(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】積層グラフェンの技術における摂動対称性
(51)【国際特許分類】
C01B 32/182 20170101AFI20240829BHJP
【FI】
C01B32/182
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024511997
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 US2022041160
(87)【国際公開番号】W WO2023028029
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523303840
【氏名又は名称】マルティーレ,ジャンニ
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】マルティーレ,ジャンニ
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AD22
4G146BA42
4G146DA50
(57)【要約】
グラフェン構造体は、摂動対称性を有するように積層された複数のグラフェン層を含み得る。第1のグラフェン層は、この第1のグラフェン層を貫通して垂直に延びる回転軸に関して第1の回転角度で位置することができ、第2のグラフェン層は、回転軸に関して第2の回転角度で第1のグラフェン層上に位置し得る。第3のグラフェン層は、回転軸に関して第3の回転角度で第2のグラフェン層上に位置することができ、第3の回転角度は第2の回転角度とは異なり得る。追加のグラフェン層は引き続いてグラフェン構造体上に積層されることができ、各層は直前の層とは異なる回転角度で載置される。全部で6層のグラフェン層が積層され得る。すべての回転角度間の比率関係は、等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列、あるいはその他のパターンを構成し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のグラフェン層であって、前記第1のグラフェン層を貫通して垂直に延びる回転軸に関して第1の回転角度で位置する第1のグラフェン層と、
前記回転軸に関して第2の回転角度で前記第1のグラフェン層上に位置する第2のグラフェン層と、
前記回転軸に関して第3の回転角度で前記第2のグラフェン層上に位置する第3のグラフェン層と
を備え、
前記第3の回転角度は、前記第2の回転角度とは異なる、
装置。
【請求項2】
前記装置は、高温で超伝導特性を呈する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記回転軸に関して前記第3の回転角度とは異なる第4の回転角度で前記第3のグラフェン層上に位置する第4のグラフェン層と、
前記回転軸に関して前記第4の回転角度とは異なる第5の回転角度で前記第4のグラフェン層上に位置する第5のグラフェン層と、
前記回転軸に関して前記第5の回転角度とは異なる第6の回転角度で前記第5のグラフェン層上に位置する第6のグラフェン層と
をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第2の回転角度から前記第6の回転角度までの各回転角度は、直前の前記回転角度よりも大きい、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の回転角度から前記第6の回転角度までの比率の関係は、等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列を構成する、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記装置は、高温で超伝導特性を呈する、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記装置は、比較的高い温度で熱伝導性の向上、引張強度の向上、及び/又は光感受性の向上を呈する、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
1以上の追加のグラフェン層をさらに備え、各追加のグラフェン層は、前記回転軸に関して追加の回転角度で直前のグラフェン層上に位置し、各追加の回転角度は、直前の前記回転角度とは異なる、請求項3に記載の装置。
【請求項9】
各追加の回転角度は、直前の前記回転角度よりも大きい、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
すべての回転角度の前記比率の前記関係は、等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列を構成する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
グラフェン構造体を形成する方法であって、
形成設備を用いて、その層を貫通して垂直に延びる回転軸に関して第1の回転角度で第1のグラフェン層を形成し、
前記形成設備を第1の回転量だけ回転させ、
前記形成設備を用いて、前記回転軸に関して第2の回転角度で前記第1のグラフェン層上に第2のグラフェン層を形成し、前記第2の回転角度は、前記第1の回転角度に前記第1の回転量を加えたものに等しく、
前記形成設備を第2の回転量だけ回転させ、前記第2の回転量は前記第1の回転量とは異なり、
前記形成設備を用いて、前記回転軸に関して第3の回転角度で前記第2のグラフェン層上に第3のグラフェン層を形成し、前記第3の回転角度は、前記第2の回転角度に前記第2の回転量を加えたものに等しい、
方法。
【請求項12】
前記グラフェン構造体は、高温で超伝導特性を呈する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記形成設備を前記第2の回転量とは異なる第3の回転量だけ回転させ、
前記形成設備を用いて、前記回転軸に関して第4の回転角度で前記第3のグラフェン層上に第4のグラフェン層を形成し、前記第4の回転角度は、前記第3の回転角度に前記第3の回転量を加えたものに等しく、
前記形成設備を前記第3の回転量とは異なる第4の回転量だけ回転させ、、
前記形成設備を用いて、前記回転軸に関して第5の回転角度で前記第4のグラフェン層上に第5のグラフェン層を形成し、前記第5の回転角度は、前記第4の回転角度に前記第4の回転量を加えたものに等しく、
前記形成設備を前記第4の回転量とは異なる第5の回転量だけ回転させ、、
前記形成設備を用いて、前記回転軸に関して第6の回転角度で前記第5のグラフェン層上に第6のグラフェン層を形成し、前記第6の回転角度は、前記第5の回転角度に前記第5の回転量を加えたものに等しい、
請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の回転角度から前記第6の回転角度までの各回転角度は、直前の前記回転角度よりも大きい、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の回転角度から前記第6の回転角度までの前記比率の前記関係は、等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列を構成する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記グラフェン構造体は、高温で超伝導特性を呈する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記形成設備を1以上の追加の回転量だけ回転させ、各追加の回転量は直前の前記回転量とは異なり、
前記形成設備の各回転の後に1以上の追加のグラフェン層を形成し、各追加のグラフェン層は、前記回転軸に関して追加の回転角度で直前の前記グラフェン層上に位置しており、各追加の回転角度は、直前の前記回転角度に最も新しい回転量を加えたものに等しい、
請求項13に記載の方法。
【請求項18】
すべての回転角度の前記比率の前記関係は、等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列を構成する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
各グラフェン層の形成方法は、
前駆体グラフェン構造体を調製し、
コーティングされた基材を前記前駆体グラフェン上へと押し付け、
前記基材を加熱してグラフェンフレークを前記コーティングされた基材から引き剥がす
ことを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記前駆体グラフェン構造体は、六方晶窒化ホウ素の単一層を含む2層グラフェンであり、前記コーティングされた基材は、ポリジメチルシロキサンでコーティングされたガラスである、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概してグラフェンの技術に関し、より詳細には構造化されたグラフェン配置における特性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは不思議な材料として脚光を浴びており、バイオセンサ、放射線検出器、及び量子ビットのような次世代量子技術のように多様な未来のテクノロジにおいて主要な役割を果たすと予想されている。現在の研究は、個々のグラフェンフレークを積層して回転させることによってグラフェンデバイスの電子特性を制御することに向けられている。このようなデバイスにおいては、電子の相互作用がグラフェンフレークを積層した際に形成される干渉パターンによって制御される。例えば、電子は1.1度の積層角度で超電導相を形成することができる。
【0003】
このことは目覚ましい発見であるにもかかわらず、より良いグラフェン構造体の発見に向けた研究はそれほど多く実施されてきてはおらず、これらの干渉パターンの制御によっていかにして電子特性を調整可能とするかについては、まだほとんど理解されていないままである。残念ながら、グラフェン層の1.1度の積層角度での超電導特性はいまだ限定的であり、現在実施可能で費用対効果の高い用途にはつながっていない。
【0004】
グラフェン構造体の従来の形成方法はこれまではうまく機能してきたが、進歩はいつも役立つものである。特に、従前に構築された構造体の特性を超える向上した特性を有するグラフェン構造体が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従前に構築された構造体を超える向上した特性を有するグラフェン構造体を提供することが本開示の利点である。開示された特徴、装置、システム、及び方法は、摂動対称性(perturbed symmetries)を有するグラフェンの積層法及び摂動対称性を有するグラフェンの形成方法に関する。開示された装置、システム、及び方法は、シンプルなグラフェン構造体の既知の特性を利用して、大幅に向上した特性を有するより複雑なグラフェン構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の種々の実施形態においては、例えばグラフェン構造体であり得る装置は、少なくとも第1、第2、及び第3のグラフェン層を含み得る。第1のグラフェン層は、第1のグラフェン層を通って垂直に延びる回転軸に関して第1の回転角度で位置し得る。第2のグラフェン層は、回転軸に関して第2の回転角度で第1のグラフェン層の上に位置し得る。第3のグラフェン層は、回転軸に関して第3の回転角度で第2のグラフェン層の上に位置してよく、第3の回転角度は第2の回転角度とは異なり得る。
【0007】
種々の詳細な実施形態においては、装置はさらに第4、第5、及び第6のグラフェン層を含み得る。第4のグラフェン層は、回転軸に関して第4の回転角度で第3のグラフェン層の上に位置していてよく、第4の回転角度は第3の回転角度とは異なり得る。第5のグラフェン層は、回転軸に関して第5の回転角度で第4のグラフェン層の上に位置していてよく、第5の回転角度は第4の回転角度とは異なり得る。第6のグラフェン層は、回転軸に関して第6の回転角度で第5のグラフェン層の上に位置していてよく、第6の回転角度は第5の回転角度とは異なり得る。種々の配置においては、第2の回転角度から第6の回転角度までの各回転角度は、直前の回転角度よりも大きくてよい。さらに、第1の回転角度から第6の回転角度までの比率関係は、等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列を構成し得る。種々の構成においては、装置は超伝導性、熱伝導性の向上、引張強度の向上、及び/又は光感受性の向上、加えて高温下でのその他の特性の向上を呈し得る。また、1以上の追加のグラフェン層を装置上に重ねることもできる。追加の各グラフェン層は、回転軸に関して追加の回転角度を有して直前のグラフェン層の上に位置していてよく、各追加の回転角度は直前の回転角度とは異なり得る。ある構成においては、各追加の回転角度は、直前の回転角度よりも大きくてよく、すべての回転角度の比率関係もまた、等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列を構成し得る。
【0008】
本開示の種々のさらなる実施形態においては、グラフェン構造体の形成方法が提供される。関連するプロセスステップは、形成設備を用いて第1のグラフェン層を形成するステップと、形成設備を第1の回転量だけ回転させるステップと、第2のグラフェン層を第1のグラフェン層の上に形成するステップと、形成設備を第2の回転量だけ回転させるステップと、第3のグラフェン層を第2のグラフェン層の上に形成するステップとを含み得る。第1のグラフェン層は、第1のグラフェン層を通って垂直に延びる回転軸に関して第1の回転角度で形成され得る。第2のグラフェン層は、第1の回転角度に第1の回転量を加えたものに等しい第2の回転角度で形成され得る。第2の回転量は、第1の回転量とは異なり得る。第3のグラフェン層は、第2の回転角度に第2の回転量を加えたものに等しい第3の回転角度で形成され得る。
【0009】
種々の詳細な実施形態においては、追加のステップは形成設備を第3の回転量だけ回転させるステップと、第4のグラフェン層を第3のグラフェン層の上に形成するステップと、形成設備を第4の回転量だけ回転させるステップと、第5のグラフェン層を第4のグラフェン層の上に形成するステップと、形成設備を第5の回転量だけ回転させるステップと、第6のグラフェン層を第5のグラフェン層の上に形成するステップとを含み得る。各回転量は、直前の回転量と異なっていてよく、各グラフェン層は、直前の回転角度に最も新しい回転量を加えたものに等しい回転角度で形成され得る。第2の回転角度から第6の回転角度までの各回転角度は、直前の回転角度よりも大きくてよい。
【0010】
さらなるプロセスステップは、形成設備を1以上の追加の回転量だけ回転させるステップであって、各回転量はそれ以前の回転量と異なり得るステップと、形成設備の各回転後に1以上の追加のグラフェン層を形成するステップとを含み得る。追加の各グラフェン層は、回転軸に関して追加の回転角度で直前のグラフェン層の上に位置していてよく、追加の各回転角度は、直前の回転角度に最も新しい回転量を加えたものに等しくてよい。ある構成においては、すべての回転角度の比率関係は、等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列、あるいはその他のパターンを構成していてよい。種々考えられるグラフェン構造体のそれぞれは、超伝導性、熱伝導性の向上、引張強度の向上、及び/又は光感受性の向上、加えて高温下でのその他の特性の向上を呈し得る。
【0011】
種々のさらなる詳細な実施形態においては、さらなるプロセスステップは、前駆体グラフェン構造体を調製するステップと、コーティングされた基材を前駆体グラフェン上へと押し付けるステップと、基材を加熱してグラフェンフレークをコーティングされた基材から引き剥がすステップとを含み得る。前駆体グラフェン構造体は、六方晶窒化ホウ素の単一層を含む2層グラフェンであってよく、コーティングされた基材は、ポリジメチルシロキサンでコーティングされたガラスであってよい。
【0012】
本開示のその他の装置、方法、特徴、及び利点は、この後に続く図面及び詳細な説明を精査すれば当業者にとって明らかであるか又は明らかになるであろう。このような追加の装置、方法、特徴、及び利点のすべては、本明細書内に含まれること、開示の範囲内であること、及び添付の請求の範囲によって保護されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
含まれている図面は説明用であり、これらの図面は、開示された摂動対称性を有する積層グラフェンの技術を形成するための考えられる構造体、配置、及び方法の例を提供することのみを目的としている。これらの図面は、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、当業者によって本開示に対してなされ得る形態及び詳細の変更を決して制限するものではない。
【0014】
図1は、グラフェン層の一例を上面図で示したものである。
【0015】
図2Aは、本開示の一実施形態による積層され回転された2層のグラフェン層を有する構造体の一例を上面図で示したものである。
【0016】
図2Bは、本開示の一実施形態による
図2Aの構造体のより大規模なものを上面図で示したものである。
【0017】
図3Aは、本開示の一実施形態による異なる角度で6層の積層グラフェン層を有する構造体の一例を上面図で示したものである。
【0018】
図3Bは、本開示の一実施形態による
図3Aの構造体のより大規模なものを上面図で示したものである。
【0019】
図4は、本開示の一実施形態による積層グラフェン構造体を形成する高水準な方法の一例のフローチャートを示したものである。
【0020】
図5は、本開示の一実施形態による摂動対称性を有する積層グラフェン構造体を形成する詳細な方法の一例のフローチャートを示したものである。
【0021】
図6は、本開示の一実施形態によるフィボナッチ数列の角度で回転された6層の積層グラフェン層を有する構造体の一例を上面図で示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示による装置、システム、及び方法の例示的な使用方法がこのセクションで説明される。これらの例は、背景情報を付け加えたり本開示の理解を助けたりするためだけに提供されている。したがって、本開示がここに記されたそれらの具体的詳細のいくつか又はすべてがなくとも実行し得るものであることは、当業者には明白であろう。いくつかの例においては、本開示を不必要に曖昧なものとするのを避けるため、よく知られた加工ステップは詳細には説明していない。以下で述べる例示は限定されたものとして捉えられるべきではなく、他の応用例も実現可能である。以下の詳細な説明においては、明細書の一部をなし、明細書中で本開示の具体的な実施形態の例として示されている添付の図面に言及される。これらの実施形態は、当業者が本開示を実施することができるように十分詳細に説明されているが、これらの例示は限定されたものでなく、他の実施形態が用いられてもよいし、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく変更が加えられ得ることが理解される。
【0023】
本開示は、その種々の実施形態において、強化された特性を有するグラフェン配置及びグラフェン構造体を形成するための特徴、装置、システム、及び方法に関する。開示された実施形態は、互いに回転角度を有して配置された積層グラフェン層を有するグラフェン配置を構成すること及び使用することを含む。種々の実施形態においては、2層より多くの積層グラフェン層が形成される。ある構造体においては、6層又はそれ以上の積層グラフェン層が形成され得る。積層されたグラフェン層は、摂動対称性を有するように互いに異なる回転角度だけ回転させて積層グラフェン構造体全体の特性を向上させることができる。ある構成においては、重ねられた層間の相対的な回転比は等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列、あるいはその他のパターンに従ってよい。
【0024】
本明細書に開示された種々の実施形態は、摂動対称性を有するように互いに異なる角度で回転された積層グラフェン層を説明するが、開示された特徴、装置、システム、及び方法は、同様に、開示された特徴を利用する任意の好適な代替物又は代替材料を使用してもよいことは容易に理解できるであろう。同様に、異なった回転パターンのその他の形式は、等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列以外も用いられ得る。当然ながら、6層より多いかあるいは少ない他の積層数や、これらの積層を形成する他の好適な方法も使用し得る。図示される実施形態以外のその他の応用、配置、及び推定も考えられる。
【0025】
まず
図1を参照すると、グラフェン層の一例が上面図で示される。一般によく知られているように、グラフェンはすべてが炭素原子で構成された素晴らしい二次元材料である。グラフェン層100は、平坦な二次元のハニカム格子となるように六角形の繰り返しパターン104で配置された炭素原子102からなる単一の層を含み得る。グラフェン層100は、X次元及びY次元の両方に必要とされるだけ横方向に延びることができるが、Z方向においては単一原子の厚さに制限される。各炭素原子102は、最も近くで隣り合う3つの炭素原子と共有結合により結合することができ、グラフェン層100全体に亘って延びる伝導帯に1つの電子を提供することができる。原子格子の6回対称性は、炭素原子の原子核質量が小さいことと相まって、電子が弱く結合してほぼ質量ゼロの粒子として振る舞うことを保証し、これによって電子が相対論的速度に近い速度で伝導することができる。この複合的効果により、特性が幾何学的構成又は幾何学的配置に直接的に関係する低次元量子物質系が得られる。グラフェン層100のその他の特徴及び特性は、概して当業者によく理解されている。
【0026】
続いて
図2A及び2Bでも、積層されて回転された2層のグラフェン層を有する構造体の一例が上面図で示される。グラフェン構造体200は、第1のグラフェン層100と第2のグラフェン層110とを含んでいてよく、いずれも六角形の繰り返しパターン104となるように配置された炭素原子の同じパターンを含み得る。第1のグラフェン層100は、第1のグラフェン層100を貫通して垂直に(すなわち紙面に向かうZ軸に沿って)延びる回転軸に関して第1の回転角度で位置し得る。そのような第1の回転角度は、説明の目的のために0度の基準角度であり得る。第2のグラフェン層110は、層が積層され、回転軸に関して第2の回転角度で位置し得るように第1のグラフェン層100の上に位置し得る。この第2の回転角度は、小さくてもわずかであってもよいが、ゼロではない。例えば、第1の回転角度がゼロならば、第2の回転角度は1度であり得る。当然ながら、他の回転量も考えられる。
【0027】
2層のグラフェン層100、110が積層され、互いに回転されただけで、少なくともいくつかのモアレ干渉パターンが構造体200全体に亘って重なり合う六角形104の中に観察され得る。こうした長周期の干渉パターンは、グラフェン層100と110との間の電子的相互作用に影響を及ぼす可能性があり、適切な環境下での所望の温度における超電導相をもたらす可能性もある。その他の特性の向上には、ユニークな半導体性及び/又は磁性、熱伝導性の向上、引張強度の向上、及び/又は光感受性の向上も含まれ得る。多くの研究は単一層のグラフェンに焦点を当ててきたが、積層されたグラフェンの層が種々の興味深い現象をもたらし得ることに留意する。このことは、各層における電子の動きに影響する層間の相互作用に起因し得る。例えば、相対角度でねじられた(すなわち回転された)2層のグラフェンフレークは、超伝導転移を生じさせることができ、磁性やその他の強く相関する相転移をも呈し得る。したがって、グラフェン層間の回転角度を制御することによって、構造体全体の電子的特性を調整し得る。
図2Bは、より大規模なグラフェン構造体200を単純に示すものである。
【0028】
本開示の種々の実施形態においては、新しく、かつ未調査のパターンが2層よりも多くの積層グラフェン層を有する構造体を形成する際に用いられる。
図3A及び3Bに移ると、相対角度で回転され6層積層されたグラフェン層の構造体の一例が同様に上面図で示される。グラフェン構造体300は、互いの上に積層された第1から第6までのグラフェン層100、110、120、130、140、150、160を含み得る。上記で示したグラフェン構造体200と同様に、これらのグラフェン層の各々は、構造的に同一又は実質的に同一であってよく、各層は、X方向及びY方向のいずれにおいても必要なだけ延びていてよい。これらのグラフェン層100、110、120、130、140、150、160の間の主要な違いは、その上及び/又はその下の層に対する各層間の相対的回転量であり得る。
図3に示すように、グラフェン層100、110、120、130、140、150、160の各層間の相対的回転量は約1度であり得る。6層の積層グラフェン層のこの回転配置においては、より多くのモアレ干渉パターンがすべての層における重なり合う六角形間に見ることができ、構造体全体の望ましい効果の向上を観察することができる。
【0029】
図3Aに示すグラフェン構造体300のような6層積層され回転されたグラフェン層を用いることで利点が観察され得るが、各グラフェン層間の相対的回転量又は相対的ねじり量を注意深く制御して変化させることにより、さらなる利点を観察することができる。グラフェン構造体300の単純な線形パターン以外のパターンによれば、グラフェン構造体全体における望ましい効果のさらなる向上がもたらされる。例えば、ある層から次の層への相対的回転量(すなわち相対的な「ねじり角度」)が増加する数列は、単純な線形パターンよりも良好であり得る。完全に、あるいは部分的に対称な相対回転配置を有するのではなく、層間の相対回転の摂動対称性が用いられ得る。
図3Bは、より大規模なグラフェン構造体300を単純に示すものである。
【0030】
種々の実施形態においては、グラフェン層間の相対的回転量のパターンは等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列に従ってよい。例えば、フィボナッチ数列の場合、第1のグラフェン層を0度の回転角度で配置することができ、第2のグラフェン層を1度で配置することができ、第3のグラフェン層を1度で配置することができ、第4の層は2度、第5の層は3度、そして第6の層は5度で配置することができる。追加の層を用いる場合には、8、13、21、34度などの回転角度で配置し得る。あるいは、第1のグラフェン層を1度で配置することができ、残りの層については1、2、3、5、及び8度で配置することができる。フィボナッチ数列においてその他の開始点を用いることもできる。その他の等差数列又は等比数列のタイプも使用し得る。
【0031】
さらに、最初の回転量は0度又は1度に限定されるものではない。むしろ、相対的回転量はフィボナッチ数列に合致する比率パターンに従ってよい。例えば、第1のグラフェン層が0度の第1の回転角度を有し、第2のグラフェン層が5度の第2の回転角度を有する場合、第1のグラフェン層と第2のグラフェン層との間の第1の回転量は5度である。第2のグラフェン層と第3のグラフェン層との間の第2の回転量は5度であってよく、後続の層の間の後続の回転量は、フィボナッチ数列の比率パターンに従って10、15、25、及び40度などであり得る。第1の回転角度及び/又は第1の回転量について度数又はラジアンによるその他の開始量も考えられる。
【0032】
こうした層の積層と相対的回転量における摂動対称性との効果を確立するためには、超伝導性と、臨界温度と積層角度構成との間の関係性とを確立することに具体的に焦点を当てた輸送測定が行われ得る。このことは、積層された層間のある特定の相対的回転量、例えば他に数列又はパターンが考えられる中でも特に等差数列、等比数列、又はフィボナッチ数列の比率パターンに対してなされ得る。
【0033】
概して、前述の2層グラフェン構造体と比較すると、3層以上、特に6層のある特定のグラフェン構造体は、超伝導臨界温度の上昇とその他の構造特性の向上をもたらし得る。そのような構造体は、これらの技術をさらに高い成熟度へと推し進めることにとって有益になる程度に正確に調整可能な電子特性を提供することができ、他に技術が考えられる中でも特に、超電導転位端センサ及び宇宙探査に用いられるボロメータ検出器並びに固体量子コンピュータに用いられる量子ビット及び量子センサを含む様々な技術に対する示唆を提供し得る。
【0034】
ここで
図4に移ると、積層グラフェン構造体の形成の高水準な方法400の一例のフローチャートが示される。開始ステップ402の後、第1のプロセスステップ404は第1のグラフェン層の形成を含み得る。これは、任意の好適なグラフェン形成プロセスによって実現することができ、そして第1のグラフェン層は、この第1のグラフェン層を貫通して垂直に延びる回転軸に関して第1の回転角度で位置し得る。
【0035】
続くプロセスステップ406においては、グラフェン層を形成するために使用される形成設備が第1の回転量だけ回転され得る。これにより、既に形成された第1のグラフェン層と次に形成されるべきグラフェン層との間にある相対的回転量が形成され得る。次のプロセスステップ408においては、第2のグラフェン層が第1のグラフェン層の上に形成され得る。これは、プロセスステップ404において第1のグラフェン層を形成するために使用した同じ形成設備と手法とを含み得る。
【0036】
続くプロセスステップ410においては、形成設備は第2の回転量だけ回転され得る。この第2の回転量は、積層された層間の相対的回転量が異なるように第1の回転量とは異なり得る。続くプロセスステップ412においては、第3のグラフェン層が第2のグラフェン層の上に形成され得る。繰り返しになるが、これは同じ形成設備と形成手法とを含み得る。そしてこの方法は終了ステップ414で終了する。必要であれば、追加のグラフェン層は、新たな追加のグラフェン層のそれぞれについて同様の回転ステップと形成ステップとを用いることによって形成され得る。
【0037】
積層グラフェン構造体又は積層グラフェン装置は、一般に確立された手法を用いることによって製造又は形成され得る。例えば、ポリマスタンプがグラフェンをへき開するために使用され、その後、所定の電極を備えた基材上にグラフェンを押し付けるへき開法が用いられ得る。続く層は、マイクロプローブステーションを使用して剥がされ、特定の角度だけ回転され得る。従来のリソグラフィプロセスは、構造体又は装置のテスト及び制御に必要な電極及びゲート構造をパターニングするために使用され得る。
【0038】
結果として得られる構造体又は装置は、望ましい量子効果が観察されることを保証するために極低温で特徴付けられ、研究され得る。このことは、例えば1Kより低い温度での希釈冷凍を含み得る。試験条件下で装置に磁場をかけることのできるシステムも使用され得る。基本的な装置試験は、温度が1Kを下回る際に抵抗を測定することを含んでいてよく、超電導相が、温度が臨界点に到達する際に抵抗がゼロへと急激に減少するものとして観測され得る。異なるねじり角度構成のサンプルに亘る転移並びにパーポーテッド対称性(purported symmetry)及び 摂動対称性を測定することにより、相対的回転角度と臨界温度との相関関係が確立され得る。
【0039】
種々の構成においては、1以上の層を同じあるいは異なる範囲まで引き延ばすように、異なる層に引っ張り力が与えられ得る。これに代えて、あるいはこれに追加して、二次元の構造体の全体は屈曲され得る。ある実施形態においては、1以上の層に、例えば水素のような別の材料を添加することができる。さらに、各層は異なる二次元寸法を有し得る。例えば、第2の層は第1の層の寸法の90%であってよく、さらに/あるいは他の層は異なる寸法であっていてよい。このような特徴及びその他の特徴は、構造体全体の特性をさらに向上させ得る。
【0040】
図5は、摂動対称性を有する積層グラフェン構造体を形成する詳細な方法500の一例のフローチャートを図示するものである。開始ステップ502の後、第1のプロセスステップ504は、2層グラフェン及び六方晶窒化ホウ素(「hBN」)配置の調製を含み得る。この前駆体構造は、電子グレードグラファイト又はhBNの上に粘着テープを配置することと、層を表面から剥がすこととを含み得る「スコッチテープ法」を用いて調製され得る。剥がされた層は、二酸化ケイ素とケイ素のような基材の上に擦り付けられることができ、このプロセスは、数層のグラフェンからなるマイクロメートルのフレークが得られるまで繰り返される。これらのフレークの厚さ及び品質は、光学顕微鏡及び原子間力顕微鏡を用いることなどによって確かめることができる。
【0041】
次のプロセスステップ506においては、基材は層状材料の上に押し付けられ得る。基材は、ポリジメチルシロキサン(「PDMS」)のようなポリマでコーティングされたガラスであり得る。続くプロセスステップ508においては、グラフェンフレークを基材から引き剥がすために基材が熱せられ得る。加熱は、例えば摂氏100度までであってよい。透明なガラスとPDMS層とにより、それらに付着したhBNフレークが視認できるようになる。hBNとグラフェンとの間のファンデルワールス相互作用により、グラフェンフレークを二酸化ケイ素とケイ素の基材から引き剥がすことができ、これによりグラフェンの層が得られる。
【0042】
決定ステップ510においては、積層グラフェン構造体に追加のグラフェン層が必要か否かに関する照会がなされ得る。追加のグラフェン層が必要な場合、方法は基材が回転され得るプロセスステップ512へと進む。上述のように、回転は、必要な角度又は量までなされてよく、その必要な角度又は量は、直前の層の直前の角度又は量に対する等差パターン、等比パターン、又はフィボナッチパターン、あるいはその他の相対的なパターンに従いってよい。プロセスはプロセスステップ504に戻り、ステップ504~510が繰り返される。この一連のステップは、必要な数のグラフェン層が構築されるまで繰り返され得る。繰り返しになるが、ステップ512における回転量は、繰り返しごとに異なっていてよい。
【0043】
しかしながら、決定ステップ510においてさらなるグラフェン層が必要とされない場合は、方法は、代わりにプロセスステップ514へと進み、プロセスステップ514では、加熱されたゲートデバイス上に最終的な積層構造体が解放され得る。これは、所定のパラジウムと金とで補強され、例えば摂氏約170度まで予熱され得るゲートデバイス構造体を含み得る。
【0044】
次のプロセスステップ516においては、電気接点とトップゲートとが最終的な構造体上に形成され得る。これは、電子ビームリソグラフィ及び反応性イオンエッチングの使用を伴い得る。電気接点とトップゲートとは、例えばクロムと金の熱蒸着により成膜されることができ、これによりカプセル化されたグラフェンとのエッジ接点が形成される。
【0045】
続くステップ518においては、最終的な構造体が特徴付けられ得る。これは、例えば、超伝導マグネットを備えた希釈冷凍機内で輸送測定システムを使用することにより実施され得る。種々の構成においては、このプロセスは、ロックイン・アンプを用いたデータ取得のための低周波数ロックイン法を伴い得る。抵抗測定は、例えば100μVより低い電圧励起又は10nAより低い電流励起の使用を伴い得る。そして方法は終了ステップ520で終了する。
【0046】
前述の方法400及び500については、必ずしもすべてのプロセスステップが必要ではなく、ある構成においては他のプロセスステップが追加されてもよいことは理解できるであろう。さらに、場合によってはステップの順番が変更されてもよく、いくつかのステップは同時に実施されてもよい。例えば、ステップ514は、ある構成においてはプロセスの中でより早い順序で実施され得る。既知のプロセスステップが方法500における様々な形成手法のために提供されるが、グラフェン層の形成及び積層のためにその他の好適な方法を使用することもできることは理解できるであろう。また、開示された方法のその他のバリエーションや推定も、当業者には容易に理解できるであろう。
【0047】
上述のように、積層された二次元層間の摂動対称性を用いる前述の構造体と形成手法は、グラフェンに限定されるものではない。本明細書に開示されたものと同様のタイプの構造体及び手法は、例えば遷移金属ジカルコゲナイドなどの別の二次元材料にも適用し得る。そのような材料は、光エミッタ、検出器、バレートロニクス装置、スピントロニクス装置などのような次世代技術に好適な様々な現象を呈する。これらの材料は、カルコゲナイド(例えば硫黄、テルル、セレンなど)と結合したタングステンのような大きな原子で構成され得るものであり、その結果生じる二次元層も、本明細書に開示された積層グラフェン構造体のように、モアレ干渉パターンを形成するように積層されてねじられ得る。繰り返しになるが、その他の材料、回転パターン、及び推定もまた考えられる。
【0048】
最後に、
図6は、フィボナッチ数列の角度で回転された6層の積層グラフェン層を有する構造体の一例を上面図で示したものである。グラフェン構造体600は、ある層から次の層への相対的な回転角度がフィボナッチ数列に従っている点を除けば前述のグラフェン構造体300と同様である。
【0049】
上述の開示は、明瞭性及び理解の目的で、例示と実施例とによって詳細に説明されてきたが、上述の開示は、本開示の趣旨又は本質的な特徴から逸脱することなく、数多くの他の具体的な変形や実施形態に具体化され得ることが認識されるであろう。特定の変更や修正が実施されてもよく、本開示は前述の詳細によって限定されるべきものではなく、むしろ添付の特許請求の範囲によって定義されるべきものであることが理解される。
【国際調査報告】