(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】がん自己ペプチドに対するペプチド中心キメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240829BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240829BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240829BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240829BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240829BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240829BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240829BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240829BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240829BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240829BHJP
C07K 14/805 20060101ALN20240829BHJP
C07K 14/74 20060101ALN20240829BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K19/00 ZNA
C07K16/46
C07K14/705
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/04
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K31/713
A61K35/15
G01N33/574 A
C07K14/805
C07K14/74
C07K7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024511998
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-04-08
(86)【国際出願番号】 US2022075362
(87)【国際公開番号】W WO2023028494
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(71)【出願人】
【識別番号】523403760
【氏名又は名称】マイリオ セラピューティクス プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ビースリー マシュー
(72)【発明者】
【氏名】キーフェル ベン
(72)【発明者】
【氏名】マーリス ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヤルマルコビッチ マーク
(72)【発明者】
【氏名】グレイシー フィオナ
(72)【発明者】
【氏名】スグラキス ニコラオス
(72)【発明者】
【氏名】ウォリントン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】マーシャル クインレン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
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4B063QS36
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
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4B065CA46
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB43
4C085BB50
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4C085EE01
4C086AA01
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4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C087AA01
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4C087BB63
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
腫瘍形成に必須のタンパク質に由来するペプチド、例えば、神経芽細胞腫依存遺伝子(dependency gene)でありマスター転写制御因子であるPHOX2Bに由来するHLA-A
*24:02上に発見された非変異型ペプチドQYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)が、神経芽細胞腫イムノペプチドーム(immunopeptidome)においてエンリッチされている。QYNPIRTTFを標的とするため、予測された交差反応性であり得るペプチドを使用したカウンターパニング戦略を介して、ペプチド中心キメラ抗原受容体(PC-CAR)を開発した。計算モデリングによる情報から、PHOX2Bペプチド中心CARは、HLA-A
*23:01および高度に分岐したHLA-B
*14:02によって提示されたQYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)も認識することが示された。これらのHEAを発現する神経芽細胞腫細胞のインビトロでの強力かつ特異的な死滅が、マウスにおける完全腫瘍退縮と共に示された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列QYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)を有するペプチドと、HLAα鎖ポリペプチドと、β
2ミクログロブリンポリペプチドとを含むHLA PHOX2B
QYNPIRTTF複合体と特異的に結合する抗原結合部位を含む、結合剤。
【請求項2】
抗原結合部位が、約500nM以下、約200nM以下、または約13nM以下の解離定数(K
D)でHLA PHOX2B
QYNPIRTTF複合体と結合する、請求項1記載の結合剤。
【請求項3】
MHC拘束性でない、請求項1または請求項2記載の結合剤。
【請求項4】
抗原結合部位が、HLA-A
*24:02、HLA-A
*23:01、HLA-B
*14:02、HLA-C
*07:01、HLA-C
*06:02、HLA-A
*29:02、およびHLA-A
*32:01のうちの2つ以上、3つ以上、または4つ以上によって提示されたHLA PHOX2B
QYNPIRTTF複合体と結合する、請求項1または請求項2記載の結合剤。
【請求項5】
抗原結合部位が、
(a)SEQ ID NO:6記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:7記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:8記載のCDR-L3領域とを含む、V
L;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:9記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:10記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:11記載のCDR-H3領域とを含む、V
H;
または
(a)SEQ ID NO:15記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:16記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:17記載のCDR-L3領域とを含む、V
L;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:18記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:19記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:20記載のCDR-H3領域とを含む、V
H;
または
(a)SEQ ID NO:26記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:27記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:28記載のCDR-L3領域とを含む、V
L;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:29記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:30記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:31記載のCDR-H3領域とを含む、V
H;
または
(a)SEQ ID NO:35記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:36記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:37記載のCDR-L3領域とを含む、V
L;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:38記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:39記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:40記載のCDR-H3領域とを含む、V
H;
または
(a)SEQ ID NO:44記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:45記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:46記載のCDR-L3領域とを含む、V
L;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:47記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:48記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:49記載のCDR-H3領域とを含む、V
H
を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の結合剤。
【請求項6】
結合剤がV
HとV
Lとを含み、ここで、V
HがSEQ ID NO:5に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはV
LがSEQ ID NO:4に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有するか;または
結合剤がV
HとV
Lとを含み、ここで、V
HがSEQ ID NO:14に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはV
LがSEQ ID NO:13に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有するか;または
結合剤がV
HとV
Lとを含み、ここで、V
HがSEQ ID NO:25に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはV
LがSEQ ID NO:24に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有するか;または
結合剤がV
HとV
Lとを含み、ここで、V
HがSEQ ID NO:34に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはV
LがSEQ ID NO:33に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有するか;または
結合剤がV
HとV
Lとを含み、ここで、V
HがSEQ ID NO:43に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはV
LがSEQ ID NO:42に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する、
請求項1~5のいずれか一項記載の結合剤。
【請求項7】
抗体である、請求項1~6のいずれか一項記載の結合剤。
【請求項8】
V
HとV
Lとを含み、V
HがV
Lに融合している、請求項1~7のいずれか一項記載の結合剤。
【請求項9】
mAb、Fab、Fab'、F(ab')
2、Fv、Dab単鎖抗体、scFv、CAR、ADC、KIR、BiTE、BsMAb、およびTFPからなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項記載の結合剤。
【請求項10】
単鎖可変断片(scFv)である、請求項9記載の結合剤。
【請求項11】
キメラ抗原受容体(CAR)である、請求項1~10のいずれか一項記載の結合剤。
【請求項12】
キラーIg様受容体(KIR)である、請求項1~10のいずれか一項記載の結合剤。
【請求項13】
モジュール型二重特異性T細胞様誘導剤(BiTE)である、請求項1~10のいずれか一項記載の結合剤。
【請求項14】
CARがCD3ε、CD3γ、CD3δ、TCRα、またはTCRβの細胞内シグナル伝達ドメインを含む、請求項11記載の結合剤。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項記載の結合剤をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項16】
シス作用性調節要素に機能的に連結された請求項15記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項17】
請求項15記載のポリヌクレオチドまたは請求項16記載の発現ベクターを含む、細胞。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか一項記載の結合剤、請求項15記載の単離されたポリヌクレオチド、請求項16記載の発現ベクター、または請求項17記載の細胞を含む、薬学的組成物。
【請求項19】
がん細胞を検出する方法であって、結合剤がHLA PHOX2B
QYNPIRTTF複合体に結合することを可能にする条件で、細胞を請求項1~10のいずれか一項記載の結合剤と接触させる工程を含み、結合剤とHLA PHOX2B
QYNPIRTTF複合体との結合またはそのレベルががん細胞の指標となる、方法。
【請求項20】
それを必要とする対象においてがんを診断および処置する方法であって、
(a)請求項19記載の方法によって、該対象におけるがん細胞の存在を検出する工程;
(b)がん細胞が検出された場合に、該対象ががんを有すると診断する工程;および
(c)抗がん治療によって該対象を処置する工程
を含む、方法。
【請求項21】
がん細胞が神経芽細胞腫である、請求項19または請求項20記載の方法。
【請求項22】
がんを処置する方法であって、
請求項1~14のいずれか一項記載の結合剤、請求項15記載の単離されたポリヌクレオチド、請求項16記載のベクター、請求項17記載の細胞、または請求項18記載の薬学的組成物の治療的に有効な量を、それを必要とする対象に投与し、それによって、がんを処置する工程
を含む、方法。
【請求項23】
がんが神経芽細胞腫である、請求項22記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府の資金提供による研究に関する声明
本発明は、National Institutes of Healthによって授与されたグラントU54 CA232568およびR35 CA220500の下で政府の支援を受けて作成された。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
優先権主張
本願は、2021年8月24日に出願された米国仮出願第63,236,556号に基づく優先権を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
配列表の参照
本願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、電子的に提出された配列表XMLを含有している。2022年8月23日に作成されたこのXML配列表は、CHOPP0049WO.xmlと名付けられており、68,758バイトのサイズである。
【0004】
分野
本開示は概して、がんの診断および/または処置のための結合剤およびその使用方法に関する。具体的には、本開示は、ヒトPHOX2B由来のペプチドを提示するペプチド:MHC複合体と特異的に結合することができる結合剤に関する。
【背景技術】
【0005】
背景
ヒトにおいて、ヒト白血球抗原(HLA)としても公知の主要組織適合(MHC)系は、ペプチド抗原をT細胞に提示する。特定のペプチド:MHC(pMHC)複合体のT細胞による認識は、T細胞受容体(TCR)によって媒介される。この認識は、T細胞の抗原特異的増大およびその他の免疫学的効果に寄与する。生物医学的観点から、pMHC複合体は、疾患状態のマーカーおよび免疫治療の標的となる可能性がある。pMHC複合体を認識する結合剤を、従来の方法によって生成することは、困難であることが判明している。この困難さの1つの理由は、エピトープの性質である。pMHC特異的結合剤は、ペプチド抗原の構造的特色も、MHC分子の構造的特色も認識しなければならない。典型的なpMHCによって提示されるペプチド抗原は、わずか9~12残基長であり、これらの残基のうちのいくつかは、pMHC複合体内に埋もれている。したがって、結合剤と自由に相互作用し得る、表面にアクセス可能な残基の数は限定されている。典型的な抗体エピトープは、単独のペプチド抗原が提供するアミノ酸残基より多数のアミノ酸残基を含む。結合剤がpMHC複合体との特異的結合を達成するためには、エピトープが、特異的結合のために典型的に必要とされるより小さくなければならないか、または、エピトープが、ペプチドに加えてMHC分子の一部分を包含していなければならない。換言すると、エピトープをMHC分子に拡張することなく、ペプチドにのみ結合する抗体は、大部分のケースにおいて、有用なpMHC結合剤に必要とされる親和性を欠く。したがって、pMHC結合剤のためのエピトープは、大部分のケースにおいて、MHC分子に及ぶ。
【0006】
しかしながら、結合剤とpMHC複合体との相互作用が、MHC分子との相互作用に過度に依存する場合には、結合剤が、非標的ペプチド抗原を提示するpMHC複合体と非特異的に結合する。結局、提示されたペプチドに依存せずにMHCと結合する結合剤は、関心対象のpMHC複合体から、他のペプチドを提示するMHC複合体を区別することができない。
【0007】
理論的な観点から、ネイティブTCRは、この特異性の問題を克服し、pMHC複合体に対する結合剤として有用であると判明するはずである。しかしながら、実際にはそうでないことが判明している。ネイティブTCR受容体は、エピトープ反応性T細胞集団からクローニングされている。これらのクローニングされたTCRの研究は、それらが、同族pMHC複合体に対して、驚くほど低い親和性、典型的には、マイクロモル濃度(μM)の解離定数を有することを示している。また、ネイティブTCRが、pMHC複合体に対する結合剤として実際に使用するために必要な結合特異性を有することは稀であり、単一のTCRは、多くの異なるエピトープを認識することができ、免疫系内の選択性は、自己反応性T細胞の欠失によって達成される。
【0008】
TCRとは対照的に、抗体は、一般に、標的に対してはるかに高い親和性を有するが、pMHC複合体に対する抗体を作製する努力も、同様に失敗している。抗体発見のための伝統的な技術、即ち、動物ワクチン接種またはライブラリスクリーニングが、有用な結合特徴を有するpMHC結合剤の生成に成功することは稀である。
【0009】
神経芽細胞腫は、発生中の交感神経系の組織に由来する小児がんであり、しばしば、集中的な細胞傷害性治療にも関わらず致死性である16。これらの腫瘍は、遺伝子変異量(mutational burden)17-21およびMHC発現22,23が低く、したがって、神経芽細胞腫は、MHCベースの免疫治療によって標的とすることが困難な腫瘍である。以前の研究は、PHOX2Bが、神経芽細胞腫組織において高度かつ特異的に発現されており83、この疾患の家族性遺伝の症例において変異していることを同定した84,85。
【0010】
PHOX2Bは、神経堤前駆体発生の組織化における機能と一致して48,49、排他的に胎児発生中に発現され、正常組織においては出生前に完全にサイレンシングされる。PHOX2B発現は、神経芽細胞腫の診断アッセイにおいてルーチンに使用されており51,52、神経芽細胞腫における2種の高浸透度感受性遺伝子のうちの1種であり53、DepMapにおいて報告されているように、神経芽細胞腫における3番目に重要な依存(dependency)である3,54。まとめると、PHOX2Bは、神経芽細胞腫における高度に特異的な腫瘍抗原であり、治療的に標的とするための理想的な候補であることを、本発明者らは提唱する。
【0011】
特許WO2019/178081は、16の神経芽細胞腫腫瘍のイムノペプチドーム(immunopeptidome)(ペプチド-MHC複合体として提示されたペプチドのレパートリー)を分析し、種々のヒトペプチド-MHC対立遺伝子によって提示された多数のペプチドを決定したが、その中に、HLA-A*24:02サブタイプによって提示されたPHOX2B由来ペプチドQYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)が含まれていた。
【0012】
このHLA-A*24:02 PHOX2Bペプチド複合体に特異的な結合剤は、小児患者における神経芽細胞腫の処置および診断という大きなアンメットニーズを満たす。
【発明の概要】
【0013】
概要
本開示は、配列QYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)を有するペプチドと、HLAα鎖ポリペプチドと、β2ミクログロブリンポリペプチドとを含むHLA PHOX2BQYNPIRTTF複合体に特異的に結合する抗原結合部位を含む結合剤である。抗原結合部位は、約500nM以下、約200nM以下、または約13nM以下の解離定数(KD)で、HLA PHOX2BQYNPIRTTF複合体と結合し得る。結合剤は、非MHC拘束性であり得る。抗原結合部位は、HLA-A*24:02、HLA-A*23:01、HLA-B*14:02、HLA-C*07:01、HLA-C*06:02、HLA-A*29:02、およびHLA-A*32:01のうちの2つ以上、3つ以上、または4つ以上によって提示されたHLA PHOX2BQYNPIRTTF複合体と結合し得る。
【0014】
抗原結合部位は、
(a)SEQ ID NO:6に記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:7に記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:8に記載のCDR-L3領域とを含む、VL;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:9に記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:10に記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:11に記載のCDR-H3領域とを含む、VH;
または
(a)SEQ ID NO:15に記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:16に記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:17に記載のCDR-L3領域とを含む、VL;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:18に記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:19に記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:20に記載のCDR-H3領域とを含む、VH;
または
(a)SEQ ID NO:26に記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:27に記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:28に記載のCDR-L3領域とを含む、VL;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:29に記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:30に記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:31に記載のCDR-H3領域とを含む、VH;
または
(a)SEQ ID NO:35に記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:36に記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:37に記載のCDR-L3領域とを含む、VL;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:38に記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:39に記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:40に記載のCDR-H3領域とを含む、VH;
または
(a)SEQ ID NO:44に記載のCDR-L1領域と、SEQ ID NO:45に記載のCDR-L2領域と、SEQ ID NO:46に記載のCDR-L3領域とを含む、VL;および/もしくは
(b)SEQ ID NO:47に記載のCDR-H1領域と、SEQ ID NO:48に記載のCDR-H2領域と、SEQ ID NO:49に記載のCDR-H3領域とを含む、VH
を含み得る。
【0015】
結合剤は、VHおよびVLを含んでいてよく、ここで、VHがSEQ ID NO:5に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはVLがSEQ ID NO:4に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有するか;または結合剤は、VHおよびVLを含んでいてよく、ここで、VHがSEQ ID NO:14に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはVLがSEQ ID NO:13に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有するか;または結合剤は、VHおよびVLを含んでいてよく、ここで、VHがSEQ ID NO:25に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはVLがSEQ ID NO:24に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有するか;または結合剤は、VHおよびVLを含んでいてよく、ここで、VHがSEQ ID NO:34に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはVLがSEQ ID NO:33に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有するか;または結合剤は、VHおよびVLを含んでいてよく、ここで、VHがSEQ ID NO:43に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し、かつ/もしくはVLがSEQ ID NO:42に対して少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する。
【0016】
結合剤は抗体であり得る。結合剤は、VHおよびVLを含んでいてよく、ここで、VHはVLに融合している。結合剤は、mAb、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、Dab単鎖抗体、scFv、キメラ抗原受容体(CAR)、ADC、キラーIg様受容体(KIR)、BiTE、BsMAb、およびTFPからなる群より選択され得、例えば、単鎖可変断片(scFv)またはモジュール型二重特異性T細胞様誘導剤(BiTE)であり得る。細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ε、CD3γ、CD3δ、TCRα、TCRβであり得る。
【0017】
本明細書に記載される結合剤をコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド、またはシス作用性調節要素に機能的に連結されたそのようなポリヌクレオチドを含む発現ベクターも提供される。そのようなポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む細胞も提供される。結合剤、単離されたポリヌクレオチド、発現ベクター、または細胞を含む薬学的組成物も提供される。
【0018】
もう1つの態様において、結合剤がHLA PHOX2BQYNPIRTTF複合体と結合することを可能にする条件で、細胞を本明細書に記載される結合剤と接触させることを含む、がん細胞を検出する方法が提供され、ここで、結合剤とHLA PHOX2BQYNPIRTTF複合体との結合またはそのレベルが、がん細胞の指標となる。さらにもう1つの態様において、(a)そのような方法によって、対象におけるがん細胞の存在を検出すること、がん細胞が検出された場合に、対象ががんを有すると診断することを含み;任意で、抗がん治療によって対象を処置することを含む、それを必要とする対象においてがんを診断および処置する方法が提供される。がん細胞は、神経芽細胞腫であり得る。
【0019】
さらなる態様は、本明細書に記載される結合剤、単離されたポリヌクレオチド、ベクター、細胞、または薬学的組成物の治療的に有効な量を、それを必要とする対象に投与することを含む、がんを処置する方法を提供する。がんは、神経芽細胞腫であり得る。
【0020】
特許請求の範囲および/または本明細書において、「含む」という用語と共に使用される場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語の使用は、「1」を意味し得るが、「1または複数」、「少なくとも1」、および「1以上」の意味とも一致する。「約」という単語は、記載された数のプラスマイナス5%を意味する。
【0021】
本明細書に記載される任意の方法または組成物は、本明細書に記載される任意の他の方法または組成物に関して実施されてもよいことが企図される。本開示の他の目的、特色、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、この詳細な説明から、本開示の本旨および範囲に含まれる様々な変化および修飾が当業者に明らかになるため、詳細な説明および具体例は、本開示の具体的な態様を示すが、例示として与えられるに過ぎないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本特許または出願ファイルは、カラーで実行された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面を含む本特許または特許出願公報のコピーは、請求および必要料金の支払いにより、当局によって提供される。
【0023】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示のある特定の局面をさらに示すために含まれる。本明細書に提示される具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面のうちの1つまたは複数を参照することによって、本開示は、よりよく理解され得る。
【0024】
【
図1】クローン10および302の動態分析。この図は、バイオレイヤー干渉法(BLI)によって測定された、可溶性PHOX2B(43-51)A
*24:02複合体と、クローン10またはクローン302のscFvとの会合および解離を示す。PHOX2B(43-51)複合体(200nM)との結合が、非特異的複合体(3×200nM)対照と重ね合わせられており、PHOX2B(43-51)複合体のみとの特異的結合が示されている。「標的」と記された矢印は、PHOX2B(43-51)MHC複合体とのscFvの結合を示す。「対照」と記された矢印は、無関係のペプチドを含む3種のpMHC複合体とのscFvの結合を示す。
図1Aはクローン10であり、
図1Bはクローン302である。
【
図2】クローン10および302の特異性アレイ分析。この図は、95種の無関係の複合体と比べた、標的PHOX2B(43-51)複合体に対する各scFvのpMHC特異性を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。結合は、(矢印によって示される)標的複合体に対してノーマライズされている。
図2Aはクローン10であり、
図2Bはクローン302である。
【
図3】クローン10および302の相同ペプチドに対する交差反応性分析。この図は、標的ペプチドと高度に相同なプロテオームおよびイムノペプチドームに由来するペプチドと比べた、標的PHOX2B(43-51)複合体に対する各scFvのpMHC特異性を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。結合は、(矢印によって示される)標的複合体に対してノーマライズされている。
図3Aはクローン10であり、
図3Bはクローン302である。
【
図4】PHOX2B(43-51)Xスキャンペプチドのクローン10 scFvとの結合。この図は、PHOX2B(43-51)標的ペプチドの単一残基バリアントが負荷された複合体との結合を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。各位置における置換に対するクローン10の耐性を示すため、標的ペプチドの各非アンカー位置を、(システインを除く)全ての他の天然アミノ酸に置換した。結合は、標的複合体および対照複合体に対してノーマライズされている。
【
図5】PHOX2B(43-51)Xスキャンペプチドのクローン302 scFvとの結合。この図は、PHOX2B(43-51)標的ペプチドの単一残基バリアントが負荷された複合体との結合を示すビーズベースの結合アッセイを示す。各位置における置換に対するクローン302の耐性を示すため、標的ペプチドの各非アンカー位置を、(システインを除く)全ての他の天然アミノ酸に置換した。結合は、標的複合体および対照複合体に対してノーマライズされている。
【
図6】クローン10およびクローン302のCARのsCRAP特異性試験。この図は、sCRAPアルゴリズムによる、PHOX2Bエピトープと交差反応性である可能性のあるペプチドの予測、ならびにVL-VH方向およびVH-VL方向のscFvとしてのクローン10および302のCAR構築物の試験を示す。フルオロフォアによって標識されたMHCテトラマーにペプチドを負荷し、CAR構築物によって形質導入された細胞を染色するために使用した。選択性を保持したクローンを、さらに優先した(矢印によって記された選択的受容体)。ペプチドスコアは、正常組織ペプチドのアミノ酸配列に基づき予測された交差反応性を表し;全体スコアは、ペプチドスコア、結合親和性、および正常組織発現に基づき計算され;Tは、正常組織イムノペプチドームにおいて報告されているペプチドを意味し、Fは、欠如を意味する。
【
図7】クローン10 LH CARによる標的選択性の機能的証明。この図は、クローン10 LH CARの、予測された交差反応性ペプチドとの結合を示す。テトラマー結合が示された2種のペプチド、ABCA8およびMYO7Bについて、ペプチドをパルス適用されたSW620細胞における機能的スクリーニングは、0.1μMのPHOX2Bによる死滅と比較して、50μMという超生理学的濃度のABCA8を通してのみCARによる死滅を示す。ABCA8およびMYO7Bは、正常組織イムノペプチドームにおいて検出されず、正常イムノペプチドームにおいて検出されたsCRAPによって予測されたペプチド(FDFTI、SLC23A2、およびTNS4)は、いずれも、10LHとの結合を示さない。
【
図8】複数のHLA上に提示されたPHOX2Bペプチドと結合するCARの構造的基礎。
図8Aは、PHOX2B/HLA-A24の結晶構造、ならびにHLA-A
*23:01、HLA-B
*14:02、およびHLA-C
*07:02との複合体としてのPHOX2Bのモデルを示す。
図8Bは、HLA-C07の荷電極性残基、R151、Q155、およびR69が、主要な10LH相互作用残基、I5、R6、およびI7と整列することを示している(MHC残基は青色、PHOX2B/10LH相互作用残基は赤色)。R151、Q155、およびR69は、主要なペプチド結合残基において立体障害および電荷障害を発生させる。
図8Cは、PHOX2B PC-CAR 10LHの染色を示し(下)、HLA-A
*24:02、HLA-A
*23:01、およびHLA-B
*14:02とは強く結合するが、HLA-C07とは結合しないことを明らかにしている。10LH;PHOX2B PC-CAR;CD19;CD19に対するCAR;UT;形質導入されていないT細胞。
【
図9】PHOX2Bペプチドの交差HLA認識。
図9Aは、10LHおよび302LHのCARの、標識されたPHOX2B 43-51 HLA-A
*23:01テトラマーとの結合を示す。
図9Bは、10LH CARが、PHOX2Bペプチドをパルス適用された場合に、HLA-A
*23:01/PHOX2B
-WM873細胞を死滅させるが、CHRNA3ペプチドでは死滅させないことを示している。
【
図10】PHOX2B特異的PC-CAR T細胞はインビトロで神経芽細胞腫株において強力な腫瘍死滅を誘導する。この図は、クローン10LH CARが、HLA-A
*24:02およびHLA-A
*23:01およびPHOX2Bを発現する神経芽細胞腫細胞(SKNAS、NBSD、およびSKNFI)においては、特異的な死滅およびIFNγ放出を誘導するが、HLA-A
*24:02/PHOX2B
-非神経芽細胞腫腫瘍細胞(SW620、HEPG2、およびKATO III)においては、PHOX2Bペプチドが添加されない限り、誘導しないことを示す。SW620において、10μMの予測された交差反応性ペプチドABCA8またはMYO7Bがパルス適用された時、T細胞活性は観察されなかった。細胞傷害は、GFPによって形質導入されたがん細胞における緑色蛍光の喪失、およびELISAによって測定されたIFNγ放出によって可視化された。右側にリストされた細胞の順序は、各々についての最も右側のデータポイントと同じである。
【
図11】PHOX2B 43-51 MHCに特異的な抗体はインビトロでPHOX2B陽性神経芽細胞腫細胞を染色する。この図は、テトラマー化された10LH scFvによるがん細胞の染色が、神経芽細胞腫細胞上のPHOX2B pMHCの検出を可能にするが、HLA一致対照においてはそうでないことを示している。
【
図12】PHOX2B特異的PC-CAR T細胞は、インビボで強力な腫瘍死滅を誘導し、従来のHLA拘束を破壊する。PHOX2B特異的PC-CAR T細胞は、極めて急速に成長する株COG-564xおよびHLA-A
*23:01株NBSDを含む神経芽細胞腫PDX腫瘍を生着させたマウスにおいて、強力な腫瘍死滅を誘導する。各アームに6匹のマウスが登録された;各PDX株について、2回のインビボ研究のうちの1回からのデータが示される。
【
図13】PHOX2B特異的PC-CAR T細胞はインビボの低MHC神経芽細胞腫モデルにおいてMHCアップレギュレーションを誘導する。10LHおよび302LHのPC-CARによる処置は、形質導入されていないT細胞によって処置されたマウスと比較して、腫瘍量に到達したマウスから収集されたPDX腫瘍において、HLA発現を強力にアップレギュレートする(COG-564xは処置後11日目に収集され;NBSDは、UTについては処置後14日目、10LHおよび302LHについては処置後17日目に収集された)。
【
図16】クローン9および1114の動態分析。この図は、バイオレイヤー干渉法(BLI)によって測定された、可溶性PHOX2B(43-51)A
*24:02複合体とクローン9またはクローン1114のscFvとの会合および解離を示す。PHOX2B(43-51)複合体(200nM)との結合が、標的PHOX2B複合体と1残基だけ異なる非特異的複合体(200nM)対照と重ね合わせられている。「標的」と記された矢印は、PHOX2B(43-51)MHC複合体とのscFvの結合を示す。「対照」と記された矢印は、対照ペプチド(NYTPIRTTF (SEQ ID NO: 52)、LYNPIRTTF (SEQ ID NO: 53)、QYQPLRTTF (SEQ ID NO: 54)、QYNPIKTTF (SEQ ID NO: 55)、QYNPLQTTF (SEQ ID NO: 56)、QYNPLKTTF (SEQ ID NO: 57)、QYNAIRTTF (SEQ ID NO: 58))とのscFvの結合を示す。
図16Aはクローン9であり、
図16Bはクローン1114である。
【
図17】クローン1113の動態分析。この図は、バイオレイヤー干渉法(BLI)によって測定された、可溶性PHOX2B(43-51)A
*24:02複合体とクローン1113のscFvとの会合および解離を示す。PHOX2B(43-51)複合体(200nM)との結合が、非特異的複合体(3×200nM)対照と重ね合わせられており、PHOX2B(43-51)複合体のみとの特異的結合が示されている。「標的」と記された矢印は、PHOX2B(43-51)MHC複合体とのscFvの結合を示す。「対照」と記された矢印は、無関係のペプチドを含む3種のpMHC複合体とのscFvの結合を示す。
【
図18】クローン9および1113の特異性アレイ分析。この図は、95種の無関係の複合体と比べた、標的PHOX2B(43-51)複合体に対する各scFvのpMHC特異性を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。結合は、(矢印によって示される)標的複合体に対してノーマライズされている。
図18Aはクローン9であり、
図18Bはクローン1113である。
【
図19】クローン1114の特異性アレイ分析。この図は、95種の無関係の複合体と比べた、標的PHOX2B(43-51)複合体に対するクローン1114 scFvのpMHC特異性を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。結合は、(矢印によって示される)標的複合体に対してノーマライズされている。
【
図20】クローン9および1113の相同ペプチドに対する交差反応性分析。この図は、標的ペプチドと高度に相同なプロテオームおよびイムノペプチドームに由来するペプチドと比べた、標的PHOX2B(43-51)複合体に対する各scFvのpMHC特異性を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。結合は、(矢印によって示される)標的複合体に対してノーマライズされている。
図20Aはクローン9であり、
図20Bはクローン1113である。
【
図21】クローン1114の相同ペプチドに対する交差反応性分析。この図は、標的ペプチドと高度に相同なプロテオームおよびイムノペプチドームに由来するペプチドと比べた、標的PHOX2B(43-51)複合体に対するクローン1114 scFvのpMHC特異性を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。結合は、(矢印によって示される)標的複合体に対してノーマライズされている。
【
図22】PHOX2B(43-51)Xスキャンペプチドのクローン9 scFvとの結合。この図は、PHOX2B(43-51)標的ペプチドの単一残基バリアントが負荷された複合体との結合を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。各位置における置換に対するクローン9の耐性を示すため、標的ペプチドの各非アンカー位置を、(システインを除く)全ての他の天然アミノ酸に置換した。結合は、標的複合体および対照複合体に対してノーマライズされている。
【
図23】PHOX2B(43-51)Xスキャンペプチドのクローン1113 scFvとの結合。この図は、PHOX2B(43-51)標的ペプチドの単一残基バリアントが負荷された複合体との結合を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。各位置における置換に対するクローン1113の耐性を示すため、標的ペプチドの各非アンカー位置を、(システインを除く)全ての他の天然アミノ酸に置換した。結合は、標的複合体および対照複合体に対してノーマライズされている。
【
図24】PHOX2B(43-51)Xスキャンペプチドのクローン1114 scFvとの結合。この図は、PHOX2B(43-51)標的ペプチドの単一残基バリアントが負荷された複合体との結合を示している、ビーズベースの結合アッセイを示す。各位置における置換に対するクローン1114の耐性を示すため、標的ペプチドの各非アンカー位置を、(システインを除く)他の全ての天然アミノ酸に置換した。結合は、標的複合体および対照複合体に対してノーマライズされている。
【
図25】sCRAP交差反応性アルゴリズム。
図25Aは、例えば、先制的に交差反応性を予測し、特異性についてスクリーニングするため、腫瘍抗原と類似の生物物理学的特性を有する、正常組織において提示されたペプチドを同定するために開発された交差反応性アルゴリズムを示す。
図25Bは、方法に記載されるペプチドスコアリング系の例示である。
図25Cは、正常プロテオームから提示されると予測された各ペプチド(合計92.4×10
6個の可能性のあるMHCペプチド)に対して腫瘍ペプチドをスコアリングする方法を説明するアルゴリズムワークフローの概略図である。結合親和性が、各正常ペプチドについて予測され、親遺伝子の最大遺伝子発現が、各ペプチドの全体スコアに考慮される。ペプチドは、正常組織イムノペプチドミクスデータベースに対して照会される。
【
図26】pMHC交差反応性アルゴリズムsCRAPはTITINを通したMAGE-A3の毒性を予測する。
図26Aは、MAGE-A3ペプチドEVDPIGHLY(SEQ ID NO:59)と交差反応性であると予測されたペプチドの上位の表であり、HLA-A
*01:01上に提示された1,143,861個の可能性のあるペプチドのうちの4位のTitinペプチドESDPIVAQY(SEQ ID NO:60)との交差反応性を明らかにしている。
図26Bは、TITINが心臓組織および筋組織において高度に発現されていることを示している。
【
図27】10LH BiTEのデータおよび構築物設計の模式図。IgGリーダーの後に、10LH scFv、GDDDDKSリンカーが存在し、その後に、OKT3(抗CD3)scFvおよび6×Hisタグが存在する。
【
図28】インビトロのHLA-A
*24:02発現細胞株のPHOX2B特異的二重特異性抗体によって媒介される細胞傷害。クローン10は、外来性PHOX2B標的ペプチド(白色バー)によって処理された、HLA-A
*24:02によって安定的にトランスフェクトされたK562細胞の特異的死滅を誘導するが、非関連ペプチド(黒色バー)またはDMSO陰性対照(灰色バー)によって処理された条件では誘導しないことが示されている。細胞傷害は、GFP発現標的細胞の喪失によって定量化された。
【
図29】インビトロのHLA-A
*24:02またはHLA-A
*23:01を発現する細胞株のPHOX2B特異的二重特異性抗体によって媒介される細胞傷害。
図29Aは、クローン10およびクローン302が、外来性PHOX2B標的ペプチド(白色バー)によって処理された、HLA-A
*24:02によって安定的にトランスフェクトされたK562細胞の特異的死滅を誘導するが、非関連ペプチド(黒色バー)またはDMSO陰性対照(灰色バー)によって処理された条件では誘導しないことを示している。
図29Bは、クローン302は、外来性PHOX2B標的ペプチド(白色バー)によって処理された、HLA-A
*23:01によって安定的にトランスフェクトされたK562細胞の特異的死滅を誘導せず、クローン10は、それを誘導するが、非関連ペプチド(黒色バー)またはDMSO陰性対照(灰色バー)によって処理された条件では誘導しないことを示している。細胞傷害は、GFP発現標的細胞の喪失によって定量化された。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞ベースのがん免疫治療の治癒可能性は、白血病においては確立されているが、固形腫瘍への適用は、既知の腫瘍特異的膜タンパク質の不足によって制限されている1,2。膜タンパク質はプロテオームの4分の1も占めているがこれらのうち、腫瘍細胞に特異的に発現され、正常組織に発現されないものは、極一部であり、腫瘍ホメオスタシスに必須のものの割合は、さらに少ない3。むしろ、がんドライバータンパク質の大部分は、細胞質または細胞核に存在し、主要組織適合複合体(MHC)上のペプチドの提示を通してのみ免疫系にアクセス可能となる。
【0026】
高度に多形性のヒト白血球抗原(HLA)A、B、およびCの遺伝子によってコードされるMHCクラスIタンパク質は、細胞内プロテオームのスナップショットを細胞表面上に提示し(イムノペプチドーム)、そこで、T細胞が、外来病原体に由来する抗原についてペプチド-MHC複合体(pMHC)を監視する4。変異由来pMHC(ネオアンチゲン)の非自己としてのT細胞認識は、免疫チェックポイント阻止を通して達成される治癒応答5および腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の養子移入を使用した完全寛解6の基礎である。にも関わらず、これらのネオアンチゲンのうち、所定のHLAアロタイプと結合すると予測されているのはわずか約5%であり7、ネオアンチゲンのうちのわずか1.6%が免疫原性であると報告されている8。サブクローン性変異および変異型非必須遺伝子のダウンレギュレーションは、治療的に関連性のあるネオアンチゲンのプールをさらに制限し、したがって、大部分のがんにおいて、効果的なネオアンチゲンベースの治療のための変異閾値(mutational threshold)を超えることはない9,10。腫瘍細胞は、MHC上に多数の非変異型自己ペプチドも提示するが11、これらの多くが、T細胞の負の胸腺選択のため、免疫原性的にサイレントである。本発明者らは、イムノペプチドームのサブセットが、必須腫瘍タンパク質に由来する腫瘍特異的ペプチドからなり、合成ペプチド中心キメラ抗原受容体(PC-CAR)を使用して、これらを標的とすることが可能であると仮定した。
【0027】
MHCの溝において提示されたペプチドは、細胞外pMHC分子表面の極一部しか構成しない。MHCクラスI上に提示された典型的な8~14残基長ペプチドは、pMHC複合体内のアミノ酸の約2~3%のみを構成し、MHCの溝の隣接するαヘリックスに空間的に閉じ込められており、したがって、ペプチド特異的な単鎖抗体可変断片(scFv)結合剤を作製することは非常に困難である12。さらに、正常組織において提示された生物物理学的に類似した分子表面を有するペプチドとの改変型受容体の交差反応性は、有意な毒性および死をもたらした13-15。
【0028】
ここで、本発明者らは、PHOX2BペプチドQYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)の、HLA-A*24:02との複合体のみならず、HLA-A*23:01およびHLA-B*14:02との複合体に対しても特異的であるPC-CARを使用した、神経芽細胞腫CRCマスター制御因子PHOX2Bの免疫治療的なターゲティングを提示する。本開示のこれらおよびその他の局面は、以下に詳細に示される。
【0029】
I.定義
他に定義されない限り、本明細書において使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。さらに、前後関係によって他のことが要求されない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。一般に、本明細書に記載される抗体および関連分子、細胞および組織の培養、分子生物学、ならびにタンパク質およびオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの化学およびハイブリダイゼーションに関連して利用される命名法、ならびにそれらの技術は、当技術分野において周知の、一般的に使用されているものである。
【0030】
組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、ならびに細胞の培養および形質転換(例えば、電気穿孔、リポフェクション)のため、標準的な技術が使用される。酵素反応および精製技術は、製造業者の仕様に従って、または当技術分野において一般的に達成されるように、または本明細書に記載されるように実施される。上記の技術および手法は、一般に、当技術分野において周知の従来の方法に従って、本明細書全体を通じて引用され記述される様々な全般的な参考文献およびより具体的な参考文献に記載されるように、実施される。例えば、B.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984);J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989);T.A.Brown(editor),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991);D.M.Glover and B.D.Hames(editors),DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1-4,IRL Press(1995 and 1996);およびF.M.Ausubel et al.(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988,including all updates until present);Ed Harlow and David Lane(editors)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory(1988);およびJ.E.Coligan et al.(editors)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(including all updates until present)を参照すること。
【0031】
本明細書における可変領域およびそれらの一部、免疫グロブリン、抗体、ならびにそれらの断片の記載および定義は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987 and 1991);Bork et al.,J Mol.Biol.242,309-320(1994);Chothia and Lesk J.Mol Biol.196:901-917(1987)、Chothia et al.Nature 342,877-883(1989)、および/またはAl-Lazikani et al.J Mol Biol 273,927-948(1997)における記述によって、さらに明らかにされ得る。
【0032】
本明細書において使用されるように、「PHOX2B」とは、以下に示されるUniprot ID Q99453に開示される配列として定義される:
。本発明の特許請求の範囲に記載された配列によって標的とされるPHOX2Bエピトープは、Uniprot ID Q99453の残基43~51を含み、以後、PHOX2B 43-51と呼ばれ得る。
【0033】
本明細書において使用されるように、「抗原結合部位」とは、抗原と結合することができる、または特異的に結合することができるタンパク質、例えば、抗体によって形成される構造を意味すると解釈されるものとする。抗原結合部位は、一連の連続したアミノ酸である必要はなく、単一ポリペプチド鎖内のアミノ酸である必要さえない。例えば、抗体由来の2本の異なるポリペプチド鎖を含むFvにおいて、抗原結合部位は、抗原と相互作用するが、一般に、各可変領域のCDRのうちの1個または複数個に必ずしも存在しない、VLおよびVHの一連のアミノ酸から構成される。いくつかの態様において、抗原結合部位は、抗体の抗原結合部位である。そのような態様において、抗原結合部位は、1個または複数個の相補性決定領域または「CDR」を含み得る。いくつかの態様において、抗体の抗原結合部位は、VHまたはVLまたはFvの一部を少なくとも含む。
【0034】
本明細書において使用されるように、「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、重鎖および軽鎖のポリペプチドの可変領域内に見出される抗原結合領域をさすために交換可能に使用される。一般に、抗体は、VHの各々に3個(CDR H1またはH1;CDR H2またはH2;およびCDR H3またはH3)、VLの各々に3個(CDR L1またはL1;CDR L2またはL2;およびCDR L3またはL3)のCDRを含む。
【0035】
本明細書において使用されるように、「可変領域」および「CDR」とは、当技術分野において公知の任意のアプローチ、例えば、アプローチの組み合わせによって定義される可変領域およびCDRをさし得る。具体的な態様によると、CDRは、Kabatら(前記)に従って決定される。
【0036】
本明細書において使用されるように、「結合」または「結合する」または「特異的に結合する」とは、抗体:抗原の結合様式をさし、それは、好ましくは、臨床的に関連性のある結合剤のケースにおいて、1μM未満または500nM未満のKDを意味する。本開示の結合剤は、高い親和性でPHOX2B:pMHC複合体と結合することができる。例えば、いくつかの態様において、結合剤は、約10-6M以下、例えば、1×10-6、10-7、10-8、10-9、10-10、10-11、10-12、10-13、または10-14の解離定数(KD)で、PHOX2B:pMHCと結合することができる。結合の特異性は、非標的タンパク質、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)を参照として決定される。いくつかの態様において、結合剤は、生理学的条件で測定された場合に、BSAに対する結合剤の解離定数より少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、2000倍、5000倍、104倍、105倍、または106倍低い解離定数(KD)で、PHOX2B:pMHC複合体と結合する。いくつかのケースにおいて、特異性は、非標的ペプチドが負荷されたMHCまたは空のMHCとの結合剤の結合を測定することによって決定される。いくつかのケースにおいて、特異性は、単独の標的ペプチドまたは異なるアロタイプのMHCに負荷された標的ペプチドとの結合剤の結合を測定することによって決定される。本開示の具体的な態様において、結合剤は、MHC拘束性であり、即ち、結合剤は、他の対立遺伝子バリアントに由来するMHCに対する結合剤の解離定数より少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、2000倍、5000倍、104倍、105倍、または106倍低い解離定数(KD)で、選択された対立遺伝子バリアントを表すMHC(例えば、HLA-A*24:02)に負荷された標的ペプチド(例えば、PHOX2Bペプチド)と特異的に結合する。
【0037】
本明細書において使用されるように、「キメラ抗原受容体(CAR)」という語句は、特定の抗原に対して細胞性免疫活性を示すキメラタンパク質を生成するため、所望の抗原に対する抗体ベースの特異性を、T細胞受容体を活性化する細胞内ドメインと組み合わせた、組換え分子または合成分子をさす。
【0038】
本明細書において使用されるように、「T細胞受容体」または「TCR」という語句は、可溶型および非可溶型の組換えT細胞受容体をさす。
【0039】
本明細書において使用されるように、「T細胞受容体(TCR)融合タンパク質」または「TFP」は、一般に、(i)標的細胞上の表面抗原と結合することができ、(ii)典型的には、T細胞またはT細胞表面に同時に位置する場合に、インタクトなTCR複合体の他のポリペプチド構成要素と相互作用することができる、TCRを含む様々なポリペプチドに由来する組換えポリペプチドを含む。
【0040】
本明細書において使用されるように、「T細胞受容体様抗体」または「TCRL」とは、HLA拘束性ペプチド抗原を提示するMHCと結合する抗体をさす。TCRLの標的との結合は、典型的には、MHC拘束性の特異性を有し:TCRLは、複合体化されたペプチドの非存在下ではMHCと結合せず、TCRLは、MHCの非存在下ではペプチドと結合しない。TCRLは、TCRLが膜結合型ではなく可溶型で提供された時でさえ、腫瘍抗原との特異的結合を可能にするのに十分な親和性を特徴とする。TCRLは、腫瘍細胞を標的とし、その特異的な死滅を媒介するための新しい治療クラスとして開発中である。さらに、TCRLは、ヒトクラスIペプチド-MHCリガンド提示およびTCR-ペプチド-MHC相互作用の研究を可能にする貴重な研究用試薬である。一態様において、本開示の結合剤は、TCRLである。
【0041】
本明細書において使用されるように、「MHC(またはHLA)拘束性ペプチド」という語句は、MHC分子上に提示される可能性のあるペプチドをさす。そのようなペプチドは、質量分析、リバースイムノロジー(reverse-immunology)、またはインシリコ分析などの実験手法によって同定され得る。MHC(またはHLA)によって提示されるペプチドとは、MHC分子によって提示されることがインビトロまたはインビボで確認されているペプチドをさす。
【0042】
「がん」という用語は、本明細書において使用されるように、異常細胞の急速な調節されない成長を特徴とする疾患として定義される。がん細胞は、局所的に、または血流およびリンパ系を通って身体の他の部分に蔓延し得る。
【0043】
「化合物」とは、低分子、ポリペプチド、およびその他の高分子を含む任意の分子をさす。いくつかの態様において、化合物は、約2000ダルトン未満の分子量を有する低分子量化合物である。
【0044】
ある対象物に適用される「天然に存在する」(または「ネイティブの」)という用語は、本明細書において使用されるように、その対象物が自然界に見出され得るという事実をさす。例えば、自然界の起源から単離され得る、(ウイルスを含む)生物に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチドの配列であって、実験室で人間によって、またはその他の方法で意図的に修飾されていないものは、天然に存在するものである。
【0045】
「機能的に連結された」という用語は、本明細書において使用されるように、意図された様式で機能することを可能にする関係にある、そのように記載された構成要素の位置をさす。例えば、コード配列に「機能的に連結された」調節配列は、そのコード配列の発現が、その調節配列と適合性の条件で達成されるよう、接続されている。
【0046】
「タンパク質」という用語は、単一のポリペプチド鎖、即ち、ペプチド結合によって連結された一連の連続したアミノ酸、または共有結合的もしくは非共有結合的に互いに連結された一連のポリペプチド鎖(即ち、ポリペプチド複合体)を含むと解釈されるものとする。例えば、一連のポリペプチド鎖は、例えば、適当な化学的リンカーまたはジスルフィド結合を使用して共有結合的に連結されていてよい。非共有結合性の結合の例には、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、および疎水性相互作用が含まれる。
【0047】
「ポリペプチド」または「ポリペプチド鎖」という用語は、ペプチド結合によって連結された一連の連続したアミノ酸を意味することが、上記の段落から理解されるであろう。
【0048】
「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書において言及されるように、ヌクレオチド、リボヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチドのいずれか、またはいずれかの型のヌクレオチドの修飾型の少なくとも10塩基長の重合体、またはRNA-DNAヘテロ二重鎖を意味する。この用語には、一本鎖型および二本鎖型のDNAが含まれる。
【0049】
「配列同一性」という用語は、2種のポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列が、比較ウインドウにおいて(即ち、ヌクレオチド対ヌクレオチドまたは残基対残基のベースで)同一であることを意味する。「配列同一性のパーセンテージ」という用語は、比較のウインドウにおいて最適に整列化された2種の配列を比較し、両方の配列に同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U、もしくはI)またはアミノ酸残基が存在する位置の数を決定して、一致する位置の数を得、一致する位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数(即ち、ウインドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けて、配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。「実質的同一性」という用語は、本明細書において使用されるように、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸が、少なくとも18ヌクレオチド(6アミノ酸)位置の比較ウインドウにおいて、多くの場合、少なくとも24~48ヌクレオチド(8~16アミノ酸)位置のウインドウにおいて、参照配列と比較して、少なくとも85パーセントの配列同一性、好ましくは、少なくとも90~95パーセントの配列同一性、より好ましくは、少なくとも99パーセントの配列同一性を有する配列を含む、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の特徴を意味し、ここで、配列同一性のパーセンテージは、比較ウインドウにおいて、参照配列の20パーセント以下を占める欠失または付加を含み得る配列と、参照配列を比較することによって計算される。参照配列は、より大きい配列のサブセットであってもよい。
【0050】
本明細書において使用されるように、20種の従来のアミノ酸およびそれらの略語は、従来の使用法に従う。Immunology-A Synthesis(2nd Edition,E.S.Golub and D.R.Gren,Eds.,Sinauer Associates,Sunderland,Mass.(1991))を参照すること。
【0051】
「エピトープ」という用語には、免疫グロブリンまたはT細胞受容体と特異的に結合することができる任意のタンパク質決定基が含まれる。エピトープ決定基は、一般的には、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学活性表面基からなり、特異的な三次元構造特徴および特異的な電荷特徴を有し得るが、必ずしもそうではない。
【0052】
「薬剤」という用語は、化合物、化合物の混合物、生物学的高分子、または生物学的材料から作られた抽出物を意味するために、本明細書において使用される。
【0053】
本明細書において言及される全ての刊行物および特許は、個々の刊行物または特許が各々参照により組み入れられると具体的に個々に示されたかのごとく、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。矛盾するケースにおいては、本明細書における定義を含む本願が優先される。しかしながら、本明細書において引用された参考文献、論文、刊行物、特許、特許公報、および特許出願の言及は、それらが有効な先行技術を構成すること、または世界のいずれかの国における共通の一般的な知識の一部を形成することの承認または何らかの形の示唆ではなく、そのように解釈されるべきではない。
【0054】
本明細書において、任意の濃度の範囲、パーセンテージの範囲、比率の範囲、または整数の範囲は、他に示されない限り、記載された範囲に含まれる任意の整数の値を含み、適宜、その分数(例えば、ある整数の10分の1および100分の1)も含むと理解されるべきである。「約」という用語は、数または数字の直前にある場合、その数または数字が±10%の範囲であることを意味する。「a」および「an」という用語は、本明細書において使用されるように、他に示されない限り、列挙された構成要素の「1つまたは複数」をさすことが理解されるべきである。選択肢(例えば、「または」)の使用は、選択肢の一方、両方、またはそれらの任意の組み合わせのいずれかを意味すると理解されるべきである。「および/または」という用語は、選択肢の一方または両方のいずれかを意味すると理解されるべきである。本明細書において使用されるように、「含む(include)」および「含む(comprise)」という用語は、同義的に使用される。
【0055】
本明細書において使用されるセクションの見出しは、編成のみを目的としており、記載された主題を限定するものと解釈されるべきではない。
【0056】
III.結合剤
「結合剤」という用語は、本明細書において使用されるように、PHOX2B:HLA複合体と結合することができる任意の分子をさす。具体的には、結合剤は、配列QYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)を含むPHOX2B:HLA複合体と結合することができる。いくつかの態様において、結合剤は、ポリペプチドであるか、またはポリペプチドを含む。いくつかの態様において、本開示の結合剤は、提供された配列およびそれらのバリアントを含む。本開示は、具体的には、PHOX2B:HLA複合体に対する結合親和性が維持される限り、本明細書に開示される構築物の全長可変領域に対して少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、もしくは95%の配列同一性、またはさらには少なくとも96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有する結合剤を企図する。いくつかの態様において、本開示の結合剤には、単鎖可変断片(scFv)配列をポリG/Sリンカーでそれぞれ軽鎖および重鎖に分割することによって得られる二量体型結合剤がさらに含まれ、そのような二量体型結合剤の相同体またはバリアントも含まれる。任意で、PHOX2B:HLA複合体との結合の特異性または親和性は、維持されるか、またはさらには改善される。具体的な態様において、結合剤は、結合を維持するか、または改善する、本開示の3個の重鎖CDR配列および3個の軽鎖CDR配列をそれぞれ含む重鎖および軽鎖を含む。本開示の態様において、結合剤は、抗体もしくはその抗原結合断片、可溶性である人工タンパク質(例えば、二重特異性抗体)、または膜結合型の人工タンパク質(例えば、キメラ抗体受容体もしくはTCR融合タンパク質)である。
【0057】
β鎖を接続するループを通して標的接触表面(相補性決定領域またはCDR)が作出される、免疫グロブリン(Ig)可変ドメインに由来する結合剤については、標的に対する結合活性が、関連Igドメイン(例えば、他のヒトIgファミリーメンバー)またはさらには非Ig βシート足場に、CDRループの移植を通して、転移可能であり得る。これは、具体的には、標的との複合体としての結合剤の構造が、VLドメインおよびVHドメインの組み合わせの6個のCDRのうちの1個または少数が主に結合に寄与していることを示す場合に当てはまる。本開示は、具体的には、PHOX2B:HLA複合体との結合親和性が機能的に維持される限り、本明細書に開示される構築物の単一のCDR領域に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%の配列同一性を有する結合剤を企図する。CDR移植は、免疫原性を低下させるため、非ヒト宿主に由来する抗体に由来するCDRループがヒトIg足場に移植される、抗体の「ヒト化」のために広範に使用されている。治療的に使用するために認可されている多くの抗体は、マウス抗体からヒト足場へのCDR移植を通してヒト化されている。抗体足場から非Ig代替足場にCDRループを移植する例も報告されている(Nicaise M.,et al.Protein Sci 13:1882-1891(2004);Petrovskaya LE,et al.Biochemistry(Mosc)77:62-70(2012);Pacheco et al.Protein Eng Des Sel 27:431-438(2014))。
【0058】
酵素結合免疫吸着(ELISA)アッセイおよび表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを含む、標的に対する結合剤のKDを決定する様々な手段が公知である。いくつかのケースにおいて、結合の親和性および特異性は、Sultana A.Lee J.Curr Protoc Protein Sci,79:19.25.1-19.25.26(2015)に記載されているような、例えば、Pall ForteBio BLItz(登録商標)系による、光干渉法によって決定される。結合剤の親和性は、可溶型の結合剤を使用して、または膜結合型、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)もしくはT細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)を使用して測定され得る。逆に、pMHC複合体は、可溶型で、またはネイティブの細胞膜に結合した状態で試験され得る。
【0059】
A.抗体
いくつかの態様において、結合剤は、抗体または抗体断片である。本開示のいくつかの態様を実施するための適当な抗体断片は、(本明細書において「軽鎖」と呼ばれる)免疫グロブリン軽鎖の1~3個の相補性決定領域(CDR)と、(本明細書において「重鎖」と呼ばれる)免疫グロブリン重鎖の1~3個のCDRとを含む。任意で、結合剤は、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域、軽鎖、または重鎖を含む。
【0060】
可変領域またはCDRを構成する特定の抗体のアミノ酸残基の同一性は、当技術分野において周知の方法を使用して決定され得、それらの方法には、例えば、Kabatらによって定義された配列可変性(例えば、Kabat et al.,1992 Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,NIH,Washington D.C.を参照すること)、Chothiaらによって定義された構造ループ領域の位置(例えば、Chothia et al.,Nature 342:877-883(1989)を参照すること)、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェア(現在はAccelrys(登録商標)、Martin et al.Proc Natl Acad Sci USA.86:9268(1989);およびワールドワイドウェブサイトwww.bioinf-org.uk/absを参照すること)を使用したKabatとChothiaとの折衷、接触定義によって定義される利用可能な複合体結晶構造(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996)を参照すること)、「コンフォメーション的定義」(例えば、Makabe et al.,Journal of Biological Chemistry,283:1156-1166(2008)を参照すること)、ならびにIMGT法(Lefranc MP,et al.IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains Dev Comp Immunol 27:55-77(2003))が含まれる。
【0061】
ある態様において、結合剤は、軽鎖および重鎖の両方の可変領域の全体または本質的に全体を含む機能性抗体断片であり、以下に定義されるものを含むが、これらに限定されるわけではない:(i)2本の鎖として発現された軽鎖の可変領域(VL)および重鎖の可変領域(VH)からなる断片として定義されるFv;(ii)遺伝子融合単鎖分子として、適当なポリペプチドリンカーによって連結された、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とを含む遺伝子改変型単鎖分子である、単鎖可変断片または単鎖Fv(「scFv」);(iii)遺伝子改変型ジスルフィド結合によって連結された軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とを含む遺伝子改変型抗体である、ジスルフィドによって安定化されたFv(「dsFv」);(iv)インタクトな軽鎖と、可変ドメインおよびCH1ドメインからなる重鎖のFd断片とを与えるため、完全抗体を酵素パパインによって処理することによって入手され得る、抗体分子の1価抗原結合部分を含有する抗体分子の断片である、Fab;(v)完全抗体を酵素ペプシンによって処理し、その後、還元することによって入手され得る(1抗体分子当たり2個のFab'断片が入手される)、抗体分子の1価抗原結合部分を含有する抗体分子の断片である、Fab';(vi)完全抗体を酵素ペプシンによって処理することによって入手され得る、抗体分子の1価抗原結合部分を含有する抗体分子の断片である、F(ab')2(即ち、2個のジスルフィド結合によって接合されたFab'断片の二量体);ならびに(vii)抗原に対して十分な親和性を示す単一のVHドメインまたはVLドメインから構成されるシングルドメイン抗体またはナノボディ。
【0062】
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体ならびにそれらの断片を作製する方法は、当技術分野において周知である(例えば、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1988を参照すること)。
【0063】
本開示のいくつかの態様による抗体断片は、抗体のタンパク質加水分解によって、または断片をコードするDNAの大腸菌(E.coli)細胞もしくは哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養系もしくはその他のタンパク質発現系)における発現によって調製され得る。抗体断片は、従来の方法による完全抗体のペプシン消化またはパパイン消化によって入手され得る。例えば、抗体断片は、F(ab')2と表示される5S断片を提供する、ペプシンによる抗体の酵素的切断によって作製され得る。この断片は、3.5S Fab'一価断片を作製するため、チオール還元剤を使用して、任意で、ジスルフィド結合の切断から生じるスルフヒドリル基のブロッキング基も使用して、さらに切断され得る。あるいは、ペプシンを使用した酵素的切断は、2個の一価Fab'断片およびFc断片を直接作製する。これらの方法は、例えば、Goldenbergの米国特許第4,036,945号および第4,331,647号ならびにそれらに含有される参考文献に記載されている。Porter,R.R.,Biochem J.73:119-126(1959)も参照すること。抗体を切断するその他の方法、例えば、一価軽鎖-重鎖断片が形成される重鎖の分離、断片のさらなる切断、またはその他の酵素的、化学的、もしくは遺伝学的な技術も、それらの断片が、インタクトな抗体によって認識される抗原と結合する限り、使用され得る。
【0064】
結合剤が抗体である態様において、本開示の抗体の重鎖および軽鎖は、全長であり得る(例えば、抗体は、少なくとも1本、好ましくは、2本の完全な重鎖と、少なくとも1本または2本の完全な軽鎖とを含み得る)。いくつかの態様において、抗体重鎖定常領域は、例えば、IgGl、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、およびIgEより選択される。いくつかの態様において、免疫グロブリンアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4より選択され、より具体的には、IgG1(例えば、ヒトIgG1)またはIgG4(例えば、ヒトIgG4)である。抗体の型の選択は、抗体が誘発するよう設計された免疫エフェクター機能に依存する。一態様において、結合剤は、抗体依存性細胞傷害を誘発する。一態様において、結合剤は、補体依存性細胞傷害を誘発する。
【0065】
抗体の二重特異性構成も、本明細書において企図される。二重特異性モノクローナル抗体(BsMAb、BsAb)は、2種の異なるモノクローナル抗体の断片から構成され、したがって、2種の異なる型の抗原と結合する、人工的なタンパク質またはタンパク質複合体である。具体的な態様によると、BsMAbは、同時に、(例えば、CD3などの受容体を使用して)エフェクター細胞と結合し、破壊すべき腫瘍細胞などの標的とも結合するよう改変される。二重特異性抗体のCD3陽性エフェクター細胞とのエンゲージメントを指図するために使用される、当技術分野において公知の抗CD3抗体には、SP-34(Pessano et al.,EMBO J(1985)4:337-344)、OKT3(Kung et al.,Science(1979)206:347-349)、UCHT1(Beverley PCL,Callard RE Eur J Immunol(1981)11:329)、12F6(Wong JT and Colvin RB,J Immunol(1987)139:1369-1374)、および全てのヒト化かつ/または親和性改変型バリアント(例えば、Shalaby et al.,J Exp Med(1992)175:217-225)が含まれる。その他の親和性足場(affinity scaffolds)、例えば、VHHドメインも、CD3結合を改変するために使用され得る(例えば、WO/2015/095412)。その他の構成、例えば、三重特異性抗体または四重特異性抗体も企図される。
【0066】
B.単鎖可変断片(scFv)
Fv断片は、VH鎖とVL鎖との会合を含む。Inbar et al.Proc Natl Acad.Sci.USA 69:2659-62(1972)に記載されているように、この会合は、非共有結合性であり得る。あるいは、可変鎖は、分子間ジスルフィド結合によって連結されていてもよいし、またはグルタルアルデヒドなどの化学物質によって架橋されていてもよい。好ましくは、Fv断片は、ペプチドリンカーによって接続されたVH鎖およびVL鎖を含む。これらの単鎖抗原結合タンパク質(scFv)は、オリゴヌクレオチドによって接続されたVHドメインおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって調製される。構造遺伝子は、発現ベクターに挿入され、その後、それが、大腸菌などの宿主細胞に導入される。組換え宿主細胞は、2個のVドメインを架橋するリンカーペプチドを含む単一のポリペプチド鎖を合成する。scFvを作製する方法は、例えば、Whitlow and Filpula,Methods 2:97-105(1991);Bird et al.,Science 242:423-426(1988);Pack et al.,Bio/Technology 11:1271-77(1993);米国特許第4,946,778号によって記載されている。得られたポリペプチドは、2個の可変ドメインの間の可動性リンカーの長さによって、それ自体、折り返されて、抗原結合単量体を形成してもよいし、または多量体(例えば、二量体、三量体、もしくは四量体)を形成してもよい(Kortt et al.,Prot Eng 10:423(1997);Kortt et al,Biomol Eng 18:95-108(2001))。異なるVLおよびVHを含むポリペプチドを組み合わせることによって、異なるエピトープと結合する多量体型scFvが形成され得る(Kriangkum et al.,(2001)Biomol.Eng.18:31-40)。単鎖抗体の作製のために開発された技術には、米国特許第4,946,778号; Bird,Science 242:423(1988);Huston et al.Proc Natl Acad Sci USA 85:5879(1988);Ward et al.Nature 334:544(1989)、de Graaf et al.Methods Mol Biol.178:379-87(2002)に記載されたものが含まれる。本明細書において提供される結合に由来する単鎖抗体には、本明細書に開示される1個もしくは複数個の可変ドメイン配列、または1個もしくは複数個の可変ドメイン配列に由来する1個もしくは複数個のCDR配列を含むscFvが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0067】
C.キメラ抗原受容体(CAR)およびTCR融合タンパク質(TFP)
キメラ抗原受容体(CAR)は、抗原認識部分とT細胞活性化ドメインとを含む融合タンパク質である。例示的なCARは、米国特許第8,399,645号および米国特許第7,638,325号によって提供される。その他の例示的な組換え受容体、例えば、CAR、組換えT細胞受容体(TCR)、TCR融合タンパク質(TFP)、およびそれらの受容体を作製し、細胞に導入する方法には、国際特許出願番号WO2017/096329、WO2000/14257、WO2013/126726、WO2012/129514、WO2014031687、WO2013/166321、およびWO2013/071154、WO2013/123061、およびWO/2014055668;米国特許出願番号US2002131960、US2013287748、およびUS20130149337;米国特許第6,451,995号、第7,446,190号、第7,638,325号、第8,252,592号、第8,339,645号、第8,398,282号、第7,446,179号、第6,410,319号、第7,070,995号、第7,265,209号、第7,354,762号、第7,446,191号、第8,324,353号、および第8,479,118号;欧州特許出願番号EP2537416;ならびにSadelain et al.Cancer Discov.April 3(4):388-398(2013);Davila et al.PLoS ONE 8(4):e61338(2013);Turtle et al.Curr.Opin.Immunol.October 24(5):633-39(2012);およびWu et al.Cancer,March 18(2):160-75(2012)に記載されているものが含まれる。一態様において、結合剤は、米国特許第15/419,398号に記載されているTFPである。
【0068】
D.アミノ酸置換
本明細書において記述されるように、結合剤のアミノ酸配列の軽微な変動は、PHOX2B:HLA複合体との結合親和性が機能的に維持される限り、そのアミノ酸配列の変動が、本明細書に開示される構築物の可変ドメインに対して少なくとも75%、より好ましくは、少なくとも80%、90%、95%、最も好ましくは、99%の配列同一性を維持するか、または単一のCDR領域に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%の配列同一性を維持することを条件として、本開示に包含されるものとして企図される。例えば、結合剤は、本明細書に提供されるCDR配列に対して1個または複数個のアミノ酸置換を含んでもよい。結合剤は、フレームワーク領域に1個または複数個のアミノ酸置換を含んでもよい。いくつかの態様において、結合剤は、本明細書に提供されるCDRアミノ酸配列のうちの1つまたは複数に対して、2個以下のアミノ酸置換をCDR-L1に、2個以下のアミノ酸置換をCDR-L2に、3個以下のアミノ酸置換をCDR-L3に、2個以下のアミノ酸置換をCDR-H1に、2個以下のアミノ酸置換をCDR-H2に、または4個以下のアミノ酸置換をCDR-H3に有してもよい。いくつかの態様において、結合剤は、フレームワーク領域にアミノ酸置換を含む。例えば、当業者が理解するように、例えば、結合親和性を変更するため(例えば、親和性成熟)、タンパク質分解もしくは酸化に対する感受性を低下させるため、または結合剤のその他の物理化学的もしくは機能的な特性を付与するか、もしくは修飾するため、本明細書に記載される結合剤のうちのいずれか1つにおけるアミノ酸配列を変更するために、ルーチンの部位特異的またはランダムな変異誘発技術が実施され得る。
【0069】
いくつかの態様において、アミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換である。保存的置換とは、関連する側鎖を有するアミノ酸のファミリー内で起こる置換である。遺伝子によってコードされるアミノ酸は、一般に、以下のファミリーに分類される:(1)酸性=アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性=リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)非荷電極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン。より具体的なファミリーは、以下の通りである:セリンおよびスレオニンは、脂肪族ヒドロキシファミリーであり;アスパラギンおよびグルタミンは、アミド含有ファミリーであり;アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンは、脂肪族ファミリーであり;フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、芳香族ファミリーである。例えば、ロイシンとイソロイシンもしくはバリン、アスパラギン酸とグルタミン酸、スレオニンとセリンの単発的な置換、または構造的に関連するアミノ酸同士の類似の置換は、特に、その置換がフレームワーク部位内のアミノ酸を含まない場合、得られる分子の結合機能または特性に大きい影響を与えないと予想することが合理的である。保存的アミノ酸置換の例は、以下の表1に提供される。
【0070】
【0071】
本開示は、結合剤が依然としてHLA-A*24:02/PHOX2B複合体、HLA-A*23:01/PHOX2B複合体、またはHLA-B*14:02/PHOX2B複合体と特異的に結合し得ることを条件として、本開示の結合剤における非保存的アミノ酸置換も企図する。したがって、いくつかの態様において、アミノ酸置換は、非保存的アミノ酸置換である。
【0072】
アミノ酸変化が機能性ペプチドをもたらすか否かは、ポリペプチド誘導体の特異的活性をアッセイすることによって容易に決定され得る。アッセイは、本明細書に詳細に記載される。抗体または免疫グロブリン分子の断片または類似体は、当業者によって容易に調製され得る。断片または類似体の特定のアミノ末端およびカルボキシ末端は、機能ドメインの境界付近に存在する。構造ドメインおよび機能ドメインは、ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の配列データを、公のまたは専有の配列データベースと比較することによって同定され得る。好ましくは、コンピュータ化された比較法が、既知の構造および/または機能を有する他のタンパク質に存在する配列モチーフまたは予測タンパク質コンフォメーションドメインを同定するために使用される。公知の三次元構造に折り畳まれるタンパク質配列を同定する方法は、公知である(例えば、Bowie et al.,Science 253:164(1991)または86)。したがって、上記の例は、当業者が、本明細書に記載される抗体によって、構造ドメインおよび機能ドメインを定義するために使用され得る、配列モチーフおよび構造コンフォメーションを認識し得ることを示している。
【0073】
具体的なアミノ酸置換は、(1)タンパク質分解に対する感受性を低下させるもの、(2)酸化に対する感受性を低下させるもの、(3)結合親和性を変更するもの、および(4)そのような類似体のその他の物理化学的または機能的な特性を付与するか、または修飾するものである。類似体には、天然に存在するペプチド配列以外の配列の様々なムテインが含まれ得る。例えば、単一または複数のアミノ酸置換(好ましくは、保存的アミノ酸置換)は、天然に存在する配列(好ましくは、分子間接触部を形成するドメイン以外のポリペプチドの部分)においてなされ得る。保存的アミノ酸置換は、親配列の構造的特徴を実質的に変化させるべきではない(例えば、置換アミノ酸は、親配列に存在するヘリックスを破壊するか、または親配列を特徴付けるその他の型の二次構造を妨害する傾向を有するべきではない)。当技術分野において認められているポリペプチドの二次構造および三次構造の例は、Proteins,Structures and Molecular Principles(Creighton,Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1984));Introduction to Protein Structure(C.Branden and J.Tooze,eds.,Garland Publishing,New York,N.Y.(1991);およびThornton et al.Nature 354:105(1991)に記載されている。
【0074】
例えば、結合親和性を改善するため、CDRにアミノ酸置換を導入するためのルーチンの技術が使用され得る。そのような置換は、CDR「ホットスポット」、即ち、体細胞成熟過程で高頻度に変異を受けるコドンによってコードされた残基(例えば、Chowdhury,Methods Mol.Biol.207:179-196(2008)を参照すること)、および/または抗原と接触する残基においてなされ、得られたバリアントが、結合親和性について試験される。あるいは、または、さらに、親和性成熟が実施されてもよい。二次ライブラリの構築およびそこからの再選択による親和性成熟は、例えば、Hoogenboom et al.,Methods in Molecular Biology 178:1-37(O'Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,NJ,(2001))に記載されている。親和性成熟のいくつかの態様において、多様な方法のうちの任意のもの(例えば、エラープローンPCR、チェーンシャフリング、またはオリゴヌクレオチド特異的変異誘発)によって、成熟のために選択された可変領域コード配列に、多様性が導入される。次いで、二次ライブラリが作出される。次いで、所望の親和性を有するバリアントを同定するため、ライブラリがスクリーニングされる。多様性を導入するもう1つの方法には、いくつかのCDR残基(例えば、一度に4~6残基)をランダム化するCDR特異的アプローチが含まれる。抗原結合に関与するCDR残基は、例えば、以下に記載されるアラニンスキャニング変異誘発、またはモデリングを使用して、特異的に同定され得る。具体的には、CDR-H3およびCDR-L3が、ランダム変異誘発および親和性成熟のために使用され得る。
【0075】
ある特定の態様において、置換、挿入、または欠失は、そのような変更が、HLA-A*24:02/PHOX2B複合体、HLA-A*23:01/PHOX2B複合体、またはHLA-B*14:02/PHOX2B複合体と結合する結合剤の能力を実質的に低下させない限り、1個または複数個のCDRにおいて起こり得る。いくつかの態様において、アミノ酸置換を含む結合剤は、置換を含まない結合剤と類似の親和性で、HLA-A*24:02/PHOX2B複合体、HLA-A*23:01/PHOX2B複合体、またはHLA-A*24:02/PHOX2B複合体、HLA-A*23:01/PHOX2B複合体、またはHLA-B*14:02/PHOX2B複合体と結合する。そのような置換は、例えば、CDR内の抗原接触残基以外にあってよい。いくつかの態様において、アミノ酸置換を含む結合剤は、置換を含まない結合剤より高い親和性で、HLA-A*24:02/PHOX2B複合体、HLA-A*23:01/PHOX2B複合体、またはHLA-B*14:02/PHOX2B複合体と結合する。いくつかの態様において、アミノ酸置換を含む結合剤は、置換を含まない結合剤より低い親和性で、HLA-A*24:02/PHOX2B複合体、HLA-A*23:01/PHOX2B複合体、またはHLA-B*14:02/PHOX2B複合体と結合する。ある特定の態様において、各CDRは、変更されていないか、または1個、2個、3個、もしくは4個を超えないアミノ酸置換を含有する。いくつかの態様において、置換は、保存的置換である。
【0076】
Cunningham,Science 244:1081-1085(1989)によって記載されている、変異誘発の標的となり得る結合剤の残基または領域の同定のための有用な方法は、「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれる。この方法においては、結合剤とその抗原との相互作用が影響を受けるか否かを決定するため、標的残基の残基または群(例えば、Arg、Asp、His、Lys、およびGluなどの荷電残基)が同定され、アラニンなどの中性アミノ酸に置換される。一次置換に対して機能的感受性を示したアミノ酸位置に、さらなる置換が導入され得る。あるいは、または、さらに、結合剤と抗原との間の接触点を同定するため、抗原結合剤複合体の結晶構造が使用され得る。そのような接触残基および隣接する残基は、置換の候補として、標的とされてもよいし、または排除されてもよい。バリアントは、所望の特性を含有するか否かを決定するため、スクリーニングされ得る。
【0077】
IV.核酸
本開示の一局面によると、本明細書に記載される結合剤をコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドも、提供される。シス作用性調節要素に機能的に連結されたポリヌクレオチドを含む発現ベクターも、提供される。本開示のいくつかの態様の発現ベクターは、このベクターが、(例えば、シャトルベクターとして)原核生物、真核生物、または、好ましくは、両方における複製および組み込みに適したものになるようにする付加的な配列を含む。さらに、典型的なクローニングベクターは、転写および翻訳の開始配列、転写および翻訳のターミネーター、ならびにポリアデニル化シグナルも含有し得る。例えば、そのような構築物は、典型的には、5'LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、第二鎖DNA合成の開始点、および3'LTR、またはそれらの一部分を含む。
【0078】
本開示のいくつかの態様の核酸構築物は、結合剤が置かれている宿主細胞からの結合剤の分泌または提示のためのシグナル配列を含む。好ましくは、この目的のためのシグナル配列は、哺乳動物シグナル配列である。
【0079】
真核生物プロモーターは、典型的には、TATAボックスおよび上流プロモーター要素という2つの型の認識配列を含有する。転写開始部位の25~30塩基対上流に位置するTATAボックスは、RNAポリメラーゼによるRNA合成の開始の指図に関与していると考えられている。他の上流プロモーター要素は、転写が開始される速度を決定する。好ましくは、発現ベクターによって利用されるプロモーターは、形質転換された特定の細胞集団において活性を有する。細胞型特異的かつ/または組織特異的なプロモーターの例には、肝臓特異的なアルブミンなどのプロモーター(Pinkert et al.Genes Dev.1:268-277(1987))、リンパ系特異的プロモーター(Calame et al.Adv.Immunol.43:235-275(1988));具体的には、T細胞受容体(Winoto et al.EMBO J.8:729-733(1989))および免疫グロブリン(Banerji et al.Cell 33:729-740(1983))のプロモーター;ニューロン特異的プロモーター、例えば、ニューロフィラメントプロモーター(Byrne et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5473-5477(1989))、膵臓特異的プロモーター(Edlunch et al.Science 230:912-916(1985))、または乳腺特異的プロモーター、例えば、乳清プロモーター(米国特許第4,873,316号および欧州出願公開番号EP0264166)が含まれる。発現ベクターの構築において、プロモーターは、好ましくは、その天然の状況における転写開始部位からの距離とほぼ同じ、異種転写開始部位からの距離に位置付けられる。しかしながら、当技術分野において公知であるように、この距離のいくらかの変動は、プロモーター機能の喪失なしに適応し得る。
【0080】
エンハンサー要素は、連結された同属プロモーターまたは異種プロモーターから、最大1,000倍の転写を刺激することができる。エンハンサーは、転写開始部位の下流または上流に位置する場合、活性を有する。ウイルス由来の多くのエンハンサー要素は、広い宿主範囲を有し、多様な組織において活性を有する。例えば、SV40初期遺伝子エンハンサーは、多くの細胞型に適している。本開示のいくつかの態様に適した他のエンハンサー/プロモーターの組み合わせには、ポリオーマウイルス、ヒトまたはマウスサイトメガロウイルス(CMV)に由来するもの、様々なレトロウイルス、例えば、マウス白血病ウイルス、マウスまたはラウス肉腫ウイルス、およびHIVに由来する末端反復配列が含まれる。Enhancers and Eukaryotic Expression,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.1983を参照すること。
【0081】
ポリアデニル化配列も、TCRL mRNA翻訳の効率を増加させるため、発現ベクターに付加され得る。正確で効率的なポリアデニル化には、ポリアデニル化部位の下流に位置するGUリッチまたはUリッチな配列、および11~30ヌクレオチド上流に位置する6ヌクレオチドの高度に保存された配列AAUAAAという2種の異なる配列要素が必要とされる。本開示のいくつかの態様のために適している終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルには、SV40に由来するものが含まれる。
【0082】
既に記載された要素に加えて、本開示のいくつかの態様の発現ベクターは、クローニングされた核酸の発現のレベルを増加させるか、または組換えDNAを保持する細胞の同定を容易にすることを目的とした、その他の特殊な要素を含有してもよい。例えば、多数の動物ウイルスが、許容細胞型におけるウイルスゲノムの染色体外複製を促進するDNA配列を含有している。これらのウイルスレプリコンを保有するプラスミドは、プラスミドまたは宿主細胞のゲノムのいずれかに保持された遺伝子によって適切な因子が提供される限り、エピソームとして複製する。
【0083】
ベクターは、真核生物レプリコンを含んでもよいし、または含まなくてもよい。真核生物レプリコンが存在する場合、ベクターは、適切な選択可能マーカーを使用して、真核細胞において増幅可能である。ベクターが真核生物レプリコンを含まない場合、エピソームとしての増幅は不可能である。代わりに、組換えDNAは、改変された細胞のゲノムに組み込まれ、そこで、プロモーターが所望の核酸の発現を指図する。
【0084】
本明細書に記載されるポリヌクレオチド/発現ベクターを含む細胞も、提供される。そのような細胞は、典型的には、組換えタンパク質の高発現のために選択されるが(例えば、細菌細胞、植物細胞、または真核細胞、例えば、CHO細胞、HEK-293細胞)、例えば、養子細胞治療において使用される細胞に形質導入されたT細胞受容体またはCARにTCRLのCDRが移植されている場合には、特異的な免疫エフェクター活性を有する宿主細胞(例えば、T細胞またはNK細胞)であり得る。
【0085】
V.診断的適用
結合剤は、その高い特異性のため、具体的には、診断的適用および治療的適用に適している。本開示の一局面によると、関心対象のHLA拘束性ペプチド抗原を提示する細胞を検出する方法が、提供される。方法は、関心対象のHLA拘束性ペプチド抗原に対する特異性を有する本開示の結合剤(例えば、抗体)と細胞を接触させることを含む。接触は、免疫複合体の形成を可能にする条件で実施され、ここで、免疫複合体の存在またはそのレベルは、関心対象のHLA拘束性ペプチド抗原を提示する細胞の指標となる。
【0086】
「検出」という用語は、本明細書において使用されるように、細胞を検出し、知覚し、発見し、暴露し、可視化し、または同定する行為をさす。正確な検出方法は、抗体が付着している検出可能部分に依存する。
【0087】
単一の細胞が検出のために使用されてもよいし、複数の細胞が使用されてもよい。例えば、細胞は、任意の生物学的試料、例えば、細胞株、初代細胞(例えば、腫瘍培養物)、および細胞試料(例えば、外科的生検材料、例えば、切開生検材料または切除生検材料、穿刺吸引液等)に由来し得る。生検材料回収の方法は、当技術分野において周知である。上記の検出方法は、HLA-ペプチド複合体の正常を上回る提示または異なる組織分布を特徴とする疾患(例えば、がん)の診断のために活用され得る。
【0088】
本明細書において使用されるように、「診断」という用語は、疾患を分類し、疾患の重症度(悪性度または病期)を決定し、進行をモニタリングし、疾患の転帰および/または回復の見込みを予見することをさす。
【0089】
対象は、ルーチンの健康診断を受ける健常対象(例えば、ヒト)であり得る。あるいは、対象は、疾患のリスクを有していてもよい。この方法は、処置効力をモニタリングするために使用され得る。結合剤は、検出可能部分を含んでいてよく、即ち、結合剤は、検出可能部分に付着していてよい。あるいは、または、さらに、結合剤(またはそれを含む複合体)は、例えば、二次抗体を使用することによって、間接的に同定されてもよい。接触は、インビトロ(即ち、細胞株、初代細胞)、エクスビボ、またはインビボで実施され得る。
【0090】
VI.薬学的組成物、製剤、および投薬量
本開示による薬学的組成物、および本開示に従って使用するための薬学的組成物は、活性成分(即ち、結合剤)に加えて、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、または当業者に周知のその他の材料を含み得る。そのような材料は、無毒であるべきであり、活性成分の効力に干渉するべきではない。担体またはその他の材料の正確な性質は、経口であってもよいし、または注射、例えば、皮膚注射、皮下注射、もしくは静脈内注射によるものであってもよい投与経路に依存する。
【0091】
静脈内注射、皮膚注射、もしくは皮下注射、または患部への注射の場合、活性成分は、発熱物質を含まず、適当なpH、等張性、および安定性を有する非経口的に許容される水性溶液の形態である。当業者は、例えば、等張媒体、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液を使用して、適当な溶液を調製することが十分に可能である。必要に応じて、保存剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、および/またはその他の添加剤が含まれてもよい。
【0092】
1つの態様において、組成物は、本明細書に記載される結合剤と、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤とを含む薬学的組成物(例えば、製剤、調製物、医薬)である。
【0093】
1つの態様において、組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、佐剤、増量剤、緩衝剤、保存剤、抗酸化剤、滑沢剤、安定化剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば、湿潤剤)、マスキング剤、着色剤、風味剤、および甘味剤を含むが、これらに限定されるわけではない、当業者に周知の1種または複数種の他の薬学的に許容される成分と共に、本明細書に記載される少なくとも1種の結合剤を含む薬学的組成物である。
【0094】
1つの態様において、組成物は、他の活性剤、例えば、他の治療剤または予防剤をさらに含む。
【0095】
適当な担体、希釈剤、賦形剤等は、標準的な薬学参考書に見出され得る。例えば、Handbook of Pharmaceutical Additives,2nd Edition(eds.M.Ash and I.Ash)Synapse Information Resources,Inc.,Endicott,New York,USA(2001)、Remington's Pharmaceutical Sciences,20th edition,pub.Lippincott,Williams & Wilkins,(2000);およびHandbook of Pharmaceutical Excipients,2nd edition(1994)を参照すること。
【0096】
「薬学的に許容される」という用語は、本明細書において使用されるように、正当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激性、アレルギー応答、またはその他の問題もしくは合併症なしに、当該の対象(例えば、ヒト)の組織と接触して使用するために適当であり、合理的な利益/リスク比に相応の、化合物、成分、材料、組成物、剤形等に関する。各々の担体、希釈剤、賦形剤等は、製剤の他の成分と適合性であるという意味でも「許容される」ものでなければならない。
【0097】
製剤は、薬学分野において周知の任意の方法によって調製され得る。そのような方法は、活性化合物を、1つまたは複数の付属成分を構成する担体と会合させる工程を含む。一般に、製剤は、活性化合物を担体(例えば、液体担体、微粉砕された固体担体等)と均一かつ均質に会合させ、次いで、必要に応じて、生成物を成形することによって調製される。
【0098】
製剤は、速放もしくは徐放;即時放出、遅延放出、長期放出、もしくは持続放出;またはそれらの組み合わせを提供するために調製されてもよい。
【0099】
(例えば、注射による)非経口投与に適した製剤には、活性成分が溶解しているか、懸濁しているか、またはその他の方法で(例えば、リポソームもしくはその他の微粒子で)提供されている、水性または非水性の、等張の、発熱物質を含まない、無菌の液体(例えば、溶液、懸濁液)が含まれる。そのような液体は、他の薬学的に許容される成分、例えば、抗酸化剤、緩衝剤、保存剤、安定化剤、静菌剤、懸濁化剤、増粘剤、および製剤を意図された受容者の血液(またはその他の関連性のある体液)と等張にする溶質をさらに含有してもよい。賦形剤の例には、例えば、水、アルコール類、ポリオール類、グリセロール、植物油等が含まれる。そのような製剤において使用するために適当な等張性担体の例には、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、または乳酸加リンゲル注射液が含まれる。典型的には、液体中の活性成分の濃度は、約1ng/ml~約10μg/ml、例えば、約10ng/ml~約1μg/mlである。製剤は、ユニットドーズまたはマルチドーズの密封容器、例えば、アンプルおよびバイアルで提示され得、使用直前に、無菌の液体担体、例えば、注射用水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)条件で保存されてもよい。即時の注射溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒、および錠剤から調製され得る。
【0100】
結合剤、および結合剤を含む組成物の適切な投薬量は、患者毎に変動し得ることが、当業者によって理解されるであろう。最適投薬量の決定は、一般に、リスクまたは有害副作用に対する治療的利益のレベルのバランス調整を含む。選択される投薬量レベルは、具体的な化合物の活性、投与経路、投与時間、化合物の排泄速度、処置の期間、組み合わせて使用される他の薬物、化合物、および/または材料、状態の重症度、患者の人種、性別、年齢、体重、状態、全身健康状態、ならびに過去の病歴を含むが、これらに限定されるわけではない、多様な要因に依存する。結合剤の量および投与経路は、最終的には、医師、獣医師、または臨床家の裁量によるが、一般に、投薬量は、実質的な有毒または有害な副作用を引き起こすことなく、所望の効果を達成する、作用部位における局所濃度を達成するため、選択される。
【0101】
投与は、1用量で実施されてもよいし、処置の過程で、継続的または断続的に(例えば、適切な間隔で、分割された用量で)実施されてもよい。投与の最も有効な手段および投薬量を決定する方法は、当業者に周知であり、治療のために使用される製剤、治療の目的、処置される標的細胞、および処置される対象によって変動する。単回投与が実施されてもよいし、または複数回投与が実施されてもよく、用量レベルおよびパターンは、処置を行う医師、獣医師、または臨床家によって選択される。
【0102】
いくつかの態様において、結合剤、またはそれを含有する組成物は、治療的に有効な期間にわたり、週1回、投与される。いくつかの態様において、結合剤、またはそれを含有する組成物は、治療的に有効な期間にわたり、1日1回、投与される。いくつかの態様において、結合剤、またはそれを含有する組成物は、治療的に有効な期間にわたり、月1回、投与される。いくつかの態様において、結合剤、またはそれを含有する組成物は、治療的に有効な期間にわたり、年1回、投与される。
【0103】
一般に、結合剤の適当な用量は、1日当たり対象の体重1キログラム当たり約100ng~約25mg(より典型的には、約1μg~約10mg)の範囲である。組成物が塩、エステル、アミド、プロドラッグ等を含む場合、投与される量は、親化合物に基づき計算され、したがって、使用される実際の重量は、比例的に増加する。
【0104】
VII.処置
本開示の結合剤(例えば、抗体、CAR)は、がんの処置のために特に有用である。具体的な態様において、がんは、PHOX2Bの発現を特徴とする。本開示の結合剤によって処置されるがんの型には、血液がん、固形腫瘍、および非固形腫瘍が含まれるが、これらに限定されるわけではない。肉腫および細胞腫などの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、およびその他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、リンパ性悪性腫瘍、膵臓がん、乳がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、肝細胞がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、甲状腺髄様がん、甲状腺乳頭がん、褐色細胞腫、脂腺がん、乳頭がん、乳頭状腺がん、髄様がん、気管支原性肺がん、腎細胞がん、肝細胞がん、胆管がん、絨毛がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱がん、メラノーマ、ならびにCNS腫瘍(例えば、神経膠腫(例えば、脳幹神経膠腫および混合神経膠腫)、(多形神経膠芽腫としても公知の)神経膠芽腫、星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経鞘腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、および脳転移)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。成人の腫瘍/がんおよび小児の腫瘍/がんも含まれる。
【0105】
状態の処置に関して本明細書において使用される「処置」という用語は、一般に、所望の治療効果、例えば、状態の進行の阻害が達成される、ヒトのものであってもよいし、または動物のものであってもよい(例えば、獣医学的適用)、処置および治療に関し、進行の速度の低下、進行の速度の停止、状態の退縮、状態の改善、および状態の治癒を含む。予防的措置としての処置(即ち、予防、防止)も含まれる。
【0106】
「治療的に有効な量」という用語は、本明細書において使用されるように、所望の処置レジメンに従って投与された場合に、所望の治療効果を生じるために有効である、結合剤、または活性結合剤を含む抗体薬物コンジュゲート、組成物、もしくは剤形などの材料の量に関する。
【0107】
いくつかの態様において、処置は、少なくとも6ヵ月、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月、または48ヵ月の間、腫瘍成長を低下させるか、または阻害する。いくつかの態様において、処置は、腫瘍に対する免疫応答を増強する。
【0108】
対象/患者は、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、または霊長類を含むが、これらに限定されるわけではない、動物または任意の哺乳動物種である。具体的な態様において、対象/患者は、ヒトである。
【実施例】
【0109】
VIII.実施例
以下の実施例は、具体的な態様を示すために含まれる。以下の実施例において開示される技術は、態様の実施において良好に機能することが本発明者によって発見された技術を表し、したがって、具体的な実施様式を構成すると見なされ得ることが、当業者によって理解されるべきである。しかしながら、本開示を考慮すれば、開示された具体的な態様に多くの変化を施しても、本開示の本旨および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果を得ることが可能であることを、当業者は理解すべきである。
【0110】
実施例1 - 材料および方法
ReDライブラリパニング。Beasleyら56によって記載されたように、ヒト生殖系列IGLV1-51、IGLV3-1、およびIGLV6-57の足場と、IGHV3-23足場との対を使用して、VLおよびVHの両方のCDR3ループに完全合成アミノ酸多様性を有するRuby scFvライブラリ(>1011の多様性)を構築した。
【0111】
Ruby scFvライブラリ、ならびに抗体スクリーニングのためのRetained Displayプラットフォームとの組み合わせおよび使用は、WO/2011/075761(タンパク質ディスプレイ)、WO/2013/023251(可溶性ポリペプチド)、およびWO/2013/000023(タンパク質ディスプレイの方法)に記載されている。
【0112】
MyOne Streptavidin C1 Dynabeads(ThermoFisher、カタログ:65002)に結合したPHOX2B(43-51)A*24:02 MHC複合体を使用して、Rubyライブラリを2回パニングした。パニングされたライブラリアウトプットをReD細胞ディスプレイプラットフォーム56に移し、0.5%n-オクチルβ-d-チオグルコピラノシド(Anatrace、カタログ:0314)を使用して細胞を透過処理し、405nmおよび488nmのレーザーによって励起可能なフルオロフォアにライゲートされた組換えPHOX2B pMHC複合体を使用して標識した。標的結合が陽性であった細胞を、FACSMelodyソーター(Becton-Dickinson)を使用して単離した。
【0113】
PHOX2B A*24:02 MHC複合体との結合についての2回のポジティブ選択の後、無関係のペプチドを含む対比標識されたA*24:02 MHC複合体を使用して、さらに2回のFACSを実施した。4回のFACSの後、個々のコロニーを採取し、96穴プレートで成長させた後、scFv誘導、細胞透過処理、およびPHOX2B MHC標識、ならびにCytoFLEX(Beckman Coulter)による検出を実施した。
【0114】
PHOX2B(43-51)MHC複合体と特異的に結合すると同定されたクローンを配列決定し、独特のscFvを、AviTag(商標)ビオチン化モチーフとの融合物として、大腸菌において発現させた。ビオチン化scFvタンパク質を、0.5%n-オクチルβ-d-チオグルコピラノシドによる透過処理を介して放出させ、ニッケルNTAアガロース樹脂(ABT、カタログ:6BCL-NTANi)上で約90%の純度にまで精製した。
【0115】
結合動態。親和性測定は、BLItz(商標)系(ForteBio、USA)を使用して実施され、BLItz Pro(商標)ソフトウェアを使用して分析された。ストレプトアビジンバイオセンサー(ForteBio、カタログ:18-5019)にAviTag(商標)ビオチン化scFvを負荷し、ビオチンでブロッキングし、PBSで洗浄し、次いで、PBSにおいてpMHCリガンドと会合させた。
【0116】
定常状態結合アッセイ。MyOne Streptavidin C1 Dynabeadsを使用して、標的pMHCとの平衡結合アッセイも確立した。簡単に説明すると、50マイクログラムのStreptavidin C1 Dynabeadsを、過剰のビオチン化scFvと共にインキュベートした後、遊離ビオチンでブロッキングし、PBSで洗浄した。フルオロフォアによって標識されたpMHC複合体を3.5nMの濃度で添加し、4℃で1時間インキュベートした後、25℃で10分間インキュベートした。遊離MHC複合体のビーズとの結合を、488nm(ex)/525nm(em)で、CytoFLEXによって定量化した。scFvを含まないビーズ、および無関係の対照MHC複合体を含むビーズに対して、結合をノーマライズした。
【0117】
このビーズ結合アッセイは、scFvの、PHOX2Bペプチドのアラニンスキャン置換を含むMHC複合体との結合、および95種の無関係の9残基長ペプチドA*24:02 MHC複合体のプレートとの結合を定量化するため、そしてeXpitope 2.0によってPHOX2Bペプチドとの高い相同性を有すると同定されたペプチドを含むMHC複合体の結合の交差反応性の程度を定量化するため、使用された。
【0118】
ウイルス作製ならびにJurkat細胞および初代T細胞の形質導入。Jurkat細胞および初代CD4/8 T細胞の形質導入のためのレトロウイルスは、レトロウイルスパッケージング細胞株であるPlatinum-A(Plat-A)細胞を使用して作製された。細胞を7×105細胞/ウェルで6穴プレートに播種し、Lipofectamine 3000(Life Technologies、Invitrogen)を使用して、レトロウイルスベクターpMP71における適切なTCRまたはCARの構築物2.5μgによってトランスフェクトした。24時間後、Jurkat細胞または初代細胞について、それぞれ、IMDM-10%FBSまたはAIM-V-10%FBSに、培地を交換した。24時間のインキュベーションの後、上清を採集し、0.2mMフィルターでろ過した。
【0119】
複製欠損レンチウイルスを作製するため、第2世代レンチウイルス系を使用した。トランスフェクションの前日に、1,500万個のHEK 293T細胞を15cmのディッシュに播種した。トランスフェクション当日に、80μLのLipofectamine 3000(Life Technologies、Invitrogen)を、3.5mLの室温Opti-MEM培地(Gibco)に添加した。同時に、80μLのP3000試薬(Thermo Fisher Scientific)、12μgのpsPAX2(Gag/Pol)、6.5μgのpMD2.6(VSV-Gエンベロープ)、および等モル量のトランスファープラスミドを、3.5mLの室温Opti-MEM培地に添加した。ウイルス上清を24時間後および48時間後に収集し、300gで短時間遠心分離し、0.45μMシリンジに通した。
【0120】
Jurkat細胞を、1mLウェル/レトロネクチン(Retronectin)(20mg/mL、Takara Bio.Inc.)で前処理された6穴プレートに1×106細胞/ウェルで播種し、RTで、800×gで、30分間、2mLのレトロウイルス上清によってスピノキュレート(spinoculated)した。24時間後、細胞を採集し、IMDM-10%FBSで成長させた。
【0121】
初代T細胞を解凍し、100U/ml IL-2、および3:1のビーズ:T細胞比の抗CD3/CD28ビーズ(Dynabeads、Human T-Activator CD3/CD28、Life Technologies)の存在下で、3日間培養して活性化した。4日目および5日目に、活性化された細胞を、1mLウェル/レトロネクチン(20mg/mL、Takara Bio.Inc.)で前処理された6穴プレートに1×106細胞/ウェルで播種し、32℃で、2400rpmで、2時間、2mLのレトロウイルス上清によってスピノキュレートした。6日目に、細胞を採集し、洗浄し、ビーズを磁気的に除去し、25U/ml IL-2が補足されたAIM-V-10%FBSにおいて、細胞を増大させた。
【0122】
初代ヒトT細胞を解凍し、G-Rex系容器(Wilson Wolf)において、5ng/mlの組換えIL-7、5ng/mlの組換えIL-15、および3:1のビーズ:T細胞比の抗CD3/CD28ビーズ(Dynabeads、Human T-Activator CD3/CD28、Life Technologies)の存在下で、1日培養して活性化した。2日目に、解凍されたレンチウイルスベクターを、10μg/mLポリブレン(Millipore Sigma)と共に、培養されたT細胞に添加し、24時間後に、示された濃度のIL-7およびIL-15が補足された完全AIM-V培地を容器に充填した。10日目に、細胞を採集し、洗浄した。活性化ビーズを磁気的に除去し、細胞生存度を測定した後、凍結させた。
【0123】
ヒト神経芽細胞腫細胞株を6cmのディッシュに播種し、トランスファープラスミドpLenti-CMV-eGFP-Puro(Addgeneプラスミド#17448)によって作製された解凍されたレンチウイルスベクター2mLを、10μg/mLポリブレン(Millipore Sigma)と共に添加した。フローアシストセルソーティング(flow-assisted cell sorting)(BD FACSJazz、BD Biosciences)を使用して、eGFP発現について細胞を選択した後、10μg/mLピューロマイシン選択を実施した。
【0124】
選択的交差反応性抗原提示(
Selective
Cross-
Reactive
Antigen
Presentation)(sCRAP)予測。腫瘍抗原を、一致するHLAにおける正常ヒトプロテオーム全体(HLA 84 HLAにおける85,915,364の全正常ペプチド)と比較した。腫瘍ペプチドおよびヒトペプチドの同じ位置にある各残基に、完全一致、類似アミノ酸分類、または異なる極性についてのスコアを割り当て、それぞれ、5、2、または-2とスコアリングした。残基1および3~8を使用して、MHCアンカー残基を除外して、アミノ酸分類に基づき類似性スコアを計算し、疎水性を決定した。次に、GTExの1643の正常組織から最大正常組織RPKM値を同定した。正常ペプチドを、正常組織イムノペプチドームのデータベースと比較した
67。次いで、各正常ペプチドについての全体交差反応性スコアを、以下の式を使用して計算した:
(式中、nはペプチド長、Pは腫瘍抗原と比較された正常ペプチドの各アミノ酸のスコア、bは正常ペプチドのpMHC結合親和性、E
maxは最大正常組織発現である)。
このアルゴリズムは、marisshiny.research.chop.edu/sCRAPにおいて入手可能である。
【0125】
テトラマー/デキストラマー染色およびフローサイトメトリー分析。CARによって形質導入されたJurkat細胞および初代T細胞の表面発現および結合を、NB抗原ペプチド-MHC(Immudex)を保持するPEまたはAPCとコンジュゲートされたデキストラマーによる染色によって測定した。培養物から細胞を採集し、2mlのPBSで800×gで5分間洗浄し、1μlのデキストラマーと共に暗所で10分間インキュベートし、再び洗浄し、分析のため、300ul PBSに再懸濁させた。典型的には、5×105個の細胞を染色のために使用し、BD LSR II(BD Biosciences)またはAttune Acoustic Focusing Cytometer(Applied Biosystems、Life Technologies)で分析した。
【0126】
交差反応性pMHCスクリーニング。可能性のある交差反応性ペプチド(GenScript)を、200μMのワーキング濃度で懸濁させた。各試験について、0.5μLのペプチドを、5μLのHLA-A*24:02の空の負荷可能なテトラマー(Tetramer Shop)に添加した後、氷上で30分間インキュベートするか、または以前に記載されたようなTABBRペプチド交換を使用した68。調製後、細胞を染色するため、pMHCテトラマーを使用した(前記)。
【0127】
Incucyte細胞傷害アッセイ。0.5×105個の腫瘍細胞標的を、0.05μMカスパーゼ-3/7レッドの存在下で、37℃で、96穴プレートで、変動する比率の形質導入された初代細胞(それぞれ、10:1、5:1、2:1、1:1、および1:2のエフェクター:標的(E:T)比のため、5×105、2.5×105、1×105、0.5×105、および2.5×104)とコインキュベートした(Incucyte、Essence BioScience)。プレートをIncucyte上で24~72時間実行し、カスパーゼ切断および相対コンフルエンシーの比較を介してアポトーシス活性について測定した。アッセイの後、ELISAのために上清を収集した。全GFP積分強度(全GCU×μm2/画像)を、生GFP+腫瘍細胞の定量的尺度として査定した。t=0の測定値に対して、値をノーマライズした。
【0128】
サイトカイン分泌アッセイ。細胞傷害アッセイから収集された細胞上清を解凍し、各条件についてトリプリケートで播種した。IFN-γおよびIL-2のレベルを、製造業者のプロトコル(BioLegend)に従ってELISAキットを使用して測定した。
【0129】
組換えペプチド/HLA分子の発現、再折り畳み、および精製。HLA-A*02:01およびHLA-A*24:02の構築物を、細菌における発現のため、pET24a+プラスミドにクローニングした。HLA-A*02:01(重鎖)、HLA-A*24:02(重鎖)、およびヒトβ2M(軽鎖)をコードするDNAプラスミドを、以前に記載された方法71を使用して、大腸菌BL21-DE3(Novagen)に形質転換し、封入体として発現させ、再折り畳みを行った。大腸菌細胞を自己誘導培地において(16~18時間)成長させた72。その後、大腸菌細胞を遠心分離によって採集し、培養物1リットル当たり25mLのBugBuster(Milipore Sigma)によって再懸濁させた。細胞溶解物を超音波処理し、その後、封入体を収集するため、遠心分離(5,180×g、4℃、20分間)によってペレット化した。封入体を25mLの洗浄緩衝液(100mM Tris pH 8.0、2mM EDTA、および0.01%v/vデオキシコール酸)で洗浄し、超音波処理し、遠心分離によってペレット化した。25mLのTris-EDTA緩衝液(100mM Tris pH8.0および2mM EDTA)を使用して、2回目の洗浄を行った。再度、超音波処理によって溶液を再懸濁させ、次いで、遠心分離した。次いで、封入体を、6mLの再懸濁緩衝液(100mM Tris pH8.0、2mM EDTA、0.1mM DTT、および6Mグアニジン-HCl)による再懸濁によって可溶化した。重鎖および軽鎖の可溶化された封入体を1:3モル比で混合し、次いで、質量分析によって確認された純度>98%の合成ペプチド(Genscript)10mgを含有する再折り畳み緩衝液(100mM Tris pH 8.0、2mM EDTA、0.4Mアルギニン-HCl、4.9mM L-グルタチオン還元型、0.57mM L-グルタチオン酸化型)1Lに、2日かけて滴下した。撹拌することなく、4℃で、4日間、再折り畳みを進行させた。このインキュベーション期間の後、再折り畳み混合物をサイズ排除緩衝液(25mM Tris pH 8.0および150mM NaCl)に対して透析した。透析後、試料を、まず、Labscale Tangential Flow Filtration系を使用して濃縮し、次いで、Amicon Ultra-15 Centrifugal 10kDa MWCOフィルターユニット(Millipore Sigma)を使用して、5mLの最終体積に濃縮した。HiLoad 16/600 Superdex 75カラムでのサイズ排除クロマトグラフィを使用して、精製を実施した。サイズ排除後、MonoQ 5/50 GLカラム、ならびに緩衝液A(25mMトリスpH8.0および50mM NaCl)と緩衝液B(25mMトリスpH8.0および1M NaCl)との0~100%勾配を使用した陰イオン交換クロマトグラフィによって、さらに試料を精製した。精製されたタンパク質を、20mMリン酸ナトリウム(pH7.2)および50mM NaClに徹底的に交換した。重鎖および軽鎖の両方を含有するpMHC複合体の形成を確認するため、SDS-PAGEを使用して、最終試料を確証した。
【0130】
免疫組織化学。ホルマリン固定パラフィン包埋組織スライドを染色するため、CD3抗体(Dako A0452)、PHOX2B抗体(Abcam ab183741)、およびHLA-ABC抗体(Abcam ab70328)を使用した。染色は、Bond Max自動染色系(Leica Biosystems)で実施された。Bond Refineポリマー染色キット(Leica Biosystems、DS9800)を使用した。一次抗体インキュベーションを室温で1時間に延長したことを除き、標準的なプロトコルに従った。CD3抗体、PHOX2B抗体、およびHLA-ABC抗体は、それぞれ、1:100、1:500、および1:1200の希釈率であった。抗原回収は、E1(Leica Biosystems)回収溶液で20分間、実施された(PHOX2BについてはE2)。スライドを濯ぎ、一連の上昇する濃度のエタノールおよびキシレンで脱水し、次いで、カバーガラスを乗せた。次いで、染色されたスライドを、Aperio CS-Oスライドスキャナー(Leica Biosystems)で20倍の倍率でデジタルスキャンした。
【0131】
マウスPC-CAR T細胞前臨床試験。皮下異種移植片を繁殖させるため、Jackson LaboratoriesからのNOD SCIDγ(NSG)雌(6~8週齢)マウス(ストック番号005557)を使用した。全てのマウスをバリア条件で維持し、Children's Hospital of PhiladelphiaのIACUCのプロトコルおよび条件を使用して、実験を実施した。外側尾静脈内注射を介して、処置を開始した。投与された用量は、単回処置としての、1匹当たり100ulの媒体またはCAR T細胞であった。腫瘍体積が150mm3~250mm3に到達した時に、処置を投与した。腫瘍が2.0cm3のサイズに到達するまで、またはマウスが移植片対宿主病の徴候を示すまで、腫瘍体積および生存を、週2回の測定によってモニタリングした。動物が円位、頻呼吸、尿染色(urine staining)、体重減少、および目視検査によって決定された身体状態スコア2を示す、GVHDの発症の後に、その動物を研究から除去し、研究を終了した。GVHDの発症は、尿染色、および20%の体重減少、または円位、頻呼吸、もしくは身体状態不良を伴う場合の10~15%の体重減少として定義される。
【0132】
実施例2 - 結果
PHOX2Bに対するPC-CAR T細胞の作製。自己抗原の免疫原性の欠如のため、複数のスクリーニングにおいて高親和性TCRが同定されなかったため、本発明者らは、PHOX2Bに対する改変型T細胞受容体(TCR)ではなく、scFvベースのCARの開発を追求した。合成ペプチド中心受容体を使用して、本来は免疫原性を有しないpMHCに、免疫原性を誘導することができると推論された。
【0133】
PHOX2Bペプチド特異的クローンをスクリーニングするため、本発明者らは、透過処理された細菌細胞におけるpMHC結合scFvのフローサイトメトリー選択を可能にするタンパク質ディスプレイプラットフォーム、Retained Display
56(ReD)系を、>10
11メンバーのscFvライブラリと共に使用した。その中から、2種のクローン、10(SEQ ID NO:3)および302(SEQ ID NO:12)を単離し、さらに特徴決定した。
図1Aおよび
図1Bは、クローン10および302のscFvタンパク質の、無関係の複合体との結合と比べた、標的PHOX2B(43-51)MHC複合体との結合動態を示しており、クローン10の極めて遅い動力学的オフレート(k
d=7.6×10
-4/sec)も示している。標的PHOX2B(43-51)複合体と比べて、HLA-A
*24:02複合体として組み立てられた95種の無関係のペプチドのパネルおよび4種の高度に類似したペプチド
に対する結合によって、クローンをさらに特徴決定した。
図2A~Bは、クローン10(
図2A)および302(
図2B)の両方が、95種の無関係のpMHC複合体のパネルに対して検出可能な結合を示さないことを示している。標的複合体に対する特異性をさらに示すものとして、
図3A~Bは、クローン10(
図3A)および302(
図3B)の両方が、PHOX2B標的pMHCに対して高度に選択的な結合を示し、標的との相同性を有するヒトプロテオームから同定された4種のペプチドに対しては検出可能な結合を示さないことを示す。これらのペプチドのうちの2種、
は、イムノペプチドーム(www.iedb.org)によって、インビボで提示されることも、質量分析を使用して同定された。scFvとPHOX2B MHC複合体との間の相互作用を解明し、標的ペプチドの各位置における異なるアミノ酸の置換に対するクローンの特異的結合の感受性も明確にするため、1位、3位、4位、5位、6位、7位、および8位(即ち、非アンカー位置)において(システイン以外の)18の天然アミノ酸に逐次変異させたPHOX2B標的ペプチドの「Xスキャン」変異誘発を実施した。
図4は、クローン10が、3位(PHOX2BについてはAsn)においては、Phe/His/Lys/Trp/Tyrに対して耐性を有するが、4位、5位、および7位については、PHOX2B標的同一性を強く好み、5位においては、Argについての絶対的制約を有することを示している。
図5は、クローン302が、4位における制約と共に、5位、6位、7位、および8位における極めて特異的なフットプリントを示すことを示す。本発明の結合剤の、PHOX2B標的ペプチドの4+残基との、この強い相互作用は、典型的には、3~4残基がTCRと相互作用するのと比較して、PC-CARの優れた選択性を強調する
58。
【0134】
正常組織におけるpMHCとの交差反応性に取り組むため、本発明者らは、事前のアラニンスキャンまたは受容体
57を必要とすることなく、scFvスクリーニングの初期段階における先制の選択性フィルタリングを可能にする、同じHLAアロタイプにおける可能性のある選択的交差反応性抗原提示(sCRAP;marisshiny.research.chop.edu/sCRAP)を予測するためのアルゴリズムを開発した(
図25A~C)。HLA-A
*01:01上に提示されたMAGE-A3ペプチドの交差反応性を予測する能力を試験することによって、sCRAPアルゴリズムを評価した。親和性増強型TCRを使用した、HLA-A
*01:01上に提示されたMAGE-A3ペプチドのターゲティングは、以前に、心筋組織におけるHLA-A
*01:01上に提示されたTITINタンパク質に由来するもう1つのペプチドとの致死的な交差反応をもたらした。
15本発明者らは、心臓組織において提示された1,143,861の可能性のある自己ペプチドのうち、第4位の予測として、TITINペプチドとのMAGE-A3の交差反応性を予測した(
図26A~B)。
【0135】
次いで、本発明者らは、sCRAPによって予測された上位7位までのpMHCに対して、PHOX2B特異的CARのパネルをスクリーニングし(
図6)、それによって、交差反応性CARを排除し、最も高度の標的選択性を有するものを優先した。本発明者らは、さらなる開発のため、最も高い特異性プロファイルを保有するものとして、クローン10LH CAR(SEQ ID NO:21)およびクローン302LH CAR(SEQ ID NO:22)を同定した。
【0136】
sCRAPによって予測された可能性のあるオフターゲットpMHCとの結合の機能的重要性を試験するため、本発明者らは、HLA一致/PHOX2B陰性のSW620結腸腺がん細胞に、PHOX2Bペプチドおよび可能性のある交差反応性ペプチドを、ある範囲の濃度で、パルス適用した(
図7)。PHOX2Bペプチドのパルス適用は、0.1μMという最低試験濃度で、10LHと共培養された時、完全な細胞傷害をもたらした。10LH CAR T細胞は、最も交差反応性が高いと予測されたペプチドABCA8によって、10μMでは細胞傷害を誘導せず、50μMという超生理学的濃度でのみ死滅を誘導した。2番目に交差反応性が高いペプチド(MYO7B)は、50μMまでの濃度で、10LHと共に、CARによる細胞傷害を示さなかった。ABCA8もMYO7Bも、正常組織イムノペプチドームにおいて検出されておらず
11、正常組織イムノペプチドームにおいて以前に検出されたペプチドは、いずれも、PC-CAR 10LHとの交差反応性を示さない。これらのスクリーニングは、オフターゲット効果を先制的に同定し、その機能的意義を効率的にスクリーニングし、腫瘍標的に対して高度に選択的に結合する結合剤を同定するための、sCRAPの利用可能性を示している。
【0137】
PC-CAR T細胞は従来のTCRに課せられたHLA拘束を破壊する。イムノペプチドミクスによる所定のMHCペプチドの検出のためには、抗原のプロセシングおよび提示という前提条件が必要であるため、同一ペプチドが、ペプチドのアンカー残基と結合することができる付加的なHLAアロタイプにおいて提示され得ること、および、これらのペプチドのうちのいくつかは、ペプチド中心scFv結合剤によって認識されるのに十分なほど類似したコンフォメーションで提示され得ることを、本発明者らは仮定した。同じPHOX2Bペプチドを提示することができる付加的なHLAアロタイプを同定するため、集団スケールの抗原提示ツールShinyNAP
7を使用し、PHOX2Bの9残基長と結合すると予測される8種の付加的なHLAを同定した。次いで、本発明者らは、付加的なHLA対立遺伝子によって提示されるペプチドの3Dコンフォメーションおよび結合自由エネルギーをモデル化するため、pMHC構造モデリングソフトウェアRosettaMHC
59を使用し、HLA-A
*24:02において最初に発見されたPHOX2BペプチドのPC-CARによる認識のための最高スコア候補として、HLA-A
*23:01およびHLA-B
*14:02を同定した。これらの代替的なアロタイプとのQYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)の結合を確証した後、本発明者らは、これらのpMHCを認識する10LHの能力を測定し、10LHが、HLA-A
*24:02に加えて、HLA-A
*23:01およびHLA-B
*14:02によって提示されたPHOX2Bの9残基長QYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)とも高い親和性で結合することを見出した(
図8A~C)。本発明者らは、QYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)は、HLA-C
*07:02と結合するが、10LHは、HLA-C
*07:02との17.4倍低い結合を有することも見出した。HLA-A
*23:01におけるPHOX2B提示の予測の機能的に関連性のある認識を示すため、本発明者らは、HLA-A
*23:01/PHOX2B
-メラノーマ細胞株WM873にQYNPIRTTF(SEQ ID NO:1)ペプチドをパルス適用し、ペプチドをパルス適用された細胞においては、抗原特異的死滅が誘導されるが、ミスマッチペプチドをパルス適用された細胞においては、細胞傷害が誘導されないことを示した(
図9A~B)。HLA-A
*23:01は、アフリカ系の人々において最も一般的な非A2対立遺伝子であり、このことは、十分なサービスを受けていない集団に臨床適用を拡張するPC-CARの可能性を強調している。これらの所見は、ペプチド中心scFvベースの免疫治療を受ける適格患者集団を大幅に拡張する可能性を示している。
【0138】
PHOX2Bに対するPC-CAR T細胞は神経芽細胞腫の前臨床モデルにおいて強力な抗腫瘍活性を有する。本発明者らは、次に、利用可能なHLA-A
*24:02およびHLA-A
*23:01の神経芽細胞腫細胞株(SKNAS、NBSD、およびSKNFI)を使用して、10LHのオンターゲット死滅能を試験し、5:1のエフェクター標的比(E:T)での、24時間後の、完全な腫瘍細胞死滅および強力なIFNγ放出を示した(
図10)。オフターゲット組織によって提示されたペプチドの環境に対するPC-CARの機能的交差反応性を試験したところ、PHOX2Bを発現しない3種のHLA-A
*24:02細胞株(SW620;結腸直腸腺がん、KATO III胃腺がん、およびHEPG2肝細胞がん)においては活性が示されなかった。PC-CARによる死滅の特異性を確証するため、本発明者らは、HLA一致PHOX2B陰性がん細胞株にPHOX2Bペプチドをパルス適用し、PHOX2Bを強制的に過剰発現させた。特異的な死滅は、PHOX2Bペプチドをパルス適用された細胞、および全長PHOX2B mRNAによって形質導入された細胞においてのみ示され、同じHLA上に提示された非特異的なCHRNA3ペプチド、ABCA8ペプチド、およびMYO7Bペプチドをパルス適用された細胞においても、全長PRAME mRNAによって形質導入された細胞においても示されず、このことから、ネイティブPHOX2Bが、プロセシングされ、MHC上に提示され、そこで、PC-CARによって特異的に認識されることが示された。細胞表面上のPHOX2B pMHCを検出するため、テトラマー化された10LH scFvを生成し、オンターゲット細胞株およびオフターゲット細胞株を染色したところ、神経芽細胞腫細胞においては、有意な表面PHOX2B pMHCが示され、HLA一致対照においては示されず(
図11)、このことから、これらの試薬が、生検組織試料中の抗原の存在を査定するために使用される可能性を有することが示唆された。sCRAPによって交差反応性であるとマークされたCARが、有意な交差反応性を示すことも見出され、このことから、アルゴリズムによる交差反応性の機能的意義が確証された(示されないデータ)。
【0139】
本発明者らは、次に、HLA-A
*24:02(SKNASおよびCOG-564x)ならびにHLA-A
*23:01(NBSD)の異種移植片を生着させられた免疫不全マウスを、腫瘍が100mm
3~250mm
3に到達した後、10LHおよび302LHによって形質導入された10
6個のCAR-T細胞によって処置した。10LHおよび302LH PC-CARによって処置されたマウスは、両方とも、両方のHLA-A
*24:02異種移植片において、完全な腫瘍応答を示したが(
図12)、HLA-A
*23:01 NBSD異種移植片においては、10LHによって処置されたマウスのみがそれを示した。これは、HLA-A
*23:01上に提示されたPHOX2Bペプチドに対するこれらの2種の構築物の相対的親和性と直接相関し(
図9A)、このことから、異なるscFvによる閾値親和性または異なる結合様式が、異なるHLA対立遺伝子によって提示された場合に、わずかに変更されたコンフォメーションのペプチドを認識する能力に寄与し得ることが示唆された。本発明者らは、CAR処置が、腫瘍におけるMHCの著しいアップレギュレーションを誘導することも観察した。COG-564x PDXモデルは、複数回の再発を経験した高リスクMYCN増幅神経芽細胞腫を有する患者からの死後採血から生成されたものであり、マウスにおいて非常に急速な腫瘍成長速度を示す。この実験において、10LH構築物によって処置された1匹のマウスは、PC-CAR T細胞治療のちょうど1週間後に2cm
3という腫瘍到達エンドポイントサイズを有し、分析のために利用可能であったが、このアームにおける他の全ての腫瘍は、エンドポイントサイズにわずかに到達せず、次いで、全て退縮した。エンドポイントに到達した唯一のCOG-564x腫瘍およびNBSD腫瘍は、形質導入されていないCAR-T細胞によって処置されたエンドポイント腫瘍と比較して、有意なPC-CAR T細胞浸潤およびMHC発現の劇的なアップレギュレーションを示した(
図13)。このアップレギュレーションは、インビトロで測定された強力なIFNγ放出によるものである可能性が高く、このことは、これらの治療が、MHCおよび抗原の提示を増加させるフィードフォワードカスケードを開始させるため、低い抗原密度でT細胞増大を活性化し得ることを示唆している。
【0140】
クローン9、1113、および1114のインビトロ特徴決定。scFvクローン9(SEQ ID NO:23)、1113(SEQ ID NO:32)、および1114(SEQ ID NO:41)も、PHOX2B(43-51)A
*24:02 MHC複合体と結合するものとして、ReDライブラリから単離された。これらを、バイオレイヤー干渉法によって、標的複合体に対する結合動態について特徴決定したところ、非標的複合体(
図16A~Bおよび
図17)および95種の無関係のA
*24:02 MHC複合体と比べて、PHOX2B標的複合体と特異的に結合することが示された。それらを、相同ペプチドとの結合についてさらに分析し、そのうちの2種、RYVIIPTTF(SEQ ID NO:61)およびKYNIFRSTF(SEQ ID NO:62)は、イムノペプチドーム(www.iedb.org)によって、インビボで提示されることも、質量分析を使用して同定された(
図20A~Bおよび
図21)。各scFvとPHOX2B MHC複合体との間の相互作用を明らかにし、標的ペプチドの各位置における異なるアミノ酸の置換に対するクローンの特異的結合の感受性も明確にするため、1位、3位、4位、5位、6位、7位、および8位(即ち、非アンカー位置)において(システイン以外の)18の天然アミノ酸に逐次変異させたPHOX2B標的ペプチドの「Xスキャン」変異誘発を実施した。
図22は、クローン9が、PHOX2B標的ペプチドの3位、4位、5位、および6位とストリンジェントに相互作用し、1位、7位、および8位においてもアミノ酸同一性を制約することを示している。
図23は、クローン1113が、標的ペプチドの3位、4位、5位、6位、7位、および8位とストリンジェントに相互作用することを示している。
図24は、クローン1114が、標的ペプチドの3位、4位、5位、および6位とストリンジェントに相互作用し、7位および8位においても結合同一性を制約することを示している。
【0141】
クローン9および1114のCDR3の配列相同性は結合モチーフを確立する。
図22および24は、クローン9および1114が、各位置を通じたXスキャンにおいて、MHC標的ペプチドアミノ酸同一性についての密接なペアワイズの好みを示すことを示している。これらのクローンの配列の調査は、軽鎖可変ドメインCDR3ループが、同じ長さ、およびQAWDS[L/I]G[V/N][N/M]TVV(SEQ ID NO:50)というコンセンサスを有することを示す。同様に、重鎖可変ドメインCDR3ループは、同じ長さ、およびASE[A/Y][Y/T][S/N]AFDI(SEQ ID NO:51)というコンセンサスを有する。このCDR3の長さの保存および同一性と、Xスキャンの密接な類似性との組み合わせは、これらのクローンが、高い特異性でのPHOX2B標的との結合のための2つの関連するソリューションを表すことを示している。密接なCDR同一性を有する他の結合ソリューションは、当技術分野において公知の前記の方法によって、V
LドメインおよびV
Hドメインの両方のCDR変異スキャニング、またはクローン9(SEQ ID NO:25)、10(SEQ ID NO:5)、302(SEQ ID NO:14)、1113(SEQ ID NO:34)、および1114(SEQ ID NO:43)のV
Hドメインによる多様化されたV
Lドメインの交換によって見出され得る。
【0142】
二重特異性抗体のインビトロ特徴決定。
図28は、1μMの濃度のPHOX2B標的ペプチド(114)によって処理された、ヒトHLA-A
*24:02発現構築物によって安定的にトランスフェクトされたK562細胞に対しては、クローン10による細胞傷害が起こったが、等しい濃度の密接に関連した非関連ペプチド(693XR、RYVIIPTTF(SEQ ID NO:61))または等しい体積のジメチルスルホキシド(DMSO、陰性対照)によっては、それが起こらなかったことを示す。細胞傷害は、K562細胞をペプチドと共に28℃で3時間インキュベートすることによって測定され、K562細胞は、100ng/ml、50ng/ml、20ng/ml、10ng/ml、および5ng/mlの濃度のクローン10(RU141-10)の精製された二重特異性抗体、または100ng/mlの非関連(RU68-615)二重特異性対照抗体のありなしで、活性化ヒト初代CD3
+ T細胞(エフェクター)と共にインキュベートされた。エフェクター細胞および標的細胞は、それぞれ、3:1の比率でインキュベートされた。37℃での24時間のコインキュベーションの後、生存していたK562標的細胞をフローサイトメトリーによって定量化し、二重特異性抗体を欠く実験を参照として、生存細胞の相対パーセンテージを計算した。二重特異性対照なし、またはRU86-615非関連二重特異性対照による条件については、PHOX2B標的ペプチド(114)と共にインキュベートされた時にも、非関連ペプチド(693XR、RYVIIPTTF(SEQ ID NO:61))と共にインキュベートされた時にも、DMSO(陰性対照)と共にインキュベートされた時にも、細胞傷害は観察されなかった。
【0143】
図29は、1μMの濃度の密接に関連した非関連ペプチド(693XR、RYVIIPTTF(SEQ ID NO:61))もしくはPHOX2B標的ペプチド(114)、または等しい体積のジメチルスルホキシド(DMSO、陰性対照)のいずれかによって処理された、ヒトHLA-A
*24:02(
図29A)またはヒトHLA-A
*23:01(
図29B)の発現構築物によって安定的にトランスフェクトされたK562細胞に対するクローン10および302の細胞傷害を比較したものである。K562細胞をペプチドと共に28℃で3時間インキュベートした後、100ng/mlまたは10ng/mlの濃度の精製された二重特異性抗体クローン10(RU141-10)、100ng/mlまたは10ng/mlの濃度のクローン302(RU141-302)、および100ng/mlの濃度の非関連(RU68-615)二重特異性対照抗体のありなしで、K562細胞を活性化ヒト初代CD3
+ T細胞(エフェクター)と共にインキュベートした。エフェクター細胞および標的細胞を、それぞれ、3:1の比率でインキュベートした。37℃での24時間のコインキュベーションの後、生存していたK562標的細胞をフローサイトメトリーによって定量化し、二重特異性抗体を欠く実験を参照として、生存細胞の相対パーセンテージを計算した。
【0144】
図29を参照すると、100ng/mlおよび10ng/mlの濃度の二重特異性クローン10(RU141-10)ならびに100ng/mlの濃度の二重特異性クローン302(RU141-302)を、PHOX2B標的ペプチド(114)をパルス適用された、ヒトHLA-A
*24:02を発現する安定的にトランスフェクトされたK562細胞と共にインキュベートした条件においては、細胞傷害が明白に観察された。対照的に、PHOX2B標的ペプチド(114)をパルス適用された、ヒトHLA-A
*23:01を発現する安定的にトランスフェクトされたK562細胞と共にインキュベートされた時には、100ng/mlおよび10ng/mlの濃度の二重特異性クローン10(RU141-10)についてのみ、細胞傷害が観察され、100ng/mlおよび10ng/mlの濃度の二重特異性クローン302(RU141-302)については観察されなかった。二重特異性対照なし、またはRU86-615非関連二重特異性対照による条件については、ヒトHLA-A
*23:01を発現する安定的にトランスフェクトされたK562細胞、またはヒトHLA-A
*24:02を発現する安定的にトランスフェクトされたK562細胞と共にインキュベートされた時、PHOX2B標的ペプチド(114)でも、非関連ペプチド(693XR、RYVIIPTTF(SEQ ID NO:61))でも、DMSO(陰性対照)でも、細胞傷害は観察されなかった。
【0145】
【0146】
(表2)PHOX2B 10LH PC-CAR 4-1bb/CD3zの配列
【0147】
(表3)PHOX2B 302LH PC-CAR 4-1bb/CD3z
【0148】
本明細書に開示され、特許請求の範囲に記載される組成物および方法は、全て、本開示を考慮すれば、過度の実験法なしに製造され、実施され得る。本開示の組成物および方法は、具体的な態様に関して説明されているが、本開示の概念、本旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される組成物および方法、ならびに方法の工程または工程の配列に、変動が適用され得ることは、当業者には明らかである。より具体的には、本明細書に記載される薬剤が、化学的にも生理学的にも関連しているある特定の薬剤に置換されても、同一または類似の結果が達成され得ることが明らかであろう。当業者にとって明らかなそのような類似の置換および修飾は、全て、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の本旨、範囲、および概念に含まれると見なされる。
【0149】
IX.参考文献
以下の参考文献および本明細書に引用されるその他の参考文献は、本明細書に記載されるものを補足する例示的な手法またはその他の詳細を提供する程度に、参照により具体的に本明細書に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】