同じ様式で溶接され、密閉容器が形成されるかあるいはパイプ部が接続される。
【0052】
1つの変形例では、前記材料の各層は、HF溶接、MIG/MAG溶接、またはTIG溶接により溶接される。これらの溶接方法では、端部を適切に前処理することにより、それぞれの層を同じ方法で溶接することが可能となる。対照的に、レーザー溶接では、材料層を個別に接合することは不可能である。
【0053】
さらなる態様は、生成された水素を貯蔵するための定置式水素タンクとしての、または電気および熱を生成するための定置式内燃機関用の水素タンクとしての、または建物の暖房システムで使用するための水素タンクとしての、または金属鉱石の直接還元システムで使用するための水素を貯蔵するための水素タンクとしての、前記装置の使用に関する。
【0054】
さらなる態様は、自動車、トラック、農業用車両、船舶、航空機、および航空宇宙技術における水素タンクとしての、移動体用途における装置の使用に関する。
【0055】
さらなる態様は、燃焼室に、もしくは噴射装置に、もしくは金属鉱石の直接還元システムに水素を供給するための燃料供給ラインおよび同様のラインとして、またはパイプラインとしての装置の使用に関する。
【0056】
さらなる態様は、深部掘削技術の分野におけるドリルパイプの一部として、水素を導くための化学プラント建設、および水素曝露が生じる領域でのタンクおよびパイプライン建設における、ライナーまたはライニングおよびパイプとしての、前記装置の使用に関する。
【0057】
上記で水素が言及される場合、水素曝露も含まれることに留意すべきである。このような曝露は、メタンや天然ガスなどの他のガスを扱う前述の方法や使用でも起こりうる。これには、そのようなガスの、もしくは水素の地下貯蔵、または炭化水素ガスの合成も含まれる。
【0058】
本発明を、図面を用いて例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】水素による材料損傷のメカニズムに関する理論を示す。
図2】化学ポテンシャルの関数としての拡散を示す。
図3】従来の鋼製容器内の水素濃度に伴う水素の挙動を示す。
図4】両面にバリア層を有する材料の断面にわたる水素濃度を示す。
図5】本発明に係る構造体中の水素分布を示す。
図6】本発明に係る非常に概略的な2層構造を示す。
図7】本発明に係る3層構造の概略図を示す。
図8】電子顕微鏡で撮影した図であり、真空クラッドパック(evakuierte Plattierpakete)によって製造されたオーステナイト系ステンレス鋼と焼入れ焼戻し鋼との間の材料結合を示す。
図9】2層材料構造における材料厚さにわたる水素濃度の非常に概略的な図を示す。
図10】3層材料構造における材料厚さにわたる水素濃度の非常に概略的な図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図2は、化学ポテンシャルと濃度の関係を示す。
【0061】
図3は、水素分子と原子状水素が容器の内側に存在し、水素分子は鋼中に拡散するが、原子状水素はごくわずかしか拡散しない、単壁の通常の鋼製容器における関係を示している。水素分子はまずコーティングの表面に付着し、次に解離して原子状水素を形成し、鋼を透過する。鋼材にダメージを与える臨界濃度は点線で示され、水素の必須濃度は実線で示され、外側に向かって減少している。上で説明したように、拡散の法則によれば、水素が壁(この場合は単壁の鋼容器)を通過して拡散すると、実線で示すように、外側に向かって濃度勾配が生じる。しかし、水素のポテンシャルが特に低い材料には、水素が蓄積して濃度が上昇する局所的なポイントが存在する。一般に水素トラップと呼ばれるこのようなポイントでは、局所的に臨界濃度を超えるため、そこでダメージが生じると想定する必要がある。
【0062】
図4は、金属亜鉛層などのバリア層も有する材料、特に鋼材の、対応する状態を示している。水素の初期濃度が基本的に低いことから明らかなように、濃度は基本的に低くなっているが、ここでわかるように、両側のバリアが材料からの水素の漏出を防いでいる。そのため、長期的には、材料中の水素含有量が増加し、濃度勾配が変化し(上の曲線)、さらに、前述の水素トラップによって、局所的に臨界濃度を超えるようになる。
【0063】
図5は、本発明に係る構造における状態を示す。この図では、2つの層が示されている。内層、すなわち水素の方を向いている層と、外側の方を向いている外層とが示されている。内側の材料は、水素拡散に対して比較的高い抵抗性を有している。このことは曲線から明らかであり、非常に急峻な降下であるため、材料の厚さにわたって水素濃度は非常に急激に減少する。同時に、この材料は水素ダメージを比較的受けにくい。本発明によれば、外側の材料は内側の層よりも水素の拡散係数がさらに高いので、内側の層から外側の層に入った水素は非臨界的に外側に放散される(図5、下側の曲線部分)。この場合、不可避的な高濃度水素トラップでさえ、臨界濃度を超えることはない。この場合の外層は、例えばより厚く、特に、内層としてはほぼ適さないが高い引張強さと降伏強さによって対応する容器の機械的安定性を確保する高品質の鋼種、から作られている。このことは、移動体用途における衝突安定性にとって特に重要である。一方で、これは構築が比較的容易であり、軽量であり、製造コストも安い。また、高い安定性を有するため、場合によっては水素容器に対する極端な保護対策を少なくとも軽減させることができる。
【0064】
図6は、この構造が基本的にどのように挙動するかを示している。水素の層厚(t=内層の厚さ、t=外層の厚さ)と拡散係数(DとD)は、以下のように挙動する:
Di×T<Do×t
【0065】
内層が、DiがDoより有意に小さくなるような低い材料含有量を有する場合、特に有益である。これにより、内層材料中の濃度勾配が大きくなり、外層材料中の水素濃度を低く抑えることができる。
【0066】
図7に示すように、層厚と拡散係数が以下のような挙動を示す、3分割材料も考えられる:D×t≦D×tおよびD×t<D×t
【0067】
このような層配置は、例えば、外層中の水素濃度をさらに低下させたい場合や、加工上の理由(外層の単純な接合)で有益である。所望により、この配置によって、高強度だが脆い層Dを、延性のある外層Dによって機械的影響から保護するために使用され得る。
【0068】
<D<Dという関係が依然として適用されるため、水素濃度の連続的な低下は主に内層で生じ得る。
【0069】
鋼中の水素の拡散係数は、主に構造と化学組成によって影響される。拡散は、粒度分布や相組成など、他の多くの要因にも影響される。粒度分布の場合、粒度酸化とは対照的に、格子拡散に特に影響を及ぼす。
【0070】
したがって、本発明による多層構造体の場合、有効なデータを得るために、使用する材料の拡散係数を個別に測定することが理にかなっている。ただし、いくつかの一般的な影響が想定されるため、以下で説明する。
【0071】
化学組成、すなわち鋼の場合の合金に関しては、合金元素であるニッケル、モリブデン、コバルト、ケイ素、硫黄、炭素、およびクロムが、鋼中の水素の拡散係数を低下させると言える。言い換えれば、特に、ステンレス鋼にも使用される合金元素である。構造に関して、オーステナイト中の拡散係数は、純粋なフェライト中の拡散係数よりも10倍高いと言える。この場合、マルテンサイト相およびベイナイト相は、オーステナイト相とフェライト相の間にある。しかし、実際の拡散速度は、残留オーステナイト含有量または相組成および粒径に大きく依存することに留意すべきである。
【0072】
例えば、フェライト純鉄の拡散係数は室温で7×10-9/秒である。合金含有量または炭素含有量が高くなると、拡散係数は低下し、X65鋼では約4.5×10-10/秒、HSLA100ではわずか4.5×10-13/秒となる。
【0073】
上述したように、ステンレス鋼は水素拡散率が低い傾向があるが、相組成が重要である。例えば、フェライト系ステンレス鋼の拡散係数は5×10-13以上であるが、マルテンサイト系ステンレス鋼の拡散係数はわずかに低く、オーステナイト系ステンレス鋼の拡散係数は、5×10-16/秒である。
【0074】
したがって、水素と接触する内側材料には、高マンガンオーステナイト系TWIP、オーステナイト系ステンレス鋼(例えば、304L、316Lなど)、またはAlloy625もしくはAlloy825のようなニッケル基合金など、水素に対する拡散係数が比例的に低い材料が、使用される。
【0075】
マンガン含有量の高いグレードの一例は、例えば以下の組成を有する:
炭素(C) 0.3-1
マンガン(Mn) 13-24
ケイ素(Si) 0.01-2
アルミニウム(Al) 0.03-2.5
クロム(Cr) 0.03-2.5
チタン(Ti) 0.01-0.08
窒素(N) <0.04
リン(P) <0.03
硫黄(S) <0.02
ニッケル(Ni) <1
残部は鉄および製錬関連不純物。
【0076】
オーステナイト系ステンレス鋼種には、以下の合金組成の鋼が適している:
炭素(C) 0.01-0.1
マンガン(Mn) 0.2-2.0
ケイ素(Si) 0.01-1
クロム(Cr) 16-20
チタン(Ti) 0.01-0.08
窒素(N) <0.05
リン(P) <0.04
硫黄(S) <0.015
モリブデン(Mo) 1-2.5
ニッケル(Ni) 7-15
残部は鉄および製錬関連不純物。
【0077】
適切なニッケル基合金は、以下の組成の合金である:
炭素(C) 0.01-0.1
マンガン(Mn) 0.01-1
ケイ素(Si) 0.02-0.5
アルミニウム(Al) 0.02-0.4
コバルト(Co) <1
クロム(Cr) 18-24
銅(Cu) 0.05-3
鉄(Fe) <18
モリブデン(Mo) 2-10
ニオブ 3-4.5
チタン(Ti) <0.04
リン(P) <0.02
硫黄(S) <0.01
残部はニッケルおよび製錬関連不純物。
【0078】
適切な外層および中間層は、変態遅延(umwandlungsverzoegert)焼入れ焼戻し鋼、焼入れ可能なホウ素マンガン合金、および焼入れ焼戻し可能なクロムモリブデン合金である。一つのあり得る合金組成は、例えば以下の通りである:
炭素(C) 0.08-0.6
マンガン(Mn) 0.5-3.0
アルミニウム(Al) 0.01-0.07
ケイ素(Si) 0.01-0.7
クロム(Cr) 0.02-2
チタン(Ti) 0.01-0.08
窒素(N) <0.02
ホウ素(B) 0.002-0.02
リン(P) <0.01
硫黄(S) <0.01
モリブデン(Mo) 0.01-0.5
残部は鉄および製錬関連不純物。
【0079】
さらに外層を設ける場合は、IF鋼、構造用鋼、マイクロ合金鋼などのフェライト系鋼種が主に使用される。以下の表は、適切なマイクロ合金鋼の一例を示す:
炭素(C) 0.02-0.15
マンガン(Mn) 0.2-2.0
アルミニウム(Al) 0.01-0.07
ケイ素(Si) <0.5
クロム(Cr) <0.3
チタン(Ti)+ニオブ(Nb) 0.01-0.15
窒素(N) <0.02
ホウ素(B) <0.02
リン(P) <0.01
硫黄(S) <0.01
モリブデン(Mo) <1
残部は鉄および製錬関連不純物。
【0080】
その結果、例えば次のような配置が可能になる:
1.TWIP-38MnSi4(+S355)
2.316L-34CrMo4(+S235)
3.Alloy625-42CrMo4(+340LA)
4.304L-34MnB5(+420LA)
【0081】
1つの例として、対応する配置は圧延クラッドされ、鋼板スタックが本質的に既知の方法で形成され、プッシャー炉内で圧延温度まで加熱され、熱間圧延した後、冷間圧延する。これらのクラッド鋼板の試験により、材料が水素曝露に耐えられることが示されている。予想通り、結合面での水素の再結合は生じない。
【0082】
熱間圧延クラッディングプロセスは、圧延温度まで加熱プロセス中に接合面での酸化物の形成を最小限に抑えるために、気密状態に密閉された真空クラッドパックを用いて実施するのが有益である。図8の金属組織断面は、あり得るさまざまな材料間の材料接合を示している。
【0083】
いくつかの材料の組み合わせでは、クラッド面の純ニッケル層がクラッドにおける密着性を高めることが判明した。補助層の厚さが薄く、オーステナイトの拡散係数に比べて純ニッケルにおける水素の拡散係数が比較的高い(10-10/秒)ことは、本発明に係る密着促進物質を使用する1つの理由である。
【0084】
一つの可能な実施形態を以下の実施例に示すが、これは例示に過ぎず、非限定的なものとして理解されるべきである。
【0085】
内層として、厚さ2mm、重量パーセントで以下の組成:
C=0.016、
Cr=17.2、
Ni=10.2、
Mn=0.9、
Si=0.46、
Mo=2.03、
P=0.0025、
S=0.001、
N=0.035、
残部は鉄および製錬関連不純物;
を有し、5×10-16/sの水素の拡散係数を有する、タイプ316L鋼と、
外層として、厚さ10mm、重量パーセントで以下の組成:
C=0.35、
Mn=0.5、
Si=0.25、
Cr=1.04、
Mo=0.18、
S=0.015、
P=0.016、
残部は鉄および製錬関連不純物;
を有し、1×10-13/sの水素拡散係数を有する、タイプ34MoCr4の鋼と、が一緒に圧延クラッドに供される。
【0086】
壁内へのおよび壁を通過する拡散媒体の濃度は、定常状態ではほぼ直線的に表すことができ、多層材料内のそれぞれの濃度勾配の傾きは拡散係数に反比例する。クラッディングパートナーの選択により、上述の例では、水素濃度の大部分(全濃度勾配の約97%)は、クラッディングレベルに達する時点ですでに低下しており、外層中の水素含有量は低く抑えられている。このことを図9に示す。
【0087】
別の非限定的な例としては3層の例が挙げられ、
ニッケル基Alloy625から作られ、厚さ0.5mm、重量パーセントで以下の組成:
C=0.013、
Al=0.2、
Si=0.16、
Cr=21.2、
Mo=8.2、
Ti=1.4、
Nb=3.6、
残部はニッケルおよび不可避的製造関連不純物;
を有し、約2×10-15/sの水素拡散係数を有する、内層と、
42CrMo4鋼材から作られ、厚さ10mm、重量パーセントで以下の組成:
C=0.415、
Cr=0.99、
Mo=0.22、
Mn=0.6、
Si=0.19、
残部は鉄および不可避的溶融関連不純物;
を有し、約1.5×10-13/sの水素拡散係数を有する、第2の中間層と、
340LA鋼材から作られ、厚さ3mm、重量パーセントで以下の組成:
C=0.079、
Si=0.02、
Mn=0.33、
Al=0.042、
Cr=0.02、
Nb=0.054、
B=0.0002、
Mo=0.003、
残部は鉄および不可避的溶融関連不純物:
を有し、約4×10-11/sの水素拡散係数を有する、第3の外層と、が一緒に圧延クラッドに供される。水素の分布はこの例においても計算され得る。
【0088】
この例でも、Alloy625製の内層では、水素濃度の約78%がすでに低減されている。これにより、中間層の水素含有量はすでに大幅に減少している。マイクロ合金外層は濃度勾配をあまり変化させないが、溶接性が良いため、グリップまたはハンドルを取り付けることが可能である。
【0089】
この例を、図10に示す。
【0090】
本発明によれば、対応する製造装置は、例えば電気や熱を発生させるための定置型内燃機関用など、定置型水素発生タンクとして使用され得る。また、この技術がさらに実現されれば、建物の暖房システムに使用する水素タンクとしての使用も当然可能である。
【0091】
さらに、このような装置は、移動体用途に有益に使用することができる。これらは特に、自動車、トラック、農業用車両、船舶、航空機での使用だけでなく、航空宇宙産業全般での用途にも使用される。
【0092】
本発明にはパイプの製造も含まれるため、このようなパイプは、燃焼室に、もしくは噴射装置に、もしくは金属鉱石の直接還元システムに水素を供給するための燃料供給ラインおよび同様のラインとして、小規模に設けられる。さらに、このようなパイプは、パイプラインとして、より大規模にも使用され得る。
【0093】
このプラスの特性は、深部掘削技術の分野におけるドリルパイプの一部としても、水素を導くための化学プラント建設、および水素曝露が生じる領域でのタンクおよびパイプライン建設における、ライナーまたはライニングおよびパイプとしても、有益である。水素曝露は、水素の処理、抽出、または貯蔵中だけでなく、天然ガスの処理、抽出、または貯蔵中にも発生する。
【0094】
従って、本発明により、水素を確実に、かつ機械的に安全で耐久性のある方法で貯蔵するまたは導くことができる、水素を貯蔵するおよび/または導くための装置を作製することが可能となる。
【0095】
本発明による方法により、このような装置を簡単な方法で、とりわけ工業的規模で製造することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-05-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を貯蔵するまたは導くための装置、特に水素タンクまたは水素ラインであって、
ここで、前記装置が、水素に向けられる内側から、外側に向かって複数の層で構成され、
より内側に配置された層が、それぞれの後続の層よりも低い水素の拡散係数(D)を有し:D内側<D<...<D
前記層が、互いに冶金的に接合されるか、プレス溶接されるか、または一緒に管引抜き加工される、装置。
【請求項2】
内側の前記層の厚さ(t)が、隣接する層の厚さ(t)に対して以下:D <D のように挙動する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記装置が、少なくとも2つの金属層を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記金属層が、異なる合金組成を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記層が、鋼材またはニッケル基合金から作られていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項6】
前記装置の内側に、プラスチック製ライナーおよび/またはセラミック製ライナーが、設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項7】
前記装置の外側に、最外層の拡散係数よりも低い水素の拡散係数Dを有する有機腐食防止層または金属腐食防止層が、設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項8】
外側のコーティングが、ゴムコーティングもしくは合成樹脂系塗料もしくはアクリル系塗料などのポリマー溶液から、および/または亜鉛-ニッケル合金から、またはPVD法を用いて施された亜鉛層もしくは亜鉛合金層から、形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項9】
多層構造体が、2~45mmの厚さを有し、最内層の厚さが少なくとも0.3mmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項10】
最も強い層の降伏強度が、350MPa超、好ましくは500MPa超、より好ましくは650MPa超であることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項11】
水素と接触する内側材料として、高マンガンオーステナイト系TWIP、オーステナイト系ステンレス鋼、またはニッケル基合金などの、水素に対する拡散係数が比較的低い材料が用いられることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項12】
変態遅延焼入れ焼戻し鋼、焼入れ可能なホウ素マンガン合金、または焼入れ焼戻し可能なクロムモリブデン合金が、外層、中間層、または両方の層として用いられることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項13】
以下の材料配置が、内側から外側に向かって存在し、第3の外層が、任意である、請求項1または2に記載の装置:
第1層TWIP 第2層38MnSi4 第3層S355、または
第1層316L 第2層34CrMo4 第3層S235、または
第1層Alloy625 第2層42CrMo4 第3層340LA、または
第1層304L 第2層34MnB5 第3層420LA。
【請求項14】
水素を貯蔵するまたは導くための装置を製造するための、特に水素タンクまたは水素ラインを製造するための方法であって、
前記装置が、水素の方に向けられた内側から、外側に向かって複数の層で構成され、
より内側に位置する層が、それぞれの後続の層よりも低い水素拡散係数(D)を有し:D内側<D<...<D
少なくとも2つの金属層が、冶金的に接合されていることを特徴とする、方法。
【請求項15】
前記装置を形成するための前記材料が、圧延クラッド、爆着クラッドに供されるか、または一緒に管引抜き加工されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
水素の解離を防止するために、水素側に向けられた内層に、プラスチック製またはセラミック製のライナーが施されていることを特徴とする、請求項1または1に記載の方法。
【請求項17】
前記外層の外側に、前記外層よりも拡散係数の低い材料から作られた金属腐食防止層または有機腐食防止層が、施されていることを特徴とする、請求項14または15に記載の方法。
【請求項18】
溶接継ぎ目が本体部の残りの部分と同等の材料構造を有するように、前記材料の各層が、同じ様式で溶接され、密閉容器が形成されるかあるいはパイプ部が接続される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項19】
前記材料の各層が、HF溶接、MIG/MAG溶接、またはTIG溶接により溶接されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
生成された水素を貯蔵するための定置式水素タンクとしての、または電気および熱を生成するための定置式内燃機関用の水素タンクとしての、または建物の暖房システムで使用するための水素タンクとしての、または金属鉱石の直接還元システムで使用するための水素を貯蔵するための水素タンクとしての、請求項1または2に記載の装置の使用。
【請求項21】
自動車、トラック、農業用車両、船舶、航空機、および航空宇宙技術における水素タンクとしての、移動体用途における、請求項1または2に記載の装置の使用。
【請求項22】
燃焼室に、もしくは噴射装置に、もしくは金属鉱石の直接還元システムに水素を供給するための燃料供給ラインおよび同様のライン、またはパイプラインとしての、請求項1または2に記載の装置の使用。
【請求項23】
深部掘削技術の分野におけるドリルパイプの一部として、水素を導くための化学プラント建設、および水素曝露が生じる領域でのタンクおよびパイプライン建設における、ライナーまたはライニングおよびパイプとしての、請求項1または2に記載の装置の使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
この目的は、請求項1の特徴を備えた方法によって達成される。
【国際調査報告】